知財高等裁判所 平成27年(ネ)10103号 判決 2016年2月18日
控訴人兼被控訴人
(1審本訴原告兼反訴被告)
X(以下「1審原告X」という。)
被控訴人
(1審本訴原告兼反訴被告)
株式会社Shapes(以下「1審原告会社」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士
小林芳男
同
加藤悟
同
平石喬識
同
一杉昭寛
同
大岡雅文
同
荒木真人
被控訴人兼控訴人
(1審本訴被告兼反訴原告)
株式会社Shapes International(以下「1審被告会社」という。)
被控訴人
(1審本訴被告)
株式会社ラスカ(以下「1審被告ラスカ」という。)
被控訴人
(1審本訴被告)
Y(以下「1審被告Y」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士
神田孝
同
井嶋倫子
同
清野龍作
主文
1 1審原告X及び1審被告会社の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審被告会社は,1審原告Xに対し,416万3270円及びこれに対する平成24年12月7日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 1審被告会社は,1審原告会社に対し,別紙本訴商標目録2及び3記載の各商標について,別紙登録目録2及び3記載の各移転登録の抹消登録手続をせよ。
(3) 1審被告会社は,1審原告Xに対し,別紙本訴商標目録4記載の商標について,別紙登録目録4記載の移転登録の抹消登録手続をせよ。
(4) 1審原告らは,別紙役務目録記載の役務に関する宣伝用のウェブサイト及びブログに別紙標章目録3記載の標章を使用してはならない。
(5) 1審原告らは,1審被告会社に対し,連帯して5万円を支払え。
(6) 1審原告らのその余の本訴請求及び1審被告会社のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,1審原告Xと1審被告会社との間では,第1,2審,本訴反訴を通じて,これを7分し,その6を1審原告Xの負担とし,その余は1審被告会社の負担とし,1審原告Xと1審被告ラスカ及び1審被告Yとの間では,第1,2審とも1審原告Xの負担とし,1審原告会社と1審被告会社との間では,第1,2審,本訴反訴を通じてこれを10分し,その3を1審原告会社の負担とし,その余は1審被告会社の負担とする。
3 この判決の第1項(1),(4)及び(5)は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 1審原告X
(1) 原判決中,1審原告Xの敗訴部分を取り消す。
(2) 1審被告らは,1審原告Xに対し,連帯して1億円及びこれに対する平成24年12月7日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 1審被告会社は,1審原告Xに対し,3万円及びこれに対する平成24年12月7日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 1審被告会社
(1) 原判決中,1審被告会社の敗訴部分を取り消す。
(2) 前項に係る本訴請求に関する部分につき,1審原告らの1審被告会社に対する請求をいずれも棄却する。
(3) 1審原告らは,別紙役務目録記載の役務に関する宣伝用のウェブサイト,ブログ,カタログ,パンフレットに別紙標章目録1ないし3記載の各標章を付して頒布してはならない。
(4) 1審原告らは,インターネット上のアドレス「http://<以下略>」において開設するウェブサイトから,別紙標章目録1記載の標章の表示を抹消せよ。
(5) 1審原告らは,インターネット上のアドレス「http:// <以下略>」において開設するウェブサイトから,別紙標章目録2記載の標章の表示を抹消せよ。
(6) 1審原告らは,インターネット上のアドレス「http:// <以下略>」において開設するウェブサイトから,別紙標章目録2及び3記載の各標章の表示を抹消せよ。
(7) 1審原告らは,1審被告会社に対し,連帯して,945万0500円及び内金391万8500円に対する平成25年6月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8) 1審原告Xは,1審被告会社に対し,5万1918円及びこれに対する平成24年7月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。
1 事案の要旨
本件本訴請求は,1審原告らが,1審被告らの債務不履行により,1審原告らと1審被告ら間の1審原告Xのノウハウ及びブランドを使用したダイエット・ボディメイクを目的とするパーソナルトレーニングジムの店舗展開等に関する共同事業合意,その一環としての1審原告らと1審被告会社間の営業譲渡契約及び1審原告Xと1審被告会社間の顧問契約をいずれも解除した旨主張して,①1審原告Xが,1審被告らに対し,上記共同事業合意又は営業譲渡契約の債務不履行に基づく損害賠償請求の一部請求として1億円及びこれに対する平成24年12月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の連帯支払を,②1審原告Xが,1審被告会社に対し,上記顧問契約に基づく平成24年5月分ないし同年9月分の未払顧問料,講師料及び研修交通費の合計416万5270円及びこれに対する同年12月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,③1審原告らが,1審被告会社に対し,上記営業譲渡契約の解除による原状回復請求権に基づき,1審原告会社においては,別紙本訴商標目録1ないし3記載の各商標について別紙登録目録1ないし3記載の各移転登録の抹消登録手続を,1審原告Xにおいては,別紙本訴商標目録4記載の商標について別紙登録目録4記載の移転登録の抹消登録手続を(以下,別紙本訴商標目録1ないし4記載の各商標をそれぞれ「本訴商標1」などといい,その商標権を「本訴商標権1」などという。),④さらに,上記①の請求の予備的請求として,1審原告会社が,1審被告会社に対し,1審原告会社と1審被告会社間のライセンス契約に基づき,同年5月から平成53年8月29日までのライセンス料の一部請求として1億0416万5270円及びこれに対する平成24年12月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。
本件反訴請求は,①1審被告会社が,1審原告らが別紙役務目録記載の役務に別紙標章目録1ないし3記載の各標章(以下,それぞれを「原告標章①」などという。)を使用する行為が1審被告会社が有する別紙反訴商標目録1ないし3記載の各商標の商標権(以下,同目録1ないし3記載の各商標をそれぞれ「反訴登録商標1」などといい,その商標権を「反訴商標権1」などという。)の侵害に当たる旨主張して,1審原告らに対し,商標法36条1項,2項に基づき,上記使用の差止め及びウェブサイトからの原告標章①ないし③の抹消を求めるとともに,商標権侵害の不法行為による損害賠償請権に基づき,平成24年1月から平成27年5月までの間の同法38条3項の使用料相当額の損害金945万0500円及び内金391万8500円に対する不法行為の後である平成25年6月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,②1審被告会社が,1審被告会社と1審原告Xが上記顧問契約に係る過払顧問料の返還合意をしたなどと主張して,1審原告Xに対し,過払顧問料残額5万1918円及びこれに対する平成24年7月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。
原判決は,本件本訴請求について,1審原告X主張の上記①の請求に係る共同事業合意の成立は認められないが,1審原告ら主張の営業譲渡契約と顧問契約は,両契約の目的とするところが1審被告会社によるパーソナルトレーニング事業のフランチャイズ展開という点において相互に密接に関連付けられているものであり,かつ,社会通念上,営業譲渡契約のみが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められるから,1審被告会社の顧問料の支払債務の債務不履行を理由とする1審原告らによる両契約の解除は有効であるなどとして,1審原告Xの1審被告会社に対する未払顧問料等請求(上記②の請求)のうち,未払顧問料及び研修交通費の合計413万3270円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分及び1審原告らの1審被告会社に対する本訴商標1ないし4についての各移転登録の抹消登録手続請求(上記③の請求)を認容し,1審原告らのその余の本訴請求をいずれも棄却し,本件反訴請求について,1審原告らによる上記営業譲渡契約の解除により反訴登録商標①ないし③につき原状回復義務が生じるから,1審被告会社は1審原告らに対し反訴商標権1ないし3を行使することはできない,1審被告会社主張の過払顧問料の返還合意の成立は認められないなどとして,1審被告会社の反訴請求をいずれも棄却した。
これに対して1審原告ら及び1審被告会社が,原判決中,各敗訴部分を不服としてそれぞれ控訴を提起した(ただし,1審原告Xの未払顧問料等請求に関する敗訴部分については,1審原告Xは,その敗訴部分のうち,3万円及びこれに対する平成24年12月7日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で原判決の変更を求めている。)。
その後,1審原告会社は,平成27年12月9日の当審第2回弁論準備手続期日において,控訴を取り下げた。したがって,1審原告会社のライセンス料請求(本訴予備的請求)を棄却した原判決の判断の当否は,当審の審理の対象ではない。
2 前提事実
次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」第2の2(原判決5頁9行目から10頁11行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する(以下,原判決を引用する場合,「原告」を「1審原告」と,「被告」を「1審被告」とそれぞれ読み替える。)。
(1) 原判決5頁14行目の「「シセトレ」」の後に「あるいは「姿勢トレ」など」を加え,同頁18行目の「渋谷」を「東京都渋谷区」に改める。
(2) 原判決6頁6行目の「を主たる内容とするライセンス契約」を「などを内容とするライセンス契約(以下「本件ライセンス契約1」という。甲7)」と,同頁11行目から12行目にかけての「上記ライセンス契約のライセンシーを被告ラスカから被告会社に変更することなどを内容とするライセンス契約」を「1審被告会社が本件ライセンス契約1における1審被告ラスカの地位を承継することを目的として,本件ライセンス契約1と同旨のライセンス契約(以下「本件ライセンス契約2」という。甲8)」とそれぞれ改める。
(3) 原判決6頁14行目冒頭から20行目末尾までを次のとおり改める。
「ウ 1審原告会社と1審被告会社は,本件ライセンス契約2の13条(サブライセンス契約)について,1審被告会社の100%子会社でなくても,サブライセンシーとなることができるように変更することを目的として,平成23年4月1日付けライセンス契約書(甲9)を作成し,その旨のライセンス契約(以下「本件ライセンス契約3」という。)を締結した。
エ 1審原告会社と1審被告会社は,本件ライセンス契約3の「契約期間」(22条)を「本契約締結日から2年」から「本契約締結日から30年」に変更し,「サブライセンス契約」(13条)について1審被告会社がサブラインス契約のみならず,フランチャイズ契約をも締結することができるように変更することなどを目的として,平成23年8月30日付けライセンス契約書(甲10)を作成し,その旨のライセンス契約(以下「本件ライセンス契約4」という。)を締結した。」
(4) 原判決6頁21行目の「支払われたライセンス料」を「本件ライセンス契約1ないし4に基づき支払われた平成22年12月分から平成23年11月分までのライセンス料」と改める。
(5) 原判決7頁2行目から3行目にかけての「出資していたが,これは被告ラスカの全株式のうち約31.5%であった。」を「出資していた(当時の1審被告ラスカの資本金は1540万円であった。甲14,56)。」と改め,同頁6行目の「Shapes渋谷本店」の後に「(以下「旧渋谷本店」という。)」を加え,「提案をした」を「提案をメールでした」と,同頁12行目の「その際,」を「上記メールに,」とそれぞれ改める。
(6) 原判決8頁11行目の「顧問料」を「平成23年12月分から平成24年4月分までの顧問料」と改める。
(7) 原判決9頁15行目の「別紙反訴標章目録記載の標章①「シセトレ」」を「別紙標章目録1記載の標章(原告標章①)」と,同頁18行目の「別紙反訴標章目録記載の標章①「シセトレ」の標章」を「原告標章①」と,同頁22行目の「別紙反訴標章目録記載の標章②「Shapes」」を「別紙標章目録2記載の標章(原告標章②)」と,同頁25行目の「別紙反訴標章目録記載の標章②「Shapes」の標章」を「原告標章②」とそれぞれ改める。
(8) 原判決10頁1行目の「原告らは,」の後に「平成25年6月10日当時,」を加え,同頁3行目から4行目にかけての「別紙反訴標章目録記載の標章③「Shapes のロゴ」」を「別紙標章目録3記載の標章(原告標章③)」と,同頁6行目の「行っていた。」を「行っていた(乙28)。」と,同頁6行目から7行目にかけての「別紙反訴標章目録3記載の標章③「Shapes」の標章」を「原告標章③」とそれぞれ改める。
3 争点
(1) 本訴請求
ア 1審原告Xの1審被告らに対する共同事業合意等の解除による損害賠償請求の成否(争点(1)-ア)
イ 1審原告Xの1審被告会社に対する本件顧問契約に基づく未払顧問料等請求の成否(争点(1)-イ)
ウ 1審原告らの1審被告会社に対する本件営業譲渡契約の解除による原状回復請求権に基づく商標権移転登録抹消登録手続請求の成否(争点(1)-ウ)
(2) 反訴請求
ア 1審被告会社の1審原告らに対する反訴商標権1ないし3に基づく差止請求及び商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の成否(争点(2)-ア)
(ア) 1審被告会社の損害額
(イ) 権利濫用の成否
イ 1審被告会社の1審原告Xに対する過払顧問料返還請求の成否(争点(2)-イ)
4 当事者の主張
(1) 争点(1)-ア(1審原告Xの1審被告らに対する共同事業合意等の解除による損害賠償請求の成否)について
次のとおり訂正するほか,原判決10頁20行目から12頁8行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決11頁7行目の「「Shapes渋谷本店」」を「旧渋谷本店」と改める。
イ 原判決11頁22行目から23行目にかけての「(第6回弁論準備手続調書参照)」を「(原審第6回弁論準備手続調書参照)」と改める。
ウ 原判決12頁3行目の「ライセンス契約」を「本件ライセンス契約1ないし4」と改める。
(2) 争点(1)-イ(1審原告Xの1審被告会社に対する本件顧問契約に基づく未払顧問料等請求の成否)について
次のとおり訂正し,当審における1審被告会社の主張を付加するほか,原判決12頁10行目から14頁5行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決の訂正
(ア) 原判決12頁11行目の「原告Xによる」から12行目の「かかわらず,」までを削る。
(イ) 原判決12頁16行目の「また,」の後に「1審原告Xと1審被告会社の間には,1審被告会社が,1審原告Xに対し,1審原告Xの講師料及び研修交通費を支払う旨の合意が存在したところ,」を,同頁20行目の「被告会社は」の後に「平成24年7月2日付けで」をそれぞれ加える。
(ウ) 原判決13頁6行目冒頭の「ア」を次のとおり改める。
「ア 1審原告X主張の平成24年5月分ないし同年9月分の本件顧問契約に基づく顧問料(合計410万7170円)については,上記顧問料が,計算上,410万5170円となる限度で認める。しかし,」
(エ) 原判決13頁11行目の「被告Y」から同頁14行目末尾までを次のとおり改める。
「1審被告会社は,平成23年12月14日に本件営業譲渡契約を締結した後,1審原告Xに対し,繰り返し口頭又はメール(乙22,24)で,「Shapes」標章(原告標章①ないし③)の使用及び競業行為を中止することを要請し,さらに,平成24年6月23日にも同様の要請をしたが,1審原告Xは,本件顧問契約に反して,自らのパーソナルトレーナー業のために上記標章を使用して,「Shapes」事業と同種又は類似の営業(競業行為)を行っていたことから,1審被告会社は,同年7月2日付け「顧問契約の解除通知書」で,1審原告Xに対し,本件顧問契約を解除する旨の意思表示をした。
なお,乙22のメールに,「Xさんのブログや(省略)上にはXさんとshapesが相互に出ていますし,例えば,「Aプロデュースジム」でShapesのロゴマークを画像として載せるなので連動性を高めれば問題ないかと思います」との記載があるが,この記載は,1審原告Xがブログ等で1審被告会社の経営するパーソナルトレーニングジムShapesの宣伝活動を行う場合には,「Shapes」の文字(原告標章②)ではなく,反訴登録商標3を使用すれば足りると述べているにすぎないものであり,1審原告X自身が,原告標章①ないし③を使用して,独自のトレーナー業(競業行為)を行うことまで認めたものではない。」
(オ) 原判決13頁21行目の「消化時基準と変更した。」を「消化時基準と変更した(以下「本件基準時変更合意」という場合がある。)。」と,同頁24行目の「合意をした。」を「合意(以下「本件返還合意」という場合がある。)をした。」とそれぞれ改める。
(カ) 原判決14頁1行目の「対当額にて合意相殺した」を「対当額で相殺する旨の合意(以下「本件相殺合意」という。)をした」と改める。
イ 当審における1審被告会社の主張
原判決は,本件基準時変更合意,本件返還合意及び本件相殺合意の各合意がされたことを裏付ける客観的証拠がないこと,1審原告Xが顧問料の計算方法の基準時の変更等につき即座に了承したという1審被告Yの供述内容自体が不自然であることなどを理由に上記各合意の存在は認められないとして,1審原告Xは,1審被告会社に対し,本件顧問契約に基づき平成24年5月分及び6月分の顧問料を請求できる旨判断した。
しかしながら,1審被告会社は,上記各合意をしたからこそ,1審原告会社あての平成24年6月23日付けの「御精算書」と題する書面(乙1の2)を作成したこと,1審被告Yは,同日,1審原告Xと面談をした際に,1審原告Xが,上記各合意をしたにもかかわらず,1審被告Yに対し,税理士を通じて,1審被告会社の会計基準が信用できないので,店舗の支払データを見せるよう求めて,あたかも1審被告会社が店舗の売上げをごまかしていると疑うような問合せをしたことに不信感を抱き,その旨を1審原告Xにメール(甲25)で伝えたところ,1審原告Xは,1審被告Yに対し,メール(甲25)で,「うちの会社の決算の締めが大詰めに重なったところで急きょ税理士に資料を渡したという経緯です」と言い訳をし,その上で「私は先日もお伝えしていたとおりの気持ちです」と顧問料の計算方法の変更等について承諾したことを認め,「Yさんを不快にしたことは心から謝ります」と謝罪の言葉まで述べていることからすると,上記各合意が成立したことは明らかである。
また,仮に1審原告Xが顧問料の計算方法の変更等を承諾していないのであれば,1審原告Xは,顧問料の計算方法の変更に納得がいかなかったから,税理士を通じて問合せをした旨説明するはずであって,上記内容のメールを1審被告Yに送信するはずはない。
さらに,顧問料の計算方法の変更は,1審被告会社が会計士の指示に従い,売上計上時期を顧客からのトレーニング料の前払金の入金時からトレーニングの消化時に変更したことに伴うものであるから,1審原告Xが,この変更を了承したことには合理的理由があり,1審被告Yの供述が不自然であるとはいえない。
したがって,原判決の上記判断は誤りである。
(3) 争点(1)-ウ(1審原告らの1審被告会社に対する本件営業譲渡契約の解除による原状回復請求権に基づく商標権移転登録抹消登録手続請求の成否)について
次のとおり訂正し,当審における1審被告会社の主張を付加するほか,原判決14頁7行目から15頁末行までに記載のとおりであるからこれを引用する。
ア 原判決の訂正
原判決15頁16行目及び18行目の各「Shapes渋谷店」を「旧渋谷本店」と改める。
イ 当審における1審被告会社の主張
(ア) 原判決は,①本件営業譲渡契約及び本件顧問契約の契約日が同じ日であること,②1審原告Xは,1審原告会社の代表取締役であるから,両契約の当事者に実質的同一性があること,③本件顧問契約の条項上,本件営業譲渡契約との一体性を裏付ける規定(2条,3条1項)があること,④従前のライセンス契約におけるライセンス料と本件顧問契約における顧問料の売上高に対する割合はほぼ同じであること,⑤本件営業譲渡契約及び本件顧問契約締結前の平成23年11月21日に1審被告Yがした提案(本件提案)は,将来的にはライセンス契約に基づくライセンス料が1審原告Xに引き続き支払われることが前提となっていたこと,上記①ないし⑤の事情から,本件営業譲渡契約及び本件顧問契約の目的は,「被告会社によるパーソナルトレーニング事業Shapesのフランチャイズ展開」であると認定し,両契約は,相互に密接に関連付けられているものであり,かつ,社会通念上,本件営業譲渡契約のみが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められるとして,1審原告らは,本件顧問契約の債務不履行を理由に,両契約をいずれも解除できる旨判断した。
a しかしながら,上記①の点については,契約日が同じ日であるからといって,両契約の目的が同じになるわけではない。
上記②の点については,1審原告会社は,トレーナーなどの従業員を雇用し,1審原告Xとは別に独自に商標の登録をし,顧客とトレーニング契約を締結する等して旧渋谷本店を経営していたのであるから,1審原告会社は,1審原告Xから独立した法人格を有し,その法人格は形骸化しておらず,1審原告Xと1審原告会社が実質的に同一であるとはいえない。
上記③の点については,本件顧問契約の2条は,営業譲渡と同時に1審原告Xを1審被告会社の顧問とすることを示したにすぎないし,3条1項は,本件顧問契約における1審原告X個人の義務を規定したものであり,同条項のなお書きは,1審原告会社の代表者でもある1審原告X個人に,本件営業譲渡契約と矛盾した行動をとらないよう注意を促しているにすぎないから,本件顧問契約の上記各条項の存在をもって,本件顧問契約と本件営業譲渡契約の目的が同一であるということはできない。
上記④の点については,1審被告Yは,本件営業譲渡契約により収入の道を失う1審原告Xの生活を維持させるために本件顧問契約を締結したものであり,その際,1審被告Yが顧問料率を従来のライセンス料率と同等にしたのは,1審原告Xに対する情にすぎず,本件顧問契約がなければ,本件営業譲渡契約の目的を達成し得ないという関係にはない。原判決のいう「被告会社によるパーソナルトレーニング事業Shapesのフランチャイズ展開」の目的と1審原告Xの収入のバランスをとることは,全く関連性がない。
上記⑤の点については,1審被告Yは,1審原告Xが本件提案を拒否したため,別の提案として営業譲渡契約を提案したのであるから,これらの内容は異なるものであって,本件提案の内容が本件営業譲渡契約及び本件顧問契約に引き継がれるというものではない。仮に,本件営業譲渡契約において1審原告Xに顧問料を支払うことが当然の前提になっていたのであれば,譲渡の対価として売上げに対する一定料率の金銭を支払う旨が本件営業譲渡契約の契約書に明記されるはずであるが,そのような条項は存在しない。
したがって,本件提案がされた経緯があることをもって両契約の目的が同一であるいうことはできない。
以上のとおり,上記①ないし⑤の事情を根拠として,両契約の目的が同一であるいうことはできない。
b また,そもそも,両契約の目的が「被告会社によるパーソナルトレーニング事業Shapesのフランチャイズ展開」にあるとはいえない。
すなわち,1審被告会社は,Shapesのチェーン展開を行うに際し,独自にブランドコンセプトを作り,同コンセプトの下,自ら商標の作成・登録,新機材の開発,ブランドイメージに応じた宣伝広告などを行った上で,1審被告Yが長年の経験で培ったフランチャイズ展開のノウハウを利用して「パーソナルトレーニングジムShapes」のフランチャイズの多店舗展開を行ったものである。これにつき1審原告らの寄与は一切なく,1審被告会社には,「被告会社によるパーソナルトレーニング事業Shapesのフランチャイズ展開」という意味では,1審原告らから取得するものは一切なかった。
また,1審被告会社のトレーニング方法は,パーソナルトレーニングの素人である加盟店でも,トレーナーを養成してジムを経営できるように独自に工夫改善を加えたトレーニング方法である。したがって,両契約の目的が「被告会社によるパーソナルトレーニング事業Shapesのフランチャイズ展開」にあるとはいえない。むしろ,本件営業譲渡契約は,自ら経営するShapes(旧渋谷本店)の経営に行き詰まった1審原告会社が,旧渋谷本店の未消化債務を含めたShapes事業を1審被告会社に引き継ぐことを目的とする契約であるのに対し,本件顧問契約は,旧渋谷本店からの収入の道を断たれた1審原告Xに対して,1審被告会社が1審原告Xを雇用することで収入を確保させること目的とする契約であり,両契約はその目的を異にするものである。
したがって,両契約の目的に注目して,両契約は,相互に密接に関連付けられているということはできない。
c 以上によれば,本件顧問契約と本件営業譲渡契約とはその目的を異にし,社会通念上,本件営業譲渡契約のみが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないともいえないから,1審原告らが,1審被告会社の本件顧問契約の債務不履行を理由に,両契約を解除できるとした原判決の判断は誤りである。
(イ) 原判決は,1審原告らによる本件営業譲渡契約の解除の効果として,1審被告会社に対し,本訴商標権1ないし4の移転登録の抹消登録手続義務を認める旨の判断をした。
しかしながら,本件営業譲渡契約は,様々な内容を含む複合的な契約であり,かつ,本件営業譲渡契約を前提として新たな法律関係が蓄積されており,本件営業譲渡契約は,継続的契約にも類似するものであるから,本件営業譲渡契約が解除されたからといって,当然に遡及効が発生するものではない。
また,1審被告会社にとって本件営業譲渡契約により1審原告らから譲り受ける価値のある財産は何ら存在しなかったが,1審被告会社は,既にフランチャイズ展開をしていた1審被告会社のShapesのブランドを維持するため,本件営業譲渡契約を締結し,赤字店舗である旧渋谷本店の経営を引き継ぎ,新たに2000万円以上の投資を行って新店舗を出店し,新店舗の運営のため,新たなトレーナーを採用,育成し,宣伝広告に多額の費用を投じるなど,種々の負担をしたほか,1審原告会社が経営していた時期に契約していた顧客に対して,未消化債務の払戻しも行っている。このような1審被告会社の経済的負担を回復することなく,本件営業譲渡契約の解除を理由に,1審被告会社に本訴商標1ないし4についての移転登録の抹消登録手続義務を負わせることは,当事者の公平に反するというべきである。
したがって,原判決の上記判断は誤りである。
(ウ) さらに,本訴商標権1の商標登録は,平成27年6月5日,商標登録取消審判(取消2014-300963号事件)における審決の確定により既に抹消されているから,1審原告会社の本訴商標権1に関する移転登録抹消登録手続請求は,この点においても理由がない。
(4) 争点(2)-ア(1審被告会社の1審原告らに対する反訴商標権1ないし3に基づく差止請求及び商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の成否)について
(1審被告会社の主張)
ア 原告標章①ないし③は,反訴登録商標1ないし3とそれぞれ同一の標章であるから,1審原告らによる原告標章①ないし③の使用行為は,1審被告会社が本件営業譲渡契約締結後に商標登録出願をして取得した反訴商標権1ないし3の侵害行為に該当する。
1審被告会社が1審原告らによる商標権侵害により被った反訴商標権1ないし3の使用料相当額の損害額(商標法38条3項)は,1審被告会社の運営するShapes渋谷店(以下「渋谷店」という。)の売上げに5.5%のロイヤルティ料率を乗じた金額に相当する。
そうすると,平均月額ロイヤルティ額は,同店平均月額売上額419万0923円×5.5%=23万0500円となり,平成24年1月から平成27年5月までの41か月間における1審被告会社の損害額は945万0500円である。
よって,1審被告会社は,1審原告らに対し,反訴商標権1ないし3に基づいて,別紙役務目録記載の役務に関する宣伝用のウェブサイト,ブログ,カタログ,パンフレットに原告標章①ないし③を付して頒布すること等の差止めとともに,商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償945万0500円及びそのうちの一部である391万8500円(平成24年1月から平成25年5月までの17か月分)に対する不法行為の後である同年6月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
イ 1審原告らの権利の濫用の主張は,以下のとおり理由がない。
反訴商標権1ないし3は,1審被告会社が,本件営業譲渡契約締結後に,独自に反訴登録商標1ないし3を作成し,商標登録出願をして設定登録を受けて初めて成立した権利であって,本件営業譲渡契約により1審被告会社が譲り受けたものではないから,1審原告らの本件営業譲渡契約の解除による原状回復の対象とはなり得ない。
しかも,現在の「Shpaes」チェーンは,1審被告会社が反訴登録商標1ないし3を使用して独自に事業展開をし,1審被告会社の営業努力により,反訴登録商標1ないし3の価値が増大したものであるから,反訴登録商標1ないし3と同一の原告標章①ないし③の使用を1審原告らに許すことは,1審原告らに不当な利益を与えることになる。特に,インターネット上の集客は1審被告会社が独自に開発したものであるにもかかわらず,1審原告らはアンカーテキストを悪用することで,それにフリーライドしており,仮に1審被告会社の本件反訴請求が認められないとすれば,こうしたフリーライドを放置する結果となり,インターネット社会における商標権の安定性を大きく害することになる。
また,本件営業譲渡契約及び本件顧問契約とはそれぞれ目的を異にする独立の契約で,本件ライセンス契約と同内容のものでもないし,1審被告会社による本件顧問契約の解除は有効であるから,1審原告らの主張は,その前提を欠いている。
したがって,1審原告らの主張は理由がなく,1審被告会社による反訴商標権1ないし3の行使は権利の濫用に当たらない。
(1審原告らの主張)
ア 1審被告会社主張の損害額は争う。
イ 1審被告会社による反訴商標権1ないし3の行使は,以下のとおり,権利の濫用として許されないものというべきである。
(ア) 1審原告らと1審被告らとの共同事業は,1審原告らの有するシセトレを中核とする「Xメソッド」という独自のコンテンツや「Shapes」のブランドを中核とするものである。上記事業における1審被告らの役割は,チェーン展開についてのコンサルティングという補助的なものにすぎず,上記ブランド等の構築には何ら貢献していない。
(イ) 本件ライセンス契約4の下では,1審被告会社は,「Shapes」のブランドに関し,1審原告らとは独立した権利を有するものではなく,本件ライセンス契約4の存続中に,1審被告会社が本訴商標1ないし4と類似する商標に係る商標権の設定登録を受けたとしても,1審被告会社は,当該商標権に基づき,1審原告らに対して原告標章①ないし③の使用の差止めを求めることはできない。そして,本件ライセンス契約4と本件営業譲渡契約及び本件顧問契約は,その名称が変わったにすぎず,その内容は同一であり,1審原告らは,このことを前提として,1審被告Yの求めに応じ,本訴商標権1ないし4を譲渡したにすぎない。
そうすると,本件ライセンス契約が存在していた時と同様に,本件営業譲渡契約及び本件顧問契約存続中に,1審被告会社が,反訴商標権1ないし3の設定登録を受けたとしても,1審被告会社は,反訴商標権1ないし3に基づき,1審原告らに対して原告標章①ないし③の使用の差止めを求めることはできないものというべきである。
(ウ) 1審被告らは,1審被告会社の運営する店舗数が増加したことにより,1審原告Xに支払う顧問料が増えたことから,本件営業譲渡契約と本件顧問契約とが外形上別個の契約とされていることを利用して,多額の顧問料の支払を免れ,1審原告らからShapesブランドを奪い,1審原告らを排除して何らの金銭的負担なくShapes事業を遂行するという策略を企て,それを実行すべく,本件営業譲渡契約及び本件顧問契約の締結後半年ほどしか経っていないにもかかわらず,本件顧問契約の解除の通知をしたものである。
(エ) さらに,1審原告らによる本件営業譲渡契約の解除により,1審被告会社は,1審原告らに対し,反訴登録商標1ないし3を含む本件営業権等の原状回復義務を負ったものといえる。
(オ) 以上のとおり,1審被告会社の請求は,1審原告らと1審被告らとの共同事業の中核となる独自のコンテンツやブランドの構築に何ら貢献せず,かつ,本件営業権等の原状回復義務を負っている1審被告会社が,本件営業譲渡契約及び本件顧問契約の存続中に取得した反訴商標権1ないし3に基づいて行うものであること,1審被告らにおいて,1審原告らからShapesブランドを奪い,1審原告らを排除して何らの金銭的負担なくShapes事業を遂行するという策略を企て,本件顧問契約の解除の通知をしていることに照らすと,1審被告会社による反訴商標権1ないし3の行使は,権利の濫用として許されないというべきである。
なお,1審原告らは,原告標章③については,第三者に1審原告らが運営している「Shapes」の事業と誤認されることを防ぐため,既にウェブサイトから削除している。
(5) 争点(2)-イ(1審被告会社の1審原告Xに対する過払顧問料返還請求の成否)について
次のとおり訂正するほか,原判決17頁22行目から18頁6行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。
原判決17頁25行目の「合意」を「本件返還合意」と,同頁末行の「対当額にて合意相殺した」を「対当額で相殺する旨の本件相殺合意をした」とそれぞれ改める。
第3当裁判所の判断
1 本件の経過等について
前記前提事実と証拠(甲1ないし39,41,44ないし59,65ないし67,71ないし73,75,乙1,2,4ないし9,12ないし14,17ないし19,22ないし24,39,40,52,54,55,87ないし89(枝番のあるものは枝番を含む。),証人B,証人C,1審原告X本人,1審被告Y本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件の経過等として,次の事実が認められる。
(1)ア 1審原告Xは,平成7年ころから,フィットネスジムの施設内で,自己の顧客に対し,トレーニングの個人指導(パーソナルトレーニング)を行うパーソナルトレーナーとして活動するようになった。その後,1審原告Xは,平成18年ころまでに,立位姿勢における骨盤などの関節角度を調節してトレーニングを行うトレーニング方法を開発して,実践するようになり,そのトレーニング方法を「姿勢トレ」あるいは「シセトレ」(甲41),「Xメソッド」などと称していた。また,1審原告Xは,自己が開発したトレーニング方法を行うパーソナルトレーナーの養成スクールの事業も行うようになった。
1審原告Xは,自己のみでパーソナルトレーニングを行う事業形態から,「ダイエットと女性ボディメイク」専用のパーソナルトレーニングジムの店舗を運営し,各地に店舗展開してブランドを構築する事業形態に切り替えることを企図し,同年5月23日,健康トレーニング,健康管理の企画及びコンサルタント業務等を目的とする1審原告会社を設立し,その代表取締役に就任した。
1審原告会社は,同年9月,東京都渋谷区にパーソナルトレーニングジム「Shapes」(旧渋谷本店)を開店した。
1審原告らは,上記各事業活動において,「姿勢トレ」,「シセトレ」,「Shapes」及び「ShapesGirl」の各標章を使用していた。
イ 1審原告会社は,平成19年3月12日,別紙本訴商標目録2記載のとおり,上段に「姿勢トレ」の文字と下段に「シセトレ」の文字を2段に横書きしてなる本訴商標2の商標登録出願をし,平成20年1月25日,本訴商標権2の設定登録を受けた。
1審原告会社は,同年8月21日,別紙本訴商標目録1記載のとおり,「Shapes」の文字とその背景模様の図形からなる本訴商標1の商標登録出願をし,同年10月31日,本訴商標権1の設定登録を受けた。
(2)ア 1審被告Yは,平成19年4月9日,フランチャイズチェーン加盟店の募集,経営指導に関する業務等を目的とする1審被告ラスカを設立し,その代表取締役に就任した。1審被告ラスカは,フランチャイズ本部の立ち上げ,店舗展開,加盟店の指導などのフランチャイズ事業の総合コンサルティング業務を行っていた。
1審被告Yは,1審原告会社の従業員から1審原告Xの紹介を受けて,平成22年3月31日ころ,1審原告Xに対し,1審原告会社と1審被告ラスカとがパートナーシップを組み,パーソナルトレーニングの第一人者である1審原告Xが運営しているというブランド力を活用して,「Shapes」の事業をフランチャイズ展開する旨の提案(甲45,46)をした。
また,1審被告Yは,そのころ,1審原告Xに対し,1審原告会社と1審被告ラスカとがパートナーシップを組むに当たり,1審原告らが1審被告ラスカに出資することを要請した。
1審原告会社は,同年4月15日,1審被告Yの求めに応じて,1審被告ラスカに対し,50万円を出資し,その株式(10株)を取得した。
イ 1審原告会社と1審被告ラスカは,平成22年4月16日,1審原告会社を「ライセンサー」,1審被告ラスカを「ライセンシー」として,以下の条項を含むライセンス契約書(甲7)を作成し,その旨の本件ライセンス契約1を締結した。
(ア) 目的(1条)
本契約は,1審原告会社が1審被告ラスカに対して,「Shapes」及び「A」の商標・サービスマーク・その他の標章及びダイエット・ボディメイクのノウハウを用いて,統一されたShapesブランドのもとに継続して事業を行う権利を与え,その代償として1審被告ラスカは一定の対価を支払い,相互の繁栄を図ることを目的とする。
(イ) 定義(2条)
1.本契約において,「トレードマーク」とは,サービスマーク,ロゴ,ラベル,スローガンなど,「Shapes」名称(ShapesGirlを含む。),「A」の名称,その他随時使用されるイメージ統一のための全ての表示のうち,1審原告会社によって随時指定されるものを意味し,現在又は将来関連して提供されるものも同様とする。
2.本契約において,「ノウハウ」とは,ダイエット及びボディメイクにおける知識,経験,能力,サービスメニュー,サービスプログラム,オペレーションマニュアル,スタッフトレーニング,店舗開店及び運営など,顧客にサービスを提供する仕組みで,1審原告会社やその関係者が保有しているもののうち,1審原告会社によって随時指定されるものを意味し,現在又は将来関連して提供されるものも同様とする。
(ウ) ライセンスの概要(3条)
1.1審被告ラスカは,1審原告会社の経営理念に賛同し,本契約に基づき,1審原告会社の保有するトレードマーク及びノウハウを使用して,許諾地域において,ボディメイクやダイエットを目的として,女性顧客に対するパーソナルトレーニングを実店舗で行うサービス(以下「ライセンス対象事業」という。)を行う権利を付与する。
2.1審原告会社は,1審被告ラスカに対し,当初2年間,日本国内及びアジアにおける前項の権利を独占的に付与する。
3.前項に基づき,1審原告会社は,日本及びアジアにおいて1審被告ラスカ以外の第三者に対し第1項の権利を許諾してはならない。ただし,1審原告会社(及び1審原告会社が議決権を100%有する子会社)が自ら店舗を展開すること,その他自ら事業を営むことを妨げない。
(エ) 許諾地域(4条)
許諾地域は日本及びアジアとする。…
(オ) マイルストーン(5条)
日本又はアジアにおいて,2011年(平成23年)3月末日までに最低2店舗,2012年(平成24年)3月末日までに累計最低5店舗のジムを開店し継続的に営業していることをもって,1審被告ラスカについてのマイルストーンとする。
(カ) 事業展開義務(6条)
1.1審被告ラスカは,第1店舗目を遅くとも2010年(平成22年)12月末までに開店するものとする。
2.1審被告ラスカは,マイルストーンを達成するよう最大限努力する。
(キ) ノウハウの付与(7条)
1審被告ラスカは,1審原告会社から,1審原告会社の指定する方法で,その所有するライセンス対象事業に関するトレードマーク等に関する情報の提供及びノウハウの開示を受け,ノウハウを使用することができる。
(ク) 競業避止義務等(8条)
1審被告ラスカは,以下の各号に定める事項を行ってはならない。
① 本契約の有効契約期間中及び本契約終了後(解除・解約等の形態を全て含む。)2年間,許諾地域において,自ら(子会社若しくは人的又は資本関係を持つ会社を含む。)パーソナルトレーニングを導入したフィットネス・ダイエット事業を運営,助言,投資,受託等すること。
② 本契約の有効契約期間中及び本契約終了後(解除・解約等の形態を全て含む。)2年間,1審原告会社の事業従事者の引抜き。
③ 1審原告会社の店舗と競合する店舗展開。
(ケ) ライセンシーの義務(10条)
1審被告ラスカは,本契約に基づき営業を行うにあたっては,Shapes及びAの統一的イメージを損なう行為のないよう厳に自らを戒めるものとし,以下の各号に定める事項を遵守するものとする。
⑤ 1審被告ラスカは「Shapes」,「ShapesGirl」の標章を,1審原告会社の許諾がある態様以外の態様でこれを使用し,または自己の商標として商標出願等してはならない。
(コ) ライセンスフィー(11条)
1.1審被告ラスカは,本契約に基づき開設した各店舗の売上げ(預託金,入会金,手数料,指導料その他名目の如何を問わず利用者から支払われる全ての支払を意味する。)の次に掲げる割合の合計額(消費税別)をライセンスフィーとして1審原告会社に支払う。
第1店舗目 5%
第2店舗目 4%
第3店舗目以降 3%
(サ) トレーナー研修(12条)
1審被告ラスカは,そのトレーナーに対し,開業前研修として,1審原告会社の相当と認める内容での期間を1か月とするパーソナルトレーニングの事前研修及び継続的研修を受けさせなければならない。かかる費用として,1審被告ラスカは,トレーナー1人当たり,事前研修費として20万円(消費税別)を支払うものとする。継続的研修については無償とする。…
(シ) サブライセンス契約(13条)
1審被告ラスカは,本契約に基づき,1審被告ラスカの100%子会社との間で,サブライセンス契約を締結することができる。ただし,サブライセンシーは本契約における1審被告ラスカと同様の義務を1審原告会社に対して負うものとし,1審被告ラスカはサブライセンシーの義務違反についても責任を負う。
(ス) 契約終了に従う措置・効果(19条)
1.本契約が期間満了・解除・合意解約等理由の如何にかかわらず終了した場合,1審原告会社及び1審被告ラスカは次の事項を行う。
① 1審被告ラスカは,本契約に基づき提供されたライセンス対象事業に関するノウハウ,情報及びトレードマークの使用を直ちに停止しなければならない。
② 1審被告ラスカは,1審原告会社から交付を受けた規定集,マニュアル,連絡文書,所定用紙,パンフレット,シール等の全ての印刷物及びこれらの複製物(1審被告ラスカが費用を負担したものを含む。)を無条件で1審原告会社に返還し,または1審原告会社の許可を得て廃棄する。
③ 1審原告会社は,1審被告ラスカの開拓した代理店及びユーザーを引き継ぐことができるものとし,1審被告ラスカは1審原告会社に対し,その有する代理店及びユーザーの情報(個人情報を含む。)を,1審原告会社の指定する方法にて,1審原告会社に提供しなければならない。
(セ) 契約期間(22条)
本契約期間は,本契約締結日から2年とする。…
ウ 1審原告会社は,平成22年4月28日,別紙本訴商標目録3記載のとおり,「ShapesGirl」の文字を標準文字により書してなる本訴商標3の商標登録出願をし,同年10月29日,本訴商標権3の設定登録を受けた。
1審原告Xは,同年4月28日,別紙本訴商標目録4記載のとおり,「A」の文字を標準文字により書してなる本訴商標4の商標登録出願をし,同年10月29日,本訴商標権4の設定登録を受けた。
エ 1審原告会社は,平成22年10月19日,1審被告Yの求めに応じて,1審被告ラスカに対し,140万円を出資し,その株式(28株)を取得した。
また,1審原告Xは,同日,1審被告Yの求めに応じて,1審被告ラスカに対し,50万円を出資し,その株式(10株)を取得した。
オ 1審被告Yは,平成22年11月22日,フィットネスクラブの経営,企画,運営及び管理等を目的とする1審被告会社を設立し,その代表取締役に就任した。1審被告会社は,1審被告ラスカの子会社である。
1審原告会社と1審被告会社は,1審被告会社が本件ライセンス契約1における1審被告ラスカのライセンシーの地位を承継することを目的として,平成23年2月8日付けライセンス契約書(甲8)を作成し,本件ライセンス契約1と同旨の本件ライセンス契約2を締結した。
その後,1審原告会社と1審被告会社は,本件ライセンス契約2の13条(サブライセンス契約)について,1審被告会社の100%子会社でなくても,1審被告会社とサブライセンス契約を締結することができるように変更することを目的として,同年4月1日付けライセンス契約書(甲9)を作成し,その旨の本件ライセンス契約3を締結した。
カ 1審原告Xは,平成23年4月13日,1審被告Yの求めに応じて,1審被告ラスカに対し,250万円を出資して,その株式(50株)を取得した。
その結果,同日時点において,1審被告ラスカの資本金は1540万円,1審原告らの1審被告ラスカに対する出資総額は490万円(1審原告Xにつき300万円,1審原告会社につき190万円)となり(甲14,56),1審原告らの1審被告ラスカの発行済株式の保有割合は約31.8%となった。
キ 1審原告会社と1審被告会社は,本件ライセンス契約3の「契約期間」(22条)の「本契約締結日から2年」を「本契約締結日から30年」に変更し,「サブライセンス契約」(13条)について1審被告会社がサブラインス契約のみならず,フランチャイズ契約をも締結することができるように変更することなどを目的として,平成23年8月30日付けライセンス契約書(甲10)を作成し,その旨の本件ライセンス契約4を締結した。
なお,本件ライセンス契約4では,本件ライセンス契約3の5条,6条及び12条が削除され,これに伴い,7条以下の各条項が繰り上がった。
ク 平成22年12月から平成23年11月までの間,別紙ライセンス料及び顧問料支払額(1)記載のとおり,「Shapes」(心斎橋店),「Shapes」(梅田店),「Shapes」(横浜店),「Shapes」(新宿店)及び「Shapes」(京都店)の5店舗が開店した。
また,1審被告ラスカ又は1審被告会社は,別紙ライセンス料及び顧問料支払額(1)記載のとおり,1審原告会社に対し,本件ライセンス契約1ないし4に基づき,平成22年12月分から平成23年11月分までのライセンス料をそれぞれ支払い,その合計額は171万3045円であった。
(3)ア 1審被告Yは,平成23年11月12日,1審原告Xに対し,「新宿店は,初月から250万円前後を計上できるかと思います。」,「他の店舗についても11月はすべての店舗で10月を上回りそうです。」,「唯一,渋谷本店が上がってこないので気になってます。」などと記載したメール(乙12)を送信した。
1審原告Xは,同月13日,1審被告Yに対し,「渋谷の落ち込みは,先月もですから,正直かなりきつくなっています…。」,「渋谷を含めた24日の研修後,対策考えようと思っていましたが,それまでにアップアップになりそうです。」などと記載したメール(乙13)を返信した。
1審被告Yは,同日,1審原告Xに対し,「渋谷本店のXさんから10店舗チェーン全体のXさんへのシフトのタイミングということだと思います。」,「Shapes全体が良くないというわけではないので,問題は解決できます。」などと記載したメール(乙14)を送信し,これを受けた1審原告Xは,同日,「本当にそうですね。そろそろ渋谷オーナーからのシフト時期だと私も考えていたところです。わがままのことですが,収入も途絶えず,うまくシフトできるような,Yさんのスーパーウルトラ策に期待しています。」などと記載したメール(乙14)を返信した。
その後,1審被告Yは,同月21日,1審原告Xに対し,「渾身の案を送ります!」との件名のメール(甲20)を送信した。
上記メールには,当時1審原告会社が直営していた「Shapes」(旧渋谷本店)に関し,①旧渋谷本店をリニューアル(移転)する,②渋谷本店の運営は1審被告会社が業務委託の形態で行う,③1審被告会社が(移転先の)物件を借り,内外装費を負担する,④内外装費はライセンス料と相殺する,⑤1審原告会社が,1審被告会社に対し,業務委託料として売上げの10%,研修費及び開業支援費として105万円を支払うことなどを提案(本件提案)する旨の記載があった。また,上記メールには,本件提案によれば,「リスクなく150万円~200万円程度の収入はまたXさんに入ってくるはずです。」,「また,内外装費1000万円弱のライセンスフィーでの相殺は,今のペースでいくと2年もかからないと思います。そうすると渋谷本店の収入にライセンスフィーがまたプラスオンされることになります。」などの記載があった。
1審原告Xは,同月22日,1審被告Yに対し,①「この件,まず私はFCのオーナー的立場になるつもりはありません。」,「オーナーさんからの投資資金還元するというYさんの責任ある立場は理解しているつもりです。ただ,私とパートナー組んで当初の話とだいぶ変わってきている点もあるようです。」,②「話変わりますが,現実問題,早急に果実がほしいところです。私が動いてお金になることをさせてください。そして実際の数字をそろえてください。」,「私からの提案」として,「1.各店で有料セミナーを行い,少しでも稼がせてください。…」,「2.各店以外でもT&Gのセミナーのようにセミナーの仕事ブッキングしてください。…」,「3.スクール業再開。Shapesに迷惑かけない新しい形でできればと思います。手っとり早く稼げるので。…」,「4.監修,講師,出演などを積極的にブッキングしてください。原因は色々あると思いますが,パートナーシップを組む前の方がこういう仕事の依頼は多かったです。」などと記載したメール(甲21)を返信した。
1審被告Yは,同日,1審原告Xに対し,「ぜんぜん間違ってたようです(苦笑) 大変申し訳ございませんでした。」,「今回の案は,Xさんの収入をリスクなくこれまで通り確保でき,渋谷本店がアンテナショップとして機能するXさんにとってもShapesにとっても良い一石二鳥案で,また,そのリスクは当社がとるわけですから(ここはFCとまったく違うところです。一心同体という僕なりの解釈でした),これはまさに渾身の案だと思ってました。。。」,「かしこまりました。XメソッドとShapesブランドを圧倒的NO.1にするため,渋谷店のリニューアルで投下予定だった資金を使って,銀座にアンテナショップとして直営店を出します!」,「もし,Xさんの活動の足枷になっているようなことがあれば,それは大変申し訳ないことです。制約解除に全力を尽くしますので,お伝えいただければと思います。」などと記載したメール(甲22)を返信した。
その後,1審原告Xと1審被告Yは,同年12月4日ころ,1審原告会社が1審被告会社に対し「Shapes」(旧渋谷本店)の営業を譲渡すること,1審原告らの商標権を1審被告会社に移転すること,1審原告Xが1審被告会社の顧問に就任することなどについて交渉をした。
イ 1審原告Xと1審被告Yは,平成23年12月14日,京都市内で面会し,1審被告Yが準備した3種類の契約書案に調印して,以下のとおり,1審原告らと1審被告会社との間で各契約が締結された。
(ア) 1審原告らと1審被告会社は,以下の条項を含む平成23年12月14日付け「営業権等譲渡契約書」(甲23)を作成し,その旨の本件営業譲渡契約を締結した。
a 1条
本件営業権等の譲渡代金は,2012年(平成24年)2月末時点で2条3項に基づき1審被告会社が現に承継した顧客のプログラムが未消化の前払費用額と同額とする。
2 1審原告らと1審被告会社は,前項の譲渡代金請求権と2条3項に基づき1審被告会社が取得する求償権とを対当額で相殺する。
b 2条
1審原告会社は,2012年(平成24年)2月末をもって自らが直営する「Shapes渋谷本店(以下「旧渋谷本店」という)」の営業を停止する。ただし,新規顧客の募集については,本日をもって停止する。
2 1審原告会社は,2012年(平成24年)2月末までに,1審被告会社に対し,旧渋谷本店で契約中の顧客リスト及び契約書等の一切の書類・データを交付する。当該顧客リストには,顧客の氏名・住所,契約日,契約内容,費用の支払状況(プログラムが未消化の前払費用額を含む)を明記しなければならない。
3 1審被告会社は,上記顧客のうち1審被告会社が新たに開設する「Shapes渋谷本店(以下「新渋谷本店」という)」への承継を希望するものは,新渋谷本店において承継する。これにより,1審被告会社は,1審原告会社に対し,承継した顧客のプログラムが未消化の前払費用額に相当する金額の求償権を取得する。
c 3条
1審原告らは,1審被告会社に対し,「女性専用のダイエット・ボディメイクを目的としたパーソナルトレーニングに関する事業(以下「本件事業」という)に関する一切の営業権及び意匠,商標(Shapes,ShapesGirl等),著作権,ノウハウ,ロゴ,キャッチフレーズ(Xメソッド,A),ドメイン名(省略)のその他の知的財産・無形財産(以下,すべてあわせて「本件営業権等」という)」を譲渡する。
d 4条
1審原告会社は,本契約締結後直ちに,本件事業の営業主体について混同が生じることを防止するため,Shapesに類似しない商号に変更する。
e 5条
1審原告会社と1審被告会社は,本件事業に係る1審原告会社と1審被告会社の間の2011年(平成23年)8月30日付ライセンス契約(本件ライセンス契約4)を解約する。当該解約については上記契約書6条(競業避止義務等)及び16条(契約終了に従う措置・効果)を適用しない。
(イ) 1審原告Xと1審被告会社は,以下の条項を含む平成23年12月14日付け顧問契約書(甲24)を作成し,その旨の本件顧問契約を締結した。
a 1条
1審被告会社は,1審原告Xに対し,2012年(平成24年)1月1日より顧問料として下記の算定式による金員を支払う。なお,売上高とは,顧客から支払われる入会金,手数料,指導料その他名目の如何を問わず全ての支払を意味する。
記
Shapes「心斎橋店」 売上高の5%
Shpaes「梅田店」 売上高の4%
その他のShpaesの店舗 売上高の3%
2 前項の顧問料は,毎月末日に締め切り,翌月末日までに1審被告会社が指定する銀行口座に送金する方法により支払う。
b 2条
1審被告会社は,1審被告会社が1審原告Xの経営する1審原告会社から女性専用のダイエット・ボディメイクを目的としたパーソナルトレーニングに関する事業(以下「本件事業」という。)に関する一切の営業権及び意匠,商標,著作権,ノウハウ,トレードマーク,サービスマーク,ロゴ,ドメイン名のその他の知的財産・無形財産を譲り受けることにともない,1審原告Xを1審被告会社の名誉顧問として2012年(平成24年)1月1日より迎え入れる。
c 3条
1審原告Xは,1審被告会社の名誉顧問の立場で,1審被告会社が譲り受けた本件事業について1審被告会社の求めに応じてアドバイスを行う等して,1審被告会社の事業展開に協力する。なお,当該協力義務の内容には,1審原告会社の代表者として,1審原告会社と1審被告会社間の本日付営業権等譲渡契約書における1審原告会社の義務を履行することを含む。
3 1審原告Xは,その名義及び態様の如何を問わず,本件事業と同種又は類似の営業を行ってはならない。
d 5条
1審原告X又は1審被告会社が下記の事由の一つにでも該当したときは,その相手方は事前の催告を行うことなく本顧問契約を解除することができる。
記
① 1審原告X又は1審被告会社が本契約に違反し,相手方からの催告にもかかわらず相当期間内に違反を是正しないとき
④ 1審原告Xと1審被告会社との間の本日付金銭消費貸借契約に基づく義務に違反したとき
⑤ その他,1審原告X又は1審被告会社の責めに帰すべき事由により1審原告Xと1審被告会社間の信頼関係が破壊されたとき
(ウ) 1審被告会社は,平成23年12月14日,1審原告Xとの間で,1審被告会社が1審原告Xに対し,平成25年1月から同年12月まで5万円ずつ,平成25年1月から同年4月まで15万円ずつを毎月末日限り分割弁済の約定で,300万円を貸し付ける旨の本件金銭消費貸借契約を締結した。1審被告会社と1審原告Xは,その際,平成23年12月14日付け金銭消費貸借契約書(乙5)を作成した。
その後,平成26年4月までに,1審原告Xは,1審被告会社に対し,上記貸付金全額を返済した(甲57)。
ウ 1審原告Xは,平成23年12月19日,1審被告Yに対し,「多大な計らいとご厚意に感謝します。ShapesはYさんにお任せしましたので。」などと記載したメール(乙19)を送信した。
その後,1審被告会社は,本件営業譲渡契約の2条3項に基づいて,1審原告会社の「Shapes」(旧渋谷本店)の顧客7名に対する平成24年2月末日時点のトレーニングプログラムの未消化分の前払費用合計61万0570円(甲39)に係る債務を承継した。
エ 1審被告会社は,平成24年2月1日,別紙反訴商標目録1ないし3記載のとおり,上段に「姿勢トレ」の文字と下段に「シセトレ」の文字を2段に横書きしてなる反訴登録商標1,「Shapes」の文字を標準文字により書してなる反訴登録商標2,「Shapes」の文字及びその下に小さく表した「Reborn Myself」の文字と背景模様の図形からなる反訴登録商標3の各商標登録出願をし,同年7月6日,反訴商標権1ないし3の各設定登録を受けた。1審被告会社は,「Shapes」の店舗のフランチャイズ展開等の事業活動において,反訴登録商標3を新たなロゴマークとして使用するようになった。
また,同年2月10日,本訴商標1ないし3について,別紙登録目録1ないし3記載のとおり,1審原告会社から1審被告会社への各移転登録が,本訴商標4について,同目録4記載のとおり,1審原告Xから1審被告会社への移転登録がそれぞれ経由された。
オ 平成23年12月から平成24年3月までの間,別紙ライセンス料及び顧問料支払額(2)記載のとおり,「Shapes」(名古屋栄店),「Shapes」(池袋店),「Shapes」(福岡店)及び「Shapes」(渋谷店)の4店舗が開店した(ただし,渋谷店はリニューアルオープン)。その結果,同月当時の「Shapes」の店舗数は9店舗となった。
また,1審被告会社は,別紙ライセンス料及び顧問料支払額(2)記載のとおり,1審原告Xに対し,本件顧問契約に基づき,平成23年12月分から平成24年4月分までの顧問料をそれぞれ支払い,その合計額は279万7634円であった。
(4)ア 1審原告会社は,本件営業譲渡契約及び本件顧問契約締結後の平成24年1月以降も,その商号の変更を行わなかった。また,1審原告Xは,同月以降も,トレーナーの実務研修等を行っていた。1審原告Xは,パーソナルトレーニング,ダイエット及びボディメイクの指導を行い,その情報の提供,宣伝広告,受講生の募集及び講演の募集等を行うに際し,1審原告らの運営するウェブサイトで原告標章①及び②を使用していた。
イ 1審被告Yは,平成24年3月16日,1審原告Xに対し,「先日お会いした時に「Shapes」と検索した時に,www.<以下略>のホームページを最上位に表示させたいというお話をさせていただきましたが,なかなか変わりませんので数日前に現在うちで依頼しているseo業者何社かに対策を練らせました。」,「それで,昨日に各社から返答があったのですが,www. <以下略>からShpaesのキーワードを削除することが一番簡単で早いという見解をそれぞれから出てきました。」,「Xさんのブログや(省略)上にはXさんとshapesが相互に出ていますし,例えば,「Aプロデュースジム」でShapesのロゴマークを画像として載せるなので連動性を高めれば問題ないかと思います。」,「いずれにしても,Shapesにとっては最上位表示がブランディングや信頼性という面ではベストですし,Shapes公式サイトのリスティング広告費も必要なくなりますので,上記の方向性でホームページの修正をお願いします。」,「また,何か代替案や実施する上でのリスクがありましたら,ぜひ教えてください。」などと記載したメール(乙22)を送信した。
その後,1審被告Yは,「Yahoo!知恵袋」のウェブサイトに,Shapesの名称を用いて1審原告X個人のホームページに顧客を誘導する記事を見つけたことから,平成24年6月21日,1審原告Xに対し,「Xさんですよね? さすがに不自然ですので(笑) 削除をお願いできますか?」などと記載し,URLを特定したサイトの削除を求める旨のメール(乙24)を送信した。
ウ 1審被告Yは,平成24年6月23日,大阪市内で,1審原告Xと面談し,その際,1審原告Xに対し,1審被告会社の運営が苦しいので,本件顧問契約を解消したい,1審被告会社の売上計算方法を顧客からのトレーニング料の前払金の入金時に売上げを計上する方法からトレーニングプログラムの消化時に売上げを計上する方法に変更したので,これに伴い,1審被告会社の1審原告Xに対する本件顧問契約に基づく顧問料の過払金が発生しているなどと述べた。
1審被告会社は,同月26日ころまでに,1審原告Xに対し,同月23日付けの「顧問料の精算方法について」と題する書面(乙1の1)及び同日付け「御精算書」と題する書面(乙1の2)を交付した。
上記「顧問料の精算方法について」と題する書面には,「弊社で計上する売上の計算方法が,2012年5月1日から,本来あるべき姿である企業会計原則にのっとり処理する事となりました。」,「これに伴い,今後はトレーニング代金の入金時に前受金処理を行い,セッションの消化時に売上計上を行います。」,「その結果,2012年4月30日時点で,1,539,271円の過払い金(下記,計算根拠を参照)が発生しています。」,「つきましては,2012年6月28日までに過払い金を下記口座に振込入金お願いします。」,「過払い金 4,417,604円(累計支払額)-2,878,333円(顧問料)=1,539,271円(過払い金)」などの記載がある。また,上記「御精算書」と題する書面には,「件名顧問料(5月分)」,「支払条件 6月29日 過払い金と相殺」,「合計金額 ▲¥835,584.-(消費税込み)」などの記載がある。
さらに,1審被告Yは,同年6月28日,1審原告Xに対し,「本日,Xさんの税理士の方から当社に電話がありまして,内容はざっくりですが当社の会計基準が信用できないので,店舗支払いデータを出してほしいということでした。」,「この点についてはXさんがシステムで見ている通りですので,すべて要望通り出します。」,「ただ,この件については,今,非常に心外に感じていて,感情的になっています。」,「まず,会計のシステムはすべて公開しているじゃないですか?」,「また,僕が外部やもしくは内部の担当者を挟んでXさんと交渉したことはありますか?」,「今日を境に,Xさんとのやりとりは専門の弁護士,会計士,担当者をつけます。」,「これは,信頼関係の破壊を決定的にする行為と僕は感じています。」,「今月末で顧問を降りていただく方向で,当社の方で事務手続きを進めます。」などと記載したメール(甲25)を送信した。
これに対し,1審原告Xは,同日,1審被告Yに対し,「Yさん ご連絡遅くなり申し訳ありません。」,「疑ってのことではありません。うちの会社の決算の締めが大詰めに重なったところで急きょ税理士に資料を渡したという経緯です。私は先日もお伝えしていたとおりの気持ちです。ただYさんを不快にしたことは心から謝ります。」などと記載したメール(甲25)を返信した。
1審被告Yは,同月29日,1審原告Xに対し,「ちょうどShapesの収益も悪化し,いつ顧問料の支払いが滞ってもおかしくない状況でしたので,大きな迷惑をかける前のタイミングで逆に良かったと思ってます。」,「今は,僕にも会社にも余裕がありませんので,この先Xさんとやっていくことも今の顧問料で収益を上げることにも自信がありません。」,「僕個人とShapesの代表者としての最後の誠意として,現在の貸付金は相殺扱いとさせていただきます。」,「逆に,Xさんの誠意として今回の提案を受け入れてください。」などと記載したメール(甲47)を返信した。なお,上記メールの返信がされた当時,実際には,1審被告会社の収益状況は悪化していなかった。
エ 1審被告会社は,平成24年7月2日付け「顧問契約の解除通知書」(甲26)により,1審原告Xに対し,「①営業権譲渡から半年以上経過した現在も,当社からの催告にもかかわらず,ドメイン名(省略),アメーバ・ブログ(Shapes),商号(株式会社Shapes)を変更せずに使用している」こと,「②営業権譲渡後もダイエット・ボディメイクを目的としたパーソナルトレーニングに関する事業を営んでいる」ことを理由に,本件顧問契約の5条に基づいて,本件顧問契約を解除する旨の通知をした。
これに対し1審原告Xの代理人弁護士は,同月10日到達の内容証明郵便で,1審被告会社に対し,1審原告Xには,本件顧問契約を解除されるべき事由はない,1審原告Xは,本件顧問契約に基づき,従前どおり業務を行い,顧問料を受領する旨を記載した通知(甲27の1,2)をした。
1審原告Xの代理人弁護士は,同月17日到達の内容証明郵便で,1審被告会社に対し,上記「顧問契約の解除通知書」記載の①については,「ドメイン名は,…現在も残存しているようですが,通知人は営業譲渡後も直ちに停止措置をとり,全く使用していません。現在残存している理由は不明ですが,再度削除するよう手続しています。」,「アメーバブログについても,通知人は営業譲渡前に停止措置をとり,全く使用していません。」,「商号については,確かに,「株式会社Shapes」という会社は残存しておりますが,これは,経理処理上残存しているだけであり,対外的に被通知人の事業の障害となるものではありません。会社を残存していることについては,当初から被通知人の承諾を受けているところであり…」,②については,「通知人がトレーナーとしての能力を維持するためには,トレーナー育成だけでは不十分であり,実際に現場において指導することが必要であるという観点から行っているものであり,この点についても,既に被通知人から承認されているものです。」,「就いては,速やかに,平成24年7月5日付通知書のとおり,顧問料支払など,顧問契約が継続していることを前提とした措置を回復してください。」,「万一,被通知人が顧問料の支払を怠った場合には,通知人は法的措置をとります。」,「過払い金が発生しているとの経理処理変更の意味は理解できますが,本件顧問契約における顧問料算定において,消化分のみを売上の算定基礎にすることは,従前の契約及び履行済みの実績に反し,不当であると言わざるを得ません。」などと記載した通知(甲28の1,2)をした。
オ 1審被告会社の代理人弁理士は,平成24年7月25日付け内容証明郵便により,1審原告らに対し,本訴商標権1及び4,反訴商標権1及び2等に基づいて,パーソナルトレーナー等の役務について,「Shapes」,「A」,「シセトレ」,「シセイトレ」及び,「Xメソッド」の各標章の使用を全て中止することを求める旨の通知(甲30)をした。
1審被告会社の代理人弁護士は,同年9月4日付け内容証明郵便により,1審原告Xの代理人弁護士に対し,1審被告会社には,本件顧問契約に基づく支払義務が存在せず,過払金の返還請求を求める旨の通知(甲31)をした。
カ 1審原告らの代理人弁護士は,平成24年9月27日又は同月28日到達の内容証明郵便により,1審被告らに対し,1審原告らと1審被告Y及び1審被告ラスカ間の共同事業の合意,1審原告らと1審被告会社間の本件営業譲渡契約及び1審原告Xと1審被告会社間の本件顧問契約は,三位一体の関係にあること,1審被告会社は,1審原告Xに対し,同年5月分以降の本件顧問契約の顧問料の支払をしていないこと,1審被告らが共同事業の遂行を全て否定していることを理由に,1審原告らは,これらの契約の解除の意思表示をする旨の通知(甲32の1ないし4)をした。
(5)ア 1審原告らは,平成24年10月18日,1審被告らを相手として,本件本訴を提起し,1審被告会社は,平成25年6月29日,1審原告らを相手として,本件反訴を提起した。
イ 本訴商標1の商標登録について,平成26年11月28日,商標法50条1項に基づき,商標登録取消審判(取消2014-300963号事件)が請求され,同年12月17日,その予告登録(乙54,55)がされた。
特許庁は,平成27年3月31日,本訴商標1の商標登録を取り消す旨の審決(乙54)をし,同審決は,原審の本件口頭弁論終結後の同年5月11日に確定した。これにより,同年6月5日,本訴商標1の商標登録の抹消登録(乙55)がされた。
2 争点(1)-ア(1審原告Xの1審被告らに対する共同事業合意等の解除による損害賠償請求の成否)について
次のとおり訂正するほか,原判決18頁10行目から19頁7行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決18頁16行目の「本件ライセンス契約を含むライセンス契約」を「本件ライセンス契約1ないし4」と改める。
(2) 原判決19頁3行目の「契約内容」を「契約内容(各条項)」と,同頁6行目の「損害賠償請求」を「共同事業合意等の解除による損害賠償請求権の発生原因事実」と改め,同頁7行目を次のとおり改める。
「 以上によれば,1審原告X主張の1審原告らと1審被告ら間の本件共同事業合意の成立は認められず,また,本件営業譲渡契約中には,1審被告会社が1審原告らの将来的な利益を保証する債務を負っていたことの根拠となる条項は存在せず,1審被告会社が本件営業譲渡契約に基づいて上記債務を負っていたものと認めることはできない。
したがって,1審原告Xの1審被告らに対する本件共同事業合意等の解除による逸失利益の損害賠償請求は,その前提を欠くものであり,理由がない。」
3 争点(1)-イ(1審原告Xの1審被告会社に対する本件顧問契約に基づく未払顧問料等請求の成否)について
(1) 1審原告Xは,1審被告会社は,1審原告Xに対し,本件顧問契約に基づく平成24年5月分ないし同年9月分の顧問料410万7170円,同年5月9日分の講師料3万円及び同年6月23日分の研修交通費2万8100円(以上,合計416万5270円)の支払義務を負う旨主張する。
そこで検討するに,1審被告Yの供述及び弁論の全趣旨によれば,1審原告Xの本件顧問契約に基づく平成24年5月分ないし同年9月分の顧問料は,合計410万5170円であることが認められ,上記期間の顧問料が上記金額を超えることを認めるに足りる証拠はない。
また,証拠(甲29,57,58,75ないし77,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,1審原告Xと1審被告会社は,1審被告会社が1審原告Xに対し,同年5月9日分の講師料として3万円及び同年6月23日分の研修交通費として2万8100円を支払う旨の合意をしたことが認められ,これに反する証拠はない。
(2)ア これに対し,1審被告会社は,平成24年6月23日,1審原告Xとの間で,同年5月1日から,本件顧問契約に基づく顧問料算定の基礎となる売上高の計上基準時を顧客からの前払金の入金時からトレーニングプログラムの消化時に変更する旨の本件基準時変更合意をし,これに伴い発生した過払顧問料の返還について,本件返還合意をし,さらに,1審被告会社の同年4月30日時点の過払金返還請求権153万9271円と1審原告Xの同年5月分及び同年6月分の顧問料等請求権とを対当額で相殺する旨の本件相殺合意をし,その結果,同年5月分及び同年6月分の顧問料並びに同年5月9日分の講師料の支払義務を負わない旨主張し,これに沿う1審被告Yの供述(陳述書(乙39)を含む。以下同じ。)がある。
(ア) しかしながら,①1審原告Xは,本件基準時変更合意,本件返還合意及び本件相殺合意をしたことを否定する供述(陳述書(甲57)を含む。以下同じ。)をしていること,②本件基準時変更合意,本件返還合意及び本件相殺合意の成立を裏付ける合意書等の書面その他の客観的証拠は提出されていないこと,③本件顧問契約の1条1項は,1審被告会社は,1審原告Xに対し,売上高に所定の割合を乗じた顧問料を支払う旨,「売上高とは,顧客から支払われる入会金,手数料,指導料その他名目の如何を問わず全ての支払を意味する。」旨を規定していることからすると,本件顧問契約の文言上,売上高の計上時期は,入会金等の「支払」時,すなわち入金時と解釈するのが自然であること,④前記1(4)ウの認定事実によれば,1審被告Yは,平成24年6月23日,1審原告Xに対し,1審被告会社の売上計算方法を顧客からのトレーニング料の前払金の入金時に売上げを計上する方法からトレーニングプログラムの消化時に売上げを計上する方法に変更したので,これに伴い,1審被告会社の1審原告Xに対する本件顧問契約に基づく顧問料の過払金が発生しているなどと述べ,その後,1審原告Xは,1審被告会社から,同日付けの「顧問料の精算方法について」と題する書面(乙1の1)及び同日付け「御精算書」と題する書面(乙1の2)の交付を受けたが,1審被告Yが述べた1審被告会社の売上計算方法の変更及び過払金の発生に納得がいかなかったため,同月28日,税理士を通じて1審被告会社に電話で問合せをしたことが認められること,⑤上記「顧問料の精算方法について」と題する書面には,過払金発生の理由は,1審被告会社における売上げの計上方法が,同年5月1日から,「本来あるべき姿である企業会計原則にのっとり処理する事」になったことに伴うものである旨の記載があり,このような1審被告会社側の事情によって,1審原告Xが,既に支払を受けた顧問料のうち153万9271円を返還すべき結果となる本件基準時変更合意に直ちに応じるというのは極めて不自然であることに照らすと,1審被告Yの上記供述は措信することはできない。他に1審被告会社と1審原告Xが本件基準時変更合意,本件返還合意及び本件相殺合意をしたことを認めるに足りる証拠はない。
(イ) この点に関し,1審被告会社は,本件基準時変更合意,本件返還合意及び本件相殺合意の各合意をしたからこそ,1審被告会社が1審原告会社あての平成24年6月23日付けの「御精算書」と題する書面(乙1の2)を作成したこと,1審原告Xは,税理士を通じて1審被告会社に電話で問合せをしたことに関し,1審被告Yに対し,メール(甲25)で,「うちの会社の決算の締めが大詰めに重なったところで急きょ税理士に資料を渡したという経緯です」と言い訳をし,その上で「私は先日もお伝えしていたとおりの気持ちです」と顧問料の計算方法の変更等について承諾したことを認め,「Yさんを不快にしたことは心から謝ります」と謝罪の言葉まで述べており,仮に1審原告Xが顧問料の計算方法の変更等を承諾していないのであれば,謝罪する必要はないことなどからすれば,1審被告Yの上記供述は不自然ではない旨主張する。
しかしながら,前記1(4)ウの認定事実及び1審原告Xの上記メール(甲25)の内容に照らすと,1審原告Xの上記メールは,1審原告Xの依頼した税理士が1審被告会社に電話をかけた経緯の説明をし,1審被告Yを不快にしたことについては謝罪する旨を伝えたものにすぎないことが認められ,また,1審被告会社が上記「御精算書」と題する書面を作成したからといって1審原告Xが顧問料の計算方法の変更を承諾したことの裏付けとなるものではない。
したがって,1審被告会社の上記主張は採用することができない。
(ウ) 以上のとおり,1審被告会社と1審原告X間の本件基準時変更合意,本件返還合意及び本件相殺合意の成立は認められないから,1審被告会社が平成24年5月分及び同年6月分の顧問料並びに同年5月9日分の講師料の支払義務を負わないとの1審被告会社の主張は,理由がない。
イ 次に,1審被告会社は,平成23年12月14日に本件営業譲渡契約を締結した後,1審原告Xに対し,繰り返し口頭又はメール(乙22,24)で,「Shapes」標章(原告標章①ないし③)の使用及び競業行為を中止することを要請し,さらに,平成24年6月23日にも同様の要請をしたが,1審原告Xは,本件顧問契約に反して,自らのパーソナルトレーナー業のために上記標章を使用して,「Shapes」事業と同種又は類似の営業(競業行為)を行っていたことから,1審被告会社は,同年7月2日付け「顧問契約の解除通知書」で,1審原告Xに対し,本件顧問契約を解除する旨の意思表示をし,本件顧問契約は,上記解除により終了したから,1審被告会社は,同年7月分以降の顧問料の支払義務を負わない旨主張する。
(ア) そこで検討するに,1審被告会社作成の平成24年7月2日付け「顧問契約の解除通知書」(甲26)には,解除事由として,1審原告Xが,「①営業権譲渡から半年以上経過した現在も,当社からの催告にもかかわらず,ドメイン名(省略),アメーバ・ブログ(Shapes),商号(株式会社Shapes)を変更せずに使用している」こと,「②営業権譲渡後もダイエット・ボディメイクを目的としたパーソナルトレーニングに関する事業を営んでいる」ことの記載があるが,1審被告会社が1審原告Xに対し,繰り返し口頭又はメールで,「Shapes」標章(原告標章①ないし③)の使用及び競業行為を中止することを要請し,同年6月23日にも同様の要請をしたことについては,解除事由として明記されていない。
この点に関し,1審被告Yは,原審の本人尋問において,1審被告Yが,本件顧問契約締結後,平成24年6月23日までの間に,1審原告Xに対し,口頭で,「Shapes」標章の使用及びパーソナルトレーニング等を中止することを求めた旨を供述しているが,1審被告Yの上記供述は,1審被告Yが中止することを求めた具体的な時期,場所等が判然としないあいまいなものであり,客観的証拠の裏付けも欠くものであるから,措信することはできない。
(イ) 次に,上記「顧問契約の解除通知書」(甲26)記載の解除事由①及び②については,1審原告Xは,1審被告会社から,ドメイン名(省略),アメーバ・ブログ(Shapes)及び商号(株式会社Shapes)の使用の中止を求める催告を事前に受けたことはないし,1審原告Xが個人的に交友関係のある顧客に対してパーソナルトレーニングを実施することは当初から1審被告会社に認められていた旨供述しており,これに沿うように,1審原告Xの代理人弁護士作成の1審被告会社あての平成24年7月17日到達の内容証明郵便(甲28の1,2)には,上記①については,「ドメイン名は,…現在も残存しているようですが,通知人は営業譲渡後も直ちに停止措置をとり,全く使用していません。現在残存している理由は不明ですが,再度削除するよう手続しています。」,「アメーバブログについても,通知人は営業譲渡前に停止措置をとり,全く使用していません。」,「商号については,確かに,「株式会社Shapes」という会社は残存しておりますが,これは,経理処理上残存しているだけであり,対外的に被通知人の事業の障害となるものではありません。会社を残存していることについては,当初から被通知人の承諾を受けているところであ」る,上記②については,「通知人がトレーナーとしての能力を維持するためには,トレーナー育成だけでは不十分であり,実際に現場において指導することが必要であるという観点から行っているものであり,この点についても,既に被通知人から承認されている」旨の記載がある。
さらに,1審被告Yが同年3月16日に1審原告Xに送信したメール(乙22)には,「先日お会いした時に「Shapes」と検索した時に,www.<以下略>のホームページを最上位に表示させたいというお話をさせていただきましたが,なかなか変わりませんので数日前に現在うちで依頼しているseo業者何社かに対策を練らせました。」,「それで,昨日に各社から返答があったのですが,www.<以下略>からShpaesのキーワードを削除することが一番簡単で早いという見解をそれぞれから出てきました。」,「Xさんのブログや(省略)上にはXさんとshapesが相互に出ていますし,例えば,「Aプロデュースジム」でShapesのロゴマークを画像として載せるなので連動性を高めれば問題ないかと思います。」などの記載があり,上記記載から,1審被告会社及び1審被告Yが,1審原告Xがその運営するウェブサイトやブログにおいていて原告標章①及び②を使用していることや1審原告Xがパーソナルトレーナー業を行っていることを認識した上で,上記ウェブサイトに1審被告会社のロゴマーク(反訴登録商標3ないし原告標章③)の画像を載せることを提案していることを読み取ることができる。
以上によれば,1審被告会社は,本件顧問契約の締結後,少なくとも平成24年7月2日付け「顧問契約の解除通知書」により本件顧問契約の解除の意思表示をする前までは,1審原告会社が,その商号の変更を行わず,1審原告Xがパーソナルトレーニング等を行い,その際に,1審原告Xが原告標章①ないし③を使用することを容認していたものと認められる。
(ウ) この点に関し,1審被告会社は,本件営業譲渡契約締結後,平成24年6月23日までの間に,1審原告Xに対し,繰り返し口頭又はメールで「Shapes」標章(原告標章①ないし③)の使用及び競業行為を中止することを要請していたことの根拠として,乙22及び乙24を挙げている。
しかしながら,乙22のメール(1審被告Yが平成24年3月16日に1審原告Xに送信したメール)は,上記(イ)記載の内容のものであって,上記メールから,1審被告会社が,1審原告Xに対し,「Shapes」標章の使用及びパーソナルトレーニング等を中止することを求めていることを読み取ることはできない。
また,乙24のメール(1審被告Yが同年6月21日に1審原告Xに送信したメール)は,前記1(4)イ認定のとおり,1審被告Yが,「Yahoo!知恵袋」のウェブサイトに,Shapesの名称を用いて1審原告X個人のホームページに顧客を誘導する記事を見つけたことから,1審原告Xに対し,「Xさんですよね? さすがに不自然ですので(笑) 削除をお願いできますか?」などと記載し,URLを特定したサイトの削除を求める旨のメールであり,1審原告Xに対し,「Shapes」標章の使用及びパーソナルトレーニング等を中止することを求める内容のものではない。
他に1審被告会社が本件営業譲渡契約締結後,平成24年6月23日までの間に,1審原告Xに対し,繰り返し口頭又はメールで「Shapes」標章(原告標章①ないし③)の使用及び競業行為を中止することを要請していたことを認めるに足りる証拠はない。また,同様に,1審被告会社が本件顧問契約の締結後,少なくとも同年7月2日付け「顧問契約の解除通知書」により本件顧問契約の解除の意思表示をするまでの間に,上記「顧問契約の解除通知書」記載の解除事由①及び②に係る各行為の中止を求めていたことを認めるに足りる証拠はない。
(エ) 前記(ア)ないし(ウ)によれば,1審被告会社作成の平成24年7月2日付け「顧問契約の解除通知書」(甲26)記載の解除事由①及び②は,本件顧問契約の解除事由に該当する1審原告Xの債務不履行を構成するものと認めることはできないから,1審被告会社による同日付けの本件顧問契約の解除は無効である。
したがって,1審被告会社が同年7月分以降の顧問料の支払義務を負わないとの1審被告会社の主張は,理由がない。
(3) 以上によれば,1審被告会社は,1審原告Xに対し,本件顧問契約に基づく平成24年5月分ないし同年9月分の顧問料410万5170円,同年5月9日分の講師料3万円及び同年6月23日分の研修交通費2万8100円の合計416万3270円)の支払義務を負うものと認められる。
したがって,1審原告Xの本件顧問契約に基づく顧問料等請求は,上記416万3270円及びこれに対する平成24年12月7日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと認められる。
4 争点(1)-ウ(1審原告らの1審被告会社に対する本件営業譲渡契約の解除による原状回復請求権に基づく商標権移転登録抹消登録手続請求の成否)について
(1) 1審原告らは,1審原告らと1審被告会社間の本件営業譲渡契約と1審原告Xと1審被告会社間の本件顧問契約は,形式上2個の契約であるが,「Shapes」の事業を拡大し,1審原告らと1審被告会社の将来的な利益を確保するために締結されたものであり,相互に密接に関連付けられ,いずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体として達成されないという一体の関係にあるところ,1審原告らは,平成24年9月27日,1審被告会社に対し,1審被告会社の本件顧問契約に基づく同年5月分以降の顧問料の支払債務の債務不履行を理由に,本件顧問契約と併せて本件営業譲渡契約を解除する旨の意思表示をしたから,本件営業譲渡契約の解除による原状回復請求権に基づき,1審被告会社に対し,本訴商標1ないし4について,別紙登記目録1ないし4記載の各移転登録の抹消登録手続を求めることができる旨主張するので,以下において判断する。
ア 同一当事者間の債権債務関係がその形式は甲契約及び乙契約といった2個以上の契約から成る場合であっても,それらの目的とするところが相互に密接に関連付けられていて,社会通念上,甲契約又は乙契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には,甲契約上の債務の不履行を理由に,その債権者が法定解除権の行使として,甲契約と併せて乙契約をも解除することができるものと解するのが相当である(最高裁平成8年11月12日第三小法廷判決・民集50巻10号2673頁参照)。そして,2個以上の契約の当事者が異なる場合であっても,その異なる当事者の関係,それらの契約の目的及び内容,契約の締結に至る経緯等を総合的に考慮して,両契約の目的とするところが相互に密接に関連付けられていて,社会通念上,両契約のいずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には,同様に,一方の契約上の債務の不履行を理由に,その債権者が,法定解除権の行使として,一方の契約と併せて他方の契約をも解除することができるものと解するのが相当である。
イ これを本件についてみると,前記1の認定事実と証拠(甲10,23,24,57,1審原告X本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 平成23年12月14日,1審原告会社,1審原告X及び1審被告会社の3者間で本件営業譲渡契約が,1審原告X及び1審被告会社の2者間で本件顧問契約がそれぞれ締結された。
(イ) 1審原告Xは,1審原告会社の代表取締役で,かつ,唯一の取締役であり,1審原告会社の経営は,1審原告Xが単独で行っていた。
(ウ) 本件営業譲渡契約(甲23)は,1審原告会社及び1審原告Xの両名が,1審被告会社に対し,「女性専用のダイエット・ボディメイクを目的としたパーソナルトレーニングに関する事業(以下「本件事業」という)に関する一切の営業権及び意匠,商標(Shapes,ShapesGirl等),著作権,ノウハウ,ロゴ,キャッチフレーズ(Xメソッド,A),ドメイン名(省略)のその他の知的財産・無形財産(以下,すべてあわせて「本件営業権等」という)」を譲渡し(3条),本件営業権等の譲渡代金は,1審被告会社が平成24年2月末日時点で現に承継した1審原告会社の「Shapes」(旧渋谷本店)の顧客に対する未消化のプログラムの前払費用額と同額とし,その譲渡代金請求権と1審被告会社の1審原告会社に対する上記前払費用額に相当する金額の求償権とを対当額で相殺すること(1条,2条3項),1審原告会社と1審被告会社は本件事業に関する本件ライセンス契約4を合意解約すること(5条)などを内容とするものである。
上記前払費用額に係る顧客に対する債務及び上記求償権に係る1審被告会社に対する債務は,いずれも1審原告会社を債務者とするものであって,1審原告Xを債務者とするものではなく,本件営業譲渡契約中には,1審原告Xが1審原告Xに帰属する本件事業に関する一切の営業権及び知的財産・無形財産を1審被告会社に譲渡することによって,1審被告会社から受ける譲渡の対価に関する定めは存在しない。
(エ) 本件顧問契約(甲24)は,1審被告会社が,1審原告Xが経営する1審原告会社から,本件事業に関する一切の営業権及び意匠,商標,著作権,ノウハウ,トレードマーク,サービスマーク,ロゴ,ドメイン名その他の知的財産・無形財産を譲り受けることに伴い,平成24年1月1日から1審原告Xを1審被告会社の名誉顧問とすること(2条),1審原告Xは,名誉顧問として,1審被告会社が譲り受けた本件事業についてアドバイスを行う等して,1審被告会社の事業展開に協力する義務(当該協力義務には,1審原告会社の代表者として,1審原告会社と1審被告会社間の本件営業譲渡契約における1審原告会社の義務の履行を含む。)を負い(3条1項),1審被告会社は,1審原告Xに対し,所定の顧問料(Shapes「心斎橋店」の売上高の5%,Shpaes「梅田店」の売上高の4%,その他のShpaesの店舗の売上高の3%)を支払うこと(1条1項)などを内容とするものである。
(オ) 本件顧問契約に基づいて1審被告会社が1審原告Xに対して支払義務を負う上記顧問料の算定方法は,本件営業譲渡契約の5条により合意解約された本件ライセンス契約4(甲10)に基づいて1審被告会社が1審原告会社に対して支払義務を負っていた「ライセンスフィー」の算定方法(9条)と同一の内容である。
また,本件ライセンス契約4の目的は,1審原告会社が1審被告会社に対して,「Shapes」及び「A」の商標・サービスマーク・その他の標章及びダイエット・ボディメイクのノウハウを用いて,統一されたShapesブランドのもとに継続して事業を行う権利を与え,その代償として1審被告会社が一定の対価を支払い,相互の繁栄を図ること(1条)にあった。
(カ) 本件営業譲渡契約の2条3項に基づいて,1審被告会社が承継した1審原告会社の「Shapes」(旧渋谷本店)の顧客(7名)に対する平成24年2月末日時点のトレーニングプログラムの未消化分の前払費用に係る債務は,合計61万0570円(前記1(3)ウ)であった。
ウ(ア) 前記イの認定事実によれば,本件営業譲渡契約の契約当事者は,1審原告会社,1審原告X及び1審被告会社の3者であるのに対し,本件顧問契約の契約当事者は,1審原告X及び1審被告会社の2者である点で,両契約の契約当事者の一部が異なるが,1審原告Xが1審原告会社の代表取締役として1審原告会社の経営を単独で行っていたことに照らすと,1審原告会社は1審原告Xの個人事業と実質的に変わらないものといえるから,両契約の契約当事者は,実質的に同一であるといえる。
そして,本件営業譲渡契約は,1審原告会社が1審被告会社に対して,「Shapes」及び「A」の商標・サービスマーク・その他の標章及びダイエット・ボディメイクのノウハウを用いて,統一されたShapesブランドのもとに継続して事業を行う権利を与え,その代償として1審被告会社が一定の対価を支払い,相互の繁栄を図ることを目的とした本件ライセンス契約4を合意解約し,1審原告会社及び1審原告Xの両名が,1審被告会社に対し,本件事業に関する一切の営業権及び知的財産・無形財産(本件営業権等)を譲渡し,その譲渡の対価は,1審被告会社が平成24年2月末日時点で現に承継した1審原告会社の「Shapes」(旧渋谷本店)の顧客に対する未消化のプログラムの前払費用額と同額とするという内容のものであるが,1審被告会社が承継した上記前払費用額は,61万0570円であったこと(前記イ(ウ)及び(カ)),本件ライセンス契約4においては,1審原告会社は,「Shapes」及び「A」の商標・サービスマーク・その他の標章及びダイエット・ボディメイクのノウハウを使用してライセンス事業を行う権利を1審被告会社に付与することの対価として,1審被告会社から,Shapes「心斎橋店」(甲10の9条の「第1店舗目」)の売上高の5%,Shpaes「梅田店」(同条の「第2店舗目」)の売上高の4%及びその他のShpaesの店舗(同条の「第3店舗目以降」)の売上高の3%のライセンスフィーを受ける権利を有しており,合意解約日の前月である平成23年11月の1か月分のライセンスフィーは,別紙ライセンス料及び顧問料支払額欄(1)記載のとおり,40万7530円であったことに照らすと,本件営業譲渡契約が規定する「本件営業権等の譲渡代金」(1審被告会社が平成24年2月末日時点で現に承継した1審原告会社の「Shapes」(旧渋谷本店)の顧客に対する未消化のプログラムの前払費用額と同額)は,1審原告らの本件営業権等の譲渡の対価としては明らかに低額であるといえる。
加えて,①本件営業譲渡契約中には,1審原告Xが1審原告Xに帰属する本件事業に関する一切の営業権及び知的財産・無形財産を1審被告会社に譲渡することによって,1審被告会社から受ける譲渡の対価に関する定めは存在しないこと(前記イ(ウ)),②一方で,本件顧問契約中には,1審被告会社が,1審原告会社から本件営業権等を譲り受けることに伴い,1審原告Xを1審被告会社の名誉顧問とし,1審原告Xは,1審被告会社が譲り受けた本件事業について1審被告会社の事業展開に協力する義務(当該協力義務には,1審原告会社の代表者として,1審原告会社と1審被告会社間の本件営業譲渡契約における1審原告会社の義務の履行を含む。)を負い,1審被告会社は,1審原告Xに対し,所定の顧問料を支払う旨の条項があること(前記イ(エ)),③本件顧問契約に基づいて1審被告会社が1審原告Xに対して支払義務を負う上記顧問料の算定方法は,本件営業譲渡契約の5条により合意解約された本件ライセンス契約4に基づいて1審被告会社が1審原告会社に対して支払義務を負っていた「ライセンスフィー」の算定方法と同一の内容であること(前記イ(オ)),④前記1(3)認定の本件営業譲渡契約及び本件顧問契約の締結に至る経緯によれば,1審原告Xは,少なくとも1審原告らにおいて本件ライセンス契約4に基づく「ライセンスフィー」相当額の収入を確保できなければ,1審原告会社及び1審被告会社間の本件ライセンス契約4を合意解約し,1審原告らの有する本件事業に関する一切の営業権及び知的財産・無形財産(本件営業権等)の譲渡に応じる意思はなく,1審被告Y及び1審被告会社も,そのことを十分に認識していたことが認められることを総合すると,本件営業譲渡契約は,1審被告会社が1審原告らからパーソナルトレーニング事業の展開を進めるのに必要な営業権等の譲渡を受け,その代償として,1審被告会社が本件顧問契約に基づいて1審原告Xに対して一定の対価を支払い,相互の繁栄を図ることを目的とするという点において,両契約の目的は,相互に密接に関連付けられていて,社会通念上,本件営業譲渡契約のみが履行されるだけでは,契約を締結した目的が全体としては達成されないものと認められる。
そして,1審原告らは,平成24年9月27日到達の内容証明郵便(甲32の1,2)で,1審被告会社に対し,同年5月分以降の本件顧問契約の顧問料の不払を理由に,本件営業譲渡契約及び本件顧問契約を解除する旨の意思表示をしたこと(前記1(4)カ),上記内容証明郵便が到達した同年9月27日までに同年5月分ないし同年9月分の顧問料(合計410万5170円)の弁済期が到来していたこと(前記3(1),弁論の全趣旨),1審被告会社は,同月4日付け内容証明郵便により,1審原告Xに対し,1審被告会社には,本件顧問契約に基づく支払義務が存在せず,過払金の返還請求を求める旨の通知をし(前記1(4)オ),顧問料の支払の意思がないことを表明していたことに鑑みると,1審原告らは,1審被告会社の本件顧問契約に基づく同年5月分ないし9月分の上記顧問料の支払債務の債務不履行(履行遅滞)を理由に,本件顧問契約と併せて,本件営業譲渡契約をも解除することができるというべきであるから,1審原告らが同月27日にした上記解除は有効であるものと認められる。
(イ) これに対し,1審被告会社は,①1審原告会社は,1審原告Xから独立した法人格を有し,その法人格は形骸化しておらず,1審原告Xと1審原告会社が実質的に同一であるとはいえないこと,②1審被告Yは,本件営業譲渡契約により収入の道を失う1審原告Xの生活を維持させるために本件顧問契約を締結したものであり,その際,1審被告Yが顧問料率を従来のライセンス料率と同等にしたのは,1審原告Xに対する情にすぎず,本件顧問契約がなければ,本件営業譲渡契約の目的を達成し得ないという関係にはないこと,③両契約の目的は,「被告会社によるパーソナルトレーニング事業Shapesのフランチャイズ展開」にあるとはいえず,本件営業譲渡契約は,自ら経営するShapes(旧渋谷本店)の経営に行き詰まった1審原告会社が,旧渋谷本店の未消化債務を含めたShapes事業を1審被告会社に引き継ぐことを目的とする契約であるのに対し,本件顧問契約は,旧渋谷本店からの収入の道を断たれた1審原告Xに対して,1審被告会社が1審原告Xを雇用することで収入を確保させること目的とする契約であり,両契約はその目的を異にすることなどからすると,本件顧問契約と本件営業譲渡契約とはその目的を異にし,社会通念上,本件営業譲渡契約のみが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないともいえないから,1審原告らが,1審被告会社の本件顧問契約の債務不履行を理由に,両契約を解除することはできない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)に説示したのと同様の理由により,上記①ないし③の事情をいずれも認めることができないから,1審被告会社の主張は,採用することができない。
エ(ア) ①平成24年2月10日,本件営業譲渡契約に基づいて,本訴商標1ないし3について,別紙登録目録1ないし3記載のとおり,1審原告会社から1審被告会社への各移転登録が,本訴商標4について,同目録記載4のとおり,1審原告Xから1審被告会社への移転登録がそれぞれ経由されたこと,②その後,本訴商標1の商標登録を取り消す旨の審決の確定により,平成27年6月5日,本訴商標1の商標登録の抹消登録がされたことは,前記1(3)エ及び(5)イ認定のとおりである。
そして,上記②の抹消登録に伴い,本件商標1についての1審原告会社から1審被告会社への別紙登記目録1記載の移転登録は抹消されている。
そうすると,1審原告らは,前記ウ(ア)の本件営業譲渡契約の解除による原状回復請求権に基づき,1審被告会社に対し,1審原告会社においては本訴商標2及び3について別紙登記目録2及び3記載の各移転登録の抹消登録手続を,1審原告Xにおいては本件商標4について同目録4記載の移転登録の抹消登録手続を求めるができるものと認められる。
一方で,本訴商標1については,別紙登記目録1記載の移転登録は抹消されているから,1審原告会社は,1審被告会社に対し,上記抹消登録手続を求めることはできないというべきである。
(イ) これに対し,1審被告会社は,①本件営業譲渡契約は,様々な内容を含む複合的な契約であり,かつ,本件営業譲渡契約を前提として新たな法律関係が蓄積されており,本件営業譲渡契約は,継続的契約にも類似するものであるから,本件営業譲渡契約が解除されたからといって,当然に遡及効が発生するものではない,②1審被告会社にとって本件営業譲渡契約により1審原告らから譲り受ける価値のある財産は何ら存在しなかったが,1審被告会社は,既にフランチャイズ展開をしていた1審被告会社のShapesのブランドを維持するため,種々の経済的負担をして,本件営業譲渡契約を締結したものであり,このような1審被告会社の経済的負担を回復することなく,本件営業譲渡契約の解除を理由に1審被告会社に本訴商標2ないし4の移転登録の抹消登録手続義務を負わせることは,当事者の公平に反するなどとして,1審被告会社は,本訴商標2ないし4について移転登録の抹消登録手続義務を負わない旨主張する。
しかしながら,上記①の点は,本件営業譲渡契約の解除の遡及効を否定する根拠となるものではないし,また,上記②の点については,前記ウ(ア)の認定事実に照らすと,1審原告らが1審被告会社に対し本件営業譲渡契約の解除による原状回復請求権に基づき本訴商標2ないし4の移転登録の抹消登録手続義務を求めることが,当事者の公平に反するということもできない。
したがって,1審被告会社の上記主張は採用することができない。
(2) 以上によれば,1審原告らの1審被告会社に対する商標権移転登録抹消登録手続請求は,1審原告会社において本訴商標2及び3について別紙登記目録2及び3記載の各移転登録の抹消登録手続を,1審原告Xにおいて本件商標4について同目録4記載の移転登録の抹消登録手続を求める限度で理由がある。
5 争点(2)-ア(1審被告会社の1審原告らに対する反訴商標権1ないし3に基づく差止請求及び商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の成否)について
(1) 1審原告らによる原告標章①ないし③の使用等について
ア 原告標章①(別紙標章目録1記載の標章)及び原告標章②(同標章目録2記載の標章)については,前記第2の2の前提事実(9)ア及びイのとおり,1審原告らは,「省略」(http://<以下略>)のウェブサイトにおいて,原告標章①を,「省略」(http://<以下略>)のウェブサイトにおいて,原告標章②をそれぞれ使用して,1審原告Xの行うパーソナルトレーニング,ダイエット,ボディメイクに関する情報の提供,宣伝広告,受講生の募集,講演の募集等を行っている。
次に,原告標章③(別紙標章目録3記載の標章)については,平成25年6月10日時点で,1審原告らは,「http://<以下略>」のウェブサイトにおいて,英文の1審原告Xの紹介記事と併せて,原告標章③を2か所掲載していたこと(乙28の③)が認められる。
イ 原告標章①は,上段に「姿勢トレ」の文字と下段に「シセトレ」の文字を2段に横書きしてなる反訴登録商標1(別紙反訴商標目録1記載の商標)と同一の構成の標章であり,原告標章②は,「Shapes」の文字を標準文字により書してなる反訴登録商標2(同目録2記載の商標)と同一の構成の標章であり,原告標章③は,「Shapes」の文字及びその下に小さく表した「Reborn Myself」の文字と背景模様の図形からなる反訴登録商標3(同目録3記載の商標)と同一の構成の標章である。
ウ そして,1審原告Xの行うパーソナルトレーニング,ダイエット,ボディメイクに関する情報の提供,宣伝広告,受講生の募集,講演の募集等は,パーソナルトレーニング,ダイエット,ボディメイクの指導に当たり,これは,反訴登録商標1ないし3の指定役務中の第41類「技芸,スポーツ又は知識の教授」又は第44類「栄養の指導」に含まれるから,1審原告らの前記アの行為は,上記指定役務に反訴登録商標1ないし3を使用する行為に該当する。
(2) 権利濫用の成否について
1審原告らは,1審被告会社による1審原告らに対する反訴商標権1ないし3の行使は,権利の濫用として許されない旨主張するので,以下において判断する。
ア 前記1,3(2)イ,4(1)イ及びウの認定事実と証拠(甲10)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 1審原告Xは,平成18年ころまでに,自己が開発した立位姿勢における骨盤などの関節角度を調節してトレーニングを行うトレーニング方法を「姿勢トレ」あるいは「シセトレ」,「Xメソッド」などと称して,トレーニングの個人指導(パーソナルトレーニング)及びパーソナルトレーナーの養成スクールの事業を行うようになった後,同年5月23日,健康トレーニング,健康管理の企画及びコンサルタント業務等を目的とする1審原告会社を設立し,その代表取締役に就任し,パーソナルトレーニングジム「Shapes」(旧渋谷本店)を開店した。
以後,1審原告らは,上記各事業活動において,「姿勢トレ」,「シセトレ」,「Shapes」及び「ShapesGirl」の各標章を使用していた。
(イ) 1審原告会社は,平成22年4月16日,1審被告ラスカとの間で,1審原告会社を「ライセンサー」,1審被告ラスカを「ライセンシー」として,本件ライセンス契約1を締結した後,1審被告ラスカの子会社である1審被告会社が本件ライセンス契約1における1審被告ラスカのライセンシーの地位を承継することを目的として,1審被告会社との間で,本件ライセンス契約2を締結し,さらに,本件ライセンス契約2の一部を変更する内容の本件ライセンス契約3及び4を順次締結した。
本件ライセンス契約4(甲10)には,1審原告会社(及び1審原告会社が議決権を100%有する子会社)は,ボディメイクやダイエットを目的として,女性顧客に対するパーソナルトレーニングを実店舗で行うサービス(ライセンス対象事業)に関し,自ら店舗を展開すること,その他自ら事業を営むことを妨げない旨の定め(3条1項,3項)がある一方で,1審被告会社は,「Shapes」,「ShapesGirl」の標章を,1審原告会社の許諾がある態様以外の態様でこれを使用し,又は自己の商標として商標出願等してはならない旨の定め(8条⑤)がある。
(ウ) 1審原告会社は,平成20年1月25日,本訴商標2(別紙本訴商標目録2記載の商標)の設定登録(出願日平成19年3月12日)を,平成20年10月31日,「Shapes」の文字とその背景模様の図形からなる本訴商標1(同目録1記載の商標)の設定登録(出願日同年8月21日)を,平成22年10月29日,「ShapesGirl」の文字を標準文字により書してなる本訴商標3(同目録3記載の商標)の設定登録(出願日同年4月28日)をそれぞれ受けた。
(エ) 平成23年12月14日,1審原告らと1審被告会社は,本件営業譲渡契約を,1審原告Xと1審被告会社は,本件顧問契約をそれぞれ締結した。また,同日,1審原告Xと1審被告会社は,本件ライセンス契約4を合意解約した。
本件営業譲渡契約に基づいて,1審原告らの有する「女性専用のダイエット・ボディメイクを目的としたパーソナルトレーニングに関する事業(本件事業)に関する一切の営業権及び知的財産・無形財産(前記(ウ)の本訴商標権1ないし3を含む。)は,1審原告らから1審被告会社へ譲渡された。
(オ) 1審被告会社は,本件営業譲渡契約の締結及び本件ライセンス契約4の合意解約後の平成24年2月1日,反訴登録商標1ないし3の各商標登録出願をし,同年7月6日,反訴商標権1ないし3の各設定登録を受けた。1審被告会社は,本件営業譲渡契約締結後,「Shapes」の店舗のフランチャイズ展開等の事業活動において,反訴登録商標3を新たなロゴマークとして使用するようになった。
(カ) 本件顧問契約には,1審原告Xは,その名義及び態様の如何を問わず,本件事業と同種又は類似の営業を行ってはならない旨の定め(3条3項)があった。
しかし,1審被告会社は,本件顧問契約の締結後,少なくとも平成24年7月2日付け「顧問契約の解除通知書」により本件顧問契約の解除の意思表示をする前までは,1審原告会社が,その商号の変更を行わず,1審原告Xがパーソナルトレーニング等を行い,その際に,1審原告Xが原告標章①ないし③を使用することを容認していた。
(キ) 1審原告らは,平成24年9月27日,1審被告会社に対し,1審被告会社の本件顧問契約に基づく顧問料(同年5月分ないし同年9月分の合計410万5170円)の支払債務の債務不履行(履行遅滞)を理由に,本件顧問契約及び本件営業譲渡契約を解除する旨の意思表示をし,これにより本件顧問契約及び本件営業譲渡契約は,解除された。
イ(ア) 前記アの認定事実によれば,①1審原告らは,平成18年ころから,パーソナルトレーニング,パーソナルトレーナーの養成スクール等の事業活動において,「姿勢トレ」,「シセトレ」,「Shapes」及び「ShapesGirl」の各標章(原告標章①及び②を含む。)を使用し,平成23年12月14日に本件営業譲渡契約が締結された後も,1審原告Xの行うパーソナルトレーニング,ダイエット,ボディメイクに関する情報の提供,宣伝広告,受講生の募集,講演の募集等を行う際に,上記各標章を使用していたこと,②1審被告会社は,本件営業譲渡契約の締結前は,本件ライセンス契約4により,「Shapes」の標章を自己の商標として商標登録出願をすることが禁止されていたが,本件営業譲渡契約の締結に伴い,本件ライセンス契約4が合意解約されたことにより,反訴登録商標1ないし3の商標登録出願をすることが可能となり,反訴商標権1ないし3の設定登録を受けたものであること,③反訴登録商標1は,本訴商標1との同一の構成の商標であるが,本訴商標1がパーソナルトレーニング,パーソナルトレーナーの養成スクール等の事業活動に関する役務を指定役務としていなかったため,1審被告会社によって上記役務を指定役務として商標登録出願がされ,商標登録されたものであり,反訴登録商標2は,Shapes(標準文字)の商標であり,原告らの上記事業活動に使用されている標章であるが,商標登録されていなかったため,1審被告会社によって商標登録出願がされ,商標登録されたものであること,④本件営業譲渡契約は,1審原告らによる1審被告会社の本件顧問契約に基づく顧問料の支払債務の債務不履行を理由とする解除により,遡及的に効力を失ったことが認められる。
上記①ないし④によれば,1審原告らは,平成18年ころから,パーソナルトレーニング,パーソナルトレーナーの養成スクール等の事業活動において,原告標章①及び②を使用を開始し,本件営業譲渡契約の締結後も,その使用を継続しているものであり,1審原告らにおいてはその使用の必要性が極めて高いこと,一方で,1審被告会社が反訴登録商標1ないし3の商標登録を受けた経緯は上記のとおりであり,本件営業譲渡契約の締結前には,1審原告会社との関係では,商標登録出願をすることができなかったが,本件営業譲渡契約により商標登録出願をすることが可能となったものであるが,本件営業譲渡契約は,1審被告会社の本件顧問契約に基づく顧問料の支払債務の債務不履行により解除され,遡及的に効力を失い,1審被告会社は,上記解除により原状回復義務を負うに至ったことなどに鑑みると,1審被告会社の反訴商標権1及び2に基づいて,1審原告らがパーソナルトレーニング,ダイエット,ボディメイク,健康管理についての知識の教授の役務(別紙役務目録記載の役務)において原告標章①及び②の使用を禁じることは,当事者間の衡平を著しく欠く結果となるものと認められるから,1審被告会社による1審原告らに対する反訴商標権1及び2の行使は,権利の濫用として許されないというべきである。
他方で,原告標章③については,1審原告らが本件営業譲渡契約の締結前から使用していたものではなく,本件営業譲渡契約締結後に1審被告会社によって商標登録出願がされ,商標登録がされたものであって,本件営業譲渡契約の原状回復義務の対象にならないことに鑑みると,1審被告会社の反訴商標権3に基づいて,1審原告らが上記役務において原告標章③の使用を禁じることは当事者間の衡平を欠くということはできないから,1審被告会社による1審原告らに対する反訴商標権3の行使は,権利の濫用に当たるものと認めることはできない。
(イ) これに対し,1審被告会社は,反訴商標権は,1審被告会社が,本件営業譲渡契約締結後に,自ら作成して商標登録出願をして設定登録を受け,1審被告会社の営業努力により,その価値が増大した商標であって,本件営業譲渡契約により1審被告会社が譲り受けたものではないから,本件営業譲渡契約の解除に伴う原状回復の対象とはならないし,現在の「Shpaes」チェーンは,1審被告会社が反訴商標を使用して独自に展開したものであって,原告標章の使用を1審原告らに許すことは,1審原告らに不当な利益を与えることになるなどとして,1審被告会社による反訴請求権1及び2の行使は,権利の濫用に当たらない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)で説示したのと同様の理由により,1審被告会社の上記主張は採用することができない。
ウ 以上によれば,1審被告会社の反訴商標権1及び2に基づく差止請求(抹消請求を含む。)及び損害賠償請求は,理由がない。
(3) 原告標章③に係る請求について
ア 差止請求について
① 1審原告らが,平成25年6月10日時点で,「http://<以下略>」のウェブサイトにおいて,英文の1審原告Xの紹介記事と併せて,原告標章③を2か所掲載していたことは,前記(1)ア認定のとおりであること,②原告らが別紙役務記載の役務に関する宣伝用のカタログ及びパンフレットに原告標章③を付して頒布したことを認めるに足りる証拠はないことによれば,1審被告会社の反訴商標権3に基づく差止請求(抹消請求を含む。)は,1審原告らに対し,同役務目録記載の役務に関する宣伝用のウェブサイト及びブログに原告標章③の使用の差止めを求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がないものと認められる。
なお,前記第1の2(3)(1審被告会社の控訴の趣旨)において,1審被告会社が別紙役務記載の役務に関する宣伝用のウェブサイト及びブログに原告標章③を付して頒布することの差止めを求める趣旨は,ウェブサイト及びブログにおける原告標章③の使用の差止めを求める趣旨であると解される。
イ 損害賠償請求について
(ア) 1審原告らは,平成25年6月10日時点で,「http://<以下略>」のウェブサイトにおいて,英文の1審原告Xの紹介記事と併せて,原告標章③を2か所掲載して使用していたが(前記ア),その後,第1審原告らが,平成25年7月5日に反訴状の送達を受けた後,上記ウェブサイトから,原告標章③の表示を抹消したこと(弁論の全趣旨)が認められる。
そして,1審原告らが,平成25年6月10日の前及び同年7月5日以降,上記ウェブサイトにおいて原告標章③を使用していたことを客観的に裏付ける証拠の提出はないことに鑑みると,1審原告らによる上記ウェブサイトにおける原告標章の③の使用期間は,平成25年6月10日から同年7月5日までの間と認めるのが相当である。
(イ) ①1審原告らによる「http://<以下略>」のウェブサイトにおける原告標章の③の使用期間は,平成25年6月10日から同年7月5日までの1か月未満であること,②その使用態様は,英文の1審原告Xの紹介記事と併せて,原告標章③を2か所掲載するというものにすぎないこと(乙28の③),③1審原告らが原告標章③の使用していた時期において,1審原告Xは,個人としてパーソナルトレーニング業を行っていたにすぎないこと,④本件ライセンス契約1ないし3において,当初「Shapes」の店舗が心斎橋店1店舗にとどまっていた平成22年12月から平成23年7月までのライセンス料額は,別紙ライセンス料及び顧問料支払額(1)記載のとおり,3万6750円から17万0625円の範囲にとどまっていたこと,その他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると,1審被告会社が,1審原告らによる反訴商標権3の侵害行為について,「その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額」(商標法38条3項)は,5万円と認めるのが相当である。
(4) 小括
以上によれば,1審被告会社の反訴商標権3に基づく差止請求(抹消請求を含む。)及び損害賠償請求は,1審原告らに対し,商標法36条1項に基づき,別紙役務目録記載の役務に関する宣伝用のウェブサイト及びブログに原告標章③を使用することの差止め及び損害賠償5万円の連帯支払を求める限度で理由があるものと認められる。
なお,1審被告会社は,平成24年1月から平成25年5月までの17か月分の商標権侵害に基づく損害金に対する遅延損害金の支払を求めているが(前記第2の4(4)(1審被告会社の主張)ア),同年6月以降の商標権侵害に基づく損害金に対する遅延損害金の支払は求めていない。
6 争点(2)-イ(1審被告会社の1審原告Xに対する過払顧問料返還請求の成否)について
前記3(2)アのとおり,1審原告Xと1審被告会社との間で,本件顧問契約に関し,本件基準変更合意及び本件返還合意が成立したものとは認められないから,1審被告会社の1審原告Xに対する過払顧問料返還請求は理由がない。
7 結論
以上の次第であるから,1審原告らの本件本訴請求は,1審原告Xが1審被告会社に対し,本件顧問契約に基づく顧問料等として416万3270円及びこれに対する平成24年12月7日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,1審原告らが1審被告会社に対し,1審原告会社において本訴商標2及び3について別紙登記目録2及び3記載の各移転登録の抹消登録手続を,1審原告Xにおいて本件商標4について同目録4記載の移転登録の抹消登録手続を求める限度で理由があり,1審被告らに対するその余の本訴請求は理由がない。
また,1審被告会社の本件反訴請求は,1審原告らに対し,別紙役務目録記載の役務に関する宣伝用のウェブサイト及びブログに原告標章③を使用することの差止め並びに損害賠償5万円の連帯支払を求める限度で理由があるが,その余の反訴請求は理由がない。
したがって,原判決は,一部不当であるから,1審原告X及び1審被告会社の控訴に基づき,原判決を主文第1項のとおり変更し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 大西勝滋 裁判官 神谷厚毅)
file_2.jpg別紙