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知財高等裁判所 平成27年(ネ)10100号 判決 2015年11月18日

控訴人

被控訴人

株式会社三幸商事

訴訟代理人弁護士

竹内喜宜

補佐人弁理士

岡村隆志

堀米和春

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,控訴人に対し,4500万円及びこれに対する平成26年8月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

本件は,発明の名称を「草質材圧着物」とする特許(特許第3871395号。以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)の準共有者である控訴人が,被控訴人が輸入し,きのこ栽培用の配合培地に使用したトウモロコシの芯(コーンコブ)の粉砕物(コーンコブミール)が本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属し,被控訴人による上記輸入及び使用が本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被控訴人に対し,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として4500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年8月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

原判決は,控訴人主張の上記コーンコブミールは本件発明の技術的範囲に属しないとして,控訴人の請求を棄却した。

控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。

1  前提事実

次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決2頁7行目の「発明者である」を「発明者であり,かつ特許権者である」と改める。

(2)  原判決2頁22行目から3頁19行目までを,次のとおり改める。

「本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。

「【請求項1】

きのこ栽培の培地材料として使用されるカサ比重0.15~0.25以下に調整したリグニンに富む草質材の粉砕物をカサ比重0.3~0.7に圧縮,結着して圧着物とし,次いで圧着をほぐしてなる解着物。」」

(3)  原判決3頁20行目の「(4)」を「(3)」と,同頁22行目の「(以下「被告製品」という。)」を「(以下,このうち,本件特許権の設定登録日である平成18年10月27日から本訴提起日である平成26年7月11日までの間に被控訴人が中国から輸入したコーンコブミールを「被控訴人製品」という。)」と,同頁25行目の「(5)」を「(4)」とそれぞれ改める。

(4)  原判決4頁1行目から2行目までの「被告製品」を「被控訴人製品」と改める。

2  争点

(1)  被控訴人製品の本件発明の技術的範囲の属否

ア 被控訴人製品が構成要件Bを充足するか否か(争点1)

イ 被控訴人製品が構成要件Dを充足するか否か(争点2)

(2)  間接侵害の成否(争点3)

(3)  本件特許の無効理由の有無(争点4)

(4)  控訴人の損害額(争点5)

3  争点に関する当事者の主張

次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」第2の3に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決4頁15行目及び17行目の各「被告製品」を「被控訴人製品」と改める。

(2)  原判決4頁19行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。

「ア(ア) 被控訴人は,被控訴人が出資した中国鉄嶺市にある東金池土特産品加工有限公司(以下「東金池土」という。)及びそれ以外の中国の事業者から,多くのコーンコブミールを輸入し,被控訴人製品として使用しているが,本件発明の発明者であるAは,中国におけるコーンコブミール事業の創始者であり,東金池土は,Aが指導した現地の関係者が操業した会社であるし,他の事業者においても,Aによって確立された本件発明に係る技術が標準となっている。

Aは,平成23年1月22日に東金池土を訪れ,その場で粉砕されたコーンコブミールのサンプルと,既に同所で粉砕されていたコーンコブミールのサンプルとを袋に入れたものを入手し(甲27の写真3ないし6),これらのコーンコブミールのサンプル(圧縮前の粉砕物)について,同月23日にカサ比重を測定した。当該サンプルについては,水分が15%以下であったため,さらに乾燥させることなく,そのまま1000ccのビーカーに入れ,打撃振動を10回行い,重量を測定してカサ比重を算出したところ,0.22及び0.23であった(甲7)。

(イ) Aは,平成24年2月,中国におけるコーンコブミールの技術標準を作る目的で,中華人民共和国鉄嶺出入境検査検疫局及び現地事業者の協力を得て,現地事業者の3工場で生産したコーンコブミールの「粉砕物のカサ比重」を含む品質について,検疫当局が証明した品質証書(甲18ないし20)を取得した。

この品質証書によれば,「粉砕物のカサ比重」は0.21から0.22であるから,中国で生産されているコーンコブミールの「粉砕物のカサ比重」は,本件発明の構成要件Bを充足しており,中国から輸入したコーンコブミールを用いた被控訴人製品も同様であると推定される。

さらに,中国からコーンコブミールを輸入していたオリエントジェネライズ株式会社(以下「オリエントジェネライズ社」という。)は,当該コーンコブミールが本件発明の技術的範囲に属することを確認し,Aとの間で特許権通常実施権設定契約(甲10)を締結しており,このことからも,中国で生産されているコーンコブミールの「粉砕物のカサ比重」は,本件発明の構成要件Bを充足し,被控訴人製品も同様であると推定される。

(ウ) 圧縮・結着後にほぐしたコーンコブミールのカサ比重は粉砕物のカサ比重より25%程度重くなるはずであるところ,控訴人が袋を開封した状態で保管している被控訴人製品の解着物のカサ比重を測定したところ,0.231(甲17)であった。この数値を粉砕物のカサ比重に換算すると,構成要件Bの「カサ比重」の数値範囲に入るから,被控訴人製品は同構成要件を充足するものと推定される。

(エ) Aが代表者を務めていた株式会社森と羊と土の会(以下「森と羊と土の会」という。)は,発明の名称を「きのこ栽培用培地」とし,特許請求の範囲を「1 草質素材を機械的破砕処理することにより,破砕物の乾燥物をメッシュシリンダーに軽く充填し上下の打撃振動を100回行ったときの1cc当りの重量を基準にして算出したカサ比重が0.15~0.25であるように調整することを特徴とするきのこ栽培培地用草質基材の製造法。」,「2 草質素材がモミガラまたはコーンコブである特許請求の範囲第1項記載の製造法。」とする特許出願(特願昭63-206597号。甲33)について,平成10年2月3日付けで特許査定(以下,この特許を「別件特許」という。甲34,35)を受け,同年6月10日に,被控訴人との間で,別件特許について被控訴人に実施権を許諾する旨の特許実施権許諾契約(甲11)を締結し,被控訴人から実施料として1000万円の支払を受けた。

上記事実は,被控訴人が,コーンコブを粉砕した際のカサ比重が0.15ないし0.25であることが,きのこ栽培にとって優れていることを認識し,被控訴人製品において上記のカサ比重の範囲内のコーンコブミールを使用していることを示すものといえる。

(オ) 以上を総合すると,被控訴人製品は,本件発明の構成要件Bを充足する。

イ 被控訴人が示したカサ比重に関する試験結果(乙1,13の1)は,明らかに試料の粒度が粗いものに関するものであり,きのこ栽培の培地材料に用いられる粒度の構成(甲30ないし32)とは相違し,試料の適正を欠いているから,その試験結果は無意味である。」

(3)  原判決5頁4行目の「被告製品」を「被控訴人製品」と改め,同頁7行目冒頭から13行目末尾までを次のとおり改める。

「ア 被控訴人の初回の試験は,東金池土で平成26年8月に製造されたもの(試料1,2)及び同時期に東金池土で圧縮処理した試料を,被控訴人工場において専用破砕機で砕いたもの(試料3,4)を長野県工業技術総合センターに持ち込み,カサ比重及び吸水試験を依頼したもので,その試験結果は,十分信用性がある。

イ 被控訴人の再試験は,前回試験の試料2と同じ袋内のコーンコブミールを試料1として,東金池土から入手した袋詰めの圧縮コーンコブミールを被控訴人工場において破砕機により砕いたものを試料2として用い,同センターの試験担当者が袋から任意に取り出した試料をそのまま乾燥・計測したものであり,恣意的に粒径の大きなコーンコブミールのみを集めて試料としたものではない。

ウ(ア) 控訴人の主張ア(ア)に対し

被控訴人が,きのこ栽培用培地の原料であるコーンコブミールを,東金池土を含む中国の製造業者から輸入していることは認めるが,被控訴人が,東金池土で生産されたコーンコブミールの全量を輸入していることは否認する。また,控訴人主張のサンプルのカサ比重の試験結果は,被控訴人製品のものではない。

(イ) 控訴人の主張ア(イ)に対し

被控訴人は,カサ比重が0.29以上のコーンコブミールを使用しており,控訴人の主張は推測に基づくものにすぎない。

(ウ) 控訴人の主張ア(ウ)に対し

解着物のカサ比重は,本件発明の構成要件Bの圧着前の「粉砕物」のカサ比重とは異なり,これをもって,粉砕物のカサ比重を推測することはできない。

(エ) 控訴人の主張ア(エ)に対し

被控訴人が,平成10年6月10日に,Aと特許実施権許諾契約を締結したことは認めるが,被控訴人代表者は,当時,特許についてそれほど詳しいわけではなく,被控訴人代表者の実兄であるAが経済的に困窮していたことから,資金援助の意味合いで上記契約を締結し,契約金,権利金等の名目で支払をしたにすぎない。被控訴人は,コーンコブを粉砕した後のコーンコブミールのカサ比重が0.15から0.25であることが,きのこ栽培にとって優れているのかどうかを特に理解し,認識していたわけではない。

また,別件特許は,そもそも本件特許とは異なるものであるし,被控訴人が別件特許を実際に実施しているかどうかは,上記特許実施権許諾契約とは別問題である。」

(4)  原判決5頁14行目,16行目,19行目及び26行目の各「被告製品」を「被控訴人製品」と,同頁17行目の「コーンコブミールが,」から18行目の「いるから,」までを「コーンコブミールであるから(甲29ないし32等),」とそれぞれ改め,同頁18行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。

「コーンコブミールの圧着物をほぐすことの本質は,別々の粒子が圧着されて塊となっているものを,元の別れた状態に戻し,別々の粒子とすることであって,積極的に粒度を細かくすることではない。」

(5)  原判決6頁2行目,4行目,5行目,8行目,14行目,24行目及び26行目の各「被告製品」を「被控訴人製品」と,同頁16行目の「過程」を「出願経過」と,同頁20行目の「(以下「本件明細書」という。)」を「(以下,図面を含めて「本件明細書」という。甲4)」とそれぞれ改める。

(6)  原判決7頁2行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。

「(3) 争点3(間接侵害の成否)について

(控訴人の主張)

被控訴人製品をほぐす前の圧着物は,本件発明の解着物の生産に用いられる物であって,本件発明による課題の解決に不可欠なものに当たり,被控訴人は,本件発明が特許発明であること及び上記圧着物が本件発明の実施に用いられることを知りながら,業として,その輸入等を行っているものであり,被控訴人の上記行為について,特許法101条2号の間接侵害が成立する。

(被控訴人の主張)

控訴人の主張は争う。」

(7)  原判決7頁3行目の「(3) 争点3(本件特許の無効事由の有無)について」を「(4) 争点4(本件特許の無効理由の有無)について」と,同頁5行目及び9行目の各「出願前」を「優先日前」とそれぞれ改める。

(8)  原判決8頁5行目の「(4) 争点4(原告の損害額)について」を「(5)争点5(控訴人の損害額)について」と,同頁7行目の「成立後に被告製品を」を「設定登録日である平成18年10月27日から本訴の提起までの7年半の間に被控訴人製品を」とそれぞれ改め,同頁9行目の「したがって,」の次に「上記期間における上記輸入量に対し」を加える。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,被控訴人製品は,本件発明の構成要件Bを充足するものと認められないから,本件発明の技術的範囲に属さず,また,被控訴人の行為について特許法101条2号の間接侵害の成立も認められないから,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は次のとおりである。

1  争点1(被控訴人製品が構成要件Bを充足するか否か)について

(1)  本件明細書の記載事項等について

ア 本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は,前記第2の1(2)記載のとおりである。

イ 本件明細書(甲4)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載がある。

(ア)【0001】

【産業上の利用分野】

本発明はきのこ栽培の培地や飼料,肥料を製造するための発酵用素材として使用されるリグニンに富む草質材を輸送,保存に適し,かつ用に臨んで即席的に培地材料として使用できるようにした圧着物に関する。

【0002】

【従来の技術】

コーンコブ(玉蜀黍の種子を除いた芯)などのきのこ栽培の培地に用いられる草質材は粉砕した製品をそのまま袋もしくは容器に入れて輸送されることが多いが,輸送の途中で袋や容器が破損して粉砕物が外部にこぼれ出るおそれがある。殊に海外から輸入する場合,容量500~1,000kgの大袋を用いフォークリフトで積載,積降しを行うと袋が破れて全内容物が外部に放出されたり,植物防疫検査に際し,殺虫ガスが中心に回らない危険性があり,海外から輸入する場合などの大量輸送を困難にしている。それで20~30kgの小袋に入れて海上輸送し,消費者に届けられているが,この場合その積載,積降しを人手で行うのでコスト高となる。また,人手を省いて機械力を利用すべく20~30kg詰の小袋20~30個をまとめて大袋に入れる2段階方式の梱包輸送も行われているが,包装の作業と資材の面でコストが上昇するのみならず,草質材の粉砕物は容積が大きいので物流コストを上昇させている。更にキノコ生産者がこの粉砕物を他の栄養剤と配合の時猛烈な粉塵公害を発しキノコ栽培において大きな支障を来している。

また,コーンコブミールもきのこ栽培の培地素材として用いられているが,吸水性が悪く,水分の調整に長時間を要するので多量の使用が困難である。それで限られた時間内で水分調整を行っているため材料の組成が不安定となり,オガ屑の代替素材として,特に60%以上使用する場合収量が安定しない。

【0003】

本発明者により輸送を容易にするためにコーンコブなどの草質材を約100kg/c㎡ 以上の高圧で圧縮して固結成形する技術が開示されている(特開平4-211307号)。この技術によれば草質材の容積を約1/5以下に圧縮することができるが,輸送されて来た成形物を培地材料として使用する際には,成形物を先ず粉砕しなければならず,成形と粉砕を離れた別の場所で行うから設備,操作などの面で煩雑であり,コストも高くなる。また飼料用にコーンコブをペレットにした物が出回っているがこれは糠密など添着剤を多量に使用し吸水崩壊時間がかかりすぎることと10mm以上の粒子のものが多く,大き過ぎるためキノコ栽培には適さない。更にキノコの栽培条件に必要なカサ比重の重さの問題が解決されていない。

(イ)【0004】

【発明が解決しようとする課題】

本発明者はキノコ栽培や微生物の発酵に適した物性を保ち,キノコ栽培においては一般の培地よりも増収効果を示すリグニンに富む草質材をその容積を縮少した形で輸送し,しかも消費地において粉砕等の工程を必要としないようにできないかと考えた。また混合過程で粉塵が発生しないで水を加えると短時間で崩壊しキノコ生産の作業性を高める草質材成形物の追求を行った。

【0005】

【課題を解決するための手段】

上記の課題を解決するために本発明者は多くの試行錯誤を経て本発明に到達するに至った。

【0006】

本発明は,きのこ栽培の培地材料として使用されるカサ比重0.15~0.25以下に調整したリグニンに富む草質材の粉砕物をカサ比重0.3~0.7に圧縮,結着した草質材圧着物およびその製造法に関する。

【0007】

きのこ栽培の培地材料として用いられる草質材はなるべく農産廃棄物であるのが好ましく,その例としては,コーンコブ,豆殻のようなトウモロコシもしくは大豆の種子をそれらの母植物から採取した残渣,または,そばもしくは落花生の殻などが挙げられる。これらの材料は一般にリグニンに富んでいる。

【0008】

草質材は圧縮する前に先ずカサ比重0.15~0.25以下に粉砕する。粉砕にはハンマークラッシャーを用いてもよいが,草質材をハンマーで叩いて粉砕するのでその打撃によって粒の表面が硬化して粉砕物の吸水性を損うおそれがあり,たとえばコーンコブの場合はそれが著るしい。これに対し,たとえば,水分14%以下のコーンコブをロータリーカッターを用い,回転する切削刃を用いて切削的に草質材を粉砕すると,粉砕物表面が硬化しないので,吸水性も保水性もすぐれた粉砕物が得られる。

【0009】

所望により,草質材を圧縮したのち,粉砕してもよい。コーンコブなどは圧縮成形したのち切削法で粉砕する方が粉砕を容易にする。

【0010】

粉砕物の好ましい粒度は7~80メッシュである。また,その好ましいカサ比重は草質材の種類,含水率や粉砕方法によって異なるが,たとえば,コーンコブをハンマークラッシャーで粉砕した場合約0.25~0.45であり,切削法により粉砕した場合は約0.15~0.25である。なお本発明におけるカサ比重の測定は試料を105℃の乾燥機で直接乾燥し1000ccのメッシュシリンダーに軽く充填し上下の打撃振動を10回行いこの時の重量を基準にして算出したものである。

【0011】

粉砕物に含有される水分は約25%以下,好ましくは12~10%とするのがよい。水分がこれよりも多いと次の工程で圧縮しても時間の経過と共に再び膨張し易い。粉砕物の水分を調整するためには粉砕前の草質材として低水分量のものを用いてもよいが,草質材をそのまま乾燥するよりも破砕物を乾燥する方が通常容易である。乾燥は常法により加熱や乾燥空気を通じて行うことができる。

【0012】

粉砕物を次いで圧縮して結着,固形化する。圧縮は約60kg/c㎡以上の圧力を加えて行うのがよい。圧力の上限は実用上約400kg/c㎡程度であるが,加圧後の圧着物を粉砕せずに培地材料として使用できる限り更に高い圧力を加えてもよい。60kg/c㎡未満の圧力では吸水性やきのこの増収効率が劣り,また草質材の結着が不充分になり易い。好ましい圧力は150~300kg/c㎡である。また粉砕物を圧縮する時栄養剤活性剤等と混合した場合固形化により栄養物の酸化防止となり更にキノコ生産者のコスト低減や混合の時に発生する粉塵公害の防止となる。

【0013】

圧着,固形化した粉砕物は袋や容器に入れて輸送することができる。袋としては麻袋,プラスチック袋等を用いることができるが,輸送中の吸湿を避けるためたとえば塩化ビニールのような防湿性のプラスチック製の袋や容器を用いるのが好ましい。また,圧着物を入れた袋内の空気を真空ポンプで脱気し,密封すれば袋の容積を減らし,輸送中の虫害や変質を防ぐこともできる。

【0014】

袋または容器に入れて消費地に届けられた圧着物は,必要に応じてほぐしたのち,水を加えれば毛管現象により急速に水分を吸収して膨張,崩壊する粉塵を発生させずで他の培地材料と混和することができる。かくして消費地における草質材の粉砕工程が不要となる。実用上1m3の吸水崩壊時間は30分から1時間以内が好ましい。

(ウ)【0042】

【発明の効果】

本発明によれば,きのこ栽培に用いられるリグニンに富む草質材を集荷地で粉砕,圧縮,固形化して輸送し,消費地では粉砕せずに栽地材料として用いることができるので輸送や加工の費用が大巾に節減される。粉塵公害を防止することが出来る。

ウ 前記ア及びイによれば,本件明細書には,本件発明に関し,①きのこ栽培の培地等に用いられるコーンコブなどのリグニンに富む草質材について,粉砕した草質材をそのまま輸送すると袋や容器が破損してこぼれるおそれがあるほか容積が大きいためコストが高くなり,さらに粉砕物を栄養剤と配合する際に粉塵が発生し,また,輸送を容易にするため草質材を圧縮して固形成形すると,使用する際に粉砕しなければならず成形と粉砕を別の場所で行うため設備・操作が煩雑でコストが高くなること(段落【0002】,【0003】)などの問題点があったこと,②本件発明は,草質材をその容積を縮小した形で輸送し,かつ,消費地において粉砕等の工程を必要としないようにするとともに,混合過程で粉塵の発生を抑えることができる草質材成形物とすることを課題とし(段落【0004】),その課題を解決するための手段として,「カサ比重0.15~0.25以下に調整したリグニンに富む草質材の粉砕物をカサ比重0.3~0.7に圧縮,結着して圧着物とし,次いで圧着をほぐしてなる解着物」にするという構成を採用し(段落【0005】ないし【0014】),その結果,草質材を集荷地で粉砕,圧縮,固形化して輸送し,消費地では粉砕せずに培地材料として用いることができるので輸送や加工の費用が大幅に節減されるとともに,粉塵を防止するとの効果を奏すること(段落【0042】)が開示されていることが認められる。

(2)  被控訴人製品が本件発明の構成要件Bの「カサ比重0.15~0.25以下」に調整した「粉砕物」の構成を備えているか否か

控訴人は,①中国の東金池土で入手した被控訴人製品に使用されているコーンコブミールの圧縮前の粉砕物のカサ比重の測定結果(甲7),②中国の検疫当局発行の現地事業者が生産したコーンコブミールについての「粉砕物のカサ比重」の品質を含む品質証書(甲18ないし20),③圧着したコーンコブミールの解着物のカサ比重の測定結果(甲17),④被控訴人が別件特許を対象に締結した特許実施権許諾契約(甲11)などを根拠として挙げて,被控訴人製品は,「カサ比重0.15~0.25以下」に調整した「粉砕物」の構成(構成要件B)を備えている旨主張するので,以下において判断する。

ア 上記①について

控訴人は,被控訴人は中国の東金池土などのコーンコブミール事業者から被控訴人製品に用いるコーンコブミールを輸入しているところ,これらの事業者においては,中国におけるコーンコブミール事業の創始者であるAによって確立された本件発明に係る技術が標準となっており,Aが東金池土で入手したコーンコブミールのサンプル(圧縮前の粉砕物)のカサ比重を測定したところ,「被告製品の説明書(1)」と題するA作成の報告書(甲7)に示すとおり,0.22及び0.23であったから,被控訴人製品における圧縮前の粉砕物のカサ比重もこれと同様である旨主張する。

そこで検討するに,被控訴人がきのこ栽培用培地の原料であるコーンコブミールを,東金池土を含む中国の製造業者から輸入していることは,被控訴人も認めるところであるが,東金池土が生産したコーンコブミール及びそれ以外の製造業者が生産したコーンコブミールが,被控訴人の生産するきのこ栽培用培地に実際にどの程度使用されているのかについては定かではない上,甲7記載のサンプルが採取されたコーンコブミールが実際に被控訴人に輸出され,被控訴人によって被控訴人製品として使用されたことを認めるに足りる証拠はない。

また,種類や収穫年度等によって性状等の異なり得るコーンコブ(とうもろこしの芯)をそのまま機械的に粉砕するというコーンコブミールの製造態様に照らすと,サンプルの採取時期や採取箇所によって,その粉砕物の形状,粒度分布等にばらつきが生じ,その結果カサ比重に変動が生じ得るものと考えられるところ,東金池土が生産するコーンコブミールについて,粉砕物のカサ比重が通常は上記カサ比重の数値範囲に入るような品質管理を東金池土が行っていることを認めるに足りる証拠はない。

以上に加えて,被控訴人が平成26年8月に東金池土から入手したとする圧縮前のコーンコブについて,本件明細書の段落【0010】記載のカサ比重の測定条件と同様に,105℃で3時間乾燥させた試料を1000mlのメスシリンダーに入れ,10回タッピングした後に測定し,そのカサ比重が0.32及び0.29であったとする測定結果(乙1,13の1)があり,その信用性を積極的に疑わせるべき事情は見当たらないことも踏まえると,甲7の測定結果のみをもって,被控訴人製品における圧縮前の粉砕物のカサ比重が,「0.15~0.25以下」(構成要件B)の数値範囲に入ることを認めることはできない。

したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

イ 上記②について

控訴人は,Aが現地の検疫当局や事業者の協力によって得た検疫当局発行の品質証書(甲18ないし20)には,コーンコブミールの「粉砕物のカサ比重」が0.21から0.22と記載されていること,中国からコーンコブミールを輸入していた業者(オリエントジェネライズ社)が,当該コーンコブミールが本件発明の技術的範囲に属していることを認め,Aとの間で特許権通常実施権設定契約(甲10)を締結したことからすると,中国で生産されているコーンコブミールの粉砕物のカサ比重は本件発明の構成要件Bを充足し,被控訴人製品についても同様であることが推定される旨主張する。

しかしながら,前記アのようなコーンコブミールの製造態様に照らすと,上記品質証書から直ちに,中国において製造されているコーンコブミールの粉砕物が,製造業者のいかんを問わず全て本件発明の構成要件Bのカサ比重の数値範囲に入るものとは認め難いし,また,そもそも,上記品質証書においてカサ比重等が測定されたコーンコブミールが被控訴人によって実際に輸入されきのこ栽培用培地の原料として用いられたものであることを認めるに足りる証拠はない。

さらに,Aが被控訴人とは別会社であるオリエントジェネライズ社との間で本件特許について特許権通常実施権設定契約を締結したことは,被控訴人が中国から輸入するコーンコブミールの粉砕物のカサ比重を何ら推認させるものではない。

したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

ウ 上記③について

控訴人は,圧縮・結着後にほぐしたコーンコブミールのカサ比重は粉砕物のカサ比重より25%程度重くなるところ,控訴人が袋を開封した状態で保管している被控訴人製品の解着物のカサ比重は0.231であり(甲17),この数値を粉砕物のカサ比重に換算すると,構成要件Bの数値範囲に入るから,被控訴人製品は同構成要件を充足することが推定される旨主張する。

しかしながら,圧縮・結着後にほぐしたコーンコブミールのカサ比重が圧縮前の粉砕物のカサ比重より25%程度重くなることを裏付けるに足りる証拠はなく,控訴人の上記主張は,その前提において採用することができない。

エ 上記④について

控訴人は,被控訴人はコーンコブミールのカサ比重が0.15ないし0.25であることを認識した上で,別件特許に係る特許実施権許諾契約(甲11)を締結し,実施料として1000万円を支払ったことからすると,被控訴人が被控訴人製品において上記のカサ比重の範囲内のコーンコブを使用している旨主張する。

(ア) 証拠(甲11,24,25,34,35)及び弁論の全趣旨によれば,①別件特許は,昭和63年8月19日に,出願人をAが代表者を務めていた森と羊と土の会,発明の名称を「きのこ栽培用培地」として出願され(特願昭63-206597号),平成10年2月3日に拒絶査定不服審判事件における審決により特許査定がされたものであり(特許番号第2137800号),審決時の特許請求の範囲の請求項1は「草質素材を機械的破砕処理することにより,破砕物の乾燥物をメッシュシリンダーに軽く充填し上下の打撃振動を100回行ったときの1cc当りの重量を基準にして算出したカサ比重が0.15~0.25であるように調整することを特徴とするきのこ栽培培地用草質基材の製造法。」,請求項2は「草質素材がモミガラまたはコーンコブである特許請求の範囲第1項記載の製造法。」というものであったこと,②Aの実弟が代表者を務めていた被控訴人は,同年6月10日,森と羊と土の会との間で,別件特許ほか1件の特許(出願日昭和62年7月24日)に関して,被控訴人がこれらの特許に係る発明を用いるきのこ栽培用培地の製造販売等を対象に,森と羊の土の会が被控訴人に対して通常実施権を許諾し,被控訴人は,森と羊と土の会に対し,契約金として合計200万円,権利金として合計1000万円,実施料として被控訴人が販売する培地の販売価格の4%をそれぞれ支払うことなどを内容とする特許実施権許諾契約(甲11)を締結したことが認められる。

(イ) しかしながら,別件特許は,請求項1においてきのこ栽培用培地に用いる草質素材の「破砕物」の「カサ比重」を0.15ないし0.25と特定するものの,あくまでも本件特許とは別の特許であり,カサ比重の測定方法も本件明細書の段落【0010】に記載のものとは異なるから,被控訴人が別件特許の実施について許諾を受けたからといって,別件特許の技術的範囲に属する製造方法に係るコーンコブミールの粉砕物のカサ比重が本件発明の構成要件Bのカサ比重の数値範囲に入ることが直ちに裏付けられるものではない。

したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

オ 小括

以上のとおり,被控訴人製品が本件発明の構成要件Bの「カサ比重0.15~0.25以下」に調整した「粉砕物」の構成を備えていることの根拠として控訴人が主張するところは,いずれも採用することができず,他に被控訴人製品が上記構成を備えていることを認めるに足りる証拠はない。

(3)  まとめ

よって,被控訴人製品は,本件発明の構成要件を充足するものと認められないから,被控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属するとの控訴人の主張は,理由がない。

2  争点3(間接侵害の成否)について

控訴人は,ほぐして被控訴人製品にする前のコーンコブミールの圧着物は,本件発明の解着物の生産に用いられる物であって,本件発明による課題の解決に不可欠なものに当たり,被控訴人は,本件発明が特許発明であること及び上記圧着物が本件発明に用いられることを知りながら,業としてその輸入等を行っているものであるから,被控訴人の上記行為について,特許法101条2号の間接侵害が成立する旨主張する。

しかしながら,被控訴人製品に使用されているコーンコブミールの圧着前の粉砕物が本件発明の構成要件Bを充足すると認められないのは前記1のとおりである。そうすると,当該粉砕物を圧縮,結着した圧着物が本件発明の解着物の生産に用いる物であって,本件発明による課題の解決に不可欠なものに当たるということはできない。

したがって,控訴人の主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。

3  結論

以上のとおり,被控訴人製品は,本件発明の構成要件Bを充足しないから,その技術的範囲に属するものと認められないし,また,被控訴人の行為について特許法101条2号の間接侵害が成立するものと認めることもできないから,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がない。

よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 田中正哉)

裁判官 神谷厚毅は,差し支えのため署名押印することができない。 裁判長裁判官 大鷹一郎

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