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神戸地方裁判所 平成11年(ワ)1774号 判決 2002年9月17日

東京都台東区<以下省略>

原告

株式会社富士喜本店

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

山根二郎

神戸市<以下省略>

被告

マックスファクター株式会社

同代表者代表取締役

Y1

神戸市<以下省略>

被告

Y1

神戸市<以下省略>

被告

Y2

被告ら訴訟代理人弁護士

佐々木満男

石田英遠

江崎滋恒

被告ら訴訟復代理人弁護士

小林秀之

主文

1  原告が被告マックスファクター株式会社に対し,原告と同被告が平成8年6月14日締結した別紙マックスファクターパートナーストア契約書記載の契約に基づき,原告の注文にかかる同被告製品(マックスファクター化粧品)の引渡しを求め得る地位にあることを確認する。

2  原告の被告マックスファクター株式会社に対するその余の確認の訴えを却下する。

3  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告マックスファクター株式会社の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1 請求の趣旨

(1) 被告マックスファクター株式会社(以下「被告会社」という。)は,原告に対し,別紙商品目録記載の商品を引き渡せ。

(2) 原告が被告会社に対し,平成12年3月7日以降においても,原告と被告会社との間で平成8年6月14日締結された別紙マックスファクターパートナーストア契約書(以下「別紙契約書」という。)記載の契約に基づき,原告の注文にかかる被告会社販売のマックスファクター化粧品の引渡しを受けるべき地位にあることを確認する。

(3) 被告Y1及び被告Y2は,連帯して,原告に対し,500万円を支払え。

(4) 訴訟費用は被告らの負担とする。

(5) 仮執行宣言

2 請求の趣旨に対する答弁

(1) 原告の請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者の主張

1 請求原因

(1) 被告会社に対する請求関係

ア 本件契約の締結

原告は,被告会社との間で,昭和40年ころ,マックスファクターパートナーストア契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

イ 本件契約の内容

(ア) 本件契約は,被告会社が製造した化粧品を一定の卸値で全国各所に設けられた小売店(特約店と呼ばれる。)に供給し,その各小売店において同化粧品の小売販売をさせることを目的とするものであった。

(イ) 本件契約の有効期間は1年間とされ,双方に異議のないときは更に1年間自動更新されるとされており,本件契約は,自動更新されてきた。

(ウ) 原告は,本件契約締結後,今日に至るまで34年間にわたって,被告会社の特約店として,被告会社の製造・販売にかかるマックスファクター化粧品を東京・浅草の原告の店舗及びその支店で小売販売してきた。原告は,平成6年11月以降,支店(新店舗)を全国各地に増設してきたが,支店(新店舗)が10店舗に達した平成9年12月以降は,原告の被告会社からの仕入高は,毎月約5000万円に達していた。

(エ) 被告会社は,これまで原告から発注があった商品をすべて原告に供給してきた。

(オ) 原告は,これまで一度も被告会社に対する仕入代金の支払を遅滞したことがない。

(カ) このように,原告と被告会社との間の取引関係は長年にわたって継続されていることに加え,被告会社の製造・販売にかかるマックスファクター化粧品を取り扱うことは原告の特色となっており,同化粧品の売上が原告の全売上げの大きな部分を占めていて,かつ,原告が同化粧品を他から購入する余地は一切閉ざされており,被告会社が一方的に同化粧品の出荷を停止すると,原告に決定的な打撃を与えることになるから,本件契約は,いわゆる継続的商品供給契約であって,被告会社は,本件契約に基づき,原告に対して商品供給義務を負う。

なお,被告会社は,本件契約において,代金支払の遅延・不払や在庫不足等の特段の事情がない限り,原告から品名と数量を特定して発注があった場合は,その発注にかかる商品を原告に供給することを約している(包括的な承諾を与えている。)。したがって,本件契約は,通常の売買契約のように,個別注文に対する個別の承諾によって個別の売買契約が初めて成立するというものではないのである。

ウ 被告会社の出荷停止

原告は,被告会社に対し,平成11年7月分(同年6月21日から同年7月20日まで)の商品として,従来どおり,月額約5000万円のベースでマックスファクター化粧品を発注したところ,同年6月24日の発注分までは出荷されたが,それ以降の発注分については,同年7月2日の発注分が出荷されたのを最後に,いくら原告が催告しても,一切出荷されないまま今日に至っている。

原告が被告会社に対して発注しながら,被告会社が出荷を拒否している商品は,別紙商品目録記載のとおり(同年7月発注分3742万0731円,同年8月発注分5127万3907円)である。

エ 被告会社の主張

被告会社は,本件契約は解約により終了したと称し,原告の本件契約上の地位を争っている。

(2) 被告Y1及び被告Y2に対する請求関係

<略>

2 請求原因に対する認否

(1) 請求原因(1)(被告会社に対する請求関係)について

ア 請求原因(1)ア(本件契約の締結)は,認める。ただし,本件契約は,原告の本店との間で締結されたものである。

イ 請求原因(1)イ(本件契約の内容)について

(ア) 請求原因(1)イ(ア)は,認める。ただし,本件契約にいう小売店は,本件契約を締結した店舗である。

(イ) 請求原因(1)イ(イ)は,認める。

(ウ) 請求原因(1)イ(ウ)のうち,近時,原告が被告会社と新たな契約を結ばずに,被告会社が原告に対して卸してきたマックスファクター化粧品のうち多くの部分を原告の各支店が流用してきた点は認めるが,その余は不知。被告会社は,原告が小売販売のみではなく,他店にも卸販売を続けているのではないかとの強い疑念を抱いている。

なお,原告が最初に支店を開設したのは平成6年であり,原告が34年間にわたってマックスファクター化粧品を販売してきたのは本店においてである。

(エ) 請求原因(1)イ(エ)は,不知。

(オ) 請求原因(1)イ(オ)は,認める。

(カ) 請求原因(1)イ(カ)は,否認ないし争う。

被告会社の原告本店に対する商品の出荷が実質的に行われなくなった平成11年9月以降においても,原告本店及び支店の店頭には依然被告会社商品が十分に並んでいる。次に,原告は,被告会社の競争会社の化粧品を扱っていることは明らかであり(<証拠略>),仮に,被告会社から被告会社商品を入手できなかったとしても,原告は,代替的な競争品(競争手段)を容易に見いだすことができるのである。また,マックスファクター化粧品は,原告の店舗において,5番目に表示される化粧品にすぎず,これを取り扱うことが原告の特色となっているとはいえない。

さらに,本件において,取引関係が長年にわたって継続し,いわゆる継続的商品供給契約が成立しているのは,あくまで契約店舗である原告本店との取引であって,支店との取引ではない。したがって,仮に,継続的取引から生ずる原告の取引継続の期待があり得るとしても,その期待は,原告本店の取引についてのみ生ずるものであり,支店販売部分については,継続的商品供給に基づく商品供給義務など存在しない。

そして,本件契約は,当事者間の権利義務を定めた基本契約にすぎず,原告の商品の引渡請求権が発生するためには,原告の商品の発注に対して,被告会社の承諾があったことが必要となる(平成6年9月14日資生堂事件東京高裁判決・判例時報1507号43頁)。本件において,被告会社が原告の商品発注に承諾を与えた事実はない。

ウ 請求原因(1)ウ(被告会社の出荷停止)のうち,平成11年7月2日の発注分が出荷されたのを最後に,いくら原告が催告しても,一切出荷されないまま今日に至っているとの事実は,否認する。被告会社は,同年8月21日の発注分(9万6000円)につき商品を出荷している。

この点,被告会社は,契約が締結されている店舗において消費者に販売されている分として,とりあえずその金額を50万円と設定し,原告の注文がその金額までであれば,出荷に応じる用意があった。

エ 請求原因(1)エ(被告会社の主張)は,認める。

(2) 請求原因(2)(被告代表取締役両名に対する請求関係)について

<略>

3 抗弁

(1) 原告の本件契約違反による一部供給措置(被告会社に対する商品引渡請求に対し)

ア 本件契約における約定

本件契約締結の際に作成された別紙契約書には,以下の内容の規定がある。

(ア) 原告が本件契約に違反した場合で,相当期間を定めて違反を是正するよう催告をしたのに原告がこれに応じないときには,取引制限又は停止若しくは本件契約の解除の措置をとることができ,契約違反行為が信頼関係破壊により是正され得ないと認められるときには,催告なくして上記措置をとることができる(別紙契約書15条)。

(イ) 原告は,その販売要員に被告会社の主催する美容講座を受講させ,マックスファクター化粧品を販売するに当たり,被告会社の指導するところに従って,顧客に対し同化粧品の使用方法を説明したり,同化粧品について顧客から相談に応じたりして,これを積極的に推奨販売しなければならない(別紙契約書6条,9条,以下「対面販売条項」という。)。

(ウ) 原告は,原告が購入した商品を原告本店のみにおいて,消費者にのみ直接小売販売するものとし,原告が他に店舗を新設する場合には,新設店舗ごとに別途契約を締結しなければならない(別紙契約書1条,13条,以下「店別契約条項」という。)。

イ 対面販売条項及び店別契約条項の有効性

本件契約において,対面販売条項及び店別契約条項が独占禁止法19条が禁止する「不公正な取引方法」に該当しないことは,以下の理由により明らかである。

(ア) 対面販売は,個々の消費者に対して,それぞれの体質,季節の変化,化粧をする時間帯等に応じて,きめ細かく化粧品の説明を行ったり,その選択や使用方法について顧客の相談に応じる(少なくとも,各種セミナーを受講して常に個々の顧客の求めにより説明,相談に応じ得る態勢を整えておく。)という付加価値をつけて化粧品を販売する方法である。被告会社は,これにより,最適な条件で化粧品を使用して美容効果を高めたいとの個々の顧客の要求に応え,あるいは肌荒れ等の皮膚のトラブルを防ぐ配慮をすることによって,顧客に満足感を与え,他の商品とは区別されたマックスファクター化粧品に対する顧客の信頼(いわゆるブランドイメ一ジ)を保持しようとしているのであり,対面販売条項には,合理的理由がある。

(イ) 特約店契約を締結しておらず,対面販売の義務を負わない店舗等に商品が流用されてしまうと,前項の目的を達することができなくなるから,店別契約条項は,対面販売条項に必然的に伴うものというべきである。

(ウ) 被告会社は,他の取引先との間においても,本件契約と同一の約定を締結しており,原告以外の取引先は,すべて対面販売条項及び店別契約条項の遵守を受託している。

ウ 原告による対面販売条項違反行為

(ア) 被告会社は,前記のような理由で,対面販売を最重要の営業方針として臨んできた。被告会社は,インターネットによる化粧品販売を試験的に行ったことはあるが,対面販売の目的に反したことなどを理由にこれを終了し,現在まで類似のテスト販売は行われていない。原告は,化粧品のセルフ販売店「セフォラ」との間で特約店契約を締結していることを問題としているが,同店においても対面販売ができる態勢が整えられているのであり,なんら問題はない。

(イ) しかるに,原告は,対面販売を予定しないいわゆる「職域販売」(単に商品名,価格,商品コードを記載しただけのカタログを事業所等の職場に配布して電話やファクシミリでまとめて注文を受けて配達する方法で,カウンセリングを伴わないもの)を行っていた。

エ 原告による店別契約条項違反行為

(ア) 原告は,被告会社から仕入れたマックスファクター化粧品のほとんどを直接消費者に小売りすることなく,被告会社と特約店契約を締結していない原告の新設店舗に流用して販売していた。

さらに,原告は,他社の店舗への卸売販売も行っている疑いがある。

(イ) 被告会社が原告がマックスファクター化粧品を本店以外の店舗で販売していることを従前から認識していたとの事実,これを被告会社の担当者が認め,あるいは被告会社が黙認していたとの事実は,いずれもない。被告会社は,原告の上記違反行為を認識してから,原告に対し,違反行為を止めるように度々催告したが,原告はこれを止めなかった。

原告は,被告会社が原告の各支店での取引を容認していたと主張する。

確かに,Bが,セールストークの一環として,原告の支店での取引を容認するような発言をせざるを得なかった可能性は否定できない。しかし,契約条項に明白に違反する取引を容認するという被告会社にとって非常に重要な意思決定をBが行う権限はないのであり,Bの容認を被告会社の意思表示と解釈することはできない。また,Cが支店での取引を容認した事実はないし,仮に,これを容認していたとしても,これを被告会社の意思表示と解釈することができないのは,Bの場合と同様である。

被告会社の原告担当責任者であるDは,平成9年4月17日及び同年6月25日,原告からの支店での取引の要望を口頭で明確に拒否し,被告会社は,同年8月1日付け原告宛書簡(<証拠略>)により,原告の支店での取引関係の申込みに対して拒絶の通知を行い,平成10年12月18日付け原告宛書簡(<証拠略>)により,原告各支店との間では契約が成立していない旨の正式な通知を行ったものである。原告も,同月28日付け被告会社宛書簡(<証拠略>)において,支店との間での契約が成立していないということを明確に確認している。

したがって,仮に,平成8年の時点で,被告会社として原告の支店での取引を容認する事実があり,支店を含めて本件契約が成立していたと評価できるとしても,本件契約の有効期間(1年ごとの更新)にかんがみると,遅くとも平成11年の時点においては,被告会社と原告各支店との間で本件契約が成立してると評価する法的根拠は何もないのであり,それにもかかわらず,原告は各支店において被告会社化粧品の販売を行うという明白な契約違反行為を継続していたものであるから,原告・被告会社間の信頼関係が破壊されていることは明らかである。

なお,被告会社は,原告が上記違反行為を行っている可能性があることを認識した後,直ちにその是正措置を取らなかったが,それは,当時,本件において問題になっている対面販売条項等の有効性が原告を当事者の一部とする訴訟において激しく争われており,第1審と第2審の結論も別れていた状況であったため,被告会社としては,その是正措置につき慎重にならざるを得なかったものである。したがって,当該訴訟の帰趨が明らかになるまで,その是正措置を取らなかったとしてもやむを得ないものであり,これをもって,被告会社が原告の支店での取引を容認していたと評価することはできない。

オ 被告会社の要請の無視

原告は,被告会社が原告に対して販売方法等について度重なる質問をしたのに対し,全く誠意を持った対応をしなかった。さらに,原告は,被告会社の再三の本件契約遵守の要求に応じず,原告各新設店舗との契約締結を要求するのみで,契約違反行為を継続した。

カ 以上のような原告の本件契約違反行為及び信頼関係破壊行為により,被告会社は,原告に対し,50万円に至るまでの発注に応じるという一部供給措置をとったものであり,上記措置は正当な措置である。

(2) 本件契約の解約(被告会社に対する商品引渡しを受けるべき地位の確認請求に対し)

ア 抗弁(1)ア(本件契約における約定),抗弁(1)イ(対面販売条項及び店別契約条項の有効性),抗弁(1)ウ(原告による対面販売条項違反行為),抗弁(1)エ(原告による店別契約条項違反行為)及び抗弁(1)オ(被告会社の要請の無視)と同じ。

イ 信頼関係の破壊

原告は,被告会社に対し,平成11年7月23日付け通知書及び同年10月5日の本件口頭弁論期日において,被告会社及び被告代表取締役両名の行為が刑法235条の窃盗罪に該当すると断定し,「事柄は警察における刑事事件以外の何ものでもありません。」「日本という法治国家では,窃盗がばれたからといって,金を返しても,罪を免れることはできない。」などと,被告会社及び被告代表取締役両名に対する誹謗中傷を繰り返すなど,常識を超えた対応をとり,本件契約における信頼関係を破壊した。

ウ 別紙契約書17条に基づく本件契約の解約の意思表示(なお,これは,被告会社に対する解約日以降における商品引渡請求に対する抗弁にもなり得る。)

(ア) 被告会社は,原告に対し,同年12月7日の本件口頭弁論期日において,平成12年3月7日をもって信頼関係の破壊を理由に本件契約を解約するとの意思表示をした。

(イ) 被告会社は,原告に対し,平成11年12月7日付け書面において,平成12年3月7日をもって信頼関係の破壊を理由に本件契約を解約するとの意思表示をし,上記書面はそのころ原告に到達した。

エ 別紙契約書18条に基づく約定解約権の行使

原告又は被告会社は,本件契約の有効期間中といえども,それぞれ文書による30日前の予告をもって理由を要せずして本件契約を中途解約できる(別紙契約書18条)。被告会社は,原告に対し,平成11年12月7日の本件口頭弁論期日及び同日付け書面において,別紙契約書18条の「事由を要しない解約」条項に基づく解約を主張しており,予告期間として,原告の立場を考慮し,約定の30日間を上回る3か月間を設定し,その旨を通知しているものである。

オ 相当の予告期間を設けた解約(又は更新拒絶による契約終了)

エの解約の意思表示は,相当の予告期間を設けた解約の意思表示であり,相当期間経過後である平成12年3月7日において,解約の効力が生じた。

また,当該解約の意思表示は,更新拒絶の意思を当然に包含するものであるから,仮に,同日において解約の効力が生じなかったとしても,別紙契約書21条に基づき,本件契約は,遅くとも同年6月14日,期間満了により終了した。

4 抗弁に対する認否及び原告の主張

(1) 抗弁(1)(原告の本件契約違反による一部供給措置)について

ア 抗弁(1)ア(本件契約における約定)は,認める。

イ 抗弁(1)イ(対面販売条項及び店別契約条項の有効性)は,否認ないし争う。

ウ 抗弁(1)ウ(原告による対面販売条項違反行為)のうち,原告が職域販売を行っていたことは認め,その余は否認ないし争う。

(ア) 被告会社は,インターネットによりマックスファクター化粧品の通信販売を行っているし,化粧品のセルフ販売店「セフォラ」との間でも特約店契約を締結しているのであるから,対面販売を最重要の営業方針として臨んできたとの被告会社の主張は虚偽である。

(イ) 原告が行っている職域販売は,仕入額全体の2ないし5パーセントである。また,原告は,本件契約が締結された昭和40年以来,34年間にわたって職域販売を行っており,被告会社はそのことを初めから熟知していながら,これまで一度も職域販売をやめてほしいとの意向を表明したことはなかった。さらに,原告は,被告会社に対し,平成10年12月29日をもって職域販売を中止することを内容証明郵便で通知し,同日をもってこれを中止した。

(ウ) 原告の各支店においては,来客した顧客にいつでも詳細な対面販売を行うことができる態勢が維持されている。

エ 抗弁(1)エ(原告による店別契約条項違反行為)は,否認する。以下のとおり,原告の行為は,店別契約条項に違反しないし,仮に違反するとしても,それが本件契約における信頼関係を破壊するものではない。

(ア) 原告は,平成8年ころ,被告会社の担当者であるCに対し,各支店ごとに特約店契約を締結したいと申し出たが,同人から「支店ごとの契約をしなくても,商品は富士喜本店に出すから富士喜の各支店に回していただければよい。」と言われた。

(イ) 原告は,同年6月14日,被告会社との間で契約更新をした際,被告会社地域担当者Bに対し,今までどおり原告各支店での販売分も出荷してもらえるよう念を押したが,これに対して同人は,これまでどおり各支店の販売分も間違いなく出荷すると確約した。

(ウ) 被告会社は,原告に対し,常にマックスファクター化粧品の売上げの増大,促進を求め続けてきたのであって,原告が売上げを増大すればするほどそれを奨励し,販売特別助成金と称する報奨金を原告に支払ってきた。原告の被告会社に対する発注高は,原告の支店の数が増えるに従って年々増加してきた。

(エ) 原告は,原告各支店と被告会社との間で,本件契約が締結されている旨の平成11年5月19日付けの内容証明郵便による通知書を被告会社に送付したのち,被告会社に対して,これまでどおり原告の本店及び支店の販売分として,月額合計約5000万円の商品の出荷を求めたところ,被告会社はこれに応えて原告の発注どおりに商品を出荷してきた。

(オ) 以上の経緯のとおり,被告会社は,原告が本店で一括して仕入れたマックスファクター化粧品を本店だけでなく各支店で販売してきたことを支店開設以来熟知していたが,それについてなんらの異議も唱えることなく商品を出荷してきたのであるから,本件契約は,原告の本店及び各支店も含めて,原告,被告会社間で成立してるものと評価できるし,少なくとも,原告がマックスファクター化粧品を支店が販売したことにより本件契約における信頼関係が破壊されることはない。

オ 抗弁(1)オ(被告会社の要請の無視)は,否認する。

力 抗弁(1)カは,否認ないし争う。

被告会社は,同年7月4日以降,原告に対して全面的に出荷停止の措置をとったのであり,一部供給措置などというようなものではない。

(2) 抗弁(2)(本件契約の解除)について

ア 抗弁(2)アに対する認否は,4(1)アないしオと同じ。

イ 抗弁(2)イ(信頼関係の破壊)のうち,原告の被告会社に対する言動が本件契約における信頼関係を破壊するとの点は,争う。大企業である被告会社が,自らの杜撰な落ち度について,それにより重大な被害を受けた極めて弱小な零細企業から多少強い口調の非難の声を浴びせられたからといって,信頼関係が破壊されたと解することはできない。

ウ 抗弁(2)ウ(ア)(別紙契約書17条に基づく本件契約の解約の意思表示)は争い,抗弁(2)ウ(イ)(別紙契約書17条に基づく本件契約の解約の意思表示)は,認めるが,争う。

エ 抗弁(2)エ(別紙契約書18条に基づく約定解約権の行使)及びオ(相当の予告期間を設けた解約(又は更新拒絶による契約終了))は,いずれも争う。

5 再抗弁(信義則違反,権利濫用,公序良俗違反ー抗弁(1),(2)に対し)

被告会社のとった取引停止措置及び本件契約の解約は,以下の事情に照らすと,信義則違反,権利濫用,公序良俗違反に該当し,無効である。

(1) 被告会社が取引停止措置及び本件契約の解約の理由として挙げる対面販売条項違反,店別契約条項違反,原告の被告に対する誹謗中傷等の事情が,いずれも事実に反するか,少なくとも信頼関係の破壊に至らない程度のものにすぎないことは,前記のとおりである。

(2) 被告会社の原告に対する本件出荷停止,解約は,マックスファクター化粧品を2割引きで全国的,大々的に販売している「化粧品安売り店」で知られる原告経営の店舗に対し,自社化粧品を入手できないようにすることにより,上記値引販売を阻止しようとした意図,目的から出たものであることは明らかであり,これは独占禁止法に違反する行為である。

対面販売条項違反,店別契約条項違反等の被告会社の主張は,この真の理由を隠蔽するために考え出された口実にすぎない。

(3) 被告会社が原告に対して行った本件出荷停止,解約(更新拒絶)には,「やむを得ない事由」も「合理的理由」も存しない。

6 再抗弁に対する認否及び被告会社の主張

(1) 再抗弁(1)ないし(3)は,いずれも否認ないし争う。

(2) 被告会社の一部供給措置は,原告が,店舗ごとに契約を締結し,カウンセリング販売を積極的に行う等の契約上の義務に違反し,信頼関係を破壊する行為を継続して行っていたことに対抗して取られたものであり,それに加えて,被告会社が上記信頼関係を破壊する行為の是正を求める中で,原告は,被告会社代表者が犯罪を犯したものと根拠なく決め付ける等の常識を超えた誹謗中傷を繰り返したため,被告会社は本件契約を解約するに至ったものである。したがって,被告会社の一部供給措置及び本件契約の解約は正当な行為であり,被告会社の行為が信義則違反,権利濫用,公序良俗違反に該当するという原告の主張は,全く根拠のない主張にすぎない。

この点,仮に,被告会社の営業担当者による原告の支店での販売の容認があり,これに基づき,信義則上,被告会社が直ちに商品の出荷を停止することは許されないという考え方が理論上成り立ち得るとしても,本件において,被告会社は,商品の出荷を直ちに停止したものではないことに留意すべきである。すなわち,被告会社は,原告に対し,遅くとも平成10年12月18日付けの通知書により,支店での販売の中止を求めたものであり,契約店舗で販売されると想定された数量をはるかに上回る注文に対して商品を出荷しなくなったのは平成11年7月以降である。したがって,被告会社は,原告に対し,7か月以上の予告期間を与えたものであり,本件において,被告会社が直ちに商品の出荷を停止したものとして信義則上許されないと評価することはできないと解される。

理由

第1当裁判所の判断

1 被告会社に対する商品引渡請求について

<略>

2 被告会社に対する商品引渡しを受けるべき地位の確認請求について

(1) 原告が被告会社との間で,昭和40年ころ,本件契約を締結し,その後,本件契約が自動更新されてきたことは,当事者間に争いがないところ,被告会社は,平成11年12月7日の本件口頭弁論期日において,原告に対し,被告会社が原告による店別契約条項違反行為の是正を求める中で,原告は,抗弁(2)イのとおり,誹謗中傷を繰り返し,原告との信頼関係は完全に失われたとの理由により,別紙契約書17条及び18条に基づき,平成12年3月7日をもって本件契約を解約する旨の意思表示をし,また,平成11年12月7日付け通知書(内容証明郵便)(<証拠略>)をもって,同旨の意思表示をした(以下「本件解約」という。)ことは,本件訴訟上明らかである。

そこで,本件解約の効力について検討する。

(2) 争いのない事実,顕著な事実,<証拠略>によれば,次の事実が認められる。これに反する証拠は,前掲各証拠に照らし,採用することができない。

ア 原告は化粧品等の販売等を目的とする株式会社であり,被告会社は化粧品等の製造,売買等を目的とする株式会社であるところ,原告は,被告会社製品の取引について締結された本件契約に基づき,被告会社本社の受注センターに対して化粧品の注文をして,被告会社から化粧品を仕入れ,単に商品名,価格,商品コードを記載しただけのカタログを事業所等の職場に配布して電話やファクシミリでまとめて注文を受けて配達する方法(いわゆる「職域販売」)によって,これらを主に2割引きで販売していた。この場合,顧客と対面しての被告会社化粧品の使用方法等の説明,相談等は全く予定されていない。被告会社側は,原告が職域販売の方法によって化粧品を販売していることを知っていたが,平成10年12月18日まで,原告との間でこれを問題にしたことはなかった。

イ 東京高等裁判所は,平成6年9月14日,原告が提起した別件訴訟(同裁判所平成5年(ネ)第4019号地位確認等請求控訴事件)について,請求棄却の判決を言い渡し,職域販売が対面販売を定めた特約店契約に反し,その債務不履行を構成する旨判示した。

ウ 原告は,上記イの判決を受け,職域販売を縮小して店頭販売を行うこととし,別紙「原告の本店および全国一一か所の支店(新店舗)一覧表」記載のとおり,平成6年11月7日以降,全国各地に順次支店を開設した。原告は,支店で販売する商品を本店において仕入れ,これを各支店に送って販売していた。その後,原告の職域販売による売上高は減少し,全体の売上高に占める割合は2ないし5パーセントとなった。

エ 原告代表者A(以下「A」という。)は,各支店を開設する前に,被告会社の営業担当者であったB(以下「B」という。)に対し,その旨を伝えるとともに,再三にわたり,各支店ごとに本件契約と同様の契約を締結するように申し入れた。Bは,その都度,被告会社関東支店支店長であったD(以下「D」という。)および被告会社東京第一営業所所長であったC(以下「C」という。)に対し,Aの上記申入れを伝えたが,D及びCは返答をしなかった。

オ D,C及びBは,平成8年5月14日,取引制度の改正について説明するため,原告の本店を訪問した。その際,Aが各支店ごとに契約を締結するように申し入れたのに対し,Dらは,各支店ごとに契約を締結することは難しいが,これまでどおり,商品は支店の分も本店に出荷するから,それを支店に回せばよい旨述べた。同年6月5日,A,C及びBが会食をした際にも,同様のやりとりがあった。

カ 原告及び被告会社は,同月14日,別紙契約書を作成した(これは厳密には新たな契約の締結であるが,本件契約と連続性を有するものであり,別紙契約書の作成後は,本件契約の内容は別紙契約書記載のとおりとなったものと解されるから,別紙契約書記載の契約も「本件契約」と称することとする。)。Bは,原告から別紙契約書を受領する際,Aに対し,商品は支店の分も本店に出荷する旨述べた。

キ Aは,平成9年2月ころ,被告会社側に対し,各支店ごとに契約を締結するように申し入れ,同年4月17日,D及びCと会った際,各支店の従業員にカウンセリングのトレーニングを行うように申し入れたが,Dらは,各支店とは契約を締結していないとの理由でこれを拒否し,また,Aの契約締結の申入れに対しても,各支店と契約を締結すると,近所の店がうるさいし,東京の数字(売上高)が減ってしまうとの理由により,これを拒否した。

ク Dは,同月27日,被告会社本社営業統括本部長であったE宛の「富士喜本店の取引について」と題する書面(<証拠略>)を作成し,Eに対し,これを送付した。上記書面には,原告に対する売上高が増大していること,全国各支店の注文及び全国の職域販売が増大していると考えられること,原告から各支店ごとの取引を申し込まれたが,取引はできない旨伝えたことなどが記載され,また,「富士喜が全国的規模で広がりを見せる状況から,MF(マックスファクター)の将来にとって職域販売の広がりと安売り店の広がりは,危険ではないかと危惧する。」「現場では,法的に許される範囲で出荷の調整ができればと考えています。」などと記載されている。

ケ Aは,同年6月25日,D及びCと会食をした際,各支店ごとに契約を締結することを拒否されたのに対し,文書で回答するように求めたので,Dは,Aに対し,同年8月1日付け書簡(<証拠略>)を手渡した。上記書簡には,「今回お申し出を頂きました貴社10店舗との取引開始の依頼の件につきまして,各店舗の雰囲気,周辺環境,当社サポート体制等,種々考慮致しましたが,何れの店舗も取引を開始するには至らないとの判断に到達しましたので,誠に申し訳ありませんが,取引の開始はご遠慮させて頂きたく存じ上げます。」などと記載されている。

コ 被告会社パートナーストア中部支店支店長であったFは,平成10年3月17日,Eに対し,「中部地区ディスカウント店出店ラッシュの報告」と題する電子メール(<証拠略>)を送信し,Eは,Dに対し,これを転送して,その点について情報をつかんでいるか否かを尋ねた。上記電子メールには,原告が名古屋市にディスカウント店を出店することを予定していること,近隣にムラサキヤや三越という主力店が存在し,今後それらの売上げに大きな影響が出ることは必至であることなどが記載され,また,「今後の対策として出荷を控える等の手段は公取委の関係上難しいと思いますが口座店のみの店頭売りに見合う納品だけに止める事その努力が必要かと思います。」「現既存店にとっては死活問題とされており,メーカーに対する対応を問う声が日増しに膨れている関係上何らか努力している旨のポーズを執らざるを得ません。」「この種の問題は過去頻繁に在りましたが最近我社の主力店の近郊に発展しております」などと記載されている。

サ 最高裁判所は,同年12月18日,上記イの判決に対する上告事件(同裁判所平成6年(オ)第2415号地位確認等請求事件)について,上告棄却の判決を言い渡した。

シ 被告会社は,原告に対し,平成10年12月18日付け書簡(内容証明郵便物)(<証拠略>)を送付した。上記書簡には,「当社はこれまで,貴社におかれましては当社の販売理念及び販売施策を理解され,マックスファクターパートナーストア契約書の各条項に則り当社化粧品のご拡販にあたられていると信じておりました。然るに,これまで当社が調査し入手した情報によりますと,貴社は当社から買い受けた化粧品のほとんどについて,契約書に記載された店舗において直接消費者に対し小売販売していないことが判明致しました。これは先の契約条項に違反し両者間の信頼関係を損なうものであり誠に遺憾に存じます。つきましては,当社は貴社に対し,今後は当社化粧品の全てを契約書に記載された貴社店舗で直接消費者に小売販売するよう約束することを求めるものであります。」などと記載されている。

ス 原告は,職域販売の顧客に対し,同月24日付け「職域配達販売全面中止のお知らせ」と題する書面(<証拠略>)を送付し,同月29日,職域販売を完全に中止したが,各支店における商品の販売は継続した。

セ 原告は,本店の従業員に被告会社によるカウンセリングのトレーニングを受けさせ,上記トレーニングを受けた者は,各支店の従業員に対し,カウンセリングについて説明していた。原告の本店及び各支店においては,カウンセリングコーナーが設けられ,カウンセラーが顧客の求めに応じて,被告会社化粧品についてカウンセリングを行うこととなっていた。

ソ 原告の被告会社からの仕入高の推移は,別紙「マックスファクター仕入実績表」記載のとおりであり(なお,各月の仕入高は,前月21日から当月20日までの仕入高の合計である。),原告の支店の増加に伴い,仕入高も年々増大し,平成10年の仕入高の月平均は5000万円以上に上っていた。

タ 被告会社は,原告に対し,平成11年2月25日付け回答書(内容証明郵便物)(<証拠略>)を送付した。上記回答書には,原告の各支店との取引開始を見合わせる理由は,「推奨販売が必要とされる当社商品を,これまで貴社本店から各支店へ(それもパートナーストア契約第6条に抵触して推奨販売も行っていないのではないかと疑われる各支店に)勝手に移動されていたこと,貴社本店において本当に守られているかどうか疑問のある「推奨販売」の実行(パートナーストア契約書第6条に明記してある)と,推奨販売の実施が期待できないような他店への「卸売り販売」を当社が禁止していることについて,貴社の他の支店がこれらを遵守されるかどうか,当社としては極めて疑わしいと考えていることなど」であるなどと記載されている。

チ 被告会社は,原告に対し,同年4月30日付け回答書(内容証明郵便物)(<証拠略>)を送付した。上記回答書には,「当社は当社商品の貴社浅草本店への今後の出荷量を,当社の調査に基づき,貴社浅草本店の一般消費者に対する予想販売額として,取敢えず月額50万円と設定」するなどと記載されている。

ツ 被告会社は,同年6月24日までの原告の商品の注文に対しては,これに応じて商品を出荷していたが,原告の別紙商品目録記載の商品の注文に対しては,これに応じず,その後も,原告に対し,一部の例外を除き,商品を出荷しなかった。

テ 原告は,被告会社に対し,同年7月23日付け通知書(内容証明郵便物)(<証拠略>)を送付した。上記通知書には,被告会社が原告の口座から5241万3173円を引き落としたことに関し,「日本の刑法第二三五条窃盗罪に該当するものと断定されることです。」「日本という法治国家では,窃盗がばれたからといって,金を返しても,罪を免れることはできないことになっているのです。」「事柄は,警察における刑事事件以外の何ものでもありません。」などと記載されている。

ト 原告は,同年8月26日,当裁判所に対し,本件訴訟を提起した。

(3) 別紙契約書17条に基づく本件解約について

ア 原告による対面販売条項違反行為について

被告会社は,原告は対面販売を予定しないいわゆる「職域販売」を行っていたから,対面販売条項に違反する旨主張する。

確かに,上記認定のとおり,原告は,本件契約を締結した昭和40年ころから平成10年12月29日までの間,職域販売を継続し,この場合,顧客と対面しての被告会社化粧品の使用方法等の説明,相談等は全く予定されていないのであるから,これは対面販売条項に違反するものというべきである。

しかしながら,上記認定のとおり,被告会社側は,原告が職域販売の方法によって化粧品を販売していることを知っていたが,平成10年12月18日まで,原告との間でこれを問題にしたことはなかった。

また,原告は,平成6年9月14日,別件訴訟において,職域販売が対面販売を定めた特約店契約に反し,その債務不履行を構成する旨の判決を受け,職域販売を縮小して店頭販売を行うこととし,同年11月7日以降,全国各地に順次支店を開設した。原告の本店及び各支店においては,カウンセリングコーナーが設けられ,直接又は間接にトレーニングを受けたカウンセラーが顧客の求めに応じて,被告会社化粧品についてカウンセリングを行うこととなっていた。

その後,原告の職域販売による売上高は減少し,全体の売上高に占める割合は2ないし5パーセントとなった。そして,原告が職域販売を完全に中止した平成10年12月29日から本件解約まで約1年間が経過していた。

以上によれば,被告会社は,長年にわたり原告の職域販売を黙認していたうえ,平成6年9月以降,職域販売を縮小して店頭販売を行い,原告の本店及び各支店においては,顧客の求めに応じ,随時被告会社化粧品の使用方法等の説明,相談等をする態勢が一応整えられていたものであり,その後,原告の職域販売による売上高は著しく減少し,原告が職域販売を中止してから本件解約まですでに約1年間が経過していたのであり,これらの点に後記イの事情(被告会社は,原告が契約を締結していない(したがって,対面販売が保障されない)原告の各支店において商品を販売することを容認していたこと)をも併せ考慮すると,本件解約の時点においては,本件契約の基礎にある信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるものというべきである。

したがって,原告による対面販売条項違反行為を理由とする本件解約は無効というべきである。

イ 原告による店別契約条項違反行為について

(ア) 被告会社は,原告は被告会社から仕入れたマックスファクター化粧品のほとんどを直接消費者に小売りすることなく,被告会社と特約店契約を締結していない原告の新設店舗に流用して販売していたと主張する。

確かに,本件契約においては,原告は原告が購入した商品を原告本店のみにおいて消費者にのみ直接小売販売するものとされているところ,上記認定のとおり,原告は,平成6年11月7日以降,全国各地に順次支店を開設し,原告は支店で販売する商品を本店において仕入れ,これを各支店に送って販売しているのであるから,これは形式的には店別契約条項に違反するものといえる。

しかしながら,上記認定のとおり,原告代表者Aは,各支店を開設する前に,被告会社の営業担当者であったBに対し,その旨を伝えるとともに,再三にわたり,各支店ごとに本件契約と同様の契約を締結するように申し入れ,また,平成8年から平成9年にかけて,被告会社関東支店支店長であったD及び被告会社東京第一営業所所長であったCに対しても同様の申入れをしたのに対し,Dらは,各支店ごとに契約を締結することは難しいが,これまでどおり,商品は支店の分も本店に出荷するから,それを支店に回せばよい旨述べて,各支店ごとに契約を締結することを拒否したのであるから,被告会社は,原告の各支店と別途契約を締結することなく,原告が本店において仕入れた商品を各支店において販売することを容認していたものというべきである。

そうすると,原告が被告会社の上記容認に基づいて各支店において商品を販売したからといって,形式的にはともかく,実質的には店別契約条項に違反するものとはいえないし,信頼関係を破壊するものともいえない。かえって,被告会社が自己の態度を翻し,原告による店別契約条項違反行為を理由として本件解約をすることこそ,まさに原告の信頼を裏切るものであり,これが信義則に違反することは明らかである。

したがって,原告による店別契約条項違反行為を理由とする本件解約は無効というべきである。

(イ) この点,被告会社は,Cが支店での取引を容認した事実はないと主張し,これに沿う証拠(証人C)がある。

しかしながら,D及びCは原告が本店において仕入れた商品を各支店において販売することを容認していた旨の証人Bの証言は,具体的かつ詳細で,被告会社の内部事情に精通した者でしか知り得ない供述内容であって,迫真性に富み,反対尋問にも動揺することなく一貫していることや,証人Bはすでに被告会社を退職していることをも併せ考慮すると,その証言の信用性は高いものというべきである。これに対し,証人Cの証言は,被告会社の従業員という立場からの制約を受けることは免れないところであり,証人Bの上記証言と対比すると,これに反する証人Cの証言部分をそのまま信用することはできないから,被告会社の上記主張は理由がない。

また,被告会社は,契約条項に明白に違反する取引を容認するという被告会社にとって非常に重要な意思決定をBが行う権限はないのであり,Bの容認を被告会社の意思表示と解釈することはできないとか,Cが仮に支店での取引を容認していたとしても,これを被告会社の意思表示と解釈することができないのはBの場合と同様であると主張する。

しかしながら,被告会社の末端の営業担当者であったBが被告会社に無断で原告による店別契約条項違反行為を容認するという重大な行為に及ぶとはおよそ考えられず,証人Bもその証言においてこれを強く否定していることをも併せ考慮すると,上記容認は被告会社の意を受けたBにより,被告会社の方針として行われたものとみるのが相当である。上記認定のとおり,D及びCも原告が本店において仕入れた商品を各支店において販売することを容認していたことや,被告会社本社側は原告が各支店において商品を販売していることを知りながら商品を出荷していたと推認することができること(上記(2)ア,エ,オ,カ,ク,コ及びソ)も,上記判断を裏付けるものである。したがって,被告会社の上記主張は理由がない。

ウ 信頼関係の破壊について

被告会社は,原告は被告会社に対し,平成11年7月23日付け通知書において,被告会社及び被告代表取締役両名の行為が刑法235条の窃盗罪に該当すると断定し,「事柄は警察における刑事事件以外の何ものでもありません。」「日本という法治国家では,窃盗がばれたからといって,金を返しても,罪を免れることはできない。」などと,被告会社及び被告代表取締役両名に対する誹謗中傷を繰り返すなど,常識を超えた対応をとり,本件契約における信頼関係を破壊したと主張する。

しかしながら,上記通知書の記載(上記(2)テ)は,被告会社が原告の口座から5241万3173円を引き落としたことに関するものであるところ,その点について被告会社の対応に問題があったことは後記3(2)のとおりであって,原告から非難されてもやむを得ない面があることは否定することができないし,一般に自己の権利を主張する際に誇張した表現方法を用いることはまま見られるところであって,上記通知書の記載内容には穏当を欠く点があるものの,これが社会通念上是認される限度を超えるものとまでは認め難い。

さらに,原告が上記通知書を送付した当時は,被告会社が原告の商品の注文に対する承諾の意思表示をすべき義務(後記(5))に違反して商品の出荷を停止し,原告に多大な損害を与えていた時期であったことをも考慮すると,上記通知書の記載をもって本件契約の基礎にある信頼関係を破壊したものと評価することはできないから,被告会社の上記主張は理由がなく,上記ア及びイの判断を左右するものではない。

(4) 別紙契約書18条に基づく約定解約権の行使(相当の予告期間を設けた解約又は更新拒絶による契約終了)について

本件解約の目的について検討するに,上記認定のとおり,被告会社側は,平成9年4月17日,近所の店がうるさいなどの理由により,原告の各支店と契約を締結することを拒否したこと(上記(2)キ),同月27日,原告が全国に支店を開設するなどし,原告に対する売上高が増大していることから,職域販売と安売り店の広がりを危惧し,出荷の調整を検討していたこと(上記(2)ク),平成10年3月17日,原告が名古屋市にディスカウント店を出店することを予定しているとの情報を得たことから,近隣の定価販売をしている契約店舗の売上げに大きな影響が出ることを懸念し,メーカーに対応を求める声が高まっていることから,出荷を控える等の手段は公正取引委員会との関係で難しいものの,契約店舗の店頭販売に見合う数量の納品だけにとどめるなどの対策を取る必要があると考えていたこと(上記(2)コ),平成11年4月30日付けで,原告に対し,原告の本店への商品の出荷量を本店の一般消費者に対する予想販売額である月額50万円とする旨を通告し(上記(2)チ),その後,原告の注文にかかる商品を出荷しなかったこと(上記(2)ツ)を総合考慮すると,本件解約は,主として原告の各支店における商品の値引販売を阻止する目的で行われたものと推認するのが相当である。そして,本件解約は,原告による商品の値引販売を阻止するのみならず,一般的に商品の値引販売を萎縮させて,その再販売価格を不当に拘束するという結果をもたらし,公正な競争を阻害するおそれがあるから,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の趣旨に照らし,公序良俗に違反するものというべきである。

したがって,本件解約は,別紙契約書18条に基づくものとして無効というべきである。また,被告会社の主張する相当の予告期間を設けた解約は別紙契約書18条に基づく本件解約の言換え(あるいは類似の法律構成)にすぎないし,更新拒絶の意思表示は本件解約に包含されるものであるというのであるから,これらについても上記の理が当てはまるものというべきである。

(5)ア 以上によれば,本件解約は無効であるから,本件契約はなお存続しているものというべきである。

そして,上記1(2)のとおり,原告と被告会社は,本件契約締結の際,被告会社は,在庫不足等の特段の事情がない限り,原告の商品の注文に対する承諾の意思表示をしなければならないとの黙示の合意をしたものであり,これは本件契約の内容をなすものと解されるから,在庫不足等の特段の事情を見いだすことのできない本件においては,被告会社は,本件契約に基づき,原告の商品の注文に対する承諾の意思表示をすべき義務を負うものであり,被告会社が上記意思表示をすれば,原告は,被告会社に対し,原告の注文にかかる商品の引渡しを求めることができる。

したがって,原告の商品引渡しを受けるべき地位の確認請求は,本判決主文第1項の限度において理由がある。

イ 他方,原告は,請求の趣旨(2)のとおり,平成12年3月7日以降の商品引渡しを受けるべき地位の確認を求めているから,過去及び将来の権利又は法律関係の確認をも求める趣旨であると解される。

しかしながら,原告が現在本件契約上の地位にあることを確認すれば,本件契約をめぐる紛争を直接かつ抜本的に解決することになるのであるから,原告が過去及び将来において本件契約上の地位にあることを確定することは,現在の法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために必要とはいえない。

したがって,原告が過去及び将来において本件契約上の地位にあることの確認を求める訴えは,確認の利益を欠くものとして不適法であり,却下を免れない。

3 被告代表取締役両名に対する請求について

<略>

第2結語

よって,原告の本訴請求のうち,商品引渡しを受けるべき地位の確認請求は,本判決主文第1項の限度において理由があるから,これを認容することとし,その余の確認の訴えは不適法であるから,これを却下することとし,その余の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条,64条本文を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松村雅司 裁判官 水野有子 裁判官 増田純平)

別紙 契約書 <略>

別紙 商品目録 <略>

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