知財高等裁判所 平成27年(行ケ)10242号 判決 2016年9月20日
原告
株式会社イトウ
原告
株式会社ヒロ・コーポレーション
原告ら訴訟代理人弁護士
鮫島正洋
同
栁下彰彦
同
山本真祐子
同補佐人弁理士
伊藤温
同
重田英彦
同
井上貴夫
同
金木章郎
被告
Y
同訴訟代理人弁護士
髙橋順一
同
兼松由理子
同
向宣明
同
松尾剛行
同訴訟代理人弁理士
林直生樹
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2015-800103号事件について平成27年11月4日にした審決を取り消す。
第2前提事実(いずれも当事者間に争いがない。)
1 特許庁における手続の経緯等
被告は,平成13年5月29日,発明の名称を「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」とする発明につき特許を出願し(特願2001-160951号。優先日平成12年10月3日),平成14年2月8日,設定登録を受けた(特許第3277180号。甲1(別紙1)。以下「本件特許」という。)。
原告らは,平成27年4月1日(差出日),特許庁に対し,本件特許の請求項1に係る発明につき特許無効審判請求をした(無効2015-800103号。甲36)。これに対し,特許庁は,同年11月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。その謄本は,同月5日,原告らに送達された。
原告らは,同年12月4日,本件訴えを提起した。
2 特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲は,請求項1ないし11からなるところ,請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,本件発明1に係る明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した,ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。」
3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,その要旨は,以下のとおりである。
(1) 無効理由1(特許法29条2項。以下,特許法については単に「法」という。)について
ア 本件発明1は,本件明細書及び図面の記載から,前記2のとおりと認められる。
他方,甲2(米国特許第4653483号公報。別紙2)には「3M社の仕様書番号1512-3(1981年8月)のポリエチレンフィルムで形成され,湾曲したテープ細帯32に,粘着剤がコーティングされている,二重瞼形成用テープ細帯32。」という発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。
本件発明1と甲2発明とを対比すると,両者は,「合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した,二重瞼形成用テープ」である点で一致し,合成樹脂について,本件発明1では「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」が,甲2発明では「3M社の仕様書番号1512-3(1981年8月)のポリエチレンフィルム」である点で相違する。
イ 「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂を,文言どおりと解すると,それ以上にほとんど延伸させることができないものや,延伸させることができたとしても,瞼に貼り付けても瞼への食い込みによってひだが形成されるほどの弾性的な伸縮性を有さないものといった,明らかに二重瞼形成に寄与しない合成樹脂をも含むが,請求項1には「二重瞼形成用テープ」との文言もあることから,両者を総合すると,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂とは,「二重瞼形成」に寄与する合成樹脂と解することが相当である。
また,本件においては,特許請求の範囲に記載された「二重瞼形成用テープ」の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」に係る技術内容を明らかにするために,本件明細書の発明の詳細な説明を参酌することは許されるところ,本件明細書には,本件発明1の二重瞼形成用テープにより二重瞼を形成する方法について,「テープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り,その状態でテープ状部材を瞼に押し当てて貼り付け,両端の把持部を離すことにより,引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮み,このようにして弾性的に縮んだテープ状部材がこれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって二重瞼のひだが形成される」ことが記載されている。
したがって,本件明細書を参酌すると,本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂とは,「二重瞼形成」に寄与するものであり,「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂と解すべきである。
ウ 甲2発明のポリエチレンフィルムは,一般的に,延伸後に収縮性を有するが,甲2の記載によれば,延伸することなく,そのままの形状で皮膚に貼付され,貼付後もその形状が維持されることで,二重瞼が形成されるものであり,本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂のように,「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂であるとはいえない。
また,甲2発明と本件発明1とは,二重瞼形成についての技術的手段が異なり,仮に甲2発明のポリエチレンフィルムを延伸しようとすると,「湾曲または弓型」の形状が失われるから,延伸しようとする動機もない。
このような相違点を容易想到とすることはできない。
エ よって,無効理由1によっては,本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。
(2) 無効理由2(法36条6項1号)について
本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1の構成及びその実施例が記載されているところ,その記載に係る特性を有する「ポリエチレン等の合成樹脂」は,ポリエチレンを含む一定の範囲の合成樹脂であることは明らかであり,この一定の範囲の合成樹脂には,本件特許の出願時に,例えば,「3M社の#1522」が既に汎用品で入手容易なものとして存在することから,当業者においては,本件発明1の構成を採用することにより本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められ,本件発明1に係る特許は,法36条6項1号で規定するサポート要件に適合する。
したがって,無効理由2によっては,本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。
(3) 無効理由3(法36条6項2号)について
本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂とは,「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂と解すべきであるから,本件発明1は明確である。
また,本件発明1には,「塗着する」なる特定事項が存在するが,本件発明1は「テープ状部材」に「粘着剤」が「塗着」された状態のものであれば二重瞼を形成し得,「塗着する」という「動作」が二重瞼の形成に技術的意義を有するものではない。そうすると,本件発明1は「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」に当たらない。
したがって,無効理由3によっては,本件発明1に係る特許を無効にすることはできない。
第3当事者の主張
1 原告らの主張
(1) 取消事由1(無効理由1についての認定及び判断の誤り)
ア 取消事由1-1(本件発明1の要旨認定の誤り)
発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないところ(最高裁判所第二小法廷平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁。以下「リパーゼ事件判決」という。),本件審決では,上記「特段の事情」に関する検討が欠落している。
すなわち,本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」との記載は,素直に読めば「延伸が可能で延伸をした後においても弾性的な伸縮性(との性質)を有する合成樹脂」と要旨認定され,その技術的意義を一義的に明確に理解することができないというような事情はない。本件審決も,本件発明1の技術的意義を一義的に明確に理解しており,上記「特段の事情がない」との前提に立っているように見られる。にもかかわらず,本件審決は,発明の詳細な説明を参酌することが許されるとし,これを参酌して本件発明1の要旨認定を行ったものであり,その判断は誤りである。
この誤りは,本件発明1と甲2発明との対比(相違点の認定)を誤らせ,その対比についての判断も誤らせる結果となることから,進歩性判断の結論に影響を及ぼす。
イ 取消事由1-2(相違点の認定及び判断の誤り)
本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」との記載は,リパーゼ事件判決の判例法理に基づき,「延伸が可能で延伸をした後においても弾性的な伸縮性(との性質)を有する合成樹脂」と要旨認定されることになるところ,本件審決も,甲2発明のポリエチレンフィルムは,一般的に,延伸後に収縮性を有すると認定しており,両者は同一ということになる。
したがって,本件審決の相違点に関する認定には誤りがある。
ウ この誤りがなければ,甲2発明に基づき,又は甲2発明と公然実施された発明(3M社の仕様書番号1512-3(1981年8月)のポリエチレンフィルムの基材が「延伸可能でその延伸後にも弾性的な収縮性を有する」ことは公然知られ得る状況であった。)に基づき,当業者は本件発明1を容易に想到することができるとの結論が導かれるのであって,本件審決の結論には誤りがある。
(2) 取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)
ア 特許請求の範囲の記載が法36条6項1号で規定するサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるところ,本件審決は,自ら「前提」として掲げるこの規範に従った判断をしておらず,この点における法的判断に誤りがある。
イ 本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,「延伸して瞼に貼り付ける状態においても弾性的に復帰しようとする収縮力(瞼に押し当てた場合に弾性的に縮むことでテープ状部材がそれを貼り付けた瞼に食い込み,それ自身の収縮によって二重瞼を形成する程度の収縮力)を有する合成樹脂」であるのに対し,特許請求の範囲の記載によれば「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」であり,「それ以上にほとんど延伸させることができない」合成樹脂,「瞼に貼り付けても瞼へのくい込みによってひだが形成されるほどの弾性的な伸縮性を有さない」合成樹脂,「二重瞼形成に寄与しない」合成樹脂をも含んだ広い概念となっている。このため,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできない。
また,上記のとおり,特許請求の範囲に記載された「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂は「二重瞼形成に寄与しない」合成樹脂も含むところ,この合成樹脂を用いた場合,本件発明1の課題を解決できると認識できないことは明らかである。そうである以上,本件発明1に係る特許請求の範囲に記載された発明につき,発明の詳細な説明にその記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできない。
ウ 本件審決は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,ポリエチレンを「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」の一種であると認定しているけれども,ポリエチレンのうち高密度ポリエチレンは延伸されにくく破断しやすい材料であり,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」ではないため,当業者にとって,これを材料とすることにより本件発明1の課題を解決できると認識することはできない。
エ 以上より,本件発明1はサポート要件を満たさないことから,本件審決の結論には誤りがある。
(3) 取消事由3(無効理由3についての判断の誤り)
ア 本件審決は,本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂とは,「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂と解すべきであるとするが,前記のとおり,その要旨認定自体に誤りがある。
また,法36条6項2号の判断に当たっては,特許請求の範囲の記載の文言自体に着目して判断すべきであって,当該文言に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係で技術的意味が示されていると解釈してはならないとされているところ,「延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂との文言を,この文言以上の技術的意味が示されているとして本件明細書を参酌し,「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂と,発明に係る機能,特性,作用効果等を読み込んで解釈することは許されないのであって,この観点においても本件審決の認定には誤りがある。
イ 本件発明1に係る「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」という文言は,延伸可能で延伸後も弾性的な伸縮性(性質・特性)を有するあらゆる合成樹脂を包含し得る表現となっているのに対し,本件明細書には,「延伸可能であって,延伸して瞼に貼り付ける状態においても弾性的に復帰しようとする収縮力(瞼に押し当てた場合に弾性的に縮むことでテープ状部材がそれを貼り付けた瞼にくい込みそれ自身の収縮によって二重瞼を形成する程度の収縮力)を有する合成樹脂」の具体例しか記載されていないことから,特許請求の範囲の記載に接した第三者において,権利の及ぶ範囲を正確に予測することが難しくなっており,第三者に対して不測の不利益を及ぼす状態となっている。
以上より,本件発明1につき無効理由がある。
ウ(ア) プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは,物の発明のクレームの一部が製造方法によって特定されているものをいい,クレームの一部が製造方法,ひいては経時的な要素で規定されているか否かで判断すべきところ,本件審決の認定する「本件発明1は『テープ状部材』に『粘着剤』が『塗着』された状態のものであれば,二重瞼を形成しうる」とか,「『塗着する』という動作が,二重瞼の形成に,技術的意義を有するもの」かどうかは,この判断には関係がない。このような独自の判断基準を用いて判断している点で,本件審決は誤りである。
(イ) 本件発明1に係る「…細いテープ状部材に,粘着剤を塗着する」との記載は,「塗着する」という動作を伴う経時的な要素を記載しているものであるから,プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するところ,本件発明1については,「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在する」ことはない。そうすると,最高裁判所第二小法廷平成27年6月5日判決(民集69巻4号700頁)によれば,本件発明1は,「発明が明確であること」との要件に適合しない。
したがって,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの判断に係る上記本件審決の判断の誤りは,結論の判断に影響を及ぼす。
2 被告の主張
原告らの主張はいずれも否認ないし争う。
(1) 取消事由1(無効理由1についての認定及び判断の誤り)に対し
ア 取消事由1-1(本件発明1の要旨認定の誤り)に対し
本件審決は,本件発明1の特許請求の範囲に記載される「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」の技術的意義を明らかにするために,すなわち,「発明にかかわる技術内容を明らかにするため」に,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しているところ,リパーゼ事件判決によっても,このような形で特許明細書の発明の詳細な説明の記載を利用することは,「特段の事情」の有無を問わず,当然に許される。本件審決は,そのような趣旨で本件明細書の発明の詳細な説明の記載を踏まえ,判断を示したのであり,このような判断に誤り等はない。
イ 取消事由1-2(相違点の認定及び判断の誤り)に対し
本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂とは,「二重瞼形成」に寄与するものであり,「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂と解される。他方,甲2発明の美容テープは,上瞼を形成する皮膚の三次元的輪郭又は形状に容易に沿わせるために湾曲又は弓型の形状に形成されたものであって,延伸により変形させるとその本来の機能を失ってしまうため,延伸等により変形させないで使用することが予定されている。このため,甲2発明の美容テープを形成するポリエチレンフィルムは,本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂のように,「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂ではない。すなわち,甲2発明の美容テープは,上瞼の弛みを軽減するためにその上瞼に形成したひだをテープの粘着力を利用して上瞼に固定し維持するものであって,その伸縮力を利用するものではなく,また,目立たないようにテープの幅を細くしたいと思わせるような動機等は存在しない。
このような甲2発明と,細いテープ状部材の伸縮力によって二重瞼を形成する本件発明1の間には,技術思想において根本的相違があることから,甲2発明に接した当業者において,本件発明1を想到することは不可能又は極めて困難である。
したがって,本件発明1に進歩性を認めた本件審決に誤りはない。
(2) 取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)に対し
ア 本件審決は,本件発明1における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」という特定事項の意味を適切に解釈して本件発明1に係る特許請求の範囲に記載された発明を認定するとともに,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項を認定し,本件明細書には本件発明1の構成及びその実施例が記載されているとした上で,技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載を適切に理解することにより,本件発明1が,当業者において,その発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとの判断を示している。
したがって,本件審決に原告らが主張するような法的判断の誤りはない。
イ 一般的に「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」の中には,その製造過程等に応じて,それ以上ほとんど延伸させることができないものや,延伸させることができたとしても,瞼に貼り付けても瞼への食い込みによってひだが形成されるほど弾性的な伸縮性を有さないものを含め,多くのものがあることは技術常識であり,高密度ポリエチレンからなる具体的な試料を用いた実験結果を根拠として,一般的に高密度ポリエチレンが「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」の一種でないと解することはできない。
(3) 取消事由3(無効理由3についての判断の誤り)に対し
ア 本件発明1が法36条6項2号の要件を充足しているか否かは,技術常識とともに本件明細書の発明の詳細な説明及び図面における本件発明1の特定事項の定義・説明にかかわる記載等を考慮することによって,特許請求の範囲に記載された用語の意味を適切に解釈した上で,判断されることになるが,本件発明1における「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を踏まえれば,二重瞼形成に寄与するものであり,「テープ状部材の延伸後の弾性的な伸縮性を利用して瞼に二重瞼のひだが形成される」合成樹脂であると解され,その意義は当業者にとって明確である。
イ 物の発明としての本件発明1がプロダクト・バイ・プロセス・クレームか否かを判断するに当たっても,同様に,技術常識とともに本件明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載等を考慮することによって,本件発明1が実質的に製造方法で特定されているものか否かを判断するべきであるところ,本件発明1における「テープ状部材に粘着剤を塗着することにより構成した」という特定事項の意味を素直に理解すれば,当業者にとって,当該特定事項は本件発明1を実質的に製造方法で特定するものではなく,「テープ状部材」に「粘着剤」が「塗着」された状態を特定するものであることは明らかである。
したがって,この点に関し本件審決が示した判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1 取消事由1(無効理由1についての認定及び判断の誤り)について
(1) 取消事由1-1(本件発明1の要旨認定の誤り)について
ア(ア) 法29条1項及び2項所定の特許要件,すなわち,特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては,この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として,特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ,この要旨認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義を一義的に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない(リパーゼ事件判決)。
本件において,本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂(以下「本件構成」という。)が「延伸が可能で延伸をした後においても弾性的な伸縮性(との性質)を有する」ものであることは,特許請求の範囲の記載から明らかである。もっとも,同記載によれば,「二重瞼形成用テープ」である本件発明1において,本件構成に係る合成樹脂が「延伸可能」との性質を有することがいかなる技術的意義を有するのかについては,必ずしも特定することはできない。すなわち,本件構成に係る合成樹脂が「延伸」することが「二重瞼形成」に関係するのかしないのか,いかなる形で関係するのかといった点は,本件発明1の特許請求の範囲の記載から一義的に明確に理解することはできない。そうである以上,本件構成の技術的意義の理解に当たり本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されるというべきである。
(イ) これに対し,原告らは,本件審決ではリパーゼ事件判決にいう「特段の事情」に関する検討が脱落している,本件構成に係る特許請求の範囲の記載は,その技術的意義を一義的に明確に理解することができないというような事情はないなどと指摘して,本件審決における本件発明1の要旨認定の誤りを主張する。
しかし,本件審決がリパーゼ事件判決の判旨を踏まえて判断していることはその記載から明らかである。また,前記のとおり,本件発明1の特許請求の範囲には「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」という本件構成に係る記載のほか,「二重瞼形成用テープ」という記載も存在するところ,本件発明1の要旨の認定に当たっては,前者の記載のみでなく後者の記載をも考慮に入れることが必要である。そうすると,上記(ア)のとおり,本件構成に係る合成樹脂に関する技術的意義につき本件発明1の特許請求の範囲の記載から一義的に明確に理解することはできないというべきことになる。
よって,この点に関する原告らの主張は採用し得ない。すなわち,原告ら主張の取消事由1-1は理由がない。
イ そこで,本件発明1の要旨の認定に当たり本件明細書の発明の詳細な説明を参酌するに,本件明細書には以下の記載がある。
(ア) 【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,簡単かつ容易にきれいな二重瞼を形成できるようにした二重瞼形成用テープ…に関するものである。
(イ) 【0002】
【従来の技術】二重瞼を形成するために,従来から,水性ラテックスエマルジョンやポリマーエマルジョンなどを用いて瞼の皮膚を接着し,二重のひだを形成する方法,あるいは,瞼に片面粘着テープを貼り付けたり硬化型ポリマーを塗着することにより皮膜を形成し,それによって二重の折り込みひだを形成する方法などが知られている。しかしながら,これらの方法は,いずれも非常に細かい作業を行う必要があって,ある程度慣れないときれいな仕上がりを得ることができず,また,前者の接着による場合には接着により皮膚のつれが生じたり,後者の皮膜形成では皮膜の跡が残るなどの問題もあった。
(ウ) 【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,このような問題を解決し,皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることなく,簡単にきれいな二重瞼を形成できるようにした二重瞼形成用テープ…を提供することにある。本発明の他の課題は,瞼に直接二重にするためのひだを形成し,自然な二重を形成できるようにした二重瞼形成用テープ…を提供することにある。…
(エ) 【0004】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明に係る二重瞼形成用テープは,基本的には,延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した,ことを特徴とするものである。…
【0008】上記構成を有する二重瞼形成用テープによって二重瞼を形成するには,テープ状部材の両端を把持して弾性的に延びた状態になるように引っ張り,その状態でテープ状部材の粘着剤を塗着した部分を瞼におけるひだを形成したい位置に押し当てて,該粘着剤によりテープ状部材をそこに貼り付け,そのまま両端の把持部を離す。これにより,引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮むが,本来,瞼はその両側に比して中央部が眼球に沿って前方に突出しているので,弾性的に縮んだテープ状部材がそれを貼り付けた瞼にくい込む状態になって,二重瞼のひだが形成される。…
【0009】このようにして,上記テープ状部材は瞼に直接二重にするためのひだを形成するので,前記従来の方法のように,皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることはなく,自然な二重瞼を形成することができ,しかも,テープ状部材の両端を持って引っ張った状態でそれを瞼のひだを形成したい位置に押し付ければよいので,簡単にきれいな二重瞼を形成することができる。…
(オ) 【0010】
【発明の実施の形態】図1は本発明の二重瞼形成用テープの一実施例を示している。この二重瞼形成用テープは,基本的には,弾性的に伸縮する細いテープ状部材1の表裏に粘着剤2を塗着することにより構成することができるものである。上記テープ状部材1としては,両端を持って引っ張ったときに伸長し,しかも,弾性的に復帰しようとする収縮力が作用するものであればよいが,特に,延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有するポリエチレン等の合成樹脂により形成するのが望ましい。このテープ状部材1は,一般的には幅が1~3mm程度の細い帯状に形成されるが,幅が必ずしもその範囲内である必要はなく,また明確な帯状を形成していなくても差し支えない。…
【0014】なお,図1及び図2に示す実施例では,弾性的に伸縮する細いテープ状部材1の表裏両面に粘着剤2を塗着しているが,必ずしもこの実施例に限定される必要はなく,例えば,上記粘着剤2は弾性的に伸縮する細いテープ状部材1の表面または裏面のどちらか一方の面だけに塗着してもよく,その場合,上記離型紙4や覆いシートは粘着剤12を塗着した面だけに設ければよい。また,図1及び図2に示す実施例では,粘着剤2はテープ状部材1の表裏両面にその面を全面的に覆うように粘着剤2を塗着しているが,必ずしもこの実施例に限定される必要はなく,テープ状部材を引っ張った状態で瞼に貼り付ける際に支障がなければ,粘着剤2はテープ状部材1の粘着剤2が塗着される側の面を部分的に覆うように塗着してもよい。
【0015】すなわち,テープ状部材を引っ張った状態で瞼に貼り付ける際に,引っ張った状態のテープ状部材はその両端が粘着剤により瞼に貼り付けられていれば,テープ状部材の中央部分に粘着剤がなくてもテープ状部材は張力により瞼に食い込む状態で貼り付けられるから,テープ状部材の中央部分に粘着剤が塗着されてなくても格別支障はない。また,テープ状部材1の長手方向に粘着剤を塗着した部分と塗着していない部分が短い間隔で交互に設けられていても,テープ状部材を引っ張った状態で瞼に貼り付ける際に格別支障はない。したがって,粘着剤2はテープ状部材1の粘着剤2が塗着される側の面を全面的に覆うように塗着してもよいが,必ずしもこの実施例に限定される必要はなく,テープ状部材を引っ張った状態で瞼に貼り付ける際に支障がないように配慮すれば,粘着剤2はテープ状部材1の粘着剤2が塗着される側の面を部分的に覆うように塗着してもよい。
【0016】次に,上記構成を有する二重瞼形成用テープによって二重瞼を形成する方法について説明する。図3は,テープ状部材1を,延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂によって構成し,その両端の把持部3を指先で持って引っ張ることにより伸長させた状態,即ち,そのテープ状部材1を瞼に貼り付ける準備状態を示している。この状態では,テープ状部材1が弾性的に復帰しようとする収縮力を持っている。
【0017】次に,このテープ状部材1は,両端を把持して引っ張ったままの状態で,図4に示すように,粘着剤2を塗着した部分を,瞼7におけるひだを形成したい位置に押し当てて,該粘着剤2によりテープ状部材1をそこに貼り付け,そのまま両端の把持部3を離す。これにより,引っ張った状態にあるテープ状部材1が弾性的に縮むが,本来,瞼はその両側に比して中央部が眼球に沿って前方に突出しているので,弾性的に縮んだテープ状部材1がそれを貼り付けた瞼7にくい込む状態になって,二重瞼のひだが形成される。両端の把持部3はひだの形成後に切除する。
【0018】このようにして,上記テープ状部材1は瞼7に直接二重にするためのひだを形成するので,前記従来の方法のように,皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることはなく,自然な二重瞼を形成することができ,しかも,テープ状部材1の両端を持って引っ張った状態でそれを瞼7のひだを形成したい位置に押し付ければよいので,簡単にきれいな二重瞼を形成することができる。…
【0019】図5~図6は,本発明に係る二重瞼形成用テープの他の実施例を示している。該実施例における二重瞼形成用テープ20は,図5~図6に示すように,弾性的に伸縮する細いテープ状部材21の粘着剤(図示せず)が塗着されている表裏両面に,引張りによって破断する破断部を中央に有する細いテープ状のシート22,22がそれぞれ貼付されている。…
【0025】図5~図7に示す実施例の二重瞼形成用テープ20…を使用するときには該二重瞼形成用テープ20を左右両側に引っ張るだけでテープ状部材21が伸びた状態で露出するから,図1に示す実施例の二重瞼形成用テープよりもさらに使いやすい。
(カ) 【0032】
【発明の効果】以上に詳述した本発明の二重瞼形成用テープ…によれば,皮膚につれを生じさせたり皮膜の跡を残したりすることなく,簡単で容易,安全にきれいな二重瞼を形成することができる。
ウ 検討
上記イで認定した本件明細書の各記載に基づいて検討するに,本件発明1の課題は,簡単にきれいな二重瞼を形成できるとともに,自然な二重を形成できるようにした二重瞼形成用テープを提供することにある(段落【0003】)。
二重瞼を形成するための従来の方法として,水性ラテックスエマルジョンやポリマーエマルジョンなどを用いて瞼の皮膚を接着し,二重のひだを形成する方法や,瞼に片面粘着テープを貼り付けたり硬化型ポリマーを塗着することにより皮膜を形成し,それによって二重の折り込みひだを形成する方法が知られているが,いずれも非常に細かい作業を行う必要があり,ある程度慣れないときれいな仕上がりを得ることができず,また,前者の接着による場合には接着により皮膚のつれが生じたり,後者の皮膜形成では皮膜の跡が残るなどの問題があった(段落【0002】)。これに対し,本件発明1は,延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成したことを特徴とする二重瞼形成用テープであるところ(段落【0004】),このテープ状部材の両端を持って引っ張った状態でそれを瞼のひだを形成したい位置に押し当てて粘着剤により貼り付ければ,両端を離した際,引っ張った状態にあるテープ状部材が弾性的に縮み,瞼に食い込む状態になって,二重瞼のひだが形成され,簡単にきれいな二重瞼を形成することができ,また,テープ状部材が瞼に直接二重にするためのひだを形成するので,従来の方法のように,皮膚につれを生じさせたり,皮膜の跡を残したりすることはなく,自然な二重瞼を形成することができる(段落【0008】,【0009】,【0032】)。
このような本件発明1の課題,解決手段及び作用効果によれば,本件発明1は,延伸させたテープ状部材の収縮力によりテープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成する発明であり,本件構成はそのための「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」と解するのが相当である。そうすると,本件審決における本件発明1の要旨認定は必ずしも適切ではないが,後記のとおり,この点は本件審決の結論の誤りをもたらすものではない。以下では,当裁判所の上記認定を前提として検討する。
(2) 取消事由1-2(相違点の認定及び判断の誤り)について
ア 甲2発明
甲2には以下の記載がある(翻訳は甲3による。)。
(ア) 本発明は,上眼瞼に貼付してその皮膚の襞を保つための予めカットされ成形された粘着テープ細帯または部材,そのような粘着部材を眼瞼の皮膚表面に配置しやすくするアプリケータデバイス,および上眼瞼などで弛んだ皮膚に非手術的に折り込み(タック)を形成する際のテープ細帯の使用方法に関する。(1欄11行~17行)
(イ) 特に自然な加齢の過程の一環として,上眼瞼の皮膚は図1で26とされる偽線で示されるような位置まで弛んだり垂れ下がったりし得る。その結果,図2に示すような上眼瞼の弛みや垂れ下がりが生じる。多くの東洋系の人では,目の生理学的差異により,生まれつき同様の状態が生じている。
生来的または後発的な垂れ下がりが図1の睫毛28に隣接する下側の偽線位置26に達すると,いくつかのことが起こり得る。まず,水平より上の実際の視覚に影響があり得る。すなわち,眼瞼10の垂れ下がった部分26で視線が覆われているので,単に眼球12を上向きに回転させるだけではその方向が見えない。視野の低下がなくても,非東洋人の目の生来の腫れぼったさや垂れ下がりは,そのような目(とその人物)を老けて見せがちである。さらに,女性の場合は目元の化粧をする妨げにもなる。
…図2に示すような垂れ下がり状態は悩みの種であろう。この状態は図3および図4に示すような方法で手術により修正できる。…そのような処置は上眼瞼形成術と呼ばれる。
上述した処置は,簡単でも廉価でもない。図2に示すような垂れ下がった目に悩む人の多くは,手術のための資金不足または手術自体を受けたいという気持ちの欠如から,この問題を抱え続けることになる。
したがって,本発明は,テープ細帯部材とそのアプリケータデバイス,及び非手術的な一時的疑似上眼瞼形成術を提供する方法を提供することを目的とする。
本発明の目的は,一時的疑似上眼瞼形成術を行うための粘着細帯部材およびそのような粘着テープ部材を眼瞼に配置しやすくするアプリケータデバイスを提供することである。(1欄28行~2欄9行)
(ウ) テープ細帯部材は,これが非常に薄くて柔らかく,可撓性と強度があり,破れにくく,身体の輪郭に沿いやすく,低刺激性で,防水性の細帯となるような低刺激性材料の支持体および粘着剤を有する。上眼瞼の皮膚は粘着細帯上に折りたたまれ,粘着細帯の他方の面の露出した粘着剤に付着させられ,次いで上眼瞼の折りたたまれた皮膚はその端縁が粘着細帯の下縁部に沿った状態で該皮膚自体の上に折り返されて,自然な襞よりも深くて位置が高い,人工的な二重瞼が形成される。テープ細帯の貼付は,このテープ細帯を剥離可能に眼瞼に運ぶアプリケータデバイスを用いることで容易になる。(2欄46行~59行)
(エ) まず図5を参照すると,眼球12とともに上眼瞼10の簡略図面が示されており,本発明の所望の目的,すなわち,上眼瞼10において自然の二重瞼がより深い人工的二重瞼で置き換えられると上眼瞼10の弛んだ皮膚に効果的な折り込みがとられるということを示している。本発明によると,一般に幅1cm未満,長さ4cm未満の非常に薄い細帯の両面粘着テープ32が,上眼瞼10に,その下縁部は毛様体縁20から約8~12mm上に離間してかつ/またはその上縁部は自然の二重瞼の襞線よりも上にある状態で貼付される。次いで粘着細帯32の上の皮膚は下方に折りたたまれ,次に図5に示すように該皮膚の下縁部がテープ細帯32の下縁部に沿って揃った状態で,該皮膚自体の上に折り返される。粘着細帯32はこのようにして所望の位置に形成された,より深く位置が高い人工的二重瞼を維持する。
次に図6から図8を参照すると,技法がより詳細に示されている。図6では,目を閉じた状態で,上眼瞼10の皮膚が毛様体縁20から離れるように引き伸ばされて,24とされた破線で示される自然の二重瞼が広がっている。実際の眼瞼形成の手術で通常除去する部位を参考までに点線30で示す。理解を助けるために,図6から図8に示してあるのは右目なので,内眼角は読み手の右側,外眼角は読み手の左側にある。図6のように皮膚が引き伸ばされた状態で,湾曲した両面粘着細帯32の一方の面が図7に示すように上眼瞼10の皮膚に貼付される。試験的貼付を繰り返した結果,図7に示す寸法と構成は,特定の個体にとって所望の結果を生じることが判明している。細帯32は,下縁部を毛様体縁20から所与の距離,たとえば8~12mm離す,かつ/または細帯32の上縁部を自然の二重瞼の襞線24の上に置く方法のいずれか,または両方で容易に配置することができる。粘着細帯32は,その好ましい実施形態では,目を開いているとき毛様体縁20の自然な線に沿って湾曲している。…細帯32の最大幅が1cm未満,およそ5mmで,内眼角に向かってわずかに先細になるのが好ましい結果をもたらすことが見出されている。(3欄43行~4欄25行)
(オ) 本発明での使用に適した細帯部材32の別の例は,ミネソタ州セントポールのMinnesota Mining & Manufacturing社(3M社)が仕様書番号1512-3(1981年8月)として製造したものである。そのような3Mテープでは,細帯材は,厚さ1.5ミルの透明ポリエチレンフィルムの支持材を含み得る。この支持材の各表面の粘着剤コーティングまたは薄層は,低刺激性合成アクリル酸ベースの感圧粘着剤であり得る。支持材とその両表面の粘着薄層との厚さは全部で約3ミルであり得る。この3M社の例のポリエチレンフィルムの支持材は,一般には密封型であり,比較的短期間の使用に適している。(5欄39行~53行)
(カ) ライナーシート44は,適当な坪量の,外表面殺菌済み両面性シリコーン処理ポリエチレン被覆紙であり得る。
上述した支持材および粘着薄層を備える細帯部材32の諸例は,ある形状に切って,様々な幅の湾曲または弧状の長手方向縁部を有する細長い細帯を提供して,上眼瞼を形成する皮膚の三次元的輪郭または形状に容易に沿わせることができる。(5欄54行~62行)
(キ) 本発明の方法の実施,すなわち両面に粘着剤を有する粘着細帯部材の一方の面を所期の折り込み領域の一表面に沿って貼付し,所期の折り込み領域の皮膚を該粘着細帯上に折りたたんで該粘着細帯の他方の面の露出した粘着剤に付着させることは,図16~図18に示すように,アプリケータデバイスを用いると容易になる。図16は,図7に示すように,弛んだ上眼瞼の皮膚10の後部を指で引いて細帯部材32を上眼瞼の皮膚表面に実質的に配置する説明において図7と類似している。図16は,アプリケータデバイス70によって貼付される細帯部材32を示す。(6欄18行~30行)
(ク) アプリケータデバイス70は,概ね図16に示すように簡単に使用できる。一本の指で弛んだ眼瞼の皮膚10を持ち上げておいて,端部セクションに細帯部材32を担持させたアプリケータデバイスを他方の手で簡単に操作して,細帯部材32を上述したようにして眼瞼の表面に配置することができる。端部セクション73の三次元的曲線により,細帯部材32を眼瞼の三次元的曲線に容易に配置できる。そのような配置は,端部セクションを眼瞼上に降ろして細帯部材の全面積を同時に眼瞼に押し付けて貼付することで行うことができる。眼瞼の構造によっては,細帯部材32の一端を内眼角に隣接する眼瞼表面に配置してから,残りの眼瞼に取っ手の搖動によって細帯部材を徐々に置いて軽く押し付けることが望ましい場合もある(その逆もあり)。細帯部材が眼瞼の皮膚表面に完全に貼り付けられると,十分な強度で眼瞼に付着しているので,アプリケータの端部セクション73を細帯部材から持ち上げて離すことができる。受け表面74の剥離コーティングがこの剥離を容易にする。こうして,上述したように,眼瞼の余剰の皮膚10は細帯部材の上に被さることになる。(6欄55行~7欄11行)
イ 本件審決における甲2発明並びに本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点の認定
本件審決が甲2発明並びに本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点につき前記第2の3(1)アのとおり認定したことについては,当事者間に争いがない。
ウ 本件発明1と甲2発明の相違点について
上記アで認定した甲2の各記載(図面を含む。)によれば,甲2発明の「テープ細帯32」は,本件審決が認定するとおり,延伸することなく,そのままの形状で皮膚に貼付され,貼付後もその形状が維持されることで,二重瞼を形成するものと認められる。
そうすると,前記((1)ウ)のとおり,延伸させたテープ状部材の収縮力によりテープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成するために「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」本件発明1の「合成樹脂」と,延伸することなく,そのままの形状で皮膚に貼付され,貼付後もその形状が維持されることで,二重瞼を形成する甲2発明の「テープ細帯32」の素材として用いられる「3M社製の仕様書番号1512-3(1981年8月)のポリエチレンフィルム」とは,同一ではない。すなわち,本件審決が認定した相違点は実質的な相違点ということができる。
エ 相違点の容易想到性について
上記アで認定した甲2の各記載によれば,甲2発明の「テープ細帯32」は,自然な加齢の過程の一環により生じる上眼瞼の皮膚の弛みや垂れ下がりを上眼瞼形成術という外科手術によらず,非手術的な一時的疑似上眼瞼形成術という方法で矯正しようというものである(上記ア(ア),同(イ))。すなわち,甲2発明の「テープ細帯32」は,両面に粘着剤を有しており,弛んだ上眼瞼の皮膚を持ち上げて引き伸ばした状態で,その皮膚の表面にテープ細帯32の一方の面を貼付し,次いで,引き伸ばした皮膚を下方に折りたたんでテープ細帯32の他方の面に付着させることにより,皮膚の下縁部がテープ細帯32の下縁部に沿って揃った状態の人工的な二重瞼を形成するとともに,余剰の皮膚をテープ細帯32の上に被さるようにして皮膚の弛みを解消するものである(上記ア(ウ),同(エ),同(キ)及び同(ク))。
このように,甲2発明は,上眼瞼の弛みを解消するためにその上眼瞼に形成したひだをテープ細帯32の粘着力を利用して上眼瞼に固定し維持するものであり,本件発明1のようにテープ細帯32の収縮力を利用するものではない。そうすると,本件発明1と甲2発明とは,二重瞼の形成原理を全く異にする発明というべきである。このため,甲2発明の「テープ細帯32」の素材として用いられる「3M社製の仕様書番号1512-3(1981年8月)のポリエチレンフィルム」が,仮に延伸後に収縮性を有するものであり延伸させれば収縮力を生じるものであるとしても,相違点に係る本件発明1の構成が甲2発明から動機付けられることはない。
したがって,相違点に係る本件発明1の構成は,当業者が甲2発明から容易に想到することができるものではない。
オ 原告らの主張について
(ア) 原告らは,リパーゼ事件判決によれば,本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」との記載は,「延伸が可能で延伸をした後においても弾性的な伸縮性(との性質)を有する合成樹脂」と要旨認定されるべきことを前提に,本件審決も甲2発明のポリエチレンフィルムは一般的に延伸後に収縮性を有すると認定していることから,両者は同一であり本件審決の相違点の認定には誤りがある旨主張するけれども,上記前提を採用し得ないことは前記(1)記載のとおりである。
(イ) また,原告らは,①甲2発明においては,しわ等が寄ることなく二重瞼形成用テープ細帯32を瞼にきれいに貼り付けることが前提とされているところ,そのためには,テープ細帯32を貼り付ける際にこれをぴんと張る方が好ましいことは自明であり,その場合,テープ細帯32は少なからず左右に延伸されることになるから,甲2発明もテープの収縮力を利用しているといえる(特に,テープ細帯を,しわ等を寄らせることなくぴんと張って貼り付けようとすれば,テープ細帯は微視的に延伸されることになり,その結果,テープ細帯を貼り付けて延伸状態を開放した後は,ポリエチレンの「延伸後の弾性的な伸縮性」が発揮され,二重瞼が形成されることになる。),②甲2の記載及び課題の周知性から,甲2発明においても,本件発明1と同様に,接着される瞼の皮膚の幅を小さくする動機はあるなどとも主張する。
このうち,上記①の主張に関しては,甲2にはテープ細帯32を左右に延伸することは記載されていないし,甲2発明においては弛んだ上眼瞼の皮膚を持ち上げて引き伸ばすという行為が必須であるところ,そのためには少なくとも片手を使わざるを得ず(甲2の図16),両手を使ってテープ細帯32を左右に延伸させることは一人では不可能ないし著しく困難と見られること,アプリケータデバイス70を使用してテープ細帯32を上眼瞼に貼付する場合はテープ細帯32をアプリケータデバイス70の端部セクション73の表面に配置するため,テープ細帯32を左右に延伸させる行為を介在させることが不可能ないし著しく困難と見られることに鑑みると,甲2発明においてテープ細帯32を左右に延伸することが自明であるということもできない。そうである以上,この点に関する原告らの主張は採用し得ない。なお,原告らの主張するような微視的な延伸によって生じるテープ細帯の収縮力の程度では,本件発明1のように,テープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成するという機序を生じるとは思われないので,この点に関する原告らの主張も採用し得ない。
次に,上記②の主張に関しては,本件発明1と甲2発明との相違は,二重瞼の形成原理として延伸させたテープ状部材の収縮力を利用するか否かの点にあり,この相違点の容易想到性を検討すべきであって,二重瞼形成用テープを目立たないようにするという課題ないしテープの幅を狭くしたいと思わせるような動機の有無は無関係である。したがって,この点に関する原告らの主張も採用し得ない。
カ 小括
以上より,本件発明1と甲2発明との相違点につき容易想到とすることはできない旨の本件審決の判断に誤りはないというべきである。すなわち,原告ら主張の取消事由1-2は理由がない。
2 取消事由2(無効理由2についての判断の誤り)について
(1) 特許請求の範囲の記載が,法36条6項1号で規定するサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
本件発明1につき特許請求の範囲に記載されている発明は,前記1(1)ウ記載のとおり,延伸させたテープ状部材の収縮力によりテープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成するために,延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成したテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した二重瞼形成用テープであると解されるところ,このような発明は,前記1(1)イ記載のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されており,また,当該記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといってよい。
(2) 原告らの主張について
ア 原告らは,本件審決につき,上記の一般論を「前提」として掲げながらその規範に従った判断をしていないとした上で,本件発明1の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」は,特許請求の範囲の記載によれば,「それ以上にほとんど延伸させることができない」合成樹脂や「二重瞼形成に寄与しない」合成樹脂をも含んだ広い概念となっているのに対し,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば「延伸して瞼に貼り付ける状態においても弾性的に復帰しようとする収縮力を有する合成樹脂」であり,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできない旨主張する。
しかし,そもそも本件発明1の特許請求の範囲に記載された発明につき原告ら主張のように解することが適当でないことは上記(1)のとおりであるから,この点に関する原告らの主張は採用し得ない。
イ また,原告らは,本件審決が本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」の一種であると認定しているポリエチレンのうち「高密度ポリエチレン」は,延伸されにくく破断しやすい材料であり「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」ではない旨主張する。
しかし,仮に高密度ポリエチレンが原告らが主張するようなものであったとしても,「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂」が本件特許の優先日当時に存在していたことは明らかであり(甲25),当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できることに違いはないというべきである。
したがって,この点に関する原告らの主張も採用し得ない。
(3) 小括
以上より,本件発明 1 に係る本件特許は法36条6項1号で規定するサポート要件に適合する旨の本件審決の判断に誤りはないというべきである。すなわち,原告ら主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(無効理由3についての判断の誤り)について
(1) 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
本件発明1につき特許請求の範囲に実質的に記載されている発明は,前記1(1)ウ記載のとおり,延伸させたテープ状部材の収縮力によりテープ状部材を瞼に食い込ませて二重瞼を形成するために,延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成したテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した二重瞼形成用テープであると解されるところ,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,その記載それ自体に加え,本件明細書の記載及び図面(前記1(1)イ)を考慮するとともに,当業者の出願当時における技術的常識を基礎とすると,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。すなわち,本件発明1の特許請求の範囲の記載は明確である。
(2) 原告らの主張について
ア 原告らは,本件審決につき,その要旨認定自体に誤りがあるとした上で,法36条6項2号の判断に当たっては,特許請求の範囲の記載の文言自体に着目して判断すべきであって,当該文言に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係で技術的意味が示されていると解釈してはならないところ,「延伸後にも弾性的な伸縮性を有する」合成樹脂との文言を,本件明細書を参酌して解釈し認定した点でも本件審決には誤りがある旨主張する。
しかし,本件審決の要旨認定の誤りという原告らの主張を採用し得ないことは前記1(1)記載のとおりである。また,上記(1)記載のとおり,法36条6項2号の判断に当たっては,特許請求の範囲の記載だけでなく,明細書の記載等を考慮すべきであるところ,原告らの主張する上記解釈はこれに沿わないものである。そうすると,この点に関する原告らの主張は採用し得ない。
イ(ア) また,原告らは,本件発明1に係る「…細いテープ状部材に,粘着剤を塗着する」との記載は「塗着する」という動作を伴う経時的な要素を記載しているものであるから,本件発明1はプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するところ,「出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在する」ことはないから,「発明が明確であること」との要件に適合しない旨主張する。
(イ) 物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)において,当該特許請求の範囲の記載が法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解される(最高裁判所第二小法廷平成27年6月5日判決・民集69巻4号700頁)ところ,本件発明1に係る上記記載は,これを形式的に見ると,確かに経時的な要素を記載するものということもでき,プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当すると見る余地もないではない。
しかし,プロダクト・バイ・プロセス・クレームが発明の明確性との関係で問題とされるのは,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定するとするならば,その製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であることなどから,第三者の利益が不当に害されることが生じかねないことによるところ,特許請求の範囲の記載を形式的に見ると経時的であることから物の製造方法の記載があるといい得るとしても,当該製造方法による物の構造又は特性等が明細書の記載及び技術常識を加えて判断すれば一義的に明らかである場合には,上記問題は生じないといってよい。そうすると,このような場合は,法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームと見る必要はないと思われる。
(ウ) ここで,本件明細書の記載を参酌すると,本件明細書には「二重瞼形成用テープは,図2に示すように,弾性的に伸縮するX方向に任意長のシート状部材11の表裏前面に粘着剤12を塗着…し,これを多数の切断面Lに沿って細片状に切断することにより,極めて容易に製造することができる。」(甲1の段落【0013】)という態様,すなわち,粘着剤を塗着した後,細いテープ状部材を形成する態様を含めて「図1及び図2に示す実施例では,弾性的に伸縮する細いテープ状部材の表裏両面に粘着剤2を塗着している」(同段落【0014】)と記載されている。また,本件発明1は,「テープ状部材の形成」と「粘着剤の塗着」の先後関係に関わらず,テープ状部材に粘着剤が塗着された状態のものであれば二重瞼を形成し得ること,すなわちその作用効果を奏し得ることは明らかである。
そうすると,本件発明1の「…細いテープ状部材に,粘着剤を塗着する」との記載は,細いテープ状部材に形成した後に粘着剤を塗着するという経時的要素を表現したものではなく,単にテープ状部材に粘着剤が塗着された状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないものと理解するのが相当であり,物の製造方法の記載には当たらないというべきである。
(エ) したがって,本件発明1は,法36条6項2号との関係で問題とされるべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームには当たらない。この点に関する原告らの主張は採用し得ない。
(3) 小括
以上より,本件発明 1 は明確であり,法36条6項2号で規定する明確性要件を満たすとする本件審決の判断に誤りはないというべきである。すなわち,原告ら主張の取消事由3は理由がない。
4 結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 杉浦正樹 裁判官 寺田利彦)