神戸地方裁判所 平成10年(行ウ)38号 判決 2000年3月28日
主文
一 原告の平成六年七月五日相続に係る相続税について、被告が平成九年七月一四日付けでなした過少申告加算税賦課決定(ただし、平成一〇年一月五日付け更正処分による一部取消後のもの)を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文同旨
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、夫の遺産を相続した原告の相続税につき、被告が平成九年七月一四日付けでなした過少申告加算税賦課決定(ただし、平成一〇年一月五日付け更正処分による一部取消後のもの)が違法であるとして、原告がその取消しを求めた事案である。
二 争いのない事実等(証拠を掲げた事項以外は当事者間に争いがない。)
1 当事者等
原告は、平成六年七月五日に死亡したAの妻である。Aの相続人は原告及び四人の子である。
Bは、右相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)につき、原告から委任され、後記2の当初申告、修正申告、異議申立て、審査請求の手続を行った税理士である(甲一、二、四の1・2、六の1~4、一一)。なお、他の共同相続人の相続税の申告手続も行った(甲一)。
2 課税の経緯等(別表「課税の経緯」参照)
(一) 本件当初申告
(1) 申告
原告は、本件相続税について、課税価格四億五八〇二万五〇〇〇円、納付すべき税額二二一万六五〇〇円、租税特別措置法(平成七年法律第五五号による改正前のもの。以下「措置法」という。)七〇条の六第一項に規定する納税猶予分の相続税の額(以下「納税猶予税額」という。)二二一万六五〇〇円、申告期限までに納付すべき税額零円と記載した相続税の申告書を法定申告期限までに被告に提出した(以下「本件当初申告」という。)。なお、原告の申告書と原告以外の他の共同相続人の各申告書は、共同して提出された(甲一)。
(2) 本件当初申告における本件基礎控除額の計算誤り
本件当初申告には、措置法七〇条の六第二項の規定により算出した相続税の総額(以下「納税猶予における相続税の総額」という。)について、計算誤りがあった。すなわち、納税猶予における相続税の総額を算出する際、相続税法一五条一項所定の遺産に係る基礎控除額(以下「本件基礎控除額」という。)は一億円であるにもかかわらず、これが一〇〇〇万円として計算されていた(以下「本件基礎控除額の計算誤り」という。)。
(二) 本件修正申告
(1) 本件修正申告に至る経緯
原告は、平成九年四月二一日、B税理士立会いの下で被告の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)による本件相続税に関する調査を受けた。その際、調査担当職員は、三田市内所在の土地が本件当初申告の課税財産として申告漏れである旨指摘した(甲一二)。原告(B税理士)は、同年五月一五日(乙一)、調査担当職員に対し、本件当初申告には本件基礎控除額の計算誤りがあった旨申し立てた。
(2) 申告
原告は、平成九年七月一〇日、課税価格四億五八〇二万五〇〇〇円、納付すべき税額三〇五四万八五〇〇円、納税猶予税額三〇五四万八五〇〇円、申告期限までに納付すべき税額零円と記載した相続税の修正申告書を被告に提出した(以下「本件修正申告」という。)。
本件修正申告は、本件基礎控除額の計算誤りのみを是正したものであり、調査担当職員から申告漏れである旨指摘された分について是正したというものではなかった。
(三) 本件賦課決定処分
被告は、平成九年七月一四日付けで、本件相続税につき過少申告加算税額四一三万八五〇〇円とする賦課決定処分をした(以下「本件賦課決定処分」という。)。
(四) 第一次更正処分等
被告は、平成九年七月一四日付けで、本件相続税に関し、課税価格五億三九六一万五〇〇〇円、納付すべき税額三八三七万四五〇〇円、納税猶予税額三六二一万八三〇〇円、申告期限までに納付すべき税額二一五万六二〇〇円とする更正及び過少申告加算税額一一七万三〇〇〇円とする賦課決定処分(以下「第一次更正処分等」という。)をした(過少申告加算税額は、(三)の本件賦課決定処分の分と合わせると、五三一万一五〇〇円となる。)。
(五) (三)の本件賦課決定処分に対する異議申立て
原告は、同年七月二九日付けで、被告に対し、(三)の本件賦課決定処分を不服として異議申立てをした。
(六) (四)の第一次更正処分等に対する異議申立て
原告は、同年九月一日付けで、被告に対し、(四)の第一次更正処分等を不服として異議申立てをした。
(七) (五)の本件賦課決定処分に対する異議申立てについての異議決定
被告は、同年一〇月二八日付けで、原告に対し、(五)の本件賦課決定処分に対する異議申立てを棄却する旨の決定をした。
(八) 審査請求
原告は、同年一一月二一日付けで、国税不服審判所長に対し、(七)の異議決定を不服として審査請求をした。
(九) (六)の第一次更正処分等に対する異議申立ての取下げ
原告は、同年一二月二二日、(六)の第一次更正処分等に対する異議申立てを取り下げた。
(一〇) 第二次更正処分等
被告は、平成一〇年一月五日付けで、本件相続税に関し、課税価格四億七八二〇万円、納付すべき税額二九九七万二六〇〇円、納税猶予税額二九九七万二六〇〇円、申告期限までに納付すべき税額零円とする更正及び過少申告加算税額四〇五万一五〇〇円とする賦課決定処分をした(以下「第二次更正処分等」という。)。
(一一) 裁決
国税不服審判所長は、平成一〇年三月一七日付けで、原告に対し、(八)の審査請求を棄却する旨の裁決をした。
三 争点
本件の争点は、結局は、本件賦課決定処分が適法か否かという点に尽きるが、これを分析すると以下のとおりである。
1 本件当初申告につき、原告に国税通則法六五条四項にいう「正当な理由」があるか。
2 本件修正申告は、国税通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか。
3 本件において原告に過少申告加算税を賦課することは、憲法二九条一項及び八四条に違反するか。
第三争点に関する当事者の主張
一 争点1(本件当初申告につき、原告に国税通則法六五条四項にいう「正当な理由」があるか。)について
(原告の主張)
原告と他の共同相続人の申告額は連鎖一体の関係にあるから、過少か否かは、相続人全体でみて判定すべきであり、納税者ごとの判定には矛盾があり不当である。
本件においては、本件基礎控除額の計算誤りによって、本件当初申告において、原告は納付すべき税額を二八三三万二〇〇〇円過少に申告したことになるが、原告とともに申告をした他の共同相続人は、本件基礎控除額の計算誤りにより納付すべき税額を合計で右と同額分過大に申告し、実際に納税している。
そうすると、本件当初申告は原告側に不利な申告であり国側に不利益は皆無であるから、本件の場合は過少申告ではなく過大申告の範疇にある。
国税通則法六五条四項の「正当な理由」がある場合というのは、課税庁の処分が不当又は酷である場合を含むと解すべきであり、右事情からすれば本件はその場合に該当する。
(被告の主張)
国税通則沫六五条四項の「正当な理由」がある場合とは、申告した税額に不足が生じたことについて納税者が通常の状態においてその事実を知ることができなかった場合や納税者の責めに帰せられない外的事情によるような場合であると解すべきである。
本件当初申告につき申告した税額に不足が生じたのは、原告(B税理士)の本件基礎控除額の計算誤りという原告の責めに帰すべき事情によるものであるから、原告に右「正当な理由」があると認めることはできない。
二 争点2(本件修正申告は、国税通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか。)について
(原告の主張)
本件修正申告は、以下のとおり、国税通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する。
1 「単なる計算誤りにより過少申告したが、調査が着手され、納税者がこれを認識してあらためて計算し直して誤りに気づいて修正申告に及んだ事案を想定してみると、計算し直しという納税者の自発的行為が介在したことが契機となって更正が予測されたとしても、調査による予知とはいえない」(税理、三八巻一六号二一五頁、法務省訟務局租税訟務課長小貫芳信)という見解があるが、納税者の権利保護を目的とする租税法律主義の精神にかなった法解釈である。
2 原告は、被告から指摘を受ける前に本件基礎控除額の計算誤りを発見し、右計算誤りの存在及び修正申告をする意思があることを調査担当職員に申し出ている。本件修正申告が右申出から遅れてなされたのは、調査担当職員の申告漏れの指摘に対して反論しなければならなかったからにすぎない(本件基礎控除額の計算誤りにより他の共同相続人は計二八三三万円分の過大納付をしたことになるが、更正の請求の期間は経過していたので、右の還付を受けるために、職権で減額更正をしてもらうよう原告が本件基礎控除額の計算誤りを是正した修正申告をする必要があったのであり、原告が修正申告をあえて遅らせる理由は全くなかった[原告自身は右修正申告によっても、現実に納付すべき税額は納税猶予により零のままである。]。)。
3 被告は、当初申告に申告漏れの財産があったことを原告に指摘したということを原告が更正処分を予知していたことの理由として強調するが、右のような事情は以下のとおり無意味なことである。
(一) (本件基礎控除額の計算誤りのみを是正した)本件修正申告における納付すべき税額が第二次更正処分等における納付すべき税額を上回っていることからすると、いわゆる総額主義の立場からは、本件基礎控除額の計算誤りを是正した本件修正申告書の提出で修正申告としては足りていたのであり、申告漏れ等があったこと自体の部分については修正申告(増額更正)には結びつかない。
(二) 特例適用農地等の評価誤りのほか申告漏れの財産があって修正申告(更正)を要する場合には、まず、評価誤り等に基づき増加した税額について修正申告(更正)(以下「第一手続」という。)をし、次いで納税猶予の特例が認められない申告漏れの財産に基づき増加した税額について修正申告(更正)(以下「第二手続」という。)をするという取扱いがなされており、この第一手続と第二手続は、それぞれ別個独立した手続であるところ、申告漏れ財産があることを発見し原告に指摘したとの被告の主張は、第二手続の範囲に属するのに対し、原告が行った本件の修正申告は第一手続の範囲に属するから、更正を予知しない修正申告であることが明らかである。
(被告の主張)
本件修正申告は、以下のとおり、国税通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するとは認められない。
1(一) 国税通則法六五条五項は、自発的に修正申告を決意し、修正申告書を提出した者に対しては、例外的に過少申告加算税を賦課しないこととすることにより、納税者の自発的な修正申告を奨励することを目的とするものである。したがって、同条項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、税務職員が申告に係る国税についての調査に着手し、その申告が不適正であることを発見するに足りるか又はその端緒となる資料を発見しこれによりその後調査が進行して先の申告が不適正で申告漏れの存することが発覚し更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に、納税者がやがて更正に至るべきことを認識した上で修正申告を決意して修正申告書を提出した、というものでないことをいうと解すべきである(いわゆる客観的確実性説)。
(二) なお、(原告の主張)1で指摘された見解は、いわゆる調査着手説(任意の自発的申告とは調査開始を認識しない段階での申告をいうものと解する説)に対する批判にすぎず、国税通則法六五条五項の「予知」に関する解釈ではない。被告は、国税通則法六五条五項の解釈について、原告による国税不服審判所長に対する審査請求の段階では調査着手説により主張したが、本件訴訟では右(一)のとおり客観的確実性説に基づき主張するものである。
2 原告(B税理士)は、調査担当職員が原告宅に臨場し本件相続税に関する調査を開始し、本件当初申告に申告漏れの財産がある旨を指摘した後、本件基礎控除額の計算誤りについて認識したのであり、その後、当初は、調査担当職員に対し、自発的に当該計算誤りについて申し立ててはいるものの、申告漏れの財産の価額を加算しても、本件当初申告で課税財産として申告していた土地の価額の評価を減額すべきであるから納付すべき税額は本件当初申告よりも減少する旨申し立てたり、調査担当職員から本件基礎控除額の計算誤りの点も含めて修正申告を行う必要がある旨説明を受けた以降も、当該計算誤りを原因とする過少申告加算税の賦課の適否等について、調査担当職員と交渉しているのであり、結局、原告は、申告漏れ財産については是正しないまま本件基礎控除額の計算誤りのみを是正し、本件修正申告をした。
そうすると、原告は、B税理士が本件基礎控除額の計算誤りを認識し調査担当職員に対し当該計算誤りについて申し立てた段階では、本件修正申告を決意していたと認めることはできないのであって、その後、B税理士と調査担当職員の交渉が平行線をたどり、本件基礎控除額の計算誤りを含めた更正がされるであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に至って、本件修正申告を決意し、修正申告書を提出したものと認められるのである。
三 争点3(本件において原告に過少申告加算税を賦課することは、憲法二九条一項及び八四条に違反するか。)について
(原告の主張)
本件において原告に過少申告加算税を賦課することは、以下のとおり憲法二九条一項及び八四条に違反する。
1 前記一で述べたとおり、本件当初申告は原告側に不利な申告であり国側に不利益は皆無であるから、本件の場合は過少申告でなく過大申告の範疇にある。このような場合に国税通則法六五条一項の規定を適用することは、職権の濫用であり、憲法の定める私有財産の保護、租税法律主義に反する。
2 原告の過少申告部分については、結局は、納税猶予となって現実には課税されないのであって、その部分に過少申告として加算税を賦課するのは納税者に過度の不利益を与えるものであり、財産権を尊重する憲法の趣旨にも反し、許されない。
(被告の主張)
本件賦課決定処分が憲法二九条及び八四条に違反するとの原告の主張は、以下のとおり全く理由がない。
1 過少申告加算税を賦課するか否かは、国税通則法六五条の解釈適用の問題にすぎず、憲法論を持ち出す必要はない。本件は過少申告加算税の課税要件事実を充足し、かつ、同条四項及び五項に定める要件を充たしていないのである。
2 被告は、国税通則法等の関係法規を解釈適用し本件賦課決定処分を行ったのであり、本件賦課決定処分は適法であるから、原告の主張は、過少申告加算税を賦課された結果についての不満を述べているにすぎず、主張自体失当である。
第四当裁判所の判断
一 争点1(本件当初申告につき、原告に国税通則法六五条四項にいう「正当な理由」があるか。)について
国税通則法六五条四項にいう「正当な理由」がある場合とは、過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰することができない客観的な障害に起因する場合など、当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合を意味するものと解するのが相当である。
前記第二の二の争いのない事実等2(一)(2)記載のとおり、本件当初申告においては、本件基礎控除額の計算誤りがあったために申告した税額に不足が生じたのであるが、右のような過誤は、納税者の側で申告書を提出する前に点検をしていれば容易に是正し得たものであるから、右のような計算誤りのある申告が真にやむを得ない理由による申告であるということはできない。
したがって、本件当初申告につき原告に国税通則法六五条四項にいう「正当な理由」があると認めることはできない。
二 争点2(本件修正申告は、国税通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか。)について
1 証拠(甲一二、乙一)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 調査担当職員は、平成九年四月一四日、B税理士に対し、本件相続税に関し調査を行いたい旨申し入れ、同月二一日、原告宅を訪れ、原告の長男及びB税理士の立会いの下で質問調査等を行い、三田市α所在の土地が本件当初申告において課税財産として申告漏れであることを指摘した(なお、同土地は、原告以外の共同相続人が相続した財産である。)。
(二) 調査担当職員は、同年五月一五日、西宮税務署において、B税理士に対し、同日時点における調査の結果として、三田市α所在の土地以外にも、申告漏れの財産で原告が相続したものとして、預貯金(幸福銀行西宮支店の普通預金、さくら銀行西宮北口支店の普通預金)、生命保険契約等に関する権利の評価(郵政省分、明治生命保険分)及び建物更生共済の権利の評価(川西市農業協同組合分)がある旨指摘した。
B税理士は、調査担当職員に対し、右三田市α所在の土地も含め改めて相続税の計算をやり直したところ、本件当初申告の納税猶予における相続税の総額の算定において本件基礎控除額の計算誤りがあった旨申し立てた(なお、それ以前に、調査担当職員が本件当初申告に本件基礎控除額の計算誤りがあったことを指摘したことはなかった。)。B税理士は、右申立ての際、調査担当職員に対し、原告以外の共同相続人については、本件基礎控除額の計算誤りを原因とする過大申告分につき還付するよう要請した。
(三) B税理士は、同月一九日、調査担当職員に対し、本件当初申告で課税財産として申告していた土地等のうち、原告の相続した財産については、西宮市β二六番一、同γ三四番の各土地及び同δ六〇番土地の耕作権について、財産評価基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六・直審(資)一七国税庁長官通達。ただし、平成七年六月二七日課評二―六による改正前のもの。以下「評価通達」という。)二四―四に規定する広大地の評価の適用をしていなかったこと、並びに評価通達二〇(1)に規定する不整形地補正及び同(2)に規定する無道路地補正の各適用に誤りがあり、評価額が減額になることから、申告漏れの財産の価額を加算しても、本件相続税に係る課税価格が本件当初申告の額を下回る旨申し立てた。これに対し、調査担当職員は、右土地等の評価額を検討する旨返答した。
調査担当職員は、同月二三日、B税理士に対し、右土地等の評価額を検討した結果、本件当初申告よりも増額になる旨説明した。
(四) 調査担当職員は、同年六月五日、西宮税務署において、B税理士に対し、これまでの調査結果として、次の(1)の点の指摘をした上、(2)の内容の説明をした。
(1) 前記(一)及び(二)の申告漏れ財産に加えて、西宮市β二六番一、同γ三四番、同δ六〇番の各土地の評価誤りによる増額分、西宮市δ一六五番一所在の家屋の評価誤りによる増額分、川西市農業協同組合の生命保険金(原告以外の共同相続人が相続した財産であるのに、原告が当初申告していたもの)の減額分、相続開始前三年以内の加算の計上誤りによる減額分がある。
(2) その結果、
ア 原告については、本件相続に係る課税価格及び納付すべき税額が増加するため修正申告を行う必要がある。修正申告をしない場合には更正処分をする。修正申告又は更正処分による新たに納付すべき税額のすべてを対象に過少申告加算税が賦課される。
イ その他の共同相続人については、土地の評価誤りや申告漏れ財産があるため本件相続に係る課税価格は増加するものの、本件基礎控除額の計算誤りがあるため納付すべき税額が減少するから、当初申告の額を減額更正する。
(五) B税理士は、同月一二日及び同月二四日、西宮税務署において、調査担当職員に対し、本件基礎控除額の計算誤りに関して過少申告加算税が賦課されることは承服し難いこと、本件当初申告における土地の評価額は当初申告額を下回ること等を述べた。これに対し、調査担当職員は、いずれも認められない旨返答した。
(六) 原告は、同年七月一〇日、本件当初申告には納税猶予における相続税の総額に計算誤りがあったとして本件基礎控除額の計算誤りのみを是正し、本件修正申告を行った。
2(一) 右1認定の事実によれば、Aの原告を含む共同相続人全員の相続税の申告につき委任を受けていたB税理士は、税務調査が開始されたことを受け、当初申告の申告内容を見直したところ、本件基礎控除額の計算誤りに気付き、調査担当職員から指摘を受ける前に、本件基礎控除額の計算誤りにつき申し立て、原告以外の共同相続人については過大申告分につき還付するよう要請した、というのであり、本件基礎控除額の計算誤りを是正しても原告の申告期限までに納付すべき税額は納税猶予により零のままであること及びAの共同相続人全員の相続税の各申告書を共同して提出していた(甲一)こと等の事情にもかんがみれば、B税理士は、右還付を要請した時点で既に、本件基礎控除額の計算誤りを是正した原告の修正申告書を提出する旨の決意をし、調査担当職員に対しその意思を黙示的にせよ表明していたものということができる。B税理士が現実に修正申告書を提出したのは右の時点から二か月弱後のことであるが、それは、B税理士が、申告漏れと指摘された財産等につき検討し、調査担当職員に説明等をしていたためであり、原告(B税理士)は、本件基礎控除額の計算誤り以外に原告の納付すべき税額が増額される事情があればその是正も合わせて修正申告するが、そのような事情がなければ本件基礎控除額の計算誤りのみを是正した修正申告をしようと考えていたものと推認される。
そうすると、本件修正申告は、国税通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当すると認められる。
(二) 被告は、B税理士が、調査担当職員に対し、申告漏れの財産の価額を加算しても、本件当初申告で課税財産として申告していた土地の価額の評価を減額すべきであるから納付すべき税額は本件当初申告よりも減少する旨申し立てたり、調査担当職員から本件基礎控除額の計算誤りの点も含めて修正申告を行う必要がある旨説明を受けた以降も、当該計算誤りを原因とする過少申告加算税の賦課の適否等について、調査担当職員と交渉しているので、原告は、B税理士が本件基礎控除額の計算誤りを認識し調査担当職員に対し当該計算誤りについて申し立てた段階では、本件修正申告を決意していたと認めることはできないのであって、その後、B税理士と調査担当職員の交渉が平行線をたどり、本件基礎控除額の計算誤りを含めた更正がされるであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に至って、本件修正申告を決意し、修正申告書を提出したものと認められる旨主張し、これに沿う証拠として調査担当職員Cの陳述書(乙一)を提出する。
しかし、本件当初申告における納付すべき税額は二二一万六五〇〇円にすぎないこと(争いがない)及び本件修正申告は課税価格を全く変更させずに本件基礎控除額の計算誤りのみを是正したものであること(争いがない)等に照らせば、B税理士が、調査担当職員に対し、申告漏れの財産の価額を加算しても、本件当初申告で課税財産として申告していた土地の価額の評価を減額すべきであるから(課税価格だけでなく)納付すべき税額が本件当初申告よりも減少する旨申し立てたとの趣旨の乙第一号証の陳述記載部分は信用し難く、また、B税理士が、本件基礎控除額の計算誤りを原因とする過少申告加算税の賦課の適否等について、調査担当職員と交渉していたことは、前認定のとおりであるが、本件基礎控除額の計算誤りを是正した修正申告をしても、原告については納税猶予により申告期限までに納付すべき税額は零のままであるから、B税理士としては、本件基礎控除額の計算誤りを是正した修正申告をすることにより、原告以外の他の共同相続人について減額更正を得て還付を受けることに交渉の主眼があったと認められ、かつ、その還付額は課税価格如何によることから、B税理士としては、調査担当職員から指摘された申告漏れの財産の価額を加算しても、本件当初申告で課税財産として申告していた土地の価額の評価が減額されるべきである旨申し出ていたのに対し、調査担当職員は右評価の減額が認められないとして交渉が平行線をたどっていたものであることからすれば、右交渉より前の段階において原告(B税理士)が本件修正申告をする意思を有していなかったということにはならない。
したがって、被告の右主張は採用することができない。
3 以上のとおり、本件修正申告は、国税通則法六五条五項にいう「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当すると認められ、同条一項の適用はないから、本件賦課決定処分は違法であり、取り消されるべきものである(したがって、争点3[本件において原告に過少申告加算税を賦課することは、憲法二九条一項及び八四条に違反するか。]については、判断する必要がない。)。
第五結論
よって、原告の請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田口直樹 裁判官 大竹貴)