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知財高等裁判所 平成28年(ネ)10013号 判決 2016年7月20日

控訴人(一審原告)

一般社団法人日本ボディジュエリスト協会

被控訴人(一審被告)

日本ビューティーボディメイク協会ことY

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,控訴人に対し,34万8000円及びこれに対する平成27年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」という。)を有する控訴人が,被控訴人が,①本件商標権に係る商標(以下「本件商標」という。)に類似する別紙被控訴人標章目録記載の標章(以下「被控訴人標章」という。)を付した有料の資格認定講座を開催し,被控訴人標章を付した資格を認定した行為,②前記講座のウェブ上での宣伝に際し,被控訴人標章を付した画像を提供した行為は,商標法37条1号,2条3項3号,同8号に該当し,控訴人の本件商標権を侵害するとして,被控訴人に対し,民法709条,商標法38条3項に基づき,34万8000円の損害賠償金及びこれに対する不法行為後である平成27年5月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原判決は,前記①につき,被控訴人が被控訴人標章を付した資格認定講座を開催した事実は認められない,被控訴人は,その認定する私的資格の名称として,被控訴人標章を付与したものの,記述的に用いたにすぎない,前記②につき,被控訴人は,自身の開催する講座の広告において,被控訴人標章を使用したものの,前記講座の内容を説明・表現するため,記述的に用いたにすぎないとして,民法709条に基づく損害賠償請求は理由がない旨判断して,控訴人の請求を棄却した。

これに対し,控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。

1  前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実。弁論の全趣旨により認められる事実を含む。)

(1)  当事者

ア 控訴人は,その履歴事項全部証明書によれば,技能講習会の開催等によるボディジュエリストの人材の育成等を目的とする一般社団法人である(甲1)。

イ 被控訴人は,耳つぼの施術に関する資格を認定する養成講座の開催等を業とする個人事業主である。

(2)  控訴人の商標権

控訴人は,本件商標権を有している(甲2)。

(3)  被控訴人使用の標章

ア 被控訴人は,平成23年9月6日以降現在まで,被控訴人標章を使用する認定講座を開催している。

イ 被控訴人は,電気通信回線を通じて行う静止画像の提供に,被控訴人標章を付した(乙1,乙5の1~7,9及び13)。

2  争点

(1)  本件商標権侵害(商標法37条1号,2条3項3号,同8号)の有無

(2)  損害発生の有無及びその額

(3)  先使用の抗弁の成否

3  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(本件商標権侵害(商標法37条1号,2条3項3号,同8号)の有無について

〔控訴人の主張〕

ア(ア) 被控訴人は,平成26年2月28日から平成27年1月8日まで,被控訴人標章を付した有料の資格認定講座を開催し,被控訴人標章を付した資格を認定していた。

(イ) 被控訴人は,前記講座のウェブ上での宣伝において,被控訴人標章を使用し,電気通信回線を通じて行う静止画像の提供に,被控訴人標章を付した(甲3,4)。

イ 被控訴人標章は,本件商標と,称呼及び観念が同一であり,外観も類似しているから,本件商標と類似する。

ウ(ア) 前記ア(ア)の行為は,本件商標の指定役務である「技芸・スポーツ又は知識の教授」,「資格試験の実施及び資格の認定・資格の付与」,「セミナーの企画・運営又は開催」に含まれる。

(イ) 前記ア(イ)の行為は,本件商標の指定役務である「電気通信回線を通じて行う静止画像・動画像・音声付き静止画像・音声付き動画像・映像の提供」に含まれる。

エ したがって,前記ア(ア)及び(イ)の各行為は,本件商標権を侵害する。

オ 他人の登録商標の側に侵害者の名称が付されていることを理由に,自他商品・役務の識別標識としての機能を果たす態様で用いられているとはいえないとする,原判決の判断は不当である。

また,「耳つぼジュエリスト」は,登録商標であり,「耳」という一般名詞,「つぼ」という一般名詞及び「ジュエリスト」という造語の組合せであるからといって,「ネイリスト」等,「ist」を含む商標が登録されている例があり,記述的とはいえないから,被控訴人が,自身の開講する講座の内容を説明・表現するため,記述的に被控訴人標章を用いたとはいえない。

〔被控訴人の主張〕

被控訴人は,自身の開催する講座の広告において,被控訴人が認定する私的資格に「耳ツボジュエリスト」という名称を付与したにすぎず,役務の提供主体を識別するような態様で使用したのではない。

各ウェブサイトの先頭に,「日本ビューティーボディメイク協会」と記載されており,被控訴人標章が自他商品・役務識別標識としての機能を果たす態様で用いられているのではない。

被控訴人は,記述的に被控訴人標章を用いたのであり,商標権侵害を構成するような使用態様ではない。

(2)  争点(2)(損害発生の有無及びその額)について

〔控訴人の主張〕

ア 控訴人は,前記(1)〔控訴人の主張〕ア(ア)及び(イ)の各行為により,下記のとおり,使用料相当額として,少なくとも34万8000円の損害を被ったから,被控訴人に対し,商標法38条3項に基づき,34万8000円の損害賠償金及びこれに対する不法行為後である平成27年5月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有する。

(認定講座受講代金6万5000円/人+同10万5000円/人)×認定講座受講回数2回/月×認定講座参加受講生数2人/回×本件商標権使用料率5%=3万4000円

3万4000円×10.26か月(平成26年2月28日から平成27年1月8日まで)=34万8840円

イ 被控訴人は,控訴人が本件商標を全く使用していないと主張する。

しかしながら,控訴人は,材料卸会社,通信教育会社と商談中である。また,耳つぼジュエリーにつき,耳に貼るだけで,頭痛等の症状が改善されるとの宣伝がウェブ上でなされているところ,控訴人は,これらの宣伝が薬事法に抵触するのではと考え,1年以上前から,国家資格「はり師・きゅう師」を有する者の指導の下,「耳つぼジュエリスト」としてのサービスを検討し,宣伝用イラストストーリーを完成させ,ホームページを作成中である。そのため,本件商標権の使用が少し遅れているにすぎない。

〔被控訴人の主張〕

控訴人は,実働,実態のない名前だけの団体と思われ,営業実態があるとは認められず,当初より今日に至るまで,本件商標を全く使用していないから,控訴人には,損害が発生していない。

(3)  争点(3)(先使用の抗弁の成否)について

〔被控訴人の主張〕

被控訴人は,平成23年9月6日以来現在に至るまで,耳ツボジュエリースクールを開講し,その受講者に対し,「耳ツボジュエリスト」という私的資格を認定しているところ,当該受講者は日本全国にわたっており,被控訴人が「耳ツボジュエリスト」という資格を認定していることは,日本全国で周知である。

したがって,被控訴人には,本件商標につき,先使用権が認められる。

〔控訴人の主張〕

被控訴人は,平成23年9月6日から平成27年1月8日までの間,18名にしか「耳ツボジュエリスト」の資格を認定しておらず,被控訴人標章は,周知商標(商標法4条1項10号)に該当しないから,被控訴人に先使用権は認められない。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  被控訴人は,平成23年9月6日頃以降,「日本ビューティーボディメイク協会」又はサロン「LUCO」という屋号で,インターネット上にホームページを開設している(甲3,4,25,27,28,乙1,乙5の1~19)。

前記の「日本ビューティーボディメイク協会」のホームページの上部には,「Japan Beauty Body make Association」,「日本ビューティーボディメイク協会」という記載が,その他の記載より大きな赤字で記載されており,その下に,「■Ear jewelry Therapist School■」,「(イヤージュエリーセラピストスクール)」との記載が,それよりやや小さな赤系の色の字で記載されており,その下に,「【サロン開業・サロンメニュー導入コース】」との記載が,「(イヤージュエリーセラピストスクール)」と同程度の大きさの赤字で記載されており,その下に,「※耳ツボジュエリスト認定証発行」との記載が,前記各記載と比べて小さな黒字で記載されていた。また,黒字の文章を挟んでその下に,「コース終了後,日本ビューティーボディメイク協会による「耳ツボジュエリスト認定証」が発行されます」との記載が,前記「※耳ツボジュエリスト認定証発行」と同程度の大きさの赤字で記載されていた。その下に,「【尾張美容痩身サロン開業プロコース】」との記載が,「(イヤージュエリーセラピストスクール)」と同程度の大きさの赤字で記載されており,その下に,「※耳ツボジュエリスト認定証発行」との記載が,前記「※耳ツボジュエリスト認定証発行」と同程度の大きさの黒字で記載されていた。また,黒字の文章を挟んでその下に,「コース終了後,尾張美容痩身研究所と日本ビューティーボディメイク協会による「耳ツボジュエリスト認定証」が発行されます」との記載が,前記「※耳ツボジュエリスト認定証発行」と同程度の大きさの赤字で記載されていた(甲3,4,25,27,28)。

また,前記のサロン「LUCO」のホームページの上部には,「Salon LUCO」という記載が,その他の記載より大きな黒に近い色の字で記載されており,黒字や赤字の文章を挟んで,その下に,「■Ear jewelry Therapist School■」,「(イヤージュエリーセラピストスクール)」との記載が,それより小さい紫色の字で記載されており,その下に,「【サロン導入・開業プチコース】」との記載が,「(イヤージュエリーセラピストスクール)」と同程度の大きさの赤系の色の字で記載されており,その下に,「※耳ツボジュエリスト認定証発行」との記載が,前記各記載と比べて小さな赤字で記載されていた。また,黒字の文章を挟んでその下に,「コース終了後,日本ビューティーボディメイク協会による「耳ツボジュエリスト認定証」が発行されます」との記載が,前記「※耳ツボジュエリスト認定証発行」と同程度の大きさの赤字で記載されていた。その下に,「【開業プロコース】」との記載が,「【サロン導入・開業プチコース】」より大きいか,同程度の大きさの赤字で記載されており,その下に,「※耳ツボジュエリスト認定証発行」との記載が,前記「※耳ツボジュエリスト認定証発行」と同程度の大きさの赤字で記載されていた。さらに,黒字の文章を挟んでその下に,「コース終了後,尾張美容痩身研究所と日本ビューティーボディメイク協会による「耳ツボジュエリスト認定証」が発行されます」との記載が,前記「※耳ツボジュエリスト認定証発行」と同程度の大きさの赤字で記載されていた(乙1,乙5の1及び13)。また,同ホームページには,「耳つぼジュエリースクール」との記載があり,その下に,「**LUCOnails**では,他にもたくさんのツボを勉強できるようになっております」又は「日本ビューティーボディメイク協会**LUCOnails**の耳ツボジュエリースクールでは,ダイエットやリフトアップのツボの習得はもちろん,他にもたくさんのツボを勉強できるようになっております」との記載があり,その更に下に,「技術を習得したら すぐに 日本ビューティーボディメイク協会認定耳ツボジュエリストとして活動できます(認定書も発行しております)お気軽にお問い合わせください 日本ビューティーボディメイク協会 代表 Y」との記載が,黒字で記載されたものもあった(乙5の2~6)。

(2) 被控訴人は,平成23年9月6日頃以降,サロン「LUCO」という屋号で,顧客に対し,宝石様のガラス等に貼付された医療用シートを耳のつぼに貼付する「耳ツボジュエリー」の施術を行うとともに,「日本ビューティーボディメイク協会」という屋号で,その施術方法を教授する「Ear jewelry Therapist School」ないし「耳ツボジュエリースクール」を開催し,受講者に対し,日本ビューティーボディメイク協会,又は,尾張美容痩身研究所及び日本ビューティーボディメイク協会認定の「耳ツボジュエリーセラピスト」であることを認定する旨の認定書を交付していた(甲3,4,25,27,28,乙1,乙5の1~19,乙9の1~3,乙10の1~18,乙11の1~12)。

被控訴人が,これらにつき使用していた認定資格受講案内書,受講申込書,認定書には,「耳ツボジュエリーセラピスト」,「耳ツボセラピスト」又は「Ear JewelryTherapist」の記載はあるが,「耳つぼジュエリスト」又は「耳ツボジュエリスト」の記載はなかった(乙9の1~3,乙10の1~18,乙11の1~12)。

(3)  被控訴人は,前記のサロン「LUCO」のホームページに,平成24年3月頃,「どんなことにも対処できる クオリティーの高い耳ツボジュエリストになれますよう,私も頑張らせていただきます!!!」,「どんなことにも対処できる クオリティーの高い耳ツボジュエリストを目指して,私も日々勉強しております。」との記載を掲載した。前者は,すべて黒字で同じ字体,大きさであり,後者は,「クオリティーの高い耳ツボジュエリスト」の部分のみが他の部分より大きいものの,すべて黒字で同じ字体であった(乙5の7及び9)。

また,被控訴人は,同ホームページに,「Ear jewelry Therapist」や,「耳ツボジュエリーセラピスト」という記載をしていたことがあった(乙1,乙5の1,5,8,10~19)。

(4)  遅くとも,平成24年10月3日の時点で,被控訴人の他にも,ラインストーンを耳のつぼに貼付する「耳ツボジュエリー」の施術を教授する講座を開催したり,施術を行っている個人又は法人があり,遅くとも平成27年2月15日の時点で,インターネット上,被控訴人以外の者による「耳つぼジュエリスト」という標章の記載が,相当数存在した(甲6,乙5の19)。

2  判断

(1) 前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,平成23年9月6日頃以降,「日本ビューティーボディメイク協会」として,インターネット上にホームページを開設し,同ホームページ上に,被控訴人標章を掲載し,「Ear jewelry Therapist School」ないし「耳ツボジュエリースクール」の広告をしていたことが認められる。

(2)  被控訴人標章は,「ミミツボジュエリスト」という称呼において,本件商標と一致する。

また,被控訴人標章は,「耳」及び「ツボ」のほか,「ジュエリー」(jewelry)という宝石・貴金属類,装身具を意味する名詞(広辞苑第6版,ランダムハウス英和大辞典第2版)の「y」又は「ry」の部分に替えて,「ist」という,名詞について「…を行う人」との名詞を形成する接尾語(ランダムハウス英和大辞典第2版)を付したもの,又は,「ジュエル」(jewel)という宝石,装身具を意味する名詞(広辞苑第6版,ランダムハウス英和大辞典第2版),又は,宝石をはめ込む,(宝石,装身具で)飾るという意味の動詞(ランダムハウス英和大辞典第2版)に,前記「ist」を付したものと解されることから,「耳」及び「つぼ」のほか,「ジュエリスト」という単語を続けて表記したものといえる本件商標と,「耳」の「つぼ」ないし「ツボ」を,「ジュエリー」で飾る施術を行う者という観念を生じるという点で,一致する。

そして,本件商標と被控訴人標章の外観を対比すると,本件商標は,「つぼ」がひらがなであるのに対し,被控訴人標章は,「ツボ」がカタカナであること,本件商標は,「ュ」の下の横線の右端と「エ」の下の横線の左端が,連続しているように見えるほど,字間が狭いのに対し,被控訴人標章は,「ュ」の下の横線の右端と「エ」の下の横線の左端が離れており,全体としての字間が,本件商標より広いこと,両標章の字体が異なることという若干の相違があるものの,ほぼ類似するものと認められる。

以上によれば,本件商標と被控訴人標章とは,類似するといえる。

(3)  しかしながら,登録商標に類似する標章の商標権者以外の者による使用が当該商標権の侵害に当たるとするためには,その標章が,商品・役務出所表示機能,自他商品・役務識別機能を発揮する態様で,すなわち,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できる態様で,使用されていることが必要であると解すべきである。なぜなら,法律上,商標の果たすべき最大の機能は,商品・役務出所表示機能,自他商品・役務識別機能であり,商標権によってまず守られるのは,登録商標のそのような機能であり,商標権侵害とされるのは,登録商標のこの機能を阻害する態様の行為に限られると考えるのが合理的であるからである。

そこで,検討するに,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,「日本ビューティーボディメイク協会」の屋号で,ラインストーンに貼付された医療用シートを耳のつぼに貼付する「耳ツボジュエリー」の施術方法を教授する「Ear jewelry Therapist School」ないし「耳ツボジュエリースクール」を開催しており,インターネット上にホームページを開設して,前記講座の広告として,「※耳ツボジュエリスト認定証発行」という被控訴人標章を含む文言を記載したこと,被控訴人標章が記載された前記ホームページには,その上部に,「日本ビューティーボディメイク協会」という被控訴人の屋号の記載があり,その下に,被控訴人が「イヤージュエリーセラピストスクール」を開催している旨の記載があり,更にその下に,被控訴人が提供している「スクール」の複数の「コース」の名称の記載があったこと,前記各「コース」の名称の記載の下には,被控訴人標章を含む「※耳ツボジュエリスト認定証発行」という記載があり,その下に,「コース終了後,日本ビューティーボディメイク協会による「耳ツボジュエリスト認定証」が発行されます」,又は,「コース終了後,尾張美容痩身研究所と日本ビューティーボディメイク協会による「耳ツボジュエリスト認定証」が発行されます」との記載があったことが認められる。

以上によれば,前記ホームページにおいて,「耳ツボジュエリスト」は,「日本ビューティーボディメイク協会」が開催する「耳ツボジュエリー」の施術方法を教授する講座を受講した場合,「日本ビューティーボディメイク協会」又は「尾張美容痩身研究所」がその受講者に与える資格の名称であり,講座の開催及び資格の付与の主体は「日本ビューティーボディメイク協会」又は「尾張美容痩身研究所」であることが明示されているといえる。

そして,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人の他にも,一定数の者が,インターネット上において,「耳つぼジュエリスト」を養成する講座を開催したり,「耳ツボジュエリー」の施術を行ったりしていたことが認められる。

これらの事情を考え併せれば,本件商標権の指定役務である知識の教授,資格の認定・資格の付与,セミナーの開催に係る事業の需要者において,インターネット上の被控訴人の前記の「※耳ツボジュエリスト認定証発行」との表示を含むホームページを見た場合,「日本ビューティーボディメイク協会」が,その行う事業の一環として,その受講者に「耳ツボジュエリスト」認定証を発行する講座を開催し,その広告を掲載しており,「耳ツボジュエリスト」とは,「耳」の「ツボ」を,「ジュエリー」で飾る施術を行う者であり,前記講座は,前記施術を行う技術を教授する講座と理解するのであって,「日本ビューティーボディメイク協会」という表示によって役務の出所を識別するのが通常であると考えられ,被控訴人標章から役務の出所を想起することはないものと認められる。

したがって,前記の被控訴人標章の掲載は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されているものと認めることはできず,「登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)には該当しないというべきである。

(4)ア  なお,前記認定のとおり,前記の「日本ビューティーボディメイク協会」のホームページには,赤字の「耳ツボジュエリスト」との各記載があるが,これは赤字である点で,被控訴人標章そのものではない。

しかしながら,前記各記載は,被控訴人標章と色が異なるだけであることから,検討するに,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,前記の赤字の「耳ツボジュエリスト」との各記載は,「コース終了後,日本ビューティーボディメイク協会による「耳ツボジュエリスト認定証」が発行されます」又は「コース終了後,尾張美容痩身研究所と日本ビューティーボディメイク協会による「耳ツボジュエリスト認定証」が発行されます」という字体及び色が同じ標準文字で記載された短文の一部であって,本件商標権の指定役務である知識の教授,資格の認定・資格の付与,セミナーの開催に係る事業の需要者において,「日本ビューティーボディメイク協会」又は「尾張美容痩身研究所」という表示によって役務の出所を識別するのが通常であると考えられ,前記の赤字の「耳ツボジュエリスト」の各記載から役務の出所を想起することはないものと認められる。

したがって,前記の被控訴人の赤字の「耳ツボジュエリスト」の各記載は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されているものと認めることはできず,「登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)には該当しない。

イ  また,前記認定のとおり,被控訴人のサロン「LUCO」のホームページには,①全て赤字の前記認定((3),(4)ア)と同内容の各記載,②黒字の「技術を習得したら すぐに 日本ビューティーボディメイク協会認定耳ツボジュエリストとして活動できます(認定書も発行しております)お気軽にお問い合わせください

日本ビューティーボディメイク協会 代表 Y」との記載,③黒字の「どんなことにも対処できる クオリティーの高い耳ツボジュエリストになれますよう,私も頑張らせていただきます!!!」,「どんなことにも対処できる クオリティーの高い耳ツボジュエリストを目指して,私も日々勉強しております。」との各記載があるところ,控訴人は,その訴状及び準備書面において,被控訴人のサロン「LUCO」という屋号を挙げておらず,前記のサロン「LUCO」名義のホームページについての証拠も提出していないから,前記のサロン「LUCO」名義のホームページにおける記載を,本件商標権の侵害行為として主張しているとは解されない。

しかしながら,控訴人による侵害行為の主張は,必ずしも,屋号によって限定されていないとも解されるので,念のため検討するに,前記①については,前記(3)及び(4)アのとおりであって,前記①の各記載は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されているものと認めることはできず,「登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)には該当しない。

また,前記②については,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,前記②の被控訴人標章の記載は,字体及び色が同じ標準文字で記載された短文の一部であると認められるのであって,本件商標権の指定役務である知識の教授,資格の認定・資格の付与,セミナーの開催に係る事業の需要者において,インターネット上の被控訴人の前記の短文を含むホームページを見た場合,「日本ビューティーボディメイク協会」が,その行う事業の一環として,「日本ビューティーボディメイク協会認定耳ツボジュエリスト」の認定証を発行して資格の付与を行っており,その広告を「LUCO」のホームページに掲載しており,「耳ツボジュエリスト」とは,「耳」の「ツボ」を,「ジュエリー」で飾る施術を行う者であり,前記資格は,前記施術を行う技術を習得した者が得られる資格であると理解するのであって,「日本ビューティーボディメイク協会」という表示によって役務の出所を識別するのが通常であると考えられ,被控訴人標章から役務の出所を想起することはないものと認められる。

したがって,前記の被控訴人標章の記載は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されているものと認めることはできず,「登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)には該当しない。

さらに,前記③については,前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば,前記③の被控訴人標章の各記載は,一部は大きさが異なるものの,字体及び色が同じ標準文字で記載された各短文の一部であると認められるのであって,本件商標権の指定役務である知識の教授,資格の認定・資格の付与,セミナーの開催等に係る事業の需要者において,インターネット上の被控訴人の前記の各短文を含むホームページを見た場合,被控訴人が「耳」の「ツボ」を,「ジュエリー」で飾る施術を行いつつ,「耳ツボジュエリスト」としての技能の向上を目指していると理解するのであって,サロン「LUCO」という表示によって役務の出所を識別するのが通常であると考えられ,被控訴人標章から役務の出所を想起することはないものと認められる。

したがって,前記の被控訴人標章の記載は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されているものと認めることはできず,「登録商標に類似する商標の使用」(商標法37条1号)には該当しない。

(5)  この点,控訴人は,①他人の登録商標の側に侵害者の名称が付されていることを理由に,自他商品・役務の識別標識としての機能を果たす態様で用いられているとはいえないとはいえない,②「耳つぼジュエリスト」は,登録商標であり,「耳」という一般名詞,「つぼ」という一般名詞及び「ジュエリスト」という造語の組合せであるからといって,被控訴人が,自身の開講する講座の内容を説明・表現するため,記述的に被控訴人標章を用いたとはいえないと主張する。

しかしながら,前記認定の被控訴人の各ホームページの記載内容全体をみれば,「耳ツボジュエリスト」という資格が付与される講座の開催主体及び前記の資格の付与の主体,すなわち,役務の提供主体は,「日本ビューティーボディメイク協会」又は「尾張美容痩身研究所」であると認識するのが通常であり,「耳ツボジュエリー」の施術という役務の提供主体は,サロン「LUCO」であると認識するのが通常であると考えられる。

また,「耳ツボジュエリスト」は,「耳」,「ツボ」という一般名詞に「ジュエリスト」という言葉を組み合わせたものであり,「ジュエリスト」の部分は造語であるといえるが,前記(4)の説示は,「耳ツボジュエリスト」がこれらの一般名詞等を組み合わせたことを理由に被控訴人標章が記述的に用いられたと判断するものではないから,控訴人の主張は,その前提において失当である。しかも,前記認定のとおり,被控訴人の他にも,一定数の者が,インターネット上において,「耳つぼジュエリスト」を養成する講座を開催している旨の広告をしていたことを考え併せれば,被控訴人のホームページ上の「耳ツボジュエリスト」との記載を見た需要者は「耳ツボジュエリスト」とは,「耳」の「ツボ」を,「ジュエリー」で飾る施術を行う者と理解するものと解される。

以上のとおりであって,需要者が,「耳ツボジュエリスト」につき,特定の主体が提供する役務を示す名称であると理解するとは考えられず,被控訴人標章から役務の出所を想起することはないものと認められるから,控訴人の前記主張は,いずれも採用できない。

(6)  そして,前記の被控訴人の各ホームページにおける掲載の他に,被控訴人が,被控訴人標章を使用したことを認めるに足りる証拠はない。

第4結論

以上によれば,控訴人の本件各請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がなく,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 森岡礼子)

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