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神戸地方裁判所 平成10年(行ウ)25号 判決 2004年5月18日

主文

1  甲事件-Aふるさと館敷地代金請求懈怠事件

(1)  被告B市長が,訴外A振興会に対し,Aふるさと館の敷地代金1489万7857円の請求を怠っている事実は違法であることを確認する。

(2)  被告Cは,訴外B市に対し,2242万円に対する平成3年11月20日から平成8年4月21日まで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  被告Dは,訴外B市に対し,次の各金員を支払え。

ア  金2242万円に対する平成8年6月22日から平成11年3月29日まで年5分の割合による金員

イ  金1489万7857円に対する平成11年3月30日から同月31日まで年5分の割合による金員

ウ  金1489万7857円に対する平成11年4月25日から被告B市長がA振興会に対し地方自治法240条2項に定める必要な措置をとるまで年5分の割合による金員

(4)  原告のその余の甲事件請求を棄却する。

2  乙事件-市道管理懈怠事件

原告の乙事件の訴えをいずれも却下する。

3  訴訟費用の負担

訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告(請求の趣旨)

(1)  甲事件(Aふるさと館敷地代金請求懈怠事件)について

ア 被告B市長が,訴外A振興会に対し,Aふるさと館の敷地代金2242万円の請求を怠っている事実は違法であることを確認する。

イ 被告C及び被告Dは,連帯して,訴外B市に対し,平成元年10月20日からAふるさと館の敷地代金が完済されるまで,毎年10月20日が経過するごとに,112万1000円を支払え。

(2)  乙事件(市道管理懈怠事件)について

ア 被告B市長が,B市a町b番土地の西側の市道1188号の道路行政上の管理を怠っている事実は違法であることを確認する。

イ 被告B市長が,B市a町b番土地の北側の市道1229号の道路行政上の管理を怠っている事実は違法であることを確認する。

ウ 被告B市長が,B市a町b番土地の北側の市道1229号の財産的管理を怠っている事実は違法であることを確認する。

(3)  付随的申立て

ア 訴訟費用は被告らの負担とする。

イ この判決は仮に執行することができる。

2  被告(請求の趣旨に対する答弁)

(1)  本案前の答弁

原告の乙事件(市道管理懈怠事件)の訴えをいずれも却下する。

(2)  本案の答弁

原告の甲事件(Aふるさと館敷地代金請求懈怠事件),乙事件(市道管理懈怠事件)請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用の裁判

訴訟費用は原告の負担とする。

第2事案の概要等

1  B市について

次の事実は,当事者間に争いがない。

(1)  兵庫県K郡B町(以下「旧B町」という。)は,平成11年4月1日,近隣3町(L町,M町,N町)と合併し,B市となった。

(2)  上記4町(旧B町,L町,M町,N町)の町長は,いずれも,平成11年3月31日をもって,町長の資格を喪失し,B市長選挙を経て,同市の最初の市長が誕生したのは,平成11年4月25日であった。したがって,平成11年4月1日から同月24日までの間は,B市には,市長が存在しない状態であった。

2  甲事件(Aふるさと館敷地代金請求懈怠事件)について

(1)  次の事実は,当事者間に争いがない。

ア 平成元年に,農村地域定住促進対策事業の一環として,特産物等の直売などを目的とするAふるさと館が,旧B町に建設されることとなり,旧B町が,代金を支出して,同館建設用地を取得し,A振興会が,同館の運営,管理を行うこととなった。

イ そして,旧B町長とA振興会との間で,2年以内に,同会が,同町に対し,同町の支出したAふるさと館建設用地代金相当額を支払う旨の合意(以下「本件合意」という。)がなされた。

(2)  本件は,原告が,「被告B市長は,本件合意に基づいて発生したA振興会に対するAふるさと館の敷地代金(以下『本件敷地代金』ないしは『本件債権』という。)の請求をせず,その請求を違法に怠っている。」と主張して,同市長が本件敷地代金の請求を怠る事実の違法確認を求めるとともに,現職の市長及び前任の町長である被告2名に対し,B市に代位して,本件敷地代金に対する金利相当額の賠償を求めている事案である。

3  乙事件(道路管理懈怠事件)

本件は,原告が,「被告市長は,B市a町b番の土地(以下,単に『b番土地』という。)の西側市道1188号(以下『本件1道路』という。)の道路行政上の管理,並びに,同北側市道1229号(以下『本件2道路』という。)の道路行政上及び財産上の管理を違法に怠っている」(別紙図面参照)と主張して,同市長が本件1,2道路の管理を怠る事実の違法確認を求めている事案である。

第3当事者の主張

1  甲事件(Aふるさと館敷地代金請求懈怠事件)について

(1)  原告(請求原因)

ア 当事者

(ア) 原告は,兵庫県B市(旧B町)の住民である。

(イ) 被告Cは,昭和59年4月22日から平成8年4月21日までの間,旧B町長の職にあった者である。

(ウ) 被告Dは,平成8年4月22日から平成11年3月31日までの間,旧B町長の職にあり,平成11年4月25日,B市長に就任し,以後現在まで,B市長の職にある者である。

イ 本件債権の発生

(ア) 本件合意の成立

旧B町長被告CとA振興会会長E(以下「E」という。)は,平成元年9月20日,Aふるさと館の建設用地の取得に関し,次の内容の合意(本件合意)をした(乙1)。

a 旧B町がAふるさと館建設用地を取得するものとする。

b 旧B町は,Aふるさと館に関する建設工事がすべて完了した時点で,同館の運営,管理全般をA振興会に委託するものとする。

c A振興会は,bの委託がなされた日から2年以内に,旧B町に対し,同町の支出した敷地代金相当額を支払うこととする。

d 旧B町の所有に係るAふるさと館の敷地は,A振興会が同町に敷地代金相当額を支払った時点で,同町が同振興会に移譲するものとする。

e 旧B町の所有に係るAふるさと館建物及び関連施設については,一定期間経過後,同町がA振興会に移譲するものとする。

(イ) 旧B町の支出

旧B町は,平成元年1月17日,2242万円を支出して,Aふるさと館の建設用地(以下「本件敷地」という。)を取得した。

(ウ) A振興会への管理,運営の委託

旧B町は,平成元年10月13日,地方自治法244条の2第1項に基づき,「Aふるさと館設置及び管理に関する条例」を制定し,同月20日,A振興会に対し,Aふるさと館の管理,運営を委託した。

ウ 怠る事実の違法性

上記イの結果,旧B町は,本件債権を取得し,A振興会は,Aふるさと館の管理,運営の委託を受けた日の2年後である平成3年10月20日までに,旧B町に対し,本件敷地代金2242万円を支払うこととなった。

それにもかかわらず,被告Cは,町長在任期間中,A振興会に対し,本件敷地代金2242万円を請求しなかった。

また,被告D(被告市長)も,町長に就任してから現在に至るまで,A振興会に対し,本件敷地代金2242万円を請求していない。

したがって,被告市長が,本件敷地代金2242万円の請求を怠る事実は違法であり,被告C及び被告Dには,A振興会に対し,本件敷地代金2242万円を容易に請求できたにもかかわらず,これを違法に怠った過失がある。

エ B市の損害

被告C及び被告D(被告市長)が,A振興会に対し,本件敷地代金の請求を違法に怠ったことにより,B市には,本件敷地代金2242万円に対する平成元年10月20日から現在に至るまで年5分の割合による金利相当額の損害が生じた。

そして,被告Dが,今後も引き続き,A振興会に対する本件敷地代金2242万円の請求を怠ることにより,B市には,本件敷地代金2242万円に対する金利相当額の損害がさらに生じることとなる。

オ 監査請求

原告は,平成10年3月25日,旧B町監査委員に対し,被告Dが,A振興会から本件敷地の使用料を徴収するか,A振興会の同土地の使用を禁ずる等の措置をとるよう,監査請求を行った。しかし,同委員は,措置の必要を認めないとして,同年5月29日付け「住民監査請求に係る監査結果について」と題する書面を原告に送付した。

カ まとめ

よって,原告は,平成14年法律103号による改正前の地方自治法(以下,単に「法」という。)242条の2第1項3号に基づき,被告市長が,A振興会に対し,本件敷地代金2242万円の請求を怠る事実の違法確認を求めるとともに,被告C及び被告Dに対し,同条1項4号に基づき,B市に代位して,平成元年10月20日以後本件敷地代金2242万円が完済されるまで,毎年10月20日が経過するごとに,本件敷地代金2242万円に対する年5分の割合による金利相当額である112万1000円を,B市に支払うことを求める。

(2)  被告(請求原因に対する認否及び反論)

ア 請求原因ア(当事者)は認める。

イ 請求原因イ(本件債権の発生)について

請求原因イ(本件債権の発生)のうち,(ア)(本件合意の成立)及び(ウ)(A振興会への管理,運営の委託)は認め,(イ)(旧B町の支出)は否認する。

本件敷地の取得に要した費用は,2242万円ではなく,2933万5357円である。

ウ 請求原因ウ(怠る事実の違法性)について

(ア) 認否

請求原因ウ(怠る事実の違法性)のうち,被告らが,本件債権につき,何らの法的措置をとっていないことは認めるが,被告らが,過失により,違法に本件敷地代金の請求を怠ったとの主張は争う。

(イ) 反論

a A振興会は,金融機関などから,借入れを起こさなければ本件敷地代金相当額を捻出できないことが明らかであり,仮に,被告らが,同会に対し,本件敷地代金相当額の支払を求める訴訟を提起したとしても,同会の資産状況からみて,奏功する目処は乏しく,訴訟費用倒れになる蓋然性が高かった。

b また,Aふるさと館事業は,国及び兵庫県から総額2928万6000円の補助金を受けて立ち上げられた事業であるところ,仮に,A振興会への管理委託の解消,Aふるさと館の閉館という事態となれば,B市が,国や兵庫県から,補助金の返還を命じられるおそれがあったため,本件敷地代金を請求するに際しては,かかる事情に配慮せざるを得ない状況にあった。

c さらに,上記(1)イ(ア)cの本件敷地代金相当額は,いまだ具体的数値が不確定であり,B市とA振興会との間における協議を経なければ確定せず,特に,このような不確定な金額に対する金利相当額の支払義務を観念することは到底できない。

d 以上より,被告らが,過失により,違法に本件敷地代金の請求を怠っているとはいえない。

エ 請求原因エ(B市の損害)について

(ア) 認否

請求原因エ(B市の損害)はいずれも争う。

(イ) 反論

a 本件敷地は,旧B町(旧B町土地開発基金)が,合計2933万5357円を支出して取得しているところ,本件敷地のうち,実測地積163.90平方メートル分については,平成2年4月,国道用地として,442万5300円で国に売却され,実測地積336.71平方メートル分については,平成11年3月,市道用地として,1001万2200円で旧B町に売却され,合計1443万7500円が,国及び旧B町から,旧B町土地開発基金に支払われた。

したがって,最大限に見積もっても,現在の本件敷地代金は1489万7851円であり,観念しうるB市の損害額も1489万7851円である。

b また,現在の本件敷地の所有者は,B市(B市土地開発基金)であるところ,本件敷地の1平方メートルあたりの単価は3万1000円であり,本件敷地全体の評価額は3040万円程度である。

c 以上より,本件敷地の所有権はB市(B市土地開発基金)にあり,本件敷地の評価額(3040万円)が,本件敷地代金(1489万7851円)を上回る以上,B市に損害は生じていない。

オ 請求原因オ(監査請求)は認める。

2  乙事件(道路管理懈怠事件)について

(1)  原告(請求原因)

ア 当事者

前記1(1)アと同旨

イ 怠る事実の違法性

(ア) 本件1道路について

a 訴外F(以下「訴外F」という。)は,b番土地の所有者であるが,b番土地と本件1道路との境界線を1メートル以上も越境して,b番土地から本件1道路上にかけて建物(以下「b番建物」という。)を建築した(別紙図面参照)。

b 被告市長は,道路管理者として,道路としての機能を確保したり,障害物を除去するなどの義務を負っているところ,b番建物が本件1道路上に越境して建築されたことにより,同道路は幅員が狭まり,道路としての機能を損なっているため,被告市長には,同建物を除去する義務がある。

それにもかかわらず,被告市長は,b番建物につき,何らの措置も講じようとせず,これを放置している。

c したがって,被告市長のb番建物につき何らの措置も講じない不作為には,本件1道路の道路行政上の管理を怠った違法がある。

(イ) 本件2道路について

a 財産的管理について

(a) 被告Dは,平成9年9月2日,訴外Fとの間で,b番土地と本件2道路との境界につき,官民境界協定(以下「本件協定」という。)を締結した。

(b) しかし,本件協定の結果,民有地とされた別紙図面記載の斜線部分の土地(以下「本件斜線部分土地」という。)は,もともと,旧B町が所有する本件2道路敷地の一部であり,被告Dの本件協定締結行為は,市有財産である本件2道路敷地の一部を訴外Fに贈与したことにほかならず,違法である。

そして,現在に至るまで,被告市長は,訴外Fに対し,本件斜線部分土地の返還を求めていない。

(c) したがって,被告市長が,訴外Fに対し,本件斜線部分土地の返還を求めない不作為には,本件1道路の財産的管理を怠った違法がある。

b 道路行政上の管理について

(a) 訴外Fは,本件協定締結後,本件斜線部分土地上に,自動販売機を設置し,同販売機上に屋根を建築したが,その結果,雨水が同屋根上から本件2道路に流れ出るようになり,同道路の通行人に危険が生じ,本件2道路は道路としての機能を損なっている(別紙図面参照)。

(b) 被告市長は,道路管理者として,道路としての機能を確保したり,障害物を除去するなどの義務を負っており,本件2道路についても,道路としての機能を確保するため,上記自動販売機及び屋根を除去する義務を負っているところ,被告市長は,何らの措置も講じようとせず,これを放置している。

(c) したがって,被告市長の上記自動販売機及び屋根につき,何らの措置も講じない不作為には,本件2道路の道路行政上の管理を怠った違法がある。

ウ B市の損害

(ア) 本件1道路について

被告市長が本件1道路の道路行政上の管理を違法に怠ることにより,B市には本件1道路が道路としての機能を損なうという損害が生じた。

(イ) 本件2道路について

被告市長が本件2道路の財産的管理を違法に怠ることにより,B市には本件斜線部分土地相当額の損害が生じた。

また,被告市長が本件2道路の道路行政上の管理を怠ることにより,B市には本件2道路が道路としての機能を損なうという損害が生じた。

エ 監査請求

原告は,平成10年3月25日,旧B町監査委員に対し,被告市長が本件1,2道路の適切な管理を行うよう監査請求を行った。しかし,同委員は,措置の必要を認めないとして,同年5月29日付け「住民監査請求に係る監査結果について」と題する書面を原告に送付した。

オ まとめ

よって,原告は,法242条の2第1項3号に基づき,被告市長が,本件1道路の道路行政上の管理並びに本件2道路の財産的管理及び道路行政上の管理を怠る事実の違法確認を求める。

(2)  被告(本案前の答弁の理由)

ア 住民訴訟の対象

法242条の2に定める住民訴訟の対象となるのは,法242条1項に定める財務会計上の行為又は怠る事実であるところ,道路の管理については,道路としての機能の維持,発揮に支障が生じないようにするための道路行政上の管理の面と,道路の財産的価値の維持,保全を目的とする財産的管理の面とがあり,住民訴訟の対象となるのは,財産的管理の面に限られる。

イ 本件についてのあてはめ

この点,本件1,2道路は,いずれも,国の所有する道路であり,B市は,道路法8条1項,16条1項に基づき,本件1,2道路につき,道路行政上の管理を行っているにすぎず,財産的管理の権限を有しない。

したがって,本件1,2道路に係る訴えは,いずれも,住民訴訟の対象とはならない。

ウ まとめ

以上より,乙事件(道路管理懈怠事件)に係る訴えは,いずれも,住民訴訟の対象とはならず,不適法であるから,却下されるべきである。

(3)  被告(請求原因に対する認否)

ア 請求原因ア(当事者)は認める。

イ 請求原因イ(怠る事実の違法性)は争う。

ウ 請求原因ウ(B市の損害)は争う。

エ 請求原因エ(監査請求)は認める。

理由

第1甲事件(Aふるさと館売却代金請求懈怠事件)の検討

1  争いのない事実

請求原因ア(当事者),同イ(ア)(本件合意の成立),同イ(ウ)(A振興会への管理,運営の委託),同オ(監査請求)は,当事者間に争いがない。

2  事実の認定

上記1の争いのない事実に,証拠(甲2,乙1ないし4〔枝番を含む〕,6ないし9,証人G,証人E〔一部〕,証人H,証人I,被告C本人)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。

(1)  本件合意の成立に至る経緯

ア 本件事業の立ち上げ

旧B町は,国及び兵庫県から合計2928万6000円の補助金を受けて,新農村地域定住促進対策事業の一環として,Aふるさと館を建設し,同館において,特産物の加工,直売,郷土料理の提供,ふるさと文化の伝承に関する事業(以下「本件事業」という。)などを行うこととなった(乙2,3,証人G,被告C本人)。

イ 事業主体の変更

本件事業は,当初,地元住民を構成員とする民間団体が事業主体となって行われる予定であり,かかる計画のもとに,本件事業の事業主体として,A振興会が発足した(被告C本人)。

A振興会は,会員を50名募集し,会員1人につき100万円,合計5000万円の出資金を募ったうえで,Aふるさと館建設用地の取得,同館の建設,運営,管理を行っていく予定であったが,結局,会員20名,合計2000万円の出資金しか集まらなかった(被告C本人)。

そこで,旧B町は,A振興会が2000万円の出資金で本件事業をすすめていくことは困難であると判断し,同町が事業主体となることとなった(被告C本人)。

ウ 本件敷地の取得

旧B町(旧B町土地開発基金)は,平成元年1月17日,2933万5357円を支出して,Aふるさと館建設用地として,本件敷地を取得した(乙3,証人E,被告C本人)。

なお,本件敷地は農地(地目は畑)であったが,公共事業に係る農地転用の事前協議書を農業委員会に提出し,協議が整ったので,旧B市への所有権移転登記を了したものであり,登記簿上の地目は依然として畑のままである(乙8,9,被告らの平成15年9月8日付け準備書面第1の2)。

エ 事業主体の再変更計画

上記イのとおり,当初の計画は変更されたものの,もともと,本件事業は,A振興会が事業主体となるべく立ち上げられたものであったことから,旧B町では,本件事業が始まってしばらくの間は,事業主体は旧B町のままで,Aふるさと館の運営,管理のみをA振興会に委託するという形をとるが,一定期間が経過した後は,A振興会が,Aふるさと館の敷地及び建物所有権を取得し,本件事業の事業主体に戻る方が望ましいと考えられていた(被告C本人)。

(2)  本件合意の締結及び覚書の手交

ア 上記(1)アないしエの次第で,旧B町長被告CとA振興会会長Eは,本件合意を成立させ,平成元年9月20日,本件合意を証すべく,両名間で,下記の内容が記載された覚書を手交した(乙1)。

第1条 旧B町は,Aふるさと館に関する建設工事がすべて完了した時点において,その運営管理全般についてA振興会に委託するものとする。

第2条

1項 旧B町は,Aふるさと館の事業主体となり,A振興会と協力して補助金獲得並びに円滑な工事竣工につとめ,A振興会は補助金残金及び補助対象外経費について,これを負担するものとする。

第3条 Aふるさと館建設用地は旧B町が取得するものとする。ただし,A振興会は,第1条の規定による委託契約を締結した日より2か年以内に,旧B町が取得した敷地代金相当額を旧B町に支払うものとする。

第4条 第3条に関する旧B町の所有に係る敷地については,A振興会が旧B町に敷地代金を支払った時点で,A振興会の所有に帰するよう移譲するものとする。

第5条 旧B町の所有に係るAふるさと館及び関連施設については,一定の期間が経過した後,A振興会に移譲するものとする。

第6条 上記条項に定めるほか,必要な事項は,旧B町とA振興会との間で,協議するものとする。

イ なお,覚書第3条において,「敷地代金相当額」という抽象的な定め方がされたのは,本件合意当時,すでに後記(4)の国道372号線の拡幅計画が持ち上がっており,Aふるさと館建設用地の一部を国道用地へ供出する予定であったため,敷地代金相当額を確定させることができないという事情があったからであった(被告C本人)。

(3)  A振興会への管理,運営の委託

旧B町は,Aふるさと館の管理,運営をA振興会に委託するため,平成元年10月13日,地方自治法244条の2第1項に基づいて,「Aふるさと館設置及び管理に関する条例」を制定し,同月20日,同条例に基づき,A振興会に対し,本件敷地及びAふるさと館の管理,運営を委託した(乙2,3)。

その結果,上記(2)ア覚書第3条により,本件債権の支払期限は,平成3年10月20日となった。

(4)  本件敷地の一部売却

ア 本件敷地のうち,実測地積163.90平方メートルの部分は,国道372号線拡幅工事のため,国に供出されることとなり,平成2年4月15日,442万5300円で国に売却され,同年6月13日,同金額が旧B町(旧B町土地開発基金)に支払われた(乙6,7)。

イ また,本件敷地のうち,実測地積336.71平方メートルの部分は,町道AK線拡幅工事のため,旧B町に供出されることとなり,平成11年3月30日,旧B町に1001万2200円で売却され,同金額が,旧B町(旧B町土地開発基金)に支払われた(乙4の2)。

(5)  B市のA振興会に対する本件債権の行使状況

ア 平成元年10月21日から平成3年10月20日まで(本件債権の履行期限経過前)の期間について

被告Cは,本件事業が軌道に乗るまでには時間がかかるため,Aふるさと館がオープンして2年間は,本件敷地代金の支払を猶予するとの考えを持っていたことから,被告Cは,平成元年10月20日から平成3年10月20日までの間,A振興会に対し,本件敷地代金相当額の請求をしなかった(被告C本人)。

イ 平成3年10月21日から平成8年4月21日まで(本件債権の履行期限経過後被告Cの町長資格喪失日まで)の期間について

被告Cは,平成3年11月21日から平成8年4月21日までの間,旧B町の職員を通じて,A振興会に対し,何度か,口頭で,本件敷地代金相当額の支払をするよう申し入れた(被告C本人)。

もっとも,被告Cは,本件事業がそれほど軌道に乗っておらず,A振興会に十分な資金がないと考えていたことから,支払の申入れを強く行ったことはなく,期限を指定しての督促,支払を求めるための法的措置の検討などは行わなかった。

ウ 平成8年4月22日から平成11年3月31日までの期間(被告Dの町長在任期間)について

(ア) 被告Dは,平成11年3月ころ,近隣3町との合併を目前に控え,合併前に本件債権に関する問題を処理しておいた方がよいとの考えから,H総務課長を通じて,A振興会に対し,本件敷地代金相当額として,約1500万円を支払うよう要請した(証人H,証人I)。

本件敷地代金を約1500万円と算定したのは,本件敷地代金取得額(2933万5357円)から,本件敷地の一部が国道用地,旧町道用地に供出されたことにより,旧B町(旧B町土地開発基金)に返還された額(合計1443万7300円)を差し引いた額が,おおむね約1500万円となるからであった(証人H)。

(イ) A振興会の会員らは,上記(ア)の要請があったことから,緊急総会を開催した(証人I)。

その結果,A振興会は,上記(ア)の要請に応じ,会員全員の連帯債務で銀行から借入れを行ったうえで,旧B町に対し,約1500万円を支払うこととなり,実際に,銀行からの借入準備を行った(証人I)。

(ウ) ところが,被告Dは,A振興会から約1500万円の支払を受けるとなると,補正予算の計上が必要となったり,その他事務が複雑になるなどの事情もあり,合併前にすべての事務を処理するのは困難であると考えた。

(エ) そこで,被告Dは,A振興会に対し,約1500万円の支払はちょっと待ってくれと言って,A振興会がせっかく旧B町に約1500万円の支払の準備をしていたのに,その支払を中止させた(証人E,証人H,証人I)。

エ 平成11年4月25日以降の期間(被告Dの市長在任期間)について

(ア) B市には,合併直後ころ,合併に伴うさまざまな事務などがあったこともあり,被告Dは,A振興会に対し,本件敷地代金相当額の請求をせず,その後も,同請求をしない状態が続いた。

(イ) 被告Dは,平成12年ころ,G農林振興課長を通じて,A振興会に対し,何度か,口頭で,本件敷地代金相当額の支払をするよう申し入れた(証人G)。

もっとも,被告Dは,A振興会に対し,支払の申入れを強く行ったことはなく,期限を指定しての督促,支払を求めるための法的措置の検討などは行わなかった(証人G)。

(ウ) 結局,被告Dは,現在まで,A振興会に対し,本件債権に関し,期限を指定しての督促を行ったり,訴えを提起するなどの法的措置はとっていない。

3  被告らの過失の検討

(1)  法,法施行令の規定

ア 普通地方公共団体の有する債権につき,法240条2項,法施行令171条は,普通地方公共団体の長は,履行期限までに履行しない債権があるときは,期限を指定してこれを督促し,また,強制執行などの必要な措置をとらなければならないとして,履行期限経過後の債権は,直ちにこれを行使すべき旨規定している。

そして,履行期限経過後の債権の期限の延長につき,法240条3項,法施行令171条の6第1項は,普通地方公共団体の長は,法施行令171条の6第1項各号の事情がある場合に限り,債権の履行期限を延長する特約又は処分をすることができる旨規定している。

他方,履行期限経過前の債権についてとるべき措置については,法は,何ら規定していない。

イ 上記アの法,法施行令の規定に照らせば,普通地方公共団体の有する債権のうち,履行期限経過前の債権の行使については,長に広範な裁量を認める一方,履行期限経過後の債権の行使については,原則として,長の裁量を認めず,法240条3項,法施行令171条の6第1項に基づく履行期限延長の特約又は処分のないかぎり,債権の行使を差し控えることはできないというのが法の趣旨であると解される。

ウ 上記イの法の趣旨にかんがみれば,履行期限経過後の債権については,法240条3項,法施行令171条の6第1項各号に基づく履行期限延長の特約又は処分のない場合には,特段の事情のない限り,長が債権を行使しないことは過失を構成すると解するのが相当である。

他方,履行期限経過前の債権については,これを行使しないことが著しく不合理であるような特段の事情がない限り,長が債権を行使しないことを過失と評価することはできないと解するのが相当である。

(2)  本件へのあてはめ

ア 被告Cについて

(ア) 平成元年10月21日から平成3年10月20日まで(本件債権の履行期限経過前)の期間について

a 被告Cが,平成元年10月21日から平成3年10月20日までの間,A振興会に対し,本件敷地代金相当額を請求しなかったことは,前記2(5)アで認定したとおりであるが,前記2(2)(3)で認定したとおり,本件債権の履行期限は,平成3年10月20日であるため,本件債権の不行使が著しく不合理であるような特段の事情がない限り,被告Cに過失があると評価することはできない。

これを本件についてみるに,被告Cが,A振興会に対し,平成元年10月21日から平成3年10月20日までの間,本件敷地代金相当額を請求しなかったのは,本件事業が軌道に乗るには時間がかかると考えていたためであり(前記2(5)ア),かかる理由により請求を行わなかったことが著しく不合理であるとはいえない。

b したがって,被告Cが,平成元年10月20日から平成3年10月20日までの間,A振興会に対し,本件敷地代金を請求しなかったことは,過失により,違法に本件債権の行使を怠ったとはいえず,この点に関する原告の主張は理由がない。

(イ) 平成3年10月21日から平成8年4月21日まで(本件債権の履行期限経過後被告Cの町長資格喪失日まで)の期間について

a はじめに

被告Cが,平成3年10月21日から平成8年4月21日までの間,旧B町の職員を通じて,数回,口頭による支払の申入れを行ったこと,ただ,本件事業がそれほど軌道に乗っておらず,A振興会に十分な資金がないと考えていたことから,支払の申入れを強く行ったことはなく,期限を指定しての督促をしたり,法的措置を検討したりすることはしなかったことは,上記2(5)イで認定したとおりであるところ,かかる数回程度の口頭による支払の申入れのみで,債権を行使したとは到底評価し得ない。

したがって,法240条3項,法施行令171条の6第1項各号に基づく履行期限延長の特約又は処分のない場合には,特段の事情のない限り,被告Cの本件債権不行使は過失を構成するものと認められる。そこで,以下,履行期限延長の特約又は処分の有無,及び特段の事情の有無につき検討する。

b 履行期限延長の特約又は処分の検討

まず,履行期限延長の特約又は処分につき検討するに,本件においては,証拠上,履行期限延長の特約がなされたとの事実も,履行期限延長の処分がなされたとの事実も認めることができない。

c 特段の事情の有無の検討

(a) 被告Cの主張

次に,特段の事情の有無につき検討するに,被告Cは,特段の事情として,①A振興会は,会員が金融機関から借入れをしない限り,本件敷地代金相当額を捻出できなかったこと,②A振興会が,本件敷地代金相当額を捻出できず,同会への管理委託の解消,Aふるさと館の閉館という事態となれば,旧B町が,国や兵庫県から,補助金の返還を命じられるおそれがあること,③本件敷地代金相当額の具体的数値が不確定であり,旧B町とA振興会との間の協議を経なければ額が確定しないことを主張している。

(b) ①の主張

しかし,A振興会の会員が,金融機関から借入れを行わずに済む範囲内でなければ,本件債権を行使できないとする根拠はなく,被告Cは,A振興会に対し,金融機関からの借入れをしてでも,本件敷地代金相当額を支払うように請求すべきであったと認められる。

そして,前記2(5)ウで認定したとおり,平成11年3月の時点においては,A振興会の会員が金融機関からの借入れを行えば,約1500万円の捻出が可能だったことに照らせば,平成3年10月21日から平成8年4月21日までの期間についても,同会の会員が,金融機関からの借入れを行えば,本件敷地代金相当額の捻出が可能であったことが推認できる。

したがって,①は,特段の事情とは認められない。

(c) ②の主張

次に,②の主張は,A振興会が,本件敷地代金相当額の捻出ができないことを前提とするものであるところ,上記(b)のとおり,同会の会員が,金融機関からの借入れを行えば,本件敷地代金相当額の捻出が可能であったことが推認できる以上,その主張の前提を欠く。

したがって,②も理由がない。

(d) ③の主張

さらに,③については,旧B町内部における協議又は被告CとA振興会との間における協議により,本件敷地代金相当額の具体的な数額を確定させれば足りるだけのことであり,特段の事情ありとは到底認められない。

d 過失が認められる時点

ところで,本件債権の履行期は平成3年10月20日までであり,履行期を1日でも経過すると,履行期の翌日から被告Cの本件債権不行使は過失を構成し,被告Cは,その金利相当額について,不法行為による損害賠償金支払義務を免れないと解するのは相当でない。

被告Cは,履行期を経過してから,A振興会に対して,まず,期限を指定して本件債権の支払を督促することになるのであり(法240条2項,法施行令171条),そのための事務手続を進める期間も必要であることから,履行期(平成3年10月20日)を1か月経過した時点(平成3年11月20日)から,被告Cの本件債権の不行使には過失があったものと認める。

e まとめ

以上より,被告Cの主張はいずれも理由がなく,本件においては,何らの特段の事情も存在しない以上,被告Cには,平成3年11月20日から平成8年4月21日まで,本件敷地代金の請求を違法に怠った過失が認められる。

イ 被告Dについて

(ア) はじめに

被告Dが,平成11年3月ころ,H総務課長を通じて,A振興会に対し,本件敷地代金相当額として,約1500万円を請求したこと,そこで,A振興会が,旧B町に対し,約1500万円を支払うこととなり,銀行からの借入準備を行ったこと,ところが,被告Dが,合併直前であることを理由に,約1500万円の支払中止を要請したこと,そして,被告Dが,平成12年ころ,G農林振興課長を通じて,A振興会に対し,何度か,口頭により本件敷地代金を支払うよう申入れたが,支払の申入れを強く行ったことはなく,期限を指定しての督促をしたり,法的措置を検討したりすることはしなかったことは,上記2(5)ウ,エで認定したとおりである。

この点,数回程度の口頭による支払の申入れのみで,債権を行使したとは到底評価し得ないことは,上記ア(イ)aの被告Cの場合と同様である。

したがって,被告Dについても,上記ア(イ)aの被告Cの場合と同様,法240条3項,法施行令171条の6第1項各号に基づく履行期限延長の特約又は処分のない場合には,特段の事情のない限り,被告Dの本件債権の不行使は過失を構成するものと認められる。そこで,以下,履行期限延長の特約又は処分の有無,及び特段の事情の有無につき検討する。

(イ) 履行期限延長の特約又は処分の検討

まず,証拠上,履行期限延長の特約がなされたとの事実も,履行期限延長の処分がなされたとの事実も認められない。

(ウ) 特段の事情の有無の検討

次に,被告Dは,特段の事情として,被告Cと同様に,上記ア(イ)c(a)の①ないし③を主張するが,①ないし③のいずれも,特段の事情にあたらないことは上記ア(イ)cの(b)ないし(d)と同様である。

特に,被告Dの場合は,平成11年3月の時点では,A振興会が,本件敷地代金相当額として,約1500万円の借入準備を行っていたにもかかわらず,被告Dが,合併直前であることを理由に,同会に対し,支払を中止するよう申し入れ,合併後しばらくの間,その支払を求めていないのである。

しかも,本件債権の消滅時効期間の満了日は,平成13年10月20日(履行期限平成3年10月20日の10年後)であり,被告Cの市長在任中に消滅時効期間は満了してしまっている。

かかる事実にかんがみれば,何らの特段の事情も認められないばかりか,被告Dは,本件債権を漫然と放置したものといわざるを得ない。

(エ) 過失が認められる時点

被告Dは,平成8年4月22日から,被告Cの後任者として,旧B町長に就任しているところ,旧B町長に就任した日から被告Dの本件債権不行使は過失を構成し,被告Dは,その金利相当額について,不法行為による損害賠償金支払義務を免れないと解するのは相当でない。

被告Dは,旧B町長に就任して,前任町長であった被告Cが,本件債権の履行期が経過しているのに,本件債権について,法240条2項に従った債権の管理をしていないことの報告を事務担当者から受け,それから,A振興会に対して,期限を指定して本件債権の支払を督促することになる。

それゆえ,被告Dについては,旧B町長に就任した日(平成8年4月22日)から2か月を経過した時点(平成8年6月22日)から,被告Dの本件債権の不行使には過失があったものと認める。

(オ) まとめ

以上より,被告Dには,平成8年6月22日から平成11年3月31日まで(旧B町長時代),及び平成11年4月25日から現在まで(B市長時代),A振興会に対し,本件敷地代金の請求を違法に怠った過失が認められる。

ウ 小括

以上より,被告Cには,平成3年11月20日から平成8年4月21日までの間,被告D(被告市長)には,平成8年6月22日から平成11年3月31日まで,及び平成11年4月25日から現在までの間,A振興会に対し,違法に本件敷地代金を請求しなかった過失が認められる。

4  B市の損害の検討

(1)  当裁判所の判断

ア 本来認められる損害額

前記1ないし3の認定判断によると,旧B町ないしB市には,被告C及び被告Dが,本件債権の行使を違法に怠った過失(前記3(2)ウ)により,次の(イ)のとおり,本件敷地代金の運用利益相当額の損害が生じたことが認められる。

(ア) 本件敷地代金

a 平成3年11月20日から平成11年3月29日までの期間

2491万0057円(本件敷地取得額2933万5357円-平成2年4月15日付け本件敷地の一部売却による国からの弁済額442万5300円)

b 平成11年3月30日以降

1489万7857円(本件敷地取得額2933万5357円-平成2年4月15日付け本件敷地一部売却による国からの弁済額442万5300円-平成11年3月30日付け本件敷地一部売却による旧B町からの弁済額1001万2200円)

(イ) 運用利益

a 被告Cについて

平成3年11月20日から平成8年4月21日までの間の,2491万0057円(前記(ア)a)に対する民法所定の年5分の割合による法定利息金

b 被告Dについて

(a) 平成8年6月22日から平成11年3月29日まで

2491万0057円(前記(ア)a)に対する民法所定年5分の割合による法定利息金

(b) 平成11年3月30日から同月31日まで

1489万7857円(前記(ア)b)に対する民法所定年5分の割合による法定利息金

(c) 平成11年4月25日以降

1489万7857円(前記(ア)b)に対する民法所定年5分の割合による法定利息金

イ 本件訴訟で認められる損害額

(ア) 原告は,本件敷地代金が2242万円であったことを前提に,被告らに対し,毎年,112万1000円(2242万円に対する年5分の割合による金員)の支払を求めている。

(イ) したがって,被告Cに対する本来認められる認容額(前記ア(イ)a),被告Dに対する本来認められる認容額の一部(前記ア(イ)b(a))については,原告が本件訴訟で請求している金額よりも過大となる。

(ウ) それゆえ,本件訴訟で認められる損害額(原告が本件訴訟で請求している金額の限度内)は,次のとおりとなる。

a 被告Cについて

2242万円に対する平成3年11月20日から平成8年4月21日までの間の年5分の割合による金員

b 被告Dについて

(a) 2242万円に対する平成8年6月22日から平成11年3月29日までの間の年5分の割合による金員

(b) 1489万7857円に対する平成11年3月30日から同月31日までの間の年5分の割合による金員

(c) 1489万7857円に対する平成11年4月25日から年5分の割合による金員

(2)  上記判断に反する被告らの主張についての検討

ア 被告らの主張

被告らは,本件敷地の所有者はB市であり,本件敷地の評価額(3040万円程度。なお,1平方メートルあたりの単価は3万1000円である。)が,本件敷地代金(1489万7857円)を上回る以上,B市には損害が生じていない旨主張する。

イ 検討①

しかし,旧B町又はB市は,本件敷地を一度も利用したことがないこと,旧B町又はB市は,A振興会に対し,本件敷地の利用料を一度も徴収していないこと,A振興会が,旧B町またはB市に対し,本件事業の収益等を納入したことがないこと,平成元年9月20日当時(覚書手交時)から,本件敷地の所有権は,A振興会に移転することが予定されていたことなどの事情からすれば,旧B町またはB市は,本件敷地の所有者としての利益を何ら享受しておらず,たとえ,形式的には,本件敷地の所有名義が,旧B町又はB市であるとしても,本件事業開始当初から,本件敷地の所有者としての実質的な利益を享受していたのは,A振興会であったと認められる。

したがって,本件敷地の形式的な所有名義人が,旧B町またはB市であることを理由に,旧B町またはB市に損害が生じていないとする被告らの主張は採用できない。

ウ 検討②

また,被告らの主張する本件敷地の評価額約3040万円は,本件敷地を宅地として売却した場合の売却額を基準とするものであるところ,次の(ア)及び(イ)の事情を考慮すると,その評価額自体も採用できるものではない。

(ア) 本件敷地は,もともと農地(地目は畑)であり,本来であれば,農地法の転用許可を受けなければ,所有権移転登記を受けることができない土地であるところ,行政財産として使用されるからこそ,農地法の転用許可を受けずに所有権移転登記が認められたのであり,登記簿上の地目は依然として農地(畑)のままである(前記2(1)ウ)。

(イ) それゆえ,B市が,本件敷地の地目を畑から宅地に変更をした上,宅地として第三者に本件敷地を売却することは,農地の転用許可について厳格な規制を設けている農地法4条,5条を真っ向から踏みにじることになり,B市がこのような違法行為を行うことを前提として,本件敷地の評価額を算出することは,不動産の評価方法として相当でない。

エ まとめ

以上より,旧B町またはB市には損害が生じていないとの被告らの主張は採用できない。

5  将来給付を求める点についての検討

原告は,被告Dに対し,口頭弁論終結時である平成16年3月16日以降にB市に発生する運用利益分の損害についても,B市に代位して求めている。

この点,民訴法135条は,「将来の給付を求める訴えは,あらかじめその請求をする必要がある場合に限り,提起することができる。」と規定しているところ,被告Dの本件債権の不行使が5年以上も継続していることにかんがみれば,今後も引き続き,同債権の不行使が継続する蓋然性が認められる。

したがって,原告の本訴請求のうち,B市が将来被りうる損害の給付を求める部分は,本件訴えの口頭弁論終結日の翌日である平成16年3月17日から,被告B市長が,A振興会に対し,法240条2項に定める必要な措置をとるまでの本件敷地代金1489万7857円の運用利益分の損害を求める限度で相当と認める。

6  結論

以上より,原告の甲事件(Aふるさと館建設用地代金請求懈怠事件)請求は,次の限度で理由がある。

(1)  被告市長に対する請求

被告市長が,A振興会に対し,本件敷地代金1489万7857円の請求を怠っている事実の違法確認を求める点。

(2)  被告Cに対する請求

被告Cに対し,同人の町長在任期間中に旧B町が被った本件敷地代金の運用利益分の損害賠償を求める点。

具体的には,2242万円に対する平成3年11月20日(本件債権の履行期限の1か月後)から平成8年4月21日(被告Cが町長の資格を喪失した日)まで年5分の割合による金員の賠償を求める点。

(3)  被告Dに対する請求

ア 町長在任期間中の請求

被告Dに対し,同人の町長在任期間中に旧B町が被った本件敷地代金の運用利益分の損害賠償を求める点。

具体的には,2242万円に対する平成8年6月22日(被告Dが町長に就任した日の2か月後)から平成11年3月29日(本件敷地の一部が,旧B町に供出され,同土地代金が旧B町〔旧B町土地開発基金〕に支払われた日)まで,及び1489万7857円に対する平成11年3月30日から同月31日(被告Dが町長の資格を喪失した日)まで年5分の割合による金員の賠償を求める点。

イ 市長在任期間中の請求

被告Dに対し,同人の市長在任期間中にB市が被った本件敷地代金の運用利益分の損害並びに今後,被告B市長が,A振興会に対し,法240条2項に定める必要な措置をとるまで被りうる本件敷地代金の運用利益分の損害賠償を求める点。

具体的には,1489万7857円に対する平成11年4月25日(被告Dが市長に就任した日)から,被告B市長が,A振興会に対し,本件債権額1489万7857円について,法240条2項に定める必要な措置をとるまで,年5分の割合による金員の賠償を求める点。

第2乙事件(道路管理懈怠事件)について

1  争いのない事実

請求原因ア(原告),同オ(監査請求)は,当事者間に争いがない。

2  本案前の答弁の検討

(1)  事実の認定

ア 当裁判所の認定

証拠(甲9,11,乙10)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件2道路敷地は里道であり,国の所有地であることが認められる。

イ 前記認定に反する原告主張の検討

(ア) 原告は,本件2道路とb番地土地の境界に関する官民境界協定の締結者が,国や兵庫県ではなく,旧B町長被告Dであることを理由に,本件2道路敷地は,B市が所有すると主張する。

(イ) しかし,次の事実に照らせば,本件2道路敷地が国の所有する里道であり,国の所有地であることが明らかであり,原告の上記(ア)の主張は採用できない。

a 本件2道路が掲載されている公図の写し(甲9)及び字限図の写し(甲11)には,写しであるため不明確ではあるものの,赤く着色(里道には,公図上,赤い着色がなされる。)されている形跡があること。

b 原告自身も公図の写しの本件2道路上を赤く着色していること(原告は,公図の原本を閲覧し,本件2道路が赤く着色されていたことから,これにしたがって,赤く着色したうえ,本件訴訟の証拠として提出したと考えられる。)。

c B市の職員(J建設課長)が,本件2道路敷地は里道であり,国の所有地であって,旧B町長被告Dが,訴外Fとの間で,道路管理者として,官民境界協定を締結した旨,明確に陳述していること(乙10)。

(2)  検討

ア 一般論

(ア) 地方公共団体が行う道路の管理には,道路としての機能の維持・発揮に支障が生じないようにするための道路行政上の管理の面と,その財産的価値の維持・保全を目的とする財産的管理の面がある。

(イ) この点,法242条の2に定める住民訴訟の対象が,同法242条1項に定める財務会計上の行為又は怠る事実であることにかんがみれば,道路管理上の事項に関し,住民訴訟の対象となるのは,財産的管理としての道路敷地の管理のみであり,道路行政上の管理は,同法242条1項に定める財務会計上の行為とは基本的に関係がない以上,住民訴訟の対象とはならないと解すべきである(東京高裁平成15年4月22日判決・判例時報1824号3ページ参照)。

イ 本件へのあてはめ

(ア) 請求の趣旨(2)ア・イの訴えの検討

原告の本件1道路に係る訴え(請求の趣旨(2)ア),及び本件2道路に係る訴えのうち,道路行政上の管理に係る部分(請求の趣旨(2)イ)については,道路行政上の管理を問題とする訴えである以上,上記アで判断したとおり,住民訴訟の対象とはならない。

したがって,原告の本件1,2道路の道路行政上の管理に係る訴え(請求の趣旨(2)アイ)は,不適法な訴えである。

(イ) 請求の趣旨(2)ウの訴えの検討

原告の本件2道路に係る訴えのうち,財産上の管理に係る部分(請求の趣旨(2)ウ)については,上記(2)アで判断したとおり,住民訴訟の対象となりうる。

しかし,前記(1)アで認定したとおり,本件2道路敷地は里道であり,国の所有する土地であって,B市の所有する道路敷地ではないから,B市が本件2道路敷地の財産的管理を行うことはなく,財産的管理の面は問題とならない。

したがって,本件2道路に関するB市の財務会計上の行為又は怠る事実を観念し得ないから,原告の本件2道路の財産的管理に係る訴え(請求の趣旨(2)ウ)も,不適法な訴えである。

3  結論

以上より,乙事件(道路管理懈怠事件)に係る訴え(請求の趣旨(2)アないしウ)は,いずれも不適法な訴えであり,却下を免れない。

第3結語

以上の次第で,原告の甲事件(Aふるさと館土地売却代金請求懈怠事件)請求は,前記第1の6認定の限度で理由があるから認容し(仮執行宣言は相当でないので付さない。),その余は理由がないので棄却することとし,乙事件請求(道路管理懈怠事件)の訴えは,いずれも不適法であるから,これを却下し,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 今中秀雄 裁判官 向井宣人)

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