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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)729号 判決 1999年1月25日

原告

米崎紀子

ほか二名

被告

末野澄裕

ほか一名

主文

一  被告らは各自、

1  原告米崎紀子に対し、金一四四七万〇三七四円、

2  同渡辺香及び同米崎巧に対し、それぞれ金六五六万〇一八七円、並びに右各金員に対する平成八年七月一二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の求めた裁判

被告らは各自、原告米崎紀子に対して金四五九三万七一一一円、同渡辺香、同米崎巧に対してそれぞれ金一九九四万七七五六円及びこれらに対する平成八年七月一二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  原告らは、後記の交通事故(以下「本件事故」という。)により、死亡した訴外米崎敏章(以下「亡敏章」という。)の相続人かつ妻・子として、加害車の運転者である被告末野と、その使用者であり加害車の保有者である被告会社に対して、亡敏章の死亡により被った損害の賠償を求める。

二  交通事故の発生(当事者間に争いがない。)

1  発生日時 平成八年七月一二日午後一時一〇分ころ

2  発生場所 神戸市垂水区宮本町三番地先交差点内

3  加害車両 普通貨物自動車(神戸七七ゆ五九一六)

4  右運転者 被告末野

5  右保有者 被告会社

6  被害車両 自動二輪車(一神戸み六八〇五)

7  右運転者 亡敏章

8  争いのない範囲の事故態様

西進して右交差点を右折北進しようとした加害車両と、対向直進しようとした被害車両が衝突した。

9  被害程度

亡敏章(昭和一三年一月三〇日生。当五八歳)は、心臓破裂、胸部擦過傷、左大腿部裂傷の傷害を負い、事故当日の午後五時五八分、神戸市垂水区上高丸一丁目三番一〇号所在の神戸徳州会病院において心臓破裂のため死亡した。

三  責任原因

被告末野は、右折するに当たって前方注視義務があるのにこれを怠り漫然進行した過失があるから、民法七〇九条により、損害賠償義務がある。(甲六の1)

被告会社は加害車両の保有者であり、これを自己の運行の用に供していたから、自動車損害賠償保障法三条に基づく賠償責任があり、かつ被告末野の使用者として、民法七一五条による賠償責任がある。(当事者間に争いがない。)

四  原告らの相続

原告紀子は亡敏章の妻であり、原告渡辺香は長女、同米崎巧は長男であって、亡敏章の相続人は右三名である。原告らは法定相続分に従い、亡敏章の遺産を相続した。(甲三の1ないし3)

五  争点

1  過失相殺の当否、程度

(一) 被告ら

事故現場には被害車両、加害車両とも制動痕がまったく残っておらず、亡敏章が適切な制動措置を取らなかったことは明らかである。また、被害車両は、加害車両の左前角から助手席側ドアにかけて衝突しており、亡敏章が前方注視、ハンドル・ブレーキ等の処置を適切に採っていれば全く避け得なかった事故ではない。亡敏章は先行する車両を左側方から追い越して交差点に進入したと考えられ、過失があったから、二〇パーセント程度の過失相殺をすべきである。

(二) 原告ら

被告末野は、対向して近づいてくる車両より前に右折しようと、亡敏章の直近で、早回り、大回り右折をしたものであって、前方不注視が著しい。亡敏章はヘルメットも着用しており、被告末野の供述からしてもせいぜい時速四〇キロメートル程度の速度であって、過失はない。

2  損害

(一) 原告ら

(1) 逸失利益 七二〇一万一〇二三円

亡敏章は事故当時神戸市須磨区の板宿市場内の店舗において「よねさき」の屋号で惣菜屋を経営していた。

事故の前年の平成七年度の収入は阪神淡路大震災の影響があるので基準にできないが、前々年平成六年度の確定申告書によると、売上は二三九五万一五〇〇円であった。純利益は五〇パーセントを下らないので年収は一一九七万五七五〇円であった。生活費割合は三〇パーセントが相当であり、稼働年数一一年のホフマン係数八・五九〇一を乗ずる。

11,975,750×0.7×8.5901=72,011,023

(2) 死亡慰謝料 金三〇〇〇万円が相当である。

一家の支柱である夫・父を失った。

(3) 傷害慰謝料 二〇万円

(4) 葬儀費用 一七六万二六〇〇円

原告紀子が支出した。

(5) 墓碑建立費 三七七万九〇〇〇円

原告紀子が支出した。

(6) 物損 三八万円

(7) 治療費 一九〇万八〇八〇円

(8) 弁護士費用 原告紀子につき四一〇万円、原告巧、同香につき各一八〇万円。

(9) 損害填補

(7)の治療費は支払を得た。

また自賠責の死亡保険金三〇〇〇万円を受領した。

(二) 被告ら

(1) 逸失利益算定における基礎収入

亡敏章の平成六年の所得は確定申告書によれば五七八万六四九七円に過ぎない。

原告らが亡敏章の実際収入の根拠として主張する、営業収入における利益率は異常な高率であり、通常の経費すらも算入していない不当なものである。

亡敏章の所得に占める生活費割合は、原告米崎巧、同渡辺香が三三歳、三一歳で、それぞれ独立して家庭も持っていることから、四〇パーセントが相当である。

(2) 墓碑建立費

葬儀費用と合わせた定額の認定に止めるべきである。

第三判断

一  過失相殺について

1  本件事故は、西進して交差点を右折北進しようとした加害車両と、対向して東へ直進しようとした亡敏章運転の被害車両が衝突したものである。事故現場は直線の東西方向の道路(国道二号線)から北方へほぼ同幅員の道路が分かれて伸びる三叉路となった、通称商大線交差点で、信号機による交通整理が行われている。加害車両の進行してきた西行き車線は交差点直前で、外側の直進車線幅員三・〇メートルと内側の右折用車線幅員二・七メートルに分かれ、被害車両の進行してきた東行き車線は一車線である。時速五〇キロメートルの速度制限がある。(甲二二、乙一の1、4)

2  被告末野(四二歳)は、勤務先である被告会社の営業社員として、加害車両を運転して得意先を回っている途中であった。真夏の昼下がりで、天候は晴れていた。

被告末野が、事故の起きた交差点に来たとき、対面信号は青であった。対向して東進してくる白色の普通乗用車を前方に認めたが、その車両の速度を遅く感じたために、その前に右折を終えようとして、交差点中央にまで進まず、早めに、停止線の手前から右折を始めた。右折先の道路状況に注意を奪われていて、中央線(交差点内にも中央線が点線で表示してある。)を越えようとした辺りで初めて、対向の乗用車より前を近づいてくる被害車両を発見し、急制動したが間に合わず、加害車両の左前角付近に被害車両の前部が衝突した。加害車両は衝突して一・一メートルほどで停止し、被害車両と亡敏章は加害車両の左手に別々に倒れた。被告車両の左前バンパー、左前フェンダー、左方向指示灯が損傷し、被害車両は前部カウル、ヘッドライトが損傷した。双方車両の制動痕は残っていなかったが、衝突位置のすぐ西側に被害車両の擦過痕が筋状に残っていた。(乙一の1、4、6、11、13、14)

3  右事実によると、右折しようとした被告末野が、普通乗用車の前を右折しようとして、対向直進してくる被害車両を見落としたことが、事故の最大の原因と認められる。

被告末野の供述調書中には、被害車両の速度が五〇キロメートル程度であったとか、四〇キロメートル程度であったとかの供述がある(乙一の13、14)。とっさの感覚的な記憶であり、その速度に関する供述は必ずしも信用できないが、被害車両の速度が著しく速かった訳ではないことを示している。現に同被告は、被害車両が乗用車を追い越してきたとは感じなかったと供述している(乙一の14)。そして、擦過痕から見て被害車両は衝突前既に転倒状態であったと推定される。

そうすると、亡敏章は、進路前方を横切ろうとする加害車両に驚いて急制動して転倒するとほぼ同時に加害車両に衝突したものと推定されるが、衝突後の停止距離からして加害車両の速度が異常に速いものであったとは認められない。

右事実からすると、亡敏章にも、自動車運転者として、交差点を直進する際に、対向してくる車両の動向に対する注意が欠けていた憾みがあると言わざるを得ず、一割の過失相殺をするのが相当である。

二  損害について

1  逸失利益

亡敏章は、神戸市須磨区所在の板宿市場内の店舗において「よねさき」の屋号で惣菜屋を経営していた。事故の前々年の平成六年度の確定申告書によると、亡敏章の同年度の所得は五七八万六四九七円であった(甲二五の1)。これが同人の稼働による所得であり、同人が生存していれば得ることができたであろう収入を認定する基礎収入とするのが相当である。

原告らは、営業収入としては、右申告書記載の二三九五万一五〇〇円を基礎としつつ、経費はその半分に止まり、亡敏章の純利益は年額一一九七万五七五〇円を下らない、と主張し、原告米崎巧も同様に供述し、亡敏章死亡後に原告巧が営業を再開してのちの売上と経費とを記帳した資料(甲七、八、一六、一七の1ないし6、一八の1ないし6、一九の1ないし6、二〇の1、2、二一)も右主張に副っている、という。

けれども、平成六年度の右申告書によると、さまざまな経費を控除した結果、亡敏章の所得が前記のとおり五七八万円余である旨申告されており、その経費が必要であったことを否定できる何の資料もない。むしろ、これらの経費科目と対照すると、原告らが主張する経費は、実際の営業に要した経費の一部しか計上していないものであって、とうてい信用できない。現に、亡敏章の従業員(専従者)であった原告巧が営業を再開したあとの平成九年度における(平成八年度は亡敏章の死亡の年であり、三か月は営業を休んだという。)営業収入は一八〇〇万円余であったが、経費を差し引くと所得は三〇〇万円足らずであったというのであり(甲二五の3)、このことも前記平成六年度の申告内容が適正であったことを裏付けている。

次に亡敏章の生活費としては、妻と二人暮らしで、子らは既に結婚して独立していた(巧は亡敏章の事業専従者であった。)ことや、所得金額からすると、亡敏章の所得に占める生活費割合を四割とするのが相当である。

そして当時五八歳であって、本件事故で死亡しなければ、一一年は稼働することができたと考えることができるから、新ホフマン方式により中間利息を控除すると、逸失利益は二九八二万三九五二円となる。

5,786,497×(1-0.4)×8.5901=29,823,952

2  慰謝料

本件事故により亡敏章及びその妻子である原告らが受けた精神的苦痛を慰謝するには、三〇〇〇万円をもって相当とする。なお、右金額は、事故発生から死亡までの時間的な経過をも考慮したものであって、別異に傷害慰謝料を認定するまでもない。

3  葬儀費用

事件事故と相当因果関係のある損害としては、一五〇万円が相当である。

なお、原告らは墓碑建立費用の賠償をも請求するが、葬儀費用は社会的な慣習に根ざした支出であって、事故に原因する損害と言えるが、墓碑の建立は、遺族の故人に対する思慕の念の表れであり、個人的な宗教的感情に出たものというべく、損害賠償の対象となる支出とは言えない。

4  物損

亡敏章が運転していた自動二輪車は、本件事故により全損した(乙一の1、4、7)。この車両は、事故の七月前の平成七年一二月に購入されたヤマハマジェステイ二五〇ccであり(甲六の2)、弁論の全趣旨によると、本件事故当時その価値は一〇万円を下らなかったものと思われるが、これを超える額については的確な証拠がない。

5  治療費

亡敏章の死亡までに、治療費一九〇万八〇八〇円を要したことは当事者間に争いがない。

6  過失相殺

以上によると、亡敏章の死亡による損害は合計六三三三万二〇三二円となるところ、前記のとおり一割の過失相殺をすると、原告らが賠償を求め得るのは、五六九九万八八二八円である。

7  損害填補

原告らが、自賠責保険から、既に前記の治療費一九〇万八〇八〇円のほか、三〇〇〇万円の填補を得たことは争いがなく、これを控除すると、残額は二五〇九万〇七四八円となる。

8  弁護士費用

原告らが、原告訴訟代理人に本訴の提起遂行を委任したことは顕著な事実であるところ、右認容額のほか、本訴の経過等の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害と言える弁護士費用は、二五〇万円が相当である。

9  相続による分割

そうすると、原告らが賠償を求め得る総損害額は二七五九万〇七四八円となる。このうち葬儀費用は弁論の全趣旨によると、原告紀子が支出したのと認められるから、その認容額のうち過失相殺後の一三五万円を除く、残る損害総額を相続分に応じて分割すると、原告紀子は一三一二万〇三七四円、原告香、同巧は各々六五六万〇一八七円となる。原告紀子分に葬儀費用分一三五万円を加算すると一四四七万〇三七四円となる。

三  結論

よって、原告らの請求は、右認定の金額と、事故の日から各支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却することとして、民事訴訟法六一条、六四条本文、二五九条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下司正明)

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