知財高等裁判所 平成28年(行ケ)10090号 判決 2016年10月27日
原告
有限会社クーインターナショナル
訴訟代理人弁理士
岩堀邦男
同
高橋一哉
被告
特許庁長官
指定代理人
中束としえ
同
田中亨子
同
田中敬規
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が異議2014-900335号事件について平成28年2月29日にした決定を取り消す。
第2事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
原告は,別紙1記載の構成からなる商標(以下「本件商標」という。)について,指定商品を第3類「コラーゲンを配合したゲル状の化粧品,コラーゲンを配合したゲル状のせっけん類」として商標登録(登録出願日 平成26年5月20日,登録査定日 同年9月8日,設定登録日 同年10月3日。登録第5707362号。)を受けた商標権者である。
株式会社ドクターシーラボ(平成27年12月に「株式会社シーズ・ホールディングス」に商号を変更。以下「申立人」という。)は,平成26年11月29日,本件商標につき,商標法4条1項10号及び11号に該当することを理由として登録異議の申立てをした。
特許庁は,上記申立てを異議2014-900335号事件として審理し,平成28年2月29日,本件商標の商標登録を取り消す旨の決定(以下「本件決定」という。)をして,同年3月10日,その謄本が原告に送達された。
原告は,平成28年4月11日,本件決定の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 本件決定の理由
本件決定の理由は,別紙異議の決定書写しに記載のとおりであるが,要するに,本件商標と別紙2記載の引用商標1ないし3は,「アクアコラーゲンゲル」の称呼を共通にすることなどから類似する商標と認められ,また,両者の指定商品は,ともに「せっけん類」や「化粧品」であって,同一又は類似の商品といえるから,本件商標の登録は商標法4条1項11号に違反してされた,というものである。
3 取消事由
本件商標の商標法4条1項11号該当性判断(商標の類否判断)の誤り
第3取消事由に関する当事者の主張
1 原告の主張
本件決定は,上段の「Dr.Coo」の文字部分と下段の「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分からなる本件商標について,「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし,これから「アクアコラーゲンゲル」の称呼が生じるとした上で,その称呼において引用商標1ないし3と共通することを理由に,本件商標と引用商標1ないし3とは類似する商標である旨判断するが,以下のとおり,本件決定の上記判断は誤りである。
(1) 本件商標の「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分は自他商品の識別力を有しないこと
本件商標の下段に書された「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分は,「AQUA」の文字がラテン語で「水」の意味を有し,他の語と結合して複合語を作ることで知られているものであり,「COLLAGEN」の文字が「膠原,コラーゲン(硬たんぱく質の一つ)」を意味し,「GEL」の文字が「ゲル,膠化体(コロイド溶液がゼリー状に固化したもの:たとえば固まったゼラチン・寒天など)」を意味する語として,いずれもよく知られているものである。
他方,本件商標の指定商品が「コラーゲンを配合したゲル状の化粧品,コラーゲンを配合したゲル状のせっけん類」であることからすると,本件商標の「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分は,全体として商品の品質,原材料を表示したものと認識されるのが自然であるから,自他商品の識別力を有さないものである。
したがって,本件商標からは,上記「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分のみをとらえて,単に「アクアコラーゲンゲル」なる称呼を生ずることはなく,全体から「ドクタークーアクアコラーゲンゲル」の称呼が生じるものといえる。
(2) 類否
ア 本件商標と引用商標1の類否
引用商標1は,上部の「Dr.Ci:Labo」の文字を含む図形とその下の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分からなるところ,その指定商品が「コラーゲンを配合してなるゼリー状のせっけん,コラーゲンを配合してなるゼリー状の化粧品」であることからすると,本件商標の場合と同様に,引用商標1の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分は,全体として商品の品質,原材料を表示したものと認識されるのが自然であり,自他商品の識別力を有さないものであるから,引用商標1からは,「アクアコラーゲンゲル」なる称呼を生ずることはなく,全体から「ドクターシーラボアクアコラーゲンゲル」の称呼が生じるものといえる。
そうすると,本件商標と引用商標1は,「ドクタークーアクアコラーゲンゲル」と「ドクターシーラボアクアコラーゲンゲル」という称呼において確実に相違し,また,観念的にも,外観的にも相違するものであるから,両者は非類似の商標である。
イ 本件商標と引用商標2及び3の類否
引用商標2及び3は,いずれも「Aqua-Collagen-Gel」の文字とこれを囲むようにした逆Ω状に形成されたリボンデザイン部とが一体化した商標であるところ,これらから生ずる称呼は,「アクアコラーゲンゲル」であり,本件商標の称呼である「ドクタークーアクアコラーゲンゲル」とは明らかに相違する。
そして,本件商標と引用商標2及び3は,観念的にも,外観的にも相違するものであるから,非類似の商標である。
(3) 被告の主張について
被告は,本件商標の登録査定時(平成26年9月8日)には,片仮名による「アクアコラーゲンゲル」の標章及びその欧文字表記である「Aqua-Collagen-Gel」の標章は,ドクターズコスメの取引者,需要者の間において,申立人の商品を表示する商標として広く認識されるに至っていたから,引用商標1及び2の構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分は,単独で自他商品の識別標識としての機能を有していた旨主張する。
しかし,被告が提出した,申立人による上記商品の宣伝,広告に係る証拠(各乙号証)をみても,これらに示されているのは,上部の「Dr.Ci:Labo」の文字を含む図形とその下の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分とが不離一体化した,引用商標1と実質的に同一の商標(引用商標1の下に,「薬用」,「Super Moisture」等の文字が付されたもの)であり,「アクアコラーゲンゲル」又は「Aqua-Collagen-Gel」が独立して表示されているものはない。
したがって,被告提出の証拠からは,上部の「Dr.Ci:Labo」の文字を含む図形とその下の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分とが不離一体化した引用商標1が広く認識されたことが認められるとしても,「アクアコラーゲンゲル」又は「Aqua-Collagen-Gel」の標章が独立して広く認識されたとは認められないから,被告の上記主張は理由がない。
2 被告の主張
以下に述べるとおり,本件決定が,本件商標について,引用商標1及び2と類似する商標であるとして商標法4条1項11号に該当すると判断したことに誤りはない。
なお,本件決定は,本件商標が商標法4条1項11号に該当することの根拠として引用商標3も挙げるが,引用商標3は,本件商標の登録出願前に登録出願がされた商標ではあるものの,本件商標の登録査定時(平成26年9月8日)にはいまだ設定登録がされていなかった商標であるから,本件商標が商標法4条1項11号に該当することを根拠付ける引用商標となり得るものではなく,この部分に関する本件決定の判断は不適切である。
(1) 引用商標1及び2の構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分が自他商品の識別標識としての機能を有していること
ア 引用商標1及び2の権利者である申立人は,平成11年2月に設立され,主として,「ドクターズコスメ」あるいは「メディカルコスメ」などといわれる医師が商品の開発に関与した化粧品(以下「ドクターズコスメ」という。)の製造,販売を行ってきた会社であり,本件商標の登録査定時(平成26年9月8日)には,ドクターズコスメについての大手,先駆者として知られていた。
イ 申立人は,平成11年2月の設立以来,自己の業務に係る商品であることを示すものとして,別紙3記載の標章(以下「ドクターシーラボ標章」という。ただし,色彩のみを異にする場合がある。)を継続して使用している。
そして,自己の業務に係る個別の商品については,以下に例示するように,ドクターシーラボ標章に当該個別の商品を示す標章を組み合わせて使用している。
file_2.jpgat ‘august APLAE ve PHOTO-WHITEC UV&AWHUTE nedliocaid ates CONN wT-Taウ(ア) 申立人は,平成11年2月の設立当初から,ドクターズコスメの一つとして,「アクアコラーゲンゲル」の名称を付した,コラーゲンを配合してなるゼリー状の化粧品(以下「アクアコラーゲンゲル化粧品」という。)の通信販売を始めた。
アクアコラーゲンゲル化粧品には,以下に示すとおり,ドクターシーラボ標章に「Aqua-Collagen-Gel」の文字を組み合わせてなる標章が用いられており,その構成態様は,色彩が相違する点を除き,引用商標1と実質的に同一といえるものである。
file_3.jpgAqua-Collagen-Gel neemそして,アクアコラーゲンゲル化粧品は,その後,以下に例示するように,薬用化や多機能化が進められるとともに,シリーズ商品として様々な用途に応じた商品バリエーションが展開され,継続して販売されている。
a 薬用アクアコラーゲンゲル
平成13年11月発売file_4.jpg(eI Aqua-Collagen-Gel an
b アクアコラーゲンゲル スーパーモイスチャー
平成17年9月発売file_5.jpg\qua-Collagen-Gel Super Moisture
c アクアコラーゲンゲル スーパーセンシティブ
平成18年2月発売file_6.jpgAqua-Collagen-Gel
d アクアコラーゲンゲル エンリッチリフト
平成19年11月発売file_7.jpg
e 薬用アクアコラーゲンゲル
スーパーモイスチャー
平成20年9月発売file_8.jpgAqua-Collagen-Gel ‘Super Molsture cr
f アクアコラーゲンゲル エンリッチリフトEX
平成21年1月発売file_9.jpg
g 薬用アクアコラーゲンゲル 美白
平成22年8月発売file_10.jpg\qua-Collagen-Gel SUeHA‘KU ‘anne
h アクアコラーゲンゲル
スーパーモイスチャーEX
平成25年1月発売file_11.jpgAqua-Collagen-Gel ‘Super Moisture EX
(イ) 申立人は,アクアコラーゲンゲル化粧品について,ニュースリリースを発し,「商品カタログ」や「商品ポスター」等を制作しているほか,テレビ,新聞,雑誌,会報誌等の様々な媒体を通じて,宣伝及び広告を積極的に行っている。そして,これらの宣伝及び広告においては,引用商標1と実質的に同一といえる標章を用いた化粧品の画像とともに,アクアコラーゲンゲル化粧品が,申立人のヒット商品であって,シリーズ化されて商品展開している旨などが示されている。
そして,アクアコラーゲンゲル化粧品の累計販売個数は,平成14年に100万個を超えたのち,平成17年には500万個,平成20年には1000万個,平成23年には2000万個を超え,平成26年7月には3000万個に達している。また,売上高では,平成17年2月から平成18年1月までで約52億5900万円であったものが,平成24年8月から平成25年7月まででは約121億5100万円に達しており,申立人の売上全体に占める割合で約35.8パーセントとなっている。
さらに,アクアコラーゲンゲル化粧品は,平成17年から平成26年までの間に,通信販売サイト等における様々な賞も受賞している。
エ 以上によれば,申立人は,平成11年2月の設立当初から,引用商標1と実質的に同一といえる標章を用いて,自己の業務に係るドクターズコスメであるアクアコラーゲンゲル化粧品を継続して販売しているところ,当該化粧品は,「アクアコラーゲンゲル スーパーモイスチャー」,「アクアコラーゲンゲル エンリッチリフトEX」等のシリーズ化が進んだこととあいまって,ドクターズコスメの商品分野におけるヒット商品となり,ドクターズコスメの大手などとして知られる申立人の主力商品になっているといえ,需要者においても高く評価され,様々な賞も受賞している。
また,申立人は,アクアコラーゲンゲル化粧品の宣伝及び広告をするに当たり,引用商標1と実質的に同一といえる標章を用いた化粧品の画像を掲げつつ,「アクアコラーゲンゲル」及び「Aqua-Collagen-Gel」の標章を継続的に使用している(上記シリーズ化されたアクアコラーゲンゲル化粧品に係る個々の商品についてのものを含む。)。
そうすると,引用商標1はもとより,片仮名による「アクアコラーゲンゲル」の標章及びその欧文字表記である「Aqua-Collagen-Gel」の標章は,本件商標の登録査定時(平成26年9月8日)には,化粧品,とりわけドクターズコスメの取引者,需要者の間において,申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品を表示する商標として広く認識されるに至っていたといえる。
また,引用商標1は,ドクターシーラボ標章に「Aqua-Collagen-Gel」の文字からなる標章を組み合わせてなるものと看取,把握されるものであり,引用商標2は,特定の事物を表したものと看取され難い図形中に白抜きで「Aqua-Collagen-Gel」の文字を表してなるものであるところ,これらに共通する「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分は,上記のとおり,本件商標の登録査定時には,申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品を表示するものとして広く認識されていたものであるから,引用商標1及び2に接する取引者,需要者は,その構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分を分離,抽出して観察し,当該文字部分をもって取引に当たる場合があるといえる。
してみれば,引用商標1及び2の構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分は,本件商標の登録査定時には,単独で自他商品の識別標識としての機能を有していたものと認められる。
(2) 本件商標と引用商標1及び2の類否について
ア 本件商標は,「Dr.Coo」の文字と「AQUA COLLAGEN GEL」の文字とを上下2段に横書きしてなるところ,上段の「Dr.Coo」の文字部分と下段の「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分とは,前者が大文字と小文字との組合せからなるのに対し,後者は全て大文字からなるものであり,また,文字の大きさも,前者の方が後者に比して大きく表されており,さらに,両者は書体も異にすることから,視覚上,「Dr.Coo」の文字と「AQUACOLLAGEN GEL」の文字とを組み合わせてなるものと看取,把握される。
また,本件商標は,その指定商品の分野において,構成全体をもってまとまりある意味を表すものとして,取引者,需要者間に認識されているという実情はないから,一つのまとまった観念を生じるものということはできず,上段の「Dr.Coo」の文字部分と下段の「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものということもできない。
さらに,本件商標の下段部分を構成する「AQUA」,「COLLAGEN」及び「GEL」の各文字は,それぞれ特定の意味を有する既成の語であるものの,これらを「AQUA COLLAGEN GEL」と一連に組み合わせて表したときは,前記(1)エのとおり,本件商標の登録査定時において,申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品を表示する商標として,化粧品,とりわけドクターズコスメの取引者,需要者の間に広く認識されるに至っていた「Aqua-Collagen-Gel」の標章と,ハイフンの有無及び全て大文字で表されているか否かという点を除き,同一の綴りからなる近似する標章である。
このように,本件商標は,その外観及び観念によれば,上段部分と下段部分とが分離して観察されるものであり,また,その下段部分は,申立人の化粧品を表示するものとして取引者,需要者の間に広く認識されている標章に近似する標章であるから,本件商標に接する取引者,需要者は,当該下段部分から,申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品を連想,想起するといえる。
そうすると,本件商標については,その構成中「AQUA COLLAGEN GEL」の文字からなる下段部分を要部として取り出し,これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである。
したがって,本件商標は,その構成中の要部である下段部分から「アクアコラーゲンゲル」の称呼及び申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品の観念を生じるものと認められる。
イ 引用商標1は,前記(1)で述べたとおり,ドクターシーラボ標章に「Aqua-Collagen-Gel」の文字からなる標章を組み合わせてなるものと看取,把握されるものであり,本件商標の登録査定時において,その構成全体はもとより,その構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の標章部分も,申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品を表示する商標として,広く認識されているものであり,単独で自他商品の識別標識としての機能を有するものであるから,当該標章部分から「アクアコラーゲンゲル」の称呼及び申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品の観念を生じるものである。
また,引用商標2は,特定の事物を表したものと看取され難い図形中に白抜きで「Aqua-Collagen-Gel」の文字を表してなるものであるところ,当該「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分は,本件商標の登録査定時において,申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品を表示する商標として,広く認識されているものであり,単独で自他商品の識別標識としての機能を有するものであるから,当該文字部分から「アクアコラーゲンゲル」の称呼及び申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品の観念を生じるものである。
ウ そこで,本件商標と引用商標1及び2とを対比するに,本件商標の要部である「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分と引用商標1及び2の各構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分とを比較すると,両者は,ハイフン(-)の有無及び全て大文字で表されているか否かという点を除き,同一の綴りからなるものであるから,外観上,近似した印象を与える。
また,本件商標の要部である「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分と引用商標1及び2の構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分とは,いずれも「アクアコラーゲンゲル」の称呼及び申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品の観念を生じるものであるから,称呼上及び観念上,相紛れるおそれがある。
このように,本件商標と引用商標1及び2とは,外観において近似した印象を与える上,称呼及び観念においても相紛れるおそれがあるから,これらが取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に観察した場合,両商標は,その商品の出所について混同を生ずるおそれのある,類似する商標というべきである。
(3) 以上によれば,本件商標について,引用商標1及び2と類似する商標であり,商標法4条1項11号に該当するとした本件決定の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,本件決定が本件商標と引用商標1及び2が類似する商標であるとしたことに誤りはなく,したがって,本件商標が商標法4条1項11号に該当するとした本件決定の判断にも誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 引用商標1及びその構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の部分等に対する取引者,需要者らの認識状況について
本件商標と引用商標1及び2の類否を判断するに当たっては,本件商標の登録査定時(平成26年9月8日)において,引用商標1及びその構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の部分等に対する取引者,需要者らの認識状況がどのようなものであったかという点を踏まえる必要があるので,以下,この点について検討する。
(1) 認定事実
ア 申立人及びドクターシーラボ標章について
(ア) 申立人は,平成11年2月の設立以来,スキンケア化粧品の製造,販売を行っている会社であり,特に,ドクターズコスメ(主として皮膚科医や美容外科医が開発に携わっている,若しくはそれらの研究データを基に作られた化粧品・医薬部外品)の分野において,パイオニア的な存在として急成長を遂げた企業である(甲26,27,乙5,6の1ないし6)。
申立人は,通信販売を主たる販路としてその商品を販売しているが,国内の通信販売に係る登録会員数は,平成26年7月時点において約1045万人に達している。そのほかに,申立人は,国内においては,直営店や百貨店等における店舗販売(平成26年7月時点において,164店舗)やドラッグストア等への卸売販売を行い,また,香港,台湾等のアジア地域での店舗販売,卸売販売(平成26年7月時点において,直営店舗20店舗)も行っている。(乙7)
そして,これらの販売による申立人の売上高は,平成17年2月から平成18年1月までの時点では年間約170億円だったものが,その後徐々に売上げを伸ばし,平成25年8月から平成26年7月までの時点では年間約360億円に達している(甲23,乙8)。
また,申立人は,平成23年度のスキンケア市場のメーカーシェアにおいて,資生堂,花王,カネボウ化粧品等の大手メーカーの中で,第9位(シェア2.7%。第1位の資生堂がシェア12.2%)に位置している。さらに,ドクターズコスメの分野でみれば,申立人は,平成24年度の企業別シェアで,45%のシェアを占め,他を大きく引き離して第1位(第2位のロート製薬のシェアが7.5%)に位置している。(甲26,27)
(イ) 申立人は,平成27年12月にその商号を変更するまでは,その製造,販売に係る商品に関する広告やカタログ,自社のウェブサイト等において,ドクターシーラボ標章(別紙3参照)を表示してきた(証拠上確認できる最も古いものは,平成17年7月の発行の会報誌中の広告である。)。
また,申立人は,その製造,販売に係る個々の商品の容器には,ドクターシーラボ標章の下に,当該個別の商品の商品名を表す文字を組み合わせた標章を表示している(前記第3の2(1)イの画像参照)。
(甲8ないし22,25,乙9ないし11,13,16ないし33,38(枝番を含む。))
イ アクアコラーゲンゲル化粧品について
(ア) 発売の経過等
申立人は,平成11年2月の設立当初から,ドクターズコスメに属する商品の1つとして,「アクアコラーゲンゲル」の名称を付した,コラーゲンを配合してなるゼリー状の化粧品(アクアコラーゲンゲル化粧品)を製造,販売している。
その後,申立人は,アクアコラーゲンゲル化粧品について,それぞれ特定の効能を追求した複数の種類の商品を販売するようになった。すなわち,例えば,平成13年11月には,薬用化を図った「薬用アクアコラーゲンゲル」を,平成17年9月には,保湿力を重視した「アクアコラーゲンゲル スーパーモイスチャー(Super Moisture)」を,平成18年2月には,敏感肌用の「アクアコラーゲンゲル スーパーセンシティブ(Super Sensitive)」を,平成19年11月には,リフトケアに特化した「アクアコラーゲンゲル エンリッチリフト(Enrich-Lift)」を,平成22年8月には,美白ケアを重視した「薬用アクアコラーゲンゲル 美白」をそれぞれ発売し,これらの商品をアクアコラーゲンゲル化粧品に属するシリーズ商品として販売するようになり,現在に至るまで継続して販売している(以下,「アクアコラーゲンゲル化粧品」という場合は,このような複数の種類の商品からなるシリーズ商品全体を意味する。)。
そして,これらのアクアコラーゲンゲル化粧品の容器には,いずれもドクターシーラボ標章の下に「Aqua-Collagen-Gel」の欧文字が組み合わされた標章(色彩が異なるものもあるが,いずれも引用商標1と実質的に同一といえるもの)が表示され,更に,その下に,各種の商品ごとに付加された名称(例えば,上記「Super Moisture」など)が欧文字や漢字で表示されている(前記第3の2(1)ウ(ア)の各画像参照)。
(甲8ないし22,乙5,9ないし11(枝番を含む。))
(イ) 販売実績
a 申立人におけるアクアコラーゲンゲル化粧品の累計販売個数は,平成14年11月に100万個を超え,その後,平成20年4月に1000万個,平成23年6月に2000万個を超えて,平成26年7月には3000万個に達している(乙5,乙9の4,乙35)。
b また,アクアコラーゲンゲル化粧品の近年における売上高をみると,平成17年2月から平成18年1月までの時点では年間約52億円であったものが,その後,平成21年8月から平成22年7月までの時点では約119億円に達し,その後も年間100億円以上の水準を維持して,平成24年8月から平成25年7月までの時点では約121億円となっている。
そして,申立人が製造,販売する商品の売上高全体に占めるアクアコラーゲンゲル化粧品の売上高の割合をみると,平成17年2月から平成25年7月までの間において,常に30%を上回っており,直近の平成24年8月から平成25年7月までの時点では約36%となっている。
(乙36の1ないし7)
(ウ) 宣伝・広告の状況
申立人は,アクアコラーゲンゲル化粧品について,そのシリーズ商品の1つが発売されるごとに,「News Release」(乙9の1ないし10,乙11の2及び3)を発したり,「商品カタログ」(乙10の1ないし4)や「商品ポスター」(乙13の1ないし3)を制作して,これらを配布,掲示しているほか,以下のとおりの宣伝,広告を行っている。
そして,これらの宣伝,広告の多くにおいては,「ドクターシーラボ」という企業名やドクターシーラボ標章が表記され,また,「アクアコラーゲンゲル○○」(○○は,「スーパーモイスチャー」など,アクアコラーゲンゲル化粧品に属する各種の商品ごとに付加された名称)の商品名が片仮名等で表記されるとともに,上記(ア)のとおりの標章(ドクターシーラボ標章の下に「Aqua-Collagen-Gel」の欧文字が組み合わされ,更に,その下に,各種の商品ごとに付加された名称が表示されたもの)が付されたアクアコラーゲンゲル化粧品の容器の画像が表示されている。
a テレビCM
申立人は,全国各地の放送局において,アクアコラーゲンゲル化粧品についてのテレビCMを繰り返し放映している。そして,その放映回数は,例えば,平成20年8月から平成21年7月までの1年間で2万8093回,平成25年8月から平成26年7月までの1年間で1万6145回に及んでいる(乙14)。
また,申立人は,24時間テレビショッピングを放送する専門チャンネルである「QVC」において,アクアコラーゲンゲル化粧品を紹介する放映を繰り返し行っている。そして,その放映回数は,平成18年2月から平成26年7月までの間において,年間39回から80回(合計514回)となっている(乙15)。
b 新聞広告
申立人は,朝日新聞,読売新聞,産経新聞及び毎日新聞において,アクアコラーゲンゲル化粧品についての広告を繰り返し掲載している。そして,その掲載回数は,平成20年から平成26年までの間において,年間7回から29回(合計118回)となっている(乙16の1ないし乙22の13)。
c 雑誌広告
申立人は,「CanCam」,「オレンジページ」,「クロワッサン」,「女性セブン」,「女性自身」などの主に女性向けの雑誌において,アクアコラーゲンゲル化粧品についての広告を繰り返し掲載している。そして,その掲載回数は,平成17年から平成26年までの間において,年間2回から28回(合計125回)となっている(乙23の1ないし乙32の14)。
d 会報誌の広告
申立人は,「Ci:Lover」,「シーラバー倶楽部」等の会報誌を定期的に発行しており,その中に,アクアコラーゲンゲル化粧品についての広告を繰り返し掲載している。これらの会報誌の年間の総発行部数は,平成17年には約590万部であったものが,その後徐々に部数を増やし,平成25年には約1700万部に達している。(乙33の1ないし16)
e その他
そのほかに,申立人は,サンリオ,日本航空等の企業と共同して,コラボレーション商品を販売するなどの企画も行っており,それらが専門紙で取り上げられるなどしている(乙34の1ないし6)。
f 申立人の広告宣伝費
申立人は,その製造,販売に係る商品について,平成17年2月から平成26年7月までの間において,毎年約15億円から約60億円に上る広告宣伝費を支出しており,直近の平成25年8月から平成26年7月までの1年間では,約58億円の広告宣伝費を支出している(乙12)。
これらの広告宣伝費は,申立人の全ての商品に関する額ではあるが,申立人の商品の売上高全体に占めるアクアコラーゲンゲル化粧品の売上高の割合が,平成17年以降常に30%を上回っていることからすると,上記広告宣伝費の相当部分がアクアコラーゲンゲル化粧品に係るものであると推認される。
(エ) 人気投票等における受賞歴等
申立人のアクアコラーゲンゲル化粧品は,次のとおり,通販サイトの人気投票等において,様々な賞を受賞している(乙38の1ないし8)。
a 平成17年
「’05Yahoo!ビューティーあなたが選ぶ通販コスメ大賞」の「乳液・クリーム・ジェル部門」でグランプリ
b 平成19年
「’07Yahoo!ビューティーあなたが選ぶ通販コスメ大賞」の「スペシャルケア部門」で第1位
c 平成20年
「’08Yahoo!BEAUTYあなたが選ぶ通販コスメ大賞」の「総合グランプリ」を獲得し,「ジェル・美容液・スペシャルケア部門」で第1位
d 平成21年
「’09Yahoo!BEAUTYあなたが選ぶ通販コスメ大賞」の「ジェル・美容液・スペシャルケア部門」で第1位
e 平成22年
⒜ 「’10Yahoo!BEAUTYあなたが選ぶ通販コスメ大賞」の「ジェル・美容液・スペシャルケア部門」で第1位
⒝ 「オリコン2010年度顧客満足度ランキング(オリコン調べ)」の「通販コスメ」の「保湿商品」及び「化粧水」の各部門で第1位
f 平成23年
⒜ 「’11Yahoo!BEAUTYあなたが選ぶ通販コスメ大賞」の「ジェル・美容液・スペシャルケア部門」で第1位
⒝ 「2011 IMAGE NETベストコスメ大賞」の「総合」及び「保湿」の各部門で第1位
⒞ 「マキアオンライン クチコミ件数月間ランキング」(2011年4月)の「総合部門」で第1位
⒟ 「GLOW」(2012年1月号)の「G-1“実感コスメ”グランプリ2011」の「クリーム」分野で第1位
g 平成24年
⒜ 「’12Yahoo!BEAUTYあなたが選ぶ通販コスメ大賞」の「ジェル・美容液・スペシャルケア部門」で第2位
⒝ 「All Aboutベスト通販コスメ2012」の「ジェル・美容液」部門で第2位
⒞ 「ウィメンズ・ウエア・デイリー・ジャパン ビューティ」(2012年3月22日発行)による「都内バラエティストアで売れている「敏感肌用コスメ」TOP5」の「PLAZA GINZA」で第1位及び「渋谷ロフト店」で第2位
h 平成25年
⒜ 「’13Yahoo!BEAUTYあなたが選ぶ通販コスメ大賞」の「ジェル・美容液・スペシャルケア部門」で第1位
⒝ 「MORE」(2013年6月号)の「コスメ大賞」で「肌の奥までうるおうで賞」を受賞
i 平成26年
「2014年@cosme上半期ベストコスメ」の「乳液・クリーム部門」で第1位
(2) 検討
上記(1)の認定事実によれば,本件商標の登録査定時(平成26年9月8日)において,申立人は,我が国のスキンケア市場における有力メーカーの一つであり,とりわけドクターズコスメの分野では,パイオニア的な存在であるとともに,圧倒的なシェアを誇るトップメーカーであって,スキンケア化粧品やドクターズコスメの取引者,需要者らに広く知られる存在であったこと,申立人が製造,販売する商品の中でも,アクアコラーゲンゲル化粧品は,申立人の設立当初から15年以上にわたって継続的に販売される主力商品であり,全国でのテレビCMをはじめとする大規模かつ長年に及ぶ宣伝・広告等により,近年においては,年間100億円を超える売上高を維持し,各種の人気投票等でも常に上位にランクされるなど,人気商品としての地位を確立し,スキンケア化粧品やドクターズコスメの取引者,需要者らに広く知られていたこと,アクアコラーゲンゲル化粧品に係る上記宣伝・広告等の多くにおいては,「アクアコラーゲンゲル」という商品名の片仮名表記とともに,当該化粧品容器の画像が表記され,その中には,ドクターシーラボ標章の下に「Aqua-Collagen-Gel」の欧文字が組み合わされた標章(引用商標1と実質的に同一の標章)が表示され,更に,その下に,各種の商品ごとに付加された名称(「Super Moisture」など)が表示されていることが認められる。
そして,これらの事実を総合すると,アクアコラーゲンゲル化粧品の商品名を片仮名で表記した「アクアコラーゲンゲル」の標章及び引用商標1は,本件商標の登録査定時(平成26年9月8日)において,申立人が製造,販売するアクアコラーゲンゲル化粧品を表示する商標として,全国のスキンケア化粧品やドクターズコスメの取引者,需要者らの間において広く認識されていたものと認めることができる。
また,商品の製造,販売を行う企業においては,その企業自体の営業標識となるロゴやマーク(いわゆるハウスマーク)を用いるほかに,商品のブランド名を表す商標を用いる場合があり,その中でも,シリーズ商品や一定のカテゴリーに属する複数の商品群に統一的な商標(いわゆるファミリーマーク)を使用した上で,その中の個々の商品について,ファミリーマークに付加して個別の商品を識別するための標章(いわゆるペットマーク)を使用することが一般的に行われており,また,これらのマークを組み合わせて使用することも一般的に行われている(当裁判所に顕著な事実)。そこで,このような取引の実情を踏まえて考察すれば,前記宣伝・広告等におけるアクアコラーゲンゲル化粧品の容器の画像中の標章に接した取引者,需要者らにおいては,その構成中のドクターシーラボ標章については,企業名である「ドクターシーラボ」の欧文字表記に相当する「Dr.Ci:Labo」の文字を含む図形であり,申立人の広告等の中で単独でも用いられていることから,申立人のハウスマークに相当するものとして認識し,また,その下の「Aqua-Collagen-Gel」の欧文字については,アクアコラーゲンゲル化粧品に共通して用いられる「アクアコラーゲンゲル」の商品名を欧文字表記したファミリーマークに相当するものとして認識し,更に,その下の「Super Moisture」などの表示については,アクアコラーゲンゲル化粧品のシリーズにおける個別の商品を識別するためのペットマークに相当するものとして認識し,全体として,これらのマークが組み合わされた商標であると自然に理解するものと考えられる。してみると,引用商標1は,その全体が,申立人の製造,販売するアクアコラーゲンゲル化粧品を表示するというのみならず,その構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分のみをとらえても,アクアコラーゲンゲル化粧品を示すファミリーマークに相当するものとして独立の商品識別機能を果たしているというべきであり,引用商標1及びその構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分は,全国のスキンケア化粧品やドクターズコスメの取引者,需要者らの間において,そのようなものとして認識され,広く知られていたということができる。
2 本件商標と引用商標1及び2の類否について
そこで,以上を踏まえた上で,本件商標と引用商標1及び2との類否について判断する。
(1) 本件商標について
原告は,本件商標の構成中,「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし,これから「アクアコラーゲンゲル」の称呼が生じるとした本件決定の判断は誤りである旨主張するので,以下検討する。
ア 本件商標は,別紙1記載のとおり,上段に欧文字の「Dr.Coo」を,下段に欧文字の「AQUA COLLAGEN GEL」を,それぞれ横書きしてなる結合商標である。
しかるところ,上記「Dr.Coo」の文字と上記「AQUA COLLAGEN GEL」の文字とは,上下二段に分けて表記されている上,前者の文字が後者よりやや大きいこと,前者が大文字と小文字の組合せであるのに対し,後者は大文字のみからなること,両者の文字数の違いにより,両者の文字列全体の幅が大きく異なることといった相違があることからすると,両者は,外観上明瞭に区別して認識されるものといえる。
また,本件商標から生じる観念についてみても,「Dr.Coo」の文字からは,直ちに特定の観念が生じるとは認められず,他方,「AQUA COLLAGENGEL」の文字については,「AQUA」は「水」を,「COLLAGEN」は「コラーゲン(硬たんぱく質の一種)」を,「GEL」は「コロイド溶液がゼリー状に固化したもの」をそれぞれ意味する外国語として一般的に知られていることから,これらを組み合わせた観念が生じることが考えられるが,「Dr.Coo」の文字と結びついた観念が生じるものではないから,両者は,観念の点においても特段の結びつきがあるものではなく,明瞭に区別して認識されるものといえる。
加えて,前記1(2)で述べたとおり,「アクアコラーゲンゲル」の標章及び引用商標1の構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分が,申立人の製造,販売するアクアコラーゲンゲル化粧品を示すものとして,スキンケア化粧品やドクターズコスメに係る全国の取引者,需要者らに広く認識されている事実からすれば,本件商標がその指定商品である「コラーゲンを配合したゲル状の化粧品,コラーゲンを配合したゲル状のせっけん類」に使用された場合,これに接した取引者,需要者が,スキンケア化粧品等の分野において周知な「アクアコラーゲンゲル」の標章や「Aqua-Collagen-Gel」の文字と称呼や欧文字の綴りを共通にする下段の「AQUA COLLAGENGEL」の部分に特に注目することは,自然にあり得ることであるといえる。
以上を総合すれば,本件商標においては,その構成のうち下段の「AQUACOLLAGEN GEL」の文字部分が,取引者,需要者に対し商品の識別標識として強く支配的な印象を与える部分として認識されることがあるというべきであるから,当該部分を本件商標の要部として把握することが可能であり,そこから,「アクアコラーゲンゲル」の称呼が生じるとともに,申立人の製造,販売する人気のシリーズ商品であるアクアコラーゲンゲル化粧品の観念が生じるものと認めることができる。
イ これに対し,原告は,本件商標の構成のうち,下段の「AQUA COLLAGENGEL」の文字部分は,「AQUA」,「COLLAGEN」,「GEL」の各用語の意味からして,全体として指定商品である「コラーゲンを配合したゲル状の化粧品,コラーゲンを配合したゲル状のせっけん類」の品質,原材料を表示したものと認識されるのが自然であるから,自他商品の識別力を有さない旨主張する。
しかしながら,上記アで述べたとおり,本件商標の「AQUA COLLAGENGEL」の文字部分が,スキンケア化粧品等の分野において周知な「アクアコラーゲンゲル」の標章や「Aqua-Collagen-Gel」の文字と称呼や欧文字の綴りを共通にすることからすると,本件商標の当該文字部分に接した取引者,需要者らは,これらの周知な標章等をまずもって想起,連想し,商品の識別標識として当該部分に注目すると考えるのが自然であり,このような想起,連想に至ることなく,「AQUA」,「COLLAGEN」,「GEL」の各用語を分解し,それらの意味の組合せから商品の品質や原材料を表したにすぎないものと理解するようなことは考え難いというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2) 本件商標と引用商標1及び2の対比
ア 上記(1)のとおり,本件商標においては,下段の「AQUA COLLAGEN GEL」の文字部分を要部として把握することが可能であり,そこから,「アクアコラーゲンゲル」の称呼が生じるとともに,申立人の製造,販売する人気のシリーズ商品であるアクアコラーゲンゲル化粧品の観念が生じるものと認められる。
イ 他方,引用商標1は,上段に,リボン状の図形の中に「Dr.Ci:Labo」の欧文字を白抜きで表記したもの(すなわち,ドクターシーラボ標章)を配し,下段に「Aqua-Collagen-Gel」の欧文字を配した結合商標であるところ,このうち下段の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分が,申立人の製造,販売するアクアコラーゲンゲル化粧品を示すファミリーマークに相当するものとして独立の商品識別機能を果たし,そのようなものとして全国の取引者,需要者らの間において広く認識されていることは,前記1(2)で述べたとおりである。したがって,引用商標1においても,下段の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分を要部として把握することが可能であり,そこから,「アクアコラーゲンゲル」の称呼が生じるとともに,申立人の製造,販売する人気のシリーズ商品であるアクアコラーゲンゲル化粧品の観念が生じるものと認められる。
ウ 次に,引用商標2は,リボン状の図形の中に「Aqua-Collagen-Gel」の欧文字を白抜きで配した商標であるところ,これから,上記欧文字部分に対応した「アクアコラーゲンゲル」の称呼が生じることは明らかである。
また,「アクアコラーゲンゲル」の標章及び引用商標1の構成中の「Aqua-Collagen-Gel」の文字部分が,申立人の製造,販売するアクアコラーゲンゲル化粧品を示すものとして,スキンケア化粧品やドクターズコスメに係る全国の取引者,需要者らに広く認識されている事実からすれば,引用商標2からは,申立人の製造,販売する人気のシリーズ商品であるアクアコラーゲンゲル化粧品の観念が生じるものと認められる。
エ そうすると,本件商標と引用商標1及び2とは,いずれも,商標全体の外観においては異なるものの,そこから生ずる称呼及び観念をいずれも共通にする商標であり,取引者,需要者にとって,互いに紛らわしく,その出所について混同を生ずるおそれがあるものといえるから,両商標は,類似する商標というべきである。
3 結論
以上によれば,本件決定が本件商標と引用商標1及び2が類似する商標であると判断したことに誤りはなく,したがって,引用商標1及び2との関係において,本件商標が商標法4条1項11号に該当するとした本件決定にも誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 大西勝滋 裁判官 杉浦正樹)
file_12.jpg別紙