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知財高等裁判所 平成29年(ネ)10002号 判決 2017年6月14日

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  控訴人らの本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,原判決別紙装置目録記載の装置を使用してはならない。

3  被控訴人は,原判決別紙装置目録記載の装置を使用して原判決別紙方法目録記載の工事方法を実施してはならない。

第2事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)

1  本件は,発明の名称を「雨水浸透坑掘削装置,雨水浸透管敷設工法および雨水浸透構造体」とする特許権(本件特許権1),「雨水浸透坑掘削装置」とする特許権(本件特許権2)及び「連結装置およびこれを使用した雨水浸透坑掘削装置」とする特許権(本件特許権3)をそれぞれ共有する控訴人らが,被控訴人に対し,被控訴人による原判決別紙装置目録記載の装置(被告装置)及び被告装置を使用した原判決別紙方法目録記載の工事方法(被告方法)の使用が本件特許権1~3の侵害に当たると主張して,特許法100条1項に基づく被告装置及び被告方法の使用の各差止めを求めた事案である。

なお,控訴人らは,被控訴人の行為につき,本件特許権1の侵害を主位的に主張するとともに,予備的に,第1次的には本件特許権2の,第2次的には本件特許権3の侵害を主張する。

2  原判決は,被告装置及び被告方法は,本件特許権1~3に係る各発明の技術的範囲にいずれも属しないとして,控訴人らの請求を全部棄却した。

控訴人らは,これを不服として控訴した。

3  前提事実

前提事実は,以下のとおり追加,訂正するほかは,原判決「事実及び理由」第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決10頁2行目の末尾に,改行の上,以下のとおり追加する。

「エ 本件発明1①,⑦,2及び3の作用効果

(ア) 本件発明1①の作用効果

雨水浸透管を埋設すべき街渠ますの周辺に基台を設置する程度のスペースを利用して雨水浸透坑を掘削することができ,小規模な工事により十分な深さの雨水浸透坑を設けることができる。特に,油圧ジャッキによるスライダの下降によって金属製管体を圧入する構成であるから,駆動力としても小型の油圧発生装置によることができ,工事場所周辺の使用スペースをも小規模なものとすることができる。

(イ) 本件発明1⑦の作用効果

油圧ジャッキのストローク長と同じ長さの金属製管体及びオーガスクリュを継ぎ足しながら,所望深さに至るまで雨水浸透坑を掘削でき,同時に,金属製管体によって雨水浸透管の埋設領域が確保されることとなり,小規模かつ簡易な工法を提供することができる。

(ウ) 本件発明2の作用効果

雨水浸透管を埋設すべき街渠ますの周辺において,クローラ型の走行体を使用して,施工現場に雨水浸透坑を掘削することができ,小規模な工事により十分な深さの雨水浸透坑を設けることができる。また,クローラ型の走行体にフレーム構造体,スライダ及び回転駆動体が一体に取り付けられているので,施工現場における組立,設置作業が容易となる。特に,スライダの下降によってオーガスクリュ及び円管体を圧入する構成であるから,駆動力としても小型の油圧発生装置によることができ,クローラ型の走行体に搭載することができる。

(エ) 本件発明3の作用効果

穴掘建柱車を利用することにより,雨水浸透坑を設けるべき位置から離れた場所からブームを操作することができることから,雨水浸透管を埋設すべき街渠ますの周辺に住宅用のブロック塀等の障壁が存在している場合であっても,雨水浸透坑を掘削することができ,小規模な工事により十分な深さの雨水浸透坑を設けることができる。」

(2)  原判決10頁6行目から8行目を,以下のとおり改める。

「イ 被告装置は,本判決別紙『浸透スクリューの形状』のとおり,一般的に汎用されているフォークリフトをそのまま利用したものであって,その構成は,以下のとおりであり,また,爪(フォーク)の昇降動作は,案内レールに沿い,両サイドに装着した長いリフトシリンダを油圧によって伸縮させ,これにリフトチェーンを介在させることによりフォークの昇降を円滑に行うものである。

A マストはアウタマストとインナマストで構成され,インナマストはアウタマストを案内レールとしてリフトシリンダの伸縮により上下動可能であり,

B リフトシリンダはアウタマストの両サイドに装着されているとともに,そのリフトシリンダのピストンロッドはリフトブラケットを介してインナマストの上端と連結しており,

C リフトチェーンは,一端はアウタマストに,他端はインナマストの上部に取り付けたローラを介してインナマストに付いている爪用のブラケットに,それぞれ連結しており,

D 爪の上面には油圧モータを配置し,油圧モータの下方に突出する回転軸はオーガスクリュに連結し,

E 爪の下面には排土用スペーサが設けてあり,

F 排土用スペーサの下部に設けた円筒形の連結部材に,オーガスクリュを挿入する金属製管体が取り付けられている。」

4  争点

(1)  本件発明1①及び⑦の技術的範囲への属否

ア 被告装置につき,文言侵害ないし均等侵害の成否(争点1-1)

イ 被告方法について(争点1-2)

(2)  本件発明2の技術的範囲への属否(争点2)

(3)  本件発明3の技術的範囲への属否(争点3)

5  争点に対する当事者の主張

(1)  本件発明1①及び⑦の技術的範囲への属否

ア 被告装置につき,文言侵害ないし均等侵害の成否(争点1-1)

(控訴人らの主張)

(ア) 本件発明1①との関係における被告装置の構成は,以下のとおりである。

1a 敷設すべき雨水浸透管を挿通できる程度の内径を有する金属製管体と,この金属製管体の内部で回転可能なオーガスクリュとを同時に圧入して,上記雨水浸透管を敷設するための雨水浸透坑を設ける装置であって,

1b フォークリフトの車体(シャーシ)を基台として,その車体の前方に上記金属製管体を着脱可能にするための空間を有し,

1c この基台(フォークリフトの車体)に立設される油圧ジャッキ(油圧によって伸縮可能なリフトシリンダ)と,

1d フォークリフトの車体に支持されるアウタマストに案内されつつ伸縮可能なインナマストに油圧ジャッキの先端が連結されるとともに,このインナマストに沿って昇降可能に設けられたスライダ(爪用のブラケット)と,

1e このスライダに支持される爪部分と一体的に設けられ,金属製管体を保持する保持手段と,

1f 上記金属製管体の上部において爪部分に支持されて上記オーガスクリュを回転させるモータとを備えた

1g ことを特徴とする雨水浸透坑掘削装置

(イ) 本件発明1①との関係における被告装置の作用効果

被告装置においては,雨水浸透管を埋設すべき街渠ますの周辺にフォークリフトの駐車可能な程度のスペースを利用して雨水浸透坑を掘削することができ,小規模な工事により十分な深さの雨水浸透坑を設けることができる。特に,フォークリフトの爪部分を昇降させるスライダの下降によって金属製管体を圧入する構成であるから,駆動力としても小型の油圧発生装置によることができ,工事場所周辺の使用スペースをも小規模なものとすることができる。

(ウ) 本件発明1①と被告装置との対比

a 被告装置は,本件発明1①と同じく雨水浸透管を敷設するための雨水浸透坑を設ける装置であり(構成1a),基台(同1b),油圧ジャッキ(同1c),スライダ(同1d),保持手段(同1e)及びモータ(同1f)を備える雨水浸透坑掘削装置(同1g)である。

なお,被告装置は,本件発明1①の基台,油圧ジャッキ及びスライダをフォークリフトが有する機能によって代替するものであるが,フォークリフトの車体が基台に,リフトシリンダが油圧ジャッキに,爪用のブラケットがスライダに,それぞれ相当する。このうち,フォークリフトの車体(基台)は車輪によって移動可能であるが,車輪を固定(ブレーキ操作)することにより所定の位置に設置されるものであり,また,爪用のブラケット(スライダ)は,マスト(アウタマスト及びインナマスト)及びリフトチェーンの懸架によって昇降可能となっているが,アウタマストに内蔵された(一体化された)リフトシリンダ(油圧ジャッキ)とともに,アウタマストによって間接的に支持されるものである。

したがって,被告装置は本件発明1①の各構成要件を充足する。

b なお,被告装置の「基台」(構成1b)は,本件発明1①の「貫通孔を有する」(構成要件1B)構成とは異なるけれども,被告装置は本件発明1①の構成と均等なものであり,その技術的範囲に属する。

すなわち,本件発明1①において,金属製管体は保持手段によって保持され,かつ,保持手段はスライダによって支持されることから,「貫通孔」(構成要件1B)とは,スライダによって間接的に昇降作動する金属製管体を装着するために必要な「空間」を意味する。換言すれば,「貫通孔」とは,金属製管体をスライダに装着し得るようにするための構成であるところ,本件発明1①の構成上の要素は「基台」であって「貫通孔」ではないから,「貫通孔」は本件発明1①の本質的部分ではない。また,「貫通孔」(構成要件1B)につき被告装置の構成1bに置き換えても,本件発明1①と同一の作用効果(短いストロークによる浸透管の設置工事(小規模工事)を繰り返すことにより,全体としても小規模の工事によって,深い位置に達するまでの浸透坑を掘削することができること)を奏する。そして,貫通孔に係る構成要件1Bを構成1bに置き換えることは,被告装置製造時においては,当業者にとって容易であったものである。

(エ)a なお,「基台」が有するべき「貫通孔」は,金属製管体が挿通できるように設けられたものであり,現実の雨水浸透坑掘削工事においては,鋼管及びオーガスクリュを設置できる「空間」を確保するためのものである。このため,スライダによって間接的に昇降動作する保持手段に金属製管体を装着できる「空間」によって代替することができる。

b また,本件発明1①による工事の小規模化については,スペースの点は副次的なものにすぎず,「工事規模」が小さいことを第一の特徴としている。すなわち,従来の工事方法であるプレボーリング工法や中堀工法等によれば,極めて高い位置まで鋼管等を吊り上げる必要があり,そのための大型重機を必要とする結果,工事規模が大型化することとなっていた。これに対し,本件発明1①は,複数の金属製管体及びオーガスクリュを継ぎ足しながら深い位置まで到達する浸透坑を掘削し得る構成とすることにより,本件発明1⑦の実施を可能とする装置を提供したものであり,これによれば,1回で掘削し得る範囲が小さくなることで,それに必要な駆動力も小さくなり,油圧発生装置及び重機が小型化し,工事規模が全体として小規模化されるのである。したがって,本件発明1①が省スペースを実現できることを本質的特徴とすると捉えた上で,被告装置はフォークリフトを設置するスペースを必要とするから,本件発明1①とは本質的部分が異なると考えるのは誤りである。

さらに言えば,本件発明1①においても油圧ジャッキを駆動するための油圧発生装置は必須であり,市街地において油圧発生装置を使用する場合は,トラック等の荷台にこれを搭載し,工事現場周辺で稼働させなければならないのであるから,このことを無視してフォークリフトの設置場所のみを問題にするのも誤りである。

(被控訴人の主張)

(ア) 控訴人らの主張によれば,本件発明1①における貫通孔は本件明細書1記載の貫通孔31を意味することになるが,本件において問題となっている貫通孔は基台の貫通孔(本件明細書1記載の貫通孔11)である。

(イ) 本件発明1①は,基台が油圧ジャッキにより昇降可能なスライダを支持し,更にそのスライダが金属製管体を保持するための保持手段を支持しているという構成になっており,重量物である金属製管体をスライダの下方で支える基台は,当然に安定性の高いものでなければならない。このため,本件発明1①においては,「上記基台は,四辺形のプレート上に構成された基台であり」として,基台の形状を技術的に特定し,安定性を確保している(本件明細書1【0013】)。このような構成である以上,上方にある保持手段により鉛直方向に保持されている金属製管体を土中に圧入するためには,その基台に金属製管体を挿通する貫通孔の存在が必要不可欠である。

以上より,本件発明1①において,「基台」の「貫通孔」は同発明特有の課題解決手段を基礎付ける技術的特徴であって,発明の目的達成のための本質的部分である。

(ウ) 本件発明1①の効果につき,本件明細書1には,「雨水浸透管を埋設すべき街渠ますの周辺に基台を設置する程度のスペースを利用して雨水浸透坑を掘削することができ,…油圧ジャッキによるスライダの下降によって…工事場所周辺の使用スペースをも小規模なものとすることができる。」と記載されている(【0024】)。

この発明の効果は,上記のように,四辺形のプレート上に構成された基台に油圧ジャッキを立設し,この油圧ジャッキに支持されて昇降可能なスライダを想定した構成から派生するものであり,運転席の付いたフォークリフトの車体を「基台」とする考え方には当てはまらない。

(エ) 控訴人らは,「貫通孔」につき,現実の雨水浸透坑掘削工事において鋼管及びオーガスクリュを設置できる「空間」を確保するためのものであるなどと主張するけれども,本件発明1①の「基台」に設けられた「貫通孔」は,前記のとおり,金属製管体及びオーガスクリュを基台直下の地中に圧入する際に基台を通り抜けるためのものであって,金属製管体を装着するための空間ではない。

また,控訴人らは,本件発明1①による小規模化は,スペースに関する点は副次的であり,工事規模が小さいことを第一の特徴とするなどと主張するけれども,スペースの問題は工事規模と密接な関係があるし,発明の技術的特徴の判断に当たっては特許請求の範囲の記載及び当該発明の作用効果を基本とすべきところ,これによれば,本件発明1①の構成と被告装置の構成とは,装置設置スペースに関し大きな差異があることは明らかである。

さらに,控訴人らは,被告装置においては,本件発明1①の基台,油圧ジャッキ及びスライダをフォークリフトが有する機能によって代替するものである旨主張するけれども,本件発明1①の技術的特徴部分は,雨水浸透管を敷設する場所に基台,油圧ジャッキ及びスライダを上下方向に立設・支持し,スライダの下降により金属製管体及びオーガスクリュを地中に圧入することにあるから,これらはいずれも重要な構成要素であって,フォークリフトの機能により代替できるものではない。

(オ) 以上より,控訴人らの主張は失当である。

イ 被告方法について(争点1-2)

(控訴人らの主張)

(ア) 被告方法の構成は,以下のとおりである。

1h 前記の雨水浸透坑掘削装置(被告装置)を使用する雨水浸透管敷設工法であって,

1i あらかじめ金属製管体及びオーガスクリュを油圧ジャッキのストローク数回分に合わせた長さに構成し,

1j 雨水浸透管を埋設すべき街渠ますの上部開口部周辺に前記フォークリフトを設置し,

1k 上記金属製管体を前記保持手段(爪部分)で保持するとともに,該金属製管体の内部にオーガスクリュを配置し,

1l 上記金属製管体の上端に前記モータを設置するとともに,該モータの駆動軸を上記オーガスクリュの回転軸に接続し,

1m 上記オーガスクリュを回転させつつ,上記爪部分を昇降させるスライダを下降させることにより金属製管体及びオーガスクリュを同時に下降させて,街渠ますの底部を貫通させ,かつ,該金属製管体及びオーガスクリュを地中に圧入し,

1n 所定の下降終了時に,前記保持手段による金属製管体の保持を解除し,かつ,上記モータをオーガスクリュから取り外した上で,

1o 既に圧入された金属製管体及びオーガスクリュの上端に,同種の金属製管体及びオーガスクリュを継ぎ足し,保持手段による金属製管体の保持並びにモータの該金属製管体の上端への設置及びオーガスクリュとの接続の後,再び金属製管体及びオーガスクリュを圧入し,

1p 上記操作を繰り返し,予定する深さまで金属製管体及びオーガスクリュを圧入した後,オーガスクリュを撤去し,

1q 残余の金属製管体の内部に雨水浸透管を挿入し,この雨水浸透管の内部に交換可能な内部フィルタを充填した後,金属製管体を撤去してなる

1r ことを特徴とする雨水浸透管敷設工法。

(イ) 被告方法の作用効果

被告方法においては,フォークリフトの爪部分の昇降ストローク長と同じ長さの金属製管体及びオーガスクリュを継ぎ足しながら,所望深さに至るまで雨水浸透坑を掘削でき,同時に,金属製管体によって雨水浸透管の埋設領域が確保されることとなり,小規模かつ簡易な工法を提供することができる。

(ウ) 本件発明1⑦と被告方法との対比

被告方法において使用する装置である被告装置が,前記のとおり,本件発明1①の技術的範囲に属することを前提とすれば,被告方法は,本件発明1⑦の構成要件全てを充足することとなる。また,被告方法の作用効果は,本件発明1⑦のそれと同一である。

したがって,被告方法は,本件発明1⑦の技術的範囲に属する。

(被控訴人の主張)

前記のとおり,被告装置は本件発明1①の技術的範囲に属しない以上,被告方法は,本件発明1⑦の技術的範囲に属しない。

(2)  本件発明2の技術的範囲への属否(争点2)

(控訴人らの主張)

ア 仮に,被告装置及び被告方法が本件発明1①及び⑦の技術的範囲に属しないとしても,以下のとおり,被告装置は,本件発明2の技術的範囲に属する。

イ 本件発明2との関係における被告装置の構成は,以下のとおりである。

2a 雨水浸透管を挿通できる程度の内径を有する円管体と,この円管体の内部で回転可能なオーガスクリュとを同時に圧入して,上記雨水浸透管を敷設するための雨水浸透坑を設ける掘削装置であって,

2b 油圧発生装置を搭載する走行体(フォークリフト)と,

2c この走行体の前方に設けられた爪部材昇降スライド用支持部と,

2d この爪部材昇降スライド用支持部に支持される爪部材昇降スライド用の基部と,

2e この爪部材昇降スライド用の基部に内蔵された第一の進退駆動部材と,

2f この第一の進退駆動部材の一端に支持されて進退可能に設けられ,上記爪部材昇降スライド用の基部に係合されて上記進退方向が規制される爪部材昇降フレーム構造体と,

2g この爪部材昇降フレーム構造体に内蔵された第二の進退駆動部材と,

2h この第二の進退駆動部材による進退方向の駆動力が伝達されて進退可能に設けられ,上記爪部材昇降フレーム構造体に係合されて上記進退方向が規制される爪部材用スライダと,

2i このスライダの表面に突設された爪部材と,

2j この爪部材に保持されて上記オーガスクリュを回転させる回転駆動体と,

2k この回転駆動体の駆動軸周辺に配置され,上記円管体を保持する円管体保持部とを備えた

2l ことを特徴とする雨水浸透坑掘削装置。

ウ 本件発明2との関係における被告装置の作用効果

被告装置においては,雨水浸透管を埋設すべき街渠ますの周辺において,フォークリフトを使用して,施工現場に雨水浸透坑を掘削することができ,小規模な工事により十分な深さの雨水浸透坑を設けることができる。また,フォークリフトにフレーム構造体,スライダ及び回転駆動体が一体に取り付けられているので,施工現場における組立,設置作業が容易となる。特に,スライダの下降によってオーガスクリュ及び円管体を圧入する構成であるから,駆動力としても小型の駆動装置によることができ,フォークリフトに搭載されたものを利用することができる。

エ 本件発明2と被告装置との対比

本件発明2と被告装置では,本件発明2がクローラ型の走行体を使用する(構成要件2B)のに対し,被告装置はフォークリフトを使用する(構成2b)点において異なる。しかし,本件発明2においては,雨水浸透坑掘削装置が使用される現場で使用される一般的な走行体のことをクローラ型の走行体と称したものにすぎず,本件発明2と被告装置の違いは,単に異なる走行体を選択したことによるものであって,本件発明2の本質的部分における相違ではない。

被告装置は,この点を除く本件発明2の構成要件を全て充足し,作用効果も本件発明2と同様である。なお,被告装置のフォークリフトの爪部分(爪用のブラケット)の昇降は,2つのシリンダが一体となって行う構成となっているが,2つのシリンダが二段階分の昇降移動を駆動するという点においては本件発明2と同様の作用効果を発揮させるものとなっており,2つのシリンダが一体になっているかどうかという差異は設計上の微差にすぎない。

したがって,被告装置は,本件発明2の技術的範囲に属する。

(被控訴人の主張)

ア 本件発明2の特許請求の範囲においては,例えば「油圧発生装置を搭載する走行体」などとはせず,敢えて「油圧発生装置を搭載するクローラ型の走行体」(構成要件2B)と限定されているところ,これは,柔軟地盤でも走行できるようにし,また,前側に支持アームで保持する重量物であるフレーム構造体を備えているために安定した走行を確保する必要があるなどの目的によるものである。さらに,本件明細書2の記載を見ても,クローラ型の走行体しか想定されておらず(【0020】),クローラ型の走行体以外の走行体でもよい旨の記載や示唆はない。

イ 本件発明2においては,「スライド基部に内蔵された第一のシリンダ部材」(構成要件2E)と「フレーム構造体に内蔵された第二のシリンダ」(同2G)という2つのシリンダの存在が必須の構成要件となっているところ,本件明細書2の記載(【0025】,【0032】)によれば,これら2つのシリンダは,それぞれ別個にフレーム構造体又はスライダベースを昇降させる構造となっている。

これに対し,被告装置においては,フォークリフトの前面側に立設したマストをガイドとして左右一対のリフトシリンダのピストンの伸縮によって爪の高さ位置を上下させる構造になっており,また,リフトチェーンと爪を連結することによってピストンの上下動を補助し,爪を円滑に昇降させることができるようになっていることから,2つのシリンダが存在するものの,それらは一体として動作し,爪を上下させる構造となっている。

ウ したがって,被告装置は,本件発明2の技術的範囲に属しない。

(3)  本件発明3の技術的範囲への属否(争点3)

(控訴人らの主張)

ア 仮に,被告装置が本件発明1①及び2いずれの技術的範囲にも属しないとしても,以下のとおり,被告装置は,本件発明3の技術的範囲に属する。

イ 本件発明3との関係における被告装置の構成は,以下のとおりである。

3a 雨水浸透管を挿通できる程度の内径を有する円管体と,この円管体の内部で回転駆動されるオーガスクリュとを同時に圧入して,上記雨水浸透管を敷設するための雨水浸透坑を設ける雨水浸透坑掘削装置であって,

3b 所定の連結装置によって,フォークリフトの爪部分に設けられた回転駆動体に上記円管体及びオーガスクリュが装着された

3c ことを特徴とする雨水浸透坑掘削装置であり,

上記連結装置は,

3d フォークリフトの爪部分に設けられた回転駆動体に,オーガスクリュ及びこれを包囲する円管体を装着するための連結装置であって,

3e 上記回転駆動体によって回転駆動される駆動軸とオーガスクリュとの中間に介在され,該駆動軸とオーガスクリュとを着脱可能に支持する駆動連結部材と,

3f 上記回転駆動体の周辺に装着されるホルダ部と,

3g このホルダ部に支持され,かつ側面部に排土孔を有する排土用スペーサと,

3h この排土用スペーサに連結され,かつ上記円管体の一端を着脱可能に支持する円管体アダプタとを備えた

3i ことを特徴とする連結装置。

ウ 本件発明3との関係における被告装置の作用効果

被告装置においては,フォークリフトを利用することにより,雨水浸透坑を設けるべき位置から離れた場所において,フォークリフトを駐車し,その場所で爪部分を操作することによって雨水浸透坑を掘削できる。

小規模な工事により十分な深さの雨水浸透坑を設けることができる。

エ 本件発明3と被告装置との対比

本件発明3と被告装置とは,本件発明3が穴掘建柱車のブームを利用するものである(構成要件3B,同3D)のに対し,被告装置はフォークリフトの爪部分を利用する(構成3b,同3d)点において異なる。この点に関し,本件発明3では,ブロック塀等を超えて高い位置から円管体とオーガスクリュを支持し得るという特殊な作用効果を有するのに対し,これをフォークリフトで代用する場合には,高さに制限がある。

しかし,フォークリフトの爪部分は,爪部分の昇降による第一の高さ調整と,当該爪部分をスライド支持するスライダ部分を昇降させる第二の高さ調整との二段階に高さを調整し得る。このため,被告装置は,ブロック塀ほどの高さを越えて円管体及びオーガスクリュを支持することはできないとしても,多少の高さの障害物を越えた高さにおいて円管体及びオーガスクリュを支持することはできる構成となっており,その高さに差こそあれ,本件発明3と同様の作用効果を有する。

このように,高さについて有効な本件発明3の穴掘建柱車(構成要件3B,同3D)に代えてフォークリフト(構成3b,同3d)を使用することは,異なるタイプの車両を選択したことによるものであって,本件発明3の構成を表面的に回避するためのものである。

また,被告装置は,この点を除く本件発明3の構成要件を全て充足し,作用効果も本件発明3とほぼ同様である。

したがって,被告装置は,本件発明3の技術的範囲に属する。

(被控訴人の主張)

本件明細書3の記載(【0007】,【0008】,【0022】)によれば,本件発明3においては,高く,かつ,前方の離れた位置まで届く穴掘建柱車のブームを利用すること(構成要件3B,同3D)が必須の構成要件となっている。

他方,被告装置は,住宅用ブロック塀等の障害を越えることはできず,そもそも障害を越えるためのものでもないし,少し離れた位置において装置を操作できるものでもない。

このように,穴掘建柱車に代えてフォークリフトを使用しても本件発明3の効果は得られないことから,被告装置は,本件発明3の技術的範囲に属しない。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,本件においては本件特許権1~3の文言侵害も均等侵害も成立しないから,控訴人らの請求は理由がなく,いずれも棄却すべきものであると判断する。その理由は以下のとおりである。

1  争点1-1(被告装置につき,文言侵害ないし均等侵害の成否)について

(1)  文言侵害の成否

ア 本件発明1①の「上記金属製管体が挿通できる貫通孔を有する基台と,」(構成要件1B)の「貫通孔」とは,「貫通」の辞書的意義が「中を貫いて反対側に抜けること」であるから,金属製管体が挿通できる大きさであって,「基台」の中を貫く「孔」であると解される。このような理解は,本件明細書1の「基台1は,少なくとも鋼管SPが挿通できる程度の貫通孔11を中央に有した板状の金属部材であり,」(【0029】)との記載及び図2と整合する。

これに対し,被告装置のフォークリフトの車体にこの意味の「貫通孔」が設けられていないことは明らかである(この点自体は,控訴人らも認めているものとその主張からは理解される。)。

そうすると,被告装置のフォークリフトの車体は,本件発明1①の構成要件1Bの「貫通孔」を有する「基台」に相当するものではない。

したがって,被告装置は,本件発明1①の構成要件1Bを充足しない。

イ また,控訴人らは,被告装置のリフトシリンダは本件発明1①の「油圧ジャッキ」(構成要件1C)に相当する旨主張する。

しかし,本件発明1①の「油圧ジャッキ」は「基台に立設された」ものであるところ,上記のとおり,被告装置のフォークリフトの車体は本件発明1①の「基台」に相当するものではないから,被告装置のリフトシリンダをもって「基台に立設された」ものということはできない。

したがって,被告装置は,本件発明1①の構成要件1Cを充足しない。

ウ 以上より,その余の構成要件の充足の有無を論ずるまでもなく,被告装置につき本件発明1①の文言侵害は成立しない。この点に関する控訴人らの主張は採用し得ない。

(2)  均等侵害の成否

ア 控訴人らは,本件発明1①の「貫通孔」(構成要件1B)とは金属製管体をスライダに装着し得るようにするための構成であるところ,本件発明1①の構成上の要素は「基台」であって「貫通孔」ではないし,「貫通孔」を被告装置の構成1bに置き換えても,本件発明1①と同一の作用効果を奏するなどとして,被告装置につき本件発明1①の均等侵害が成立する旨主張する。

イ ところで,本件発明1①の「基台」は「金属製管体が挿通できる貫通孔」を有することから,「金属製管体」や「オーガスクリュ」を圧入する際,当該「基台」等は,雨水浸透管を敷設すべき場所(街渠ます等)の周囲を囲むようにして配置される。これによって,雨水浸透管を埋設すべき街渠ますの周辺に基台を設置する程度のスペースを利用して雨水浸透坑を掘削することができ,小規模な工事により十分な深さの雨水浸透坑を設けることが可能となり(前記第2の3 (1),本件明細書1【0024】),「小規模な工事によって浸透性を有する地盤に浸透管を到達させることのできる浸透坑掘削装置を提供する」(本件明細書1【0006】)という課題を解決することができるのである。すなわち,本件発明1①は,雨水浸透管を敷設すべき場所を囲むように基台等を設置し,貫通孔を通して金属製管体及びオーガスクリュを基台等の直下の地中に圧入する構造自体に特徴があると理解される。

そうすると,本件発明1①において,少なくとも「金属製管体が挿通できる貫通孔を有する基台」は発明の本質的部分と見るべきであって,この点で相違する被告装置につき均等侵害が成立する余地はない。

さらに,被告装置におけるフォークリフトの車体は,その構成上雨水浸透管を敷設すべき場所の側方に配置されることから,そのためのスペースを要することとなる。このため,本件発明1①の「基台」を被告装置のフォークリフトの車体に置き換えても,被告装置が本件発明1①と同一の作用効果を奏するとは認められない(なお,本件発明1①と被告装置とは,金属製管体等の支持形態に係る構成の相違から,その支持の安定性という点でも作用効果を異にするということもできる。)。

ウ したがって,被告装置につき本件発明1①の均等侵害は成立しない。

エ これに対し,控訴人らは,本件発明1①は,複数の金属製管体及びオーガスクリュを継ぎ足しながら深い位置まで到達する浸透坑を掘削し得る構成としたことにより,工事規模が全体として小規模化されるのであって,スペースの点は副次的なものにすぎないとか,本件発明1①においても油圧ジャッキを駆動する油圧発生装置のスペースは必須であるにもかかわらず,本件発明1①においてはこれを除いた構成の装置をもって装置の規模を判断したのに対し,被告装置については,油圧装置が搭載されたフォークリフトをもって装置の規模を判断するのは誤りであるなどと主張する。

しかし,複数の金属製管体及びオーガスクリュを継ぎ足す構成は,本件発明1①の内容をなすものではないから,この点に係る控訴人らの主張は特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえない。また,上記イのとおり,雨水浸透管を埋設すべき街渠ますの周辺に基台を設置する程度のスペースを利用して雨水浸透坑を掘削し得ることは,工事の小規模化(省スペース化)をもたらすものであるから,基台を設置するスペースに関する点は正に本件発明1①の効果であって,副次的な効果にとどまるものではないというべきである。さらに,本件発明1①は,油圧発生装置の配置や大きさはおろか装置自体について特定しておらず,かつ,本件発明1①の前記効果は「基台」を設置するスペースについてのものであり,油圧発生装置を設置するスペースに関するものではないことに鑑みると,均等侵害の成否を論ずるに当たり比較すべきは,本件発明1①の「基台」を設置するためのスペースと,これに相当すると控訴人らが主張する被告装置のフォークリフトの車体を設置するためのスペースである。

その他控訴人らがるる指摘する点を含め,この点に関する控訴人らの主張は採用し得ない。

(3)  小括

以上より,被告装置は,文言侵害及び均等侵害のいずれの観点から見ても,本件発明1①の技術的範囲に属しない。

そうである以上,争点1-2(被告方法について)についても,被告装置の使用を前提とする被告方法は,本件発明1①に従属する本件発明1⑦の技術的範囲に属しない。

2  争点2(本件発明2の技術的範囲への属否)及び争点3(本件発明3の技術的範囲への属否)については,原判決第3の2及び3各記載のとおりであるから,これを引用する。

第4結論

そうすると,控訴人らの請求はいずれも理由がなく,これらを棄却した原判決は相当であって,控訴人らの控訴はいずれも理由がないから,これらを棄却する。

よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 杉浦正樹 裁判官 寺田利彦)

(別紙)当事者目録

控訴人

株式会社ホウショウE G

控訴人

有限会社モグラ研究所

控訴人

スピーダーレンタル株式会社

控訴人

株式会社ノアテック

控訴人

有限会社向陽

上記5名訴訟代理人弁護士

柴田肇

中川英俊

中川彩子

由田恭子

岩﨑大輔

島幹彦

藤本佳大

三和田健介

西田京平

同訴訟代理人弁理士

井川浩文

被控訴人

株式会社サンリツ

同訴訟代理人弁護士

鍋谷博志

同訴訟代理人弁理士

宮田信道

以上

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