知財高等裁判所 平成27年(ネ)10070号 判決 2015年12月08日
控訴人(原告)
株式会社ヘルシーロースター
訴訟代理人弁護士
室之園大介
被控訴人(被告)
アイリスオーヤマ株式会社
訴訟代理人弁護士
石下雅樹
江間由実子
渡辺知博
江間布実子
永野真理子
益弘圭
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人(以下「被告」という。)は,調理器具の販売の活動に,原判決別紙被告商品等表示目録記載1ないし3の表示(以下「被告表示」という。)を使用してはならない。
3 被告は,被告表示を,調理器具及び包装に付し,又は調理器具及び包装にこの表示を付したものを販売し,販売のために展示してはならない。
4 被告は,看板,パンフレット,ホームページその他の広告物から,被告表示を抹消せよ。
5 被告は,被告表示を付した調理器具を廃棄せよ。
6 被告は,被告表示を付した包装を廃棄せよ。
7 被告は,控訴人(以下「原告」という。)に対し,68万円及びこれに対する平成26年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1 本件は,原告が,自らが販売するノンダクト式無煙ロースターに付している原判決別紙原告商品等表示目録1及び2の表示(以下「原告表示」という。)が原告の商品等表示として周知であり,被告がこれに類似する被告表示を調理器具やその包装に付して販売し,広告物等に付して使用するなどしたことにより,原告の商品等との混同を生じさせた旨主張して,不正競争防止法2条1項1号,3条1項及び2項に基づき,被告の使用する被告表示の使用の差止め,上記表示を付した商品の廃棄等を求めるとともに,同法4条に基づく損害賠償金6468万円の内金68万円及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日(平成26年8月30日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,原告表示が原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないから,被告が被告表示を被告商品等に付した行為は,不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に当たらないとして,原告の請求を棄却した。これに対し,原告が控訴した。
2 前提事実
原判決「事実及び理由」の第2,「1 前提事実」記載のとおりである。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
争点は,原判決「事実及び理由」の第2,「2 争点」記載のとおりであり,争点についての当事者の主張は,原判決4頁4行目「味わった者のみに」を「味わった者に」と改め,以下に当審における当事者の主張を付加するほかは,「3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりである。
(原告の主張)
(1) 原告表示は取引業者の間で周知であること
ア 原判決は,被告商品が一般家庭での使用を想定したものであり,一般家庭向けに全国的に販売されている商品であることを理由に,「全国の一般家庭を構成する一般消費者」を基準として周知性を判断すべきとする。
しかし,一般に,商品等表示の周知性の判断基準となる「需要者」(不競法2条1項1号)には,一般消費者のみならず,それに至るまでの各段階の取引業者も含まれると解されており,いずれかの需要者層において商品等表示が周知となり信用が形成された場合であっても,当該商品等表示を保護する必要がある。そして,被告商品は,一般消費者の手に渡るまでに取引業者によって取引されている以上,取引業者層も周知性の基準とすべきである。
イ そして,以下に述べるとおり,原告表示は,取引業者の間で周知となっていたといえる。
(ア) 原告の販売実績
原告の平成14年4月1日から平成26年3月31日までの間の総売上高は5億9415万1299円であり,原告商品は日本全国の208店舗に合計1219台が導入され,その売上は4億5798万4671円である。
この売上高について,原判決は,「原告の同業者である訴外シンポ株式会社(当裁判所注:以下「シンポ社」という。)の売上に照らすと,原告の売上は無煙ロースターを製造販売する会社の売上として特に高いものではないことが窺われる」などと述べる。
しかし,シンポ社の売上には,ダクト工事費,パチンコ店の排気ダクトの設置,ロースターの保守・修理等,ロースターの販売以外による売上が含まれ,とりわけ,ロースターの保守・修理等が多いものであるから,原告商品の売上との関係で参考になるものではない。また,「無煙ロースター」といっても,原告商品とシンポ社の商品は,煙が発生するか否かという点において根本的に異なるのであって,互いに比較対象とはならない。煙の発生しない「無煙ロースター」の販売市場で見れば,原告のシェアは95%以上であり,圧倒的な市場占有率を誇る。
(イ) 原告商品の宣伝・広告状況
原告は,平成14年4月1日から平成26年3月31日までの間,販促広告費として4611万7719円を支出し,原告商品の宣伝・広告に多額の費用を投じている。また,原告は,原判決別紙「新聞広告一覧表」記載のとおり,産経新聞に41回,日刊スポーツに1回,FujiSankeiBuisinessに1回,日刊ゲンダイに47回,原告商品の広告を掲載した。新聞広告は,一般消費者か取引業者かを問わず目にするものであるから,これにより,取引業者に対する宣伝効果がある。
さらに,原告は,原判決別紙「掲載雑誌一覧表」記載のとおり,平成20年3月から平成26年4月までに合計50回,雑誌広告を掲載した。これらの雑誌の多くは,主として飲食店関係者を対象としたものであり,取引業者に対する大きな宣伝効果がある。
加えて,原告は,原判決別紙「出店展示会一覧表」記載のとおり,合計11回原告商品を展示会に出展した。これらの展示会は,主として飲食店関係者を対象とするものであり,取引業者に対する大きな宣伝効果がある。
その上,原告は,平成18年6月から訴外オーバーチュア株式会社,訴外ヤフー株式会社にリスティング広告を依頼し,原判決別紙「リスティング広告費一覧」記載のとおり,合計738万4180円を支出した。また,原告商品を掲載した原告のホームページの閲覧者数は,平成27年1月26日の時点で39万2808人であった。これらの閲覧者のうち,取引業者の割合は不明であるが,相当数が含まれていると考えられるから,取引業者に対する宣伝効果がある。
(ウ) ウェブサイト上のPR・口コミ
原告商品の導入店である焼肉店等が,ウェブサイト上において,原告商品を導入していることをPRしたり,導入店を訪れた一般消費者がウェブサイト上で原告商品や導入店の口コミを投稿したりしている。
PR・口コミサイト(甲71。枝番号を含む。以下,書証元番号だけの摘示でも同様とする。)は,原告がウェブサイト検索をして発見したPRや口コミであり,これだけでも相当な数に及ぶが,これらのPR・口コミを目にする取引業者の数は,更に多数に上る。インターネット社会において,これらのPR・口コミによる宣伝効果は極めて大きく,原告表示は,日本全国はおろか,世界中の取引業者に周知されているといえる。
(エ) 原告商品の資料の送付(ダイレクトメール)
原告は,新聞及び雑誌広告のほか,原告商品の資料を,法人や個人に繰り返し郵送しており,その送付先は,これまでに1万0033件以上に及ぶ。
そして,送付先の法人がその取引先に原告商品を紹介することで,当該取引先も原告商品を知ることがあり,原告が資料を送付した法人を通じて原告商品のことを知り,原告に直接問い合わせてきた企業や個人も実際に多数存在するなど,原告商品の資料の送付は,取引業者に対する大きな宣伝効果がある。
(オ) テレビ,動画サイト,通販番組等
原告商品は,平成23年4月22日,テレビのローカル(京都)番組で紹介されており,その内容は,現在でもウェブサイトの動画サイト(You Tube)にアップロードされていて,世界中の人々が閲覧できる。
また,原告は,平成24年10月から12月にわたって合計30回,通販番組に原告商品を出品している。
ウ 以上によれば,原告表示は,全国の取引業者の間で周知となっており,特に,新聞広告が集中的に行われ,ダイレクトメールも多数送付されている大阪府,中国地方,四国地方及び北海道の取引業者の間で周知となっていたことは明らかである。
(2) 原告表示は一般消費者の間で周知であること
以下のとおり,原告表示は,一般消費者の間においても周知である。
ア 原告商品の導入店を通じた周知性
原告商品を導入している焼肉店等の店舗(一般家庭への導入を含む。)は,日本全国で236件であり(平成27年9月30日時点),これまでにそれらの導入店において原告商品に接した客は,1300万人は下らない。これは,導入店来店者数一覧表(甲78)に記載したとおりの試算によるものであるところ,その試算法は,以下のとおりである。すなわち,1テーブル当たり3人(原告商品は4人席<平均人数は(1人+2人+3人+4人)÷4=2.5人>と6人席<平均人数は(1人+2人+3人+4人+5人+6人)÷6=3.5人>があり,それぞれの販売数は大体同じであるから,1テーブル当たりの平均人数は3人<(2.5人+3.5人)÷2>とし,各導入店で,ランチ営業は各テーブルが1.5回転,ディナー営業では2回転すると仮定して,「平均人数(3人)×テーブル数×回転数×実質営業日数」により算出し,一般家庭については,一律に使用者を20人として算出している。
これらの導入店を訪れる客が一般家庭を構成する一般消費者であることは明らかであるところ,原告商品は,焼き網の両側が土手状になっていて,その部分の斜面(焼き網で食材を焼いている者の目に必ず入る場所)に,縦横約1cmの大きさの極太の文字ではっきりと原告表示がなされている。その文字は焼き網にレーザーで彫刻されており, 焼き網が何度使用されても消えることはない。
経験則上,食材を焼けば煙が出るのが通常であるところ,原告商品は,食材を焼いても煙そのものが発生しないのであるから,原告商品を使用して食材を焼いた者に対し,大きなインパクトを与えることは疑いない。そのような大きなインパクトを受けたところに,上記のとおり,焼き網両側の土手状の部分に記された原告表示が目に飛び込んでくるのであるから,原告商品の訴求力は極めて高く,原告商品を使用した一般消費者は,明らかに原告商品を記憶にとどめるといえる。
イ 原告商品の宣伝・広告状況
原告商品の宣伝・広告状況は,前記(1)イ(イ)において記載したとおりであり,多数の新聞広告を掲載しているところ,新聞広告は一般消費者も目にするものであるから,一般消費者に対する宣伝効果は大きい。
この点,原判決は,原告商品の新聞広告について,広告内容が一般消費者に向けた内容ではない旨述べるが,広告内容には「焼肉店・食堂・ホテル・デパート・焼鳥屋・焼魚屋・家庭食卓などに多く選ばれたわけがあります。」(甲11の1),「業務用・家庭用同様!」(甲11の2),「業務用 家庭用」(甲11の3,14の1,14の2),「導入事例焼肉店,焼き居酒屋,焼き鳥屋,和風焼肉創作料理店,ホテル,デパート,スーパー銭湯,マンション,一戸建て」(甲11の4ないし11の6)などと記載されており,一般消費者も広告の対象としている。
また,原告は合計50回の雑誌広告を掲載したが,それらの雑誌は日本全国の書店で販売されているものであり,一般消費者が手に取ることもないわけではなく,一定の宣伝効果がある。
さらに,リスティング広告,原告のホームページ閲覧者数も前記(1)イ(イ)のとおりであり,閲覧者のうち一般消費者の割合は不明であるが,常識的に考えて約40万人のすべてが取引業者であるはずがなく,一般消費者も多数含まれていると考えられるから,一般消費者に対する宣伝効果は大きい。
その上,原告は,展示会に合計11回原告商品を出展したが,それらの展示会も一般消費者が来ないわけではなく,一般消費者に対する一定の宣伝効果がある。
ウ ウェブサイト上のPR・口コミ
ウェブサイト上におけるPR及び口コミについては,前記(1)イ(ウ)のとおりである。原告商品の導入店がウェブサイト上で原告商品を導入していることをPRしたり,導入店を訪れた一般消費者がウェブサイトで原告商品や導入店の口コミを投稿したりしているのであり,一般消費者に対して極めて大きな宣伝効果がある。
エ 原告商品の資料の送付(ダイレクトメール)
資料送付の状況は,前記(1)イ(エ)のとおりであるところ,資料の送付先が法人である場合,その法人の従業員等が原告商品を知ることになる。それらの従業員等や,さらに取引先の従業員は,一般消費者でもあるから,資料の送付は取引業者のみならず一般消費者に対する宣伝にもなる。
オ テレビ,動画サイト,通販番組等
前記(1)イ(オ)のとおりであり,一般消費者も閲覧できる。
また,原告は,一般消費者に向けて原告商品のインターネット販売を行っている。
(被告の主張)
(1) 原告の主張(1)に対し
周知性の認識主体は,営業の種類,性質,取引形態など当該事案における個別的・具体的事情を考慮して判断されるところ,原判決が適切に認定するとおり,被告商品は,焼肉店での使用が想定される原告商品とは異なり,一般家庭での使用を想定したものであり,一般家庭向けに全国的に販売されている商品である。
かかる被告商品の特性からすれば,原判決が判示するとおり,周知性の認識主体は,全国の一般家庭を構成する一般消費者であると解するべきである。
よって,取引業者層も需要者に含めるべきとする原告の主張は誤りである。
したがって,これを前提として,取引業者層において原告表示が周知であったとする原告の主張も成り立たない。
(2) 原告の主張(2)に対し
ア 原告の主張(2)アに対し
原告は,原告商品に触れた来客数の試算において,ランチのために焼肉店等の飲食店に来店した者を含めるところ,ランチ営業の場合には,原告商品を利用するとは限らず,また,ディナー営業の場合にも,すべての来店者が原告商品を利用するとも限らないから,当該試算は合理性を欠く。また,一般家庭への来店者を含めて算定する根拠が不明である。
また,原判決が認定するとおり,原告の売上は,平成24年4月1日から平成25年3月31日の間は1億円を上回ったものの,他の年は1億円にすら届いておらず,原告の売上高の中には,附帯設備や設置諸経費なども相当程度含まれていることを加味するならば,なおさらその売上高は小さい。
さらに,原判決も認定するとおり,原告商品を導入した焼肉店等の飲食店は全国でもわずか208店舗にすぎず,総務省統計平成18年事業所・企業統計調査によれば,焼肉店の店舗数は2万1146件であることからすると,原告商品を導入した焼肉飲食店は1%にも満たない0.98%にとどまる。
したがって,これらの店舗に設置された原告商品を通して全国の一般消費者が原告表示を認識したと認めることはできない。
イ 原告の主張(2)イに対し
新聞広告については,多いものでも6年間で41回(産経新聞),3年3か月の間に47回(日刊ゲンダイ)掲載されたにすぎず,大半は全国規模ではなく地域が限定されていた。広告内容も,原告商品の特徴として「経営者が喜ぶ」「お客様が喜ぶ」「スタッフが喜ぶ」等の記載があるように,主として飲食店経営者又はその関係者を対象とした内容である。
また,雑誌広告についても,掲載された雑誌は雑誌名から大半が飲食店経営者又はその関係者向けであり,広告の回数も約7年間で10誌に50回掲載されたにすぎない。その内容も,新聞広告と同様に,主として飲食店経営者又はその関係者を対象としたものである。
さらに,原告のホームページの閲覧者数についても,そもそも閲覧者が一般消費者であるかは全く不明である上,訴外ニールセン株式会社の分析に係る平成25年の日本におけるパソコンからの訪問者ランキングや被告代理人のホームページ閲覧者数と比較しても,原告ホームページの閲覧者数は圧倒的に少ないことは明らかである。
その上,原告商品の展示会への出展についても,展示会の名称が「居酒屋産業展」「外食産業フェア」等であることからして,飲食店経営者向けのものであり,一般消費者が入場する機会は無視できるほど少ないというべきである。
ウ 原告の主張(1)ウに対し
原告が提出するPR・口コミサイト(甲71)を見るに,コメントの圧倒的多数は,焼肉店が提供する料理の値段,肉質,及び味であり,原告商品や原告表示について明確に言及したコメントはほぼ皆無である。
仮に,原告主張のとおり,原告商品の訴求力が極めて強いとすれば,原告商品や原告表示について言及したコメントが多数存在してしかるべきであるところ,かかるコメントは上述のとおり皆無に等しいことは,一般消費者にとって原告商品は訴求力が極めて低く,むしろ陳腐でありふれたものであることを裏付ける。
したがって,原告が提出する口コミ等は,全国の一般家庭を構成する一般消費者の間で周知であることを裏付けるものではない。
エ 原告の主張(1)エに対し
原告の主張するダイレクトメールが実際に送付されたかは,不明である。
この点を措くとしても,発送先である1万0033件のうち,個人と表示されているのは,わずか313件にとどまるものである上,原告商品の資料,招待状に,「地域モニター店募集」,「排煙ダクトの要らない店作りをご提案」,「卸価格表」,「ビジネスローン」等という記載があることから,専ら事業者に向けて作成された資料であることは,疑問の余地がない。
したがって,これらの送付が一般消費者に対する全国規模での宣伝となることはなく,これをもって周知性を根拠付けるものとはいえない。
オ 原告の主張(1)オに対し
原告商品が紹介された番組について,原告はその視聴率,放映された時間,地域的範囲,及び You Tube での視聴回数等を一切明らかにしておらず,一般消費者に対する影響力について何らの立証も行なっていない。
また,同番組は全国ネットではなく京都のローカル番組である上,取り上げられた時間は9分程度にとどまる。しかも,番組を見ると,原告代表者による原告商品の極めて分かりにくい説明を中心としつつ,結論としては原告商品を導入する店舗に足を運ぶよう促す内容であり,原告において京都KBSに売り込んだ結果放映がなされた可能性が極めて強い。
したがって,テレビや動画サイトも全国の一般家庭を構成する一般消費者の間で周知であることを裏付けるものではない。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,原告表示は,原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求を棄却した原判決の認定判断は相当であって,原告の請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下の1に付加訂正するほかは,原判決「第3 当裁判所の判断」に示すとおりであり,当審における主張に対する判断は2のとおりである。
1 付加訂正
(1) 原判決7頁3行目「設置して使用する。」を「設置し,上に1.5㎏のステンレス製の網を載せて使用する。」と改める。
(2) 原判決7頁4行目「原告商品は,」の後に「主として」を加える。
(3) 原判決7頁4,5行目「焼肉店」を「焼肉店等の飲食店」と改める。
(4) 原判決7頁8行目「ショールーム」から10行目末尾までを「ショールームにおいて,実際に原告商品を用いて焼いた食材を試食として提供し,これらの来訪者を中心として原告商品を販売するほか,ウェブサイトにおける販売もしている。(甲3,11の1,66の1ないし203,67,77)」と改める。
(5) 原判決7頁12行目「大きさが」を「ふたを閉じた場合の大きさが」と改める。
(6) 原判決7頁25行目「販売され(甲55),」の後に「平成27年1月25日までの間において,」を加える。
(7) 原判決8頁2行目「(甲66の1」を「(甲65,66の1」と改める。
(8) 原判決8頁5行目「合計したものである。」を「合計したものであり,そのうちには,一般家庭への販売を含む。」と改める。
(9) 原判決8頁16行目「原告商品を」以下17行目末尾までを「原告商品を導入した焼肉店等の飲食店のうち16店舗は,そのウェブサイト上において,原告表示を掲載し,原告商品の導入店であることを広告している(甲56,71)。」と改める。
(10) 原判決10頁21行目「焼肉店」を「焼肉店等の飲食店」と改める。
(11) 原判決11頁5行目「全国の」を「少なくとも一地方における」と改める。
(12) 原判決11頁15行目「以降に原告商品を導入した焼肉飲食店等は日本全国で208店舗」を「以降平成27年1月25日までの間に原告商品を導入した焼肉店等の飲食店は,日本全国で208店舗(なお,その一部に一般家庭を含む。)」と改める。
(13) 原判決11頁17行目「全国の」を「少なくとも一地方における」と改める。
(14) 原判決11頁20行目「新聞広告についてみると,」の後から22行目「地域を限定したものである。」までを「産経新聞について,多いものでも,関西地域における掲載と統合版の掲載とを併せて6年間で合計28回,中国四国版については統合版と併せても6年間で合計20回であり,また,日刊ゲンダイについては,3年3か月の間で,北海道地域において17回,統合版において30回掲載されたにすぎない。」と改める。
(15) 原判決12頁17行目「全国の」を「少なくとも一地方における」と改める。
2 当審における当事者の主張に対する判断
(1) 原告の主張(1)について
ア 原告は,被告商品は,一般消費者の手に渡るまでに取引業者によって取引されている以上,取引業者層も周知性の基準とすべきであり,原告表示は,取引業者間で周知であった旨主張する。
そこで検討するに,不競法2条1項1号の趣旨は,周知の他人の商品・営業表示と同一又は類似の表示を用いることにより,需要者に商品・営業の出所の混同を生じさせ,他人の信用へただ乗りすることを防止して,周知の商品等表示に化体された営業上の信用を保護し,公正な競争を確保しようとするものであることに照らすと,周知性の認識主体は,営業の種類,性質,取引形態など当該事案における個別的・具体的事情を考慮して決せられるべきものである。
そして,一般的に,「需要者」には,最終消費者のみならず,それに至るまでの取引者を含むと解される場合が多いとしても,本件において,原告商品及び被告商品の種類,性質,取引形態は,原判決第3,1(1)のとおりであり,被告商品が一般消費者向けであるだけでなく,原告商品も一般消費者に販売されるものであり,また,両商品を取り扱う「取引者」には,一般消費者に向けて家庭用調理器具を扱うウェブサイト,ホームセンター,電気店等の量販店等も含まれるから,このような取引者における認識と一般消費者の認識とは,差異が生ずるようなものではないと考えられる。しかも,一般消費者は専門的な取引者に比べ,通常,誤認混同を生じやすいことを考慮すると,不正競争該当性の有無を判断するに当たり,周知性の認識主体を一般消費者として検討することには,一定の合理性がある。したがって,周知性について,一般家庭を構成する一般消費者の間で周知となったことが必要であるとした原判決の判断に誤りがあるとはいえない(ただし,その範囲は,必ずしも全国の一般消費者である必要はなく,少なくとも一地方の一般消費者の間で周知であれば足りるものと解される。)。
イ(ア) 原告は,原告の販売実績が,取引業者における原告表示の周知性を基礎付けるものであると主張し,原判決が,原告の同業者であるシンポ社の売上に照らすと,原告の売上は無煙ロースターを製造販売する会社の売上として特に高いものではないと認定したことを論難する。
しかし,「需要者」に取引者を含めて検討するとしても,本件における取引者は,前記のとおり,一般消費者に向けて家庭用調理器具を扱うウェブサイト,ホームセンター,電気店等の量販店等であるところ,原告は,加熱調理器具市場における原告のシェアについて主張立証をしておらず,一般消費者や量販店等が原告表示を広く認識できたと認定できるだけの販売実績を認めるに足りる資料はない。そして,原告の主張するように,シンポ社の39億円の売上の中には,保守・修理費用等が含まれるとしても,これと対比した原告の売上も,原告商品とともにセット販売される様々な設備を含んだものである。したがって,厳密な比較は難しいといえるものの,原告の売上が最も多い年度においても1億円を上回らず,12年間の平均売上額も約4900万円にとどまっていることからすれば,無煙ロースターを製造販売する会社の売上として特に高いものではないことが窺われるとした原判決の認定に誤りがあるとはいえない(なお,この点の比較を除外したとしても,結論が左右されるものでない。)。
また,原告は,原告商品のような無煙ロースターについて原告のシェアが95%であると主張するが,本件で問題とする周知性の識別主体は,前記のとおり,一般家庭を構成する一般消費者であって,原告商品のような無煙ロースターを購入して設置する飲食店に限定されるものではないから,上記事実は,本件の周知性判断を左右しない。
(イ) 原告は,飲食店関係者を対象とする雑誌広告や展示会における宣伝効果等があるとし,取引業者の間でも原告表示が周知であった旨主張する。
しかし,前記のとおり,取引者を「需要者」に含めるとしても,本件における取引者は,前記のとおり,一般消費者に向けて家庭用調理器具を扱うウェブサイト,ホームセンター,電気店等の量販店等であって,焼肉店等の飲食店経営者やその関係者ではないから,これを前提とする上記主張は採用できない。
(ウ) また,原告商品の資料(ダイレクトメール)をこれまで1万0033人に送付した旨主張し,その証左として原告商品の資料送付先一覧(甲70)を提出する。
しかし,甲70の送付数はこれまでに送付した延べ数であり,その送付先が全国に及んでいることも勘案すると,その数自体が多数とはいえない。また,その送付先について,焼肉店等の飲食店が多いことは一見して明らかであるものの,一般消費者が使用する家庭用調理器具を扱う量販店等が含まれているか否か,及びその割合は明らかでなく,これを基礎として原告表示の周知性を認めることはできない。
(エ) さらに,原告は,その他,ウェブサイト上のPR・口コミが多数存在することや,テレビの通販番組等における紹介の事実を主張するが,前者については,家庭用調理器具を扱う量販店等による口コミと思われるものは存在せず,後者については,その内容も明らかではなく,いずれも,原告表示の周知性を基礎付けるものとはいえない。
(2) 原告の主張(2)について
ア 原告は,原告商品の導入店への来客数及び原告商品を導入した一般家庭における使用者は,試算によれば1300万人は下らないことから,全国の一般家庭を構成する一般消費者の間において,原告表示が周知であった旨主張する。
しかし,そもそも,原告主張の人数は,延べ人数であるとはいえ,我が国の人口の 1 割強に及び,到底合理的な試算とは考えられない上,原告商品の導入店1件当たりの来客数の試算方法についても,全店舗がほぼ満席を継続することが前提とされており,客観的な裏付けを欠くものであり,同様に,一般家庭の購入者宅において原告商品に触れる人数を20人と算出する根拠も薄弱であるから,その試算には合理性が認められない。
また,原告の主張によれば,原告商品の導入店は,一般家庭用を含めて236件であり,その内訳(甲78)を見ると,一般家庭以外の店舗は197件であるところ,総務省統計局により全国の焼肉店数と推計される2万1146店(乙31)に基づいて市場占有率を試算すると,全国の焼肉店に占める原告商品導入店の割合は,約0.93%にとどまるものである。
さらに,原告商品は,テーブルに穴を開けて設置され,その上にステンレス製の網を置いて使用される無煙ロースターであるところ,原告表示は,その銀色のステンレス網の長尺辺側の縁に「ヘルシーロースター」と2箇所刻印されており,やや黒色の文字として認識されるものであり(甲76),その表示が一般の来店者において認識しやすいとはいえない上,来店者がこれを認識したとしても,単に焼肉等を飲食しようとして来店した者において,当該業務用の無煙ロースターを家庭に導入しようと意図する者が多いとは考えられないことからすると,この表示を記憶にとどめる者も少数にとどまるものと考えられる。
そうすると,原告商品の導入店における来店者数の推計から,原告表示が一般消費者において周知であったと認めることはできず,原告の上記主張は採用できない。
なお,原告提出の導入店来店者数一覧表(甲78)によれば,その販売先として,店舗が197店,一般家庭が39戸と集計分類されるところ,この分類が仮に正しいとしても,この程度の一般家庭数に基づいて,原告商品が一般家庭を構成する一般消費者に多く販売され,一般消費者における周知性を獲得していたと見ることもできない。
イ また,原告は,原告商品の宣伝・広告に多額の費用を投じ,原判決別紙「新聞広告一覧表」記載のとおり,一般消費者か取引業者かを問わずに目にするような媒体である産経新聞に41回,日刊スポーツに1回,FujiSankeiBuisinessに1回,日刊ゲンダイに47回,原告商品の広告を掲載したこと,原判決別紙「掲載雑誌一覧表」のとおり,雑誌広告を掲載したこと,展示会に原判決別紙「出店展示会一覧表」記載のとおり,11回出店したことなどから,原告表示は,一般消費者においても周知であった旨主張する。
しかし,新聞広告,雑誌掲載については,原判決第3,1(2)ウ及び前記1(14)において述べたとおりの掲載回数にすぎず,また,その内容も,一般消費者や,一般の消費者が使用する調理器具を扱う量販店などを対象にしたものではなく,主として飲食店経営者又はその関係者を対象としたものと認められ,展示会についても同様である。この点につき,原告は,広告内容には「焼肉店・食堂・ホテル・デパート・焼鳥屋・焼魚屋・家庭食卓などに多く選ばれたわけがあります。」(甲11の1),「業務用・家庭用同様!」(甲11の2),「業務用 家庭用」(甲11の3,14の1,14の2),「導入事例焼肉店,焼き居酒屋,焼き鳥屋,和風焼肉創作料理店,ホテル,デパート,スーパー銭湯,マンション,一戸建て」(甲11の4ないし11の6)などと記載されており,一般消費者も広告の対象としていると主張する。しかし,当該広告は,一般消費者を対象に含むとしても,その記載内容は,業務用の原告商品を一般家庭においてもそのまま導入できるというにすぎないものであり,一般消費者を主たる対象とした広告とは解されないから,一般消費者である購読者が当該広告に注目することはなく,仮に目に触れたとしても,記憶にとどめるほどであったとは認められない。
そうすると,一般消費者の目に触れるような一般紙(誌)に掲載された広告や展示会であるとしても,一般消費者を主たる対象とするものではないことからすれば,その広告記事や展示に基づいて特定の商品等表示が記憶されるとは考え難く,これらによっても,一般消費者(又は一般消費者が使う家庭用調理器具を扱う量販店等の取引者)における周知性を認めることはできない。
ウ 原告は,原判決別紙「リスティング広告費一覧」記載のとおり,合計738万4180円を支出したほか,原告商品を掲載した原告のホームページの閲覧者数は平成27年1月26日の時点で39万2808人であり,この中に一般消費者も多数含まれていたはずであるから,一般消費者における原告表示の周知性が認められる旨主張する。
しかし,リスティング広告に関する証拠(甲63,64)によっても,どのような対象者がリスティング広告を見たのかは明らかではない。また,原告のホームページ(甲5,67,72)には,「店内設置例」,「全国導入店」の紹介のほか,「厨房設備機器展」への出店の宣伝などが掲載され,各所に「業界初!」と表示するなど,主として,焼肉店やホテル等の飲食店経営者を対象とした記載がなされている。その画面の端には,「家庭用ネットで購入」との宣伝や家庭用の資料請求欄があるものの,その扱いは小さいものであり,あくまで業務用の原告商品を一般家庭にも導入できるというにすぎないものであるから,これを記憶にとどめる一般消費者は多くはないと推測できる。そして,原告のホームページへの来訪者のうち,一般消費者がいくらか含まれているとしても,その割合は明らかではなく,これをもってしても,一般消費者において原告表示が周知であったと認めるに足りない。
エ さらに,原告は,ウェブサイト上でのPRや口コミの投稿から,一般消費者における周知性が認められると主張し,PR・口コミサイト(甲71)を提出する。
しかし,甲71及び導入店来店者数一覧表(甲78)によれば,原告が原告商品を平成27年9月30日までに焼肉店等の飲食店に導入したと主張する店舗は,前記アのとおり,197店であり,全国の焼肉店の約0.93%にとどまるものであるところ,そのうち,ウェブサイトにおいて,原告表示を用いた宣伝をしている店舗は,わずか16店にとどまっている。また,上記の各店舗についてそれぞれ寄せられた来客の多数の口コミのうち,原告表示を掲載しているものは9店舗に係る17件にすぎない。口コミの中には,煙の出ないロースターや,水冷式の焦げないロースターである旨の記載が散見されるものの,周知として認識される対象となるのは,原告表示であるから,上記記載をもって原告表示の周知性を基礎付けるものと見ることはできない。
オ 原告は,テレビのローカル番組(京都)で放映され,その内容がウェブ上の動画サイト(You Tube)で閲覧できることや,平成24年10月から12月にかけて合計30回,通販番組に原告商品を出品した旨主張する。
しかし,上記の番組のいずれについても,その内容が明らかにされておらず,原告表示が番組内でどのように表示されたかが不明である上,その広告の対象者も明らかでない。しかも,当該ローカル番組は1回の放映にとどまっており,動画サイト(You Tube)上での閲覧回数も明らかではない。また,上記通販番組は,期間が短い上,頻度が著しいものでもなく(甲73,74),この期間によって需要者に浸透するとは考え難い。さらに,当該番組は,加入者のみが視聴可能な有料テレビに係るものであるから,視聴者は相当に限定されたものである。
そうすると,これらによっても一般消費者に対する周知性を基礎付けるものとはいえない。
カ 原告は,一般消費者に向けて原告商品のインターネット販売を行っているから,一般消費者への周知性が裏付けられると主張する。
しかし,インターネットでの販売をしているからといって,原告表示の一般消費者における周知性が裏付けられるものではないことは明らかである。
3 以上によれば,原告表示は,需要者である少なくとも一地方における一般家庭を構成する一般消費者の間に広く認識されていると認めることはできない。
したがって,原告の被告に対する請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却すべきであり,同旨の原判決は相当である。
第4結論
よって,本件控訴には理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀)