神戸地方裁判所 平成11年(ワ)689号 判決 2000年10月31日
原告
岩城秀次
被告
安田火災海上保険株式会社
主文
一 被告は原告に対し、金六〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その七を原告の、その余を被告の各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
金六〇〇万円を金二〇〇〇万円と訂正するほかは、主文第一項と同旨。
第二事案の概要
本件は、原、被告間の自動車保険契約に基づいて、原告の弟である岩城次郎(以下、亡人という。)が交通事故によって死亡するという保険事故が発生したとして、原告が被告に対し、保険金の支払を求める事案である。
一 前提事実(争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
1 被告は、損害保険業等を営む会社であるが、原告は、平成九年七月一一日、被告との間で次の内容の損害保険契約(以下、本件保険契約という。)を締結した。
(一) 種類 自動車総合保険(PAP)
(二) 期間 平成九年七月一五日から満一年間
(三) 被保険自動車 自家用小型乗用車(車両番号 神戸五三や六〇一三)
2 事故の発生
(一) 亡人は、平成一〇年六月一七日午後〇時一五分頃、前記被保険自動車を運転して、神戸市垂水区東舞子町四番の国道二号線を走行中、対向車線にはみ出して対向車である片岡千佳雄運転の普通乗用車(神戸五四て一五五七)と正面衝突する事故(甲二。以下、本件事故という。)を起こした。
(二) 亡人は、本件事故により、胸部打撲、右膝打撲、顔面打撲、頸部打撲等の傷害(以下、本件傷害という。)を負った。
(三) 亡人は、平成一〇年六月一七日から同年七月二八日まで四二日間本件傷害、持病の慢性腎不全及び肺炎の治療のため新須磨病院に入院したが、同日午後四時四四分同病院で肺炎を直接死因として死亡した(甲三の1、2、四)。
3 本件保険契約の内容及び保険金請求権の譲渡
本件保険契約では、自損事故にかかる保険金は、死亡保険金一五〇〇万円(但し、被告の責任限度額は医療保険金を含み一五〇〇万円である。)、入院保険金日額六〇〇〇円、搭乗者傷害条項にかかる保険金は、搭乗者傷害保険金五〇〇万円であるので、亡人の相続人は本件では合計二〇〇〇万円の保険金請求権を有するところ、亡人の相続人である河野匡宏及び河野伸郎は平成一一年三月一五日、原告に対して合計二〇〇〇万円の保険金請求権(以下、本件保険金請求権という。)を譲渡し、その旨の譲渡通知は同月一九日、被告神戸支店に到達した。
4 原告は被告に対し、平成一〇年一一月頃、本件保険金請求権に基づいて、その支払を求めたが、被告は同年一二月四日付けの文書で、自損事故及び搭乗者傷害保険の各死亡保険金の支払を拒否した。
二 争点
1 亡人は、本件事故により死亡したか否か、あるいは本件事故と亡人の死亡との間の相当因果関係の存否(以下、争点という。)。
2 争点に関する当事者の主張の要旨
(以下、年を省略している場合は、全て平成一〇年のことである。)
(一) 原告
(1) 亡人は、(2)以下の理由により、本件事故により死亡したとみるべきであり、本件事故と亡人の死亡との間には相当因果関係がある。仮に、一〇〇パーセントの因果関係まではないとしても、本件事故が亡人の死亡に寄与していることは明らかであり、因果関係の割合的認定をなすのが相当である。
(2) 亡人が本件事故前から慢性腎不全に罹患し、週三回の人工透析を受けていたことは事実であるが、亡人の主治医によると、この慢性腎不全によって亡人が早期に死亡する(亡人は本件事故から四二日で死亡した。)ことはないとのことである。
(3) 亡人の主治医である濱田医師によると、死亡診断書には直接死因を肺炎とし、それに影響を及ぼした傷病名等を慢性腎不全、交通事故と記載したが、実のところよく分からず、死亡原因として、腎不全、肺炎、脳の障害、消化管出血等が考えられるが、どれが直接の原因とは決められず、以上の原因全体による衰弱によるものというのが正確であるとのことである。
(4) 肺炎については、亡人は本件事故直前頃には肺炎に罹患していたものの、七月一五日頃にはCRP値に照らして肺炎は改善されていたと考えられる。
(5) 亡人は、人工透析の関係での制約以外は、本件事故前まで持病によって勤務に特に悪影響は出ていなかった。
(6) 以上の本件事故前の亡人の病状、勤務状態からすると、本件事故がなければ亡人は死なないですんだとみるのが相当であり、一〇〇パーセントの相当因果関係があるというべきであり、仮に前記の濱田医師のいうように、死因を原因全体による衰弱と考えるとしても、本件事故の寄与度は少なくとも七割位とみるのが相当である。
(二) 被告
(1) 亡人は、(2)以下の理由により、本件事故以前から亡人が罹患していた種々の症病により死亡したとみるべきであり、本件事故と亡人の死亡との間には相当因果関係がない。
(2) 亡人の本件事故前の身体状況
<1> 慢性腎不全等
亡人は、従前から慢性腎不全及びリウマチに罹患しており、平成五年四月一日から新須磨病院で人工透析を受けていた。
<2> 心疾患
亡人は、心臓にも左室肥大、冠動脈不全の疾患があり、一月頃からは月に一度心電図をとり、経過観察をしていた。
<3> 炎症性疾患
亡人は、人工透析の度に血液検査を受けたが、一月以降体内の炎症反応を示すCRP(C反応性蛋白質であるが、体内に急性の炎症や組織の損傷があるときに、血清中に増える蛋白質の一種であり、肺炎患者の血清中に多くみられる。)が高値を示し続け、三月一六日にはその対策用にプレドニンの投与も開始された。
<4> 歩行障害
亡人は、四月、五月頃までに歩行障害が生じるほど身体状況が悪化していた。
<5> 肺炎
慢性腎不全の治療方法として人工透析を受けている患者は、抵抗力が低下し、他の病気に感染しやすくなる(以下、易感染性という。)と一般にいわれているところ、新須磨病院では六月三日の診察の際、亡人は三七度を越える熱があり、CRP値も上昇していたので、肺炎の発症を疑い、六月一二日からは抗生剤を投与したが、症状は改善しなかった。
本件事故当日の六月一七日の亡人の右肺は、胸部レントゲン写真によると、真っ白であり、その頃には肺炎の症状は相当進行していた。なお、六月一五日の検査におけるCRP値が前回(六月八日)の七・三から二四・二に急上昇していることに照らして、六月一五日(本件事故の二日前)には肺炎に罹患していたものと思われる。
(3) 本件事故による受傷
亡人は、本件事故後救急車で新須磨病院に搬送された以降次のとおり本件傷害等の治療を受けた。
<1> 整形外科では、六月一七日に診察を受けたが、受傷部位の左胸部、右膝のレントゲン撮影では骨部に異常は認められなかった。
<2> 耳鼻咽喉科では、翌一八日に診察を受け、鼻骨骨折の所見が得られたが、亡人が整復不要といったので、特に治療はしなかった。
<3> 新須磨病院では、頭部外傷を懸念し、六月一七日に二度、同月二三日に一度CTスキャンにて検査したが、頭部に異常は認められなかった。
<4> 亡人は、六月二二日に肺炎による見当識障害、食欲低下がみられたため、六月二三日から点滴を開始することとされたところ、同日呼吸困難等が認められたため、翌二四日に胸部レントゲン撮影をしたが、右肺に全面的に炎症が認められた。
<5> その後、呼吸困難、胸痛、発熱等の症状が継続し、酸素吸入等の措置もとられたが、六月二九日には体温も三八度以下に下がり、CRP値も下降し始め、呼吸困難も軽減し、CRP値も七月六日には九・一まで下がった。
<6> ところが、七月一四日には下血が、同月二一日には吐血が認められ、胃潰瘍の疑いがもたれたので、ファイバースコープで検査したが、特段の病変は認められなかった。
<7> 七月一三日、二〇日、二四日頃には見当識障害が認められたところ、二六日には人工透析下において全身性の強直性痙攣が発生した。この日、四回目のCTスキャン検査をしたが、頭部に出血などの異常は認められなかった。
<8> 七月二七日の胸部レントゲン写真によると、亡人の右肺は水が溜まり、殆ど真っ白であったので、翌日水引きする方針が立てられた。
<9> 七月二八日、亡人は呼吸困難に陥り、CTスキャン検査によっても明確な所見は得られないまま、午後四時四四分死亡が確認された。
<10> 以上の経過により、亡人の死因を検討する。
ア 直接死因を肺炎とすることに異論はないが、肺炎を悪化させた要因を探る必要がある。
イ 慢性腎不全について
死亡診断書によると、慢性腎不全は肺炎の傷病経過に影響を及ぼした傷病であるとされているところ、亡人は人工透析を受けており、易感染性の状態にあった。また、慢性腎不全は一般的に窒素排泄障害を起こし、血中の血清尿素窒素(BUN)が上昇する傾向があるが、亡人のBUN値の推移は、次のとおりである。
一月から三月中旬にかけて、八〇台ないし一〇〇未満。
三月二三日から六月中旬にかけて、九〇台ないし一一〇台。
入院直後の六月から七月前半にかけて、四〇台ないし六〇台と良好な数値に回復したが、七月一七日には一一〇・八と悪化した。
亡人は、入院中、食欲不振、消化管出血、頭痛、痙攣、見当識障害の症状が認められたが、これらは慢性腎不全が悪化したときに起こる尿毒症、尿毒性脳症の場合にみられる症状であり、亡人の慢性腎不全は相当程度進行していたことが推測される。また、右のとおり七月二七日には亡人の右肺に水が溜まっていたが、肺水種は慢性腎不全による尿毒症の症例であることからすると、死因となった肺炎に慢性腎不全が影響を及ぼしていることは明らかであり、亡人の死亡と慢性腎不全との間には相当因果関係が認められる。
ウ その他の内因性傷病について
七月一四日の下血、同月二一日の吐血の消化管出血は、亡人の衰弱に影響を与えた。
頭部のCTスキャン検査によると、亡人には脳萎縮が認められるが、慢性腎不全による影響と思われる。
亡人には心臓疾患も認められるが、これも亡人の衰弱に影響を与えた。
エ 脳挫傷について
死亡当日の診療記録、死亡診断書等には、脳挫傷の所見がみられるが、主治医である濱田医師が証言したとおりこれは誤りである。
オ 本件事故の影響について
亡人は、本件事故により左前胸部を打撲したが、肺炎は主に右肺であり、本件事故により肺炎が悪化したとは思えない。
カ 結論
以上のとおり、亡人には脳挫傷は認められず、亡人の死因である肺炎の誘因となったのは、慢性腎不全などの内因性傷病であり、本件事故と亡人の死亡との間に相当因果関係は認められない。
また、本件で割合的因果関係を探るとしても、内因性傷病の寄与度が一〇〇パーセントである。
第三争点に対する判断
一 事実認定
(以下、主語のないものは、「亡人」が主語である。)
前提事実2と、証拠(甲三の1、2、四、六、七、一二の1ないし6、9ないし17、一三の1ないし7、一四ないし一七、一八の1ないし7、一九、二三ないし二五、乙一、四ないし六、八、九、証人濱田毅一郎及び原告本人)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 本件事故により、胸部打撲、右膝打撲、顔面打撲、頸部打撲等の傷害(本件傷害)を負った。
2 六月一七日から同年七月二八日まで四二日間本件傷害、持病の慢性腎不全及び肺炎の治療のため新須磨病院に入院したが、同日午後四時四四分同病院で肺炎を直接死因として死亡した。
3 本件事故前から慢性腎不全に罹患し、平成五年四月一日から人工透析を受け始め、平成一〇年頃には週三回の人工透析を受けていたが、亡人の死亡診断書を作成し、かつ亡人の主治医であった濱田医師の意見は、この慢性腎不全によって亡人が早期に死亡する(亡人は本件事故から四二日で死亡した。)ことはないとのことである。
4 濱田医師によると、死亡診断書には直接死因を肺炎とし、それに影響を及ぼした傷病名等を慢性腎不全、交通事故と記載したが、実のところよく分からず、死亡原因として、腎不全、肺炎、脳の障害(見当識障害及び記銘力障害)、消化管出血、リウマチ等が考えられるが、どれが直接の原因とは決められず、以上の原因全体による衰弱によるものというのが正確であるとのことである。
5 肺炎については、本件事故直前頃には肺炎に罹患していたものの、濱田医師によると、七月二〇日頃にはCRP値に照らして肺炎は比較的改善されていたとのことである。但し、肺炎は、治癒しておらず、強い抗生物質により症状が抑えられていた可能性が高い。
6 人工透析の関係での制約以外は、本件事故直前まで持病によって勤務に特に悪影響は出ておらず、本件事故に遭ったのも勤務の一環として得意先への訪問の途中のことであった。
7 濱田医師によると、本件事故前後にわたり多くの臓器に疾患を抱えていた。
(その詳細は、8のとおりである。)ところ、それに本件事故による脳の障害(見当識障害及び記銘力障害)、事故によるストレス及びこれによる消化管出血等が加わり、結局、腎不全、肺炎、脳の障害(見当識障害及び記銘力障害)、消化管出血、リウマチ等の複合原因により衰弱死したとのことである。また、濱田医師によると、本件事故がなければ早期に死なないですんだとみられるので、本件事故により死亡したともいえるが、死因を原因全体による衰弱死とみた場合、本件事故の寄与度は三割位とみることもできるとのことである。
8 本件事故前後にわたる身体状況あるいは臓器の疾患状況は、以下のとおりである。
(一) 慢性腎不全等
従前から慢性腎不全及びリウマチに罹患しており、平成五年四月一日から西市民病院及び新須磨病院で人工透析を受けていた。
(二) 心疾患
心臓にも左室肥大、冠動脈不全の疾患があり、一月頃からは月に一度心電図をとり、経過観察をしていた。
(三) 炎症性疾患
人工透析の度に血液検査を受けたが、一月以降体内の炎症反応を示すCRP(C反応性蛋白質であるが、体内に急性の炎症や組織の損傷があるときに、血清中に増える蛋白質の一種であり、肺炎患者の血清中に多くみられる。)が高値を示し続け、三月一六日にはその対策用にプレドニンの投与も開始された。また、後記のとおり人工透析により易感染性となり、肺炎が悪化しやすかった。
(四) 歩行障害
リウマチ等により四月、五月頃までに歩行障害が生じるほど身体状況が悪化していた。
(五) 肺炎
慢性腎不全の治療方法として人工透析を受けている患者は、抵抗力が低下し、他の病気に感染しやすくなる(易感染性)と一般にいわれているところ、新須磨病院では六月三日の診察の際、亡人は三七度を越える熱があり、CRP値も上昇していたので、肺炎の発症を疑い、六月一二日からは抗生剤を投与したが、症状は改善しなかった。本件事故当日の六月一七日の亡人の右肺は、胸部レントゲン写真によると、真っ白であり、その頃には肺炎の症状は相当進行していた。なお、六月一五日の検査におけるCRP値が前回(六月八日)の七・三から二四・二に急上昇していることに照らして、六月一五日(本件事故の二日前)には肺炎に罹患していた可能性が高い。
(六) 肝臓も悪かった。
(七) 消化管出血
七月一四日、大量の消化管出血を起こしたほか、後記のとおり七月二一日には吐血し、七月二二日には下血した。
(八) 本件事故により、脳挫傷は起こらなかったが、本件事故前より脳萎縮があった。本件事故後、見当識障害及び記銘力障害が顕著となった。
9 本件事故による受傷とその後の治療経過の詳細
本件事故後救急車で新須磨病院に搬送された以降次のとおり本件傷害等の治療を受けた。
(一) 整形外科では、六月一七日に診察を受けたが、受傷部位の左胸部、右膝のレントゲン撮影では骨部に異常は認められなかった。
(二) 耳鼻咽喉科では、翌一八日に診察を受け、鼻骨骨折の所見が得られたが、本人が整復不要といったので、特に治療はしなかった。
(三) 新須磨病院では、頭部外傷を懸念し、六月一七日に二度、同月二三日に一度CTスキャンにて検査したが、頭部に異常は認められなかった。
(四) 六月二二日、見当識障害と食欲低下がみられたため、六月二三日から点滴を開始することとされたところ、同日呼吸困難等が認められたため、翌二四日に胸部レントゲン撮影をしたが、右肺に全面的に炎症が認められた。
(五) その後、呼吸困難、胸痛、発熱等の症状が継続し、酸素吸入等の措置もとられたが、六月二九日には体温も三八度以下に下がり、CRP値も下降し始め、呼吸困難も軽減し、CRP値も七月六日には九・一まで下がった。
(六) ところが、七月一四日には下血が、同月二一日には吐血が認められ、胃潰瘍の疑いがもたれたので、ファイバースコープで検査したが、特段の病変は認められなかった。
(七) 七月一三日、二〇日、二四日頃には見当識障害が認められたところ、二六日には人工透析下において全身性の強直性痙攣が発生した。この日、四回目のCTスキャン検査をしたが、頭部に出血などの異常は認められなかった。
(八) 七月二七日の胸部レントゲン写真によると、右肺に水が溜まり、殆ど真っ白であったので、翌日水引きする方針が立てられた。
(九) 七月二八日、亡人は呼吸困難に陥り、CTスキャン検査によっても明確な所見は得られないまま、午後四時四四分死亡が確認された。
(一〇) 濱田医師以外の医師の所見
(1) 原告と東京海上火災保険株式会社とは、亡人の死亡にかかる保険金の六割を支給することで示談したところ、同会社が右示談に応じる根拠となったのは長野展久医師の次の意見であった。
(2) 即ち、本件事故から約四〇日後に死亡したという時間的近接性からは事故と死亡との間接的な因果関係が推定される。
(一一) 被告側の私的意見書(乙一、九)を作成した長谷川友紀医師によると、亡人の死因は肺炎であり、本件事故は亡人の死亡に寄与していないというものであった。
(一二) その他
慢性腎不全が悪化して、尿毒症に至る頃には出血傾向があり、意識障害、精神症状、痙攣、肺水腫、胸水もあり、末期は吐血・下血に至る。
二 判断
1 以上認定の事実によると、慢性腎不全の持病の治療のため本件事故の五年以上前から継続的に人工透析を受け、易感染性になっていたところ、本件事故直前頃に肺炎に罹患し、易感染性と本件事故による身体への侵襲とストレスにより肺炎が急速に悪化し、強い抗生物質の投与により一時症状が改善したが、治癒することはなく、徐々に体力を消耗し、従前からの多くの臓器疾患と本件事故による脳の障害(見当識障害及び記銘力障害)、事故によるストレス及びこれによる消化管出血等が相俟って、結局、腎不全、肺炎、脳の障害(見当識障害及び記銘力障害)、消化管出血、リウマチ等の複合原因により衰弱死したと認めるのが相当である。
2 そして、濱田医師及び長野展久医師の意見のとおり、本件事故がなければ早期に死なないですんだと認められ、また時間的近接性からは本件事故と死亡との間接的な因果関係が推定されるとみるのが相当であり、本件事故と亡人の死亡との間には相当因果関係があるというべきところ、他方、本件事故前から有していた各種持病(慢性腎不全、肺炎、リウマチ、心臓疾患、肝臓疾患等)の死亡への寄与度も相当高く、以上の諸事情を総合勘案すると、死因を原因全体による衰弱死とみて、本件事故の寄与度は三割と認めるのが相当である(換言すると、七割の素因減額をするのが相当である。)。
三 結論
以上の次第で、原告の本訴請求は、本件保険金請求権二〇〇〇万円のうちの三割である六〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一二月一〇日から支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余の請求は理由がないから、これを棄却することとする。
(裁判官 片岡勝行)