知財高等裁判所 平成27年(行ケ)10070号 判決 2016年2月03日
原告
シャープ株式会社
訴訟代理人弁理士
深見久郎
森田俊雄
堀井豊
井上昌三
仲村義平
長野篤史
内山泉
木原美武
被告
特許庁長官
指定代理人
松川直樹
髙芳徳
相崎裕恒
田中敬規
河原英雄
小松徹三
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が不服2013-18710号事件について平成27年3月10日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求の不成立審決に対する取消訴訟である。争点は,進歩性判断(相違点の認定・判断)の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「発光装置」(後記本願補正による変更後の名称 「バックライト光源用発光装置」)とする発明につき,平成21年2月6日を国際出願日として特許出願(本願。特願2010-501831号・PCT/JP2009/052051,請求項の数5)をし(特許法41条による優先権主張 平成20年3月3日〔本願優先日〕・日本,国際公開 WO2009/110285),平成24年11月28日付けで拒絶理由通知を受け,平成25年1月29日に手続補正をしたが,同年6月25日付けで拒絶査定を受けた。(甲4)
原告は,平成25年9月27日,拒絶査定不服審判請求(不服2013-18710号)をするとともに,手続補正をしたが,平成26年11月7日付けで拒絶理由通知を受け,平成27年1月9日,手続補正(本願補正,請求項の数4)をした。(甲5,6)
特許庁は,平成27年3月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月24日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨
本願補正後(以下,本願補正後の明細書及び図面を「本願明細書」という。)の請求項1に係る発明(本願発明)は,次のとおりである(<A><B>の符号は裁判所が付した。)。(甲4,6)
「 ピーク波長430~480nmの一次光を発する窒化ガリウム系半導体である発光素子と,発光素子から発せられた一次光の一部を吸収して,一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換部とを備える白色発光装置であって,上記波長変換部は,緑色系発光蛍光体および赤色発光蛍光体を含み,
上記緑色系発光蛍光体が,
<A> 一般式(A):EuaSibAlcOdNe
(上記一般式(A)中,0.005≦a≦0.4,b+c=12,d+e=16である。)で実質的に表されるβ型SiAlONである2価のユーロピウム付活酸窒化物蛍光体,からなり,
上記赤色系発光蛍光体が,
<B> 一般式(C):MII2(MIII1-hMnh)F6
ここにおいて,Mnの組成比(濃度)を示すhの値は0.001≦h≦0.1である,
(上記一般式(C)中,MIIはLi,Na,K,RbおよびCsから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素,MIIIはGe,Si,Sn,TiおよびZrから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を示す。)
で実質的に表される4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体からなり,前記赤色系発光蛍光体に対し,前記緑色系発光蛍光体が重量比で15~45%の範囲内の混合比率で混合されてなることを特徴とする,バックライト光源用発光装置。」
3 審決の理由の要点
(1) 引用発明の認定
ア 引用発明1
国際公開2007/100824号公報(甲1,引用文献1)には,次の発明(引用発明1)が記載されている(審決の引用発明1の認定に一部誤りがあることは当事者間に争いがないが,本願発明と対比した部分以外の部分に関する誤りであって審決の判断に影響を及ぼすものではないから,正しい認定を以下に示す。なお,項番号は裁判所が付した。)。
【Aⅰ】Mn4+で活性化された,610~650nmのピーク放出波長を有する赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料,
【Aⅱ】510~550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体,及び
【Aⅲa)】440~480nmのピーク放出波長を有する青色LEDチップ又は【Aⅲb)】440~480nmのピーク放出波長を有する青色放出蛍光体及び約370nm~約440nmのピーク放出波長を有する紫色から近紫外放出LEDチップを含み,
【B】前記LEDはGaNを含んでよく
【C】前記赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料が,
【D】AがLi,Na,K,Rb,Cs,NH4及びその組み合わせから選択され,MがGe,Si,Sn,Ti,Zr及びその組み合わせから選択されるA2[MF6]:Mn4+を含んでもよく,
【E】前記赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料及び前記緑色放出蛍光体は,前記LEDチップ上へ付着させる蛍光体層として適用できる,放出された放射が蛍光体へ注がれる場合,白色光を生産することが可能な,
【F】半導体光源(LED)を含むバックライト放出装置。
イ 引用発明2
国際公開2007/66733号公報(甲3,引用文献2)には,次の発明(引用発明2)が記載されている。
「 液晶バックライトなどのディスプレイ用途では,シャープなスペクトルの赤と緑と青色の3種類の蛍光体が必要とされるが,中でも,緑色の蛍光体は,色純度が良くシャープな発光を示すものがほとんど見当たらないため,
前記緑色の蛍光体として,波長520nmから550nmの範囲の波長にピークを持ち,その半値幅が55nm以下のシャープな発光スぺクトルを有する,β 型Si3N4結晶構造を持つ窒化物または酸窒化物である β 型サイアロンを用い,
前記β型サイアロン及びその他の蛍光体を含む混合物蛍光体と,発光素子として450nmの青色 LED チップを用いた,液晶ディスプレイが再現できる色空間が広くなり,色再現性が良い液晶パネルを提供することができ,
前記β型サイアロンの組成は,下記表1の実施例1ないし4のいずれかである白色LED。
[表1]
file_2.jpgBrat Mme FHL) Eu Si Al i) N Siew | 0.0050 | 11.980 | 0.020 0.010 15.990 Fiel2 | 0.0150 | 11.940 | 0.060 | 0.030 | 15.970 Siepls [0.0275 | 11.890 | 0110 | 0055 | 15.945 Fiewl4 | 0.0350 | 11.860 | 0.140 | 0.070 | 15.930 Hee | 0.0270 | 12.150 | 0.490 | 0.040 | 15.320」
(2) 一致点の認定
本願発明と引用発明1とを対比すると,次の点で一致する。
「 ピーク波長430~480nmの一次光を発する窒化ガリウム系半導体である発光素子と,発光素子から発せられた一次光の一部を吸収して,一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換部とを備える白色発光装置であって,上記波長変換部は,緑色系発光蛍光体および赤色発光蛍光体を含み,
上記赤色系発光蛍光体が,
<B> 一般式(C):MII2(MIII1-hMnh)F6
(上記一般式(C)中,MIIはLi,Na,K,RbおよびCsから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素,MIIIはGe,Si,Sn,TiおよびZrから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を示す。)
で実質的に表される4価のマンガン付活フッ化4価金属塩蛍光体からなる,バックライト光源用発光装置。」
(3) 相違点の認定
本願発明と引用発明1とを対比すると,次の点が相違する。
ア 相違点1
本願発明は,「Mnの組成比(濃度)を示すhの値は0.001≦h≦0.1である」のに対して,引用発明1は,Mnの組成比がこのように特定されるものではない点。
イ 相違点2
本願発明の「緑色系発光蛍光体」は,<A>であるのに対して,引用発明1の「緑色放出蛍光体」は,「少なくとも Eu2+で活性化されるアルカリ土類珪酸塩である(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Eu2+(“BOS”)」であり,また,本願発明は,「赤色系発光蛍光体に対し,前記緑色系発光蛍光体が重量比で15~45%の範囲内の混合比率で混合されてなる」ものであるのに対して,引用発明1は,このように特定されるものではない点。
(4) 相違点の判断
ア 相違点1
Mn4+で活性化された複合フッ化物蛍光体組成物は,活性剤イオンの望ましい混和レベルで調整されるものであるから,これを,十分な明るさが得られ,かつ,明るさが大きく低下することのない範囲を選択して,0.001ないし0.1の範囲とすることに格別の困難はない。
イ 相違点2
① 引用発明1において,510~550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体に代えて他の好適な510~550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体を用いてもよいことが示唆されている(引用文献1[0065]参照)。
② 引用発明1において,目的のCCT値を獲得する必要に応じて,蛍光体材料中の各蛍光体の相対量を,好ましいブレンドとしてよいといえる(引用文献1[0061])。
③ 引用文献2(甲3)には,緑色の蛍光体として,波長520nm~550nmの範囲の波長にピークを持ち,その半値幅が55nm以下のシャープな発光スぺクトルを有するβ型サイアロンを用いる発明(引用発明2)が記載されている。
④ 赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料を多くすれば赤色味が強くなり,また,緑色放出蛍光体を多くすれば緑色味が強くなることは通常予測し得ることであり,目的とする色に合わせて,それらの相対量を定めることは,当業者が必要に応じて適宜になし得ることである。
⑤ ①③から,引用発明1の緑色放出蛍光体に代えて,<B>の組成範囲に含まれる組成からなるβ型サイアロンを用い,その際,②④から,各蛍光体の相対量を好ましいブレンドとして,本願発明の相違点2の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。
⑥ ⑤のようにしたものが,青色LEDチップの発光を効率よく吸収して,高効率な白色光を発光するとともに,色再現性が良好な白色光を得ることができるものとなることは,当業者が容易に予測し得たことである。
(5) 審決判断まとめ
本願発明は,引用発明1,引用文献1の記載事項及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
第3原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用発明2の認定の誤り)
審決は,引用発明2の認定中に「前記β型サイアロンの組成は,下記表1の実施例1ないし4のいずれかである白色 LED。」との認定を加える。
しかしながら,引用文献2には,実施例1の緑色蛍光体を用いた白色LEDについての記載はあるが([0074]),実施例2~4の緑色蛍光体を用いた白色LEDは記載されていない。
したがって、審決の引用発明2の認定中の上記認定部分には,誤りがある。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)
審決は,『Mnの組成比(濃度)を示すhの値を0.001≦h≦0.1の範囲とすることに格別の困難はないと判断する。
しかしながら,Mnの濃度を示すhの値によって,赤色系発光蛍光体単独での明るさに違いが生じるところ,赤色系発光蛍光体に求められる明るさは,組合せに用いる緑色系発光蛍光体の明るさ,バックライトにおいて所望する色温度等によって異なる。本願発明においては,hが0.001≦h≦0.1の範囲内にある赤色系発光蛍光体を用い,さらに,緑色系発光蛍光体に関して相違点2の構成とすることにより,所望の色温度と明るさと色再現性(NTSC比)とを同時に満足するバックライト光源用発光装置に好適な白色発光装置を実現したのである。
したがって,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易になし得ることではない。
以上から,審決の相違点1の判断には,誤りがある。
3 取消事由3(相違点2の認定判断の誤り)
相違点2は,便宜上,次の2つに分説できるので,以下,これを前提に論述する。
① 相違点2a
本願発明の「緑色系発光蛍光体」は,<A>であるのに対して,引用発明1の「緑色放出蛍光体」は,「少なくとも Eu2+で活性化されるアルカリ土類珪酸塩である(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Eu2+(“BOS”)」である点。
② 相違点2b
本願発明は,「赤色系発光蛍光体に対し,前記緑色系発光蛍光体が重量比で15~45%の範囲内の混合比率で混合されてなる」ものであるのに対して,引用発明1は,このように特定されるものではない点。
(取消事由3-1)(相違点2aの認定判断の誤り)
(1) 相違点2aの認定の誤り
審決は,「(Ba,Sr,Ca)2SiO4:Eu2+(“BOS”)」(以下「BOS」という。)を緑色放出蛍光体と認定する。
しかしながら,BOSは,黄色放出蛍光体であるか(引用文献1[0008],甲2【0004】),又は,青色若しくは青緑色のピーク放出を有する蛍光体として例示されており(引用文献1[0061],甲2【0022】),緑色放出蛍光体として例示されているものではない。
仮に,BOSのピーク波長が青緑から橙色まで変化し得ることが公知又は技術常識であっても,それらを組み入れて刊行物の記載内容を拡大解釈することはできないから,引用文献1に接した当業者に対して,BOSが緑色放出蛍光体として例示されていることにはならない。
したがって,審決の上記認定部分は,誤りである。
(2) 相違点2aの判断の誤り
審決は,引用発明1の緑色放出蛍光体に代えて,引用発明2のβ型サイアロンを用いることは容易であると判断する。
しかしながら,上記判断は,次のとおり誤りである。
510~550nmのピーク波長を有する公知の緑色放出蛍光体は無数に存在し,William M. Yen外1名,「INORGANIC PHOSPHORS」,CRC PRESS,2004,pp453-459(甲8)においても,100種類以上の蛍光体が開示されている。
発光装置において発光効率を向上させることは周知の課題であるから,当業者であれば,発光効率を向上させるために,励起光源のピーク放出波長又はその近傍に励起スペクトルの強度の高い蛍光体を用いるのが通常である。そうすると,引用発明1の青色LEDの放出波長のピークは440~480nmであるから,当業者は,この440~480nmの範囲内又はその近傍に励起スペクトルのピークを有する緑色放出蛍光体を選択しようとする。しかるところ,引用発明2のβ型サイアロンの励起スペクトルのピークは300~303nmであり(引用文献2[0063]),440~480nmでの励起スペクトルの強度は,ピーク時よりもかなり低く(引用文献2[図1]~[図4]),当業者は,そのようなものを引用発明1の緑色放出蛍光体として用いようとはしない(甲13のFig.3.〔訳文は,甲14の該当箇所参照〕,甲14)。しかも,励起スペクトルが440~480nmの場合のβ型サイアロンの半値幅は,引用文献2には示されていない。かえって,引用文献1には,緑色放出蛍光体として「STG(SrGa2S4:Eu2+)」(以下「STG」という。)を用いる例が示されているところ(引用文献1[0068],甲2【0024】),STGは,励起光源である青色チップのピーク波長である440~480nmを含む400~500nmの範囲内の励起スペクトルの強度が最も強い(甲9)。
また,引用発明1の課題は,高いCRI(演色評価数)と向上したLER(放射発光効率)の双方を有する白色光源を生産することにあり(引用文献1[0017],甲2【0006】参照),引用文献1には,好適な緑色放出蛍光体の選択基準についての記載がないことや,緑色発光蛍光体としてSTGを用いた実施例のNTSC比が101%に達していることからも(引用文献1[0068],甲2【0024】),引用発明1が,色再現性の更なる改善を解決課題とはしているとはいえない。
そうすると,当業者が,引用発明1の緑色放出蛍光体として,あえて引用発明2のβ型サイアロンを用いる動機付けはなく,むしろ,阻害要因がある。
(3) 小括
以上から,審決の相違点2aの認定判断には,誤りがある。
(取消事由3-2)(相違点2bの判断の誤り)
審決は,引用発明1において,赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料と緑色放出蛍光体の相対量を定めることは,目的する色に合わせて適宜なし得ることと判断した。
しかしながら,審決の上記判断は,次のとおり誤りである。
(1) 重量概念の欠如
引用文献1には,各々の蛍光体が蛍光体ブレンド全体の発光スペクトルに対して寄与する相対割合であるスペクトル質量(重み),すなわち,発光強度に着目して所望のCCT(相関色温度)値を得ることが可能であることの記載しかない(引用文献1[0061],甲2【0022】)。また,引用文献2にも,赤色蛍光体と緑色蛍光体の重量比に関する記載はない。
一方,本願発明は,蛍光体の混合比率,すなわち,重量に着目して所望のCCT値を得ようとするものであり,引用文献1にはその示唆もない。
両者の概念は異なり,引用文献1の記載に基づいて重量比に想到することは,容易ではない。
(2) 解決課題
本願発明の解決課題は,従来の青色光励起源と黄色系発光蛍光体との組合せからなる発光装置と比較して,①同程度の明るさ(効率),②同程度の色温度(Tc)を維持しつつ,③色再現性(NTSC比)の優れた発光装置を提供することにあり,上記②の相関色温度(CCT)については,6800K以上が基準となる([0004][0008] [表1]~[表3])。なお,バックライト用白色光について6800K以上の色温度が好適であることは,本願優先日当時よく知られていたことであるから,本願発明においても,高い色温度(6800K以上)を実現することを当然の課題としている。
そして,上記③の色再現性の向上を十分に向上させた上で,①所望の明るさのものを②所望の色温度において実現することは容易ではない。なぜならば,色温度も色再現性も,用いる蛍光体の種類や特性によって異なるから,明るさを基準に調整した混合比率において,必ずしも所望の色温度や所望の色再現性を実現できるとは限らないからである。
しかるに,引用文献1に具体的に記載がある相関色温度(CCT)は,2900~6300Kであるから,引用発明1が6800K以上の色温度のバックライトを得ることを課題としていないことは明らかであり,引用文献2には,色温度についての記載がない。
本願発明は,その新規の組合せの蛍光体材料について,赤色系発光蛍光体に対して緑色系発光蛍光体が重量比で15~45%の範囲内の混合比率とした場合に,色再現性を十分に向上させつつ,所望の明るさと,6800K以上の高い色温度を同時に満足する,バックライト用途に好適な発光装置を実現できることを見出したものである(甲12)。
(3) 混合方法・比率
青色光の励起源と,赤色系発光蛍光体と,緑色系発光蛍光体とからなる発光装置において,本願発明のように色温度が6800K以上であるバックライト用途に好適な白色発光装置を実現しようとする場合に,目標とする白色(色温度)に合わせて,まず,赤色系発光蛍光体と緑色系発光蛍光体との配合比率を定め,その後,樹脂と蛍光体(緑色系発光蛍光体と赤色系発光蛍光体)との配合比率を調整して([0031]),3色(青色,緑色,赤色)のバランスを決定することは,非常に有効である。このような着想は,いずれの引用文献にも記載・示唆がなく,当業者といえども容易になし得ない。
そして,赤色系発光蛍光体に対し,緑色系発光蛍光体を重量比で15~45%の範囲内の混合比率とすることは,本願発明に特有の数値範囲であり,本願発明者らによる試行錯誤の上に見出された数値範囲である。
(4) 小括
以上から,審決の相違点2bの判断には,誤りがある。
4 取消事由4(顕著な効果の看過)
審決は,引用発明1の緑色放出蛍光体に代えて引用発明2のβ型サイアロンを用いたものの効果は,当業者の予測可能なものと判断する。
しかしながら,β型サイアロンは,300~303nmに励起スペクトルのピークがあるから,ピーク波長430~480nmの青色LEDチップの青色光により励起され緑色を発光する内部量子効率も青色LEDチップの青色光の吸収効率も,いずれもが低いものと予測される。
しかしも,本願発明は,青色LEDを励起源とするバックライトにおいて,相違点2の構成を採用しているにもかかわらず,所望の色温度と所望の明るさを達成しつつ,色再現性が十分に高いバックライトを実現できたものであるから,その効果は,当業者が予測し得ない格別顕著な効果である。
また,相違点1及び相違点2を組み合わせたことにより所望の色温度と明るさと色再現性とを同時に満足するバックライト光源用発光装置に好適な白色発光装置を実現した本願発明により奏される効果は,6800K以上の高い色温度の白色発光装置を実現することを課題としない引用発明1及び引用発明2からは予測できない顕著な効果である。
以上から,審決の相違点の判断には,誤りがある。
第4被告の反論
1 取消事由1(引用発明2の認定の誤り)に対して
引用文献2の記載([0058]~[0060][0063][0074])に照らせば,引用文献2に接した当業者は,引用文献2には,実施例1~4に示された緑色蛍光体を用いる白色LEDの発明が記載されていると理解する。
仮に,引用文献2に実施例2~4の緑色蛍光体を用いた白色LEDが記載されていないと解釈するとしても,審決は,引用発明1の緑色蛍光体に代えて引用発明2の「β型サイアロン」を用いることが容易と判断したのであって,審決の判断に影響するものではない。
2 取消事由2(相違点1の判断の誤り)に対して
そもそも,本願明細書には,色温度を6800K以上の色温度領域とすることの技術的意義は記載されていない。
また,引用発明1において,赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料のMn4+は活性剤イオンであり,その混和レベルは,Mn4+で活性化された複合フッ化物蛍光体組成物が,十分な明るさが得られ,かつ,明るさが大きく低下することのない範囲内で当業者が適宜定めるべき設計的事項であるところ,本願発明のhの数値限定は,0.001以上0.1未満というもので,上限値と下限値とに100倍もの開きがある。してみると,この数値限定に,設計的事項の域を超えるほどの格別の技術的意義があるものとは認められない。
以上から,審決の相違点1の判断には,誤りがない。
3 取消事由3-1(相違点2aの認定判断の誤り)に対して
相違点2を相違点2aと相違点2bに分説することは,争わない。
(1) 相違点2aの認定の誤り
BOSは,①引用文献1では,430nm~500nm(青色又は青緑色)のピーク放出を有する蛍光体として例示されていること([0061]),②特開2006-261600号公報(乙2)では,Ba/Sr/Caの割合を変化させることによって,その主発光のピーク波長が青緑から橙色まで変化し得るものであること(【0023】【0024】【0059】),③その発光ピークが,一般に緑色とされている波長範囲である490~550nmの範囲(乙4の2602頁)に含まれるものが甲8に示されていること(456頁)からみて,引用文献1に接した当業者には,BOSが緑色放出蛍光体の例示として,事実上示されている。
(2) 相違点2aの判断の誤り
引用発明1と引用発明2とは,いずれもバックライト光源として用いられる白色LEDを実現するに当たって赤色蛍光体と緑色蛍光体とを組み合わせるに際し,発光効率のみならず色再現性の改善をも課題としている点において共通している(引用文献1[0011][0061][0065],引用発明2の認定)。したがって,発光素子として450nmの青色LEDチップを用いる引用発明1の緑色放出蛍光体として,引用発明2に用いられている,520~550nmの範囲の波長にピークを持ち,その半値幅が55nm以下のシャープな発光スペクトルを有するβ型サイアロンを用いることには,十分な動機付けがある。
そして,引用文献2には,そのβ型サイアロンが高輝度の蛍光を得ることが可能となる励起範囲が,450nm付近の光(青色可視光)の光源を含む幅広いものであることが記載されており([0037][0057][図1]~[図4]),その組合せに動機付けの欠如や阻害要因は存在しない。
(3) 小括
以上から,審決の相違点2aの認定判断には,誤りはない。
4 取消事由3-2(相違点2bの判断の誤り)に対して
(1) 重量概念の欠如
本願発明における赤色系発光蛍光体と緑色系発光蛍光体との混合については,規定された混合比率で両蛍光体が混合されてなるという状態が開示されているだけであり,本願明細書([0025]参照)には,まず最初に赤色蛍光体と緑色蛍光体との配合比率を規定することに着想した旨の記載はない。
また,引用文献1の記載([0061])は,蛍光体材料の配合割合を重量比により調整するものでないことを意味しない。引用発明1は,LEDチップに赤色放出蛍光体となる蛍光体材料と緑色放出蛍光体となる蛍光体材料とからなる蛍光体層を付着させたものであるが,このような蛍光体層は,蛍光体材料を用いた懸濁液を形成し,これを塗布する等して形成される([0046])。蛍光体ブレンドのバランス調整において,その具体的な配合割合は,重量比やモル比により表されるのであり,このことは,引用文献1でも,蛍光体層中の顔料の比率については重量比で表記されていること(引用文献1[0072][0073],甲2【0027】),蛍光体材料の割合を重量比で表記することがよく行われていること(特開2006-83219号公報〔乙10〕【0068】,特開2007-88300号公報〔乙11〕【0148】参照)からも,裏付けられる。
したがって,引用文献1が,発光スペクトルに対する寄与割合(スペクトル重み量)に基づいて蛍光体ブレンドのバランスを調整しているとしても,調整されたブレンドにおける各蛍光体の混合比率を重量比として表現することは可能であるから,引用文献1に,各蛍光体材料の配合割合を重量比により調整することが記載,示唆されていないとはいえない。
(2) 解決課題
本願明細書には,そもそも,色温度を6800K以上の色温度領域とすることがどのような技術的意義を有するかは記載されていないし,明るさを維持しつつ色温度を改善することを目的とする記載はあるが,その際,色温度を維持することが困難であることを前提とした課題は記載されていない。本願明細書の[0034][0039][0042]([表1]~[表3])も,色温度ごとに,比較例に比して実施例の色再現性が高いことを示しているにすぎない(いずれも,実施例と対応する比較例との色温度が同じである。)。
そして,引用文献1及び引用文献2は,いずれもバックライト光源として用いられる白色LEDを実現するに当たり,色再現性の改善も課題としているから,明るさを維持しつつ色再現性を改善することは,課題として意図されているところである。
(3) 混合方法・比率
上記(1)のとおり,本願明細書([0025]参照)には,まず最初に赤色系発光蛍光体と緑色系発光蛍光体との配合比率を規定することに着想した旨の記載はない。
一方,目標とする白色(色温度)に合わせて,各色蛍光体(材料)の相対量(混合比率)を定めて調整を行うことは,当業者が必要に応じて適宜になし得ることであり(特開2006-49799号公報〔乙3〕【0099】~【0110】,特開2004-56109号公報〔乙5〕【0106】,韓国公開特許第10-2007-98194号公報〔乙6の1〕14頁13行~15頁5行目〔訳文として,特表2009-532856号公報<乙6の2>参照),バックライト用白色光の色温度を6800K以上とすることも,本願優先日当時よく知られていた(特開2007-27421号公報〔乙7〕【0016】~【0017】,特開2006-106437号公報〔乙8〕【0054】~【0056】,特表2008-505433号公報〔乙9〕【0020】参照)。したがって,6800K以上の色温度となるように調整を行うことは,引用発明1の緑色放出蛍光体として引用発明2の β 型サイアロンを用いるに当たって,当業者が用途に適したものとして適宜選択すべきことである。
(4) 小括
以上から,審決の相違点2bの判断には,誤りはない。
5 取消事由4(顕著な効果の看過)に対して
引用文献2には,450nm付近の光を励起光源とすることができる緑色蛍光体としてβ型サイアロンが記載されているから,β型サイアロンが青色光による励起効率が低いということはできない。
また,本願明細書には,明るさを維持しつつ色再現性を改善することは示されているが,色温度を維持することについては,課題も作用効果も何ら記載されていない。
さらに,青色LEDからの青色光と,緑(あるいは黄)色蛍光体及び赤色蛍光体からの各発光光とから白色光を得る際,各蛍光体の混合比率を変えることで白色光の色温度を任意に調整できることは,この分野の当業者にとって技術常識であるから,相違点1及び相違点2の全体を捉えて所望の色温度と明るさと色再現性とを同時に満足するものとしたことが本願発明の作用効果であるとしても,この作用効果が,引用文献1及び引用文献2の記載との関係において格別なものであるとはいえない。
そうすると,本願発明が原告の主張するような格別顕著な効果を奏するものとはいえず,本願発明の効果は,当業者において予測し得る範囲内のものである。
以上から,審決の相違点の判断には,誤りがない。
第5当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 本願発明について
本願明細書(甲4,弁論の全趣旨)の記載によれば,本願発明は,次のとおりのものと認められる。
本願発明は,一次光を発する発光素子と,発光素子から発せられた一次光の一部を吸収して,一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換部とを備えた発光装置に関する。([0001])
file_3.jpgead § “ia “6, OS, “ CEE sa CATER1 発光装置 2 発光素子 3 波長変換部 4 緑色系発光蛍光体5 赤色系発光蛍光体 6 封止材 ([0014])
小型液晶ディスプレイ用バックライトの分野では,明るさと色再現性(NTSC比)を同時に満足する方式は見つかっていない。([0003])
現在,白色の発光装置としては,青色発光の発光素子とその青色により励起され黄色発光を示す蛍光体との組合せが主として用いられているが,これらの発光装置では,色再現性(NTSC比)は65%前後(CIE1931)にとどまり,その改善が急務となっている。([0004])
本願発明の目的は,発光素子からの430~480nmの範囲の光によって高効率に発光する特定の蛍光体を用いることにより,色再現性(NTSC比)の優れた発光装置を提供することである。([0008])
本願発明は,ピーク波長430~480nmの一次光を発する窒化ガリウム系半導体である発光素子([0027])と,発光素子から発せられた一次光の一部を吸収して,一次光の波長よりも長い波長を有する二次光を発する波長変換部とを備える白色発光装置であって,上記波長変換部は,緑色系発光蛍光体及び赤色発光蛍光体を含む([0015])。緑色系発光蛍光体は,<A>であり([0016]),赤色系発光蛍光体は,<B>であり([0020]),赤色系発光蛍光体に対し,緑色系発光蛍光体が重量比で15~45%の範囲内の混合比率で混合されてなる([0025])ことを特徴とするバックライト光源用発光装置である。
本願発明では,発光素子からの発光を波長変換部において効率よく吸収して,高効率な白色光を発光するとともに,色再現性(NTSC比)が著しく良好な白色光を得ることができる。([0012])
本願発明の実施例1の発光装置の発光スペクトルの分布図([図5])及び本願発明の実施例1の発光装置をバックライト光源として組み込んだLCDの色再現性を示す色度図(CIE1931)([図6])は,次のとおりである。([0026])
file_4.jpg(as) 790 (6)また,本願発明の実施例1,3,4,6,8の発光装置と,黄色系発光蛍光体を波長変換部に用いた比較例とについて,その明るさ,Tc-duv及び色再現性を対比すると,次のとおりである。([0031]~[0034][0041][0042])
file_5.jpg(#1) BROS GBH itl) To-duv BRE (NTSCH) 3 i 4 96.5%, 8700K+0.002 88.3% peas BT 100.0% 8700K+0.002 70.1% [#3] EERE TOE SEGA W)| Tod [ERR NTSC [FE + Evo soSis Ale 200. a0. 5.20 RAS 430nm rs BalToux7*o TooM ti aca)Fe 96.65 9500K+0.001 86.4% HERBS | 200m [Fe : 2S eBay Puy gO - SiOz Too0% | 9600K+0001 Gy FR 5 Bue Sino ooAlaoOoaoNiea0 pesca | 800m nS Nina, 960% | 6e00K+0.001 879% Heed 480nm_ JB = (¥p.g0Cicly w Cen 2050 12 100.0% 8800K+0.001 70.0% . fe = B(BayyaSty buy wO = SiOz isms | 850m Te Mns ah 96.45 | 8900K+0.002 ago ERAS | A5nm (RL Wy Cay nCer wsALOre To00% | 8900K+0.002 7008 Fre: Bo oiSiis ola oOo oiNoe 6 en a z eis 460 Re Battinchins Fs 965s | 6800K+0002 e788 ERIC | 460m (BE! Wy axCd we sALO re Too.0% | 6800K¥0.002 703% lf : 20Bay gsSt. 10 Uo,yg) O + SiOy Edita 445nm_ Fie = (Ko oan alin cae a Mg 9) Py 96.5% 6800K+0.002 88.5% RAT 445nm [BK : (YossCidy Ceo, an)sAbsO, T0008 | 6800K+0.002 70.4% fet = BuyonsSius Abn Oo waar 470am + ei e 10 Becta geese ands 962% | 9000K+0001 884s ERB [470m [BR (Yo wl Ceo. )AOve Tos | 9000K-0007 7028このように,本願発明の発光装置は,黄色系発光蛍光体を波長変換部に用いた従来品に比し,色再現性(NTSC比)が向上しており,中,小型液晶ディスプレイ用バックライトとして好適な特性を有している。([0035][0043])
(2) 引用発明1について
引用文献1(甲1。訳文は,乙1のほか,甲2を参照したが,明白な誤訳は修正した。)の記載によれば,引用発明1は,次のとおりのものと認められる(段落番号は,甲1による。)。
引用発明1は,赤色放出蛍光体及び他の蛍光体を用いる照明装置に関するものでる。([0016]~[0019])
青色放出チップ及び黄色放出蛍光体から生成された白色LED機器の特に好ましい応用の一つに,例えば,携帯電話,携帯情報端末等に使用されるバックライトがある。バックライトへの応用は,5000Kより大きいCCT(相関色温度)値を要し,280ℓm/Wopt又はそれより大きいLER(放射発光効率)値で容易に提供できるが,黄色放出蛍光体を用いていることから,スペクトルの黄色範囲に過剰な放出を含有し,バックライトの色域を減少させている。([0010])
ディスプレイ装置の色域の歴史的な最高基準(golden standard)はNTSC域であり,色点座標の3セット(CIE1931x,y色度図中,赤色x=0.674及びy=0.326,緑色x=0.218及びy=0.721,並びに青色x=0.140及びy=0.080)により規定される。一般に,NTSCの70%より大きい域は,多くのバックライト応用に満足できるとみなされ,NTSCの90%より大きい域は,かかる応用のほとんどに満足できる。([0011])
そこで,黄色放出蛍光体を使用するLEDバックライトの色域を改良するため,黄色放出蛍光体を有することなく,5000Kより大きいCCTと,280ℓm/Wopt以上のLERを提供し得るLEDバックライトを開発することが有益であるところ,赤色線放出蛍光体は,少なくとも緑色放出蛍光体と,また,必要に応じては青色放出蛍光体と併用し,青色又は近紫外LEDチップと共に使用される場合,LER及びCCTのかかる数値を同時に獲得するのに特に好適である。([0012])
引用発明1は,光源からの放射の一部を,610~650nmのピーク波長を有する赤色線放出へ転換することが可能な蛍光体材料を用いることによって,例えば,ディスプレイ又は一般照明応用に有用である赤色線構成要素を含有する光を生産する装置を提供するものである。([0038])
その具体的構成として,引用発明1は,①Mn4+で活性化された,610~650nmのピーク放出波長を有する赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料,②510~550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体,並びに③440~480nmのピーク放出波長を有する青色LEDチップ,又は,440~480nmのピーク放出波長を有する青色放出蛍光体及び約370nm~約440nmのピーク放出波長を有する紫色から近紫外放出LEDチップを含み([請求項25]),④前記LEDはGaNを含んでよく([0042]),⑤前記赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料が,A2[MF6]:Mn4+を含んでもよく(Aは,Li,Na,K,Rb,Cs,NH4及びその組合せから選択され,Mは,Ge,Si,Sn,Ti,Zr及びその組合せから選択される。)([請求項2][請求項26][0052] [0055] [0056][0065]),⑥前記赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料及び前記緑色放出蛍光体は,前記LEDチップ上へ付着させる蛍光体層として適用でき([0046]),⑦放出された放射が蛍光体へ注がれる場合に白色光を生産することが可能な半導体光源(LED)を含むバックライト放出装置との構成を有する。
引用発明1では,Mn4+で活性化された複合フッ化物蛍光体が用いられているため,典型的な青色チップと黄色放出蛍光体によるLEDのLER(例えば,5000Kより高いCCTにおいて,280ℓm/Woptより大きいLER。)と同等又はより優れたLERを有することができる一方で,バックライト応用に望ましくないスペクトルの黄色範囲中への放出を非常にわずかにできる。好ましくは,かかるバックライトは,NTSC基準の色域の70%より大きい域,より好ましくはCIE1931x,y図中のNTSC基準の色域の90%より大きい域を有することができる。([0066])
file_6.jpgCra 3] Cie 1991 toa of 020 930 ada as0 08) O70 0M Fig. 13(CIE1931x,y色度図中のNTSC基準並びに青色チップ及び蛍光体K2[TiF6]:Mn4+及びSTGブレンドを使用した LED の域のグラフ表示〔訳文として甲2の【図13】を用いた。〕)
なお,色温度とは,表現しようとする光の色を,黒体(完全放射体)が温度上昇により放射する光の色に対応させ,その際の黒体の絶対温度で表するものであること,光源の色が黒体の温度と色の軌跡を示す黒体軌跡上にない場合(完全放射体はないので,通常は,黒体軌跡から外れる。),黒体軌跡に最も近似する黒体の温度として求められたものがCCT(相関色温度)であり,これを黒体軌跡からの偏差(Δuv)で表すことは,本願優先日当時の技術常識と認められる。
したがって,本件事案において,色温度(Tc)と相関色温度(CCT)又はTc-duv(Δuv)は同じ物をいうものと認められる。
また,本願明細書における「明るさ」は,発光装置からの白色光を光電流に変換する効率を意味するものであるから([0033]),引用文献1のLER(放射発光効率,単位:ℓm/Wopt)と同等のものを示すものと認める。
2 取消事由1(引用発明2の認定の誤り)について
原告は,引用文献2(甲3)の実施例2~4の緑色蛍光体を用いた白色LEDを引用発明2中に含めた審決の引用発明2の認定には,誤りがあると主張する。
しかしながら,引用文献の実施例1の緑色蛍光体を用いた白色LEDが引用発明2に含まれることは当事者間に争いのないところ,審決は,引用発明2を,β型サイアロンの組成が実施例1~4の「いずれか」である白色LEDと認定し,実施例1の「β型サイアロン」は,波長520nmから550nmの範囲にピーク波長を持ち,その半値幅が55nm以下の発光スペクトルを有し,このような特性を有するβ型サイアロンを引用発明1に適用して本願発明の相違点2に係る構成とすることが当業者にとって容易であるか否かを検討している。したがって,仮に,原告の主張する上記の点について審決に誤りがあるとしても,審決の進歩性に関する認定判断には影響はない。
もっとも,引用文献2の記載([0001][0008][0009][0028][0035][0036][0037][0060][0063][0064][0066][0068][0069][0074][0075])によれば,引用文献2において,白色LEDに用いた緑色蛍光体として明示されているのは,実施例1の緑色蛍光体のみではあるが,それは単なる一例として記載されたものにすぎず,同等の性質を有する実施例2~4の緑色蛍光体も白色LEDに用いることができることを当然の前提としているものと認められる。
そうすると,いずれにせよ,審決の引用発明2の認定に誤りがあるとはいえず,取消事由1は,理由がない。
3 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について
原告は,Mnの組成比を示すhの値を0.001≦h≦0.1の範囲とすることは,容易に想到できるものではないと主張する。
引用文献1には,本願発明の赤色系発光蛍光体「MII2(MIII1-hMnh)F6」(MIIはLi,Na,K,RbおよびCsから選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属元素,MIIIはGe,Si,Sn,TiおよびZrから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素)に相当する赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料「A2[MF6]:Mn4+」(AがLi,Na,K,Rb,Cs,NH4及びその組合せから選択され,MがGe,Si,Sn,Ti,Zr及びその組合せ)について,次の記載がある(明らかな誤訳は訂正した。)。
「 『複合フッ化物蛍光体』とは,蛍光体が,少なくとも一つの配位中心(例えば上述の例でのM)を含有し,配位子として作用するフッ化物イオンに囲まれ,必要に応じて対イオン(例えば上述の例でのA)により電荷を補償される配位化合物であることを意味する。…活性剤イオン(Mn4+)はまた配位中心として作用し,例えばAl3+などのホスト格子の中心部分を置換する。」([0053])
「 上に記載したMn4+で活性化された複合フッ化物蛍光体組成物は,活性剤イオンの望ましい混和レベル(例えば,全M含量の0.1~30mol%,より好ましくは2~15mol%)を十分に確実にできる割合で,適当な原材料を利用することにより調製できる。」([0059])
上記記載によれば,引用発明1における赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料の活性剤イオンMn4+は,配位中心となるMの一部を置換するものであり,望ましい組成比(濃度)は,全M含量のうちの0.1~30mol%が置換されたものであって,より望ましい組成比(濃度)は,全M含量のうちの2~15mol%が置換されたものである。ところで,本願発明においては,Mn(4価のマンガン)の組成比を示すhの値は,MIIIとMnの全原子数を1とした場合のMnの原子数の割合を示すものであり,引用発明1は,全M含量(置換されていないMとMn4+との合計原子数)を100とした場合のMn4+の原子数の割合を示すものである。したがって,上記引用文献1に記載の数値範囲を本願発明の数値範囲の表現に置き換えるには,引用文献1に記載の数値を100で除すればよい。そうすると,引用文献1に記載のMn4+の数値範囲は,「Mn(Mn4+)の組成比(濃度)を示すhの値は,望ましくは0.001≦h≦0.3,より望ましくは,0.02≦h≦0.15である。」と言い換えられ,本願発明のMnの数値範囲は,引用文献1の,望ましいMn4+の数値範囲に包含されている。
そこで,本願明細書をみると,Mnの組成比を示すhの値を0.001≦h≦0.1の範囲とすることについては,「hの値が0.001未満である場合には,十分な明るさが得られないという不具合があり,また,hの値が0.1を超える場合には,濃度消光などにより,明るさが大きく低下するという不具合があるためである。」([0020])との記載があるのみである。蛍光体において必要な明るさを確保することは当業者であれば当然に考慮する事項であるから,本願明細書を参酌しても,本願発明のMnの数値範囲の臨界的意義は不明である。
そうすると,本願発明のMnの数値範囲は,技術の具体的適用に伴う数値範囲の好適化といった程度のものと認められる。
以上のとおりであるから,原告の上記主張は,採用することができない。
したがって,取消事由2は,理由がない。
4 取消事由3-1(相違点2aの認定判断の誤り)
(1) 相違点2aの認定の誤りについて
原告は,BOSを緑色蛍光体と認定した審決の認定には,誤りがある旨を主張する。
審決は,引用発明1の緑色放出蛍光体を「510~550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体」としか認定しておらず,BOSと認定しているものではないから,本願発明と引用発明1との相違点2aに相当する部分は,「本願発明の緑色系発光蛍光体が<A>であるのに対し,引用発明1の緑色放出蛍光体は『510~550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体』である点。」と認定するべきものであって,「本願発明の緑色系発光蛍光体が<A>であるのに対し,引用発明1の緑色放出蛍光体がBOSである点。」とすることは,整合性を欠くものである。すなわち,進歩性の検討に当たり,具体的な物質を別な物質に置換する場合と,あらかじめ指定された物質群から同等の特性を有する物質を選択する場合とでは,容易想到か否かの判断過程が異なるから,引用発明1において「緑色放出蛍光体」と発明の構成要素を特性で認定したにもかかわらず,本願発明との相違点をその特性を有するとする具体的な物質である「BOS」と認定することは(ただし,BOSが緑色放出蛍光体であるか否かは,当事者間に争いがある。),適正な進歩性判断の手法とはいい難い。
そうすると,審決の相違点2aの認定には,誤りがある。
もっとも,前記1(2)の認定によれば,前記第2,3(1)アに摘示した点を除いて,審決の引用発明1の認定に誤りはなく,また,審決は,引用発明1のBOSを引用発明2のβ型サイアロンに置換できるか否かという観点から,相違点2aに相当する部分の容易想到性を判断したものではなく,引用発明1の「510~550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体」として引用発明2のβ型サイアロンを採用できるかとの観点から,相違点2aに相当する部分の容易想到性を判断している。そうすると,審決は,実質的には,相違点2aに相当する部分を「本願発明の緑色系発光蛍光体が<A>であるのに対し,引用発明1の緑色放出蛍光体は『510~550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体』である点。」と認定した上で判断しているものと解され,「引用発明1の緑色放出蛍光体がBOSである」との点は,全く問題とされてない。したがって,上記相違点の認定の誤りは,審決の結論に影響を与えるものとはいえない。
以下,相違点2aを「本願発明の緑色系発光蛍光体が<A>であるのに対し,引用発明1の緑色放出蛍光体は『510~550nmのピーク放出波長を有する緑色放出蛍光体』である点。」とした上で,その容易想到性に関する審決の判断の是非を検討する。
(2) 相違点2aの判断の誤りについて
ア 検討
原告は,当業者が引用発明1の緑色放出蛍光体として引用発明2のβ型サイアロンを用いる動機付けはない又は用いることに阻害要因があると主張するので,以下,検討する。
前記1(2)の認定によれば,引用発明1は,青色放出チップ及び黄色放出蛍光体を用いていたためにスペクトルの黄色範囲に過剰な放出を有する白色LEDに代えて,青色LEDチップ,又は,紫色から近紫外放出LEDチップ及び青色放出蛍光体に,赤色線放出蛍光体と緑色放出蛍光体とを併用する白色LEDを用いることにより,5000Kより大きいCCT(相関色温度)値を持ち,かつ,色再現性に優れたバックライト放出装置を提供するものといえる。そして,緑色放出蛍光体は,610~650nmのピーク放出波長を有する赤色線放出複合フッ化物蛍光体材料を用いる場合には,510~550nmのピーク放出波長を有するものであればよく,その選択を特に制限するものではない(引用文献1[0065][0069],甲2【0023】【0025】)。
一方,引用文献2には,引用発明2のβ型サイアロンは,従来の希土類付活サイアロン蛍光体より緑色の発光スペクトルの幅を狭くした緑色蛍光体であって,従来の酸化物蛍光体よりも耐久性に優れており([0009]),CIE色度座標上の(x,y)値で0≦x≦0.3,0.5≦y≦0.83の値をとり,色純度が良い緑色の光を発すること([0036]),発光スペクトルにおいて,524~527nmの範囲の波長にピークがあり,この波長は,従来報告されているβ型サイアロンをホストとする緑色蛍光体よりも短波長であり,色純度が良い緑色であること([0063]),半値幅が55nm以下と小さくシャープな緑色を発すること([0064]),発光素子として450nmの青色LEDチップを用い([0074]),引用発明2のβ型サイアロンを用いた白色LEDによるバックライト光源は,青色,緑色,赤色の光の成分がシャープなスペクトルから構成されており,偏光フィルタで分光されたときの光の分離特性がよいため,分離された光は色度座標上における赤,緑,青の色度点の色純度が良くなり,液晶ディスプレイが再現できる色空間が広くなり,色再現性が良い液晶パネルを提供することができること([0075])が記載されている。なお,引用発明2のβ型サイアロン(実施例1~4)は,いずれも,本願発明の<A>の構成を満たしている。
そうであれば,色再現性の更なる改善のために,引用発明1の緑色放出蛍光体として,その開示された条件に従うものであり,かつ,上記の特性からみて色再現性の改善を期待することのできる引用発明2のβ型サイアロンを選択することは,公知材料からの単なる最適材料の選択にすぎず,当業者であれば当然に試みるところであって,容易になし得たことといえる。
イ 原告の主張に対して
(ア) 多数の公知材料の存在の点について
原告は,510~550nmのピーク波長を有する緑色放出蛍光体が多数あるから,容易想到というためには,引用発明2のβ型サイアロンを選択するについて格段の動機付けが必要であると主張する。
しかしながら,引用発明1の緑色放出蛍光体として引用発明2のβ型サイアロンが適していることは,上記アのとおり,引用文献2自体に明示されていることといえるから,その具体的適用に当たって各種条件を選択・調整する必要が生じ得るとしても,引用発明2のβ型サイアロンを選択すること自体は,容易といえる。当業者は,課題や動機付けが明確である限り,技術分野と当該課題等を共通にする公知技術を容易に適用できるものと解されるのであって,単に公知文献や公知材料の数が多いことは,容易想到性を否定する理由とはならない。
原告の上記主張は,採用することができない。
(イ) 発光効率の点について
原告は,当業者は,発光効率を向上させようとしているから,放出波長のピークを440~480nmとする引用発明1の青色LEDに,励起スペクトルのピークを300~303nmとする引用発明2のβ型サイアロンを緑色放出蛍光体として選択することはないと主張する。
しかしながら,引用発明2は,青色LEDチップを用いる発明であり,引用文献2には,450nmの青色LEDチップを励起源とする引用発明2のβ型サイアロンを用いた白色LEDとの実施例1が記載されており([0074]),引用発明2のβ型サイアロンが青色LEDチップにおいてその特性を発揮できることは,引用文献2に接した当業者にとって明らかである。そもそも,白色光の成分としては,赤色光,緑色光と共に,一定量以上の青色光が必要であるから,青色LEDの放出波長のピーク又はその近傍範囲に励起スペクトルのピークのある緑色放出蛍光体を用いることが,常に好適であるとはいえない。
原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 解決課題の点について
原告は,引用発明1は,色再現性の改善を解決課題としていないと主張する。
しかしながら,前記アのとおり,引用発明1は,色再現性の改善を解決課題とする発明と認められる。また,引用文献1にSTGを用いた実施例のNTSC比が101%となっているとしても,STGがβ型サイアロンにすべての面において優るわけではないから,当業者において,STG以外の緑色放出蛍光体を選択する動機付けが直ちに否定されるものではない。
原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 小括
以上から,審決の相違点2aの判断には,誤りはない。
(3) まとめ
以上のとおりであるから,審決の相違点2aの認定判断に誤りがあるとはいえない。
したがって,取消事由3-1は,理由がない。
5 取消事由3-2(相違点2bの判断の誤り)について
(1) 重量概念の欠如について
原告は,本願発明は,蛍光体の混合比率に着目した点に公知発明にはない特徴があると主張する。
しかしながら,本願明細書には,「本発明の発光装置において,緑色系発光蛍光体と赤色系発光蛍光体との混合比率は特に制限されないが,赤色系発光蛍光体に対し,緑色系発光蛍光体を重量比で5~70%の範囲内の混合比率で混合することが好ましく,15~45%の範囲内の混合比率で混合することがより好ましい。」([0025])との記載があるのみであり,重量比に着目した点についての技術的意義は明らかではない。各蛍光体に,重量当たりの発光スペクトルに対する固有の寄与割合があることは自明であり(そうでなければ,蛍光体材料を組み合わせて発光装置を構成することはできない。),各蛍光体のスペクトル質量(重み)における寄与割合は,各蛍光体の重量比に置き換えられるものといえ,そして,各蛍光体の混合比率を蛍光体材料の割合を重量比で表記することは,一般的に行われているものと認められる(特開2006-83219号公報〔乙10〕【0068】,特開2007-88300号公報〔乙11〕【0148】参照)。そうであれば,蛍光体の混合比率を,各蛍光体のスペクトル質量(重み)における寄与割合で示すか,蛍光体材料の割合を重量比で示すかは,当業者において適宜なすことといえる。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 解決課題
原告は,本願発明は,従来の発光装置と比較して,同程度の明るさと色温度(6800K以上)を維持しつつ色再現性を十分に向上させることを解決課題とし,その解決手段として本願発明の構成をとることは容易ではないと主張する。
本願明細書に,原告の主張する解決課題が明示的に記載されているとはいえないが([0004][0008][0012][0043][表1]~[表3]参照),仮に,本願発明がそのような解決課題をとるものとしても,引用文献1には,NTSC域の拡大に加えて,CCT(相関色温度)や明るさの指標となり得るLER(放射発光効率)について,従来の黄色蛍光体を使用するLEDバックライトと同様,5000Kより大きいCCT(相関色温度)及び280ℓm/Wopt以上のLER(放射発光効率)を確保する必要があることが記載され([0010][0011][0066]),また,バックライト用白色光の色温度を6800K以上とすることが本願優先日当時の当業者にとっての周知事項であったことは,当事者間に争いがないから(特開2007-27421号公報〔乙7〕【0016】,特開2006-106437号公報〔乙8〕【0055】【0056】からもそのように認められる。),赤色線放出蛍光体材料と緑色放出蛍光体の含有量を決定するについて,NTSC域の拡大に加えて,必要とするCCT(相関色温度)やLER(放射発光効率)の確保についても考慮することは,当業者にとって格別のことではない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 混合方法・比率
原告は,①赤色系発光蛍光体と緑色系発光蛍光体との配合比率を定め,その後,樹脂とそれら蛍光体との配合比率を調整して3色のバランスを決定することは,当業者といえども容易になし得ない,②赤色系発光蛍光体に対し,緑色系発光蛍光体を重量比で15~45%の範囲内の混合比率とすることは,本願発明に特有の数値範囲であると主張する。
しかしながら,上記①②に関し,本願明細書には,「本発明の発光装置において,緑色系発光蛍光体と赤色系発光蛍光体との混合比率は特に制限されないが,赤色系発光蛍光体に対し,緑色系発光蛍光体を重量比で5~70%の範囲内の混合比率で混合することが好ましく,15~45%の範囲内の混合比率で混合することがより好ましい。」([0025]),「なお,本発明の発光装置に用いられる上述した緑色系発光蛍光体,赤色系発光蛍光体は,いずれも公知のものであり,従来公知の適宜の手法で製造するか,または製品として入手することが可能である。」([0029]),「<実施例1>…これらの緑色系発光蛍光体と赤色系発光蛍光体とを30:70の割合(重量比)で混合したものを所定の樹脂中に分散し(樹脂と蛍光体との比率は1.00:0.25),波長変換部を作製した。このようにして実施例1の発光装置を作製した。」([0031])との記載があるのみである。そして,本願明細書に記載されたβ型サイアロンを用いた実施例(実施例1,3,4,6,8)において,赤色系発光蛍光体に対する緑色系発光蛍光体の重量比は,いずれも,約42.9%(30÷70×100)である([0031][0036][0041][0042][図6])。
以上からすると,本願明細書からは,上記①②の技術的意義又は臨界的意義は不明というほかない。
原告は,本願発明の緑色系発光蛍光体と赤色系発光蛍光体の配合比率に関する臨界的意義を明らかにする趣旨のものとして,平成27年6月30日作成の実験成績証明書(実験日・平成27年5月20日~21日)(甲12)を提出する。仮に,本願明細書で明らかにしていない臨界的意義を出願後の実験結果で補うことが許されるとしても,同証明書は,緑色系発光蛍光体及び赤色系発光蛍光体の重量比(15%,43%,45%,70%の4例)を維持したまま,封止樹脂に対する両蛍光体の添加量を4段階に変えた場合の相対色温度を色度図上に示したものであり,他の条件を同一にして専ら各蛍光体の重量比に従った場合の実験の結果を示すものではなく,加えて,各蛍光体の重量比を本願発明の数値限定の範囲内にしても6800K以上の高い色温度にならない場合も示されており,各蛍光体の重量比の臨界的意義は明らかにはならない。
原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上から,相違点2bに想到する本願発明の構成は,当業者が必要に応じて適宜なし得ることとした審決の判断には,誤りはない。
したがって,取消事由3-2は,理由がない。
6 取消事由4(顕著な効果の看過)について
原告は,引用発明2のβ型サイアロンは,緑色発光の内部量子効率及び青色光の吸収効率が低いものと予測されるから,本願発明の効果は,当業者には予測しない格別顕著な効果があるものと主張する。
しかしながら,引用発明2に開示された450nmの青色LEDチップを励起源とするβ型サイアロンを用いた白色LEDに接した当業者が,青色LEDチップを用いた場合に引用発明2のβ型サイアロンの内部量子効率及び青色光の吸収効率は低いものであると予測するとする根拠はない。加えて,前記説示のとおり,白色光は,赤色光,緑色光,青色光の調整によって達成されるものであるから,緑色光の内部量子効率及び青色光の吸収効率のみが,引用発明2のβ型サイアロンの効果の有無を決するものではない。
また,原告は,緑色系発光蛍光体の明るさ,目的とする色温度等,更には相違点2に係る構成なども考慮した上で各種条件を選択してバックライド光源用発光装置に好適な白色光装置を実現することは容易ではなく,その効果も予測できないものである旨を主張するが,組合せが容易であるならば,その具体的適用に際して好適化を図ることは,当業者にとって困難なこととはいえず,その効果も予測できる範囲内のものにとどまる。
そうすると,原告の上記主張は,いずれも採用することができない。
したがって,取消事由4は,理由がない。
第6結論
よって,取消事由1~4はいずれも理由がなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 中武由紀)