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知財高等裁判所 平成28年(行ケ)10077号 判決 2016年9月21日

原告

株式会社真誠プランニング

訴訟代理人弁理士

小松茂久

下出隆史

被告

株式会社北村商店

訴訟代理人弁理士

水野勝文

和田光子

保崎明弘

鈴木亜美

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

特許庁が無効2015-890044号事件について平成28年2月25日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

本件は,商標登録無効審判請求に基いて商標登録を無効(一部指定商品)とした審決の取消訴訟である。争点は,商標法4条1項11号該当性の有無(商標の類否)である。

1  特許庁における手続の経緯

原告は,後記2の本件商標の商標権者である(甲1)。

被告は,平成27年5月19日付けで,本件商標の指定商品中,下記審決主文同旨の指定商品についての登録の無効を求める登録無効審判請求をした(無効2015-890044号)。

特許庁は,平成28年2月25日,「登録第5602955号の指定商品中,第30類『ごま入りの調味料,ごま塩,すりごま,いりごま,ねりごま,ごまを使用した穀物の加工品』についての登録を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同年3月4日,原告に送達された。

2  本件商標(甲1)

file_2.jpg①  商標登録  第5602955号

②  登録出願  平成24年11月14日

③  設定登録  平成25年 7月26日

④  指定商品  第30類  調味料,ごま塩,すりごま,いりごま,ねりごま,ごまを使用した穀物の加工品

3  審決の理由の要点(本件に関連する部分のみを摘示する。)

審決は,次のとおり,本件商標は,その指定商品中,第30類「ごま入りの調味料,ごま塩,すりごま,いりごま,ねりごま,ごまを使用した穀物の加工品」(以下「本件指定商品」という。)について,商標法4条1項11号に違反して登録されたものであると認定判断した。

(1)  引用商標(下記引用商標1~引用商標3を併せていう。)

ア 引用商標1(甲2)

file_3.jpgOby TS! OPEN SESAME① 商標登録  第553543号

② 登録出願  昭和34年 4月 6日

③ 設定登録  昭和35年 7月28日

④ 指定商品の書換登録 平成13年 5月16日

⑤ 指定商品  第29類  食肉,塩辛,うに(塩辛魚介類),このわた,寒天,ジャム,卵,かつお節,干しのり,焼きのり,とろろ昆布,干しわかめ,干しあらめ,肉のつくだに,水産物のつくだに,野菜のつくだに,なめ物,果実の漬物,野菜の漬物

第30類  胡麻を主材料とする穀物の加工品,みそ,甘酒,こしょう

第31類  のり,昆布,わかめ,あらめ

イ 引用商標2(甲3)

file_4.jpgOdy TS! OPEN SESAME① 商標登録  第562806号

② 登録出願  昭和34年 4月 6日

③ 設定登録  昭和35年12月15日

④ 指定商品の書換登録 平成13年10月24日

⑤ 指定商品  第30類  ごま塩,焦胡麻,味付胡麻,摺胡麻,味付摺胡麻,剥き胡麻,煎り剥き胡麻

第31類  胡麻

ウ 引用商標3(甲4)

file_5.jpgObolt CE? OPEN SESAME① 商標登録  第1896568号

② 登録出願  昭和59年 2月 7日

③ 設定登録  昭和61年 9月29日

④ 指定商品の書換登録 平成19年10月3日

⑤ 指定商品  第29類  食用油脂,乳製品

第30類  調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと

第32類  ビール製造用ホップエキス,乳清飲料

(2)  商標法4条1項11号該当性について

ア 本件商標について

① 本件商標は,図形部分とその図形中の文字部分とが視覚上分離して認識される。

② ①を前提に,本件商標の図形部分についてみると,七福神をモチーフとしていることを想起させる場合があるとしても,具体的に何を表した図形であるかまでは直ちに把握し得ないことから,図形部分からは,特定の称呼,観念は生じない。

③ ①を前提に,本件商標の文字部分についてみると,「サクラサケ」が「桜咲け」を片仮名で表したものと理解され,かかる観念及び「サクラサケ」の称呼を生じるものと,「ひらけごま」が「アラビアの説話『アリババと40人の盗賊』で窃盗団の宝をかくした洞窟の扉を開ける呪文」(以下「アリババの呪文」という。)と理解され,かかる観念及び「ヒラケゴマ」の称呼を生じるものと理解される。

④ 上記②③からみて,本件商標は,称呼及び観念において,図形部分と文字部分との関連性を見い出すことはできず,また,図形部分と文字部分を常に一体不可分のものとしてのみ,把握され,認識されるものとすべき特段の事情は見受けられない。

⑤ ④を前提に,「サクラサケ」と「ひらけごま」をみると,文字の大きさ,書体,色彩を異にするため,それぞれが視覚上分離して観察される。一方,文字部分全体として特定の観念を生じるものではなく,しかも,文字部分全体より生じる「サクラサケヒラケゴマ」の称呼もやや冗長といわざるを得ない。

そうすると,本件商標は,「サクラサケひらけごま」「サクラサケ」「ひらけごま」のそれぞれが,独立して自他商品の識別標識として機能し得る。

⑥ ⑤を前提にすると,本件商標からは,その構成中の看者に強く支配的な印象を与える「ひらけごま」に相応して,「ヒラケゴマ」の称呼,アリババの呪文の観念を生じる。

イ 引用商標(引用商標1~引用商標3)について

① 引用商標は,外観上,上段と下段に分けて各文字が表されており,上段の「ひらけごま」と,下段の「OPEN SESAME」は,その全体より生じる「ヒラケゴマオープンセサミ」の称呼が冗長である上,いずれも,アリババの呪文の観念を生じるものであるから,それぞれが着目され,独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得る。

② そうすると,引用商標は,「ひらけごま」から,「ヒラケゴマ」の称呼,アリババの呪文の観念が生じる。

ウ 商標の類否

本件商標と引用商標とは,「ひらけごま」において,外観において近似し,称呼及び観念を共通とするので,類似する。

エ 商品の類似

本件商標の指定商品中の「ごまを使用した穀物の加工品」は,引用商標1の指定商品中の「胡麻を主原料とする穀物の加工品」と,本件商標の指定商品中の「ごま入りの調味料,ごま塩,すりごま,いりごま,ねりごま」は,引用商標2の指定商品中の「ごま塩,焦胡麻,味付胡麻,摺胡麻,味付摺胡麻,剥き胡麻,煎り剥き胡麻」と,本件商標の指定商品中の「ごま入りの調味料」は,引用商標3の指定商品中の「ごま入りの調味料」と,それぞれ,同一又は類似する商品である。

(3)  まとめ

以上のとおり,本件商標は,引用商標に類似する商標であり,かつ,引用商標の指定商品と同一又は類似の商品に使用されるものであるから,商標法4条1項11号に該当する。

第3原告主張の審決取消事由(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)

1  本件商標の認定の誤りについて

①  審決は,本件商標の図形部分とその図形中の文字部分とが視覚上分離して認識されると認定する。

しかしながら,本件商標は,七福神を想起させるキャラクターが乗り込んだ帆掛船の白色の帆に重ねて文字部分が表わされており,文字部分の黄色の縁取りは帆掛船の背景の黄色と共通し,文字部分の中心部辺りの帆に隠れた部分から後光のような放射状の薄黄色の帯が伸びているように構成されているほか,5弁の3つの桜の花びらと「サクラ」,胡麻然としたキャラクターの顔の形状と「ごま」とに間にもつながりがあり,文字部分と図形部分がデザイン的に関連している。そうすると,図形部分と文字部分は,これらを分離して観察することが取引上不自然であるほどに不可分に結合しており,図形部分と文字部分とが分離して把握され,認識されるものとすべき特段の事情はない。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

②  審決は,本件商標の図形部分が何を表した図形であるか把握し得えず,特定の称呼,観念は生じないと認定する。

しかしながら,7体のキャラクターと,これら7体のキャラクターが乗り込んだ水上の帆掛船,各キャラクターの服装や持ち物を考慮して総合判断すると,図形部分のうちの7体のキャラクターが七福神を表していることは明らかである。また,帆掛船の帆部分に重なるように表された5弁の3つの花びらは,その色合い(赤ないし桃色)及び形状から,いずれも桜の花びらを想起させる図形であることは明らかである。

そうすると,上記①を併せかんがみると,本件商標は,図形部分と文字部分との全体から,「開運,合格,願いごとの成就」といった「めでたさ」の観念が生じる。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

③  審決は,「サクラサケ」と「ひらけごま」のそれぞれから,称呼及び観念を認定する。

しかしながら,「ひらけごま」は,指定商品の材料の普通名詞である「ごま」を含むものである一方,「サクラサケ」にはそのようなつながりはない。「サクラサケ」は,二重引用符で囲われている上に,より注目される赤色を用いるなどして強調されており,さらに,周囲の桜の花びらと相まって,自他商品識別標識として強く支配的な印象を与えている。他方,「サクラサケ」と「ひらけごま」とは,互いに縁取りの色が黄色である点で共通し,「サクラサケ」から生じる「桜咲け」との観念における「咲く」は,「花の蕾が開く。」との意味を有するため,かかる意味における「開く」と,「ひらけごま」の「ひらけ」とに観念上のつながりがある。

したがって,「ひらけごま」だけを引用商標と比較して類否を判断することはできない。

④  審決は,「ひらけごま」からアリババの呪文の観念が生じると認定する。

しかしながら,「ひらけごま」にこのような意味があると記載しているのは,1つの辞書だけであり(甲97),その他の12の辞書(甲85~96)では,かかる意味があるとは記載していない。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

⑤  審決は,本件商標の文字部分全体から生じる「サクラサケヒラケゴマ」の称呼が冗長であると認定する。

しかしながら,この「サクラサケヒラケゴマ」は,5音と5音のリズミカルな調子であり,称呼しづらいほどの冗長さとはいえず,また,各5音は,いずれも3音と2音からなり,かつ,いずれも命令形(命令文)であるという共通点がある。そうすると,「サクラサケヒラケゴマ」は,分離せずとも違和感なく称呼が可能である。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

⑥  以上からみて,本件商標は,[1]ゴマ然とした顔の7体の七福神をモチーフとしたキャラクターが乗り込んだ水上の宝船(帆掛船)と,3つの5弁の桜の花びらと,帆掛船の帆の背後から後光のごとく放射状に延びる光の図形部分と,「“サクラサケ”\ひらけごま」の文字部分との結合との外観を有し,[2]上記外観全体から東洋的な「めでたさ」との観念を生じ,[3]「サクラサケヒラケゴマ」との称呼が生じる。

2  引用商標の認定の誤りについて

①  審決は,引用商標の上段の「ひらけごま!」から称呼,観念を認定する。

[1] しかしながら,「ひらけごま!」と「OPEN SESAME」とは,互いに,文字の大きさ,書体,色彩において共通しており,いずれか一方のみが強く支配的な印象を与える場合にも,いずれか一方から自他商品識別標識としての称呼,観念が生じないと認める場合にも該当しない。また,両者は,外観,称呼,観念を異にするから(甲85~97),「ひらけごま!\OPEN SESAME」は,2つの異なる文を2段に結合したものである。

そうすると,引用商標の「ひらけごま!」と「OPEN SESAME」は,一体となって商標の機能を果たすものであり,両者を分離して称呼,観念を導出することはできない。

[2] 引用商標は,指定商品にごま類を含むので,「ごま」に自他商品識別能力がなく,識別力があるのは,「ひらけ」「OPEN SESAME」部分に限る。

したがって,審決の上記認定は,誤りである。

②  以上からみて,引用商標は,[1] 「ひらけごま!\OPEN SESAME」との二段文字列との外観を有し,[2]少なくとも,東洋的な「めでたさ」との観念は生じず,[3]「ヒラケゴマオープンセサミ」との称呼が生じる。

3  商標の類否判断の誤りについて

本件商標と引用商標とは,外観,観念,称呼のいずれにおいても互いに全く異なる。

したがって,両者は,非類似の商標である。

4  まとめ

以上のとおり,本件商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断には,誤りがある。

第4被告の反論

1  本件商標の認定の誤りに対して

①  原告は,本件商標は,図形部分と文字部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合していると主張する。

しかしながら,図形部分の白地部分は,船の帆と認識するよりも,単に文字を目立たせるための白色背景と認識するのが自然であり,仮に,白色の帆と認識されるとしても,文字と帆が重なっているというよりも,白色の帆によって文字部分を際立たせているといえる態様にすぎず,また,「サクラサケ」「ひらけごま」とも何ら観念的なつながりが存在しない。

したがって,本件商標の図形部分とその図形中の文字部分とが視覚上分離して認識されるとした審決に認定には,誤りはない。

②  原告は,本件商標は,図形部分と文字部分との全体から,「めでたさ」の観念が生じると主張する。

しかしながら,本件商標の図形部分をよくよく観察すれば,7体のキャラクターの持ち物等から七福神をモチーフにしていることが分かるとしても,一見して,七福神という観念が生じるものではない。また,桜の花びらも,単に背景の一模様にすぎず,ここに着目して桜という観念が生じるものでもない。そうすると,本件商標の全体から,一見して直ちに「めでたさ」の具体的観念が生じるともいえない。

したがって,本件商標の図形部分から特定の称呼,観念は生じないとした審決の認定には,誤りはない。

③  原告は,文字部分のうち,「ひらけごま」だけを引用商標と比較して類否を判断することはできないと主張する。

[1] しかしながら,「サクラサケ」と「ひらけごま」とは,その文字の大きさ,書体,色彩に統一性がなく,視覚上分離されるものであり,また,「サクラサケ」からは,「桜咲け」の観念が生じ,「ひらけごま」からは,アリババの呪文の観念が生じるから,両者に観念的なつながりもない。さらに,「サクラサケヒラケゴマ」の称呼はやや冗長といえる。

そうすると,本件商標は,「ひらけごま」分が「サクラサケ」と独立して自他商品識別機能を果たしている。むしろ,「ひらけごま」が,「サクラサケ」に比べて,より目立つ中央部寄りに大きく,はっきりとした文字にて記載されていることから,「ひらけごま」が,本件商標に接する者に強く支配的な印象を与え,本件商標の要部といえる。

[2] 仮に,「サクラサケ」からも,自他商品識別標識としての称呼,観念が生じ得るとしても,複数の称呼,観念のうちの一つでも同一又は類似であれば,商標は類似するといえるから,「ひらけごま」に独立した自他商品識別機能がある以上,この部分からの称呼,観念を認定し,引用商標と対比することは,何ら誤りではない。

以上から,「ひらけごま」だけを引用商標と比較して類否を判断した審決には,誤りはない。

④  原告は,「ひらけごま」からアリババの呪文の観念は直ちに生じないと主張する。

[1] しかしながら,国語辞書は,主に単語,連語,句などを掲載するものであり,「ひらけごま」のような説話中の有名な台詞が常に掲載されるものではない。そのため,1つの国語辞書に掲載されているだけだからといって,審決において認定した「ひらけごま」の観念に誤りがあることになるものではない。

[2] 仮に,「ひらけごま」からアリババの呪文の観念が生じないとしても,本件商標と引用商標は,いずれも同じ構成文字「ひらけごま」を有する商標であるから,どのような内容にせよ共通の観念が生じることになり,原告の主張は,審決の当否に影響しない。

⑤  原告は,「サクラサケヒラケゴマ」が分離せずとも違和感なく称呼可能であると主張する。

しかしながら,「サクサラケ」と「ひらけごま」とは,文字の大きさ,書体,色彩を異にし,また,観念において何らつながりがない。そして,簡易迅速をたっとぶ取引社会においては,しばしば,商標がその一部だけによって簡略に称呼される。そうすると,本件商標から,常に,「サクラサケヒラケゴマ」との称呼のみが生じるとはいえず,「ヒラケゴマ」とも称呼され得る。

したがって,本件商標から,「ヒラケゴマ」の称呼が生じるとした審決の認定には,誤りはない。

⑥  以上からみて,本件商標は,要部である「ひらけごま」から,[1]「ひらけごま」の文字の外観を有し,[2]アリババの呪文という観念が生じ,[3]「ヒラケゴマ」の称呼が生じる。

2  引用商標の認定の誤りに対して

①  原告は,引用商標の「ひらけごま!」と「OPEN SESAME」とを分離して称呼,観念を導出することはできないと主張する。

[1] しかしながら,引用商標は,観念を共通にする1つの言葉の日本語と英語であるから,引用商標に接する者によって,その日本語部分に着目する場合と英語部分に着目する場合があるのは自然である。そうすると,「ひらけごま」と「OPENSESAME」のそれぞれが着目され,独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得る。

[2] 「ひらけごま」は,一体として把握されるものであるから,「ごま」を捨象して,称呼,観念を論じることはできない。

以上から,引用商標の「ひらけごま」から称呼,観念を導出した審決の認定には,誤りはない。

②  以上から,引用商標は,「ひらけごま」から,[1]「ひらけごま」の文字の外観を有し,[2]アリババの呪文という観念を生じ,[3]「ヒラケゴマ」の称呼を生じる。

3  商標の類否判断の誤りに対して

本件商標と引用商標とは,「ひらけごま」部分において,外観において近似し,観念,称呼を共通する。

したがって,両者は,類似の商標である。

4  まとめ

以上のとおり,本件商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断には,誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  本件商標について

(1)  検討

本件商標の構成は,前記第2,2のとおりであり,①[1]ほぼ同じ顔立ちの7体の人物が乗っている,船体が朱色,帆が白無地,帆柱及び帆桁が青色である水上の帆掛船と,[2]光線を模したとうかがわれる,帆の背後の黄色の背景に浮かぶ薄黄色の放射状の帯と,[3]帆の周辺に配された桃色の3つの5弁の桜の花びらとが描かれた図形(以下,[1]~[3]を併せて「図形部分」という。)と,②いずれも上記帆の部分にあって,[1]上段にあり,いずれも黄色で縁取りされた赤色の「サクラサケ」との太字の片仮名文字とこれを囲う二重引用符「“ ”」と,[2]下段にあり,黄色で縁取りされた暗茶色の「ひらけごま」との太字の平仮名文字(以下,[1][2]を併せて「文字部分」という。)とからなるものである。図形部分につき,帆掛船に7体の人物が乗っていること,人物の衣服,装飾品等を子細に観察すれば,7体の人物は七福神を示すものと理解されるが,薄黄色の放射状の帯は,光を表するものとは認識されるものの,それが何の光であるかは確定し難い(後光,太陽光,宝を象徴的に表する光などが考え得る。)。文字部分につき,図形部分に桜の花びらがあることを考慮すると,「サクラサケ」は,「桜咲け」の文字を片仮名で表したものと理解され,「ひらけごま」は,アリババの呪文を示すものと理解される(甲97参照)。

上記認定の構成を全体的に観察すると,帆の部分が商標全体の4割弱の面積を占める大きさで中央部に配されており,文字部分は,白無地の帆の上にただ単に配置されているだけであって帆と図案構成上の関連性を有していないことが認められる。このことに,帆の部分の周囲に多数の配色の下に細々とした図案が描かれていることを考慮すると,白無地の帆の部分は文字の背景,帆の周囲の部分は文字のレイアウト枠として機能させているものと理解される。そうであれば,帆の上に配された文字部分が図形部分とは分離して観察されることは明らかである。

これを前提に,引き続いて,文字部分についてみると,「サクラサケ」と「ひらけごま」は,書体,色彩を異にするほか,「ひらけごま」の文字の大きさが「サクラサケ」の文字のおおむね倍程度になるなど,両者に顕著に差異が設けられている。「サクラサケ」は赤色であるが,帆掛船の船体の朱色や,桜の花びらの桃色,7体の人物の多数の配色の影響により,ほとんどその赤が目立たない。さらに,「サクラサケ」のみが二重引用符で囲われていて,「ひらけごま」と区切られることが明確にされている。そして,上記のとおり,「サクラサケ」は「桜咲け」を,「ひらけごま」はアリババの呪文を示すものであるから,両者の間に意味上の自然な関連性を想起することはできない。また,両者を一連に称呼した「サクラサケヒラケゴマ」は,取引において冗長なものといえる。そうすると,「サクラサケ」と「ひらけごま」とが一連一体として称呼及び観念されることは,通常,ないといえる。

以上からみて,本件商標は,文字部分の中で特に目立つように配された「ひらけごま」が看者に強く支配的な印象を与えているといえ,「ひらけごま」が独立して自他商品の識別標識として機能していることは,明らかである。

したがって,本件商標は,「ひらけごま」から,「ひらけごま」の文字の外観を有し,「ヒラケゴマ」の称呼とアリババの呪文の観念を生じるといえる。

(2)  原告の主張について

① 原告は,本件商標は,図形部分と文字部分とを分離して観察することが取引上不自然であるほど不可分に結合していると主張する。

しかしながら,上記(1)に認定のとおり,図形部分と文字部分とは視覚上明らかに分離されており,仮に,原告の主張するような点を加味したとしても,この認定は左右されない。

原告の上記主張は,採用することができない。

② 原告は,本件商標は,図形部分と文字部分との全体から,「開運,合格,願いごとの成就」といった「めでたさ」の観念が生じると主張する。

しかしながら,上記(1)に認定の,七福神,桜の花びら,放射状の光の図柄と,桜咲く,アリババの呪文を意義を有する文字との本件商標の構成要素の全体に,自然な意味上の関連性を想起することは極めて困難である。原告が主張するのは,熟考して連想を加えれば導き出せないでもない共通要素にすぎず,本件指定商品に係る一般の取引者,需要者が直接的,具体的に把握できる観念をいうものではない。本件商標の全体からは,特定の観念は生じないと認められる。

原告の上記主張は,採用することができない。

③ 原告は,本件商標から「ひらけごま」だけを抽出することはできないと主張する。

しかしながら,上記(1)に認定のとおり,「サクラサケ」と「ひらけごま」とは,視覚上も分離され,称呼及び観念も一連一体のものとして把握されることはないのであるから,より目立つ「ひらけごま」が抽出されるべきことは当然である。

原告の上記主張は,採用することができない。

④ 原告は,「ひらけごま」からアリババの呪文の観念は生じないと主張する。

しかしながら,「千夜一夜物語」(アラビアン・ナイト)中の説話「アリババと40人の盗賊」が,我が国で古くより広く読まれ,多数の国民に親しまれている物語であることは公知の事実であり,なかんずく,「アリババと40人の盗賊」において登場する,窃盗団の財宝を隠した洞窟の扉を開ける呪文である「ひらけごま」は,非常に印象に残る部分といえ,この呪文が我が国において広く知られていることも明らかである。そうであれば,本件指定商品の取引者,需要者である一般の消費者は,「ひらけごま」からアリババの呪文を自然に想起するのであって,この文言から,「胡麻の種が発芽することを願う」のような字義どおりの観念を想起することは,通常,ないものといえる。

原告の上記主張は,採用することができない。

⑤ 原告は,「サクラサケヒラケゴマ」は,分離せずとも違和感なく称呼が可能である旨を主張するが,上記(1)に認定のとおり,「サクラサケ」と「ひらけごま」とは,通常,一連に称呼されるものではないから,前提を欠くものであって,失当である。

2  引用商標について

(1)  検討

引用商標1~引用商標3の各構成は,前記第2,3(1)のとおりであり,いずれも,「ひらけごま!」との平仮名及び感嘆符と,「OPEN SESAME」との欧文字とを2段に横書きしてなる同一の構成を有するといえる。

なお,引用商標1及び引用商標2は,ペン字様の文字が表され,上段の「ひらけごま!」が,下段の「OPEN SESAME」よりやや大きな字であり,また,上段と下段とがほぼ同じ幅として構成され,一方,引用商標3は,活字様で表され,上段の「ひらけごま!」と下段の「OPEN SESAME」の字の大きさが同じであり,また,下段の幅が上段の幅よりもやや広く構成されている。しかしながら,ペン字様の文字で表される引用商標1及び引用商標2の字体に格別の特徴があるものではなく,引用商標1及び引用商標2と引用商標3との間における上下段の字の大きさや幅の相違も,上段と下段との言語それ自体が異なることを念頭におくと,微差の域を出ず,引用商標1~引用商標3は,いずれも,同一構成を有する商標と理解してよいものと解される。

そこで,以下,各引用商標をまとめて引用商標として検討するところ,引用商標について,いずれも,「ひらけごま!」の「ひらけ」と「ごま!」との間に1文字弱分程度の空白があるが,わずかな隙間であって,「ひらけ」と「ごま!」とを一連のものとして把握することを妨げるものではないから,「ひらけごま!」は,アリババの呪文を示すものと理解される。また,「OPEN SESAME」は,アリババの呪文と同一の意味を有する英語表記である(甲98参照)。

このように,引用商標は,同一の意味を有する日英の語を上下段に分けて表記したものであり,また,上下段を一連一体とする「ヒラケゴマオープンセサミ」の連呼は,取引においては冗長なものととらえられる。そうすると,本件指定商品に係る一般の取引者,需要者は,上下段のいずれかによって,引用商標を称呼及び観念するものといえる。

以上からみて,引用商標は,「ひらけごま!」の部分が独立して自他商品の識別標識として機能しているとみることができる。

したがって,引用商標は,「ひらけごま!」から,「ひらけごま!」の文字の外観を有し,「ヒラケゴマ」の称呼とアリババの呪文の観念を生じるといえる。

(2)  原告の主張について

① 原告は,引用商標の「ひらけごま!」と「OPEN SESAME」は,一体となって商標の機能を果たすものであり,両者を分離して称呼及び観念を導出することはできないと主張する。

しかしながら,結合商標における自他商品識別機能は,全体か,1つの構成要素のみが有する場合かのいずれか1つではなく,複数の構成要素がそれぞれ独立に自他商品識別機能を有する場合もある。上記(1)に認定のとおり,引用商標は,「ひらけごま!」と「OPEN SESAME」の複数の構成要素が,それぞれに,自他商品識別機能を果たしているものである。

原告の上記主張は,採用することができない。

② 原告は,引用商標は,指定商品にごま類を含むので,「ごま」に自他商品識別能力はなく,識別力があるのは,「ひらけ」「OPEN SESAME」部分に限ると主張する。

しかしながら,「ひらけごま!」は,アリババの呪文を示す不可分の語であり,たまたま引用商標において胡麻類が指定商品であるからといって,当該商品に係る取引者,需要者は,これを分離して認識することはあり得ないといえる。

原告の上記主張は,前提を欠き,失当である。

3  商標の類否判断及び指定商品の類否について

以上のほか,原告がるる主張するところも,いずれも採用することができない。

そして,上記1(1)及び同2(1)によれば,本件商標と引用商標とは,それぞれ,「ひらけごま」と「ひらけごま!」の文字部分において外観が近似し,称呼及び観念を共通とするから,類似の商標と認められる。

また,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とが,無効理由に係る本件指定商品について同一又は類似することは,審決の説示するとおりである。

そうすると,本件商標は,商標法4条1項11号に該当する商標である。

したがって,審決の判断には,誤りはない。

第6結論

以上のとおり,取消事由は理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中村恭 裁判官 森岡礼子)

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