知財高等裁判所 平成29年(ネ)10040号 判決 2017年9月11日
控訴人
株式会社ニチモウワンマン
(以下「控訴人ワンマン」という。)
控訴人
西部機販愛知有限会社
(以下「控訴人西部機販」という。)
控訴人ら訴訟代理人弁護士
沖田哲義
同
道山智成
同
神邊健司
同
玉岡範久
同補佐人弁理士
伊藤高英
被控訴人
フルタ電機株式会社
同訴訟代理人弁護士
小南明也
主文
1 控訴人らの控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消す。
2 上記取消部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)
1 本件は,その名称を「生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置」とする特許発明(本件特許)に係る特許権を有する被控訴人が,原判決別紙物件目録1記載の生海苔異物除去機(本件装置)が本件特許発明の技術的範囲に属し,原判決別紙物件目録2記載の回転円板(本件回転円板)が本件装置の「生産にのみ用いる物」(法101条1号)であると主張して,以下の各請求をした事案である。
(1) 差止請求(法100条1項)
ア 控訴人ワンマン及び株式会社ニチモウ(以下「ニチモウ」という。)に対し,本件装置の譲渡,貸渡し,輸出又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止め。
イ 控訴人西部機販に対し,本件装置の譲渡,貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止め。
ウ 控訴人ら及びニチモウに対し,本件回転円板の譲渡,貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止め。
(2) 廃棄請求(法100条2項)
控訴人ら及びニチモウに対し,本件装置及び本件回転円板の各廃棄。
(3) 損害賠償請求
ア 控訴人ワンマンによる本件装置の販売(下記イの販売は含まれない。)に係る損害賠償請求
控訴人ワンマン及びニチモウに対し,本件特許権侵害の共同不法行為に基づき,また,Aに対し,会社法429条1項に基づき,連帯して,損害賠償金546万円,及びうち410万円に対する不法行為の日より後の日である各訴状送達の日の翌日から,うち136万円に対する不法行為の日より後の日である平成28年10月28日付け訴え変更申立書(2)の送達の日の翌日から,それぞれ支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払。
イ 控訴人ワンマンの同西部機販に対する本件装置の販売及び同西部機販による転売に係る損害賠償請求
(ア) 主位的請求
控訴人ワンマンの同西部機販に対する本件装置の販売及び同西部機販による転売につき,控訴人ら及びニチモウに対し,共同不法行為に基づき,また,Aに対し,会社法429条1項に基づき,連帯して,損害賠償金1390万円及びこれに対する不法行為の日より後の日である上記訴え変更申立書の送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払。
(イ) 予備的請求
a 控訴人ワンマンによる販売につき,控訴人ワンマン及びニチモウに対し,共同不法行為に基づき,また,Aに対し,会社法429条1項に基づき,連帯して,損害賠償金820万円及びこれに対する不法行為の日より後の日である上記訴え変更申立書の送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払。
b 控訴人西部機販による転売につき,控訴人西部機販に対し,不法行為に基づき,損害賠償金570万円及びこれに対する不法行為の日より後の日である上記訴え変更申立書の送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払。
2 原判決は,上記各請求のうち,ニチモウ及びAに対する請求を全部棄却し,控訴人ワンマンに対する請求は,上記1(1)ア及びウ並びに(2)を全部認容し,上記1(3)ア及びイ(イ)aを一部認容し,その余を棄却し,同西部機販に対する請求は,上記1(1)イ及びウ,(2)並びに(3)イ(イ)bを全部認容し,その余を棄却した。
控訴人らは,原判決中その敗訴部分を不服として控訴した。
3 前提事実
前提事実は,以下のとおり付加,訂正するほかは,原判決「事実及び理由」「第2 事案の概要」「2 前提事実」(原判決6頁3行目~10頁21行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決8頁10行目の「『旧製品』という。」の後に,「旧製品の構成は,本判決別紙『旧製品の構成』(ただし,同別紙中に『本件装置』とあるものは,いずれも『旧製品』と読み替える。)記載のとおりである。」を加えるとともに,原判決56頁4行目「同一構成」の後に,「(その構成は,本判決別紙『旧製品の構成』記載のとおりである。)」を加える。
(2) 原判決9頁18行目の「海苔生産者」の後に「3名」を加え,「3台」を「各1台(合計3台)」に改める。
(3) 原判決10頁10行目及び12行目の「当庁」を,いずれも「東京地方裁判所」に改める。
(4) 原判決10頁14行目の「控訴し,」から同頁15行目末尾までを,以下のとおり改める。
「控訴した(当庁平成28年(ネ)第10082号)。これに対し,当庁は,平成29年2月22日,控訴人らの控訴を棄却するとともに,被控訴人の控訴人ら並びにニチモウ及びAに対する控訴を棄却し,また,被控訴人による控訴人ら並びにニチモウ及びAに対する請求の追加・拡張部分については,ニチモウ及びAに対する請求を全部棄却し,控訴人ワンマンに対する請求を全部認容し,控訴人西部機販に対する請求を一部認容した。」
(5) 原判決10頁18行目の末尾に,改行の上,以下のとおり加える。
「特許庁は,この無効審判請求に対し,平成28年9月14日,『本件審判の請求は,成り立たない。』との審決をした。そこで,ニチモウ及び渡邊機開は,同年10月27日,当庁に対し,同審決の取消訴訟を提起したが(当庁平成28年(行ケ)第10229号),当庁は,平成29年5月17日,その請求をいずれも棄却する旨の判決をした。」
(6) 原判決10頁21行目の末尾に,改行の上,以下のとおり加える。
「特許庁は,この無効審判請求に対し,平成29年3月14日,『本件審判の請求は,成り立たない。』との審決をした。そこで,ニチモウ及び渡邊機開は,同年4月24日,当庁に対し,同審決の取消訴訟を提起した(当庁平成29年(行ケ)第10084号)。」
4 争点及び争点に対する当事者の主張
本件における当事者の主張は,以下のとおり訂正,削除するとともに後記5のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」「第2 事案の概要」「3 争点」(原判決10頁22行目~11頁5行目)及び「4 争点に関する当事者の主張」(原判決11頁6行目~29頁19行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決16頁4行目~5行目の「他の手段によって固着する場合や他の手段によって固着する場合」を「他の手段によって固着する場合」に改める。
(2) 原判決19頁26行目の「いずれも」を削除する。
(3) 原判決20頁9行目の「三社」を「三者」に改める。
(4) 原判決24頁8行目の「(イ)及び(ウ)」を「(ア)ないし(ウ)」に改める。
5 当審における補充主張
(1) 争点1(構成要件B1の充足性)について
(控訴人らの主張)
原判決は,争点1につき,凸部Dは凹部Eの間に形成されており,構成要件B1の突起物に該当する旨判断しているが,凸部Dは回転円板の外周部分に凹部Eを形成することによってできた非凹部であって,凸部ではない。この点を看過した原判決の判断には誤りがある。
また,原判決は,本件装置の充足の判断においては,本件発明の「突起・板体の突起物」に凹凸部の実施例を含めて解釈し,無効理由(争点2-2)の判断においては,これを含めないで解釈しており,矛盾する。後者において本件発明の「突起・板体の突起物」に凹凸部を含めないのであれば,前者においても同様に判断するべきであり,そうすると,本件回転円板は本件発明の「突起・板体の突起物」に該当せず,本件装置は構成要件B1を充足しない。
(被控訴人の主張)
本件装置が本件発明の技術的範囲に属するとする原判決の判断は正当である。
(2) 争点2-1(発明未完成,記載要件違反)について
(控訴人らの主張)
争点2-1に関する原判決の判断は誤りである。上記(1)のとおり,原判決には矛盾があり,本件装置が本件発明の構成要件B1を充足するのであれば,本件発明には発明未完成,記載要件違反の無効理由が存在する。
(被控訴人の主張)
発明未完成,記載要件違反に関する無効理由は成立せず,原判決の判断は正当である。
(3) 争点2-3(進歩性欠如)について
(控訴人らの主張)
原判決は,争点2-3につき,乙4文献には共回りを防止する旨が開示されておらず,また,乙2文献及び乙3文献は回転板方式の生海苔異物除去装置ではないから,乙4発明に乙2文献及び乙3文献記載の技術を組み合わせることはできず,本件発明は進歩性を有するとするが,本件発明の出願前には回転板方式の生海苔異物除去装置において生海苔の詰まりが発生することは周知であり,乙4発明に対し乙2文献及び乙3文献記載の技術を組み合わせることはでき,これらを組み合わせれば本件発明に容易に想到し得るのであるから,本件発明は進歩性がなく,無効とされるべきである。この点に関する原判決の判断には誤りがある。
(被控訴人の主張)
進歩性欠如に関する無効理由は成立せず,原判決の判断は正当である。
(4) 争点2-2(拡大先願違反)について
(控訴人らの主張)
ア 原判決は,乙1考案によってはクリアランスに生海苔が詰まることを防止することができず,乙1文献には共回り防止の観点の記載もないことから,本件発明と乙1考案とは相違し,本件発明は無効とならない旨判示する。
しかし,この点に関する原判決の判断は,以下のとおり,誤りである。
イ 被控訴人は,乙1考案において固定リング側に設けられている凹部を回転円板側に設けたものに相当する,鉛直溝を回転円板の外周面に形成した装置(以下「被控訴人装置第1」という。)を製造しているところ,このことから,被控訴人は,この鉛直溝が異物除去機能を発揮するためになくてはならない作用効果すなわち生海苔の共回りを防止する機能を発揮していると認めているものと思料される。
また,渡邊機開製造に係る旧製品の回転円板には,被控訴人装置第1と同一構成の鉛直溝が設けられると共に,固定リング内周面にも複数の鉛直溝が回転円板と同様に設けられているところ,これらの鉛直溝は,その両端面のエッジ部分にヘタリが発生するとクリアランスに目詰まりが発生し,ヘタリを解消するとクリアランスの目詰まりが解消し,良好な異物除去機能を発揮する。このことから,乙1考案の固定リング側に設けられている凹部に相当する鉛直溝は,共回りを防止する作用効果,特にエッジ部分による共回りを防止する作用効果(当該エッジ部によってクリアランスに詰まっている生海苔を切断して目詰まりを防止する機能)を発揮するということができる。
そうすると,被控訴人は,鉛直溝は生海苔異物除去装置として不可欠な共回りを防止する機能を有しており,ひいては乙1考案の凹部も共回りを防止する機能を有していることを認めていると思料される。
ウ(ア) 現在の海苔生産技術に基づき乙1考案を評価すると,その凹部は共回り防止機能を果たしていると認定し得る。
このことに鑑みると,乙1考案の凹部については,これを周方向に複数形成すると凹部の間にクリアランスに向かう凸部と見なされる形状が存在し,当該凸部と凹部が一体となって共回り防止機能を果たすことから,当該凹部及び凸部自体が「突起・板体の突起物」に該当することとなる。
(イ) 本件特許の出願時においては,乙1考案につき,根の付いた生海苔よりも大きさが小さい茎の付いた生海苔をも通過させ,板海苔の品質を低下させる不都合が存在するとの評価はされておらず,茎部の付いている生海苔を海苔製品の原料として使用することも行われていたことから,このような使用を可能とすると共にクリアランスの目詰まりを防止する凹部を設けることは有用な考案と思料されるところ,乙1考案の凹部は,クリアランスの目詰まりを防止する機能があることから,共回り防止機能を果たしていると認定し得る。
(ウ) 以上の点に鑑みると,本件発明の出願時の技術及び現在の技術のいずれによって評価しても,乙1考案の凹部を周方向に複数形成すると凹部の間にクリアランスに向かう凸部と見なされる形状が生まれ,当該凸部と凹部とが一体となって目詰まりを解消する機能を果たすことから,当該凹部及び凸部自体が「突起・板体の突起物」に該当することとなる。
したがって,乙1考案は本件発明と同一となるから,本件発明は無効とされるべきである。
(被控訴人の主張)
ア 拡大先願違反に関する無効理由は成立せず,原判決の判断は正当である。
イ 乙1考案に「凸部」は存在しない。乙1考案における第一回転板26(又は第二回転板36)との間でクリアランスCを形成する固定側(環状枠板部を形成する第一環状固定板23(又は第二環状固定板33))の壁面における,凹部231(又は凹部331)以外の部位は,生海苔混合液が通過し,(分離対象となる)異物が通過できない部分であって,クリアランスを形成する壁の片側にすぎない。
(5) 本件特許に係る無効理由の有無(争点2)についての追加主張-新規性ないし進歩性の欠如(争点2-4)
(控訴人らの主張)
ア 本件発明は,以下のとおり,法29条1項及び2項に違反して特許が認められたものとして特許無効審判(法123条1項2号)により無効にされるべきものである。このため,その特許権者である被控訴人は,控訴人らに対し,その権利を行使し得ない。
イ 本件特許出願日より前に公知になっていた生海苔異物分離除去装置
(ア) 被控訴人は,本件特許の出願前から,「ダストール」FD-380S型,FD-380K型等の「生海苔異物分離除去装置」(以下,特に明示しない限り,「ダストール」の名を冠した製品群を「『ダストール』」と総称する。)の前身であるテスト機(以下「被控訴人テスト機」という。)を公然と実施していたところ,これは親和製作所製の生海苔異物除去装置と同様に回転板方式の生海苔異物除去装置を製造販売することを目的として開発されたものであり,その構成は,本件発明の構成要件中,
A1 生海苔排出口を有する選別ケーシング,
A2 (及び)回転板,
A4 (並びに)異物排出口
A5 をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置
という構成を備えている。他方,本件発明の構成要件A3,B,B1,B2及びCの構成は備えていない。
また,被控訴人は,「ダストール」の販売促進業務の一環として,その展示会機(その基本構成は被控訴人テスト機と共通である。)を平成10年4月中に開催された展示会に出展したことから,「ダストール」の基本構成は広く海苔関係者に知られて公知となった。
(イ) 被控訴人テスト機の試験運転を行うと,生海苔がクリアランスに詰まり,回転円板と共に詰まった状態で回転するという問題点が発生した。他メーカーの回転板方式の生海苔異物除去装置においても同様の問題点が発生していたことは,当時周知であった。
この問題点を解消するために,逆洗を行う,ショットブラスト加工を施す,棒材やドライバ先端をクリアランスに近づける,といった試みが行われた。
ウ 本件特許出願前に公知となった技術
(ア) 平成10年4月28日,被控訴人において会議(以下「本件会議」という。)が開催され,控訴人西部機販代表者古橋達史(以下「古橋」という。)はこれに参加した。本件会議において,その始まりに当たり,同日付け「ダストールの試験機,展示会機から新型への変更点」と題する文書(乙63の8。以下「本件文書」という。)が配布されたところ,これは,全体として,「ダストール」の量産機の製造に向けての変更計画及び変更要請を示すものである。
そして,本件文書には,「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける 選別タンク内の海苔濃度を濃くできることにより良品タンクへの海苔濃度が濃くできる」と記載されている(以下,この記載を「本件記載」という。また,本件記載に基づく技術を「本件記載技術」ということがある。)。
本件記載を見た古橋は,当時持ち合わせていた乾海苔生産関連の技量に基づき,本件記載は,「共回り防止ゴムと称する部材を選別ケースの外周に取り付け,生海苔が隙間(クリアランス)に詰まったり,回転円板と一緒に回ることを解決すること」を試すものと理解した。すなわち,本件発明の課題,目的,構成及び効果を理解し得た。このことは,本件記載を知り得たのであれば,古橋以外の当業者にとっても同様である。
また,その際の被控訴人技術者の説明により,「共回り防止ゴム」は「生海苔がクリアランスに詰まったり,詰まった生海苔が回転円板と共にクリアランスを回る不具合現象が発生することを防止するための複数の実例の総称的なことを示している。」旨が本件会議の参加者により理解された。
(イ) 被控訴人テスト機に,「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける」という変更を施した量産機の構成を,本件発明の構成に合わせて記載すると,
A1 生海苔排出口を有する選別ケーシング,
A2 (及び)回転板,
A3 この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,
A4 (並びに)異物排出口
A5 をそれぞれ設けた生海苔・海水混合液が供給される生海苔混合液槽を有する生海苔異物分離除去装置において,
B 前記防止手段を,
B1 突起・板体の突起物とし,
B2 この突起物を,選別ケーシングの円周面に設ける構成とした
C 生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置となる。これにより,「ダストール」の量産機は本件発明の構成要件の全部を備えることとなった。
なお,ここでいう「共回り防止ゴム」の実施態様は,所定形状・所定大の防止ゴム片,ショットブラストされたザラザラの面,棒材やドライバ先端等の抵抗物である。また,「ダストール」の基本構成(被控訴人テスト機のもの)に本件文書に示されている変更点を反映させた新型機(株式会社九研保管のもの。以下「九研ダストール」という。)が現存している。
(ウ) 古橋は,後記のとおり,被控訴人に対し守秘義務を負っていないことから,本件文書及び本件会議により「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける」ことが古橋に知られたことにより,本件発明は新規性を喪失したものである。
エ 古橋の守秘義務の不存在
(ア) 本件文書は,その記載事項を秘密として保持すべきことを明示する記載がなく,また,記載された情報それ自体についても秘匿性のある情報と思われないことから,秘密事項を記載した文書ではない。
(イ) 前記のとおり,本件記載技術は本件特許出願前に公知となり新規性を喪失したものであるから,そもそも守秘義務の存在を問うべきものではない。
また,古橋は,被控訴人から協力要請を受けた際にも別段秘密についての話を受けておらず,守秘義務に関する契約書も作成しておらず,守秘義務に伴うものとして,販売地域に関する独占権や仕切り価格を特段に安く設定した特別価格も得ていない。
(ウ) したがって,古橋は,被控訴人に対し,守秘義務を負わない。
オ 以上より,本件発明は,本件記載により「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける」ことが古橋に知られたことで新規性を喪失し,又は本件特許出願前に国内において公然知られた発明に基づき当業者が容易に発明することができたものであることから,法29条1項1号及び2項に違反し,無効とされるべきである。
(被控訴人の主張)
ア 信義則違反
控訴人らによる無効主張の経緯等を踏まえると,控訴理由書提出段階になって追加の新規無効主張をすることは,控訴人らのそれまでの訴訟追行態度に相反するものであり,また,自らが主張立証責任を負うべき事項につき真摯に準備を遂行してきたとはいえないから,信義則上許されない。
イ 争点2-4(新規性ないし進歩性の欠如)について
(ア) 争点2-4に関する控訴人らの主張は不明確であり,主張自体失当である。
(イ) 本件特許出願前の「ダストール」(控訴人ら主張に係る装置)は,控訴人らも認めるとおり,本件発明の構成要件を充足しておらず,本件文書に記載された「共回り防止ゴム」を付けてもいない。また,本件特許出願までの間の被控訴人製品「FD-380」に,本件発明を実施する「共回り防止手段」を設置していたわけでもない。
(ウ) 本件文書は,平成10年4月28日に被控訴人内部で配布されたか否かはさておき,被控訴人内部の検討資料又は議事録であって,公衆に対する頒布による公開を目的として作成された文書ではない。
(エ) 本件文書によっては,本件発明は開示されたことにはならない。
「公然知られた発明」(法29条1項1号)における「知られ」とは,「技術的に理解され」の意味であるところ,当時の「ダストール」の基本構成を前提としても,「共回り防止」といわれただけでは,「共回り」及び「共回り防止」の技術的意義は理解し得ない。なぜなら,本件特許の出願前後において,液体の攪拌等の技術分野で一般的用語であった「共回り」とは,「円筒型の攪拌槽内で翼を回転させた場合,上下循環流が少なく,周方向の回転流が支配的である状態」を指す用語であり,同じく一般的用語であった「共回り防止」とは,攪拌槽の周壁にバッフル(邪魔板)等を設置することで,周方向の回転流を上下循環流に変換し,攪拌の効果を上げることを指す用語であった。他方,本件発明における「共回り」及び「共回り防止」という用語の意味は,本件訂正明細書に記載のとおり,上記と異なる。これらは,被控訴人が創作した概念であり,本件訂正明細書において初めて定義づけた用語であるからである。そもそも,本件記載には,「選別タンク内の海苔濃度を濃くできる事により良品タンクへの海苔濃度が濃くできる」と記載されているところ,上記記載の意味は,上記の一般的な技術用語である「共回り」に基づけば,海苔混合液槽の攪拌が不十分なため,海苔濃度が一様でなかったのに対し,(選別ケースの)「外周」側にバッフル(邪魔板)に相当する「ゴム」を「つける」ことによって海苔濃度を一様にして濃くすることができるという程度にしか読み取れない。
また,本件文書には,「共回り防止ゴムをつける」と記載され,「共回り防止ゴムをつけた」とは記載されていないことから,共回り防止ゴムは将来の課題として検討中であることを記載しているにすぎない。
以上より,本件文書を外部の者(当業者)が本件特許出願前に見たからといって,本件発明のような「共回り防止手段」を特定箇所に設け,それによって被控訴人が本件訂正明細書で意図した「共回り防止」の作用効果が得られることを読み取ることはできない。
(オ) 本件文書は,平成10年4月28日に古橋に対して配布されたものではない。仮に,同人が同日付けの本件会議に参加していたとしても,本件文書に記載された全ての事項の検討には参加しておらず,また,本件文書は本件会議の議事録である可能性が高いことから,同人は,本件記載についての検討内容は全く知らなかったとしか考えられない。
(カ) 古橋が被控訴人に対して守秘義務を負担すること
古橋が,被控訴人の「FD-380」開発中において得た知見,及びその事項に係る発明を知ったとしても,当該発明は特定の者が知っていただけであり,「公然知られた発明」には該当しない。
すなわち,控訴人西部機販(その代表者が古橋)と被控訴人とは,平成10年初め頃,開発協力契約,秘密保持契約を含む業務提携契約を結んでいたものであり,かつ,相互にその義務を履行していた。
また,仮に両者間に明示的な合意がなかったとしても,社会通念もしくは商慣習上又は信義則上秘密保持義務が発生する場合がある。本件において,古橋は,「FD-380」の試験機の運転によって得た知見や被控訴人が開発中に得た情報について秘密を保持すべき立場にあったのであるから,仮に本件文書が本件特許の出願前に古橋に開示され,同人がそれによって本件特許の内容を知ったとしても,「公然知られた」(法29条1項1号)に該当しない。
(キ) 以上より,本件特許には無効とされるべき理由はない。
(6) 争点4について
(控訴人らの主張)
ア 海苔業界において,製造業者と販売店の位置付けは異なり,それぞれが得る利益も性質が異なる。すなわち,海苔業界においては,生産者は,製造業者から直接製品を購入するのではなく,地場の販売店を通じて海苔機械類を購入し,購入後も当該販売店に対してその後の異常対応を求めるのが慣例となっている。このような事情を考慮して,製造業者の販売店に対する販売価格(仕切り価格)は,販売店に十分な利益が出るように,定価に比してかなり低額となっている。このように,製造業者である被控訴人が得るべき利益は,あくまでも販売店に対して販売することによって得る利益であり,販売店のように,生産者に対して販売することによって得る利益は,被控訴人に帰属しない。
したがって,控訴人らが生産者に対して本件装置を販売したとしても,もとより生産者に対して本件装置を販売し得ない被控訴人には損害が発生しないため,法102条2項の推定の前提となる損害自体が発生していないというべきである。
もっとも,控訴人らにより本件装置が譲渡されることによって,本件特許権の特許権者である被控訴人に何らの損害も発生していないとまではいいがたい。被控訴人に生じる損害は,販売店の得た利益相当額ではなく,販売店が本件装置を販売するに当たって特許権者として請求し得た実施料にとどまるというべきである。
イ(ア) 仮に,控訴人らの得た利益をもって被控訴人に生じた損害と推定する場合であっても,販売店の負担に見合う費用を含めて被控訴人に生じた損害と認定した原判決の判断は誤りである。
(イ) 海苔業界においては,前記のとおり,販売店を通じて海苔機械類が販売されることが慣例となっているところ,製造業者が生産者に対して示す定価は,生産者が最終的に支払う金額となっており,販売店において値引きすることはあっても,定価に表示された金額のほかに,生産者が海苔機械類を取得するための費用(納入費用,据付費用,立ち上げ費用等)を支払うことはない。すなわち,製造業者は,これらの費用負担を生産者に対して直接販売する販売店が負うことを前提に定価を設定し,その上でなお販売店に利益が残るように仕切り価格を決定している。このため,販売店が得る利益には,当然,上記負担に相当する費用が含まれる。
したがって,損害額の算定に当たっては,これらの費用相当額は控除されなければならない。
(ウ) 控訴人ワンマンにおいては,必ずしも自らが直接販売した生産者に対し,前記納入・据え付け・試運転への立会等の作業を負担しているわけではなく,自らの営業所がない地域の生産者に販売する場合には,地場の販売店にこれらの作業を委託し,相応の金額を支払っている。すなわち,本件販売1については,上記費用として,控訴人ワンマンは,販売店(有限会社三島)に対し,合計132万円(消費税込142万5600円)を支払った。この費用は,本件装置を販売しなければ生じなかった費用であるから,被控訴人ワンマンの得た利益の算定において控除されるべきものである。
(エ) 控訴人西部機販については,前記のとおり,単純に売上金額から仕入金額を差し引いた粗利益をもって被控訴人に生じた損害ということはできないのであって,控訴人ワンマンが販売店に支払った金額を参照すれば,納入・据え付け・立ち上げ等の作業の対価として定価の10%相当額程度の費用を負担しているものとみるべきである。
したがって,定価の10%相当額である58万円の6台分合計348万円(消費税込375万8400円)は,控訴人西部機販が本件装置の販売によって得た利益の算定において控除されるべきである。
ウ(ア) 原判決は,本件発明は生海苔異物除去装置の構造の中心的部分に関するものであるから,それが本件装置の販売に寄与する割合を減ずることは相当でないとしたが,その判断は誤りである。
(イ) 生海苔異物除去機において最も重要な点は異物除去の精度(性能)であるのに対し,本件発明は,生海苔異物除去装置の構造の中心的部分に関するものであるとしても,あくまでも異物除去の効率に関する発明である。
また,本件発明が目的とする「共回り」が発生するのは,海苔の収穫期の終わり頃の,複数回摘採されて海苔が厚く硬くなる「ハタキ」と呼ばれる時期であるが,その時期は長くとも1か月程度であり,海苔の収穫期全体からすれば,5分の1以下の期間である。
さらに,クリアランスの目詰まりについては,必ずしも本件発明を利用しなくとも対応可能である。すなわち,海苔の目詰まりが発生する原因は,クリアランスを通過できない硬く厚い海苔が多くなることにあるところ,このクリアランスを広げるように調整すれば,問題なく海苔はクリアランスを通過する。本件装置は,回転円板が上下に可動な構造となっていることから,このようなクリアランスの調節が可能となっている。
(ウ) これらの事情を踏まえると,本件発明の寄与度は20%を超えないというべきである。
(被控訴人の主張)
ア 争点4に関する原判決の判断は,いずれも正当である。
イ 控訴人らは,被控訴人において損害が発生しておらず,法102条2項の適用の前提を欠くとしつつ,本件装置が市場に出回ることによって被控訴人に損害が発生することを認めており,その主張は明らかに失当である。
また,被控訴人が生産者に対して販売することにつき,何ら法的障害は存在しない。販売店経由で販売している事実があるとしても,事実上の問題であって,被控訴人が生産者に販売することは法的に可能である。
したがって,控訴人ら主張に係る事実から,被控訴人が控訴人らによって販売された取引先へ販売できなかったことにはならず,また,控訴人らが得た販売利益を被控訴人が得られなかったことにもならない。被控訴人の損害が,販売店が本件装置を販売するに当たって特許権者として請求し得た実施料にとどまるとする理由もない。
ウ 販売店の負担に見合う費用相当額を控除すべき旨の控訴人らの主張については,その理由が極めて薄弱である。法102条2項における「利益」とは,侵害に係る製品の売上高から当該侵害製品の販売に直接要した変動費を控除した利益と解すべきであって,いかに販売に際して付随的に要した経費であっても,当該侵害製品の販売自体に直接必要とされなかった経費はこれに含めるべきではない。
また,有限会社三島代表者作成の陳述書(乙73。以下「三島陳述書」という。)及び同社作成の請求書(乙75。以下「三島請求書」という。)は,そもそも控訴審段階で初めて提出されたものであって,その内容の信用性は極めて疑わしい上,「異物除去機LS-G」としか記載されておらず,いかなる名目で請求されたかは不明であることなどから,仮に請求書に基づきそこに記載された金額が支払われたとしても,「利益」算定に際し考慮すべき変動費には該当しないと解すべきである。
エ 寄与率については,本件装置の販売に際して本件回転円板を通常の回転円板の形状(凸部D又は凹部Eが存在しないフラットな形状)に変更した場合,当該装置は目詰まり防止の効果を奏することができず,顧客からは見向きもされず,販売することはできない。現段階の技術水準では,生海苔生産者の要求性能に応じた生海苔異物除去装置においては,本件発明を実施せざるを得ないのであり,本件装置の販売において本件発明は100%寄与している。
第3当裁判所の判断
1 本件発明の概要
本件発明の概要は,原判決35頁18行目の「本件発明では,」を削除するほかは,原判決「第3 当裁判所の判断」「1 本件発明の概要」(原判決29頁16行目~35頁26行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 争点1(構成要件B1の充足性)について
(1) 争点1(構成要件B1の充足性)についての判断は,後記(2)のとおり付加するほかは,原判決「第4 当裁判所の判断」「2 争点1(構成要件B1の充足性)について」(原判決36頁1行目~40頁2行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)ア(ア) 控訴人らは,凸部Dは回転円板の外周部分に凹部Eを形成することによってできた非凹部であって,凸部ではない旨主張する。
(イ) しかし,上記凹凸部分の凹凸につき凹部と見るか凸部と見るかは,平面部3b1と底面部3b2のいずれを基準面とするかにより定まり,その意味で相対的な関係にあるものであるが,上記凹凸の下面である底面部3b2を基準面とすれば,凸部Dは,周囲の基準面から突出する突起として把握し得るものであることは明らかであり,これを回転円板の表面の外周部に形成された突起ということに何ら妨げはないのであるから,凸部Dは,「回転円板…の円周面」に設けられた「突起・板体の突起物」に該当する。
イ(ア) また,控訴人らは,「突起・板体の突起物」に凹凸部の実施例を含めて解釈するかという点について,充足の判断と無効理由の判断において矛盾があるなどと主張する。
(イ) しかし,原判決の争点2-2(拡大先願違反)についての判断は,あくまで乙1考案に設けられる「凹部」に着目し(凹部間の「凸部」に着目しなかったことが正当であることは,本判決5のとおりである。),当該凹部は「突起・板体の突起物」に当たらないとしたのに対し,原判決の充足性の判断は,本件装置の凹部ではなく凸部Dに着目し,当該凸部Dは底面部3b2から平面部3b1に向かって部分的に突き出ているから,「突起・板体の突起物」に該当する旨判断したものであって(この判断に誤りがないことは,前記のとおりである。),両者は判断の対象を異にする。
そうすると,原判決の充足に関する判断と無効理由に関する判断との間に,控訴人ら指摘に係る矛盾はない。
ウ このほか,控訴人らが原審及び当審においてるる指摘する点を考慮に入れても,この点に関する原判決の判断に誤りはないというべきである。
3 争点2-1(発明未完成,記載要件違反)について
争点2-1(発明未完成,記載要件違反)については,原判決「第4 当裁判所の判断」「3 争点2(本件特許に係る無効理由の有無)について」「(1) 争点2-1(発明未完成,記載要件違反)について」(原判決40頁4行目~41頁8行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
なお,控訴人らは,ここでも原判決の判断の矛盾を指摘するけれども,上記(2イ(イ))のとおり,その指摘に係る矛盾はない。この点に関する控訴人らの主張は採用し得ない。
4 争点2-3(進歩性欠如)について
(1) 争点2-3(進歩性欠如)については,原判決46頁9行目の「三社」を「三者」に改め,後記(2)のとおり付加するほかは,原判決「第4 当裁判所の判断」「3 争点2(本件特許に係る無効理由の有無)について」「(2) 争点2-3(進歩性欠如)について」(原判決41頁9行目~46頁21行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 控訴人らは,本件特許出願前には回転板方式の生海苔異物除去装置において生海苔の詰まりが発生することは周知であったなどと主張し,その根拠として陳述書(甲36,乙50~57)を挙げる。
しかし,上記陳述書のうち乙50~57は,いずれも,回転板方式の生海苔異物除去装置の詰まりについて,「この異物除去機は,異物分離処理中に,海苔原藻が隙間に詰まり,良品槽へ通過させることができなくなることがよくありました。/特に,海苔原藻が肉厚で,硬いときにはよく詰まりました。」(「/」は改行を示す。以下同じ。)として,異物分離処理中にクリアランスに詰まりが発生した旨記載するものであり,そのような問題点があったことは理解し得るものの,その詰まりの原因が,本件訂正明細書が定義する「共回り」によるものであることが本件特許の出願当時周知であったことを示すものではない。
また,甲36の陳述書も,回転板方式の生海苔異物除去装置にトラブルがしばしば発生していたことを述べているにすぎず,本件特許出願前に「共回り」が周知であったことを具体的に示すものではない。
そうすると,これらの陳述書を根拠に,本件特許出願前には回転板方式の生海苔異物除去装置において生海苔の詰まりが発生することが当業者に周知の事項であったとはいえるとしても,その原因が「共回り」であることが周知の事項であったとまではいえず,したがって,乙4発明に乙2文献及び乙3文献記載の技術を組み合わせることで本件発明に容易に想到し得たということはできない。また,そもそも乙2文献及び乙3文献記載の技術を乙4発明と組み合わせることができないことなどは,原判決の判示のとおりである。
以上より,この点に関する控訴人らの主張は採用し得ない。
5 争点2-2(拡大先願違反)について
(1) 争点2-2(拡大先願違反)については,後記(2)のとおり付加するほかは,原判決「第4 当裁判所の判断」「3 争点2(本件特許に係る無効理由の有無)について」「(3) 争点2-2(拡大先願違反)について」(原判決46頁22行目~49頁8行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)ア 控訴人らは,乙1考案の凹部については,本件特許出願当時の技術及び現在の技術のいずれによって評価しても,これを周方向に複数形成すると凹部の間にクリアランスに向かう凸部と見なされる形状が存在し,当該凸部と凹部とが一体となって目詰まりを解消する機能を果たすから,当該凹部及び凸部自体が「突起・板体の突起物」に該当する旨主張する。
イ しかし,原判決の判示のとおり,乙1考案は,「環状枠板部の内周縁に所要数の凹部を形成するとともにこの凹部における前記クリアランスを他の部分よりも広幅とすることによって,クリアランスに詰まる異物の大部分を占める茎部の付いている生海苔が前記回転板によって引きずられ上記凹部の位置に達した際に同凹部におけるクリアランスを通過することができる」ようにしたものである。すなわち,乙1考案は,第一又は第二環状固定板の凹部以外の箇所(控訴人ら主張に係る複数の凹部(231,331)の間の凸部と見なされる形状の箇所)では,対向する壁である第一又は第二回転板の外周縁との間にクリアランスの幅狭部を形成することで,異物を含んだ生海苔混合液から,異物を含まない生海苔のみを水と共に通過させるようにしつつ,このクリアランスの幅狭部に生海苔異物が詰まった場合は,この詰まった生海苔異物が回転板に引きずられてクリアランス内を移動し,前記凹部の位置に達した際に,当該凹部とこれに対向する第一又は第二回転板の外周縁との間に形成される広幅のクリアランスを通過させることで,目詰まりを解消しようとするものである。このため,乙1考案の凹部の間の凸部と見なされる形状の箇所は,対向する壁である第一又は第二回転板の外周縁との間にクリアランスの幅狭部を形成することにより,本件発明が従来技術とする回転板方式の生海苔異物分離除去装置(乙4発明)の異物除去の機能と同じく,異物を含まない生海苔のみを通過させる機能を果たす部位と見られ,乙1考案において,生海苔異物による目詰まりが生じることがないようにする機能(突起・板体の突起物が果たすべき機能)は,専ら環状枠板部の内周縁の凹部において対向する壁との間の隙間が他の部分よりも広幅となっていることにより生じるものである。
このように,乙1考案の凹部の間の凸部と見なされる形状の箇所は,目詰まりを解消する機能を果たすものではないから,本件発明の「突起・板体の突起物」に該当するということはできない。
ウ また,控訴人らは,「被控訴人は被控訴人装置第1を製造しているところ,これは乙1考案において固定リング側に設けられている凹部を回転円板側に設けたものに相当する鉛直溝を回転円板の外周面に形成したものである。」とし,これをもって,被控訴人は,この鉛直溝が生海苔の共回りを防止する機能を発揮しているものと認めているなどと指摘し,このことを根拠の1つとして,乙1考案の凹部及び凹部の間の凸部と見なされる形状の箇所は本件発明の「突起・板体の突起物」に該当する旨主張する。
しかし,乙1考案の凹部の間の凸部と見なされる形状の箇所が本件発明の「突起・板体の突起物」に該当しないことは,上記イのとおりである。
また,本件発明では,防止手段を「突起・板体の突起物」とする旨規定され,「突起・板体の突起物」以外のものが防止手段に含まれないことが明確に理解されるところ,「突起」とは,「ある部分が周囲より高く突き出ていること。また,そのもの。でっぱり」を意味する語であるから,「突起・板体の突起物」とは,所定の面もしくはクリアランスに突き出たもの,又は所定の面もしくはクリアランスに突き出たものであって板状のものであると解される。これに対し,鉛直溝は,所定の面もしくはクリアランスに突き出たもの,又は所定の面もしくはクリアランスに突き出たものであって板状のもののいずれにも当たらないことは明らかである。
そうすると,鉛直溝自体を防止手段と考えようとしたとしても,それは突起・板体の突起物に該当しないから,結局,本件発明の「防止手段」に含まれない。なお,控訴人らは,当該鉛直溝につき「エッジ部によってクリアランスに詰まっている生海苔を切断して目詰まりを防止する機能」を発揮するものとも主張し,その証拠としてDVD-ROM(乙48の1及び2)を提出するが,鉛直溝を「突起・板体の突起物」と解することができないことは上記のとおりである以上,無意味な主張立証というほかはない。
エ 以上より,この点に関する控訴人らの主張は採用し得ない。
6 争点2-4(新規性ないし進歩性の欠如)について
(1) 証拠(各項に掲げたもの)によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件文書(乙63の8)
本件文書は,「フルタ電機㈱ 技研工場」作成名義の平成10年4月28日付け「ダストールの試験機,展示会機から新型への変更点」と題する文書であるところ,その中には「1 選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける/選別タンク内の海苔濃度を濃くできる事により良品タンクへの海苔濃度が濃くできる」との記載(本件記載)がある。
イ 平成10年4月11日付け「海苔タイムス」(乙63の2)及びカタログ(乙63の3)
平成10年4月11日付け「海苔タイムス」広告欄には,以下の記載並びにFD-380K及びFD-380Sの外観写真を含む広告が掲載されている。また,FD-380K及びFD-380Sのカタログ(乙63の3)にも,同様の記載がある。
「●良い海苔づくりを推進する。」
「フルタダストール」
「性能アップで作業時間大幅短縮!」
「異物はミンチ前に除去!!」
「FD-380K/海水が豊富に使用できる作業場向きです。/メリット:/大型洗浄撹拌槽付ですので/海苔が,よりキレイに洗えます。」「FD-380S/海水量が少なくてすみます。/メリット:/海水の運搬労力・コストを節約します。」
「■特長/…●高濃度選別(異物除去)が出来ます。/…●逆洗機能付/濃い海苔が詰まった時,自動的に逆噴し,/詰まりを取り除きます。」
「フルタ電機株式会社」
ウ カタログ(乙63の4)
被控訴人作成の平成10年4月付けカタログ「フルタ海苔機械」(乙63の4)は,当時の被控訴人の取扱製品に関する総合カタログであり,「ダストール」の項目が設けられ,FD-380K及びFD-380Sが紹介されているところ,これらの製品の「特長」の1つとして「逆洗機能付き/隙間に濃い海苔が詰まった時,自動的に逆噴し隙間を広げ洗浄し,詰まりを取り除きます。」との記載がある。
(2) 「ダストール」の構成
上記(1)イ及びウ認定の各記載によれば,平成10年4月頃に被控訴人により製造・販売されていた「ダストール」FD-380K型及びFD-380S型は,海苔づくりに使用する洗浄及び異物除去機能を備えた装置であり,その洗浄及び異物除去の過程で隙間の目詰まりを生じた場合には,自動的に逆噴して隙間を広げることによりその詰まりを取り除く機能を有するものであることがうかがわれるが,それ以上に,本件特許の出願当時における「ダストール」が具体的にどのような構造の装置であったかをうかがわせる証拠はない。
なお,控訴人らは,写真集(乙63の15)における被写体である装置(以下「乙63の15装置」という。)が,L型金具が取り付けられている点を除き「ダストール」並びにその前身である被控訴人テスト機と構成を同じくすることを前提とした主張をするけれども,乙63の15装置の型式は「FD380D-2K」であって,「FD-380K」や「FD-380S」とは異なること,その納入は平成12年1月18日(本件特許の出願より後の日)とされていること,写真の撮影日は平成28年12月3日とされており,納入から撮影までの間にその構造等に改変等が加えられた可能性も否定し得ないことなどに鑑みると,これがL型金具の点を除き本件特許出願当時の「ダストール」等と構成を同じくするものと断定することはできないというべきである。
(3) 仮に,本件特許の出願当時における「ダストール」が,L型金具の点を除き乙63の15装置と基本的に同一の構造を有するとした場合,本件発明と乙63の15装置とは,以下の点で相違する。すなわち,本件発明は,
A3 この回転板の回転とともに回る生海苔の共回りを防止する防止手段,
B´ 前記防止手段を,
B´1 突起・板体の突起物とし,
B´2 この突起物を,回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした
C 生海苔異物分離除去装置における生海苔の共回り防止装置であるのに対し,乙63の15装置は,この構成を有しない。
(4) 上記(3)を前提に,本件発明の新規性ないし進歩性について検討する。
ア(ア) 本件文書には,共回り防止ゴムについて,本件記載はあるものの,それ以外にこれに言及した記載はない。このため,本件記載に示された「共回り防止ゴム」がいかなる形状のものであり,選別ケースの外周のどの位置に,どのような態様で設けられるかといった具体的な構成は,本件記載ないし本件文書には示されていない。
(イ) この点,控訴人らは,本件記載を見た古橋は,その技量に基づき,本件記載は「共回り防止ゴムと称する部材を選別ケースの外周に取り付け,生海苔が隙間(クリアランス)に詰まったり,回転円板と一緒に回ることを解決すること」を試すものと理解し,本件発明の課題,目的,構成及び効果を理解し得たし,本件記載を知り得た当業者であれば,古橋以外の当業者にとってもこのことは同様である旨主張する。
しかし,本件記載から,古橋及び当業者が,選別ケースの外周に共回り防止ゴムを付ける目的が,生海苔排出口から良品として排出されていく生海苔の量を増やすことにあることを認識し得たとしても,そのための構成については,本件記載には「選別ケースの外周」に「共回り防止ゴムをつける」という記載があるにすぎず,共回り防止ゴムの具体的な取付位置や,共回り防止ゴムの形状(「突起物」といえるものであるか)等については何ら特定されていない。そうである以上,本件特許の出願当時において,古橋及び他の当業者といえども,本件記載から控訴人ら主張に係る構成を認識し得たとはいえない。
加えて,本件発明は,「この突起物を回転板及び/又は選別ケーシングの円周面に設ける構成とした」ものであり,「突起物」の位置を具体的に特定するものであるところ,本件記載には上記位置に設置する旨の記載はなく,古橋及び他の当業者がその位置に設置することを想到し得るとする根拠もない。
なお,控訴人らは,古橋の「技量」を指摘して上記主張をするけれども,本件記載ないし本件文書により古橋が上記理解に達し得たことを具体的に裏付ける証拠は同人(乙67,85)及び森秋弘(乙68)の陳述書を除き存在しない。そして,そこに記載された本件文書ないし本件記載及び本件会議において認識し得た内容については,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はないことや,両者の本件紛争に対する関わり等を考慮すると,上記各陳述書の内容はにわかには信用し得ない。
そうである以上,控訴人らの上記主張は採用し得ない。
イ(ア) 「共回り」なる用語については,本件訂正明細書において「前記生海苔の異物分離除去装置,又は回転板とクリアランスを利用する生海苔異物分離除去装置においては,この回転板を高速回転することから,生海苔及び異物が,回転板とともに回り(回転し),クリアランスに吸い込まれない現象,又は生海苔等が,クリアランスに喰込んだ状態で回転板とともに回転し,クリアランスに吸い込まれない現象であり,究極的には,クリアランスの目詰まり(クリアランスの閉塞)が発生する状況等である。この状況を共回りとする。」と定義されている(【0003】)。
(イ) しかし,「共回り」なる用語が,本件特許の出願前に,生海苔異物除去装置の分野において,本件訂正明細書記載の意味と同じ意味に用いられていたことをうかがわせる証拠はない。なお,渡邊機開出願に係るその名称を「生海苔の洗浄熟成機」とする発明の公開特許公報(特開2003-93027。平成13年9月26日出願。乙66の4)の明細書には,「この発明においては,筒状槽の内壁に突条を縦設…したので,回転軸の回転に伴い,撹拌羽根により混合水(生海苔と水)の共回りを防止し,撹拌効果を向上させると共に,遠心力で槽壁側へ流動し,そのまま回転軸と同心状に流動しようとする混合水の流動方向を中心側へ向ける作用効果がある。」(【0014】),「前記発明における突条は,混合水が回転軸と同心状に共回りするのを防止すると共に,筒状槽の内壁側へ向けられた水流を,中心側へ方向変換させる作用も考えられている。」(【0021】)といった記載がある。ここにいう「共回り」なる用語の意味を明確に定義する記載は見当たらないが,「混合水が回転軸と同心状に共回りする」などといった記載に照らしても,本件訂正明細書で定義された,回転板を用いた場合に生じる問題点としての意味において用いられていないことは明らかといってよい。他に「共回り」につき本件特許出願当時において本件訂正明細書のそれと同義に理解されていたことをうかがわせる客観的な証拠はない。
そうすると,本件記載に含まれる「共回り」なる用語につき,本件特許の出願当時において,古橋及び当業者により,本件訂正明細書記載の定義と同じ意味に理解されたと見ることはできない。
(ウ) 証拠(乙50~57,69)によれば,生海苔異物除去装置において隙間の目詰まりの問題を生じることがあること自体は,本件特許の出願当時,当業者に周知であったことがうかがわれる。もっとも,その目詰まりの原因や機序について,本件訂正明細書における上記「共回り」の定義づけにより示されたものであることが周知であったことまでをうかがわせるに足りる証拠はない。
そうすると,目詰まりの問題が生じていたという事実から直ちに,古橋及び当業者が,本件記載の「共回り」なる記載を,本件訂正明細書に定義された意味での「共回り」の状況等であると認識し得ると考えることはできない。
ウ 控訴人らは,株式会社九研に保管されていた被控訴人製「ダストールFD-380S」(九研ダストール)の写真撮影記録(乙76)に基づき,九研ダストールは本件特許出願当時の「ダストール」及び被控訴人テスト機と基本構成を同じくし,これに本件書面記載の変更点を反映させたものであって,このことは本件書面全体の変更計画が真実であったことを示す旨指摘する。
しかし,九研ダストールについては,その納入日は「平成10年」(乙76)又は「不明」(乙68)とされている上,「共回り防止ゴム」に相当するものと見ることもできるゴムを使用した部材が制御盤内に袋入りで保管されている一方で,同袋内にはL型金具も保管され,回転板には,当該L型金具を取り付けるための取付け受け構造が設けられていると見られるところ,少なくとも本件特許出願前にクリアランスの目詰まりをなくす構成としてL型金具が構想されたことをうかがわせる証拠はないこと(なお,平成28年12月9日付け審判請求書(乙62)に,ニチモウ及び渡邊機開も「本件出願前においては,回転板3の外周端面や円周面に何も工夫をしていなかったが,『前橋ダストール』において,回転板3の回転板用リング13の外周面である円周端面11にL型金具からなる突起物8(防止手段4に相当)を固着してクリアランスの外周側を回転するようにしたり,…」と記載していることに鑑みると,L型金具の使用は本件特許の出願後であることがうかがわれる。),九研ダストールの上記納入時期からこれが写真撮影された平成29年4月25日までの期間等を踏まえると,納入から撮影までの間にその構造等に改変等が加えられた可能性も否定し得ないことなどに鑑みると,本件特許の出願前に,九研ダストールに上記「ゴムを使用した部材」が「共回り防止ゴム」として取り付けられ,本件記載技術が公然実施されたことを認めること,及びこのような構成に係る発明が公知となっていたことを推認することはできないというべきである。また,九研ダストールが存在するからといって,本件特許出願当時,本件記載の「選別ケースの外周に共回り防止ゴムをつける」につき,九研ダストールの上記「ゴムを使用した部材」と同じゴム部品を,九研ダストールと同じ位置に取り付けることを意味することが自明であったことにもならない。
エ 以上によれば,本件特許の出願当時,仮に古橋が本件記載に接し,また,当業者がこれに接することができたとしても,これに基づき,「共回り防止ゴム」が,本件訂正明細書に定義された意味での「共回り」の状況の解決を意図したものであることを理解するとはいえないし,いかなる形状ないし構造を有するものであるのかを理解することもできず,また,これが取り付けられるべき「選別ケースの外周」がどの位置を意図したものかを理解することもできないというべきである。
そうすると,仮に,本件特許の出願当時,「ダストール」ないし被控訴人テスト機の構成が公然知られたものであり,また,本件記載技術が古橋に知られ,又は公然知られたものであったとしても,本件発明は,本件記載技術と一致するものといえないことはもちろん,上記「ダストール」等の構成及び本件記載技術に基づき当業者が容易に想到し得たものということもできない。
オ したがって,本件特許に法29条1項1号及び2項違反の無効理由があると認めることはできない。この点に関する控訴人らの主張は採用し得ない。
7 争点3(控訴人ら並びにニチモウ及びAによる共同不法行為等の成否)について争点3(控訴人ら並びにニチモウ及びAによる共同不法行為等の成否)については,原判決「第4 当裁判所の判断」「4 争点3(被告らによる共同不法行為等の成否)について」(原判決49頁9行目~51頁20行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
8 争点4(損害額)について
(1) 争点4(損害額)については,後記(2)のとおり付加するほかは,原判決「第4 当裁判所の判断」「5 争点4(損害額)について」(原判決51頁21行目~54頁4行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2)ア 控訴人らは,控訴人らが生産者に対して本件装置を販売したとしても,生産者に対して本件装置を販売し得ない被控訴人には損害が発生しないから,法102条2項の推定の前提となる損害自体が発生していない旨等を主張する。
しかし,控訴人らの主張は,要するに,被控訴人が販売店ではなく製造業者であるという事実ゆえに製造業者であるとともに販売も行う控訴人ワンマンや販売業者である同西部機販と同程度に利益を得ることはできない,というにとどまるところ,当該主張事実のみをもって,本件発明の実施品の顧客吸引力にもかかわらず,被控訴人がその取引先に対する販売の機会を持ち得なかったということはできない。他に被控訴人が取引の機会を奪われたとはいえないとすべき特段の事情もない。
したがって,控訴人ら指摘に係る事情は,被控訴人に損害が発生しておらず法102条2項の推定が及ばないとするに足りるものではなく,また,同規定による推定を覆滅するに足る事情と見ることもできない。
この点に関する控訴人らの主張は採用し得ない。
イ(ア) また,控訴人らは,仮に控訴人らの得た利益をもって被控訴人に生じた損害と推定するとしても,海苔業界の実情を踏まえ,販売店の負担に見合う費用相当額は控除されなければならない旨等を主張し,控除すべき費用の証拠として三島陳述書及び三島請求書を提出する。
(イ) しかし,そもそも控訴人らが上記主張の前提とする海苔生産者への販売価格と販売店への仕切り価格との関係を裏付けるに足りる客観的な証拠はない。その点は措くとしても,三島請求書には「異物除去機LS-G」との記載があるにとどまり,他の項目と異なりその名目が具体的に記載されていないため,異物除去機に関するいかなる費用についての請求であるのかは不明である。これにつき,三島陳述書には,控訴人ワンマンが生産者に直接販売した全自動乾燥機及び異物除去機の納入後に,三島が行った納入・据え付け等の作業の対価である旨述べられているものの,その作成時期が原判決後であることなどに鑑みると,にわかに信用することはできない。
したがって,控訴人ワンマンの利益の算定に当たり三島への支払額相当額を控除すべき旨の控訴人ワンマンの主張は採用し得ない。また,三島陳述書を前提として,定価の10%相当額を控訴人西部機販の利益の算定に当たり控除すべき旨の控訴人西部機販の主張も採用し得ない。
ウ 控訴人らは,本件発明が本件装置の販売に寄与する割合につき20%を超えない旨主張する。
しかし,本件発明は,共回り現象の発生を回避してクリアランスの目詰まりをなくし,効率的・連続的な異物分離を実現するものであって,生海苔異物除去装置の構造の中心的部分に関するものといってよい。すなわち,控訴人ら指摘のとおり,選別ケーシング(固定リング)と回転円板との間に設けられたクリアランスに生海苔混合液を通過させることによりクリアランスを通過できない異物を分離除去する装置が従来用いられていたとしても,従来の装置は本件発明が解決課題とする問題点を抱えていることは明らかであり,この点は需要者の購買行動に強い影響を及ぼすものと推察される。このことと,従来の装置の現在における販売実績等の具体的な主張立証もないことを考えると,本件発明の実施は生海苔異物除去装置の需要者に対し,強い訴求力を有するものであることがうかがわれる。
他方,控訴人らは,本件発明が本件装置に寄与する割合を減ずべきであるとする根拠として,生海苔異物除去機において最も重要な点は異物除去の精度(性能)であるのに対し,本件発明は,異物除去の効率に関する発明であるなどの点を指摘するけれども,生海苔異物除去機による異物除去の効率も装置購入の動機として重要な要素であることは明らかである。また,「共回り」が発生し得る期間が海苔の収穫期全体から見て一時期にとどまるとしても,時期に応じて回転円板を交換する煩雑さ等を考慮すると,「共回り」防止の必要性が購入動機に占める重要性が減ずるとも思われない。さらに,クリアランスを海苔が通過できないことの解決方法としてクリアランスの幅を広げるように調整した場合,確かに海苔はクリアランスを通過し得ることとなろうが,異物の通過も一定程度阻止し得ず,異物除去という観点からは本末転倒な事態ともなりかねない。そうすると,控訴人らが本件発明の寄与する割合を減ずべきとする根拠は,十分な合理性を持つものとはいいがたい。
なお,控訴人らは,渡邊機開製の異物除去機において本件回転円板を使用せず,表面は突起物のないフラットな形状で,円周面に「縦溝」のある回転円板が使用されており,この「縦溝」により異物除去の性能が発揮されている旨の陳述書(乙83の1)を提出するところ,当該異物除去機に関する写真撮影記録(乙82)等を参照すると,この「縦溝」は,争点2-2(拡大先願違反)について控訴人らが主張した「鉛直溝」に相当するものと推察される。そうすると,当該「鉛直溝」(及び「縦溝」)の存在によって目詰まりが防止される機序は必ずしも明らかでないことなどから,この異物除去機の存在を理由に,本件発明の寄与の割合を減ずることは適当でない。
以上より,本件発明が本件装置の販売に寄与する割合を減ずることは相当でない。この点に関する控訴人らの主張は採用し得ない。
第4結論
以上より,原判決の判断に誤りはなく,控訴人らの控訴はいずれも理由がないから,これを棄却する。
知的財産高等裁判所第3部
(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 杉浦正樹 裁判官 寺田利彦)