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神戸地方裁判所 平成10年(行ウ)42号 判決 2000年1月25日

原告

椿田伸子

(ほか一五名)

原告ら訴訟代理人弁護士

秋田真志

青木佳史

被告

西宮市建築主事 川本道明

被告指定代理人

岩松浩之

岡田淑子

藤田毅

久井亮仁

八條宏保

田原幸夫

田村比佐雄

村本和宏

参加人

大和土地建物株式会社

右代表者代表取締役

石田譲

右訴訟代理人弁護士

菅生浩三

奥村正策

小北陽三

大野康裕

科埜眞義

小林弘和

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第四 当裁判所の判断

一  争点1(本杵訴えの適法性〔原告適格の有無〕)について

1  行政事件訴訟法三六条は、無効等確認の訴えの原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の無効等確認の訴えにおける原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(「もんじゅ原子炉事件判決」参照。)。

2  右の見地に立って、本件訴えについての原告らの原告適格について検討する。

(一)  建築確認は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資するという建築基準法の目的(一条)を達成する方法の一つとして、建築主が建築物を建築等しようとする場合において、その計画が審査対象規定(当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定)に適合するものであることを確認し、その計画の法規適合性を明らかにする処分である(同法六条一項)。

このように建築確認は当該計画が具体的な審査対象規定に適合することを確認するものである以上、原告らが侵害されると主張する諸利益が、専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、個々人の個別的利益としても保護するものとされているといえるためには、審査対象規定において右のような諸利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨の具体的規定が存することを要すると解するのが相当である。

(二)(1)  原告らは、本件建築確認により、前記第三の一(原告らの主張)2(二)記載のような諸利益((1)道路使用通行権、(2)自動車の排気ガス等による健康被害を免れる利益、(3)平穏で緑豊かな環境及び眺望権)を侵害される旨主張する。

しかし、(1)の道路使用通行権について原告らの主張する交通渋滞や交通事故の危険、騒音や排気ガスによる住環境の悪化、及び(2)の自動車の排気ガス等による健康被害について原告らの主張する大気の汚染は、都市においてはある程度その発生が避けられないものであり、審査対象規定には、具体的にこれらを制限する基準等、これらを免れる利益を特に住民個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨と解されるような規定は存しない。

(3)の平穏で緑豊かな環境及び眺望権というのも、私権として法律的に確立された権利ではなく、地域住民に共通する一般的利益ないし事実上の利益の域を出ず、審査対象規定には、個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨と解されるような具体的規定は存しない。

そうすると、審査対象規定は、原告ら主張の右のような諸利益を原告ら個々人の個別的利益として保護する趣旨を含むものと解することはできない。

(2)  なお、西宮市告示甲第二号による第三種高度地区(最高限度高度地区)の指定も、良好な環境を保全するため近隣居住者の日照等の利益を保護する趣旨を含むものとは解されても、原告ら主張に係る諸利益を個々人の個別的利益として保護する趣旨を含むものと解することはできない。

(3)  前記のような原告ら主張の諸利益以外に、原告らの原告適格を基礎付ける事実についての主張、立証はない。

3  以上によれば、原告らは、本件建築確認の無効等の確認を求める原告適格を有するとはいえない。

二  結論

よって、本件訴えは、いずれも原告適格を欠く不適法なものというべきであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田口直樹 大竹貴)

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