大判例

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神戸地方裁判所 事件番号不詳〔1〕 判決

主文

被告人門田義一を罰金拾五万円に

被告人中根鶴京を罰金拾万円に

被告人青木清一を罰金八万円に処する。

右各罰金を完納することができないときは各金五百円を壱日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中証人原田治吉及び布野孝に支給した分は被告人等の連帯負担とし、証人鈴木武雄に支給した分はこれを三分しその一宛を各被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人門田義一は土木建築請負を営業の目的とする株式会社門田組の取締役社長であつて同会社の業務一切を統轄処理している者、被告人中根鶴京は若い頃から土木建築請負業に従事し昭和二十三年二月同業を目的とする富士土建株式会社を創立して経営するに至つたがその前年神戸市会議員に当選したことから会社においては名義上相談役となり実質的には同会社の経営一切の実権を掌握しその業務一切を統轄処理している者、又被告人青木清一は肩書地で土木建築請負業を営んでいる者であるが被告人等は神戸市施行の工事の競争入札が行はれるに際し次の通りその入札の妨害及び談合行為をしたものである。

第一、被告人門田は昭和二十四年四月十五日神戸市施行の同市兵庫区役所新築工事の指名競争入札が行はれた際、被告人の会社も同工事の競争入札人に指名されたが後記第三の(二)記載の如く同工事を談合によつて自分が落札しようと考えて右入札日までに原田建設株式会社を除く他の指名入札人との間で談合を遂げ同工事は被告人の会社において、必ず落札できるものと期待して右入札当日入札の為、同市役所に赴いたところ右原田建設株式会社の代表者原田治吉が一人他の入札者に先んじて同市役所文書課係員に入札書を提出して早々に退出したことを知り、当日他の工事の入札の為市役所に来合せて居り、被告人が落札の際は他の入札者に分配すべき談合金を借受けることの了解を得ていた被告人青木及び当日市会に出席の為同市役所に来合せていた被告人中根にもその事情を告げると共に右両名から原田の入札書を見ないと門田組の落札も不安である旨を指摘されたので被告人門田は自分の落札の確実を期する為に原田にその入札書を取返させてその内容を確めようと考え、直ちに同日原田に同行して来ていた平井太蔵と共に既に帰路についていた原田を探し当てて市役所文書課に呼戻し、右被告人中根、青木他数名のいる中で同人等と共に執拗に原田に入札書の取戻しを要求し、同人をして已むなくこれを承諾させた上、市会議員である被告人中根において既に文書課で受附済の原田名義の入札書の入つた封筒を係員から返還を受けてこれを開封したところ、原田には前記平井を通じて自分の入札額を告げて工事を譲るよう依頼し平井よりこれに応ずるが如き返事を得ていたのにその入札金額が談合によつて被告人門田の入札予定価格よりはるかに低額である「五百四十八万円」となつているのを知り、事の意外に驚くと共に、談合には右の如く応ずるが如き態度を示しながら、ひそかに自分が最低額入札者として同工事の落札者とならうとする原田の行為に立腹し、同人に右金額を書直させて所期の目的を達しようと考え、被告人等三名はそこに居合せた数名の者と意思相通じて共に原田に対し口々に「五を六に書直せ」等と云つてその訂正を強く要求し、同人をして若し右要求に応じないときは将来営業上どのような不利益を受けるかも知れないとの不安を抱かせ「もう棄権する、後は平井に委す」と云つて同課より退出するに已むなきに至らしめ、次で後に残つた右平井に対しても、前と同じようなことを云つて金額の訂正を迫り、同人に五百四拾八万円の「五」の字を「六」に書直させて六百四十八万円とし訂正印のない侭改めて入札させ、その結果後記認定の如く右工事を門田組に落札させ、以て威力を用い公の入札の公正を害すべき行為をした。

第二、被告人中根鶴京は

(一)  昭和二十三年三月二十三日附にて同年四月十三日神戸市施行の第三希望の家改造工事の競争入札が行はれるに際し、同工事の競争入札人に指名された被告人の実兄中根新次郎が社長である株式会社中根組に代りその名義で同工事を談合によつて被告人において落札しようと考え、右指定後、右入札日までの間において神戸市兵庫区福原町所在神戸建設工業クラブで同所に集つていた右工事の指名競争入札人山田虎太郎の息子山田虎雄外四名に対し「右工事を譲つて貰い度い」旨依頼してその承諾を得、指名入札者のうち山田虎太郎、株式会社溝口組、山口栄次郎、株式会社吉田組の四名よりは何れもその記名捺印はあるが請負金額は被告人において適宜記入させる趣旨で空白の侭にした各入札人の入札書の交付を受け、田中建設工業株式会社に対しては被告人より高額の入札金額を告げてその金額で入札するよう依頼し、よつて右工事の指名入札者五名と談合を遂げた上、山田虎太郎等より受取つた入札書には何れも被告人の入札金額よりも高額の請負金額を記入して入札し被告人自らは若し談合しないで自由競争によれば三十二、三万円位で入札できるべきことを認識しながら、右の如き談合により他の入札者に交付すべき談合金を含めた三十七万円で入札し、同日開札の結果は同市予定価格を超過した為、再入札となつたが再入札も亦予定価格超過となり結局最低額に再入札した前記会社と市との随意契約により右工事を請負い所期の目的を遂げた上、同日前記クラブで右談合の謝礼金として前記溝口組を除く他の四名の指名入札者に対しそれぞれ五千円宛を交付し、以て前記入札に関し公正なる価格を害する目的で談合した。

(二)  昭和二十四年六月九日神戸市施行の飛松中学校新築工事の競争入札が行われるに際し前記の如く被告人が実権を掌握する富士土建株式会社も同工事の競争入札人に指名せられたが被告人は当時同会社には大した工事もなかつたので是非右工事を談合によつて落札したいと考え入札日の数日前より神戸市役所内の神戸市建設工業組合事務員西尾浅吉及び実弟の右会社社長中根正秋等に命じて同工事の指名入札人のうちいづれも神戸市内に営業所或は出張所を有する同業者の大成建設株式会社(代表者阿部武二)白石基礎工事株式会社(代表者岸恒治)株式会社大本組(代表者坂田悦司)株式会社間組(代表者梶田栄一)の四名をその営業所等に訪ねさせ前記工事を譲つて貰い度い旨依頼し何れもその承諾を得た外、自らも又同工事の指名入札人の一人である藤本吟左衛門に神戸市役所で会つた際前同様の依頼をしてその承諾を得た上、前記五名の指名入札人よりは前記西尾等を介してそれぞれ入札金額欄は被告人において適宜記入できるようにこれを空白とした各入札人の記名捺印のある入札書の交付を受け、その入札書には適宜被告人において自分より高額な請負金額を記入し、被告人自らは若し右のような談合をしないで自由競争によるときは少くとも談合者に交付すべき談合金を含めない額で入札できるべきことを認識しながらこれを含めた請負金額六百六十八万五千円で入札し、同日開札の結果、市予定価格超過により再入札となり、再入札も亦予定価格超過となり結局再入札において最低額入札者であつた被告人の会社と市との間で随意契約によつて右工事を請負い所期の目的を遂げた上、その頃談合に応じた前記大成建設株式会社外三名に対してその謝礼の趣旨でそれぞれ一万円宛計四万円を交付し、以て公の入札に関し公正な価格を害する目的で談合した。

第三、被告人門田は

(一)  同年二月十八日神戸市施行の舞子防砂堤復旧工事の指名競争入札が行われるに際し被告人の会社も亦同工事の競争入札人に指名されたが同工事を談合により被告人会社において落札しようと企て、同月十四日頃から十七日頃にかけて同じく同工事の競争入札人に指名されていた神戸市内にその営業所を有する同業者合資会社北浦組(代表者北浦惣太郎)永吉建設工業株式会社(代表者本山博紹)開出建設株式会社(代表者有馬賢雄)及び大阪市内にその営業所を有する佐伯建設工業株式会社(代表者佐伯豊)に対し或はその営業所を訪ね、或は電話で以て右工事を是非譲つて貰い度い旨懇請して何れもその承諾を得、又競争入札人に指名されていた大日本土木株式会社(代表者菅原徹郎)には知合の同業者平尾次郎を介して前同様の依頼をしてその承諾を得、前記北浦組よりは入札金額欄は被告人において適宜記入できるようにこれを空白にした記名捺印ある入札書の交付を受け、その他の永吉建設工業株式会社外三名に対しては被告人の入札予定金額を告げてそれより高額に入札させ、北浦組の入札書には自ら自分の入札金額より高額の請負金額を記入し、自らは右の如く談合によらないで自由競争によつたとすれば少くとも右談合者に交付すべき談合金を含めない金額で入札できるべきことを認識しながら右談合金を含めた請負金額三百十二万円にて郵送入札し前記入札日開札の結果、市の予定価格超過となり、即時再入札となつたがこれも予定価格超過となつた為結局再入札において最低額入札者であつた被告人の会社と市との随意契約によつて右工事を請負い所期の目的を遂げた上、同日前記入札人を同市兵庫区下沢通一丁目のうなぎ屋山武に招待し同所で永吉建設工業株式会社、大日本土木株式会社及び佐伯建設工業株式会社に対しては右談合の謝礼の趣旨で現金一万五千円宛を交付し開出建設株式会社に対しては同月二十四、五日頃同様の趣旨で一万五千円の小切手を交付し以て公の入札に関し公正なる価格を害する目的で談合した。

(二)  同年四月十五日前記の如く神戸市施行の同市兵庫区役所新築工事の指名競争入札が行はれるに際し被告人の会社もその競争入札人に指名されたが、同工事は被告人の会社として従来の工事に比し最も規模の大きいものであり且又地元の工事でもあるので自分が此の工事を完成することは土建業者として名誉であるとして是非此の工事を落札したいと考え、その為談合によつて落札しようと企て同月初め頃市役所より入札指名通知を受けてから右入札日までの間に前記神戸建設工業組合事務員西尾浅吉のあつ旋により同工事の競争入札人に指名されていた同業者香川建設工業株式会社(代表者香川太市)、株式会社建協工務店(代表者辰己岩蔵)等入札関係者十数名を前記神戸建設工業クラブに参集を求め右工事を是非譲つて貰い度い旨懇請し即日右香川建設及び建協工務店の承諾を得又一方同じく競争入札人に指名されていた浅間建設株式会社(代表者鳥居一彦)、平錦組(代表者安元虎治)、株式会社松浦工務店(代表者松浦勇太郎)、株式会社大本組(代表者坂田悦司)、株式会社間組(代表者梶田栄一)長栄工業合資会社(代表者木下光雄)、株式会社山口組(代表者坂出敬信)及び株式会社五島組(代表者大野福美)の八名に対しては被告人自ら又は前記西尾浅吉等を介して神戸市内にある右各入札人の営業所等を訪ね或は電話で以て前同様工事を譲つて貰い度い旨懇請し、その結果入札当日までに五島組、長栄工業、平錦組、及び松浦工務店を除くその余の四名からは被告人の会社に工事を譲ることについてその承諾を得、そのうち大本組、間組、山口組の三名より何れもその記名捺印はあるが入札金額欄は空白の侭の入札書の交付を受け、同日までにその確答を得られなかつた前記五島組に対しては入札直前同市役所において再び「他の入札人との間で話が決つたから自分の入札額より高く入札してくれ」との旨依頼し又長栄工業合資会社にも「皆に譲つて貰つたから是非譲つて貰い度い」旨依頼して漸く右両名の承諾を得、更にそうした状勢を見た平錦組からも結局被告人会社に工事を譲ることの承諾を得、茲に前記工事の指名競争入札人のうち、松浦工務店、株式会社大林組及び前記第一記載の原田建設株式会社を除く他の入札人との間に談合を遂げたのでさきに入札書の交付を受けた大本組、間組、山口組及び右長栄工業以外の競争入札人に対しては自分の入札予定金額を告げてそれより高額に入札させ、又右長栄工業からは同会社の入札金額を告げられそれが被告人の入札予定金額より高額であることを了承し、大本組外二名の前記入札書にはそれぞれ自分の入札予定金額より高額の請負金額を適宜記入し、被告人自らは右の如く談合によらず採算を無視しない限度で自由競争によつたとすれば五百三、四十万円で入札できるであろうことを認識しながらこれよりはるかに高額な請負金額六百十七万四千円で入札し、同日開札の結果は被告人会社に落札し、同日右談合の謝礼金として大本組に対しては二万五千円、香川建設を除く他の七名に対しては二万三千円宛をそれぞれ交付し、以て公の入札に関し公正な価格を害する目的で談合した。

(三)  同年五月二十一日同市施行の狩口住宅排水溝設備工事の指名競争入札が行はれるに際し被告人の会社もその競争入札人に指名せられたが右入札日の数日前同市兵庫区上沢通四丁目所在の被告人会社事務所において、同じく右工事の競争入札人に指名せられていた相被告人青木清一から「右の工事は自分がその住宅の建築工事をしているから是非自分に譲つて呉れ」との旨懇請せられこれに応ずれば同人が落札の場合は従来の慣例上若干の談合金を入手し得べきことを知りながら同人の申入れを承諾し、即時同人に被告人会社の記名捺印はあるが入札金額欄は空白の侭の同工事入札書を交付し、同人に適宜請負金額を記入させて入札させたところ右入札日開札の結果は市の予定価格を超過した為再入札となり、再入札においても青木の指示する金額を記入して入札し、その結果所期の通り青木に落札させた上同日同人から右談合の謝札金として五千円の交付を受け以て公の入札に関し不正の利益を得る目的を以て談合した。

(四)  同年六月二十三日同市施行の上筒井小学校校舎復旧新営工事の指名競争入札が行はれた際被告人の会社もその競争入札人に指名されたが入札日の数日前同市役所内で同じく右工事の競争入札人に指名せられていた西尾藤重に出会つた際同人から右工事を譲つて貰い度い旨の依頼を受けこれに応ずれば同人が落札の場合には従来の慣例上同人から若干の謝礼金を供与せられることを知りながらこれを承諾し、更に同月二十二日頃右西尾に招かれて他の競争入札人と共に前記建設工業クラブに集つた際も同人から重ねて工事を譲られたい旨依頼せられ同人の指示する入札金額を入札書に記入して入札し、右入札日開札の結果、市の予定価格を超過した為即時再入札となつたが被告人は再入札を辞退し再入札の結果予期の通り右西尾が落札し、同日右談合の謝礼金として同人から一万四千九百円の交付を受け以て公の入札に関し不正の利益を得る目的で談合した。

(五)  同年七月十八日同市施行の橘小学校復旧改修工事の指名競争入札が行はれるに際し被告人の会社もその競争入札人に指名せられたが同月十二、三日頃同市役所中庭において同じく右工事の競争入札人に指名せられていた飯田武から右工事を是非自分に譲つて貰い度い旨再三懇請せられその時は確答を避けその翌日頃同業者として歩調を合はさない訳には行かないと思い飯田の依頼に応ずれば同人が落札した場合は従来の慣例上同人からその謝礼として若干の金員を供与せられることを知りながら右飯田の懇請を容れ、更にその翌日頃前記被告人の会社事務所において右飯田に対し事務員を介して被告人会社の記名捺印はあるが入札金額欄は空白の侭にした入札書を交付し右入札日、飯田において適宜請負金額を記入して入札させ、開札の結果予期の通り飯田に落札させ同日同人から右談合の謝礼金として五千円の交付を受け以て公の入札に関し不正の利益を得る目的で談合した。

(六)  同年八月二十六日同市施行の灘区役所新築工事の指名競争入札が行はれるに際し被告人の会社もその競争入札人に指名せられたが右入札日の数日前同じく右工事の競争入札人に指名せられていた島田勝から電話によつて、右工事の敷地には自分の居住する家があつて区役所ができれば自分は立退きせねばならない関係もあるからその工事は自分に譲つて貰い度い旨の依頼を受けたので被告人は他の業者が承知したら入札書を渡す旨答えておいたところ、同月二十五日頃神戸市神戸電鉄湊川駅前で同人と遇つた際再び「他の業者も工事を譲ることを承知して呉れたから譲つて呉れ」と依頼され被告人はこれに応ずれば同人が落札の場合は従来の慣例上若干の謝礼金を供与せられるべきことを知りながらそれを承諾しその頃前記被告人の会社事務所において被告人会社の記名捺印はあるが入札金額欄を空白の侭にした入札書を同人の弟影山幸治を通じて交付し、右入札日島田に適宜被告人会社の請負金額を記入させた上入札させ、同日開札の結果予期の通り同人に落札し、同人より右談合の謝礼金として二万五千円の交付を受け以て公の入札に関し不正の利益を得る目的で談合した。

第四、被告人青木は

(一)  同年三月二十九日同市施行の霞ケ丘復興住宅排水工事の指名競争入札が行はれるに際し被告人もその競争入札人に指名せられたがその指名を受けて一、二日後の同月十八日頃被告人方附近の道路上で同じく右工事の競争入札人に指名せられていた株式会社溝口組の取締役春日賢一郎から右工事を自分の方に譲つて貰い度い旨依頼せられたので被告人は右住宅の建設工事も溝口組が行つたから右排水工事も同組がやるべきであると考え右依頼に応ずれば同会社が落札の場合従来の慣例上若干の謝礼金を供与せられるべきことを十分知りながら即座にそれを承諾し右入札日同市役所中庭で右春日賢一郎の外競争入札人に指名せられていた藤本吟左衛門、浅田組の浜田政雄と出会い溝口組が落札できるよう各自の入札金額を協定の上入札し同日開札の結果予期の通り溝口組に同工事を落札させ右談合の謝礼金として八千円の交付を受け以て公の入札に関し不正の利益を得る目的で談合した。

(二)  同年五月初め頃同市施行の神戸市新築賃貸住宅芦原、御崎、川崎、兵庫住宅排水溝新設工事の指名競争入札が行はれるに際し入札日の数日前同市役所に入札関係書類を受取りに行つた際同市役所中庭で同じく同工事の競争入札人に指名せられていた藤本吟左衛門及び飯田武の両名に遇い右藤本から「右工事は殆ど自分が住宅の建築工事をしたところであるから是非自分に譲つて呉れ」と頼まれこれに応ずれば従来の慣例上同人が落札の場合は若干の謝礼金を供与せられることを知りなが即座に右飯田と共に工事を藤本に譲らことを承諾し、入札当日入札に先だつて前記神戸建設工業組合事務所で当日同所に集つた同工事の競争入札人の藤本、飯田の外香川建設工業株式会社の代表者香川太市及び株式会社大崎工務店の代表者大崎寛等と協定の上藤本に落札を得させる為同人の指示する金額より高額の請負金額を入札書に記入して入札し、同日開札の結果予期の通り藤本に同工事を落札させ同人から右談合の謝礼金として一万円の交付を受け以て公の入札に関し不正の利益を得る目的で談合した。

(三)  同年五月二十一日同市施行の狩口住宅排水溝設備工事の競争入札が行はれるに際し同人もその工事の競争入札人に指名せられたが同工事は以前被告人がその住宅建築工事をし未だ当時の仕事小屋や諸道具が現場に保管してあつた関係から是非同工事も自分が落札したいと考え、同市役所から入札指名を受けた五月十五、六日頃、被告人の肩書居宅において同じく同工事の競争入札人に指名せられていた同業者中元兼吉(被告人の義父)に同工事を譲つてくれと依頼しその承諾を得同人の入札書をその侭預つた他その翌日頃から入札日の前日頃までの間に同じく同工事の競争入札人に指名されていた神戸市内の同業者株式会社溝口組(代表者春日賢一郎)吉田福治、井上政吉、株式会社西口工務店(代表者西口光雄)、株式会社門田組(代表者門田義一)、株式会社大崎工務店(代表者大崎寛)、浜田政雄及び藤本吟左衛門の八名に対してもその営業所或は自宅等で「右工事は以前自分がその住宅建築工事をやつたから今度の工事も自分の方に譲つて貰い度い」旨依頼しそれぞれその承諾を得、右のうち井上政吉を除く他の七名から入札金額欄を空白にした各入札人の記名捺印のある各入札書を受取り、又井上政吉からは被告人の指示する入札金額を記入させた同人の記名捺印のある入札書を受取り、入札日の前日(同月二十日)前記神戸建設工業組合事務所で被告人が保管中の井上政吉の分を除く溝口組等八名の各入札書に被告人の入札予定金額より高額な請負金額を記入し、自らの入札書には右の如く談合によらないで自由競争によつたとすれば少くとも談合に応じた者に交付すべき談合金を控除した額で入札できることを十分認識しながら右談合金を加算した九十万円を記入し右各入札書十枚を取りまとめて自ら同市役所文書課へ一括郵送入札し、入札日同市役所で開札の結果市の予定価格超過の為再入札となつたが此の際にも中元を除く他の競争入札人と協定の上再入札しその結果予期の通り被告人において右工事を落札しその頃中元を除く他の八名に対し右談合の謝礼金としてそれぞれ五千円宛計四万円を交付し以て公の入札に関し公正な価格を害する目的で談合した。

(四)  同年八月四日同市施行の水呑、木津線(四百六十米より千三百五十二米に至る間)道路拡幅工事の指名競争入札が行はれた際当時被告人が神戸市の指名入札工事についてその工事施行等を一切委ねられていた平尾次郎も同工事の競争入札人に指名せられ、同人よりその旨の連絡を受け同工事も同人に代つて同人名義で入札すべくその記名捺印ある入札書等を受取つていたところ同年八月一日頃前記建設工業クラブで同じく同工事の競争入札人に指名され既に右工事の第一期工事(起点より四百六十米まで)を施行した伊豆原直七より右工事を譲つて貰い度い旨依頼を受けたが一応平尾に相談した上で決めると云つてその場は即答を避け、その後平尾に相談した結果一切を委すと云われたので、同月三日頃右クラブで再び伊豆原より是非譲つて欲しいと懇請された際、被告人も同工事の落札を希望するものの如き意向を洩したところ同人は被告人には一般の談合金の外、特別に三万円を出すから是非自分に譲つて欲しいと重ねて懇請されこれに応じれば当然右のような談合金を得られることを十分認識しながら、遂に伊豆原の懇請を容れ、入札金額を記入していない入札書を同人に交付し同人をして適宜請負金額を記入させ前記入札日開札の結果予期の通り右伊豆原に落札させ、同日同人から右談合の謝礼金として他の入札人に交付した一万三千六百円の外前記約束の三万円計四万三千六百円の交付を受け、以て公の入札に関し不正の利益を得る目的で談合した。

(証拠)(省略)

(被告人及び弁護人の主張に対する判断)

一、被告人及び弁護人等は何れも本件談合は何等な公正な価格を害する目的及び不正の利益を得る目的を以て為されたものではないと主張するから先づ此の点について判断する。

先づ公正な価格とは何か、刑法第九十六条ノ三第二項の規定が国家又は公共団体の行う競争入札制度を前提とするものであることを考えると同条項にいわゆる「公正な価格」とは曾て大審院判例(昭和十七年(れ)第一五九七号昭和十九年四月二十八日第三刑事部判決)に示している通り、各入札人の公正な自由競争による入札の結果形成せらるべき落札価格を指称し、入札という観念を離れて客観的に測定せらるべき適正価格を指称するものではないと解する。

ところでいわゆる談合は本来それ自体において競売又は競争入札制度の本旨と相容れないものであるがその故にすべてこれを違法としてこれに可罰性を認めたものではなく右にいわゆる「公正な価格を害する目的を以て」為された談合のみを違法な談合としてこれに可罰性を認めたものであつて、このことは前記法条の規定及びその立法の経過に徴しても明かなところである。

而して右にいわゆる「目的」とは動機をいうものと解すべきところ、本来一般の犯罪においてはこれを犯すに至つた動機はこれを問はないのであるが談合罪にあつては公正な価格を害することを動機とすることをその成立要件とし、犯意の外に右の如き動機の存することを必要としているのである。而して此の場合において行為者はその目的とする事実の発生すなわち公正な価格の形成を阻害することを希望乃至意慾する必要はなく唯その認識があれば足りるものと解する。従つて談合罪においては公正な価格を害する認識の下に談合した事実があれば足りるものというべきである。

翻つて本件談合を見ると、前掲の各証拠によれば、被告人等が判示の如く談合によつて自分が落札した工事(被告人中根については判示第二の(一)(二)の各工事、被告人門田については判示第三の(一)(二)の各工事、被告人青木については判示第四の(三)の工事)については何れもその工事を自分において落札しようとして自由競争によつて入札すれば或は自分の入札金額より低額に入札する者があるかも知れないことを慮り、これを防ぐ為に判示入札人との間において談合したことが推認できるところであり而もその談合に当つては、業者間における従来の慣例に従つて他の入札人に若干の談合金を交付せねばならないので、勢いこれを含めたものを請負金額として見積りを立てていたこと、従つて自由競争によれば談合によつて入札する場合に比べて、より低額で落札できるべきことについて十分な認識があつたことを認め得るから斯る認識の下に敢て本件談合行為に及んだ以上右は正に刑法第九十六条ノ三第二項にいわゆる公正な価格を害する目的を以て談合した者と謂はざるを得ない。

次に「不正の利益」とは何か、このことについても競争入札制度を離れて考えられないことは勿論であるが真に競争入札に加はる意思もなく又入札の為の見積り例えば工事現場の見分その他の調査をもしないで唯単に談合金を得ることのみを目的とする場合の如きは明かにこれを不正の利益と謂い得るが、此の場合に限らずいやしくも談合に関連して社会通念上単なる落札の祝儀として認められる限度を超える金品の分配を受けるが如き場合も亦不正の利益に該るものと解する。しかし此の場合右分配を受ける金品が入札上の公正な価格を害することに因つて生ずべき差益の一部であるか否かの認識は必ずしも必要でない。

従つて談合において「不正の利益を得る目的」(此の場合の目的も前と同じ意味に解する)があつたと謂うには、右の如き金品を供与せらるべきことの認識があれば足りその希望乃至意慾は必要としないものと謂うべきである。

そこで翻つて本件談合について考えて見ると、前掲の各証拠によれば被告人門田及び同青木が他の入札人に落札を得させる為談合に応じた工事(被告人門田については判示第三の(三)乃至(六)の各工事、被告人青木については判示第四の(一)(二)(四)の各工事)については右被告人等が談合金を得ることのみを目的として談合したことを認めるに足る証拠はないが、前認定の如く業者間においては従来談合によつて落札した場合落札者が他の入札人に対し若干の談合金を交付すべきことの慣例があつたことは被告人等も十分これを知つていたこと。従つて右被告人等も談合に応じるに当つては右の如き慣例により、落札者から若干の談合金を供与せられること。更に通例その談合金が落札者の入札金額の中に含められていることについてもその認識があつたことを認めるに十分であり、而も本件談合の経過特に被告人等は神戸市より各工事の入札指名を受けて後殆ど入札の基礎となるべき工事現場の実地見分その他の調査等見積の為の準備をした形跡もなく判示の如く依頼される侭たやすく談合に応じていること。これにより落札者より受けたものも単なる落札の祝儀に止まるものと認められるものはなく、判示の如くその限度を超えるものと認められる金員の交付を受けていること。殊に被告人青木が判示第四の(四)の工事について談合に応じた場合においては判示認定の如く被告人自ら左程同工事を落札する意思があつたようにも思はれないのにその意思があるものの如き言動を示し、最後に判示伊豆原直七から他の入札人に対する談合金とは別に被告人にのみ三万円を供与することを告げられるに及んで初めて同人の申出を承諾していること等を考え合せると被告人等は不正の利益を得る目的を以て談合したものと論断せざるを得ない。

よつて前記被告人及び弁護人等の主張は採用し難い。

二、次に被告人中根の弁護人岡本薫一の主張について判断する。

(一)  先づ談合は注文者が競争入札制度によつて最も利益の多い相手方を求めんとするのに対し入札者が自衛の為めの必要からできた一つの対抗手段であつて談合それ自体は法の禁止するところではないと主張する。

勿論談合それ自体はそれが専ら入札者の自衛の為めのものである限りは法の禁止するところではないが、所論の如く談合がすべて入札者の自衛の為の対抗手段であるとは到底認め難く、又本件談合が専ら入札者の自衛の為にのみ為されたことについてはこれを認めるに足る証拠はない。却つて公正な価格を害する目的を以て為されたことは前認定の通りである。

(二)  次に談合罪が成立するが為には入札者全員の間において予め協定が成立することを要する旨主張する。

勿論談合は入札者全員の間において行はれることが通例であらうし又そうすることが談合の目的達成を容易ならしめる所以であらう。しかしその故に談合罪の成立する為には必ずしも入札者全員これに加はることは必要でなくその一部の者の間においても(例へば自分より低額に入札する虞れのある者との間において)成立するものと解すべきである。

(三)  次に談合罪の成立するが為には競争入札の実を失はせる意図を以て入札の最低価格を協定することを要し、その協定が延いては公正な価格を害し又は不正利得の目的有無判断の基準となるから最低額を協定するに当つては、入札者相互間にあつて入札の結果形成せらるべき最低価格につき予見の存することを要する。又入札の実を失はせる意図なくして特定の一人又は数人に落札させようとする場合の協定や落札者の順番だけを協定する場合は談合の一形式ではあるが違法性はない旨主張する。

所論の如く入札者相互間において入札の結果形成せらるべき最低価格について予見の存するが如き場合は談合の最も典型的なもので違法性の極めて強いものというべく、そのような場合に談合罪の成立することは固より論を俟たないところであるが、斯る予見は必ずしも必要ではなく本件の如く落札者を決定することに主眼を置き、その者の入札すべき最低額を決め他の入札人はそれより以上に入札することを協定するが如き場合(かかる形態の談合こそ通例とするのではなかろうか)も亦談合罪の成立を認むべきである。

(四)  次に談合金の授受は必ずしも談合罪の構成要件ではないと主張する。

固より所論の通り談合金の授受は必ずしも談合罪の構成要件ではないであろう。しかし談合金の授受の有無は談合罪認定の一資料たるを失はないところであり、弁護人の挙示する判例((イ)東京高等裁判所昭和二十七年八月一日言渡判決(ロ)大審院の前掲判決)の趣旨も談合金の授受があつたとしてもその結果入札施行者の利益に照して自由競争による入札をして到達したと同一の結果に帰着する場合には犯罪としないというにあることに注意すべきである。従つて自由競争によれば異なつた結果(談合によつた場合より低額という結果)に到達する場合にはこれに該らないのである。本件談合はすべて判示認定の如く将にその場合なのであつて、所論判例は本件談合には適切ではない。

よつて以上の岡本弁護人の主張は何れも採用し難い。

(法令の適用)

被告人等の判示所為中判示第一の入札妨害の点は刑法第九十六条ノ三第一項罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項刑法第六十条に、爾余の入札談合の点は各同法第九十六条ノ三第二項第一項罰金等臨時措置法第二条第一項第三条第一項(但し判示第二の(一)の入札談合の点については刑法第六条第十条により罰金等臨時措置法は適用しない)に各該当するところ各所定刑中罰金刑を選択し以上はそれぞれ刑法第四十五条前段の併合罪であるから各同法第四十八条第二項により各罰金の合算額の範囲内で被告人門田義一を罰金十五万円に、被告人中根鶴京を罰金十万円に、被告人青木清一を罰金八万円に処し、右罰金を完納することができないときは、各同法第十八条により金五百円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置すべく、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項第百八十二条により主文掲記の通り被告人等に負担させるべきものである。

よつて主文の通り判決する。(昭和二八年一一月二八日神戸地方裁判所第三刑事部)

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