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神戸地方裁判所 平成元年(わ)587号 判決 1990年9月07日

本籍

兵庫県芦屋市津知町四九番地

住居

同市朝日ヶ丘町一〇番三五-五〇六号

会社役員

徳永史雄

昭和九年二月二五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官中田和範出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年六月及び罰金一億一〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、罰金額中二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、自己の所得税を免れようと企て、

第一  昭和六一年分の総合課税の総所得金額は三億四六〇三万八二〇九円、分離課税の短期譲渡所得金額は四二四万〇五七八円(別紙修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額は二億三一三三万九四〇〇円であるにもかかわらず、継続して有価証券を売買したことによる所得のすべてを除外するほか、不動産賃貸による所得の一部を除外するなどの行為により、所得金額のうち三億四七〇三万八七八七円を秘匿した上、同六二年三月一二日、兵庫県芦屋市公光町六番二号所在の所轄芦屋税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の総合課税の総所得金額は七九万一三〇七円の損失(ただし、申告書は七九万一〇〇〇円と誤つて記載)、分離課税の短期譲渡所得金額は四〇三万一〇〇〇円で、これらに対する所得税額が一一〇万九〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二億三一三三万九四〇〇円との差額二億三〇二三万〇四〇〇円を免れ、

第二  昭和六二年分の総合課税の総所得金額は四億四四二三万八四七三円、分離課税の短期譲渡所得金額は一八〇万六一六五円(別紙修正損益計算書参照)で、これに対する所得税額は二億五七二九万三〇〇〇円であるにもかかわらず、前同様の行為により、所得金額のうち四億三八一七万四一五四円を秘匿した上、同六三年三月一五日、前記芦屋税務署において、同税務署長に対し、同六二年分の総合課税の総所得金額は六〇八万七四八四円、分離課税の短期譲渡所得金額は一七八万三〇〇〇円で、これらに対する所得税額が七〇万〇二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二億五七二九万三〇〇〇円との差額二億五六五九万二八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の公判廷の供述

一  被告人の検察官、司法警察職員(大蔵事務官)に対する各供述調書(検甲二五ないし四五号)

一  大蔵事務官作成の各所得税確定申告書要旨謄本(同二、四号)

一  同作成の各脱税額計算書(同三、四八号)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(同五ないし二二号)

一  上田昌宏の検察官に対する各供述調書(同二三号)

(法令の適用)

被告人の判示第一、第二の各所為は、いずれも所得税法二三八条に該当するので、所定刑中懲役刑と罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により、犯情の重い第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内、罰金刑につき同法四八条二項により、所得税法二三八条二項の金額を合算した金額の範囲内で、被告人を懲役二年六月及び罰金一億一〇〇〇万円に処し、右罰金刑につき刑法一八条により換刑処分をし、懲役刑につき情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間その執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、被告人が二か年分にわたり、有価証券の売買益を全く税務申告しないなどの方法により自己の所得税をほ脱した事案であるが、その犯行の動機については、従来保有していた有価証券の価格の下落による損失があつたことなどを述べるけれども、特に酌量すべきものがあるとはいえず、二か年分の脱税の金額は合計約四億八〇〇〇万円余に達すること、そのほ脱の率は、各年分について九九パーセント以上であることなどに照らすと、被告人の刑事責任は相当重いものといわねばならない。

しかしながら、被告人は、内容虚偽の確定申告書の提出のほかには、特別に悪質な不正の手段を講じたものではないこと、被告人は昭和六三年三月に、同六二年分の確定申告をしたのち、同六三年八月に西宮税務署からの株式取引についての照会を受けて、その回答ないし修正申告の準備に着手していたこと、罰金刑以外に前科がないこと、事件後、被告人が反省し、ほ脱にかかる所得税のほか、重加算税、市県民税の合計八億一〇〇〇万円余を完納したこと、その経理事務を改善していること、なお、本件の発覚後の時期に税制の改革があり、証券取引による所 得に対する課税のあり方が見直されていることなどを被告人の利益に参酌し、今回に限り、懲役刑の執行を猶予し、主文の刑に処するのが相当であると考える。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤光康)

修正損益計算書

自 昭和61年1月1日

至 昭和61年12月31日

総所得金額

<省略>

修正損益計算書

自 昭和62年1月1日

至 昭和62年12月31日

総所得金額

<省略>

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