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神戸地方裁判所 平成11年(ワ)1602号 判決 2002年1月09日

主文

1  被告は、原告に対し、6080万4610円及びこれに対する平成11年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  参加によって生じた訴訟費用を補助参加人の負担とし、その余の訴訟費用を被告の負担とする。

4  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

被告は原告に対し、6081万8000円及びこれに対する平成11年9月1日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、破産管財人の原告が、破産者の被告に対する弁済に対して否認権を行使し、被告に対し、同弁済額と同額の金員の支払い及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。

1  争いのない事実等(末尾に証拠の標目の記載のある事実は証拠によって容易に認定できる事実であり、同記載のない事実は当事者間に争いのない事実である)

(1)  被告の破産者に対する債権(以下、これらを合わせて「本件各貸付」という)

被告は、破産者に対し、平成10年8月28日現在、下記の4口の証書貸付債権合計5481万8000円を有していた。

(ア) 被告は、破産者に対し、平成8年12月19日、1600万円を、証書貸付の方法により、元金26万5000円及び利息を毎月末日限り支払い、最終返済日平成13年12月18日との約定で貸し渡した(甲4の4)。

平成10年8月28日現在の残元金は1096万5000円であった。

(イ) 被告は、破産者に対し、平成9年10月21日、1100万円を、証書貸付の方法により、元金18万3000円及び利息を毎月末日限り支払い、最終返済日平成14年10月20日との約定で貸し渡した(甲4の3)。

平成10年8月28日現在の残元金は935万3000円であった。

(ウ) 被告は、破産者に対し、平成10年1月9日、2600万円を、証書貸付の方法により、平成10年1月から12月までは利息のみを、平成11年1月以降は元金54万1000円及び利息を毎月末日限り支払い、最終返済日平成14年12月30日との約定で貸し渡した(甲4の2)。

平成10年8月28日現在の残元金は2600万円であった。

(エ) 被告は、破産者に対し、平成10年4月30日、850万円を、証書貸付の方法により、利息のみを毎月末日限り支払い、最終返済日平成11年4月28日に元金を一括して支払うとの約定で貸し渡した(甲4の1)。

平成10年8月28日現在の残元金は850万円であった。

(オ) 被告は、破産者に対し、平成10年7月30日、600万円を、手形貸付の方法により貸し付けた(以下、本件各貸付のうち、これを「本件手形貸付」という)。

平成10年8月28日現在の残金は600万円であった。

(2)  本件各貸付の弁済に至る経緯

破産者は、昭和61年に、訴外Aと共同出資して4454トンの汽船・友和喜丸を建造し、友和喜丸を訴外Aが8割、破産者が2割の持分割合で共有した上で、訴外Aに対する債務を、友和喜丸の運行によって得た船舶使用料の中から返済していた。

破産者は、友和喜丸の船籍をキプロスに移そうと考え、訴外Aの持分を訴外Aから買い取った上で、友和喜丸を、破産者の子会社であるキプロス法人訴外Bに売却した。その際、訴外Aは、破産者に対する債権を担保するために、友和喜丸にキプロス法上の船舶抵当権の設定を受けた。破産者は、訴外Aに対し、平成10年、友和喜丸を売却して、その売却代金から訴外Aに対する債務1億3788万9354円を支払うので、抵当権設定登記を抹消してほしいと持ちかけ、上記船舶抵当権設定登記の抹消を受けた(甲7、13ないし24、乙14、証人A)。

破産者は、平成10年8月27日に友和喜丸を売却し、翌28日に1億9894万2000円を得た(甲13、証人A)。

ところが、破産者は、訴外Aとの間の上記約束を履行しないまま、平成10年8月28日、被告に対し、上記売却益のなかから、本件各貸付全額(同日現在6081万8000円)を弁済した(以下、これを「本件弁済」という)。本件弁済時、本件各貸付は全て弁済期未到来であった。

破産者は、その他の一部の債権者に対してのみ偏頗な弁済をし、訴外Aに対する債務を支払わなかった(甲24、証人A)。

(3)  破産者の破産宣告に至る経緯

訴外Aは、友和喜丸に設定を受けていた抵当権を抹消した際に、一時的な代替担保として破産者から額面1億3700万円の約束手形の振出を受けていた。そして、訴外Aは、破産者が上記支払約束を履行しないため、上記約束手形を銀行に呈示したが、資金不足を理由に支払いを拒絶された。

そこで、訴外Aは、平成10年9月25日、神戸地方裁判所に、破産者に対する破産の申立てをした(甲30)。

破産者は、平成10年12月14日午後1時、神戸地方裁判所において破産宣告を受け(平成10年(フ)第831号)、同日、原告が破産管財人に選任された。

(4)  危機否認(破産法72条4号)

そうすると、破産者が本件弁済をしたのが平成10年8月28日であり、訴外Aによる破産の申立てがなされたのが平成10年9月25日であって、しかも、本件弁済当時、本件各貸付はいずれも弁済期到来前であったと認められるから、本件弁済は、破産法72条4号の定める、破産者が破産の申立前30日内になした債務の消滅に関する行為であって、その時期が破産者の義務に属しないものに該当する。したがって、被告において、破産者の支払停止若しくは破産又は破産債権者を害すべき事実を知らなかったことを主張立証しない限り、原告は本件弁済を否認することができる(破産法72条4号)。

そこで、原告は、本件弁済につき、本件訴訟において否認権を行使した。

2  争点

(1)  被告の害意の有無

ア 被告及び補助参加人の主張

被告は、破産者が支払い不能であることも、他の債権者を害することも知らなかった。

原告は、被告が、破産者が決算報告書上超過債務であることを知っていたことをもって、本件弁済を受けた当時害意があったという。しかしながら、被告は、個人及び中小、零細の事業体を主たる対象として融資する信用組合であって、貸借対照表上欠損を抱えている借り手に対しても、人的、物的担保による保全策を講じた上で融資を実行する。そして、被告は、破産者に対しては、本件各貸付を含めてこれまで全て補助参加人の保証を得られることを条件に融資を実行してきたので、回収に懸念がなかった。したがって、被告は、破産者の業績等に神経質になる必要はなく、破産者の決算報告書上超過債務であることも意にとめていなかった。

たしかに、被告は、平成10年7月30日、破産者に対する本件手形貸付の際、破産者から「訴外Aの指導に従って友和喜丸を売却する予定であり、予定どおり進めば本件各貸付を全部返済する」という話を聞いたことはあるが、訴外Aと破産者との間で、訴外Aの破産者に対する債権について何らかの合意に達しているのであろうと理解しただけである。本件弁済を受領した当時、被告にそれ以上の認識はなかった。

イ 原告の認否

被告及び補助参加人の主張を否認する。

被告は、破産者から借入れ要請があった際、破産者に残高資産表を作成させ、これにより、破産者が赤字経営であり、清算したときに到底債務全額の支払いが不可能であることを知っていた。したがって、債権全額を回収すると、会社の存続ができず、整理清算を要することも知っていた。

また、破産者は、唯一の資産である友和喜丸を売却し、その売却益をもって被告に弁済したのであって、今後、被告が事業を継続できない状態に陥ることは必定であった。そして、被告はこのことも知っていたのである。

被告及び補助参加人は、補助参加人の保証があるので、被告は破産者の財務状態を調査しなかったと主張するが、補助参加人の保証があることは、保証が確実であるというだけのことであって、被告の害意の有無とは別問題である。

(2)  本件貸付を別除権つき債権と同視できるか

ア 被告及び補助参加人の主張

補助参加人は、破産者との保証委託契約に基づいて、被告の破産者に対する本件各貸付について信用保証を行い、保証委託契約に基づく求償金債権を被担保債権として、破産者から、同社所有の不動産に極度額3600万円の根抵当権の設定を受けていた。

根抵当権の権利者は補助参加人であるが、経済的実態からすれば、破産者が借入金の返済を滞ったときは補助参加人が代位弁済をすることによって被告の破産者に対する債権は自動的に補助参加人に移転することになるのであるから、被告の貸金は実質的には同根抵当権によって担保されているというべきである。

したがって、本件弁済は、別除権つき債権に対する弁済と同視することが可能であるし、本件弁済の結果、根抵当権が抹消されて一般債権者のための責任財産が増加しているのであるから、本件弁済は、破産債権者を害するものではなく、否認の対象にならない正当な行為である。

なお、根抵当権の極度額は3600万円であって、本件弁済額を下回っているが、担保権の不可分性からすると、任意弁済を受けるにあたっては、極度額を超過する債権についても一般債権者に対して優先して回収することが可能であり、極度額を超過する弁済部分についても否認の対象にはならない。かかる解釈は、破産法277条の解釈において、根抵当権の極度額超過債権が直ちに回収不能として証明されたことにはならないとされ、破産実務上もそのように処理されていることと整合する。

イ 原告の認否

被告及び補助参加人の主張を争う。

被告の債権には根抵当権は設定されていないのであるから、被告の債権を根抵当権付きと認めることはできない。

また、その担保価値は極度額を下回るものであって、本件各貸付全額を担保できるようなものではなかった。

(3)  本件手形貸付に対する弁済が否認権の対象になるか

ア 被告及び補助参加人の主張

平成10年7月30日の本件手形貸付は、破産者のギリシャの弁護士に対する弁護士費用や友和喜丸の船員に対する人件費などの支払いにあてられているが、同費用は、友和喜丸の売却のために必要不可欠な資金であった。

仮に友和喜丸の売却益が破産財団に属するとしても、本件手形貸付は、上記のとおり、その売却に必要な資金を得るために使われたのであるから、本件手形貸付の貸金は、共益費的な性質を有している。したがって、これが、友和喜丸の売却代金から被告に優先的に支払われたとしても、その支払いには相当性が認められるから、否認の対象とならない。

イ 原告の認否

被告及び補助参加人の主張を争う。

(4)  戻し利息、戻し保証料等について否認権の範囲から控除すべきか

ア 被告及び補助参加人の主張

本件弁済はいずれも利息計算日より前になされたので、破産者が払い過ぎの利息合計1万3390円が発生した。そこで、被告は破産者に対し、平成10年8月28日、同額を戻し利息として破産者に返還した。

補助参加人は、中小企業からの保証委託に応じて信用保証をする場合、主債務者から、保証の対象金額、保証期間に応じた保証料の支払いを受けている。そして、主債務者が弁済期前に完済した場合、補助参加人は、支払いを受けていた保証料を戻し保証料として返還する。本件各貸付についても弁済期前に完済されたため、補助参加人は、破産者に対し、平成10年9月10日、戻し保証料として合計95万3604円を支払った。

補助参加人は、破産者が本件各貸付を完済したため、破産者の不動産について設定を受けていた根抵当権を抹消した。同不動産の時価は2100万円以上である。

以上の次第で、破産者は、本件弁済によって、①戻し利息の支払い、②戻し保証料の支払い、③時価は2100万円以上の所有不動産に対する根抵当権の抹消という利益を受けているのであるから、少なくとも、これらの合計2196万6994円については、否認後の簡便な事後処理のために、否認権の範囲から控除すべきである。

イ 原告の認否

被告及び補助参加人の主張を争う。

補助参加人の根抵当権の放棄と、被告が優先的に回収をした事実とに直接の関係はない。

また、根抵当権の評価額については知らない。

第3争点に対する判断

1  被告の害意の有無

被告及び補助参加人は、被告は、破産者に対しては、本件各貸付を含めてこれまで全ての貸付について補助参加人の保証を得られることを条件に融資を実行してきたのであって、破産者の債務や担保関係の詳細を調査することもなく、破産者の財務状態を把握していなかったため、本件弁済を受けることによって他の債権者を害することになるとは知らなかったと主張する。

(1)  被告らの主張を裏付ける事実ないし証拠

被告の融資担当社員として本件各貸付の大半を担当した証人Bは、破産者に対する貸付の際には、あらかじめ破産者が補助参加人と交渉し、決算書などの必要書類も補助参加人に提出して、補助参加人の保証のめどをつけてきており、債権回収のリスクがなかったため、被告としては、破産者の資産や業績などの財務内容に関心がなく、調査したこともなかった旨、その後の利息等の分割弁済にも滞りはなかったので、支払いを督促したこともなかったところ、平成10年8月28日、破産者の方から自ら、事務員をよこして小切手による本件各貸付の弁済を申し出てきたので、後にトラブルが発生するとは思わずにこれを受領した旨証言する。

また、破産者の実質的代表者であった証人Aも、被告は、補助参加人の保証がなければ融資に応じてくれなかったので、補助参加人に決算書等の書類を提出して保証に応じてもらった上で、被告の貸付を受けていた旨証言する。

そして、たしかに、被告の破産者に対する貸付の際に作成される書面のうち、破産者の財務状況や支払能力に関する事項(破産者の資産状況、最近3か年の決算状況、最近の決算による資産・負債状況、預金・借入金の状況など)が記載されているのは、破産者の補助参加人に対する信用保証委託申込書(乙1ないし5の各2)であること、破産者の被告に対する借入申込書(乙1ないし5の各1)や、被告の補助参加人に対する信用保証依頼書(乙1ないし5の各3)にはこの種の記載がないことが認められる。

(2)  被告及び補助参加人の主張と矛盾する事実ないし証拠

ア しかしながら、そもそも、与信業務を営む信用組合であって、金融に関しては専門的知識を有しているはずの被告が、いくら補助参加人の保証が融資の条件であるからといって、補助参加人に審査を委ね、自らは借り主の財務状況、支払能力について審査をしないとは考えられない。

現に、証拠(乙1ないし5の各1ないし3、乙8ないし12、証人B(以下の認定に反する部分を除く))によれば、破産者から被告に融資の申込みがあった際、被告は、破産者に決算報告書を提出させるほか、破産者の補助参加人に対する上記信用保証委託申込書を破産者に作成させ、これらの内容を踏まえて社内稟議の上で、破産者に対する各貸付を実行していたと認めることができる(もっとも、証人Bは、上記信用保証委託申込書については、破産者が補助参加人に直接提出するものであるから、被告はその内容を関知しない旨証言する。しかしながら、同申込書には証人Bを含む被告の稟議用の押印欄があり、被告社員によって順次押印されているから、同申込書が被告の稟議に回されたと認められること、同申込書には被告の社員によって「決算書提出済」という記載がなされており、その作成について被告が関与していると認められることに照らすと、被告は、同申込書の内容を認識把握しているとみるのが合理的である。証人Bの上記証言は信用できない)。そうすると、被告は、破産者に対する貸付の度に、破産者の事業内容や財務状況、支払能力などについて調査把握していたと認められる。

そして、破産者の平成7年11月1日以降2年度分の決算報告書(乙6、7)や平成8年11月1日以降2年度分の残高資産表(甲8の1・2)によると、破産者においては毎年大幅な負債超過状態が継続し、改善されていないことが認められる(証人B自身、同決算報告書によれば破産者は健全ではない旨証言する)。

以上の事実によれば、被告は、破産者に提出させた決算報告書や信用保証委託申込書等を通じて、破産者の大幅な赤字状態について把握していたと推認することができる。そうすると、被告は、本件弁済を受ける際にも同様の認識を有していたとみるのが合理的である。

イ また、上記決算報告書(甲8の1・2、乙6、7)の貸借対照表の資産の部の記載、証人Aの証言及び破産者の業務が船舶貸渡業であることに照らすと、友和喜丸は破産者の重要な資産であるとともに、破産者が事業を継続する上で必要不可欠なものであったと認められる。そして、証拠(乙5の3、証人B)によれば、被告は、少なくとも破産者がこれを売却する予定であることについては知っていたと認められるのであって、上記のとおり、破産者に対する貸付の際に、被告が破産者の事業内容などを把握していたと認められることを併せ考えると、被告は、破産者が友和喜丸を売却することにより破産者のその後の事業の継続が困難になることについても、予測することができたと考えられる。

(3)  結論

上記(2)の事実ないし証拠に鑑みると、上記(1)の証拠によってもなお、被告が本件弁済を受ける際に、他の債権者を害すると知らなかったと認めることはできず、その他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件弁済は否認権の対象となる。

2  別除権つき債権と同視できるか

被告及び補助参加人は、補助参加人が、破産者との保証委託契約に基づく求償金債権を被担保債権として、破産者の所有する不動産に極度額3600万円の根抵当権の設定を受けていたところ、破産者が借入金の返済を滞ったときは、補助参加人が代位弁済をすることによって、被告の破産者に対する債権は自動的に補助参加人に移転することを理由に、経済的実態からすれば、被告の本件各貸付は実質的には同根抵当権によって担保されている別除権付き債権と同視しうるから、本件弁済は否認の対象にならないと主張する。

しかしながら、上記のような解釈を採用し、破産法が特別に許容する別除権者以外の債権者に対してまで別除権を与えることは、破産者の一般債権者の利益を不当に害することになるおそれがあるというべきである。

被告及び補助参加人の主張を採用することはできない。

3  本件手形貸付に対する弁済が否認権の対象となるか

被告及び補助参加人は、本件手形貸付金は、友和喜丸の売却のために必要不可欠な、ギリシャの弁護士費用や友和喜丸の船員に対する人件費などの支払いにあてられたのであるから、友和喜丸の売却代金が破産財団に属するとしても、本件手形貸付は共益費的な性質を有していると主張して、これが友和喜丸の売却代金から優先的に支払われたとしても、その支払いには相当性が認められ、否認の対象とならないと主張する。

しかしながら、そもそも、友和喜丸の売却の結果、破産者が営業不能に至って破産状態に陥り、破産宣告されるに至ったと認められることに鑑みると、友和喜丸の売却が破産者の総債権者の共同利益のためになされたものとみることはできない。また、仮にそのようにみる余地があるとしても、総債権者の利益のためになされた共益費については、優先的破産債権として、破産手続の中で、破産財団の中から優先的に弁済を受けうるにとどまるというのが破産法39条の趣旨というべきである。

したがって、被告及び補助参加人の上記解釈を採用することはできない。

4  戻し利息、戻し保証料等について否認権が認められるか

(1)  戻し利息について

証拠(乙4の6、証人A)によれば、本件弁済がいずれも利息計算日より前になされ、元本完済により本件各貸付が消滅した結果、利息について1万3390円の取り過ぎという事態になったため、被告は、平成10年8月28日に、戻し利息として同額を破産者に返還した事実が認められる。

そうすると、結果として、被告が破産者から弁済を受領した金額は、本件弁済額から上記金額を控除した6080万4610円と認められるから、否認権の対象となる弁済も同額であると認められる。

したがって、上記戻し利息に関する被告及び補助参加人の主張には理由がある。

(2)  戻し手数料について及び抹消根抵当権について

補助参加人は、本件弁済の結果、本件各貸付が弁済期前に完済されたため、補助参加人が破産者に対して平成10年9月10日に一部を返還した保証料計95万3604円について、否認後の事後処理の簡便さのために、弁済否認の範囲から控除されるべきであると主張する。

また、補助参加人は、被告が本件弁済を受けたことによって、補助参加人は、破産者に対する求償権の担保のために破産者の所有不動産について設定を受けていた根抵当権を抹消したことを理由に、同根抵当権を設定していた不動産の価格(合計2100万円以上)についても、上記と同様の理由で弁済否認の範囲から控除すべきであると主張する。

たしかに、本件弁済が否認された場合、補助参加人の保証債務も当然復活することになるから(破産法79条参照)、補助参加人は上記保証料について破産者に対して返還請求権を取得することになると解される。また、補助参加人が抹消した根抵当権についても復活する可能性があると考えられる。

しかしながら、それらに関する事後処理は、補助参加人が、破産手続の中で、破産管財人である原告を相手に進めるのが本来の手続というべきである。原告と補助参加人との間のこれらの問題について、原告と被告の間の手続である本件訴訟の中で、否認権の対象からこれを控除することによって解決するという方法を認めることはできない。

したがって、補助参加人の上記主張は認められない。

5  結論

以上の次第で、原告の請求は6080万4610円の限度で理由があるので一部認容する。訴訟費用については、棄却部分が僅少であることに鑑み、参加によって生じた費用については民事訴訟法66条、64条ただし書き、61条を適用して補助参加人の全額負担とし、その余の費用については民事訴訟法64条ただし書き、61条を適用して被告の全額負担とする。

(裁判官 太田敬司)

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