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知財高等裁判所 平成29年(ネ)10045号 判決 2017年12月07日

控訴人・附帯被控訴人(一審原告)

アメリカン・オーソドンティクス・コーポレーション

(以下「控訴人」という。)

同訴訟代理人弁護士

深井俊至

磯田直也

被控訴人・附帯控訴人(一審被告)

トミー株式会社

(以下「被控訴人」という。)

同訴訟代理人弁護士

井上康一

伊藤晴國

同補佐人弁理士

牧野純

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は,控訴人に対し,65万3416.33米国ドル及びうち52万7857.99米国ドルに対する平成26年1月1日から,うち12万5558.34米国ドルに対する平成28年2月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人のその余の請求を棄却する。

2  控訴人が当審において追加した請求を棄却する。

3  本件附帯控訴を棄却する。

4  この判決は,第1項(1)に限り仮に執行することができる。

5  訴訟費用は第1,2審を通じてこれを4分し,その3を控訴人の,その余を被控訴人の負担とする。

6  控訴人のために,この判決に対する上告のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほかは,原判決に従う。原判決中の「別紙」を,「原判決別紙」と読み替える。

第1控訴,当審における新たな請求及び附帯控訴の趣旨

1  控訴の趣旨

(1)  原判決を以下のとおり変更する。

(2)  被控訴人は,控訴人に対し,234万4779.95米国ドル及びうち156万5290.65米国ドルに対する平成26年1月1日から,うち77万9489.3米国ドルに対する平成28年2月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  控訴人が当審において追加した請求

被控訴人は,控訴人に対し,6万1450.79米国ドル及びこれに対する平成29年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  附帯控訴の趣旨

原判決のうち,被控訴人の敗訴部分を取り消す。

第2事案の概要

本件は,控訴人が,被控訴人に対し,不競法4条(予備的に民法709条)に基づく損害賠償として437万8500米国ドル及びうち270万0700米国ドルに対する不法行為の後の日である平成26年1月1日から,うち167万7800米国ドルに対する不法行為の後の日である平成28年2月16日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。控訴人は,「被控訴人が,バイオデントに対し,控訴人が製造しバイオデントが輸入・販売する原告製品について『被告の保有する特許権(第4444410号)の請求項1に関連する』などと通知したこと(本件各告知)から,バイオデントが原告製品の輸入・販売を中止せざるを得なくなり,控訴人に損害が生じたが,本件特許権は無効であり,したがって,上記通知は虚偽の事実の告知に当たるから,上記被控訴人の行為は不競法2条1項14号所定の不正競争行為に当たる。」と主張している。

原判決は,被控訴人のバイオデントに対する本件各告知は,虚偽の事実の告知に当たり,本件特許権に基づく権利行使の範囲を逸脱する違法があり,被控訴人には,バイオデントに対し本件各告知による虚偽の事実を告知したことについて,少なくとも過失があるから,被控訴人による本件各告知は,不競法2条1項14号の不正競争行為に該当すると認めた。そして,原判決は,被控訴人による本件不正競争行為と相当因果関係のある損害は,原告製品①の販売中止による逸失利益及び弁護士費用であり,その損害額は,14万0174.5米国ドルであると認めた一方,本件不正競争行為と原告製品②~④に係る逸失利益との間には相当因果関係があるということはできないとして,控訴人の請求を,14万0174.5米国ドル及びこれに対する平成26年1月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した。

控訴人は,原判決における敗訴部分の一部について控訴を提起し、前記第1、1(2)のとおり原判決を変更することを求めるとともに,当審において,上記被控訴人の不正競争行為に基づき発生した平成28年2月16日から平成29年4月30日までの損害賠償として6万1450.79米国ドル及びこれに対する不法行為の後の日である平成29年5月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求を追加した。被控訴人は,原判決における敗訴部分の全部につき附帯控訴を提起した。

1  前提事実等(当事者間に争いのない事実並びに文中に掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる事実)原判決の「事実及び理由」欄の第2,2に記載のとおりである。

2  争点

本件の争点は,原判決の「事実及び理由」欄の第2,3に記載のとおりである。

3  当事者の主張

当事者の主張は,以下のとおり,(1)原判決を補正し,(2)控訴人の本件控訴及び当審における追加請求に関する主張とそれに対する被控訴人の主張及び(3)被控訴人の本件附帯控訴に関する主張とそれに対する控訴人の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりである。

(1)  原判決の補正

原判決23頁21行目「(甲101ないし139)」を「(甲102ないし140)」と改め,31頁15行目に続けて改行の上,「なお,原告製品①が本件発明の技術的範囲に属することは認める。」を加える。

(2)  控訴人の本件控訴及び当審における追加請求に関する主張並びにそれに対する被控訴人の主張

(控訴人の本件控訴及び当審における追加請求に関する主張)

ア 原告製品②~④について相当因果関係のある損害が発生していること

(ア) 事実的因果関係について

a 被控訴人は,「原告製品①」と特定して本件各告知行為をしたのではない。バイオデントが,「①ロック部材の反ベース側部の中央に切欠き部が設けられている構成及び②ブラケット本体の係止溝を埋めるように突出したリブが形成されているという特徴的部分である構成を有して本件発明の技術的範囲に属する製品」を販売しているということに対し,侵害警告をしたのである。

b 控訴人と被控訴人は,歯列矯正ブラケットに関し,世界市場で競合してきた。控訴人は,原告製品②~④を開発し,原告製品②は平成24年5月に米国,カナダ,欧州で,原告製品③は平成24年1月に米国,カナダ及び欧州で,原告製品④は平成24年3月に米国及びカナダで,販売を開始した。本件各告知行為後に,原告製品②~④が日本以外の国で販売を開始されたことを被控訴人も知っていた。

原告製品①のみならず,原告製品②~④も各国で販売されている中,控訴人は,被控訴人に対し,平成25年10月10日付け通知書(甲13)をもって,原告製品②~④を含む「Empower」の輸入,販売が本件特許に関連する又は本件特許権を侵害する等の告知又は流布をしないこと,「Empower」に関し,本件特許権を行使しないこと,を求めたが,被控訴人は,その要求を拒否した(甲15)。したがって,被控訴人が原告製品①に限らない「Empower」に関し,バイオデントを含む日本の顧客に対し,本件特許権を行使する意思を有していたことが認められる。

本件特許に関する無効審判の申立て及び本件訴訟の提起後も,本件特許の無効が確定するまで,被控訴人は,「Empower」の輸入,販売が本件特許に関連する又は本件特許権を侵害する等の告知又は流布をしないことを求める控訴人の請求を争い続けた。

c 控訴人は,原告製品②~④を外国で販売開始していたが,日本においては,バイオデントは,原告製品②~④も本件発明の技術的範囲に属し,その販売は本件特許権の侵害に当たると考えたことから,販売することができなかった。

(イ) 相当因果関係について

a 前記(ア)のとおり,本件各告知行為の対象が原告製品①に限られておらず,被控訴人は,バイオデントが,「本件発明の技術的範囲に属する製品」に該当する競合品を販売することを止めさせることを意図していたのであるから,その後,バイオデントが,原告製品①と同様,原告製品②~④を控訴人から購入して,販売しなかったことは,被控訴人が意図し,予見していたところであった。したがって,その事実によって生じた控訴人の損害を被控訴人に賠償させることは,社会的に妥当とされる範囲であり,公平である。

平成26年以降,バイオデントは,原告製品①~④の販売を日本で開始したが,その時点で,原告製品②~④が存在したため,最初の開発品である原告製品①の販売量は相対的に少なくなった。しかし,原判決は,原告製品①のみを対象として損害額を判断したことから,認定した損害賠償額は著しく低額となった。仮に,控訴人が原告製品②~④を開発せず,原告製品①のみの製造,販売を継続していたとするなら,原告製品②~④を購入した需要者の何割かの部分は原告製品①を購入していたと合理的に推認できる。

したがって,原告製品②~④についての損害も,相当因果関係ある損害に含まれると解すべきである。

b 原告製品②は,原告製品①が金属製であったものを,ロック部材以外の部分をセラミックに替えた改良品である。原告製品①と原告製品②の構造は,同じである。本件発明の技術的範囲の属否には,ブラケットのロック部材以外の材料が金属であるのかセラミックであるのかは全く関係のないことである。したがって,原告製品②は,本件各告知行為の対象とされた製品である。

仮に,原告製品②は本件各告知行為の直接の対象製品でなかった場合においても,本件告知行為1がされた平成22年10月15日の時点において,審美性の高さを追求したセラミック製を含む透明なセルフライゲーションブラケット製品は周知技術として存在していた(甲172~178[枝番のあるものについては,枝番を全て含む。以下同じ。],乙82,97)。被控訴人もそれらの存在を十分に認識していたから,本件各告知行為の時点で,原告製品①の材料をセラミックに替えた改良製品が開発,販売されることは十分に予見していたし,被控訴人においても当業者においても少なくとも予見可能であった。

c 仮に,原告製品③及び④とは,本件各告知行為の直接の対象製品ではなかったとした場合においても,最初の本件告知行為がされた平成22年10月15日の時点において,口腔内最奥の臼歯用のダイレクトボンドタイプ及びウェルダブルタイプのチューブは周知技術として存在していた(甲173,176,179,180)。被控訴人もそれらの存在を十分に認識していたから,本件各告知行為の時点で原告製品についてもこれらのタイプが出現することは十分に予見可能していたし,被控訴人においても当業者においても少なくとも予見可能であった。

d 歯列矯正器具業界においては,まず金属製のブラケットを開発して,その後セラミックス製の審美性を重視した製品を開発することが一般的である。実際,控訴人は,原告製品①に引き続き,平成24年1月までに原告製品②の開発を完了し,同年1月から4月にかけて,日本以外の国で販売活動を開始した。日本においても,本件各告知行為がなければ,原告製品②については平成24年4月,遅くとも5月には販売し,そのころから原告製品①と原告製品②による大人向けと子供向けの多様な用途で日本においてバイオデントを通じ販売することができた。

控訴人は,原告製品よりも前から,セルフライゲーションタイプの「RE-CONVERTIBLE」チューブである「Vision LP」を製造販売しており(甲190),平成24年1月までには原告製品③,④の開発を完了し,同年1月から4月にかけて,日本以外の国で販売開始した。

このような状況においては,被控訴人は,本件各告知行為の時点で,原告製品②~④が製造,販売されることを予見し,被控訴人も,当業者も予見可能であったといえる。

イ 損害額

(ア) 限界利益

控訴人はバイオデントに対し,平成24年4月,遅くとも5月から,原告製品②~④を販売することができた

原告製品①~④それぞれの限界利益は,●●●●米国ドル,●●●●米国ドル,●●●●米国ドル,●●●●米国ドルである。控訴人の逸失利益を算定するに当たって,原告製品①~④の全体を捉えて,その平均的限界利益を考える場合には,各製品の販売量をも考慮した加重平均の考え方が採用されるべきであり,原告製品1個の限界利益は,●●●●米国ドルである。

したがって,本件各告知行為がなければ,控訴人がバイオデントに販売できた原告製品の1個当たりの平均的利益額は,平成24年3月(遅くとも4月)までは,●●●●米国ドル(原告製品①の限界利益),平成24年4月(遅くとも5月)からは,●●●●米国ドル(原告製品①~④の加重平均による限界利益)である。

(イ) 平成23年1月から平成25年12月までの損害(主位的主張)

a 原告製品及び被告製品からなる対象製品市場と本件各告知行為がなければ控訴人が販売できたはずの原告製品の数量

平成22年以降現在に至るまで,日本における本件発明の実施品(対象製品)は,被告製品と原告製品の2製品のみである。本件発明の優れた作用効果により,対象製品は売れ筋の製品であり,仮に,本件各告知行為により原告製品が排除されなければ,需要の何割かは競合製品である原告製品に向かったであろうと合理的に推認できる。日本市場における被控訴人(及びその100%子会社の販売業者である株式会社トミーインターナショナル。以下,「トミーインターナショナル」という。)と,バイオデントの日本における歯列矯正ブラケット製品の販売力(市場シェア)の比率は,少なく見積もっても,●●●である。

したがって,違法な本件各告知行為がなければ,バイオデントは,対象製品市場の少なくとも●●は獲得していたと推認するのが合理的である。統計資料(乙97~103)に基づくバイオデントの販売実績は,被控訴人による違法な本件各告知行為の影響下におけるものであり,本件各告知行為がなかった場合に控訴人が販売できたであろう原告製品のシェアの根拠になるものではない。平成26年度の歯列矯正ブラケットのメーカー別販売実績は,本件各告知行為の結果バイオデントが原告製品の販売を中止していた時期であるにもかかわらず,被告製品を扱う株式会社トミーインターナショナル81.7に対し,バイオデントは18.3の比率を有していたから,本来のバイオデントの対象製品の販売力はそれよりずっと高い。

平成23年1月1日から平成25年12月31日まで(3年間)の対象製品の市場規模は,被告各製品の販売個数合計に等しく,平成23年は●●●●●●●●●平成24年は●●●●●●●●,平成25年は●●●●●●●●である。そのうち,●●の販売個数は,それぞれ,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●である。

b 逸失利益額

控訴人は,違法な本件各告知行為がなければ,平成23年に,●●●●●●●●の原告製品①を販売することができた。原告製品①の限界利益は●●●●米国ドルであるから,平成23年の控訴人の逸失利益は,以下のとおり●●●●●●●●●●米国ドルである。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

控訴人は,違法な本件各告知行為がなければ,平成24年に,同年3月までの3か月間は原告製品①のみを,同年4月以降12月までの9か月間は原告製品①~④の全てを販売することができたところ,前記のとおり控訴人が販売することができた原告製品●●●●●●●●を3か月分(原告製品①のみ)と9か月分(原告製品

① ~④)に按分し,原告背製品①の限界利益は●●●●米国ドル,原告製品①~④の加重平均による限界利益は●●●●米国ドルであるから,平成24年の控訴人の逸失利益は,以下のとおり●●●●●●●●●●米国ドルである。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

控訴人は,違法な本件各告知行為がなければ,平成25年に,原告製品①~④を合計●●●●●●●個販売できたところ,限界利益は●●●●米国ドルであるから,平成25年の控訴人の逸失利益は,以下のとおり●●●●●●●●●●米国ドルである。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

したがって,控訴人は,平成23年1月1日から平成25年12月31日までの期間において,以下のとおり,●●●●●●●●●●●米国ドルの逸失利益の損害を被った。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

c 弁護士費用相当額

控訴人は,本訴を提起し,上記逸失利益の損害の賠償に対応して,その1割相当額である●●●●●●●●●●米国ドルの弁護士費用の損害を被った。

d 控訴人の損害合計

したがって,控訴人は,平成23年1月1日から平成25年12月31日までの期間の逸失利益の損害●●●●●●●●●●●米国ドルと弁護士費用の損害●●●●●●●●●●米国ドルとの合計である●●●●●●●●●●●米国ドルの損害を被った。

(ウ) 平成26年1月1日から平成28年2月15まで(25.5か月)の損害(主位的主張)

a 原告製品及び被告製品からなる対象製品市場と本件各告知行為がなければ控訴人が販売できたはずの原告製品の数量

平成26年1月1日から平成28年2月15まで(25.5か月)の対象製品の市場規模は,販売数量にして,原告製品及び被告製品の販売数の合計額に等しく,合計●●●●●●●●個となる。そして,違法な本件各告知行為がなければ,バイオデントは,対象製品市場の少なくとも●●は獲得していたから,原告製品は上記対象製品市場の販売数量のうち●●の●●●●●●●個を販売できていたはずである。

控訴人は,同期間において,バイオデントに対し,原告製品を合計●●●●●●●個販売した。したがって,控訴人は,違法な本件告知行為がなければ,同期間において,バイオデントに対し,本来,さらに,少なくとも●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●を販売することができた。

なお,被告製品Cは本件発明の実施品であり,歯の裏側に装着して使用するいわゆるリンガルブラケットであっても,歯の表側に装着して使用される歯列矯正ブラケットとは競合関係にあるから,対象製品に含まれる。

b 逸失利益

したがって,控訴人は,平成26年1月1日から平成28年2月15までの期間において,●●●●●●●●●●米国ドル(●●●●●●●●●●●●)の逸失利益の損害を被った。

c 弁護士費用の損害

控訴人は,本訴を提起し,上記逸失利益の損害の賠償に対応して,その1割相当額である●●●●●●●●●米国ドルの弁護士費用の損害を被った。

d 控訴人の損害合計

したがって,控訴人は,平成26年1月1日から平成28年2月15までの期間の逸失利益の損害●●●●●●●●●●米国ドルと弁護士費用の損害●●●●●●●●米国ドルとの合計である●●●●●●●●●●米国ドルの損害を被った。

(エ) 平成28年2月16日から平成29年4月30日までの損害

a 原告製品②(セラミック製品)及び被告製品B(クリッピーC セラミック)からなる対象製品市場と本件各告知行為がなければ控訴人が販売できたはずの原告製品②の数量

原告製品②は,ロック部材を除いた部分がセラミック製で透明なセルフライゲーションブラケット製品であり,一方,被告製品Bもセラミック製で透明なセルフライゲーションブラケット製品であり,特に直接競合する製品である。

平成28年2月16日から平成29年4月30までのセラミック製対象製品の市場規模は,販売数量にして,原告製品②の販売数量である●●●●●●個及び被告製品Bの推定販売数量である●●●●●●●個の合計額である●●●●●●●個に等しい。

控訴人は,違法な本件告知行為がなければ,同期間において,バイオデントに,本来,●●●●●●●個の●●である●●●●●●個を販売できたから,控訴人は,さらに,少なくとも●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●個)を販売することができた。

b 逸失利益

原告製品②の1個当たりの限界利益は●●●●米国ドルである。

したがって,控訴人は,平成28年2月16日から平成29年4月30までの期間において,●●●●●●●●●米国ドル(●●●●●●●●●●●)の逸失利益の損害を被った。

c 弁護士費用の損害

控訴人は,本訴を提起し,上記逸失利益の損害の賠償に対応して,その1割相当額である●●●●●●●米国ドルの弁護士費用の損害を被った。

d 控訴人の損害合計

したがって,控訴人は,逸失利益の損害●●●●●●●●●米国ドルと弁護士費用の損害●●●●●●●米国ドルとの合計である●●●●●●●●●米国ドルの損害を被った。

(オ) 平成23年から平成25年までの期間の損害及び平成26年から平成28年2月15日までの期間の損害に係る予備的主張

a 仮に,前記(イ)(ウ)の主位的主張が認められないとしても,以下に述べるとおり,原告各製品は現に販売が再開された平成26年以降に順調に販売実績を重ねていることから,販売中止期間中及び販売再開後も同様に販売できたはずであり,これを基にした逸失利益が認められるべきである。

b 原告製品①の逸失利益

原告製品①の実際の販売数量は,販売を再開した平成26年には●●●●●●個,平成27年には●●●●●●個である。販売開始後,一旦販売中止を余儀なくされ,3年経過後に再び販売を開始するという場合,顧客の信用を一旦,失ってからの再開であって販売量を増加することは難しいから,再開後の数量は一旦中止前の販売量がそのまま伸びていった場合より抑えられたものになる。仮に,違法な本件各告知行為が存在せず,平成23年以降も継続的にバイオデントに対し原告製品①を販売し日本市場で流通させることができていたとすれば,控えめに見積もったとしても,平成23年は,再開後の1年目と同じ●●●●●●個,平成24年は,再開後の2年目と同じ●●●●●●個が販売できたものと合理的に推認できる。そして,控え目に見積もって,その後,数量の伸びがないものとして推測したとしても,平成25年以降は1年当たり再開後の2年目と同じ●●●●●●個が販売できたものと合理的に推認できる。

バイオデントの歯列矯正ブラケットの販売数量の年度別推移をみると,平成23年度は1億2500万円,平成24年度は1億5500万円,平成25年度は1億7900万円,平成26年度は1億9500万円,平成27年度は2億3300万円,平成28年度(予測)は2億4700万円と年々順調に拡大しており,バイオデントが下記表の「本来販売できた原告製品①の販売数量」記載の数量の原告製品を日本市場で販売できるだけの販売力を備えていたことが明らかである。

控訴人が本来販売できた原告製品①の販売数量から原告製品①の実際の販売数量を控除した控訴人が逸失した販売数量は,下記表「逸失した原告製品①の販売数量」記載のとおりである。

file_2.jpgmMUBOO SEER | AIRE DIFC DORI HE DIFC 2 2 | | | FRR 3% rl FD 5H ofa | 2277 | i原告製品①の1個当たりの限界利益は●●●●米国ドルであるから,原告製品①に関し,平成23年1月から平成25年12月までの逸失利益は,以下のとおり●●●●●●●●●●米国ドルとなる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

また,原告製品①に関し,平成26年の逸失利益は,以下のとおり,●●●●●●●●●米国ドルとなる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

c 原告製品②の逸失利益

原告製品②の実際の販売数量は,販売を開始した平成26年には●●●●●●個,翌平成27年には前年の2倍以上の●●●●●●個,平成28年には●●●●●●個である。そして,平成28年以降,数量の伸びがないものと推測したとする。

仮に,違法な本件各告知行為が存在せず,平成24年4月から継続的にバイオデントに対し原告製品②を販売し日本市場で流通させることができていたとすれば,少なくとも,初年の平成24年は●●●●●●個,平成25年は●●●●●●個,平成26年は●●●●●●個,平成27年は●●●●●●個の原告製品②を販売できたことが合理的に推認される。

バイオデントが下記表の「本来販売できた原告製品②の販売数量」記載の数量の原告製品を日本市場で販売できるだけの販売力を備えていたことは,前記のとおりである。

控訴人が本来販売できた原告製品②の販売数量から原告製品②の実際の販売数量を控除した控訴人が逸失した販売数量は,下記表「逸失した原告製品②の販売数量」記載のとおりである。

file_3.jpgARHEIRIE TE 72. (2/16-12/31) WLR DO WET 2 QF fal Off HA 2 34F 0 fa ofa i 2 4 oo mz pk 2 5 4% | i” a ERR 2 8 | uw) | iii” |原告製品②の1個当たりの限界利益は●●●●米国ドルであるから,原告製品②に関し,平成24年4月から平成25年12月までの逸失利益は,以下のとおり●●●●●●●●●●米国ドルとなる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

また,原告製品②に関し,平成26年及び平成27の逸失利益は,以下のとおり,●●●●●●●●●●米国ドルとなる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

d 原告製品③の逸失利益

原告製品③の販売数量は,販売を開始した平成26年には●●●●個,翌平成27年には前年の2倍以上の●●●●●●個であった。そして,平成27年以降,数量の伸びがないものと推測したとする。

仮に,違法な本件各告知行為が存在せず,平成24年4月から継続的にバイオデントに対し原告製品③を販売し日本市場で流通させることができていたとすれば,少なくとも,初年の平成24年は●●●●個,平成25年は●●●●●●個,平成26年は●●●●●●個の原告製品③を販売できたことが合理的に推認される。

バイオデントが下記表の「本来販売できた原告製品③の販売数量」記載の数量の原告製品を日本市場で販売できるだけの販売力を備えていたことは,前記のとおりである。

控訴人が本来販売できた原告製品③の販売数量から原告製品③の実際の販売数量を控除した控訴人が逸失した販売数量は,下記表「逸失した原告製品③の販売数量」記載のとおりである。

file_4.jpgFRE Ri O IE HK LICR ta CB AE OBIE CA EK 2 2 on Hike 3 on PRK 2 4 fF | ERK 2 5 | | ERR 2 7 |前記のとおり原告製品③1個当たりの限界利益は●●●●米国ドルであるから,原告製品③に関し,平成24年4月から平成25年12月までの逸失利益は,以下のとおり●●●●●●●●●米国ドルとなる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

また,原告製品③に関し,平成26年の逸失利益は,以下のとおり,●●●●●●●●●米国ドルとなる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

e 原告製品④の逸失利益

原告製品④の実際の販売数量は,販売を開始した平成27年には●●●●個である。そして,平成27年以降,数量の伸びがないものと推測したとする。

仮に,違法な本件各告知行為が存在せず,平成24年4月から継続的にバイオデントに対し原告製品④を販売し日本市場で流通させることができていたとすれば,少なくとも,初年の平成24年は●●●●個,平成25年以降は●●●●個の原告製品④を販売できたことが合理的に推認される。

バイオデントが下記表の「本来販売できた原告製品④の販売数量」記載の数量の原告製品を日本市場で販売できるだけの販売力を備えていたことは,前記のとおりである。

控訴人が本来販売できた原告製品④の販売数量から原告製品④の実際の販売数量を控除した控訴人が逸失した販売数量は,下記表「逸失した原告製品④の販売数量」記載のとおりである。

file_5.jpgFRE RA ODARO | AAT & | ee LIS RA®O ARTE RinOO IRIE He Be DIRT ERR 2 24F 0 fal 0 ffl 0 fal ER 2 34 0 {fl 0 {al Off ph 2 44 ofa | | om | | FRR 2 6 off | | |_|原告製品④の1個当たりの限界利益は●●●●米国ドルであるから,原告製品④に関し,平成24年4月から平成25年12月までの逸失利益は,以下のとおり●●●●●●●●●米国ドルとなる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

また,原告製品④に関し,平成26年の逸失利益は,以下のとおり,●●●●●●●●●米国ドルとなる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

f 逸失利益の損害と弁護士費用の損害の合計額

(a) 平成23年1月から平成25年12月までの期間

原告各製品の逸失利益の合計額は,以下のとおり,70万2181.39米国ドルとなる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

控訴人は,本訴を提起し,上記逸失利益の損害の賠償に対応して,その1割相当額である7万0218.13米国ドルの弁護士費用の損害を被った。

したがって,控訴人は,70万2181.39米国ドルと7万0218.13米国ドルの合計である77万2399.52米国ドルの損害を被った。

(b) 平成26年1月から平成28年2月15日までの期間

上記算定した原告各製品の逸失利益の合計額は、以下のとおり、33万9397.26米国ドルとなる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

控訴人は,本訴を提起し,上記逸失利益の損害の賠償に対応して,その1割相当額である3万3939.72米国ドルの弁護士費用の損害を被った。

したがって,控訴人は,33万9397.26米国ドルと3万3939.72米国ドルの合計である37万3336.98米国ドルの損害を被った。

g 歯列矯正器具業界のブラケットについては,審美性を重視する大人向けに使用されるセラミック製ブラケットは比較的市場規模が小さく,主に金属製ブラケットのみが使用され,全体としても大規模な販売数量を見込める子ども向け市場が存在するから,セラミック製ブラケットの販売数量が増加すると,対応するメタル製ブラケットの販売数量も増加するという関係にあるとはいえない。

原告製品①の販売数量は,パッシブタイプの販売前後で劇的に増加しているわけではなく,インタラクティブタイプ,パッシブタイプの別は多様な仕様の一態様にすぎず,原告製品の矯正患者及び矯正歯科医に訴求する特徴は,まずセルフライゲーションタイプであるということであるから,パッシブタイプの導入が原告製品①の販売数量の増加の原因であるとはいえない。

バイオデントは,平成22年当時にも平成26年と同様の規模の販売体制を持っており,日本において30年以上も矯正器具の販売の経験,実績を有するから,平成23年から同25年においても,平成26年と同じく,原告製品を販売できるだけの能力を有していた。

ウ 損害額に関する原審判断の誤り

(ア) 原審は,本件各告知行為がなければ控訴人が販売できたはずの平成23年1月から平成25年12月までの原告製品①の販売数量について,平成22年及び平成26年の販売数量を平均して推認している。

しかし,平成22年は原告製品①の販売を開始した初年であり,しかも販売開始は同年5月からのことであり,正味8か月間の販売実績しかなかった。これに対し,同製品の販売が中止されていた期間は平成23年から平成25年であり,仮に違法な本件各告知行為がなく,初年の平成22年に引き続いて平成23年以降も継続して原告製品①が販売されたとすると,同期間を通じて相当の数量の原告製品①が販売されたことは疑いない。しかるに,原告製品①の販売を開始した初年であり,しかも正味8か月の販売数量を考慮して,平成23年から平成25年の販売数量を推定することは不合理である。また,平成26年の●●●●●●個という販売実績は3年間の原告製品①の販売中止期間の直後の数字であり,平成22年に既に販売実績があった翌年の平成23年にも販売が継続していれば,●●●●●●個以上の販売数量が見込めたはずである。したがって,平成27年以降の販売数量を考慮せずに,平成26年と平成22年の販売数量の平均をもって上記期間の販売数量を推定した原審の判断はこの点でも誤りである。

(イ) 原審は,原告製品①の1個当たりの平均販売価格について,Aの宣誓供述書(甲91)第4項に示された年間の総販売金額を総販売数量で控除して算定している。

しかし,原告各製品の控訴人からバイオデントに対する販売価格は決まっており,原告製品①,③及び④について製品1個当たり●●●●米国ドル,●●●●米国ドル,●●●●米国ドルというそれぞれ一種類の販売価格しか存在せず,原告製品②についてのみ●●●●米国ドルと●●●●米国ドル(●●●●米国ドルの10%引)の二種類の販売価格が存在した。

このような価格の種類に基づくと,原告製品の販売価格は,以下のとおりとなる。

file_6.jpgまた,Aの宣誓供述書(甲91)第4項記載の年間の総販売金額を総販売数量で控除した価格は,実際の販売価格には合致しない。控訴人は,バイオデントに対し原告製品を販売すると,インボイスを発行して売買代金を請求するが,一旦納品した原告製品が返品された場合やインボイスに記載した代金額に誤りがあった場合には,後日,セールス・クレジット・メモと題する書面を発行し請求金額の調整を行うことがある。そして,そのようなセールス・クレジット・メモは,もともとのインボイスと同月のうちに発行されるとは限らず,別の月に発行されることもある。Aの宣誓供述書(甲91)第4項に記載した原告製品の各月の販売合計額はそれぞれ同月中に発行されたインボイス及びセールス・クレジット・メモの金額を合算したものであるから,各月の販売合計額を同月の販売数量で除しても,控訴人がバイオデントに販売した実際の1個当たりの販売価格を算出できるとは限らない。

(ウ) 原審は,原告製品の販売会社であるバイオデントの販売力について,被告製品の販売会社であるトミーインターナショナルの4分の1ないし5分の1程度であるとして,バイオデントと被控訴人の対象製品の販売力の比率が●●●であるとの控訴人の主張の裏付けがないと判示する。

確かに,原審が引用する「歯科機器・用品年鑑2016年版(26版)」(乙103)によると,バイオデントとトミーインターナショナルのシェアの比率は18.3対81.7とされているが,これは被控訴人による違法な本件告知行為の影響を全く考慮していないため,このままこれを本来のバイオデントの販売力の数値として採用することはできない。

バイオデントは,被控訴人の違法な本件各告知行為に端を発し平成23年1月から平成25年12月まで3年もの長期間にわたって原告製品の販売を中止して顧客の信頼を失墜したから,原告製品を再び販売し,顧客を獲得して販売を拡大することは困難であった。そして,原告製品を再び販売し始めたとしても,本件特許の無効審決が確定した平成28年3月まで,原告製品を販売することは本件特許権に基づく特許侵害責任を負うリスクに常に晒されていた。原告製品の控訴人からバイオデントへの販売実績が平成26年では●●●●●●●米国ドル,●●●●●●個であり,平成27年の●●●●●●●米国ドル,●●●●●●個の半分にも達していないことからも,本件特許権を行使した違法な本件各告知行為の影響は,明らかである。

したがって,平成26年における18.3対と81.7という比率は,被控訴人による違法な本件告知行為の影響によるところが大きかったことが合理的に推認できる。むしろ,本件告知行為の影響下においても,トミーインターナショナル81.7に対し,バイオデントは18.3の比率を有していたことに鑑みると,本来のバイオデントの対象製品の販売力はそれよりずっと高いと判断されるべきである。

仮に本件告知行為がなかったとすれば,対象製品について,バイオデントはトミーインターナショナルに対し少なくとも●●●の販売力を有していたものと認められるべきである。

(エ) 原審は,控訴人が原告製品の平成27年の販売数及び販売価格を基準として原告の逸失利益を算出すべきと主張しているとした上で,そのような主張に理由がないと判示している。

しかし,控訴人は平成27年の販売数及び販売価格を基準として原告製品の販売が中止されていた平成23年から平成25年の期間の逸失利益を算定すべき旨主張したことはない。控訴人は,各年における本件各告知行為がなければ販売できた原告製品の販売数量を個別に把握し,また,前記のとおり原告各製品の具体的な販売価格(原告製品①,③及び④について製品1個当たり●●●●米国ドル,●●●●米国ドル,●●●●米国ドルというそれぞれ一種類の販売価格,原告製品②については●●●●米国ドルと●●●●米国ドルの二種類の販売価格)に基づいて,逸失利益を算定している。

(オ) 原審は,原告製品①について,平成26年以降の販売数量が販売停止前の平成22年よりも増加していることを理由に,本件各告知行為がなかった場合,平成26年以降により多く販売できたと認めるに足りる証拠がないと判示する。

バイオデントは,平成23年1月から平成25年12月まで3年もの長期間にわたって,被控訴人の違法な本件各告知行為によって原告製品の販売を中止し,原告製品は日本の市場から排斥されていたのである。したがって,販売を再開した原告製品について,再び販売し,顧客を獲得して販売を拡大することは困難であった。そして,原告製品を再び販売し始めたとしても,本件特許の無効審決が確定した平成28年3月まで,本件特許権に基づく特許侵害責任を負うリスクに常に晒されていた。

したがって,平成26年以降においても,本来,違法な本件告知行為がなければ販売できた原告製品に係る利益を控訴人は失ったのであり,仮に平成26年以降の販売数量が平成22年よりも増加していたとしても,それ以上の数量が販売できたであろうことは明らかである。

(被控訴人の主張)

ア 原告製品②~④に係る損害が賠償範囲に含まれるとの主張について

本件告知1において被疑侵害製品とされたのは,「[控訴人]が販売されております歯列矯正用のブラケット(商品名:Empower)」であるところ,控訴人の歯列矯正ブラケット製品として当時販売されていたのは原告製品①のみであり,原告製品②~④は未だ開発・販売されていなかったのであるから,これが原告製品①のみを指し示すことは明らかである。原告製品②~④の日本における発売が他国より遅れたとしても,それは被控訴人が求めたことではなく,バイオデント又は控訴人の自主的な判断によるものであったのであり,本件各告知行為と事実的因果関係は認められない。

本件各告知行為において対象となったのは当時販売されていた原告製品①のみであり,原告製品②~④は,当時まだ開発も販売もされていなかったから,本件各告知行為を行うに当たり,被控訴人は原告製品②~④の存在を認識も予見もしていなかった。

セラミックは,硬度は高いものの靭性に乏しく割れ易いという特性を有し,歯列矯正ブラケットのような微細な製品の素材としては一般に加工が困難である上,複雑な構造を有するセルフライゲーションブラケット,とりわけ原告製品や被告製品のようなインタラクティブタイプのセルフライゲーションブラケットに用いるに当たっては極めて扱いにくい素材である。被控訴人は,平成15年に被告製品Bの開発に着手し,試行錯誤のすえ,ようやく平成18年にその開発に成功し,同年9月に発売したが,その後,フォレスタデント社が平成21年頃に「QuicKlear Brackets」という製品を発売するまで,被告製品Bは市販品として,世界で唯一のインタラクティブタイプのセラミック製セルフライゲーションブラケットであった。控訴人は,原告製品を発売する前から,「T3」,「VisionLP」という別の2種類のセルフライゲーションブラケットを販売していたが,それらはいずれもメタル製ブラケット製品であって,本件各告知行為時点においてセラミックタイプのラインナップはなく,その後も今日に至るまでそれらの製品のセラミックタイプは発売されていない。「Vision LP」はインタラクティブタイプではなく,「T3」はインタラクティブタイプではあるが,同タイプの他の製品と比べると構造は比較的単純で,さほど開発製造が困難でないにもかかわらず,控訴人はセラミックタイプを開発製造していない。セルフライゲーションブラケットについて,金属製ブラケットを開発した後,セラミック製品を開発するという製品開発慣行はない。したがって,より複雑な構造を有するインタラクティブタイプの原告製品について,そのセラミックタイプ(原告製品②)を控訴人が開発し,バイオデントを通じて日本で発売するなどということは,到底,本件各告知行為の時点において被控訴人に予見できることではなかった。

チューブ製品は,チューブ状の形態をしており,近心側からワイヤーを挿入するだけなので,セルフライゲーションタイプにする必要性はない(乙121)。また,控訴人が,原告製品を発売する前から販売していた,「T3」,「Vision LP」は,いずれもメタル製ブラケット製品であって,本件各告知行為時点において奥歯用のチューブタイプは国内販売されておらず,その後も今日に至るまでそれらの製品のチューブタイプは国内販売されていない。したがって,原告が原告製品③及び④を開発し,バイオデントを通じて日本で発売するなどということは,本件各告知行為の時点において被控訴人に到底予見できることではなかった。

バイオデントが原告製品②~④を販売しなければ原告製品①の売上げがもっと伸びたであろうということは,何ら客観的根拠のない憶測にすぎない。原告製品①及び②は前歯から小臼歯までに取り付けられる製品であるのに対し原告製品③及び④は大臼歯に取り付けて使用するものであり,少なくとも原告製品①と原告製品③及び④との間には全く代替性がない。

イ 平成23年1月から平成28年2月15日までの損害に関する主位的主張及び平成28年2月16日から平成29年4月30日までの損害に関する主張について

(ア) 控訴人は,対象製品のみからなる独立の市場が存在するとの主張を前提に逸失利益額を算出している。しかし,日本の歯列矯正ブラケット市場にはフォレスタデント・ジャパン株式会社の「クイック ブラケット」(乙81)など本件発明の実施品とほぼ同様の効果を奏する競合品も存在するところ,そのような競合品を除外し,原告製品と被告製品のみから構成される独立の市場を想定する合理性は認められない。

(イ) 平成22年から平成27年までの期間において,対象製品の販売数量全体に対する原告製品の販売数量のシェアは最も大きくても,●●●●●であり,それ以外の年は●●にはほど遠い。

また,統計資料(乙97~103)に示されるバイオデントの販売実績を見ると,「矯正材料・消耗品」というカテゴリーにおいても,「ブラケット」というカテゴリーにおいても,バイオデントのシェアは常に2割に満たず,本件各告知行為の前後を通じ,シェアに顕著な変化は認められない。対象製品市場におけるバイオデントの仮想的シェアが,これら二つのカテゴリーにおける市場シェアを上回ることを根拠づける証拠は何ら存在しないのであり,これらのカテゴリーの統計からすると,仮に対象製品の市場が存在すると仮定しても,そこにおける原告製品のシェアが●●であるとの控訴人の主張が成り立つ余地はない。

(ウ) 平成26年における原告製品①の販売数量(●●●●●●個)は,平成22年における同製品の販売数量(8か月間で●●●●個,1年当たりに引き直すと●●●●個)と比べて著しく増大しているところ(甲91),その要因としては,その間における,原告製品のタイプ,バリエーションの拡充及びバイオデントの営業力,知名度の向上といった事情が考えられる。これらの事情は,バイオデントによる本件製品の販売中止とは直接関連性がない別の要因である。したがって,仮に本件各告知行為がなければ平成26年以降の販売数量がより増加したであろうという控訴人の主張する推認が働くものではない。

(エ) 被告製品Cは本件発明の技術的範囲に含まれない上,そもそも被告製品Cはリンガルブラケットであって,ラビアルブラケットである原告製品や被告製品A,Bとは具体的用途が異なるから,対象製品に含まれると解する余地はない。

ウ 控訴人の平成23年1月から平成28年2月15日までの損害に関する予備的主張について

(ア) 一般に日本の歯列矯正患者は審美的要素を重視するので,前歯にはセラミック製ブラケットを装着し,奥歯にはメタル製ブラケットを装着するという使用法が一般的である。したがって,セラミック製ブラケットの販売数量が増加すると,対応するメタル製ブラケットの販売数量も増加するという関係にある。実際,原告製品①の販売数量実績を見ると,販売が再開された平成26年1月以降の数字だけを取り上げても,同年6月以前の販売数量と原告製品②が発売された同年7月以降の販売数量は大きく異なり,前者の期間の平均月間販売数量が約●●●●個であるのに対し,後者の期間の平均月間販売数量は●●●●個であり,ほぼ倍増している。したがって,原告製品②が発売された平成26年7月以降の販売数量をベースに,その発売前である販売中止期間中の原告製品①の逸失利益を算定するのは不合理である。

また,平成22年の発売当初にはなかったパッシブタイプの原告製品①が販売再開後の平成26年10月以降販売されている。被告製品Aにはパッシブタイプの製品は存在しないため,原告製品①のうちパッシブタイプのものは,その独自性ゆえに売れ行きがよいはずであり,このようなパッシブタイプの製品がラインナップに加わったことが,平成26年における原告製品①の販売数量(●●●●●●個)が平成22年の同製品の販売数量(8か月間で●●●●個,1年当たりに引き直すと●●●●個)と比べて著しく増大したことの一因と考えられる。したがって,パッシブタイプの製品が発売された平成26年10月以降の原告製品①の販売数量をその発売前の逸失利益算定の基礎とすることは不合理である。

さらに,控訴人は,平成22年に原告製品①の販売を開始して以降,毎年同製品のバリエーションを増やしていったものと考えられ,それが販売中止前の平成22年と比較して平成26年の原告製品の販売数量が著しく伸びた一因と考えられるのであり,本件各告知行為がなかった場合に平成26年と同じ数量の原告製品が平成23年に販売されたはずであるとの推認は働かない。

(イ) バイオデントは,原告製品①の販売を中止したとされる平成23年において前年を上回る矯正材料・消耗品の売上げを上げている。また,平成24年にはさらにこれを伸ばして3億7800万円もの売上げを得ているところ,これは,原告製品①の販売中止の前後を通じて最も大きな売上げである。さらに,平成19年から平成22年までの4年間におけるバイオデントの1年当たりの矯正材料・消耗品の平均売上額は2億7875万円であるのに対し,原告製品の販売を中止した平成23年から平成25年までの3年間における同社の1年当たりの矯正材料・消耗品の平均売上額は3億3500万円であり,販売中止前の期間を上回っている。加えて,バイオデントによるブラケットの販売実績は,原告製品の販売が中止された平成23年以降,毎年増加の一途を辿っている。

これらの事実からすると,バイオデントの営業力及び日本におけるその知名度は毎年向上しており,平成23年と平成26年とでは相当程度異なるものと認められ,本件各告知行為がなかった場合に平成26年と同じ数量の原告製品が平成23年にバイオデントによって販売されたはずであるとの推認は働かない。

(ウ) 原告製品②~④は賠償範囲に含まれないから,原告製品①~④の加重平均による限界利益である●●●●米国ドルを損害算定の基礎とする余地はない。

本件各告知行為がなければバイオデントは遅くとも平成24年5月以降,控訴人から原告製品②~④を購入して日本に販売したとはいえないから,同月から原告製品①~④の加重平均による限界利益に基づいて逸失利益が算定されることはあり得ない。

●●●●米国ドルというのは,平成27年における原告製品①~④の販売数量に基づき,各製品の限界利益額を加重平均して得られた数字である。しかし,原告製品①~④の販売数量及び販売比率は年によって異なり,各製品ごとの損害額を計算することは十分に可能であるから,加重平均した額を採用する理由はない。

平成22年の原告製品①の平均販売価格は●●●●米国ドル,平成26年は●●●●米国ドルであり,控訴人が限界利益の算出に使用している平成27年の平均販売価格●●●●米国ドルと大きく異なるから,平成24年4月までの期間の限界利益について,平成27年の平均販売価格に基づいて算出した限界利益額を用いるのは不合理である。

●●●●米国ドル,●●●●米国ドルという平均的利益額を算出するに当たり,インサイド・キャパシティ費用(直接労務費用)及びキャパシティ・オーバーヘッド費用(変動間接費)を控除しないのは,不合理である。

エ 本件各告知行為がなければ,バイオデントは遅くとも平成24年5月以降,控訴人から原告製品②~④を購入して日本で販売したとはいえない。控訴人が原告製品②の市販前届け出について米国食品医薬品局のクリアランスを得た平成24年12月14日まで同製品を日本に適法に輸出することはできず,少なくともそれまでの間,同製品について控訴人に法的保護に値する逸失利益は生じ得なかった。

(3)  附帯控訴に関する主張及びそれに対する控訴人の主張

(被控訴人の本件附帯控訴に関する主張)

ア 本件各告知行為は不正競争行為に該当しないこと

(ア) 本件各告知行為は「虚偽の告知」に該当しないこと

被控訴人がバイオデントに送付した甲4書簡は,バイオデントとの間で原告製品が本件特許に抵触するか否かの討議を行う端緒として,侵害の成否の検討をバイオデントに要望したものにすぎず,何ら原告製品が本件特許を侵害する旨断定する内容ではない。これに対して,バイオデントは,平成23年1月31日付け書簡(乙19)において,原告製品の新規の輸入販売を中止したが,それは控訴人の関連資料を確認し,控訴人との協議を経た上で,原告製品が本件特許に抵触する可能性があるとの判断を自ら行ったものであり,被控訴人の強制又は要求によるものではない。

また,被控訴人の当時の常務取締役であるBは,甲23メールにおいて,被控訴人がバイオデントに本件特許の使用許諾をする意思がないことを伝えるとともに,バイオデントに対し甲4書簡への回答を求めたにすぎず,原告製品が本件特許を侵害する旨断定したものではない。むしろ,バイオデントの担当者であるCの11月26日付け電子メールへの対応を社内で1か月以上検討していたのであり,甲4書簡の発送時点では,被控訴人がバイオデントへの対応を決めていなかったことが裏付けられる。

仮に,本件各告知行為に,被疑侵害品が権利を侵害するとの特許権者としての意思表明が含まれているとしても,そのような意思表明はライセンス交渉において一般的に認められるものであるから,正当な特許権の行使である。

(イ) 被疑侵害者本人であるバイオデントに対する本件各告知行為は不競法2条1項14号の構成要件に該当しないこと

バイオデントは日本における控訴人の販売代理店であり,本件特許の被疑侵害行為である日本における原告製品の販売に関し,製造者である控訴人と同一視される地位にあったから,不競法の適用上,バイオデントに対する本件各告知行為は控訴人に対するそれと同一視されるべきである。したがって,本件各告知行為によって被疑行為を行う本人の外部的評価である信用が毀損されることはないから,本件各告知行為は営業誹謗行為に該当しない。

(ウ) 本件各告知行為に違法性はないこと

本件各告知行為は被控訴人による本件特許の正当な権利行使としてされたものであるから,違法性が認められる余地はない。

被控訴人が本件特許出願について通知してもDは自分を筆頭発明者として発明者欄に記載してほしいとの要望をしたのみで何ら権利主張をしなかったこと,Dは,乙10の電子メール及び乙15のファックスにおいて,被控訴人に対し,明示的に譲渡書を送付することを約束し,本件発明について同人が有する特許を受ける権利の共有持分を被控訴人に譲渡する意思表示をしたこと,Dは,以後も平成25年に代理人名義の通知書(乙17)を送付するまで13年以上にわたり,本件特許に関して被控訴人に対し何らの要求,確認,通知もせず,特許登録料や年金の支払いに関して被控訴人に問い合わせることもなく放置していたことからすると,本件発明がBの単独発明であり,仮にそうではないとしても,本件発明を含む本件発明全てに関するDの特許を受ける権利の共有持分について同人から譲渡を受けたものと被控訴人が信じたことは自然かつ合理的であって,被控訴人が本件特許に無効理由があることを知っていた又はこれを容易に知り得る状況にあったとはいえない。

被控訴人は,バイオデントに対して,甲4書簡と甲23メールを送付したのみであり,その内容も,バイオデントの意見を聞いた上で協議を行うことを目的として,侵害の成否の検討をバイオデントに依頼したにすぎないものであること,控訴人自身は本件発明を実施しておらず,被控訴人の告知行為の相手方はバイオデントに限られていたこと,バイオデントが原告製品の輸入販売を中止したのは,控訴人との協議を経た上で,原告製品が本件特許に抵触する可能性があるとの判断に基づく自主的な決定であったこと,バイオデントに本件各告知行為への対応能力が十分あったことといった事情に鑑みると,被控訴人による本件各告知行為が特許権者の権利行使の一環として行われたものであって,社会通念上許容される内容,態様であるといえる。

したがって,本件各告知行為が不競法2条1項14号の構成要件に該当するとしても,本件各告知行為は,正当な特許権の行使として違法性が阻却される。

(エ) 被控訴人に故意又は過失は認められないこと

前記(ウ)の本件発明とその出願の経緯,出願後の経緯からすると,少なくとも本件各告知行為の時点において,被控訴人が,本件発明はBの単独発明であり,仮にそうでないとしても本件発明を含む本件発明全てに関するDの特許を受ける権利の共有持分について同人から譲渡を受けたものと信じたことは,自然かつ合理的である。控訴人は日本において本件発明を実施しておらず,被控訴人にとっても告知行為の相手方はバイオデントに限られていたこと,告知行為の内容も侵害の成否の検討をバイオデントに要望したものにすぎないこと,バイオデントは控訴人との協議に基づき自主的な判断により原告製品の輸入販売を中止したこと,バイオデントに本件各告知行為への対応能力が十分あったことという事情に鑑みると,本件各告知行為は,その時点において,内容や態様において社会通念上著しく不相当なものはいえず,本件特許に基づく権利行使の範囲を逸脱するものということはできない。したがって,被控訴人に故意又は過失は認められない。

イ 原告製品①についての控訴人の限界利益について

Aの宣誓供述書(甲94)の24,25項において,インサイド・キャパシティ費用(直接労務費用)及びキャパシティ・オーバーヘッド費用(変動間接費)は,いずれも「[原告製品]の製造の増加に比例して増加するという意味での変動コスト」であると明記されている。同23項には,原告製品の製造工程の概略が記載されている。また,同27項には,原告製品の社内工程(回転,最終検品作業工程など)の記載がある。これらの社内工程における必要な作業時間に対して適用される標準労務費用のレートは,製品1個当たりの製造に必要なコストにほかならない。製品1個を製造・完成させるためには,各部品を購入するだけでなく,それらに必要な加工を施し,組み立て,検品を行うといった工程が不可欠であるから,社内工程における労務費は,製品1個を追加的に製造するために必要なコストそのものである。控訴人によると,インサイド・キャパシティー・コスト及び変動キャパシティー・オーバーヘッド・コストは,実際に原告製品が1個製造される度に支出が必要となる費用ではなく,便宜的に各製品に割り当てたものにすぎないということである。しかし,それは,製品1個毎に労務費を個別に計算することは実際上不可能であるため製品毎に平均的な労務費用を算定してコストとして計上しているというにすぎないのであり,そのようなみなし計算をすることは,これらの費目が原告製品の製造販売に係る直接変動費(操業度の増減に応じて比例的に増減する原価要素のうち発生が一定単位の製品の生成に関して直接的に認識されるもの)に該当することを否定する理由となるものではない。

仮に,原材料費と外注費だけが直接変動費に該当するとすれば,製品製造の全ての工程を社内で行っている場合,その製造コストは原材料費だけで,製造に必要な社内工程における労務費は全くコストに含まれないことになり,限界利益が跳ね上がることになる。逆に,社内で行っている製造工程の大部分を外注に回せば,限界利益が大幅に引き下げられることになる。いずれも不合理な結論である。

ウ 損益相殺について

原告製品の販売中止期間中,控訴人製造に係る他のブラケット製品の売上げが増大したことは明らかであり,同期間中,控訴人は,原告製品以外の製品をバイオデントに販売することにより利得していたものと認められる。そして,売上額が増大している以上,同期間におけるバイオデントに対する売上げからの控訴人の利得額も販売中止期間前のそれを上回っていると推認されるのであり,控訴人は,本件各告知行為によって原告製品の販売が中止された期間につき,損害を上回る利益を得たものと認められ,損益相殺により,同期間について控訴人の逸失利益はない。

この点,原審は,仮に平成23年の原告の利益が平成22年よりも増加していたとしても,このことが原告製品①の日本における販売を中止したことと因果関係があるものと認めるべき事情は何ら存しないと判示する。しかし,「矯正材料・消耗品」というカテゴリーにおいても,「ブラケット」というカテゴリーにおいても,控訴人のシェアは2割に満たないのであり,業界におけるトミー・インターナショナル(被控訴人)とバイオデント(控訴人)の競争力の比率は,バイオデント有利に見積もったとしてもせいぜい8対2である。原告製品の販売中止期間中もこのシェアに変動はない上,バイオデントの矯正材料・消耗品の売上額自体,むしろ販売中止期間前よりも増加していることに鑑みると,同期間中,バイオデント(控訴人)が,本来であれば原告製品を販売するであろう機会を利用して,本件特許に抵触しない他の控訴人の製品を顧客に販売して売上げを伸ばし,利得していたことは明らかである。

(控訴人の主張)

ア 本件各告知行為が不正競争行為に該当すること

(ア) 本件各告知行為が「虚偽の告知」に該当すること

本件各告知行為においては,被控訴人は,具体的にバイオデントの販売に係る原告製品を特定し,その分析を行った事実と,分析の結果,本件特許の請求項1と特定した上でこれと「関連する」と告知しているのであるから,実質的にバイオデントに対する侵害警告を構成する。

被控訴人は,本件各告知行為後,矯正学会における,バイオデント代表者の被控訴人代表者に対する協議申入れを拒絶し,甲23メールにおいて,使用許諾の可能性を明示的に拒絶し,原告製品と本件特許が関連していると述べる甲4書簡への回答を迫ったのであるから,原告製品の輸入販売行為が本件特許権を侵害することを理由に輸入販売の中止を要求する意思を示したといえる。そして,一切協議の余地がないことを認識したバイオデントは,原告製品の輸入,販売の中止を余儀なくされたのである。

このような経緯から,本件各告知行為の当初から,被控訴人の本件各告知行為の目的は,バイオデントに原告製品の輸入,販売を中止させることにあったといえる。

不競法2条1項14号の「虚偽の告知」該当性を,同条項号で定められていない,正当な権利行使といえるか否かで判断すべきとはいえない。

(イ) バイオデントに対する本件各告知行為は不競法2条1項14号の構成要件に該当すること

バイオデントは控訴人とは別の法人格を有し,控訴人以外の製造業者が製造した製品も取り扱う独立した事業主であり,原告製品についてもこれを控訴人から輸入して国内で販売しているだけであり,その販売行為につき控訴人から指揮命令を受ける立場にはない。したがって,バイオデントは控訴人と同一視される地位にあるとはいえない。

(ウ) 本件各告知行為が正当な権利行使に該当せず,違法であること

本件特許の出願人である被控訴人は,願書にBと並んでDを本件発明の発明者として記載し,その後何ら補正することなく,特許登録に至り,特許公報にも同様の記載がされた。そして,被控訴人は,その後もDが本件発明の発明者であることを前提に,本件特許の米国対応特許の出願に先立って同人に対して特許を受ける権利の共有持分の譲渡を打診し,出願に関する特許出願宣言書には,DとBが連署し,両者が共同発明者であると宣言していた。被控訴人は,Dに対し,その持分を譲渡するよう申し入れたが,Dは譲渡の同意をせず,譲渡証書に署名しなかった。そして,Bのみがその持分を被控訴人に譲渡し,米国対応特許は,Dと被控訴人の共有となっている。

したがって,被控訴人は本件各告知行為の時点において本件特許に冒認出願の無効理由があることを認識していたにもかかわらず,本件各告知行為に及んだのであるから,これが正当な権利行使として違法性を阻却される余地はない。

(エ) 本件各告知行為につき被控訴人に故意過失が認められること

被控訴人は,前記(ウ)のとおり冒認出願であることを熟知しながら,少なくとも過失によりこれを知らず,本件特許出願に及び,その後侵害警告に当たる本件各告知行為に及んだのであるから,被控訴人の故意又は過失の存在は明らかである。

イ 原告製品の限界利益について

インサイド・キャパシティ費用及びキャパシティ・オーバーヘッド費用は,実際に原告製品が1個製造される度に支出が必要となる費用ではなく,控訴人社内の従業員の労務等に相当する金額を控訴人社内の基準により定めてこれを便宜的に各製品に割り当てたものにすぎない。したがって,インサイド・キャパシティ費用及びキャパシティ・オーバーヘッド費用は原告製品1個当たりを追加的に製造,販売する際に直接必要となる費用(直接変動費)ではない。

ウ 損益相殺について

本件各告知行為に起因する原告製品の販売中止による逸失利益の算定において問題となるのは,本件各告知行為がなかったとした場合に原告製品がどの程度販売され控訴人がどの程度利益を得られたかということであり,原告製品以外の製品の販売の状況は全く関係がない。仮に原告製品以外の製品の売上が増大したとの事実が存在したとしても,本件各告知行為がなければ原告製品が販売中止されることもなく他の製品と同様に販売されていたはずであり,控訴人に逸失利益が発生することに何らの変わりはない。本件各告知行為によって,控訴人のバイオデントに対する原告製品の売上げが減少したことが原因で,他方で,控訴人のバイオデントに対する他の製品の売上げが増加したという事実は認められない。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,被控訴人による本件各告知は不競法2条1項14号の不正競争行為に該当し,被控訴人には本件各告知が不正競争行為に該当することを知らなかったことにつき故意又は過失があると判断するが,被控訴人の行為による控訴人の損害額は65万3416.33米国ドル及びこれに対する遅延損害金であると判断する。

その理由は,以下のとおり,原判決を補正し,当審における主張について判断するほかは,原判決「事実及び理由」欄第4,1~3に判示のとおりである。

1  原判決の補正

(1)  原判決40頁2行目冒頭に「ア 」を加える。

(2)  原判決41頁7行目から8行目「当たると認めるのが相当である。」を,「当たり,不競法2条1項14号の不正競争行為に当たると認めるのが相当である。」と改める。

(3)  原判決41頁9行目から43頁6行目までを削除する。

(4)  原判決43頁7行目「(3)」を「イ」と改める。

(5)  原判決43頁15行目の「この点に関して」から22行目を次のとおり改める。

「この点に関して,被控訴人は,バイオデントは控訴人と同一視されるべき地位にあると主張するが,バイオデントが控訴人の販売代理店であることのみでは,控訴人と同一視されるべき地位にあるということはできず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。また,被控訴人は,本件各告知は正当な権利行使であり,違法性が阻却されるとも主張するが,被控訴人のバイオデントに対する本件各告知行為は,本件特許が無効であるにもかかわらず,原告製品が本件特許の侵害品である旨の虚偽の告知を行ったものであって,後記(2)認定の事実に照らしても,正当な権利行使には当たらず,その違法性が阻却されることはない。」

(6)  原判決43頁24行目「(4)」を「ウ」と改める。

(7)  原判決43頁25行目の次に,改行して,次のとおり加える。

「(2) 故意過失の有無について被控訴人の不正競争行為が故意又は過失によるものかどうかについて判断する。

前記1(1)のとおり,本件発明はBとDによる共同発明であり,被控訴人は,本件特許出願においてDを発明者の一人として掲げていたにもかかわらず,Dの同意を得ることなく本件特許を出願したこと,本件特許に対応する本件米国特許については,Dが譲渡書を提出せず,そのために米国においては被控訴人とDの両者を権利者として特許出願したことに照らすと,被控訴人(代表者)は,本件特許に無効理由があることを知っていたか又は本件特許に無効理由があることを容易に認識することができたというべきである。

したがって,被控訴人には,バイオデントに対し本件各告知による虚偽の事実の告知をしたことについて,故意又は過失がある。」

(8)  原判決44頁2行目から45頁3行目を,次のとおり改める。

「ア 原告製品①について

被控訴人は,バイオデントに対し,原告製品の輸入及び販売の中止を求める意思をもって,甲4書簡により,原告製品が本件発明の技術的範囲に含まれるものであり,原告製品の輸入及び販売が本件特許権を侵害するものであることを通知し,甲23メールにより,本件発明に係る特許についての実施許諾をしない旨を通知したものであるから,本件各告知を受けたバイオデントが,本件各告知行為がされた時点において現に輸入販売しており,本件発明の技術的範囲に含まれる(当事者間に争いがない)原告製品①の輸入及び販売を中止し,そのために控訴人に逸失利益が生じることは,通常起こり得ることであるといえる。

したがって,控訴人が本件各告知行為後に日本において原告製品①を販売しなかったことによる損害が発生していると認めるのが相当である。

イ 原告製品②について

原告製品②は,材質がセラミックであることを除き,製品の基本的構成が原告製品①と同一であるから(甲89),本件発明の技術的範囲に属するものと認められる。そうすると,原告製品①と同様に,本件各告知行為と控訴人が原告製品②を日本において販売しなかったことに係る損害との間には事実的因果関係を認めることができる。

証拠(甲172~176,乙97)及び弁論の全趣旨によると,歯列矯正には,審美性も要求され,他者から見えにくい矯正装置が開発されてきたところ,昭和55年頃からセラミック製のブラケットが開発され,被控訴人は,平成18年8月に,セルフライゲーションセラミックブラケットである被告製品Bについて,薬事法上の認証を取得して製造販売を開始し,平成19年までには,セラミックのブラケットが標準技術とされ,平成20年には控訴人及びデンツプライ三金株式会社がセラミック製のブラケットを販売しており,平成21年頃にはフォレスタデント・バーンハードフォスター社がセラミック製のセルフライゲーションブラケット製品の販売を開始したものと認められることからすると,本件各告知の時点において,被控訴人は,控訴人が将来において原告製品①の材質をセラミックとしたものを開発し販売することは,予見可能であったというべきである。そして,本件各告知は当時販売されていた原告製品①が本件特許を侵害するとしてその販売中止を求めたものであるから,同じく本件特許を侵害する将来開発される製品の販売をもやめるであろうことは予見可能であったというべきである。したがって,被控訴人による本件各告知行為と控訴人が原告製品②を販売しなかったことに係る損害との間に相当因果関係があるといえる。

ウ 原告製品③及び④について

(ア) 原告製品③は,口腔内最奥の臼歯用の,歯に直接装着される,ダイレクトボンドタイプのチューブブラケットであるが,その基本的構成が原告製品①と同一であるから(甲89),本件発明の技術的範囲に属するものと認められる。

(イ) 原告製品④は,口腔内最奥の臼歯用の,バンドに溶接して歯に装着される歯列矯正ブラケットであり,その構成は以下のとおりのものと認められる(甲92,弁論の全趣旨。別紙「原告製品④の図面」参照。)。

④-a 歯列矯正ブラケットであり,バンドに溶接された上,このバンド内面にセメントが塗布されて歯に被せられるベース(3),ベース(3)から垂直方向に延びるブラケット本体(2),ブラケット本体(2)の中央にて近遠心方向に延び前方に開放したアーチワイヤスロット(5),及び,アーチワイヤスロット(5)を開閉すべく移動可能なロック部材(20)を備えている。

④-b ロック部材(20)は,一端側が前記ベース側に該ベースに沿って延びるベース側部(22)と,他端側がアーチワイヤスロット(5)の長さと略同じ幅を有してスロット上方側に延びる反ベース側部(21)とを備える。ロック部材(20)は,弾性体から構成され,断面形状がU字形状であり,且つ,反ベース側部(21)の中央に切欠き部(23)が設けられている。

④-c ブラケット本体(2)は,アーチワイヤスロット(5)の開放縁部に,ロック部材(20)の先端をスロット閉じ位置に係止する閉じ係止溝(6)と,係止溝(6)の反対側の縁部にロック部材(20)の先端をスロット開放位置に係止する開放係止凹部(11)が形成されている。係止溝(6)の長手方向中央部分には,切欠き部(23)に対応して係止溝(6)を埋めるように突出したリブ(7)が形成されている。

④-d 歯列矯正ブラケットである。

本件発明の構成要件Aにいう「歯面に固着されるベース」とは,①「固着」という文言は,「かたくしっかりとつくこと,一定の場所に留まって移らないこと」という意味を有するものであること(広辞苑 第5版[平成10年11月11日第1刷発行]),②「歯面に固着される」が,「固着」の手段について特定するものではないことは文理上明らかであること,③本件発明は,歯列矯正ブラケットであり,そのベースは,歯列矯正ブラケットを歯面に対して動かないようにすることで,アーチワイヤからの締め付け力を歯に伝えることに技術的意義があると認められることを併せ鑑みると,歯面に対して固くしっかりと付けられるベースを意味し,ベースが歯面に留まって動かないのであれば,その取り付け手段は,歯面に直接又は間接につけるかを含め特に限定はないと解すべきである。

原告製品④のベース(3)は,バンドに溶接された上,このバンド内面にセメントが塗布されて歯に被せられるものであり,歯面に対して固くしっかりと取り付けられ,取り付け後は歯面に留まって動かないものであると認められるから,構成要件Aの「歯面に固着されるベース」に相当する。

そして,原告製品④の「ベース(3)から垂直方向に延びるブラケット本体(2)」,「ブラケット本体(2)の中央にて近遠心方向に延び前方に開放したアーチワイヤスロット(5)」,「アーチワイヤスロット(5)を開閉すべく移動可能なロック部材(20)」が,それぞれ,構成要件Aの「ブラケット本体」,「アーチワイヤスロット」,「ロック部材」に相当することは明らかである。

よって,原告製品④は,構成要件Aを充足する。

原告製品④の構成④-b,④-c,④-dは,原告製品①と同様であり,本件発明の構成要件B~Dを充足することは明らかである。

したがって,原告製品④は本件発明の技術的範囲に属するものと認められる。

(ウ) そうすると,原告製品①及び②と同様に,本件各告知行為と控訴人が原告製品③及び④を日本において販売しなかったことに係る損害との間には事実的因果関係を認めることができる。

(エ) 証拠(甲173,176,179,180,189,190)及び弁論の全趣旨によると,平成19年には,歯列矯正器具の「ウェルダブルタイプチューブ」と「ボンディングタイプチューブ」とが標準技術とされていたこと,株式会社カンノは「ダイレクトボンディング品」である「セルフリガチャーブラケットチューブ」についての薬事法上の認証を取得して,平成19年には発売を開始したこと,平成20年には,控訴人はダイレクトボンドチューブ製品及びウェルダブルチューブ製品を販売しており,その中には,セルフライゲーションタイプのものもあったこと,フォレスタデント・バーンハードフォースター社は「ウエルダブルタイプ」及び「ボンダブルタイプ」の「バッカルチューブ」についての薬事法上の認証を取得し,平成21年には,発売を開始したことが認められることからすると,本件各告知の時点において,被控訴人は,控訴人が将来において原告製品①に対応する,口腔内最奥のチューブブラケットのダイレクトボンドタイプ及びウェルダブルタイプを開発し販売することは,予見可能であったというべきである。そして,本件各告知は当時販売されていた原告製品①が本件特許を侵害するとしてその販売中止を求めたものであるから,同じく本件特許を侵害する将来開発される製品の販売をもやめるであろうことは予見可能であったというべきである。したがって,被控訴人による本件各告知行為と控訴人が原告製品③及び④を販売しなかったことに係る損害との間に相当因果関係があるといえる。

エ 被控訴人の主張について

(ア) 被控訴人は,セラミックは,原告製品や被告製品のようなインタラクティブタイプのセルフライゲーションブラケットに用いるには極めて扱いにくい素材であり,控訴人は,原告製品を発売する前には,セルフライゲーションブラケットのセラミックタイプを販売していなかったから,原告製品①のセラミックタイプ(原告製品②)を開発し日本で販売することを予見することはできなかった,と主張する。

しかし,被控訴人自身は,平成18年には本件特許の実施品である(当事者間に争いがない。)のセラミックタイプ(被告製品B)を開発し,販売していたのであるから,インタラクティブタイプのセルフライゲーションブラケットにセラミックを用いることが可能であることを認識していたといえ,控訴人も同じく,原告製品①のセラミックタイプ(原告製品②)を開発し、日本で販売することを予見することができたといえる。

被控訴人の主張には,理由がない。

(イ) 被控訴人は,チューブ製品は,セルフライゲーションタイプにする必要性はなく,控訴人が原告製品を発売する前から販売していたセルフライゲーションブラケットの奥歯用のチューブタイプは国内販売されていないから,控訴人が原告製品①のチューブタイプ(原告製品③,④)を開発し,日本で販売することは予見できなかった,と主張する。

しかし,奥歯に,セルフライゲーションタイプのチューブを使用するか,セルフライゲーションタイプではないタイプのチューブを使用するかは,矯正治療を行う医師の判断によるのであって,チューブ製品をセルフライゲーションタイプにする必要がないとまではいえず(甲189),前記ウ(エ)のとおりチューブ製品が存在しており,これを日本国内で販売できないという特別な事情も見当たらないから,原告製品①のチューブタイプを開発し,日本で販売することを予見することができたといえる。

被控訴人の主張には,理由がない。

オ したがって,被控訴人による本件不正競争行為と相当因果関係のある損害は,控訴人が原告製品①~④を販売しなかったことによる損害であると認めるのが相当である。

以下,その損害額について検討する。」

(9)  原判決45頁5行目から10行目を,次のとおり改める。

「ア 販売中止期間について

(ア) 原告製品①について

バイオデントは,本件各告知を受けた結果,平成23年1月から平成25年12月までの間,控訴人からの原告製品①の購入を中止したが,本件各告知がなければ,バイオデントは同期間中も控訴人から原告製品①の購入を継続したと推認されるから,同期間中に原告製品①をバイオデントに対して販売することによって得ることができたであろう利益額が,被控訴人による本件不正競争行為により生じた,原告製品①に関する原告の損害額に当たる。

(イ) 原告製品②について

原告製品②は,前記1(3)オのとおり,平成24年5月に米国及びカナダで販売開始されていること,原告製品①は,前記1(3)オのとおり,平成22年3月に米国及びカナダで販売開始され,前記 1(3)イのとおり,平成22年5月に日本で販売開始されたことからすると,本件各告知行為がなければ,原告製品②は,遅くとも平成24年8月1日から日本において販売開始されたものと認めるのが相当である。

バイオデントは,本件各告知を受けた結果,平成24年8月から平成26年6月(前記1(3)エの販売開始の前月)までの間,控訴人からの原告製品②の購入を中止したが,本件各告知がなければ,バイオデントは同期間中も控訴人から原告製品②の購入を継続したと推認されるから,同期間中に原告製品②をバイオデントに対して販売することによって得ることができたであろう利益額が,被控訴人による本件不正競争行為により生じた,原告製品②に関する原告の損害額に当たる。

(ウ) 原告製品③について

原告製品③は,前記1(3)オのとおり,平成24年1月に米国及びカナダで販売開始されていること,原告製品①は,前記1(3)オのとおり,平成22年3月に米国及びカナダで販売開始され,前記 1(3)イのとおり,平成22年5月に日本で販売開始されたことからすると,本件各告知行為がなければ,原告製品③は,遅くとも平成24年4月1日から日本において販売開始されたものと認めるのが相当である。

バイオデントは,本件各告知を受けた結果,平成24年4月から平成26年2月(前記1(3)エの販売開始の前月)までの間,控訴人からの原告製品③の購入を中止したが,本件各告知がなければ,バイオデントは同期間中も控訴人から原告製品③の購入を継続したと推認されるから,同期間中に原告製品③をバイオデントに対して販売することによって得ることができたであろう利益額が,被控訴人による本件不正競争行為により生じた,原告製品①に関する原告の損害額に当たる。

(エ) 原告製品④について

原告製品④は,前記1(3)オのとおり,平成24年3月に米国及びカナダで販売開始されていること,原告製品①は,前記1(3)オのとおり,平成22年3月に米国及びカナダで販売開始され,前記 1(3)イのとおり,平成22年5月に日本で販売開始されたことからすると,本件各告知行為がなければ,原告製品④は,遅くとも平成24年6月1日から日本において販売開始されたものと認めるのが相当である。

バイオデントは,本件各告知を受けた結果,平成24年6月から平成26年12月(前記1(3)エの販売開始の前月)までの間,控訴人からの原告製品④の購入を中止したが,本件各告知がなければ,バイオデントは同期間中も控訴人から原告製品④の購入を継続したと推認されるから,同期間中に原告製品④をバイオデントに対して販売することによって得ることができたであろう利益額が,被控訴人による本件不正競争行為により生じた,原告製品④に関する原告の損害額に当たる。」

(10)  原判決45頁10行目の次に,改行して以下を加え,同11行目冒頭の「イ」を削除する。

「イ 原告製品に関する逸失利益

(ア) 原告製品①について

a 販売が可能であった数量」

(11)  原判決46頁21行目の次に,改行して以下を加え,同22行目冒頭の「ウ」を削除する。

「b 限界利益額」

(12)  原判決47頁12行目の次に,改行して以下を加える。

「c 逸失利益額」

(13)  原判決47頁15行目の次に,改行して以下を加える。

「(イ) 原告製品②について

a 販売が可能であった数量

控訴人は,平成26年7月から12月までに,原告製品②を●●●●●●個販売したことが認められ,これを年当たりの販売数に換算すると,●●●●●●個(●●●●●●個÷6か月×12か月)である(甲91)。控訴人は,原告製品②を,平成27年に●●●●●●個,平成28年1月から2月までに●●●●●●個(年当たりに換算すると●●●●●●個)販売したことが認められる(甲91)。

また,原告製品②と同じく,本件特許の実施品でありかつセラミック製である被告製品Bの販売個数は,平成24年は●●●●●●●個,平成25年は●●●●●●●個,平成26年は●●●●●●●個,平成27年は●●●●●●●個,平成28年1月から2月までに●●●●●●個(年当たりに換算すると●●●●●●●個)であることが認められる(乙82)。

平成24年から平成26年にかけて,●●●●●●●●●●●●●●●●●●,平成26年から平成28年にかけて,原告製品②の販売数量は増加傾向にあるにもかかわらず,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,平成24年から平成26年にかけて,原告製品②の販売可能数量が増加傾向にあったとは認められず,結局のところ,平成24年8月から平成26年6月までの,原告製品②の販売可能数量は,直近の,平成26年7月から12月までと同程度と推定するのが相当である。

そして,控訴人は,平成24年8月から平成26年6月までの間,日本国内を市場とする原告製品②の販売ができなかったから,控訴人が上記期間において販売可能であった原告製品②の個数は,平成24年8月から平成25年12月までに●●●●●●個(●●●●●●個×(5/12+1)),平成26年1月から6月までに●●●●●●個(●●●●●●個×6/12)の,合計●●●●●●個であると推認される。

b 限界利益額

原告製品②の一個当たりの平均販売価格は,平成26年7月から12月において●●●●米国ドル(●●●●●●●米国ドル÷●●●●●●個),平成27年において●●●●米国ドル(●●●●●●●米国ドル÷●●●●●●個),平成28年において●●●●米国ドル(●●●●●●米国ドル÷●●●●●●個)であることが認められる(甲91)。このように,原告製品②の一個当たりの平均販売価格は,時期によって異なるから,控訴人が原告製品②を販売することができなかった平成24年8月から平成26年6月における原告製品②の平均販売価格は,最も近い時期である平成26年7月から12月における平均販売価格と同額の,●●●●米国ドルであると認めるのが相当である。また,平成24年8月から平成26年6月における原告製品②を一個製造するために要する費用は証拠上明らかではないものの,平成27年において原告製品②を一個製造するために要する原材料費及び外注費は,●●●●米国ドルであると認められる(甲91,94)から,平成24年8月から平成26年6月においても同額相当の原材料費及び外注費を要したと推認することが相当である。

そうすると,平成24年8月から平成26年6月において原告製品②を販売することによる限界利益は,●●●●米国ドル(●●●●米国ドル-●●●●米国ドル)であったと推認される。

c 逸失利益額

控訴人が,原告製品②を販売できなかったことによる逸失利益は,平成24年8月から平成25年12月までに●●●●●●●●●●米国ドル(●●●●●●個×●●●●米国ドル),平成26年1月から同年6月までに●●●●●●●●●米国ドル(●●●●●●個×●●●●米国ドル)の合計●●●●●●●●●米国ドル(●●●●●●個×●●●●米国ドル)と認めるのが相当である。

(ウ) 原告製品③について

a 販売が可能であった数量

控訴人は,平成26年3月から12月までに,原告製品③を●●●●個販売したことが認められ,これを年当たりの販売数量に換算すると,●●●●個(●●●●個÷10か月×12か月)である(甲91)。控訴人は,原告製品③を,平成27年に●●●●●●個,平成28年1月から2月に●●●●個(年当たりに換算すると●●●●●●個)販売したことが認められる(甲91)。

平成26年から平成27年にかけての原告製品③の販売数量は増加しているものの,平成27年から平成28年にかけてはほぼ横ばいであることからすると,平成24年4月から平成26年2月までの原告製品③の販売数量が増加傾向又は減少傾向にあったとは認められず,結局のところ,平成24年4月から平成26年2月までの原告製品③の販売可能数量は,直近の,平成26年3月から12月までと同程度と推定するのが相当である。

そして,控訴人は,平成24年4月から平成26年2月までの間,日本国内を市場とする原告製品③の販売ができなかったから,控訴人が上記期間において販売可能であった原告製品③の個数は,平成24年4月から平成25年12月までに●●●●●●個(●●●●個×(9/12+1)),平成26年1月から同年2月までに●●●●個(●●●●個×2/12)の合計●●●●●●個であると推認される。

b 限界利益額

原告製品③の一個当たりの平均販売価格は,平成26年3月から12月において●●●●米国ドル(●●●●●●米国ドル÷●●●●個),平成27年において●●●●米国ドル(●●●●●●米国ドル÷●●●●●●個),平成28年1月から2月において●●●●米国ドル(●●●●●●米国ドル÷●●●●個)であることが認められる(甲91)。このように,原告製品③の一個当たりの平均販売価格は,時期によって異なるから,控訴人が原告製品③を販売することができなかった平成24年4月から平成26年2月における原告製品③の平均販売価格は,最も近い時期である平成26年3月から12月における平均販売価格と同額の,●●●●米国ドルであると認めるのが相当である。また,平成24年4月から平成26年2月における原告製品③を一個製造するために要する費用は証拠上明らかではないものの,平成27年において原告製品③を一個製造するために要する原材料費及び外注費は,●●●●米国ドルであると認められる(甲91,94)から,平成24年4月から平成26年2月においても同額相当の原材料費及び外注費を要したと推認することが相当である。

そうすると,平成24年4月から平成26年2月において原告製品③を販売することによる限界利益は,●●●●米国ドル(●●●●米国ドル-●●●●米国ドル)であったと推認される。

c 逸失利益額

控訴人が,原告製品③を販売できなかったことによる逸失利益は,平成24年4月から平成25年12月までに●●●●●●●●●米国ドル(●●●●●個×●●●●米国ドル),平成26年1月から同年2月までに●●●●●●●米国ドル(●●●●個×●●●●米国ドル)の合計●●●●●●●●●米国ドルと認めるのが相当である。

(エ) 原告製品④について

a 販売が可能であった数量

控訴人は,原告製品④を,平成27年に●●●●個,平成28年2月に●●●個販売したことが認められる(甲91)。原告製品④の販売数は原告製品①~③に比べて少ないことに加え,多い月は●●●●個(平成27年5月),少ない月は●個(平成27年11月から平成28年1月)と,月によって大きく異なるものと認められるから(甲91),平成24年6月から平成26年12月までの原告製品④の販売可能数量は,直近1年間である平成27年1月から12月までと同程度と推定するのが相当である。

そして,控訴人は,平成24年6月から平成26年12月までの間,日本国内を市場とする原告製品④の販売ができなかったから,控訴人が上記期間において販売可能であった原告製品④の個数は,平成24年6月から平成25年12月までに●●●●個(●●●●個×(7/12+1)),平成26年1月から同年12月までに●●●●個の,合計●●●●個であると推認される。

b 限界利益額

原告製品④の一個当たりの平均販売価格は,平成27年において●米国ドル(●●●●●●米国ドル÷●●●●個),平成28年2月において●米国ドル(●●●米国ドル÷●●●個)であることが認められる(甲91)。このように,原告製品④の一個当たりの平均販売価格は,時期によって異ならないから,控訴人が原告製品④を販売することができなかった平成24年6月から平成26年12月における原告製品④の平均販売価格は,その後の平均販売価格と同額の,●米国ドルであると認めるのが相当である。また,平成24年6月から平成26年12月における原告製品④を一個製造するために要する費用は証拠上明らかではないものの,平成27年において原告製品④を一個製造するために要する原材料費及び外注費は,●●●●米国ドルであると認められる(甲91,94)から,平成24年6月から平成26年12月においても同額相当の原材料費及び外注費を要したと推認することが相当である。

そうすると,平成24年6月から平成26年12月において原告製品④を販売することによる限界利益は,●●●●米国ドル(●米国ドル-●●●●米国ドル)であったと推認される。

c 逸失利益額

控訴人が,原告製品④を販売できなかったことによる逸失利益は,平成24年6月から平成25年12月までに●●●●●●●●●米国ドル(●●●●個×●●●●米国ドル),平成26年1月から12月までに●●●●●●●●●米国ドル(●●●●個×●●●●米国ドル)の,合計●●●●●●●●●米国ドルと認めるのが相当である。

ウ 以上より,原告が,原告製品①~④を販売できなかったことによる逸失利益は,平成25年12月までに●●●●●●●●●●米国ドル(●●●●●●●●●●米国ドル+●●●●●●●●●●米国ドル+●●●●●●●●●米国ドル+●●●●●●●●●米国ドル),平成26年1月から12月までに●●●●●●●●●●米国ドル(●●●●●●●●米国ドル+●●●●●●●米国ドル+●●●●●●●●●米国ドル)の合計59万4416.33米国ドルと認めるのが相当である。」

(14)  原判決47頁18行目の「(ア)」を削除し,48頁2行目の「証拠(乙103)」から6行目の「比較して」までを,「証拠(甲181)によると,平成26年度,平成27年度及び平成28年度(平成28年度は予測)におけるバイオデントのブラケットの販売額は,それぞれ195,233及び247(単位:百万円)であり,トミーインターナショナルの販売額(それぞれ870,955及び965[単位:百万円])と比較して」と改める。

(15)  原判決48頁8行目から23行目を削除する。

(16)  原判決51頁4行目から9行目を,次のとおり改める。

「(4) 弁護士費用

被控訴人の不正競争行為による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,本件の事案の性質等を考慮すると,平成25年12月までの逸失利益について4万8000米国ドル,平成26年1月から12月までの逸失利益について1万1000米国ドルの,合計5万9000米国ドルと認めることが相当である。

(5) 合計額

したがって,控訴人の損害額は合計65万3416.33米国ドルである。」

2  争点(1)に関する附帯控訴理由について

(1)  本件各告知行為は「虚偽の告知」に該当しない旨の主張(前記第2の3(3)(被控訴人の本件附帯控訴に関する主張)ア(ア))について

先に原判決を引用及び補正して判示したとおり,本件告知1と本件告知2を併せてみると,本件各告知は,被控訴人が,バイオデントに対し,本件特許権侵害を理由として本件発明の実施行為である原告製品の輸入及び販売の中止を求める侵害警告に当たると認めるのが相当である。

仮に,本件告知1の当時においては,被控訴人が,バイオデントへの対応を決めていなかったとしても,本件告知2においては,本件特許の実施許諾を行わない旨を明確にしているのであるから,本件告知1と本件告知2を併せてみると,本件各告知は,被控訴人が,バイオデントに対し,本件特許権侵害を理由として本件発明の実施行為である原告製品の輸入及び販売の中止を求める侵害警告に当たるものというべきである。

また,被疑侵害品が権利を侵害するとの意思表明が特許権の実施許諾交渉において一般的に認められるものであったとしても,本件各告知行為が正当な権利の行使とはいえないことは,既に判示したとおりである。

(2)  被疑侵害者本人であるバイオデントに対する本件各告知行為は不競法2条1項14号の構成要件に該当しない旨の主張(前記第2の3(3)(被控訴人の本件附帯控訴に関する主張)ア(イ))について

先に原判決を引用及び補正して判示したとおり,バイオデントに対し,本件各告知がされることにより,バイオデントではなく,原告製品の製造元である控訴人の営業上の信用が害されるのであるから,本件各告知は,「他人の営業上の引用を害する虚偽の事実の告知」に当たるというべきである。

(3)  本件各告知行為に違法性はない旨の主張(前記第2の3(3)(被控訴人の本件附帯控訴に関する主張)ア(ウ))について

先に原判決を引用及び補正して判示したとおり,被控訴人のバイオデントに対しる本件各告知行為は,正当な権利行使には当たらず,その違法性が阻却されることはない。

(4)  被控訴人に故意又は過失は認められない旨の主張(前記第2の3(3)(被控訴人の本件附帯控訴に関する主張)ア(エ))について

先に原判決を引用及び補正して判示したとおり,被控訴人には,バイオデントに対し本件各告知による虚偽の事実を告知したことについて,故意又は過失があるというべきである。

Dは,被控訴人に対し,譲渡書を送付する旨のメールを送信し(乙10,15),13年以上にわたり,本件特許に関して,被控訴人に対して要求や問合せをしなかったとしても,上記結論が左右されることはない。

また,先に原判決を引用及び補正して判示したとおり,本件各告知はバイオデントに対し原告製品の輸入販売の中止を求めるものであって侵害の成否の検討を要望したものにすぎないとはいえず,バイオデントが原告製品の輸入販売を中止したのは,自ら判断したものとはいえ,本件各告知を受けたからであるといえる。さらに,控訴人は日本において本件発明を実施していないこと,告知行為の相手方はバイオデントに限られていたこと,バイオデントに本件各告知行為への対応能力が十分あったことを勘案しても,上記結論を左右するものではない。

3  争点(2)に関する当事者の主張について

(1)  限界利益額に関する控訴人の主張(前記第2の3(2)(控訴人の本件控訴及び当審における追加請求に関する主張)イ(ア))について

先に原判決を引用及び補正して判示したとおり,原告製品①~④は,原告製品①がメタル製ブラケット,原告製品②がセラミック製ブラケット,原告製品③が奥歯用チューブタイプのブラケットであって直接接着するもの,原告製品④が奥歯用チューブタイプのブラケットであってバンドを用いるものと,異なっており,その販売額並びに原材料費及び外注費も異なっている。

したがって,原告製品①~④の損害額は個別に算定すべきであって,原告製品①~④の平均的限界利益によるべき旨の控訴人の主張には,理由がない。

(2)  原告製品及び被告製品の市場の●●のシェア数量に基づき損害額を算定すべき旨の控訴人の主張(前記第2の3(2)(控訴人の本件控訴及び当審における追加請求に関する主張)イ(イ)(ウ)(エ))について

歯列矯正器具は,原告製品及び被告製品以外にも多種存在するものと認められるから(甲96,181,乙97~103),原告製品と被告製品との間に完全な代替性があるとは認められない。平成26年度,平成27年度及び平成28年度(平成28年度は予測)におけるバイオデントのブラケットの販売額は,それぞれ195,233及び247(単位:百万円)であり,被告製品を扱うトミーインターナショナルの販売額(それぞれ870,955及び965(単位:百万円))と比較して,18.3対81.7,19.6対80.4及び20.4対79.6と,控訴人の主張する●●●には到底至らない。

以上に照らすと,本件各告知行為の影響があったとしても,原告製品及び被告製品の市場の●●のシェア数量に基づき損害額を算出することは相当ではなく,その旨の控訴人の主張を採用することはできない。

(3)  平成23年から平成28年2月15日までの期間の損害に係る控訴人の予備的主張(前記第2の3(2)(控訴人の本件控訴及び当審における追加請求に関する主張)イ(オ))について

ア 原告製品①について

控訴人は,販売開始後,一旦販売中止し,販売再開した場合の再開後の販売数量は,中止前の販売量がそのまま伸びていった場合より抑えられたものになること,バイオデントの歯列矯正ブラケットの販売実績額から算定されるべき販売力からすると,平成23年には平成26年と同じ数量を販売することができ,平成24年以降は平成27年と同じ数量を販売することができた,と主張する。

バイオデントの歯列矯正ブラケットの販売実績額が平成23年には1億2500万円であり,以降,年々拡大していることが認められる(甲181,乙102,103)が,製品の販売額は,製品の品質,価格,その時期の需要量,競合製品の有無等,多数の要素に左右されるから,先に原判決を引用及び補正して判示した数量を超えて,控訴人主張の数量を販売することができたと認めることはできない。

イ 原告製品②について

控訴人は,①原告製品②の販売開始後の販売実績,及び②バイオデントの販売力からすると,平成24年には,平成26年と同等の,平成25年には平成27年と同等の,平成26年以降には平成28年と同等の数量を販売できた,と主張する。

しかし,製品の販売額は,製品の品質,価格,その時期の需要量,競合製品の有無等,多数の要素に左右されるから,バイオデントの歯列矯正ブラケットの販売実績額が年々拡大しており,原告製品②の販売数量が平成26年以降伸びているとしても,先に原判決を引用及び補正して判示した数量を超えて,控訴人主張の数量を販売することができたと認めることはできない。

ウ 原告製品③について

控訴人は,①原告製品③の販売開始後の販売実績,及び,②バイオデントの販売力からすると,平成24年には平成26年と同等の,平成25年以降は平成27年と同等の数量を販売できた,と主張する。

しかし,製品の販売額は,製品の品質,価格,その時期の需要量,競合製品の有無等,多数の要素に左右されるから,バイオデントの歯列矯正ブラケットの販売実績額が年々拡大しており,原告製品③の販売数量が平成26年以降伸びているとしても,先に原判決を引用及び補正して判示した数量を超えて,控訴人主張の数量を販売することができたと認めることはできない。

エ 原告製品④について

控訴人は,バイオデントの販売力からすると,平成24年から平成26年にも平成27年と同等の数量を販売できた,と主張する。

しかし,製品の販売額は,製品の品質,価格,その時期の需要量,競合製品の有無等,多数の要素に左右されるから,バイオデントの歯列矯正ブラケットの販売実績額が年々拡大しているとしても,先に原判決を引用及び補正して判示した数量を超えて,控訴人主張の数量を販売することができたと認めることはできない。

(4)  「損害額に関する原審判断の誤り」(前記第2の3(2)(控訴人の本件控訴及び当審における追加請求に関する主張)ウ)について

ア 控訴人は,本件各告知行為がなく,平成23年以降も継続して原告製品①が販売された場合は,平成22年の販売期間が8か月にすぎないこと,平成26年は3年間の販売中止期間の直後であるからその販売実績を平成23年にも見込めること,平成27年の販売実績をも考慮すべきことから,原判決が平成23年1月から平成25年12月までの原告製品①の販売数量を,平成22年及び平成26年の販売数量を平均して推認したことは,誤りである,と主張する。

しかし,製品の販売額は,製品の品質,価格,その時期の需要量,競合製品の有無等,多数の要素に左右されるから,平成26年と同等の販売数量が平成23年にも見込めたとはいえないし,平成26年に同年の現実の販売量を超える販売数量があったと認めることもできない。先に原判決を引用及び補正して判示したとおり,この点に関する原判決の判断に誤りはない。

イ 控訴人は,原告製品①~④の1個当たりの販売価格は決まっているから,これに基づいて限界利益額を算定すべき,と主張する。

しかし,先に原判決を引用及び補正して判示したとおり,各年における1個当たりの販売価格は,甲91の記載に基づき,総販売金額を個数で除して算出することが相当である。控訴人は,甲91の各月の販売金額と販売個数は必ずしも対応していないと主張するが,その事実を具体的に認めるに足りる証拠はないから,控訴人の主張を採用することはできない。

ウ 原判決の,バイオデントと被控訴人の対象製品の販売力の比率が3対7であることの裏付けがないことに対する,控訴人の主張(前記第2,3(2)(控訴人の本件控訴及び当審における追加請求に関する主張)ウ(ウ))については,前記(2)で判示したとおり理由がない。

(5)  被控訴人の主張について

ア 被控訴人は,インサイド・キャパシティ費用及びキャパシティ・オーバーヘッド費用は,原告製品の製造販売に係る直接変動費に該当する旨の主張をする。

しかし,先に原判決を引用及び補正して判示したとおり,インサイド・キャパシティ費用及びキャパシティ・オーバーヘッド費用は,控訴人従業員の労務費及び設備管理費に当たるから,限界利益を算出するに当たり差し引くべきではない。甲94にこれらが「変動コスト」と記載されていることは,この認定を左右するものではないし,限界利益を算出するに当たり,外注費が差し引かれ,労務費が差し引かれないとしても,費用の性質が異なるから不合理ではない。

イ 被控訴人は,原告製品の販売中止期間中,控訴人製造に係る他のブラケット製品の売上げが増大したから,損益相殺により,同期間について控訴人の逸失利益はなく,このことは,バイオデントの被控訴人との競争力の比率は原告製品の販売中止期間中も異ならず,バイオデントの矯正材料・消耗品の売上額が販売中止期間前より販売中止期間中のほうが伸びていることから示される,と主張する。

しかし,バイオデントと被控訴人との競争力の比率(シェア)が原告製品の販売中止期間中も変わらなかったとしても,原告製品の販売中止がない場合にも変わらなかったとはいえず,また,矯正材料・消耗品の売上額の多寡は,販売している商品の種類や価格が需要に合致しているかどうかや,販売方法の工夫などによって左右されるものと考えられるから,原告製品の販売中止期間中も控訴人と被控訴人のシェアが変わらず,控訴人の販売中止期間中の売上額が伸びていたとしても,原告製品の販売中止と控訴人がその期間中に利益を得たこととの間に因果関係を認めることはできない。

被控訴人の主張には,理由がない。

ウ 被控訴人は,控訴人が原告製品②の市販前届け出について米国食品医薬品局のクリアランスを得た24年12月14日まで同製品を日本に輸出することはできなかったから,それまでの間,同製品について控訴人に逸失利益は生じない,と主張する。

しかし,原告製品②は,平成20年に市販前届け出を行い,米国食品医薬品局のクリアランスを得た「Radiance」を改良したものであり,改めて市販前届け出を得る必要はなかったものと認められる(甲168,乙89,109)。

被控訴人の主張には,理由がない。

4  なお,控訴人は,予備的に民法709条に基づく損害賠償を請求するが,認容すべき金額が上記で認めた金額を超えないことは明らかである。

第4結論

以上より,控訴人の請求は,65万3416.33米国ドル及びうち52万7857.99米国ドルに対する平成26年1月1日から,うち12万5558.34米国ドルに対する平成28年2月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し,その余(当審における追加請求を含む。)を棄却することとして,上記と異なる原判決を変更するとともに,控訴人の当審における追加請求及び被控訴人の附帯控訴は理由がないからこれらを棄却することとする。よって,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 永田早苗 裁判官 古庄研)

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