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知財高等裁判所 平成27年(行ケ)10180号 判決 2016年2月09日

原告

養命酒製造株式会社

訴訟代理人弁理士

松原伸之

橋本千賀子

塚田美佳子

長谷玲子

大貫絵里加

被告

株式会社アイフォーレ

主文

1  特許庁が無効2014-890031号事件について平成27年8月3日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨

第2事案の概要

1  本件は,被告が有する商標権について,原告が商標法4条1項11号,15号を理由に無効審判請求をしたところ,特許庁が審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が審決の取消を求めた事案である。

2  特許庁における手続の経緯等

(1)  被告は,次の商標(以下「本件商標」という)に係る商標権を有している(甲1)。

登録    第5553789号

商標の構成 「宮古養命草」の文字を標準文字により表してなる。

登録出願日 平成24年9月10日

設定登録日 平成25年2月1日

指定商品  第5類「サプリメント」

(2)  原告は,平成26年5月7日,本件商標は,商標法4条1項11号,15号に該当すると主張して,無効審判(無効2014-890031号事件)を請求した。特許庁は,平成27年8月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月13日,原告に送達された。

3  審決の理由

審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりである。その要旨は,① 登録第4910948号商標(以下「引用商標1」という。)及び登録第5682287号商標(以下,引用商標1と併せて「11号引用商標」という。別掲1のとおり)とは,その外観,称呼及び観念のいずれからみても,非類似の商標であるから,その指定商品が同一又は類似のものであったとしても,本件商標は,商標法4条1項11号に該当しない,② ややデザイン化した「養命酒」の文字を横書きしてなる別掲2の商標(以下「15号引用商標1」という。)とは,15号引用商標1が周知著名であるということができても,十分に区別し得る差異を有するものであるから,出所の混同を生じることがない,また,ややデザイン化した「養命」の文字からなる別掲3の商標(以下「15号引用商標2」といい,15号引用商標1と併せて「15号引用商標」という。)とは,非類似の商標であるから,原告の商品を表すものであると認識されるとしても,出所の混同を生じるおそれがあるということはできないから,本件商標は,商標法4条1項15号に該当しない,③ よって,本件商標の登録は,商標法4条1項11号及び15号に違反してされたものではないから,商標法46条1項により,無効とすることはできない,というものである。

第3原告の主張

1  取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)

(1)  本件商標と引用商標1の類似

本件商標は,「宮古養命草」の文字を横書きしてなる商標であるが,「宮古」部分は,沖縄あるいは宮城県の地名を表す語であるから,「宮古」の語に自他商品の識別力はない(甲2,162)。また,「草」部分は,指定商品である「サプリメント」との関係において,原料としての草あるいは薬草を意味するものといえるから,一般需要者が「養命草」を看取した場合,「草」部分には識別力はなく,その要部は「養命」であると認識する(甲163)。このように,「宮古」と「草」に識別力がないから,「宮古」と「養命」と「草」を結合させた本件商標の要部は,「養命」であると判断されるべきである。

よって,本件商標は,「ミヤコヨウメイソウ」の称呼のほか,要部である「養命」部分から「ヨウメイ」の称呼をも生じる。本件商標は,「ヨウメイ」の称呼を生ずるから,引用商標1から生じる称呼「ヨウメイ」と共通する。

以上のとおり,本件商標の要部は「養命」であり,11号引用商標に類似する商標である(甲6)。

(2)  指定商品の類似

本件商標の指定商品「サプリメント」は,引用商標1の指定商品と類似する商品である。また,引用商標1の指定商品の一部は,特許庁の類似商品・役務審査基準において32F15という類似群に属するものであり,国際分類第10版において第29類から第5類に移行されている。本件商標の指定商品「サプリメント」は,類似群32F15に属する商品である。

よって,本件商標の指定商品と引用商標1の指定商品はいずれも類似群32F15に属するものであり,互いに類似する商品である。

(3)  以上によれば,本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした審決の認定判断は誤りである。

2  取消事由2(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)

(1)  15号引用商標の「養命酒」及び「養命」の語は,本件商標の登録出願時及び査定時において,原告の製造販売に係る薬草を原料とする「養命酒」との薬酒(以下「原告商品」ということがある。)として周知著名であり,約400年の長期間にわたり使用され,日本全国において,広く一般需要者に認識されていた。

1602年に,信州伊那のAが,原告商品の起源となる薬用酒を創造し,これを「養命酒」と名付けて以来,その製造販売が継続されてきた。同人の事業を継承する原告は,大正12年,「養命酒」の名称で原告商品の販路を全国に広げ,その後,テレビコマーシャルによる宣伝を中心に高い知名度を獲得し,平成24年8月に原告が実施した調査によれば,原告商品である「養命酒」に対する一般需要者の認知率は95.5%であり,その認知度は圧倒的に高い。

一般消費者に対するアンケート調査においても,消費者は,「養命酒」の中で「養命」の部分から強い印象を受けており,「養命」と聞けば原告商品である「養命酒」を思い出すことが明らかであるまた,原告の商標である15号引用商標の「養命酒」及び「養命」の語は,消費者の間で圧倒的な著名性を有し,ユニークな造語として消費者の間で知られている。

(2)  一般需要者にとって,著名な商標である「養命酒」は,その基幹部分である「養命」についても,原告の著名な商標であると誰もが疑う余地なく認識しているものであり,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから,本件商標の要部は「養命」の部分であり,「宮古養命草」を全体として一体にみることはできない。そして,本件商標からは,周知・著名な「養命」の観念が看取され,「ヨウメイ」の称呼が生じ,本件商標をその指定商品に使用した場合,本件商標を見た取引者及び需要者は,当該商品が原告に関連する出所から流出したと誤認混同する。

また,原告は,「養命酒」のほか「養命水」の商標を使用したミネラルウォーターも販売しており(甲160),また,原告の運営するオンラインショップにおいて,サプリメントを始め,調味料,加工食品,飲料等の広い範囲の飲食料品を販売している(甲161)。このような状況からも,「養命」の語を含む本件商標を指定商品に使用した場合,原告が多角経営の一環として新製品を販売したものと誤認され,出所について混同を生じる。

本件商標の指定商品「サプリメント」と原告商品である薬用酒とは,いずれも広い意味でセルフメディケーションの用途で飲用,食用される商品であり,需要者を共通にする。

(3)  以上によれば,本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした審決の認定判断は誤りである。

第4当裁判所の判断

1  取消事由2について

(1)  被告は,適式の呼出を受けながら,本件口頭弁論期日に出頭しないし,答弁書その他の準備書面も提出しないから,原告の主張(請求原因事実)を自白したものとみなされる。

したがって,15号引用商標の「養命酒」及び「養命」の語は,本件商標の登録出願時及び査定時において,原告商品の名称として周知著名であり,日本全国において,ユニークな造語として広く一般需要者に認識されていたこと,「養命酒」及び「養命」の語は,取引者,需要者に対し,商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであり,本件商標の要部は「養命」の部分であること,原告は,原告商品のほか「養命水」の商標を使用したミネラルウォーターや,サプリメント等を販売していること,本件商標の指定商品「サプリメント」と原告商品である薬用酒とは,いずれも広い意味でセルフメディケーションの用途で飲用,食用される商品であり,需要者を共通にするものであることが認められる。

(2)  以上の事実によれば,被告が取引者及び需要者を原告商品と共通する本件商標を指定商品に使用した場合,これに接した取引者,需要者は,高い周知著名性のある「養命酒」,「養命」の表示を連想し,原告の出所に係るものであると誤信するか,少なくとも,当該商品が原告との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信させるおそれがあり,商品の出所につき誤認を生じさせるものと認められる。

そうすると,本件商標は,商標法4条1項15号所定の「混同を生ずるおそれがある商標」に当たると解される。本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした審決の判断には誤りがある。

2  よって,審決には,その余の点について判断するまでもなく,これを取り消すべき違法があると認められ,原告の請求は理由があるから,認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 設楽隆一 裁判官 大寄麻代 裁判官 岡田慎吾)

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