知財高等裁判所 平成28年(ネ)10039号 判決 2016年9月29日
控訴人兼被控訴人
株式会社サカエ
(以下「一審被告」という。)
訴訟代理人弁護士
今川忠
同
白木裕一
同
山田和哉
補佐人弁理士
酒井正美
同
稲岡耕作
同
安田昌秀
被控訴人兼控訴人
コージ産業株式会社
(以下「一審原告」という。)
訴訟代理人弁護士
鎌田邦彦
同
福本洋一
同
上田悠人
補佐人弁理士
西博幸
主文
1 一審原告の控訴に基づき,原判決中,損害賠償請求に関する部分を次のとおり変更する。
(1) 一審被告は,一審原告に対し,2億8151万5906円及びうち3220万円に対する平成25年7月18日から,うち2億4931万5906円に対する平成27年2月28日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 一審原告のその余の請求を棄却する。
2 一審被告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,これを5分し,その2を一審原告の負担とし,その余を一審被告の負担とする。
4 この判決の第1項(1)は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判(控訴の趣旨)
1 一審原告
(1) 原判決中,損害賠償請求に関する部分(第2項及び第3項)を次のとおり変更する。
(2) 一審被告は,一審原告に対し,4億6885万1002円及びうち3220万円に対する平成25年7月18日から,うち4億3665万1002円に対する平成27年2月28日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 一審被告
(1) 原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審被告敗訴部分につき一審原告の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「棚装置」とする二つの特許(特許第4910097号,特許第4866138号。以下,前者を「本件特許1」,後者を「本件特許2」といい,両者を併せて「本件各特許」という。)に係る特許権を有する一審原告が,一審被告による原判決別紙物件目録1ないし3記載の各製品(その生産のみに用いる棚板を含む。)の製造,販売等が本件特許1に係る特許権の,同目録1記載の製品(上記棚板を含む。)の製造,販売等が本件特許2に係る特許権の侵害に当たると主張して,一審被告に対し,特許法100条1項に基づき上記各製品の製造及び販売等の差止め,同条2項に基づき上記各製品及びその半製品の廃棄を求めるとともに,平成24年2月1日から平成27年3月26日までの特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として,損害金4億6885万1002円及びうち3220万円に対する平成25年7月18日(訴状送達の日の翌日)から,うち4億3665万1002円に対する平成27年2月28日から,各支払済みまで,民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,一審原告の請求について,上記各製品の製造及び販売等の差止め,損害賠償請求のうち2億8121万9906円及びうち3220万円に対する平成25年7月18日から,うち2億4901万9906円に対する平成27年2月28日から,各支払済みまで,年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で一部認容し,その余の請求を棄却した。
これに対し,一審原告は,一審原告敗訴部分のうち損害賠償請求に関する部分を不服として控訴し,一審被告は,原判決中一審被告の敗訴部分を取り消し,同敗訴部分について一審原告の請求を棄却することを求めて控訴した。なお,一審原告は,上記各製品及びその半製品の廃棄請求を棄却した部分については不服を申し立てておらず,したがって,上記部分については,当審における審理の対象ではない。
1 前提事実(争いのない事実等)
前提事実(争いのない事実等)については,次のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2,2(原判決3頁1行目から6頁6行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する(以下,原判決を引用する場合は,「原告」を「一審原告」,「被告」を「一審被告」,「別紙」を「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。)。
(原判決の補正)
原判決6頁6行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「オ 実公昭51-6255号公報(乙102。以下「乙102文献」といい,同文献に記載された発明を「乙102発明」という。)」
2 争点及び争点についての当事者の主張
争点及び争点についての当事者の主張は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第3,第4(原判決6頁7行目から74頁5行目まで)記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決6頁17行目の「本件発明2」を「本件特許2」と,原判決12頁5行目の「被告製品」を「一審被告製品1」と,それぞれ改める。
(2) 原判決10頁21行目末尾に次のとおり加える。
「本件明細書2の記載(段落【0005】,【0006】,【0011】)の記載によれば,本件発明2は,「溶接」の諸問題を克服するために位置決め突起と位置決め穴を設けたのであるから,位置決め突起が,支柱と別体であり,別途溶接が必要となる構成を含んでいるとの解釈はできないのである。」
(3) 原判決12頁3行目の「状態にある。」の次に,次のとおり加える。
「このように,一審被告製品1の「突き合わせ内蔵方式」は,切欠き凹部の上端面(上側縁)を突部の上端面(上側縁)に密接させ,かつ,切欠き凹部の垂下縁を突部の降下縁に密接させ,縁同士の突き当てによって相対的な位置の保持を図る構成であって,組み立て時,「突部」を「切欠き凹部」に嵌め合わせた状態では,コーナー支柱と棚板とは相対位置が上下方向に変位可能で,カタカタと上下方向に両者はガタ付く構成であるから,一審被告製品1は「きっちり嵌まる」構成でない。」
(4) 原判決12頁6行目末尾に次のとおり加える。
「また,「位置決め突起と位置決め穴との間を相対動させるような外力が作用してもそれら位置決め突起が潰れたり位置決め穴の箇所か破断したりすることがないため,高いガタツキ防止機能(締結強度)を発揮することができる」(段落【0012】)ことが,本件発明2の本質的な技術的意義であり,「きっちり嵌まる」とは,位置決め突起と位置決め穴とが全く変位しないことを意味する。」
(5) 原判決13頁3行目末尾に次のとおり加える。
「本件当初明細書には,コーナー支柱に関し,平面視L形のコーナー支柱しか記載されておらず,これ以外の「パイプ状のコーナー支柱」(一審被告製品2)や「逆U字形のコーナー支柱」(一審被告製品3)等については全く記載がないから,本件特許1の「4本のコーナー支柱」(請求項1,段落【0015】)とは,「平面視L形のコーナー支柱」でなければならない。」
(6) 原判決45頁15行目の「分願書」を「願書」と,同頁26行目の「美感」を「美観」と,それぞれ改める。
(7) 原判決50頁21行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「オ 本件訂正発明1の特許法17条の2第3項違反による無効について
本件特許1の分割出願は,本件原出願の特許請求の範囲,明細書及び図面(本件当初明細書)そのままの形でされたものであり,その出願当初明細書(乙99)は,原出願の出願当初明細書である本件当初明細書(乙1)と同じである。一審被告の補正要件違反(特許法17条の2第3項)の主張は,実質的に分割要件違反の主張と変わらないものであるから,前記と同様に,一審被告の補正要件違反の主張は理由がない。
カ 本件訂正発明1の乙102発明を主引例とする進歩性欠如の無効について
(ア) 相違点
本件訂正発明1と乙102発明とを対比すると,少なくとも,本件訂正発明1-1は,「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」(構成要件1C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(1F)のに対し,乙102発明は,「内壁(内側板4)は空間(間隙3)を保有するように外壁(側板2)と平行に延びている」点で相違する。
(イ) 相違点に係る構成の容易想到性
乙102発明の「間隙3」は,キャップ9の脚片10を圧入して係止するためのものであり,脚片の板厚程度の僅かの間隙であって,「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」(1C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(1F)との構成を採ることはできない。
また,本件特許の出願前に頒布された刊行物である実願昭55-6075号(実開昭56-108742号)のマイクロフィルム(乙103。以下「乙103文献」という。)に記載された事項によれば,短辺側においては外側板部と内側板部は密接しており「中空部」を有しておらず,四辺に「中空部」を設ける構成ではない。また,「中空部」を有する長辺側は,「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」(1C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(1F)との構成を有するものではない(第2図ないし第5図等)。
「金属板の曲げ加工見本」(乙104。以下「乙104文献」という。)は,本件特許1の出願日において公知のものではない上,単なる金属板の曲げ加工見本にすぎず,金属製の棚装置の棚板ではない。さらに,内側の側板は,傾斜部の先の部分が外側の側板に重なった状態で下向きに伸びており,本件訂正発明1の「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」(1C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(1F)との構成を備えていない。
したがって,乙102発明において,相違点に係る構成を変更することはできず,相違点に係る構成を開示又は示唆する証拠もないことから,本件訂正発明1は,乙102発明と乙103文献及び乙104文献に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
キ 本件訂正発明1の乙3発明に基づく進歩性欠如の無効について
(ア) 相違点
乙3発明は,前記2-3【原告の主張】(1)のとおりであり,本件訂正発明1に共通の構成要件1C及び1Fの構成を有しないほか,本件訂正発明1-2固有の構成要件1E及び1Jの構成を有しない。
(イ) 相違点に係る構成の容易想到性
乙3発明と乙104文献に記載された金属板の曲げ加工の形状を組み合わせるべき動機付けはない上に,乙3発明は,棚板の周壁を二重構造にする場合に外側部分と内側部分を密着させた方が剛性が高く,支柱を棚板の端部にボルトで締結する際に外側部分と内側部分を密着させて2枚重ねて共にボルトで締結した方が強く固定できるという要請に基づき密着した二重構造としたものであり,周縁部の外側部分と内側部分の間に空間を空ける構成することには,前記2-3【原告の主張】(3)のとおり強い阻害要因がある。
また,乙104文献に記載された金属板の曲げ加工の形状は,本件訂正発明1の相違点に係る「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」(構成要件1C)「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(構成要件1F)との構成を備えていない。
したがって,乙3発明において,相違点に係る構成を変更することはできず,乙104文献は,相違点に係る構成を開示又は示唆するものではないことから,本件訂正発明1は,乙103発明及び乙104文献に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
ク 時機に後れた攻撃防御方法の却下
一審被告の後記4【一審被告の主張】(6)ないし(8)の各主張は,原審において当然主張することができたものであるから,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。」
(8) 原判決50頁25行目冒頭から51頁1行目末尾までを削る。
(9) 原判決53頁15行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「(6) 本件訂正発明1の特許法17条の2第3項違反による無効
ア 本件発明1の補正の経緯
本件発明1は,出願日を平成18年4月27日とする本件原出願(特願2006-123085号)の分割出願に係るものである(出願日平成23年7月25日。乙1)。本件発明1は,その出願時においては,本件原出願の特許請求の範囲,明細書及び図面をそのまま流用して出願がなされ(乙99),その後,平成23年8月31日に手続補正書が提出され,特許請求の範囲,明細書及び図面が補正された(乙100。以下「本件補正」という。)。また,同日付で上申書が提出され(乙101),本件補正後の特許請求の範囲により特許査定がされたものである。
イ しかし,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(乙99。以下「本件分割当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内においてされたものではない(特許法17条の2第3項)。
(ア) 補正要件違反1
本件分割当初明細書(乙99)に記載した事項によれば,本件発明1の構成要件である「コーナー支柱」は,「前記コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている」(本件分割当初明細書の特許請求の範囲の【請求項1】,段落【0002】,【0008】,【0009】,【0017】の第1実施形態)と特定されていた。
そして,本件分割当初明細書(乙99)では,「コーナー支柱」は「平面視で交叉した2枚の側板を備えているコーナー支柱」「平面視L形のコーナー支柱」だけが開示されているものであって,これ以外の形状のコーナー支柱,たとえばパイプ状のコーナー支柱(一審被告製品2)や逆U字状の棒状の支柱(一審被告製品3)といったものは,本件分割当初明細書に記載した事項の範囲内にはない。
ところが,本件補正後の請求項1及び請求項2に係る各発明は,構成要件である「コーナー支柱」に関し,単に「4本のコーナー支柱」と特定しているだけであって,当該コーナー支柱は「平面視で交叉した2枚の側板を備えているコーナー支柱」であるという本件分割当初明細書に記載された事項の範囲を超えて,平面視で交叉した2枚の側板を備えているコーナー支柱以外のコーナー支柱も構成要件を充足する可能性を含んだ記載となっている。
よって,本件補正による特許請求の範囲の補正は,特許法17条の2第3項に違反するものであり,本件特許1は特許法123条1項1号に該当するから,無効とすべきものである。
(イ) 補正要件違反2
本件分割当初明細書(乙99)の記載(段落【0009】)によれば,本件発明1は,a支柱と棚板との位置関係では,「コーナー支柱の群で囲われた空間に金属板製の棚板を配置する」ことが必要であり,bコーナー支柱の構造としては,「コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている」(「平面視L形の支柱」(段落【0002】参照)であること)が必要であり,c支柱と棚板との結合手段としては,「外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結する」ことが必要とされていた。その上で,請求項1の発明は,d「コーナー支柱の側板と板の外壁とのうち,いずれか一方には位置決め突起を,他方には位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設ける」点が特徴であると明記されていた。
ところが,本件補正では,本件分割当初明細書の段落【0009】が補正され,上記aないしdの事項がすべて記載されなくなり,本件補正後の請求項1では上記aないしdの事項がすべて抹消された。このように,本件補正は,本件分割当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものでない。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に違反しているから,特許法123条1項1号の規定により無効とされるべきである。
(7) 本件訂正発明1の乙102発明を主引例とする進歩性欠如の無効
ア 乙102発明
乙102文献には,「棚枠体」に関し,次の記載がある。
(ア) 「従来倉庫等に施設される棚枠体は,断面L字状の長尺のアングルの両片に縦長の孔を長さ方向に複数個穿設して成る柱部材と,方形状の板の周縁に側板を折曲して設け,この各側面の両端部に横長の孔を穿設して成る棚板とから構成され,4本の柱部材を各棚板の4隅に当て,且縦長の孔と横長の孔を合わせると共に,外方より止めネジを貫挿し,之に内方よりナットを螺合して締付していた。」(第1欄17行~24行)
(イ) 「方形状の板1の周縁に折曲して設けた棚板Aの側板2の下縁を僅かの間隙3を保有するように内側に折り返えして内側板4を設け」(第2欄12~15行)
(ウ) 「第1図は本案棚枠体の斜視図,第2図は要部の拡大縦断面図,第3図は要部の一部裁断した平面図」(図面の簡単な説明の欄)と説明され,第1図には,4本の柱部材Bで支持された方形状の板の周縁に折曲して設けた側板を有する棚板Aが示され,第2図及び第3図には,棚板Aの周縁に折り曲げ形成した側板2と,側板2の下縁から天板1の側に向かって折り返された内側板4とが示され,側板2と内側板4との間には間隙3が形成された構造が表わされている。
イ 本件訂正発明1と乙102発明との対比及び相違点の解消
(ア) 本件訂正発明1-1について
a 一致点及び相違点
本件訂正発明1-1と乙102発明とを対比すると,両者は,「4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており(1A),前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置(1B)」で共通するとともに,さらに構成要件1C中の「棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されている」点で共通し,本件訂正発明1-1は,構成要件1C中の「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(1F)のに対し,乙102発明は,「内壁(内側板4)は空間(間隙3)を保有するように外壁(側板2)と平行に延びている」点で相違する。
b 相違点に係る構成の容易想到性
① 乙103文献には,「棚板における外壁(4)の先端に,基板(1)の側に折り返された内壁(5)が,当該内壁(5)と前記外壁(4)との間に空間が空くように連接部(9)を介して一体に形成されており,前記内壁(5)のうち前記連接部(9)と反対側は前記外壁(4)に向かって延びるように曲げられている」構成が開示されている。乙103文献に記載された「板金製棚板」の技術は,本件訂正発明1-1及び乙102発明と技術分野を同一にするものである。しかも,乙103文献に記載された事項は,棚板全体の剛性を高めることを狙いとしており,本件訂正発明1-1の「棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができる。」と同じ効果を奏するものである。よって,乙103文献に記載された上記板金製棚板の構成を乙102発明の棚板に適用することは,当業者が容易に想到し得るものである。
② 本件特許1の出願前に公然知られた乙104文献(平成16年12月25日以前に公知である(乙105)。)では,金属板の曲げ加工において,「外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」「前記内壁の自由端部は傾斜部」を含んでいる形状を実現している。さらに,乙104文献によれば,「連接部は前記基板と反対側に向いて凸の円弧状に形成されており」という形状も実現されている。
なお,乙104文献において,内壁の自由端部は,外壁に向かって傾斜した傾斜部と,その傾斜部先端から外壁内面に沿って基板側へ延びる折曲片とを含んでいるが,この折曲片の存在は,棚板の側壁の剛性を高める作用をするもので,より簡易な加工をするのなら,省略することも可能である。サルバニーニ社の機械により金属板の端縁に曲げ加工により側壁を形成する場合,最初に行われる最も端縁の曲げ加工である折曲片の曲げを省略することは,必要に応じて選択できる事項であり,これによって工程数を一つ減らして加工効率を向上できるからである。
乙102発明及び乙103文献に記載された事項に,乙104文献で実現されている側壁を適用することは,当業者にとって容易に想到し得ることである。
③ 小括
以上によれば,本件訂正発明1-1は,乙102発明に,乙103に記載された事項及び乙104文献により実現された曲げ形態を組み合わせることにより当業者が容易に想到し得たものである。
(イ) 本件訂正発明1-2について
本件訂正発明1-2の構成要件1H,1Iは,乙102発明に開示されており,本件訂正発明1-2の構成要件1Jは,乙102発明及び乙103文献の第1図に開示されている。また,乙104文献の金属板の曲げ加工見本は,上記構成要件1Eを示している。そして,乙102発明に,乙103文献及び乙104文献の曲げ加工形態を適用することは,本件訂正発明1-1と同様に,当業者にとって容易なことである。
(ウ) 以上のとおり,本件訂正発明1は,乙102発明と,乙103文献に記載された事項及び乙104文献に記載又は示された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に該当し,本件特許1は特許法123条1項の規定により無効とされるべきものである。
(8) 本件訂正発明1の乙3発明に基づく進歩性欠如の無効
ア 本件訂正発明1-1について
(ア) 一致点及び相違点
本件訂正発明1-1と乙3発明とを対比すると,両者は,「4本のコーナ支柱と,前記コーナ支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており(1A),前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置(1B)」で共通するとともに,さらに構成要件1C中の「前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,一体に形成されており」という点で共通し,本件訂正発明1-1は,内壁が「当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して」形成されており,かつ,「前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており」「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」のに対し,乙3発明は,内壁が「前記外壁の内面に沿うように延びていて,外壁が二重構造をした側壁となっている」点で相違する。
(イ) 相違点に係る構成の容易想到性
乙104文献に示される金属板の曲げ加工見本は,金属基板の周囲に折り曲げ形成により側壁を設けるにあたり,サルバニーニ社の機械を用いて加工可能な4種類の側壁の加工見本(形態)を提案したものである。よって,当業者にとって,棚板の側壁を形成するにあたり,当該金属板の曲げ加工見本で提案された4種類の側壁の一つを選択し,その側壁を棚板の側壁に適用することに,何らの創作力を要するものではない。金属板製の棚板において,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した側壁とを備えた棚板は,側壁の剛性の向上等のために,外壁の先端が基板の側に折り返されて内壁が一体に形成され,外壁内面に内壁が重ね合わされた二重構造の側壁とすることが,従来から周知の事項であった(乙106,107)。
以上のとおり,本件訂正発明1-1は,乙3発明に,乙104文献により実現された曲げ形態を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得たものである。
イ 本件訂正発明1-2について
本件訂正発明1-2の構成要件1H,1I,1Jは,乙3発明に開示されている。また,乙104文献の金属板の曲げ加工見本は,構成要件1Eを開示している。そして,乙3発明に,乙104文献の曲げ加工形態を適用することは,当業者にとって容易なことである。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,乙3発明と乙104文献の曲げ加工形態に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定に該当し,特許法123条1項の規定により無効とされるべきものである。」
(10) 原判決56頁5行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「また,乙104文献に記載された金属板の曲げ加工の形状は,相違点④の「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かっており」との構成を有していない。
したがって,乙3発明において,相違点に係る構成を変更することはできず,乙104文献等は,相違点に係る構成を開示又は示唆するものではないことから,本件再訂正発明2は,乙102発明等に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
(ウ) 本件再訂正発明2と乙17発明とは,少なくとも,乙17発明が本件再訂正発明2の「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かっており」との構成を有していない点で相違するところ,乙17発明は,上記構成を採ることができない。また,乙35文献に記載された発明(以下「乙35発明」という。)は,本件再訂正発明2の構成要件2F′に係る構成を有するものではない。
一審被告は,作業量を減らし,時間とコストをカットしつつ,ナットを隠す空間を保持するために,折立片の先端部を基板に溶接せず,内壁の先端部でとどめることは当業者であれば誰でも思いつく事項であるなどと主張する。しかし,乙17発明は,「薄板鋼板の補強と取付強度の増大」のために,折曲縁3aを内向きに延ばして天板1に溶接により接着することを必須の構成とするものであるから,折立片の先端部を基板に溶接せずに基板に至らせない構成とすることはできない。
したがって,本件再訂正発明2は,乙17発明及び乙35発明に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
(エ) 時機に後れた攻撃防御方法の却下
一審被告の後記5【一審被告の主張】5(2)イの各主張(以下,前記【一審被告の主張】4(6)ないし(8)の各主張と併せて「本件攻撃防御方法」という。)は,原審において当然主張することができたものであるから,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。」
(11) 原判決57頁18行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「本件明細書2(甲6)には「先端部」という記載はなく,「下端部」という記載しか存在しない。「先端部」という用語は,上下方向に限られない先に位置する部分を指す語であるから,「先端部」は「下端部」よりも広い部分を指すことになるので,本件訂正発明2において,「下端部」の代わりに「先端部」という語を用いると発明の範囲を広げることになる。」
(12) 原判決57頁20行目冒頭から同頁25行目末尾までを次のとおり改める。
「(ア) 乙3発明を主引例とする進歩性の欠如
a 本件再訂正発明2と乙3発明の相違点は,① 本件再訂正発明2は,「前記棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置しており,」「前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いていて」,「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かって」(2D,2E′)いるのに対し,乙3発明は,折り曲げ形成した外壁とその先端を内曲げして内壁が二重構造になっているが,中に空間は空いておらず,ボルトは,外壁と反対側の内壁の表面にねじ込まれている点,② 本件再訂正発明2は,「前記コーナー支柱の側板には位置決め突起を,前記棚板には前記外壁のみに前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている」(2F′)のに対し,乙3発明は,このような構成を備えていない点である。
b 乙17文献及び乙104文献には,相違点①に係る「前記棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置しており,」「前記外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いていて」,「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かって」(2D,2E′)という構成が開示されている。
なお,乙17文献には,中空部を棚板の四周に設けることは記載がないものの,乙3発明において,基板の周囲に折り曲げ形成した外壁部分と外壁部分の先端を内曲げして内壁部分とした二重構造の構成を,当該二重構造の構成を変更して適宜の構成を適用することは可能なことである。
そして,乙3発明における基板の四辺(周縁18)の二重構造の側壁を,乙17発明及び乙104文献から得られる「中空部」を有する二重構造の側壁に置換することは,当業者にとって何ら困難なことではない。
c 板状の部材と部材を重ねて係合する際に,互いに位置決めをする方法には種々の方法があり,位置決めのための構造として,位置決め突起と位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め孔を設け,位置決め突起と位置決め孔の係止で位置決めを行うものも,一般的に広く知られている。したがって,乙3発明に周知技術を適用することにより,上記相違点②に係る本件再訂正発明2の構成とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
d 以上のとおり,本件再訂正発明2は,乙3発明を主引例として,乙17発明及び乙104文献に記載された事項を適用することにより,相違点に係る構成に当業者が容易に想到できたものといえるから,無効とすべきものである。
(イ) 乙17発明を主引例とする進歩性の欠如
本件再訂正発明2は,乙17発明及び乙35発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。
乙17発明と乙35発明には,本件再訂正発明2の「前記内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かって」いる構成以外の構成が開示されており,両者を組み合わせることは容易である。
そして,作業量を減らし,時間とコストをカットしつつ,ナットを隠す空間を保持するために,折立片の先端部を基盤に溶接せず内壁の先端部で留めることは,当業者であれば,誰でも思いつく事項である。このことは,金属板の端縁に曲げ加工により側壁を形成する場合,その作業過程において,最初に行われる最も端縁の曲げ加工である折曲片の曲げを省略することは,工程数を1つ減らして加工効率を向上させることができることから当業者が任意に選択できる事項である。
したがって,本件再訂正発明2は,乙17発明及び乙35発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
(ウ) 本件再訂正は,無効理由を解消していないため,本件再訂正発明2も無効である。」
(13) 原判決61頁8行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「また,一審被告各製品が大量生産を行うのに適さないこと自体は加工費を控除する理由にはならないし,実際に一審被告各製品が少量ロットで製造されているともいえない。」
(14) 原判決62頁15行目末尾に次のとおり加える。
「少なくとも,一審被告各製品以外の製品も掲載された無償カタログは,一審被告が一審被告各製品の製造を行ったか否かにかかわらず,配布されたはずであるから,無償カタログのうち一審被告各製品の掲載比率が100%であるものを除いたカタログの発送費合計●●●●●●●●円については,経費として控除される金額から除外されるべきである。」
(15) 原判決62頁19行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「一審被告が主張する金型製品製作費用(乙53)のうち,一部の合計●●●円分については,一審被告製品の金型ではないから,これを経費として控除することはできない。」
(16) 原判決62頁24行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「また,一審被告の主張する試作のための材料費●●●●●●円という金額は異常なほどに高く不合理である。仮に,一審被告が試作品を製作したとしても,その材料費はせいぜい数十万円程度にすぎない。」
(17) 原判決68頁6行目の「明らかである。」の次に,次のとおり加える。
「上記設計変更において,棚板を作成する際の鋼板の切り出しの形や曲げ形状が変更となることから,設計変更後の製品の製造販売に先立つ平成25年12月に新たな図面(乙109)を作成して準備した。また,上記設計変更により,棚板を構成する鋼板は前後左右方向に拡大したものを使用する必要があるため,一審被告は,上記設計変更後,同じ型番の製品を製造するため,設計変更前と比較して,前後方向と左右方向に寸法を拡大した鋼板を発注して使用している(乙110,111)。」
(18) 原判決68頁13行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「なお,部材別原価構成表のうち購入費は外注加工費であるから(乙114),控除されるべきであり,一審被告各製品の購入費の合計は●●●●●●●●●●●円である(乙120。製品別(加工費・購入費・管理費)金額参照)。
また,上記製造原価には,一審被告各製品の加工費が含まれるところ(乙76の1。「部材別原価構成表」参照),この加工費は,変動経費ないし直接固定費として販売金額から控除すべき費用である。
一審被告各製品は,多くの機種についてそれぞれ少量のロットで生産されているのであり,その製造は,自動化されたラインによる大量生産を行うのには適さない。棚板及び支柱の製造は,いずれの工程も一つ一つ従業員が直接手作業で行っている(乙112)。作業員がその作業を行っている間は,その作業員は他の製品を製造する作業を一切行うことができないのであるから,このような作業員による加工費は,直接的追加的に発生する変動経費ないし直接固定費であることは明らかである(営業従業員の賃金や販売管理費用とは異なる。)。また,一審被告の主張する加工費の算出方法が,従業員の工数等に照らし合理的なものである(乙115)から,加工費は当然に控除されるべきものである。
なお,加工費は,製品の製造原価のうち極めて大きな割合を占める原価であるから,限界利益ないし貢献利益を算定するに当たって控除を認めないと,特許発明の実施者が得られたであろう実際の利益を大きく上回る損害を賠償させることとなる。このような結論は,損害の公平な分担と評価することはできず,一種の懲罰的賠償を認めるに等しい。」
(19) 原判決68頁23行目末尾に次のとおり加える。
「一審原告が主張する金型の一部(合計●●●円相当)は一審被告各製品の金型ではないから,金型製品製作費用から除外することについては争わない。」
(20) 原判決69頁7行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「また,一審被告各製品は,個々に発送作業を行っており,一度に発送される製品数自体が少ない(乙117)。一審被告が一審被告各製品の同等品について,3か月間に支出した運送費用は合計で●●●●●●●●円であり,この間の販売台数は●●●●台である(一台当たりの運賃は●●●●円。)。一審被告各製品の販売台数の合計は,●●●●●●台であるからその全ての発送に必要な発送費用は,●●●●●●●●●円を下らない(●●●●●●台×●●●円)。」
(21) 原判決70頁4行目末尾に次のとおり加える。
「平成26年度において,一審被告各製品のカタログから棚板の断面図を削除したにもかかわらず,その後の一審被告各製品の売上は増大していることから(乙118),平成25年度までの一審被告のカタログの記載が,一審被告各製品の売上には何ら影響を及ぼしていないことは明らかである。」
(22) 原判決70頁12行目末尾に次のとおり加える。
「一審被告は,上記各特許を取得するなどして継続的に開発努力をしてきたし,一審被告各製品について従来品よりも安価な(5%ないし11%)価格設定をするなど営業努力もしてきた。このような開発努力や営業努力は,需要者が一審被告各製品を購入するに当たり重要な影響を与えたといえる。」
第3当裁判所の判断
当裁判所も,一審原告は,一審被告に対し,本件各特許権侵害による特許法100条1項に基づく一審被告各製品の製造及び販売等の差止め並びに特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償を請求することができると判断するが,その損害額(元本)は2億8151万5906円であると判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 一審被告製品1の本件発明2の構成要件(2D,2E,2F)の充足性(争点1)について
争点1についての当裁判所の判断は,次のとおり,付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第5の1(原判決74頁7行目から81頁17行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決78頁3行目の「生じやすく」を「生じやすく(すなわち剛性が低く)」と,同頁11行目の「ガタ付きを防止する」を「ガタ付きを防止して棚装置の剛性を高める」と改める。
(2) 原判決79頁26行目冒頭から80頁3行目までを次のとおり改める。
「イ 「位置決め突起」,「位置決め穴」及び「きっちり嵌まる」とは,コーナー支柱と棚板の相対的姿勢を保持し支柱と棚板との間のガタ付きを防止して棚装置の剛性を高めるものであれば足りると解するのが相当である。」
(3) 原判決80頁9行目ないし10行目の「このように」から同頁16行目末尾までを次のとおり改める。
「このように,一審被告製品1は,「突部」と「切欠き凹部」との嵌め合わせによる堅牢構造である「突き合わせ内蔵方式」を採用することにより,支柱と棚板とのガタ付きを防止して棚装置の剛性を高めているといえる(甲7,8)から,一審被告製品1の「前記コーナー支柱における2枚の側板の交叉する角の内面には,平面視で交差した鉤型の突部」は,「切欠き凹部」に嵌め合わせた状態で,隙間が生じるとしても,コーナー支柱と棚板の相対的姿勢を保持し支柱と棚板との間のガタ付きを防止して棚装置の剛性を高め得るものであることは明らかである。一審被告製品1の「突部」は本件発明2の「位置決め突起」に該当し,「切欠き凹部」は「位置決め穴」に該当し,両者は「きっちり嵌まる」構成であると認められる。」
(4) 原判決80頁26行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「一審被告は,本件明細書2の記載(段落【0005】,【0006】,【0011】)を根拠として,本件発明2は,「溶接」の諸問題を克服するために位置決め突起と位置決め穴を設けたのであるから,位置決め突起が,支柱と別体であり,別途溶接が必要となる構成を含んでいるとの解釈はできないと主張する。
しかし,前記(1)イの本件発明2の技術的意義のとおり,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止して棚装置の剛性を高めることが本件発明2の特徴的な課題でありかつ不可欠の技術的事項である。本件明細書2は,特許第3437988号公報記載の発明の問題点を記載しているだけであり(段落【0005】),このような記載によっても,本件発明2において,溶接により位置決め突起をコーナー支柱に設けることが必ずしも除外されているものと解することはできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
一審被告は,本件明細書2に,「・・・位置決め突起と位置決め穴とはコーナー支柱と棚板とが重なっている部分に複数個設けることが可能であるため,ストッパー機能を格段に高くすることが可能になるのであり・・・」(段落【0012】)との記載があることから,位置決め突起と位置決め穴とは,コーナー支柱と棚板が重なっている部分に複数個設けられることができる構成であることが不可欠であるといえる旨主張する。
しかし,一審被告の指摘する本件明細書2の段落【0012】の上記記載等は,単なる実施例の記載にすぎないし,同段落にも「・・・複数個設けることが可能」と記載されていることからすると,上記記載は「位置決め突起」と「位置決め穴」が一つの場合を排除するものではないといえる。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。」
(5) 原判決81頁8行目冒頭から同頁13行目末尾までを次のとおり改める。
「さらに,一審被告は,「きっちり嵌まる」とは,コーナー支柱と棚板との相対的な姿勢が保持される態様で,位置決め突起が隙間なく位置決め穴に嵌まることを意味するところ,一審被告製品1の「突き合わせ内蔵方式」は,切欠き凹部の上端面(上側縁)を突部の上端面(上側縁)に密接させ,かつ,切欠き凹部の垂下縁を突部の降下縁に密接させ,縁同士の突き当てによって相対的な位置の保持を図る構成であって,組み立て時,「突部」を「切欠き凹部」に嵌め合わせた状態では,コーナー支柱と棚板とは相対位置が上下方向に変位可能で,カタカタと上下方向に両者はガタ付く構成であるから,一審被告製品1は「きっちり嵌まる」構成でない旨主張する。
しかし,前記(1)イの本件発明2の技術的意義②によれば,「位置決め突起」が「位置決め穴」に「きっちり嵌まる」とは,支柱と棚板との間のガタ付きを防止して棚装置の剛性を高めるのに役立つものであればよく,位置決め突起と位置決め穴との間に完全に隙間がないことが要件となるものではない。
また,本件明細書2に「コーナー支柱と棚板との間にガタ付きが生じやすい(すなわち剛性が低い)問題があった。特に,キャスターを有するワゴンタイプの棚装置は,移動させるのに際してコーナー支柱と棚板との締結箇所に慣性力が作用するため,ガタ付きの問題が顕著に現われている。」(【0004】),「小片の下端に水平方向の荷重(コーナー支柱を倒すような荷重)がかかると小片が変形しやすくなり,このため,強度アップに限度があるという問題があった。」(【0006】)と記載されているように,支柱と棚板との間のガタ付きが問題となるのは,主に棚板の水平方向(コーナー支柱の倒れ方向)における場合であると認められるから,本件発明2は,この水平方向のガタ付きを防止して棚装置の剛性を高めることを課題とするものと解される。そして,この点,一審被告製品1も,切欠き凹部の上端面(上側縁)と突部の上端面(上側縁)の密接及び切欠き凹部の垂下縁と突部の降下縁の密接による二面ないし三面拘束により水平方向のガタ付きを防止しているといえるから,切欠き凹部の下側縁と突部の下側縁の間に生じる上下方向の僅かな隙間は特に問題となるものではないといえる(本件明細書2の「コーナー支柱と棚板とは位置決め突起と位置決め穴との嵌め合わせによって相対的な姿勢が保持されているため,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを防止できる。」(【0011】)との記載における「相対的な姿勢が保持され」とは,水平方向における相対的な姿勢の保持という意味に解される。)。
したがって,一審被告製品1は「きっちり嵌まる」構成であると認められるから,一審被告の上記主張は採用することができない。
さらに,一審被告は,本件明細書2の「位置決め突起と位置決め穴との間を相対動させるような外力が作用してもそれら位置決め突起が潰れたり位置決め穴の箇所か破断したりすることはないため,高いガタ付き防止機能(締結強度)を発揮することができる。」(【0012】)ことが本件発明2の本質的な技術的意義であり,そうすると,「きっちり嵌まる」とは,位置決め突起と位置決め穴とが全く変位しないことを意味する旨主張する。
しかし,位置決め突起と位置決め穴との間に上下方向の隙間が生じるとしても,支柱と棚板をボルトで締結して組み立てられた棚装置において,通常の使用態様によっては上方向に荷重がかかるようなことはないため,棚板の上下方向におけるガタ付きの問題は考えにくい(なお,一審被告製品1においても,「突き合わせ内蔵方式」によれば,切欠き凹部の上側縁が突部の上側縁に密接しかつ切欠き凹部の垂下縁が突部の降下縁に密接することで棚板が突部に着座した状態でコーナー支柱に固定されるため,棚板が支柱に対して上下方向に変位する状況が生じることは想定し得ない。)。そうすると,一審被告が指摘する本件明細書2の上記記載も,棚板の水平方向(コーナー支柱の倒れ方向)におけるガタ付きについてのものと認められるから,上記記載を根拠として,「きっちり嵌まる」が位置決め突起と位置決め穴とが全く変位しないことを意味すると解することはできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。」
2 本件発明1についての訂正の対抗主張の成否(争点4)について
争点4についての当裁判所の判断は,次のとおり,付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第5の2(原判決81頁20行目から101頁25行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決82頁5行目の「自由端子」を「自由端部」と,同頁22行目の「次の(ア)ないし(エ)のとおり」を「次のとおり」と,それぞれ改める。
(2) 原判決83頁9行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「(オ) 本件訂正発明1の特許法17条の2第3項違反による無効
(カ) 本件訂正発明1について乙102発明を主引例として,乙103文献及び乙104文献に記載された事項を,それぞれ適用することによる進歩性欠如
(キ) 本件訂正発明1について乙3発明を主引例として,乙104文献に記載された事項を適用することによる進歩性欠如」
(3) 原判決91頁4行目冒頭から11行目末尾までを次のとおり改める。
「そうすると,本件訂正発明1が,本件原出願の請求項に係る発明(構成2)において記載されていないからといって,本件当初明細書に記載されていないということはできない。
また,一審被告は,本件当初明細書には,コーナー支柱に関し,平面視L形のコーナー支柱しか記載されておらず,これ以外の「パイプ状のコーナー支柱」(一審被告製品2)や「逆U字形のコーナー支柱」(一審被告製品3)等については全く記載がないから,本件特許1の「4本のコーナー支柱」(請求項1,段落【0015】)とは,「平面視L形のコーナー支柱」でなければならないにもかかわらず,本件分割出願によって,「平面視L形の」という形態限定が除かれ,本件当初明細書に記載されていない技術的事項にまで拡張されている旨主張する。
しかし,前記のとおり,本件当初明細書には,「前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が一体に形成され」(請求項2)との構成により,「内壁も補強機能を果たして棚板の剛性が高くなるため棚装置全体としてより頑丈な構造にすることができ」(【0013】)るという作用効果を奏することが記載されていることから,「より改善された形態の棚装置を提供する」(【0007】)という課題の具体的なものとして,本件当初明細書には,上記作用効果に対応した,棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造を提供するとの課題が記載されているものと認められる。そして,このような課題に照らすと,その解決手段は,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを改善するための解決手段としての構成2と技術的に一体不可分な関係にあるものとは認められない。なお,このことは,「前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が一体に形成され」(請求項2)との構成の実施形態が,コーナー支柱と棚板との間のガタ付きを改善することについてのものとは別に,本件当初明細書において複数記載されている(【0027】ないし【0032】及び図5)ことからも裏付けられる。
したがって,本件当初明細書の記載を総合すれば,本件当初明細書には,棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造を提供するとの課題の解決手段として,構成2に限定されない構成1の発明,すなわち本件訂正発明1が記載されているものと認められる。
また,本件当初明細書には,コーナー支柱の形状やコーナー支柱と棚板との締結態様について特に限定のない発明が前提として記載されているものと解されることに加え,パイプ状のコーナー支柱や逆U字形のコーナー支柱は,本件特許1の原出願日において周知であったといえるから(甲18,23,25ないし27),パイプ状のコーナー支柱や逆U字形のコーナー支柱が本件当初明細書に明示的に記載されていなくとも,本件当初明細書の記載から自明であると認められる。そうすると,本件訂正発明1において,コーナー支柱の限定がなくなったことが,新たな技術的事項を導入するものということもできない。
以上によれば,本件当初明細書には,本件訂正発明1が記載されていると認められるから,被告の主張は採用することができない。」
(4) 原判決96頁21行目末尾に,行を改めて,次のとおり加え,同頁22行目の「(エ)」を「(オ)」と,98頁7行目の「後記(オ)」を「後記(カ)」と,同頁10行目の「(オ)」を「(カ)」と,それぞれ改める。
「(エ) 乙102発明
a 乙102文献の記載
乙102文献には,「棚枠体」の考案として,次の記載がある(図面については,別紙乙102文献図面目録参照)。
「方形状の板1の周縁に折曲して設けた棚板Aの側板2の下縁を僅かの間隙3を保有するように内側に折り返えして内側板4を設け,この内側板4に側板2に設けた横長の孔5と一致する孔6及びその左右位置に縦方向の溝孔7,7を形成し,この溝孔7,7より四角状のナット8を横長の孔5,6の範囲で横動可能に収納した筐状のキャップ9の両側縁から延長され,それが外方に稍々彎曲する脚片10,10を圧入して間隙3内に於いて係止せしめ,このように構成された棚板Aの横長の孔6と柱部材Bに設けてある縦長の孔11を交叉させ,外方より止めネジ12を差し込む。この場合ナット8は横方向に移動し得るから,ナット8のネジ孔と縦長の孔11との中心合せが容易に出来,而して之を回転させることにより,柱部材Bと棚板Aとの締付固定が達成出来,第1図に示すように棚枠体を構成することが出来る。」(2欄12行から29行)
b 乙102発明
乙102文献の上記記載等によれば,「4本の柱部材Bと,柱部材Bに締付固定された棚板Aとを備えており,棚板Aは,方形状の板1の周縁に折曲して設けた棚板Aの側板2の下縁を僅かの間隙3を保有するように内側に折り返して内側板4を設けている棚枠体」(乙102発明)が開示されていると認められる。」
(5) 原判決98頁9行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「d 本件訂正発明1-1と乙102発明との対比
本件訂正発明1-1は,棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,「当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられており,前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」(1C,1F)のに対し,乙102発明は,棚板Aの側板2の下縁を僅かの間隙3を保有するように内側に折り返して内側板4を設けた,側板2と内側板4との二重構造である点で相違し(相違点⑤),その余の点で一致する。」
(6) 原判決100頁20行目の「前記(エ)c」及び「前記(エ)a」を「前記(オ)c」及び「前記(オ)a」と,同頁21行目の「後記3(3)ウ(イ)bないしe」を「後記3(2)ウ(イ)bないしe」と,101頁6行目から7行目の「前記(エ)c」を「前記(オ)c」と,それぞれ改める。
(7) 原判決101頁12行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「e 乙102発明を主引例とする進歩性欠如について
一審被告は,乙102発明を主引例として,① 乙103文献に記載された事項,② 乙104文献に記載された曲げ形態をそれぞれ適用することにより,本件訂正発明1と乙102発明との相違点に係る構成に当業者が容易に想到できた旨主張する。
乙103文献には,板金製棚板に関し,「矩形な天板1の長辺両縁部に側板2,2及び短辺両縁部に側板3,3を設けている。前記側板2は第2図に示すように,天板1に一体に連接する外側板部4と,この外側板部4の下縁全長に一体に連接し,かつ前記天板1の下面側に折返されて前記外側板部4との間に中空部を形成する内側板部5から構成される。そして前記内側板部5の先端部を前記外側板部4の略上半部内面及び前記天板1の内面に沿って密接する断面L字形に形成し,前記天板1との密接部をスポット溶接6で接合している。」(3頁5行ないし同頁15行)との記載があり,第2図などには,中空部を有する側板が記載されている(図面については,別紙乙103文献図面目録参照)。
しかし,乙103文献には,内壁に相当する内側板部5が開示されていることが認められるものの,内壁の連接部と反対側の端部が「自由端部」であり,「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっているとの構成が開示ないし示唆されているとは認められない。
また,乙104文献は,乙31の1文献と実質的に同一であるところ,前記bのとおり,乙104文献には,内壁の連接部と反対側の端部が「外壁に向かって延びるように」曲げられており,「傾斜部」になっている構成が開示されていることが認められるものの,「傾斜部」の先端から外壁に沿って延びる部分が存在し,当該部分が外壁と重なることで,内壁の連接部と反対側の端部は「自由端部」になっていないことが認められる。また,仮に,「傾斜部」の先端から外壁に沿って延びる部分が外壁と重なっていないために内壁の連接部と反対側の端部は「自由端部」であると認め得るとしても,その「自由端部」は「傾斜部」とはいえないことが認められる。
そうすると,乙102発明はもちろん,乙103文献及び乙104文献には,本件訂正発明1の前記相違点⑤に係る構成は示されていないから,当業者が同構成に容易に想到できたとはいえない。
これに対し,一審被告は,乙103文献については,内壁の自由端部を外壁に向かって傾斜部になるように延ばし,さらにその先端を外壁内面に沿って天板方向へ延ばせば,外壁4における二重構造部分が増え,棚板の剛性が向上することは技術常識として自明な事項であるとか,乙104文献については,内壁の自由端部は,外壁に向かって傾斜した傾斜部と,その傾斜部先端から外壁内面に沿って基板側へ延びる折曲片とを含んでいるが,この折曲片の存在は,棚板の側壁の剛性を高める作用をするもので,より簡易な加工をするのなら,省略することも可能であるなどと主張する。
一審被告の上記主張は,乙103文献及び乙104文献に記載された形態の「傾斜部」の先端から外壁に沿って伸びる部分(乙103文献においては,さらに当該部分から屈曲して天板に沿って伸びる部分)を設けないようにすることは自明である(創作力を要しない。)というものであると解される。
しかし,一審被告が提出する証拠からそのような事実は認められず,また,あえて上記部分を設けないようにすることの理由や技術的意義も明らかではないといわざるを得ない。
したがって,乙102発明における棚板の壁部の構成を乙103文献及び乙104文献(乙31の1)の壁部の構成に変更するに際し,「傾斜部」の先端から外壁に沿って伸びる部分等を設けないようにすることは,当業者にとって容易に想到し得たものということはできないから,一審被告の上記主張は採用することができない。
f 乙3発明を主引例とする進歩性欠如について(乙104文献の適用)
一審被告は,乙3発明の金属製棚板の側壁の二重構造が周知の事項であること(乙106,107)を前提に,乙3発明を主引例として,乙104文献に記載された曲げ形態を適用することにより,本件訂正発明1と乙3発明との相違点に係る構成に当業者が容易に想到できた旨主張する。
しかし,上記eのとおり,乙104文献は,乙31の1文献と実質的に同一であるところ,一審被告の上記主張は,前記cにおける,乙3発明を主引例として,③プレス機の形状選択(乙31の1)を適用することにより,相違点に係る本件訂正発明1の構成に当業者が容易に想到できた旨の主張と実質的に同一である。
そうすると,前記cのとおり,乙3発明の棚板の壁部の構成についての相違点③に係る構成が,当業者にとって容易に想到できたとはいえないのであるから,一審被告の上記主張は採用することができない。」
(8) 原判決101頁13行目冒頭の「(カ)」を「(キ)」と改め,同頁18行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「カ 本件訂正発明1の特許法17条の2第3項違反の無効について
本件補正前の本件特許1の請求項1及び請求項2の記載は次の(ア)のとおりであり,本件補正により,次の(イ)のとおり補正された(乙99,100)。
(ア) 「【請求項1】
複数本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱の群で囲われた空間に配置された金属板製の棚板とを備えており,前記コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている一方,前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えており,外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結している棚装置であって,前記コーナー支柱の側板と棚板の外壁とのうちいずれか一方には位置決め突起を,他方には前記位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設けている,棚装置。
【請求項2】
前記ボルトは頭がコーナー支柱の外側に位置するように配置されており,棚板における外壁の内面には前記ボルトがねじ込まれるナットを配置しており,前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が一体に形成されており,外壁と内壁との間には前記ナットを隠す空間が空いており,更に,前記コーナー支柱の側板に位置決め突起が突き出し形成され,棚板の外壁に位置決め穴が空けられている,請求項1に記載した棚装置。」
(イ) 「【請求項1】
4本のコーナー支柱と,前記コーナー支柱で支持された平面視四角形で金属板製の棚板とを備えており,前記棚板は,水平状に広がる基板とこの基板の周囲に折り曲げ形成した外壁とを備えている棚装置であって,
前記棚板における外壁の先端に,基板の側に折り返された内壁が,当該内壁と前記外壁との間に空間が空くように連接部を介して一体に形成されており,前記内壁のうち前記連接部と反対側の自由端部は前記外壁に向かって延びるように曲げられている,
棚装置。
【請求項2】
前記棚装置の連接部は前記基板と反対側に向いて凸の円弧状に形成されており,前記棚装置における内壁の自由端部は傾斜部になっている,
請求項1に記載した棚装置。」
一審被告は,本件補正によって,本件特許1の請求項1の記載は,「コーナー支柱は平面視で交叉した2枚の側板を備えている」から単に「4本のコーナー支柱」と特定するだけになり,また,「コーナー支柱の群で囲われた空間に金属板製の棚板を配置する」,「外壁の端部をコーナー支柱の側板に密着させて両者をボルトで締結する」及び「コーナー支柱の側板と板の外壁とのうち,いずれか一方には位置決め突起を,他方には位置決め突起がきっちり嵌まる位置決め穴を設ける」が抹消されており,そのため,本件補正は,本件分割当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものでなく,特許法17条の2第3項の規定に違反する旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,本件当初明細書には,棚板の剛性を高くして棚装置全体としてより頑丈な構造を提供するとの課題及びその解決手段としての構成1の発明,すなわち本件訂正発明1が記載されているものと認められるところ,本件当初明細書には,本件訂正1前の「前記内壁の自由端部は傾斜部になっている」との要件が付されていない本件発明1,すなわち本件補正後の請求項1に係る発明も記載されているものと認められる。
そして,本件当初明細書(乙1)の記載と本件特許1に係る出願の本件分割当初明細書(乙99)の記載の内容は同じであることから(ただし,段落番号等は異なる。),本件特許1に係る出願の本件分割当初明細書にも,本件補正後の請求項1に係る発明(本件発明1)が記載されているものと認められる。
したがって,本件補正は,本件分割当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものと認められるから,特許法17条の2第3項の規定に違反するものではなく,一審被告の上記主張は採用することができない。」
3 本件発明2についての訂正・再訂正の対抗主張の成否(争点5)について
争点5についての当裁判所の判断は,次のとおり,付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第5の3(原判決101頁26行目から112頁5行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決102頁20行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「また,一審被告は,本件明細書2(甲6)には「先端部」という記載はなく,「下端部」という記載しか存在しない。「先端部」という用語は,上下方向に限られない先に位置する部分を指す語であるから,「先端部」は「下端部」よりも広い部分を指すことになるので,本件訂正発明2において,「下端部」の代わりに「先端部」という語を用いると発明の範囲を広げることになる旨主張する。
しかし,本件明細書2の「棚板2は,水平状に広がる平面視四角形の基板4と,基板4の各辺から上向きに立ち上がっている外壁5と,外壁5の上端に連接した内壁6とから成っており,」(段落【0016】),「図3(B)に示すように,・・・内壁6のうち外壁5に繋がる連接部11は本実施形態では略平坦状の姿勢になっている。他方,内壁6の下端部(自由端部)6aは,外壁5に向けて傾斜した傾斜部になっている。」(段落【0021】)との記載によれば,図3(B)の実施形態において,内壁6の上端部は,外壁5との連接部11であり,外壁5に繋がる固定端部であるのに対し,内壁6の下端部6aは,自由端部であり,下端部6aよりも先には内壁6の部分が存在しないことから,内壁6の先端部であると認められる。そして,このような内壁6の構造は,本件当初明細書の図5(A),(B)などにも記載されているものである。
また,本件明細書2には,「なお,本願発明の棚板は基板の周囲に外壁を備えているが,棚板は基板から上向きに立ち上がっていても良いし,下向きに垂下していても良い。」(段落【0010】)と記載されているところ,後者の外壁が下向きに垂下する構成を採用する場合,内壁の先端部は下端部ではなく,上端部となることは自明である。そうすると,本件当初明細書に明示的に記載があるのは「下端部」との語のみであるとしても,内壁の先端部について,「下端部」のみならず「上端部」も本件当初明細書に記載されているに等しいものと認められるから,本件明細書2に記載されていると認められる事項が「下端部」に限定されるものでないことは明らかである。
したがって,訂正事項1の「先端部」との表現を用いた訂正は,本件明細書2に記載した事項の範囲内のものであるから,一審被告の上記主張は採用することができない。」
(2) 原判決103頁2行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「(ウ) 乙17発明を主引例として,乙35発明を適用することによる進歩性欠如の無効理由
(エ) 乙3発明を主引例として,乙17発明及び乙104文献に記載された事項を適用することによる進歩性欠如の無効理由」
(3) 原判決107頁20行目末尾に「(前記(2)ア(イ)及び(エ))」を加える。
(4) 原判決110頁20行目冒頭から111頁1行目末尾までを削る。
(5) 原判決111頁2行目冒頭の「また」を「しかし」と改める。
(6) 原判決111頁14行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「また,前記のとおり,乙104文献に記載された形態は,内壁の連接部と反対側の端部が「外壁に向かって延びるように」曲げられている構成が開示されていることが認められるものの,本件再訂正発明2の上記構成を開示ないし示唆するものではない。乙3発明に104文献に記載された事項を適用することにより,本件再訂正発明2の「内壁の先端部は基板に至ることなく外壁に向かって」いるとの構成に至ることが容易であるとはいえない。」
(7) 原判決111頁15行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「エ 乙17発明を主引例とする進歩性欠如の無効理由について
(ア) 本件再訂正発明2と乙17発明の対比
乙17発明は,前記2(3)エ(ア)のとおりであり,「内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かって」いるとの構成の開示はない。したがって,本件再訂正発明2と乙17発明とは,少なくとも,本件再訂正発明2は「内壁の先端部は前記基板に至ることなく前記外壁に向かって」いるのに対し,乙17発明はそのような構成を具備していない点で相違する。
(イ) 相違点に係る構成の容易想到性
乙35発明も乙104文献に記載された形態も,本件再訂正発明2の上記相違点に係る構成を開示ないし示唆するものではないから,乙17発明に乙35発明等を適用することにより,上記相違点に係る構成に至ることが容易であるとはいえない。
よって,乙17発明を主引例とする進歩性欠如の無効理由は認められない。」
(8) 原判決112頁5行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「(5) 時機に後れた攻撃防御方法であるとの主張について
一審原告は,一審被告の本件攻撃防御方法の提出が時機に後れたものである旨主張する。
しかし,一審被告の本件攻撃防御方法については,既に提出済みの証拠に基づき判断可能なものであるか,又は直ちに取調べが可能な書証に基づき判断可能なものである。さらに,当裁判所は,平成28年6月30日の当審第1回口頭弁論期日において,弁論を終結した以上,一審被告の本件攻撃防御方法の提出が「訴訟の完結を遅延させる」ものとまではいい難い(民事訴訟法157条1項)。したがって,一審被告の本件攻撃防御方法を時機に後れたものとして却下することはしない。」
4 オプション棚板についての間接侵害の成否(争点6),侵害のおそれ-差止請求の必要性(争点7),損害発生の有無及びその損害額(争点8)についての当裁判所の判断は,次のとおり,付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第5の4ないし6(原判決112頁6行目から123頁4行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決114頁20行目の「ところが」から同頁22行目末尾までを次のとおり改める。
「一審被告は,一審被告各製品のうちCSパールラックとCSパールラックワゴンについて,平成26年3月1日から設計変更をしたことの根拠として,設計変更後の製品の製造販売に先立つ平成25年12月に新たな図面(乙109)を作成して準備し,また,設計変更後,同じ型番の製品を製造するため,設計変更前と比較して,前後方向と左右方向に寸法を拡大した鋼板を発注して使用している(乙110,111)旨主張する。
しかし,一審被告が提出する設計変更のための図面(乙109)はCSパールラックの棚板についてのものであると窺われるものの,上記図面のみによっては,その他の棚板について設計変更のための図面が作成されたか否かは明らかではないといわざるを得ない。また,出荷案内書(乙110,111)についても,品名として記載された鋼板の板厚が設計変更前後において異なるものとなっていること(設計変更によって異なってくるのは前後左右方向の寸法である。)を考慮すると,直ちに,上記各製品の設計変更後の材料の出荷案内書であると認めることは困難である。そうすると,一審被告が提出する証拠によっては,平成26年3月1日から設計変更をしたことは明らかではないといわざるを得ない。
そして,一審被告の平成26年度のカタログには一審被告各製品が掲載されており,設計変更品は掲載されていないのであるから(甲32),一審被告は,平成27年2月末日まで上記の製品の製造販売を従来のまま継続したと認めるのが相当である。」
(2) 原判決116頁13行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「また,一審被告は,①一審被告製品は,多くの機種についてそれぞれ少量のロットで生産されているのであり,その製造は,自動化されたラインによる大量生産を行うのには適さないこと,②棚板及び支柱の製造は,いずれの工程も一つ一つ従業員が直接手作業で行っており(乙112),作業員がその作業を行っている間は,その作業員は他の製品を製造する作業を一切行うことができないのであるから,このような作業員による加工費は,営業従業員の賃金や販売管理費用とは異なり,直接的追加的に発生する変動経費ないし直接固定費であることは明らかであること,③一審被告の主張する加工費の算出方法が,従業員の工数等に照らし合理的なものであること(乙115),④加工費は,製品の製造原価のうち極めて大きな割合を占める原価であるから,限界利益ないし貢献利益を算定するに当たって控除を認めないと,特許発明の実施者が得られたであろう実際の利益を大きく上回る損害を賠償させることとなり,損害の公平な分担と評価することはできず,一種の懲罰的賠償を認めるに等しいことなどを指摘する。
しかし,本件において,一審被告が一審被告製品の製造販売のために従業員を雇用する必要があったことや新たに従業員を雇用したというような事情は認められないし,加工費に時間外の人件費が含まれているとも認められない。
したがって,一審被告の指摘する上記事情を考慮しても,加工費が一審被告各製品の製造に直接関連して追加的に必要になったとは認められないから,一審被告の上記主張は,加工費を控除することができないとの結論を左右するものではなく,採用することができない。
また,一審被告は,部材別原価構成表のうち購入費は外注加工費であるから(乙114),この購入費についても控除されるべきであり,一審被告各製品の購入費の合計は●●●●●●●●●●●円である(乙120)旨主張する。
しかし,一審被告各製品の製造原価として認められるのは前記aのとおりであるところ,上記購入費が外注加工費であることを認めるに足りる客観的な証拠はなく,その合理的な説明もないから,一審被告の上記主張は,採用することができない。」
(3) 原判決118頁3行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「一審原告は,少なくとも,一審被告各製品以外の製品も掲載された無償カタログは,一審被告が一審被告各製品の製造を行ったか否かにかかわらず,配布されたはずであるから,無償カタログのうち一審被告各製品の掲載比率が100%であるものを除いたカタログの発送費合計●●●●●●●●円については,経費として控除される金額から除外されるべきである旨主張する。
しかし,前記のとおり,カタログ作製費用は掲載ページ数によって増加するものであり,また,広告費用は一審被告各製品の販売に直接必要なものであると解される。
したがって,一審原告の上記主張は採用することができない。」
(4) 原判決118頁5行目冒頭から同頁10行目末尾までを次のとおり改める。
「証拠(乙53)及び弁論の全趣旨によれば,平成23年6月から平成24年5月までの間に,一審被告各製品のための金型を製作するための費用として,合計●●●●●●●●●円が支出されたことが認められ,これは,一審被告各製品を製造しなければ要しなかった費用であり,その製造に直接必要な費用であると認められるから,同額を控除するのが相当である。
一審原告は,上記金型は他の製品に流用し得るものであるから控除すべきではない旨主張する。しかし,これを認めるに足りる証拠はなく,上記金型製作費用は,一審被告各製品を製造するために直接必要な費用であると認められるから,一審原告の上記主張は採用することができない。」
(5) 原判決118頁24行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「一審原告は,一審被告の主張する試作のための材料費●●●●●●円という金額は異常なほど高く不合理であり,仮に,一審被告が試作品を製作したとしても,その材料費はせいぜい数十万円程度にすぎないなどと主張する。しかし,上記材料費等が不合理なほど高額であることを認めるに足りる客観的な証拠はないから,一審原告の上記主張は採用することができない。」
(6) 原判決119頁4行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「なお,一審被告は,一審被告が一審被告各製品の同等品について要した費用を根拠として,一審被告各製品は,個々に発送作業を行っており,一度に発送される製品数自体が少なく,運送費用は●●●●●●●●●円を下らないなどと主張する。
しかし,一審被告各製品自体について,上記主張を裏付ける客観的な証拠はなく,一審被告各製品の販売に要する運送費用が一審被告の主張する上記金額であると直ちに認めることはできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。」
(7) 原判決121頁2行目の「反面」から同頁4行目の「明らかではない。」までを次のとおり改める。
「反面,「突部」と「切り欠き凹部」とを嵌め合わせる構造である「突き合わせ内蔵方式」の実施は,製品全体の堅牢性に相応の寄与をしているとはいえるものの,上記技術独自でどの程度寄与しているかについては必ずしも明らかではない。」
(8) 原判決121頁20行目末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「一審被告は,平成26年度において,一審被告各製品のカタログから棚板の断面図を削除したにもかかわらず,その後の一審被告各製品の売上は増大していることから(乙118),平成25年度までの一審被告のカタログの記載が,一審被告各製品の売上には何ら影響を及ぼしていないことは明らかである旨主張する。
しかし,一審被告の上記主張を前提としても,上記のとおり,一審被告の顧客が製品を選ぶ際に技術的内容を考慮していないとはいえないから,一審被告の上記主張は採用することができない。
さらに,一審被告は,上記各特許を取得するなどして継続的に開発努力をしてきたし,一審被告各製品について従来品よりも安価な(5%ないし11%)価格設定をするなど営業努力もしてきたのであり,このような開発努力や営業努力は,需要者が一審被告各製品を購入するに当たり重要な影響を与えたといえる旨主張する。
しかし,前記認定のとおり,一審被告の販売価格を前提として利益(損害)を算定していることなどを考慮すると,一審被告製品について従来品よりも安価な(5%ないし11%)価格設定をしたことなどの事情を推定覆滅事由として考慮する必要性は乏しい。本件において,一審被告が主張するような開発努力や営業努力といった事情は推定覆滅事由として重視することはできない。」
(9) 原判決121頁26行目から122頁1行目の「2億5621万9906円」を「2億5651万5906円」と,同頁5行目の「●●●●●●●●●●●円」を「●●●●●●●●●●●円」と,同頁6行目の「3億2027万4883円」を「3億2064万4883円」と,同頁7行目の「2億5621万9906円」を「2億5651万5906円」と,それぞれ改める。
(10) 原判決122頁26行目冒頭から123頁1行目末尾までを次のとおり改める。
「本件事案の内容,審理の経過,認容額等に照らすと,本件と相当因果関係があると認められる弁護士費用及び弁理士費用は,2500万円と認めるのが相当である。」
(11) 原判決122頁3行目及び4行目の「2億8121万9906円」を「2億8151万5906円」と改める。
5 結論
以上によれば,一審原告の請求は,一審被告各製品の製造,販売等の差止を求める請求のほか,損害賠償として2億8151万5906円及びうち3220万円に対する平成25年7月18日から,うち2億4931万5906円に対する平成27年2月28日から,各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから,一審原告の控訴に基づき,これと異なる原判決の損害賠償請求に関する部分を変更し,上記の限度で一審原告の請求を認容し,一審被告の控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 設楽隆一 裁判官 中島基至 裁判官 岡田慎吾)
file_2.jpg別紙