知財高等裁判所 平成28年(行ケ)10114号 判決 2017年5月10日
原告
住友重機械工業株式会社
訴訟代理人弁理士
伊東忠重
山口昭則
大貫進介
加藤隆夫
佐々木定雄
木田博
伊東忠彦
小島誠
被告
ナブテスコ株式会社
訴訟代理人弁護士
竹田稔
磯部健介
鈴木良和
上野潤一
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
特許庁が無効2012-800135号事件について平成28年4月5日にした審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する無効審決の取消訴訟である。争点は,①分割要件に関する判断の適否,②手続違背の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成20年7月11日,発明の名称を「内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置」とする特許出願(甲12。特願2008-181532号。出願日を平成15年3月28日とする特許出願(特願2003-90065号。以下「本件原出願」という。)の分割出願。以下「本件出願」という。)をし,平成21年9月24日に,特許請求の範囲及び明細書についての手続補正(甲8。以下「本件補正」という。なお,発明の名称を「揺動型遊星歯車装置」に補正した。)を行い,平成24年1月6日,設定の登録(特許第4897747号。請求項数2)を受けた(甲28。以下,この特許を「本件特許」という。)。
被告は,平成24年8月29日,特許庁に対し,本件特許の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効にすることを求めて審判の請求をしたところ,原告は,平成25年8月1日,特許請求の範囲及び明細書についての訂正請求をした(甲30)。
特許庁は,上記請求を無効2012-800135号事件として審理をした結果,平成25年10月30日,「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。被告は,同年12月6日,同審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起した(知的財産高等裁判所平成25年(行ケ)第10330号)。
知的財産高等裁判所は,同審決取消訴訟において,平成27年3月11日,本件補正に関する審決の判断には誤りがあることを理由として,同審決を取り消す旨の判決を言い渡した(甲44)。これを受けて,特許庁は,更に審理し,その審理の過程で,原告は,同年4月22日,特許請求の範囲及び明細書についての訂正請求をした(甲39。この訂正を「本件訂正」という。)。
その後,特許庁は,原告に対し,同年7月22日付けで無効理由を通知し(甲40。以下「本件無効理由通知」という。),同年10月15日,審決の予告をした(甲41)。
特許庁は,平成28年4月5日,本件訂正を認めた上で,本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決をし,その審決の謄本は,同月14日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載
本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は,以下のとおりである(甲39。以下,請求項1及び2に記載された発明をそれぞれ「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」といい,併せて「本件訂正発明」という。また,本件訂正後の本件特許の明細書及び図面をまとめて「本件訂正明細書」という。)
【請求項1】
中心部がホロー構造とされ,複数の偏心体軸の各々に配置された偏心体を介して揺動歯車を揺動回転させる揺動型遊星歯車装置において,
ケーシングと,
前記複数の偏心体軸にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車と,
該偏心体軸歯車及び駆動源側のピニオンがそれぞれ同時に噛合する伝動外歯歯車と,
該伝動外歯歯車の回転中心軸と異なる位置に平行に配置されると共に,該駆動源側のピニオンが組込まれた中間軸と,
前記ケーシングの内側で,該ケーシングに回転自在に支持され,当該揺動型遊星歯車装置において減速された回転を出力する出力軸と,
を備え,
前記伝動外歯歯車は,単一の歯車からなり,前記出力軸に軸受を介して支持され,
前記中間軸を回転駆動することにより前記駆動源側のピニオンを回転させ,前記伝動外歯歯車を介して該駆動源側のピニオンの回転が前記複数の偏心体軸歯車に同時に伝達され,
前記駆動源側のピニオン,前記伝動外歯歯車および前記複数の偏心体軸歯車が,同一平面上で噛み合う
ことを特徴とする揺動型遊星歯車装置。
【請求項2】
中心部がホロー構造とされ,複数の偏心体軸の各々に配置された偏心体を介して内歯揺動歯車を揺動回転させる揺動型遊星歯車装置において,
前記複数の偏心体軸にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車と,
該偏心体軸歯車及び駆動源側のピニオンがそれぞれ同時に噛合する伝動外歯歯車と,
該伝動外歯歯車の回転中心軸と異なる位置に平行に配置されると共に,該駆動源側のピニオンが組込まれた中間軸と,
当該揺動型遊星歯車装置において減速された回転を出力する出力軸と,
前記内歯揺動歯車と噛合い,前記出力軸としての機能を兼用する外歯歯車と,
を備え,
前記伝動外歯歯車は,単一の歯車からなり,前記出力軸に軸受を介して支持され,
前記中間軸を回転駆動することにより前記駆動源側のピニオンを回転させ,前記伝動外歯歯車を介して該駆動源側のピニオンの回転が前記複数の偏心体軸歯車に同時に伝達され,
前記駆動源側のピニオン,前記伝動外歯歯車および前記複数の偏心体軸歯車が,同一平面上で噛み合い,
前記中間軸は,当該揺動型遊星歯車装置と連結されるモータのモータ軸と一体的に回転するピニオンと噛合うギヤが組み込まれている
ことを特徴とする揺動型遊星歯車装置。
3 平成27年7月22日付け本件無効理由通知書における無効理由
(1) 分割出願の要件の充足性について
本件訂正発明は,本件原出願に包含されていないから,本件特許に係る出願は分割の要件を満たさないものである。
(2) 新規性欠如
本件出願は,分割要件を満たさないから,出願日は遡及しない。本件訂正発明は,現実の出願日(平成20年7月11日)より前に公開された特開2004-293743号公報(甲23。以下「引用文献」という。)に記載された発明(引用発明1及び2)であるから,新規性を欠き,特許法29条1項3号に該当する。
4 審決の理由の要点
(1) 本件出願の分割要件の適否の判断
本件訂正発明が,本件原出願に包含されているといえるためには,本件原出願の最初に添付された明細書及び図面(以下「本件原出願当初明細書」という。)に記載された事項の範囲内のものといえるか否か,すなわち,本件原出願当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを検討する必要がある。
ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1では,「揺動歯車」として「内歯」であることを限定していないから,揺動歯車として「外歯」であるものを包含している。揺動歯車を「外歯」としたものとしては,外側の内歯歯車を出力歯車とする型(外側に出力軸,内側に固定部材を配置する動作。以下「1型」という。)と,外側の内歯歯車を固定部材とする型(内側に出力軸,外側に固定部材を配置する動作。以下「2型」という。)とがあるところ,本件訂正発明1は,1型を含まず,2型のみを含むと解される。
したがって,本件訂正発明1は,内歯揺動型遊星歯車装置に加え,2型の外歯揺動型遊星歯車装置についても包含している。
イ 本件訂正発明1についての検討
本件原出願当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるというためには,本件原出願当初明細書に記載された事項であるか,そうでないとしても,本件原出願当初明細書の記載から自明な事項である必要がある。
(ア) 本件原出願当初明細書には,外歯揺動型遊星歯車装置に関して言及した記載は一切存在していないとともに,当該「内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置」が「内歯揺動型遊星歯車装置」に限られない「外歯揺動型遊星歯車装置」にも適用されるものであることが理解される手がかりも,全く記載されていないから,「内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置」のみを対象としたものと解するのが自然である。よって,外歯揺動型遊星歯車装置は,本件原出願当初明細書に記載された事項ではない。
(イ) 本件原出願当初明細書の記載から自明な事項とは,本件原出願当初明細書の記載に接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,そこに記載されているのと同然であると理解する事項であり,周知技術又は慣用技術であるというだけでは,足りないと解される。
a 外歯揺動型遊星歯車装置では,揺動体の外側に歯を設けるために,その外形は円形でなければならないし,揺動体は本体ケーシングの内側に設ける歯と噛み合うようにしなければならないところ,本件原出願当初明細書では,揺動体の外形は非円形であり,外歯揺動型にした場合に,揺動体は本体ケーシング102の内側に設ける歯と噛み合うような形状になっていないから,外歯揺動型として機能させることを前提としていないと解するべきである。また,本件原出願当初明細書では,中間軸108及び入力軸104と内歯揺動体116,116Bとが,互いに半径方向に近接した位置で,かつ,軸心L1方向に渡り重なった位置にあり,外歯揺動型にした場合には,揺動体に設けられる外歯と中間軸108及び入力軸104とが干渉してしまうから,この干渉を防ぐために,相応の工夫が必要であるのに,本件原出願当初明細書にはその工夫が何ら記載されていない。
2型の外歯揺動型遊星歯車装置として,原告が案出した「訂正発明1を外歯揺動型遊星歯車装置に適用した場合の模式図」(甲32)は,揺動体に設けられる外歯と中間軸及び入力軸とが干渉しないように,中間軸を外歯揺動歯車の中を貫通させ,かつモータ軸と一体的に回転するピニオン(中間軸のギヤを回転させるもの)を固定部材よりも軸方向で外側(左側)に配置するという,その中間軸から偏心体軸に至るまでの動力伝達系の主要な構成について相応の工夫をして初めて,外歯揺動型遊星歯車装置として機能し得るといえる。
そうすると,出願時の技術常識に照らしても,相応の工夫なく,2型の外歯揺動型遊星歯車装置を機能させることはできないから,これを本件原出願当初明細書に記載されているのと同然であるとすることは緩やかにすぎ,むしろ,2型の外歯揺動型遊星歯車装置は,内接揺動型内接噛合遊星歯車装置を完成した後,すなわち出願後に,その思想を抽出して相応の工夫をすることにより初めて想定し得るものに止まるというべきである。
したがって,たとえ揺動型遊星歯車装置において,ホロー構造,駆動源側のピニオン,伝動外歯歯車,偏心体軸歯車又は中間軸の個々の技術自体が周知技術又は慣用技術であったとしても(甲24,甲31,甲34~37,甲1及び甲5),本件原出願当初明細書の記載に接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,2型の外歯揺動型遊星歯車装置は本件原出願当初明細書に記載されているのと同然であると理解する事項とまではいえない。
b 内歯揺動体が外歯歯車の周りで円滑に揺動駆動されることにより,本件原出願当初明細書に記載された課題のうちの「動力伝達の更なる円滑化を図ることができる内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置を提供すること」が解決されるといえる。そうすると,上記発明が解決しようとする課題に照らせば,課題を解決するための手段において特定されている,外歯歯車と,その周りで揺動する内歯歯車とを備えること(すなわち「内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置」であること。)は,本件原出願当初明細書に記載された発明の本質にかかわる構成であって,必須の構成といえる。そして,当該必須の構成を備えていない「揺動型遊星歯車装置」が,上記課題を解決できるとは,本件原出願当初明細書を精査しても,これを把握することはできない。したがって,当該必須の構成を備えていない「揺動型遊星歯車装置」,すなわち「外歯揺動型遊星歯車装置」は,本件原出願当初明細書に記載されているのと同然であると理解する事項とまではいえない。
c よって,外歯揺動型遊星歯車装置は,本件原出願当初明細書の記載から自明な事項とはいえない。
ウ 以上のことから,外歯揺動型遊星歯車装置を包含する本件訂正発明1は,本件原出願当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。
したがって,本件訂正発明1は,本件原出願当初明細書に記載された事項の範囲内のものとはいえないから,本件訂正発明2について検討するまでもなく,本件出願は,分割の要件を満たさないものである。
(2) 無効理由(新規性欠如)について
本件訂正発明は,いずれも特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであるから,特許法123条1項2号に該当し,本件訂正発明に係る特許は,無効とされるべきものである。
ア 本件出願の出願日について
本件出願は分割の要件を満たさないから,出願日の遡及は認められず,本件出願の願書を提出した平成20年7月11日がその出願日とされる。
イ 本件訂正発明1について
本件訂正発明1は,以下のとおり,引用文献(甲23)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない発明である。
(ア) 引用発明1の認定
「中心部に配管や配線等の配置スペースを容易に確保するためのホローシャフトタイプの出力軸兼用の外歯歯車118を備え,
3本の偏心体軸114(114A~114C)の各々に配置された偏心体140A,140Bを介して内歯揺動体(内歯歯車)116A,116Bを揺動回転させる内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置において,
本体ケーシング102と,
前記3本の偏心体軸114(114A~114C)にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車112と,
前記偏心体軸歯車112及び駆動源側ピニオン130がそれぞれ同時に噛合するリング状の伝動外歯歯車110と,
前記リング状の伝動外歯歯車110の回転中心軸と異なる位置に平行に配置されるとともに,該駆動源側ピニオン130が組込まれた中間軸108と,
前記本体ケーシング102の内側で,該本体ケーシング102に回転自在に支持され,当該内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置において減速された回転を出力する出力軸兼用の外歯歯車118と,
を備え,
前記リング状の伝動外歯歯車110は,単一の歯車からなり,前記出力軸兼用の外歯歯車118に軸受132を介して支持され,
前記中間軸108を回転駆動することにより前記駆動源側ピニオン130を回転させ,前記リング状の伝動外歯歯車110を介して該リング状の伝動外歯歯車110の回転が前記3本の偏心体軸114(114A~114C)にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車112に同時に伝達され,
前記駆動源側ピニオン130,前記リング状の伝動外歯歯車110および前記3本の偏心体軸114(114A~114C)にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車112が,同一平面上で噛み合う
内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置。」
(イ) 本件訂正発明1と引用発明1との対比,判断
「内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置」は,本件訂正発明1の「揺動型遊星歯車装置」に相当し,以下同様に,「3本の偏心体軸114(114A~114C)」は,「複数の偏心体軸」に,「偏心体140A,140B」は,「偏心体」に,「内歯揺動体(内歯歯車)116A,116B」は,「揺動歯車」に,「本体ケーシング102」は,「ケーシング」に,「偏心体軸歯車112」は,「偏心体軸歯車」に,「駆動源側ピニオン130」は,「駆動源側のピニオン」に,「リング状の伝動外歯歯車110」は,「伝動外歯歯車」に,「中間軸108」は,「中間軸」に,「出力軸兼用の外歯歯車118」は,「出力軸」に,「軸受132」は,「軸受」に,「3本の偏心体軸114(114A~114C)にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車112」は,「複数の偏心体軸歯車」に,それぞれ相当する。また,引用発明1の「中心部に配管や配線等の配置スペースを容易に確保するためのホローシャフトタイプの出力軸兼用の外歯歯車118を備え」ることは,本件訂正発明1の「中心部がホロー構造とされ」ていることに相当する。
そうすると,本件訂正発明1と引用発明1とは,全ての点で一致し,相違点はないから,本件訂正発明1は引用発明1である。
ウ 本件訂正発明2について
本件訂正発明2は,以下のとおり,引用文献(甲23)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない発明である。
(ア) 引用発明2の認定
「中心部に配管や配線等の配置スペースを容易に確保するためのホローシャフトタイプの出力軸兼用の外歯歯車118を備え,
3本の偏心体軸114(114A~114C)の各々に配置された偏心体140A,140Bを介して内歯揺動体(内歯歯車)116A,116Bを揺動回転させる内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置において,
前記3本の偏心体軸114(114A~114C)にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車112と,
前記偏心体軸歯車112及び駆動源側ピニオン130がそれぞれ同時に噛合するリング状の伝動外歯歯車110と,
前記リング状の伝動外歯歯車110の回転中心軸と異なる位置に平行に配置されるとともに,該駆動源側ピニオン130が組込まれた中間軸108と,
当該内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置において減速された回転を出力する出力軸兼用の外歯歯車118と,
前記内歯揺動体(内歯歯車)116A,116Bと噛合い,出力軸としての機能を兼用する前記外歯歯車118と
を備え,
前記リング状の伝動外歯歯車110は,単一の歯車からなり,前記出力軸兼用の外歯歯車118に軸受132を介して支持され,
前記中間軸108を回転駆動することにより前記駆動源側ピニオン130を回転させ,前記リング状の伝動外歯歯車110を介して該リング状の伝動外歯歯車110の回転が前記3本の偏心体軸114(114A~114C)にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車112に同時に伝達され,
前記駆動源側ピニオン130,前記リング状の伝動外歯歯車110および前記3本の偏心体軸114(114A~114C)にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車112が,同一平面上で噛み合い,
前記中間軸108は,当該内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置と連結されるモータMのモータ軸と一体的に回転するピニオン104Aと噛み合うギヤ128が組み込まれている
内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置。」
(イ) 本件訂正発明2と引用発明2との対比,判断
引用発明2の「内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置」は,本件訂正発明2の「揺動型遊星歯車装置」に相当し,以下同様に「3本の偏心体軸114(114A~114C)」は,「複数の偏心体軸」に,「偏心体140A,140B」は,「偏心体」に,「内歯揺動体(内歯歯車)116A,116B」は,「内歯揺動歯車」に,「偏心体軸歯車112」は,「偏心体軸歯車」に,「駆動源側ピニオン130」は,「駆動源側のピニオン」に,「リング状の伝動外歯歯車110」は,「伝動外歯歯車」に,「中間軸108」は,「中間軸」に,「出力軸兼用の外歯歯車118」は,「出力軸」に,「軸受132」は,「軸受」に,「3本の偏心体軸114(114A~114C)にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車112」は,「複数の偏心体軸歯車」に,「モータM」は,「モータ」に,「モータ軸」は,「モータ軸」に,「ピニオン104A」は,「ピニオン」に,「噛み合うギヤ128」は,「噛合うギヤ」に,それぞれ相当する。また,引用発明2の「中心部に配管や配線等の配置スペースを容易に確保するためのホローシャフトタイプの出力軸兼用の外歯歯車118を備え」ることは,本件訂正発明2の「中心部がホロー構造とされ」ていることに相当する。
そうすると,本件訂正発明2と引用発明2とは,全ての点で一致し,相違点はないから,本件訂正発明2は引用発明2である。
第3原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(分割要件に関する判断の誤り)
本件訂正発明1は,本件原出願当初明細書に記載された事項の範囲内のものであるにもかかわらず,審決は誤って,本件出願は分割要件を満たさないと判断したものであり,その誤りは,審決の結論に影響するものであるから,審決は取り消されるべきものである。
(1) 本件訂正発明1は,回転駆動する中間軸から複数の偏心体軸に至る動力伝達系に関する発明であり,内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置とは,揺動歯車が揺動する点で同じである。また,揺動歯車を揺動させるのは偏心体の回転によるものであり,偏心体の回転は偏心体軸の回転によるものであるという構成も,内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置において同じである。さらに,中間軸に組み込まれた駆動源側のピニオンから伝動外歯歯車及び偏心体軸歯車を介して偏心体軸に至る動力伝達系は,揺動歯車に至る前の動力伝達系であり,揺動歯車が外歯であるか内歯であるかに依存せず,内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置において共通する。したがって,回転駆動する中間軸から,偏心体を介して揺動歯車を揺動回転させる,複数の偏心体軸に至る動力伝達系に関する本件訂正発明1は,本件原出願当初明細書に記載された事項に対し,新たな技術的事項を導入するものではない。
本件原出願の出願当時において,揺動型遊星歯車装置として,内歯揺動型遊星歯車装置も外歯揺動型遊星歯車装置もよく知られている装置であり,本件訂正発明1が属する技術分野の当業者は,内歯揺動型遊星歯車装置及び外歯揺動型遊星歯車装置の基本的な構成や,両者に共通する技術についても熟知していた。
したがって,当業者は,本件訂正発明1を外歯揺動型遊星歯車装置に適用する場合は,本件原出願当初明細書に記載されている内歯揺動型遊星歯車装置の構造から出発し,当該内歯揺動型遊星歯車装置の各部材を設計変更して外歯揺動型遊星歯車装置を得るなどということはしない(審決は,本件原出願当初明細書の図2に記載の内歯揺動歯車を外歯揺動歯車に設計変更する場合を想定していると思われる。)。当業者であれば,揺動する歯車が内歯であるか外歯であるかを問わない共通の技術である駆動源側のピニオンから偏心体軸に至るまでの動力伝達系に関する発明を把握し,元々技術常識として有している外歯揺動型遊星歯車装置の基本的構成をベースとする(甲45)。また,本件原出願当初明細書には,固定軸は外側(ケーシングを固定部材)とする場合しか記載されていないから,本件訂正発明1を外歯揺動型遊星歯車装置に適用する場合も,当業者は,当然に,固定軸は外側で,出力軸は内側である外歯揺動型遊星歯車装置に適用する。このように,当業者は,外歯揺動型遊星歯車装置の基本的な構成に関する知識を備えているので,被告が説明するような複雑な変更を繰り返すことはなく,本件訂正発明1を,元々技術常識として有している外歯揺動型遊星歯車装置に直接適用するので,新規事項の追加はない。
よって,本件訂正発明1は本件原出願当初明細書に記載された事項の範囲内のものであるから,本件出願は分割の要件を満たすものである。
(2) 審決は,まず,当初明細書に記載された事項の範囲内のものといえるか否かの判断は,新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを検討することとし,新たな技術的事項を導入しないものであるというためには,本件原出願当初明細書に記載された事項であるか,そうでないとしても,本件原出願当初明細書の記載から自明な事項である必要があるとし,さらに,本件原出願当初明細書の記載から自明な事項とは,本件原出願当初明細書の記載に接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,そこに記載されているのと同然であると理解する事項であり,周知技術又は慣用技術であるというだけでは足りないと解される,とする。このように,審決は,「当初明細書に記載された事項の範囲内のものといえるか否か」の判断は,具体的に,「新たな技術的事項を導入しないものであるか否か」を検討することなく,他の手法を用いて,適切とはいえない内容で判断したために,本件訂正発明1が新たな技術的事項を導入しないものであるにもかかわらず,新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえないという誤った結論を導いた。審決は,内歯揺動型遊星歯車装置が記載されている本件原出願当初明細書に対し,回転駆動する中間軸から,偏心体を介して,揺動歯車を揺動回転させる複数の偏心体軸に至る動力伝達系に関する本件訂正発明1は,当初明細書の記載事項に対し,新たな技術的事項を導入するものではないか否かについて直接判断をしていないのである。
また,審決は,相応の工夫が必要であることを前提に,2型の外歯揺動型遊星歯車装置は,動力伝達系の主要な構成について相応の工夫をして初めて,外歯揺動型遊星歯車装置として機能し得るといえるところ,本件原出願の当初明細書にはその工夫が記載されていないなどと判断している。しかし,この判断は,本件訂正発明1の構成要件(発明特定事項)とどのような関係があるのか理解することができない。外歯揺動型に関する技術常識を有する当業者であれば,外歯揺動型に関する技術常識をベースに,本件訂正発明1の揺動歯車を外歯揺動歯車として外歯揺動型遊星歯車装置(甲32,33)を認識できるので,当初明細書の図2に記載の内歯揺動歯車を外歯揺動歯車に設計変更することは考えない。さらに,審決は,本件訂正発明1が解決しようとする課題に照らせば,内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置は,本件原出願当初明細書に記載された発明の本質にかかわる構成であって,必須の構成といえるから,当該必須の構成を備えていない「揺動型遊星歯車装置」が,上記課題を解決できるとは,本件原出願当初明細書から把握することはできないと判断した。しかし,「必須の構成」という考えは,根拠のないものであり,このような独自の考えに基づいて判断を行った審決は適切とはいえない。
(3) 以上のとおり,本件出願は,分割要件を満たす適法な出願であるから,その出願日は,本件原出願の出願日である平成15年3月28日に遡及する。したがって,本件出願は分割要件を満たさないから,出願日の遡及は認められず,本件出願の願書を提出した平成20年7月11日がその出願日とされるとの審決の判断は誤りである。そして,その結果,本件訂正発明が特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない発明であると判断されているから,上記誤りは,審決の結論に影響を及ぼすものである。審決には違法があるから,取り消されるべきである。
なお,本件訂正発明1が引用発明1であり,本件訂正発明2が引用発明2であるとの審決の認定は争わない。
2 取消事由2(手続違背)
審決においては,本件無効理由通知書(甲40)及び審決の予告(甲41)で判断された,本件訂正発明1を2型の外歯揺動型遊星歯車装置に適用した場合についての項目はなくなり,新たに「相応の工夫が必要」か否かの判断,「必須の構成」を備えているか否かの判断がされた。このように,審決によって判断された無効理由は,本件無効理由通知書及び審決の予告とは大きく異なるものであったにもかかわらず,分割要件の充足に関し,「相応の工夫が必要」か否か,「必須の構成」を備えているか否かの判断について,原告の意見は全く求められなかった。
その結果,原告(被請求人)に不利な審理結果を招来したことは,実質的に,特許法153条2項の「審判長は,前項の規定により当事者又は参加人が申し立てていない理由について審理をしたときは,その審理の結果を当事者及び参加人に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならない。」との規定に違反する。また,審決の予告の内容と審決の内容とが著しく異なるのは,審決をするのに熟していないにもかかわらず審決の予告をしたことに起因するといえるから,特許法164条の2の「審判長は,特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合において,審判の請求に理由があると認めるときその他の経済産業省令で定めるときは,審決の予告を当事者及び参加人にしなければならない。」との規定に違反する。
したがって,審決には手続違背があるから,取り消されるべきである。
さらに,本件無効理由通知書(甲40)において通知された無効理由は,分割要件違反に起因した出願日の遡及が認められない結果,本件訂正発明1は,引用発明1(本件原出願の公開公報に記載された発明)により新規性を失い,特許法29条1項3号違反となるというものである。分割要件を充足するか否かの判断は,本件訂正発明1が本件原出願当初明細書に記載された事項の範囲内であるか否かについて,新たな技術的事項が導入されていないか否かを判断するものである。これに対し,被告が主張した無効理由1は,本件補正により,請求項1に係る発明は,当初明細書に記載されていない発明を含むものとなっているから,本件補正は,当初明細書の記載の範囲を超える不適法なものである,というものであり,当初明細書に記載された事項の範囲内であるか否かは,通常,新たな技術的事項が導入されていないか否かで判断されるから,結局,本件無効理由通知書で通知された無効理由と被告が主張した無効理由1とは,審理事項としては実質的に同じになる。しかも,審判便覧(甲46)に示されている,無効理由の存否に係る職権審理の裁量権の発動に関する事例のいずれにも該当しないように見受けられる。そうすると,審判便覧によると職権審理の発動は本来必要のないものであったと思われるし,審決と審決の予告とは内容が著しく異なっていることからも,審決は,特許庁の審判事件に関する内部運用ルールである「審判便覧」の内容からも逸脱したものであるといえる。
第4被告の主張
1 取消事由1(分割要件に関する判断の誤り)について
内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置とでは,そもそも,揺動歯車の歯の向きの違いに呼応して,①揺動歯車自体の大きさ・形状・配置位置・数,それを配置するための軸受の位置・支持部材,②揺動歯車と噛み合うことにより減速した動力を抽出する部材(出力部材)の配置位置・形状・大きさ,③揺動歯車を揺動させる偏心体の配置位置,それに対応する偏心体軸歯車の配置,④偏心体軸歯車を回転させるための中間軸やピニオンの配置位置,形状といった減速機の基本的構成部材の構造,形状,配置位置関係が全く異なっており,内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置とは装置の具体的な構成において明らかに異なっている。このような基本的構造の違いのため,装置の具体的な構成の発明においては,本件原出願当初明細書に記載された技術事項との関係において新たな技術的事項の導入の有無を検討するに当たっては,そのような装置の具体的な構成を離れて,極めて抽象的に,内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置との共通点を後から考えて挙げてみたところで全く無意味である。
本件原出願当初明細書に記載されている内歯揺動型遊星歯車装置の具体的な構成を外歯揺動型遊星歯車装置に適用する場合には,その構成部材である揺動歯車を内歯から外歯に変更する必要があるところ,変更後の当該外歯揺動歯車と噛み合うのは外側の内歯歯車であるため,当該外側の内歯歯車が出力軸となることになる(甲44参照)けれども,そもそも,本件訂正発明1においては,審決も指摘するとおり,外側の部材は非円形の別の装置に固定されている固定部材であるので,そのような転換自体がそもそも発想できず,結局のところ,外歯揺動型遊星歯車装置に適用すること自体ができない。
仮に,百歩譲って,当業者が無理やり本件原出願当初明細書に記載された内歯揺動型遊星歯車装置を外歯揺動型遊星歯車装置に転用したとしても,伝動歯車は内歯となることが論理的であり,本件訂正発明1のように伝動歯車を外歯とするような構成とはならない。本件原出願当初明細書に記載された発明から本件訂正発明1に到達するためには,①内歯揺動型を外歯揺動型に変更する,②本来であれば内歯であるはずの伝動歯車を外歯に変更する,③伝動歯車の位置を偏心体軸歯車の外側から内側に変更する,④固定側部材と出力軸とを入れ替える,という4段階ものステップを経る必要があるのであり,いずれについても本件原出願当初明細書には示唆すらもないのであるから,本件訂正発明1が本件原出願当初明細書に実質的に記載されているとはいえない。
審決は,本件出願当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるといえるか否かを判断している。原告は,審決の判断における言い換えを問題としているけれども,法的な解釈を行うに当たりその意義を解釈した上で,判断を行うことは通常の手法であって,審決の判断手法については,何ら問題はない。したがって,原告の主張は理由がない。
本件原出願当初明細書には,「中間軸を外歯揺動歯車の中に貫通させること」や「モータ軸と一体的に回転するピニオン(中間軸のギヤを回転させるもの)を固定部材より軸方向で外側に配置する」ことは全く記載も示唆もされていないところ,「中間軸を外歯揺動歯車の中に貫通させること」は,揺動回転する歯車に穴をあけて,その中に動力を伝達する軸を入れる構成であり,到底基本的な構成といえるようなものなどではない。また,必須の構成にしても,審決は,外歯揺動型遊星歯車装置が本件原出願当初明細書の記載から自明な事項か否かを判断する過程において,本件原出願当初明細書に記載された発明の課題等との記載との関係において必須の構成(本質的な構成)であると認定しているにすぎず,審決の判断過程にそれ以上の根拠が必要になるものはでない。
以上のとおり,審決がした分割出願の要件の充足性の判断に誤りはなく,本件出願の出願日の遡及は認められないから,本件出願の出願日は平成20年7月11日となる。審決の新規性の判断に誤りはない。
2 取消事由2(手続違背)について
本件無効理由通知書(甲40)による無効理由は,前記のとおり,本件出願が,分割の要件を満たさず,出願日が本件原出願の出願日まで遡及せずに願書提出日の平成20年7月11日となることを前提として,本件原出願の公開公報(甲23)に基づく新規性の欠如による特許法29条1項3号違反の無効をいうものである(以下「本件無効理由」という。)。これに対し,被告(審判請求人)が本件無効審判において主張した無効理由は,①本件補正の新規事項の追加違反,②進歩性欠如である。
したがって,審判長は,本件無効審判において当事者が申し立てていない本件無効理由を審理しており,特許法153条2項に該当するところ,本件無効理由について,審判長は,原告(被請求人)に対し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与え,これに対し,原告は意見書を提出して実質的な意見を申し立てているのであるから,審判手続に特許法153条2項違反はない。
また,本件無効理由通知,審決の予告及び審決における3つの無効理由は,無効理由を導く論理が,いずれも「新たな技術的事項を導入するものであるか否か」を判断するものであって全く共通であり,審決では,この論理を「相応の工夫の必要性」及び「必須の構成」を検討することで補足しているにすぎない。原告は,審決が指摘する「相応の工夫の必要性」及び「必須の構成」を問題としているけれども,そもそも,特許法29条1項3号違反の具体的な事実でないばかりか,無効理由を導く論理でもなく,単なる判断を補足する事情にすぎないから,特許法153条2項の「当事者が申し立てない理由」には該当しない。
また,本件審判は審決をするのに熟していたから,特許法164条の2違反は全くないし,そもそも,審判手続が審判便覧に反するとの原告の主張は,特許庁の運用ルールである「審判便覧」との関係を指摘するにすぎず,原告が取消事由2として主張する特許法153条2項違反や特許法164条の2違反を構成するものではない。
よって,取消事由2は理由がない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(分割要件に関する判断の誤り)について
(1) 本件原出願当初明細書(甲23)の記載
ア 本件原出願当初明細書の特許請求の範囲には,次の記載がある。
【請求項1】
外歯歯車と該外歯歯車と僅少の歯数差を有する内歯歯車とを有すると共に,前記内歯歯車を揺動回転させるための偏心体軸を備え,該偏心体軸に配置された偏心体を介して外歯歯車の周りで内歯歯車を揺動回転させる内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置において,
前記偏心体軸を,前記外歯歯車の軸心と平行に複数備えると共に,
該複数の偏心体軸にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車と,
該偏心体軸歯車及び駆動源側のピニオンがそれぞれ同時に噛合する伝動外歯歯車と,を備え,
該伝動外歯歯車を介して前記駆動源側のピニオンの回転が前記複数の偏心体軸歯車に同時に伝達される
ことを特徴とする内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置。
【請求項2】
請求項1において,
前記伝動外歯歯車がリング状に形成され,且つ,前記外歯歯車または出力軸のいずれかの外周によって回転支持されている
ことを特徴とする内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置。
なお,本件原出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項3ないし請求項7の末尾は,いずれも「ことを特徴とする内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置。」である。
イ 本件原出願当初明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来,内接噛合遊星歯車装置は,大トルクの伝達が可能であり且つ大減速比が得られるという利点があるので,種々の減速機分野で数多く使用されている。
【0003】
その中で,外歯歯車の周りで該外歯歯車と僅少の歯数差を有する内歯揺動体を揺動回転させることにより,入力軸の回転を減速して出力部材から取り出す内歯揺動型の内接噛合遊星歯車装置が知られている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
図4,図5を用いて同歯車装置の一例を説明する。
【0005】
図において,1はケーシングであり,互いにボルトやピン等の締結部材(図示略)を締結孔2に挿入することにより結合される第1支持ブロック1Aと第2支持ブロック1Bとを有する。5は入力軸で,入力軸5の端部にはピニオン6が設けられ,ピニオン6は,入力軸5の周りに等角度に配設された複数の偏心体軸歯車(偏心体軸駆動用の歯車)7と噛合している。
【0006】
ケーシング1には,3本の偏心体軸10が,円周方向に等角度間隔(120度間隔)で設けられている。この偏心体軸10は,軸方向両端を軸受8,9によって回転自在に支持され且つ軸方向中間部に偏心体10A,10Bを有する。前記伝動歯車7は各偏心体軸10の端部に結合されており,入力軸5の回転を受けて該伝動歯車7が回転することにより,各偏心体軸10が回転するようになっている。
【0007】
各偏心体軸10は,ケーシング1内に収容された2枚の内歯揺動体12A,12Bの偏心体孔11A,11Bをそれぞれ貫通しており,各偏心体軸10の軸方向に隣接した2段の偏心体10A,10Bの外周と,内歯揺動体12A,12Bの貫通孔の内周との間にはころ14A,14Bが設けられている。
【0008】
一方,ケーシング1内の中心部には,出力軸20の端部に一体化された外歯歯車21が配されており,外歯歯車21の外歯23に,内歯揺動体12A,12Bのピンからなる内歯13が噛合している。外歯歯車21の外歯23と内歯揺動体12A,12Bの内歯13の歯数差は僅少(例えば1~4程度)に設定されている。
【0009】
この歯車装置は次のように動作する。
【0010】
入力軸5の回転は,ピニオン6を介して偏心体軸歯車7に与えられ,偏心体軸歯車7によって偏心体軸10が回転させられる。偏心体軸10の回転により偏心体10A,10Bが回転すると,該偏心体10A,10Bの回転によって内歯揺動体12A,12Bが揺動回転する。内歯揺動体12A,12Bはその自転が拘束されているため,該内歯揺動体12A,12Bの1回の揺動回転によって,該内歯揺動体12A,12Bと噛合する外歯歯車21はその歯数差だけ位相がずれ,その位相差に相当する自転成分が外歯歯車21の(減速)回転となり,出力軸20から減速出力が取り出される。
【0011】
ところで,この種の内歯揺動型の内接噛合遊星歯車装置は,内歯揺動体を揺動させるための偏心体軸は必ずしも円周方向において等間隔に配置する必要はなく,また偏心体軸の全てが駆動される必要はなく,一部は従動回転するものであっても良い。例えば,図5に示されるように,非駆動の偏心体軸50Aを含むと共に,各偏心体軸50A~50Cを円周方向において非等間隔に配置した構造や,図6に示されるように,わずか2本の偏心体軸60A,60Bのみで内歯揺動体62を揺動駆動するようにした構造が,例えば特許文献2等において開示されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,上記特許文献1に開示された歯車装置では,円周方向に等間隔で配置した3つの偏心体軸歯車7を1つの入力軸5(のピニオン6)で回転させる関係上,入力軸が出力軸と同軸に配置されていることから,歯車装置全体を貫通するホローシャフトを有するように設計するのが困難であるという問題があった。例えば産業用ロボットの関節駆動用の歯車装置や,精密機械の駆動用の歯車装置として用いる場合には,歯車装置を介して相手機械(被駆動機械)側にワイヤハーネスや冷却水用のパイプを通したいというような要求がしばしば生じることがある。このような場合に,入力軸を貫通孔とするには,該入力軸に接続されるモータ等の駆動源をも貫通孔とする必要があることを意味し,事実上大きなホローシャフトを形成するのは不可能に近かった。更に,敢えてホローシャフトにしたとしても,高速で回転する入力軸の内部に空間を形成することになることから,例えばワイヤハーネスや冷却水用のパイプ等を空間内に配置するには,該入力軸の内周との間に別途軸受等で回転しないように保持した防護パイプを配備する必要があり,この面でも大きな空間を確保するのが難しく,またコストも上昇するという問題があった。
【0014】
この点に関しては,特許文献2に記載したような,偏心体軸を円周方向において非等間隔に配置する構成を採用すると,必ずしも入力軸を出力軸と同軸に配置しなくてもよくなるため,より大きな径のホローシャフトを形成することができるようになる。しかしながら,この偏心体軸を円周方向において非等間隔に配置する構造によって内歯揺動体を駆動した場合,現実問題として,通常の製造工程による製造で作製したものでは内歯揺動体を外歯歯車の周りでバランス良く円滑に揺動させるのが難しいと問題があった。そのため各部材を特別に高い精度で加工し,組立てる必要があった。
【0015】
本発明は,このような課題を解決するためになされたものであって,使用用途に応じて装置の中心部に配管や配線等の配置スペースを容易に確保することができると共に,動力伝達の更なる円滑化を図ることができる内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は,外歯歯車と該外歯歯車と僅少の歯数差を有する内歯歯車とを有すると共に,前記内歯歯車を揺動回転させるための偏心体軸を備え,該偏心体軸に配置された偏心体を介して外歯歯車の周りで内歯歯車を揺動回転させる内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置において,前記偏心体軸を,前記外歯歯車の軸心と平行に複数備えると共に,該複数の偏心体軸にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車と,該偏心体軸歯車及び駆動源側のピニオンがそれぞれ同時に噛合する伝動外歯歯車と,を備え,該伝動外歯歯車を介して前記駆動源側のピニオンの回転が前記複数の偏心体軸歯車に同時に伝達されるように構成することにより,上記課題を解決したものである。なお,本発明において「僅少の歯数差」とは1~6程度の歯数差をいう。
【0017】
本発明によれば,駆動源側ピニオンの軸心を,伝導外歯歯車の半径方向外側位置にずらすことができることから,結果として入力軸(あるいは駆動源の出力軸)の軸心を出力軸の軸心から外すことができる。そのため,入力軸や駆動源についてはホロー構造とする必要がないため,出力軸に大径のホローシャフトを容易に形成することができる。特に,(高速で回転する)入力軸をホロー構造とする必要がないため,歯車装置の中心部に形成される空間の内壁の回転速度を非常に遅くでき,別途防護パイプ等を敢えて配置する必要もない。そのため,より大きな空間をより低コストで確保することができるようになる。
【0018】
また,全ての偏心体軸を「等しく駆動する」ことができるようになるため,内歯揺動体をバランスよく且つ円滑に揺動駆動することができる。
【0019】
なお,より好ましくは,前記伝動外歯歯車がリング状に形成され,且つ,前記外歯歯車または出力軸のいずれかの外周によって回転支持されている構成とするとよい。これにより,大径のホローシャフトを形成する場合でも支障なく且つ容易に伝導外歯歯車を装置内に組み込むことができるようになる。
【0023】
また,本発明においては,伝導外歯歯車を具体的にどのように駆動するかについては特に限定されない。この点については,例えば,前記出力軸と平行で且つ前記内歯揺動体の半径方向外側位置に,前記駆動源側のピニオンが組み込まれた中間軸を備え,該中間軸を回転駆動することにより前記駆動源側のピニオンを介して前記伝動外歯歯車を駆動するように構成するとよい。或いは,入力軸に組み込まれたピニオンが,前記駆動源側のピニオンとして前記伝動外歯歯車と直接噛合・駆動するような構成としてもよい。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下,本発明の実施形態の例を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1,図2は,本発明の実施形態の例に係る内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置(以下,単に歯車装置と称す。)100を示した図であり,図1は歯車装置100の側断面図,図2は図1におけるII-II線に沿う断面図である。
file_2.jpgror 8 i € iawn ea a OO | | otaldieton! vE =【0026】
この歯車装置100は,本体ケーシング102,入力軸104,平行軸歯車セット106,中間軸108,伝動外歯歯車110,偏心体軸駆動用の歯車(偏心体軸歯車)112,該偏心体軸駆動用の歯車112によって駆動される三本の偏心体軸114(114A~114C),2つの内歯揺動体(内歯歯車)116A,116B,及び出力軸としての機能を兼用する外歯歯車118によって主に構成されている。
【0027】
即ち,この歯車装置100は,内歯揺動体116A,116Bを揺動回転させるための複数の偏心体軸114を内歯揺動体116A,116Bを貫通して3本備え,入力軸104の回転を該複数の偏心体軸114A~114Cに振り分けて伝達することにより全偏心体軸114A~114Cを同位相で回転させるものである。
【0028】
既に説明した従来例と大きく異なるのは入力軸104から偏心体軸114A~114Cまでの動力伝達構造及び歯車装置全体のケーシング構造である。そのため,以下この点について詳細に説明する。
【0029】
前記本体ケーシング102は,図1において左右に配置された,2つの第1,第2ケーシング102A,102Bによって構成されている。この第1,第2ケーシング102A,102Bには,図2に示されるように,これらを貫通するように複数のボルト孔102A1がそれぞれ形成されている。該第1,第2ケーシング102A,102Bは,互いにボルト(図示略)によって結合可能な構造となっている。
【0030】
この本体ケーシング102には,前記入力軸104が図1において横向き,即ち外歯歯車(出力軸)と平行に配置され,軸受120,122により回転自在に支持されている。入力軸104の一端側(図の左側)には,ピニオン104Aが形成されており,他端にはモータM(具体的な図示は省略)の出力軸が挿入される挿入口104Bが形成されている。
【0031】
本体ケーシング102には,入力軸104ほかに,内歯揺動体116A,116Bよりも半径方向外側位置に,外歯歯車(出力軸)118と平行に前記中間軸108が配置され,テーパーローラベアリング124,124によって回転自在に支持されている。中間軸108にはピニオン104Aと噛合して平行軸歯車セット106を構成するギヤ128が組み込まれており,さらに,中間ピニオン(本実施形態での駆動源側ピニオン)130が組み込まれている。
【0032】
一方,外歯歯車(出力軸)118の外周には,軸受132を介してリング状の伝動外歯歯車110が該外歯歯車118と同軸に配置されている。この伝動外歯歯車110には,前記中間ピニオン108及び,3本の偏心体軸114A~114Cにそれぞれ組み込まれた偏心体軸駆動用の歯車112が同時に噛合している。即ち,伝動外歯歯車110は,前記中間ピニオン130を介して中間軸108と連結されると共に,偏心体軸駆動用の歯車112を介して全偏心体軸114A~114Cのそれぞれとも連結されていることになる。
【0033】
偏心体軸114A~114Cは,同一の円周上で等間隔に配置され(図2参照),それぞれテーパーローラベアリング136,136によって両持ち支持されている。各偏心体軸114A~114Cとも内歯揺動体116A,116Bの偏心体孔116A1,116B1を軸方向に貫通している。各偏心体軸114A~114Cには偏心体140A,140Bが一体に組み込まれており,3本の偏心体軸114が同位相で同時に同方向に回転できように各偏心体軸114A~114Cの偏心体140A,140Bの位相が揃えられている。又,2枚の内歯揺動体116A,116Bはこの偏心体140A,140Bとの摺動により,それぞれ互いに180°の位相差を保ちながら揺動回転可能である。なお,図の符号119は,当該2枚の内歯揺動体116A,116Bの軸方向の移動規制を行うための差し輪である。
【0034】
内歯揺動体116A,116Bには,ホローシャフトタイプの出力軸兼用の外歯歯車118が内接している。外歯歯車118は配管や配線等を貫通可能な貫通孔118Dを有する略円筒形状の部材からなり,テーパーローラベアリング142,142を介してケーシング本体102に回転自在に支持されている。
【0035】
外歯歯車118の外歯は外ピン118Pが溝118Hに回転自在に組み込まれた構造になっている。外ピン118Pの数(外歯の歯数)は90で,内歯揺動体116A,116Bの内歯92の歯数より2だけ小さい(僅少の歯数差)。この外歯歯車118は,本体118A,端部部材118B,118Cの3つの部材からなる。これは,端部部材118B,118Cの段部118B1,118C1によって前記テーパーローラベアリング142,142の組込み及びその軸方向の位置決めを可能とするためである。
【0036】
次にこの歯車装置100の作用を説明する。
【0037】
モータMの図示せぬモータ軸の回転によって入力軸104が回転すると,この回転は,ピニオン104A及びギヤ128を介してその初段の減速が行われ,中間軸108に伝達される。中間軸108が回転すると,該中間軸108に組み込まれた中間ピニオン130が回転し,更にこれと噛合している伝動外歯歯車110が回転する。
【0038】
伝動外歯歯車110には同時に偏心体軸駆動用の歯車112が噛合しているため,該伝動外歯歯車110の回転によりこれらの歯車112が回転する。その結果,3本の偏心体軸114A~114Cが同位相で回転し,これにより2つの内歯揺動体116A,116Bがそれぞれの位相を180°に保った状態で外歯歯車118の周りを揺動回転する。内歯揺動体116A,116Bは,その自転が拘束されているため,該内歯揺動体116A,116Bの1回の揺動回転によって,該内歯揺動体116A,116Bと噛合する外歯歯車118はその歯数差だけ位相がずれ,その位相差に相当する自転成分が外歯歯車110の回転となり,出力が外部へ取り出される。偏心体軸114が円周方向等間隔に配置されており,しかも全ての偏心体軸114が駆動されるため,内歯歯車116A,116Bを極めて円滑に揺動させることができる。
【0039】
ここで,本発明の実施形態の例に係る歯車装置100によれば,内歯揺動体116A,116Bよりも半径方向外側位置に,外歯歯車(出力軸)118と平行に前記中間軸108を配置し,入力軸104の回転を,一度中間軸108で受けた後に揺動体側に入力するようにしている。そのため,入力軸104を,従来のように歯車装置100の軸心L1上にではなく,半径方向外側に移動した位置に配置することができるようになる。この結果,装置全体の軸方向長さを短縮できる。
【0045】
なお,上記実施形態の例においては,前記入力軸104,204を外歯歯車(出力軸)118,218の軸心L1に対して平行に配置したが,本発明はこれに限定されず,入力軸を偏心体歯車の軸心に対して直角に配置し,直交軸歯車機構を付設する構成としてもよい。この場合,歯車装置を駆動するモータ等の駆動装置をも歯車装置の径方向に配置することができ,特に軸方向において一層の省スペース化を図ることが可能となる。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば,使用用途に応じて装置の中心部に配管や配線等の配置スペースを容易に確保することができると共に,動力伝達の更なる円滑化を図ることができる内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置を得ることができる。
(2) 前記(1)によれば,本件原出願当初明細書に記載された事項は,内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置に関するものであって,本件原出願当初明細書には外歯揺動型遊星歯車装置に関する記載は全くないのに対し,本件出願における本件訂正発明1は,「揺動型遊星歯車装置」に関するものとすることで,揺動体の揺動歯車を内歯とする限定はないものであるから,揺動体の揺動歯車が外歯であるもの(外歯揺動型遊星歯車装置)を含ませるものであると認められる。もっとも,本件原出願の出願前に刊行された各特許公報(甲25~27)によれば,内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置とに共通する技術(以下「共通技術」という。),すなわち,偏心体を介して揺動回転する歯車が内歯であるか外歯であるかには依存しない技術があることは周知の事項であると認められ,当業者であれば,揺動型遊星歯車装置の個々の形式に依存する技術と,形式には依存しない共通技術があることを,知識として有しているものといえる。
そこで,本件原出願当初明細書に揺動体の揺動歯車を内歯とする以外の歯車装置へ適用することなどについての記載がないとしても,本件訂正発明1が,本件原出願当初明細書に記載された事項の範囲内といえるか,すなわち本件原出願当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるかについて,以下,検討する。
(3) まず,前記(1)によれば,本件原出願当初明細書に記載された発明の技術的課題は,従来技術の内歯揺動型遊星歯車装置が有する,①歯車装置において,円周方向に等間隔で配置した3つの偏心体軸歯車を1つの入力軸(のピニオン)で回転させる関係上,入力軸が出力軸と同軸に配置されていることから,歯車装置全体を貫通するホローシャフトを有するように設計するのが困難であるという問題,及び②偏心体軸を円周方向において非等間隔に配置する構成を採用すると,必ずしも入力軸を出力軸と同軸に配置しなくてもよくなるため,より大きな径のホローシャフトを形成することができるようになるところ,この偏心体軸を円周方向において非等間隔に配置する構造によって内歯揺動体を駆動した場合,現実問題として,通常の製造工程による製造で作製したものでは内歯揺動体を外歯歯車の周りでバランス良く円滑に揺動させるのが難しいという問題を解決するため,使用用途に応じて装置の中心部に配管や配線等の配置スペースを容易に確保することができるとともに,動力伝達の更なる円滑化を図ることができる内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置を提供することにあるものと把握することができる。そして,その従来技術における課題の解決方法として,内歯揺動型遊星歯車装置を前提に,「外歯歯車と該外歯歯車と僅少の歯数差を有する内歯歯車とを有すると共に,前記内歯歯車を揺動回転させるための偏心体軸を備え,該偏心体軸に配置された偏心体を介して外歯歯車の周りで内歯歯車を揺動回転させる内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置において,前記偏心体軸を,前記外歯歯車の軸心と平行に複数備えると共に,該複数の偏心体軸にそれぞれ組込まれた偏心体軸歯車と,該偏心体軸歯車及び駆動源側のピニオンがそれぞれ同時に噛合する伝動外歯歯車と,を備え,該伝動外歯歯車を介して前記駆動源側のピニオンの回転が前記複数の偏心体軸歯車に同時に伝達されるように構成する」という技術が開示されており(【0016】),上記構成を採用することにより,駆動源側ピニオンの軸心を,伝導外歯歯車の半径方向外側位置にずらすことができることから,結果として入力軸(あるいは駆動源の出力軸)の軸心を出力軸の軸心から外すことができ,出力軸に大径のホローシャフトを容易に形成することができる,特に,(高速で回転する)入力軸をホロー構造とする必要がないため,歯車装置の中心部に形成される空間の内壁の回転速度を非常に遅くできるし,別途防護パイプ等を敢えて配置する必要もないため,より大きな空間をより低コストで確保することができるようになる(【0017】),さらに,全ての偏心体軸を「等しく駆動する」ことができるようになるため,内歯揺動体をバランスよく,かつ,円滑に揺動駆動することができる(【0018】),という効果を得ることができるとされている。
本件原出願当初明細書に記載された技術的課題のうち,前記②に関しては,偏心体軸が円周方向において非等間隔に配置されることにより生じるものであり,内歯揺動体が外歯歯車の周りで円滑に揺動駆動することにより解決されるものであるから,課題を解決する手段として,外歯歯車とその周りで揺動する内歯歯車を備えること,すなわち内歯揺動型遊星歯車装置であることが,本件原出願当初明細書に記載された発明の前提であるといえる。なお,外歯揺動型遊星歯車装置では,揺動体は,その外周面に外歯が設けられるものであることから必然的にその外形は円形とならざるを得ないものであり,偏心体軸を非等間隔にしても揺動体の外周の形状は円形のままで変わらず,装置全体の形状や他の軸の配置等には何ら影響を及ぼすものではないから,偏心体軸を非等間隔とする技術的意義はない(本件原出願当初明細書に記載された課題は,偏心体軸を非等間隔に配置することにも技術的意義を有する内歯揺動型遊星歯車装置に特有のものであり,外歯揺動型遊星歯車装置においてはそもそも課題とならないものである。)。
このように,本件原出願当初明細書の全体の記載からすると,同明細書に開示された技術は,従来の内歯揺動型遊星歯車装置における問題を解決すべく改良を加えたものであって,その対象は内歯揺動型遊星歯車に関するものであると解するのが相当であり,外歯揺動型遊星歯車装置を含むように一般化された共通の技術的事項を導くことは困難であるといわざるを得ない。
また,本件原出願当初明細書の特許請求の範囲,発明の詳細な説明(実施例を含む。)及び図面には,外歯歯車118を出力軸とする内歯揺動型遊星歯車装置のみが記載され,内歯揺動型遊星歯車装置について終始説明されているのに対し,本件原出願当初明細書に記載された技術が,揺動体の形態に関わらない共通技術であること,外歯揺動型遊星歯車装置に適用することが可能であることやその際の具体的な実施形態,その他の周知技術の適用が可能であること等についての記載や示唆は全くないのであるから,本件原出願当初明細書の記載に接した当業者であっても,同明細書に記載された発明の技術的課題及び解決方法の趣旨に照らし,内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置に共通した課題及びその解決方法が開示されていると認識するものではないと解される。
(4) さらに,本件訂正発明1について検討するに,証拠(甲5,24,30)及び弁論の全趣旨によれば,揺動型遊星歯車装置には,外歯揺動型と内歯揺動型があること,それぞれの型において,出力部材と固定部材とは相対関係にあり,入れ替え自在であること自体は,周知技術であると認められるところ,外歯揺動型遊星歯車装置については,外側の内歯歯車を出力歯車とする1型(外側に出力軸を,内側に固定部材を配置するもの)と外側の内歯歯車を固定部材とする2型(内側に出力軸を,外側に固定部材を配置するもの)の2つの型が想定されるものと認められる。本件訂正発明1は,「前記ケーシングの内側で,該ケーシングに回転自在に支持され,当該揺動型遊星歯車装置において減速された回転を出力する出力軸と,を備え,」とされており,上記ケーシングは固定部材であるといえるから,本件訂正発明1には,外歯揺動型遊星歯車装置については2型のもののみが含まれ,1型は含まれないものと認められる(下図参照)。
file_3.jpgBred ene ee) aren (neee) ‘ee An mote — motte mote 12 OMMICH eh, AIC RE) 2 (AIC eh, SMA EBT)もっとも,本件原出願当初明細書には,「出力軸としての機能を兼用する外歯歯車118によって」(【0026】),「内歯揺動体116A,116Bには,ホローシャフトタイプの出力軸兼用の外歯歯車118が内接している。」(【0034】),「内歯揺動体116A,116Bは,その自転が拘束されているため,該内歯揺動体116A,116Bの1回の揺動回転によって,該内歯揺動体116A,116Bと噛合する外歯歯車118はその歯数差だけ位相がずれ,その位相差に相当する自転成分が外歯歯車110(判決注:「118」の誤記と認められる。)の回転となり,出力が外部へ取り出される。」(【0038】)などの記載があり,これらの記載によれば,本件原出願当初明細書に記載された実施例については揺動体の内歯歯車に噛合する外歯歯車118が出力軸として機能する内歯揺動型内接噛合遊星歯車装置が記載されている一方で,本件原出願当初明細書には固定部材と出力歯車が入れ替え可能であり,出力軸を固定部材に変更することができる旨の記載はないのであるから,同実施例を前提として外歯揺動型遊星歯車装置とする場合には,揺動体に設けられる外歯歯車に噛合する内歯歯車が出力軸となるのであって,出力軸が外側になり,内側に固定部材が配置される型を想定することが自然であるといえる。したがって,本件原出願当初明細書に記載された事項から,固定部材と出力軸を入れ替えた2型の外歯揺動型遊星歯車装置を想起することは考え難い。
また,本件原出願当初明細書に記載された内歯揺動型遊星歯車装置においては,内歯揺動体は内周面に内歯歯車を設けることから,その内周の形状は,必然的に円形となる。しかしながら,外周面については,複数の偏心体軸を支持することができる限りにおいて,自由な形状を採り得るものであるから,本件訂正発明1の中間軸を設けるに際して,内歯揺動体との干渉を考慮する必要はないものであり,実施例においても,揺動体の外周を非円形の形状として,その外側に中間軸を配置する構成を採用している。さらに,中間軸への入力は,中間軸の外側に入力軸を配置して行うことで装置全体の軸方向長さを短縮していることが認められる。これに対し,外歯揺動体は,その外周の全周にわたって連続的に外歯を有するものであって,必然的にその外形は円形となるものであるから,2型の外歯揺動型遊星歯車装置に適用する形態では,「該伝動外歯歯車の回転中心軸と異なる位置に平行に配置されると共に,該駆動源側のピニオンが組込まれた中間軸」を備え,「前記中間軸を回転駆動することにより前記駆動源側のピニオンを回転させ,前記伝動外歯歯車を介して該駆動源側のピニオンの回転が前記複数の偏心体軸歯車に同時に伝達され,前記駆動源側のピニオン,前記伝動外歯歯車および前記複数の偏心体軸歯車が,同一平面上で噛み合う」構成を,その外形が円形である外歯揺動体を構成要素とする外歯揺動型遊星歯車装置において実現することを要するものである。
しかしながら,本件原出願当初明細書に記載された実施例である内歯揺動型遊星歯車装置を前提として,さらに,固定部材と出力軸を入れ替えた2型の外歯揺動型遊星歯車装置とする場合には,必然的にその外形が円形となる外歯揺動体と中間軸との間に干渉を生じることとなるから,そのままでは中間軸を配置することはできないことになる。本件訂正発明1を2型の外歯揺動型遊星歯車装置に適用するには,揺動体と中間軸との干渉を避けるための設計変更(揺動体に中間軸を通すための孔を形成すること)や,中間軸への入力を他の部材との干渉を避けつつ行うための設計変更等を要することとなるのに対し,本件原出願当初明細書には,外歯揺動型遊星歯車装置に適用する場合の具体的な実施形態,その他の周知技術の適用が可能であることなどについての記載や示唆は全くない。
したがって,偏心体を介して揺動回転する歯車が内歯であるか外歯であるかには依存しない共通技術があることが周知の事項であるとしても,当業者は,本件原出願当初明細書の記載から,2型の外歯揺動型遊星歯車装置を含む本件訂正発明1を想起することはないものと解される。
(5) 以上によれば,本件訂正発明1は,本件原出願当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において,新たな技術的事項を導入することに当たらないということはできず,本件原出願当初明細書に記載した事項の範囲内であるとはいえないから,本件原出願に包含された発明であると認めることはできない。
よって,本件出願は,分割出願の要件を満たさない旨の審決の判断に誤りはない。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,本件訂正発明1は,回転駆動する中間軸から複数の偏心体軸に至る動力伝達系に関する発明であり,内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置においては,揺動歯車が揺動すること,揺動歯車を揺動させるのは偏心体の回転によるものであり,偏心体の回転は偏心体軸の回転によること,さらに,中間軸に組み込まれた駆動源側のピニオンから伝動外歯歯車及び偏心体軸歯車を介して偏心体軸に至る動力伝達系が共通するものであるから,回転駆動する中間軸から,偏心体を介して揺動歯車を揺動回転させる,複数の偏心体軸に至る動力伝達系に関する本件訂正発明1は,本件原出願当初明細書に記載された事項に対し,新たな技術的事項を導入するものではない旨主張する。
しかしながら,共通技術があることが周知の事項であるとしても,本件原出願当初明細書の記載から,2型の外歯揺動型遊星歯車装置を含む本件訂正発明1を想起することはなく,本件原出願当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において,新たな技術的事項を導入することに当たらないということはできず,本件原出願当初明細書に記載された事項の範囲内であるとはいえないのは,前記のとおりである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,本件原出願の出願当時において,揺動型遊星歯車装置としての内歯揺動型遊星歯車装置も外歯揺動型遊星歯車装置もよく知られている装置であり,本件訂正発明1が属する技術分野の当業者は,内歯揺動型遊星歯車装置及び外歯揺動型遊星歯車装置の基本的な構成や,共通技術が存在することについて熟知していたから,当業者が,本件訂正発明1を外歯揺動型遊星歯車装置に適用する場合は,本件原出願当初明細書に記載されている内歯揺動型遊星歯車装置の構造から出発し,当該内歯揺動型遊星歯車装置の各部材を設計変更して外歯揺動型遊星歯車装置を得るなどということはしないし,揺動する歯車が内歯であるか外歯であるかを問わない共通技術である駆動源側のピニオンから偏心体軸に至るまでの動力伝達系に関する発明を把握し,元々技術常識として有している外歯揺動型遊星歯車装置の基本的構成をベースとして(甲45),被告が説明するような複雑な変更を繰り返すことはなく,当然に,本件訂正発明1を,固定軸は外側で,出力軸は内側である外歯揺動型遊星歯車装置に適用するので,新規事項の追加はない旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,本件原出願当初明細書に接した当業者であっても,本件原出願当初明細書に記載された発明の技術的課題及び解決方法の趣旨に照らすと,内歯揺動型遊星歯車装置と外歯揺動型遊星歯車装置に共通した課題及びその解決方法が開示されていると認識するものではなく,本件原出願当初明細書の記載から,外歯揺動型遊星歯車装置を読み取ることはできない。
したがって,本件原出願当初明細書に開示された実施例である内歯揺動型遊星歯車装置を前提とするのが自然であるから,外歯揺動型遊星歯車装置を出発点とするとの原告の上記主張は採用することができない。偏心体を介して揺動回転する歯車が内歯であるか外歯であるかには依存しない共通技術があることが周知の事項であるとしても,本件原出願当初明細書の記載から,2型の外歯揺動型遊星歯車装置を含む本件訂正発明1を想起することはないと認められるのは前記のとおりである。
ウ 原告は,審決は,「当初明細書に記載された事項の範囲内のものといえるか否か」の判断について,具体的に,「新たな技術的事項を導入しないものであるか否か」を検討することなく,他の手法を用いて,適切とはいえない内容で判断したために,本件訂正発明1が新たな技術的事項を導入しないものであるにもかかわらず,新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえないという誤った結論を導いたなどと主張する。
しかしながら,審決は,本件訂正発明1が本件原出願当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において,新たな技術的事項を導入することに当たらないとはいえないと判断しており,その判断に誤りはないのは前記のとおりであるから,原告の上記主張は審決の結論を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
エ 原告は,審決が,相応の工夫や必須の構成などに基づいて,不適切な判断をした旨主張する。
しかしながら,審決は,本件訂正発明1が本件原出願当初明細書の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において,新たな技術的事項を導入することには当たらないとはいえないと判断しており,その判断に誤りはないのは前記のとおりであるから,原告の上記主張は審決の結論を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(7) 以上によると,本件出願の出願日をその現実の出願日である平成20年7月11日と認定した審決に誤りはない。したがって,引用文献(本件原出願の公開公報(甲23))を引用例として,本件訂正発明の新規性に関する判断をし,本件訂正発明は,いずれも特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであるから,特許法123条1項2号に該当し,本件特許は無効とされるべきであるとした審決にも誤りはない。
2 取消事由2(手続違背)について
(1) 原告は,審決が判断した無効理由は,本件無効理由通知書及び審決の予告とは大きく異なるものであったにもかかわらず(審決は,本件無効理由通知書(甲40)及び審決の予告(甲41)で判断されていない事項(「相応の工夫が必要」か否か,「必須の構成」を備えているか否か)について判断をした。),「相応の工夫が必要」か否か,「必須の構成」を備えているか否かについて,原告の意見は全く求められず,原告(被請求人)に不利な審理結果を招来したことは,実質的に,特許法153条2項の規定に違反する旨主張する。
そこで,検討するに,特許法153条2項は,審判において当事者が申し立てない理由について審理したときは,審判長は,その審理の結果を当事者に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならないと規定している。これは,当事者の知らない間に不利な資料が集められて,何ら弁明の機会も与えられないうちに心証が形成されるという不利益から当事者を救済するための手続を定めたものであると解される。このような特許法153条2項の趣旨に照らすと,審判長が当事者に対し意見を申し立てる機会を与えなければならない「当事者が申し立てない理由」とは,新たな無効理由の根拠法条の追加,主要事実の差し替えや追加等,不利な結論を受ける当事者にとって不意打ちとなり予め告知を受けて意見を述べる機会を与えなければ手続上著しく不公平となるような重大な理由がある場合のことを指し,当事者が本来熟知している周知技術の指摘や間接事実及び補助事実の追加等の軽微な理由はこれに含まれないと解される。
本件において,本件無効理由通知及び審決の予告の判断内容と審決の判断内容を比較すると,審決には,「相応の工夫」や「必須の構成」といった,本件無効理由通知及び審決の予告には記載されていなかった判断が追加されていることが認められる。しかしながら,審決の上記判断事項は,根拠法条や主要事実の変更ではなく,それまで審判手続の中で当事者双方の争点となっていた,本件出願が分割要件を満たすものであるか否か(本件訂正発明1が本件原出願当初明細書に記載した範囲内のものであり,本件原出願に包含された発明であるか)を判断する際に,その理由付けの一つとして判断された事項であり,審決は,上記争点を判断の過程における理由について審決の予告を補足したにすぎないものと解される。
そして,審決の予告及び審決において,本件特許を無効とする理由は,本件訂正発明に係る特許についての出願が,分割の要件を満たすものではなく,出願日は本件原出願の出願日に遡及しないものであるところ,本件訂正発明は,本件出願前に頒布された刊行物である本件原出願の特許公開公報に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の規定に違反するものであり,特許法123条1項2号に該当し,無効とされるべきものである,というものであって,両者に異なるところはなく,この無効理由は,本件無効理由通知により当事者に対し通知されたものと同一のものである。
このように,審決の理由中に,本件無効理由通知及び審決の予告にはなかった新たな判断内容が追加されるなどしたとしても,審決の上記判断内容は,本件出願のような分割出願が分割の要件を満たすものであるかの判断の過程における理由を補足するものであり,「当事者の申し立てない理由」には当たらないと解されるから,改めて無効理由が通知されなかったことをもって,特許法153条2項の規定に違反する違法があったということはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は,審決の予告の内容と審決の内容とが著しく異なるのは,審決をするのに熟していないにもかかわらず審決の予告をしたことに起因するといえるから,特許法164条の2の「審判長は,特許無効審判の事件が審決をするのに熟した場合において,審判の請求に理由があると認めるときその他の経済産業省令で定めるときは,審決の予告を当事者及び参加人にしなければならない。」との規定に違反する旨主張する。
しかしながら,本件審判の手続において,原告が主張する特許法153条2項に違反する違法がないことは前記のとおりであり,審判長は,審理の内容・経過に照らし,審決をするのに熟したものと判断し,審決の予告をしたものと認められる。そして,審決の無効理由についての判断に誤りがないことも前記のとおりであり,審決の予告に関する原告の上記主張についても,審決を取り消すべき違法なものであるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 原告は,審判体が職権による無効理由通知で通知した本件無効理由と,審判請求人である被告が申し立てた無効理由1とは,本件訂正発明1が本件原出願当初明細書に記載された事項の範囲内であるか否かについて,新たな技術的事項が導入されていないかを判断するものであり,審理事項としては実質的に同じであるから,審判請求人である被告の主張する無効理由とは別に,職権で無効理由通知を通知して,それについて審理を行ったことは,不適切である旨主張する。
しかしながら,審判請求人である被告が申し立てた無効理由1は,本件補正は,当初明細書の記載の範囲を超える不適法なものであるから,特許法17条の2第3項に違反するものである,というものであるのに対し,本件無効理由は,本件出願が分割要件を満たさないものであるから,出願日が遡及せず,本件原出願の特許公開公報に記載された発明(引用発明)により,本件訂正発明が新規性を欠き,特許法29条1項3号に該当する,というものである。そうすると,無効理由1と本件無効理由とは,その根拠法条が異なる上,その判断対象及び内容も異なるものであるから,審判請求人である被告が申し立てなかった理由について審理がされているものと認められる。
そして,特許法153条2項は,審判において当事者が申し立てない理由について審理したときには,審判長は,その審理の結果を当事者に通知し,相当の期間を指定して,意見を申し立てる機会を与えなければならないと規定しているところ,本件においては,審判長が,職権により,本件無効理由通知により本件無効理由を通知し,当事者に意見を申し立てる機会を与えた上で,審決をしているのであるから,審決に取り消すべき違法があるとはいえない。その他,原告の主張を検討しても,審判手続の適法性に影響を及ぼすものであるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。
第6結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
(裁判長裁判官 清水節 裁判官 中島基至 裁判官 岡田慎吾)