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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)1706号 判決 1991年10月30日

原告

小竹栄基成

ほか一名

被告

徳岡大之

ほか六名

主文

一  被告らは、各自

1  原告小竹栄基成に対し、

(一)  被告徳岡大之において金一二九一万三二四四円及び内金一一七九万三二四四円

(二)  被告吉岡浩孝において金八三二万三四一六円及び内金七六〇万三四一六円

(三)

(1)  被告白石節子において金四一六万一七〇八円及び内金三八〇万一七〇八円

(2)  被告白石潤一・同白石道子・同白石強・同吉岡善美において

各金五二万〇二一三円及び各内金四七万五二一三円

右各内金に対する昭和六三年一二月三一日から各支払ずみまで年五分の割合による各金員を各支払え。

2  原告村木征子に対し、

(一)  被告徳岡大之において金六九六万八九五六円及び内金六二七万八九五六円

(二)  被告吉岡浩孝において金四一三万一三八四円及び内金三六九万一三八四円

(三)

(1)  被告白石節子において金二〇六万五六九二円及び内金一八四万五六九二円

(2)  被告白石潤一・同白石道子・同白石強・同吉岡善美において

各金二五万八二一一円及び各内金二三万〇七一一円

右各内金に対する昭和六三年一二月三一日から各支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求を、いずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告小竹榮基成と被告徳岡大之の関係分は、これを五分し、その一を右原告の、その四を右被告の、右原告と被告吉岡浩孝・被告白石節子・同白石潤一・同白石道子・同白石強・同吉岡善美との関係分は、これを二分し、その一を右原告の、その一を右被告らの、各負担とし、原告村木征子と被告徳岡大之との関係分は、これを一〇分し、その三を右原告の、その七を右被告の、右原告と被告吉岡浩孝・被告白石節子・同白石潤一・同白石道子・同白石強・同吉岡善美との関係分は、これを五分し、その三を右原告の、その二を右被告らの、各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

以下、「原告小竹榮基成」を「原告基成」と、「原告村木征子」を「原告征子」と、「被告徳岡大之」を「被告徳岡」と、「被告吉岡浩孝」を「被告吉岡」と、「被告白石節子及び同白石潤一・同白石道子・同白石強・同吉岡善美」を「被告白石節子及びその余の被告ら」と、各略称する。

第一請求

1  被告らは、各自

(一)  原告基成に対し、

(1) 被告徳岡、同吉岡において金一六六四万六三八〇円及び内金一五四〇万六三八〇円に対する昭和六三年一二月三一日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

(2)(a) 被告白石節子において金八三二万三一九〇円及び内金七七〇万三一九〇円に対する昭和六三年一二月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(b) 被告白石節子を除くその余の被告らにおいて各金二〇八万〇七九七円及び内金一九二万五七九七円に対する昭和六三年一二月三一日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

(二)  原告征子に対し、

(1) 被告徳岡、同吉岡において金一〇二〇万二六二〇円及び内金九四四万二六二〇円に対する昭和六三年一二月三一日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

(2)(a) 被告白石節子において金五一〇万一三一〇円及び内金四七二万一三一〇円に対する昭和六三年一二月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(b) 被告白石節子を除くその余の被告らにおいて各金一二七万五三二七円及び内金一一八万〇三二七円に対する昭和六三年一二月三一日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動二輪車後部座席に同乗して走行中右自動二輪車が普通乗用自動車と衝突したため死亡した右同乗者の父母が、右自動二輪車の運転者と右普通乗用自動車の運転者に対し民法七〇九条に基づき、右普通乗用自動車の保有者(ただし、右事故後死亡。)の相続人らに対し右保有者が自賠法三条によつて負担した損害賠償債務の相続承継に基づき、それぞれに損害賠償の請求をした事件である。

一  争いのない事実

1  別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生。

なお、被告車一(本件自動二輪車)の保有者は、小竹榮かおりであつた。

2  被告車二の本件事故当時における保有者は、白石時義(平成元年一一月一六日死亡。以下、亡時義という。)であつた。

なお、被告白石節子は、亡時義の妻、その余の被告らは、亡時義の子らである。

3  小竹榮かおり(昭和三九年九月一〇日生。右事故当時二四歳。以下、かおりという。)が、原告らの長女(したがつて、原告らは、かおりの父母。)であり、右事故により頭部外傷四型・腹腔内出血等の傷害を受け、そのため、昭和六三年一二月三〇日死亡した。

4  かおりの葬儀費は、金五八万九〇〇〇円であつた。

5  原告らは、本件事故後、自賠責保険金金二四八四万三〇〇〇円、かおり所属の健康保険組合より金一六万円を受領した。

二  争点

1  被告徳岡、同吉岡の本件責任原因(民法七〇九条関係)の存否、被告白石節子及びその余の被告らの本件損害賠償義務の根拠。

2  かおり及び原告らの本件損害の具体的内容。

3  かおりにおける本件損害額の減額事由の存否。

当事者のこの点に関する主張の要旨。

(一) 被告徳岡

かおりは、本件事故当時、被告徳岡が運転する被告車一に好意同乗していた。

(二) 被告吉岡、同白石節子及びその余の被告ら

(1) かおりは、本件事故当時、被告徳岡の婚約者であり、右事故は、かおりが婚約者である右被告を同人の退社時その勤務地に迎えに行き同人がかおりを自宅に送り届ける途中で、しかも、被告徳岡が運転するかおり所有の被告車一に同人が同乗中発生したものである。

したがつて、右両者の関係は、婚約者という社会的関係上緊密な関係にあり、しかも、被告車一に二人乗りするという一体的な関係(運転者を自らの危険として受容する関係)にあつたというべきである。

よつて、本件においては、かおりの本件損害額を算定するに当たり、被告徳岡の過失を被害者であるかおり側の過失として、しかも、被告徳岡の過失と同割合で斟酌すべきである。

(2) 仮に、右主張が認められないとしても、かおりの本件損害額は、次の理由から減額されるべきである。

即ち、かおりは、本件事故当時、右(1)で主張した事実関係から被告車一の運行供用者であつた。

したがつて、かおりの、同人と被告吉岡・同被告白石節子及びその余の被告らとの関係における損害額については、かおりの、同人と被告徳岡との間における損害額の減額割合(好意同乗による)を超えて、被告徳岡の過失と同等の割合において減額がなされるべきである。

(三) 原告ら

被告らの主張は、争う。

かおりと被告徳岡とは、本件事故当時婚約者の間柄ではなかつた。右両名は、法的にも事実的にも他人の範疇であつた。

かおりは、単に被告車一の保有者であつたに過ぎず、右事故当時、被告徳岡における右車両の運行に対し実質的には何らの支配も影響も及ぼしていなかつた。

第三争点に対する判断

一1  被告徳岡・同吉岡の本件責任原因の存否

(一) 証拠(甲七、九、一一ないし一七、二〇ないし二五、被告徳岡、同吉岡各本人。)によれば、次の各事実が認められる。

(1) 本件事故現場は、神戸市通称大開通の西行き車線(五車線)の内の第二車線上で、同市長田区一番町二丁目六番地先交差点(信号機の設置された交差点。以下、本件交差点という。)東側入口の東方約一六メートルの地点である。

右大開通は、右事故現場付近から、直進状で長田交差点方面に通じる車道(四車線)と左カーブ(左右は、進行車両の運転席を基準。以下同じ。)で北町交差点方面に通じる車道(二車線)とがほぼY字型に分岐している。そして、右分岐地点には、右分岐の形状に沿つて、楔形(西側が幅広く、東側に行くにつれてその幅が細くなる。)をした島状態の分離帯(縁石の高さ約二〇センチメートル。右分離帯上には、低木のさつきが多数植樹されている。)とそれに北接する路上にほぼ同形のゼブラゾーンが設置されている。

右事故現場付近の道路は、平坦なアスフアルト舗装路で、右分岐地点付近における見通しは、前後とも良好であり、道路照明は、水銀灯が設置されていて明るい。そして、右事故現場付近の最高速度は、時速五〇キロメートルである。

なお、本件事故当時の天候は晴、右事故現場付近の路面は、乾燥していた。

(2) 被告吉岡は、本件事故直前、被告車二を運転し、大開通の西行き車線の内大二車線上を本件交差点に向かい時速約五〇キロメートルの速度で西進していた。

同人は、右交差点東側前記分岐地点の東方約三一メートルの地点付近に至つた時、右分岐地点から左方北町交差点方面に通じる道路へ左折しようとして、左折の合図をし自車の速度を時速約四〇キロメートルに減じ自車サイドミラーで後方を見たものの左側後方の安全を十分確認せず、約一八メートル進行した地点から更に自車の速度を時速約三五キロメートルに減じ左折を開始して右西行き車線の内第一車線上に進入させた。

そして、被告車二が右第一車線上に進入した直後、被告車一が、被告車二の左側後方から直進して来て、被告車二の左側部と被告車一とが衝突し、本件事故が発生した。

(3) 被告徳岡は、本件事故直前、被告車一の後部座席にかおりを同乗させ右車両を運転し、大開通の西行き車線の内第二車線上を本件交差点に向かい時速約六〇キロメートルの速度で、被告車二に後続しこれを追い上げる形で西進していた。

同人は、右交差点の右分岐地点の東方約四一メートルの地点付近に至つた時、同人は、自車を直進させ右交差点を通過して前記長田交差点方面に通じる道路に向け進行する積もりであつたし、先行する被告車二が左折の合図をしていなかつたから右車両も直進するものと考え、右交差点直前で右車両をその左側で追い抜こうと決意した。

そこで、同人は、自車の速度を時速約六五キロメートルに上げて進路を第一車線に変え被告車二の左側からの追い抜きを開始した。

そして、被告車一が約二八メートル進行した時、被告車二が突然左折の合図をして前記北町交差点方面に通じる道路に向けて左折を開始進行した。

被告徳岡は、被告車二の右動向を認めるや、危険を感じ自車のハンドルを左に切つたが間に合わず、それから約一〇メートル進行して地点付近で、自車と被告車二の左側部とが衝突し、本件事故が発生した。

(二)(1) 右認定各事実に基づけば、被告徳岡、同吉岡は、次の各過失により本件事故を惹起したというべきである。

(a) 被告徳岡につき、本件事故直前自車進路前方は信号機により交通整理の行われている交差点であるうえ、左側方からの追越しは禁止されていたのであるから、追越しを差し控え被告車二の動静を注視し、進路の安全を確認しつつ進行すべき注意義務に違反して、右車両の動静を注視しないで漫然自車を時速約六五キロメートルに加速して被告車二の左側から追越しを開始した過失。

(b) 被告吉岡につき、本件交差点を北町交差点方面に通じる道路に向かい左折進行するに際し、左折の合図をし、予めできる限り道路左側に寄つて徐行するはもとより、第二車線らか左折しようとしたのであるから、自車左側の併進車両又は後続車両との安全を確認して左折進行すべき注意義務に違反して、左折の合図をしたのみで漫然自車を時速約三五キロメートルの速度で左折進行させた過失。

(三) 右認定説示に基くと、被告徳岡、同吉岡には、いずれも民法七〇九条に則り、かおり及び原告らが本件事故によつて被つた損害を賠償すべき責任があるというべきである。

2  被告白石節子及びその余の被告らが本件損害賠償義務を負う根拠

(一) 亡時義が本件事故当時被告車二の保有者であつたこと、被告白石節子及びその余の被告らが亡時義の妻子であることは、当事者間に争いがない。

(二) 右各事実によれば、亡時義が被告車二の保有者として自賠法三条に則りかおり及び原告らが本件事故により被つた損害を賠償すべき義務を負つていたところ、同人の死亡により右損害賠償義務が、同人の相続人である被告白石節子及びその余の被告らに、各自の法定相続分の割合で相続承継されたというべきである。

二  かおり及び原告らの本件損害の具体的内容

1  かおり分

(一) 死亡による逸失利益 金二九二六万円

(1) かおりが本件事故による受傷の結果死亡したこと、同人が右死亡時二四歳の女性であつたことは、当事者間に争いがない。

(2) 証拠(甲六、一八、一九、原告基成本人。)によれば、かおりは、本件事故当時、健康で、神戸市兵庫区水木通一丁目所在西村株式会社兵庫給油所に店員として、毎週月曜日から土曜日まで午前九時から午後六時まで勤務し、年額金一八四万八六九八円の給与・賞与を得ていたことが認められる。

(3) かおりの就労可能年数は、六七歳までの四三年と、生活費の控除は、その収入の三〇パーセントと、それぞれ認めるのが相当である。

(4) 右認定の各資料に基づき、かおりの本件死亡による逸失利益の原価額を、ホフマン式計算方法にしたがつて算定すると、金二九二六万〇六四六円となる。(新ホフマン係数は、二二・六一一。)

〔184万8698円-(1×0.3)〕×22.611≒2926万0646円

しかして、原告らは、本訴において、右逸失利益の金額を金二九二六万円と主張しているので、右逸失利益の金額は、右主張額にしたがう。

(二) 慰謝料 金一〇〇〇万円

前記認定の本件全事実関係に基づくと、かおりの本件死亡による慰謝料は、金一〇〇〇万円と認めるのが相当である。

(三) かおりの本件損害の合計額 金三九二六万円

2  原告ら分

(一) 原告基成分

(1) 葬祭費 金五八万九〇〇〇円

当事者間に争いがない。

(2) 診断書料 金三〇〇〇円

証拠(原告基成本人)によれば、原告基成は、かおりの死亡に伴う診断書料金三〇〇〇円を支出したことが認められる。

(3) 慰謝料 金三五〇万円

原告基成がかおりの実父であることは当事者間に争いがなく、右事実に前記認定にかかる本件全事実関係を総合すると、原告基成の本件慰謝料は、金三五〇万円と認めるのが相当である。

(4) 原告基成の本件損害の合計額 金四〇九万二〇〇〇円

(二) 原告征子分

慰謝料 金一五〇万円

原告征子がかおりの実母であることは当事者間に争いがなく、証拠(甲四の一、一九、原告基成本人。)によれば、原告征子は、昭和四〇年六月一一日、原告基成と協議離婚したこと、かおりは、当時生後九か月であつたこと、原告基成は、以後かおりを自分の手で養育したことが認められ、右各事実と前記認定の本件全事実関係を総合すると、原告征子の本件慰謝料は、金一五〇万円と認めるのが相当である。

三  かおりにおける本件損害額の減額事由の存否

1  被告徳岡とかおりとの関係

(一) かおりが本件事故当時被告車一を所有していたこと、右事故の態様は、当事者間に争いがなく、右事故現場付近の客観的状況、右事故発生までの具体的経過、被告徳岡の本件責任原因の内容、かおりの右事故当時における勤務先及び勤務内容等は、前記認定のとおりである。

(二) 証拠(甲九、一八、一九、二二、二四、被告徳岡本人。)によれば、次の各事実が、認められる。

(1) 被告徳岡は、本件事故当時二〇歳(昭和四三年一〇月二七日生)で、大阪社会体育専門学校二年に在学し、その傍ら、神戸市中央区港島中町所在「スポーツクラブNASポートピアー」でアシスタント(準指導員)のアルバイトに従事していた。

被告徳岡とかおりは、昭和六一年三月頃、お互いが通つていた神戸市長田区内所在のスポーツジムでたまたま知り合いになり、以後交際を重ね、右事故当時は将来婚姻するとの暗黙の合意をしていた。かおりも、勤務先でこのことを周囲の人に洩らしていた。

しかし、右両名は、同居するまでに至らず、その生活は、全く別々であつた。

(2) 被告徳岡とかおりは、本件事故当時、お互いに、メーカー・種類・排気量等の全てが同じ自動二輪車を所有し、右被告は、右事故まで、かおり所有の被告車一にも回数にして一〇〇回に至る程頻繁に乗車し運転していたし、かおりが、右被告所有の自動二輪車に乗車し運転したことも数回あつた。そして、右被告が、被告車一に乗車し運転する場合、そのガソリン代を負担することもあつた。

被告徳岡は、本件事故前、速度違反六回、信号無視一回、自動二輪車の二人乗り違反(免許取得後一年未満)二回、整備不良違反一回の各反則行為を行つているが、右二人乗り違反は、いずれも右被告所有の自動二輪車後部座席にかおりを同乗させ運転していた場合であつた。

ところが、被告徳岡所有の自動二輪車は、本件事故の約一か月前から故障して、同人が前記アルバイト先に通勤するのに使用することができない状態になつた。

そのため、右被告は、右通勤時電車を使用していたが、かおりが、一週間に一度程の割合で同人の前記勤務終了後被告車一を運転して、右被告が帰宅するのを右被告の前記勤務先まで迎えに来ていた。被告車一の右帰宅時における運転は、右被告とかおりが交代でして、運転しない者が、右車両後部座席に乗車していた。

そして、右被告のかおりのいずれがその際右車両を運転するかは、二人のその時の気分や成り行きによつて決まつた。

被告徳岡が被告車一を運転しかおりが右車両の後部座席に同乗する場合、かおりは、右車両の後部座席を跨いで座り、その腕で運転する右被告の体を抱くようにするか、その手で右車両の運転席前方のタンクを持ちその肘で右被告の体を支えるようにするかの姿勢を取つていた。

かおりは、被告徳岡が右車両を運転する右場合で右車両が走行中、右車両の運転は、右被告に任せていたが、ただ、右被告が右車両の速度を上げた場合に、もう少し速度を落としたらと注文をつけることがあつた。

(3) かおりは、本件事故当日の午後六時一五分頃、前記勤務先の勤務を終え被告車一に乗車これを運転して同所を出て、同日午後八時頃、被告徳岡を帰宅させるため同人の前記勤務先まで同人を迎えに行つた。

被告徳岡が、その際、被告車一を運転しかおりが右車両の後部座席に乗車することになつたが、それは、いつもの例にしたがつて、右被告が右車両を運転するような趣旨を申し向け、かおりがこれに同意したからであつた。

右両名は、このようにして被告車一に乗車し運転して、被告徳岡の右勤務先を出発したが、途中神戸市内新開地所在のフアミリーレストラン「ロイヤルホスト」に立ち寄りお茶を飲み一時間雑談し、その後右店舗を後にした。

右「ロイヤルホスト」を出発するに際しても、右両名の右車両運転同乗の位置は、それまでと同じであつた。

しかして、右両名は、右出発後、本件事故に遭遇した。

(三) 右認定各事実を総合すると、かおりは、所謂好意同乗者に該当するというのが相当である。

しかして、被告徳岡とかおりとの人的関係、右被告が被告車一を運転しかおりが右車両に同乗するに至つた経緯、右被告とかおりとの本件事故時における右車両の運行とのかかわり等右認定にかかる諸般の事情に鑑みると、公平の原則ないし信義則上、被告徳岡においてその責任に任ずべき本件賠償額は、かおりの前記認定にかかる本件損害額金三九二六万円からその三〇パーセントを減じた金二七四八万二〇〇〇円とするのが相当である。

よつて、被告徳岡のこの点に関する主張(抗弁)は、右認定説示の限度で理由があるというべきである。

2  被告吉岡・同白石節子及びその余の被告らとかおりとの関係

(一) かおりが本件事故当時被告車一を所有していたこと、右事故の態様は、当事者間に争いがなく、右事故現場付近の客観的状況、右事故発生までの具体的経緯、被告徳岡と同吉岡の本件責任原因の内容、被告徳岡とかおりの人的関係、右被告が被告車一を運転しかおりが右車両に同乗するに至つた経緯、右被告とかおりとの右事故当時における右車両とのかかわり等は、前記認定のとおりである。

(二)(1) 右認定の事実関係に基づけば、本件事故は、被告徳岡と同吉岡との過失によつて発生したものと認められるところ、その過失割合は、六対四と認めるのが相当である。

(2) しかして、右認定にかかる全事実関係から、結局、かおりは被告車一の運行供用者であり、本件事故当発生の際右車両に同乗していたのであるから右車両の運行はなおかおりの具体的支配の範囲内にあつた、右事故は、たまたまかおりが右車両の運転を被告徳岡に委ねていた際に発生したと認められるのであり、かかる場合、即ち、被害者であり、かつ同乗者であるかおりに被告車一についての運行供用者性を肯認できる場合には、民法七一九条の機能を排除して寄与度に応じた分割責任を認めるのが相当である故、右車両の運転者である被告徳岡の過失をいわゆる被害者側の過失として斟酌し、過失相殺をなし得るものと解するのが相当である。

(3) 右認定説示に基づくと、被告吉岡のかおりに対する本件損害賠償額は、かおりの前記認定にかかる本件損害額金三九二六万円から六〇パーセント減じた金一五七〇万四〇〇〇円と認めるのが相当である。

したがつて、被告白石節子及びその余の被告らの被相続人亡時義の本件損害賠償額も、被告吉岡のかおりに対する本件損害賠償額と同額となる。

よつて、被告吉岡・同白石節子及びその余の被告らの主張(抗弁)は、右認定説示の限度で理由がある。

四  原告らの相続及び損害の填補

1  原告らがかおりの父母であること、原告らが本件事故後自賠責保険金金二四八四万三〇〇〇円・かおり所属の健康保険組合から金一六万円を受領したことは、当事者間に争いがない。

2  証拠(甲三、原告基成本人。)によれば、原告らは、かおりの死亡後、同人の本件損害賠償請求権の相続につき協議のうえ、原告基成がその六二パーセントを、原告征子がその三八パーセントを相続する旨合意したこと、原告らは、右受領金についてもその処理を協議のうえ、自賠責保険金金二四八四万三〇〇〇円については原告基成がその六二パーセントを同征子がその三二パーセントをそれぞれの本件損害への填補とし、右組合からの金一六万円は原告基成が同人の右損害に対する填補とする旨合意したことが認められる。

3  そこで、右認定の合意内容にしたがい、本件相続及び本件損害の填補による原告ら各自の本件損害を算定すると右各損害額は、次のとおりとなる。(詳細は、別紙計算書記載のとおり。)

(一) 原告らと被告徳岡との関係

(1) 原告基成 金一一七九万三二四四円

(3) 同征子 金六二七万八九五六円

(二) 原告らと被告吉岡・同白石節子及びその余の被告らとの関係

(1) 原告基成 金七六〇万三四一六円

(2) 同征子 金三六九万一三八四円

五  弁護士費用

前記認定の本件全事実関係に基づくと、本件損害としての弁護士費用は、次のとおり認めるのが相当である。

1  原告らと被告徳岡との関係

(一) 原告基成 金一二一万円

(二) 同征子 金六九万円

2  被告吉岡・同白石節子及びその余の被告らとの関係

(一) 原告基成 金七二万円

(二) 同征子 金四四万円

八  白石節子及びその余の被告らの本件損害賠償額

1  被告白石節子が亡時義の妻、その余の被告らが亡時義の子らであることは、当事者間に争いがなく、同人らが、その法定相続分(被告白石節子が二分の一、その余の被告らが各八分の一。)に応じて、亡時義の本件損害賠償債務を相続承継したこと、亡時義の本件損害賠償債務が、原告基成に対する関係で合計金八三二万三四一六円(弁護士費用を含む。以下同じ。)、同征子に対する関係で合計金四一三万一三八四円であることは、前記認定説示のとおりである。

2  右認定説示を総合すると、被告白石節子及びその余の被告らについての本件損害賠償額は、次のとおりとなる。

(一) 原告基成に対する関係

(1) 被告白石節子 金四一六万一七〇八円

(2) その余の被告ら 各金五二万〇二一三円

(ただし、円未満切捨て。以下同じ。)

(二) 原告征子に対する関係

(1) 被告白石節子 金二〇六万五六九二円

(2) その余の被告ら 各金二五万八二一一円

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 昭和六三年一二月二九日午後九時四五分頃

二 場所 神戸市長田区一番町二丁目六番地先市道中央線交差点上

三 加害(被告)車一 被告徳岡大之運転の自動二輪車

四 加害(被告)車二 被告吉岡浩孝運転の普通乗用自動車

五 事故の態様 かおりが被告車一後部座席に同乗し、本件事故現場付近にさしかかつた際、左折進行しようとする被告車二と後方から右車両を追越し直進しようとする被告車一とが衝突した。

計算書

1 かおりの本件損害賠償額

(一) 被告徳岡関係 金2748万2000円…………A

(二) 被告吉岡・亡時義関係 金1570万4000円…………B

A:B=3:2

2 上記相続損害賠償額に対する填補額

(一) 上記Aに対する関係 金1490万5800円

(金2484万3000円×3)÷5

(二) 上記Bに対する関係 金993万7200万円

金2484万3000円-金1490万5800円

3 上記(一)に対する上記(二)を填補した後の同(一)の損害賠償額

Aの関係 金1257万6200円

金2748万2000円-金1490万5800円

Bの関係 金576万6800円

金1570万4000円-金993万7200円

4 原告らにおける上記3の損害賠償額の相続関係

原告基成関係

Aの関係 金779万7244円

金1257万6200円×0.62

Bの関係 金357万5416円

金576万6800円×0.62

原告征子関係

Aの関係 金447万8956円

金1257万6200円-金779万7244円

金219万1384円

Bの関係 金219万1384円

金576万6800円-金357万5416円

5 原告らの本件損害の合計額(ただし、弁護士費用を除く。)

(一) 原告基成関係

(1) 被告徳岡関係 金1188万9244円…………C

金779万7244円+金409万2000円

(相続分) (固有分)

(2) 被告吉岡・亡時義

関係 金766万7416円…………D

金357万5416円+金409万2000円

(相続分) (固有分)

C:D≒3:2

(二) 原告征子関係

(1) 被告徳岡関係 金627万8956円

金477万8956円+150万円

(相続分) (固有分)

(2) 被告吉岡・亡時義

関係 金369万1384円

金219万1384円+150万円

(相続分) (固有分)

6(一) 原告基成の上記損害額に対する填補

Cの関係 金9万6000円

(金16万円×3)÷5

Dの関係 金6万4000円

金16万円-金9万6000円

(二) 上記填補後の損害額

Cの関係 金1179万3244円

金1188万9244円-金9万6000円

Dの関係 金760万3416円

金766万7416円-金6万4000円

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