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神戸地方裁判所 平成11年(ヨ)303号 決定 2000年1月31日

債権者

X1

債権者

X2

債権者

X3

右三名代理人弁護士

上原康夫

竹下政行

債務者

本四海峡バス株式会社

右代表者代表取締役

右代理人弁護士

奥村孝

石丸鐵太郎

堺充廣

堀岩夫

森有美

債務者補助参加人

全日本海員組合

右代表者

右代理人弁護士

大塚明

神田靖司

中村留美

大内麻水美

蔵重信博

主文

一  債権者らが債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、

1  債権者X1に対し、平成一一年八月九日から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二五日限り、月額三二万九四六八円の、

2  債権者X2に対し、平成一一年八月九日から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二五日限り、月額三三万九一五九円の、

3  債権者X3に対し、平成一一年八月九日から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二五日限り、月額三九万五二六七円の、

各割合による金員をそれぞれ仮に支払え。

三  債権者X3のその余の申立てを却下する。

四  申立費用のうち、参加によって生じた部分は債務者補助参加人の、その余の部分は債務者の負担とする。

事実及び理由

第一申立ての趣旨

一  債権者らが債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、

1  債権者X1に対し、平成一一年八月九日から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二五日限り、月額三二万九四六八円の、

2  債権者X2に対し、平成一一年八月九日から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二五日限り、月額三三万九一五九円の、

3  債権者X3に対し、平成一一年八月九日から本案の第一審判決言渡に至るまで、毎月二五日限り、月額三九万七六一六円の、

各割合による金員をそれぞれ仮に支払え。(なお、本件仮処分命令申立書の「申立の趣旨」に、「本案判決言い渡し」とあるのは、「本案の第一審判決言渡」とする趣旨と解される。)

第二事案の概要

一  前提事実(疎明資料等を掲げた部分以外は、当事者間に争いがない。)

1(一)  債務者は、一般乗合旅客自動車運送事業等を業とし、本州四国連絡橋(明石海峡大橋)開通による一般旅客定期航路事業者の事業の縮小に伴う対策としての新事業展開、船員等の離職者の雇用確保のために、平成七年四月一四日に設立された株式会社である。

債務者の従業員数は八〇名弱で、うち運転士(事務兼務を含む。)及び整備管理者は合計五八名であり、その中の五二名が船員等の本州四国連絡橋関係離職者である。また、債務者の役員及び管理職も、一般旅客定期航路事業者及びJRからの出身者で占められている。

(二)  債権者らは、もと一般旅客定期航路事業者に船員として勤務していた者であるが、債権者X1及び債権者X3は平成一〇年三月三一日付で共同汽船株式会社を、債権者X2は同日に淡路フェリーボート株式会社をそれぞれ退職し、いずれも同年四月一日付で債務者に雇用され、債権者X1(以下「債権者X1」という。)は運転士として、債権者X2(以下「債権者X2」という。)及び債権者X3(以下「債権者X3」という。)は運転士兼指導員(後に主席運転士)として勤務していた(<証拠略>)。

2(一)  平成一〇年四月当時、債権者らを含む債務者の従業員のうち、運転士及び整備管理者五八名全員が債務者補助参加人(以下「補助参加人」という。)に所属し、債務者と補助参加人との間の同年六月二六日付労働協約において、「会社の所属運転士及び整備士(以下運転士等という)は、すべて組合の組合員でなければならない(四条一項)。会社に新しく採用される組合員でない運転土等は、採用後おそくとも一カ月以内に加入手続きをとるものとする(同条二項)。会社は組合に加入しない者、または組合員の資格を失った者を引き続き運転士等として雇用しない(四条三項)。」とするユニオン・ショップ協定(以下「本件協定」という。)が締結されていた(<証拠略>、審尋の全趣旨)。

(二)  債権者らは、平成一一年七月三〇日付で補助参加人に脱会届を提出するとともに、全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という。)に対し加入申込書を提出し、そのころ同組合に加入した(<証拠略>)。

補助参加人は、同年八月六日付で全日本海員組合規約一一三条A項四号(「統制違反をおかした事実の明白な組合員が、告発される前に脱退した場合」)に基づき除名処分とする旨を、同月一〇日発送の郵便にて債権者らに対し通知した(<証拠略>)。

債権者X1は全港湾関西地方神戸支部本四海峡バス分会分会長、債権者X2は同分会副分会長、債権者X3は同分会書記長にそれぞれ就任した(審尋の全趣旨)。

(三)  債務者は債権者らに対し、「当社は、平成一一年八月六日付で、全日本海員組合より、貴殿を除名処分にし労働協約第四条(ユニオン・ショップ制)にもとづき処置することを強く要請されました。従いまして当社は、貴殿を労働協約第四条により平成一一年八月九日付をもって解雇いたします。」と記載された平成一一年八月八日付の通知書をそれぞれ送付し、同月九日付で本件協定に基づき債権者らを解雇した(以下「本件解雇」という。)。

債務者は、本件解雇の際に解雇予告手当として、債権者X1に対し三二万七九七二円、債権者X2に対し三三万七六五三円、債権者X3に対し三九万五二六七円をそれぞれ支給し、平成一一年八月二五日に同月一日から九日までの賃金(同年七月分の時間外手当を含む。)を債権者らに対しそれぞれ支給した(<証拠略>)。

二  当事者の主張

1  債権者らの主張

(一) 被保全権利

(1) ユニオン・ショップ協定のうち、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合(以下「締結組合」という。)以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名された労働者が他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者の解雇義務を定める部分は、民法九〇条により無効であり、締結組合からの脱退者又は被除名者が別の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した場合、当該労働者についてはユニオン・ショップ協定の効力は及ばず、使用者がユニオン・ショップ協定に基づいて当該労働者を解雇することは、解雇権の濫用に当たると解すべきである。

債権者らは、平成一一年八月九日付で本件協定に基づいて解雇されたが(本件解雇)、同年七月三〇日付で補助参加人に脱会届を提出するとともに、全港湾に加入申込書を提出して全港湾に加入していたものであるから、本件協定に基づく本件解雇は、解雇権の濫用として無効であり、債権者らは債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にある。

(2) 債権者らの賃金の支払日は毎月二五日であり、本件解雇前三か月間の一か月当たりの平均総支給給与額は、債権者X1につき三二万九四六八円、債権者X2につき三三万九一五九円、債権者X3につき三九万七六一六円である。

(二) 保全の必要性

債権者らは、社会保険の受給資格を確保する上で労働関係上の地位を保全する必要がある。

また、債権者らは、従前勤務していた会社を退職する際に退職金等を受給したが、受領した金銭を、債権者X1は阪神・淡路大震災で被災した自宅家屋の改築費用のローン返済金や車の購入代金として費消し、債権者X2は自宅のローン返済金等として費消し、債権者X3は長女の高校入学費用、パソコン購入費用、生活費等として費消した。債権者らは、いずれも未成年の子があり、今後、教育費等の出費も予想されることから、債務者からの賃金が得られなければ家計を維持することができない状況にあり、賃金仮払仮処分の必要性もある。

2  債務者及び補助参加人(以下、「債務者ら」と総称する。)の主張

(一) 被保全権利について

(1)<1> 労働組合法七条一号ただし書きがユニオン・ショップ協定を有効としてその効力を認めている趣旨は、団結強制と組織強制を承認することによって労働組合の統一的な組合運動を保障するためであるから、ユニオン・ショップ協定が締結されている場合、締結組合の団結権を尊重すべきであり、締結組合の団結権は労働者個人の持つ団結権に対して優位に立つと解すべきである。

したがって、ユニオン・ショップ協定が締結されている場合、原則として当該協定に基づく解雇は有効であり、締結組合の団結権よりも組合員個人の団結権を保護しなければならないやむを得ない理由があり、かつ、脱退の方法、態様が相当である場合に限り、ユニオン・ショップ協定に基づく解雇が許されないこととなると解すべきである。

<2> 債務者は、本州四国連絡橋の開通に伴い、事業の縮小等を余儀なくされる旅客船事業者の離職者対策を重要な目的として、本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法(以下「措置法」という。)に基づき設立された会社であるところ、補助参加人は、措置法の制定に向けて政府に強く働きかけて同法を(ママ)成立を実現し、同法の制定後も、債務者の旅客自動車運送事業経営免許取得や人材の育成等に向けて関係機関に強く働きかけた経緯があり、債務者は、いわば補助参加人組合員の再就職先の確保を主たる目的として存在する会社である。そのため、債務者としては、従業員の採用に関して補助参加人の協力が不可欠な状況にある。

また、平成一〇年四月五日の営業開始時点において、債務者は未だ経営基盤が安定しない状態であり、新規事業であることから、売上の見通しも不明瞭であったうえ、平成一三年には、債務者とJR各社に限定されている免許の規制が撤廃されることになっており、債務者としては補助参加人との信頼関係を維持、構築して労使関係を安定させることにより、経営基盤の安定を図る必要があった。

本件協定は、右のような特別の事情から平成一〇年六月二六日に債務者と補助参加人との間で締結されたものであるところ、労働者の団結権は、その目的が労働者の労働条件の維持・向上である以上、その前提となる職場の確保は何よりも守られるべき命題であり、債務者の存在目的が、離職した補助参加人組合員の再就職先の確保である以上、その限度において補助参加人組合員の団結権に優先順位を認めるべきであり、結果として債権者らの団結権に一定の制約が加えられるのは当然である。

<3> 債権者らは債務者に雇用される以前から既に補助参加人に加入しており、本件協定の意義、効用を理解した上で債務者との雇用関係を継続し、補助参加人の組合員として恩恵を受けていた者であるが、補助参加人の組合員には、本州四国連絡橋開通によって離職して未だ再就職ができない者や、今後離職を余儀なくされる者が多数存在しており、このような状況下では、補助参加人内部の団結による組合秩序を維持し、離職組合員の就職を確保することが重要である。

しかるに、債権者らが補助参加人の方針に異を唱え、執行部批判を強め、補助参加人からの脱退を策したことは、明らかに意図的な組合分裂を図る行動であり、悪質な統制違反に該当するため、補助参加人は債権者らを組合規約一一三条A項四号に基づき平成一一年八月六日付で除名処分としたものであり、右除名処分は正当である。

<4> 以上のことからすれば、本件協定に基づく本件解雇には十分な合理性があるというべきであり、本件解雇は有効である。

(2) さらに、前記(1)<1>のとおり、債務者は、補助参加人が組合員の再就職先の確保のために行った運動の成果ともいうべき措置法に基づいて設立され、設立後の事業免許取得等についても補助参加人が関与しているのであるから、債務者は補助参加人の構成員である組合員の再就職先の確保を主たる目的として存在する会社ということができ、本件協定は、通常の労働組合の団結権を確保するためのユニオン・ショップ協定というに止まらず、補助参加人組合員の再就職先の確保のために補助参加人と債務者との間でなされた民法上の契約というべきものである。

そして、債権者らが債務者に雇用される以前から産業別組合である補助参加人の組合員であり、補助参加人と債務者とが本件協定を締結する際には組合の意思形成に参加していることを併せ考えると、債権者らが、合理的な理由もなく補助参加人を脱退し他の組合に加入することこそが、著しく信義に反し権利の濫用に当たるというべきであるから、本件協定に基づいてなされた本件解雇は権利の濫用にあたらず、有効である。

(3) 賃金仮払仮処分においては、労働契約上の地位を有する限り毎月確実に支給される基本給を基準として仮に支払われるべき金額を算定すべきである。

また、債権者らの本件解雇前三か月間の一か月当たり平均総支給給与額は、債権者X1につき三二万七九七二円、債権者X2につき三三万七六五三円、債権者X3につき三九万五二六七円である。

(二) 保全の必要性について

債権者らは、従前勤務していた会社を退職する際に、多額の退職金等を支給されており、債権者らが現在生活に困窮している事実はないから、保全の必要性はない。

三  争点

1  本件協定に基づいてなされた本件解雇の有効性

2  保全の必要性

第三争点に対する判断

一  争点1(本件協定に基づいてなされた本件解雇の有効性)について

1  前記前提事実(第二の一)のとおり、債権者らが、本件協定に基づき平成一一年八月九日付で債務者を解雇(本件解雇)された事実は当事者間に争いがなく、一応認められる。また、疎明資料(<証拠略>)及び審尋の全趣旨によれば、債権者らは本件解雇の時までに、補助参加人を脱退又は除名され、全港湾に加入していた事実が一応認められる。

2(一)  まず、ユニオン・ショップ協定に基づく解雇の効力について検討すると、ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、他方、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、締結組合の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定によって、労働者に対し、解雇の威嚇の下に特定の労働組合への加入を強制することは、それが労働者の組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には許されないものというべきである。

したがって、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入している者及び締結組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成したものについて使用者の解雇義務を定める部分は、右の観点からして、民法九〇条の規定により、これを無効と解すべきであり、使用者が、ユニオン・ショップ協定に基づき、このような労働者に対してした解雇は、同協定に基づく解雇義務が生じていないのにされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であると解すべきである。(最高裁昭和六〇年(オ)第三八六号平成元年一二月一四日第一小法廷判決、最高裁昭和六二年(オ)第五一五号平成元年一二月二一日第一小法廷判決)

これを本件についてみると、本件協定のうち、「会社は組合に加入しない者、または組合員の資格を失った者を引き続き運転士等として雇用しない(四条三項)。」として債務者の解雇義務を定める部分は民法九〇条により無効であり、右協定に基づく本件解雇は、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効と解すべきである。

(二)  そこで、本件解雇の合理性を裏付ける特段の事由があるかについて、さらに検討する。

(1) 債務者らは、<1>債務者は、補助参加人の組合活動の成果として補助参加人組合員の再就職先の確保を主たる目的として設立された会社であり、本件協定も、債務者の労使関係を安定させることによりその経営基盤を安定させて、補助参加人組合員の雇用を確保するために締結されたものであるから、補助参加人組合員の再就職先の確保という目的の限度において、補助参加人組合員の団結権に優先順位が認められ、債権者らの団結権に一定の制約が加えられると解すべきである、<2>債権者らは、債務者に雇用される以前から既に補助参加人に加入しており、本件協定の意義、効用を理解した上で債務者との雇用関係を継続し、補助参加人組合員として恩恵を受けていた者であるところ、未だ再就職できない補助参加人組合員が多数存在し、組合秩序の維持により離職組合員の就職を確保すべき状況にあるにもかかわらず、補助参加人からの脱退を策したことは、明らかに意図的な組合分裂を図る行動であり、悪質な統制違反に該当するから、債権者らに対する除名処分は正当である、<3>よって、本件協定に基づく本件解雇は合理的であり、解雇権の濫用に当たらず有効である旨主張する。

しかし、仮に、補助参加人が債務者の設立に向けて尽力し、債務者の設立の経緯において補助参加人組合員の雇用対策が重要な問題となり、本件協定もが補助参加人組合員の再就職先の確保を実質的な目的として締結されたとしても、債務者は、あくまでも、事業の縮小等を余儀なくされる旅客船事業者が「自らバス事業の展開を図ることにより旅客輸送サービスを継承し、併せて離職者対策の一助とするため」設立されたものと認められるのであり(<証拠略>)、特段、補助参加人組合員のみの再就職先の確保を目的として設立された会社とは認められない。また、本件協定は、補助参加人の組合員たる資格を取得せず又はこれを失った場合に、債務者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に組合の組織の拡大強化を図るという点で、一般のユニオン・ショップ協定と何ら異ならないものと解されるから、本件協定に基づく解雇の効力についても、例外的に解釈すべきではないと考えられる。債務者らは、本件協定の実質的目的が補助参加人組合員の再就職先の確保にある点を強調し、その目的の限度で補助参加人組合員の団結権が優先され、債権者らの団結権は制約されるべきである旨主張するが、右の目的は、結局、組合の組織強化を通じて締結組合及びその組合員の利益を図ることにほかならないのであって、等しく労働者である補助参加人組合員と債権者らの団結権とを比較して、前者が後者に優先する価値を有すると解すべき理由を見出すことはできない。

さらに、債務者らは、債権者らが本件協定の意義、効用を理解した上で債務者との雇用関係を継続していたことを、本件解雇の合理性を裏付ける事情として主張するが、労働者が締結組合に加入した後で他の労働組合に加入したり新たな労働組合を結成することは労働者の組合選択の自由や他の労働組合の団結権として保障されるものであるから、債権者らが右のような労働者の権利・自由を放棄しているとは認められない本件において、債権者らが当初本件協定の意義、効用を理解して債務者との雇用関係を継続していたことが、本件解雇の合理性を裏付ける事情とはならないと解すべきである。

したがって、債務者の設立の経緯や本件協定締結の実質的目的が補助参加人組合員の再就職先の確保にあること、債権者らが本件協定の意義、効用を理解した上で債務者との雇用関係を継続していたことをもって、本件解雇の合理性を裏付ける特段の事由があるとは認められないというべきである。

(2) 債務者らは、本件協定は通常のユニオン・ショップ協定というに止まらず、補助参加人の組合員の再就職先の確保のために補助参加人と債務者との間でなされた民法上の職場確保契約というべきものであり、債権者らが債務者に雇用される以前から産業別組合である補助参加人の組合員であって、補助参加人と債務者とが本件協定を締結する際には組合の意思形成に参加していることを併せ考えると、債権者らが、合理的な理由もなく補助参加人を脱退し他の組合に加入することが、著しく信義に反し権利の濫用に当たるから、本件協定に基づいてなされた本件解雇は権利の濫用に当たらない旨主張する。

しかし、前記(1)のとおり、本件協定は一般のユニオン・ショップ協定と何ら異ならないものであり、それを超えるものではないと解される。また、労働者が、当初、締結組合に加入してユニオン・ショップ協定の締結に賛同していたとしても、後に他の労働組合に加入したり新たな労働組合を結成することは組合選択の自由や他の労働組合の団結権として保障されるものであるから、債権者らが補助参加人組合を脱退し他の労働組合に加入したことが権利の濫用に当たるということはできない。

よって、債務者らの右主張も認められない。

(3) その他、本件解雇の合理性を裏付ける事由は認められない。

(三)  以上によれば、本件協定に基づく本件解雇は権利の濫用として無効であるから、債権者らは債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることが一応認められる。

3  債権者らが債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあるとすると、債権者らは債務者において勤務し、概ね解雇前三か月間の一か月当たり平均総支給給与額を受給しているものと解されるから、債権者らに対し仮に支払われるべき賃金額は、解雇前三か月間の一か月当たり平均総支給給与額と算定するのが相当である。疎明資料(<証拠略>、審尋の全趣旨)によれば、本件解雇前三か月間の一か月当たり平均総支給総額は、債権者X1について三二万九四六八円、債権者X2について三三万九一五九円、債権者X3について三九万五二六七円と認められる(債権者X3については本件解雇前三か月分全部の総支給給与額を疎明する資料がないから、債務者主張の平均総支給給与額の限度で認める。)から、債権者らに対して仮に支払われるべき賃金月額は右各金額とするのが相当である。

二  争点2(保全の必要性について)

1  審尋の全趣旨から、債権者らが社会保険の受給権を確保する上で、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める必要性があることが一応認められる。

2(一)  また、疎明資科(<証拠略>)及び審尋の全趣旨によると、債権者X1は共同汽船株式会社を退職する際に退職金、臨時手当等として合計九五〇万三七六二円を、債権者X2は淡路フェリーボート株式会社を退職する際に退職金、賞与等として合計二〇〇一万〇〇五七円を、債権者X3は共同汽船株式会社を退職する際に退職金、臨時手当等として合計九四二万四三〇一円をそれぞれ支給されていたが(ただし、いずれも税引き前の金額)、債権者らは右退職金等を、生活費、教育費、借入金の返済、車やパソコンの購入等のために費消し、現在では残金が殆どないか少額であることが一応認められ、かつ、債権者らには未成年の子がいることなどから、今後、教育費等の出費が必要となり得ることが容易に推認できる。

(二)  右の事実を前提とすると、債権者らに対する賃金仮払仮処分を認める必要性は一応肯定できる。

三  結論

よって、債権者らの申立ては、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めること及び主文掲記の金額の賃金仮払を求める限度で理由があるからこれを認め、債権者X3のその余の申立ては理由がないから却下することとし、事案に鑑み、担保を立てさせないで、主文のとおり決定する。

(裁判官 武宮英子)

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