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知財高等裁判所 平成27年(行ケ)10107号 判決 2015年10月21日

原告

訴訟代理人弁理士

佐藤富徳

被告

特許庁長官

指定代理人

藤田和美

酒井福造

内山進

根岸克弘

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2014-15917号事件について平成27年4月21日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯等

(1)  原告は,平成26年1月16日,「ノンマルチビタミン」の文字を標準文字で表してなる商標(以下「本願商標」という。)について,第5類「サプリメント」を指定商品として,商標登録出願(商願2014-2437号)をした(甲1)。

(2)  原告は,平成26年7月1日付けの拒絶査定(甲4)を受けたので,同年8月11日,拒絶査定不服審判を請求した(甲5)。

特許庁は,上記請求を不服2014-15917号事件として審理し,平成27年4月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年5月7日,その謄本は原告に送達された。

(3)  原告は,平成27年6月4日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

2  本件審決の理由の要旨

本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願商標は,「ノンマルチビタミン」の片仮名を標準文字で表してなるところ,その構成中の「マルチビタミン」の文字は,「複数のビタミンを含むサプリメント」の意味で広く用いられており,その構成中の「ノン」の文字は,本願の指定商品を取り扱う業界において,「~を含まないこと」程の意味合いで親しまれた語であること,さらに,「マルチビタミンからなるサプリメント」,「マルチビタミン以外の栄養素からなるサプリメント」及び「マルチビタミン入りのサプリメント」が取り扱われている取引の実情を総合勘案すれば,本願商標をその指定商品中,「複数のビタミンを含まないサプリメント」に使用しても,これに接する取引者,需要者は,「複数のビタミンを含まない商品」であること,すなわち,単に商品の品質を表示したものと認識,理解するにとどまり,自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものとは認識し得ないものというべきであるから,本願商標は,商標法3条1項3号に該当し,かつ,本願商標を上記商品以外の指定商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるから,本願商標は,同法4条1項16号に該当し,商標登録を受けることができないというものである。

第3当事者の主張

1  原告の主張

(1)  取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)

ア 本願商標は,「ノンマルチビタミン」の文字を標準文字で書してなるものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,等間隔でまとまりよく一体的に表されていること,「ノンマルチビタミン」の語及び「ノンマルチ」の語は,いずれも辞書等には掲載されておらず,親しみのある語ではないことからすると,本願商標は,全体として一体のものとして把握されるべきである。

そして,「ノンマルチビタミン」の語は,本願商標の指定商品に属する分野において現に使用されていないことに照らすと,本願商標は,その構成全体をもって特定の意味合いを有しない一種の造語として認識されるというべきである。

イ 本件審決は,本願商標から「複数のビタミンを含まないサプリメント」の意味合いが生じ,本願商標をその指定商品中,「複数のビタミンを含まないサプリメント」に使用しても,これに接する取引者,需要者は,単に,「複数のビタミンを含まない商品」であるという商品の品質を表示したものと認識,理解するにとどまる旨認定判断した。

しかしながら,本願商標の構成中の「ノン」の文字が「外来語の上に付いて,ないこと,また,打消しの意を表す。」を,「マルチ」の文字が「数量や種類の多いさま。いくつかの要素が合わさっているさま。」を,「ビタミン」の文字が「《(ラテン)vita(生命)に必要なアミンの意》微量で生体の正常な発育や物質代謝を調節し,生命活動に不可欠な有機物。」を意味する語としてそれぞれ知られているとしても,本願商標は,前記アのとおり,全体として一体のものとして把握されるべきものであり,その構成全体から「複数のビタミンを含まないサプリメント」の意味合いが生じることはない。また,本願商標には「ノン」の語と「マルチビタミン」の語に分離観察されなければならない特段の事情はなく,分離観察されるとしても,「ビタミン」の語が「マルチビタミン」の語よりも非常に親しみのある語であることに照らすと,「ノンマルチ」の語と「ビタミン」の語に分離観察されるとみるのが自然である。そして,「ノン」は,「ノンフレーバー」,「ノンアルコール」,「ノンカフェイン」などのように接頭語「ノン」と名詞を組み合わせた「結合語」として使用されるのが通常であるのに対し,「ノンマルチ」の語は,接頭語「ノン」と接頭語「マルチ」を組み合わせた特異な「結合語」であることからすると,「ノンマルチ」の語は,特定の意味合いを有しない造語として認識され,「ノンマルチ」の語と「ビタミン」の語とが結合した「ノンマルチビタミン」の語も,特定の意味合いを有しない造語として認識されるというべきである。

さらには,「複数のビタミンを含まないサプリメント」がどのような品質内容を表し,どのような需要者層に販売するのか意味不明である。仮に,「1種類のビタミンしか含まないサプリメント」の意味合いを生じるとしたならば,「ビタミンC」,「ビタミンD」等のように「ビタミン●」と表示するのが一般的であるから,「複数のビタミンを含まないサプリメント」が「1種類のビタミンしか含まないサプリメント」の意味合いを生じるとするのは不自然である。この点に関し,被告は,「マルチビタミン」の語は,おおよそ10種類ないし13種類のビタミンを配合(含有)したサプリメントを称するものとして普通に使用され,「複数のビタミン」の意味を有する語として広く親しまれた語である旨主張する。しかしながら,被告の主張を前提とした場合,ビタミンの種類が2ないし9種類のものは,「複数のビタミン」であるにもかかわらず,「マルチビタミン」に含まれるのか,「ノンマルチビタミン」に含まれるのか不明であるから,被告の上記主張は失当である。このように「マルチビタミン」の語でさえ,漠然とした意味合いを想起させるにとどまるものであって,不明確であり,ましてや,その否定形である「ノンマルチビタミン」の語の意味合いも不明確である。

したがって,本件審決の上記認定判断は誤りである。

ウ 以上のとおり,本願商標は,その構成全体をもって特定の意味合いを有しない造語として認識されるものであって,本願商標をその指定商品中,「複数のビタミンを含まないサプリメント」に使用した場合,これに接する取引者,需要者によって「複数のビタミンを含まない商品」という商品の品質を表示したものと認識されるものとはいえないから,本願商標が商標法3条1項3号の商標に該当するとした本件審決の判断は誤りである。

(2)  取消事由2(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り)前記(1)のとおり,本願商標は,その構成全体をもって特定の意義を有しない造語として認識されるものであって,本願商標をその指定商品中,「複数のビタミンを含まないサプリメント」に使用した場合,これに接する取引者,需要者によって「複数のビタミンを含まない商品」という商品の品質を表示したものと認識されるものではないから,本願商標を上記商品以外の指定商品に使用しても,商品の品質について誤認を生じさせるおそれはない。

したがって,本願商標が商標法4条1項16号の商標に該当するとした本件審決の判断は誤りである。

2  被告の主張

(1)  取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)に対し

ア 本願商標の構成中の「ノン」の文字は,一般に「非,無,不」などの意味を表す接頭語であり,接頭語の「ノン」を有する語として,辞書には,例えば,「ノンシュガー」の項に「(一般に)砂糖の入っていないこと」の意味,「ノンアルコール」の項に「アルコールを含まないもの」の意味及び「ノンオイル」の項に「食品で,油分・油脂を含んでいないこと」の意味がそれぞれ掲載されている(乙1の1,2)。

また,「ノン」の文字は,本願商標の指定商品である「サプリメント」の分野においても,「ノン」の文字と成分名や原材料名とを結合した「ノン○○(○○は成分名又は原材料名)」の語が「○○を含まない」という意味合いで使用されている事実がある(乙1の3ないし11)。

したがって,本願商標の構成中の「ノン」の文字は,「~を含まないこと」の意味を有する接頭語として,一般に広く親しまれた語であり,本願商標の指定商品「サプリメント」の分野においても同様に親しまれた語であるといえる。

イ 本願商標の構成中の「マルチビタミン」の文字は,第一義的には,「多数の,複数の」の意味を有する接頭語「マルチ」の文字と栄養素の一つを表す成分の表示である「ビタミン」の文字とを結合した語であることは明らかである(乙2の1ないし2の5)。

また,本願商標の指定商品である「サプリメント」の分野においては,「マルチビタミン」の語全体として,「複数のビタミンを含むサプリメント。総合ビタミン剤。」の意味を有し,実際に,「マルチビタミン」の語が,おおよそ10種類ないし13種類のビタミンを配合(含有)したサプリメントを称するものとして普通に使用されている実情がある(乙2の6ないし23)。

さらに,本願商標の指定商品である「サプリメント」の分野において,本願商標の構成中の「マルチビタミン」の文字は,商品に含まれる成分別に分類する際の一つのカテゴリー表示として使用されている実情があり(乙3の1ないし3の6),また,マルチビタミン(成分)とミネラル等の他の成分を含有した複合型のサプリメントも含め,マルチビタミン(サプリメント)は,マルチビタミン(成分)を含有しないサプリメントと比して,成分別の販売高において,高い比率を占めているとともに,サプリメント市場の売れ筋成分・素材の6位に位置していることから,同市場において需要が高い商品であることがうかがえる(乙4の1ないし4の3の2)。

加えて,本願商標の構成中の「マルチビタミン」の文字は,本願商標の指定商品である「サプリメント」の分野以外の食品,ペットフード及び飲食物の提供におけるメニューの説明等の一般の分野においても,マルチビタミン(成分)が当該食品等に配合(含有)されていること表す語として使用されている実情がある(乙5の1ないし5の8)。

これらの実情を踏まえると,本願商標の構成中の「マルチビタミン」の文字は,「複数のビタミン」の意味を有する語として広く親しまれた語であるといえる。

ウ 以上のとおり,本願商標の構成中の「ノン」の文字は,「~を含まないこと」の意味を有する接頭語として,一般に広く親しまれた語であり,本願商標の指定商品「サプリメント」の分野においても同様であること,本願商標の構成中の「マルチビタミン」の文字は,「複数のビタミン」の意味を有する語として広く親しまれた語であることからすると,本願商標は,「~を含まないこと」の意味を有する「ノン」の語と,「複数のビタミン」の意味を有する「マルチビタミン」の語とを結合した構成からなるものと容易に理解されるものであり,その各語義に従い,構成全体から「複数のビタミンを含まない」程の意味合いを認識させるものといえる。

そうすると,本願商標をその指定商品「サプリメント」中,鉄,カルシウム等のビタミン以外の成分からなるサプリメント,ビタミンC等の単一型のビタミンを主成分とするサプリメント等の「複数のビタミンを含まないサプリメント」に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,「複数のビタミンを含まない商品」であることを理解,認識するにとどまるものといえる。

したがって,本願商標は,その指定商品中「複数のビタミンを含まないサプリメント」に使用するときは,商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるから,商標法3条1項3号に該当する。

エ(ア) これに対し,原告は,本願商標は全体として一体に把握されるべきであり,分離して観察されるとしても,むしろ「ノンマルチ」と「ビタミン」の語に分離して観察されるとみるのが自然である旨主張する。

しかし,需要者は,複数の語の組合せからなる標章に接する場合,それから自然な意味合いが生じるときには,その意味合いを認識するのが通常である。そして,本願商標が「ノン」,「マルチ」及び「ビタミン」の文字を有し,それらの文字は,いずれも広く知られた語であるところ,「ノンマルチ」の文字と「ビタミン」の文字との組合せを意識した場合には,特段の意味合いを直感させないのに対し,「ノン」の文字と「マルチビタミン」の文字との組合せを意識した場合には,「マルチビタミン」の文字も,本願商標の指定商品「サプリメント」の分野において,極めて一般的な語であることから,本願商標からは自然に「複数のビタミンを含まない商品」の意味合いを直感するといえる。そうすると,本願商標に接する取引者,需要者は,これを「ノン」の語と「マルチビタミン」の語とを結合してなるものと容易に理解し,上記の意味合いを認識するというべきである。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

(イ) 原告は,本願商標に係る「ノンマルチビタミン」の語が,本願商標の指定商品に属する分野において使用されていないことを,本願商標が商品の品質を表示したものと認識されないことの根拠として挙げている。

しかしながら,商標法3条1項3号は,取引者,需要者に指定商品の品質等を示すものとして認識され得る表示態様の商標につき,それ故に登録を受けることができないとしたものであって,当該表示態様が,商品の品質等を表すものとして必ず使用されるものであるとか,現実に使用されている等の事実は,同号の適用において必ずしも要求されないものと解されるところ,本願商標からは,「複数のビタミンを含まない商品」の意味合いが理解,認識されるというべきであるから,本願商標がその指定商品に使用されている事実がないことをもって,本件審決の認定判断が違法であるとはいえない。

オ 以上によれば,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り)に対し

前記(1)のとおり,本願商標をその指定商品中,「複数のビタミンを含まないサプリメント」に使用した場合,これに接する取引者,需要者によって「複数のビタミンを含まない商品」という商品の品質を表示したものと認識されるから,本願商標を上記商品以外の指定商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがある。

したがって,本願商標が商標法4条1項16号の商標に該当するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。

第4当裁判所の判断

1  取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について

(1)  商標法3条1項3号該当性について

商標法3条1項3号が,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用途,形状(包装の形状を含む。),生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格」を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標について商標登録を受けることができない旨規定しているのは,このような商標は,指定商品との関係で,その商品の産地,販売地,品質,形状その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される。

そうすると,本願商標が商標法3条1項3号に該当するというためには,本件審決がされた平成27年4月21日の時点において,本願商標が,その指定商品との関係で,その商品の産地,販売地,品質,形状その他の特性を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり,本願商標の指定商品の取引者,需要者によって本願商標がその指定商品に使用された場合に,将来を含め,商品の上記特性を表示したものと一般に認識されるものであれば足りると解される。

ア これを本件についてみるに,本願商標は,「ノンマルチビタミン」の片仮名文字を標準文字で横書きに書してなる商標であり,各構成文字が同じ大きさ,等間隔で表されており,外観上一体のものとして把握されるから,本願商標からは「ノンマルチビタミン」の一連の称呼が生じる。

本願商標を構成する「ノン」の語に関し,コンサイスカタカナ語辞典第4版(平成22年2月10日発行。乙1の1)には,接頭語として,「非,無,不,などの意味を表す。」,広辞苑第六版(平成20年1月11日発行。乙1の2)には,「(接頭語的に)「非」「無」などの意。」との記載がある。加えて,コンサイスカタカナ語辞典第4版には,「ノン」を用いた用例として,「ノンシュガー」が「(一般に)砂糖の入っていないこと。」,「ノンアルコール」が「アルコールを含まないもの。」,「ノンオイル」が「食品で,油分・油脂を含んでいないこと」をそれぞれ意味する旨の記載がある。

また,本願商標を構成する「マルチ」の語に関し,コンサイスカタカナ語辞典第4版(乙2の1)には,接頭語として,「多数,多重,などの意味を表す。」,広辞苑第六版(甲14,乙2の2)には,「(接頭語として)「多数の」「複数の」「多面的」の意を表す。」,現代用語の基礎知識(平成25年1月1日発行。乙2の3)には,「複数の,多様な,の意。マルティ。」との記載がある。

さらに,本願商標を構成する「ビタミン」の語に関し,コンサイスカタカナ語辞典第4版(乙2の4)には,「栄養素の1。動物体が正常な生理作用を営むために必要な微量の有機化合物。体内合成が不可能な物質で,A,B,C,D,E,H,K,L,Pなどのほか,B群にはニコチン酸,パントテン酸,葉酸,コリンがある。」,広辞苑第六版(乙2の5)には,「(生命の意のラテン語vitaにamineを加えた語。フンクの命名)動物体の主栄養素(蛋白・脂質・糖質・無機塩類・水)のほかに,動物の栄養を保ち成長を遂げさせるに不可欠の微量の有機物の総称。…一五種ほどが知られているが,動物の種類によって必要とするビタミンの種類や量は異なる。」との記載がある。

加えて,ランダムハウス英和大辞典第2版(平成14年1月10日第5刷発行。乙2の6)には,「multi-vitamin」の見出し語が,形容詞として「多種ビタミン入りの,総合ビタミン(剤)の。」,名詞として「総合ビタミン(剤)。」を意味する旨の記載があり,また,「マルチビタミン」の語に関し,日経ヘルス サプリメント事典2008年版(平成19年10月1日発行。乙2の7)には,「ビタミンCやビタミンB群など,複数のビタミンを含むサプリメントのこと。総合ビタミン剤ともいう。」,現代用語の基礎知識(乙2の3)には,「多種類ビタミン投与(療法)。」との記載がある。

イ(ア) 次に,各項末尾掲記の証拠によれば,「マルチビタミン」の語に関し,以下の記載があることが認められる。

a 「心と体を強くするサプリメント活用法」(平成21年7月5日発行)の「現代人に必要なサプリメント活用法」の章における「ヘルスプロモーター2 毎日のサプリメント活用法」の項には,「□レベル- 12 -1 基本のサプリメントの種類(ベースサプリメント)」の表において,「種類 マルチビタミン」として,「特徴 複数のビタミンを一度に摂ることができるサプリメント。ビタミンA,B1,B2,B3(ナイアシン),B6,B12,パントテン酸,葉酸,ビオチン,C,E,D,Kの13種類すべて入っているものが理想。少なくともビオチンとビタミンKを除く11種類が入っているものがよい。」との記載がある(乙2の8,89頁)。

b 「大塚製薬」のウェブサイト(http://www.otsuka.co.jp/nmd/product/item_102/,平成26年12月4日閲覧)には,「製品情報 ネイチャーメイド-アメリカNo.1サプリメント」の項目中に,「MULTIPLE VITAMIN マルチビタミン」,「1日1粒で12種類のビタミンが摂れ,毎日無理なく続けていただけます。」との記載がある(乙2の10)。

c 「株式会社 明治」のウェブサイト(http://www.meiji.co.jp/health/lola/products/multi_v.html,平成26年12月4日閲覧)には,サプリメント「LOLA」の商品紹介として,「マルチビタミン 2粒で1日分の10種のビタミン…10種類のビタミンをバランスよく配合。」との記載がある(乙2の13)。

(イ) 前記(ア)によれば,本件審決日当時,本願商標の指定商品である「サプリメント」の分野において,「マルチビタミン」の語がおおよそ10種類ないし13種類といったような複数のビタミンを配合(含有)したサプリメントを示す用語として用いられていたことが認められる。

ウ 前記ア及びイによれば,本件審決日当時,本願商標は,その言語構成に照らし,「複数のビタミンを含まない」との意味合いを一般に想起させるものであって,その指定商品「サプリメント」の取引者や需要者である一般消費者によって,上記の意味合いを表す語として認識されるものであったものと認められる。

そうすると,本願商標は,その指定商品のうち「複数のビタミンを含まないサプリメント」,すなわち,「1種類のビタミンを成分とするサプリメント」又は「1種類のビタミン及びビタミン以外の成分からなるサプリメント」に使用されたときは,「複数のビタミンを含まないサプリメント」という商品の内容(品質)を表示するものとして,取引者,需要者によって一般に認識されるものであって,取引に際し必要適切な表示であるものと認められるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,自他商品識別力を欠くものというべきである。

加えて,本願商標は,標準文字で構成されているから,「ノンマルチビタミン」の文字を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであるといえる。

したがって,本願商標は,その指定商品のうち「複数のビタミンを含まないサプリメント」に使用されたときは,商標法3条1項3号に該当するものと認められる。

(2)  原告の主張について

原告は,①本願商標は,各文字の大きさ及び書体は同一であって,等間隔でまとまりよく一体的に表されていること,「ノンマルチビタミン」の語及び「ノンマルチ」の語は,いずれも辞書等には掲載されておらず,親しみのある語ではないことからすると,本願商標は,全体として一体のものとして把握されるべきであり,しかも,「ノンマルチビタミン」の語は,本願商標の指定商品に属する分野において現に使用されていないことに照らすと,本願商標は,その構成全体をもって特定の意味合いを有しない一種の造語として認識されるというべきである,②仮に本願商標が分離観察されるとしても,「ビタミン」の語が「マルチビタミン」の語よりも非常に親しみのある語であることに照らすと,「ノンマルチ」の語と「ビタミン」の語に分離観察されるとみるのが自然であるところ,「ノン」は,「ノンフレーバー」,「ノンアルコール」,「ノンカフェイン」などのように接頭語「ノン」と名詞を組み合わせた「結合語」として使用されるのが通常であるのに対し,「ノンマルチ」の語は,接頭語「ノン」と接頭語「マルチ」を組み合わせた特異な「結合語」であることからすると,「ノンマルチ」の語は,特定の意味合いを有しない造語として認識され,「ノンマルチ」の語と「ビタミン」の語とが結合した「ノンマルチビタミン」の語も,特定の意味合いを有しない造語として認識されるというべきである,③本件審決は,本願商標をその指定商品中,「複数のビタミンを含まないサプリメント」に使用しても,これに接する取引者,需要者は,単に,「複数のビタミンを含まない商品」であるという商品の品質を表示したものと認識,理解する旨認定判断したが,「複数のビタミンを含まないサプリメント」がどのような品質内容を表し,どのような需要者層に販売するのか意味不明であり,仮に,「1種類のビタミンしか含まないサプリメント」の意味合いを生じるとしたならば,「ビタミンC」,「ビタミンD」等のように「ビタミン●」と表示するのが一般的であるから,「複数のビタミンを含まないサプリメント」が「1種類のビタミンしか含まないサプリメント」の意味合いを生じるとするのは不自然であるし,また,「マルチビタミン」の語は,おおよそ10種類ないし13種類のビタミンを配合(含有)したサプリメントを称するものとして普通に使用され,「複数のビタミン」の意味を有する語として広く親しまれた語であるとの被告の主張を前提とした場合,ビタミンの種類が2ないし9種類のものは,「複数のビタミン」であるにもかかわらず,「マルチビタミン」に含まれるのか,「ノンマルチビタミン」に含まれるのか不明であり,このように「マルチビタミン」の語でさえ,漠然とした意味合いを想起させるにとどまるものであって,不明確であり,ましてや,その否定形である「ノンマルチビタミン」の語の意味合いも不明確であるなどとして,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。

ア 上記①及び②の点について

本件審決日当時,本願商標は,その言語構成に照らし,「複数のビタミンを含まない」との意味合いを一般に想起させるものであり,取引者や需要者である一般消費者によって,上記の意味合いを表す語として認識されるものであったものと認められることは,前記(1)ウ認定のとおりであり,原告が主張するように「ノンマルチビタミン」の語が辞書等には掲載されていないとしても,そのことによって上記認定が左右されるものではない。

また,原告が主張するように「ノンマルチビタミン」の語は,「ノンマルチ」の語と「ビタミン」の語との結合語であると解したとしても,「ノンマルチ」の語は,その言語構成に照らし,「複数ではない」といった意味合いが自然に生じることからすると,「ノンマルチ」の語と「ビタミン」とを組み合わせた「ノンマルチビタミン」の語から,「複数のビタミンを含まない」との意味合いを一般に想起させることに変わりはなく,「ノンマルチビタミン」の語が特定の意味合いを有しない語として認識されるものとはいえない。

さらに,本願商標が商標法3条1項3号に該当するというためには,本件審決日当時において,本願商標がその指定商品との関係で商品の内容(品質)を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり,本願商標の取引者,需要者によって本願商標がその指定商品に使用された場合に,将来を含め,商品の内容(品質)を表示したものと一般に認識されるものであれば足り,それが一般に用いられていた実情があったことまでを必要とするものではないというべきであるから,「ノンマルチビタミン」の語が,本願商標の指定商品に属する分野において現実に使用されていないからといって,本願商標の同号該当性が否定されるものではない。

したがって,原告の上記①及び②の主張は理由がない。

イ 上記③の点について

前記(1)ウ認定のとおり,「複数のビタミンを含まないサプリメント」は,「1種類のビタミンを成分とするサプリメント」又は「1種類のビタミン及びビタミン以外の成分からなるサプリメント」を意味するものといえるから,「複数のビタミンを含まないサプリメント」の意味が不明確であるということはできない。また,「1種類のビタミンを成分とするサプリメント」について,「ビタミンC」,「ビタミンD」等のようにビタミンの種類を具体的に表示する例があるからといって,そのことから「複数のビタミンを含まないサプリメント」の意味が不明確になるものでもない。

なお,「複数のビタミンを含まないサプリメント」の語義に照らし,2種類以上のビタミンを配合(含有)したサプリメントは,「複数のビタミンを含まないサプリメント」に含まれないことは明らかであり,このことは,「マルチビタミン」の語がおおよそ10種類ないし13種類といったような複数のビタミンを配合(含有)したサプリメントを示す用語として用いられていたこと(前記(1)イ)と矛盾するものではない。

したがって,原告の上記③の主張は理由がない。

(3)  小括

以上のとおり,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(商標法4条1項16号該当性の判断の誤り)について

前記1のとおり,本願商標をその指定商品中,「複数のビタミンを含まないサプリメント」に使用した場合,これに接する取引者,需要者によって「複数のビタミンを含まない商品」という商品の品質を表示したものと認識されるから,本願商標を上記商品以外の指定商品に使用するときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認められる。

したがって,本願商標が商標法4条1項16号の商標に該当するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。

3  結論

以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。

(裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 大西勝滋 裁判官 神谷厚毅)

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