神戸地方裁判所 平成11年(ワ)354号 判決 2001年5月18日
原告
吉武壽子
被告
宮西聖二
主文
一 被告は、原告に対し、金二二一九万七〇九四円及びこれに対する平成九年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一申立て
一 請求の趣旨
(一) 被告は、原告に対し、金四七二六万一八九四円及びこれに対する平成九年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決
第二当事者の主張
一 請求原因
(一) 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
ア 日時 平成九年一月二日午後三時四〇分ころ
イ 場所 神戸市垂水区下畑町雲星四九八番地先交差点
ウ 加害車両 被告運転の普通乗用車(神戸七七め四六二〇、以下「被告車」という。)
エ 被害車両 原告運転の軽四貨物自動車(神戸四一み四五四六、以下「原告車」という。)
(二) 事故態様
原告車が、赤信号の表示に従い停車している時に、被告車がまず訴外兒玉俊一運転の普通乗用車(神戸三五つ二七三六、以下「兒玉車」という。)に追突し、兒玉車が原告車に玉突き衝突し、さらに原告車はその前方に停車中の訴外村田圭司運転の普通乗用車(神戸七八む五八八、以下「村田車」という。)に玉突き衝突したものである。
(三) 原告の受傷
ア 本件事故により、原告は、頸髄振盪、左上下肢不全麻痺(外傷性頸部脊髄症)の傷害を被り、次のとおり入通院治療した。
a 平成九年一月三日から同月二七日まで神戸徳洲会病院(以下「徳洲会病院」という。)に入院(二五日間)
b 平成九年二月三日から同年三月二三日まで神戸労災病院(以下「労災病院」という。)に入院(四九日間)
c 平成九年三月二四日から平成一〇年三月三一日まで労災病院に通院(三七三日間)
イ 以上の治療を行うも、左肩関節、股関節、脚関節の可動域制限を残し、歩行は矩下肢装具を装着し、一本杖を用いてかろうじて可能な状態となった。
この後遺障害は、自賠責後遺障害第七級四号所定の「神経系統の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当する。
(四) 損害
本件事故により、原告には次のとおりの損害が生じた。
ア 入通院慰謝料 金二〇〇万円
イ 入通院交通費 金一一万二〇〇〇円
ウ 入院雑費 金八万八八〇〇円
エ 後遺障害慰謝料 金一〇五一万円
オ 後遺障害逸失利益 金三三〇五万一〇九四円
計算式
二八万五六〇〇円(三九歳女子平均賃金)×一二か月×一七・二二一(二八年の新ホフマン係数)×五六/一〇〇=三三〇五万一〇九四円
カ 弁護士費用 金一五〇万円
以上合計 金四七二六万一八九四円
(五) よって、原告は、被告に対し、損害賠償金四七二六万一八九四円及びこれに対する本件事故日である平成九年一月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
(一) 請求原因(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の事実のうち、赤信号であったことは知らないが、その余は認める。
(三) 同(三)の事実のうち、原告が本件事故により頸髄振盪、左上下肢不全麻痺(外傷性頸部脊髄症)の傷害を被ったことは否認する。原告が同(三)ア記載の入通院をしたことは認めるが、上記入通院と本件事故との因果関係及び入院の必要性は争う。
原告が本件事故後入通院加療を受けた徳洲会病院における傷病名は、頸椎捻挫、頭頂部打撲等にすぎない。
また、原告の後遺障害(矩下肢装具を装着し、一本杖を用いてかろうじて歩行可能な状態であること)は知らない。仮に、原告主張の後遺障害が存するとしても本件事故との因果関係は争う。
さらに、仮に主張の後遺障害と本件事故との間に因果関係があるとしても、その後遺障害が第七級四号に該当するとの主張は争う。
原告の後遺障害については、自動車損害責任保険において、後遺障害に該当しないとの認定がされている。
(四) 同(四)の事実はいずれも争う。
三 被告の主張
(一) 本件事故態様は玉突き追突であり、停車中の兒玉車が被告車に追突され、その弾みで原告車に追突したものであって、原告車に加わった衝撃は大きなものではなく、原告車の損傷も軽微である。
(二) また、原告は、本件事故前の平成八年六月三〇日にも交通事故(以下「前の事故」ともいう。)に遭い、この事故により、外傷性頸部症候群の傷害を負い、徳洲会病院において約一か月の入院加療を受け、その後も通院加療を受けていた。その詳細は別紙のとおりである。
そして、原告は、平成八年一二月には二四回も通院し、同年末においてもなお加療を継続していた。また、原告は、同年一二月の時点で、杖突歩行をしていた模様である。
このように、原告は、前の事故によって一か月も入院した上、事故後半年近く経過してもなお頻繁に通院加療が必要な重篤な傷害を負っているのである。
(三) したがって、本件事故による衝撃並びに物的損害の程度と考え併せれば、原告の主張する重篤な後遺障害は前の事故により生じたものであり、本件事故とは因果関係がない。
また、原告主張の入通院期間についても、前の事故による治療が継続中であったことが考慮されるべきである。
四 原告の反論
(一) 本件事故による兒玉車から玉突き衝突された際の原告車への衝撃は決して小さなものではない。衝突された際に発生した原告車の損傷箇所は、車体後部のリヤバンパーから始まり、車体前部のフロントバンパー、ラジエーターにまで及んでおり、三三万円相当の修理代金を要している。
(二) 原告は、本件事故により、頸髄振盪、左上下肢不全麻痺の傷害を被ったものであるが、傷害は主として体の左側部分である。他方、前の事故による傷害は右上下肢痛を中心とするものであり、本件事故とは傷害を受けた部位が明らかに異なっている。後遺障害診断書に示されている傷病及び後遺症は前の事故による傷害の影響は皆無とまではいえないものの、前の事故によるものではなく、本件事故と因果関係があるとみなされるべきものである。
なお、前の事故の詳細については被告の主張を認める。
理由
一 請求原因(一)の事実及び同(二)の事実のうち信号が赤表示であった点を除くその余の事実については当事者間に争いがない。なお、本件事故は、被告車の追突事故による玉突き衝突であるから、事故時の信号機の色によって被告の過失に影響を及ぼすものではない。
二 被告は、本件事故態様は玉突き追突であり、原告車に加わった衝撃は大きなものではない旨主張し、他方、原告は、原告車の損傷箇所は車体後部から前部にまで及んでおり、玉突き衝突された際の原告車への衝撃は決して小さなものではない旨主張する。
証拠(甲四、乙一四、一五の一ないし六、一六、一七の一ないし六、一九、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告車に追突された兒玉車の前部は原告車の後部に衝突しているが、兒玉車の前部の修理箇所は、フロントバンパー、ヘッドライト、ボンネットのほか車体内部のラジエーターにまで及び、修理代金に五二万二五〇〇円を要していること、兒玉車に追突され村田車に追突した原告車の修理箇所は、リアバンパー、バックドアパネル、フロントバンパー、ヘッドランプ及びラジエーターであり、修理代金は金三三万円であること、原告車が衝突した村田車は普通自動車であるが、修理箇所はリアバンパー及び後部トランクであって、それぞれ部品を取り替えており、修理代金は金三六万三五九〇円を要していること、本件事故後原告は意識喪失をしたようであり、救急車で徳州会病院に搬送されていること、以上の事実が認められる。
これらの事実によれば、原告車は軽四輪車であり、これに追突された普通自動車の村田車がリアバンパーや後部トランクの部品を取り替える修理を要していることが認められ、これら三台の修理箇所及び修理代金の額並びに原告が救急搬送されていることに照らせば、被告車による衝突の衝撃はかなり大きなものであったと認めるのが相当である。
三 そこで、原告の受傷について検討する。
(一) 原告が本件事故後、原告主張の期間、主張の病院に入通院したことは当事者間に争いがない。
(二) 証拠(甲二の一ないし一七、三の一・二、乙一一、一二、一八、一九、証人山﨑京子、同長谷川健司、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、本件事故後、徳洲会病院に救急搬送され、頭頂部、首、右上肢と左肘が痛い旨訴えており、診察の結果、頭頂部、右上腕・左肘、胸部左側の圧痛が認められた。CT、X線撮影では特に異常は認められなかった。医師から入院の指示があったものの、子供のことが気になり同日は帰宅したところ、耐えがたい痛みのため、翌日(平成九年一月三日)、全身痛を訴え入院するに至った。
イ 原告の入院当日の当直医であった消化器外科の長谷川健司医師がそのまま原告の主治医となり、同医師は、頸椎捻挫、頭頂部、右上腕・左肘、左胸部打撲と診断し、前の事故の主治医である脳神経外科の福島康久医師(以下「福島医師」という。)のアドバイスを受けながら治療に当たった。
ウ 徳洲会病院における原告の治療は、主に投薬と安静加療であり、平成九年一月一〇日に外来で福島医師の診察を受けたほかは、原告の症状はカルテに記載されていない。入院当初から車イスを使用しており、退院時には、壁を伝って跛行しながら少し歩けるようになっていた。退院抄録には、入院中不定愁訴が続いたが、同年一月二九日軽快退院となると記載されている。看護記録には、原告は退院直前に外泊しているが、外泊中全身が痛く、帰院後、看護婦に対し、このような症状では退院が無理かもしれない旨訴えている。
エ 原告は、労災病院の整形外科で受診することとなり、同月三一日に外来で同病院の山﨑京子医師(以下「山﨑医師」という。)の診察を受けた。原告の主訴は、全身痛と四肢のしびれであり、両肩、背部、左股関節、左上肢、頭頸部痛を訴えている。診察の結果、頸髄振盪と診断されて入院することとなり、同年二月三日から労災病院に入院した。
オ 原告の主治医は山﨑医師であり、以降同年三月二三日まで入院治療を受けた。入院時の診断名は、頸髄振盪、左上・下肢不全麻痺(外傷性頸部脊髄症疑い)とされている。ブロック治療によりかなり疼痛が緩和されてきた。入院時は一本杖歩行であったが、同年三月ころから装具を着装した歩行訓練をし、同月一〇日には院外歩行や階段の昇降訓練を開始している。左上・下肢には依然としてしびれが残存しており、同月二一日段階でも、サーモグラフィー評価では上下肢全体に左右差が認められており、筋力テストにおいても明らかな差異が認められる。
カ 原告は、同年三月二三日に退院した後、平成一〇年三月三一日まで労災病院に通院し、同日症状が固定したものと診断された。傷病名は頸髄振盪、左上・下肢不全麻痺(外傷性頸部脊髄症)であり、自覚症状は、頸部痛、左上・下肢疼痛、しびれ感、知覚障害、左上・下肢運動障害であり、他覚症状及び検査結果等は、左肩関節、股関節、膝関節、足関節に可動域制限あり、運動時痛が著明である、左肩関節周囲、左下肢筋力低下あり、四肢反射は正常、左上・下肢知覚鈍麻あり(遠位程著明)、歩行は矩下肢装具を装着し、一本杖を用いてかろうじて可能である、とされている。
(三) 以上の事実によれば、原告は、本件事故により、頸髄振盪、左上・下肢不全麻痺(外傷性頸部脊髄症)の傷害を負ったものと認められる。
四 被告は、本件事故態様は玉突き追突であって、本件事故による衝撃並びに物的損害の程度と考え併せれば、原告の主張する重篤な後遺障害は前の事故により生じたものであり、本件事故とは因果関係がない旨主張するので、前の事故による原告の傷害の程度等について検討する。
(一) 原告が平成八年六月三〇日に前の事故に遭い、外傷性頸椎捻挫及び過換気症候群の傷害を負ったこと、徳洲会病院において、同日から同年七月三一日まで入院加療を受け、同年八月一日から同年一二月三一日まで(実通院日数一二三日)通院加療を受けていること、同年一二月には二四日間通院し、同月三一日付け診断書によると、治療は継続中であり、「平成八年一二月三〇日現在、右上下肢の痛み及び右に強い後頸部痛、浮動感を残している」と記載され、同書裏面には、右上下肢の痛みのほかしびれ感も記載されていること、本件事故当時も、前の事故による受傷について加療が必要な状況であり、とりわけ右上下肢痛及び右後頸部痛があり、歩行時には杖を使用する状況であったこと、以上の事実については当事者間に争いがない。
(二) 証拠(甲九の一ないし五、一一の一ないし七、乙五、六、七の一ないし三、九の一・二、一〇、証人山﨑京子、同長谷川健司、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 徳洲会病院の入院診療録によると、前の事故による入院時(平成八年六月三〇日)の原告の症状は、意識清明であるが、左下肢に軽度のしびれがあり、頸部鈍痛、MRIでは圧迫所見は認められないが、両下肢にしびれ並びに知覚低下があり、左前腕にもしびれがあると記載されている。
また、同年七月五日の欄にも「両下肢、左上肢痺れあり」と記載されており、看護記録には、「両下肢しびれ」、「左半身のしびれ」、「両下腿しびれ」、「左手足しびれ」など両下肢並びに左上肢のしびれの訴えが再々記載され、退院直前の同月三〇日においても「しびれ同様」と記載されている。
イ 徳洲会病院の外来診療録によると、退院後はもっぱらリハビリのみが繰り返され、医師による診察は半月に一度程度しかなく、同年一一月八日の欄には「手足のしびれ」との記載があるが、医師による診察所見の記載は簡略であり、原告の症状の経過は必ずしも明確ではない。同年八月一六日から同年一一月二六日まで「左右大後頭神経痛」と記載されている。同年一二月二〇日には「右上肢上がらない」「右上肢~すると痛い」と記載されている。
ウ 同年一二月三一日付けの診断書(甲一一の一、乙第六号証)には、同月三〇日の時点における症状として「右上下肢の痛み」と記載されているほか、同書の裏面には右上下肢のしびれが図示されており、同月三一日現在なお治療は継続中であるとされている。
エ 山﨑医師は、前の事故が本件事故後の原告の症状に及ぼす影響については、不明としながらも、正常の人とは反応が違う可能性が十分あり得るとしている。
(三) 以上の事実及び前記当事者間に争いのない事実によれば、原告は、前の事故により、事故後約一か月の入院治療を受け、本件事故当時もなお通院加療を要していたこと、入院中は、両上下肢のしびれもあったが、平成八年一二月二〇日ころには、特に右上下肢に運動障害や痛みが残存していたこと、本件事故の直前の同月三〇日には、右上下肢の痛み及び右に強い後頸部痛、浮動感を残しているとして、なお治療を継続中であることが認められ、また、前記認定のとおり、本件事故による原告の傷害は左上下肢の不全麻痺であり、前の事故の傷害が主に右上下肢の傷害であることに照らせば、本件事故による傷害は前の事故の傷害が悪化したものにすぎないとは認められない。
もっとも、原告は、前の事故によっても、入院当時は両上下肢のしびれが認められていたものであり、前の事故が本件事故後の原告の症状に及ぼす影響が全くないとはいえないことに照らせば、前の事故による受傷が本件事故による障害の発生ないしは拡大に影響を及ぼしたものと認めるのが相当であり、その素因として二割を認めるのが相当である。
五 次に原告の損害について検討する。
(一) 入通院慰謝料
原告が徳洲会病院に二五日間入院した後労災病院に四九日間入院し、その後労災病院に平成九年三月二四日から平成一〇年三月三一日まで通院したことについては当事者間に争いがなく、証拠(甲二の一)及び弁論の全趣旨によれば、労災病院における実通院日数は九六日であることが認められる。したがって、入通院慰謝料は一八〇万円と認めるのが相当である。
(二) 入通院交通費
弁論の全趣旨によれば、入通院交通費は一一万二〇〇〇円と認められる。
(三) 入院雑費
上記入院期間中の入院雑費は一日当たり一二〇〇円として八万八八〇〇円を認める。
(四) 後遺障害慰謝料
原告は、前記のとおり、本件事故により頸髄振盪、左上・下肢不全麻痺(外傷性頸部脊髄症)の傷害を受け、平成一〇年三月三一日に症状が固定したものであるが、左肩関節、股関節、膝関節、足関節に可動域制限あり、運動時痛が著明であること、左肩関節周囲、左下肢に筋力低下があり、左上・下肢知覚鈍麻(遠位程著明)があること、歩行は矩下肢装具を装着し、一本杖を用いてかろうじて可能であること、以上の後遺障害が残ったほか、証拠(甲一六の一・二、一七、一八、乙一二、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成一二年七月五日に四級の身体障害者手帳の交付を受けたこと、平成一〇年三月三一日の症状固定後、平成一二年一二月一八日までの間に一一九日間労災病院に通院し、同年六月まで運動療法を受けていたこと、同年一一月三〇日の原告本人尋問において、原告は、現在もなお通院していること、同年六月ころにリハビリは終了したが、その後は痛みやしびれを診てもらい薬をもらっていること、生活をする上でのリハビリ方法の指導を受けていること、左手にしびれを感じるが当初に比べれば随分良くなっていること、歩行は一本杖と装具だけで跛行しながら歩けるようになったことを供述していることが認められ、以上の事実に照らせば、原告の後遺障害の程度は、一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい傷害を残すもの及び上肢の局部に頑固な神経症状を残すものに該当し、併合九級程度の後遺障害であると認めるのが相当である。
したがって、後遺障害慰謝料は、六〇〇万円が相当である。
(五) 後遺障害逸失利益
三九歳女子平均賃金は二八万五六〇〇円であり、二八年のライプニッツ係数は一四・八九八一であり、労働能力喪失割合は三五%と認めるのが相当であるから、次の計算式のとおり、逸失利益は一七八七万〇五六八円となる。
二八万五六〇〇円×一二×一四・八九八一×〇・三五=一七八七万〇五六八円
(六) 以上合計額二五八七万一三六八円となるところ、前記のとおり、前の事故による影響が二割あると認めるのが相当であるから、損害額は二〇六九万七〇九四円となる。
(七) 弁護士費用
原告が原告訴訟代理人弁護士らに本件訴訟の提起、追行を委任したことは当裁判所に明らかであるところ、本件訴訟の難易度、上記の認定額、その他本件に現れた一切の事情を併せ考えると、被告に負担させるべき弁護士費用相当の損害は原告主張の一五〇万円を下回ることはないと認められる。
六 よって、原告の本訴請求は、金二二一九万七〇九四円及びこれに対する本件事故の日である平成九年一月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条本文を、仮執行宣言について同法二五九条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 島田清次郎)
(別紙)
一 交通事故の発生(前の事故)
(一) 日時 平成八年六月三〇日午後四時五五分ころ
(二) 場所 神戸市垂水区下畑町小坂七〇先交差点
(三) 当事者甲 原告運転の軽四貨物自動車(神戸四〇む一七七五)
(四) 当事者乙 訴外川村康夫運転の普通乗用車(神戸七八ふ九六三八)
(五) 事故態様 原告運転車両前部が訴外川村康夫運転車両の左側面に出合い頭に衝突した。
二 原告は、前の事故により、外傷性頸椎捻挫及び過換気症候群の傷害を負い、徳洲会病院において、平成八年六月三〇日から同年七月三一日まで入院加療を受け、同年八月一日から同年一二月三一日まで(実通院日数一二三日間)通院加療を受けている。
原告は、同年一二月には二四日間通院し、同月六日に受診した際には、「あっちこっち頭が痛い。立つ時にふらふら感」を訴え、同月二〇日受診した際には、「座っているとき、フラフラ感。ひどいときは杖ついて歩いている。右上肢挙上すると痛い。右上肢上がらない。疼痛あり。」と訴え、同月二五日の受診の際には、「股関節大腿後面の痛み、歩行障害、杖使用、自動運動低下、両側仙腸関節圧痛」と記載され、歩行障害があり、杖を使用する状態であった。
徳洲会病院の平成八年一二月三一日付け診断書によると、治療は継続中であり、「平成八年一二月三〇日現在、右上下肢の痛み及び右に強い後頸部痛、浮動感を残している」と記載され、同書裏面には、右上下肢の痛みのほかしびれ感も記載されている。
三 上記の記載によれば、原告は、本件事故当時も、前の事故による受傷について加療が必要な状況であり、とりわけ右上下肢痛並びに右後頸部痛があり、歩行時には杖を使用する状況であった。