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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)381号 判決 2002年3月28日

原告

田島盛輝

被告

髙橋義一

ほか一名

主文

一  被告平田こと黄浩光は、原告に対し、四六五二万八三六〇円及びこれに対する平成七年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告平田こと黄浩光に対するその余の請求及び被告髙橋義一に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の一〇分の四、被告髙橋義一に生じた費用の全部及び被告平田こと黄浩光に生じた費用の一〇分の四を原告の負担とし、原告に生じた費用の一〇分の六及び被告平田こと黄浩光に生じた費用の一〇分の六を同被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して七七二八万六七一四円及びこれに対する平成七年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、四輪自動車と横断歩行者との交通事故に関し、被害者である原告が、四輪自動車の運転者である被告平田こと黄浩光(以下「被告平田」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、また、被告髙橋義一(以下「被告髙橋」という。)に対しては自賠法三条に基づき、原告に生じた損害の賠償を請求した事案である。

一  前提事実

(1)  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生(甲一~三)

ア 発生日時 平成七年二月二八日午後八時三五分ころ

イ 発生場所 神戸市須磨区車字潰ノ下一〇八〇番地先道路(以下「本件事故現場」という。)

ウ 加害車両 被告平田が運転する普通乗用自動車(姫路五七ゆ七四〇四)(以下「本件車両」という。)

エ 被害者 原告

オ 事故態様 本件事故現場を南北に走る県道神戸三木線(以下「本件道路」という。)を南から北に向かい進行中の本件車両が本件道路に設置された横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)上を東から西へ歩行横断中の原告に衝突し、原告を本件車両のボンネットに跳ね上げ、その後路上に転倒させた。

(2)  被告平田の責任(甲二~六、被告平田)

被告平田は、本件車両を運転して本件道路を進行するに当たり、本件横断歩道上の歩行者等の有無及び安全を十分確認して進行すべき義務があるのにこれを怠り、本件横断歩道を横断する歩行者はないものと軽信し、歩行者の有無等を確認しないまま漫然と進行した過失により本件事故を惹起した。

したがって、民法七〇九条により原告に生じた後記損害を賠償すべき責任がある。

(3)  原告の受傷及び治療経過等(甲九~一一)

原告は、本件事故により、全身打撲、多発性挫創、外傷性クモ膜下出血、頭部外傷Ⅲ型、両膝関節多発性靭帯損傷、左肩腱板疎部損傷、頸部捻挫、腰部捻挫、両膝内外側半月板損傷、両下腿打撲、顔面挫創、右膝内側部副靭帯損傷、左膝外側部副靭帯損傷等の傷害を受け、その治療のため、次のとおり入・通院し、平成八年六月五日症状固定の診断を受けた。

ア 大澤病院

入院 平成七年二月二八日~同年三月三日(四日間、初日算入)

イ 水守外科

入院 平成七年三月三日~同年四月二八日(五六日間、初日不算入)

通院 平成七年四月二九日~同年六月三〇日(通院日数一八日)

ウ 西神戸医療センター

通院 平成七年六月二三日及び同月二九日(通院日数二日)

エ 新須磨病院

通院 平成七年七月一二日(通院日数一日)

オ 兵庫医科大学病院

通院 平成七年七月一九日(通院日数一日)

カ 神戸リハビリテーション病院

通院 平成七年八月九日及び同月一七日(通院日数二日)

キ 須磨赤十字病院

通院 平成七年七月二六日~平成八年六月五日(通院日数一〇四日)

(4)  後遺障害(甲一二、一三、弁論の全趣旨)

ア 原告は、平成九年六月、自賠責保険の被害者請求において、両膝の機能障害(一二級七号)、顔面醜状(一二級一三号)、併合一一級の後遺障害等級認定を受けた。

イ 原告が、上記アの認定に異議申立てをしたところ、自賠責保険会社は次のとおり、併合九級の認定をした。

(ア) 左肩の板疎部損傷による機能障害 一〇級一〇号

(イ) 顔面醜状 一二級一三号

(ウ) 右膝の機能障害 一二級七号

(エ) 左膝の機能障害 一二級七号

(オ) 併合 九級

二  争点

(1)  争点一:被告髙橋の責任

(2)  争点二:後遺障害の程度

(3)  争点三:損害額

三  争点に対する当事者の主張

なお、被告平田は、請求棄却の判決を求めるものの、請求原因事実に対して明確な答弁をしていないが、被告平田の本人尋問の内容のほか、弁論の全趣旨に照らすと、同被告は請求原因事実を争っているものと認められる。

(1)  争点一:被告髙橋の責任

ア 原告の主張

被告髙橋は、本件車両の保有者であり、被告平田に本件車両を利用させていたのであるから、自賠法三条により損害賠償責任を負う。被告髙橋は、本件車両につき自賠責保険の保険契約者となっており、運行供用者責任を負うことは明らかである。

イ 被告髙橋の主張

被告髙橋は、平成四年一〇月ころから平成五年四月までの間、実兄である髙橋眞人(以下「眞人」という。)から本件車両を無償で借りていたが、平成五年四月ころには本件車両を眞人に返還しており、その後は本件車両を一切使用していない。このように被告髙橋は、眞人から本件車両を使用貸借として借り受け、その後返還したのであるから、運行供用者責任を負うことはない。

(2)  争点二:後遺障害の程度

ア 原告の主張

原告は、現在、精神的に不安定で、理由なく急に機嫌が悪くなり、攻撃的になるなど、本件事故による高次脳機能障害をうかがわせる精神状態を示しており、西宮協立脳神経外科病院において、「頭部外傷Ⅲ型、外傷性クモ膜下出血、上記病名にて現在精神症状(易怒性、興奮性)がみられる。」「高次脳機能障害の疑いがある。」との診断がなされている。高次脳機能障害の具体的症状は、記憶・記銘力障害、失見当識、知能低下、判断力低下、注意力低下、性格変化、易努性、感情易変、多弁、攻撃性、暴言・暴力などであるが、原告の症状はこれに合致する。

上記一の(4)のとおり、本件事故による原告の後遺障害については併合九級の認定がなされているが、以上の高次脳機能障害に基づく精神症状を勘案すれば、原告の後遺障害は三級三号(少なくとも五級二号)に該当するというべきである。

イ 被告髙橋の主張

否認又は争う。

高次脳機能障害に関する原告の主張は、客観的裏付けに欠ける上、本件事故から六年半が経過して突如として主張されるに至ったものであり、真実に基づかないものであると判断せざるを得ない。

(3)  争点三:損害額

ア 原告の主張

(ア) 治療費 二七四万九一七六円

(内訳)<1>大澤病院 三〇万一二〇五円

<2>水守外科 一六二方二七六八円

<3>西神戸医療センター 二万五〇八〇円

<4>新須磨病院 三万〇一四〇円

<5>兵庫医科大学病院 五七四〇円

<6>神戸リハビリテーション病院 八万七六九〇円

<7>須磨赤十字病院 六七万六五五三円

(イ) 入院雑費等 一二万三四二〇円

(内訳)<1>診断所料 一万五〇〇〇円

<2>テレビレンタル料 五八〇〇円

<3>ひざ固定用サポーター代 一万二六二〇円

<4>その他の雑費

九万円(一日一五〇〇円×六〇日=九万円)

(ウ) 入院付添費 三〇万円

(計算根拠)一日五〇〇〇円×六〇日=三〇万円

(エ) 休業損害 七五〇万円

(計算根拠)<1>平成七年男子労働者六〇歳~六四歳の平均賃金=月額五〇万円

<2>休業期間=平成七年三月~平成八年五月までの少なくとも一五ヶ月間

<3>休業損害の額=<1>×<2>=七五〇万円

(オ) 後遺障害による逸失利益 四三六六万八〇〇〇円

(計算根拠)<1>平成七年男子労働者六〇歳~六四歳の平均賃金=年額六〇〇万円

<2>労働能力喪失率=一〇〇%(三級)

<3>労働能力喪失期間=九年(就労可能年数)

<4>新ホフマン係数=七・二七八

<5>逸失利益の額=<1>×<2>×<4>=四三六六万八〇〇〇円

(カ) 入通院慰謝料 三〇〇万円

(キ) 後遺障害慰謝料 二一〇〇万円

(ク) 以上合計 七八三四万〇五九六円

(ケ) 既払額 ▼八〇五万三八八二円

(コ) 差引合計 七〇二八万六七一四円

(サ) 弁護士費用 七〇〇万円

(シ) 請求額 七七二八万六七一四円

イ 被告髙橋の主張

否認又は争う。

第三争点に対する判断

一  争点一(被告髙橋の責任)について

(1)  前記前提事実、証拠(甲六、七、一四、一五、二〇、三八、三九、乙一、証人髙橋眞人、証人森本勝也、被告髙橋本人、被告平田本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 本件車両は、昭和六三年二月に被告髙橋の実兄である眞人が兵庫日産自動車株式会社から購入したものである。もっとも、購入代金がローン払いであったこと、眞人は本件車両を主として営業用に使用しており、そのローンの二、三割を眞人の勤務先であったむつみ洋服株式会社が負担していたことなどの事情から、車両登録は、所有者を兵庫日産自動車株式会社、使用者をむつみ洋服株式会社として行われた。

イ 本件事故後、本件車両については廃車(抹消登録)手続がとられているが、上記アの車両登録の内容は廃車(登録抹消)に至るまで変更されていない。また、廃車(登録抹消)手続は眞人が行っており、被告髙橋は関与していない。

ウ 被告髙橋は、平成四年一〇月ころ、眞人から本件車両を無償で借り受け、本件車両を使用するようになったが、妻名義で新車(神戸五〇と四九一〇)を購入した平成五年四月ころには本件車両を眞人に返還した。その後、被告髙橋は本件車両を使用していない。

エ 被告平田の妻の兄であり、被告髙橋及び眞人の甥にあたる森本勝也(以下「森本」という。)は、運転免許を取得した後の平成五年八月か九月ころ、眞人から「乗り潰していいから、好きなように乗ってくれ」と言われ、本件車両を自ら管理し、使用するようになった。その際、眞人及び森本は、いずれも双方間で本件車両を無償で譲り渡し又は譲り受けるとの認識であった。

オ 森本は、平成六年に新しい車を買ったため、本件車両をあまり使わなくなった。平成六年の一〇月~一二月ころ、森本は、被告平田が本件車両に乗ることを了承した。その際、被告平田は森本から「借りた」という認識であり、森本は被告平田に「あげた」という認識であった。

カ 被告平田は、本件事故当時、被告髙橋と面識はなかった。

キ 本件事故当時、本件車両には任意保険は付されていなかったが、被告髙橋名義の自賠責保険が付されていた。同自賠責保険は、平成五年二月の車検手続を行った際に被告髙橋名義で付されたものであり、保険期間を平成五年三月二三日~平成七年三月二三日とするものであった。

(2)  そこで判断するに、上記(1)のウのとおり、被告髙橋は眞人から本件車両を無償で借り受けたにすぎず、平成五年四月ころに本件車両を眞人に返還した後は、上記エ及びオのとおり、森本あるいは被告平田が本件車両を管理し、使用していたのであって、被告髙橋には、運行支配も運行利益も存しなかったものと認められる。

この点、原告は、被告髙橋が、本件車両の保有者であり、被告平田に本件車両を利用させており、自賠責保険の保険契約者が被告髙橋であったことからも、同被告の運行供用者責任は明らかである旨主張する。確かに、上記(1)のキのとおり、本件事故当時本件車両には被告髙橋名義の自賠責保険が付されていたのであるが、他方において、被告髙橋が眞人から本件車両の所有権を譲り受けたこと、本件事故当時、被告髙橋が本件車両の管理、使用に関与していたこと等を認めるに足りる的確な証拠はない。かえって、前掲各証拠等によれば、上記(1)のアないしカの事実が認められる。これらの事情に鑑みれば、自賠責保険が被告髙橋名義であったとの事実のみから運行供用者責任を肯定することはできないというべきであり、原告の主張は採用できない。

(3)  よって、自賠法三条に基づく被告髙橋に対する請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。

二  争点二(後遺障害の程度)について

(1)  証拠(甲九、一〇、一三、一七)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により原告には、少なくとも自賠責保険において認定された前提事実(4)のとおりの後遺障害(顔面醜状、左肩及び両膝の機能障害。併合九級)が生じたものと認められる。

(2)  そこで、さらに進んで、原告主張の高次脳機能障害に関する後遺障害について、以下検討する。

ア 証拠(甲四八、四九、五三、五四、証人加地美喜子)及び弁論の全趣旨によれば、原告の精神症状について、次の事実が認められる。

(ア) 本件事故後、原告には、次のとおりの言動等がみられるようになり、上記(1)の後遺障害と相俟って、日常生活に著しい支障を来し、就労が極めて困難になった。

A 感情の起伏や変動が激しく、気分が変わりやすい。

B 場所をわきまえず怒って大声を出す。物をぶつける。

C 話が回りくどく、話の内容を聞き違えたり、取り違えたりして怒る。

D 計画的に物ができず、ころころ気が変わる。何事にも根気がなく、落ち着いて物事ができない。

E トイレ、水道、電気、本、メガネなどの使用後の始末ができない。

F 人が皆自分をバカにしているとか、嘘を言って騙しているなどという。

G すぐに殺気だって、凶暴になる。前頭葉部が重いとか、痛いとか、眼がかすむと言い始めると、感情の起伏が激しくなり、性格が変容する

H 物事を忘れ易い。

(イ) 原告の精神症状に関しては、西宮協立脳神経外科病院において、次の通りの診断がなされている。

A 平成一三年九月二八日

頭部外傷Ⅲ型及び外傷性くも膜下出血にて現在精神症状(易怒性、興奮性)がみられる。

B 平成一三年一一月二〇日

高次脳機能障害の疑いがある。

C 平成一三年一二月二五日

高次脳機能障害の疑いがある。平成七年二月二八日の交通事故との関連の可能性は否定できない。

イ ところで、高次脳機能障害とは、交通事故によって脳に損傷を受け、一定期間以上の意識障害が持続した結果発生する認知障害(記憶・記銘力障害、集中力障害、逐行機能障害、判断力低下等)と人格変化(感情易変、暴力・暴言、攻撃性、幼稚、差恥心の低下、多弁、自発性・活動性の低下、病的嫉妬、被害妄想等)が残遺する障害をいい、その認定については、<1>交通事故によって脳に対する強い外力が加わり、その結果、画像で脳の萎縮や脳室の拡大が認められること、<2>意識障害が一定期間継続していたこと、<3>事故後の性格や人格の変化、知能低下が顕著であること、以上の三点が目安とされている(以上につき甲六二)。

ウ そこで判断するに、原告に上記イの<1>及び<2>に符合する事実が存したか否かについては、これを認めるに足りる証拠はない。しかしながら、上記アの(ア)の原告の言動等は、上記イのとおりの高次脳機能障害の具体的症状の発現形態ととらえることができ、同<3>の事実がうかがえる上、上記アの(イ)のとおり、西宮協立脳神経外科病院においては、原告の精神症状が頭部外傷Ⅲ型及び外傷性くも膜下出血に起因して生じた高次脳機能障害の疑いがあることが指摘されている。また、現在、原告が、本件事故後の精神症状が一因となって日常生活に著しい支障を来し、就労が極めて困難な状態にあることは、上記アのとおりである。これらの事情を総合すれば、原告に高次脳機能障害が生じているとまでは認められないものの、高次脳機能障害の疑いのある精神症状が生じているものと認められ、原告には、上記(1)の後遺障害と相俟って、全体として後遺障害等級第五級に相当する程度の後遺障害が生じていると認めるのが相当である。

三  争点三(損害額)について

(1)  治療費 二七四万九一七六円

証拠(甲九~一一)によれば、本件事故と相当因果関係のある原告の治療費は、原告の主張(上記第二の三の(3)のアの(ア))のとおりであり、二七四万九一七六円と認められる。

(2)  入院雑費等 一一万七六二〇円

原告は、前記前提事実の(3)のとおり、大澤病院及び水守外科において合計六〇日の入院治療を受けているところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、この入院等のため、上記第二の三の(3)のアの(イ)の<1>、<3>及び<4>の雑費等合計一一万七六二〇円を要したものと認められる。同<2>のテレビレンタル料は、同<4>のその他の雑費に含めて算定しているから、重ねて損害に計上することはしないこととする。

(3)  入院付添費 三〇万円

前記前提事実の(3)のとおりの原告の受傷内容及び治療経過等に鑑みると、原告は大澤病院及び水守外科における入院期間中、付添を要する状態にあったといえ、弁論の全趣旨によれば、原告と親しい加地美喜子が実際に原告の付添に当たったことが認められる。また、一日当たりの入院付添費は、原告主張のとおり五〇〇〇円が相当である。そこで、この金額に入院日数六〇日を乗じて計算すると、本件事故と相当因果関係のある入院付添費は三〇万円であると認められる。

(4)  休業損害 五八一万一一二〇円

証拠(甲一、一七、二二、証人加地美喜子)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故以前は会社役員として働いており、本件事故当時(六二歳)は新たな事業の準備中であったが、本件事故により、少なくとも原告主張の一五ヶ月間は稼働することができなかったことが認められる。そこで、平成七年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計六〇歳~六四歳の平均給与額を基礎収入として、原告の休業損害の額を算定すると、次のとおり、五八一万一一二〇円となる。なお、原告は、平成七年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計六〇歳~六四歳の平均給与額を六〇〇万円(月額五〇万円)としているが、弁論の全趣旨によれば、同金額は、四六四万八九〇〇円(月額三八万七四〇八円)と認められる。

(計算根拠)三八万七四〇八円×一五ヶ月=五八一万一一二〇円

(5)  後遺障害による逸失利益 二六一〇万四三二六円

上記二のとおりの原告の後遺障害の内容・程度等に鑑みると、原告は、就労可能と推認される九年間にわたり、その労働能力の七九%(後遺障害等級第五級において一般的とされる労働能力喪失率)を喪失したものと認められる。そこで、平成七年賃金センサス産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計六〇歳~六四歳の平均給与額四六四万八九〇〇円(上記(4))を基に逸失利益の額を算定すると、次のとおり、二六一〇万四三二六円となる。

(計算根拠)四六四万八九〇〇円×七九%×ライプニッツ九年係数七・一〇七八=二六一〇万四三二六円

(6)  入通院慰謝料 二五〇万円

本件事故の態様、原告の受傷内容及び治療経過等を総合すれば、原告の入通院慰謝料としては、二五〇万円が相当である。

(7)  後遺障害慰謝料 一三〇〇万円

上記二のとおり、原告の後遺障害は、後遺障害等級五級に相当するものであり、同後遺障害の内容及び程度を考慮すると、同慰謝料は一三〇〇万円が相当である。

(8)  以上合計 五〇五八万二二四二円

(9)  既払額 ▼八〇五万三八八二円(甲一三及び弁論の全趣旨)

(10)  差引合計 四二五二万八三六〇円

(11)  弁護士費用 四〇〇万円

本件事案の内容、認容額その他諸般の事情を総合すると、原告が本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は、四〇〇万円と認めるのが相当である。

(12)  以上によれば、被告平田は、原告に対し、本件事故に基づく損害賠償として、四六五二万八三六〇円の支払義務があるというべきである。

四  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 西村欣也)

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