大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

知財高等裁判所 平成28年(ネ)10053号 判決 2016年10月27日

控訴人

株式会社モトロニクス

訴訟代理人弁護士

朝倉正幸

被控訴人

森川産業株式会社

訴訟代理人弁護士

二宮麻里子

秀島晶博

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,別紙被告製品目録記載の各製品を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

3  被控訴人は,別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。

4  被控訴人は,控訴人に対し,4356万円及びこれに対する平成26年5月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  被控訴人は,別紙被告製品目録記載の各製品につき販売又はメンテナンスの勧誘をするに際して,別紙原告顧客情報(1)及び同(2)を使用してはならない。

6  被控訴人は,控訴人に対し,別紙原告顧客情報(1)及び同(2)を廃棄し,また,別紙原告顧客文書を返還せよ。

7  被控訴人は,「控訴人は商社にすぎないから,別紙被告製品目録記載のプリント基板の加工装置は,控訴人の開発した製品ではない。もともと被控訴人の開発製品だ。」との虚偽の事実を告知し,又は流布してはならない。

第2事案の概要

本判決の略称は,特段の断りがない限り,原判決に従う。

1  事案の要旨

(1)  本件は,名称を「ワークの加工装置」とする発明についての特許権(特許第4343391号。本件特許権)を有する控訴人が,被控訴人に対し,以下のアないしエの各請求をする事案である。

ア 被控訴人が製造,販売又は販売の申出をする別紙被告製品目録1ないし5記載のプリント基板加工装置(「被告製品1」ないし「被告製品5」。併せて「被告各製品」)は,本件特許権に係る請求項1の発明(本件発明)の技術的範囲に属するとして,特許法100条1項及び2項に基づき被告各製品の製造,使用,譲渡,貸渡し,輸出,譲渡・貸渡しの申出の差止め及び廃棄を求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として3630万円及びこれに対する不法行為の後である平成26年5月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求

イ 控訴人が被控訴人に開示した指示書・注文書等に記載された控訴人の取引先の名称,住所,担当者の担当部署,取引対象となった機械の型名・仕様等の情報(原告顧客情報)は控訴人の営業秘密に当たり,これを被控訴人が被告各製品の販売のために使用することは不正競争防止法(不競法)2条1項7号の不正競争に該当するところ,控訴人は,当該不正競争によって営業上の利益を侵害されたとして,不競法3条1項及び2項に基づき上記情報の使用の差止め及び廃棄を求めるとともに,不競法4条及び5条2項に基づく損害賠償として726万円及びこれに対する平成26年5月20日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求

ウ 被控訴人が控訴人の取引先等に対し,「控訴人は単なる商社であり,被告各製品は控訴人の開発した製品ではない」などと虚偽の事実を告知した行為は不競法2条1項14号(平成27年法律第54号による改正前のもの。以下同じ。)の不正競争に該当するところ,控訴人は,当該不正競争によって営業上の利益を侵害されたとして,不競法3条1項に基づき上記虚偽事実の告知又は流布の差止めを求めるとともに,不競法4条及び5条2項に基づく損害賠償として上記イと同額の支払を求める請求(上記イの不正競争に基づく損害賠償請求に対する予備的請求)

エ 契約上の返還義務又は所有権に基づき,指示書,注文書,注文請書,取引先担当者の名刺及び被控訴人が作成した顧客リスト等の文書(原告顧客文書)の返還を求める請求

(2)  原判決は,上記(1)アの請求については,控訴人と被控訴人との間の調停において特許権不行使の合意が成立しているとして,上記(1)イの請求については,原告顧客情報は営業秘密に該当せず,また,被控訴人が原告顧客情報を使用して営業行為を行った事実は認められないとして,上記(1)ウの請求については,被控訴人が虚偽の事実の告知又は流布行為を行った事実は認められないとして,上記(1)エの請求については,原告顧客文書について,被控訴人が返還義務を負う旨の合意があったとは認められず,また,その所有権が控訴人にあるとも認められないとして,控訴人の各請求をいずれも棄却した。

そこで,控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。

2  前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記3の「当審における当事者の補充主張等」を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の2及び3並びに第3(原判決3頁11行目冒頭から42頁8行目末尾まで)記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決3頁24行目及び4頁6行目の各「末尾」を「原判決末尾」と改める。

(2)  原判決6頁6行目の「この限りでない」を「この限りではない」と改める。

(3)  原判決14頁9行目の「本件明細書等」を「本件特許の特許請求の範囲請求項1」と改める。

(4)  原判決14頁11行目から12行目にかけての「本件明細書等は,」を削除する。

(5)  原判決14頁17行目の「特許法36条4項」のあとに「1号」を加える。

(6)  原判決22頁13行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。

「(3) 被控訴人の主張について

ア 被控訴人は,控訴人と被控訴人の間では,ファクシミリで本件指示書等のやりとりがされていたところ,被控訴人では多数の従業員が一つのファクシミリを共同で使用していたため,当該文書にかかる業務に無関係な従業員までもが自由にその内容を見ることが可能であり,控訴人もその事情を理解していたにもかかわらず,本件指示書等に「部外秘」「営業秘密」等の記載をしていなかったのであるから,原告顧客情報は秘密として管理されていなかった旨主張する。

しかし,まず,原告顧客情報は,その性質上本来的に秘密情報であり,本件指示書等は,その表題及び内容だけで秘密情報が記載されていることが分かるものであるから,「部外秘」等の記載のないことが秘密管理性を左右するものではない。

また,被控訴人におけるファクシミリの使用状況等は,被控訴人の守備範囲の事実である。原告顧客情報はそれ自体で秘密情報であることが分かるものであるから,被控訴人はこれを秘密情報として厳格に取り扱わなければならない責任を負うのであり,被控訴人がこれを行わなかったからといって,控訴人による秘密管理性が否定されるものではない。

イ 被控訴人は,控訴人と被控訴人との間で締結された秘密保持契約(甲54)について,技術的な事項を対象にしたもので,顧客情報を対象にしたものではない旨主張する。

しかし,同契約における秘密保持の対象には,「本件業務に関する甲(控訴人)の機密的または専有的情報」が挙げられ,「本件業務」として,本件設備の「製作」が挙げられている。しかるところ,本件指示書等に記載された情報は,機械の製作に関する機密的情報といえるから,原告顧客情報は,上記秘密保持契約における秘密保持の対象に含まれる。」

(7)  原判決26頁4行目の「確認した」のあとに「(甲6の2の④)」を加え,同13行目の「事業」を「次長」と改める。

(8)  原判決32頁11行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。

「(4) 被控訴人は,顧客に挨拶状やパンフレットを送付するなどの営業行為を行ったのは,被控訴人ではなく,被控訴人とは別会社のモリカワである旨主張する。

しかし,①被控訴人とモリカワの名称が類似すること,②主要な役員を共通にすること,③被控訴人が製造した製品をモリカワが販売するという関係にあること,④被控訴人の幹部であるHが,被控訴人名義の名刺とモリカワ名義の名刺の双方を使用していた事実があることからすれば,被控訴人とモリカワは実質的に同一の会社とみることができ,モリカワの行為は被控訴人の行為とみるのが相当である。」

(9)  原判決40頁25行目の「原告顧客情報使用」のあとに「及び虚偽事実告知」を加える。

3  当審における当事者の補充主張等(争点(1)ウ(本件調停による控訴人の許諾ないし権利不行使合意の存否)に関し)

(控訴人の主張)

(1) 本件調停条項8項によって,控訴人と被控訴人の間で本件特許権を行使しない旨の合意がされたものでないことは,次のような点から明らかである。

ア 本件調停条項中には,控訴人が特許権を行使できないことを定めた文言はなく,そうである以上,控訴人がその権利として有する本件特許権を行使できるというのが大原則である。

特に,本件調停成立当時には,控訴人と被控訴人の間に,本件特許権の侵害についての紛争はなく,だからこそ,本件調停条項では,本件特許権について触れていないのであるから,本件調停条項8項と本件特許権とは何ら関わりのないものである。

イ また,本件調停手続のやりとりでは,I前代表が裁判官に本件特許権の存在を告げたのに対し,裁判官からは,特許権は図面と関係がないので,調停条項では特許権について触れる必要がないと言われたため,それ以上本件特許権に関するやりとりは行われなかったという経過がある。このような経過からも,本件調停条項8項と本件特許権とが関わりのないものであることは明らかである。

なお,本件調停手続において上記のようなやりとりがあったことは,被控訴人代理人作成の「訴訟等期日メモ」(乙35)の「’12年1月23日」の欄に,「J→Y:図面と知的財産権は別」,「他の権利関係とは切りはなす」,「調停としては図面の所有についてのみ」との記載があることから裏付けられる。

(2) また,本件調停条項8項は,「原告と被告は,これまでの原告と被告との取引の過程で作成された図面に基づいて,互いに開発,製作,販売,メンテナンスを行うことができることを確認する」と規定するところ,被告各製品は,上記図面に基づいて開発,製造されたものとはいえない。

すなわち,上記図面であるDX-4H2又はDX-4H2Eの図面からは,本件発明の構成要件A及びBに係る構成を認識することはできるが,構成要件C及びDに係る構成を認識できるものではないから,当該図面を用いて,本件発明の構成要件を充足する被告各製品を開発,製造することはできない。

この点,K証人も,原審での証人尋問において,被告各製品は本件調停の対象となっている図面と関係なく作られたものかどうかとの質問に対し,「関係ないというふうに認識しています。」と供述している(証人K調書19,20頁)。

このように,被告各製品は,上記図面に基づいて開発,製造されたものとはいえないから,被控訴人による被告各製品の製造,販売は,本件調停条項8項の対象となるものではなく,同条項によって,控訴人の被控訴人に対する本件特許権の行使が妨げられるものではない。

(3) 被控訴人による被告各製品の販売のうち,イビデンに対する被告製品2の販売は,本件調停の成立前の平成23年冬ころに行われたものであるから,当該行為が控訴人の特許権を侵害するものであり,これについて,控訴人が被控訴人に対し損害賠償請求権を有することは,本件調停の成立によっても変わりがない。

本件調停条項11項には,「本調停条項に定めるもののほか,何ら債権債務のないことを相互に確認する」との定めがあるが,この定めは,「本件に関し」との前提を含むものであり,「本件」,すなわち本件調停においては,本件特許権の侵害は問題となっていなかったのであるから,上記損害賠償請求権は,上記清算条項の対象となるものではない。

(4) 仮に,本件調停条項8項によって,控訴人の被控訴人に対する本件特許権の実施許諾又は特許権不行使の合意が認められるとしても,少なくとも控訴人が実施料の支払まで免除すべき理由はないから,有償での許諾を前提とするものであったと認められるべきである。

したがって,控訴人は,被控訴人に対し,少なくとも本件特許の実施料を請求できるというべきである。

(5) さらに,原判決には,争点(1)ウの判断に関し,次のような違法がある。

ア 原判決は,本件調停条項8項について,「同項は,原告及び被告が,本件特許を実施する場合も含め,原告と被告との間の取引過程で作成された図面に基づいて製品を開発・製造等できることを意味する」との被控訴人の主張を認めた上で,「被告製品1,2及び4は,DX-4H2又はDX-4H2Eの図面を基にして開発された製品であるということができるから,被告製品1,2及び4が本件特許を実施するものであったとしても,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。」と判断している。

しかるところ,原判決がこのような認定・判断をする以上,控訴人と被控訴人の間の取引過程で作成された数多くある図面の中のどの図面に基づいて,どの被告製品が製造されたのかについて,被控訴人に具体的に明らかにさせる必要がある。ところが,原審は,被控訴人に釈明せず,この点を明らかにしないまま判決をしたものであるから,被控訴人の具体的な主張・立証がないままに,上記の認定・判断をした点において,弁論主義に違反する。

また,控訴人は,上記の点について被控訴人に明らかにさせるよう原審においても主張していたのに,原判決はこれに対し何ら判断をしていないから,判断の脱漏がある。

イ 被控訴人は,原審第1準備書面において,「被告が製造等している機器は,原告が指摘する「被告製品」とは,別のものである。」とした上で,具体的な相違点を主張している。

また,前記(2)のとおり,K証人は,被告各製品は本件調停の対象となっている図面と関係なく作られたものかどうかとの質問に対し,「関係ないというふうに認識しています。」と供述している。

そうすると,本件調停条項8項によって,被告各製品を製造することが認められるとする被控訴人の主張は,自らの上記主張やK証人の供述と矛盾している。

ところが,原判決は,このような被控訴人の主張の矛盾について何ら判断せずに,上記アのとおりの認定・判断をしているから,判断の脱漏がある。また,原判決の当該認定は,被控訴人の主張と異なっているから,弁論主義に違反する。

(被控訴人の主張)

(1)ア 控訴人は,本件調停条項中に,控訴人が本件特許権を行使できないことを定めた文言がない以上,これを行使できるのが大原則である旨主張する。

しかし,特許権の行使は,特許発明を実施しないことを求める形,すなわち,本件発明についていえば,機械を製造しないことを求める形で行使されることになるため,その実施許諾は,機械を製造しないことを求めないという形,換言すれば,機械を製造することを認めるという形で合意されることになる。

そして,本件調停においては,I前代表の供述(証人I調書19~21頁)から明らかなとおり,控訴人は,双方が取引過程で作成された図面に基づく開発,製造等ができることを認めるものであることを理解した上で,本件調停条項8項に合意しているのであるから,これは,控訴人が被控訴人による特許発明の実施を許諾したということにほかならない。

イ また,控訴人は,本件調停手続のやりとりにおいて,裁判官がI前代表に対し,特許権は図面と関係がないとの説明をしていたことから,本件調停条項8項と本件特許権は関わりがない旨主張する。

しかし,I前代表の供述(証人I調書18,19頁)からすれば,同人と裁判官の間での特許権に関するやりとりは,I前代表が特許権によって図面の権利を主張できないかとの質問をしたのに対し,裁判官が特許権と図面の帰属は関係がない旨を説明したというものにすぎず,当該特許権によって被控訴人による製品の製造等を禁止できるかどうかについてのやりとりが行われたものではないから,これによって,本件調停条項8項による上記合意の内容が変わるものではない。

(2) 控訴人は,本件調停条項8項記載の図面からは,本件発明の構成要件C及びDに係る構成を認識することはできないから,当該図面を用いて,本件発明の構成要件を充足する被告各製品を開発,製造することはできず,したがって,被告各製品は当該図面に基づいて開発,製造されたものとはいえないから,同条項によって,控訴人の被控訴人に対する本件特許権の行使が妨げられるものではない旨主張する。

しかし,被控訴人は,ソフト面も含めたDX-4H2の設計を行ったものであるから,本件発明の構成要件C及びDについても理解していた。したがって,被控訴人は,上記図面に基づいて,本件特許の実施品であるDX-4H2を製造することができたものであり,そのことは,控訴人も熟知していたのであるから,それを前提に,本件調停条項8項において,控訴人が上記図面に基づく製造等の許諾をしたということは,本件発明の構成要件C及びDの構成を有する製品の製造等についても許諾していたことを意味するものといえる。

(3) 控訴人は,本件調停条項11項の清算条項について,「本件に関し」との前提があるものであるから,被控訴人が本件調停の成立前に被告製品2を販売したことによって控訴人が被控訴人に対して有する特許権侵害に基づく損害賠償請求権は,上記清算条項の対象とならない旨主張する。

しかし,本件調停条項11項には,「本件に関し」の文言はなく,それにもかかわらず,弁護士が関与しての調停において,「本件に関し」との前提があったと理解するのは無理があり,当事者の意思としては,当該時点で存在する全ての紛争を解決する趣旨であったものと理解すべきである。そして,このことは,本件特許権の侵害が現実に問題にされていたか否かによって変わるものではない。

したがって,控訴人の上記主張は失当である。

(4) 控訴人は,本件調停条項8項によって,控訴人の被控訴人に対する本件特許権の実施許諾等が認められるとしても,少なくとも有償での許諾を前提とするものであったと認められるべきであるなどと主張する。

しかし,このような実施料についての主張は,原審において主張されなかったものであり,訴訟の完結を遅延させるものであるから,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。

(5)ア 控訴人は,原審が,控訴人と被控訴人の間の取引過程で作成された数多くある図面の中のどの図面に基づいて,どの被告製品が製造されたのかについて,被控訴人に具体的に明らかにさせる釈明をしないまま,「被告製品1,2及び4は,DX-4H2又はDX-4H2Eの図面を基にして開発された製品である」と認定した点について,弁論主義違反及び判断の脱漏がある旨主張する。

しかし,そもそも本件において,控訴人は,被告各製品が本件特許権を侵害する製品であることを主張するに当たり,被告各製品がDX-4H2又はDX-4H2Eの図面に基づいて製造された製品であることを前提としていたものであり,そのため,原審は上記の点についての釈明をしなかったのであるから,弁論主義違反や判断の脱漏は認められない。

イ 控訴人は,K証人が,被告各製品は本件調停の対象となっている図面と関係なく作られたものかどうかとの質問に対し,「関係ないというふうに認識しています。」と供述していることを挙げ,本件調停条項8項によって,被告各製品を製造することが認められるとする被控訴人の主張には矛盾があるとして,この点に関する原判決の判断に脱漏や弁論主義違反があるなどと主張する。

しかし,K証人の上記供述は,同証人の前後の供述内容と矛盾するものであって,質問を的確に把握して回答したものではないと考えられるから,控訴人の上記主張は失当である。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,原審と同様に,控訴人の被控訴人に対する請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおり補正するほかは,原判決第4の1ないし5(原判決42頁10行目冒頭から58頁21行目末尾まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決43頁22行目の「企業提携」を「事業提携継続」と改める。

(2)  原判決44頁26行目の「被告(本訴原告)」を「被告(反訴原告)」と改める。

(3)  原判決45頁7行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。

「オ 本件調停条項8項が上記エのとおりの内容で合意されるに当たっては,控訴人と被控訴人の各代理人弁護士の間で,次のようなやりとりがあった。

(ア) 控訴人代理人は,平成24年2月24日,被控訴人代理人に対し,控訴人作成の「調停の条件」と題する書面をメールで送信した。

当該書面には,調停の条件の一つとして,DX-4H2及びDX-4H2Eを含む複数の機械及びそれをベースにした機械等を「競合禁止製品」とする旨が記載されていたが,控訴人代理人作成のメール本文には,「「競合禁止製品」は「不正競争防止製品」と言うべきもので,条項自体が特定の法的効力を生じるものは考えておりません。裁判官の言うように,不正競争防止法の趣旨を確認する程度のもので結構です。」と記載されていた。(乙39)

(イ) 被控訴人代理人は,平成24年3月1日,控訴人代理人に対し,上記「調停の条件」について,被控訴人において検討した結果を連絡する書面をファクシミリで送信した。

当該書面には,上記「競合禁止製品」に係る条件について,「貴職依頼人が競合禁止を希望する製品として挙げられたものは,当職ら依頼人にとっても主力製品となります。従って,競合の禁止を受け入れることはできません。当初,裁判所から提案されましたように「双方とも作成し,販売する権利を有する」ことを確認頂くことが公平と考えますので,裁判所の提案に従うことを希望いたします。」と記載されていた。(乙40)

(ウ) これに対し,控訴人代理人は,本件調停成立の前日である平成24年3月12日,被控訴人代理人に対し,控訴人作成の「調停の条件(新)」と題する書面をメールで送信した。

当該書面には,改めての調停の条件として,「競合禁止製品」については,「不正競争防止法に反しないよう販売する旨の記載を要望する」ことなどが記載されていた。(乙42)」

(4)  原判決45頁8行目の「オ」を「カ」と,同頁14行目の「カ」を「キ」と,それぞれ改める。

(5)  原判決45頁16行目の「なかった」のあとに,次のとおり加える。

「(仮に,本件調停手続に関与したKや被控訴人代表者らが,その当時,控訴人が本件特許権を有していることを認識していたとすれば,上記オ(イ)のとおり,DX-4H2及びDX-4H2E等をベースにした機械を主力製品として製造,販売し続けることを求める被控訴人としては,これを妨げる要因となり得ることが当然に想定される本件特許権の取扱いについて,被控訴人の内部や被控訴人代理人と間で協議してしかるべきであるのに,本件調停に係る期日の経過等をメモした被控訴人代理人作成の「訴訟等期日メモ」(乙35)及び被控訴人代理人が被控訴人代表者に対し上記期日の経過を報告したメール(乙37の1ないし7)の記載をみても,本件特許権に触れる記述は見当たらないのであり,このことからすると,本件調停成立当時,控訴人が本件特許権を有していることを聞いたことがなかったというK証人の供述は,信用することができる。)」

(6)  原判決47頁6行目の「⑤証拠」から同頁14行目末尾までを次のとおり改める。

「⑤前記1(3)オのとおり,本件調停成立前の代理人間の交渉では,DX-4H2及びDX-4H2Eを含む複数の機械及びそれをベースにした機械等について,当初,控訴人代理人が「競合禁止製品」に挙げる旨の条件を示したのに対し,被控訴人代理人は,これらの機械が被控訴人の主力製品であることを理由に競合禁止とすることを明確に拒絶し,控訴人代理人もこれを受け入れて,「競合禁止製品」に関する提案については,不正競争防止法に反しないように販売する旨の記載とすることを求めるに止め,その結果,本件調停条項8項のとおりの文言とされたという経過が認められることを総合すると,本件調停条項8項は,控訴人と被控訴人の間の取引において作成された図面(DX-4H2及びDX-4H2Eの図面を含む。)を基とした製品を開発,製造,販売及びメンテナンスすることについて,不競法が適用される場面でない限りは相互に認め合うことにより,控訴人・被控訴人間における上記製品についての自由競争を確保することを目的としたものであり,仮に一方当事者が何らかの知的財産権を有し,相手方による上記製品の製造,販売等が当該権利に抵触するようなことになったとしても,相手方が上記図面に基づいて開発・製造・販売・メンテナンスをしている限り,相手方に対しその権利を行使しないという了解の下に合意されたものと認めるのが相当である。」

(7)  原判決47頁16行目の「及び」を「又は」に改める。

(8)  原判決47頁20行目の「争いがない」のあとに,次のとおり加える。

「(例えば,控訴人は,原審の原告準備書面(6)4,5頁において,被告製品1はDX-4H2の廉価版であるDX-4H2Eの型名だけを変えた製品である旨,その他の被告製品は被告製品1をベースにした製品である旨を主張しており,他方,被控訴人も,原審の被告第1準備書面6頁において,被告各製品はDX-4H2Eを改良して製作された製品である旨を主張している。)」

(9)  原判決48頁1行目の「被告」を「控訴人」と,同行目の「原告」を「被控訴人」と,それぞれ改める。

(10)  原判決48頁5行目冒頭から49頁17行目末尾までを次のとおり改める。

「(3) 控訴人の主張(当審における補充主張等を含む。)に対する判断

ア 控訴人は,本件調停成立当時には,控訴人と被控訴人の間に本件特許権の侵害についての紛争はなく,だからこそ,本件調停条項では,本件特許権について触れられず,控訴人が特許権を行使できないことを定めた文言もないのであるから,本件調停条項8項は本件特許権とは何ら関わりのないものである旨主張する。

しかしながら,控訴人主張のとおり,本件調停成立当時,控訴人と被控訴人の間に本件特許権の侵害についての紛争がなく,本件調停条項が,本件特許権を明示して控訴人による特許権の行使を制限する旨の定めを置いていないからといって,本件調停条項8項の合意内容に係る前記(2)の認定が妨げられるものではない。すなわち,前記(2)の①ないし⑤の諸事情を総合するえば,本件調停条項8項は,控訴人と被控訴人が,両者間の取引において作成された図面を基とした製品の開発,製造,販売等をすることについて,不競法が適用される場合でない限りは相互に認め合うことにより,控訴人・被控訴人間における上記製品についての自由競争を確保することを目的としたものと認められるところ,そうである以上,当該条項による合意の中には,仮に,一方当事者が何らかの知的財産権(その時点で具体的に問題となっているものに限らない。)を有し,他方による上記製品の製造,販売等が当該権利に抵触するようなことになったとしても,相手方に対しその権利を行使しないことまで認める趣旨が含まれているものと解するのが相当である(仮に,このような権利行使の余地を留保するのであるとすれば,本件調停条項8項の上記目的とは矛盾することになるから,不競法が適用される場合を除外したのと同様に,当該権利行使の場合を除外する旨の明示的な定めを置くのが自然であり,したがって,このような定めがないということは,当該権利行使の余地を留保しない趣旨であると理解するのが相当といえる。)。

したがって,本件調停成立当時,控訴人と被控訴人の間に本件特許権の侵害についての紛争がなかったことや本件調停条項が控訴人による特許権の行使を制限する旨の定めを置いていないことは,本件調停条項8項の中に特許権不行使の合意が含まれていることを否定する事情とはならず,控訴人の上記主張は理由がない。

イ また,控訴人は,本件調停手続のやりとりの中で,I前代表が裁判官に本件特許権の存在を告げたのに対し,裁判官から,特許権は図面と関係がないので,調停条項では特許権について触れる必要がないと言われた経過があることをもって,本件調停条項8項が本件特許権と関わりのないものであることの根拠とする。

しかしながら,控訴人が,本件調停手続のやりとりの中でI前代表と裁判官との間で上記やりとりがあったことの根拠とする被控訴人代理人作成の「訴訟等期日メモ」(乙35)の「’12年1月23日」の欄には,「J→Y:図面と知的財産権は別」,「登録ないし著作権は難しい」,「調停としては図面の所有についてのみ」,「他の権利関係とは切りはなす」などの記載があるところ,これらの記載を総合すると,この際の控訴人と裁判官とのやりとりにおいては,控訴人の被控訴人に対する図面の引渡請求との関係で,図面自体についての権利関係が問題となり,控訴人から著作権等の知的財産権が主張されたのに対し,裁判官からは,図面自体に著作権を認めることは難しく,図面と知的財産権とは別に考えられるべきであり,本件調停においては図面の権利関係として所有権のみを問題とすべき旨の指摘があったことが推認されるものといえる。

してみると,本件調停における上記のやりとりは,図面自体について成立する権利として知的財産権が考えられるか否かについてのやりとりにすぎず,控訴人・被控訴人間の取引において作成された図面を基とした製品に対して,控訴人が本件特許権を行使し得るか否かについてのやりとりではないと考えられるから,このようなやりとりの存在が,本件調停条項8項の中に特許権不行使の合意が含まれていることを否定する事情とはならず,控訴人の上記主張は理由がない。

ウ 控訴人は,①DX-4H2又はDX-4H2Eの図面からは,本件発明の構成要件A及びBに係る構成を認識することはできるが,構成要件C及びDに係る構成を認識できるものではないから,当該図面を用いて本件発明の構成要件を充足する被告各製品を開発,製造することはできないこと,②K証人も,被告各製品は本件調停の対象となっている図面と関係なく作られたものと認識している旨供述していることから,被告各製品は,DX-4H2又はDX-4H2Eの図面に基づいて開発,製造されたものとはいえず,被控訴人による被告各製品の製造,販売は本件調停条項8項の対象となるものではない旨主張する。

しかしながら,本件調停条項8項にいう「これまでの原告と被告との取引の過程で作成された図面に基づいて,…開発,製作,販売,メンテナンスを行うことができる」とは,その文言上,上記図面を用いた製品の開発,製造等の全般を許容することを意味するものと理解され,「上記図面に基づく開発,製造」といえるためには,当該製品の開発や製造の過程において上記図面が利用されていれば足りるというべきであって,当該製品が有する構成の全てが上記図面に記載されていなければならないというものではない。

したがって,控訴人が主張するように,被告各製品がDX-4H2又はDX-4H2Eの図面のみからは認識できない構成を備えているからといって,当該製品が上記図面に基づいて開発,製造されたことが否定されることにはならない。そして,前記(2)で述べたとおり,被告製品1,2及び4がDX-4H2又はDX-4H2Eを基に製造されたものであることが当事者間に争いのない事実として認められる以上,これらの被告製品の開発や製造の過程において,DX-4H2又はDX-4H2Eの図面が何らかの形で利用されたであろうことは優に推認されるところであり,したがって,これらの被告製品は,上記図面を基にして開発又は製造された製品であることが認められるものといえる。

また,控訴人は,K証人が上記②のとおりの供述をしていることを上記主張の根拠とするが,同証人は,上記供述をする一方で,「原告が問題としている被告製品が,この調停のときに問題となった図面に基づいて製造されたものかという点については御存じですか。」との問いに対しては,「基づいているか,基づいてないか,ちょっと細かい技術のことはよく分かりませんので。分かりません。」と述べ(証人K調書19頁),また,「原告側はこのDX-4H2という型式には,旧製品と新製品があるというふうに主張しているんですけれども,その点は,あなたはそういう認識をお持ちなんですか。」との問いに対しては,「すみません,細かい仕様のことは認識してません。」と述べている(同調書20頁)のであり,これらの供述からすると,K証人がDX-4H2又はDX-4H2Eの図面と被告各製品との関係という技術的な事項について十分な理解を有しているかどうかは疑問であり,したがって,同証人の上記②の供述部分のみに信頼を置くことはできない。

以上によれば,上記①及び②の点を根拠として,被告各製品はDX-4H2又はDX-4H2Eの図面に基づいて開発,製造されたものとはいえないとする控訴人の主張は理由がない。

エ 控訴人は,本件調停条項11項の清算条項は,「本件に関し」との前提を含むものであるから,被控訴人が本件調停の成立前にイビデンに対して被告製品2を販売したことによる損害賠償請求権は,上記清算条項の対象とはならない旨主張する。

しかしながら,前記(2)で述べたとおり,本件調停条項11項が,その文言上,「本件に関し」との限定が付されない清算条項である以上,本件調停成立時点における控訴人と被控訴人との間の債権債務関係を,「本件」,すなわち本件調停の対象となったものに限定することなく,包括的に清算する旨の条項と理解するのが当然の文言解釈であるから,仮に上記損害賠償請求権が本件調停成立時に存在していたとしても,それが本件調停条項11項による清算の対象となることは明らかである。控訴人は,本件調停条項11項は「本件に関し」との前提を含むものである旨主張するが,現に当該条項中に「本件に関し」との文言がないにもかかわらず,そのような前提があるものと認めるには,そのように解すべき特段の事情を要するというべきところ,そのような事情を認めるに足りる証拠はない。

したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

オ 控訴人は,仮に,本件調停条項8項によって,控訴人の被控訴人に対する本件特許権の実施許諾又は特許権不行使の合意が認められるとしても,それは,無償ではなく,有償での許諾を前提とするものであったと認められるから,控訴人は被控訴人に対し,少なくとも実施料を請求できる旨主張する。

しかしながら,本訴訟において,控訴人が本件特許権に基づいてする金銭請求は,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求のみであり,控訴人と被控訴人との実施許諾の合意に基づく実施料の請求は,本訴請求に含まれていない(仮に,控訴人が,当審において,このような実施料の請求を追加するのであれば,書面で訴えの変更を行うとともに,その請求に係る請求の趣旨及び原因等を具体的に明らかにする必要があるが,本件においてそのようなことは行われていない。)。

したがって,控訴人の上記主張は,そもそも本訴訟における控訴人の請求の当否に関わるものではない(すなわち,控訴人の被控訴人に対する本件特許権の実施許諾又は特許権不行使の合意が認められる以上,それが無償か有償かに関わらず,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。)。付言するに,本件調停条項8項は,対価の支払いを含めて何の条件を設けることもなく,図面に基づく開発,製作,販売,メンテナンスを認めているのであるから,これらの行為を行うのに当たって,対価を支払うことが予定されていないことは明らかであるから,控訴人の主張は,いずれにせよ失当である。

カ さらに,控訴人は,原判決に,弁論主義違反等の手続の違法がある旨も主張するので,以下,この点について判断する。

(ア) 控訴人は,原判決が,控訴人と被控訴人の間の取引過程で作成された数多くある図面の中のどの図面に基づいて,どの被告製品が製造されたのかについて,被控訴人に具体的に明らかにさせないまま,「被告製品1,2及び4は,DX-4H2又はDX-4H2Eの図面を基にして開発された製品である」と認定したことについて,弁論主義違反及び判断の脱漏がある旨主張する。

しかし,前記(2)で述べたとおり,原審において,控訴人は,被告製品1はDX-4H2の廉価版であるDX-4H2Eの型名だけを変えた製品であり,その他の被告製品は被告製品1をベースにした製品である旨を主張し,他方,被控訴人も,被告各製品はDX-4H2Eを改良して製作された製品である旨を主張しているのであるから,被告各製品がDX-4H2又はDX-4H2Eを基に製造されたものであり,ひいては,その開発,製造にDX-4H2又はDX-4H2Eの図面が用いられたことは,原審の弁論に顕れていた事実ということができる。

したがって,原判決の上記認定が弁論主義に違反するとはいえず,また,原判決がこの点に係る控訴人の主張について判断しなかったことが,判断の脱漏に当たるともいえない。

(イ) また,控訴人は,原判決が「被告製品1,2及び4は,DX-4H2又はDX-4H2Eの図面を基にして開発された製品である」と認定したことについて,被控訴人の主張やK証人の前記ウ②の供述と矛盾するから,弁論主義違反及び判断の脱漏がある旨主張する。

しかし,上記(ア)で述べたとおり,被控訴人は,原審において,被告各製品がDX-4H2Eを改良して製作された製品である旨を主張しているから,原判決の上記認定が被控訴人の主張と矛盾するものであるとはいえない。

また,原判決の上記認定がK証人の前記ウ②の供述内容とは異なるとしても,この点は,K証人の供述についての証拠評価の問題にすぎず,弁論主義違反や判断の脱漏を構成するようなことではない。なお,K証人の前記ウ②の供述の信頼性に疑問があることは,前記ウで述べたとおりである。

(ウ) 以上のとおり,原判決に弁論主義違反等の手続の違法がある旨の控訴人の主張は,いずれも理由がない。」

(11)  原判決50頁23行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。

「また,本件指示書等の記載内容のうち,特定の顧客に係る担当者名,仕様,納入時期等については,一般に公表することが予定されていないとしても,そのような内容が含まれることは,本件指示書等の表題などから直ちに明らかなことではないから,「部外秘」等といった外見上秘密が記載されていることを明示する記載がないことが,秘密管理性を判断する上で消極的な事情となり得ることは否定できない。」

(12)  原判決51頁17行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。

「ウ(ア) 控訴人は,被控訴人におけるファクシミリの使用状況等は,被控訴人の守備範囲の事実であるから,被控訴人の取扱いに不備があるからといって,控訴人による秘密管理性が否定されるものではない旨主張する。

しかし,ここで問題となるのは,前記ア及びイで述べたとおり,控訴人が,被控訴人におけるファクシミリの設置状況を認識しながら,原告顧客情報を秘匿するための交付方法をとることも,秘密が記載されていることを示す表示をすることもないまま,担当者以外も目にする可能性があるファクシミリ機に宛てて本件指示書等を送付していたという事実であり,このことは,控訴人の守備範囲における原告顧客情報の管理の問題にほかならないから,控訴人の上記主張は理由がない。

(イ) また,控訴人は,控訴人と被控訴人との間で平成10年に締結された秘密保持契約において秘密保持の対象とされる「本件業務に関する甲(判決注:控訴人)の機密的または専有的情報」には,本件指示書等に記載された原告顧客情報も含まれる旨主張する。

そこで,上記契約に係る契約書(甲54)の記載をみるに,秘密保持の対象とされる「秘密情報」については,「甲の回路基板およびその製造方法,回路基板事業,ならびに本件設備および本件業務に関する甲の機密的または専有的情報」と定義され(第1条第1項),上記「本件設備」については,「甲の回路基板製造用の特定設備またはその構成機器・部品・ソフトウェア」と,上記「本件業務」については,「本件設備の構想・設計・製図・製作・著作・試作・加工・組立・調整および/または改善の業務の全部またはその一部」と,それぞれ定義されていること(前文)が認められる。そして,以上の記載を前提とすれば,上記契約で秘密情報とされる「本件業務に関する甲の機密的または専有的情報」とは,控訴人の回路基板製造に用いられる設備等の設計や製造等に係る技術的事項を対象としたものであることは明らかであり,製品販売のための営業活動に用いられる顧客に関する情報をその対象に含むものと解することはできない。

この点,控訴人は,本件指示書等に記載された情報は,機械の製作に関する機密的情報といえるから,上記「本件業務」の1つである「本件設備の製作」に関する機密的情報に当たる旨主張する。しかし,ここでいう「本件設備の製作に関する機密的情報」とは,本件設備を製作するために必要とされる機密的情報,すなわち,本件設備の製作に用いられる機密性を有する技術的事項を意味するものと解するのが素直である。他方,本件指示書等に記載された原告顧客情報は,控訴人の取引先の名称,取引対象となった機械の型名,仕様,納入日等の情報,すなわち,控訴人の営業活動に用いられる顧客に関する情報にすぎず,本件設備の製作に用いられる機密性を有する技術的事項を何ら含むものではないから,「本件設備の製作に関する機密的情報」に当たるものとはいえない。

したがって,控訴人の上記主張も理由がない。」

(13)  原判決52頁15行目の末尾に次のとおり加える。

「また,控訴人が主張する,①被控訴人とモリカワの名称が類似すること,②主要な役員を共通にすること,③被控訴人が製造した製品をモリカワが販売するという関係にあることといった事情は,被控訴人とモリカワに資本提携等の密接な関係があることをうかがわせる事情とはいえるとしても,両者が実質的に同一の会社であるとまで認めるに足りる事情とはいえない。」

(14)  原判決57頁13行目の「匿名の某社専務取締役が作成した文書(甲91)」を「松和産業のL専務及びM氏が作成した文書(甲91の2)」と改める。

(15)  原判決57頁22行目の「被告は」から同頁24行目末尾までを次のとおり改める。

「被告が上記事実を否定しているなか,発言者も日時も特定されておらず,その正確性について反対尋問によるテストも経ていない上記文書の記載のみをもって,被告の従業員がL専務らに対し上記発言をしたと認めることはできない。」

(16)  原判決58頁18行目末尾に次のとおり加える。

「なお,これらの文書の記載内容が控訴人にとっての秘密情報であるとしても,そのことから当然に,当該文書の所有権が控訴人に帰属するということにはならない。」

2  結論

以上によれば,控訴人の各請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 大西勝滋 裁判官 杉浦正樹)

file_2.jpg別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例