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知財高等裁判所 平成27年(ネ)10047号 判決 2015年9月30日

控訴人

株式会社コアアプリ

補佐人弁理士

古志達也

被控訴人

KDDI株式会社

訴訟代理人弁護士

辻居幸一

渡辺光

高石秀樹

補佐人弁理士

鈴木信彦

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2 被控訴人は,「REGZA Phone IS04」という名称のスマートフォンを生産,譲渡,輸入,輸出し,又は譲渡の申出をしてはならない。

3  被控訴人は,その占有に係る前項記載の製品並びに同製品に搭載されたソフトウェアのソースコード及びバイナリイメージを廃棄せよ。

4  被控訴人は,第2項記載の製品に搭載されたソフトウェアのソースコード及びバイナリイメージの製造設備を除却せよ。

5  被控訴人は,控訴人に対し,252万円及びこれに対する平成23年10月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本判決の略称は,特段の断りがない限り,原判決に従う。

1 本件は,発明の名称を「入力支援コンピュータプログラム,入力支援コンピュータシステム」とする発明について特許権(本件特許権)を有する控訴人が,被控訴人の販売する「REGZA Phone IS04」という名称のスマートフォン(被告製品)にインストールされている「ホーム」と呼ばれるソフトウェア(本件ホームアプリ)は本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び3記載の各発明(本件発明1及び3)の技術的範囲に属し,本件ホームアプリがインストールされた被告製品は本件特許の特許請求の範囲の請求項4及び5記載の各発明(本件発明4及び5。なお,請求項4は請求項1及び3を引用しており,請求項5は請求項4を引用している。)の技術的範囲に属するとして,被控訴人に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の生産,譲渡,輸入,輸出及び譲渡の申出の差止めを,同条2項に基づき,被告製品及び本件ホームアプリのソースコードとバイナリイメージの廃棄並びに本件ホームアプリのソースコードとバイナリイメージの製造設備の除却を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の一部として,252万円及びこれに対する平成23年10月12日(同月7日付け通知書(甲4の1)が被控訴人に到達した日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

原判決は,本件ホームアプリは,本件発明1及び3の技術的範囲に属さず,本件ホームアプリをインストールした被告製品は,本件発明4及び5の技術的範囲に属しないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が,これを不服として本件控訴を提起した。

2  前提となる事実は,次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決5頁3行目の「本件発明」を「本件発明1」と改める。

(2)  原判決6頁7行目冒頭から16行目末尾までを次のとおり改める。

「ホーム画面の右端に表示される縦長の長方形の画像(以下「右スクロールメニュー表示」という。)と,当該「右スクロールメニュー表示」にタッチパネル上の指の座標位置が指定された場合に実行される,ページを右にスクロールする命令とを関連付けた操作情報及びホーム画面の左端に表示される縦長の長方形の画像(以下「左スクロールメニュー表示」といい,これと「右スクロールメニュー表示」とを併せて,「左右スクロールメニュー表示」という。)と,当該「左スクロールメニュー表示」にタッチパネル上の指の座標位置が指定された場合に実行される,ページを左にスクロールする命令とを関連付けた操作情報を記憶し,

上記各操作情報は,前記記憶手段に記憶されているページ番号の情報に関連付けて(すなわち,右スクロールが不可能な右端ページが表示されている時には「右スクロールメニュー表示」は表示されず,右スクロールが可能な右端でないページが表示されている時には「右スクロールメニュー表示」が表示され,また,左スクロールが不可能な左端ページが表示されている時には「左スクロールメニュー表示」は表示されず,左スクロールが可能な左端でないページが表示されている時には「左スクロールメニュー表示」が表示されるように)前記記憶手段に記憶されており,」

(3)  原判決6頁22行目冒頭から7頁10行目末尾までを次のとおり改める。「[e](2)タッチパネルを介して,タッチパネル上のショートカットアイコンを指で長押し(ロングタッチ)すると,当該長押しした際の前記記憶手段に記憶されているページ番号を特定し,当該ページ番号に関連付いている「右スクロールメニュー表示」の要否及び「左スクロールメニュー表示」の要否を特定し,当該ページが右端ページでなかった場合,「右スクロールメニュー表示」を,当該ページが左端ページでなかった場合,「左スクロールメニュー表示」を,それぞれ前記記憶手段から読み出して液晶パネルに表示すること,

[f](3)タッチパネルを介して,当該液晶パネルに表示した「右スクロールメニュー表示」上にタッチパネル上の指の座標位置が指定されると,「右スクロールメニュー表示」に関連付いている,ページを右にスクロールする命令を,当該液晶パネルに表示した「左スクロールメニュー表示」上にタッチパネル上の指の座標位置が指定されると,「左スクロールメニュー表示」に関連付いている,ページを左にスクロールする命令を,それぞれ前記記憶手段から読み出して実行し,指の座標位置が「左右スクロールメニュー表示」上になくなるまで当該実行を継続すること,

当該命令の実行により変化したページ番号を特定し,当該ページ番号に関連付いている「右スクロールメニュー表示」の要否及び「左スクロールメニュー表示」の要否を特定し,当該ページが右端ページでなかった場合,「右スクロールメニュー表示」を,当該ページが左端ページでなかった場合,「左スクロールメニュー表示」を,それぞれ前記記憶手段から読み出して液晶パネルに表示すること,」

(4)  原判決7頁12行目から13行目にかけての「右スクロールメニュー表示」を「左右スクロールメニュー表示」と改める。

3  争点は,次のとおりである。

(1)  本件ホームアプリは本件発明1及び3の技術的範囲に属するか(争点(1))。

ア 本件ホームアプリは「利用者が前記入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラム」(構成要件A2,C2)か(争点(1)ア)。

イ 本件ホームアプリは「ポインタ」(構成要件B,E,F)を用いるものであるか(争点(1)イ)。

ウ 本件ホームアプリは「操作メニュー情報」(構成要件B,F)を記憶する記憶手段を備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムか(争点(1)ウ)。

エ 本件ホームアプリは「命令ボタン」(構成要件D)を有する入力手段を備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムか(争点(1)エ)。

オ 本件ホームアプリにおいて「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」(構成要件E)処理が実行されるか(争点(1)オ)。

カ 本件ホームアプリが「ポインタ」(構成要件B,E,F)を用いるものではないとしても,均等が成立するか(争点(1)カ)。

(2)  被告製品は本件発明4及び5の技術的範囲に属するか(争点(2))。

(3)  無効の抗弁(乙13に基づく新規性,進歩性の欠如)の成否(争点(3))

(4)  差止め等の必要性(争点(4))

(5)  損害額(争点(5))

第3争点に関する当事者の主張

1  争点(1)(本件ホームアプリは本件発明1及び3の技術的範囲に属するか。)について

(控訴人の主張)

本件ホームアプリの構成が,前記2の「前提となる事実」の「本件ホームアプリの構成」のa1ないしg及びc2(原判決の「事実及び理由」の第2の2(8)を前記2(2)ないし(4)のとおり訂正したもの。以下,それぞれの構成を,「構成a1」などという。)のとおりであることを前提とすれば,以下のとおり,本件ホームアプリは本件発明1及び3の技術的範囲に属する。

(1) 構成要件A1

被告製品は,情報を記憶するRAM等の記憶手段と,情報を処理するCPU等の処理手段と,利用者に情報を表示する液晶パネルという出力手段と,利用者からの命令を受け付けるタッチパネルという入力手段を備えた携帯電話機におけるコンピュータシステムであり,本件ホームアプリは,このコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムである。

したがって,本件ホームアプリは,構成要件A1を充足する。

(2) 構成要件A2(争点(1)ア関係)

ア 構成要件A2の充足性

本件ホームアプリは,ショートカットアイコンの並べ替えを行う際に実行される,ホーム画面をカスタマイズするコンピュータプログラムであり,ショートカットアイコンを移動させる機能を有するところ,ショートカットアイコンの移動に当たっては,必ず座標の入力がされている。そして,座標とは,「点の位置を明確にするために与えられる数の組」であり,「データ」の一種であるから,本件ホームアプリは,「座標の入力」という「データ入力」を行う際に実行されるコンピュータプログラムである。

そして,本件ホームアプリにおける上記「座標の入力」は,利用者がタッチパネルという入力手段を使用して行うものであるから,本件ホームアプリは,利用者が入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行されるコンピュータプログラムである。

また,本件ホームアプリは,左右スクロールメニュー表示によって,上記「座標の入力」を視覚的に支援している。

したがって,本件ホームアプリは,「利用者が入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラム」であり,構成要件A2を充足する。

イ 被控訴人の主張に対する反論

(ア) 被控訴人は,本件発明の「入力支援コンピュータプログラム」により利用者がコンピュータに入力する対象は,利用者にとって意味のある文章等の「編集対象データ」である旨主張する。

しかし,構成要件A2に係る特許請求の範囲の記載は,「利用者が前記入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラム」であり,「データ入力」における入力の対象である「データ」について何ら限定は付されていない。また,本件特許に係る明細書(以下,図面を併せて「本件明細書」という。甲2)の発明の詳細な説明においても,上記「データ」の定義はされていないから,その意義については,当業者にとっての一般的な意味に従い,「何かを文字や符号,数値などのまとまりとして表現したもの」(IT用語辞典e-Word・甲14)と解釈されるべきであり,被控訴人が主張する「編集対象データ」に限定されるべきではない。

(イ) また,仮に,構成要件A2の「データ」が被控訴人の主張する「利用者にとって意味のある文章等の編集対象データ」に限定されるとしても,本件ホームアプリにおいては,そのような「データ」の入力が行われている。

すなわち,本件ホームアプリは,「ショートカットアイコンを並べ替える/削除する」機能を有するところ,これは,座標データの入力を伴う,ショートカットアイコンの配置の編集にほかならない。そして,ショートカットアイコンの配置は,本件ホームアプリの使い勝手に影響するから,利用者にとって意味のある「データ」である。

したがって,本件ホームアプリにおいては,被控訴人の主張する「利用者にとって意味のある文章等の編集対象データ」の入力が行われている。

(3) 構成要件B

ア 本件ホームアプリは「ポインタ」を用いるものであること(争点(1)イ関係)

(ア) 本件発明1における「ポインタ」及び「ポインタの座標位置」の意義

a 本件明細書中に「ポインタ」の用語そのものの定義がないことからすれば,本件発明1における「ポインタ」の意義については,当業者が理解する一般的な技術用語としての「ポインタ」の意味に従って解釈されるべきである。

しかるところ,JIS準拠コンピュータ・データ通信用語解説集<新版>(甲33)によれば,コンピュータグラフィックスにおける「ポインタ」とは,「位置決め可能な点を指定するために用いられる,手で操作される機能単位」(356頁)とされ,さらに,「機能単位」とは,「機能を満足するひと固まりの装置(ハードウェア)およびプログラムのこと」(72頁)とされている。

したがって,当業者が理解する一般的な技術用語としての意味に従って解釈すれば,本件発明1における「ポインタ」とは,「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」であり,具体的には,①ポインティングデバイス(入力装置),②プログラムを処理するため中央演算処理装置(CPU),③プログラムを記憶するため主記憶装置(メモリ),④ポインティングデバイスから受信したデータを元に座標位置を算出するプログラム,⑤コンピュータグラフィックスを処理するプログラムに伝えるために算出した「座標位置」を記憶する記憶装置の領域,によって構成されるものといえる。

b ポインティングデバイスから入力される画面上の位置情報(カーソルの場所が示すデータなど)は,そのままでは座標位置情報ではないから,中央演算処理装置は,記憶装置から座標位置を算出するプログラムを読み込み,座標位置(X座標とY座標の各数値)を算出し,その情報は,座標位置を記憶する記憶装置の領域に記憶される。

このようにして「記憶装置に記憶される座標位置(X座標とY座標の「数値の組(情報)」)」が,構成要件Bの「ポインタの座標位置」である。

(イ) 被告製品における「ポインタ」及び「ポインタの座標位置」

a 主位的主張

被告製品は,ポインティングデバイスである「タッチパネル」を有するとともに,中央演算処理装置及び主記憶装置も有している。

また,被告製品には,基本ソフトとして「Android OS」がインストールされているところ,「Android OS」の一部を構成する「MotionEvent」というソフトウェアは,タッチパネルに指が触れることで入力される電気信号を元に,タッチパネルに触れている指の座標位置(X座標とY座標の各数値)を算出し,その情報を本件ホームアプリに提供しており,その情報は,被告製品の記憶装置に記憶されている。

したがって,被告製品は,前記(ア)aの①ないし⑤の装置及びプログラムをいずれも有しており,これらは,「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」であるから,被告製品は,本件発明1における「ポインタ」を有しており,本件ホームアプリは,この「ポインタ」を用いている。

そして,上記のとおり,タッチパネルに指が触れることで入力される電気信号を元に算出され,記憶装置に記憶されている「タッチパネル上の指の座標位置」が,構成要件Bの「ポインタの座標位置」に相当する。

b 予備的主張

仮に,被控訴人が主張するとおり,本件発明1の「ポインタ」が,出力手段である画面上に表示され,何かの位置を指し示すものであり,その位置を「入力手段を介して…移動させる」ものであるとしても,本件ホームアプリを実行した際に指に追従して移動するショートカットアイコン(ロングタッチをしたショートカットアイコン)は,上記の各要件を満たすものであるから,本件発明1の「ポインタ」に相当するものといえる。

したがって,被控訴人の上記主張を前提にしても,本件ホームアプリは,本件発明1の「ポインタ」を用いている。

そして,この場合,「指に追従して移動するショートカットアイコンの座標位置」が,構成要件Bの「ポインタの座標位置」に相当する。

イ 構成要件Bの充足性(争点(1)ウ関係)

前記ア(イ)aのとおり,本件ホームアプリを実行した際における「タッチパネル上の指の座標位置」は,構成要件Bの「ポインタの座標位置」に相当する。

しかるところ,被告製品の記憶手段は,ホーム画面の左端及び右端に表示される縦長の長方形の画像である「左右スクロールメニュー表示」と,これらの表示にタッチパネル上の指の座標位置が指定された場合に実行される,ページを左又は右にスクロールする命令とを関連付けた「操作情報」を記憶している。そして,上記「左右スクロールメニュー表示」は,タッチパネル上の指の座標位置によって実行される,ページを左又は右にスクロールする命令結果を利用者が理解できるようにホーム画面上に表示するための画像データといえるから,構成要件Bの「操作メニュー情報」に相当する。

また,上記操作情報は,前記記憶手段に記憶されている「ページ番号の情報」に関連付けて前記記憶手段に記憶されているところ,「ページ番号の情報」は,構成要件Bの「データの状態を表す情報であるデータ状態情報」に相当する。

したがって,本件ホームアプリは,構成要件Bを充足する記憶手段を備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムである。

なお,前記ア(イ)bのとおり,本件ホームアプリを実行した際に指に追従して移動するショートカットアイコンが本件発明1の「ポインタ」に相当するとした場合には,当該ショートカットアイコンの座標位置が構成要件Bの「ポインタの座標位置」に相当することになるが,この場合においても,構成要件Bの充足性については,上記で述べたことが同様に当てはまる。

ウ 被控訴人の主張に対する反論

(ア) 本件ホームアプリは「ポインタ」を用いるものではないとの主張に対して

a 被控訴人は,本件発明1の特許請求の範囲における,①「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示する」(構成要件B),②「入力手段を介してポインタ位置を移動させる」(構成要件E),③「操作メニュー情報がポインタにより指定される」(構成要件F)の各文言を根拠に,本件発明1の「ポインタ」は,出力手段である画面上に表示されるものである旨主張する。

しかしながら,上記①の文言は,これに続く構成要件Bの文言からみて,「操作メニュー情報」が出力手段に表示されることを述べたものであり,「ポインタ」が出力手段に表示されることを述べたものではない。

また,上記②の文言も,これに続く構成要件Eの文言からみて,受信する命令の内容を述べているのみで,ポインタが画面に表示されることを述べたものではない。

さらに,上記③の文言についても,本件明細書に「画面上に表示された画像データである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,前記ポインタの座標位置が合わさった(入った)こと,をいう」(段落【0013】)とされているとおり,操作メニュー情報が占める座標位置とポインタの座標位置との比較処理を説明しているにすぎず,「操作メニュー情報」が画面上に表示されるからといって,「ポインタ」が画面上に表示される根拠にはならない。

したがって,本件発明1の特許請求の範囲の記載を根拠とする被控訴人の上記主張は理由がない。

b 被控訴人は,最新パソコン用語辞典(乙2)が,「ポインタ」を「ウィンドウ画面で,マウスの操作位置を示すもの」と定義していることを根拠に,本件発明1の「ポインタ」は,出力手段である画面上に表示されるものである旨主張する。

しかし,乙2の上記記載は,入力手段がマウスであることを前提とした一般的なパソコン環境に限定して説明したものであり,タッチパネルを採用する被告製品のように,「マウスを採用したパソコン」以外のものには当てはまるものではないから,被控訴人の上記主張には理由がない。

c 被控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明における「「ポインタの座標位置」とは,前記出力手段における画面上での現在位置を示す絵記号である「カーソル(マウスカーソル)」が指し示している画面上での座標位置である。」(段落【0012】)との記載を根拠に,本件発明1の「ポインタ」は,出力手段である画面上に表示されるものである旨主張する。

しかし,本件明細書中の上記記載は,「出力手段における画面上での現在位置を示す絵記号」が「カーソル」であり,「ポインタの座標位置」が「カーソルが指し示す画面上での座標位置」であることを説明しているだけであり,「ポインタ」自体が,出力手段において画面上に表示されることを述べるものではないから,被控訴人の上記主張の根拠とはならない。

d そのほかにも,被控訴人は,本件明細書の発明の詳細な説明における「「コンテキストメニュー」は,マウスを右クリックすることにより,マウスが指し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンドのメニューが表示されるもの」(段落【0003】)との記載や「「ドラッグ&ドロップ」とは,画面上でマウスポインタがウィンドウの枠やファイルのアイコンなどに重なった状態でマウスの左ボタンを押し,そのままの状態でマウスを移動させ,別の場所でマウスの左ボタンを離すマウス操作である」(段落【0004】)との記載を根拠に,本件発明1の「ポインタ」は,出力手段である画面上に表示されるものである旨主張する。

しかし,段落【0003】の上記記載は,「操作コマンドのメニューが表示」されていると述べているのであって,「マウスが指し示している画面上のポインタ位置」が表示されていることを述べているものではない。

また,段落【0004】の上記記載は,「マウスポインタ」と明記されているとおり,入力手段がマウスであることを前提とした一般的なパソコン環境に限定して説明したものにすぎない。

したがって,これらの本件明細書中の記載は,被控訴人の上記主張の根拠とはならない。

(イ) 本件ホームアプリは「操作メニュー情報」を記憶する記憶手段を備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムではないとの主張に対して

本件ホームアプリを実行した際にホーム画面の左右の隙間に表示される左右スクロールメニュー表示は,隣のホーム画面の一部を表示するものであるから,実行される命令(スクロール)の内容や対象(隣のホーム画面)を小さな絵で表現した画像データといえる。すなわち,被告製品における左右スクロールメニュー表示は,「隣のホーム画面にスクロールするという命令を利用者が理解できる」ように,「スクロール命令の実行後に表示される画面・対象を小さな絵で表現した画像データ」を,「ホーム画面の左右に表示している」ものであるから,「実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示する画像データ」にほかならない。

したがって,本件ホームアプリは「操作メニュー情報」を記憶する記憶手段を備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムである。

(4) 構成要件C1,D,E,F,G及びC2

本件ホームアプリにおいては,RAM等の記憶手段が,CPU等の処理手段に,構成dの間,構成eないしgの処理を実行させているところ,これを前提に構成要件C1,D,E,F,G及びC2の充足性を検討すると,次のとおりである。

ア 構成要件Dについて(争点(1)エ関係)

本件ホームアプリにおいては,タッチパネル上のショートカットアイコンに指でタッチし,そのまま指を動かさず,かつ離さずにいる(ロングタッチする)と,画面上に左右スクロールメニュー表示が現れ,当該ショートカットアイコンを移動させることができる状態に遷移する。このように,ショートカットアイコンを移動させることができる状態にするためには,まず,タッチパネル上のショートカットアイコンに指でタッチすることが必要である。したがって,タッチパネル上のショートカットアイコンに指でタッチすることは,構成要件Dの「前記入力手段を介して,前記入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を受信した」に相当する。

すなわち,被告製品において,構成要件Dの「命令ボタン」として押されるのは,「タッチパネル(入力手段)」であり,この「タッチパネル」を押した時に発せられる電気信号が,構成要件Dの「命令ボタンが利用者によって押されたことによる動作開始命令」に相当する。

また,上記ショートカットアイコンから指を離すことによって,画面上の左右スクロールメニュー表示が消え,ショートカットアイコンの移動が終了する。したがって,タッチパネル上のショートカットアイコンから指を離すことは,構成要件Dの「利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信する」に相当する。

以上によれば,本件ホームアプリは,構成要件Dの「命令ボタン」を有する入力手段を備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムである。

イ 構成要件Eについて(争点(1)オ関係)

(ア) 「前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」について

本件ホームアプリにおいて,タッチパネルを介して,タッチパネル上のショートカットアイコンを長押し(ロングタッチ)することは,以下に述べるとおり,構成要件Eの「前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令」に該当する。

すなわち,まず,構成要件Eの「ポインタの位置」とは,前記(3)ア(ア)bで述べた「ポインタの座標位置」,すなわち,ポインティングデバイスから入力された画面上の位置情報に基づいて算出され,記憶手段に記憶された座標位置(X座標とY座標の「数値の組(情報)」)であり,被告製品においてこれに相当するのは,タッチパネルに指が触れることで入力される電気信号を元に算出され,記憶手段に記憶されている「タッチパネル上の指の座標位置」である。しかるところ,本件ホームアプリにおける「ロングタッチ操作」では,まず,利用者の指がタッチパネルに触れるが,そのとき,タッチパネルから発せられた電気信号を元に,「タッチパネル上の指の座標位置」が算出されて,記憶手段に記憶されることになる。その結果,記憶手段においては,「タッチパネル上の指の座標位置」が,今回利用者の指が触れる前の直近に指が触れていた座標位置から,今回指が触れた座標位置に書き換えられることになるが,これは,座標位置の移動にほかならない。したがって,本件ホームアプリにおける「ロングタッチ」操作によって発せられる電気信号は,「ポインタの座標位置」の移動命令を含んでいる。

さらに,本件ホームアプリにおける「ロングタッチ」操作によって,そのまま「タッチパネル上の指の座標位置」が一定時間,一定の範囲内に収まっていることを処理手段である中央演算処理装置が判断するためには,一定時間が経過したところで,もう一度,タッチパネルからの電気信号を受信して,座標位置を算出する必要がある。したがって, 本件ホームアプリにおける「ロングタッチ」操作では,タッチパネルに指が触れた直後と,そこから一定時間が経過した時の少なくとも2回,タッチパネルから発せられた電気信号を元に,「タッチパネル上の指の座標位置」が算出され,記憶手段に記憶されることになる。そして,これらは,いずれも,記憶手段に記憶された直前の座標位置を書き換えるものであるから,座標位置の移動にほかならない。

したがって,本件ホームアプリにおいて,タッチパネルを介して,タッチパネル上のショートカットアイコンを長押し(ロングタッチ)することは,構成要件Eの「前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令」に該当する。

(イ) その他の構成について

本件ホームアプリにおいては,タッチパネル上のショートカットアイコンがロングタッチされると,当該ロングタッチがされた際の記憶手段に記憶されているページ番号を特定し,当該ページ番号に関連付いている「右スクロールメニュー表示」の要否及び「左スクロールメニュー表示」の要否を特定し,当該ページが右端ページでなかった場合,「右スクロールメニュー表示」を,当該ページが左端ページでなかった場合,「左スクロールメニュー表示」を,それぞれ前記記憶手段から読み出して液晶パネルに表示することになる。

しかるところ,前記(3)イで述べたのと同様に,本件ホームアプリにおいて,記憶手段に記憶された「ページ番号の情報」は,構成要件Eの「データ状態を表すデータ状態情報」に,「左右スクロールメニュー表示」は,構成要件Eの「操作メニュー情報」に,記憶手段に記憶された「左右スクロールメニュー表示と,これらの表示にタッチパネル上の指の座標位置が指定された場合に実行される,ページを左又は右にスクロールする命令とを関連付けた操作情報」は,構成要件Eの「操作情報」に相当する。

そして,本件ホームアプリにおいては,上記のとおり,タッチパネル上のショートカットアイコンがロングタッチされると,その際のページ番号の情報を特定し,当該ページ番号の情報に関連付いて記憶手段に記憶されている操作情報を特定し,その特定した操作情報に応じて,右スクロールメニュー表示及び左スクロールメニュー表示を,それぞれ記憶手段から読み出して,出力手段である液晶パネルに表示している。

したがって,本件ホームアプリにおいては,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」(構成要件E)処理が実行されている。

(ウ) 以上によれば,本件ホームアプリにおいては,記憶手段が,処理手段に,構成要件Eの処理を実行させているものといえる。

(エ) 被控訴人の主張に対する反論

被控訴人は,控訴人の前記(ア)の主張を前提とすると,本件ホームアプリにおいて,画面上のショートカットアイコンを指でタッチするだけのことが,「ポインタの位置を移動させる命令」に相当することとなるが,本件ホームアプリにおいては,画面上のショートカットアイコンをタッチするだけではなく,ロングタッチすることで初めて「操作メニュー情報」に相当する左右スクロールメニュー表示が表示されるのであるから,「ポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…表示する」という関係が成り立たないことになる旨主張する。

しかし,被告製品において,「操作メニュー情報」に相当する左右スクロールメニュー表示を表示するためには,画面上のショートカットアイコンをタッチする必要がある。タッチしてから一定時間待つこと(すなわち,ロングタッチ操作)も,タッチの一種にすぎないから,被告製品においても,「ポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…表示する」という関係は成り立つ。

ウ 構成要件Fについて

本件ホームアプリにおいては,タッチパネルを介して,液晶パネルに表示した左右スクロールメニュー表示(構成要件Fの「操作メニュー情報」に相当)にタッチパネル上の指の座標位置(構成要件Fの「ポインタ」の座標位置に相当)が指定されると,当該左右スクロールメニュー表示に関連付いている,ページを右にスクロールする命令又は左にスクロールする命令を,記憶手段から読み出して実行し,上記左右スクロールメニュー表示がタッチパネル上の指の座標位置により指定されなくなるまで当該実行を継続することになる。

また,本件ホームアプリにおいては,上記命令の実行により変化したページ番号を特定し,当該ページ番号の情報(構成要件Fの「データ状態を表すデータ状態情報」に相当)に関連付いて記憶手段に記憶されている操作情報を特定し,その特定した操作情報に応じて,右スクロールメニュー表示及び左スクロールメニュー表示を,それぞれ記憶手段から読み出して,出力手段である液晶パネルに表示している。

したがって,本件ホームアプリにおいては,記憶手段が,処理手段に,構成要件Fの処理を実行させているものといえる。

エ 構成要件Gについて

本件ホームアプリにおいては,前記アのとおり,利用者がタッチパネル上のショートカットアイコンから指を離すことが,構成要件Gの「命令ボタンが利用者によって離されたことによる終了動作命令」に相当するところ,これによって,液晶パネルに表示している左右スクロールメニュー表示が終了することになる。

したがって,本件ホームアプリにおいては,記憶手段が,処理手段に,構成要件Gの処理を実行させているものといえる。

オ 構成要件C2について

本件ホームアプリが「入力支援コンピュータプログラム」であることは,前記(2)アとおりである。

カ 小括

以上によれば,本件ホームアプリは,構成要件C1,D,E,F,G及びC2をいずれも充足する。

(5) 均等の成立(争点(1)カ関係)

原判決第3の2の「原告の主張」(3)(10頁8行目から12行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(6) まとめ

以上によれば,本件ホームアプリは,本件発明1の構成要件を全て充足するから,その技術的範囲に属し,また,仮に「ポインタ」が画面上に表示されるものでない点で相違するとしても,本件発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属する。

上記に加えて,本件ホームアプリは,構成要件Gを充足するから,本件発明3の技術的範囲に属する。

(被控訴人の主張)

(1) 構成要件A2,C2の非充足(争点(1)ア関係)

ア 本件発明1の特許請求の範囲の文言から明らかなとおり,本件発明1は,「利用者が…データ入力」を行う際に,当該データ入力を「支援」するコンピュータプログラムであるから,本件発明1の「データ入力」にいう「データ」は,利用者が入力するデータであり,その入力が「支援」される対象である。したがって,本件発明1において,「入力支援コンピュータプログラム」により利用者がコンピュータに入力する対象は,利用者にとって意味のある文章等の「編集対象データ」である。

しかるところ,控訴人が,本件ホームアプリにより利用者がコンピュータに入力する対象であると主張する「座標」は,上記の編集対象データには当たらない。そもそも,「座標」は,利用者が「データ入力」する対象ですらない。

イ また,「座標」が構成要件A2の「データ」に含まれるとしても,本件ホームアプリは,ホーム画面をカスタマイズするプログラムであって,画面上の指でタッチした位置である「座標」を入力するプログラムではなく,また,「座標」の入力を「支援」するプログラムでもない。

ウ 以上の点は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面からも裏付けられる。

すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明においては,ワープロソフトや表計算ソフトを実行し,前者であれば文章データ,後者であれば表計算データ等の編集対象データを入力する際に(段落【0014】),別紙の図4に示されるような,これらのデータ入力を支援するプログラムしか記載されておらず(段落【0070】~【0076】),実施例を含めて,本件発明1のデータ入力支援コンピュータプログラムが画面上の位置である「座標」の入力を支援するものであることを開示ないし示唆する記載は一切存在しない。

また,本件明細書の段落【0006】によると,本件発明1は,「コンピュータシステムにおける簡易かつ便利なデータの入力の手段を提供すること」を課題とする発明であるところ,本件ホームアプリが,画面上の位置である「座標」を簡易かつ便利に入力するためのコンピュータプログラムでないことは明らかである。更に言えば,「簡易かつ便利な入力の手段を提供する」とは,特に,「利用者が必要になった場合にすぐに操作コマンドのメニューを画面上に表示させ,必要である間についてはコマンドのメニューを表示させ続けられる手段の提供」である,と説明されており,画面上の指でタッチした位置である「座標」の入力の際にこのような手段は不要であるから,本件発明1と本件ホームアプリにおける「座標」の入力とは,無関係である。

エ したがって,本件ホームアプリは,「利用者が入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラム」には当たらないから,構成要件A2,C2を充足しない。

(2) 構成要件B,E,Fの非充足

ア 本件ホームアプリは「ポインタ」(構成要件B,E,F)を用いるコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムではないこと(争点(1)イ関係)

(ア) 本件発明1の特許請求の範囲の記載からすれば,本件発明1においては,「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示する」(構成要件B)ものであるとともに,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる」(構成要件E)ものであり,「出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定される」(構成要件F)ものであるから,本件発明1の「ポインタ」は,出力手段である画面上に表示され,何かの位置を指し示すものであり,その位置を「入力手段を介して…移動させる」ものであるといえる。

この点,当該分野の辞典をみても,「ポインタ」は,「ウィンドウ画面で,マウスの操作位置を示すもの」と定義されており(2006-07年版,最新パソコン用語辞典996頁・乙2),画面上に表示され,マウスの操作位置を指し示すものであり,その位置をマウス操作を介して移動させるものとされているから,上記解釈は辞典の定義とも合致する。

(イ) 以上の解釈は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載からも裏付けられる。

すなわち,本件明細書においては,実施例とは別の一般論として,「「ポインタの座標位置」とは,前記出力手段における画面上での現在位置を示す絵記号である「カーソル(マウスカーソル)」が指し示している画面上での座標位置である。」と定義されており(段落【0012】),「ポインタ」は,「出力手段における画面上での現在位置を示す絵記号」であり,「ポインタの座標位置」は,それが指し示している「画面上での座標位置」とされている。

また,本件明細書の他の記載をみても,「「コンテキストメニュー」は,マウスを右クリックすることにより,マウスが指し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンドのメニューが表示されるもの」(段落【0003】),「「ドラッグ&ドロップ」とは,画面上でマウスポインタがウィンドウの枠やファイルのアイコンなどに重なった状態でマウスの左ボタンを押し,そのままの状態でマウスを移動させ,別の場所でマウスの左ボタンを離すマウス操作である」(段落【0004】)などとされ,「ポインタ」は,マウスが指し示している位置であり,その位置はマウス操作を介して移動するものであって,画面上に表示されるものであることが説明されている。さらに,本件明細書の実施例をみても,「ポインタ」として「出力手段における画面上での現在位置を示す絵記号」である「カーソル(マウスカーソル)」しか開示されていない。

(ウ) しかるところ,被告製品においては,画面上に表示されて,何らかの位置を指し示し,その位置を「入力手段を介して…移動させる」ものが存在しないから,本件ホームアプリは,本件発明1の「ポインタ」を用いるものではなく,この点において,構成要件B,E,Fを充足しない。

(エ) これに対し,控訴人は,本件発明1における「ポインタ」とは,「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」であり,前記「控訴人の主張」(3)ア(ア)aの①ないし⑤によって構成されるものであって,被告製品はこのような「ポインタ」を有する旨主張する。

しかし,控訴人の上記主張は,「ポインタ」の用語が多義的であるにもかかわらず,一部の外部証拠に基づいて,本件明細書の記載事項や図面を無視した議論を展開しているにすぎない。

そもそも本件発明1は,「情報を記憶する記憶手段と,情報を処理する処理手段と,利用者に情報を表示する出力手段と,利用者からの命令を受け付ける入力手段とを備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムであって,…ポインタの位置を移動させる命令を受信すると,…操作メニュー情報を…表示する」という発明であり,「入力手段」,「処理手段」及び「記憶手段」は,「ポインタ」と別個独立の構成とされている。にもかかわらず,「ポインタ」が「入力手段」,「処理手段」及び「記憶手段」を含む概念であるとする控訴人の上記主張は,本件発明1における「ポインタ」の解釈としては,成り立ち得ないものである。

イ 本件ホームアプリは「操作メニュー情報」(構成要件B,F)を記憶する記憶手段を備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムではないこと(争点(1)ウ関係)

(ア) 本件発明1の特許請求の範囲の記載からすれば,本件発明1における「操作メニュー情報」は,「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データ」(構成要件B)であるから,「命令結果を利用者が理解できるように」表示される画像であることが必要である。

(イ) この点,本件明細書の発明の詳細な説明をみても,実施例とは別の一般論として,「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示する画像データ」とは,「当該…画像データにポインタを合わせることで,どのような命令が実行されるのかをシステム利用者が理解できるように構成されている画像データであることを意味する。例えば,どのような命令が実行されるのか,を表す文字を含んだ画像データであったり,「アイコン」のように実行される命令の内容や対象を小さな絵や記号で表現した画像データが考えられる。」とされており(段落【0012】),「どのような命令が実行されるのかを表す文字を含んだ画像データ」や「実行される命令の内容や対象を小さな絵や記号で表現した画像データ」のように,「どのような命令が実行されるのかをシステム利用者が理解できる」画像データを意味するものと定義されている。また,本件明細書の実施例の図6(別紙参照)をみても,右スクロール(101),Drag開始(102),末尾へのジャンプ(103),下方スクロール(104),高速下方スクロール(105)など,画面上に表示された画像データである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲内にポインタが入ったときにどのような命令が実行されるかを図示した絵記号が表示されている。

(ウ) しかるところ,本件ホームアプリにおける左右スクロールメニュー表示は,ホーム画面の左右両端部に表示される縦長の長方形の画像であり,「どのような命令が実行されるのかを表す文字を含んだ画像データ」や「実行される命令の内容や対象を小さな絵や記号で表現した画像データ」ではなく,隣のホーム画面にスクロールするという命令結果を利用者が理解できるような画像ではないから,本件発明1の「操作メニュー情報」には該当しない。

したがって,本件ホームアプリは,本件発明1の「操作メニュー情報」を記憶する記憶手段を備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムではないから,この点において,構成要件B,Fを充足しない。

ウ 本件ホームアプリでは,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」(構成要件E)処理は実行されないこと(争点(1)オ関係)

(ア) 控訴人が主張するとおり,本件ホームアプリにおける「タッチパネル上の指の座標位置」が,本件発明1の「ポインタの位置」に相当するとの前提に立ったとしても,本件ホームアプリでは,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…表示する」(構成要件E)という処理は行われていない。すなわち,本件ホームアプリにおいては,タッチパネル上のショートカットアイコンを指でタッチし,そのまま長押し(ロングタッチ)することによって,控訴人が「操作メニュー情報」に相当すると主張する「左右スクロールメニュー表示」が表示されるものであるが,このロングタッチの間,指が触れている座標位置は変化しないから,「ポインタの位置」は移動しておらず,このロングタッチを「ポインタの位置を移動させる命令」とみることはできない。そうすると,本件ホームアプリにおいては,「ポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を記憶手段から読み出して出力手段に表示する」という処理が行われているとはいえない。

(イ) 控訴人は,本件発明1における「ポインタ」を「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」と解釈することを前提とした上で,構成要件Eの「ポインタの位置」とは,ポインティングデバイスから入力された画面上の位置情報に基づいて算出され,記憶手段に記憶された座標位置(数値情報)であるとし,本件ホームアプリにおいては,利用者の指がタッチパネルに触れると,記憶手段に記憶された「タッチパネル上の指の座標位置」が書き換えられることになり,これは座標位置の移動にほかならないから,本件ホームアプリにおけるショートカットアイコンのロングタッチは,「ポインタの位置を移動させる命令」に該当する旨主張する。

しかし,そもそも控訴人による本件発明1の「ポインタ」の解釈が誤りであることは,前記ア(エ)で述べたとおりであるから,これを前提とする控訴人の上記主張が失当であることは明らかである。

また,仮に,控訴人の上記主張を前提とすると,本件ホームアプリにおいて,画面上のショートカットアイコンを指でタッチするだけのことが,「ポインタの位置を移動させる命令」に相当することとなるが,本件ホームアプリにおいては,控訴人が「操作メニュー情報」に相当すると主張する左右スクロールメニュー表示は,画面上のショートカットアイコンをタッチするだけで表示されるものではなく,そのまま数秒間タッチし続ける(ロングタッチする)ことで初めて表示されるものであるから,「ポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」という関係が成り立たないことになる。したがって,控訴人が主張するように,利用者の指がタッチパネルに触れると,記憶手段に記憶された「タッチパネル上の指の座標位置」が書き換えられるということをもって,構成要件Eの「ポインタの位置を移動させる命令」に相当するとの前提に立ったとしても,本件ホームアプリにおいて,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」(構成要件E)処理が行われていないことに変わりはない。

(3) 構成要件Dの非充足(争点(1)エ関係)

原判決第3の5の「被告の主張」(14頁8行目から24行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(4) 均等の不成立(争点(1)カ関係)

原判決第3の2の「被告の主張」(3)(10頁21行目から11頁2行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(5) まとめ

以上によれば,本件ホームアプリは,少なくとも構成要件A2,B,DないしF及びC2を充足せず,また,均等の成立も認められないから,本件発明1の技術的範囲に属しない。また,同様に,本件ホームアプリは,本件発明3の技術的範囲に属しない。

2  争点(2)(被告製品は本件発明4及び5の技術的範囲に属するか。)について

(控訴人の主張)

(1) 本件発明4

被告製品は,情報を記憶するRAM等の記憶手段と,情報を処理するCPU等の処理手段と,利用者に情報を表示する液晶パネルという出力手段と,利用者からの命令を受け付けるタッチパネルという入力手段を備えた携帯型のコンピュータシステムである。

また,本件ホームアプリは,本件発明1及び3の各構成要件をいずれも充足するから,本件ホームアプリをインストールした被告製品は,「前記記憶手段が,請求項1乃至3のいずれか1記載の入力支援コンピュータプログラムを記憶し,前記処理手段が前記各処理を行うことを特徴とする入力支援システム」に該当する。

したがって,被告製品は,本件発明4の構成要件Hを充足し,その技術的範囲に属する。

(2) 本件発明5

被告製品は,構成要件Dの「命令ボタン」を備えた入力手段として,ポインティングデバイスの1つであるタッチパネルを有しており,また,上記(1)のとおり「請求項4記載の入力支援システム」に該当する。

したがって,被告製品は,本件発明5の構成要件Iを充足し,その技術的範囲に属する。

(被控訴人の主張)

(1) 前記1の「被控訴人の主張」のとおり,本件ホームアプリは,少なくとも構成要件A2,B,DないしF及びC2を充足しない。

したがって,被告製品は,その記憶手段が,本件特許の特許請求の範囲請求項1又は3記載の入力支援コンピュータプログラムを記憶しているとはいえず,また,その処理手段が,同記載の各処理を行うものともいえないから,本件発明4の構成要件Hを充足しない。

(2) 上記(1)のとおり,被告製品は,「請求項4記載の入力支援システム」とはいえないから,本件発明5の構成要件Iを充足しない。

3  争点(3)(無効の抗弁の成否)について

(被控訴人の主張)

次のとおり訂正するほかは,原判決第3の7の「被告の主張」(15頁16行目から22行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

原判決15頁22行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。

「また,仮に,乙13記載の「第2の実施の形態」が,「第1の実施の形態」とは独立した発明であるとしても,両者は,同一の技術思想の下で一つの公開特許公報に記載された実施形態同士であり,後者に前者の技術思想を適用することは容易である。そして,当業者は,両発明を組み合わせることによって,本件発明を容易に想到し得たものであり,本件発明は,進歩性を有しないから,前同様に,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権を行使することはできない。」

(控訴人の主張)

原判決第3の7の「原告の主張」(15頁23行目から16頁9行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

4  争点(4)(差止め等の必要性)について

次のとおり訂正するほかは,原判決第3の8(16頁10行目から21行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

原判決16頁12行目の「争点1ないし7で主張したところによれば」を「争点(1)及び(2)で主張したところによれば」と改める。

5  争点(5)(損害額)について

原判決第3の9(16頁22行目から17頁9行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

第4当裁判所の判断

当裁判所も,本件ホームアプリは,構成要件Eを充足しないから,本件発明1及び3の技術的範囲に属しない,本件ホームアプリをインストールした被告製品は,請求項1又は3記載の入力支援コンピュータプログラム(本件発明1又は3)を記憶しているとはいえず,その処理手段が各処理を行うものともいえないから,本件発明4の技術的範囲に属しない,さらには,本件発明4に係る請求項4の記載を引用する本件発明5の技術的範囲に属しないものと認める。その理由は,以下のとおりである。

1  争点(1)イ(本件ホームアプリは,「ポインタ」(構成要件B,E,F)を用いるものであるか。)について本件の事案の内容に鑑み,まず,争点(1)イから判断する。

(1)  本件明細書の記載事項等

ア 本件発明1,3ないし5の特許の特許請求の範囲の請求項1,3ないし5の記載は,次のとおりである(争いがない。)。

【請求項1】

情報を記憶する記憶手段と,情報を処理する処理手段と,利用者に情報を表示する出力手段と,利用者からの命令を受け付ける入力手段とを備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムであって,

利用者が前記入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラムであり,

前記記憶手段は,

ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データである操作メニュー情報と,当該操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令と,を関連付けた操作情報を1以上記憶し,

当該操作情報は,前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報であるデータ状態情報に関連付けて前記記憶手段に記憶されており,

前記処理手段に,

(1)  前記入力手段を介して,前記入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を受信した後から,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでにおいて,以下の(2)及び(3)を行うこと,

(2)  前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると,当該受信した際の前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,

(3)  前記入力手段を介して,当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されると,当該ポインタにより指定された操作メニュー情報に関連付いている命令を,前記記憶手段から読み出して実行し,当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなるまで当該実行を継続すること,

当該命令の実行により変化した前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における前記操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,

を実行させることを特徴とする入力支援コンピュータプログラム。

【請求項3】

情報を記憶する記憶手段と,情報を処理する処理手段と,利用者に情報を表示する出力手段と,利用者からの命令を受け付ける入力手段とを備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムであって,

利用者が前記入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラムであり,

前記記憶手段は,

ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データである操作メニュー情報と,当該操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令と,を関連付けた操作情報を1以上記憶し,

当該操作情報は,前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報であるデータ状態情報に関連付けて前記記憶手段に記憶されており,

前記処理手段に,

(1)  前記入力手段を介して,前記入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を受信した後から,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでにおいて,以下の(2)及び(3)を行うこと,

(2)  前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると,当該受信した際の前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,

(3)  前記入力手段を介して,当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されると,当該ポインタにより指定された操作メニュー情報に関連付いている命令を,前記記憶手段から読み出して実行し,当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなるまで当該実行を継続すること,

当該命令の実行により変化した前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における前記操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,

(4)  前記入力手段を介して,前記開始動作命令の受信に対応する,前記命令ボタンが利用者によって離されたことによる終了動作命令を受信すると,前記出力手段へ表示している前記メニュー情報の表示を終了すること,

を実行させることを特徴とする入力支援コンピュータプログラム。

【請求項4】

情報を記憶する記憶手段と,情報を処理する処理手段と,利用者に情報を表示する出力手段と,利用者からの命令を受け付ける入力手段とを備えたコンピュータシステムであって,

前記記憶手段が,請求項1乃至3のいずれか1記載の入力支援コンピュータプログラムを記憶し,前記処理手段が前記各処理を行うことを特徴とする入力支援システム。

【請求項5】

前記命令ボタンを備えた入力手段は,1のポインティングデバイスであること,

を特徴とする請求項4記載の入力支援システム。

イ 本件明細書(甲2)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面については別紙を参照)。

(ア) 【技術分野】

【0001】

本発明は,マウスに代表されるポインティングデバイス等の入力装置を利用して,コンピュータシステムにおけるシステム利用者の入力行為を支援するためのコンピュータプログラムに関するものである。

【背景技術】

【0002】

GUI(Graphical User Interface)環境のコンピュータシステムでは,システム利用者の入力行為を支援するために様々な工夫がなされている。例えば,プログラムの実行中にコンピュータの入力装置であるマウスを右クリックすることにより操作コマンドのメニューが画面上に表示される「コンテキストメニュー」や,マウス操作の一種である「ドラッグ&ドロップ」等が存在する。

【0003】

「コンテキストメニュー」は,マウスを右クリックすることにより,マウスが指し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンドのメニューが表示されるものであり,必要な場合に操作コマンドのメニューを画面上に表示させるという点でシステム利用者にとって有益である。しかしながら,「コンテキストメニュー」は,マウスの右クリックで簡単にコマンドのメニューが表示されるものの,マウスの左クリックを行う等するまではずっとメニューが画面に表示され続ける。また,利用者が間違って右クリックを押してしまった場合等は,利用者の意に反してメニューが画面上に表示されてしまうので不便である。

【0004】

一方,「ドラッグ&ドロップ」とは,画面上でマウスポインタがウィンドウの枠やファイルのアイコンなどに重なった状態でマウスの左ボタンを押し,そのままの状態でマウスを移動させ,別の場所でマウスの左ボタンを離すマウス操作である。この「ドラッグ&ドロップ」は,データ等の「切り取り」と「貼り付け」を同時に行う操作,例えば,ディスク内でのファイル移動や,アプリケーションソフト間でのデータのカット&ペースト操作などに用いられている。しかしながら,「ドラッグ&ドロップ」は,ドラッグしたポインタ位置からドロップしたポインタ位置まで画面をスクロールさせるような一時的動作には向いているが,継続的な動作,例えば,移動させる位置を決めないで徐々に画面をスクロールさせていくような動作に適用させるのは難しい。

【0005】

また,以下の特許文献1には,コマンドメニュー表示方法に関する技術が開示されている。しかしながら,当該技術も「ドラッグ&ドロップ」の応用技術としてのコマンドメニュー表示方法であり,継続的な動作の実行に適用させるのは難しい。

【特許文献1】特開2000-339482号公報

【発明の開示】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】

本発明の解決しようとする課題は,システム利用者の入力を支援するための,コンピュータシステムにおける簡易かつ便利な入力の手段を提供することである。特に,利用者が必要になった場合にすぐに操作コマンドのメニューを画面上に表示させ,必要である間についてはコマンドのメニューを表示させ続けられる手段の提供を目的とする。

(イ) 【課題を解決するための手段】

【0007】及び【0008】

1,

(1)  そこで,上記課題を解決するため,本発明に係る入力支援コンピュータプログラムは,情報を記憶する記憶手段と,情報を処理する処理手段と,利用者に情報を表示する出力手段と,利用者からの命令を受け付ける入力手段とを備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムであって,利用者が前記入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラムである。

【0009】

また,当該コンピュータシステムの前記記憶手段は,ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データである操作メニュー情報と,当該操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令と,を関連付けた操作情報を1以上記憶している。

【0010】

そして,当該コンピュータシステムの前記処理手段に,(1)前記入力手段を介して,前記入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を受信した後から,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでにおいて,以下の(2)及び(3)を行うこと,(2)前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると,前記操作メニュー情報を前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,(3)前記入力手段を介して,当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されると,当該ポインタにより指定された操作メニュー情報に関連付いている命令を,前記記憶手段から読み出して実行すること,(4)前記入力手段を介して,前記開始動作命令の受信に対応する,前記命令ボタンが利用者によって離されたことによる終了動作命令を受信すると,前記出力手段へ表示している前記操作メニュー情報の表示を終了すること,を実行させることを特徴とする入力支援コンピュータプログラムである。

【0011】

(2)  ここで,「記憶手段」とは,例えばRAM,ROM,HDD等のコンピュータシステムにおける記憶装置が該当する。「処理手段」とは,例えばCPU等のコンピュータシステムにおける演算装置や,通信ネットワークで接続されたコンピュータシステムにおける中央処理サーバコンピュータが該当する。「出力手段」とは,例えばディスプレイ等のコンピュータシステムにおける情報を表示する出力装置や,通信ネットワークで接続されたコンピュータシステムにおける情報端末としての携帯電話端末やパーソナルコンピュータ等が該当する。「入力手段」とは,例えばキーボード,マウス,タッチパネル等のコンピュータシステムにおける入力装置や,通信ネットワークで接続されたコンピュータシステムにおける情報端末としての携帯電話端末やパーソナルコンピュータ等が該当する。「コンピュータシステム」は,パーソナルコンピュータ等の1のハードウェア内にて完結して構成される場合もあるし,複数のコンピュータにより構成される場合もある。複数のコンピュータにより構成される場合の例として,通信ネットワークで接続されたコンピュータシステムにおいて,「処理手段」は中央処理サーバコンピュータ,「記憶手段」は中央処理サーバコンピュータが管理する記憶装置,「出力手段」及び「入力手段」は中央処理サーバコンピュータと通信する情報端末(携帯電話,パーソナルコンピュータ),等の場合が該当する。

【0012】

「ポインタの座標位置」とは,前記出力手段における画面上での現在位置を示す絵記号である「カーソル(マウスカーソル)」が指し示している画面上での座標位置である。「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示する画像データ」とは,当該ビットマップ形式やベクター形式の画像データにポインタを合わせることで,どのような命令が実行されるのかをシステム利用者が理解できるように構成されている画像データであることを意味する。例えば,どのような命令が実行されるのか,を表す文字を含んだ画像データであったり,「アイコン」のように実行される命令の内容や対象を小さな絵や記号で表現した画像データが考えられる。

【0013】

「操作メニュー情報にポインタが指定された場合」とは,前記出力手段における画面上に表示された画像データである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,前記ポインタの座標位置が合わさった(入った)こと,をいう。「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令」とは,前記コンピュータシステムに対する実行命令であり,例として,「編集対象データにおける内部のデータ状態を変化させる命令」がある。この「編集対象データにおける内部のデータ状態を変化させる命令」とは,前記記憶手段に格納されている編集対象データの内容(データ状態)に変更を加える命令である。

【0014】

「編集対象データ」とは,前記コンピュータシステムにおいて実行されているアプリケーションプログラムにおける,データ編集の対象となっているデータである。例えば,実行されているアプリケーションプログラムがワープロソフトであれば,当該ワープロソフトの文章データが「編集対象データ」となり,実行されているプログラムが表計算ソフトであれば,当該表計算ソフトの表計算データが「編集対象データ」となる。例えば,ワープロソフトの文章データが「編集対象データ」であれば,全文章データのうち前記出力手段に表示させる部分である「ビュー」を変更させる命令や,表計算ソフトの表計算データが「編集対象データ」であれば,表計算データのうち前記出力手段に表示させる部分である「アクティブなワークシート」を変更させる命令等が,「編集対象データにおける内部のデータ状態を変化させる命令」として考えられる。

【0015】

「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令」は,「編集対象データにおける内部のデータ状態を変化させる命令」に限られない。すなわち,前記記憶手段に記憶されているOSが管理している各種情報(時間情報,記憶手段の空き容量に関する情報,ファイルの位置など)を変化させる命令である「前記記憶手段に記憶されているデータの状態を変化させる命令」も,「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令」に含まれる。さらに,前記コンピュータシステムがネットワークを通じて接続している中央サーバコンピュータに接続要求をする命令や,前記コンピュータシステムがネットワークを通じて接続している他のコンピュータシステムにデータを送信する命令の各種命令等も,「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令」に含まれる。

【0016】

「操作情報」とは,「操作メニュー情報」と「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令」とを関連付けた情報である。この「操作情報」により,前記出力手段に表示された「操作メニュー情報」にポインタが指定された場合に,どの「命令」を実行すればよいかを特定することができる。また,「操作メニュー情報」には,出力手段に表示する際に,画面上のどの座標位置・範囲に表示するかという表示位置・範囲に関する情報も含まれる。この「表示位置・範囲に関する情報」としては,例えば,操作メニュー情報が画面上に表示された際に占める絶対的な座標位置・範囲を示す情報や,編集対象データが表示される画面上の座標位置・範囲における操作メニュー情報の占める相対的な位置・範囲を示す情報などが該当する。

【0017】

「入力手段における命令ボタン」とは,原則として,入力手段が物理的に備えているボタンを意味し,例えば,キーボードにおける入力キーや,ポインティングデバイスであるマウスの左右のクリックボタンやスクロールホイールボタン,などが考えられる。「入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令」とは,原則として,入力手段が物理的に備えているボタンが利用者によって押されたことを伝えるために,入力手段が処理手段に対して発する電気信号を意味する。「利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令」とは,原則として,当該入力手段が物理的に備えているボタンが利用者によって離されたことを伝えるために,入力手段が処理手段に対して発する電気信号を意味する。

【0018】

しかしながら,コンピュータシステムの入力手段の多様化により,タッチパネル等の物理的にボタンを備えていない入力手段も存在しているため,「入力手段における命令ボタン」には,入力手段が物理的に備えているボタンだけを表すものではない。すなわち,入力手段がタッチパネル等の物理的にボタンを備えていない入力手段である場合は,「入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令」とは,入力手段において利用者が押す行為を行ったことを伝えるために,入力手段が処理手段に対して発する電気信号(mouse downなど)を意味する。また,入力手段がタッチパネル等の物理的にボタンを備えていない入力手段である場合は,「利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令」とは,入力手段において利用者が押す行為を止めて離したことを伝えるために,入力手段が処理手段に対して発する電気信号(mouse upなど)を意味する。

【0019】

「開始動作命令」が発せられて受信してから,「終了動作命令」が発せられて受信するまでは,入力手段において特定の命令ボタン等を利用者が押す行為を継続していることを,処理手段は認識することができる。

【0020】

「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」とは,入力手段としてのポインティングデバイスから,画面上におけるポインタの座標位置を移動させる命令(電気信号)を処理手段が受信することである。先の「開始動作命令」が発せられて受信してから,「終了動作命令」が発せられて受信するまでの間に,処理手段が「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」と,処理手段は記憶手段に記憶されている操作メニュー情報を読み出して,当該操作メニュー情報を出力手段に表示する。「出力手段へ表示している前記操作メニュー情報の表示を終了する」とは,ステップ(2)で出力手段に表示した操作メニュー情報を,処理手段が出力手段に表示しないようにすることをいう。

【0021】

以上の定義は,以下の発明にも適用される。

【0022】

(3)  本発明は,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間に,ポインタの位置を移動させる命令を受信すると,画像データである操作メニュー情報を出力手段に表示し,ポインタの指定により命令が実行される。特に,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間は,画像データである操作メニュー情報をポインタで指定することによって,当該命令を何回でも実行する,という継続的な操作が可能になる。また,入力手段における命令ボタンが利用者によって離されると,出力手段に表示されていた操作メニュー情報の表示が終了する。

【0023】

これにより,例えば,当該ポインタの指定により実行される命令として,編集対象データのうち出力手段に表示される画面(ビュー)をスクロールさせるような命令を採用すると,スムーズな画面操作が可能である。また,利用者によって押されていた入力手段における命令ボタンが利用者によって離されると,出力手段に表示されていた操作メニュー情報が表示されなくなるため,普段は画面上に操作メニュー情報を表示せずに,利用者にとって必要な場合に簡便に表示させることが可能となる。

(ウ) 【0035】及び【0036】

3,

(1)  また,他の発明に係る入力支援コンピュータプログラムは,情報を記憶する記憶手段と,情報を処理する処理手段と,利用者に情報を表示する出力手段と,利用者からの命令を受け付ける入力手段とを備えたコンピュータシステムにおけるコンピュータプログラムであって,利用者が前記入力手段を使用してデータ入力を行う際に実行される入力支援コンピュータプログラムである。

【0037】

当該コンピュータシステムの前記記憶手段は,ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データである操作メニュー情報と,当該操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令と,を関連付けた操作情報を1以上記憶し,当該操作情報は,前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報であるデータ状態情報に関連付けて前記記憶手段に記憶されている。

【0038】

そして,当該コンピュータシステムの前記処理手段に,(1)前記入力手段を介して,前記入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を受信した後から,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでにおいて,以下の(2)及び(3)を行うこと,(2)前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると,当該受信した際の前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,(3)前記入力手段を介して,当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されると,当該ポインタにより指定された操作メニュー情報に関連付いている命令を,前記記憶手段から読み出して実行し,当該命令の実行により変化した前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における前記操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,(4)前記入力手段を介して,前記開始動作命令の受信に対応する,前記命令ボタンが利用者によって離されたことによる終了動作命令を受信すると,前記出力手段へ表示している前記メニュー情報の表示を終了すること,を実行させることを特徴とする入力支援コンピュータプログラムである。

【0039】

(2)  ここで,「前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報」の例として,前記記憶手段に格納されている編集対象データの内容(データ状態),例えば,文章・表計算のデータのうち実際に出力手段に表示する「ビュー」の範囲の状態,データを印刷する際の印刷対象となる範囲の状態,文章のデータの書式やフォントの設定値の状態,現在処理の対象となっている(アクティブとなっている)データがあるか否かの状態,等を表す情報が該当する。他にも,「前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報」の例として,記憶手段の総記憶容量において実際に使用できる残記憶容量を表す情報や,記憶手段の総記憶容量分における実際に使用されている記憶容量の割合を表す情報,等が該当する。例えば,記憶手段の総記憶容量において実際に使用できる残記憶容量が一定容量以下である場合は,特定の操作メニュー情報(例えば,データ保存命令を意味する操作メニュー)を画面上に表示しない,というような使い方ができる。

【0040】

以上の定義は,以下の発明にも適用される。

【0041】

(3)  本発明は,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間に,ポインタの位置を移動させる命令を受信すると,画像データである操作メニュー情報を出力手段に表示し,ポインタの指定により命令が実行される。特に,記憶手段に記憶されているデータの状態に応じた操作メニュー情報が出力手段に表示されるため,当該データ状態に適合した操作メニュー情報が表示されることになる。

【0042】

これにより,例えば,操作メニュー情報に関連付いた命令が実行されることにより,文章・表計算のデータのうち実際に出力手段に表示する「ビュー」の状態が変化すれば,当該ビューの状態に応じた操作メニュー情報が表示されることになる。具体的には,文章・表計算のデータのうち「ビュー」の状態が最上部に移っている場合は,上方向へのビュー移動を命令する操作メニュー情報を表示せずに,下方向へのビュー移動を命令する操作メニュー情報のみを表示する,等の利用者の使い勝手を考えた柔軟な操作メニュー情報の表示が可能となる。

【0043】

また,記憶手段に記憶されているデータの状態として,記憶手段の総記憶容量において実際に使用できる残記憶容量が一定容量以下である場合は,特定の操作メニュー情報(例えば,データ保存命令を意味する操作メニュー)を画面上に表示しない,等の操作メニュー情報の表示も可能となる。

【0044】及び【0045】

4,

(1)  また,他の発明に係る入力支援システムは,情報を記憶する記憶手段と,情報を処理する処理手段と,利用者に情報を表示する出力手段と,利用者からの命令を受け付ける入力手段とを備えたコンピュータシステムである。

【0046】

そして,当該記憶手段が,前記の1,乃至3,のいずれか1記載の入力支援コンピュータプログラムを記憶し,前記処理手段が前記各処理を行うことを特徴とする入力支援システムである。

【0047】及び【0048】

5,

(1)  また,他の発明に係る入力支援システムは,前記命令ボタンを備えた入力手段が,1のポインティングデバイスであること,を特徴とする。

【0049】

(2)  ここで,「ポインティングデバイス」とは,マウス,ペンデバイス,タブレット,ジョイスティック,タッチパネル等の各種ポインティングデバイスが該当する。

【0050】

(3)  前記入力手段が1のポインティングデバイスであることにより,上記各処理,例えば,入力手段における命令ボタンを押すことによる開始動作命令,当該押していた命令ボタンを離すことによる終了動作命令,入力手段を介して行うポインタの位置を移動させる命令,などを当該1のポインティングデバイスにより実行できる。すなわち,利用者は,入力手段としての当該1のポインティングデバイスのみによって,上記各処理の命令を行うことができる。これは,マウスやペンデバイス等の片手で操作できるポインティングデバイスを採用した際に,優れた操作性を実現することができる。

(エ) 【発明の効果】

【0051】

以上のように,本発明を利用すると,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間に,ポインタの位置を移動させる命令を受信すると,画像データである操作メニュー情報を出力手段に表示し,ポインタの指定により命令が実行される。特に,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間は,画像データである操作メニュー情報をポインタで指定することによって,当該命令を何回でも実行する,という継続的な操作が可能になる。また,入力手段における命令ボタンが利用者によって離されると,出力手段に表示されていた操作メニュー情報の表示が終了する。

(オ) 【0053】

1, 本発明の実施の構成について

【0054】

(1)  図1は,本発明に係る入力支援コンピュータシステムの全体構成図である。同図に示すように,本発明に係る入力支援コンピュータシステムは,出力手段10と,処理手段20と,入力手段30と,記憶手段40・50と,から構成されている。そして,これら各手段(10~50)は,バス60を介して電気的に接続し,相互に情報の伝達(信号の通信)を行うことができる。

【0055】

図1の入力支援コンピュータシステムにおける構成要素を更に詳述する。出力手段10は,情報を入力支援コンピュータシステムの利用者に表示するための出力装置であり,例えば液晶やCRT方式等のディスプレイ装置が該当する。また,処理手段20は,上記他の手段(装置)に働きかける計算装置であり,例えばCPUが該当する。入力手段30は,入力支援コンピュータシステムの利用者からの命令を受け付ける入力装置であり,例えばマウスやキーボードが該当する。記憶手段40は,大量の情報を記憶させておく補助記憶装置であり,例えばハードディスク(HDD)が該当する。記憶手段50は,処理手段20による実行の対象となる情報を記憶させておく主記憶装置であり,例えばメインメモリが該当する。バス60は,入力支援コンピュータシステムの内部で各手段が情報を通信するための伝送路である。

【0056】

本発明に係る入力支援コンピュータシステムは,図1に示すパーソナルコンピュータのようなローカルのコンピュータシステムであっても実施が可能であり,当該前提により以下説明を行う。しかし,本発明に係る入力支援コンピュータシステムは,複数のコンピュータシステムから構成される場合もある。例えば,クライアント側のコンピュータシステムが出力手段10及び入力手段30となり,サーバ側のコンピュータシステムが処理手段20及び記憶手段40・50となり,インターネットなどの広域通信回線がバス60となることによって,複数のコンピュータシステムから構成される場合も考えられる。

【0057】

(2)  次に,図1における記憶手段40としてのHDDに記憶されている各種情報について説明する。記憶手段40としてのHDDには,データ状態情報41と,操作情報42と,実行猶予時間情報43と,実行猶予時間の指標情報44と,入力支援コンピュータプログラム45と,OSその他プログラム46とを,データベースやファイルの形式により記憶している。

【0058】

そして,処理手段20としてのCPUが,記憶手段40としてのHDDに記憶されている各情報(41~46)を,記憶手段50としてのメモリに読み込むことにより,プログラムやデータの解釈・実行を行なう。また,処理手段20としてのCPUが,記憶手段40としてのHDDに記憶されているOSその他プログラム46と,入力支援コンピュータプログラム45を,記憶手段50としてのメモリに読み込んで解釈し,実行する事により,本発明に係る入力支援処理等が行なわれるのである。

【0059】

このように,本実施形態では,初期状態として記憶手段40としてのHDDに各情報(41~46)が記憶されているとして説明するが,初期状態において記憶手段50としてのメモリに各情報(41~46)が全て記憶されていても当然実施は可能である。

(カ) 【0060】

(3)  続いて,記憶手段40としてのHDDに記憶されている各情報(41~46)のデータ構造について,図2及び3を使用して説明する。

【0061】

図2に図示するように,記憶手段40としてのHDDに記憶されている「データ状態情報41」と「操作情報42」は,情報の関連付けがなされて記憶されている。

【0062】

「データ状態情報41」とは,記憶手段40・50に記憶されているデータの状態を表す情報であり,例えば,記憶手段40・50に格納されている編集対象データの内容を表す情報や,記憶手段40・50の総記憶容量分における実際に使用されている記憶容量の割合を表す情報,等が該当する。図2では,「データ状態情報41」,として記憶手段40・50に格納されている編集対象データの内容を表す情報である「ビューの状態」が格納されている。「最上部のビューが表示」の場合は,編集対象データにおいて縦方向のビューが最上部にあることを,「最下部のビューが表示」の場合は,編集対象データにおいて縦方向のビューが最下部にあることを,「最上部・最下部のビューが共に表示」の場合は,編集対象データにおいて縦方向のビューが最上部から最下部までを表示できていることを,夫々表している。また,「上記以外のビュー状態」の場合は,「最上部のビューが表示」,「最下部のビューが表示」,「最上部・最下部のビューが共に表示」以外のビュー状態であること,例えば最上部及び最下部のビューが表示されていない中間的なビュー状態を表している。

【0063】

また,「操作情報42」は,「操作メニュー情報」と「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令」とを関連付けた情報である。この「操作情報42」により,出力手段10に表示された「操作メニュー情報」にポインタが指定された場合に,どの「命令」を実行すればよいかを特定することができる。

【0064】

「操作メニュー情報」とは,ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように出力手段10に表示するための画像データである。そして,当該「操作メニュー情報」には,出力手段10に表示する際に,画面上のどの座標位置・範囲に表示するかという表示位置・範囲に関する情報も含まれる。この「表示位置・範囲に関する情報」としては,例えば,操作メニュー情報が画面上に表示された際に占める絶対的な座標位置・範囲を示す情報や,編集対象データが表示される画面上の座標位置・範囲における操作メニュー情報の占める相対的な位置・範囲を示す情報などが該当する。

【0065】

また,「操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令」とは,入力支援コンピュータシステムに対する実行命令であり,例として,「編集対象データにおける内部のデータ状態を変化させる命令」がある。この「編集対象データにおける内部のデータ状態を変化させる命令」とは,記憶手段40・50に格納されている編集対象データの内容(データ状態)に変更を加える命令であり,例えば,ビューの状態を変化させる命令が該当する。

【0066】

(4)  記憶手段40としてのHDDに記憶されている「実行猶予時間情報43」は,操作メニュー情報にポインタが指定された場合に,操作情報42における命令が実行されるまでの実行猶予時間を表す情報である。実行猶予時間の採用例として,「1秒」,「3秒」,「5秒」等の時間情報が考えられる。

(キ) 【0069】

2, 本発明の実施のフローについて

【0070】

図4は,本発明に係る入力支援コンピュータシステムの実施フロー図である。同図に基づいて,本発明の実施のフローを説明する。

【0071】

(1)  まず,処理手段20としてのCPUが,入力手段30としてのマウス・キーボードから,入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を受信する(S1)。

【0072】

「入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令」とは,入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが利用者によって押されたことを伝えるために,入力手段30としてのマウス・キーボードが処理手段20としてのCPUに対して発する電気信号である。

【0073】

(2)  次に,処理手段20としてのCPUが,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでに,入力手段30としてのマウス・キーボードから,出力手段10としてのディスプレイに表示しているポインタの位置を移動させる命令を受信したか否かを判断する(S2)。処理手段20としてのCPUが,ポインタの位置を移動させる命令を受信する前に終了動作命令を入力手段30としてのマウス・キーボードから受信した場合は,本発明に係る処理は終了する。

【0074】

「利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令」とは,当該入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが利用者によって離されたことを伝えるために,入力手段30としてのマウス・キーボードが処理手段20としてのCPUに対して発する電気信号である。先の「開始動作命令」が発せられて処理手段20としてのCPUが受信してから,「終了動作命令」が発せられて処理手段20としてのCPUが受信するまでは,入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが利用者により押されていることを,処理手段20としてのCPUは認識することができる。すなわち,処理手段20としてのCPUは,「利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令」を,入力手段30としてのマウス・キーボードから受信するまで,利用者が本発明に係る処理の続行を希望していることを認識する。

【0075】

(3)  S2において,終了動作命令を受信する前にポインタの位置を移動させる命令を入力手段30としてのマウス・キーボードから受信した場合は,処理手段20としてのCPUが,当該受信した際の記憶手段40としてのHDDに記憶されているデータの状態を特定する。さらに,処理手段20としてのCPUは,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報41に関連付いている操作情報42を特定し,当該特定した操作情報42における操作メニュー情報を,記憶手段40としてのHDDから読み出して出力手段10としてのディスプレイに表示する(S3)。

【0076】

ここで,「記憶手段40としてのHDDに記憶されているデータの状態」の例として,記憶手段40としてのHDDに格納されている編集対象データの内容(データ状態),例えば,編集対象となっている文章・表計算のデータのうち実際に出力手段10としてのディスプレイに表示する「ビュー」の範囲の状態,データを印刷する際の印刷対象となる範囲の状態,文章のデータの書式やフォントの設定値の状態,現在処理の対象となっている(アクティブとなっている)データがあるか否かの状態,等を表す情報が該当する。他にも,「記憶手段40としてのHDDに記憶されているデータの状態」の例として,記憶手段40の総記憶容量分における実際に使用されている記憶容量の割合を表す情報,等が該当する。例えば,記憶手段40の総記憶容量分における実際に使用されている記憶容量の割合が一定割合以上である場合は,処理の結果,記憶容量不足になる可能性もあるため,特定の操作メニュー情報を表示しない,というような使い方もできる。

(ク) 【0077】

具体的に図を用いてS1~S3を説明する。図5は,処理手段20としてのCPUが編集対象データの内容(データ状態)を出力手段10としてのディスプレイに表示している表示例である。同図に示す例では,編集対象データとしてテキストエディタソフトウェアの文章データを採用している。

【0078】

図5の画面の状態で,システム利用者が入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンを押す。例えば,利用者がマウスにおける左ボタンや右ボタンを押すことや,利用者がキーボードにおける特定のキーを押す行為,等が該当する。これにより,処理手段20としてのCPUが,入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を,入力手段30としてのマウス・キーボードから受信する(S1)。

【0079】

次に,システム利用者が,先に押した入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンを押し続けたままで,入力手段30としてのマウス・キーボードを使って出力手段10としてのディスプレイの画面上に表示されているポインタ1の移動命令を行う。例えば,マウスにおける左ボタンや右ボタンを押したままマウスを移動させること(ドラッグ操作)や,キーボードにおける特定のキーを押しつつマウスを移動させる行為,等が該当する。処理手段20としてのCPUは,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでに,入力手段30としてのマウス・キーボードから,出力手段10としてのディスプレイに表示しているポインタ1の位置を移動させる命令を受信したか否かを判断する(S2)。

【0080】

そして,S2において,終了動作命令を受信する前にポインタ1の位置を移動させる命令を入力手段30としてのマウス・キーボードから受信した場合は,処理手段20としてのCPUが,当該受信した際の記憶手段40としてのHDDに記憶されているデータの状態を特定する。さらに,処理手段20としてのCPUは,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報41に関連付いている操作情報42を特定し,当該特定した操作情報42における操作メニュー情報を,記憶手段40としてのHDDから読み出して出力手段10としてのディスプレイに表示する(S3)。図2におけるデータ状態情報41及び操作情報42を使用して説明すると,例えば,特定したデータ状態が「最上部のビューが表示」されている状態であれば,操作情報42における「メニューA」や「メニューB」の「操作メニュー情報」が,特定したデータ状態が「最下部のビューが表示」されている状態であれば,操作情報42における「メニューC」や「メニューD」の「操作メニュー情報」が,出力手段10としてのディスプレイに表示される。

【0081】

先の図5の画面の状態から,S3により操作メニュー情報が,出力手段10としてのディスプレイに表示された画面例が図6である。同図に示すのは,先に特定されたデータ状態が「最上部のビューが表示」されている状態であり,操作情報42における「メニューA」や「メニューB」のような,様々な操作メニュー情報(101~105)が編集対象データ上に表示されている。例えば,操作メニュー情報101は右方向にビューを変化させることを表す操作メニューであり,操作メニュー情報104は下方向にビューを変化させることを表す操作メニューであり,操作メニュー情報105は操作メニュー情報104よりも早いスピードで下方向にビューを変化させることを表す操作メニューである。さらに,操作メニュー情報102はドラッグ開始位置までビューを変化させることを表す操作メニューであり,「ドラッグ開始位置」とは,システム利用者が入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンを押した際(開始動作命令を行った際)のポインタ1の座標位置を意味する。また,操作メニュー情報103はビューの最下部までビューを変化させることを表す操作メニューである。

【0082】

図6の画面状態において,入力手段30としてのマウス・キーボードを使ってポインタ1を各操作メニュー情報(101~105)に指定し,所定の時間が経過すると,操作情報42において当該指定した操作メニュー情報に関連付いている命令が,処理手段20としてのCPUにより実行されることになる。

【0083】

また,S3により,操作メニュー情報が出力手段10としてのディスプレイに表示された他の画面例が図7である。同図に示すのは,先に特定されたデータ状態が「上記以外のビュー状態」であり,様々な操作メニュー情報(102~105,111~116)が編集対象データ上に表示されている。例えば,操作メニュー情報111は上方向に早いスピードでビューを変化させることを表す操作メニューであり,操作メニュー情報112は上方向にビューを変化させることを表す操作メニューであり,操作メニュー情報113はビューの最上部までビューを変化させることを表す操作メニューである。操作メニュー情報114は現在処理の対象(アクティブ)となっている文章の選択範囲の先頭までビューを変化させることを表す操作メニューであり,図7では「テスト品質」の文字の最初の位置が選択先頭の位置となる。操作メニュー情報115は現在処理の対象(アクティブ)となっている文章の選択範囲の末尾までビューを変化させることを表す操作メニューであり,図7では「テスト品質」の文字の最後の位置が選択末尾の位置となる。操作メニュー情報116は右方向にビューを変化させることを表す操作メニューである。

【0084】

図7の画面状態において,入力手段30としてのマウス・キーボードを使ってポインタ1を各操作メニュー情報(102~105,111~116)に指定し,所定の時間が経過すると,操作情報42において当該指定したメニュー情報に関連付いている命令が,処理手段20としてのCPUにより実行されることになる。

【0085】

また,S3により,操作メニュー情報が出力手段10としてのディスプレイに表示された他の画面例が図8である。同図に示すのは,先に特定されたデータ状態が「上記以外のビュー状態」であり,様々な操作メニュー情報(102,103,113,121)が編集対象データ上に表示されている。例えば,操作メニュー情報121は,△マークが向いている方向にビューを変化させることを表す操作メニューであり,特に,円の外側にあるマークは,円の内側にあるマークよりも,単位時間当たりに早くビューを変化させることを意味している。

【0086】

図8の画面状態において,入力手段30としてのマウス・キーボードを使ってポインタ1を各操作メニュー情報(102,103,113,121)に指定し,所定の時間が経過すると,操作情報42において当該指定したメニュー情報に関連付いている命令が,処理手段20としてのCPUにより実行されることになる。

(ケ) 【0087】

(4)  次に,処理手段20としてのCPUが,利用者によって先に押されていた入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を,入力手段30としてのマウス・キーボードから受信したか否かを判断する(S4)。

【0088】

例えば,図5のような画面状態において,システム利用者が,先に押した入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンを押し続けたままで,入力手段30としてのマウス・キーボードを使って出力手段10としてのディスプレイの画面上に表示されているポインタ1の移動命令を行い,図6のような状態になったが,その後当該命令ボタンを離した状態が該当する。この場合は,当該命令ボタンを離すことにより,入力手段30としてのマウス・キーボードが処理手段20としてのCPUに,終了動作命令を送信することになる。

【0089】

(5)  そして,S4において終了動作命令を受信した場合は,処理手段20としてのCPUは,先に出力手段10としてのディスプレイに表示した操作メニュー情報の表示を終了させ,本発明に係る処理も終了する(S5)。すなわち,図6のような状態で,システム利用者が,先に押した入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンを離すと,図5の画面状態に戻るのである。これにより,出力手段10としてのディスプレイに表示した操作メニュー情報の表示が速やかに解消されるため,利用者の「不要になった操作メニュー情報の表示を画面上から消したい」という意思がすぐに反映されることになる。

【0090】

(6)  次に,処理手段20としてのCPUは,出力手段10としてのディスプレイに表示した操作メニュー情報が,入力手段30としてのマウス・キーボードを介してポインタ1により指定されると,記憶手段40としてHDDから実行猶予時間の指標情報44を読み出して出力手段10としてのディスプレイに表示する。そして,処理手段20としてのCPUは,当該表示した操作メニュー情報がポインタ1により指定された状態で,記憶手段40としてHDDに記憶されている実行猶予時間情報43が表す実行猶予時間が経過したか否かを判断する(S6)。

【0091】

例えば,図7のような画面状態で,システム利用者が,入力手段30としてのマウス・キーボードによるポインタ1の移動命令により,表示されている特定の操作メニュー情報(図7では操作メニュー情報104)にポインタ1を指定する。これにより,処理手段20としてのCPUは,記憶手段40としてHDDに記憶されている実行猶予時間の指標情報44を読み出して出力手段10としてのディスプレイに表示する。

【0095】

(7)  S6において,処理手段20としてのCPUが,先に表示した操作メニュー情報がポインタ1により指定された状態で,記憶手段40としてHDDに記憶されている実行猶予時間情報43が表す実行猶予時間が経過したと判断すると,当該ポインタ1により指定された操作メニュー情報に関連付いている命令を,記憶手段40としてHDDから読み出して実行する(S7)。

【0096】例えば,図7のような画面状態で実行猶予時間情報43が表す実行猶予時間が経過すると,処理手段20としてのCPUは,ポインタ1により指定されている操作メニュー情報104に関連付いている命令を記憶手段40としてHDDに記憶されている操作情報42より特定し,読み出して実行する。操作メニュー情報104を例にすると,「ビューを下方向に移動させる」という命令が実行されることになる。また,ポインタ1により操作メニュー情報104が指定されている限り,一定の時間間隔で継続的に当該操作メニュー情報104に関連付いている命令を実行し続けることになり,徐々にビューが下方向に動いていき,画面がスクロールしていくことになる。

【0097】

(8)  続いて,処理手段20としてのCPUは,S7での命令の実行により変化した記憶手段40としてのHDDに記憶されているデータの状態(例えば,画面のビューの状態)を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報41に関連付いている操作情報42を特定し,当該特定した操作情報42における操作メニュー情報を,記憶手段40としてのHDDから読み出して出力手段10としてのディスプレイに表示する(S8)。

【0098】

例えば,図7のような画面状態において,ポインタ1により操作メニュー情報112が指定された状態で実行猶予時間が経過し,HDDに記憶されている操作情報42において当該操作メニュー情報112に関連付いている「ビューを上方向に移動させる」という命令が実行されると,図7のビューが変化することによるHDDに記憶されているデータの状態の変化が生じる。その結果,当該ビューの変化後の状態に応じたデータ状態情報41が特定され,当該特定した操作情報42における操作メニュー情報を,記憶手段40としてのHDDから読み出して出力手段10としてのディスプレイに表示されることにより,図6のような画面状態に遷移する。

【0099】

図7の画面状態では,記憶手段40としてのHDDに記憶されている操作情報42において,「上記以外のビュー状態」に関連付いている操作メニュー情報が表示されている。これに対し,図7の画面状態からビューが上方向に移動したことにより,記憶手段40としてのHDDに記憶されている操作情報42において,「最上部のビューが表示」に関連付いている操作メニュー情報が図6では表示されている。図7では,最上部のビューが表示されていないため,ビューを上方向に移動させるための操作メニュー情報(111~113)が画面上に表示されているのに対し,図6では,既に最上部のビューが表示されているため,ビューを上方向に移動させるための操作メニュー情報(111~113)を表示する必要はない。よって,図6では,ビューを上方向に移動させるための操作メニュー情報(111~113)は,画面上に表示されていない。

【0100】

S8の処理が終わると,先のS4の終了動作命令の受信判断に戻る。そして,処理手段20としてのCPUが,利用者によって先に押されていた入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を,入力手段30としてのマウス・キーボードから受信するまで,本処理は続行することになる。

(コ) 【0101】

(9)  以上のように,本発明を利用すると,入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間に,ポインタ1の位置を移動させる命令を受信すると,処理手段20としてのCPUは,画像データである操作メニュー情報を出力手段10としてのディスプレイに表示し,ポインタ1の指定により命令が実行される。特に,入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間は,画像データである操作メニュー情報をポインタ1によって指定し続けることにより,特定の命令を何回でも実行する,という継続的な操作が可能になる。また,入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンが利用者によって離されると,出力手段10としてのディスプレイに表示されていた操作メニュー情報の表示が終了する。

ウ 前記ア及びイによれば,本件明細書には,本件発明1及び3に関し,次の点が開示されていることが認められる。

(ア) 従来のコンピュータシステムにおける利用者の入力行為を支援するための工夫としては,プログラムの実行中にマウスを右クリックすることにより操作コマンドのメニューが画面上に表示される「コンテキストメニュー」や,マウス操作の一種である「ドラッグ&ドロップ」等が存在するが(段落【0002】),「コンテキストメニュー」は,マウスの右クリックでマウスが指し示している画面上のポインタ位置に応じたコマンドのメニューが表示されるものであり,必要な場合に簡単に操作コマンドのメニューを画面上に表示させる点で利用者にとって有益であるものの,マウスの左クリックを行うまではメニューが画面に表示され続けるなどの点で不便であるという問題があり(段落【0003】),また,「ドラッグ&ドロップ」は,ドラッグしたポインタ位置からドロップしたポインタ位置まで画面をスクロールさせるような一時的動作には向いているが,継続的な動作に適用させるのは難しいという問題があった(段落【0004】)。

(イ) 「本発明」の課題は,上記問題を解決し,「利用者の入力を支援するための,コンピュータシステムにおける簡易かつ便利な入力の手段」を提供することにあり,「特に,利用者が必要になった場合にすぐに操作コマンドのメニューを画面上に表示させ,必要である間についてはコマンドのメニューを表示させ続けられる手段」を提供することを目的とするものである(段落【0006】)。

本件発明1及び3の「入力支援コンピュータプログラム」は,上記課題を解決するための手段として,記憶手段は,ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように出力手段に表示するための画像データである操作メニュー情報と,当該操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令とを関連付けた操作情報を1以上記憶し,当該操作情報は,前記記憶手段に記憶されているデータの状態を表す情報であるデータ状態情報に関連付けて前記記憶手段に記憶される構成を採用した上,処理手段に,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されたことによる開始動作命令を受信した後から,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでにおいて,①前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると,当該受信した際の前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること,②前記入力手段を介して当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されると,当該ポインタにより指定された操作メニュー情報に関連付いている命令を,前記記憶手段から読み出して実行し,当該命令の実行により変化した前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における前記操作メニュー情報を前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示することを実行させる構成を採用し,さらに,本件発明3の「入力支援コンピュータプログラム」は,前記処理手段に,上記①及び②に加え,③前記入力手段を介して前記開始動作命令の受信に対応する命令ボタンが利用者によって離されたことによる終了動作命令を受信すると,前記出力手段へ表示している前記メニュー情報の表示を終了することを実行させる構成を採用した(段落【0007】ないし【0010】,【0035】ないし【0038】)。

(ウ) 本件発明1及び3は,上記構成を採用したことにより,処理手段は,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間に,ポインタの位置を移動させる命令を受信することにより,画像データである操作メニュー情報を出力手段に表示し,ポインタの指定により命令が実行されるので,特に,入力手段における命令ボタンが利用者によって押されてから,離されるまでの間は,画像データである操作メニュー情報をポインタで指定することによって,当該命令を何回でも実行するという継続的な操作が可能になり,また,入力手段における命令ボタンが利用者によって離されると,出力手段に表示されていた操作メニュー情報の表示が終了するという効果を奏する(段落【0051】,【0101】)。

(2) 本件発明1の「ポインタ」の意義について

ア 本件発明1の特許請求の範囲の請求項1に「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データである操作メニュー情報」(構成要件B),「当該操作メニュー情報にポインタが指定された場合に実行される命令」(構成要件B),「ポインタの位置を移動させる命令」(構成要件E),「当該出力手段に表示した操作メニュー情報がポインタにより指定されなくなるまで」(構成要件F)との記載があることに照らすと,本件発明1においては,利用者が「出力手段に表示するための画像データである操作メニュー情報」を「ポインタ」によって指定するのであるから,本件発明1の「ポインタ」は,出力手段に表示されるものであり,また,「座標位置」を有し,「ポインタの位置」は移動させることができることを理解することができる。

また,本件明細書の発明の詳細な説明には,「ポインタ」の用語を直接定義する記載はないが,「ポインタ」に関し,①「「コンテキストメニュー」は,マウスを右クリックすることにより,マウスが指し示している画面上のポインタ位置に応じた操作コマンドのメニューが表示されるもの…」(段落【0003】),②「「ポインタの座標位置」とは,前記出力手段における画面上での現在位置を示す絵記号である「カーソル(マウスカーソル)」が指し示している画面上での座標位置である。「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示する画像データ」とは,当該ビットマップ形式やベクター形式の画像データにポインタを合わせることで,どのような命令が実行されるのかをシステム利用者が理解できるように構成されている画像データであることを意味する。」(段落【0012】),③「「操作メニュー情報にポインタが指定された場合」とは,前記出力手段における画面上に表示された画像データである操作メニュー情報が占める座標位置の範囲に,前記ポインタの座標位置が合わさった(入った)こと,をいう。」(段落【0013】),④「「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」とは,入力手段としてのポインティングデバイスから,画面上におけるポインタの座標位置を移動させる命令(電気信号)を処理手段が受信することである。…」(段落【0020】),⑤「(2) 次に,処理手段20としてのCPUが,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでに,入力手段30としてのマウス・キーボードから,出力手段10としてのディスプレイに表示しているポインタの位置を移動させる命令を受信したか否かを判断する(S2)。…」(段落【0073】),⑥「次に,システム利用者が,先に押した入力手段30としてのマウス・キーボードにおける命令ボタンを押し続けたままで,入力手段30としてのマウス・キーボードを使って出力手段10としてのディスプレイの画面上に表示されているポインタ1の移動命令を行う。例えば,マウスにおける左ボタンや右ボタンを押したままマウスを移動させること(ドラッグ操作)や,キーボードにおける特定のキーを押しつつマウスを移動させる行為,等が該当する。処理手段20としてのCPUは,利用者によって当該押されていた命令ボタンが離されたことによる終了動作命令を受信するまでに,入力手段30としてのマウス・キーボードから,出力手段10としてのディスプレイに表示しているポインタ1の位置を移動させる命令を受信したか否かを判断する(S2)。」(段落【0079】),⑦「図6の画面状態において,入力手段30としてのマウス・キーボードを使ってポインタ1を各操作メニュー情報(101~105)に指定し,…」(段落【0082】)との記載がある。また,別紙の図5ないし7には,「ポインタ1」が画面上に黒色の矢印状の記号で示されている。

以上の請求項1の記載及び本件明細書の記載事項を総合すると,本件発明1の「ポインタ」は,出力手段である画面上に表示され,画面上の特定の位置を指し示す絵記号等のデータ要素であり,「座標位置」を有するものであって,入力手段を用いてその位置を移動させることが可能であるものと解される。

イ これに対し,控訴人は,本件明細書中に「ポインタ」の用語そのものの定義がないから,本件発明1の「ポインタ」は,一般的な技術用語としての「ポインタ」の意味に従って解釈されるべきであるところ,甲33(JIS準拠コンピュータ・データ通信用語解説集<新版>)には,コンピュータグラフィックスにおける「ポインタ」とは,「位置決め可能な点を指定するために用いられる,手で操作される機能単位」(356頁)をいい,「機能単位」とは,「機能を満足するひと固まりの装置(ハードウェア)およびプログラムのこと」(72頁)を意味することの記載があること,このような「ポインタ」の用語の解釈に従えば,本件発明1の「ポインタ」とは,「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」をいい,具体的には,①ポインティングデバイス(入力装置),②プログラムを処理するため中央演算処理装置(CPU),③プログラムを記憶するため主記憶装置(メモリ),④ポインティングデバイスから受信したデータを元に座標位置を算出するプログラム,⑤コンピュータグラフィックスを処理するプログラムに伝えるために算出した「座標位置」を記憶する記憶装置の領域,によって構成されるものであって,出力手段である画面上に表示されるものではない旨主張する。

しかしながら,本件明細書には,前記アで引用した各段落に示すように,「ポインタ」が出力手段である画面上に表示され,画面上の特定の位置を指し示す絵記号等のデータ要素であることについての記載はあるが,他方で,本件明細書記載の事項全体をみても,「ポインタ」が「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」であることや出力手段である画面上に表示されるものではないことについての記載も示唆もない。

また,仮に「ポインタ」が「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」であると解した場合には,例えば,本件発明1の「ポインタの位置を移動させる命令」(構成要件E)は,その文理上,上記「装置及びプログラム」の「位置を移動させる命令」となるが,本件明細書には,「装置及びプログラム」の「位置を移動させる命令」についての開示はないし,そもそも「装置及びプログラム」の位置を移動させるとは,いかなる意味であるのか不明確であるといわざるを得ない。

さらに,甲33における控訴人の挙げる「ポインタ」に関する上記記載箇所(356頁)は,「ポインタ(コンピュータグラフィックにおける)」の見出し語について,「『位置決め可能な点を指定するために用いられる,手で操作される機能単位』ライトペン,ジョイスティックなど,画面に対して位置決めをするために用いられる装置のことをさし,コンピュータグラフィックスでは重要な入力装置として使用されている。」(356頁)との記載の一部を示したものであり,上記記載箇所全体をみると,ライトペン,ジョイスティックなどのハードウェアである「入力装置」としてのポインティングデバイスについての用語解説であって,「ポインタ」の用語の一般的な意味を示したものとはいえない。むしろ,甲33には,上記記載箇所の直前(356頁)に,「ポインタ」の見出し語について,「他のデータ要素の位置を示すデータ要素」との記載があり,この記載は,ハードウェアである「入力装置」に限られず,「ポインタ」の用語の一般的な意味を示したものといえる。

したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。

(3) 本件ホームアプリにおける「ポインタ」について

ア 控訴人は,本件発明1の「ポインタ」は,「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」であるという解釈を前提として,本件ホームアプリは,本件発明1の「ポインタ」を用いており,また,タッチパネルに指が触れることで入力される電気信号を元に算出され,記憶装置に記憶されている「タッチパネル上の指の座標位置」が,「ポインタの座標位置」(構成要件B)に相当する旨主張する。

しかしながら,前記(2)イで説示したとおり,本件発明1の「ポインタ」は,「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」であるものと解することはできないから,控訴人の上記主張は,その前提において理由がない。

イ 控訴人は,前記アの主張の予備的主張として,仮に本件発明1の「ポインタ」が,出力手段である画面上に表示され,何かの位置を指し示すものであり,その位置を「入力手段を介して…移動させる」ものであるとしても,本件ホームアプリを実行した際に指に追従して移動するショートカットアイコン(ロングタッチをしたショートカットアイコン)は,本件発明1の「ポインタ」に相当するから,本件ホームアプリは,本件発明1の「ポインタ」を用いており,また,「指に追従して移動するショートカットアイコンの座標位置」が,「ポインタの座標位置」(構成要件B)に相当する旨主張する。

(ア) そこで検討するに,前記第2の2の前提事実と証拠(甲3,17の1及び2,32の1及び2)によれば,被告製品にインストールされた本件ホームアプリは,利用者がタッチパネルを使用してホーム画面のショートカットアイコンの並べ替えを行う際に実行される,ホーム画面をカスタマイズするコンピュータプログラムであり,本件ホームアプリにおけるショートカットアイコンの並べ替え操作は,次のようにして行われることが認められる。

a 利用者がタッチパネル上のショートカットアイコンを指で長押し(ロングタッチ)すると,当該ショートカットアイコンは,指に追従してタッチパネル上を移動させることができる状態になるので,利用者は,タッチパネル上の指の位置を動かすことにより,当該ショートカットアイコンを移動させ,並べ替えることができる。

b 上記のとおり,利用者がタッチパネル上のショートカットアイコンを指で長押し(ロングタッチ)すると,その際のホーム画面のページ番号に応じて,画面上に左右スクロールメニュー表示が表示される。当該ページが,左端ページであれば「右スクロールメニュー表示」のみが,右端ページであれば「左スクロールメニュー表示」のみが,それ以外のページであれば「左右スクロールメニュー表示」がいずれも表示される。

c 利用者が上記「右スクロールメニュー表示」又は「左スクロールメニュー表示」の上にタッチパネル上の指の位置を指定すると,それに応じてホーム画面のページが右又は左にスクロールし,上記ショートカットアイコンも右又は左のページに移動する。

d 利用者がタッチパネルから指を離せば,上記ショートカットアイコンを移動させることができる状態は終了し,「左右スクロールメニュー表示」も消える。

(イ) しかるところ,甲3(控訴人作成の「被告製品の説明書」と題する書面)によれば,本件ホームアプリがインストールされた被告製品の画面上に表示された「ショートカットアイコン」は,甲3の図9に示されるように,画面上に表示される画像データであり,画面上での座標位置を有することは明らかである。

そして,甲3の図10ないし12に示されるように,複数の「ショートカットアイコン」の1つである「Facebookのショートカットアイコン」は,利用者が指でロングタッチし,ドラッグ操作を行うことにより,画面上で移動させ,控訴人が主張する「操作メニュー情報」である「右スクロールメニュー情報」に合わせる(指定する)ことができる。

そうすると,本件ホームアプリの「ショートカットアイコン」は,出力手段である画面上に表示され,画面上の特定の位置を指し示すデータ要素であり,「座標位置」を有するものであって,入力手段を用いてその位置を移動させることが可能であるものといえるから,本件発明1の「ポインタ」に相当するものと認められる。

したがって,本件ホームアプリは,本件発明1の「ポインタ」を用いているものといえるから,更に進んで,争点(1)オについて判断する。

2  争点(1)オ(本件ホームアプリにおいて「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」(構成要件E)処理が実行されるか。)について

(1)  控訴人は,本件発明1の「ポインタ」は,「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」であり,また,本件ホームアプリにおいては,タッチパネルに指が触れることで入力される電気信号を元に算出され,記憶装置に記憶されている「タッチパネル上の指の座標位置」が,「ポインタの座標位置」であるという解釈を前提として,①本件ホームアプリにおけるロングタッチ操作では,まず,利用者の指がタッチパネルに触れるが,そのとき,タッチパネルから発せられた電気信号を元に,「タッチパネル上の指の座標位置」が算出されて,記憶手段に記憶されることになり,その結果,記憶手段においては,「タッチパネル上の指の座標位置」が,今回利用者の指が触れる前の直近に指が触れていた座標位置から,今回指が触れた座標位置に書き換えられることになるが,これは座標位置の移動にほかならず,本件ホームアプリにおけるロングタッチ操作によって発せられる電気信号は,「ポインタの座標位置」の移動命令を含んでいるなどとして,本件ホームアプリにおいて,タッチパネルを介して,タッチパネル上のショートカットアイコンを長押し(ロングタッチ)することは,構成要件Eの「前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令」に該当する,②そして,本件ホームアプリにおいては,上記のとおり,タッチパネル上のショートカットアイコンがロングタッチされると,その際のページ番号の情報を特定し,当該ページ番号の情報に関連付いて記憶手段に記憶されている操作情報を特定し,その特定した操作情報に応じて,右スクロールメニュー表示及び左スクロールメニュー表示を,それぞれ記憶手段から読み出して,出力手段である液晶パネルに表示しているから,本件ホームアプリにおいて「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」(構成要件E)処理が実行される旨主張する。

しかしながら,前記1(2)イで説示したとおり,本件発明1の「ポインタ」は,「座標位置を指定するという機能を満足する,手で操作されるひと固まりの装置及びプログラム」であるものと解することはできないから,控訴人の上記主張は,その前提において理由がない。

(2)ア  次に,控訴人は,予備的主張として,本件ホームアプリを実行した際に指に追従して移動するショートカットアイコン(ロングタッチをしたショートカットアイコン)が本件発明1の「ポインタ」に相当し,また,「指に追従して移動するショートカットアイコンの座標位置」が「ポインタの座標位置」(構成要件B)に相当する旨主張するが(前記1(3)イ),上記予備的主張を前提とした場合において,本件ホームアプリにおいて「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」(構成要件E)処理が実行されることについての主張立証はない。

イ  なお,以下において,この点について念のため判断する。

(ア) 本件発明1の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,本件発明1は,処理手段に,「前記入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると,当該受信した際の前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における操作メニュー情報を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示すること」(構成要件E)を実行させる構成を備えていることを理解することができる。

また,本件明細書は,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」との語について,「入力手段としてのポインティングデバイスから,画面上におけるポインタの座標位置を移動させる命令(電気信号)を処理手段が受信することである。」(段落【0020】)と定義し,さらに,本件明細書には,「ポインタの位置を移動させる命令」は,例えば,利用者がマウスにおける命令ボタンとしての左ボタンや右ボタンを押したままマウスを移動させること(ドラッグ操作)や,キーボードにおける命令ボタンとしての特定のキーを押しつつマウスを移動させる行為等によって行われること(段落【0079】)が記載されている。

以上の請求項1の記載及び本件明細書の記載事項によれば,本件発明1の「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」とは,利用者が入力手段を介して画面上のポインタの位置を移動させる操作を行ったことを検知して,その操作をポインタの座標位置を移動させる命令(電気信号)に変換し,処理手段がその電気信号を受信することを意味するものと解される。

そして,本件発明1においては,処理手段が,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信する」ことによって,受信した際の前記記憶手段に記憶されているデータの状態を特定し,当該特定したデータ状態を表すデータ状態情報に関連付いている前記操作情報を特定し,当該特定した操作情報における「操作メニュー情報」を,前記記憶手段から読み出して前記出力手段に表示することを実行する構成(構成要件E)を備えている。

(イ) これを本件ホームアプリについてみるに,本件ホームアプリがインストールされた被告製品においては,利用者がタッチパネル上のショートカットアイコンを指で長押し(ロングタッチ)すると,その際のホーム画面のページ番号に応じて,画面上に左右スクロールメニュー表示が表示され,当該ページが,左端ページであれば「右スクロールメニュー表示」のみが,右端ページであれば「左スクロールメニュー表示」のみが,それ以外のページであれば「左右スクロールメニュー表示」がいずれも表示されるものであり(前記1(3)イ(ア)),左右スクロールメニュー表示は,利用者がタッチパネル上のショートカットアイコンを指で長押し(ロングタッチ)する操作を行うことによって表示されるものであって,利用者がタッチパネル上の指の位置を動かすことにより,当該ショートカットアイコンを移動させる操作によって表示されるものとはいえない。

このことは,①甲32の1及び2(控訴人作成の「被告製品の映像及び映像説明書」)によれば,本件ホームアプリにおいて,タッチパネル上のポインタ(ショートカットアイコン)を指で長押し(ロングタッチ)すると,ショートカットアイコンは,ぶるぶる振動する振動状態に遷移し,振動状態になれば,ショートカットアイコンを移動させる操作(ドラッグ操作)を行わなくても,画面右端に右スクロールメニューが表示されることが認められること,②甲17の2(被控訴人作成の「IS04取扱説明書」)によれば,「ロングタッチする」という項目に,「画面の項目やアイコンを指で押さえたままにします。」と記載されているから,本件ホームアプリにおける「ロングタッチ」とは,ショートカットアイコンを指で押さえたままにすること,すなわち,指を移動しないまま,ショートカットアイコンを押し続ける操作であり,指の移動を伴うドラッグ操作は含まれないことからも明らかである。

したがって,本件ホームアプリにおいて,控訴人が主張する「操作メニュー情報」である左右スクロールメニュー表示を表示させるための電気信号は,ショートカットアイコンを押し続ける操作(ロングタッチ)が行われたことを検知した電気信号であって,ショートカットアイコンを移動させる操作(ドラッグ操作)が行われたことを検知した電気信号ではない。

そうすると,本件ホームアプリにおいては,利用者が入力手段を介して画面上のポインタ(ロングタッチをしたショートカットアイコン)の位置を移動させる操作を行ったことを検知して,その操作をポインタの座標位置を移動させる命令(電気信号)に変換し,処理手段がその電気信号を受信することによって,控訴人が主張する「操作メニュー情報」である左右スクロールメニュー表示を画面上に表示させているものとはいえないから,「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操作メニュー情報を…出力手段に表示する」(構成要件E)処理が実行される構成を備えているものと認めることはできない。

(3)  以上によれば,本件ホームアプリは,本件発明1の構成要件Eを充足しない。

また,本件発明3の特許請求の範囲の請求項3の記載は,本件発明1の構成に「(4)前記入力手段を介して,前記開始動作命令の受信に対応する,前記命令ボタンが利用者によって離されたことによる終了動作命令を受信すると,前記出力手段へ表示している前記メニュー情報の表示を終了すること」(構成要件G)を付加したものであるから,本件ホームアプリは,上記と同様に,本件発明3の構成要件Eを充足しない。

3  結論

以上の次第であるから,本件ホームアプリは,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1及び3の技術的範囲に属しない。

そうすると,本件ホームアプリをインストールした被告製品は,その記憶手段が,請求項1又は3(本件発明1又は3)記載の入力支援コンピュータプログラムを記憶しているとはいえず,その処理手段が,同記載の各処理を行うものともいえないから,本件発明4の構成要件Hを充足せず,その技術的範囲に属しない。また,被告製品は,請求項4(本件発明4)記載の入力支援システムとはいえないから,本件発明5の構成要件Iを充足せず,その技術的範囲に属しない。

したがって,原判決の結論は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 大西勝滋 裁判官 田中正哉)

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