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知財高等裁判所 平成28年(行ケ)10192号 判決 2017年4月24日

原告

訴訟代理人弁護士

窪田英一郎

柿内瑞絵

乾裕介

今井優仁

中岡起代子

石原一樹

訴訟代理人弁理士

加藤ちあき

被告

一般社団法人ISD個性心理学協会

訴訟代理人弁護士

飯田圭

外村玲子

佐竹勝一

訴訟代理人弁理士

北原絵梨子

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が無効2015-890090号事件について平成28年7月4日にした審決を取り消す。

第2事案の概要

1  本件商標

被告は,次の商標の商標権者である(甲1)。

(1)  登録番号

第5727870号

(2)  登録商標(商標の構成)

file_2.jpg—fRttRiAAISDMEDE SRS(3)  指定商品及び指定役務

ア 第16類「衛生手ふき,紙製タオル,紙製テーブルナプキン,紙製手ふき,紙製ハンカチ,印刷したくじ(「おもちゃ」を除く。),紙類,文房具類,印刷物,書画」

イ 第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作における演出」

(4)  出願日

平成26年7月25日

(5)  登録日

平成26年12月19日

2  特許庁における手続の経緯等

(1)  原告は,平成27年11月9日,特許庁に対し,本件商標は商標法4条1項11号,10号,15号,19号,7号に該当するとして,本件商標の登録を無効とすることを求めて,審判(無効2015-890090号事件)を請求した。

(2)  特許庁は,平成28年7月4日,請求不成立の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月14日,原告に送達された。

(3)  原告は,平成28年8月10日,本件審決を不服として,その取消しを求める本件訴訟を提起した。

3  審決の理由

本件審決の理由の要旨は,次のとおりである。

(1)  引用商標

ア 登録第4993149号商標

同商標(以下「引用商標1」という。)は,「個性心理学」の文字を標準文字により表してなり,平成15年9月1日に登録出願,別紙指定商品・役務目録記載1のとおり,第9類,第16類,第38類,第41類及び第45類に属する商品及び役務を指定商品及び指定役務として同18年9月1日に登録審決,同年10月6日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。

イ 「個性心理學研究所」の文字よりなる商標

同商標(以下「引用商標2」という。)は,原告(請求人)が,同人の業務に係る商品「印刷物」や,役務「知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」に使用していると主張するものである。

ウ 登録第4785142号商標

同商標(以下「引用商標3」という。)は,次のとおり,特徴的な文字で一部デザイン化された「個 性」,「心理学」及び「研究所」の各文字を3段に表してなり,平成15年9月1日に登録出願,別紙指定商品・役務目録記載2のとおり,第9類,第16類,第28類,第35類,第38類,第41類,第42類及び第45類に属する商品及び役務を指定商品及び指定役務として同16年6月8日に登録査定,同年7月9日に設定登録され,その後,同26年5月13日に商標権の存続期間の更新登録がされ,現に有効に存続しているものである。

file_3.jpg(2)  「個性心理学」及び「個性心理學」の語について

「個性心理学(個性心理學)」の語は,引用商標1が登録出願された平成15年9月1日のはるか以前から「個人差を扱う心理学。ないしは,個人差を研究対象とする心理学」を意味する心理学の一分野の学問の名称として使用されており,現在においても,心理学の一分野の学問の名称として使用されている。

したがって,「個性心理学(個性心理學)」の語は,「個人差を扱う心理学。ないしは,個人差を研究対象とする心理学」の意味を有する学問の普通名称である(引用商標1である「個性心理学」及び引用商標2の構成中の「個性心理學」の語は,原告の創作した創造標章であるとの原告の主張は採用することができない。)。

(3)  引用商標1及び2の周知性について

引用商標1及び2が,原告の取り扱う商品「印刷物」や,役務「知識の教授」や「セミナーの企画・運営又は開催」の出所を表示する商標として具体的に使用されている事実は,提出された証拠から認めることができない。

したがって,引用商標1及び2は,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)において,我が国の取引者,需要者の間で広く認識され周知になっていたということはできない。

(4)  商標法4条1項11号について

ア 本件商標と引用商標1との類否判断

本件商標は,一体的に把握され,「イッパンシャダンホウジンアイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じ,特定の観念は生じない造語よりなるものである(商標として取引の実際において使用される場合には,「一般社団法人」の語が省略されて,「ISD個性心理学協会」の語が分離抽出されることはあるが,前記(2)に照らせば,ここから更に「個性心理学」の語が分離抽出され,この語が自他商品・役務の識別標識として取引に資されることはない。)。

そして,「ISD個性心理学協会」の部分が分離観察される場合には,「アイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じ,特定の観念は生じない造語よりなると認識されるものである。

これに対して,引用商標1は,「個性心理学」の文字を標準文字により表してなり,これより「コセイシンリガク」の称呼,「個人差を扱う,ないしは個人差を研究対象とする心理学」との観念が生じるものである。

そこで,本件商標と引用商標1を比較すると,外観においては,明らかに相違する構成からなるから,明確に区別できるものであり,称呼においては,本件商標から生じる「イッパンシャダンホウジンアイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」及び「アイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」の称呼と,引用商標1から生じる「コセイシンリガク」の称呼は,その構成音及び構成音数に顕著な差異があるから,明瞭に聴別できるものであって,また,本件商標からは特定の観念が生じないのに対し,引用商標1からは「個人差を扱う,ないしは個人差を研究対象とする心理学」の観念が生じるものであるから,観念において,相違するものである。

してみれば,本件商標と引用商標1とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても,明確に区別できる非類似の商標というべきである。

イ 本件商標と引用商標3との類否判断

本件商標は,一体的に把握され,「イッパンシャダンホウジンアイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じ,特定の観念は生じない造語よりなるものである。

そして,「ISD個性心理学協会」の部分が分離観察される場合には,「アイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じ,特定の観念は生じない造語よりなると認識されるものである。

これに対して,引用商標3は,特徴的な文字で一部デザイン化された「個性」「心理學」「研究所」の文字を3段に表示してなるものであるが,まとまりよく一体的に構成されており,これより,「コセイシンリガクケンキュウジョ」の称呼が生じ,「個性心理学についての研究を行う組織・施設」との観念が生じるものである。

そこで,本件商標と引用商標3を比較すると,外観においては,明らかに相違する構成からなるから,明確に区別できるものであり,称呼においては,本件商標から生じる「イッパンシャダンホウジンアイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」及び「アイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」の称呼と,引用商標3から生じる「コセイシンリガクケンキュウジョ」の称呼は,その構成音及び構成音数に顕著な差異があるから,明瞭に聴別できるものであって,また,本件商標からは特定の観念が生じないのに対し,引用商標3からは「個性心理学についての研究を行う組織・施設」の観念が生じるものであるから,観念において,相違するものである。

してみれば,本件商標と引用商標3とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても,明確に区別できる非類似の商標というべきである。

ウ 小括

以上によれば,本件商標は,商標法4条1項11号に該当しない。

(5)  商標法4条1項10号について

前記(3)のとおり,引用商標1及び2が,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)において,我が国の取引者,需要者の間で広く認識され周知になっていたということはできない。

引用商標2を構成する「個性心理學研究所」は,一体的に把握され,「コセイシンリガクケンキュウジョ」の称呼が生じ,「個性心理学についての研究を行う組織・施設」との観念が生じるものである。

そうとすれば,本件商標と引用商標2とは,その外観において相違し,それらから生じる「イッパンシャダンホウジンアイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」ないしは「アイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」との称呼と「コセイシンリガクケンキュウジョ」との称呼において顕著な差があり,観念において類似するということはできないものであって,本件商標と引用商標2とは類似する商標ということはできない。

また,本件商標と引用商標1とが類似しないことは,前記(4)アのとおりである。

したがって,本件商標は,商標法4条1項10号に該当しない。

(6)  商標法4条1項15号について

前記(3)のとおり,引用商標1及び2が,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)において,我が国の取引者,需要者の間で広く認識され周知になっていたということはできないものである。

そして,本件商標は,引用商標1及び2と類似しない別異のものである。

してみれば,本件商標をその指定商品及び指定役務について使用しても,これに接する取引者,需要者が,該商品及び役務が原告又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように誤認することはなく,その出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。

したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当しない。

(7)  商標法4条1項19号について

引用商標1及び2は,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)において,我が国の取引者,需要者の間で広く認識され周知になっていたということはできず,本件商標は,引用商標1及び2と類似しないものである。

そして,本件商標権者が本件商標を,不正の目的をもって使用するとすべき証拠及び事情は認められない。

したがって,本件商標は,商標法4条1項19号に該当しない。

(8)  商標法4条1項7号について

本件商標は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成のものとはいえず,これをその指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものともいえず,他の法律によって,その商標の使用等が禁止されているものともいえず,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反するものでもなく,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような特別の事情があるともいえない。

したがって,本件商標が商標法4条1項7号に該当するということはできない。

4  取消事由

(1)  「個性心理学(學)」の語が普通名称であるとの認定の誤り(取消事由1)

(2)  引用商標1及び2の周知性の認定の誤り(取消事由2)

(3)  本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り(取消事由3)

(4)  本件商標の商標法4条1項10号該当性の判断の誤り(取消事由4)

(5)  本件商標の商標法4条1項15号該当性の判断の誤り(取消事由5)

(6)  本件商標の商標法4条1項19号該当性の判断の誤り(取消事由6)

(7)  本件商標の商標法4条1項7号該当性の判断の誤り(取消事由7)

第3取消事由に関する当事者の主張

1  取消事由1(「個性心理学(學)」の語が普通名称であるとの認定の誤り)について

(原告の主張)

(1) 本件審決は,「個性心理学」の語は「個人差を扱う心理学。ないしは,個人差を研究対象とする心理学」を意味する普通名称であると認定したが,その根拠として本件審決が挙げた証拠(甲261,262,264の1~甲273〔審判乙1,2,4~13〕)の大半は,今から30年以上も前の古い文献など,相当過去の事情を示すものにすぎず,本件商標について出願・登録がなされた時期(平成26年)に「個性心理学」が普通名称等であったことを示す証拠とはなり得ない。比較的最近の文献で「個性心理学」について言及しているものは,僅かに,小学館の大辞泉(甲261,268〔審判乙1,8〕)や日本国語大辞典(甲269~271〔審判乙9~11〕),平成20年に発表された学術報告書(甲273〔審判乙13〕)にとどまるところ,これらの僅かな文献のみをもって,本件商標の登録時に「個性心理学」が普通名称であったと認めることはできない。

(2) 翻って最近の辞典や心理学に関する文献を検討するに,広辞苑は平成3年発行の第4版から,大辞林(三省堂)は昭和63年発行の第1版から「個性心理学」の語を,項目を立てて説明しておらず,心理学の分野で用いられる用語を説明する一般的な辞典(甲213~218。有斐閣の心理学辞典,朝倉書店の現代心理学[理論]辞典,丸善の心理学辞典など。いずれも平成11年以降に発行。)のいずれにも「個性心理学」を説明する項目は存在しない。臨床心理学,社会心理学など,個々の心理学の分野での用語を解説した辞典(甲219~229。八千代出版の臨床心理学辞典,有斐閣の社会心理学小事典増補版など。いずれも平成11年以降に発行。)においても「個性心理学」の項目はない。

(3) 仮に「個性心理学」が本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)又は登録査定時(同年12月19日)に普通名称であったとしても,それは,自然・社会科学的な裏付けが要求され,大学等の高等教育機関によって学生や専門家を対象に提供される学問や研究対象としての心理学という極めて限られた範囲のことであるから,本件商標の指定商品及び指定役務の如何にかかわらず,これら全てとの関係において「個性心理学」を普通名称であるとするのは誤っている。

(4) なお,最近の学術論文の中には,「個性心理学」に関する論文は存在しない。すなわち,ウェブサイト「J-STAGE」(国内外の学術論文等を網羅的に検索できるサイト)において「個性心理学」をキーワードに検索しても,ヒットする学術論文はほとんどが明治43年(1910年)ないし昭和5年(1930年)頃のものであり,最も新しい文献も昭和31年(1956年)と,今から50年以上も前の文献である。また,検索エンジン「Google」で「個性心理学」をキーワードとして検索をしても,原告の「個性心理学」に係るウェブサイトか,被告の「ISD個性心理学」に係るウェブサイトしか出てこず,学問としての「個性心理学」に係るウェブサイトは出てこない。

(5) 以上のとおり,本件審決において引用された証拠は,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)において「個性心理学」が普通名称であったことを示す証拠とはなり得ず,かえって,「個性心理学」が普通名称等でなかったことを示す証拠が多数存在していたにもかかわらず,「個性心理学」は普通名称であるとした本件審決の認定は誤りである。

(被告の主張)

(1) 「個性心理学」の語は,甲261~273(審判乙1~13)として被告が提出した書籍等に加え,乙1(国語大辞典・昭和63年発行)及び乙2(大辞泉・平成7年発行)として提出する辞書においても紹介され,さらには,乙3(大辞泉第2版・平成24年発行)及び乙4(広辞苑第6版・平成20年発行)のように,近年発行され,公衆の閲覧に付されている辞書類においても継続して説明がなされているのであり,仮に,本件審決において引用された証拠のいくつかの発行時期が古いものであるとしても,そのことのみをもって「個性心理学」が心理学の一分野の学問の普通名称であるという事実は否定されない。

むしろ,これらの証拠は,「個性心理学」が広く一般に頒布される複数の辞書や書籍において,過去から現在に至るまで継続して,心理学の一分野の学問として紹介,説明されてきたことを示すものである。

(2) 原告は,心理学の分野で用いられる用語を説明する辞書において「個性心理学」の説明が見当たらないとし,これを理由に,「個性心理学」が(学問の)普通名称とはいえないと主張するが,当該主張に関連して原告が提出する証拠(甲213~229)は,いずれも一般大衆向けに発行・頒布されている資料ではない。そもそも,本件において「個性心理学(個性心理學)」の標章が心理学の一分野の学問の普通名称であるか否か,又は,学問の普通名称であると理解されるか否かについては,本件商標及び引用商標1ないし3の指定商品及び指定役務の需要者である一般大衆を基準に判断されるべきである。しかるところ,広く一般大衆向けに頒布され,参照されている辞書類において,過去から現在に至るまで,継続して「個性心理学」の語が心理学の一分野の学問として明確に説明されてきたことは,上記(1)のとおりであるから,仮に一部の専門書において「個性心理学」の項目が設けられていないとしても,そのことのみをもって「個性心理学」の語が心理学の一分野の学問の普通名称であることや,一般大衆をしてそのように理解されることは否定されない。

(3) 上記(2)と同様の理由により,「仮に『個性心理学』が本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)又は登録査定時(同年12月19日)に普通名称であったとしても,それは,自然・社会科学的な裏付けが要求され,大学等の高等教育機関によって学生や専門家を対象に提供される学問や研究対象としての心理学という極めて限られた範囲のことである」との原告主張も,何ら合理性がない。

また,仮に,心理学の一分野として存在する既存の学問としての「個性心理学(個性心理學)」それ自体を知らない者がいて,そのような者が市場において「個性心理学(個性心理學)」の標章を目にしたとしても,飽くまでこれを心理学の一分野の学問の普通名称として認識・理解するにとどまるという点に変わりはない。

なぜなら,人は,これまで目にしたことのない語に接した場合,通常は,当該用語を構成する各文字が既知のものであれば,既知の構成文字の意味に着目した上で,語全体の意味を看取・理解するのが通常である。ここで,「個性心理学(個性心理學)」の構成文字のうち,「個性」の語は“個人に具わり,他の人とは違う,その個人にしかない性格・性質”を意味する一般的な語であり,一方,「心理学(心理學)」は“人の心の働き,もしくは人や動物の行動を研究する学問”の普通名称であって,いずれの語も,我が国の一般大衆において,前記の意味をもって広く知られ日常的に用いられている語である。そうとすれば,これらの文字を組み合わせた「個性心理学(個性心理學)」の語に接した者は,そこから「人間個人に具わった性格や性質に着目し,人の心の働きや行動を研究する学問」の如き意味を自然かつ直ちに理解し,当該理解に基づき,「個性心理学(個性心理學)」の語を,心理学の一分野の学問の普通名称であると理解する。

特に,心理学はその研究分野が多岐に及び,また,各研究分野の名称には共通して「○○心理学」という名称が使用され,かつ○○の部分には,研究の対象となる分野を簡潔に説明,記述する語が付加されて使用されているという実情がある(例えば,「社会心理学」,「認知心理学」,「文化心理学」など。)。かかる実情に鑑みれば,「個性心理学(個性心理學)」の文字を目にした者は,これを,研究分野が多岐にわたる心理学の一分野の学問の普通名称,すなわち,これを,人間個人に具わった性格や性質に着目し,人の心の働きや行動を研究する学問の普通名称であるとごく自然に理解するというべきである。

(4) 以上のとおり,「個性心理学(個性心理學)」の語が心理学の一分野の学問の名称(普通名称)であるとの本件審決における判断は合理的なものであり,原告が主張する取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(引用商標1及び2の周知性の認定の誤り)について

(原告の主張)

(1) 「個性心理学」とは,遅くとも平成9年までに原告が考案した,各人の個性をその誕生年月日によって,狼,こじか,たぬき,ひつじ,子守熊(コアラ)等12動物に分け,さらに,狼については「ネアカの狼」,「クリエイティブな狼」,「穏やかな狼」等,こじかについては「正直なこじか」,「しっかり者のこじか」,「強い意志をもったこじか」等,各動物に性格を表した文言を付した,合計60種類の動物キャラクターに細分化し,各人の個性を分析するというものであり,「マスコット心理学」,「動物キャラナビ(占い)」の名称でも呼ばれている(甲4)。

(2) そして,平成9年から,原告が「個性心理學(個性心理学)」及び「個性心理學研究所(個性心理学研究所)」の語をその事業で使用し続けることによって,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)においては,引用商標1及び2は,原告の業務に係る商品である「印刷物」や,役務である「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」の出所を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至った。

すなわち,原告は,「個性心理學研究所」の所長として,その主催する「個性心理学」の占いに係る講座を,甲6ないし15に示すとおり,平成9年から多数回にわたり開催し,同講座において「個性心理学」に係る「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」の役務を提供し,その際に「個性心理學研究所」が発行するテキスト,すなわち「印刷物」を配布している。

そうであるところ,「個性心理学」及び「個性心理學研究所」は,原告による「個性心理学」の占いに係る書籍の執筆や,原告の「個性心理学」の占い及び関連する事業についての雑誌,新聞,テレビ番組等の各種メディアにおける紹介等を通じ,広く認識されるようになった(甲16,17)。

以上のことは,書籍に関しては,甲16,18ないし32,205,206,新聞・雑誌での記事に関しては,甲33ないし152,テレビ等のメディアに関しては,甲17,153ないし155,その他イベントに関しては,甲156ないし185といった数多くの証拠(いずれも枝番を含む。)から明らかである。

(3) なお,原告は,平成10年以降,「個性心理学」によって個人の運勢を占うレポートを出力するソフトウェア「個性心理學システム」(アップデート版を含む。)を用いて,原告の本部や「個性心理學研究所」の支部等において,多数の者に対し原告の考案した「個性心理学」の「占い」を提供し,また,遅くとも平成12年以降は,「個性心理學研究所」が発行者として記載されている「個性心理学」のレポートを,電子ファイル形式及び紙媒体形式の両方によって一般に対して販売しており,その販売数は,現在まで約70万通,最近の5年間のみでも15万通に及ぶ。

(4) 以上のとおり,引用商標1及び2は,原告の「占い」の役務を表示するものとして周知となり,その結果,原告の「印刷物」の商品や,「知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」の役務との関係においても周知性を獲得したにもかかわらず,本件審決は,原告が提出した様々な証拠の評価を誤って,引用商標1及び2に周知性が認められないと認定したものであり,その認定が誤りであることは明らかである。

(被告の主張)

(1) 引用商標1及び2が原告の主張する各商品又は役務の自他商品等識別標識として周知に至るには,当然のことながら,その前提として,原告が,業としてこれらの商品又は役務の提供等を行い,かつ,これらの商品又は役務の提供等に際し,自他商品等識別のための表示として,引用商標1及び2を使用してきたことが必要である。しかしながら,これらの点についての主張立証は十分でない。

ア 原告の業務について

原告は,業として占いを提供し,また,占いに関する知識の教授を行っているようであるが,原告が提供する「占い」とは,少なくとも,外形上は,人間個人に備わった性格や性質に着目し,人の心の働きや行動を研究する学問,又は,個人差を扱う心理学,ないしは,個人差を研究対象とする心理学(学問としての「個性心理学(個性心理學)」)を基礎とした占いと理解されるものであり,原告の業務に係る「占いに関する知識の教授」も,当該占いに関する知識の教授といえる(以下,かかる学問としての個性心理学〔個性心理學〕を基礎とした占いや,当該占いに関する知識の教授をもって「原告業務」という。)。

他方,原告業務以外の「占い」,「知識の教授」については,原告がこれらの役務を業として提供しているかは明らかでない。また,「印刷物」,「セミナーの企画・運営又は開催」の各商品及び役務に関しては,原告が業としてこれらの商品又は役務の提供を行っているかどうかすら不明である(「印刷物」に関し,原告が提出するテキストは,専ら講座,すなわち,一般的には知識の教授の役務の用に供する物であって,独立して商取引の対象となる法上の商品ではない。原告が主張するレポートも,飽くまで「個性診断」の結果をレポート形式で販売しているにすぎず,これをもって原告が「印刷物」を業として提供してきたことにはならない。「セミナーの企画・運営又は開催」に関しても,原告が提出する証拠の多くは,他人の企画又は開催に係るセミナーや講演等に原告が関わったことを示すにすぎず,原告自身が業として「セミナーの企画・運営又は開催」の役務を提供してきたことを証明するものではない。)。

イ 自他商品等識別性について

前記アのとおり,原告が業として行っているのは,少なくとも外形上判断する限りにおいては,飽くまでも学問としての「個性心理学(個性心理學)」を基礎とした占いや,当該占いに関する知識の教授である。一方,「個性心理学(個性心理學)」とは,本件審決においても判断されたように,心理学の一分野の学問の名称であり,また,「個人差を扱う心理学。ないしは,個人差を研究対象とする心理学」の意味を有する学問の普通名称である。そうとすれば,「個性心理学(個性心理學)」の語は,少なくとも,原告業務に係る役務については,これらの役務の質又は特徴を説明,記述するものにすぎず,また,一般大衆もそのように認識するにとどまるものである。よって,たとえ,原告業務に関連し,物理的に「個性心理学(個性心理學)」の標章が表示されることがあっても,これを目にした者は,「個性心理学(個性心理學)」の語を,原告業務に係る占いや知識の教授といった役務の質又は内容を説明,記述する語としてしか認識し得ず,かかる理解を超えて,当該標章を原告業務に係る何らかの商品又は役務の自他商品等識別標識として理解することはない。

また,「印刷物」及び「セミナーの企画・運営又は開催」の各商品又は役務については,前記アのとおり,そもそも原告が業としてこれらの商品又は役務に係る事業を行ってきたことすら全く明らかではないが,「個性心理学」が心理学の一分野の学問の名称であり,「個人差を扱う心理学。ないしは,個人差を研究対象とする心理学」の意味を有する学問の普通名称であるところ,これらの商品又は役務が,当該学問に関連するものである以上は,「個性心理学(個性心理學)」の標章は,同様に,これらの商品又は役務の自他商品等識別標識とはなり得ない。

(2) 引用商標1及び2の非周知性

前記のとおり,「個性心理学(個性心理學)」が心理学の一分野の学問の普通名称である,又は,人間個人に具わった性格や性質に着目し,人の心の働きや行動を研究する学問の普通名称であると容易に理解できる語であることを考慮すれば,原告の業務は,個人差を扱う心理学,つまり,学問としての「個性心理学(個性心理學)」を基礎とした占い,又は,当該占いに関する知識の教授と外形上評価できるものであり,よって,これらの役務との関係において「個性心理学(個性心理學)」の語は役務の質や特徴を説明,記述する語としてしか機能し得ず,本来的に識別力を欠くものである。

また,原告が提出する各証拠をもってしても,引用商標1又は2が,「印刷物」,「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」及び「占い」の各商品及び役務について自他商品等識別標識として使用され,結果,原告の商標として周知性を獲得した事実は認められない。

3  取消事由3(本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について

(原告の主張)

(1) 本件商標と引用商標1及び3の類似性

ア 本件商標には「一般社団法人」と「協会」の部分が含まれるのに対し,引用商標3には「研究所」の部分が含まれる点で,本件商標と引用商標1及び3とは異なるが,これらの部分は団体名を表す普通名称にすぎず識別力が弱いため,かかる点をもって,本件商標と引用商標1及び3との類似性は否定されない。

そして,本件商標には「ISD」の部分も含まれているが,その余の「個性心理学」の部分は周知であって識別力が強いため,本件商標の中では特に「個性心理学」の部分が注意を惹く。このことは,被告らの「ISD個性心理学」が,「ISD」の部分を除いて「個性心理学」と略称される例が多々あることからも明らかである。

イ 以上を前提に,本件商標と引用商標1及び3の類否について検討する。

(ア) 外観

本件商標は「一般社団法人ISD個性心理学協会」の文字を書してなるものであるところ,「一般社団法人」と「協会」の部分は団体名を表す普通名称であって識別力が弱い。そして,本件商標中,「ISD」の部分と「個性心理学」の部分とはアルファベットと漢字で文字種が異なる。この点,「ISD」は単なるアルファベット3文字の羅列であって需要者はその意味を理解することができない。他方,残りの「個性心理学」の部分は周知であり注意を惹く。してみると,「個性心理学」の文字部分を含む本件商標の外観は,「個性心理学」を横書きにしてなる引用商標1の外観と類似し,「個性心理學研究所」を3段に書してなる引用商標3の外観とも類似する。

(イ) 称呼

本件商標の称呼は「イッパンシャダンホウジンアイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」の28音で冗長である。それゆえ,「個性心理学」の部分の周知性も相まって,本件商標からは,「一般社団法人」,「協会」の部分はもとより,「ISD」の部分を省略した「個性心理学」の部分をもって「コセイシンリガク」の称呼も生じることになる。

そうすると,「イッパンシャダンホウジンアイエスデイコセイシンリガクキョウカイ」のほかに「コセイシンリガク」との称呼も生じる本件商標は,同じく「個性心理学(學)」の部分をもって「コセイシンリガク」の称呼が生じる引用商標1「個性心理学」と称呼の点で類似する。加えて,「コセイシンリガク」の称呼が生じる本件商標は,引用商標3とも称呼において類似する。なぜならば,引用商標3のうち,後半の「研究所」の部分は,団体名を示す普通名称であり識別力が弱いため省略され,その結果,引用商標3からも,前半の「個性心理學」の部分が捉えられ,「コセイシンリガク」の称呼が生じ得るからである。

(ウ) 観念

「個性心理学」及び「個性心理學研究所」の商標は,業務を表示するものとして周知であることから,「個性心理学」の商標を含む本件商標からは,「ISD」の部分が捨象され,引用商標1と同様,原告が実践する「個性心理学」の観念が生じ,両商標は観念において類似する。加えて,本件商標からは「個性心理学」を扱う「協会」すなわち「個性心理学」を扱う団体という観念も生じるところ,「個性心理學研究所」を3段に書してなる引用商標3からも,「個性心理学」を扱う「研究所」すなわち「個性心理学」を扱う団体という観念を生じることから,両商標も観念において類似する。

ウ 以上によれば,本件商標は引用商標1及び3と類似する。

(2) 指定商品及び指定役務の類似性

ア 本件商標と引用商標1及び3の指定商品及び指定役務の類似性

本件商標の各指定商品及び指定役務は,それぞれに対応する引用商標1又は引用商標3の指定商品及び指定役務と同一又は類似の関係にある。なお,本件商標の指定商品の第16類「印刷物」は,引用商標1の指定商品の第16類「印刷物(書籍を除く。)」と類似し,本件商標の指定役務の第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」は,引用商標3の指定役務の第41類「動物イメージを用いた占いによる運勢判断・心理判断・性格判断・運命相談・相性診断・適性診断・易占・ト占いに関する知識の教授,オンラインによる動物イメージを用いた占いによる運勢判断・心理判断・性格判断・運命相談・相性診断・適性診断・易占・ト占いに関する知識の教授,その他の技芸・スポーツ又は知識の教授」と類似することは明らかである。

イ 本件商標の指定役務「技芸・スポーツ又は知識の教授」は引用商標1の指定役務「セミナーの企画・運営又は開催」と類似していること

本件商標の指定役務である第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」については,それに相当する指定役務が引用商標1にはないが,引用商標1の指定役務中,第41類「セミナーの企画・運営又は開催」と類似するものである。

すなわち,本件商標の指定役務である「技芸・スポーツ又は知識の教授」は,各種学校のほか,教養,趣味,遊芸,スポーツ,学習等の指導を行う教授所が教授又は教育する役務を意味する。ここで,このような教養,趣味等の教育の役務は,「セミナー」を通じて提供されることもあり,そうすると,その「セミナーの企画・運営又は開催」をする者が教養,趣味等の教育する役務を提供する者と同一であるのが通常である。そして,この場合,「技芸・スポーツ又は知識の教授」も「セミナーの企画・運営又は開催」もその提供の対象となる者は一般消費者であり,需要者の範囲は同じである。さらにいえば,上記の教養,趣味等の教育の役務は,教室又はオンラインにて講師・教材を準備して行われるところ,それは「セミナーの企画・運営又は開催」の役務でも同様であることから,両役務は,役務の提供の手段,場所や役務の提供の際に使用される物品においても共通する。

これらの点を斟酌すれば,本件商標の指定役務である「技芸・スポーツ又は知識の教授」は引用商標1の指定役務中「セミナーの企画・運営又は開催」とも類似する役務である。

(3) 以上によれば,本件商標は,引用商標1及び3と類似の商標であり,その指定商品及び指定役務(第44類の指定役務を除く。)も引用商標1及び3の指定商品及び指定役務と類似することから,商標法4条1項11号に該当するものであるところ,その該当性を否定した本件審決の判断には誤りがある。

(被告の主張)

(1) 本件商標と引用商標1及び3の非類似性

ア 本件商標のうち,「個性心理学」の文字部分のみが強い識別力を有するとの原告主張の前提は誤りである。

すなわち,そもそも,「個性心理学」が普通名称であって,原告の商品及び役務を表示するものとして周知であるとはいえないことは,前記のとおりである。また,本件商標は,「一般社団法人ISD個性心理学協会」の文字を,太字のゴシック体風の書体で同書・同大・同間隔で一連に書してなるものであり,各構成文字の外観上の一体性は極めて高いところ,「一般社団法人」及び「協会」の部分は,法人の法的性質等を説明する部分であって,それぞれ重要な役割を果たしており,「ISD」の部分も,被告代表者であるY(以下「Y」という。)が独自に考案した造語(Instituteof Self Discovery=自己発見の協会)の頭文字を取ったものであって,本来的に強い識別力を有するものである。

したがって,本件商標に接した者は,各構成文字の外観上の一体性も相まって,本件商標の構成全体を看取し,全体として団体(法人)の名称を表す一体不可分の商標として認識するというべきである。

イ 以上を前提に,まず,本件商標と引用商標1の類否について検討すると,本件商標と引用商標1には,構成文字数のみならず書体においても顕著な差異が存在するため,これらは外観において明確に相違する。また,本件商標から生じる「イッパンシャダンホウジンアイエスディーコセイシンリガクキョウカイ」の一連の称呼は,引用商標1の構成文字に相応する「コセイシンリガク」の称呼とは明確に聴別可能な非類似の称呼である。さらに,本件商標からは,「一般社団法人であるISD個性心理学協会という法人(団体)名」というまとまった観念が生じる一方,引用商標1からは,「個人差を扱う,ないしは個人差を研究対象とする心理学,又は,人間個人に具わった性格や性質に着目し,人の心の働きや行動を研究する学問」との観念が生じるから,これらは観念においても明確に区別可能な非類似の商標である。

次に,本件商標と引用商標3の類否について検討すると,まず,本件商標が「一般社団法人ISD個性心理学協会」の文字を横一列に配した標章であるのに対し,引用商標3は,文字とハート型図形とを組み合わせ,さらに,各構成要素の組み合わせ全体が正方形状となるよう,文字と図形とを上下3段に横幅をそろえてバランス良く配したユニークな外観からなる標章であるため,これらは外観において明確に相違する。また,本件商標から生じる称呼は前記のとおりであるが,引用商標3から生じる称呼は,「コセイシンリガクケンキュウジョ」の一連の称呼のみであるから,これらは称呼においても区別が可能である。加えて,引用商標3からは,「個人差を扱う,ないしは個人差を研究対象とする心理学,又は,人間個人に具わった性格や性質に着目し,人の心の働きや行動を研究する学問を研究する機関」というまとまった観念が生じるところ,かかる観念は,本件商標から生じる前記の観念と何ら共通性がないから,本件商標と引用商標3は,観念上も相紛れるおそれのない非類似の商標である。

なお,原告は,引用商標3における「研究所」の部分は,団体名を表す普通名称であり識別力が弱いため省略されると主張するが,引用商標3の各構成要素が外観上まとまりよく表されていること,引用商標3からは前記のとおりまとまった一連の観念が生じること,さらには,前記のとおり,商品や役務の出所がどのような種別の法人(団体)であるかは需要者が商品及び役務の選択をする際に重要な判断要素の一となるため法人(団体)を表す商標については構成全体を以て出所表示として理解されるのが通常であることを勘案すれば,引用商標3の構成中「研究所」の部分を捨象し,本件商標との類否判断を行うことは合理的とはいえない。また,原告は,本件商標からは,「個性心理学」を扱う「協会」すなわち「個性心理学」を扱う団体という観念も生じるところ,引用商標3からも,「個性心理学」を扱う「研究所」すなわち「個性心理学」を扱う団体という観念を生じると主張するが,そもそも,「協会」はある目的のため会員が協力して設立・維持する会という意味で,「研究所」は研究などを行う組織・施設という意味でそれぞれ一般に広く知られ用いられている語であり,我が国の一般大衆にとって,これらの語句が全く異なる意味合いを有するものであることは周知の事実である。したがって,本件商標と引用商標3は,「協会」と「研究所」という全く別異の意味からなる団体の組織形態・性質を表す語が付加されているという点においても観念上明確に区別できるというべきであり,両者が,単なる“団体”として観念上混同されることはありえない。

ウ 念のため,「ISD個性心理学」の標章と引用商標1及び3の類否についても検討する。

まず,「ISD個性心理学」の標章の構成中「ISD」の部分は,前記のとおり被告(Y)が創作した造語であり,本件商標の指定商品及び指定役務との関係で本来的に強い識別力を発揮する語である。他方,それに続く「個性心理学」は,元来心理学の一分野の学問の普通名称として用いられてきた語を示すものであり,本件商標の指定商品及び指定役務との関係では,商品及び役務の(品)質又はこれらの特徴等を直接的かつ具体的に説明,記述する語にすぎず,識別標識たり得ない。さらに,本件商標の構成中「ISD個性心理学」の文字は同書・同大・同間隔で外観上まとまりよく一体的に表されていること,「アイエスディーコセイシンリガク」の称呼も一息で称呼できること,また,「ISD」と「個性心理学」の各構成文字は,前者は商品及び役務の出所表示として,後者は商品及び役務の(品)質・内容表示として観念上も強く結びつけられて理解されることに鑑みれば,「ISD個性心理学」の標章の構成文字から指定商品及び指定役務との関係で周知性も識別力も欠く「個性心理学」の文字部分をあえて抽出し,引用商標1及び3との類否判断をすることに合理性はない。

そうすると,「ISD個性心理学」の標章にはその冒頭部分に「ISD」の欧文字が存在するのに対し,引用商標1及び3の構成中にかかる欧文字は存在しない。よって,本件商標における「ISD個性心理学」の標章と引用商標1及び3とは,当該欧文字の有無を含む構成文字数の差という点においても顕著に異なるから,これらが外観において何ら共通性のない非類似の標章であることは明らかである。

また,称呼についてみると,「ISD個性心理学」の標章からは「アイエスディーコセイシンリガク」の一連の称呼が生じる一方,引用商標1からは「コセイシンリガク」の称呼が,引用商標3からは「コセイシンリガクケンキュウジョ」の称呼のみがそれぞれ生じるところ,これらは,構成音数において明確に相違する他,「ISD個性心理学」の標章を称呼する際に一番先に称呼される「アイエスディー」という音の差異によってはっきりと聴別できる。したがって,「ISD個性心理学」の標章と引用商標1及び3とは称呼も類似しない。

さらに,観念についてみると,「ISD個性心理学」の標章に接した者は,冒頭に位置する「ISD」の文字部分をより印象づけて認識し,これを商品及び役務の出所表示として理解するのが自然である。原告も認めるとおり,需要者は,「ISD個性心理学」の標章の冒頭に位置する「ISD」の文字部分から特定の意味を理解することができない以上,「ISD個性心理学」の標章に接した者は,冒頭の「ISD」の文字を被告の出所表示として強く認識し,当該文字に続けて記載され,かつ,その意味するところを直接的かつ具体的に理解できる「個性心理学」の文字部分を「ISD」に従属する語として看取し,全体として,「ISDという出所が提供する,人間個人に具わった性格や性質に着目し,人の心の働きや行動を研究する学問」を指す一つの出所標識(商標)であるとごく自然に理解するといえる。すなわち,「ISD個性心理学」の標章に接した者は,その構成全体から前記のようなまとまった観念を理解するところ,かかる観念も,引用商標1及び3から生じる前記の各観念とは明確に相違する。

以上によれば,「ISD個性心理学」の標章と引用商標1及び3についても非類似である。

(2) 指定商品及び指定役務の非類似性

本件商標の指定役務である「技芸・スポーツ又は知識の教授」と引用商標1の指定役務である「セミナーの企画・運営又は開催」とは非類似の役務である。

すなわち,商標法において「役務」とは,「他人のために行う労務または便益であって,独立して商取引の目的たりうべきもの」をいう(特許庁編・工業所有権法〔産業財産権法〕逐条解説〔第19版〕)。これを前提に各役務の性質を検討すると,まず,「技芸・スポーツ又は知識の教授」とは,教養,趣味,遊芸,スポーツ,学習等の指導を行う教習所,学校教育法で定める学校及び自動車教習所,理容学校,洋裁学校等の各種学校が,他人に対し技芸・スポーツ又は知識を教授し又は教育するサービスを指すと考えられる(特許庁商標課編商品及び役務の区分解説第10版対応)。一方,「セミナーの企画・運営又は開催」とは,前記区分解説においては明確な説明はなされていないものの,前記役務の定義に当てはめて考えた場合,当該役務は,他人のためにセミナーを企画・運営又は開催する者が,セミナーの企画・運営又は開催という労務について対価を得ることを目的とした役務であると考えるのが自然である。すなわち,当該役務は,本来的には,セミナー企画会社の提供するサービス(具体的には,セミナーの実施を希望する者に対し,その者の希望を叶えるために,企画を練り,人材や会場の手配を行うと共に,セミナー受講者の募集・案内から運営,開催までの一通りのプロセスを担うサービス)を指すものと考えられる。このように解した場合,これらの役務は,少なくとも,その提供の目的・手段及び役務の提供者が異なるほか,前者は知識や技芸の習得を希望する者が主たる需要者であるのに対して,後者は,セミナーの開催を希望する個人,企業や団体等が主たる需要者となる為,需要者の範囲も一致しないこととなる。したがって,これらの役務が類似しないことは明らかである(これらの役務が類似しないことは,特許庁商標課編「類似商品・役務審査基準」において,「技芸・スポーツ又は知識の教授」には“41A01”,「セミナーの企画・運営又は開催」には“41A03”と異なる類似群が付され,非類似の役務として扱われていることからも客観的に明らかである。)。

原告は,「教養,趣味等の教育の役務は『セミナー』を通じて提供されることもあり,そうすると,その『セミナーの企画・運営又は開催』をする者が,教養,趣味等の教育する役務を提供するものと同一であるのが通常である」と主張するが,原告の主張する役務は,飽くまで「知識の教授」の役務の範疇を出ないものであり(あえて表現すれば,「セミナー形式で行われる知識の教授」となる。),法律上,「セミナーの企画・運営又は開催」に分類される役務ではない。仮に,「セミナーの企画・運営又は開催」の役務に,自らが特定の話題について講演することを目的として,他人(この場合の“他人”は,講演の聴講者と解釈することになる。)のためにセミナーを開催するという労務が含まれると解釈しても,前記のとおり,類似商品・役務審査基準において,「技芸・スポーツ又は知識の教授」と「セミナーの企画・運営又は開催」とが永年にわたり非類似の役務として取り扱われていることに鑑みれば,その講演が聴講者に対し何らかの知識や技芸等の教授を行うことを主たる目的とするものは,商標法上は,飽くまで「技芸・スポーツ又は知識の教授」に分類される役務であるというべきである。

(3) 以上のとおり,本件商標と引用商標1及び3とは非類似であり,また,本件商標の指定役務である「技芸・スポーツ又は知識の教授」と引用商標1の指定役務である「セミナーの企画・運営又は開催」とは非類似の役務であるから,いずれの点においても,本件商標は商標法4条1項11号に該当しない。したがって,取消理由3に関する原告の主張は理由がない。

4  取消事由4(本件商標の商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について

(原告の主張)

(1) 引用商標1及び2の周知性

前記のとおり,引用商標1及び2は,原告が遅くとも平成9年から使用しており,原告の業務の対象である「個性心理学」や提供主体である「個性心理學研究所」は,原告の著書,雑誌,テレビ番組等の各種メディア,原告の「個性心理学」に係る講座,他の企業との各種企画によって,全国の需要者にあまねく広められ,また,原告は「個性心理学」及び「個性心理學研究所」が商標であることを公に示していた。

したがって,引用商標1及び2は,原告の業務に係る商品の「印刷物」や,役務の「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」の出所を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている。

(2) 本件商標と引用商標1及び2の類似性

ア 本件商標には「一般社団法人」,「協会」の部分が含まれるのに対し,引用商標2には「研究所」の部分が含まれる点で,本件商標と引用商標1及び2とは異なるところ,これらの部分は団体名を表す普通名称に過ぎず識別力が弱いため,かかる点をもって,本件商標と引用商標1及び2との類似性は否定されない。

イ 以上を前提に,本件商標と引用商標1及び2の類否について検討する。

(ア) 外観

本件商標は「一般社団法人ISD個性心理学協会」の文字を書してなるものであるところ,前記のとおり,「ISD」の部分と「個性心理学」の部分とはアルファベットと漢字で文字種が異なるところ,「ISD」は単なるアルファベット3文字の羅列であって需要者はその意味を理解することができないのに対し,「個性心理学」の部分は周知であって注意を惹く。してみると,「個性心理学」の文字部分を含む本件商標の外観は,「個性心理学」を横書きにしてなる引用商標1の外観と類似し,「個性心理學研究所」を横書きにしてなる引用商標2の外観とも類似する。

(イ) 称呼

前記のとおり,本件商標の称呼は冗長であるがゆえ,本件商標からは,「協会」,「ISD」の部分を省略した「個性心理学」の部分をもって,「コセイシンリガク」の称呼も生じる。したがって,「コセイシンリガク」との称呼も生じる本件商標「一般社団法人ISD個性心理学協会」は,同じく「個性心理学(學)」の部分をもって「コセイシンリガク」の称呼が生じる原告の引用商標1「個性心理学」と称呼の点で類似する。なおかつ,引用商標2は,「個性心理学(學)研究所」の文字からなる点で引用商標3と異ならないことから,前記と同様の理由により,引用商標2からも「コセイシンリガク」との称呼が生じ得るところ,これも,本件商標の称呼と類似する。

(ウ) 観念

「個性心理学」及び「個性心理學研究所」の商標は,原告の「印刷物」の商品,「知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」の役務を表示するものとして周知である。してみると,前記のとおり,本件商標からは,原告が実践する「個性心理学」の観念や,その「個性心理學」を扱う団体という観念も生じるところ,これらの観念は,引用商標1及び2の観念と類似する。

ウ 以上によれば,本件商標は引用商標1及び2と類似する。

(3) 商品及び役務の類似性

本件商標の指定商品及び指定役務のうち,第16類「印刷物」並びに第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」は,それぞれ,引用商標1及び2が使用されている商品及び役務である,「印刷物」,「知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」と,互いに同一又は類似の関係にある。

(4) 以上のとおり,本件商標は,周知である引用商標1及び2と類似の商標であり,本件商標のうち,第16類「印刷物」並びに第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」の指定商品及び指定役務については,引用商標1及び2が使用される商品及び役務である「印刷物」や「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」と類似する。

よって,本件商標のうち,第16類「印刷物」並びに第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」の指定商品及び指定役務については,商標法4条1項10号に該当するものであるから,その該当性を否定した本件審決には誤りがある。

(被告の主張)

(1) 引用商標1及び2の非周知性

引用商標1及び2が,原告の業務に係る商品の「印刷物」や役務の「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」の出所を表示するものとして需要者の間に広く認識されていないことは,前記のとおりである。

(2) 本件商標と引用商標1及び2の非類似性

本件商標が引用商標1と類似しないことについては,前記のとおりである。

さらに,本件商標は,「個性心理學研究所」の文字からなる引用商標2とも類似しない。すなわち,本件商標「一般社団法人ISD個性心理学協会」は,引用商標2とは構成文字数のみならず書体においても明確に相違し,看者に対し別異の印象を与える外観非類似の標章である。また,本件商標から生じる「イッパンシャダンホウジンアイエスディーコセイシンリガクキョウカイ」の称呼も,引用商標2から生じる「コセイシンリガクケンキュウジョ」の称呼とは構成音数の相違等から明確に聴別可能な非類似の称呼である。加えて,本件商標からは「一般社団法人であるISD個性心理学協会という法人(団体)名」というまとまった観念が生じる一方,引用商標2からは,「個人差を扱う,ないしは個人差を研究対象とする心理学,又は,人間個人に具わった性格や性質に着目し,人の心の働きや行動を研究する学問を研究する機関」との一連の観念のみが生じるため,これらは観念においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。

仮に,本件商標の構成中,「ISD個性心理学協会」又は「ISD個性心理学」の部分が,需要者に要部として認識される場合があったとしても,これらの標章と引用商標2とも,外観・称呼及び観念において明確に区別が可能であることは,引用商標1及び3との対比において述べた理由から明らかである。すなわち,「ISD個性心理学協会」の標章については,引用商標2とは外観及び称呼が相違するのみならず,「協会」と「研究所」という法人(団体)の組織形態・性質の差という点からも観念上も明確に区別することが可能である。「ISD個性心理学」の標章についても,このうち更に「個性心理学」の文字部分のみが要部として機能することはなく,他方,引用商標2についても,全体として一つの団体の名称を表す標章として理解されるから,その構成中「個性心理學」の文字部分が独立して要部となることはない。その結果,「ISD個性心理学」の標章と引用商標2も類似しない。

(3) 商品及び役務の非類似性

原告は,引用商標1及び2が「印刷物」,「知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」の商品及び役務について使用され需要者の間に広く認識されるに至っているとの前提の下,本件商標の指定商品及び指定役務のうち,第16類「印刷物」並びに第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」は,それぞれ,引用商標1及び2が使用されている商品及び役務である,「印刷物」,「知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」と,互いに同一又は類似の関係にあると主張する。

しかし,前記のとおり,原告がこれらの商品及び役務のいずれにおいても,引用商標1及び2を商標,すなわち,自他商品等識別標識として使用してきた事実はなく,また,これらの商品又は役務分野において引用商標1及び2が周知に至っているという事実もない。よって,商標法4条1項10号における商品及び役務の類似性については,そもそも前提を欠くものであり,検討するに及ばない。

(4) 以上のとおり,引用商標1及び2は,原告の主張する「印刷物」,「知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」の各商品及び役務をはじめ,その他のいかなる商品又は役務の分野においても,原告の出所表示,又は自他商品等識別標識として周知に至っている事実はなく,加えて,本件商標と引用商標1及び2とは外観,称呼及び観念のいずれにおいても明確に区別が可能な非類似の標章であるから,本件商標は商標法4条1項10号に該当しない。したがって,取消理由4に関する原告の主張は理由がない。

5  取消事由5(本件商標の商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について

(原告の主張)

(1) 本件商標と引用商標1及び2との混同可能性について

仮に,引用商標1及び2との間で狭義の混同が生じず,本件商標が商標法4条1項10号に該当しないとしても,次に述べるとおり,原告の引用商標1及び2の周知性その他の事情に鑑みれば,本件商標がその指定商品及び指定役務のうち,第16類「印刷物」や第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」,「電子出版物の提供」,「教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」について使用された場合には,原告との間で緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品か事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であるという広義の混同が生じるおそれがある。

まず,引用商標1及び2は,いずれも原告の創作した創造標章であるところ,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)の時点で,原告の業務に係る商品及び役務である「印刷物」,「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」を表示するものとして周知であったこと,本件商標は,周知な商標である引用商標1及び2と類似していること,本件商標の指定商品及び指定役務のうち,第16類「印刷物」や第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」は,引用商標1及び2が使用されている原告の業務に係る商品及び役務である,「印刷物」や「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」と同一又は類似の役務であることは前記のとおりである。

また,本件商標の第41類「電子出版物の提供」や「教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」は,書籍やセミナーを通じて自らの業務を普及させようとする者が当然に行う可能性のある役務であり(例えば,受験予備校のように「知識の教授」を行う者が,その教授内容をより広め,多くの利益を挙げるために,自身にて行われた講義内容をまとめた講義録を電子出版物として受講生に提供したり,また,同講義内容を収録したビデオを受講生に販売したりすることは大いにあり得ることである。),本件商標がこれらに使用されれば広義の混同が生じることは明らかである。

加えて,原告は,「個性心理学」に関する業務である,「印刷物」や「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」に係る業務を提供する際に,引用商標1を含む同2や,「一般社団法人個性心理學研究所総本部」の名称をもって営業主体の名称としている(甲11等)。ここで,引用商標1及び2が原告の上記業務に使用された場合,その提供主体は引用商標1及び2を営業主体の名称としている原告であるとより直接的に理解することになる。

以上の点に鑑みれば,周知である原告の引用商標1及び2と類似する本件商標が,上記に列挙した指定商品及び指定役務に使用された場合においては,少なくとも上記のような広義の混同が容易に需要者の間に生じることになる。

(2) 以上のとおり,本件商標は,原告の業務に係る商品及び役務である「印刷物」,「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」と,少なくとも「広義の」混同を生じるおそれがある商標である。

したがって,本件商標のうち,第16類「印刷物」,第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」,「電子出版物の提供」及び「教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」を指定商品及び指定役務とするものは,商標法4条1項15号に該当するものである。

よって,本件商標は商標法4条1項15号に該当するものとはいえないとした本件審決の判断には誤りがある。

(被告の主張)

原告の主張は争う。

本件商標が,その指定商品中,第16類「印刷物」,第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」,「電子出版物の提供」及び「教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」その他のいずれの指定商品及び指定役務について使用されても,原告の業務との間に広義の混同どころか狭義の混同すら生じるおそれはなく,本件商標は商標法4条1項15号には該当しない。

したがって,取消理由5に関する原告の主張は理由がない。

6  取消事由6(本件商標の商標法4条1項19号該当性の判断の誤り)について

(原告の主張)

(1) 前記のとおり,引用商標1及び2は,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)において,原告の業務に係る商品及び役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標であり,本件商標はその引用商標1及び2と類似するものである。

(2) 不正の目的について

前記のとおり,原告は,遅くとも平成9年から現在までの約18年間にわたり,「個性心理学」及び「個性心理學研究所」の商標の下,様々な形において,「個性心理学」の占いについて,書籍すなわち「印刷物」を執筆・販売し,「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」をしてきたところ,書籍の執筆,メディアでの紹介,講座の開催等を通じて,「個性心理学」及び「個性心理學研究所」は,原告の業務に係る「印刷物」や「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」に対する名声・信用を化体した周知な商標となった。

しかるに,もともと原告の下で「個性心理学」に係る業務に携わっていたYは,被告を設立し,被告と共に,原告の周知な商標である「個性心理学」や「個性心理學研究所」の商標と類似する本件商標を使用した上,これまた原告の事業と酷似する12動物60種類の動物キャラクターを用いた占いを教授するための講座等を開催することによって,需要者に引用商標1及び2と本件商標との混同を生じさせて,原告の「個性心理学」に係る講座の受講生等の(潜在的)顧客を奪い,ひいては原告の財産的利益や信用を損なう行為をしている。あまつさえ,被告らは,原告が考案した動物のキャラクターを使用し,かつ,原告が創作したレポートを複製頒布するなど,原告の著作権及び著作者人格権をも侵害する態様にて事業を行っている。

要するに,被告らは,原告の長年の努力により高い名声,信用を獲得し需要者に広く認識されるようになった「個性心理学」や「個性心理學研究所」の商標にフリーライドすることによって,これらの商標の出所識別機能を希釈化しているのである。

かかる被告らの行為は,本件商標を「不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう…)をもつて使用する」ものであることは明らかである。

(3) 以上のとおり,引用商標1及び2は,原告の業務に係る商品及び役務を表示するものとして本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)において需要者の間に広く認識されていたところ,本件商標は,その引用商標1及び2と類似する商標であり,かつ,「不正の目的」をもって使用されるものである。

よって,本件商標は,商標法4条1項19号に該当するものであるところ,その該当性を否定した本件審決の判断には誤りがある。

(被告の主張)

原告の主張は争う。

引用商標1及び2は,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)において我が国の取引者,需要者の間で広く認識され周知になっていたということはできず,また,本件商標は,引用商標1及び2のいずれとも類似しない。加えて,被告による本件商標の採択及び使用に何ら「不正の目的」はなく,本件商標は商標法4条1項19号には該当しない。

したがって,取消理由6に関する原告の主張は理由がない。

7  取消事由7(本件商標の商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について

(原告の主張)

前記のとおり,被告は,原告の周知な商標である引用商標1「個性心理学」や引用商標2「個性心理學研究所」の商標と類似する本件商標「ISD個性心理学協会」を無断で使用,すなわちフリーライドして,引用商標1及び2の商標の出所識別機能を希釈化し,結局,何ら労せずして,原告の事業と酷似する占いに係る事業を展開して原告の(潜在的)顧客を奪っている。

そして,このような被告の行為が仮に許されるのであれば,権利者の努力によって商標が周知となっても,その商標に化体されている信用等が容易に毀損される結果を招くことになり,極めて不当であるというほかない。

この点,本件審決は,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠く等の本件商標の登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような特別な事情はないと判断した。

しかし,被告は,真摯に自己の事業を展開するために本件商標について登録出願したのではない。被告は,原告の商標権のみならず著作権をも侵害する態様にて原告の事業と酷似する占いに係る事業を展開し,いよいよ積極的に原告の(潜在的)顧客を奪うために,本格的に本件商標を用い出したのである。そして,本件商標について権利を不当に取得すべく,平成26年になってから,引用商標1及び2と類似する本件商標について登録出願するに至った。かかる本件商標の登録出願経緯等に照らし合わせれば,このような被告の行為は,公正な取引秩序の維持からみて許容できないことは明らかである。

したがって,本件商標は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」であることから,商標法4条1項7号に該当するものであるところ,その該当性を否定した本件審決の判断には誤りがある。

(被告の主張)

原告の主張は争う。

商標法4条1項7号では,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができないと規定されているところ,同号は,本来,商標を構成する標章それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するような場合に,そのような商標について登録商標による権利を付与しないことを目的として設けられた規定である。もっとも,商標を指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反する場合も同号の適用対象とされている(商標審査基準)。しかしながら,本件商標は,客観的に明らかなとおり,標章それ自体が公の秩序又は善良な風俗に反するものでないばかりでなく,本件商標をその指定商品及び指定役務について使用した場合に,これが社会公共の利益に反したり,又は,社会の一般的道徳観念に反したりするという事情も存在しない。

以上のとおり,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標ではないから,本件商標は,商標法4条1項7号には該当しない。

したがって,取消理由7に係る原告の主張も理由がない。

第4当裁判所の判断

1  取消事由1(「個性心理学(學)」の語が普通名称であるとの認定の誤り)について

(1)  後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 心理学は,人間及び動物の心や行動を組織的に研究する学問であり,その研究領域には,認知(感覚,知覚),学習,記憶,思考,言語,欲求,感情,知能,性格,発達,社会的行動,異常行動などがある。また,心理学の知見や法則を実生活の問題解決に利用しようとする心理学を応用心理学といい,例えば,教育心理学,臨床心理学,犯罪心理学,産業心理学,経営心理学,政治心理学,家庭心理学,体育心理学,芸術心理学,宗教心理学などがある(甲219の1~3・恩田彰=伊藤隆二編「臨床心理学辞典」八千代出版275~276頁)。

イ 「個性心理学」に関しては,「日本大学文理学部心理学科」のウェブページに次の記載がある(甲272)。

「日本大学文理学部心理学科の創設者・渡辺徹先生は明治16年福島県に生まれ,同43年に東京帝国大学文学部哲学科を卒業(中略)大正9年に日本大学教授となり,同13年に私学では最初(東大・京大・東北大に次いで日本では4番目)の心理学専攻課程を日大に創設された。」「先生はわが国におけるパーソナリティの心理学の開拓者である。心理学科の創設当初(大正13年)から没年(昭和32年)に至るまで,『個性心理学』という名で独創的な講義をされた。」

ウ 渡辺徹については,フリー百科事典ウィキペディアに,「日本の心理学者で,日本におけるパーソナリティ心理学(人格心理学)の開拓者。…没年に至るまで,『個性心理学』という名で独創的な講義をした。」との解説が記載されている(乙5)。

エ 論文・紀要関係で「個性心理学」なる語が登場するものとしては,例えば,次のものが挙げられる。

(ア) 古賀行義「チャーレス・スピアマン―その人物と業績―」心理學研究第70巻第1号58~61頁(昭和24,5年頃)には,次の記載がある(甲262の1・2)。

「近代心理學における一つの不幸は,一般心理學と個性心理學とが不合理にも分離してゐることであるが,ロンドン學派において,それらの間に緊密な關係がつけられており,個性心理學との関係においては,二因子説,一般心理學との関係においては知生説が構成されてゐる。…」

(イ) 城戸幡太郎「ソ連及び中国における心理学の研究」教育心理学研究第4巻第2号110~113頁(昭和31年)においては,執筆者が日本アジア連帯委員会の文化使節団の一員としてソ連中国を訪問した際,レニングラード大学の心理学担当の教授からもらった人格心理学を主題とする学会のプログラムが紹介されており,その中に次の記載がある(甲263)。

「第6会議 高次神経活動の類型と個性心理学的差異

1  レイテス(モスクワ)―個性心理学的差異の問題について」

また,中国の科学院に設けられた心理学研究室では,「1.発生心理問題,2.知覚心理問題,3.論文心理問題,4.個性心理問題」の4つの問題を研究していることも同論文において紹介されている。

(ウ) 高嶋正士「ゴールトン及びキャテルの生涯とその業績について」基礎科学論集:教養課程紀要2号67~81頁(昭和59年)には,次の各記載がある(甲264の1・2)。

「さて,現代心理学の基礎研究領域は多岐にわたっているが,その中に差異心理学(differential psychology)がある。これは個人差の問題を扱う領域で,また個性心理学(psychology of individual)ともいわれる。個人差を代表する問題といえば人格personalityと知能intelligenceをあげなければならない。これらの問題は心理学の基本問題である。差異心理学の歴史は古く,また研究領域も広く遺伝学や環境学と深く関連している。」

「要約 筆者は差異心理学の発展に貢献したイギリスのゴールトンとアメリカのキャテルをとりあげて,彼らの生涯と業績についてのべた。第2次大戦後の日本の心理学は,アメリカの民主教育にもとづいて,個性尊重の教育がさけばれ,その線にそって急速に発展してきた。その一つが個人差心理学にまつわる諸問題であった。すなわち,知能や学力,性格や個性といったパーソナリティに関するものである。その二は臨床心理学の発達と普及である。今日のように,社会機構が複雑となり変化していくにともなって,さまざまな不適応症状(適応異常)を示す人が多くなってきたからである。したがって,先進国ほど臨床心理学上の問題が深刻化してきている。この基礎的理解に個性心理学,差異心理学が重要な役割をもつからである。」

オ 国語に関する辞書・辞典類では,「個性心理学」なる語は,次のとおり扱われている。

(ア)  広辞苑(岩波書店)

第2版(昭和44年第1刷発行)には,「個性」の項目に,「【個性心理学】個人差をあつかう心理学。差異心理学。」との記載があり(甲265), 第3版(昭和58年第1刷発行)にも同様の記載がある(甲266)。

第4版(平成3年第1刷発行)以降は,「個性」の項目から「個性心理学」に関する記載がなくなっているが(甲207~209の各1~3),第6版(平成20年第1刷発行)には,「差異心理学」の項目に,「【差異心理学】心理的事象に関して,個人と個人,群と群,人種と人種などを比較し,その差異を研究する学問。特に,個人差を取り扱うものを個性心理学という。」との記載がある(乙4)。

(イ)  国語大辞典(小学館)

昭和56年発行の第1版第1刷には,「個性心理学」の項目が設けられており,「個人差を研究対象とする心理学。→差異心理学」との記載があり(甲267),昭和63年発行の第1版新装版第二刷にも同様の記載がある(乙1)。

(ウ)  大辞泉(小学館)

平成7年発行の第1版第1刷には,「個性」の項目に【個性心理学】「個人差を扱う心理学。」との記載があり(乙2),平成10年発行の増補・新装版にも同様の記載がある(甲268)。平成24年発行の第2版第1刷には,「個性心理学」の項目が設けられており(乙3),やはり上記と同様の記載がある。ウェブサイト上の「デジタル大辞泉」にも,平成26年12月時点で,上記と同様の解説が記載されている(甲261)。

(エ)  日本国語大辞典第2版第5巻(小学館・平成16年第4刷発行)

「個性心理学」の項目が設けられており,「個人差を研究対象とする心理学。→差異心理学」との記載がある。また,「差異心理学」の項目には,「個人の性質や能力などのちがいを研究する心理学。一般心理学が人間一般に通じる法則を見出そうとするのに対して,個人,男女,民族など,いろいろな形で存在する人間どうしの差異から,個性や民族性などの特質や構造をあきらかにしようとするもの。」との記載がある(甲269)。

(オ)  精選版日本国語大辞典第1巻・第2巻(小学館・平成18年初版第1刷発行)

上記(エ)の日本国語大辞典と同様の記載がある(甲270,271)。

(2) 「個性心理学」という語は,それ自体としてみても,一般大衆にとって個性に関する心理学,すなわち心理学の一分野をなす学問であると素直に理解できる語であるところ,(1)で認定した各事実によれば,実際にも「個性心理学」は,「差異心理学」ともいわれるもので,心理学のうち個人差の問題を扱う領域として古くから知られており,国内外でこれを研究対象とする研究者・研究室があったこと,(専門書ではなく)一般書である我が国の著名な国語辞書・辞典類においても,その解説が掲載されていることが認められる。そして,これらの事実によれば,「個性心理学」なる語は,心理学という学問の一分野(一領域)を示す一般的名称(普通名称)であると認めるのが相当であり,少なくとも,原告の創作した創造標章などではないことは明らかである。したがって,これと同旨をいう本件審決の認定判断に誤りはない。

(3) これに対し,原告は,本件審決が挙げた証拠の大半が今から30年以上も前の古い文献であり,比較的最近の文献で「個性心理学」について言及しているものは僅かであること,心理学関係の最近の辞典では,「個性心理学」を説明する項目がないことなどを指摘して,「個性心理学」なる語は普通名称ではないと主張し,また,仮に「普通名称」であるとしても,学問や研究対象としての心理学という極めて限られた範囲のことであると主張する。

しかしながら,原告の主張はいずれも失当である。

すなわち,確かに,原告が提出する証拠関係によれば,最近の心理学の専門的な辞典では「個性心理学」なる語は取り上げられておらず,また,近時,「個性心理学」が心理学の学界(学会)等で盛んに取り上げられ,議論されていることを示す証拠はない。しかし,だからといって,かかる語がいわば死語と化したと判断するのは早計であり,上記のとおり,「個性心理学」が個人差を扱う心理学として古くから存在していることは歴然とした事実であるのみならず,今なお,我が国の著名な国語辞書・辞典類にもその解説が記載されていることに鑑みれば,かかる語は現在においても心理学という学問の一分野(一領域)を示す一般的名称(普通名称)として通用力を有するというべきであり,また,ごく限られた一部の専門家の間でしか通用しない専門的用語でもないというのが相当である。

(4) 以上の次第であるから,原告が主張する取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(引用商標1及び2の周知性の認定の誤り)について

(1)  後掲の各証拠(枝番の表示は省略)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア 原告は,その説明によれば,平成9年頃,「個性心理學研究所」なる団体を設立して,動物のマスコットイメージを取り入れた占い(運勢判断や性格判断など)を開始し,また,同占いの講座や,その「講師・カウンセラー」の養成講座などの事業を始めた。同占いとその事業に関する標章として使用されたのが「個性心理學」であった(甲4,乙6)。

イ その由来について,原告ないし上記研究所が作成した「個性心理學研究所の歩み」と題するチラシ(年表)には,「1997年4月 渡辺透先生(中略)が私学で初めて日本大学に心理学科を創設し,大正13年から昭和32年に没するまで『個性心理学』という独創的な講義をしていた。弦本は,人間学でもあるパーソナリティ心理学の『個性心理学』を誰にでも分かる21世紀の心理学として,分類の手法を東洋の英知といわれた『四柱推命』や『宿曜経』に求め,さらに世界で初めて動物のマスコットイメージを取り入れることで,まったく新しい『個性心理學』として世に発表。」との説明が記されている(乙6)。

ウ 原告は,上記研究所(本部)を通じて上記占いに係る講座を平成9年以降,年複数回開催し,また,認定講師を「支所・支局」と位置付けて各地で活動を行うと共に,同講座で使用するテキスト(甲6~9)や,上記占いに関連する一般向けの書籍(甲16,18~32,205,206)・記事(甲114~152)などを数多く執筆し,また,新聞・雑誌(甲33~113)やテレビ(甲17,153~155)などの大衆メディアにも,上記占いが取り上げられ,あるいは原告自ら出演するなどし,さらには,様々な企画・イベント(甲156~185)にも参画するなどして,現在に至るまで,その宣伝・広告に努めている(甲10~13など)。

エ 新聞・雑誌を例にとれば,上記占いは,平成10年に「日経トレンディ」(甲39)や「週刊宝石」(甲40)で同占いに係るソフトが取り上げられたのを皮切りに,動物占いの親しみやすさや,恋愛・性的相性など若者が関心を持つ事項を占いの対象としたことなどが評価されて,「夕刊フジ」(甲34)などの日刊紙や,「AERA」(甲41,42),「TOKYO1週間」(甲43)などの雑誌で取り上げられるようになり,女性誌「ノンノ」(甲45~52)や,男性誌「ホットドッグ・プレス」(甲65,66)にもかかる占いが連載ないし掲載されるなど,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)までに,数多くの新聞・雑誌等で紹介されるに至っている(甲33~152)。

オ もっとも,原告提出に係る各書証(書籍,新聞,雑誌等)を個別に検討すると,上記占いは,「動物キャラナビ」(甲22,26~29,32,45,46,50~52,54~56,58,59,73,78~83,96,97,101~104,106~109,112,126~152など),「キャラナビ」(甲24,25,74~77,98など),「キャラナビ占い」(甲67,105など),「ラブナビ」(甲23,47~49,53,57,113など),「動物占い」(甲34,35,41,43,89など),「マスコット占い」(甲60~66,85,87など),「動物マスコット占い」(甲71,86,91など),「動物キャラ占い」(甲70),「マスコット心理学」(甲68)などとして表記ないし紹介されている例が多数であり,これらと比較すると,「個性心理学」ないし「個性心理學」なる名称を前面に出して表記ないし紹介されている例は必ずしも多くない(甲20,21,31,33,38,44,72,88,93,94,111,114~125など)。また,多くの例において,引用商標1「個性心理学」ないし「個性心理學」は,書籍・記事のサブタイトル(例えば,甲28,85など)や,原告の著書・経歴の紹介(例えば,甲30,61など),あるいは,記事本文中の記述の一部(例えば,甲33,41,43,91など)として,引用商標2「個性心理學研究所」ないし「個性心理学研究所」は,原告の肩書等を示すもの(例えば,甲41ないし43など多数)として,いずれも,上記の「動物キャラナビ」等の表示と比べると,控え目に表示されるにとどまっている(甲6~186,205,206)。

カ なお,原告は,上記占いの講座やテキスト,書籍の表題として「個性心理学」の表示を行うに当たっては,あえて「学」ではなく旧字体の「學」を選択し,「個性心理學」との標章を使用している(甲4,6~30,乙6)。

(2)  以上の事実によれば,原告の考案に係る上記占いは,「動物占い」等として,遅くとも本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)までに,需要者である一般大衆において,一定程度認知され周知になったものと認められるが,それは飽くまで「動物占い」等としてであって,引用商標1及び2は,必ずしもその知名度に貢献しているとはいい難い(少なくとも,上記認定の程度では,引用商標1及び2それ自体が原告の「動物占い」等の役務を表示するものとして周知となった事実を認めるには足りない。)。したがって,原告主張のうち,引用商標1及び2が原告の「占い」の役務を表示するものとして周知となったとの前提自体,そもそも採用し得ないものというべきである。

(3)  また,原告の業務に係る商品としての「印刷物」や,役務としての「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」に関しても,上記の各時点において,引用商標1及び2が,その出所を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。

ア すなわち,原告は,「個性心理學研究所」の所長として,その主催する「個性心理学」の占いに係る講座を,甲6ないし15に示すとおり,平成9年から多数回にわたり開催し,同講座において「個性心理学」に係る「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」の役務を提供し,その際に「個性心理學研究所」が発行するテキスト,すなわち「印刷物」を配布している旨主張する。

しかしながら,原告が主張する上記講座は,例えば,受講資格の欄に「個性心理學に興味のある方ならどなたでも」と記載されており,また,カリキュラムの内容に「個性心理學とは何か?」との記載があるように(甲11),原告の考案に係る「個性心理學」という知識を教授することを目的とする講座であることが明らかであることからすると,同講座における「個性心理學」の表示が意味するところは,正に「知識の教授」という役務の質・内容そのものであって,同表示はかかる役務の出所を表示するものではないというべきである。

「セミナーの企画・運営又は開催」に関しても,確かに原告は「個性心理學研究所」を通じて「個性心理學」なる知識を伝達するためのセミナーを企画・運営・開催していることが認められるが(甲11),飽くまでその限度にとどまるのであって,ほかに原告が業として「セミナーの企画・運営又は開催」なる役務の提供を行っている事実を認めるに足りる証拠はなく,当然ながら,その役務の出所表示として引用商標1及び2を使用している事実も認められない。

「印刷物」についても,甲6ないし9(いずれも枝番を含む。)のテキストは,飽くまで「個性心理學研究所」の講座において使用される(すなわち,同講座の受講生に配布される)テキストであることを原告自身が認めており(原告第1準備書面14頁),ほかに原告が業として「印刷物」を生産・譲渡し,かかる印刷物に引用商標1及び2を使用している事実を認めるに足りる証拠はない。また,上記テキストにおける表示も,全体としてみれば,「個性心理學基礎講座」,「個性心理學基礎講座テキスト」,「個性心理學資料集」などという講座の名称や講座で使用されるテキスト・資料の名称の一部であって,結局のところ,上記テキストが使用される講座の内容,すなわち,「知識の教授」という役務の質・内容を表示するものにすぎず,上記テキスト自体の出所表示として機能するものとは認められないというべきである。

なお,原告は,「個性心理學システム」なるソフトウェアを開発し,遅くとも平成12年には「個性心理學研究所」を通じて「個性心理学」に係るレポートの一般販売を開始したとも主張し,その裏付けとして甲424ないし426を提出する。しかし,当該レポートは「個性診断レポート」の名称で販売されているにすぎず(甲424),そのサンプル(甲426)を見ても,印刷されたレポートそれ自体に「個性心理学」の標章は一切使用されていない(レポートの左下部に「個性心理學研究所 本部」との表示があるにすぎない)上に,その主張する販売数についても何ら裏付けとなる証拠が提出されていないことからすると,上記の書証(甲424~426)をもって直ちに引用商標1及び2が「印刷物」の出所を表示するものとして周知になった事実を認めることは困難である。

以上によれば,原告が主張する「個性心理学」の占いに係る講座の開催,同講座で使用するテキストの配布,レポートの一般販売は,いずれも,引用商標1及び2が,原告の業務に係る商品としての「印刷物」や,役務としての「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」の出所を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたことを示す証拠とはならないというべきである。

イ また,原告は,「個性心理学」及び「個性心理學研究所」は,原告による「個性心理学」の占いに係る書籍の執筆や,原告の「個性心理学」の占い及び関連する事業についての雑誌,新聞,テレビ番組等の各種メディアにおける紹介等を通じ,広く認識されるようになった(すなわち,引用商標1及び2は,原告の「占い」の役務を表示するものとして周知となり,その結果,原告の「印刷物」の商品や,「知識の教授」及び「セミナーの企画・運営又は開催」の役務との関係においても周知性を獲得した)と主張し,多数の証拠(書籍に関しては,甲16,18ないし32,205,206,新聞・雑誌での記事に関しては,甲33ないし152,テレビ等のメディアに関しては,甲17,153ないし155,その他イベントに関しては,甲156ないし185。いずれも枝番を含む。以下同じ。)を提出する。

しかしながら,前記のとおり,これらの証拠によって認められるのは,飽くまで,原告が考案した動物占いそれ自体の周知性であって,その出所表示としての引用商標1及び2の周知性ではない。ましてや,これらの証拠によって,引用商標1及び2が,原告の業務に係る商品としての「印刷物」や,役務としての「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」の出所表示として周知になったとも認められない。

すなわち,甲16,18ないし32,205,206は,書籍の一部(表紙や奥付,内容の抜粋など)や書籍を紹介するウェブページ・新聞広告の写しであるが,いずれにおいても,「個性心理学」の表示(「学」の字が旧字体のものを含む。以下同じ。)は,書籍のタイトル(ただし,出所表示というよりは書籍の内容そのものである。)ないし著作者又は監修者としての原告の所属先を含むプロフィールの一部として使用されているにすぎず,「個性心理學研究所」の表示(「學」の字が新字体のものを含む。以下同じ。)も,原告の所属先として使用されているにすぎないものであり,これらの表示をもって,原告の「印刷物」という商品や,「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」という役務それ自体の出所表示として使用されているものとは認められない(仮にこれらの商品・役務の出所表示として使用されているといい得るものが含まれているとしても,それだけで周知性の獲得を認めるのは困難である。)。

甲33ないし152は,新聞・雑誌における記事を示す証拠であるが,その大半が,占いとしての「個性心理学」を取り上げるものにすぎず,「個性心理学」ないし「個性心理學研究所」の表示も,占いという役務の紹介や,著者・監修者等としての原告の肩書の一部として使用されているにすぎないのであって,やはり,原告の「印刷物」という商品や,「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」という役務それ自体の出所表示として使用されているものとは認められない。

甲17,153ないし155は,原告の占いがテレビ等のメディアで取り上げられたことを示す証拠であるが,やはり,「個性心理学」ないし「個性心理學研究所」の表示は,占いという役務自体の紹介や,原告の肩書として使用されているにすぎず,原告の「印刷物」という商品や,「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」という役務それ自体の出所表示として使用されているものとは認められない。

甲156ないし185は,「個性心理学」に係る占いが第三者のイベントやセミナーで利用・紹介されたり,ゲーム化されたり,あるいは,動物のキャラクターがグッズで利用されたりした事実を示すものであるが,いずれも,占いそれ自体や動物のキャラクターの認知に貢献したということはできても,それ以上に,原告の「印刷物」という商品や,「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」という役務それ自体の出所表示として,「個性心理学」ないし「個性心理學研究所」の表示が具体的に使用されているものとは認められない。

以上によれば,原告が主張する上記事実や証拠は,いずれも,原告の業務に係る商品としての「印刷物」や,役務としての「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」の出所を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたことを示す証拠とはならないというべきである。

(4)  以上のとおり,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)までに,原告の考案に係る動物占いは,需要者である一般大衆において,一定程度認知され周知になったものと認められるが,引用商標1及び2自体は,その出所表示として必ずしも周知になったとはいえず,ましてや,原告の業務に係る商品としての「印刷物」,役務としての「知識の教授」や「セミナーの企画・運営又は開催」の出所表示として周知になったとはいえない。

したがって,この点においても,本件審決の認定判断に誤りがあるとは認められず,原告が主張する取消事由2は理由がない。

3  取消事由3(本件商標の商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)について

(1)  類似性の判断基準

商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照),複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民228号561頁参照)。

(2)  本件商標について

本件商標は,前記第2の1のとおり,「一般社団法人ISD個性心理学協会」なる文字を横書きにしてなる標章であり,外観視覚上まとまりよく一体に表されているものであるから,その構成全体から「イッパンシャダンホウジンアイエスディーコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じるほか,法人の種別を表す「一般社団法人」の部分を省略して「アイエスディーコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じ得るものと認められる。

また,「ISD」は造語であってそれ自体特定の観念を生じるものではなく,「個性心理学」は心理学という学問の一分野(一領域)を示す一般的名称(普通名称)にすぎず,「協会」は「ある目的のため会員が協力して設立・維持する会」(広辞苑第6版)であって団体の一種であることからすると,本件商標からは,「(一般社団法人である)『ISD』という名称の心理学の一分野(一領域)である個性心理学に関する会員相互の協力団体」という観念が生じる。

(3)  引用商標について

引用商標1は,「個性心理学」の文字を標準文字により表してなる標章であり,「コセイシンリガク」との称呼,「心理学の一分野(一領域)である個性心理学」との観念が生じる。

引用商標3は,特徴的な文字で一部デザイン化された「個 性」,「心理学」及び「研究所」の各文字を3段に表してなる標章であり,「心理学の一分野(一領域)である個性心理学を扱う研究機関」との観念が生じる。

(4)  本件商標と引用商標の類否

ア 本件商標と引用商標1について

本件商標と引用商標1は,「一般社団法人」のほか,「ISD」及び「協会」の部分で外観が相違する。

また,本件商標からは,「イッパンシャダンホウジンアイエスディーコセイシンリガクキョウカイ」又は「アイエスディーコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じるのに対し,引用商標1からは,「コセイシンリガク」との称呼が生じるものであって,両者は称呼においても相違する。

さらに,上記のとおり,本件商標からは,「(一般社団法人である)『ISD』という名称の心理学の一分野(一領域)である個性心理学に関する会員相互の協力団体」との観念が生じるのに対し,引用商標1からは,「心理学の一分野(一領域)である個性心理学」との観念が生じるものであって,両者は観念においても明らかに相違する。

したがって,取引の実情について検討するまでもなく,本件商標は引用商標1と類似しているとはいえない。

イ 本件商標と引用商標3について

本件商標と引用商標3は,外観が明らかに相違するほか,本件商標からは,「イッパンシャダンホウジンアイエスディーコセイシンリガクキョウカイ」又は「アイエスディーコセイシンリガクキョウカイ」との称呼が生じるのに対し,引用商標3からは,「コセイシンリガクケンキュウジョ」との称呼が生じるものであって,両者は称呼においても相違する。

また,本件商標からは,「(一般社団法人である)『ISD』という名称の心理学の一分野(一領域)である個性心理学に関する会員相互の協力団体」との観念が生じるのに対し,引用商標3からは,「心理学の一分野(一領域)である個性心理学を扱う研究機関」との観念が生じるものであって,両者は明らかに相違する。

したがって,取引の実情について検討するまでもなく,本件商標は引用商標3と類似しているとはいえない。

(5)  原告の主張について

原告は,「個性心理学」なる語が原告の業務を表示するものとして周知であり,同部分の識別力が強いことを前提に,本件商標と引用商標1及び3の類似性を主張する。

しかしながら,かかる前提が採用できないことは前記1及び2のとおりであるから,原告の主張は,その余の点について検討するまでもなく,失当である。

(6)  以上の次第であるから,本件商標は商標法4条1項11号に該当するものとは認められない。

したがって,原告が主張する取消事由3は理由がない。

4  取消事由4(本件商標の商標法4条1項10号該当性の判断の誤り)について

(1)  そもそも,引用商標1及び2が,原告の業務に係る商品の「印刷物」や役務の「知識の教授」,「セミナーの企画・運営又は開催」の出所を表示するものとして需要者の間に広く認識されていないことは,前記2のとおりである。これによれば,両商標が,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)において,原告の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間で広く認識されていたということはできない。

(2)  また,本件商標が引用商標1と類似するといえないことは前記3のとおりであるし,同様に引用商標2とも類似するとはいえない。

すなわち,引用商標2は「個性心理學研究所」の文字よりなる標章であって,引用商標3のように,特徴的な文字を使用したり,文字の一部をデザイン化したり,3つの文字部分に分けて3段構成をとったりしているものではないが,引用商標3と同じく,「コセイシンリガクケンキュウジョ」なる称呼が生じ,また,「心理学の一分野(一領域)である個性心理学を扱う研究機関」との観念が生じるものである。

そうすると,本件商標と引用商標2とでは,「一般社団法人」のほか,「ISD」,「協会」及び「研究所」の部分で外観が相違する(厳密には,引用商標2が旧字体である「學」を使用している点においても相違する)と共に,引用商標3との対比と同様に,称呼及び観念が相違することも明らかである。

したがって,取引の実情について検討するまでもなく,本件商標は引用商標2と類似するとはいえない。

(3)  以上の次第であるから,上記(1)(2)いずれの点においても,本件商標は商標法4条1項10号に該当するものとは認められない。

したがって,原告の主張する取消事由4は理由がない。

5  取消事由5(本件商標の商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)について

(1)  商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに,当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして,上記の「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。

(2)  これを本件についてみるに,本件商標と引用商標1及び2とは,それぞれ,外観,称呼及び観念のいずれにおいても相違していることは前記3及び4のとおりである。また,引用商標1及び2は,心理学という学問の一分野(一領域)を示す一般的名称(普通名称)そのもの(引用商標1),ないしは,同一般名称の「学」の字を「學」に変えると共に学問等の研究機関を表す「研究所」なる語を付加したにすぎないもの(引用商標2)であって,いずれも全く独創性がないか,その程度が著しく低いものである上に,周知性著名性が認められるものでないことも,前記1及び2で説示したところから明らかといえる。

他方,本件商標は,指定役務に「知識の教授」や「セミナーの企画・運営又は開催」を含むものであり,引用商標1及び2も,原告の占いに係る「知識の教授」や「セミナーの企画・運営又は開催」に使用されるものであるから,本件商標の指定役務は少なくともその限度で類似する。

以上に基づいて検討するに,上記のとおり,本件商標と引用商標1及び2とは,それぞれ,外観,称呼及び観念のいずれにおいても相違しており,類似性の程度は低いと認められることや,引用商標1及び2は,全く独創性がないか,その程度が著しく低いものであり,周知著名性が認められるものでもないことからすると,たとえ,指定役務が上記の限度で共通するとしても,そのことのみでは,本件商標を上記指定役務に使用したときに,当該役務が原告又は原告と一定の緊密な営業上の関係若しくは原告と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主体の業務に係る役務であると誤信されるおそれはないというべきである。

そうすると,本件商標が「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものとは認められない。

(3)  原告の主張について

原告の主張は,要するに,引用商標1及び2がいずれも原告の創作した創造標章であること,本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)の時点で,原告の業務を表示するものとして周知であったこと,本件商標は,周知な商標である引用商標1及び2と類似していることを前提とするものであるが,いずれも採用し得ないことは,既に説示したとおりである。したがって,総合判断であることを踏まえても,原告の主張は採用できない。

(4)  以上の次第であるから,本件商標は商標法4条1項15号に該当するものとは認められない。

したがって,原告が主張する取消事由5は理由がない。

6  取消事由6(本件商標の商標法4条1項19号該当性の判断の誤り)について

原告は,引用商標1及び2が本件商標の登録出願時(平成26年7月25日)及び登録査定時(同年12月19日)において,原告の業務に係る商品及び役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている商標であり,本件商標はその引用商標1及び2と類似するものであることを前提に,被告が本件商標を不正の目的をもって使用している旨主張する。

しかしながら,前記3及び4のとおり,本件商標は,引用商標1及び2のいずれとも類似するとはいえないから,原告の主張はその前提を欠く。

したがって,本件商標が不正の目的をもって使用するものに該当するか否かについて判断するまでもなく,本件商標は商標法4条1項19号に該当するものとは認められない。

よって,原告が主張する取消事由6は理由がない。

7  取消事由7(本件商標の商標法4条1項7号該当性の判断の誤り)について

原告は,被告が引用商標1及び2と類似する商標(本件商標)を無断で使用(フリーライド)して,引用商標1及び2の商標の出所識別機能を希釈化し,結局,何ら労せずして,原告の事業と酷似する占いに係る事業を展開して原告の(潜在的)顧客を奪っている旨主張する。

しかしながら,前記1及び2のとおり,引用商標1及び2は原告の業務を表示するものとして周知であるとはいえず,また,前記3及び4のとおり,本件商標は引用商標1及び2のいずれとも類似するとはいえないから,原告の主張はその前提を欠く。

したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件商標は商標法4条1項7号に該当するものとは認められない。

よって,原告が主張する取消事由7は理由がない。

8  結論

以上のとおり,原告主張の取消事由1ないし7はいずれも理由がなく,本件審決に取り消されるべき違法はない。

よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 大西勝滋 裁判官 寺田利彦)

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