知財高等裁判所 平成27年(ネ)10028号 判決 2016年6月23日
控訴人
日本ファイリング株式会社
訴訟代理人弁護士
鮫島正洋
同
小栗久典
同
久礼美紀子
同
和田祐造
被控訴人株式会社
岡村製作所
訴訟代理人弁護士
三村量一
同
澤田将史
同
近藤正篤
訴訟代理人弁理士
堅田多恵子
補佐人弁理士
重信和男
同
小椋正幸
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,8250万円及びこれに対する平成24年6月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本判決の略称は,特段の断りがない限り,原判決に従う。
1 事案の要旨
本件は,名称を「図書保管管理装置」とする発明について特許権を有する控訴人が,被控訴人において業として製造・販売する図書保管管理装置が上記特許権に係る特許発明(特許請求の範囲の請求項1,5及び6の各発明(本件発明1ないし3))の技術的範囲に属すると主張して,被控訴人に対し,①同特許権に基づき,上記装置の製造・販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,②特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として,8250万円及びこれに対する平成24年6月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,上記装置はいずれも本件発明1ないし3の技術的範囲に属しないとし,また,本件発明1に係る特許には,特開平5-151233号公報(乙12公報)を主引例とする進歩性欠如の無効理由があり,かつ,これに対する控訴人の訂正による対抗主張は成立しないから,控訴人は上記特許に係る特許権を行使することができないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,原判決のうち,上記②の請求を棄却した部分を不服として本件控訴を提起した(なお,本件特許に係る特許権の存続期間は,平成26年4月20日をもって終了している。)。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり原判決を補正し,後記3のとおり「当審における当事者の主張」を加えるほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2及び3並びに第3記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁5行目の「審決」のあとに「(以下「本件第1次審決」という。)」を,同頁7行目の「判決」のあとに「(以下「本件取消判決」という。)」をそれぞれ加える。
(2) 原判決9頁7行目の「本件再訂正発明」を「本件各再訂正発明」と改める。
(3) 原判決13頁14行目冒頭から15行目末尾までを次のとおり改める。
「オ 構成要件2Bの「図書充填率の低いコンテナから取り出す」及び構成要件3Bの「図書充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」の充足性」
(4) 原判決16頁2行目の「付加してもいいと」のあとに「いう意味であると」を加える。
(5) 原判決25頁21行目の「に該当」を削除する。
(6) 原判決27頁7行目の「構成要件2A」のあとに「及び3A」を加える。
(7) 原判決27頁8行目冒頭から9行目末尾までを次のとおり改める。
「5 争点(1)オ(構成要件2Bの「図書充填率の低いコンテナから取り出す」及び構成要件3Bの「図書充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」の充足性)について」
(8) 原判決27頁15行目の「構成要件2B」から同頁18行目末尾までを次のとおり改める。
「構成要件2Bの「図書充填率の低いコンテナから取り出す」及び構成要件3Bの「図書充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」に該当する。」
(9) 原判決28頁9行目の「構成要件2B」から同頁10行目末尾までを次のとおり改める。
「構成要件2Bの「図書充填率の低いコンテナから取り出す」及び構成要件3Bの「図書充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」に該当しない。」
(10) 原判決34頁10行目から11行目にかけての「(実開平01-162410号のマイクロフィルム写し)」を「(実開平01-162410号)のマイクロフィルム写し」と改める。
(11) 原判決36頁9行目の「特定する方法」のあとに「(以下「乙35発明」という。)」を加える。
(12) 原判決36頁11行目から12行目にかけての「入力する方法」のあとに「(以下「乙36発明」という。)」を加える。
(13) 原判決37頁最終行の「(実開平05-019210号)」のあとに「のCD-ROM」を加える。
(14) 原判決38頁7行目から8行目にかけて及び同頁10行目の各「本件特許権」をいずれも「本件特許」と改める。
(15) 原判決38頁17行目の「乙6発明」を「乙16発明」と改める。
(16) 原判決39頁2行目から3行目にかけての「返却が要求された」のあとに,「際に」を加える。
(17) 原判決39頁24行目冒頭の「情報を」を削除する。
(18) 原判決43頁10行目の「通貨」を「通過」と改める。
(19) 原判決46頁最終行末尾に,行を改めて次のとおり加える。
「また,実願平1-20513号(実開平2-111334号)のマイクロフィルム写し(乙43。以下「乙43公報」といい,同公報に記載された発明を「乙43発明」という。)には,「A6~A4の間の種々のサイズの書籍を適した棚…を選択して,効率的に収容することができる」スライド書棚が記載されており,さらに,実願昭57-71727号(実開昭58-173333号)のマイクロフィルム写し(乙44。以下「乙44公報」といい,同公報に記載された発明を「乙44発明」という。)には,「書籍の大小版即ち,A4とかA5・更にB5・B6等の各サイズに合わせて収用棚部を形成出来る」棚体が記載されている。」
(20) 原判決48頁11行目及び57頁4行目の各「本件特許権」をいずれも「本件特許」と改める。
(21) 原判決57頁23行目の「乙24文献」を「乙42文献」と改める。
(22) 原判決57頁最終行から58頁1行目にかけて,同頁4行目,同頁8行目,同頁11行目,同頁13行目,同頁14行目,同頁20行目及び59頁17行目の各「公報」をいずれも「文献」と改める。
(23) 原判決59頁10行目及び11行目の各「乙17発明」をいずれも「乙17文献記載の自動倉庫システム」と改める。
(24) 原判決60頁5行目の「発明の詳細な説明には,」を削除する。
(25) 原判決60頁21行目の「本件特許」を「本件訂正発明1」と改める。
(26) 原判決61頁最終行の「3号」を「2号」と改める。
(27) 原判決62頁7行目冒頭から同頁8行目末尾までを削除する。
(28) 原判決62頁14行目末尾に,行を改めて次のとおり加える。
「したがって,本件訂正発明1の「空きのあるコンテナ」の技術的意義は明確である。」
(29) 原判決63頁22行目の「特許無効審判とより」を「特許無効審判により」と改める。
(30) 原判決65頁5行目の「そうすると」から同頁7行目末尾までを削除する。
(31) 原判決65頁11行目の「本件再訂正発明は,」のあとに「本件訂正発明1について,」を加える。
(32) 原判決65頁最終行から66頁1行目にかけて及び同頁11行目から12行目にかけての各「前記1ないし6〔原告の主張〕のとおり」をいずれも「本件発明1について述べたとおり」と改める。
(33) 原判決66頁9行目及び同12行目の各「イ号」をそれぞれ「ロ号」と,同頁23行目の「通貨」を「通過」とそれぞれ改める。
(34) 原判決67頁15行目の「いずれにもが」を「いずれにも」と改める。
(35) 原判決71頁23行目末尾に,行を改めて次のとおり加える。
「(4) イ号物件及びロ号物件は,以下のとおり,本件再訂正発明1の追加訂正部分の構成要件を充足しないから,その技術的範囲に属しない。
すなわち,前記6〔被告の主張〕で述べたとおり,イ号物件及びロ号物件に使用されているプログラム(乙68,69)によれば,イ号物件及びロ号物件は,コンテナの取り出しに当たって,少なくとも手前側と奥側のコンテナの関係では,奥側のコンテナを優先して取り出しているから,「前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する」との構成を充足しない。」
(36) 原判決71項24行目の「(4)」を「(5)」と改める。
3 当審における当事者の主張
(1) 均等侵害の成否について(当審における新たな主張)
〔控訴人の主張〕
仮に,構成要件1Fの「…ステーションに搬送されて,…要求図書が取り出されたコンテナまたは…返却図書が返却されたコンテナに対して,…記憶手段の記憶内容を更新する」が,搬送後更新(ステーションに搬送された状態で要求図書が取り出されたコンテナまたは図書が返却された状態のコンテナに対して記憶内容を更新すること)を意味するとの解釈に立ち,かつ,イ号物件及びロ号物件について,図書の取り出し又は自動呼出入庫における記憶内容の更新時期がコンテナのステーションへの搬送前であると認定したとしても,上記相違部分については,以下のとおり均等の各要件を充足し,均等侵害が成立するというべきである。
ア 第1要件の充足
本件発明1は,従来の分類別固定ロケーション配架方式の場合,互いに分類の異なる複数の図書が返却されると,1冊毎に別のコンテナを書庫から利用者カウンターにいちいち取り出す必要が生じ,コンテナ搬送の稼働回数が多くなり,返却作業の能率向上が十分に図れないという課題があったことから,フリーロケーション方式に係る構成要件1Fを採用することにより,同一寸法の図書ならば,その寸法の図書を収容するためのコンテナ内に任意に返却することが可能となり,コンテナ搬送の稼働回数を少なくでき,図書の取出・返却作業の能率を向上させるという作用効果を奏するものである。
このように,本件発明1において,フリーロケーション方式に係る構成要件1Fにつき,課題解決のための技術手段を基礎づける技術的思想の中核をなす特徴的部分は,「取り出し又は返却の対象となるコンテナに対して,記憶手段の記憶内容を更新する更新手段」の構成であり,記憶手段の記憶内容を更新するタイミングをコンテナのステーションへの「搬送前」にしても,フリーロケーション方式に係る構成要件1Fを採用することによる作用効果である「同一寸法の図書ならば,その寸法の図書を収容するためのコンテナ内に任意に返却することが可能となり,コンテナ搬送の稼働回数を少なくでき,図書の取出・返却作業の能率を向上させる」ことは実現可能である。
したがって,上記相違部分に係る本件発明1の構成(搬送後更新)は,本件発明1の本質的部分とはいえないから,均等の第1要件を充足する。
イ 第2要件の充足
上記アで述べたとおり,構成要件1Fの構成を上記相違部分に係るイ号物件及びロ号物件の構成(搬送前更新)に置き換えても,サイズ別フリーロケーションという本件発明1の目的を達成でき,同一の作用効果を奏するから,均等の第2要件を充足する。
ウ 第3要件の充足
上記相違部分は,本件発明1の本質的部分である「取り出し又は返却の対象となるコンテナに対して,記憶手段の記憶内容を更新する更新手段」の構成において,当該更新時期をいつにするかというものにすぎず,当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないものであるから,本件発明1の構成要件1Fを上記相違部分に係るイ号物件及びロ号物件の構成に置き換えることは,イ号物件及びロ号物件の製造時点において当業者が容易に想到することができたものである。
したがって,均等の第3要件を充足する。
エ 第4要件及び第5要件の充足
イ号物件及びロ号物件は,本件出願時における公知技術と同一でなく,当業者が公知技術から容易に推考できたものでない。
また,イ号物件及びロ号物件が本件発明1の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情はない。
したがって,均等の第4要件及び第5要件を充足する。
〔被控訴人の主張〕
ア 控訴人は,原審において,いつでも予備的に均等侵害の主張をすることが可能であったにもかかわらず,控訴審に至って初めてその主張を行ったものであるから,当該主張が時機に後れたものであることは明らかであり,また,当該主張の内容からみて,事実関係の調査等に時間を要するという性質のものではないから,時機に後れたことについて,控訴人には少なくとも重大な過失がある。そして,控訴審において,均等の各要件を充足するか否かの審理を行うことになれば,訴訟の完結を遅延させることになることも明らかである。
したがって,控訴人の均等侵害の主張は,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
イ また,以下に述べるとおり,均等侵害の要件を満たす旨の控訴人の主張は認められない。
(ア) 第2要件の非充足
本件発明1においては,コンテナの搬送後に記憶内容を更新するという構成を採用することにより,複数のコンテナを呼び出した場合に図書とコンテナとの関連付けに配慮することなく,呼び出したコンテナに無作為に図書を収容することが可能であり,また,コンテナを呼び出した時点で手元になかった図書であっても,呼び出されたコンテナのサイズと対応するものであれば,呼び出したコンテナに空きがある限り当該コンテナにまとめて収容することが可能となっている。本件発明1の当該構成は,図書館員の図書返却作業を容易とし,かつ,書庫と利用者カウンターの間でコンテナを搬送する搬送機構の稼働回数も必然的に少なくすることができるものであり,これにより,自動化による図書の返却作業の能率を向上させることができるという作用効果を奏する。そして,このことは,本件発明1において,コンテナをステーションに呼び出した状態であっても,図書とコンテナとの対応関係は確定しておらず,両者は依然として「フリー」な関係が継続していることによるものである。
他方,イ号物件及びロ号物件においては,コンテナの搬送前に記憶内容を更新するという構成を採用するものであり,コンテナをステーションに呼び出した時点で,図書とコンテナとの対応関係が既に確定しているため,両者は既に「固定」の関係に変化している。そのため,複数のコンテナを呼び出した場合には図書は必ず紐付けされた特定のコンテナに収容されなければならず,また,コンテナを呼び出した時点で手元になかった図書は,たとえステーションに搬送されたコンテナのサイズと対応していたとしても当該コンテナにまとめて収容することができない。
したがって,相違部分に係る本件発明1の構成(搬送後更新)をイ号物件及びロ号物件の構成(搬送前更新)に置き換えた場合には,本件発明1と同一の作用効果を奏するものとはいえないから,均等の第2要件を充足しない。
(イ) 第1要件の非充足
上記(ア)のとおり,相違部分に係る本件発明1の構成は,特許発明の目的に関する部分であるから,本件発明1の本質的部分に該当する。
したがって,均等の第1要件も充足しない。
(ウ) 第3要件の非充足
上記(ア)のとおり,相違部分に係る本件発明1の構成に換えて,コンテナの搬送前に記憶内容を更新するというイ号物件及びロ号物件における構成を採用した場合には,たとえコンテナを呼び出した時点でコンテナのサイズと対応する図書が手元にあったとしても,当該コンテナにまとめて収容することはできない。
他方,コンテナの搬送後に記憶内容を更新するという本件発明1の構成では,次のような問題が生じ得る。すなわち,たとえばコンテナAについて,あと1冊分の空きがある状態のときに,①図書甲の返却要求がされた場合,図書館員が,返却図書甲の図書IDを入力した時点で,図書甲のサイズに従ってコンテナAが特定され,コンテナAがステーションに搬送されるが,図書甲とコンテナAとの関連付けに関する情報は,コンテナAがステーションに搬送されるまで未更新の状態である。そのため,コンテナAがステーションに搬送されるまでの間に次の図書乙の返却要求があった場合,図書館員が,返却図書乙の図書IDを入力した時点では,コンテナAは未だ空きがある状態と認識されているため,図書乙の返却先のコンテナとしてコンテナAが特定されることがあり得ることになる。そして,その場合,搬送手段によりコンテナAがステーションに搬送されたときには,返却図書甲をコンテナAに収容することはできるが,返却図書乙をコンテナAに収容することはできないことになるから,図書館員は,改めて返却図書乙を収容するためのコンテナを呼び出す必要があり,コンテナが呼び出されてからステーションに搬送されるまでの待ち時間が必要となって,返却作業の能率が低下するという問題が生じる。
上記の場合,イ号物件及びロ号物件であれば,図書館員が図書IDを入力した時点で,図書IDと特定されたコンテナとの関連付けに関する情報について記憶手段の記憶内容を更新(搬送前更新)することで,次の返却図書乙について図書館員が図書IDを入力したときには,記憶手段の記憶内容が最新の状態(図書甲が特定のコンテナに収容されるという状態)に更新された状況から,次の返却図書乙を収容するコンテナを特定することができることとなり,搬送後更新では実現できない形で返却作業の能率の向上を図っている。
このように,本件発明1とイ号物件及びロ号物件は,いずれも返却作業の能率の向上を図るものではあるものの,それぞれ異なる方法でそれを実現しようとするものであるから,両者は,異なる技術思想の下で開発された自動書庫装置というべきである。
以上のとおり,記憶内容の更新時期に係る相違部分は,控訴人が主張するように設計事項などと評価できるものではないから,本件発明1の搬送後更新の構成をイ号物件及びロ号物件の搬送前更新の構成に置き換えることについて,当該製品の製造時に当業者が容易に想到することができたということはできない。
したがって,均等の第3要件を充足しない。
(エ) 第5要件の非充足
控訴人の主張によれば,本件明細書には,記憶内容の更新時期に関する限定はないこととなるが,そうであるとすれば,控訴人は,あえてコンテナの搬送後に記憶内容を更新する構成のみを特許請求の範囲に記載したことになる。このような場合,他の構成については特許発明の技術的範囲から除外したものと評価することができるから,均等侵害の第5要件を充足しない。
(オ) 以上のとおり,イ号物件及びロ号物件における構成は,少なくとも均等の第1要件,第2要件,第3要件及び第5要件を充足しない。
(2) 本件再訂正発明1における乙12発明を主引例とする進歩性欠如の有無について(原判決の判断を踏まえた補充主張)
〔控訴人の主張〕
原判決は,本件再訂正発明1と乙12発明の一致点,相違点を下記のとおり認定した上で,本件再訂正発明1について,乙12発明と,乙11の3発明,乙16発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠く旨判断し,したがって,本件再訂正による特許請求の範囲の減縮をする前の発明である本件訂正発明1及び本件訂正による特許請求の範囲の減縮をする前の発明である本件発明1についても進歩性を欠き,かつ,その無効理由は本件再訂正によっても解消されないから,控訴人は,特許法104条の3に基づき,被控訴人に対し,本件発明1に係る本件特許権を行使することができない旨判断した。
(一致点)
複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容された複数の図書を収容する複数のコンテナと,書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と,取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに搬送するとともに,返却が要求された際に,返却が要求された図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送する搬送手段と,この搬送手段により,前記ステーションに搬送されて,前記要求図書または前記返却が要求された図書の情報を入力することにより,前記要求図書または前記返却図書に関する前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを具備する図書保管管理装置である点。
(相違点1)
書庫の複数の棚領域と複数の図書を収容する複数のコンテナに関して,本件再訂正発明1においては,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫」と「それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナ」とを採用しているのに対し,乙12発明においては,このような図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域や棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナを用いていない点。
(相違点2)
要求図書の取り出し搬送や返却図書の返却搬送と書庫内における収容位置と各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段に関して,本件再訂正発明1においては,要求図書の取り出しに際しては「要求図書が取り出されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する」とともに,返却図書の返却に際しては「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送し,前記返却図書が収容されたコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する」ものであるのに対し,乙12発明においては,このような図書の寸法情報の入力により返却図書の寸法に対応する複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫から取り出す構成と図書の寸法に対応するコンテナに対する記憶手段の記憶内容を更新する構成とを具備していない点。
(相違点3)
本件再訂正発明1においては,「書庫の複数の棚領域には,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に2個のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられている」のに対して,乙12発明においては,書庫の複数の棚領域から,搬送手段によってコンテナを取り出すものではあるが,奥行き方向に複数のコンテナを収容し,搬送手段には,コンテナを取り出す間口に対して手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段を備えたものであるかは不明である点。
(相違点4)
返却時の空きのあるコンテナ使用の優先規則について,本件再訂正発明1においては,「前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する」のに対して,乙12発明においては,優先規則が不明である点。
しかし,以下に述べるとおり,本件再訂正発明1が進歩性を欠くとした原判決の判断は誤りである。
ア 本件再訂正発明1と乙12発明の一致点の認定の誤り・相違点の看過
原判決は,「返却が要求された際に,返却が要求された図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送する搬送手段」を本件再訂正発明1と乙12発明の一致点として認定している。
しかし,原判決の上記認定には,以下に述べるとおり誤りがある。
(ア) 乙12発明は固定ロケーション方式であること
乙12発明は,図書とケースの対応関係をフリーとするものではあるが,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係は,以下に述べるとおり,固定されたものと認められる。そうすると,乙12発明においては,図書の返却処理に当たって,返却するケースによって取り出すコンテナは決まっており,複数のコンテナの中から選択する余地はないから,原判決が,「複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点を本件再訂正発明1と乙12発明の一致点と認定したことは誤りである。
a 乙12公報の記載等からすれば,乙12発明において,ケースと格納ロケーションの対応関係は固定されているとしか考えられない。すなわち,乙12発明において,ケースと格納ロケーションの対応関係がフリーであり,図書館員が,図書の返却の都度ケースと格納ロケーションの対応関係を新たに設定するのであるとすれば,図書館員は,図書の返却作業に際し,当該図書を入れたケースを収容すべきコンテナの空きの有無を認知している必要がある。そして,図書館員がコンテナの空きの有無を認知するためには,①図書館員がコンテナの空きを目視により確認するか,②コンテナの空き状況を検出するシステムが図書館員に空きの有無を知らせることが必要である。これに対し,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定であれば,当該固定された格納ロケーションには,必ず当該ケースを収容するスペースがあるから,図書館員がコンテナの空きの有無を認知している必要はない。
しかるところ,乙12発明においては,カウンターステーション30と異なる階にある入庫用ラックステーション17でケース13がコンテナ12に収容されるのであり,カウンターステーション30にはコンテナ12が存在しないのであるから,カウンターステーション30において,図書館員がコンテナ12に空きがあるか否かを目視により確認することはできない。
また,コンテナの空き状況を検出するシステムが図書館員に空きの有無を知らせる構成について,乙12公報には一切記載されていない。
このように,乙12発明は,①図書館員がコンテナの空きを目視により確認することもできないし,②コンテナの空き状況を検出するシステムも具備していないものであるから,図書館員が,図書の返却作業に際し,当該図書を入れたケースを収容すべきコンテナの空きの有無を認知することができないものであり,そうである以上,ケースと格納ロケーションの対応関係は,フリーではなく,固定されているとしか考えられない。
b 被控訴人は,乙12公報の段落【0034】に,図書の返却動作について,「そのケース13の書棚11内における格納ロケーションを設定しハードディスク47に登録する。」と記載されていることを根拠として,乙12発明では,ケースと格納ロケーションの対応関係は固定的なものではない旨主張する。
しかし,以下に述べるとおり,乙12公報の段落【0034】における格納ロケーションの設定登録は,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定の場合であっても,格納対象のケースを特定するために必要な処理であるから,被控訴人の上記主張は成り立たない。
すなわち,乙12発明において,図書館員が複数冊(例えば,図書A~Eの5冊)の図書の返却を受けた場合,まず図書A~Eとこれらを収納するケースA~Eのバーコードを読み取りハードディスクに登録し(段落【0033】,【図7】のS21,S22),次に,そのうちのどれか(例えば,ケースC)を搬出口にセットしたとき,そのケースCと固定の関係にある格納ロケーションを設定しなければ,複数のケースA~Eのどれが書棚11に返却されるものかが不明となり,ケースのステーションへの搬送処理を行えない。
また,ケースの格納ロケーションをハードディスクに登録するのは,次の貸出しの際に,書棚11に返却されたケースCを取り出すために必要だからである。
したがって,乙12発明において,図書の返却の際に,ケースの格納ロケーションの設定登録がされることは,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定であることの根拠とはなり得ても,フリーであることの根拠とはならない。
c 原判決は,乙12公報の段落【0005】に記載された従来技術(以下「乙12従来技術」という。)において,ケースとコンテナの位置との対応関係が固定されていないことから,乙12発明についても,あえて上記対応関係を固定的にする発明であると解すべき合理的理由はない旨判断した。
しかし,乙12従来技術は,ケースと図書の関係が固定であることの課題を指摘するためのものにすぎず,以下に述べるとおり,乙12発明とは,自動化書庫の本質的機能において相違する別発明であるから,前者の延長として後者を認定すべきではない。
すなわち,まず,乙12従来技術に係る特公昭61-4723号公報(甲56)の記載によれば,乙12従来技術においては,押し棒32のようにケース格納用空き空間をつくる技術が採用されているため,任意の空きのあるコンテナにケースを収容できるが,乙12発明ではそのような技術の記載がない。
また,乙12従来技術では,ケースのコンテナへの入庫時に,そのコンテナに収容された全てのケースのバーコードが読み取られ,ケースの位置(ロケーション)を示す記憶内容が更新されるが(乙12公報の段落【0005】),乙12発明では,ケースがステーションに向かう前(コンテナへの収納前)に,格納ロケーションが設定されるのであり,格納手順に本質的な相違が存在する。
さらに,乙12発明では,複数の厚さのケースがあるため(段落【0012】,【図2】参照),返却するケースの厚みによってはコンテナに返却できないという不都合が生ずるから,これを防止するために,ケースの厚みやコンテナの空き管理等の制御が必要になるが,乙12公報には,ケースの厚みやコンテナの空き管理等の制御に係る記載も示唆もない。
したがって,乙12従来技術において,ケースとコンテナの位置との対応関係が固定されていないからといって,乙12発明についても,同様のものであると認定することはできない。
(イ) 乙12公報には,「図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」すことの記載も示唆もないこと
乙12発明の図書の返却処理においては,「返却が要求された図書の情報を入力する」ことが行われ,また,「コンテナを書庫から取り出」すことが行われているが,入力された図書の情報は,それが収容されるべきコンテナの取出しには用いられておらず,コンテナの取出しは,入力された図書の情報とは関係なく,図書館員が格納ロケーションを設定することにより行われている。
したがって,乙12発明は,「返却が要求された図書の情報を入力することにより…コンテナを書庫から取り出」すものではないから,「図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点を,本件再訂正発明1と乙12発明の一致点であるとした原判決の認定は誤りである。
イ 相違点2についての容易想到性判断の誤り
(ア) 乙12発明に乙11の3発明を適用できるとした判断の誤り
原判決は,相違点2に係る本件再訂正発明1の構成について,乙12発明に乙11の3発明と周知技術である寸法別のコンテナ等の構成を適用することにより,当業者が容易に想到し得るものと判断した。
しかし,乙12発明と乙11の3発明とは,以下に述べるとおり,基本的構成,課題及び作用・機能が相違しているため,乙12発明に乙11の3発明を適用することはできないものであるから,原判決の上記判断は誤りである。
a 前記ア(ア)で述べたとおり,乙12発明は,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されたものと認められ,この点において,アイテムと容器の関係がフリーである乙11の3発明とは,基本的構成を異にするから,乙12発明に乙11の3発明を適用することはできない。
b また,乙12発明では,図書館員がカウンターステーション30において図書33をケース13に収容し,当該ケース13はステーションから入庫用ラックステーション17まで搬送コンベア29で搬送され,入庫用ラックステーション17では,搬送されたケース13が,1ケースごとに,ピッキング装置19により設定済みの格納ロケーションに対応するコンテナ12に収納され,当該ケース13を収納したコンテナ12は,書棚11に搬送され格納される。このように,乙12発明は,図書館員がカウンターステーション30から1ケースごとピッキング装置19等の構成により書棚11に収容するものであり,コンテナ12は書棚11と入庫用ラックステーション17との間を移動するのみであって,貸出し・返却処理において図書館員の手元にはコンテナ12は届かないものである。
一方,乙11の3発明は,乙12発明のコンテナに相当する容器が図書館員の手元にあり,図書館員が当該容器にアイテムを収容することで返却作業が行われるものである。
したがって,乙12発明と乙11の3発明とでは,返却処理の技術思想が根本的に異なり,その結果,両者の作用・機能も全く異なるものであるから,乙12発明に乙11の3発明を適用する動機付けが一切存在しない。
c さらに,乙12発明は,ケースの存在が不可欠なものであり,この点において乙11の3発明とは本質的に構成が相違しているから,乙12発明に乙11の3発明を適用することはできない。
すなわち,乙12発明は,「図書は,その寸法や形状が様々であるため,このままでは書庫に対する入出庫動作を自動化することができない」(乙12公報の段落【0002】)ため,ケースを採用した発明であり,「図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却する際にケースに入れることにより,ハンドリングやロケーションの管理が容易にな」る(段落【0003】)ように,ケースを採用したものであるから,ケースの存在を不可欠とするものである。
他方,乙11の3発明では,ケースは用いられず,コンテナに収容される対象は図書そのものであるから,乙12発明に乙11の3発明を適用するには,ケースをなくし,図書そのものを収容対象にする着想が必要であるが,ケースを不可欠とする乙12発明において,ケースをなくすことはできない。
したがって,乙12発明に乙11の3発明を適用することはできない。
(イ) 乙12発明に乙11の3発明を適用することによって相違点2に係る本件再訂正発明1の構成とすることができるとした判断の誤り
原判決は,乙11の3発明について,「アイテムのサイズ情報(寸法情報)を使って制御を行うものと解するのが合理的である。」と認定した上で,乙12発明に乙11の3発明を適用することによって相違点2に係る本件発明1の構成とすることができる旨判断した。
しかし,以下に述べるとおり,乙11の3文献には,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより…該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出す」ことは記載されていない。
すなわち,乙11の3発明においては,図書の返却時に,アイテムに付されたバーコードナンバーをスキャンすることによって図書情報が入力されるところ,このバーコードナンバーは,「Label type(最初の1桁)」,「Library identifier(次の4桁)」,「Sequential number(次の8桁)」,「Modulus 10 Complementary Check Digit(最後の1桁)」の4つから構成されるが,この中に図書の寸法情報は含まれていない(乙11の3文献・12頁)。
他方,乙11の3発明においても,図書のサイズに関するコードが存在するが,それは図書の上端に付され,返却作業に先立ち,図書を手作業でソートする際に参照されるものであり,図書の取り出しのために容器が来ると,取り出された図書と同じサイズの図書を返却することが示されているのみであって(乙11の3文献・13頁),図書の寸法情報がバーコード化され,返却の際に読み取られたり,空きのあるコンテナの取り出しのために用いられることについては,記載も示唆もされていない。
このように,乙11の3発明は,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出」すものではないから,乙12発明に乙11の3発明を適用しても,相違点2に係る本件再訂正発明1の構成とすることはできないのであり,原判決の前記判断は誤りである。
ウ 相違点3についての容易想到性判断の誤り
(ア) 原判決は,相違点3に係る本件再訂正発明1の構成について,乙12発明に乙16発明と従来周知の技術的事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得るものと判断したが,乙12発明に乙16発明を適用する動機付けはなく,むしろ阻害要因があることは既に述べたとおりである(前記2で引用した原判決43頁2行目から22行目まで)から,原判決の上記判断は誤りである。
(イ) 被控訴人は,控訴人の上記主張は,相違点3について原判決と同様の判断をして本件第1次審決を取り消した本件取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)を無視した主張であり,争点の実質的な蒸し返しに当たるものであるから,訴訟上の信義則に反し許されない旨主張する。
しかし,本件取消判決の前提とした事項に変更があるなどの特段の事情がある場合には,当該判決の拘束力は生じないと解すべきところ,本件取消判決は,相違点2につき乙12発明の認定を本質的に誤っており,そのため,相違点3に係る容易想到性判断の前提に誤りがあったものであるから,本件取消判決の相違点3に係る判断については,上記特段の事情があり,拘束力は生じないというべきである。
したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。
エ 相違点4についての容易想到性判断の誤り
原判決は,乙20公報,乙39公報,乙40公報及び乙45公報に基づいて,「棚の奥行方向に複数の収容部を備えた収納設備において,奥側の収容部からの収容物の取り出しが出納効率の低下をもたらすことは,当業者に周知の技術的課題であり,そのような収容部にも図書等のように再搬入(返却)が想定される収容物を収容することは当業者に周知の技術的事項であること」及び「乙20公報の記載において,出納効率の低下をもたらさないためには,手前側の収容部を優先的に利用する構成とすればよいことが示唆されていること」を認定し,これを前提に,乙12発明に乙16発明の「奥行き方向に2個のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられている」事項を適用するとともに,乙11の3発明を適用する際に,上記周知の技術的課題に基づいて,手前側のコンテナを空きのあるコンテナとして優先的に使用する構成,すなわち相違点4に係る本件再訂正発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る旨判断した。
しかし,原判決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
(ア) 乙20公報,乙39公報,乙40公報及び乙45公報は,自動倉庫に係る技術であり,自動化書庫に関する技術ではないから,仮に,「棚の奥行方向に複数の収容部を備えた収納設備において,奥側の収容部からの収容物の取り出しが出納効率の低下をもたらすことは,当業者に周知の技術的課題」であったとしても,「自動化書庫における奥側の棚への返却における出納効率(返却効率)の向上という課題」が当業者に周知の技術的課題であるとはいえない。
原判決は,「そのような収容部にも図書等のように再搬入(返却)が想定される収容物を収容することは当業者に周知の技術的事項である」と認定するが,自動化書庫でない技術において再搬入(返却)が想定されるはずもないし,このことが周知の技術的事項であることを示す裏付けは何ら示されていない。自動倉庫に係る技術である乙20公報,乙39公報,乙40公報及び乙45公報からは,再搬入(返却)が想定される収容物を収容することが周知の技術的事項であることは到底読み取れない。
(イ) 原判決は,乙20公報の記載において,「出納効率の低下をもたらさないためには,手前側の収容部を優先的に利用する構成とすればよいこと」が示唆されている旨判示する。
しかし,乙20公報には,フォークのリーチの長さが長いと搬出入時間が長くなるから,搬出入頻度の高いものが棚間口側に収納されることで,コンテナの搬出入効率が高くなることの記載はあるものの,「手前側の収容部を優先的に利用する構成」が示唆されているとは到底いえない。すなわち,乙20公報に記載された技術は,物品収納において,搬出入頻度の高い物品については棚間口側に収納し,搬出入頻度の低い物品については棚奥行側に収納するというものであり,物品の性質に応じて格納時に棚間口側・棚奥行側を使い分けるという技術にすぎず,棚間口側・棚奥行側のいずれかを「優先的に利用する」という技術思想によるものではない。
したがって,乙20公報の記載には,「出納効率の低下をもたらさないためには,手前側の収容部を優先的に利用する構成とすればよいこと」の示唆があるとはいえない。
(ウ) このように,原判決の上記判断は,自動化書庫に係る技術でなく,しかもそれぞれ異なる技術が記載された文献を複数挙げ,これらに記載のない事項やこれらに共通して記載もされていない事項につき,周知の課題や技術的事項を認定するものであって,到底認められるものではない。
また,原判決が認定した周知の技術的課題や周知の技術的事項の存在を前提としたとしても,「手前側のコンテナを空きのあるコンテナとして取り出」す構成に係る文献は一切挙げられておらず,当該構成に当業者が容易に想到し得たとはいえない。
オ 本件再訂正発明1の効果に顕著性を認めなかった判断の誤り
原判決は,本件再訂正発明1の効果について,「当業者にとって従来技術から予測可能な範囲のものにすぎない。」と判断し,効果顕著性を否定するが,その判断は誤りである。
すなわち,個々に捉えればそれぞれの課題が周知である場合であっても,それらの課題がトレードオフの関係にある場合は,かかる2つの課題を両立的に解決し,それによる効果を両立させた場合,原則として,効果顕著であると認定されるべきである。しかるところ,本件再訂正発明1は,図書保管管理装置において,サイズ別配架及び手前側・奥側コンテナ配置によって収容効率を向上させつつ,フリーロケーション方式を採用し,かつ,手前側コンテナを優先的に使用することにより出納効率をも向上させたものであり,トレードオフの関係にある「収容効率」と「出納効率」という2つの課題を両立して解決したところに効果顕著性があることは明らかであるから,これを認めなかった原判決の判断は誤りである。
〔被控訴人の主張〕
ア 「本件再訂正発明1と乙12発明の一致点の認定の誤り・相違点の看過」に対し
(ア) 控訴人は,乙12発明においては,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されたものと認められるから,原判決が,「複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点を本件再訂正発明1と乙12発明の一致点と認定したことは誤りである旨主張する。
しかし,乙12発明においては,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係は,固定的なものではなく,フリーであることが明らかであるから,控訴人の上記主張は誤りである。
すなわち,乙12公報には,ケースとコンテナとの対応関係が固定である旨の記載はなく,むしろ,その段落【0005】には,従来技術について,「図書が返却された場合,図書館員は,返却された図書を元のケースに収容し,そのケースを任意の空きのあるコンテナに自動入庫させる。すると,コンテナの入庫時に,そのコンテナに収容された全てのケースのバーコードが読み取られ,ケースの位置(ロケーション)を示す記憶内容が更新されて,ここに図書の返却が行なわれる。」として,コンテナとケースの位置(ロケーション)との対応関係を固定的とはしないものとすることが記載されている。そして,乙12発明は,上記従来技術における「図書」と「ケース」との対応関係が固定されていることによる作業の非効率性を解決するために,「図書」と「ケース」の対応関係を固定的とはしないものとすることを特徴とする発明であるところ,上記従来技術で課題とされていない「ケース」と「コンテナ」の対応関係が固定的でなかった点をあえて固定的にした発明と解すべき合理的理由はない。
また,控訴人が主張するように,乙12発明において,「ケース」と「コンテナ」との対応関係が固定的であるならば,乙12の段落【0034】に「ケース13の書棚11内における格納ロケーションを設定しハードディスク47に登録する。」とあるように,わざわざ,ケースの書棚内における格納ロケーション(コンテナ)を設定しハードディスクに登録する必要はないと解されるから,この点からも,「ケース」と「コンテナ」との対応関係が固定的なものであるとは考えられない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(イ) この点に関し,控訴人は,乙12発明について,図書館員が図書の返却時に空きのあるコンテナを認知する仕組みがないことから,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているとしか考えられない旨主張する。
しかし,乙12発明では,図書館員が図書及びケースに付されたバーコードを読み取ることにより格納ロケーションが設定され,当該格納ロケーションに基づいて図書を収納するコンテナが書庫からステーションに搬送されるものであり,「図書に付されたバーコード35のデータを…入力することにより」コンテナが取り出されるものであって,書庫から空きのあるコンテナを探し出す機能を備えているから,控訴人の上記主張は誤りである。
すなわち,乙12公報の段落【0032】ないし【0034】の記載によれば,乙12発明の図書の返却処理においては,ステップS21で,図書に付されたバーコード35のデータを(ケース13に付されたバーコード34とともに)読み取ることで入力し,ステップS22で,図書に付されたバーコード35のデータを(ケース13に付されたバーコード34とともに)ハードディスク47に格納登録している。そして,ステップS23では,図書館員が,図書を収容したケースを返却のためにカウンターステーション30の搬出口に置くこととされ,次のステップS24では,ケース13の書棚11内における格納ロケーションを設定してハードディスク47に登録するとされているところ,ステップS24については,格納ロケーションを設定してハードディスクに登録する主体は明記されていない。ステップS23の前には,「図書館員は」という記載があるが,ステップS23とステップS24は異なるステップであるから,両ステップの主体を同一と解すべき必然性はない。
他方,乙12公報の特許請求の範囲の請求項1には,次の記載がある(下線は被控訴人による。)。
「【請求項1】識別情報の付された図書と,この図書を収容する識別情報の付された自動搬送用のケースと,このケースを複数収容し得る書庫と,この書庫に収容された図書に対する収容位置情報を含む図書情報を,前記図書に付された識別情報と該図書が収容される前記ケースに付された識別情報とを組み合わせた情報とともに記憶する記憶手段と,この記憶手段の記憶内容に基づいて前記書庫から出庫すべき図書の収容されたケースを自動的に取り出して出庫する自動搬出手段と,前記書庫に入庫すべき図書に付された識別情報と該図書を収容し得る任意の前記ケースに付された識別情報とを読み取って,該図書に対する新たな図書情報を生成する生成手段と,この生成手段で生成された図書情報に基づいて前記書庫に入庫すべき図書の収容されたケースを自動的に前記書庫に入庫する自動搬入手段とを具備してなることを特徴とする図書入出庫管理装置。」
このように,上記請求項1には,「この書庫に収容された図書に対する収容位置情報を含む図書情報」という文言が存在しており,「図書情報」には図書の収納位置情報が含まれるとされている。また,「前記書庫に入庫すべき図書に付された識別情報と該図書を収容し得る任意の前記ケースに付された識別情報とを読み取って,該図書に対する新たな図書情報を生成する生成手段と,この生成手段で生成された図書情報に基づいて前記書庫に入庫すべき図書の収容されたケースを自動的に前記書庫に入庫する自動搬入手段」との記載によれば,書庫に入庫すべき図書及びケースに付された識別情報(実施例における図書及びケースのバーコードのデータ)を読み取ることによって,当該図書について新たな収納位置情報を含む「図書情報」が生成され,当該「図書情報」に基づいてケースに収容された図書が自動的に書庫に入庫されることが読み取れる。そして,乙12発明において,図書及びケースに付された識別情報を読み取ることによって生成される収納位置情報とは,実施例における書棚11内における格納ロケーションであるから,乙12発明においては,図書及びケースに付されたバーコードを読み取ることによって格納ロケーションが設定され,当該格納ロケーションに基づいて図書を収納するコンテナが書庫からステーションに搬送されるものであることは明らかである。すなわち,乙12発明においては,図書の情報を入力することにより複数のコンテナの中から空きのあるコンテナを書庫から取り出すことができるのであるから,図書館員が空きのあるコンテナを認知する必要はない。
したがって,控訴人の前記主張は理由がない。
(ウ) さらに,控訴人は,乙12発明の図書の返却処理においては,入力された図書の情報は,それが収容されるべきコンテナの取出しには用いられておらず,コンテナの取出しは,入力された図書の情報とは関係なく,図書館員が格納ロケーションを設定することにより行われているから,「図書の情報を入力することにより,複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点について,本件再訂正発明1と乙12発明の一致点であるとした原判決の認定は誤りである旨主張する。
しかし,上記(イ)で述べた通り,乙12発明では,図書館員が図書及びケースに付されたバーコードを読み取ることにより格納ロケーションが設定され,当該格納ロケーションに基づいて図書を収納するコンテナが書庫からステーションに搬送されるものであるから,控訴人の上記主張は誤りである。
イ 「相違点2についての容易想到性判断の誤り」に対し
(ア) 「乙12発明に乙11の3発明を適用できるとした判断の誤り」について
a 控訴人は,乙12発明は,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の関係が固定的なものと認められ,アイテムと容器の関係がフリーである乙11の3発明とは基本的構成を異にするから,乙12発明に甲1システムを適用することはできない旨主張するが,乙12発明において,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の関係が固定的なものでないことは,前記ア(ア)で述べたとおりであるから,控訴人の上記主張は理由がない。
b また,控訴人は,乙12発明は,ケースの存在が不可欠なものであり,この点において乙11の3発明とは本質的に構成が相違しているから,乙12発明に乙11の3発明を適用することはできない旨主張する。
しかし,乙12発明では,単にケースに収容して図書の貸出しと返却を行っているだけであり,乙12発明が,複数の書棚領域を有する書庫と複数の図書を収納するコンテナとを備え,図書コードに基づいてコンテナの出し入れをすることにより図書の貸出しと返却を行うものであることに変わりはない。
また,乙12公報には,「ケース」を用いる理由として,「図書は,その寸法や形状が様々であるため,このままでは書庫に対する入出庫動作を自動化することができない。」(段落【0002】),「図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却する際にケースに入れることにより,ハンドリングやロケーションの管理が容易になり,個別にて搬送する際にも図書を保護することができる。」(段落【0003】)との記載があるが,乙12発明におけるコンテナ単位の入出庫管理システム(段落【0042】,【図10】)では,上記の理由が妥当するものではない。
そうすると,乙12発明に対し,乙11の3発明における寸法別に分類された図書に対応する寸法の複数種類のコンテナ(容器)などの技術的事項を適用するに際して,乙12発明における「ケース」を不可欠のものとする必要はなく,「ケース」を使用しない構成とすることが,当業者にとって格別困難であったとはいえない。
したがって,乙12発明がケースを使用していることは,乙12発明に乙11の3発明を適用することを妨げる要因とはならないから,控訴人の上記主張は理由がない。
(イ) 「乙12発明に乙11の3発明を適用することによって相違点2に係る本件再訂正発明1の構成とすることができるとした判断の誤り」について
控訴人は,乙11の3発明において,図書の返却時にスキャンされるバーコードナンバーには図書の寸法情報が含まれておらず,他方,図書のサイズに関するコードは,図書の上端に付され,返却作業に先立ち,図書館員が図書を手作業でソートする際に参照されるにすぎないことから,乙11の3発明は,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出す」ものではないから,乙12発明に乙11の3発明を適用しても,相違点2に係る本件再訂正発明1の構成とすることはできない旨主張する。
しかし,乙11の3発明において,寸法情報がバーコード自体にコードとして含まれていなくとも,図書コードを読み取ることによりその図書に対応するサイズ情報を利用して適切なサイズの容器を取り出すことができれば足りるのであるから,寸法情報がバーコード自体に含まれていないことが,寸法情報を空きのあるコンテナの取り出しに利用していないことの理由とはなり得ない。
かえって,乙11の3発明の「自動保管取り出しシステム(AS/RS)」においては,アイテムに付されたバーコードナンバー(図書コード)を光学的にスキャンし,アイテムを取り出さないで返却する場合に,システムは,第2.02.D章(訳文17頁7行~18頁40行)に記載された優先順位を用いて,収容スペースが利用可能な(フルではない)容器(コンテナ)を取り出して,図書の返却を行っている。
また,図書管理装置の技術分野において,図書の寸法情報を使って図書管理のための制御を行うことは,乙35及び乙36に見られるように,本件特許の出願日当時において既に周知技術であったことが認められる。そして,乙11の3文献においても,ランダムロケーション保管アイテムは,サイズコード(例えば,A,B又はC)を有するとされていることからすると,乙11の3発明においても,アイテムのサイズ情報(寸法情報)を使って制御を行うものと解すべきである。
したがって,控訴人の上記主張は失当である。
ウ 「相違点3についての容易想到性判断の誤り」に対し
控訴人は,相違点3に係る本件再訂正発明1の構成につき,乙12発明に乙16発明と従来周知の技術的事項を適用することにより当業者が容易に想到し得るものとした原判決の判断について,乙12発明に乙16発明を適用することには動機付けがなく,かえって阻害要因があることを理由に,誤りである旨主張する。
しかし,この点については,確定した本件取消判決(乙55)が,本件訂正発明1について,原判決と同様の判断をしている。
したがって,控訴人の上記主張は,相違点3について原判決と同様の判断をして本件第1次審決を取り消した本件取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)を無視した主張であり,争点の実質的な蒸し返しに当たるものであるから,訴訟上の信義則に反し許されない。
エ 「相違点4についての容易想到性判断の誤り」に対し
(ア) 控訴人は,乙20公報,乙39公報,乙40公報及び乙45公報は,自動倉庫に係る技術であり,自動化書庫に関する技術ではないから,これらの記載に基づいて,「自動化書庫における奥側の棚への返却における出納効率(返却効率)の向上という課題」が当業者に周知の技術的課題であるとはいえない旨主張する。
しかしながら,自動倉庫と自動化書庫のいずれも,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する点で共通しており,その主たる相違は,収容物が図書であるか一般的な荷物であるかという点にあるところ,収容物である図書も一般的な荷物も同様に搬入と搬出が行われるものであり,その際の出納効率を向上させるべきであることも共通の課題である。
したがって,「奥側の棚への返却における出納効率(返却効率)の向上という課題」が自動倉庫に特有のものであると限定する理由はなく,自動化書庫においても同様の課題が存在するのであるから,控訴人の上記主張は失当である。
(イ) また,控訴人は,「そのような収容部にも図書等のように再搬入(返却)が想定される収容物を収容することは当業者に周知の技術的事項である」との原判決の認定について,自動化書庫でない技術において再搬入(返却)が想定されるはずもないし,このことが周知の技術的事項であることを示す裏付けも示されていない旨主張する。
しかしながら,乙45公報には,図書館等の本棚に関する物品収納設備の発明が記載され,本や工具などの物品を「搬出入」することも記載されているところ,図書館の本の搬入は,「返却」に相当するものであるから,再搬入(返却)が想定される収容物を収容することが周知の技術的事項であることは,乙45公報の記載から裏付けられる。
したがって,控訴人の上記主張は失当である。
(ウ) 控訴人は,乙20公報の記載には,「出納効率の低下をもたらさないためには,手前側の収容部を優先的に利用する構成とすればよいこと」の示唆があるとはいえない旨主張する。
しかしながら,乙20公報には,「各棚小間の奥行寸法をコンテナの前後方向寸法の約2倍または3倍にし,各棚小間にそれぞれコンテナを2個または3個奥行方向に収納するものもあつたが,このようなものでは,奥側に格納されているコンテナを搬出しあるいは奥側にコンテナを搬入するために,コンテナ搬出入のためのフォークのリーチが通常の1個格納のものに比べて2倍または3倍となり,その結果,フォークを奥迄に延長する時間が長くなり,搬出入時間が長くなり,…また間口側のコンテナが搬出された後も,奥行側のコンテナはそのまゝ残つているため,フォークを往復させる距離が長く,その結果フォークの伸縮に要する時間が長くなつて搬出入効率が悪かった。」(1頁右下欄6行~2頁左上欄1行),「搬出入頻度の高いものが棚間口側に同頻度の低いものが棚奥行側に収納され,かくしてコンテナの搬出入能率が高い。」(2頁右上欄下から6行~同4行)と記載されており,奥行棚のコンテナを利用すると搬出入効率が悪くなることが明記されているのであるから,乙20公報には,「出納効率の低下をもたらさないためには,手前側の収容部を優先的に利用する構成とすればよいこと」が示唆されていることは明らかである。
したがって,控訴人の上記主張は失当である。
(エ) さらに,控訴人は,原判決が認定した周知の技術的課題や周知の技術的事項の存在を前提としたとしても,「手前側のコンテナを空きのあるコンテナとして取り出す」構成に係る文献は一切挙げられておらず,当該構成に当業者が容易に想到し得たとはいえない旨主張する。
しかしながら,乙20公報,乙39公報及び乙45公報に記載されているように,奥行き方向に複数のコンテナを収納した収納設備においては,手前側のコンテナを搬出する場合にはコンテナの搬出入に要する時間がより短くなり,また,奥側のコンテナを搬出する場合には,手前側のコンテナが障害となるため手前側のコンテナを取り出す場合と比較して出納効率が低下することは,当業者にとって技術常識である。それゆえ,出納効率を低下させないために間口を塞いでいる手前側の容器を奥側の容器よりも優先的に利用することは自然なことであり,空きのある容器の位置に対応した出納効率を考える際も,手前側の容器を,空きのあるコンテナとして選択し,奥側の容器よりも優先的に利用することは自然である。
したがって,「前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを空きのあるコンテナとして優先的に使用する」ことは,空きのある容器の位置に対応した出納効率の向上のために用いられる慣用的な手法であることが明らかであるから,控訴人の上記主張は失当である。
オ 「本件再訂正発明1の効果に顕著性を認めなかった判断の誤り」に対し
控訴人は,本件再訂正発明1は,図書保管管理装置において,トレードオフの関係にある「収容効率」と「出納効率」という2つの課題を両立して解決したところに効果顕著性があることは明らかであるから,これを認めなかった原判決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,本件再訂正発明1においては,奥行き方向に2個配置したコンテナのうち,奥側のコンテナを使用しなければ収容効率の向上は望めず,他方,奥側のコンテナを使用した際には必然的に出納効率は低下するものであるから,収容効率と出納効率とは常にトレードオフの関係にあるのであって,そのことは本件再訂正発明1においても何ら解決されていない。
すなわち,本件再訂正発明1は,「収容効率と出納効率を同時に大幅に向上」させるようなものではなく,奥行き方向に2個のコンテナを配置した従来周知の構成に,手前側のコンテナを優先的に使用するという構成を単純に付加したものにすぎないのであって,この組合せによる何らかの相乗効果を奏するようなものではないから,従来周知の技術から当業者が当然に予測できる程度の効果を奏するものにすぎない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人の請求のうち,本件発明2及び3に係る本件特許権の侵害に基づく請求については,イ号物件及びロ号物件がいずれも構成要件2Bの「充填率の低いコンテナから取り出す」との構成及び構成要件3Bの「充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」との構成を充足せず,本件発明2及び3の技術的範囲に属しないことから,その余の点について判断するまでもなく理由がないものと判断する。また,本件発明1に係る特許権の侵害に基づく請求については,本件再訂正発明1は,乙12発明と,乙11の3発明,乙16発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明することができたものであるから,進歩性を欠くものであり,したがって,本件再訂正による特許請求の範囲の減縮をする前の発明である本件訂正発明1,更には本件訂正による特許請求の範囲の減縮をする前の発明である本件発明1も同様に進歩性を欠くものであり,かつ,本件発明1に係る当該無効理由は本件再訂正によっても解消されないのであって,控訴人は,特許法104条の3に基づき,被控訴人に対し本件発明1に係る本件特許権を行使することができないことから,その余の点について判断するまでもなく理由がないものと判断する。その理由は以下のとおりである。
1 本件再訂正発明1について
本件特許に係る本件再訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,前記第2の2で引用した原判決「事実及び理由」第2の2(6)イ(9,10頁)のとおりである。
そして,本件再訂正後の明細書(甲33。以下「本件再訂正明細書」という。)の「発明の詳細な説明」の記載も総合すれば,本件再訂正明細書には,本件再訂正発明1に関し,次のような開示があることが認められる。
(1) 近時,多量の蔵書を有する大規模図書館等にあっては,図書の取り出しや返却に要する作業の能率向上を図るために,利用者が貸し出しを要求した図書を書庫から取り出して利用者カウンターまで搬送するとともに,その図書が貸し出されたことを記録する作業や,図書が返却されたことを記録しその図書を書庫まで戻して収容位置を記録する作業等を自動化する自動入出庫システムが導入されてきている(段落【0002】)。
(2) 一方,現在の図書館においては,図書の保管管理手段として,図書を分野別に分類して書庫に収容する分類別固定ロケーション配架方式が採用され,一般の図書館では,この分類別固定ロケーション配架方式に上述した自動入出庫システムが組み合わされる形態となっている(段落【0005】)。
しかし,分類別固定ロケーション配架方式による図書の保管管理を行なう場合,1つの分類の中に種々の寸法の図書が混在するために,各分類毎に最大寸法の図書に合わせて書棚の高さや奥行きを設定することが必要となるなど,図書の収容効率が悪化するという問題があり,さらに,図書を返却する場合,その図書の分類に対応するコンテナを書庫から利用者カウンターまで取り出す必要があるため,互いに分類の異なる複数の図書が返却されると,1冊毎に別のコンテナを書庫から利用者カウンターに取り出す必要が生じ,図書の取り出し及び返却作業の能率向上が十分に図れないという不都合も生じている(段落【0006】,【0008】)。
(3) そこで,近時では,多量の図書をそれらの内容には無関係に,寸法のみによって分類して,保管するようにしたサイズ別フリーロケーション方式が考えられてきている。このサイズ別フリーロケーション方式は,収容する図書の寸法に応じてそれぞれ大きさの異なる複数種類のコンテナを用意しておき,それぞれのコンテナを大きさ別に分類して書庫に収容するようにしたものであり,各コンテナの書庫内における収容位置は固定され,各コンテナの番号と収容されている図書のコードとが対応付けられて記憶され,この記憶内容に基づいて必要なコンテナが利用者カウンターに取り出されるとともに,利用者カウンターで図書の取り出しや返却が行なわれたコンテナが書庫に戻される際に,コンテナとそのコンテナに収容されている図書とを対応付けた記憶内容が更新されるようになっている。(段落【0009】,【0010】)
このようなサイズ別フリーロケーション方式による図書の保管管理手段を採用することにより,書庫内における無駄な空間を極力削減し図書の収容効率を向上させることができ,また,同一寸法の図書ならば,その寸法の図書を収容するためのコンテナ内に任意に返却することが可能となるので,コンテナを搬送する搬送機構の稼働回数も少なくすることができ,自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率を効果的に向上させることができる(段落【0011】)。
しかし,サイズ別フリーロケーション方式による図書の保管管理手段は,まだ開発途上にある段階であって,図書の書庫内における収容効率の点や,取り出し及び返却作業の点等において,より一層の改良を施すことが強く要望されている(段落【0012】,【0013】)。
(4) 本件再訂正発明1は,サイズ別フリーロケーション方式による図書の保管管理手段において,書庫内における図書の収容効率を向上させるとともに,自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率も効果的に向上させ得る極めて良好な図書保管管理装置を提供することを目的としたものであり,そのための当該装置の構成として,「図書の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する書庫と,この書庫の各棚領域に収容されるもので,それぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の図書を収容する複数のコンテナと,この複数のコンテナの前記書庫内における収容位置と,各コンテナに収容された複数の図書の各図書コードとを対応させて記憶する記憶手段と,取り出しが要求された図書の図書コードを入力することにより,前記記憶手段の記憶内容に基づいて,該要求図書が収容されているコンテナを前記書庫から取り出してステーションに搬送するとともに,返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する複数の前記コンテナの中から空きのあるコンテナを前記書庫から取り出して前記ステーションに搬送する搬送手段と,この搬送手段により前記ステーションに搬送されて,前記要求図書が取り出されたコンテナまたは前記返却図書が返却されたコンテナに対して,前記記憶手段の記憶内容を更新する更新手段とを具備し,前記書庫の複数の棚領域には,前記搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に2個のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられていることを特徴とし,前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用することを特徴とする」構成を採用したものである(本件再訂正後の特許請求の範囲請求項1,段落【0014】,【0015】)。
(5) そして,本件再訂正発明1は,上記の構成により,従来の分類別固定ロケーション方式に比して図書の収容効率を向上させることが可能なサイズ別フリーロケーション方式を採用した図書の保管管理手段において,さらに,その書庫のコンテナを出し入れするための間口に対して奥行き方向に,複数のコンテナを収容させるようにしたので,書庫内における図書の収容効率をより一層向上させることができ,また,優先的に手前側のコンテナを使用する管理方法を用いることにより,図書の取り出し及び返却作業の能率を効果的に向上させることができるのであり,書庫内における図書の収容効率を向上させるとともに,自動化による図書の取り出し及び返却作業の能率も効果的に向上させ得るという作用効果を奏するものである(段落【0016】,【0089】)。
2 イ号物件及びロ号物件が構成要件2Bの「充填率の低いコンテナから取り出す」との構成及び構成要件3Bの「充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」との構成を充足しないこと
次のとおり原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第4の3(原判決83頁から85頁)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決83頁23行目の「構成要件2B」から25行目末尾までを次のとおり改める。
「構成要件2Bの「充填率の低いコンテナから取り出す」及び構成要件3Bの「充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」」
(2) 原判決84頁1行目の「構成要件2B」から同頁2行目の「ものであるから」までを次のとおり改める。
「構成要件2Bは,「充填率の低いコンテナから取り出す」というものであり,構成要件3Bは,「充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」というものであるから」
(3) 原判決84頁19行目から20行目にかけての「構成要件2B」から同頁21行目末尾までを次のとおり改める。
「構成要件2Bの「充填率の低いコンテナから取り出す」もの及び構成要件3Bの「充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」ものではないと認められる。」
(4) 原判決85頁5行目の「構成要件2B」から6行目末尾までを次のとおり改める。
「構成要件2Bの「充填率の低いコンテナから取り出す」もの及び構成要件3Bの「充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」ものではないと認められる。」
3 本件再訂正発明1には乙12発明を主引例とする進歩性の欠如が認められること
次のとおり原判決を補正し,後記(2)のとおり「当審における控訴人の主張についての判断」を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第4の6(2)ないし(10)(原判決88頁から128頁)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決の補正
ア 原判決88頁25行目の「本件再訂正によって特許の無効理由が解消されるかについて」を「乙12公報等の記載」と改める。
イ 原判決89頁2行目末尾に「(下記記載中に引用する図面については別紙参照)」を加える。
ウ 原判決93頁3行目末尾に,行を改めて次のとおり加える。
「・「ここで,図4は図1に示した図書入出庫管理システムの制御システムを示している。すなわち,図中39は中央処理装置で,例えばマイクロプロセッサ等を内蔵している。この中央処理装置39には,…バスライン40を介して,…ファイルアダプタ46を経て図書情報の記憶されたハードディスク47…が接続されている。」(段落【0020】)」
エ 原判決93頁10行目末尾に,行を改めて次のとおり加える。
「・「さらに,上記中央処理装置39には,バスライン40を介して,シリアルインターフェースアダプタ53を経てコンソール54,ディスプレイ55,バーコードリーダ56及びシリアルプリンタ57が接続されている。そして,これらコンソール54,ディスプレイ55,バーコードリーダ56及びシリアルプリンタ57は,カウンターステーション30に設置されている。」(段落【0022】)
・「また,上記中央処理装置39には,バスライン40を介して,シリアルインターフェースアダプタ58を経てディスプレイ59,バーコードリーダ60,シリアルプリンタ61及びバーコードプリンタ62が接続されている。そして,これらディスプレイ59,バーコードリーダ60,シリアルプリンタ61及びバーコードプリンタ62は,1階及び2階ステーション31,26にそれぞれ設置されているものとする。」(段落【0023】)」
オ 原判決96頁24行目末尾に,行を改めて次のとおり加える。
「・「このようなコンテナ12単位の入出庫管理システムと,図1に示したケース13単位の入出庫管理システムとを並設した状態を,図11に示している。このように,ケース13単位の入出庫管理システムに加えてコンテナ12単位の入出庫管理システムを付加することにより,例えば通常の図書33の貸し出し及び返却作業は,ケース13単位の入出庫管理システムを使用して行ない,棚卸しや在庫整理のように大量の図書33を移動させるようなときには,コンテナ12単位の入出庫管理システムを使用する等,十分に実用的なシステムを構成することができる。なお,この発明は上記実施例に限定されるものではなく,この外その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。」(段落【0044】)
・「【発明の効果】以上詳述したようにこの発明によれば,図書とケースとの対応関係を固定的なものとせずに,返却された図書を任意のケースに収容して書庫に入庫することができ,貸し出し及び返却時の作業を容易化することができる極めて良好な図書入出庫管理装置を提供することができる。」(段落【0045】)」
カ 原判決97頁7行目の「A.含まれる業務機器供給者は,」を次のとおり改める。
「A.含まれる業務
機器供給者は,」
キ 原判決99頁12行目末尾の「…」を「不変ロケーションアイテムは,それらが不変に割り当てられた容器へ返却されなければならない。」と改める。
ク 原判決100頁5行目末尾に次のとおり加える。
「(判決注:乙11の3文献には,これらの数字の意味について,次のとおり記載されている。
「3」 ラベルタイプ(アイテムについては,常に‘3’)
「0700」 図書館識別番号(CSUNについては,常に‘0700’)「1014742」 連番
「0」 モジュラス10補完チェック桁)」
ケ 原判決102頁23行目の「全ての」あとに「ASRSアイテム」を加える。
コ 原判決103頁16行目の「取り出す。…」のあとに,行を改めて次のとおり加える。
「5.ランダム保管アイテムの交換…
a.もし,要求アイテムが,ランダムに保管される(ランダムに保管されるアイテムは,上端にサイズコード,例えば,A,B,またはC,がマークされる)場合には,ASRSは,通常,AS/RS要求を満たすためにアイテムが取り除かれたごとに,AS/RSへ返却されるアイテムのインプット(第2.03.D章)…を予期する。
b.オペレータが,代替アドレスをインプットしない限り,ちょうどアイテムを取り除いた容器とセクターのアドレスが,保管されるアイテムに自動的に割り当てられる。」
サ 原判決103頁16行目の「25頁17行」を「27頁3行」と改める。
シ 原判決103頁20行目の「…」を次のとおり改める。
「通常,アイテムを容器から取り除いた後に行われる。各EAWSでは,AS/RSの中へ積載されるのを待っているアイテムのグループが,棚載台車上に保管されている。」
ス 原判決105頁9行目の「多段積層棚の奥行き寸法」を「多段積層棚の間隔をほとんど拡大することなく,多段積層棚の奥行寸法」と改める。
セ 原判決106頁11行目冒頭から107頁10行目末尾までを削除する。
ソ 原判決108頁21行目から22行目にかけての「返却が要求された図書の情報を入力することにより,」を削除する。
タ 原判決109頁25行目から最終行にかけての「返却が要求された図書の情報を入力することにより,」を削除する。
チ 原判決110頁5行目末尾に,行を改めて次のとおり加える。
「なお,原判決は,「返却が要求された際に,返却が要求された図書の情報を入力することにより,…コンテナを書庫から取り出」すことを本件再訂正発明1と乙12発明との一致点として認定した。
しかし,乙12公報の段落【0033】,【0034】及び【図7】の記載によれば,乙12発明において図書が返却された際の処理手順では,図書館員が,ケース保管場所から任意のケースを取り出し,そのケースに付されたバーコードと返却された図書に付されたバーコードとをバーコードリーダで読み取ることによって,返却が要求された図書の情報の入力が行われており,その結果,ケースと図書のバーコードデータが組み合わされて,ハードディスクに格納登録されることになる(ステップS21,S22)。他方,乙12発明において,返却された図書を収容したケースを収容するためのコンテナの取出しは,図書館員が,当該ケースの格納ロケーションを設定しハードディスク47に登録すること(ステップS23,S24)により,中央処理装置から統括制御盤への格納指令が発せられ,その後,統括制御盤の制御によって,スタッカークレーン等の装置が動作されて,所定のコンテナが取り出される(ステップS25ないしS27)という手順で行われることになる。
このような乙12発明における図書の返却時の処理手順からすれば,書棚にある複数のコンテナの中から,返却された図書を収容したケースを収容するコンテナを選定し,これを取り出す処理は,図書館員による格納ロケーションの設定・登録によって行われており,「返却が要求された図書の情報を入力することにより」行われるものとはいえない。
したがって,上記の点を本件再訂正発明1と乙12発明との一致点と認定するのは不適切であり,当該一致点については,前記のとおり認定されるべきである。」
ツ 原判決111頁13行目の「甲4発明」を「乙12発明」と改める。
テ 原判決115頁24行目の「自動公庫」を「自動倉庫」と改め,同行目末尾に「(以下,この技術を「周知技術1」という。)」を加える。
ト 原判決115頁25行目,116頁1行目及び3行目並びに120頁22行目及び25行目の各「周知技術」を「周知技術1」と改める。
ナ 原判決121頁19行目の「方法」のあとに「(以下「周知技術2」という。)」を加える。
ニ 原判決121頁20行目の「特開昭49-080780号公報(乙21)」から同頁最終行の「取出しが可能となる。」と」までを次のとおり改める。
「実願昭47-112063号(実開昭49-67379号)のマイクロフィルム(乙21)に「…荷受渡し具(13)を,該荷受渡し具(13)の荷載置面長さ(ℓ)の整数倍において出退移動させて,該荷載置面長さ(ℓ)に対して2倍またはその整数倍に構成した荷受部(17A)(17B)に対応させることにより,該荷受渡し具(13)をして1つの区画収納空間(2)に対して複数の荷(12)の取扱いが行なえるのであるが,このとき先行して収納させた荷受部(17B)上の荷(12)は,後続して収納させた荷受部(17A)上の荷(12)を取り出したのち初めて取出しが可能となる。」(5頁4行目から12行目)と」
ヌ 原判決122頁5行目の「棚にもどす。」」のあとに「(3頁目左下欄2行目から13行目)」を加える。
ネ 原判決122頁7行目の「被格納物」のあとに「X」を加える。
ノ 原判決122頁10行目末尾に「(段落【0003】)」を加える。
ハ 原判決122頁25行目の「前記5(3)に説示したとおり」を「後記「当審における控訴人の主張についての判断」アにおいて述べるとおり」と改める。
ヒ 原判決123頁22行目の「棚奥行棚」を「棚奥行側」と改める。
フ 原判決123頁最終行の「手前」のあとに「側」を加える。
ヘ 原判決124頁8行目の「棚区画間手前側」を「棚区画手前側」と改める。
ホ 原判決128頁7行目冒頭から9行目末尾までを次のとおり改める。
「以上によれば,本件再訂正発明1は,乙12発明と,乙11の3発明,乙16発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性を欠くものである。」
(2) 当審における控訴人の主張についての判断
ア 「本件再訂正発明1と乙12発明の一致点の認定の誤り・相違点の看過」について
控訴人は,乙12発明では,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されており,図書の返却処理に当たって,返却するケースによって取り出すコンテナは決まっており,複数のコンテナの中から選択する余地はないから,返却が要求された際に,「複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点を本件再訂正発明1と乙12発明の一致点と認定することは誤りである旨主張する。
そこで,乙12公報の記載に基づき,乙12発明において,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているものと認められるか否かについて,以下検討する。
(ア)a 乙12公報の段落【0033】,【0034】及び【図7】によれば,乙12発明においては,図書が返却された際,当該図書は図書館員によって任意のケースに収容された後,書棚に入庫されることになるが,この間の処理手順は,次のようなものとされている。
すなわち,まず,図書館員は,ケース保管場所から任意のケースを取り出し,そのケースに付されたバーコードと返却された図書に付されたバーコードとをバーコードリーダで読み取るが,これによって,両者のバーコードデータが組み合わされて,ハードディスクに格納登録される(ステップS21,S22)。次に,図書館員は,図書をケースに収容しカウンターステーションの搬出口にセットした後,当該ケースの書棚内における格納ロケーションを設定しハードディスクに登録する(ステップS23,S24)。すると,中央処理装置が,統括制御盤に格納指令を発し,その後,統括制御盤の制御によって,スタッカークレーン,ピッキング装置,垂直搬送機及び搬送コンベア等が動作されて,図書を収容したケースが所定のコンテナに入れられ書棚に入庫されることになる(ステップS25ないしS27)。
以上のような乙12公報の記載からすると,乙12発明において,図書を収容したケースが,書棚にある複数のコンテナのうちのいずれのコンテナに収容され,書庫内のいずれのロケーションに格納されるかについては,図書が返却された際に,図書館員が,当該図書を収納したケースの書棚内における格納ロケーションを設定・登録することによって定まるものであることを自然に理解することができる。そして,このような理解からすれば,図書を収容したケースとそれを収容するコンテナとの対応関係は,図書の返却が行われる都度,上記格納ロケーションの設定・登録によって新たに定まるものであって,控訴人が主張するように,特定のケースが特定のコンテナに収容されるようあらかじめ定められたもの(固定されたもの)ではないというべきである。
b これに対し,控訴人は,上記格納ロケーションの設定・登録は,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されている場合であっても,複数の図書が返却され,格納対象となるケースが複数ある場合に,搬送処理を行うケース(したがって,そのケースを収容すべきコンテナ)を特定するために必要な処理であるから,乙12発明において,上記格納ロケーションの設定登録が行われることは,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されていないことの根拠とはならない旨主張する。
しかし,仮に,乙12発明において,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているとすれば,控訴人主張のように,格納対象となるケースが複数ある場合に搬送処理を行うケースを特定するための処理としては,搬送処理を行うケースのバーコードを読み取るなどして当該ケースを特定すれば足りることであって,当該ケースに対応した格納ロケーションの設定を行う必要はないはずであり,更には,その格納ロケーションをハードディスクに登録することは,およそ意味のない処理手順ということになる。この点,控訴人は,ケースの格納ロケーションのハードディスクへの登録は,次の貸出しの際に当該ケースを取り出すために必要である旨主張するが,ケースと格納ロケーションの対応関係が固定されている以上,改めてケースの格納ロケーションをハードディスクに登録する処理など行わなくとも,次の貸出しの際に特定のケースを取り出すことに支障はないはずである。
したがって,控訴人の上記主張には理由がない。
(イ) また,上記(ア)aの認定は,乙12公報の次の記載からも裏付けられる。
すなわち,乙12公報の段落【0030】及び【図6】には,図書を貸し出す際の処理手順について,図書館員は,要求図書を取り出した後,利用者カードのバーコードと貸し出す図書のバーコードをそれぞれバーコードリーダで読み取ること(ステップS12,S13),すると,中央処理装置は,両者のバーコードデータをハードディスク内の図書貸し出しリスト記憶領域に登録するとともに,当該図書に対してハードディスク内に記憶されているロケーションやケースと図書との対応コード等の図書情報を削除することが記載されている。
しかるところ,上記のとおり,図書の貸し出しの際に,ハードディスクから削除される図書情報として,ケースと図書との対応コードに加え,これと並列して「ロケーション」が挙げられていることからすれば,乙12発明において,図書の「ロケーション」の情報は,ケースと図書との対応関係に係る情報とは別個の情報としてハードディスクに記憶されるものであると理解するのが自然である。そして,ケースと図書との対応関係に係る情報とは異なる図書の「ロケーション」情報とは,図書(ケース)が収容されているコンテナの情報であるとしか考えられないから,上記の記述は,乙12発明においては,図書のロケーション(コンテナ)がケースとの対応関係によって一義的に定まるものではないこと,すなわち,ケースと格納ロケーション(コンテナ)の対応関係が固定されたものではないことを示しているということができる。
(ウ) 乙12公報には,コンテナの空きの有無を認知できる構成の記載がないとする控訴人の主張について
a 控訴人は,乙12発明において,図書館員が,図書の返却の都度ケースと格納ロケーションの対応関係を新たに設定するのであるとすれば,図書館員は,図書の返却作業に際し,図書を収容したケースを収容すべきコンテナの空きの有無を認知している必要があるが,乙12公報には,図書館員が,目視又はシステムによりコンテナの空きの有無を認知できる構成についての記載はないから,乙12発明では,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係は固定されているとしか考えられない旨主張する。
確かに,控訴人が主張するとおり,乙12発明が,図書館員によって図書の返却の都度ケースと格納ロケーションの対応関係が新たに設定・登録されるものであるとすれば,図書館員は,書棚にある複数のコンテナのうち,返却された図書を収容したケースを収容することができるだけの空きスペースのあるコンテナを格納ロケーションとして設定・登録しなければならず,そのためには,図書館員において,その設定・登録の際に,書棚にあるコンテナの空き状況を認知していることが必要であることは明らかである。また,乙12公報をみても,乙12発明において,図書館員が,上記格納ロケーションの設定・登録の際に,書棚にあるコンテナの空き状況をどのようにして認知するのかについて,具体的に説明する記載は見当たらないものといえる。
b しかしながら,以下のような乙12公報の記載等を総合すれば,乙12発明において,図書館員が,図書の返却の際に図書が収容されたケースの格納ロケーションを設定・登録するに当たり,コンテナの空き状況を認知し得る構成を備えていることは,当業者において当然に理解し得ることというべきである。
(a) まず,乙12公報の段落【0030】及び【0034】の記載によれば,乙12発明において,図書を収容した各ケースが書棚のいずれのコンテナに収容されているかという情報,すなわちケースの格納ロケーションの情報は,図書の返却時に,当該図書を収容したケースの格納ロケーションとして図書館員によって設定され,ハードディスク47に登録されることになり,当該図書が貸し出されることにより削除されるまで,ハードディスク47内に記憶されていることになる。
このように,ハードディスク47には,書棚に存在する全てのケースについて,いずれのコンテナに収容されているかという情報が記憶されていることになるが,これをコンテナの側から見れば,書棚にある各コンテナについて,どのケースが収容されているかという情報が記憶されていることになるから,ハードディスク47には,各コンテナについて,どれだけの空きがあるかという情報が記憶されているものといえる。なお,乙12発明において,各ケースは,規格化された一定の大きさのものとされるが,厚みについては,図書の厚みに応じた幾種類かのものがあるとされるところ,このような場合に,各ケースのバーコード情報の中に,当該ケースの厚みに関する情報も含まれるようにすることは,当然に行われるべきことといえる。
したがって,乙12発明においては,ハードディスク47内に,書棚にある各コンテナについて,どの程度の厚みの空きがあるかという点を含めた空き状況に関する情報が記憶されているものということができる。
(b) 他方,乙12公報の段落【0020】ないし【0023】及び【図4】の記載によれば,乙12発明の図書入出庫管理システムにおいては,マイクロプロセッサ等を内蔵する中央処理装置に,上記ハードディスク47が接続されており,また,上記中央処理装置には,図書館員が貸出し及び返却の作業を行うカウンターステーションに設置されたコンソール,ディスプレイ及びバーコードリーダ等の装置が接続されている。
そして,図書館員は,カウンターステーションに設置された上記各装置を使用して,図書の貸出し及び返却時の作業を行うものであるところ,図書の返却の際に図書が収容されたケースの格納ロケーションを設定・登録するに当たっても,図書館員は上記各装置を使用した入力を行い,それに応じた中央処理装置の処理によって,ハードディスク47への格納ロケーションの登録が行われるものと考えられる。
(c) 以上で述べたとおり,乙12発明においては,図書館員が図書の返却の際に図書を収容したケースの格納ロケーションを設定・登録するために使用するコンソール,ディスプレイ及びバーコードリーダ等の装置とハードディスク47とが中央処理装置を介して接続されているところ,ハードディスク47には書棚にある各コンテナについての空き状況に関する情報が記憶されているのであり,他方,前記(a)で述べたとおり,図書館員が,図書の返却の際に図書を収容したケースの格納ロケーションとして,当該ケースを収容することができるだけの空きスペースのあるコンテナを設定・登録するためには,図書館員において,書棚にあるコンテナの空き状況を認知していることが必要であることは明らかであることからすると,当業者からみれば,乙12発明においては,図書館員は,図書の返却の際に図書を収容したケースの格納ロケーションを設定・登録するに当たって,コンソールやディスプレイ等の装置を操作することにより,中央処理装置を介しハードディスク47に記憶された各コンテナについての空き状況に関する情報を参照するなどして,コンテナの空き状況を認知することが予定されているものと当然に理解し得るというべきである。
c 以上によれば,乙12公報に,図書館員がコンテナの空きの有無を認知できる構成についての具体的な記載がないからといって,乙12発明ではケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているとしか考えられないとはいえないのであり,この点に関する控訴人の主張には理由がない。
(エ) 以上で述べたところを総合すれば,乙12発明においては,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているものとは認められないというべきであるから,このことを根拠として,返却が要求された際に,「複数の前記コンテナの中からコンテナを書庫から取り出」す点を本件再訂正発明1と乙12発明の一致点と認定することは誤りであるとする控訴人の主張は理由がない。
イ 「相違点2についての容易想到性判断の誤り」について
(ア) 「乙12発明に乙11の3発明を適用できるとした判断の誤り」について
控訴人は,乙12発明と乙11の3発明とは,基本的構成等を異にしており,両者を組み合わせることはできないから,乙12発明に乙11の3発明を適用することによって相違点2に係る本件再訂正発明1の構成とすることを当業者が容易に想到し得るとはいえない旨主張する。
そこで,以下では,控訴人が乙12発明と乙11の3発明との基本的構成等が異なる根拠として主張する事由ごとに,その主張の当否を検討することとする。
a 控訴人は,乙12発明は,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されている点において,アイテムと容器の関係がフリーである乙11の3発明と基本的構成を異にする旨主張する。
しかし,乙12発明において,ケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されているものといえないことは,前記アで述べたとおりであるから,控訴人の上記主張に理由がないことは明らかである。
b また,控訴人は,乙12発明は,図書を収容したケースをピッキング装置19等の構成により書棚に収容するもので,図書館員の手元にコンテナが届かないのに対し,乙11の3発明は,図書館員が,その手元にある容器に図書を収容するものであり,両者の返却処理の技術思想は根本的に異なり,作用・機能も異なる旨主張する。
しかし,乙12公報の段落【0042】,【0043】及び【図10】の記載によれば,乙12公報には,控訴人が主張する,図書を収容したケースをピッキング装置19等により書棚に収容するもので,図書館員の手元にコンテナが届かない構成の実施例(段落【0012】ないし【0041】)のほか,コンテナ単位の入出庫管理システムに係る実施例,すなわち,【図10】に示されたとおり,書棚とステーションとの間において,スタッカークレーン,出庫用及び入庫用ラックステーション,搬送コンベア並びに垂直搬送機によって,コンテナ単位で図書の入出庫を行う構成の実施例が開示されている。したがって,乙12公報に記載された発明(乙12発明)としては,当該実施例に基づき,前記3の頭書きで引用した原判決「事実及び理由」の第4の6(3)のとおりのもの,すなわち,「貸し出しが要求された図書33のコードを入力することにより,前記ハードディスク47の記憶内容に基づいて,該要求図書33がケース13とともに収容されているコンテナ12を前記書庫から取り出してステーション(例えば,図10の26,30,31)にスタッカークレーン75,搬送コンベア77,搬送コンベア80,搬送コンベア82により搬送するとともに,返却が要求された際に複数の前記コンテナの中から所望のコンテナを書庫から取り出してステーションに搬送」する構成のものを認定することができるというべきである。
そして,以上のような乙12発明の認定を前提とすれば,乙12発明は,図書館員の手元にコンテナが届かないものではないから,控訴人の前記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
c さらに,控訴人は,乙12発明は,ケースの存在が不可欠なものであり,この点において乙11の3発明とは本質的に構成が相違している旨主張する。
この点,乙12公報の段落【0002】及び【0003】の記載によれば,乙12公報の図書入出庫管理装置において,図書をケースに収容することとされるのは,図書は,その寸法や形状が様々であるため,このままでは書庫に対する入出庫動作を自動化することができなかったところ,1冊単位で規格化された大きさのケースに収容するこ54とにより,図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却する際に,ハンドリングやロケーションの管理が容易になり,個別にて搬送する際にも図書を保護することができるからであるとされている。
他方,上記bのとおりに認定される乙12発明は,書棚とステーションとの間において,スタッカークレーン,出庫用及び入庫用ラックステーション,搬送コンベア並びに垂直搬送機によって,コンテナ単位で図書の入出庫を行う構成のものであるところ,このような構成においては,図書を1冊単位毎に自動でコンテナから取り出しあるいは返却するものではなく,図書の個別搬送を行うものでもないから,乙12公報において図書をケースに収容することとされる理由がそのまま当てはまるものではなく,乙12発明について,ケースの存在が不可欠であるとはいえないというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
d 以上のとおり,乙12発明と乙11の3発明とが基本的構成等を異にする旨の控訴人の主張はいずれも理由がなく,したがって,これを根拠として,乙12発明に乙11の3発明を適用することによって相違点2に係る本件再訂正発明1の構成とすることを当業者が容易に想到し得るとはいえないとする控訴人の主張は,採用できない。
(イ) 「乙12発明に乙11の3発明を適用することによって相違点2に係る本件再訂正発明1の構成とすることができるとした判断の誤り」について
控訴人は,乙11の3発明において,図書の返却時にスキャンされるバーコードナンバーには図書の寸法情報が含まれておらず,他方,図書のサイズに関するコードは,図書の上端に付され,返却作業に先立ち,図書館員が図書を手作業でソートする際に参照されるにすぎないことから,乙11の3発明は,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出」すものではなく,乙12発明に乙11の3発明を適用しても,相違点2に係る本件再訂正発明1の構成とすることはできない旨主張する。
そこで,乙11の3文献の記載を前提として,乙11の3発明が,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出」す処理を行うものといえるか否かについて検討する。
a 乙11の3文献の記載によれば,乙11の3発明において保管される図書等のアイテムには,取出し・返却によっても保管先の容器が変わらない不変ロケーションアイテムと,取出し・返却の都度,ランダムに保管先の容器が割り当てられるランダム保管アイテムが存在するところ,ランダム保管アイテムについての返却手順(「パート2 製品」の章の「2.03 ソフトウェアの仕様」の項の「D.マテリアル返却手順」・訳文28頁以下)においては,AS/RSへの返却は,アイテムの光学的スキャニングで開始され,通常,アイテムを容器から取り除いた後に行われるものとされる。すなわち,返却するアイテムのバーコードをスキャニングすると,その時点でEAWS(通路端ワークステーション)に存在し,アイテムがちょうど取り出された容器セクターに,当該返却アイテムのロケーションが自動的に割り当てられることなる。
そして,このような返却手順においては,アイテムの取出しのためにEAWSに配送され,ちょうどアイテムが取り出された容器に返却アイテムが返却されているのであるから,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出」す処理が行われるものでないことは明らかといえる。
b 他方,乙11の3発明における返却手順には,オペレータのオプションとして,上記とは異なる返却手順も存在する。そして,この手順では,アイテムの取出しのためにEAWSに配送された容器の存在は前提とされず,第2.02.D章に記載された優先順位規則(容器を,全てのセクターがフルである「フル」,少なくとも1つのフルでないセクターを有する「部分的にフル」,全てのセクターが空である「空」に分け,これらに一定の優先順位を付けたもの)を用いて,収容スペースが利用可能な(フルでない)容器を取り出すものとされている(訳文29頁)。
しかるところ,乙11の3発明においては,上記容器として,24インチ幅×48インチ長の底面のサイズを共通にするが,高さが異なる(6.0ないし18.0インチ)5種類のサイズのものが用いられ(訳文11頁),アイテムをサイズ別に分類し,そのサイズに対応したサイズの容器に収容して保管するものとされている。そうすると,上記オプションに係る返却手順において,返却アイテムを収容するのに適切な容器を取り出すに当たっては,収容スペースが利用可能な容器を取り出すことのみならず,当該返却アイテムのサイズに対応したサイズの容器を取り出すことが必要であることは明らかである。そして,そのためには,オペレータが上記オプションに係る返却手順を行うに当たり,当該返却アイテムのサイズ情報が入力されるようにし,その情報に基づいて適切なサイズの容器を取り出すようにすることが自然な方法というべきところ,乙11の3発明においては,ランダム保管アイテムに,例えばA,B,Cといったサイズコードが付され,返却前の手動での事前仕分けに用いられていること(訳文16,17頁)からすれば,このサイズコードに応じた情報の入力により,当該サイズに対応したサイズの容器を取り出す処理が行われているものと理解するのが合理的というべきである。
c この点,確かに,控訴人主張のとおり,乙11の3文献においては,上記サイズコードの使用について,アイテムの上端に付されたサイズコードが返却前の手動での事前仕分けに用いられることが記載されるのみであり,容器の取出しのために用いられることについて,具体的に説明する記載はない。しかし,上記bで述べたとおり,乙11の3発明が,複数のサイズの容器を用い,アイテムをそのサイズに対応したサイズの容器に収容して保管するものであり,上記オプションに係る返却手順における適切な容器の取出しにはアイテムのサイズ情報の使用が必要と認められる以上,乙11の3発明においては,サイズコードを入力する具体的態様は明らかではないものの,その入力によって容器の取出しの制御が行われていること自体は否定し難いし,このことは当業者にとっても十分に理解可能というべきである。
なお,乙35公報及び乙36公報によれば,図書管理システムにおいて,アイテムのサイズ情報を特定する方法としては,システム内に図書コード単位で図書管理データを持たせ,これを参照して当該図書に関するデータを特定する方法(乙35)やサイズ情報に対応する情報を直接入力する方法(乙36)が,本件特許の出願前から知られていたから,当業者であれば,乙11の3発明においても,これらの方法を適宜選択して,アイテムのサイズ情報を特定・入力していることも当然に理解し得るものといえる。
d 以上によれば,乙11の3発明は,返却アイテムのサイズコードに応じた情報を入力することにより,当該サイズに対応したサイズの容器を取り出す処理を行うものであり,また,その際,所定の優先順位規則を用いて,収容スペースが利用可能な容器を取り出す処理を行うものであるから,「返却が要求された図書の寸法情報を入力することにより,該返却図書の寸法に対応する…空きのあるコンテナを取り出」す処理を行うものといえる。
したがって,控訴人の前記主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
ウ 「相違点3についての容易想到性判断の誤り」について
控訴人は,乙12発明に乙16発明を適用することには動機付けがなく,かえって,収容効率と出納効率がトレードオフの関係にある自動化書庫に係る乙12発明において,収容効率を向上させるために,明らかに出納効率を低下させる乙16発明の構成を適用することには阻害要因があるから,相違点3に係る本件再訂正発明1の構成について,乙12発明に乙16発明と周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得るものとはいえない旨主張する。
これに対し,被控訴人は,控訴人の上記主張は,確定した本件取消判決の拘束力を無視した主張であり,争点の実質的な蒸し返しに当たるものであるから,訴訟上の信義則に反し許されない旨主張するので,以下検討する。
(ア) 本件第1次審決(甲23)は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(本件訂正発明1)について,乙12発明と乙11の3発明,乙16発明及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえないとして,特許法29条2項違反の無効理由の存在を否定した。
その際,本件第1次審決は,本件訂正発明1と乙12発明の相違点として,本判決が認定した本件再訂正発明1と乙12発明の相違点1ないし3とほぼ同様のもの(前記3の頭書きで引用した原判決「事実及び理由」の第4の6(5)アないしウ。相違点3に係る本件再訂正発明1又は本件訂正発明1の構成において,書庫の複数の棚領域に,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に収容されるコンテナの数について,本判決では「2個」と特定されているのに対し,本件第1次審決では「複数」とされている点のみが異なる。)を認定した上で,相違点1及び3に係る本件訂正発明1の構成について,いずれも当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない旨判断した。
(イ) これに対し,本件取消判決(乙55)は,上記相違点1及び3に係る本件訂正発明1の構成は,いずれも当業者が容易に想到し得たものであると判断し,この点についての判断の誤りを理由として,本件第1次審決を取り消したものであるが,上記相違点3に係る容易想到性については,次のとおり判示している。
「物品等を載置するパレットなどの容器を取り出す間口に対して,奥行き方向に複数の容器が収容されている場合の容器の取り出し方として,容器を取り出す間口に対して,間口を塞いでいる手前側の容器を取り出してから奥側の容器を取り出すことは,甲第5号証(判決注:本件の乙16)に記載され,審決でも認定しているように,倉庫の分野では慣用的に行われている従来周知の技術的事項である。そして,甲4(判決注:本件の乙12)発明と甲5発明とは,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する発明である点で共通するから,この周知の技術的事項を甲4発明に適用することは,当業者が容易になし得たことである。」,「被告(判決注:本件の控訴人)は,甲4発明は,「貸し出し及び返却時の作業を容易化する」こと,すなわち,出納効率の向上という技術的課題を克服するためになされた発明であるから,出納効率を低下させる甲5発明を適用することは阻害要因があると主張する。しかし,甲4発明と甲5発明は,上記のとおり,コンテナ等を用いて収容物を棚空間に収容する発明である点で共通しており,その主たる相違は,収容物が図書であるか一般的な荷物であるかの点にあるといえるところ,出納効率を向上させることとともに,収容効率を向上させることは,書棚や倉庫の分野において周知の課題である…。したがって,甲4発明において,収容効率を向上させるために,甲5発明を適用することは,当業者が容易に想到し得た事項であるといえる。よって,被告の主張は採用することができない。」(44頁)
(ウ) しかるところ,本件取消判決における上記相違点3に係る容易想到性の判断は,本件第1次審決を取り消すものとした判決主文が導き出されるのに必要な事実認定又は法律判断にわたるものであるから,取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により,その後審判を行う審判官は,上記判断に抵触する判断をすることは許されないものといえる。
なお,本件取消判決は,本件訂正発明1を前提としたものであり,本件再訂正発明1においては,本件訂正発明1に更に訂正が加えられている。しかし,本件再訂正によって本件訂正発明1から変更された構成は,①書庫の複数の棚領域に,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して奥行き方向に収容されるコンテナの数について,「複数」とされていたのを「2個」と特定する点,及び②「前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する」との構成を付加した点のみであり,本件取消判決における上記相違点3に係る容易想到性の判断は,これらの訂正によって影響を受けるものではないというべきであるから,当該判断の拘束力は,本件再訂正発明1についての判断にも及ぶものと考えられる。
(エ) これに対し,控訴人は,本件取消判決の前提とした事項に変更があるなどの特段の事情がある場合には,当該判決の拘束力は生じないとした上で,本件取消判決は,相違点2につき乙12発明の認定を本質的に誤っており,そのため,相違点3に係る容易想到性判断の前提に誤りがあったものであるから,本件取消判決の相違点3に係る判断については,上記特段の事情があり,拘束力は生じない旨主張する。
しかしながら,控訴人の上記主張は,結局のところ,確定した本件取消判決の判断内容に誤りがあることを根拠として,当該判決に拘束力が生じない旨を主張するものであり,取消判決に拘束力が認められる趣旨に照らし,失当というべきである。
また,控訴人が上記主張の前提とする本件取消判決における相違点2についての乙12発明の認定の本質的な誤りとは,乙12発明においてケースとコンテナ(格納ロケーション)の対応関係が固定されたものであることを看過していることを指すものと考えられるところ,このような事実が認められないことは,前記アにおいて述べたとおりである。
したがって,控訴人の上記主張に理由がないことは明らかである。
(オ) 以上によれば,相違点3に関し,乙12発明に乙16発明を適用することはできない旨の控訴人の上記主張は,既に確定している本件取消判決の拘束力により,本件再訂正発明1に係る無効審判において,乙12発明を主引例とする進歩性欠如の無効理由の存在を否定する理由とはなり得ないものであるから,本件における同様の無効理由に基づく無効の抗弁を排斥する理由としても,これを採用することはできないというべきである(特許法104条の3第1項は,特許権の侵害訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきときは,特許権者は,相手方に対し,その権利を行使することはできない旨を定めているところ,その趣旨は,正しい特許無効審判の審決によれば当該特許が無効にされるものと認められるときには,無効の抗弁が成立するというところにあると解される。そして,本件第1次審決を取り消した本件取消判決の判断は,その後の特許無効審判において拘束力を有するのであるから,正しい審決は,当然にこの拘束力に従って行われるべきものである。したがって,特許無効審判において拘束力を有する取消判決の判断内容は,侵害訴訟の無効の抗弁においても考慮されるべきものと解される。)。
したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
エ 「相違点4についての容易想到性判断の誤り」について
控訴人は,乙20公報,乙39公報,乙40公報及び乙45公報は,自動化書庫に係る技術ではなく,自動化書庫に関して,相違点4に係る本件再訂正発明1の構成(前記奥行き方向に2個収容されたコンテナのうち,手前側のコンテナを前記空きのあるコンテナとして優先的に使用する構成)を当業者が容易に想到し得たことを裏付け得る文献はないなどとして,相違点4に係る本件再訂正発明1の構成の容易想到性を争うので,以下検討する。
(ア) まず,乙12文献をみると,従来の図書の入出庫管理システムでは,図書とケースとが固定した対応関係にあったため,図書の返却時に当該図書に対応したケースを探し出さねばならず,作業の効率が悪くなるという問題等があったことに鑑み,図書とケースとの対応関係を固定的なものとせず,ケースに付された識別情報と図書に付された識別情報との組み合わせで新たな図書情報を生成して入出庫管理を行なうようにすることにより,入庫すべき図書を任意のケースに収容して書庫に入庫することができ,貸し出し及び返却時の作業を容易化することができるものとした発明であることが記載されており(段落【0006】ないし【0011】),これからすると,乙12文献において解決しようとする直接の課題は,図書館員のカウンターステーションにおける図書の返却作業の容易化に係るものであるといえる。
しかし,書棚や倉庫の分野において,出納効率と収容効率の双方を向上させることが周知の課題であることは,確定した本件取消判決が判示するとおりであり(前記ウ(イ)),また,乙12文献にも,図書の貸出し及び返却時における書棚からのコンテナの取出し及び返却を,統括制御盤の制御に基づき,スタッカークレーン等を用いて自動的に行うシステムが記載されていること(段落【0013】,【0017】,【0028】,【0034】,【0035】,【0037】,【0039】,【0040】,【0042】,【0043】)からすれば,乙12文献においても,図書が返却されたコンテナの書棚への返却効率の向上に係る課題は内在するものといえる。
(イ) そして,乙12発明に乙16発明及び周知技術2を適用することにより,相違点3に係る本件再訂正発明1の構成(書庫の複数の棚領域には,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に2個のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられている構成)とすることが当業者において容易に想到し得たことは,確定した本件取消判決が判示するとおりであるところ(前記ウ(イ)),このような構成を前提とすれば,書庫の棚領域に,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に1個のコンテナのみを収容する構成に比べ,奥側のコンテナを使用しこれを取り出す際に,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出すという手順が付加されることになって,出納効率が低下することは自明であるから,当業者であれば,上記構成を採用するに当たり,出納効率と収容効率の双方を向上させるという書棚や倉庫の分野における周知の課題及び乙12文献に内在する上記課題を踏まえ,上記構成から生じる出納効率の低下をできるだけ軽減させようとすることは,当然の発意ということができる。
(ウ) さらに,上記のような発意に基づき,相違点3に係る本件再訂正発明1の構成の下で,そこから生じる出納効率の低下をできるだけ軽減させようとするのであれば,手前側のコンテナと奥側のコンテナの双方に空きがある場合に,取出しの手順がより簡易な手前側のコンテナを優先的に取り出すようにすること,すなわち相違点4に係る本件再訂正発明1の構成とすることは,当業者が通常行い得ることであって,必ずしも自動化書庫の分野においてこのような構成を示す技術文献等の記載によらなくとも認定し得る技術常識であるということができる。
(エ) したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
オ 「本件再訂正発明1の効果に顕著性を認めなかった判断の誤り」について
控訴人は,本件再訂正発明1は,図書保管管理装置において,サイズ別配架及び手前側・奥側コンテナ配置によって収容効率を向上させつつ,フリーロケーション方式を採用し,かつ,手前側コンテナを優先的に使用することにより出納効率をも向上させたものであり,トレードオフの関係にある「収容効率」と「出納効率」という2つの課題を両立して解決したところに効果顕著性があることは明らかである旨主張する。
しかしながら,まず,控訴人が上記で主張する本件再訂正発明1の構成のうち,図書保管管理装置において,サイズ別配架及びフリーロケーション方式を採用することは,本件再訂正明細書の従来技術として示されている(本件再訂正明細書(甲33)の段落【0009】ないし【0012】)ほか,乙11の3文献にも記載されているところであり,本件特許の出願前の公知技術であったものと認められる。
したがって,控訴人が上記で主張する本件再訂正発明1の構成のうち,発明としての特徴的部分といえる構成は,①手前側・奥側に2個のコンテナを配置する構成及び②手前側コンテナを優先的に使用する構成というべきところ,このうち,①の構成は,これによって,1個のコンテナを配置する従来の構成に比して図書の収容スペースが増え,収容効率を向上させるものであることは明らかである。しかし,①の構成を採用した場合,奥側のコンテナを使用することにより,これを取り出す際には,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出すという手順が付加されることになるから,その分出納効率が低下することは避けられないことといえる。そして,このような出納効率の低下は,②の構成を採用することによっても解消されるものではなく,②の構成は,奥側のコンテナが使用される頻度をできるだけ少なくすることにより,上記出納効率の低下の程度を軽減させるというものにすぎない。
以上によれば,本件再訂正発明1は,図書保管管理装置において,上記の構成を採用することにより,トレードオフの関係にある「収容効率」と「出納効率」という2つの課題を両立して抜本的に解決するというものではなく,①の構成によって収容効率の向上を図る一方で,その結果生じる出納効率の低下という弊害について,②の構成を採用することによって軽減を図るものにすぎないというべきであり,このような本件再訂正発明1の効果は,当業者の予測の範囲を超えるものではなく,顕著なものということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
カ 以上のとおり,当審における控訴人の主張にはいずれも理由がなく,本件再訂正発明1は,乙12発明と,乙11の3発明,乙16発明並びに周知技術1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,進歩性を欠くものである。
4 結論
以上によれば,イ号物件及びロ号物件は,いずれも構成要件2Bの「充填率の低いコンテナから取り出す」との構成及び構成要件3Bの「充填率の低い…コンテナを優先して取り出す」との構成を充足しないから,本件発明2及び3の技術的範囲に属しない。
また,本件再訂正発明1には,乙12発明を主引例とする進歩性の欠如が認められ,そうすると,本件再訂正による特許請求の範囲の減縮をする前の発明である本件訂正発明1,更には本件訂正による特許請求の減縮をする前の発明である本件発明1にも同様に進歩性の欠如が認められ,かつ,本件発明1の当該無効理由は本件再訂正によっても解消されないものであるから,控訴人は,特許法104条の3に基づき,被控訴人に対し本件発明1に係る本件特許権を行使することができない。
したがって,本件発明1ないし3に係る本件特許権に基づく控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 大西勝滋 裁判官 杉浦正樹)
file_2.jpg別紙