大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成28年(ネ)10011号 判決 2016年10月27日

控訴人

被控訴人

NECトーキン株式会社

訴訟代理人弁護士

新保克芳

酒匂禎裕

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,控訴人に対し,100万円及びこれに対する平成27年9月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,第1審,第2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  控訴人は,平成11年12月20日,他の2名と共同して,昭和59年9月5日出願に係る実用新案登録出願(実願昭59-134611号)からの分割出願(実願平6-5675号)を原出願として,名称を「テレホンカード」とする考案(以下「本件考案」という。)を分割する出願(実願平11-9646号。以下「本件出願」という。)をした。本件出願については,平成12年6月30日に出願公開がされ,平成22年4月2日に控訴人及び上記2名を権利者とする実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)の設定登録がされたものの(実用新案登録第2607899号),本件実用新案権は,同月21日,平成11年9月5日存続期間満了を原因として抹消登録がされた。他方,被控訴人は,平成12年6月30日から平成19年3月までの間,日本電信電話株式会社からの委託に基づき,同社の仕様に基づくテレホンカードを業として製造販売した。

本件は,控訴人が,上記テレホンカードを製造販売した被控訴人に対し,不当利得返還請求権に基づき,本件考案の実施料相当額の一部である100万円及びこれに対する平成27年9月8日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は,本件実用新案権の存続期間は平成11年9月5日をもって満了し,その後は,誰もが本件考案を自由に実施することが可能になったのであるから,被控訴人が平成12年6月30日以降に上記テレホンカードの製造販売によって利益を取得したとしても,当該利益が控訴人との関係で法律上の原因を欠くということはできないなどとして,控訴人の請求を棄却した。控訴人がこれを不服として控訴した。

なお,控訴人は,当審第1回口頭弁論期日に出頭せず,控訴状,控訴状訂正申立書及び控訴理由書に記載された事項は,いずれも陳述したものとみなされた。

2  前提事実,争点及び争点についての当事者の主張は,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1から3まで(原判決2頁1行目から3頁11行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決中「原告」とあるのは「控訴人」と,「被告」とあるのは「被控訴人」と,それぞれ読み替えることとする。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり原判決を補正して,後記2において当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の1及び2(原判決3頁13行目から4頁3行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決3頁26行目の「しかし,」から4頁2行目の「見当たらない。」までを改行して次のとおり改める。

「そこで検討するに,技術的思想の創作としての考案に関しては,実用新案法が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,実用新案法は,法的保護を与えるべき考案の発生原因,内容,範囲,消滅原因を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている。このような実用新案法の趣旨,目的に鑑みると,本件考案に係る本件実用新案権は,実用新案法が規定する消滅原因によって既に消滅していたのであるから,上記消滅原因に係る規定に反して,本件考案に対し法的保護を与えるのは相当ではない。」

2  当審における控訴人の主張について

控訴人は,本件考案が実用新案法によって保護されるものではないとしても,憲法その他法令によって保護されるべきであるにもかかわらず,これを否定した原審の判断には,法令解釈の誤りがあるなどと主張する。しかしながら,上記引用に係る原判決が説示するとおり,本件実用新案権は,平成11年9月5日をもって消滅しているのであって,控訴人主張に係る憲法,民法その他の規定によっても,控訴人がテレホンカードに係る被控訴人の販売利益を返還し得る法的根拠を認めることはできない。控訴人の主張の実質は,分割出願の出願日を分割出願日というに等しいものであって,分割出願についての出願日のみなし規定(実用新案法11条1項が準用する特許法44条2項本文参照)を正解しないものに帰するものであって,採用することはできない。したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。

第4結論

以上によれば,控訴人の請求は理由がなく,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 設楽隆一 裁判官 中島基至 裁判官 岡田慎吾)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例