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知財高等裁判所 平成27年(行ケ)10226号 判決 2016年11月24日

原告

アクロマ,タナイタス,アクチボラグ

訴訟代理人弁護士

吉武賢次

宮嶋学

髙田泰彦

柏延之

砂山麗

訴訟代理人弁理士

永井浩之

中村行孝

佐藤泰和

朝倉悟

浅野真理

被告

特許庁長官

指定代理人

山口直

平瀬知明

松下聡

長馬望

金子尚人

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1請求

特許庁が不服2013-13650号事件について平成27年6月16日にした審決を取り消す。

第2事案の概要(認定の根拠を掲げない事実は争いがないか弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である。)

1  特許庁における手続の経緯等

訴外アクロマ,バイオサイエンス,アクチボラグは,発明の名称を「同期化された水及びその製造並びに使用」とする発明について,平成22年8月19日を出願日とする特許出願(優先日を平成19年2月13日とする特願2010-184181号(平成20年2月13日にした特許出願(特願2009-549552)の一部を分割した特許出願)。以下「本願」という。)をし,原告は,平成22年9月24日,アクロマ,バイオサイエンス,アクチボラグから,本願の特許を受ける権利を取得した(甲24)。原告は,平成25年3月12日付けで拒絶査定を受けたため,同年7月16日付けで,これに対する不服の審判を請求した。

特許庁は,上記請求を不服2013-13650号事件として審理をした上,平成27年6月16日,本件審判の請求は成り立たないとの審決をし,その謄本を,同月26日,原告に送達した。

2  特許請求の範囲(甲2)

本願の特許請求の範囲(請求項の数は18)の請求項1ないし18の記載は,以下のとおりである(ただし,平成27年3月2日付け手続補正書(甲2)による補正後のもの。以下,請求項1ないし18に係る発明をそれぞれ「本願発明1」ないし「本願発明18」,これらを併せて「本願発明」,本願の明細書及び図面を併せて「本願明細書」,とそれぞれいう。また,請求項1に規定する「特徴的幾何学的マトリックスおよび波長360~4000nmを有する入射光の電磁特性を変化させない支持体を含んでなる耳鳴り処置用の装置」を「本願装置」,同項に規定する水の特性である「・22℃における密度0.997855~0.998836g/ml,・凝固点における水温-6.7℃~-8.2℃,・融点0.1℃~0.2℃, ・22℃における表面張力72.3~72.7dyn/cm,及び ・誘電率82.4~82.6F/m」を「本願水特性」と,本願水特性を得るために本願装置を構成する「特徴的幾何学的マトリックス」を「本願マトリックス」と,それぞれいう。)。

「【請求項1】

特徴的幾何学的マトリックスおよび波長360~4000nmを有する入射光の電磁特性を変化させない支持体を含んでなる耳鳴り処置用の装置であって,

前記特徴的幾何学的マトリックスが,支持体上に配置されており,前記入射光が,特徴的幾何学的マトリックスを通過し,その後,水または水を含む媒体と接触した場合に,前記水が,蒸留された状態かつ大気圧で,下記の特性:

・ 22℃における密度0.997855~0.998836g/ml,

・ 凝固点における水温-6.7℃~-8.2℃,

・ 融点0.1℃~0.2℃,

・ 22℃における表面張力72.3~72.7dyn/cm,及び

・ 誘電率82.4~82.6F/m,

を有するように,前記特徴的幾何学的マトリックスが,前記入射光の電磁特性を変化させ,

前記特徴的幾何学的マトリックスが,下記(a)~(f)からなる群からより選択され,

(a)  共通の中心または円弧上に共通の接点を有する一個以上の同心円を取り囲む円,

(b)  より小さい閉じた円を含む円,

(c)  2つの同心円であって,より小さい円が開いている,

(d)  幾つかの同心円を含み,形成されたリングの一個以上が閉じている円,

(e)  「フラワー オブ ライフ」のパターン,

(f)  前記(a)~(e)の組合せ,

前記特徴的幾何学的マトリックスを構成する線が0.01~1.0mmの幅を有する,装置。

【請求項2】

前記特徴的幾何学的マトリックスの,最外円の直径と,同心円の共通の中心に向かって数えて次の円の直径との比,および第二の最も外側にある円の直径と,共通の中心に向かって数えて次の円との比が,フィボナッチ数列Fn=θn/50.5(式中,Fnは0,1,1,2,3,5,8,13,21,34...の整数列を示す)に従う,請求項1に記載の装置。

【請求項3】

前記支持体が,入射光の電磁特性を変化させず,ガラス,厚紙,紙,プラスチック,シート金属または天然材料からなる,請求項1または2に記載の装置。

【請求項4】

前記支持体が透明である,請求項2に記載の装置。

【請求項5】

前記支持体がプラスターである,請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。

【請求項6】

前記特徴的幾何学的マトリックスが,前記支持体上に,被覆,インプリント,好ましくは凸版または金箔または銀箔でインプリント,エッチング,接着またはラミネート加工されている,請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。

【請求項7】

前記支持体がラミネートまたはホイルからなる,請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。

【請求項8】

前記特徴的幾何学的マトリックスが,金属,好ましくは銅または黄銅からなる,請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。

【請求項9】

前記特徴的幾何学的マトリックス上に存在するフィールド及びラインが特定のスペクトル色を有するか金属ホイルであり,金,銀,銅,黒,緑,トルコ玉の色彩および赤から選択されるスペクトル色を有する,請求項1~8のいずれか一項に記載の装置。

【請求項10】

前記特徴的幾何学的マトリックスを構成する線が0.1~0.5mmの幅を有する,請求項1に記載の装置。

【請求項11】

前記特徴的幾何学的マトリックスが,開いた円とその第一の円の中心になる1個以上の閉じた円からなるSSマトリックスである,請求項1~9のいずれか一項に記載の装置。

【請求項12】

前記SSマトリックスの外側円直径が13mmであり,内側円直径が1mmであり,外側円の線幅が1/13mmである,請求項11に記載の装置。

【請求項13】

前記特徴的幾何学的マトリックスが,開いた円とその第一の円の中心になる1個以上の開いた円からなるSScマトリックスである,請求項1~9のいずれか一項に記載の装置。

【請求項14】

前記SScマトリックスの外側円直径が13mmであり,外側円の円幅が0.5mmであり,内側円直径が2mmまたは3mmで,内側円の線幅が0.1mmであるか,または,外側円直径が13mmであり,外側円の円幅が0.5mmであり,内側円直径が3mmで,内側円の線幅が0.35mmである,請求項13に記載の装置。

【請求項15】

前記特徴的幾何学的マトリックスが,六角形の格子点に中心を有する一群の円であり,

各円の半径が格子点間隔と等しく,合計4個の同心円が,格子点間隔の1,2,3及び4倍の半径で各格子点に描かれたものを含む「フラワー オブ ライフ」パターンとして形成されており,外側円直径が34mmであり,線幅が0.1mmである,請求項1に記載の装置。

【請求項16】

前記装置が患者の体の皮膚上に適用され,白色光が照射される,請求項1~15のいずれか一項に記載の装置。

【請求項17】

前記装置が,患部の耳付近に適用される,請求項16の記載の装置。

【請求項18】

前記装置が,耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置される,請求項16または17に記載の装置。」

3  審決の理由

審決の理由は,別紙審決書(写し)に記載のとおりである。その要旨は,①本願発明は,未だ発明として完成していないから,特許法2条1項に規定する「発明」に該当するとはいえず,②本願発明は,本願明細書の作用効果が得られるとする理論的根拠が不明であり,特許法36条6項2号(明確性要件)に規定する要件を満たすものではなく,③本願明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,同条4項1号(実施可能要件)に規定する要件を満たすものではないとして,本願は拒絶をすべきものであるというものである。

第3取消事由に関する当事者の主張

取消事由に関する当事者の主張は,次のとおりである(以下,「本願マトリックスを通過した波長360~4000nm の入射光が本願水特性の水を得られる場合があること」という立証事項を「立証事項A」と,「本願マトリックスを通過した入射光を生体に照射することにより耳鳴り治療効果が得られること」という立証事項を「立証事項B」と,立証事項A及び立証事項Bを併せて「本件立証事項」と,それぞれいう。)。

1  原告の主張

本願明細書等によれば,本件立証事項がいずれも立証されているにもかかわらず,これらが立証されていないことを前提とする審決には,発明の完成に関する特許法29条1項柱書に関する判断の誤り(取消事由1),特許法36条6項2号(明確性要件)に関する判断の誤り(取消事由2),特許法36条4項1号(実施可能要件)に関する判断の誤り(取消事由3)があり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼすから,審決は違法であり取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(特許法29条1項柱書に関する判断の誤り)

ア 立証事項Aについて

本願明細書の例1の実施例(【0095】)によれば,表1のとおり,本願水特性に変化した水(以下,当該水を「同期化された水」ともいう。)が得られることが経験則的に立証されており,この点につき,被告も争っていない。また,ワシントン大学のA生物工学教授(以下,単に「A教授」という。)の宣誓書(甲11添付の参考資料2。以下「A宣誓書」という。)によれば,本願発明にいう同期化された水の物理的特徴は,同期化されていない水と有意に異なるのであり,A教授の研究室で行った構造化された水の測定と一致しているというのであるから,本願明細書にいう上記実験の結果も裏付けられている。したがって,立証事項Aは,少なくとも経験則的には立証されている。

イ 立証事項Bについて

本願明細書の例14にいうパイロット実験(【0178】)によれば,被験者4名全員につき耳鳴りが消滅し,A教授も,本願明細書の上記実験が耳鳴り症状に対して有効な効果を有したことを実証していると指摘している。また,事例研究報告と題する報告書(甲22)によれば,本願装置によって102人中90人の耳鳴りの症状が改善している。したがって,立証事項Bは,少なくとも経験則的には立証されている。

ウ 特許法29条1項柱書該当性について

特許法29条1項に規定する「発明」であるというには,その原理,メカニズム等によって理論的に解明することまでは不要であり,経験則的に立証すれば足りるというべきである。したがって,本件立証事項は,上記のとおり経験則的に立証されているのであるから,本願発明は,上記にいう「発明」に該当する。

(2)  取消事由2(特許法36条6項2号〔明確性要件〕に関する判断の誤り)

明確性要件該当性の判断基準は,特許請求の範囲の記載がそれ自体明確であるかどうかに尽きるのであって,本願発明の解決課題,作用効果等に左右されるものではない。本願発明の特許請求の範囲の記載は,技術的意味において明確であり,本願発明の原理如何にかかわらず,明確性に欠けるところはない。したがって,本願発明は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たすといえる。

(3)  取消事由3(特許法36条4項1号〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)

上記(1)のとおり,本件立証事項は経験則的に立証されているのであるから,本願明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり,特許法36条4項1号に規定する要件を満たすといえる。

2  被告の主張

本願明細書等によっても,本件立証事項は,理論的にも経験則的にも立証されていないため,これを前提とする審決の判断に誤りはない。

(1)  取消事由1(特許法29条1項柱書に関する判断の誤り)

ア 立証事項Aについて

原告は,本願明細書の例1の実施例によれば,表1のとおり,同期化された水が得られることが経験的に立証され,A宣誓書もこれを裏付けるものであると主張する。しかしながら,本願マトリックスによって同期化されたという立証事項Aを客観的に立証するには,本願マトリックスを使用しない場合との比較試験が必要であるにもかかわらず,上記実施例においては当該比較試験が行われていない。また,A宣誓書は,同期化された水が入射光によって形成されたというにとどまり,本願マトリックス自体の作用効果によって同期化されたことを裏付けるものとはいえない。したがって,立証事項Aは,理論的にも経験則的にも立証されたとはいえない。

イ 立証事項Bについて

原告は,本願明細書の例14にいうパイロット実験によれば,被験者4名全員につき耳鳴りが消滅し,A宣誓書はこれを裏付けるものであると主張する。しかしながら,耳鳴り治療の効果に関する評価についても,患者を二つのグループに分け,偽薬(プラセボ)か治療薬のどちらかを無差別に内服させ,得られたデータを分析評価するなどの比較実験が必要とされるところ(乙12の図1),上記実験は,このような比較実験を行うものではない。のみならず,キセノン光線療法が耳鳴り治療に有効であるとされ(乙6,乙9),本願装置の入射光にはキセノン光線治療法の近赤外線(波長780~2500nm)が含まれるのであるから,本願マトリックスの使用の有無にかかわらず,被験者には耳鳴り治療の効果が得られることになる。したがって,立証事項Bは,理論的にも経験則的にも立証されたものとはいえない。

ウ 以上によれば,本件立証事項は理論的にも経験則的にも立証されたものとはいえず,本願発明は,特許法29条1項にいう「発明」に該当しない。

(2)  取消事由2(特許法36条6項2号〔明確性要件〕に関する判断の誤り)

上記(1)のとおり,本件立証事項は理論的にも経験則的にも立証されたものとはいえず,本願マトリックスによっても同期化されない水が存在し得ることになる。それにもかかわらず,本願明細書には同期化された水かどうかを確かめるための条件(照射する入射光の強度,入射光の照射時間,照射する水の容量,照射する前の蒸留水の状態)が一切記載されていないから,本願発明は明確であるとはいえない。したがって,本願発明は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たすものとはいえない。

(3)  取消事由3(特許法36条4項1号〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)

特許法36条4項1号にいう実施可能要件を満たすというには,本件立証事項が立証されることを要するところ,上記(1)のとおり,これらが立証されたものとはいえないことは明らかである。そうすると,当業者は,本願明細書の記載から,本願発明が耳鳴り症状を改善するという課題を解決できることを認識することができず,本願発明を実施することができない。したがって,本願明細書は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たすものとはいえない。

第4当裁判所の判断

当裁判所は,原告の取消事由3(特許法36条4項1号〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)の主張には理由がなく,その余の点について判断するまでもなく本願は拒絶をすべきものであるから,審決にはこれを取り消すべき違法はないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  取消事由3(特許法36条4項1号〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)について

(1)  特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載は,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」と規定している。したがって,同号に適合するためには,本願明細書中の「発明の詳細な説明」の記載が,これを見た本願発明の技術分野の当業者によって,本願出願(優先日。以下同じ。)当時に通常有する技術常識に基づき本願発明の実施をすることができる程度の記載であることが必要となる。

(2)  本願明細書の記載について

ア 同期化された水の概要

同期化された水は,水又は含水媒体に,特定の波長領域にある放射線を照射することにより製造することができる。その際,光を,水又は含水媒体に照射する前に,特別に設計された本願マトリックスを通過させる。本願マトリックスの設計は,通過する光の特性を,その後に光が水又は含水媒体に照射された時に,以前には知られていなかった水分子の同期化を創出するように変化させる。同期化された水の特性は,いわゆるクラスター化された水及びこの技術分野で以前に開示されている類似した種類の水の特性とは異なっている。すなわち,本願発明の同期化された水は,蒸留された状態で,大気圧で,22℃における密度0.997855~0.998836g/ml,凝固点における水温-6.7℃~-8.2℃,融点0.1℃~0.2℃,表面張力(22℃)72.6~72.7dyn/cm,及び比誘電率82.4~82.6F/mを有する点で,独特な物理的特性を示す。(【0016】)

イ 本願マトリックス

マトリックスは,光が当たる製品又は物体を意味し,光は,マトリックスを通過してから水又は含水媒体に当たり,その中で水分子が同期化される。本願マトリックスは,含水媒体と直接接触している支持体上に配置するか,又は含水媒体からある距離を置いて存在することができる。本願マトリックスは,一実施態様では,光の放射方向に対して直角又は主として直角の平面中に二次元的外観により限定される。二次元的外観とは,より正確には,放射線源から見た時に,本願マトリックスが形成する二次元的なパターンを意味する。したがって,この実施態様では,本願マトリックスは,放射方向に対して直角の二次元的平面における広がりと比較して著しく小さい厚さ又は深さを有することができる。その他の実施態様では,本願マトリックスは,例えばマトリックスがより明確な三次元的幾何学的形状を構成する場合,例えば上記の厚さ又は深さがより大きく,より大きな程度に,入射光の特性の修正に影響を及ぼすことを意図している場合のように,その三次元的外観により限定される。(【0045】,【0046】)

ウ 支持体

本願マトリックス用の支持体は,プラットホーム,板,ホイル,パイプ,スプール,含水媒体用貯蔵容器,例えばビーカー,包装物又はタンクの壁等の形態を有することができる。支持体自体は,上記のように,入射光の電磁特性に実質的に影響を及ぼさないようにすべきである。独特な特性を有する同期化された水を得るために,入射光の特性を修正することを意図しているのは,設計(二次元的又は三次元的設計),すなわち特徴的幾何学的特性である。(【0048】,【0050】)

エ 本願マトリックスの形成

本願マトリックスは,支持体上にいずれかの公知の様式で,例えば,被覆,インプリント,接着,塗装,テープ,キャスティング,又はラミネート加工により,配置することができる。一実施態様では,本願マトリックスを石英ガラス上にインプリントするか,又はラミネート加工している。本願マトリックスの設計は,入射光の特性の修正に大きな影響を及ぼし,含水媒体の振幅を行う。重要な結果は,円及び球の幾何学的構造に基づく幾何学的設計で得られる(下記【図16】AないしF参照)。(【0048】,【0052】)

オ 本願マトリックスの具体的形状(図16A)

入射光の方向に対して実質的に直角である二次元的平面の本願マトリックスのうち,最も簡単な実施態様は,通常の円である。その他の実施態様は,共通の中心又は円弧上に共通の接点を有する一個以上の同心円を取り囲む円,又はより小さな閉じた円を含む円を包含する。上記にいう「閉じた」とは,入射光が閉じた表面を通過できないことを意味する。別の実施態様は,幾つかの同心円を含み,形成されたリングの一個以上が閉じた円を包含する。(【0053】)

カ 本願マトリックスの種類(【図16】)

file_2.jpg[416A-1] [816A-2] FOREN SRES RST RO ERT TRS mez hy MULE, EOR-OF EOIN /TA TF mes snemian EEAB ULfile_3.jpg[H16E) or ea peter eer [216F]キ 本願マトリックスの技術的範囲

同期化は,実質的に二次元的平面にある本願マトリックスが,古典的な形状を,円の幾何学的構造を基礎とするマトリックスとして含む場合に得られる。しかし,本願マトリックスの外観の設計は,古典的な幾何学的構造から僅かに偏っている。幾何学的構造が本願マトリックスの外観に基づいている円は,僅かに長円形であり,一実施態様では,円が完全に同心円状である必要はなく,共通の幾何学的中心を有する必要もない。異なったサイズの円が互いに重なり合っていてもよい。したがって,本願マトリックスは,全て上記の形態から僅かに偏っていてよい。しかし,この偏りは,含水媒体中で水を同期化するための入射光の修正がそれでもなお起こりさえすればよい。したがって,上記の種類の本願マトリックスの全て及びそれらの変形並びに組合せも,含水媒体中の水が同期化され,それによって,上記の独特な特性が得られるように,入射光に影響を及ぼす能力を有する限り,本願発明の範囲内に含まれる。(【0060】)

ク メカニズム

水の同期化の背後にあるメカニズムは,十分には解明されていない。このメカニズムを少なくとも部分的に解明できるモデルは,本願マトリックスを通過する際の光の電磁的,磁気的成分の変化である。

光源から来る入射光を本願マトリックスに通過させると,その特性が,スペクトル電磁光における幾何学的エントロピーがその空間形態及びフィールド構造に関して変化するように変化し,電気的及び磁気的性質の両方を有する単一波成分の配位が増加するために,「レーザー状の」凝集性自己安定化する光が生じる。これらの修正を,非凝集性光を放射する分光光度計における通常光電球から来るスペクトル光(例えば634nm)で測定することができる。本願マトリックスを通過した後の物理的光特性における修正を高感度ビデオカメラで記録し,光学的スペクトル画像形成により画像を解析し,数学的に評価する。(【0073】,【0092】)

ケ 実施例(例1)

密度,比誘電率,表面張力,凝固点及び融点における温度プロファイルを,同期化された蒸留水で試験した。蒸留水(Apoteket AB,スウェーデン)を白昼光及び本願マトリックスに24時間常温で暴露した。温度特性を,NiCrNiセンサーで温度データを1/3秒間毎に8時間まで集めることにより,追跡した(Temperaturlogger, Nordtec AB,スウェーデン)。同期化された水の密度は,既知量の水で秤量により分析した(Mettler,GTF,スウェーデン)。水の比誘電率は,Percometer(Adek Ltd, Estonia)で分析した。誘電体プローブは,ファラデーのケージで遮蔽した。本願マトリックス調整後の同期化された水の特性をマトリックスの【表1】に示す。

【表1】

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結論として,この結果は,蒸留した同期化された水では,水構造の結合及び秩序が大幅に組織化されている。密度の増加は,「流動する結晶構造」の形成を示唆しており,これは,冷水及び氷中に存在する通常の六方晶状の構造とは異なっている。実験の際に,通常の凝固点における六角形秩序とはかなり異なった網目構造が存在し,室温で維持されるので,実験中に固有の同期化された水は,安定化する「真の」水構造間の水素結合により調整された高い構造的対称性を有する連続的な水を構築するために,四面体モジュール水構造の形成により,自己調整分子フィードバックを目指している。同期化された水で幾つかの,ある方向に向けられた水素結合は,高度に安定した,分子間及び分子内的に結合した自己組織化するバイオシステムを導入する。(【0095】ないし【0101】)

コ その他実施例(例2~13の結果のまとめ)

例2ないし13の実施例で行った実験から,とりわけ,下記の結果が得られた。

同期化された水(自己調整分子同期化)中で,室温で,①本願マトリックス及びコロイド状石英による,時間に依存する導電率増加,②時間に依存する温度低下,及び/又は温度安定性増加(標準偏差の中間値は,比較試料に対して著しく低かった)。本願発明の同期化された水は,食品及び飲料の酸化を遅くし,溶液(例えばミルク)中のタンパク質を安定化させ,酵素活性(トリプシン触媒作用)を刺激し,UV,モバイル及びEMF(コンピュータ放射線)に暴露した時の生物学的活性の変性を抑制する。同期化された水は,酵母の安定した酸化防止性物質の代謝及び生成を刺激し,栄養状態に対するレドックス活性を適合させる。安定した幾何学的構造及び協同性相乗効果により,同期化された水における組織が増大し,細胞の酸化性エネルギー収率がより効果的になる。心臓血管の交感神経迷走神経バランスのとれた,迷走神経トーンが増加した適応性がある自律神経が,自律神経の安定性を増大させ,生理学的ストレスを低下させ,分泌免疫性を刺激する。(【0177】)

サ 耳鳴り治療に関するパイロット実験(例14)

男性2名及び女性2名に,【図16】の外径34mm,線幅0.1mmの本願マトリックスにより,耳鳴り処置のパイロット実験を行った。本願マトリックスを,耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置した。被験者は,全て数年間傷害に苦しんでおり,処置の前に大きな問題を経験している。

1  女性,55~60歳,鍼療法師。1週間以内に問題が消失した。

2  女性,55~60歳,歯科医。24時間以内に問題が消失し,非常に大きな改善。

3  男性,55~60歳,専務取締役。かなりのストレス。信号と音の高さに関連する問題が24時間以内に消失した。外国へ(飛行機で)旅行した。ナイトクラブ及びフォーミュラー1レースによる高音レベルに晒された。次いで,耳鳴りが再発した。再度処置し,やはり問題が24時間以内に消失した。

4  男性,45歳。15年間耳鳴りに悩まされている。信号音に関連する問題が24時間以内に,低い振動音に関連する問題も定期的に消失した。(【0178】)

シ 本願発明の作用効果

本願発明は,耳鳴りの処置方法であって,本願マトリックス,好ましくは図16Fによる本願マトリックスを患者の体上に,好ましくは影響を受けている耳の近くに置き,患者の体の中で水の同期化を行う方法にも関する。(【0191】)(3) 本件立証事項について

ア  前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例1)では,本願マトリックスを通過した白昼光に対し蒸留水を24時間常温で暴露する実験を行ったところ,水が同期化したことが認められ,この点については当事者間に争いがないところである。しかしながら,上記実験は,実験条件の詳細が明らかではなく,本願明細書の表1における「基準」に関する実験条件も具体的に記載されていないことからすると,本願マトリックスを使用した場合とこれを使用しなかった場合における比較実験を行ったものと認めることはできない。のみならず,水の同期化の理論的なメカニズムは十分に解明されていない上,特開2004-251498号公報(乙2の【要約】,【0006】,【0011】)によれば,かえって,マイクロウェーブ,超音波,マイクロ波超音波,赤外線(遠赤外線,中間赤外線,近赤外線を含む。)などを使用することによって,水分子の回転運動を促進し,本願水特性のように,凝固点における水温をマイナス10度以下に降下させることが可能になるとされており,しかも,上記近赤外線(780nm~2500nm)は,本願発明にいう入射光の範囲(360nm~3600nm)に含まれるのであるから,本願マトリックスを通過しない入射光であっても水を一定程度同期化し得ることが認められ,水の同期化が本願マトリックス以外の実験条件によって生じた可能性も残るといわざるを得ない。そうすると,本願明細書にいう上記実験は,水が同期化された原因が,その他の実験条件によるものではなく,専ら入射光が本願マトリックスを通過したことによることまでを立証するものとはいえない。

したがって,立証事項Aが立証されたということはできない。

イ  また,前記(2)の認定事実によれば,本願明細書の実施例(例14)では,男性2名及び女性2名に対し,本願マトリックスを耳鳴り症状を示す耳の後部の頭蓋基底部に,皮膚に穏やかな接着剤で局所的に配置する実験を行ったところ,このうち3名の耳鳴り症状が24時間以内に消失し,1名の耳鳴り症状が1週間以内に消失したことが認められる。しかしながら,上記実験における被験者は僅か4名にとどまり,しかも本願マトリックスを使用しない場合との比較試験を行うものではないことからすれば,耳鳴り症状が自然治癒又はいわゆるプラセボ効果(乙11)により消失した可能性も残るというほかない。のみならず,証拠(乙6ないし9)及び弁論の全趣旨によれば,キセノンが発する光のうち近赤外線を利用した耳鳴り治療法(いわゆるキセノン光線療法)が現に実施されていることが認められることからすれば,上記実施例における実験においても,被験者の耳の後部に照らされた光が耳鳴り治療に一定程度有効に作用した可能性も残ることが認められる。したがって,本願明細書にいう上記実験は,耳鳴り症状が本願マトリックス自体によって消失したものであることまでを立証するものとはいえない。

したがって,立証事項Bが立証されたものとはいえない。

ウ  以上によれば,本件立証事項が立証されたものと認めることはできず,本願明細書は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載たものとはいえない。

(4) 原告の主張について

ア  原告は,本願明細書にいう上記各実験結果はA宣誓書によって裏付けられている旨主張する。しかしながら,本願マトリックスを使用した実験がA教授の研究室で行われたことはうかがわれないことからすれば,A宣誓書は,本願明細書にいう実験によって同期化された水の性質が,A教授の研究室での実験結果と同一であるというにとどまり,水を同期化するとされる入射電磁エネルギーが本願マトリックスによって形成されることまでを裏付けるものとはいえない。したがって,原告の上記主張は,A宣誓書を正解しないものであって,採用することができない。

イ  原告は,人に対する治療を目的とする発明に対し,特許出願前のごく僅かな期間に厳格な実験を行うことを求めるのは困難を強いるものであって現実的ではなく,また,本願明細書の耳鳴り治療に関する実験はA宣誓書によっても裏付けられている旨主張する。しかしながら,比較実験の被験者となる耳鳴り患者の人数が少ないことを認めるに足りる証拠はなく,耳鳴り症状の比較実験の方法についても,例えば耳鳴り症状を示す両耳のうち片耳に限り本願マトリックスを配置すれば足りるのであるから,格別困難を強いるものとはいえず,原告の主張は,その前提を欠く。また,A宣誓書は,「例14は,パイロット臨床実験におけるTGMの適用が4人のヒト被験者における耳鳴り症状に対して有利な効果を有したことを実証している」(甲11〔53頁4行目ないし5行目〕参照)として,単に実験結果を追認するものにすぎず,A教授の研究室で本願マトリックスによる耳鳴り症状の改善に関する実験が行われていない以上,A宣誓書によっても本願マトリックスによって耳鳴り症状の改善効果があることを認めることはできない。さらに,原告主張に係る報告書(甲22)における実験も,上記(3)イで説示するところと同様に,比較試験を行うものではなく,本件立証事項を裏付けるものとして適切ではない。したがって,原告の主張は,その裏付けを欠くというほかなく,採用することができない。

(5) まとめ

上記によれば,本願明細書は当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由3(特許法36条4項1号〔実施可能要件〕に関する判断の誤り)は理由がない。

第5結論

以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 設楽隆一 裁判官 中島基至 裁判官 岡田慎吾)

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