神戸地方裁判所 平成11年(行ウ)14号 判決 2003年7月18日
主文
1 原告らの甲事件の訴えをいずれも却下する。
2 原告らの乙事件の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告ら
(1) 甲事件
ア 被告が原告Aび原告Bに対して平成10年1月27日付けでした,別紙1「従前の宅地」欄記載の従前地について,同「仮換地」記載の仮換地を指定する仮換地指定処分(以下「本件仮換地指定処分1」という。)を取り消す。
イ 被告が原告ら3名に対して平成10年4月21日付けでした,別紙2-1「従前の宅地」欄記載の従前地について,同「仮換地」記載の仮換地を指定する仮換地指定処分(以下「本件仮換地指定処分2」という。)を取り消す。
ウ 被告が原告Aに対して平成10年11月20日付けでした,別紙3「従前の宅地」欄記載の従前地について,同「仮換地」記載の仮換地を指定する仮換地指定処分(以下「本件仮換地指定処分3」という。)を取り消す。
エ 被告が原告A及び訴外3名に対して平成10年11月20日付けでした,別紙4記載の宅地について平成10年12月1日から使用収益を停止するとする使用収益停止処分(以下「本件使用収益停止処分」という。)を取り消す。
(2) 乙事件
ア 被告が原告A及び原告B(以下両名を「原告A,B両名」という。)に対して平成14年3月29日付けでした,別紙5「従前の土地」欄記載の土地を従前地とし,同「換地処分後の土地」欄記載の土地を換地とする換地処分(以下「本件換地処分1」という。)を取り消す。
イ 被告が原告ら3名に対して平成14年3月29日付けでした,別紙6「従前の土地」欄記載の土地を従前地とし,同「換地処分後の土地」欄記載の土地を換地とする換地処分(以下「本件換地処分2」という。)を取り消す。
ウ 被告が原告Aに対して平成14年3月29日付けでした,別紙7「従前の土地」欄記載の土地を従前地とし,同「換地処分後の土地」欄記載の土地を換地とする換地処分(以下「本件換地処分3」という。)を取り消す。
エ 被告が原告A及び訴外3名に対して平成14年3月29日付けでした,別紙8記載の土地につき金銭清算により消滅させた換地処分(以下「本件換地処分4」という。)を取り消す。
2 被告
主文と同旨
第2事案の概要等
1 事案の骨子
被告は,阪神間都市計画事業芦屋中央震災復興土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の施行者であり,原告らは,同事業の施行により,自己の所有地について,仮換地指定処分及び使用収益停止処分の通知を受け,更にその後,換地処分の通知を受けた。
本件は,原告らが,上記事業計画の認可は手続的にも実体的にも違法であるとし,さらに,原告らの所有地について行われた個々の上記処分も,照応の原則等に反し違法であるとして,上記事業の施行者である被告に対し,上記各仮換地指定処分等の取消し(甲事件)及び上記各換地処分の取消し(乙事件)を求めた事案である。
2 前提となる事実
(文中に証拠等の記載のある事実以外は,当事者間に争いがない。)
(1) 本件事業
本件事業は,平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災を契機として,同年2月26日被災市街地復興特別措置法が公布施行されたことに伴い,同年3月17日被災市街地復興推進地域(都市計画法10条の4第1項,被災市街地復興特別措置法5条1項)及び土地区画整理事業施行区域(都市計画法12条1項1号)の都市計画決定がなされた地区について,平成8年6月18日の事業計画の認可を経て施行されている被災市街地復興土地区画整理事業である。
(2) 当事者
ア 原告らは,本件事業の施行地区(以下「本件地区」という。)内に宅地を所有する者である。
イ 被告は,本件事業の施行者である(土地区画整理法〔以下「法」という。〕3条の2第2項2号,被災市街地復興特別措置法6条3項)。
なお,本件事業は,当初,兵庫県知事及び芦屋市長から施行要請を受けた住宅・都市整備公団(以下「住都公団」という。)が施行していたものであるが,平成11年10月1日,住都公団が解散したことに伴い,被告が事業者の地位を承継した。そして,本件事業において住都公団が住宅・都市整備公団法(以下「旧公団法」という。)によりした各処分は,都市基盤整備公団法又は同法附則29条の規定による改正後の土地区画整理法の相当する規定により被告のなした処分とみなされることとなった(都市基盤整備公団法施行附則18条。そこで以下では,住都公団がなした行為は,被告がなしたものとして表現することとする。)。
(3) 本件仮換地指定処分等
ア 被告は,原告A,B両名に対し,平成10年1月27日付けで,本件仮換地指定処分1をした(別紙図面1参照)。
イ 被告は,原告ら3名に対し,平成10年4月21日付けで,本件仮換地指定処分2をし,平成13年3月5日付けで,これを別紙2-2記載のとおりの仮換地に変更する旨の仮換地変更指定処分(以下「本件変更指定処分」という。)をした(乙86の1ないし3)(別紙図面2参照)。
ウ 被告は,原告Aに対し,平成10年11月20日付けで本件仮換地指定処分3をした(別紙図面3参照)。
エ 被告は,原告Aほか3名に対し,平成10年11月20日付けで,本件使用収益停止処分をした(別紙図面3参照)。
オ なお,上記アないしエの各処分を総称して,以下「本件各仮換地指定処分等」という。
(4) 本件換地処分等
ア 被告は,原告A,B両名に対し,平成14年3月29日付けで,本件換地処分1をした(別紙図面1参照)。
イ 被告は,原告ら3名に対し,同日付けで,本件換地処分2をした(別紙図面2参照)。
ウ 被告は,原告Aに対し,同日付けで,本件換地処分3をした(別紙図面3参照)。
エ 被告は,原告Aほか3名に対し,同日付けで,本件換地処分4をした(別紙図面3参照)。
オ 被告は,原告らに対し,上記アないしエの各換地処分を通知し,同処分は,同年5月17日に公告され,翌18日にその効力が生じた(乙63)。
カ なお,本件換地処分1ないし4を総称して,以下「本件各換地処分」という。
3 主な争点
(1) 甲事件
訴えの利益の有無(争点1)
(2) 乙事件
ア 本件事業計画の認可について
(ア) 手続的違法性の有無(争点2)
(イ) 事業内容の違法性の有無(争点3)
イ 本件各換地処分について
(ア) 手続的違法性の有無(争点4)
(イ) 土地評価の違法性の有無(争点5)
(ウ) 照応原則(法89条1項)違反
a 本件各換地処分の縦の照応原則違反の有無(争点6)
b 本件各換地処分の横の照応原則違反の有無(争点7)
(エ) 本件換地処分2における過小宅地の制限違反の有無(争点8)
第3甲事件に関する当事者の主張
1 本案前の主張(訴えの利益の有無・争点1)
(1) 被告
原告らの甲事件に係る訴えは,次のとおり,不適法なものとして却下を免れない。
ア 本件仮換地指定処分2について
本件仮換地指定処分2は,本件変更指定処分により撤回されて消滅したものであるから,その取消しを求める訴えの利益はない。
イ 本件各仮換地指定処分等について
本件各仮換地指定処分等に係る従前地について,平成14年3月29日付けでそれぞれ本件各換地処分がなされたことにより,本件仮換地指定処分1ないし3及び本件使用収益停止処分の取消しを求める訴えの利益は消滅した。
(2) 原告ら
被告の上記本案前の主張は争う。
2 本案の主張
乙事件に関する当事者の各主張と同旨
第4乙事件に関する原告らの主張
1 本件事業計画認可の違法性
(1) 手続的違法性(争点2)
本件都市計画及び本件事業計画の認可は,地域住民の生活環境を根底から変え,建築制限や減歩等住民の権利にかかわる重大な問題であるから,住民の意思を十分反映させるとともに(地方自治の精神・憲法92条),適正な手続が保障されなければならない(憲法31条)。そのためには,住民に準備の時間を十分に与え,できるだけ多数の住民が参加可能な時期,方法をもって手続を進めるべきである。
特に,震災復興のための事業計画の場合には,住民が被災状況下にあることへの十分な配慮が必要である。
ところが,本件事業計画の認可に至る手続は,全般にわたり,住民が被災状況下にあることを無視して,震災後極めて短期間のうちに形式的に進められた。
したがって,本件事業計画の認可は,その手続において,住民参加を保障した法の趣旨からみて違法というべきである。
(2) 本件事業計画の内容の違法性(争点3)
本件事業計画の認可は,次のとおり,その内容に照らしても違法というべきである。
ア 本件事業の必要性の欠如及び土地区画整理事業の趣旨違反
本件事業は,以下のとおり,土地区画整理事業を施行する必要性がないにもかかわらず施行されたものであり,土地区画整理事業の趣旨にも反するものであるから,本件事業計画の認可は違法である。
(ア) 本件事業の必要性の欠如
a 施行済み区域の存在
本件地区は,その45.8%の地域において過去に土地区画整理事業が実施され(施行済み区域),既にこれらの事業によって公共施設の整備改善と宅地の利用増進が図られているから,本件事業を施行する必要性が認められない。
b 市街地再開発事業が検討されていたこと
また,本件地区において一定の整備改善の必要があるとしても,本件地区のように面的整備の完了している市街地においては,市街地再開発事業によって実現すべきであって,土地区画整理事業によるべきではない。現に,本件地区の住民は,昭和48年以降,準備組合を結成するなどして,市街地再開発事業の準備を長年進めていた。それにもかかわらず,被告は,その実績を全く無視して本件地区を設定したのである。
(イ) 土地区画整備事業の趣旨に反すること
土地区画整理事業は,環境の整備改善を図り,交通の安全を確保し,災害の発生を防止する目的のもとに施行されなければならない。しかし,本件地区では,前記のとおり過去の事業によって面的整備が相当に進展しているから,本件事業によって上記目的が達せられることなく,かえって,施行地区内の環境を悪化させ,住民を交通事故の危険にさらすことになる。
以上からすれば,公共施設の整備・改善等という本件事業の目的は口実に過ぎず,本件事業の実際の目的は,幹線道路の整備を住民からの減歩に負担によって実現しようとするものにほかならず,土地区画整理事業の趣旨に反するというべきである。
イ 住民の健康,生活及び財産の著しい侵害
本件事業計画の認可は,以下のとおり,本件地区の住民の健康,生活及び財産を著しく侵害するものであり,違法である。
(ア) 被災状況下での事業施行
本件地区の住民は,阪神・淡路大震災により深刻な被害を受けたにもかかわらず,このような状況下で本件事業計画が認可されたことにより,建築制限や住居の移転等の負担を強いられ,生活や財産権を著しく侵害されている。とりわけ,過去に土地区画整理事業が施行された施行済み区域の住民に対しては,二重の負担を課すものであり,権利の侵害の程度は極めて大きい。
(イ) 幹線道路の建設による環境悪化
本件事業によって本件地区内に幹線道路(川東線,別紙図面4参照)が建設されることにより,沿線住民に対し,交通量の増加に伴う公害被害や交通事故の危険の増大をもたらし,住民の良好な環境を享受する権利や人格権を侵害することになる。
ウ 本件事業計画内容の具体的な不当性
本件事業計画は,その内容を具体的にみても,次のとおり不当なものであるから,本件事業計画の認可は違法である。
(ア) 施行地区の外郭設定の誤り
a 東端線
本件地区の東側の区域は,戦災復興土地区画整理事業が施行されており,前記ア(ア)aのとおり,本件事業を施行する必要性が認められない。
b 南端線
本件地区は,南端線において阪神電鉄の軌道敷(別紙図面5参照)が除外されているが,このことにより,本件地区住民の犠牲の下に,阪神電鉄に対して軌道敷側道が整備されるなどの利益を不当にもたらすことになった。
c 西端線
本件地区の西端線においては,奥山精道線(別紙図面4参照)が本件地区に含まれているが,それにもかかわらず,同線に新たに歩道を造成していないため,公共施設の整備改善の目的が果たされておらず,無用に同線を施行地区に含め,事業費を増加させる結果となっている。
(イ) 道路計画について
本件事業計画における道路計画は,何ら防災機能の向上が認められないものや,必要以上に広い幅員を設定しているものがあり,不当な内容である。
a 川東線
川東線は,南北両端が大型緊急車両等の通過に支障を来す構造となっており,防災上の機能を有していない。また,幅員を20mとする必要性も認められない。
b 東西コミュニティ道路
東西コミュニティ道路(別紙図面4参照)は,東西両端が通行に支障を来す構造となっており,防災上の機能を有していない。
c その他の道路
南北街区道路は,道路の幅員が場所によって4mから6mの間でまちまちとなっており,防災上の機能を有していない。また,その他にも6m未満の幅員の道路が多数みられる(別紙図面4参照)。
(ウ) 公園計画について
a 公園整備の必要性の欠如
公園の整備は,不良行為を行う者の集会の場と課す可能性がある等必ずしも宅地の利用増進につながるものではない。また,本件地区においては,既存の避難場所が多く存在するから,防災の観点からも,公園整備の必要性は認められない。
b 公園の設置基準の違反
本件事業計画における公園計画の内容は,公園の設置において一般的に要求されている基準を満たしていない。
(a) 公園の規模
街区公園の規模は2500㎡とされているが,計画されている3公園中2公園が同基準を満たしていない(別紙図面4参照)。
(b) 公園の配置
街区公園の誘致距離は250mとされており,同基準に照らせば,公園の設置はa公園1か所のみとすべきなのに,本件事業計画では,同基準に反する接近した位置に3公園を配置している(別紙図面4参照)。
(c) 公園の接道要件
公園の周囲3辺は,道路に接することが要求されているが,d公園は,1辺しか接していない(別紙図面4参照)。
エ 小括
以上のとおり,本件事業計画の認可は違法であるから,本件事業計画の認可を前提になされた本件各換地処分もまた違法である。
2 本件各換地処分の違法性
(1) 手続的違法性(争点4)
本件各換地処分(本件各仮換地指定処分等)は,次のとおり,住民の意思を反映させるための手続的保障を欠いており,違法である。
ア 仮換地指定前の換地設計の供覧の欠如
法は,換地処分前の換地計画の縦覧(法88条2項)を要求しているが,実際にはこれを待っていては,既に整地工事や公共施設工事が完了し,意見書の提出があっても変更が不可能となるので,事業施行者は,法88条に準じ,仮換地指定前においても,これを供覧するのが近年の常識となっている。
ところが,被告は,再三にわたる住民の要求を拒否し,上記供覧を行わなかった。
イ 土地区画整理審議会の審議等の非公開
被告は,土地区画整理審議会の審議や,換地設計基準・土地評価基準等の資料を公開しなかった。
(2) 土地評価の違法性(争点5)
被告は,本件地区が国道2号線と国道43号線の間に位置しているため(別紙図面5参照),本件事業の施行により川東線が建設され環境が悪化することを無視したり,接近係数の計測等を誤るなどして,一般の路線価とは大きくかけ離れた路線価をもとに土地評価を行っている。
このような土地評価を前提に本件各換地処分がなされれば,権利者の財産権を著しく侵害し,権利者間の著しい不均衡を生じさせることになるから,被告のなした土地評価は違法であって,これを前提になされた本件各換地処分も違法である。
(3) 縦の照応原則違反(争点6)
本件各換地処分は,次の点から,縦の照応原則に反するもので違法である。
ア 本件換地処分1(本件仮換地処分1)
(ア) 本件換地処分1は,原告A,B両名所有の従前地(a町21番29,21番39,21番41,21番43。以下「従前地1」という。)をa町3番16(以下「換地1」という。)に換地したものである(別紙図面1参照)。
(イ) 原告A,B両名は,従前地1で米穀商を営んでいたが,飛び換地によって阪神電鉄の駅等から遠のいたこと,また,従前地は角地であり,通風や騒音緩和の観点から営業上の利便性があったのに,換地1は角地でなくなったことから,本件換地処分1によって営業上著しく不利益を受けている。
(ウ) 減歩率が10%を超えており,著しく高い。
(エ) 換地1は,川東線に面しており,従前地1と比較して,自動車の騒音,振動,排気ガスにより環境が悪化している。
イ 本件換地処分2(本件仮換地処分2)
(ア) 本件換地処分2は,原告ら所有の従前地(a町34番5。以下「従前地2」という。)をa町8番7の土地(以下「換地2」という。)に換地したものである(別紙図面2参照)。
(イ) 換地2は,従前地2から東へ移動し,従前享受していた日照,通風等が妨げられ,高層建物が建設されるなどにより環境が悪化する。
ウ 本件換地処分3(本件仮換地処分3)
(ア) 本件換地処分3は,原告A所有の従前地(b町7番16,7番19。以下「従前地3」という。)をb町2番2(以下「換地3」という。)に換地したものである(別紙図面3参照)。
(イ) 従前地3は,道路から奥まった静かな環境にあったが,換地3は,川東線に面しており,著しく環境が悪化している。
(4) 横の照応原則違反(争点7)
被告は,一部の権利者に対する換地処分において,原告らと比べて著しく有利な扱いをしているから,本件各換地処分は,横の照応原則に違反するというべきである。
ア 総論
本件事業においては,著しく不公平な換地処分が行われているが,これは,被告が次のような不当な手法で換地(仮換地指定)手続を進めたことによって生じたものである。
(ア) 多くの空閑地の発生
被告は,32街区中30街区において空閑地を生じさせるという不当な換地設計を行った(別紙図面6参照)。
(イ) 仮換地指定の回数の過剰性
さらに,被告は,本件地区における仮換地指定を,平成11年4月ころから平成13年10月ころまでの間,30回の多数回にわたって行ったため,権利者間に大きな格差を生じさせた。
イ 各 論
(ア) e教会との関係での不公平
a e教会に対する著しく有利な措置
e教会の従前地は,当初,換地設計上角地となり,180㎡の減歩を強いられるか,減歩を免れるためには清算金として4578万円を支払うことが必要な配置となっていた。
ところが,被告は,e教会換地の西側の6m道路に接した部分に,幅1.3m,長さ27.6mの土地を芦屋市所有地の換地として配置する換地処分を行った(別紙図面7参照)。
これによって,同換地が路線価上の増進がないものとして評価額が下がったため,e教会は,上記清算金の支払を免れ,逆に100万円の清算金の支払を受けるという著しく有利な取扱いを受けたものである。
b e教会に対する優遇措置による原告らの不利益
土地区画整理事業では,換地処分後の土地価格の総額は,換地計画で決定するものであり,本件のようにe教会の土地評価が下がっても全体としての土地価格の総額が変わらないので,原告ら他の権利者の土地評価に反映し,その結果,他の権利者の清算金が増額することになる。
c まとめ
以上のとおり,被告がe教会に対して著しく有利な扱いをしたことによって,原告らは前記bのとおり不利益を受けているのであるから,本件各換地処分は,横の照応原則に違反するというべきである。
(イ) 街づくり協議会の役員等との関係での不公平
被告及び芦屋市は,本件事業認可前の説明会等においては,住民に対し,本件事業において増換地は一切行わない旨説明していた。
それにもかかわらず,実際には,被告は,街づくり協議会の役員等に対し,極端な増換地をしたり,大きく増進しているにもかかわらず減歩率を低くするなど,不公平な換地処分を行っている。また,被告は,一部の権利者以外の者に対しては,増換地の意向聴取等を十分に行っていない。
以上のような被告の措置は,権利者間の公平を著しく欠くものであって,横の照応原則に違反するというべきである。
(5) 本件換地処分2の過小宅地の制限違反(争点8)
土地区画整理事業においては,過小宅地の基準が100㎡とされているにもかかわらず(法施行令57条,法91条1項),従前地2と換地2の地積はいずれも89.68㎡であるから,本件換地処分2は,土地区画整理法の趣旨に反し違法であるといわなければならない。
第5乙事件に関する被告の主張
1 本件事業計画認可の適法性
本件事業計画認可は,以下のとおり,手続・内容のいずれにおいても適法なものである。
(1) 手続的適法性(争点2)
ア 法令に基づく手続の履践
本件事業計画認可に至る手続は,いずれも法令にのっとってなされており,何ら違法ではない。
イ 原告らの主張に対する反論
原告らは,本件事業計画認可に至る手続が,多数の住民の意見を無視して行われたとして,違法であると主張するが,以下の点から原告らの主張は理由がないというべきである。
(ア) 法令の規定
都市計画決定や被災市街地復興土地区画整理事業において,個別的に住民の意向を聴取する手続は法定されていない。
(イ) 被災市街地復興推進地域における特殊性
被災市街地復興推進地域における土地区画整理事業においては,1日も早い復興,生活の再建を望む住民要望にこたえるため,事業化を急がねばならない特殊性を有しており,土地区画整理事業においてできる限り住民の合意形成を図る要請があるとしても,かかる特殊性との調和の観点から手続を進めていかざるを得ない。
(ウ) 被告の対応等
被告及び芦屋市は,広報誌の配布,平成7年2月23日以降の本件事業に関する都市計画案や本件事業の内容等についての説明会の開催,現地相談所の設置,住民主催の集会への出席等により,住民に情報提供を行うとともに,住民から本件事業計画等について意向を聴取するなどして,これを反映させて事業計画(案)を一部変更するなど,本件事業計画に住民の意向を可及的に反映させてきたものであり,住民の意見を無視したということはない。
(2) 本件事業計画の内容の適法性(争点3)
ア 本件事業の必要性及び土地区画整理事業の趣旨との適合性
本件地区を含む兵庫県南部一帯は,阪神・淡路大震災により,相当数の建築物が倒壊し,甚大な被害を受けたことから,芦屋市の地域中心核にふさわしい安全で快適な市街地の復興を図ることが不可欠であった。上記震災からの復興のためには,本件事業が必要なことは明らかであり,その目的も,土地区画整理事業の趣旨に沿うものである。
イ 原告らの主張に対する反論
(ア) 本件地区に施行済み区域を含めたことについて
原告らは,本件地区に施行済み区域を含めたことから,本件事業計画の認可が違法である旨主張する。
しかしながら,施行地区に施行済み区域を含めたとしても,当然に法に違反するものではない。本件事業は,阪神・淡路大震災という都市計画に重大な変更をもたらすような新しい要因が発生し,これを受けた都市計画決定がなされ,これを背景として,芦屋市の地域中心核にふさわしい市街地の復興を図るべく,地域の被災状況や市街地整備の状況にかんがみ,一部の施行済み区域を含めて施行区域の都市計画決定がなされたものであるから,裁量を逸脱した違法はない。
(イ) 施行地区の外郭設定について
本件地区の外郭設定は,次のとおり,合理的な理由に基づくものであり,裁量逸脱の違法はない(別紙図面4参照)。
a 東端線
施行済み区域を本件地区に含めたからといって,本件事業計画が違法なものではないことは,前記(ア)のとおりである。
b 南端線
阪神電鉄の軌道敷を本件地区に含めなかったことには,次のとおり合理的な理由がある。
(a) 阪神電鉄の軌道敷は,本件被災市街地復興推進地域及び土地区画整理事業区域に含まれていないから,本件事業の施行地区に含むことはできない。
(b) 阪神電鉄の軌道敷は,鉄道による旅客や貨物を運送するための公益性を有した限定的な利用を図るためのものであるから,法施行規則8条1号に照らし,本件事業での整備改善の必要性は認められない。
c 西端線
被告は,奥山精道線を本件地区に含めたが,これによって,地区全体から芦屋川方向へ抜ける避難路や歩行者動線の確保,西端部宅地の利用増進に寄与するための整備計画が可能となったものであるから,たとえ,奥山精道線自体に歩道を設置していないとしても,同線を本件地区に含めたことには合理性が認められるものである。
(ウ) 道路計画について
川東線,東西コミュニティ道路及び南北街区道路等は,いずれも防災上の機能を有しており,道路の幅員も合理的な理由によって定められたものであって,その計画内容に不当な点はない。
(エ) 公園計画について
本件事業計画における公園計画は,防災上の機能向上の必要性等から適正に定めたものであり,公園の面積や配置等については,住民の意見等に配慮しながら定めたものであるから,その内容に不当な点はない。
2 本件各換地処分の適法性
(1) 手続的適法性(争点4)
原告らは,仮換地指定前に換地設計の供覧を行わなかったこと,土地区画整理審議会の審議を非公開としたこと,設計基準等等の資料を公開しなかったことが手続的保障を欠き違法であると主張する。
しかし,被告がこのような措置をなすべき法令・通達上の根拠はなく,裁量逸脱の違法はない。また,換地設計基準等については,被告は,広報誌によってその概要を住民に知らせており,情報を全く非公開としていたものではない。
(2) 土地評価について(争点5)
被告は,本件事業における土地評価を,評価員の意見を聴取した上,土地評価基準に沿って適正に行っている。
また,土地区画整理事業における土地評価は,宅地の利用価値の増進を把握することが主目的であることなどから,一般の路線価との間に格差が生じたとしても,施行者の裁量の範囲内であるというべきである。
したがって,被告の行った土地評価に違法はない。
(3) 縦の照応原則について(争点6)
原告らは,本件換地処分1ないし3について,縦の照応原則違反を主張する。しかしながら,本件換地処分1ないし3は,いずれも位置,地積及び環境等に照らして大体同一の条件にあり,縦の照応原則違反はない。
なお,原告らは,本件換地処分1の土地利用状況における照応関係について,従前地1が角地であったのに換地1が普通地になったことによる営業上の不利益を主張するが,これは原告A,B両名の独自の観点からの主張に過ぎず,このような主観的要素は,照応原則における判断要素としての「利用状況」(法89条1項)には含まれないことから,原告らの主張は理由がない。
(4) 横の照応原則について(争点7)
ア 総論
原告らは,被告が,一部の権利者に対し,極端な増換地をするなど不当に有利な換地処分を行っているとし,その原因は,多くの空閑地を発生させた不当な換地設計や多数回にわたり仮換地指定処分を行ったこと等によるものであると主張する。しかしながら,被告の行った換地(仮換地指定)に際してとった措置は,いずれも,次のとおりの合理的な理由に基づくものであって,裁量逸脱の違法はない。
(ア) 小規模宅地対策による増換地
被告は,本件事業において,従前の有効利用宅地地積が100㎡以下の宅地については,減歩を課さず従前の有効利用宅地地積をもって換地を定めることなどを内容とする小規模宅地対策を行っており,同対策によって,希望する対象者に対し,増換地を実施した。かかる措置は,法91条の趣旨に基づき行ったものであるから,合理的な理由がある。
(イ) 空閑地の発生及びその解消処理
a 空閑地の発生が不可避であること
土地区画整理事業においては,完全に従前地等に照応するように換地を定めることは不可能であり,また,それを街区単位で集合させて,設計どおりの街区を形成することも不可能であることなどから,換地設計段階で空閑地が生ずるのは不可避である。
そこで,被告は,発生した空閑地を解消する方法として,以下の措置をとったものである。
b 空閑地の解消方法1-希望者に対する増換地
被告は,権利者から個別に意向を聴取した上,増換地を希望する権利者に対し,空閑地をそれらの者の増換地として配分した。
どの権利者に空閑地を配分するかは,当該権利者の所有地が換地設計上空閑地の配分の可能な位置関係にあるか否か,権利者に清算金負担の意思があるか否かといったところによって決定しており,公平な取扱いをしている。
c 空閑地の解消方法2-芦屋市所有地を従前地とする換地処分被告は,上記bの方法により空閑地の解消に努めたが,清算金の支払等の負担を望まない権利者に対しては,その意向に沿うように強制的な増換地を行わなかったため,なお,空閑地が残った。
そこで,被告は,残った空閑地の解消方法として,芦屋市の承諾を得て,空閑地に芦屋市所有地の換地を充てる換地処分をしたものである。
d まとめ
以上のとおり,本件事業において空閑地が発生したことはやむを得ないものであり,また,発生した空閑地の解消方法も,本件事業の目的にかない,権利者の意向にも沿う適正なものであるから,施行者の裁量を逸脱し,照応原則に違反した違法はない。
イ 各論
(ア) e教会との関係での不公平について
a e教会に対する換地処分の経緯
原告らは,e教会換地の西側接続部分に芦屋市所有地を従前地とする換地を配置して換地処分を行ったことにつき,e教会を不当に優遇するものであると主張する。しかしながら,かかる取扱いは,次のとおり,前記ア(イ)cの空閑地解消方法として行った合理的な理由に基づく措置であり,何ら違法ではない。
(a) e教会従前地が存した4街区においては,換地設計上空閑地が生じており,増換地が可能な状況であった。
(b) そこで,被告は,仮換地指定手続において,各権利者の増換地の意向を確認し,平成9年1月11日,e教会に対しても,その意向を確認したところ,e教会側が,できるだけ敷地面積を減少させたくない等の意向を示したことから,同年2月27日,増換地を希望した場合にはその増換地分が約74㎡となる旨説明していた。
(c) ところが,平成10年8月になって,e教会側から被告に対し,清算金の支払を伴わない算定換地を希望し,増換地を望まない旨の意向が示されたため,空閑地が生ずることになった。しかし,既にこの時点では,e教会の従前地の南側部分と東側部分は仮換地指定が進んでいたため,芦屋市所有地の換地を充てる方法(前記ア(イ)cの方法)で空閑地を解消することになった。
(d) 被告は,4街区のどこに芦屋市の換地を配するかを検討し,芦屋市とも協議の上,e教会従前地の西側部分で道路に面した部分に芦屋市所有地の換地を配置するほかないと判断したものである。
b e教会に対する換地処分等による原告らへの不利益について
(a) 本件換地処分1及び2について
上記各処分の対象地は,e教会及び芦屋市に対する換地とは街区を異にしており,e教会に対する換地処分に関する被告の措置による影響は全くない。
(b) 本件換地処分3について
本件換地処分3の対象地は,e教会換地と同じ街区に存するが,e教会の換地を角地とするか否かによって,本件換地処分3における清算金の増減等には影響を及ぼすものではない。したがって,e教会に対する換地処分に関する被告の措置によって,原告らが不利益を受けたことはない。
この点,原告らは,e教会の土地評価が下がっても,本件地区全体としての土地価格の総額が変わらないことを前提として,e教会に対する優遇措置によって原告らが負担を受けた旨主張するが,個々の土地価格の総額が変われば地区全体としての土地価格の総額も変わるのが当然であり,土地価格の総額が変わらないとする上記前提自体が誤りであるから,原告らの主張は失当である。
(イ) 街づくり協議会役員等との関係での不公平について
原告らは,被告が,街づくり協議会等一部の権利者に対する換地処分において,著しい増換地をするなど不当に有利な扱いを行っていると主張する。しかし,被告は,前記ア(ア)のとおり,合理的な理由に基づき増換地等を行っており,またその際,各権利者の意向を個別に聴取しているのであって,街づくり協議会役員等一部の権利者のみを不当に優遇したことはない。
ウ 小 括
以上より,本件各換地処分に横の照応原則違反はない。
(5) 本件換地処分2の過小宅地の制限違反について(争点8)
法91条1項,2項は,施行者に同条2項の基準を上回る換地をすることを義務付けているものではなく,過小宅地とならないように換地を行うか否かは施行者の裁量にゆだねられていると解されるところ,被告は,同条の趣旨にのっとり,減歩を課さず従前の有効利用宅地地積をもって換地を定めることなどを内容とする小規模宅地対策を行ったものであるから,本件換地処分2に何ら違法はない。
第6甲事件に関する当裁判所の判断
1 訴えの利益の検討(争点1)
(1) 法98条1項に基づく仮換地指定処分ないしは使用収益停止処分がなされた後,当該従前地について換地処分の公告がなされた場合には,仮換地指定処分等の取消しの訴えの利益は消滅すると解される(最高裁昭和48年2月2日第2小法廷判決・集民108号153頁参照)。
(2) 本件についてみると,本件各換地処分は,いずれも本件各仮換地指定処分等に係る従前地について行われた処分であること,平成14年3月29日付けで本件各換地処分の公告がなされたことは,前記第2の2(3)(4)のとおりであるから,本件各仮換地指定処分等の取消しを求める訴えの利益は消滅したというべきである。
2 総括
したがって,原告らの甲事件における訴えは,不適法である。
第7乙事件に関する当裁判所の判断
1 本件事業計画認可の手続的違法性の検討(争点2)
(1) 事実関係
(文中に証拠等を記載していない事実は,当事者間に争いがない。)
ア 本件事業計画認可に至る手続等
(ア) 被災市街地復興推進地域の都市計画決定
芦屋市は,本件地区を被災市街地復興推進地域として都市計画決定するに当たり,都市計画案を作成し,平成7年2月28日から同年3月13日までの2週間にわたって,同案を公衆の縦覧に供した上(都市計画法17条1項),同月15日,兵庫県知事に対し,上記都市計画案の承認申請をした。兵庫県知事は,同月16日,都市計画地方審議会の議を経て(都市計画法19条3項),同月17日付けでこれを承認したことから,芦屋市は,本件地区を被災市街地復興推進地域として同日付けで都市計画決定をした(同条1項)。
(イ) 土地区画整理事業施行区域の都市計画決定
兵庫県知事は,本件地区を土地区画整理事業の施行区域として都市計画決定するに当たり,都市計画案を作成し,平成7年2月28日から同年3月13日までの2週間にわたって,同案を公衆の縦覧に供し(都市計画法17条1項),同月15日に芦屋市の意見を聴いた上,同月16日,都市計画地方審議会の議を経て,同月17日付けで本件地区を土地区画整理事業の施行区域として都市計画決定をした(都市計画法18条1項)。
(ウ) 本件事業計画の認可手続
a 芦屋市長は,平成7年6月16日に,兵庫県知事は,同年7月14日に,それぞれ被告に対し,土地区画整理事業の施行を要請した(旧公団法29条4項)。そこで,被告は,施行規程及び事業計画案を作成し,平成8年1月8日付けで兵庫県知事,同月12日付けで芦屋市長の意見を聴いた後(同法41条4項),同日,建設大臣に対し,上記施行規程及び事業計画案の認可を申請した。
b 建設大臣は,平成8年2月2日から同月15日までの2週間にわたって,被告の芦屋土地区画整理事務所において,上記施行規程及び事業計画案を縦覧に供した(旧公団法41条5項)。縦覧期間の終了後,利害関係者の一部から,兵庫県知事に対して意見書が提出されたことから(同条6項),同県知事は,当該意見書について,同年3月22日都市計画地方審議会の意見を聴き,その意見を付して,これを同月25日建設大臣に送付した(同条7項)。
c 意見書の提出者のうち一部の者は,建設大臣に対し,口頭意見陳述の申立てをも行ったため(旧公団法41条9項,行政不服審査法48条,25条1項ただし書),建設大臣は,平成8年4月22日から同月26日までの間,同年5月15日及び同月16日に,それぞれ口頭意見陳述の聴聞を行った。
d 建設大臣は,送付された意見書(口頭意見陳述を含む。)を審査した結果,施行規程及び事業計画案に修正を加えるべきものとは認められないとして,意見書提出者に対し,平成8年6月11日付けで意見が不採択となった旨を通知するとともに(旧公団法41条8項),同月18日付けで前記施行規程及び事業計画を認可し(同条1項),これを官報で公告した(同条11項)。
(エ) 住民団体の発足
a 街づくり協議会
本件事業の施行による復興を希望する住民の間では,事業計画に住民の意見を反映させることなどを目的として,平成7年8月6日,中央地区震災復興街づくり協議会(以下「街づくり協議会」という。)が発足した。同協議会は,本件地区内の自治会長,商店街長等が発起人となって設立され,芦屋市から補助金の交付を受けて運営されていた。
b 住民の会
他方,本件事業の施行に反対する住民の間では,本件事業の白紙撤回を求めることを目的に,平成7年10月1日,中央地区住民の会(以下「住民の会」という。)が発足した。
イ 住民への周知活動及びそれに対する住民の対応
(甲32,乙19の1~10,20,64,証人C,証人D,弁論の全趣旨)
(ア) 芦屋市及び被告による住民への周知活動等
芦屋市及び被告は,各都市計画案及び事業計画案の作成に当たり,以下のとおり,住民への周知活動及び住民からの意見聴取を行った。
a 各都市計画案作成の際の周知活動
芦屋市は,被災市街地復興推進地域及び土地区画整理事業施行区域の各都市計画案を作成するに当たって,平成7年2月15日及び同月17日,地元自治会代表者等に対して説明を行った。また,広報や掲示板等によって事前に周知した上,同月23日に住民説明会を開催し,延べ約600名の出席を得,同説明会において,本件地区における土地区画整理事業の「整備構想図」を提示した。
b まちづくり住民説明会の開催
芦屋市は,以下のとおり,本件事業計画の認可がなされるまでの間,複数回にわたり,まちづくり住民説明会を開催した(第2次説明会以降は,被告も主催者となり,被告担当者が出席した。)。また,説明会終了後には,その都度,欠席した住民に対して説明会資料を送付した。
(a) 第1次住民説明会(全9回)
開催日 平成7年4月24日から同月29日出席者数 延べ487名
(b) 第2次住民説明会(全8回)
開催日 平成7年7月31日から同年8月6日出席者数 延べ436名
(c) 第3次住民説明会(全9回)
開催日 平成7年11月9日から同月13日出席者数 延べ290名
(d) 第4次住民説明会(全4回)
開催日 平成7年12月2日から同月4日出席者数 延べ248名
c アンケート調査の実施
芦屋市は,平成7年4月下旬から5月にかけて,被災状況や建物再建の意向,街づくり計画等に関して住民の意向等を把握するために,住民票上の居住者すべてを対象としてアンケート調査を実施し,570通(回収率52%)の回答を得た。
また,芦屋市は,平成7年10月,各権利者の建物再建意向を把握し,土地利用及び換地設計の基礎資料にすること等を目的に,課税台帳等による全権利者を対象とした第2回のアンケート調査を実施し,310通(回収率41%)の回答を得た。
d 現地相談所の設置及び個別相談会の実施
芦屋市及び被告は,平成7年8月14日から19日までの間,本件事業に対する不安を取り除き,理解を求めるとともに,権利者の個別意向の把握,相談,疑問解消に取り組むことを目的に,本件地区内に現地相談所を設置し,個別相談会を開催し,延べ110名の出席を得た。
e 住民団体主催の懇談会等への参加
芦屋市及び被告の担当者は,平成7年9月から10月までの間に開催された街づくり協議会主催のブロック別懇談会(合計24回,延べ344名が出席。)に参加したほか(乙20),平成7年10月22日及び同年11月19日の2回にわたり,住民の会主催の全体集会(延べ約120名が出席)に出席し,意見交換等を行った。
f まちづくりニュースの発行
芦屋市は,住民及び権利者等に対し,説明会等の案内やそこで出された意見等を紹介し,事業への理解を深めてもらうことなどを目的に,広報誌「まちづくりニュース」を発行し,平成7年4月3日から平成8年6月20日までの間,合計14号を発行して本件地区内の全戸に郵送した。
g 住民の会ヒアリング
芦屋市及び被告は,第3次住民説明会の後,住民の会からの要請により,平成7年11月9日,「計画案についてのヒアリング」の集会を開催し,約50名の出席を得た。
(イ) 住民意見による公共施設配置設計の変更等
被告及び芦屋市は,前記(ア)の過程で得られた住民の意見に対し,次のとおり対応した。
a 「イメージプラン」の作成及び提示
被告及び芦屋市は,平成7年4月ころまでに第1次住民説明会やアンケート調査等を行った結果,住民から「公園面積が広すぎる」「コミュニティ道路や川東線の幅員が広すぎる」等の意見が出されたことを踏まえ,当初7500㎡であった公園面積を5400㎡に縮小し,コミュニティ道路の幅員を15mから12mに,12mから8mに縮小するなどの設計の見直しを行って「イメージプラン」を作成し,第2次住民説明会において同案を提示したほか,ブロック別懇談会に出席するなどして,同案に関する住民の意見を募った。
b 「まちづくり案」の作成及び提示
これに対し,住民からは「大きな公園を小公園に分散すべき」「道路の幅員が広すぎる」などの意見が出された。
被告及び芦屋市は,上記意見を踏まえて,街の基軸である川東線及びコミュニティ道路は幅員を変更しないが,幹線区画道路を6mに,主要な部分を除く区画道路を5mにそれぞれ変更し,公園を3か所に分散させ,さらに公園の合計面積を4551㎡に減少させるなどの設計の見直しを行い,「まちづくり案」を作成した。
c 「事業計画案」の作成及び提示
被告及び芦屋市は,上記「まちづくり案」を第3次住民説明会において提示し,住民の会ヒアリングにおいて同案についての意見聴取等を行うなどしたところ,同案の公園計画や道路計画等に関しては更に反対意見も出された。しかし,防災上の機能や事業効果等の面から,これ以上道路や公園を縮小することは適切でないと判断し,第4次住民説明会において,同案を「事業計画案」として住民に提示した。
(ウ) 住民団体等の対応
a 都市計画決定前の段階での反対署名
都市計画決定前の段階では,都市計画案が縦覧に供されたのに対し,同案に反対する住民は,平成7年3月13日,区画整理反対の署名(約300名分)を芦屋市長及び兵庫県知事に提出した。
b 街づくり協議会の対応
(a) 街づくり協議会は,平成7年9月から平成8年2月までの間,街づくりや土地区画整理についての関心や知識を高め,住民間の意見交換をするための場として,全住民を対象とした勉強会を開催した(6回開催され,延べ365名の住民が参加した。)ほか,同年9月から10月までの間,住民が少人数で芦屋市や被告と議論することができるように,各町を街区ごとに区分したブロック別の懇談会を開催した(25回開催され,延べ244名が参加した。)。
(b) 街づくり協議会に参加する住民の間では,上記経過を経て,本件事業計画に理解を示し,これに賛同する意見が多数となっていった。
そこで,街づくり協議会は,芦屋市長に対し,第4次住民説明会終了後,平成7年12月13日付けで,809名の賛同署名を添えて,「1日でも早い事業完遂と復帰を願う」旨の陳情書を提出した(乙27)。
c 住民の会の対応
他方,住民の会は,本件事業の施行に反対する立場から,以下のような取組を行った。
(a) 住民の会は,平成7年10月31日付けで,芦屋市長に対して事業計画案の見直しを求める旨の要望書を提出したほか,同年12月5日付けで,芦屋市議会議長に対して同趣旨の請願書を提出し,さらに,同月9日付けで,芦屋市長に対し,本件事業の施行の中止を求める旨の書面を提出した。
これに対し,芦屋市議会は,平成7年12月22日,上記請願を不採択とした。
(b) さらに,住民の会は,平成8年初めころから,一級建築士等の専門家の支援を受けながら,住民からアンケートやヒアリングを行った上,住民の会独自の事業計画案の作成に取り組み,平成8年6月1日,「芦屋中央地区土地区画整理事業土地利用計画案(住民案)」と題する計画案を芦屋市に提出した(甲13)。
これに対し,被告及び芦屋市は,同案の内容が,減価買収面積は現事業計画案どおりとしながら道路等の公共用地は大幅に縮小していることなどから,実現性が乏しく未成熟であると判断し,本件事業計画において同案を考慮することはしなかった。
(2) 検討
以上の認定事実によれば,本件事業認可に至る手続が法令の定めに従って適正に行われていることはもちろんのこと,被告及び芦屋市は,本件事業認可がなされるに至るまで,多数回にわたって住民説明会を開催したほか,広報誌の発行や住民団体主催の勉強会への出席等,多種多様な方法によって本件事業計画内容の周知に努めていること,その結果得られた住民の意見を踏まえて,2回にわたって道路の幅員や公園の面積等を変更するなど,本件事業の目的との調整上可能な限りで住民の意見を反映させており,その経過の中で,多くの住民の理解と賛同を獲得してきたことが認められる。
他方で,被告は,住民の会を中心とする反対住民の意見を最終的には採用しなかったことも確かであるが,それまでの間には,住民の会の集会への参加等を通じて,住民の合意形成への努力を行っているのであるから,最終的に本件事業の目的との調整の観点から受け入れなかった住民の意見が存在するとしても,被告及び芦屋市のとった上記対応が手続的観点から不当なものとはいい難い。
(3) 小 括
以上検討したところによれば,本件事業計画の認可の手続は,適法なものであると認められる。
2 本件事業内容の違法性の検討(争点3)
(1) 事実関係
(文中に証拠等を記載していない事実は,当事者間に争いがない。)
ア 本件地区の概要等
(ア) 位置及び面積
本件地区は,芦屋市のほぼ中央に位置し,南北を国道2号と阪神電鉄本線,東西を市道駅前線(幅員15m)と県道奥山精道線(幅員8m)により挟まれ,南北約350m,東西約380mの面積約13.4ヘクタールの区域であり,芦屋市b町(西部),a町(中央部)及びc町(東部)の各一部で構成されている(別紙図面4,5参照)。
(イ) 過去の土地区画整理事業
本件地区の一部区域においては,次のとおり,過去に土地区画整理事業が施行された施行済み区域が存在し,その面積は本件地区全体の約45.8%であった。
a 戦災復興事業
昭和22年から昭和38年までの間,本件地区東側の地域(本件地区全体の約35.9%)で,戦災復興土地区画整理事業(以下「戦災復興事業」という。)が施行された。
b 中部事業
昭和40年から昭和60年までの間,本件地区南西側及び西側の地域(本件地区全体の9.9%)で,中部土地区画整理事業(以下「中部事業」という。)が施行された。
(ウ) 本件事業施行前の本件地区の状況
a 土地の利用状況
本件地区には,国道2号線の沿道及び阪神芦屋駅周辺に商業業務施設が立地していたほか,本通り及び三八通りの2本の商店街とそれらを東西に結ぶ甲陽市場が形成され,住宅及び商業施設が混在する土地利用となっていたが,近年その商業活動の停滞が顕著であった(別紙図面5参照)。また,一部中高層建築物が見られたが,全体的には低層住宅が存在し,用途地域は近隣商業地域,第1種中高層住居専用地域及び第1種住居地域となっていた(乙2)。
b 公共施設の状況
道路は,地区南部を東西に通過する都市計画道路鳴尾御影線(幅員15m)が整備されているほか,幅員2ないし8mの県道,市道等により道路網が構成されていた。他方,地区中心部には都市計画道路川東線が都市計画決定されていたものの,未整備であった。
公園は,b町内に都市計画公園b公園が整備されていたが,a町及びc町内には整備されていなかった(乙2)(別紙図面5参照)。
c 宅地の接道状況
幅員4m以上の道路に間口2m以上で接していない宅地(建築基準法42条1項,43条1項参照)の面積は,本件地区全体で19.2%存在した(乙16。なお,区域別では,戦災復興事業の施行済み区域で約8.52%,中部事業の施行済み区域で約4.36%,その他の区域で27.2%であった。)。
そのため,全体として狭幅員の私道が多く存在し,緊急車両やライフライン施設管理車両及びごみ収集車両等の進入が困難な地域が多数存在した(乙2,弁論の全趣旨)。
(エ) 市街地再開発事業の検討
本件地区の一部区域においては,昭和48年から市街地再開発事業による再整備が検討され,平成5年には市街地再開発事業組合が発足していた。
(オ) 阪神・淡路大震災の発生
本件地区では,平成7年1月17日の阪神・淡路大震災の発生により,約76%の建物が全半壊する甚大な被害を受けた(乙2)。
イ 本件事業計画の概要
本件事業計画の概要のうち,主な点は以下のとおりである(乙1・2)。
(ア) 本件事業の目的
本件事業は,本件地区が阪神・淡路大震災により甚大な被害を受けたことから,芦屋市の地域中心核にふさわしい安全で快適な市街地の復興を図るため,公共施設の整備改善を行うとともに,宅地の利用増進を図ることを目的とする。
(イ) 設計の方針
川東線及び鳴尾御影線を骨格とし,防災性に配慮した道路のネットワークを構成するとともに,生活に身近な道路及び3か所の公園の整備を図る。
(ウ) 土地利用計画
住宅系を基本とし,戸建て住宅を主体とした低層住宅と一部商業業務施設を含む中低層住宅の構成で計画する。
a 主要区画道路及び区画道路の適切な配置により,小規模な宅地(法2条6項の「宅地」)についても接道条件の改善を図り,住環境及び防災性の向上並びに宅地の利用の増進を図る。
b 歴史的な建築物やランドマークとなる建築物に配慮し,優れた景観の街並み形成を目指す。
(エ) 道路計画
道路の段階構成,役割分担,本件地区の特性である商店街,下町としてのコミュニティの保全,防災性等を考慮した計画とする(別紙図面4参照)。
a 本件地区の骨格として,川東線(幅員20m)及び鳴尾御影線(幅員15m)を配置する。
b 幹線道路を補完するため,奥山精道線(幅員8m)を配置する。
c 本件地区中央に,東西12mの東西コミュニティ道路を配置し,防災軸及び緑の軸と位置付けるとともに,三八通りの商店街の再整備を軸とした幅員8mの南北コミュニティ道路を配置する。
d 幹線道路に接続し,又はブロック内でループするなどにより区画を集約している道路は,原則として幅員6mで配置する。また,防災上支障がなく,これを補完する一部道路については,5mの幅員で配置する。
(オ) 公園計画
地域のコミュニティの保全と強化を図るため,3町それぞれに各1か所の街区公園(①ないし③。合計4551㎡。)を配置するとともに,防災性を考慮した公園とすることを計画の骨子とする。また,各公園は,防災機能の向上,緑のネットワーク化を図るため,コミュニティ道路等で接続させる(別紙図面4参照)。
① b公園(面積1051㎡)
② a公園(面積2500㎡)
③ d公園(面積1000㎡)
(カ) 防災計画
a公園等を地区防災拠点とするほか,公共施設の整備等により,防災機能を高める(別紙図面4参照)。
a 地区防災拠点の整備
(a) b公園,a公園及びd公園の各公園を地区防災拠点と位置付ける。
(b) 各公園は,災害時の一時的な避難場所のためのオープンスペースとして活用するほか,別途事業で,防災活動支援のための防火水槽,資機材備蓄倉庫を設ける。
b 避難路の形成
避難路として,川東線(南北に幅員20m),コミュニティ道路(東西に幅員12m,南北に幅員8m)を配置し,地域防災拠点(精道小学校-別紙図面5参照)に誘導する。
c ライフラインの整備
安全で快適な歩行者空間の確保,良好な街並み景観の創出を図るため,また避難路の確保も目的として,幹線道路及びコミュニティ道路について,電線共同溝(C-C-BOX)の導入を図る。
ウ 減価買収の実施(乙1,43,84,85)
本件地区は,土地区画整理事業の施行後の宅地価額の総額が施行前の宅地価額の総額より減少する減価補償地区であった。そこで,本件事業では,いわゆる減価事業として,本件地区外への移転や財産処分を希望する権利者を対象に,同人らから用地買収(減価買収)を行い,この買収用地分を土地区画整理事業の公共用地に充当することによって,実質の減歩率を相当規模低減する方法がとられ,本件地区内の約1万3500㎡の用地が買収された。
その結果,計算上,本件事業による公共用地の増加面積1万8171㎡のうち,上記買収面積が減価買収によって充当され,権利者の減歩による充当面積は4761㎡となり,本件事業における平均減歩率は約4.8%となった。
(2) 検 討
ア 本件事業の必要性及び土地区画整理事業の趣旨との適合性
(ア) 当裁判所の判断
被災市街地復興特別措置法は,阪神・淡路大震災の発生を契機として,大規模な火災,震災その他の災害を受けた市街地について,その緊急かつ健全な復興を図ること等を目的として制定され(同法1条),上記目的を実現すべく,被災市街地復興土地区画整理事業について特別措置を講じている(同法10条ないし18条)。他方で,土地区画整理事業は,健全な市街地の造成を目的として公共施設の整備改善及び宅地の利用増進を図ることを目的とした事業である(法2条1項)。
これら各関係法令の趣旨に照らすと,被災市街地復興土地区画整理事業は,大規模な災害を受けた市街地の緊急かつ健全な復興を図るべく,公共施設の整備改善及び宅地の利用増進を図る目的のもとに施行されるものでなければならない。
そこで検討するに,前記(1)の事実関係によれば,本件地区における阪神・淡路大震災による被害は,地区全体で70%以上の建物が全半壊する甚大なものであったから,本件事業計画の認可当時,本件地区において,芦屋市の地域中心核にふさわしい市街地の復興を早急に図ることが不可欠な状況にあったことは明白といわなければならない。
さらに,本件地区では,50%以上の面積の区域においては,過去に土地区画整理事業が施行されたことがなく,全体として狭幅員の私道が多く存在し,緊急車両やライフライン施設管理車両及びごみ収集車両等の進入が困難であったこと,公園の整備も十分でなかったこと等公用施設の未整備な状況であったいうべきであるから,一体的かつ総合的な面的整備によって公共施設の整備改善及び宅地の利用増進を図り,もって市街地の早期復興を目指す必要性は十分にあったものと認められる。
以上のような本件地区の従前の状況,及び阪神・淡路大震災による甚大な被害状況を総合すれば,本件事業を施行する必要性はあると認められ,その目的も上記関係法令の趣旨に適合するものというべきである。
(イ) 原告ら主張の検討
これに対し,原告らは,①本件地区には施行済み区域が含まれていること,②本件地区の再開発は,既に計画が進んでいた市街地再開発事業によるべきであることから,本件事業の必要性が乏しく,土地区画整理事業の趣旨に反する旨主張するので,以下検討する。
a 施行済み区域が含まれていることについて
施行済み区域においても,他の区域と同様に,阪神・淡路大震災によって甚大な被害が生じたことは前記のとおりである。さらに,前記認定事実(乙16,17,証人D)によれば,施行済み区域においても,接道条件の不十分な宅地や,幅員が6mに満たない区画道路が相当程度存在していたこと,a町及びc町においては防災上一時避難場所となる公園が整備されていなかったことなど,公共施設の改善の余地の残った状況にあったものと認められる。
そして,証拠(乙2)によれば,現に施行済み区域においても,本件事業によって,①地区の防災小拠点(一次避難地及び延焼防止機能)として,d公園(面積1000㎡)が新設されたこと,②本件地区南端において阪神電鉄軌道敷と宅地との間に道路が新設され,鳴尾御影線からの行き止まり道路によってしか接道していなかった当該街区の各宅地の接道条件が改善されたこと,③施行済み区域内あるいはその内外にまたがる2街区において,行き止まり,あるいはループ状であった細街路を,通り抜け可能な道路として延長したり,拡幅したりするなどの改善がなされたことが認められ(別紙図面4,5の比較参照),施行済み区域においても,相当程度の公共施設の整備改善とそれによる宅地の利用増進,防災性能の向上が実現していることが認められる。
以上を総合すると,本件地区が阪神・淡路大震災による甚大な被害を受けたことを背景に,土地区画整理事業によって,施行済み区域をも含めた本件地区全体の一体的かつ総合的な面的整備を行い,公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図ることには十分な合理性があるというべきである。
b 市街地再開発事業によるべきことについて
また,本件地区の一部区域においては,長年にわたり市街地再開発事業の施行が検討されていたことは,原告ら主張のとおりであるけれども,その範囲は本件地区内の一部区域に限られていたことは前記事実関係のとおりであり,本件地区周辺における被災状況が広範囲かつ甚大なものであったことからすれば,本件地区内で市街地再開発事業の検討がなされていたとしても,土地区画整理事業による本件地区全体の面的整備の必要性が否定されるものではない。
c まとめ
以上によれば,原告らの主張する上記事情から,本件事業の必要性や事業の趣旨との適合性が否定されるものではなく,原告らの主張は採用できない。
イ 本件事業計画の具体的内容の相当性
さらに,原告らは,本件事業計画の具体的な内容についても,施行地区の外郭設定に誤りがある,あるいは,公共施設に防災機能がない等の主張をしているので,以下これらの点について検討する。
(ア) 施行地区の外郭設定について
a 施行地区設定に関する定め
土地区画整理事業の施行地区は,原則として,道路,河川,運河,鉄道その他の土地の範囲を表示するに適当な施設で,土地区画整理事業の施行によりその位置が変更しないものに接して定めなければならないとされている(法施行規則8条1号本文)。
弁論の全趣旨によれば,被告は,上記規定に従い,本件事業の施行地区の設定について,整備課題の存在する街区を包括する区域境界として,北側では国道2号(幅員28m),南側では阪神電鉄,西側では奥山精道線(幅員8m),東側では市道駅前線(幅員15m)という道路等の施設で,事業の施行によりその位置が変更しない施設を採用したことが認められる(別紙図面4参照)。
b 東端線について
東端線について施行済み区域を施行地区に含めたことが違法でないことは,前記ア(イ)aで述べたとおりである。
c 南端線について
南端線について,阪神電鉄の軌道敷を本件地区に含めていないことは,前記認定のとおりである。
そして,証拠(乙71)によれば,鉄道の軌道敷は,鉄道による旅客や貨物を運送するための公益性を有した限定的な利用を図るためのものであることから,法施行規則8条1号に照らし,一般的には土地区画整理事業による整備改善の必要性は認められていないこと,また,仮に施行地区に編入したとしても,従前の機能を損なう区画形質の変更はできないことから,鉄道事業者に減歩等の負担を求めることは困難であり,結果として他の権利者に強減歩等を強いることになりかねないことが認められる。
したがって,本件においても,阪神電鉄の軌道敷を施行地区に編入しなかったことは,特段不合理なものであるとはいえない。
d 西端線について
西端線について,奥山精道線を施行地区に含めたことは,前記認定のとおりである。
そして,証拠(乙55,71)及び弁論の全趣旨によれば,奥山精道線は,土地の条件上,同線自体に歩道を設置するなどの整備を行うことは不可能であるが,他方で,奥山精道線及びその沿線地域を施行地区に編入したことによって,コミュニティ道路や歩行者専用道路等の整備が可能となり,これにより堤体部との高低差を克服して,地区全体から芦屋川方向へ抜ける避難路や平常時の歩行者動線が確保され(乙71),また,奥山精道線沿い宅地についても,その東側南北道路が相当の区間にわたって幅員6mに拡幅され,事業前に比べて接道条件が改善されるなど,防災性の向上や宅地の利用増進にも寄与する整備計画となっていることが認められる。
以上によれば,奥山精道線を施行地区に含めたことは,本件事業目的に適合するものであって,不合理なものとはいえない。
e まとめ
以上を総合すれば,本件事業における施行地区の外郭設定には,裁量逸脱の違法はないと認められる。
(イ) 道路計画について
a 原告らの主張
原告らは,「本件事業計画における道路計画は,防災機能の向上が認められないものや,必要以上に広い幅員を設定しているものが存在する。」旨主張する。そこで,原告らの指摘する各道路について,以下検討する
b 事実の認定
証拠(乙1,2,19の7~9,20)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(a) 川東線
ⅰ 川東線は,昭和21年に戦災復興計画として幅員20mで都市計画決定がなされ,昭和25年及び平成7年に変更決定がなされたが,幅員は,防災の観点から上記20mに据え置かれている。また,同線は,「幹線道路」としての機能と同時に「防災道路」としての機能を併せ持つ道路として計画されている。
ⅱ 防災機能
川東線は,本件地区の中央に位置し,同線と接続する各道路を経て地域防災拠点(精道小学校)に誘導するための避難路となっており,また,南北において広幅員道路(国道2号線及び国道43号線)と接続し,更なる広域避難場所への移動にも利用が可能であることから,本件地区の主要な避難路として位置付けられている(別紙図面4,5参照)。
さらに,緊急時には,国道2号線及び国道43号線を経て,本件地区外から本件地区内への緊急大型車両の進入経路としても利用されることになる。
ⅲ 幅員
川東線は,その両側に商店街が存するため,荷下ろし等に必要とされる停車帯が道路両側に各2m確保されたこと,阪神芦屋駅とJR芦屋駅を結ぶ主要な歩行者道路であるとともに,前記のとおり避難路としての位置付けがなされていることから,歩道の幅員が4mとされたため,鳴尾御影線(幅員15m)よりも5m広い20mの幅員となった(別紙図面4,5参照)。
(b) 東西コミュニティ道路
東西コミュニティ道路は,防災計画上,各宅地の前面道路として整備される区画道路から川東線に誘導するための避難路として位置付けられている。
また,地区内への緊急車両の進入,物資の運搬等については,広域幹線である国道2号線から新たに拡幅整備される川東線を経て,さらに東西方向のコミュニティ道路あるいは区画道路等を利用することで対応できる計画となっている(別紙図面4参照)。
(c) その他の道路
本件事業計画においては,既存道路の状況や整備後の状況を勘案し,また住民要望も踏まえて,道路の段階構成,役割分担等から,その他の道路についての幅員が決定された。
すなわち,それぞれのブロックをループし,その区画を集約する道路(幹線から街区を一周して幹線に戻る道路)は,原則として6mの幅員とし,防災上支障なくこれを補完する一部道路については幅員5mで配置している。また,主として歩行者専用道路として位置付けられるものは,現況に即しつつ,幅員4ないし6mの道路として配置している。
c 検討
以上によれば,川東線及び東西コミュニティ道路は,本件事業計画における防災計画上の重要な避難路等として位置付けられているものであって,その整備の必要性が認められ,幅員も合理的な理由に基づいて定められていると認められる。
また,本件事業計画上6m未満の幅員が存在することについても,道路の防災上の位置付けを考慮しつつ,既存道路の整備状況や住民の意向等を考慮した結果生じたものものであることからすれば,特段不合理なものとはいえない。
したがって,本件事業における道路計画の内容に不合理な点は認められない。
(ウ) 公園計画について
a 公園整備の必要性
前記(1)ア(ウ)b,前記(1)イ(オ),及び証拠(乙1,2)によれば,本件事業の施行前において,本件地区内において整備されていた公園は,b公園の1か所のみであり,その整備が十分でなかったこと,そこで,本件事業計画においては,地域のコミュニティの保全と強化を図るとともに,本件地区の防災拠点として3か所の公園を設置することが定められたことが認められる。
以上に照らせば,本件事業計画における公園計画は,その合理性が十分にあるものと認められる。
b 原告ら主張の検討
(a) 原告らは,本件事業計画において設置された公園は,いずれも,法令等で定められた面積等の基準を満たしていないとして,その設計の違法を主張する。
(b) しかしながら,まず,公園の面積についてみれば,都市公園法2条1項の公園面積に関する規定は,2500㎡を標準としつつも(同条1項),個別目的に応じて配置や敷地面積を定めることを認めており(同条2項),建設省通達(昭和29年8月14日計都計第1064号)では,0.1ヘクタール未満の公園をなるべく避けるよう考慮するよう求める趣旨の定めがあるに過ぎない(乙72)。
また,証拠(甲25,乙58)によれば,その他原告らが主張する公園の設置に関する基準は,いずれも法令・通達上の根拠を有するものではないから,これらの内容に適合していないことをもって,直ちに計画内容が不当であるということはできない。
(c) そして,本件事業では,前記認定のとおり,本件における公園の面積や配置等は,住民から聴取した意見に慎重に配慮した結果定められたものであること,防災拠点としての重要な位置付けがなされていることからすれば,上記公園計画の内容は合理的なものと評価できる。
したがって,原告らの上記主張は理由がないというべきである。
(エ) まとめ
以上によれば,本件事業計画の具体的な内容が不当であるとする原告らの主張は,いずれも理由がない。
ウ 住民の権利侵害等の主張について
(ア) 被災状況下での事業施行による生活等の侵害について
原告らは,本件事業が阪神・淡路大震災によって深刻な被害を受けて間もなく施行されたことから,住民の生活等を著しく侵害するものである旨主張する。
しかしながら,そもそも,本件事業は,被災地の早期復興を目的としており,ひいては本件地区住民の生活再建を図ることを目的とした事業であって,その内容も,上記目的に沿った合理的なものであることは前記認定のとおりであること,また,本件事業の施行に際しては,減価買収の実施によって平均減歩率を4.8%にとどめるなど,住民の負担の軽減に配慮した措置もとられていること,住民の増換地に関する意向聴取(後記3(5)ア(ウ)a・b)など,住民の意向に配慮した措置もとられている。
以上の事実に徴すれば,本件事業計画の内容が,住民の生活や財産を著しく侵害するものとは認められない。
(イ) 川東線建設による環境悪化について
原告らは,本件事業の施行により川東線が建設されると,交通量の増加に伴う環境の悪化が生じ,著しく住民の環境権等が侵害される旨主張する。
確かに,川東線は,従前の公道と比較すると,相当に広い幅員を有しており,これに伴う一定の交通量の増加は見込まれるところである。
しかしながら,前記(1)の事実関係,証拠(乙1,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,川東線は,片側1車線の道路であり,両端に広幅員(片側4m)の歩道が設置されていること,広域幹線道路ではなく,バイパス目的も有していないこと,同線南側の国道43号線との間にある阪神電鉄高架においては,自動車の桁下制限(高さ3.1m)がなされているため,国道2号線,国道43号線を走行した大型車が,川東線をバイパス道として,国道43号線,国道2号線に向かうことはないことが認められる(別紙図面4,5参照)。
以上の事実に徴すれば,川東線建設による交通量の増加が,環境の著しい悪化をもたらすとまでは認められない。
(ウ) まとめ
以上によれば,本件事業計画の内容が,住民の権利等を侵害する違法なものとはいえないから,この点に関する原告らの主張は理由がない。
(3) 小 括
以上検討したところによれば,本件事業計画の認可は,その内容においても適法なものであると認められる。
3 本件各換地処分の違法性の検討
(1) 手続的違法性の有無について(争点4)
ア 原告らの主張
原告らは,「仮換地指定前に換地設計の供覧を行わなかったこと,土地区画整理審議会の審議を非公開としたこと,設計基準等の資料を公開しなかったことなどが,手続的保障を欠き違法である。」と主張するので,以下検討する。
イ 事実の認定
証拠(乙19の8,45の1~3,64,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 換地設計の非公開等に関する事情
a 一部権利者は,被告に対し,仮換地指定前に換地設計の供覧を求めた。しかし,被告は,上記供覧を行うと,各権利者の財産状況に関する情報を公開することになり,権利者のプライバシーの侵害として許されないと判断し,上記供覧は行わなかった。
b 土地区画整理審議会の審議については,権利者等のプライバシー保護に加えて,自由な審議の確保の要請から非公開とされた。
c 被告は,平成13年ころまでは,換地設計基準及び土地評価基準等を公開していなかった。しかし,平成8年12月ころには,換地設計基準の概要を広報誌に掲載していた。
(イ) 被告の行った換地設計の周知措置等
a 被告は,仮換地案の作成に先立ち,面談方式等による権利者の個別意向調査,換地意向相談会の開催,現地相談所等の開設,事業説明会の開催等を行い,これらを通じて,各権利者に対し,本件事業や仮換地指定の経過等を周知するとともに,各権利者から換地の位置,形状等に関する意向や増換地の意向等を聴取し,これをもとに仮換地案を作成した。
b また,被告は,仮換地案の作成後,仮換地案の個別説明会を開催し,権利者等に対し,土地区画整理審議会の了解を得た決定前の仮換地案について,各権利者ごとに仮換地の位置,形状,算定換地地積,算定減歩率,減歩率の評価要因等を説明し,対象権利者431件のうち407件の出席を得た。
ウ 検 討
以上の事実によれば,前記イ(ア)のとおり,被告が換地設計の供覧を実施せず,土地区画整理審議会の審議を非公開としたことには,それぞれ合理的な理由が認められ,その一方で,同(イ)のとおり,仮換地案作成の前後にわたり,可能な限りの情報を住民に周知しているものといえるから,権利者の手続保障として必要な措置は一応とられているということができる。このような事情とともに,仮換地指定前の換地設計の供覧や土地区画整理審議会の審議の公開等が,いずれも法令上要求されたものでないことをも併せ考えると,被告が原告らの主張する上記措置をとらなかったことは,施行者の裁量を逸脱した違法なものとは認められない。
(2) 土地評価について(争点5)
ア 原告らの主張
原告らは,「被告の行った土地評価が,①本件事業において,川東線が建設され環境が悪化することを無視していること,②接近係数の計測等を誤るなどして,一般の路線価とは大きくかけ離れた路線価をもとに土地評価を行ったことなどから,違法である。」旨主張するので,以下検討する。
イ 検討
証拠(乙54,56,57,証人D)によれば,土地区画整理事業における従前地及び換地の評価は,宅地の利用価値の増進を把握することが主目的であり,宅地の利用性等に着目して評価を行う必要があることから,一般の土地評価とはその方法が異なるものであること,被告は,本件事業において,本件地区内の土地区画整理前後の土地評価を行うために,建設省都市局区画整理課監修の土地区画整理土地評価基準(乙57)をもとに,本件事業において設置した土地区画整理審議会の同意を得て選任した評価員の意見を聴いた上,上記基準(乙57)に沿った内容の土地評価基準を定め,この基準に基づいて土地評価を行ったこと,被告の定めた土地評価基準は,乙57号証の土地評価基準に沿った内容であること,以上の事実が認められる。
そうすると,被告は,土地区画整理事業の趣旨に沿った定めた土地評価基準に基づき,評価員の意見を聴取した上で土地評価を行っているのであって,適正に土地評価がなされているというべきであり,一般の評価との間に格差が生じたとしても,施行者の裁量を逸脱した違法なものとは認められない。
(3) 照応原則について(争点6・7の前提論)
法89条1項は,換地を定める場合においては,換地及び従前地の位置,地積,土質,水利,利用状況,環境等が照応するよう配慮しなければならないという照応原則を定めているところ,上記規定における「照応する」とは,上記諸要素を総合的に勘案して,各換地が従前地と大体同一の条件にあること(縦の照応)をいうとともに,同一事業の施行地区内における他の権利者との公平がおおむね保たれていること(横の照応)をいうものと解される。
そこで以下,本件における照応原則違反の有無(争点6・7)について検討する。
(4) 縦の照応原則違反の有無(争点6)
ア 本件換地処分1
(ア) 事実関係
(文中に証拠等を記載していない事実は,当事者間に争いがない。)
a 本件換地処分1は,原告A,B両名所有の従前地1(a町21番29,21番39,21番41,21番43。21番41が私道部分であった。)を換地1(a町3番16)に換地したものである(別紙図面1,6参照)。
b 従前地1は,私道部分を除いて一体として利用されており,西側部分で公道(本通り・幅員約4m)に間口約8.4mで接し,北側部分で幅員約2.5mの私道(乙64)に面した角地で,奥行き(東西)約19mの矩形地であった。
これに対し,換地1は,従前地1から北側に約15m離れた位置にあり,西側部分で川東線(幅員20m)に間口約9.1mで接する奥行き(東西)約15.7mの普通地である(乙88の1)。
c 上記のとおり,換地1が従前地1から約15m離れた位置に配置されたのは,従前地1の近隣で本通りに面していた宅地の一部が減価買収により公共用地に充当すべき土地として取得され,同土地に対応する換地が存在しないため,その余の換地を順次配置した結果生じたものである(乙15の1,30,64)。
d 従前地1の合計地積は私道部分を含めて163.08㎡(うち私道部分は12.86㎡)であるのに対し,換地1の地積は144.58㎡であり,減歩率は約11.3%である(乙37)。
(イ) 検 討
a 位置
本件換地処分1は,角地を普通地とし,また,位置の移動を伴ういわゆる飛び換地である。しかしながら,換地1のかかる配置は,前記(ア)cのとおり,換地設計上の技術的制約等からくるやむを得ないものと考えられること,従前地1は角地であったとはいえ,その北側に接していた私道が幅員約2.5mの狭小道路であったことからすれば,普通地に換地されることが著しい不利益とまではいい難いことなどを考慮すれば,換地1と従前地1が位置の照応関係を欠くとまではいえない。
b 地積
本件換地処分1の減歩率は,平均減歩率を相当に上回っているものであるが,前記のとおり,従前地の西側部分が幅員4mの公道に接していたに過ぎなかったことに照らすと,換地1が幅員20mの川東線に接することによる同地の利用価値の増進は大きいということができ(原告らが環境の悪化を主張する点については,dにおいて検討するとおりである。),従前地1のうち面積12.86㎡の私道部分を宅地として換地処分がなされていることなどを考慮して算出されたものであって,合理的なものと認められる。
c 土地の利用状況
(a) 原告A,B両名は,従前地1において米穀店を営業していたものであるが,換地1の地積や形状に照らせば,換地1は,従前地1と同様,営業用の施設を建築して営業を行うことは可能であり,従前地1よりも営業上不利となる要素は特に認められない。
(b) 原告らの主張について
これに対し,原告らは,原告A,B両名の経営する米穀店の営業形態では,玄米を大量にストックするため通風や精米の際の騒音緩和の必要があることから,換地が角地であることが不可欠である旨主張する。
しかしながら,換地処分は,土地自体の具有する諸要素に着目してなされる対物処分たる性格を有するから,照応判断の要素となる利用状況とは,土地自体の客観的な利用状況をいうと解されるところ,一般的には,通風や騒音緩和の観点から角地であることが米穀店の営業上不可欠なものとまでいえず,原告らの主張する上記事情は照応関係の判断要素とすべき客観的な事情とはいい難いから,これを考慮することは相当でなく,原告らの上記主張は理由がない。
d 環境
換地1は,従前地1に比して,西側部分に接する道路の幅員が大幅に広がっており,これに伴い,交通量が一定量増加することは推測されるところである。しかしながら,川東線が建設されたとしても,環境が著しく悪化するとまでは認められないことは,前記2(2)ウ(イ)のとおりであるから,環境の点においても照応を欠くとまではいい難い。
e まとめ
以上を総合すると,従前地1と換地1は,大体同一の条件にあると認められる。
イ 本件換地処分2
(ア) 事実関係
(文中に証拠等を記載していない事実は,当事者間に争いがない。)
a 本件換地処分2は,原告ら所有の従前地2(a町34番5)を換地2(a町8番7)に換地したものである(別紙図面2,6参照)。
b 従前地2は,南側で幅員約4mの公道に間口約8.3mで接する奥行き約10.9mのほぼ整形な普通地であった。
これに対し,換地2は,従前地2から東側に約4m移動した位置にあり(乙67,弁論の全趣旨),南側で幅員5mの公道に間口約9.3mで接する奥行き約9.7mの整形な普通地であり,従前地より間口が広がっている(乙88の3)。
c 従前地2と換地2の地積は,いずれも86.68㎡である(小規模宅地対策により,従前地どおりの地積が維持されたものである。)。
(イ) 検 討
a 位置及び地積
換地2は,前記(ア)のとおり,従前地2と面積の半分程度が重なる位置にあり,また,減歩も行われていないから,位置及び地積において照応を欠いているとはいえない。
b 環境
原告らは,換地2の日照,通風等の悪化を主張する。
しかしながら,換地2の周辺に日照や通風が害される建物等は存せず(乙88の3),むしろ,換地2の南端は,従前地2と比べて,接面道路の幅員及び間口が約1m広がっていることからすると,日照や通風等の環境条件が悪化しているとはいい難く,これに反する原告らの主張は,いずれも理由がないというべきである。
c まとめ
以上によれば,従前地2と換地2は,総合的にみて,大体同一の条件にあると認められる。
ウ 本件換地処分3
(ア) 事実関係
(文中に証拠等を記載していない事実は,当事者間に争いがない。)
a 本件換地処分3は,原告A所有の従前地3(b町7番16,7番19)を換地3(b町2番2)に換地したものである(別紙図面3,6参照)。
b 従前地3のうちb町7番19の宅地は,東部で幅員約4m,延長約32mの行き止まりの私道に間口約10mで接する南北約20m東西約9mの一部袋地状の宅地であった。従前地3のうちb町7番16の宅地は,上記私道の一部であり,上記私道は,東端において本通りに接続していた。
これに対し,換地3は,従前地3とほぼ同じ位置にあり,東側で川東線に間口約14.7mで接する奥行き約12.0mの整形な普通地である(乙88の2)。
c 従前地3の合計地積は私道部分も含めて183.16㎡であるのに対し,換地3の地積は178.02㎡であり,減歩率は2.8%である。
なお,従前地3の増進に見合う算定換地地積は,約157㎡であったが,これに本件換地処分4の従前地(合計地積63.30㎡の共有私道であり,原告Aの持分6484分の2669に相当する地積は26.06㎡である。)の原告A持分に対応する換地相当地積約11㎡を加算した結果,約168㎡となり,さらに,同原告が増換地を希望したことを考慮した結果,換地3の地積は上記のとおり約178.02㎡となった。上記増換地分を控除して計算した場合の減歩率は,14.5%である。
(イ) 検 討
a 位置
換地3と従前地3は,ほぼ同位置にあり,大体同一の条件にある。
b 地積
本件換地処分3の減歩率は,前記(ア)cのとおり,増換地分を控除して計算すると平均減歩率を大きく上回ることになるが,本件換地処分1と同様に,川東線に接することによる宅地としての利用増進の程度は大きいといえること,私道部分である7.58㎡を含めて宅地として換地処分がなされていることに照らし,合理的なものと認められる。
c 環境
原告らは,従前地3が本通りから奥まった静かな環境にあったことから,換地3の環境の悪化が著しい旨主張する。しかしながら,上記事情を考慮しても,前記2(2)ウ(イ)で述べた事情に照らせば,環境の著しい悪化が生ずるとまでは認められない。
d まとめ
以上を総合すると,従前地3と換地3は,大体同一の条件にあると認められる。
エ 小 括
以上より,本件換地処分1ないし3は,いずれも縦の照応原則に違反するとは認められない。
(5) 横の照応原則違反の有無(争点7)
ア 事実関係
証拠(乙45の64,証人D,文中記載の各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 小規模宅地対策の実施
被告は,小規模な宅地について一律に減歩負担を求めることによる宅地利用面,防災面,環境衛生面からの弊害に考慮して,一定面積以下の宅地については,権利者からの申出によって,従前の有効利用宅地地積(宅地内私道部分は除いた地積)を確保して仮換地(換地)とし,換地計画において定められる金銭により清算することとした。その具体的な内容は,次のとおりである(乙73)。
a 対象地
ⅰ 従前の有効利用宅地(又は借地)が100㎡以下の画地
ⅱ 従前の有効利用宅地(又は借地)は100㎡以上であるが,算出した仮換地後の地積が100㎡未満になる画地
b 対策
被告は,対象地の所有者から,小規模宅地対策の取扱いを希望する旨の書面による申出を受けた場合,算出した仮換地後の地積どおりの仮換地を行わず,前記aⅰ記載の土地については従前の有効利用宅地又は借地の地積,前記aⅱ記載の土地については100㎡を上限とした地積の仮換地を定め,その結果生じた通常の換地の取扱いで算出された換地地積との差分については,換地計画において定められる金銭により清算する。
c 対象者等に対する告知
被告は,平成8年12月27日発行の広報誌「まちづくりニュースNo.21」で,小規模宅地対策の内容を告知するとともに(乙45の3),各対象者に対し,同日ころ,個別に文書を送付した(甲14)。
(イ) 換地設計及び仮換地指定の方法
被告は,前記意向調査等を通じて権利者から早期生活再建に向けた不安感が示されていたことから,できるだけ早期に換地設計を行う必要があると判断し,まずは,算定換地地積をもとにおおむねの位置及び形状を定めた換地設計を決定し,その後,順次,街区単位で各権利者の意向確認や現地測量結果による調整を行いながら仮換地を確定して,仮換地指定を行うこととした。
そして,以上の方針に基づき,被告は,平成8年12月18日,土地区画整理審議会の意見を聴いて換地設計基準を決定し(乙77),さらに,本件事業計画,施行規程及び上記基準等に基づき,平成9年7月3日,土地区画整理審議会の意見を聴いて地区全体の換地設計を決定し,その後各権利者の増換地の意向等を調査し調整を図りながら,順次仮換地指定を行っていった。
以上の経過により,仮換地指定は,30回にわたり行われた(甲44)。
(ウ) 空閑地の発生及びその解消処理
(イ)の換地設計は,前記のとおり,従前地の評価額に等価となる計算上求められる算定換地地積を前提に作成されていたため,各街区内に換地が重なっていたり,空閑地が多数生ずる内容となっていた。そこで,被告は,前記のとおり行った各権利者に対する意向調査を踏まえて,次の方法で,空閑地の解消を図った。
a 小規模宅地対策による増換地
被告は,まず,前記(ア)の小規模宅地対策による取扱いを希望した権利者に対し,清算金を負担させることを前提に増換地を行い,これを空閑地に充てた。
b 希望者に対する増換地
また,被告は,増換地に関する意向調査を通じて増換地を希望した権利者のうち,換地設計の空閑地の配分の可能な者に対し,清算金を負担させることを前提に増換地を行った。
上記方法による増換地は,本件地区全体で90か所以上の画地において行われた。
c 芦屋市所有地を従前地とする換地の配置
被告は,a及びbの方法によってもなお残った空閑地の解消方法として,隣接する民有地に強制的に増換地することは権利者の負担をかけることになり不相当であると判断し,芦屋市の協力により,芦屋市所有地を従前地とする換地処分を行って当該換地を空閑地に配置する方法により,空閑地を解消することとした。その結果,通常の宅地として利用が困難な空閑地に配置された芦屋所有地の換地が,本件地区全体で合計10か所以上生じた(甲44,45,乙78)(別紙図面6参照)。
イ 検討
(ア) 増換地及び空閑地解消処理の合理性
以上の認定事実によれば,本件事業においては,当初の換地設計が算定換地地積を前提に早期に決定されたため,多くの空閑地が生じ,その解消のために増換地等の措置がとられたこと,また,一般的な土地区画整理事業よりも多数回にわたる仮換地指定が行われたことから,結果として,権利者間に換地処分上一定の不均衡が生じたことは否定し難いところである。
しかしながら,土地区画整理事業においては,換地設計技術上,完全に従前地等に照応する換地を定めることはほとんど不可能であり,また,それを街区単位で集合させて,設計どおりの街区を形成することも不可能であることから,清算金による調整を前提とした増換地等を行うこと自体は,一般的に許容されているところである(乙46)。
さらに,本件事業は,被災市街地の緊急かつ健全な復興が求められる性質を有している一方(被災市街地復興特別措置法1条参照),権利者の意向にもできる限り配慮することが要請されるという(同法4条参照),被災市街地復興土地区画整理事業としての特質を有している。
そして,前記アの認定事実によれば,被告は,住民の早期生活再建に向けた不安感に配慮して,早期に換地設計を定めたものであること,その後の仮換地指定の経過においても,できる限り個別に権利者の意向を聴取し,希望者に対しては増換地を行う一方で,強制的な増換地を避けるなどの対応をとっていることが認められ,このような被告の対応は,上記法の趣旨に沿ったものであるというべきである。
そうすると,上記のような換地設計の実情及び本件事業の被災市街地復興土地区画整理事業としての特質にかんがみると,全般的にみれば,被告のとった上記措置自体は,不合理なものということはできない。
もっとも,このような取扱い自体に合理性が認められるとしても,できる限り換地設計上,権利者間において取扱いの不公平が生ずる事態を避けるよう配慮しなければならないことは,法89条1項の趣旨に照らして当然であるから,増換地が極端なものであったり,一部の者を恣意的に優遇するような措置は,施行者の裁量の逸脱として許されないというべきである。
そこで,以下,原告らが不公平な取扱いであると主張するものについて,具体的に検討する。
(イ) e教会に対する換地処分について
a 事実の認定
証拠(甲16~18,乙68,69)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(a) e教会の従前地,換地設計
ⅰ 従前地
e教会従前地は,4街区に存在し,原告A所有の従前地3に西側で隣接しており,その地積は2098㎡であった。
e教会従前地上には,教会,幼稚園(f幼稚園)の建物や運動場があり,西側部分(園児の通学路),南側部分(車両の出入口)及び東南部分の幼稚園への出入口の一部が市道に面しているだけで,角地ではなかった(別紙図面7参照)。
ⅱ 換地設計
e教会従前地は,本件事業計画において,北側及び西側の区画道路に面することになり,換地設計において,当該区画道路と従前地の位置関係を考慮して,仮に角地として換地が定められた(別紙図面6,7参照)。
(b) 増換地の意向確認
ⅰ 4街区では,本件換地設計上171㎡の空閑地が発生し,増換地が可能な状態となっていた。そこで,被告は,各権利者に増換地等の意向を確認することとした。
ⅱ 被告は,平成9年1月11日,e教会に対しても,意向を確認したところ,e教会側は,①できるだけ敷地面積を減少させたくなく,従前の運動場面積を確保したい,②幼稚園の出入口として,e教会従前地の南側部分あるいは西側部分を確保したいとの希望を示した。
e教会従前地は,前記(a)ⅱのとおり,仮に角地として換地が定められていたため,試算上の算定換地地積は,従前地の地積よりも大幅に減少し,1903㎡となっていた。
そこで,被告は,e教会の前記希望を考慮して,平成9年2月27日,e教会に対し,増換地を希望した場合にはその増換地分が約74㎡となる旨説明したところ,e教会は,増換地を希望するかどうかについて検討する旨返答した。
ⅲ 被告は,本件換地設計決定後,同決定を前提に,各権利者に増換地等の意向等を確認し,順次仮換地指定を行った。
ⅳ e教会は,平成10年8月ころ,被告に対し,清算金の支払を伴わない算定換地を希望し,増換地を望まない旨の意向を示した。その結果,e教会への増換地分として予定していた地積の空閑地が生ずることとなった。
しかし,既にこの時点ではe教会以外の権利者の意向を踏まえて,e教会の従前地の南側部分と東側部分は仮換地指定が進んでいたため,他の権利者への増換地等の措置は不可能な状況となっていた。
(c) 仮換地指定処分
ⅰ そこで,被告は,上記空閑地の解消方法として,芦屋市所有地を従前地とする仮換地指定処分(前記ア(ウ)cの方法)をすることとし,4街区のどこに芦屋市の換地を配するかを検討した。
そして,建物等の配置状況や芦屋市の換地の有効利用を考慮して,e教会従前地の西側の接道部分に配置するほかに方法はないと判断し,当該場所を芦屋市所有地を従前地の換地とする仮換地指定処分をすることとした(別紙図面6,7参照)。
ⅱ e教会換地は,上記のとおり西側接道部分に芦屋市換地が配置された結果,普通地として算定されることとなり,e教会の仮換地の地積は,計算上1942㎡となった。
被告は,上記の算定に基づき,平成10年10月19日,換地設計の一部変更及びe教会に対する仮換地指定処分の決定を行った。同処分によるe教会換地の減歩率は,約7.4%である。
ⅲ e教会換地は,上記のとおり,芦屋市換地の配置によって普通地としての評価を受けているものの,南西側の接道部分の間口は確保されており,同部分を通じて西側の道路からの出入りが可能な状態となっている(別紙図面7参照)。
b 検討
(a) e教会に対する優遇措置の評価
以上の認定事実によれば,e教会に対する換地を普通地とし,芦屋市の所有地に角地の空閑地を配置した被告の上記措置(以下「e教会に対する優遇措置」という。)によって,e教会の換地は,普通地としての評価を受けることにはなったものの,その南西部分には出入口としての利用が可能な接道部分が確保されており,実質的には角地に近い利用価値を維持した位置関係にある。そうすると,e教会が大幅な減歩を免れながらこのような換地を受けたことは,他の権利者に比して有利な取扱いであるといわなければならない。
さらに,前記アの認定事実によれば,被告は,e教会から「できるだけ敷地面積を減少させたくない」旨の希望が出されたことを受け,e教会に対する増換地を予定しながら4街区の仮換地指定を進めていたことがうかがわれる。しかしながら,e教会は,当初から,清算金負担を伴う増換地を希望するか否かについて明確な意向までは示していなかったのであるから,e教会に対して増換地を行うことを予定して仮換地指定を進めた被告の措置には,問題があったともいえないではない。
しかしながら,e教会に対する優遇措置は,e教会が増換地を望まないとの意向を示したことを受け,強制的な増換地を行わないとの一般的方針に基づき,前記ア(ウ)cの空閑地解消方法として行ったものであり,一応の合理的な理由に基づくものと認められる。また,少なくとも,上記措置が当初からe教会を優遇しようとの意図のもとに恣意的に行われたという事情はうかがわれない。
以上によれば,e教会に対する優遇措置は,妥当な措置とはいえないが,違法と評価すべきほどのものとまでは断定できない。
(b) e教会に対する優遇措置による原告らへの不利益
ところで,特定の換地処分が違法であるかどうかは,あくまでも,個々の処分について判断されるべきものであるから,特定の権利者に対して違法な換地処分がなされたとしても,これがために直ちに他の権利者に対する換地処分が違法となるものではなく,違法な換地処分の結果,他の権利者に対する換地処分が違法となるのは,違法な換地処分が他の権利者に対する換地処分に影響を及ぼし,他の権利者が不利益を受けている場合に限られると解するのが相当である。
そうすると,仮に,e教会に対する換地処分に関する取扱いが,違法な措置であると評価されるとしても,e教会に対する換地処分等が,原告らに対し,何らかの不利益を与えるものでなければ,本件各換地処分が違法性を帯びるものではないことになる。
この点,原告らは,芦屋市の換地を配置したことによって,e教会換地の評価額が下がったとしても,本件地区全体の土地価額の総額は変わらない以上,原告らは,清算金が増額することになる不利益を受けている旨主張する。
しかしながら,証拠(乙84)によれば,減価補償地区においても,事業施行中の換地設計段階と最終の換地計画段階では整理後の土地の価格の総額が同一になるものではなく,同総額が変わることに伴い減価補償金相当額が変更する場合には,減価補償金相当額により取得すべき土地の面積を増減することによって,施行前後の土地価格の総額を等しくなるように措置するものであること,したがって,4街区においても,e教会換地が角地に配置されるか否かによって,4街区の総評価額は変動するものの,これによって他の権利者の換地の地積や清算金が増減する関係にはないことが認められる。
そうすると,e教会換地の配置の変動に伴うe教会の清算金額の増減は,直接原告らの換地地積や清算金額に影響を及ぼすものではなく,原告らの主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。
以上によれば,仮に,e教会に対する優遇措置が一部の権利者を不当に優遇する違法な措置であると評価されるとしても,これによって原告らが換地処分上不利益を受けているわけではないから,本件各換地処分が横の照応原則に違反することにはならないというべきである。
行政事件訴訟法10条1項が,「取消訴訟においては,自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。」と規定していることも,上記判断の裏付けとなる。
(c) 芦屋市との関係
なお,e教会及び芦屋市に対する一連の換地処分についてみるに,芦屋市に対しては,同市所有地が通常の宅地として利用が困難な利用価値の少ない土地に換地され,大きな不利益を与えているというべきであり,これによってe教会は大きな利益を受けたのであるから,両者間においては,照応関係の不均衡が生じていることが明らかである。
しかしながら,芦屋市は,本件事業の施行要請者としてかかる取扱いに同意したものであることは前記認定のとおりであるところ,権利者の同意のもとになされた換地処分は,たとえそれが当該権利者にとって不利益なものであっても,照応原則違反の問題とはならないと解されるから,結局,芦屋市との関係での不均衡に着目したとしても,e教会に対する換地処分が違法であると解することはできない。
とはいっても,芦屋市民の一般市民感情としては,芦屋市の損失によりe教会が得をしたとの素朴な感情を抱くのは当然である。しかし,だからといって,原告らの本件各換地処分が違法とはいえないことは,前記(b)で考察したとおりである。
c まとめ
以上のとおりであるから,e教会所有地に対する換地処分の違法を理由に本件各換地処分が違法であるとする原告らの主張は,理由がない。
(ウ) 街づくり協議会役員等との関係での不公平について
a 原告らの主張
原告らは,被告が,街づくり協議会役員等一部の権利者に対し,著しい増換地等有利な換地処分を行っており,しかも,一部の権利者以外の者に対しては,増換地の意向聴取等による増換地の機会を付与していないとし,このような取扱いは著しく権利者間の公平を欠く違法なものである旨主張する。
b 検討
(a) しかしながら,前記アの認定事実によれば,本件地区においては,増換地を行った画地が相当数認められるが,これはいずれも小規模宅地対策又は空閑地の解消処理による結果であること,被告は,増換地の実施に際しては,各権利者に対する個別の意向調査を実施し,広報誌による周知措置も行っているのであるから,本件事業において被告が行った増換地には合理的な理由が認められるとともに,増換地の機会は各権利者に対し公平に与えられていたということができる。
(b) なお,原告らは,被告が当初は住民に対して増換地は一切行わない旨説明していたにもかかわらず,増換地を行ったことが不当であると主張する。
そこで検討するに,証拠(甲9,乙19の7・8)によれば,被告は,本件事業認可前の第2次住民説明会において,増換地の可否に関する住民からの説明に対し,増換地はできない旨の回答を行っていることが認められるものの,当時は事業認可前で減価買収も進行中の段階であったことからすれば,被告がかかる回答をしていたことが,土地区画整理事業に関する一般的説明として不適切なものであったとまではいえない。
(c) 以上によれば,本件事業において,一部の権利者に対して不公平な増換地がなされたとの事実は認められない。
ウ 小括
以上より,本件各換地処分は,いずれも横の照応原則に違反するとは認められない。
(6) 本件換地処分2の過小宅地の制限違反の有無について(争点8)
原告らは,換地2の地積が89.68㎡であることが,過小宅地の基準を100㎡とする法施行令57条に違反するもので,法91条1項の趣旨に反する旨主張する。
しかしながら,法91条1項,2項は,災害防止,衛生向上の面から宅地の規模を適正にするため,過少宅地とならないように換地を定めることを定めた規定であるが,同条が照応原則(法89条1項)の例外であることからすれば,施行者に同条2条(法施行令57条)の基準を上回る換地をすべき義務を課すものではないと解される。
そして,被告は,減歩を課さず従前の有効利用宅地地積をもって換地を定めることなどを内容とする小規模宅地対策を定めており,同対策は上記規定の趣旨に照らし適正な内容であると認められるところ,本件換地処分2も,同対策によって適正に処理されているものである(前記(4)イ(ア)c参照)。
したがって,本件換地処分2における換地の地積が100㎡未満であるとしても,そのことによって本件換地処分2が違法と評価される余地はない。
4 総括
以上によれば,本件各換地処分は,いずれも適法であるから,原告らの乙事件に関する各請求は理由がない。
第8結語
したがって,甲事件における原告らの訴えは,いずれも不適法であるから却下し,乙事件における原告らの請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 今中秀雄 裁判官 五十嵐章裕)