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知財高等裁判所 平成29年(行ケ)10027号 判決 2017年7月24日

原告

株式会社デンソーウェーブ

同訴訟代理人弁理士

青木篤

同訴訟代理人弁護士

萩尾保繁

山口健司

石神恒太郎

関口尚久

伊藤隆大

同訴訟代理人弁理士

外川奈美

大橋啓輔

被告

A・Tコミュニケーションズ株式会社

同訴訟代理人弁理士

雨宮康仁

磯田一真

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

特許庁が取消2015-300591号事件について平成28年12月12日にした審決を取り消す。

第2前提事実(いずれも当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認定し得るものである。)

1  本件商標

登録第4882830号商標(以下「本件商標」という。)は,別紙審決書(写し)の別掲1のとおりの構成よりなり,平成16年9月17日に登録出願され,別紙商標登録原簿の「商品及び役務の区分」及び「指定商品」又は「指定役務」欄に各記載の商品及び役務を指定商品及び指定役務として,平成17年7月29日に設定登録されたものであり,被告は,平成27年6月15日付けで本件商標に係る商標権(以下「本件商標権」という。)の譲渡を受け,その移転登録手続を行った。また,平成27年7月21日には本件商標権の存続期間の更新登録がされた。

2  特許庁における手続の経緯等

原告は,平成27年8月10日付け審判請求書において,特許庁に対し,本件商標に係る指定商品及び指定役務のうち,第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,建築又は都市計画に関する研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する試験又は研究,土木に関する試験又は研究,機械器具に関する試験又は研究,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれの者によっても登録商標を使用した事実が存在しないとして,商標登録の取消しの審判を請求した(以下「本件審判請求」という。)。

なお,原告は,本件審判請求のほか,これとほぼ同時期(平成27年8月26日)に,第16類,第35類,第36類,第38類,第39類,第41類,第42類(一部)及び第45類の区分に属する指定商品及び指定役務を対象とする登録商標について不使用取消審判請求をした。この結果,本件商標は,第16類,第35類,第36類,第38類,第39類,第41類,第42類,第45類の8類にわたる区分に属する多数の指定商品又は指定役務を対象としているものであるのに対し,原告は,第42類については2件,その余の類についてはそれぞれ1件(合計9件)の不使用取消審判請求を行ったことになる。

特許庁は,本件審判請求につき,取消2015-300591号事件として審理した上,平成28年12月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(以下「本件審決」という。),その謄本は,同月22日,原告に送達された。

なお,本件審判請求の登録は,平成27年8月24日にされた。

原告は,本件審決を不服として,平成29年1月20日,本件訴えを提起した。

3  本件審決の理由の要旨

(1)  本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであるが,要するに,被告は,「Q」の欧文字の中に2つの点が書され,全体で人の顔のように見える図形と「Rコード」の文字を結合して表された部分を上段に,「QRコード」の文字が書された部分を下段にした二段の構成からなる商標(別紙審決書の別掲2。以下「使用商標」という。)の使用者であり,本件商標と使用商標とは社会通念上同一の商標と認められるとした上で,以下のとおり,被告は,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,その請求に係る指定役務につき本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていたことを証明したものと認められるから,本件商標の登録は,その請求に係る指定役務について,法50条の規定により取り消すことができない旨判断した。

(2)ア  本件パンフレットの使用時期等について

「次世代の電子情報化のインフラコード」と記載のあるパンフレット(甲19。以下「本件パンフレット」という。)は平成27年6月15日に作成されたものであるところ,被告が,本件商標権を前商標権者から移転登録した平成27年6月15日から同年8月24日までの期間に,朝日プロセス株式会社(以下「朝日プロセス社」という。)に対して本件パンフレットの作成依頼を数回行い,同期間にその納品が行われ,さらに,同期間を含む配布日,配布場所,配布数及び頒布先(本件審決書原文は「配布先及び配布先」となっているが,誤記と認める。)等の本件パンフレットの配布状況を説明する一覧表があることからすれば,商標権者である被告は,本件パンフレットを要証期間内に作成し,頒布したものと推認することができる。

イ  本件商標の使用役務について

(ア) 本件パンフレットは,ロゴなどの絵柄を加味した「LogoQ(ロゴQ)」と称する2次元コードの「自動生成エンジン」について紹介するものであり,使用商標は,そのうちの,文字と2次元コードを掛け合わせ色を加味した2次元コードの種類の一つに使用されているところ,上記「自動生成エンジン」とは,2次元コードを作成するためのコンピュータプログラムといえるものである。

また,本件パンフレットの表紙及び7頁の記載から,被告は,2次元コード作成のための「コンピュータプログラムの提供」の役務を提供しているものといって差し支えない。

(イ) 被告のウェブページ(甲16,25。以下,甲16を「本件ウェブページ1」,甲25を「本件ウェブページ2」とそれぞれいう。)は,本件ウェブページ1の下部の表示はインターネットアドレスとはいえないのに対し,本件ウェブページ2は,その下部の表示からインターネット上に掲載されたウェブサイトと認められるなどの相違があるものの,同一のものと推認し得るところ,本件ウェブページ1には利用条件として月額の利用料が記載されていることから,被告が,使用商標を使用した自動生成エンジンすなわちコンピュータプログラムを,インターネットを通じて月額の利用料を払うことによって提供したと推認し得る。

(ウ) そうすると,被告は,「インターネットを使用し,文字と2次元コードを掛け合わせ色を加味した2次元コードを作成するためのコンピュータプログラムの提供」を行ったということができ,当該役務は,本件審判請求に係る役務中,「電子計算機用プログラムの提供」の範ちゅうの役務と認められる。

ウ  以上によれば,被告は,本件審判請求に係る指定役務中の「電子計算機用プログラムの提供」の範ちゅうの役務である「インターネットを使用し,文字と2次元コードを掛け合わせ色を加味した2次元コードを作成するためのコンピュータプログラムの提供」を内容とする本件パンフレットに本件商標を表示し,要証期間内に頒布したものと認められるところ,この使用行為は,商標法(以下「法」という。)2条3項8号の「役務に関する広告に標章を付して頒布する行為」に該当するものと認められる。

第3当事者の主張

1  原告の主張

取消事由-本件商標の使用の有無に係る判断の誤り

(1)  本件審決は,本件パンフレットに使用商標を表示して要証期間内に頒布した被告の行為を認定し,当該行為を「役務に関する広告に標章を付して頒布する行為」(法2条3項8号)に該当する商標の使用行為と判断したものであるが,以下のとおり,本件パンフレットにおける使用商標は,本件審判請求に係る指定役務について使用されたものではなく,また,本件パンフレットは,要証期間内に頒布されたことが被告により証明されたということもできないから,その判断は誤りであり,本件審決は取り消されるべきである。

(2)  使用商標は指定役務「について」使用されていないこと

ア 不使用取消審判において,被請求人が登録商標の使用の事実を証明するに当たっては,標章の使用は,あくまでも商品又は役務「について」なされることが必要であるところ,最高裁昭和43年2月9日第二小法廷判決(民集22巻2号159頁参照)等に照らし,本件においては,本件パンフレットに表示された使用商標が本件商標の指定役務との具体的関係において使用されている事実が立証された場合に限り,使用商標の使用の事実が肯定されるというべきである。

すなわち,本件パンフレットには,ロゴQと称する2次元コードの自動生成エンジンに関する記載があるところ,同自動生成エンジンの提供が,本件審決のいうとおり,「電子計算機用プログラムの提供」に当たり得ると解したとしても,使用商標が,自動生成エンジンの提供との具体的関係において使用されない限り,本件パンフレットにおける使用商標の表示及びその頒布をもって,指定役務についての登録商標の使用ということはできない。

イ(ア) 本件パンフレット3頁には,「LogoQシリーズ」の記載が最上部にあり,続いて7種類のロゴQシリーズの2次元コードが対応する商標とともに紹介されているところ,⑥の番号が付されたロゴQシリーズの2次元コードにおいて,「文字」と使用商標を組み合わせた商標の記載があるが,これも他の商標と同じく,ロゴQシリーズの2次元コードの種類の1つを指して使用されている。

他方,同頁には,自動生成エンジンについての記載はない。

したがって,本件パンフレット3頁の記載から,使用商標が自動生成エンジンとの具体的関係において使用されていると解する余地はない。

(イ) 本件パンフレット7頁には,最上部に「A・Tコミュニケーションズが目標とするビジネス構想」との記載があり,続いて「膨大かつ多様なビックデータ時代の革命ツール」の題とともに説明文があり,中ほどには,使用商標を含む概念図がある。これらの記載は,その説明文と概念図を併せて見た場合,ビッグデータを活用しこれをビジネスへ反映して行くに当たり,ロゴQコード(2次元コードの1つ)は,データの収集を促進することができ,現代におけるビッグデータ活用のニーズに対応できることを説明しようとしたものと一応理解することができる。他方で,自動生成エンジンの説明・紹介は,同頁の上から3分の2ほどまで(「事業内容」の項目の前まで)の記載には現れない。

同頁の下3分の1ほどには,「事業内容」として13項目が小さな文字で列記され,その中の左側上から2つ目に「ロゴQメーカー(QRコード及びロゴQコード自動生成エンジン)の提供」の記載がある。しかし,13の事業内容が全て同じく小さな文字で列挙されていることから,このうちのある事業と使用商標との間に具体的関係を読み取ることはできない。むしろ,使用商標ではなく,「ロゴQメーカー」の標章が,自動生成エンジンとの具体的関係において使用されている。

さらに,「事業内容」の項目の下の「主な取引先」と題する記載は,被告の主要取引先を紹介する内容であり,「事業内容」の部分と共に,被告の会社概要に関する情報であって,同7枚目上部の概念図と文章による説明全体の内容と具体的関係はなく,概念図に含まれる使用商標とも具体的関係は認められない。

したがって,本件パンフレット7頁において,使用商標は,自動生成エンジンとの具体的関係において使用されたものではない。

(ウ) 本件パンフレット8頁は,被告の沿革と会社概要に関する記載があるところ,沿革に関し,平成27年6月に取得した商標として使用商標の記載があるにすぎないから,ここでも,使用商標が自動生成エンジンとの具体的関係において使用されたものでないことは明らかである。

(エ) 以上のとおり,本件パンフレットに記載された使用商標は,いずれも自動生成エンジンの提供との具体的関係において使用されたということはできない。

ウ(ア) 本件パンフレットは,以下のとおり,各頁を個別に見ても,また,総合して見ても,これをもって自動生成エンジンの提供のためのものであることは理解できず,むしろ,ロゴQコードと称する2次元コードは従来の白黒2次元シンボルコードと異なる特徴を有し,その特徴の1つが自動生成エンジンにより提供可能であるという点であること,及び様々な活用を期待できるものであることを紹介するものと理解され,使用商標は,自動生成エンジンの提供との関係で具体的に使用されたものとは解し得ない。

(イ) 本件パンフレット3頁,7頁及び8頁は,上記イ(ア)~(ウ)のとおり。

(ウ) 本件パンフレット1頁には,上から約4分の1のスペースに,上から順に①「A・T COMMUNICATIONS®」,②「次世代の電子情報化のインフラコード」,③「オムニコード®商品名:「ロゴQ(コード)」がこれからのグローバル社会へと導きます」及び④「ロゴキュー/LogoQ®」(なお,「/」は改行を表す。特に断らない限り,以下同じ。)との記載がある。②と④の文字は,①と③に比べ一見して大きいので,これらの記載の方が見る者に強い印象を与える態様となっている。

他方,同頁の下から約3分の1のスペースには,上から順に⑤「完全自動生成エンジン提供可能/(フルカラーQRコードが1秒間に70個以上できる生成速度)/<公開エリア・非公開エリア(秘匿情報)フルバリアブル対応>」,⑥「リアルとネットの融合の時代/電子ビジネスの入口/個別のマーケティングデータが取得可能/コスト削減/密かに情報の埋め込みが可能/セキュリティの強いネットビジネス」(ただし,⑥は2項目ずつ横に並んで記載されている。)との記載がある。また,⑤のうち「完全自動生成エンジン提供可能」の文字は,⑤の他の部分の文字及び⑥の文字に比べて大きく,見る者により強い印象を与える態様となっている。

同頁を全体として見た場合,その上部にあるため最も目立つ部分が②「次世代の電子情報化のインフラコード」と④「ロゴキュー/LogoQ®」であり,そのうち,商標として表示されている④「ロゴキュー/LogoQ®」が見る者に最も強い印象を与えている。

以上のとおり,本件パンフレット1頁においては,自動生成エンジンに関する記述がある程度目立つ態様で言及されているが,最も強い印象を与えていると解される「ロゴキュー/LogoQ®」部分との関係は明らかでなく,本件パンフレットにおいて自動生成エンジンはどのような位置づけの下で(どのような趣旨で)言及されたかが明らかでない。

(エ) 本件パンフレット2頁には,①「1次元バーコードから2次元コード,そしてフルカラーQRコードへ進化!!」の記載が最上部にあり,続いて,②「1次元バーコード」に関する説明,③「白黒2次元シンボルコード」に関する説明及び④「ロゴQコード」に関する説明の記載がある。

②~④のそれぞれの間に「進化」の矢印があることや①の内容からして,同頁では,ロゴQコード(フルカラーQRコード)は,1次元バーコードが進化した白黒2次元シンボルコードがさらに進化したものであること,及びその特徴の説明が行われていると理解される。他方で,自動生成エンジンに関する記載は確認できない。

以上から,少なくとも,本件パンフレット2頁からは,同パンフレットが自動生成エンジンの提供のためのものであると解する余地はない。

(オ) 本件パンフレット4頁には,その最上部に「フルカラーQRコード(ロゴQコード)の特徴」との記載があり,続いて約3分の2のスペースを用いて,ロゴQコードについて,図,「特徴その1」~「特徴その4」のタイトルを付されたロゴQコードの特徴に関する記載及び説明文がある。ここで,「特徴その3」の中には「自動生成エンジン『LogoQMaker』により一品一品,一人一人に生成可能です」の記載があるが,使用商標ではなく「LogoQMaker」との標章が自動生成エンジンを指して使用されている。

また,同頁の下から3分の1ほどの場所に,「バリアブル(可変)ロゴQRコード自動生成機能」の記載があるものの,同記載の直下では,「見た目は同じデザインでも一つ一つ異なるコードを格納したロゴQコードシールをはる事で,商品一つ一つをブランド化してデータを分析でき,生きたマーケティングデータが取得可能になります。」との記載があるように,ここでは,ロゴQコードシールを貼ることでマーケティングを行うことができるという,ロゴQコードの活用例が説明されており,自動生成エンジンないし自動生成機能に関する説明はなされていない。さらに,その下にページ全体の約10分の1のスペースで「ロゴQRコードの自動生成機能[ロゴQメーカー]」との記載とともに,自動生成機能の説明がなされている。なお,ここでも,使用商標ではなく「ロゴQメーカー」との標章が自動生成機能とともに使用されている。

以上のとおり,本件パンフレット4頁には,自動生成エンジンに関する記載があるものの,使用商標とは無関係に記載されていることが分かる。また,当該記載は,ロゴQコードの特徴の1つを説明する趣旨で言及されている。そして,同頁において,自動生成エンジンないし自動生成機能に関する説明に割くスペースはロゴQコードのそれに比べてはるかに少なく,ロゴQコードに関する記載が主で,自動生成エンジンないし自動生成機能に関する記載は従たるものと理解することができる。

よって,本件パンフレット4頁の記載からしても,同パンフレットは,自動生成エンジンの提供のためのものというより,むしろロゴQコードの特徴を紹介するためのものであったというべきである。

(カ) 本件パンフレット5頁には,その上半分程度で,「白黒2次元シンボルコードとフルカラーQRコード(ロゴQ)」との記載とともに,各種2次元コードの特徴が表形式で説明されている。同表の下から2段目に「自動生成機能」の項目があり,同項目によれば,ロゴQコードの特徴の1つが,白黒2次元シンボルコードと比べて,完全自動生成エンジンの提供が可能であることにある旨理解することができる。

同頁半ばには,「バリアブル(可変)顔ロゴQコード自動生成機能」の記載があり,顔写真を使ってロゴQコードを作成することができることが説明されている。

同頁下部には,「強固なセキュリティとしてもご利用いただけます」との記載があり,ロゴQコードのセキュリティレベルが高いことが説明されている。

以上のとおり,本件パンフレット5頁では,「ロゴQコード自動生成機能」に関する説明は,相応のスペース(3分の1ほど)を用いて行われているものの,ロゴQコードの白黒2次元シンボルコードと比べた特徴の1つとして,セキュリティレベルの高さなどと並べて説明されているものにすぎない。すなわち,同頁からは,本件パンフレットは,自動生成エンジンの提供のためのものではなく,むしろロゴQコードの特徴を紹介するためのものと理解することができる。

(キ) 本件パンフレット6頁には,「オムニチャネル時代の情報ゲートウェイ」,「印刷メディア」,「高機能携帯(スマホ)メディア」,「店舗メディア」,「地上デジタル&PC」,「物流&バックヤード」,「ロゴQコードは『コストダウン』と『売上アップ』を可能に!!」の各記載が認められるが,これらは,ロゴQコードの活用例を説明するものと理解される。

すなわち,本件パンフレット6頁からは,同パンフレットが自動生成エンジンの提供のためのものであると理解することはできない。

(ク) したがって,本件パンフレットにおける使用商標の表示及び本件パンフレットの頒布をもって,本件パンフレットに表示された使用商標が指定役務との具体的関係において使用されたとは解し得ない。

(3)  本件パンフレットが要証期間内に頒布されていた証明はないこと

ア 本件審決は,被告が本件パンフレットを要証期間に作成,頒布した事実を推認する証拠として,本件パンフレットのほか,制作依頼書(甲22),納品書(甲23),「被請求人『パンフレット』配布状況(担当者別,2015年4月1日~2015年9月30日)」と題する書面(甲27。以下「本件報告書」という。)を挙げる。

しかし,これらの書面は,いずれも,被告又は朝日プロセス社(ないし両社の従業員)が作成した書面である。

朝日プロセス社は,被告のウェブサイトで関連会社と紹介されており,朝日プロセス社のウェブサイトでは,被告を系列会社と紹介し,平成19年に被告を設立した旨の記載があることから,被告と朝日プロセス社との間には資本関係があることが推認される。被告自身も,審判段階において,「印刷についてはグループ企業である朝日プロセス株式会社に依頼している。」と述べている。

また,被告取締役の豊泉博は,被告では会長の立場にあり,朝日プロセス社では代表取締役の地位にある。すなわち,被告と朝日プロセス社との間には,密接な人的関係がある。

以上のとおり,上記各書面は,いずれも,被告又は被告と資本関係の存在が推認され,かつ,密接な人的関係がある朝日プロセス社(ないし両社の従業員)によって作成された書面であって,客観性を著しく欠く証拠にすぎない。

イ 本件パンフレットの作成日について,本件審決は,平成27年6月15日に作成されたと認定する。

しかし,本件商標の移転登録申請受付日は同日であり,明らかに不自然である。

この点につき,被告は,本件パンフレットを同日に早速印刷し,数日で頒布を終えたとしているが,同日は,被告が,前商標権者作成の譲渡証書を添付した商標権移転登録申請書を特許庁に提出した年月日であり,通常,特許庁は,その添付資料である譲渡証及び申請書に不備等がないかを確認した上で移転登録を決定する。すなわち,登録申請が行われた後,実際に移転登録が適法に行われたことを確認できるためには,相応の期間を要するのが通常である。現に,本件商標に関する商標権移転登録申請書の右上には,「室長/本件登録してよいか伺います/主査/平成27年6月23日」の記載があることから,特許庁の内部決済は同月23日ころに行われたことが推認される。したがって,少なくとも,移転登録が適法になされたか否かを確認することができるのは,そのころ以後であったと解される。にもかかわらず,被告は,商標権移転登録申請書を提出したその日のうちに,被告が本件商標の権利者であることを示す本件パンフレットを印刷し,数日のうちに頒布を終えていたというのであるから,被告の主張及び本件パンフレットの作成日の記載は,客観的に見て不自然というべきである。

ウ 制作依頼書(甲22)には,平成27年5月14日付け,同年6月12日付け,同月15日付け,同月18日付け,同月23日付け,同年7月29日付け及び同年8月24日付けの7通が含まれている。

制作依頼書の上記各日付は本件商標の移転登録日(同年6月15日)をまたいでいることから,少なくとも,使用商標に関する記載のあるパンフレットとその記載のないパンフレットの2種類があるはずであるが,各制作依頼書がどちらの種類のパンフレットの制作を依頼したものであるか明らかでなく,また,制作を依頼したパンフレットが本件パンフレットであるか否かも不明である。

エ 納品書(甲23)には,平成27年5月20日付け,同年6月20日付け,同年7月17日付け及び同年9月20日付けの4通が含まれている。

納品書の上記各日付は本件商標の移転登録日をまたいでいることから,少なくとも,使用商標に関する記載のあるパンフレットとその記載のないパンフレットの2種類があるはずであるが,各納品書がどちらの種類のパンフレットを納品したのか明らかではなく,また,納品したパンフレットが本件パンフレットであるか否かも不明である。

オ 本件報告書(甲27)は,平成27年4月1日~同年9月30日の間のパンフレットの配布状況に関するものとされているところ,その配布期間は本件商標の移転登録日をまたいでいることから,少なくとも,使用商標に関する記載のあるパンフレットとその記載のないパンフレットの2種類の配布が行われているはずであるが,配布されたパンフレットがどちらの種類か明らかではなく,配布したパンフレットが本件パンフレットであるか否かも不明である。

カ 以上によれば,被告が,本件パンフレットを要証期間内に作成し,頒布したものと推認することは到底できないのであって,本件審決の判断は誤りである。

2  被告の主張

(1)  原告は,本件パンフレットに関し,使用商標が表示された各頁(3頁,7頁及び8頁)の記載からは使用商標が自動生成エンジンの提供との具体的関係において使用されたものとはいえないこと,本件パンフレット全体の記載からも同様であること(本件パンフレットは自動生成エンジンの提供に関するものではないこと),要証期間内に作成及び頒布されたとはいえないことを主張するが,いずれも誤りである。

本件パンフレットは,本件商標の指定役務中「電子計算機用プログラムの提供」に含まれる役務「自動生成エンジンの提供」を内容とするものであり,かつ,要証期間内に作成及び頒布されたものであるから,被告が本件パンフレットに使用商標を表示して頒布する行為は「役務に関する広告に標章を付して頒布する行為」(法2条3項8号)に該当する。

また,被告は,実際に自動生成エンジンの提供サービスを行っており,要証期間内にそのサービスのログイン画面に通ずるウェブサイトやプログラム操作画面にも使用商標を表示してきた。これは,使用商標を画面に表示して自動生成エンジンの提供を行う行為であるから,「電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為」(法2条3項7号)に該当する。

(2)  原告が根拠とする判決等は,商品・役務との関連性を認めることが到底不可能な場合や商品等とのほんのわずかな関連性すら想起できない場合をもって,商品等との具体的関連性を認めることができない旨を判示した事案であり,むしろ,商品等に直接商標を表示している必要がないのはもちろん,商品等の内容をある程度認識し得る内容の取引書類等に商標を表示さえしていれば,商品等との具体的関係があると認められるべきと判示していると考えられるものである。

そうすると,原告の主張は上記判決等が示した「具体的関係」の考え方とは完全に異なる判断方法を主張するものであり,無意味である。

(3)  本件パンフレットは,被告が提供するサービスを網羅的かつ具体的に紹介する総合パンフレットであり,被告が誇る特許技術や従来技術に対する優位性が具体的に記載されているところ,2次元コードの自動生成エンジンの提供サービスはそのうちの1つである。被告が誇るオリジナル2次元コードは,この自動生成エンジンを使用して自動的に大量かつ無制限に生成することでその真価を発揮するものであるから,自動生成エンジンの提供サービスの質が極めて重要であり,他者に対する優位性に繋がる。このため,本件パンフレットは,被告にとって極めて重要な事業であるオリジナル2次元コード自動生成エンジンの提供サービスの技術的・質的優位性を繰り返しアピールする内容となっている。

また,本件パンフレットのみでなく被告の会社情報に関するウェブサイトの事業内容欄に「ロゴQメーカー(ロゴQ自動生成エンジン)の提供」と明確に記載されているとともに,被告は,実際に自動生成エンジンの提供サービスを行っており,そのサービスのログイン画面に通ずるウェブサイトやプログラム操作画面に使用商標を表示している。

したがって,本件パンフレットは,その記載全体を総合すると,明らかに「自動生成エンジンの提供」を宣伝広告するものであるから,使用商標は自動生成エンジンの提供との関係で具体的に使用されているものである。すなわち,被告が本件パンフレットに使用商標を表示して頒布する行為は,「役務に関する広告に標章を付して頒布する行為」(法2条3項8号)に該当する。また,上記のとおり,被告は,実際に行っている自動生成エンジンの提供サービスのログイン画面に通ずるウェブサイトやプログラム操作画面に使用商標を表示しており,この行為は,使用商標を画面に表示して自動生成エンジンの提供サービスを行う行為であるから,「電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為」(法2条3項7号)に該当する。

(4)  被告は,朝日プロセス社と系列会社であり,原告指摘に係る人的関係もあることから,人的にも資本的にも密接な関係にあることは間違いないが,それをもって証拠の客観性や信憑性に疑念を持たれるような行為は一切ない。

また,原告は,本件商標の移転登録申請受付日と本件パンフレットの作成日が同日であることは不自然と指摘するが,被告は,本件商標の譲渡交渉の段階からパンフレットに本件商標を表示させる変更を予め行っておき,移転登録申請手続日と同日に早速変更を反映したパンフレットを印刷し,数日で頒布を終え,追加の印刷依頼を行ったものであり,このような経過に不自然な点はない。

(5)  本件において,審判請求人である原告は,被請求人が立証責任を負担することを殊更に悪用して,商標権者である被告の使用事実をろくに調査もせず,また,審判の迅速な処理が妨げられることも顧みずに,被告に法の予定をはるかに超える過大な立証責任を一方的に負担させ,更には過大な手続的及び経済的負担を課すために,本来,一体とする1つの請求とすべき不使用取消審判請求を,特段の事情がないにもかかわらず敢えて9件もの請求に分け(本件審判請求はその1つ),しかもほぼ同時に(特にうち8件については同時に)行うという行為に及んだものである。このような原告による本件審判請求は,法50条1項・2項及び56条の規定・趣旨並びにこれらから導かれる法の審判請求人への要求,更には商標に化体した業務上の信用を保護するという法の目的(法1条)を阻害し,商標制度そのものの根幹を揺るがしかねないものであるから,審判請求権の濫用(民法1条3項,民訴法2条)として不適法とすべきである。

また,本件審判請求は専ら被告を害することを目的とするものであるから,権利濫用(民法1条3項,民訴法2条)として棄却されるべきである。

第4当裁判所の判断

1  証拠(各項に掲げたもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  被告は,文字又は図形を含む2次元コードであるフルカラーQRコード「ロゴQコード」等の企画・製作・販売,ロゴQメーカー(QRコード及びロゴQコード自動生成エンジン)の提供等をその事業内容とする株式会社である。なお,朝日プロセス社は被告の関連会社であり,朝日プロセス社の代表取締役は被告取締役を兼務している。(甲15,16,18,19,25,40~43)

(2)  本件パンフレットには,以下の記載等がある。(甲19)

ア 1頁目

(ア) 上部から順に,「A・T COMMUNICATIONS®」,「次世代の電子情報化のインフラコード/オムニコード®商品名:『ロゴQ(コード)』がこれからのグローバル社会へと導きます」なる記載の下部に,「LogoQ」なるアルファベット部分と同アルファベット部分の小文字部分「ogo」の上部に上端が「L」及び「Q」と揃うように横書きに配置された「ロゴキュー」なる片仮名部分により構成される標章(以下「ロゴQ標章」という。)に記号「®」を付した表示がある。

このうち,「次世代の…インフラコード」の記載とロゴQ標章は,他の記載に比して大きく表示されている。

(イ) 上記(ア)の記載等の下部に,複数の2次元コードに周囲を囲まれるとともに,それ自体2次元コードを表示したスマートフォン画面のイラストを挟んで,濃い背景色の帯部分に白抜きで「完全自動生成エンジン提供可能/(フルカラーQRコードが1秒間に70個以上できる生成速度)/<公開エリア・非公開エリア(秘匿情報)フルバリアブル対応>」との記載がある。更にその下部には,「リアルとネットの融合の時代/電子ビジネスの入口/個別のマーケティングデータが取得可能/コスト削減/密かに情報の埋め込みが可能/セキュリティの強いネットビジネス」(ただし,これらは2項目ずつ横に並んで記載されている。)との記載がある。

このうち,「完全自動生成エンジン提供可能」の文字は,他の部分の記載に比して大きく表示されている。

イ 2頁目

最上段に,濃い背景色の帯部分に白抜きで「1次元バーコードから2次元コード,そしてフルカラーQRコードへ進化!!」の記載を配置し,同帯部分からページ全体の外枠を画するように伸びた線に四囲を囲まれた内側に,それぞれ枠囲みされた枠内に「1次元バーコード」に関する説明,「白黒2次元シンボルコード」に関する説明及び「ロゴQコード」に関する説明の記載がある。これらの枠囲みの間には「進化」の白抜き文字が記載された下向き矢印が配置され,「1次元バーコード」が「白黒2次元シンボルコード」を経て「ロゴQコード」へと進化したことをうかがわせる体裁となっている。

なお,同頁に,QRコード自動生成エンジンに言及する具体的な記載は見当たらない。

ウ 3頁目

最上段に,濃い背景色の帯部分に白抜きでロゴQ標章及び「シリーズ」の記載を配置し,同帯部分からページ全体の外枠を画するように伸びた線に四囲を囲まれた内側に,ロゴQ標章を含む各種の標章及び各標章が示す2次元コードないしそれを利用したサービスに関する説明を記載している。その1つとして,「⑥ 文字」の記載の右側に使用商標を配置し,使用商標の右側に記号「®」及び「■文字キューアールコード」なる記載を配置し,その下部に「文字とQRコードを掛け合わせ,更に色を加味した,誰が見てもサイトの内容がわかりやすいコードが『文字QRコード』です。」との記載がある。

なお,同頁に,QRコード自動生成エンジンに言及する具体的な記載は見当たらない。

エ 4頁目

(ア) 最上段に,濃い背景色の帯部分に白抜きで「フルカラーQRコード(ロゴQコード)の特徴」の記載を配置し,同帯部分から同頁の上部約3分の2のスペースを線で囲み,その内側に,ロゴQコードについての図並びに「特徴その1」~「特徴その4」のタイトルを付したロゴQコードの特徴に関する記載及び説明文がある。このうち,「特徴その3」として「自動生成エンジン『LogoQMaker』により一品一品,一人一人に生成可能です」などの記載がある。

(イ) 同頁の下部から3分の1ほど上部の位置に,濃い背景色の帯部分に白抜きで「バリアブル(可変)ロゴQRコード自動生成機能」の記載が配置され,同帯部分から同頁下部のスペースを線で囲み,その内側のうち同帯部分の直下には「見た目は同じデザインでも一つ一つ異なるコードを格納したロゴQコードシールをはる事で,商品一つ一つをブランド化してデータを分析でき,生きたマーケティングデータが取得可能になります。」との記載及び図がある。さらにその下部には,「ロゴQRコードの自動生成機能[ロゴQメーカー]」との記載が,その下部左側には「1秒間に70個以上を自動生成/見た目は同じデザインでも情報の異なるコードをいくつでも無制限に自動生成することが可能です。」との記載が,右側にはロゴQRコードのイメージと見られる図が配置されている。

ここでは,ロゴQRコードの有用性及び活用例を説明及び紹介するとともに,ロゴQRコードの自動生成機能について説明をする体裁となっている。

オ 5頁目

(ア) 最上段に,濃い背景色の帯部分に白抜きで「白黒2次元シンボルコードとフルカラーQRコード(ロゴQ)」の記載を配置し,これを表題とする表形式により,「白黒2次元シンボルコード」及び4種の「フルカラーロゴQ」の特徴等が説明されている。同表中の「自動生成機能」の項目においては,白黒2次元シンボルコードが「マンパワー対応」とされることと対比する形で,4種のロゴQコードの特徴として「完全自動生成エンジン提供可能(1秒間70個以上の生成速度)/<公開エリア・非公開エリア(秘匿情報)フルバリアブル対応>」と記載されている。

(イ) 上記(ア)の表の下(同頁の中段付近)に,濃い背景色の帯部分に白抜きで「バリアブル(可変)顔ロゴQコード自動生成機能」の記載を配置し,同帯部分から下方に同頁全体の約3分の1を占めるスペースを線で囲んだ内側に,ロゴQコード自動生成エンジンを利用することで顔写真を使用したロゴQコードを「リアルタイムで無制限に自動生成」し得ることが,イメージ図とともに説明されている。

(ウ) 上記(イ)の記載等の下に,濃い背景色の帯部分に白抜きで「強固なセキュリティとしてもご利用いただけます」の記載があり,ロゴQコードのセキュリティレベルが高いことが説明されている。

カ 6頁目

最上段から,濃い背景色の帯部分に白抜きで,それぞれ「オムニチャネル時代の情報ゲートウェイ」,「印刷メディア」,「高機能携帯(スマホ)メディア」,「店舗メディア」,「地上デジタル&PC」,「物流&バックヤード」,「ロゴQコードは『コストダウン』と『売上アップ』を可能に!!」と記載し,各帯部分からの線に囲まれた内側において,それぞれ,ロゴQコードの活用イメージないし活用例が説明されている。

なお,同頁に,QRコード自動生成エンジンに言及する具体的な記載は見当たらない。

キ 7頁目

(ア) 最上段に,濃い背景色の帯部分に白抜きで「A・Tコミュニケーションズが目標とするビジネス構想」の記載を配置し,同帯部分からページ全体の外枠を画するように伸びた罫線に囲まれた内側に,上部から順に,「膨大かつ多様なビックデータ時代の革命ツール」,「A・Tコミュニケーションズが提供するセキュリティを兼ね備えたフルカラーQRコード『ロゴQコード』は,ビッグデータの収集を促進すると共にオムニチャネルの新時代の革命ツールであると確信しております。」なる説明文の記載を配置し,その下部に概念図を配置している。同概念図は,左側半分の上部に,記号「®」を右側に付した使用商標及び「ロゴQコード®/(オムニチャネルを連携)」なる表示を配置し,その下部に「店舗」,「通販」,「PC」等データ収集の窓口となる場所ないし端末を通じてデータ収集がされ,収集されたデータがビッグデータを形成するイメージが示され,右側半分において,そのようにして形成されたビッグデータの蓄積・抽出・分析のサイクルを最終的にビジネスへ反映するイメージを示す構成となっている。

(イ) 上記(ア)の概念図の下に,「事業内容」として,「●フルカラーQRコード及びロゴQシリーズの企画・製作・販売」,「●ロゴQメーカー(QRコード及びロゴQコード自動生成エンジン)の提供」を含む合計13事業が記載されている。

(ウ) 上記(イ)の下部に,「主な取引先」として15の会社等の名称が記載されている。

ク 8頁目

(ア) 最上段に「A・Tコミュニケーションズの創立」の項目の下に会社の沿革が記載されているが,その中の「2015年6月」なる記載の右側に,記号「®」を付して使用商標を配置し,その右側に「左記QRコードの商標を取得しました。」なる記載がある。

(イ) 中段付近に「会社概要」の項目が設けられ,被告の社名,所在地等が紹介されている。

(ウ) 下段に,「お問い合わせ」先として被告の名称等が記載されると共に,最下段右端に「20150615」の記載がある。

(エ) なお,同頁に,QRコード自動生成エンジンに言及する具体的な記載は見当たらない。

(3)  本件ウェブページ1及び2には,それぞれ,以下の記載がある。(甲16,18,25)

ア 本件ウェブページ1

(ア) 「オリジナルロゴ・イラスト入りQRコード作成サービス」

(イ) 「LogoQCode Marketing SoftB」(ただし,「LogoQCode」部分は他より大きく,「Marketing」は「SoftB」よりやや大きなフォントサイズで,それぞれ表示されている。)

(ウ) 「お待たせしました!/欲しいものはココにある!/SoftBank C&S からデビュー!/オリジナルデザイン▲Q▼Rコード/QRコード®/作成サービス」(「▲Q▼Rコード」は使用商標の上段部分を意味する。以下同じ。また,「オリジナルデザイン▲Q▼Rコード/QRコード®」なる記載は「/」部分での改行はなく一連である。)なる記載。また,この表示の右側及び左側には,各1つずつ,2次元コードとイラスト又は文字を重ね合わせたイメージ図が配置されている。

(エ) 「2015年05月27日 ロゴ・イラスト入りQRコード『ロゴQ』を作成できるクラウド型サービスをソフトバンク コマース&サービスの『Marketing Bank』から提供開始!!/お好きなロゴやイラストでQRコードが作成できる『ロゴQコードマーケティング』サービスの提供を開始いたしました。/ロゴQマーケティングで作成したロゴQは,アクセス数の集計をしますので,媒体効果測定などのマーケティング施策にご利用いただくことができます。/さらに,大量生成にも対応しております。」

(オ) 「ご利用について/●はじめてご利用される方は,Marketing Bank の本サービスページにある【お見積り・お問い合わせ】からお申し込みください」

(カ) 「ロゴQはユニバーサルデザインの▲Q▼Rコード/QRコードです。」

(キ) 「■誰にでも分かるコードを作れます」との表示の下部に,「ロゴ(デザイン)」(及びこれを想起させるイラスト)とQRコード(及び2次元コードのイラスト)とを足すとロゴQコード(及び上記各イラストを重ね合わせたイメージと見られるイラスト)となることを等式で表現した図(なお,QRコードを示す部分には使用商標が,ロゴQコードを示す部分にはロゴQ標章が,それぞれ用いられている。)

(ク) 「価格とご利用条件」との表示の下には,「プラン名」「基本プラン」,「初期費用」「100,000 円」,「月額費用」「100,000 円」,「ご利用条件」「生成数は無制限です/生成したロゴQをアクティブ化することでご利用いただくことができます」などの記載を表形式により配置し,提供プランとその価格及び利用条件を説明する記載がある。また,その下部には「※上記プランには『アクセス数集計機能』『大量生成(バリアブル)機能』が含まれております」との記載がある。

(ケ) 本件ウェブページ1の下端には,そのデータの保管場所を示す「 file:///C:/Users/Kazuma/AppData/Local/Temp/Low/9QGH4L1C.htm 」の記載及び当該ページの印刷日付と見られる「2015/06/24」の記載がある。

イ 本件ウェブページ2

本件ウェブページ2は,本件ウェブページ1の「LogoQCode MarketingSoftB」が「LogoQCode Marketing SoftBank C&S Edition」となっている点,「価格とご利用条件」との表示はあるものの,その下の表形式以下の表示(上記ア(ク))が存在しない点,及び下端の表示が,その URL と見られる「https://logoqcodemarketing.jp」の記載及び当該ページの印刷日付と見られる「2015/06/24」の記載である点で異なるほかは,本件ウェブページ1と同一内容が記載等されている。

なお,「ロゴQコードマーケティング/ロゴQ作成(設定ページ)」と題するウェブサイト(甲18)は,その記載内容及び URL と見られる記載(http://logoqcodemarketing.jp/biz/products/detail.php?product_id=26)に鑑みると,本件ウェブページ2を通じてログインした際に,ロゴQ作成に当たりロゴQコードマーケティングの利用登録者に表示される画面の例と見られる。

ウ 被告及び朝日プロセス社は,被告のパンフレットの印刷につき,以下の表のとおりの取引を行った。

また,被告は,本件報告書において,被告のパンフレットを配布した日時,場所,配布数,頒布先,打合せ主旨及び先方担当者を示しているところ,これによれば,平成27年6月15日以降,例えば同日に2社に対して「セキュリティロゴQ提案」ないし「ロゴQ提案」のため各1部,同月17日に2社に対して同様の主旨により各1部,同年7月1日開催の展示会において展示ブースの来場者に対し「ロゴQ提案」のため6部を頒布したことが認められる。

file_2.jpgGEORE | WAIOLAROMAl [2o1s/s7ia]tsapf Ea(以上につき,甲22,23,27,乙1の1及び2)

2  前提事実(前記第2)及び上記1の各認定事実によれば,以下のとおり認定・判断することができる。

(1)  被告は,本件商標の商標権者であるところ,本件パンフレットにおいて,使用商標を使用している。

(2)  本件商標と使用商標とは,その構成及び態様をほぼ同じくするものであり,両者は社会通念上同一の商標ということができる。

(3)  本件パンフレットは,本件商標の商標権の移転登録手続受付の日と同日である平成27年6月15日に作成され,同日以降かつ要証期間(平成24年8月24日~平成27年8月23日)内に頒布された。

(4)  本件パンフレットは,被告の会社の沿革,概要及び主要取引先等を紹介する部分もあるものの,全8頁中の主に1頁目から7頁目までの記載等を総合的に見ると,被告が企画・制作・販売するフルカラーQRコード「ロゴQコード」及びロゴQシリーズの内容(機能,活用例等)を紹介及び説明し,その技術的及び質的先進性及び優位性を訴求するとともに,被告がQRコード及びロゴQコード自動生成エンジン「ロゴQメーカー」を提供する事業を行っていることをも併せて訴求することを主たる目的として作成されたものと理解するのが相当である。また,このような本件パンフレット中において,使用商標は,ロゴQシリーズに属するコードの1種であり,文字と2次元コードを掛け合わせ色を加味した2次元コードである「文字QRコード」を紹介するに当たり使用されているものと把握される。

(5)  被告は,少なくとも平成27年6月24日時点において,インターネット(URL「http://logoqcodemarketing.jp/」)で「ロゴQコードマーケティング」と称するサービスを提供していた。なお,本件ウェブページ2は,価格及び利用条件に関する具体的記載がない点で本件ウェブページ1と相違するが,他の記載内容に鑑みると,両者は同一の内容を表示するものと見てよい。

そうすると,被告は,少なくとも要証期間内である平成27年6月24日時点において,「ロゴQコードマーケティング」の名称により,本件ウェブサイト2を通じて,QRコード及びロゴQコード自動生成エンジン「ロゴQメーカー」を提供する事業を遂行していたものということができる。すなわち,被告は,上記時点において,「インターネットを使用し,文字と2次元コードを掛け合わせ色を加味した2次元コードを作成するためのコンピュータプログラムの提供」の役務を行っていたことが認められる。そして,当該役務は,本件審判請求に係る役務中,「電子計算機用プログラムの提供」の範ちゅうに属するものということができる。

3  そうすると,原告は,本件審判請求に係る指定役務中の「電子計算機用プログラムの提供」の範ちゅうに属する役務「インターネットを使用し,文字と2次元コードを掛け合わせ色を加味した2次元コードを作成するためのコンピュータプログラムの提供」をも内容とする本件パンフレットに本件商標と社会通念上同一の商標である使用商標を表示し,要証期間内にこれを頒布したものということができる。このような使用行為は,「役務に関する広告に標章を付して頒布する行為」(法2条3項8号)に該当するものといってよく,商標権者である被告による本件審判請求に係る「指定役務…についての登録商標の使用」(50条2項)に当たる。

したがって,被告は,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,その請求に係る指定役務につき,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用したことを証明したものということができるから,本件商標の登録は,その請求に係る指定役務について,法50条により取り消すことはできない。これと同旨を述べる本件審決の認定・判断に誤りはなく,原告主張に係る取消事由を認めることはできない。

4(1)  これに対し,原告は,本件パンフレットにつき,自動生成エンジンの提供のためのものであることは理解できず,ロゴQ(コード)と称する2次元コードの特徴等を紹介するものと理解されるから,使用商標は自動生成エンジンの提供との関係で具体的に使用されたものとは解し得ず,このような本件パンフレットにおける使用商標の表示及び本件パンフレットの配布をもって,指定役務についての登録商標の使用ということはできない旨や,証拠として提出された書面によっては本件パンフレットが要証期間内に作成,頒布された事実を認めることはできない旨などを指摘する。

(2)  このうち,本件パンフレットの内容については,商品としてのロゴQコードの内容に関する説明にやや比重が置かれているということはできるものの,その1頁目において「完全自動生成エンジン提供可能」という記載を強調する構成となっていることも,そのフォントサイズや濃い背景色の帯部分に白抜き文字の使用といった点から明らかといってよい。また,商品としてのロゴQコードの優位性等を強調することも,ひいてはそれを効率よく大量に生成し得る完全自動生成エンジンの優位性等を示すことにつながるという関係にあるものと理解される。そうすると,上記認定のとおり,本件パンフレットは,他のページの記載内容と併せ,ロゴQコード自動生成エンジン「ロゴQメーカー」の提供についても訴求するものと見るのが適当である。そして,本件パンフレットを全体としてみれば,「QRコード」ないし「ロゴQコード」と「完全自動生成エンジン」とを一体として宣伝広告しているものと理解することができるから,使用商標も,この両者に関する広告に付されたものということができる。

(3)  本件パンフレットの要証期間内における作成,頒布については,まず,朝日プロセス社が被告の関連会社であり,資本関係及び人的なつながりがあることは認められるものの,その一事をもって直ちに,制作依頼書,納品書及び本件報告書の信用性が欠けるとまでいうことはできない。むしろ,これらの書面は,いずれもそれぞれ比較的詳細な内容が記載されている上,相互に矛盾等もない。また,前記認定のとおり,現に,その当時本件パンフレット記載の上記サービスを被告が提供していたこととも合致する。そうすると,これらの書証には相応の信用性を認めてよいと思われる(なお,発注数と納品数に一部食違いが認められるけれども,口頭での追加発注等もあり得ることを考えると,その信用性を損なうほどの食違いとまでいうことはできないと思われる。)。上記各書証記載の期間が本件商標権の移転登録の時期をまたいでいることを考慮しても,少なくとも本件商標権の移転登録受付ないし登録後は本件パンフレットと同一内容のものが発注,納品及び頒布されたことを合理的に推認し得ることから,この点は異ならない。

また,原告は,本件パンフレットの作成日と本件商標権の移転登録手続受付の日とが同日であることをもって不自然である旨指摘するけれども,商標権として権利化されるか否かの段階と異なり,既に権利化された商標権につき移転登録申請書が受け付けられたことで,その受付の日付で移転登録がされることを見越して事業遂行上使用する文書を作成,頒布したとしても,あながち不自然とまでは思われない。

(4)  その他原告がるる主張する点を考慮に入れても,原告の主張は採用し得ない。

5  結論

よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部

(裁判長裁判官 鶴岡稔彦 裁判官 杉浦正樹 裁判官 寺田利彦)

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