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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)343号 判決 1998年8月27日

主文

一  被告は、原告に対し、五〇〇万円及びこれに対する平成一〇年三月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

一  事案の要旨

本件は、原告が被告の経営するゴルフ場の預託金会員組織(以下「本件ゴルフクラブ」という。)に五〇〇万円の金員を預託して入会したところ、本件ゴルフクラブの会則(以下「本件会則」という。)に従い、退会の届け出をすると共に、預託金の据置期間経過後に預託金の返還を請求し、右預託金及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

二  当事者間に争いのない事実

1  被告は、ダイヤモンドカントリークラブという名称のゴルフ場を経営する会社であり、右ゴルフ場には同一名称の本件ゴルフクラブがある。

2  原告は、昭和六一年二月五日、五〇〇万円の金員を被告に預託して本件ゴルフクラブに入会した。

3  本件会則には、入会金は被告が無利息で預かり、預かり証発行日より一二年間据置とすること、会員が退会する場合は書面で届け出を行うこととの規定がある。

4  原告は、平成九年一二月二七日付けの預託金返還申請書をもって被告に退会の届けをすると共に、据置期間の経過する平成一〇年二月四日に預託金を返還することを求め、右書面は平成一〇年一月五日に到達した。

原告は、また、平成一〇年二月六日到達の書面で、被告に対し、再度、預託金返還を求める意思表示をした。

5  被告は、原告に対し、平成一〇年二月九日付けの通知書をもって、本件ゴルフクラブの理事会の承認により、預託金返還の据置期間を五年間延長すると主張し、預託金の返還を拒否した。

6  本件会則には、「天災地変、その他不可抗力の事態が生じた場合、理事会の承認を得て据置期間を延長する事が出来る。」との規定がある(七条但書、以下「本件規定」という。)。

三  争点

被告は、本件規定に基づき、預託金の返還を拒否できるか。

四  争点についての当事者の主張

(被告)

1 預託金制クラブは、不特定多数の者から預託金という形式でゴルフ場の設立、運営資金を募るための制度であり、会員は、預託金を払い込んで会員契約を締結する。会員契約は、ゴルフ場施設の優先的利用権、預託金返還請求権、年会費支払義務等複数の債権債務関係から構成される複合契約であり、預託金返還が争われる場合は、会則等を通じた集団的性格、団体的性格も考慮されるべきである。

2 被告は、預託金返還請求に応じる義務はあるが、今日のような未曾有の不況下で多数の預託金返還請求が累積するような事態は全く予想されていなかったのである。

被告が会員全体の利益を確保するための方策を検討するための時間的余裕も必要である。また、企業の存続を図ることも社会的に必要なことである。

このような状況下で、一部会員が預託金返還請求を強行して、多数の会員の権利を紙屑同然にすることは権利の濫用に近いものがある。

3 いわゆるバブル経済が崩壊して以降、構造的不況が今日もなお継続しており、現在の会員権市場価格は、預託金を大きく下回る一〇〇万円前後で推移している。また、現在、全会員の半数近くが据置期間を経過しているのである。このような状況は、本件規定にいう「天災地変、その他不可抗力の事態」というべきである。

4 施設経営企業と会員との半永久的な高度の信頼関係を基礎とする会員契約の実質的性格を考慮すれば、前記3のような状況下では、少なくとも二年間の据置期間の延長が認められるべきである。

(原告)

1 被告のいう、会員権価格の下落は、現在の不況下における一般的な経済現象にすぎない。これが不可抗力に該当しないことは当然である。また、本件ゴルフクラブの全会員の約半数が据置期間を経過したことが不可抗力に該当しないこともいうまでもない。

2 したがって、被告理事会の決議及び据置期間の延長は無効である。

第三  証拠

本件記録中、書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  判断

一  前記当事者間に争いのない事実によれば、本件ゴルフクラブは被告の経営する預託金会員組織であるところ、原告は、昭和六一年二月五日に五〇〇万円の金員を被告に預託して会員となったものであるが、本件会則による据置期間(一二年間)経過後である平成一〇年一月五日到達の書面により、退会の届けを提出すると共に預託金の返還を求めたものである。

二  被告は、本件ゴルフクラブ理事会の承認を得て、据置期間を延長したと主張し、原告は、右延長は無効であると反論するので検討する。

1  本件ゴルフクラブは被告が経営、運営するものであるから、本件会則は、これを承認して入会した会員と被告との契約上の権利義務の内容を構成するものである。そして、本件会則には、「入会金は、会社に預託し、証券発行日より一二年間据置きとする。但し、天災地変、その他不可抗力の事態が生じた場合、理事会の承認を得て据置き期間を延長することが出来る。」(第七条)との本件規定がある(当事者間に争いがない。)。

2  被告は、現在の不況下において、会員権価格が預託金を大きく下回る状況であることや全会員の半数近くが据置期間を経過していることが、本件規定にいう「天災地変、その他不可抗力の事態」に該当するのであり、本件規定により、平成九年一〇月三日開催の本件ゴルフクラブの定例理事会で承認を得て、据置期間を五年間延長した(甲七)、或いは少なくとも二年間の延長は認められるべきであると主張する。

3  しかし、預託金据置期間の延長は、会員の契約上の基本的な権利に影響を及ばすものであるから、その要件は厳格に解するべきであるところ、本件規定の趣旨は、入会契約当初は予期し得なかったような天災地変及びこれに準ずるような特別の事情が発生したため、預託金の据置期間を延長することが何人にも是認出来る場合に、据置期間の延長を承認する権限を理事会に付与したものと解するべきである。そうすると、被告の主張するような事情は、これに該当しないものといわざるを得ないから、被告の右主張は理由がない。

4  被告は、また、原告の預託金返還請求が権利の濫用に近いとも主張する。しかし、預託金返還請求は、会員の契約上の基本的な権利に基づくものであるから、これが被告の経営を圧迫するということのみで権利の濫用となるものではないといわねばならない。

5  したがって、被告の主張はいずれも理由がない。

三  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

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