神戸地方裁判所 平成11年(行ウ)22号 判決 2004年4月06日
原告 甲
同訴訟代理人弁護士 高橋敬
同 松山秀樹
同 小泉伸夫
同 辰巳裕規
被告 姫路税務署長
山下兼二
同指定代理人 中村和洋
同 豊田周司
同 俊成逸司
同 北口仁紀子
同 大海敏彦
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の請求
被告が、原告に対し、平成9年3月14日付けでした次の各処分を、いずれも取り消す。
1 所得税関係
原告の平成5年ないし7年分(以下「本件各年分」という。)の所得税に係る更正処分及びこれに対する過少申告加算税の賦課決定処分のうち、総所得金額を平成5年分について480万円、平成6年分について480万円、平成7年分について515万円として計算した額を超える部分
2 消費税関係
原告の平成5年ないし7年の各課税期間(以下「本件各課税期間」という。)の消費税の各更正処分のうち、課税標準額を平成5年分について6927万円、平成6年分について7890万1000円、平成7年分について7875万9000円として計算した額を超える部分、及び平成5・7年の各課税期間の消費税についての過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、平成6年分については異議決定により取り消された後のもの、平成5年分及び平成7年分については審査裁決により取り消された後のもの)
第2 事案の概要
1 事案の骨子
本件は、原告が、被告のした所得税及び消費税の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について、税務調査の違法や、総所得金額(所得税)及び課税標準額(消費税)を過大に認定した違法等があるとして、その一部の取消しを求めた事案である。
2 前提となる事実
(末尾括弧内に証拠の記載がなければ、当事者間に争いのない事実である。)
(1) 原告
ア 原告は、甲の屋号で、主として舗装工事業を営む白色申告者であり、本件各年分の所得税の納税義務を負う者である。
イ また、原告は、上記事業を営む個人事業者であり、本件各課税期間の消費税の納税義務を負う者である。
(2) 確定申告
ア 原告は、本件各年分の所得税につき、別表1「確定申告」欄記載の事業所得の金額及び納付すべき税額のとおり、確定申告した。
イ また、原告は、本件各課税期間の消費税につき、別表2「確定申告」欄記載の課税標準額及び納付すべき税額のとおり、確定申告した。
(3) 更正処分等
ア 被告は、平成9年3月14日、原告に対し、本件各年分の所得税について、別表1「更正処分等」欄記載の事業所得の金額、納付すべき税額及び過少申告加算税のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下、これらの処分を「本件所得税各処分」という。)。
イ また、被告は、同日、原告に対し、別表2「更正処分等」欄記載の課税標準額、納付税額及び過少申告加算税のとおり、本件各課税期間の消費税について更正処分、及び平成5・7年課税期間の消費税について過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらの処分を「本件消費税各処分」という。)をした。
(4) 審査請求等
ア 原告は、平成9年5月7日、被告に対し、本件各所得税処分及び本件消費税各処分に対する異議申立てを行ったが、被告は、同年8月6日付けで、上記異議申立てにつき、本件所得税各処分についての異議申立てをいずれも棄却し、本件消費税各処分についても、別表2「異議決定」欄記載のとおり、その一部のみを取り消し、その余の異議申立てを棄却した。
イ 原告は、これを不服として、平成9年9月3日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成11年1月29日付けで、別表2「裁決」欄記載のとおり、平成5年分及び平成7年分の消費税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分の一部を取り消し、その余の審査請求を棄却する旨の裁決をし、同裁決書は、平成11年2月3日ころ、原告に送達された(甲1)。
ウ そこで、原告は、平成11年5月2日、本件訴えを提起した。
3 争点
(1) 税務調査の適法性及び推計課税の必要性
(2) 推計課税の合理性
(3) 売上金額
(4) 特別経費
(5) 総所得金額(所得税)、課税標準額(消費税)等
第3 当事者の主張
1 争点(1)(税務調査の適法性及び推計課税の必要性)について
(1) 被告の主張
ア 税務調査の適法性
質問検査権の行使に関する実施の細目は、税務担当職員の合理的な裁量に委ねられているところ、被告が本件所得税各処分及び本件消費税各処分に際して実施した原告に対する税務調査(以下「本件調査」という。)には、上記裁量を逸脱する違法な点はない。
イ 推計課税の必要性
被告部下職員である乙国税調査官(以下「乙調査官」という。)は、平成8年9月17日から平成9年3月4日までの間、原告の事業所への臨場、連絡せんの手交及び投函を繰り返し、原告及び原告の内妻丙(以下「丙」という。)に対し、再三にわたり、所得税及び消費税の申告の基となった帳簿書類等の提示を求め、調査に協力するよう要請したにもかかわらず、原告は、第三者(Aの会員、以下同じ)の立会いに固執し、調査に協力せず、帳簿書類等も提示しなかった。
そこで、被告は、やむを得ず推計により算定した金額で本件所得税各処分をしたものである。
したがって、本件において、推計課税の必要性があったことは明らかである。
(2) 原告の主張
ア 税務調査の違法性
本件調査は、次のとおり違法である。
(ア) 被告は、従前の原告に対する税務調査が税理士資格等を有しない第三者の立会いのもとで特に問題なく実施されていたのに、本件調査に至って、突然第三者の立会いを認めなかった。
(イ) 被告は、本件調査において、仕事等で多忙であった原告の都合に配慮せず、原告本人と直接面談する機会を確保する努力をしなかった。
イ 推計課税の必要性の欠如
仮に、被告が、第三者の本件調査への立会いを認め、原告本人との面談を行う努力を行い、適正に調査を実施していれば、推計によるまでもなく、原告の所得金額の把握は可能であった。
よって、本件における推計課税の必要性はなかったというべきである。
2 争点(2)(推計課税の合理性)について
(1) 被告の主張
ア 被告の採用した事業所得金額の推計方法
(ア) 被告は、原告の取引先等に対する反面調査等によって把握した原告の売上金額を基礎とし、青色申告者の中から、原告と業種及び業態、事業規模並びに立地条件が類似している者を同業者として抽出した上、上記売上金額に抽出同業者9件の本件各年分の平均算出所得率を乗じて原告の算出所得金額(特別経費控除前の所得金額)を算定し、その金額から特別経費を控除して算定した。
(イ) 被告が上記推計に際して設定した同業者の抽出基準(以下「本件抽出基準」という。)は、次のとおりである。
① 青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること
② 舗装工事業を営む者であること
③ 上記②以外の業種目を兼業していないこと
④ 事業所が兵庫県下のいずれかの税務署管内にあること
⑤ 年間を通じて事業を継続して営んでいること
⑥ 売上金額が4300万円以上2億0200万円未満であること
⑦ 対象年分の所得税について、不服申立て又は訴訟が係属中でないこと
イ 推計方法の合理性
本件抽出基準により抽出された各同業者は、原告と業種、業態、事業所の所在地及び事業規模等の点において類似性を有し、しかも、その申告の正確性について裏付けを有する青色申告者であるから、本件抽出基準は十分に合理的なものである。
また、上記同業者の抽出作業は、抽出条件に該当するすべての者を無作為かつ機械的に抽出するというもので、恣意の介在する余地はない。
したがって、被告が行った推計の方法は合理性がある。
(2) 原告の主張
ア 抽出基準の不合理性
本件抽出基準は、内容が不明確かつ不正確であり、合理性に乏しく、同基準によっては、適正な同業者の所得率を算定することはできない。
イ 同業者の平均算出所得率の不合理性
(ア) 比準年分の原告の算出所得率
原告の平成8年分ないし平成10年(以下「比準年」という。)分の売上金額、必要経費及び算出所得率は次のとおりであり、その平均値は9.81%である。
a 平成8年分
(a) 売上金額 9325万6904円
(b) 必要経費 8657万9458円
(c) 算出所得率 7.16%
b 平成9年分
(a) 売上金額 8870万1893円
(b) 必要経費 7728万5080円
(c) 算出所得率 12.87%
c 平成10年分
(a) 売上金額 4727万1876円
(b) 必要経費 4282万5238円
(c) 算出所得率 9.40%
(イ) 算出所得率の比較
本件各年分の算出所得率は、上記(ア)の平均値を超えることはない。よって、被告主張の同業者の平均算出所得率は、原告の現実の所得率と遊離していることが明らかであり、著しく不合理である。
3 争点(3)(売上金額)について
(1) 被告の主張
本件各年分の原告の売上げは、次のとおりである(各内訳は、別表3に記載のとおり。)。
ア 平成5年分 1億0095万6490円
イ 平成6年分 8651万0060円
ウ 平成7年分 8889万0706円
(2) 原告の主張
被告の主張する別表3記載の売上金額のうち、原告の主張する金額が異なるものは、次のアないしウのとおりであり、その余の分は認める。
ア 平成5年分
姫路市は1168万7357円、丁(㈲B)は67万6795円、㈱Cは70万9670円、D㈱は0円である。
イ 平成6年分
㈲Eは374万3782円、丁(㈲B)は0円、戊は260万6279円、㈱Fは31万7100円である。
ウ 平成7年分
G㈱は1092万6641円である。
4 争点(4)(特別経費)について
(1) 被告の主張
被告が把握し得た原告の本件各年分の各特別経費の金額はない。
(2) 原告の主張
ア 実額主張
本件各年分の特別経費のうち、裏付けをもって明らかにできるものは、次のとおりである。
(ア) 地代家賃
原告は、平成5年から平成7年の間、Hに対し、敷地及び建物の賃料として年額58万8000円を支払った。そのうち、原告の事業の必要経費に当たる部分は、1年分当たり54万1789円である。
(イ) 利子割引料
a 平成5年分 33万7808円
b 平成6年分 45万0274円
c 平成7年分 84万7243円
イ 比準年分との比較
(ア) 原告の比準年分の特別経費(①外注費、②雇人費、③地代家賃、④利子割引料、⑤リース料の合計)は、次のとおりである。
a 平成8年分 5814万5568円
b 平成9年分 4605万6385円
c 平成10年分 3298万3036円
(イ) 本件各年分の特別経費は、上記(ア)の金額の平均値以下になることはない。
よって、本件各年分においても、上記金額程度の特別経費が存在したというべきである。
5 争点(5)(総所得金額〔所得税〕、課税標準額〔消費税〕等)について
(1) 被告の主張
被告が本件訴訟において主張する原告の本件各年分の事業所得金額(所得税)及び本件各課税期間の納付すべき税額(消費税)の算出根拠は、次のとおりである。
ア 本件所得税各処分
(ア) 売上金額(別表4―①)
a 平成5年分 1億0095万6490円
b 平成6年分 8651万0060円
c 平成7年分 8889万0706円
(イ) 同業者の平均算出所得率(別表4―②)
a 平成5年分 18.69%
b 平成6年分 15.94%
c 平成7年分 19.96%
(ウ) 算出所得金額(別表4―③)
a 平成5年分 1886万8767円
b 平成6年分 1378万9703円
c 平成7年分 1774万2584円
(エ) 特別経費の金額 0円(前記4(1))
(オ) 総所得金額(事業所得金額)(別表4―④)
a 平成5年分 1886万8767円
b 平成6年分 1378万9703円
c 平成7年分 1774万2584円
(カ) まとめ
本件所得税各処分は、いずれも上記(オ)の総所得金額の範囲内でなされているから、適法である。
イ 本件消費税各処分
(ア) 売上金額(税込み課税売上高)(別表5―①)
a 平成5年分 1億0095万6490円
b 平成6年分 8651万0060円
c 平成7年分 8889万0706円
(イ) 課税標準額(別表5―②)
a 平成5年課税期間 9801万6000円
b 平成6年課税期間 8399万円
c 平成7年課税期間 8630万1000円
(ウ) 課税標準額に対する消費税額(別表5―③)
a 平成5年課税期間 294万0480円
b 平成6年課税期間 251万9700円
c 平成7年課税期間 258万9030円
(エ) 控除対象仕入税額(別表5―④)
a 平成5年課税期間 205万8336円
b 平成6年課税期間 176万3790円
c 平成7年課税期間 181万2321円
(オ) 限界控除税額(別表5―⑤) 0円
(カ) 納付すべき税額(別表5―⑧)
a 平成5年課税期間 49万9900円
b 平成6年課税期間 44万4200円
c 平成7年課税期間 42万1700円
(キ) まとめ
本件消費税各処分(平成6年分については異議決定により取り消された後のもの、平成5年分及び平成7年分については審査裁決により取り消された後のもの)は、いずれも上記(カ)の金額の範囲内でなされているから、適法である。
(2) 原告の認否
被告の上記(1)の主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(税務調査の適法性及び推計課税の必要性)の検討
(1) 事実の認定
証拠(甲21〔一部〕、乙1、証人乙、証人丙〔一部〕)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
ア 本件調査の開始
被告は、平成8年9月から、部下職員である乙調査官をして、原告の本件各年分の所得税及び本件各課税期間の消費税の申告内容の調査(本件調査)に当たらせた。
イ 平成8年9月から同年11月までの調査
(ア) 乙調査官は、平成8年9月17日午後2時過ぎころ、原告宅に赴いたが、原告は不在であり、原告の内妻で経理担当者である丙が応対したことから、同人に対し、調査への協力を要請した。しかし、乙調査官は、同人から「Aの役員をしているので、選挙が終わる10月末までは、調査に応じることができない。」との申出があったため、調査を実施することができなかった。
そこで、乙調査官は、丙に平成8年9月24日午前10時に改めて臨場することなどを伝言し、その旨記載した連絡せんを交付して、必ず原告に渡すよう依頼し、原告宅を辞去した。
(イ) 乙調査官は、平成8年9月24日に原告宅に赴き、定刻の午前10時になるまで原告宅付近で待機していたところ、そこを偶然通りかかった丙に対し、調査への協力を依頼した。しかし、同人は、「原告が仕事で家にいない。」、「選挙があるので忙しい。」、「帳簿書類の整理が終わっていない。」、「Aの会員らがたくさん調査の立会いに来る。」などと申し立て、乙調査官が現状のままで帳簿書類を提示するよう求め、調査には税理士資格等を有しない第三者の立会いは認められない旨説明しても、調査に応じなかった。
そこで、乙調査官は、丙に平成8年9月27日までに連絡するよう求める等の内容の原告あての連絡せんを交付し、原告宅を辞去した。
(ウ) 乙調査官は、平成8年9月27日、丙から調査日時を同年11月以降にしてほしい旨の電話連絡を受けたことから、同人に対し、同月上旬に、帳簿書類を準備して、税理士資格等を有しない第三者の立会いのない状態で必ず調査日時を設けるのであれば、調査の延期に応じるので、原告と相談の上、同年10月末までに連絡するよう依頼した。
(エ) 乙調査官は、原告から調査日時に関する電話連絡等がなかったため、平成8年10月22日午後1時40分ころ、原告宅に赴いたが、不在であったので、同月24日までに必ず連絡するよう求める内容の連絡せんを投函して、原告宅を辞去した。
(オ) 乙調査官は、平成8年10月24日、丙から調査日時が決まらないとの電話連絡があったため、原告と相談の上11月上旬に調査日時を設けて10月末までに連絡するよう依頼した。
(カ) しかし、原告から上記調査日時等に関する電話連絡等がなかったため、平成8年11月12日午後4時ころ、乙調査官が原告宅に赴いたところ、原告は不在であり、丙が応対した。
丙は、自分が病気にかかったために10月末までに連絡できなかった旨説明し、入院するかもしれないので、調査日時をもう少し延期してほしいと申し立てた。
これに対し、乙調査官は、丙の立会いがなくても調査は可能であることを繰り返し説明したが、丙は態度を変えなかったので、同日の調査協力要請を断念し、原告宅を辞去した。
ウ 平成9年1月以降の調査
(ア) 乙調査官は、丙の健康状態に関する申出を受けて、しばらくの間連絡を控えて原告からの連絡を待っていたが、2か月余り連絡がなかったことから、平成9年1月16日午後2時ころ、原告宅に赴いた。
しかし、原告及び丙は不在であったため、乙調査官は、同月23日午前10時ころ再度訪問すること等を記載した連絡せんを原告宅に投函して、原告宅を辞去した。
(イ) 丙は、平成9年1月17日午後4時30分ころ、乙調査官に対し、電話連絡により、調査日を同年2月3日に変更してほしい旨申し立てた。
これに対し、乙調査官は、これ以上調査延期に応じることはできない旨説明し、一度帳簿書類を持参して来署するよう依頼したが、丙は、原告宅における調査を強く希望し、さらに、Aの会員らの立会いを強く求めた。
そのため、乙調査官は、丙に対し、原告に税理士資格等を有しない第三者の立会いのない状態で調査に応じる意思があるかどうかを尋ね、同年1月20日までに原告本人から連絡をするよう依頼し、調査日を同年2月3日に変更した。
(ウ) 乙調査官は、平成9年1月20日午後5時ころ、丙から電話連絡を受け、同人との間で、調査日時を同年2月3日午後1時30分とすることを約束した。
(エ) ところが、丙は、平成9年1月31日午後4時50分ころ、乙調査官に対し、電話連絡により、前回とは別の病気にかかったとの理由で、同年2月3日の調査日時を延期してほしいと申し立てた。
これに対し、乙調査官は、調査は飽くまでも原告本人に対するものであり、丙の立会いがなくても調査を進めることができることを繰り返し説明し、必ず原告本人から電話連絡するように再度伝言を依頼した。
(オ) さらに、丙は、平成9年2月6日午前9時ころ、乙調査官に対し、電話連絡により、市役所への業者登録の申請や経営審査等があるから、調査日時等を変更してほしいと申し立てた。
これに対し、乙調査官は、これ以上調査日時を延期することはできないこと、及び調査協力要請に応じなければ、被告側で調査した結果に基づき更正処分を行うことを原告に伝えるよう丙に依頼した。
また、乙調査官は、同日午前11時50分ころ、丙から再度電話連絡を受けた際、電話に代わって出た原告に対し、これ以上調査日時の延期はできないことの説明及び調査への協力を要請をしたが、原告は、仕事が忙しいことや丙の病気を理由に調査に応じられない旨申し立てた。
(カ) 丙及びAの事務局員ら数名は、平成9年2月6日午後1時45分ころ、姫路税務署に赴き、応対した乙調査官に対し、「病気であるにもかかわらずどうして調査延期に応じないのか。」「どうしてA会員の立会いが認められないのか。」と抗議した。
(キ) 丙は、平成9年2月12日午後5時ころ、乙調査官に対し、電話連絡により、仕事が忙しく2月末までは調査に応じられない旨申し立て、3月になれば調査に応じられるのかとの乙調査官の問いにも、仕事の都合もあるので約束できないと答えた。
また、乙調査官が、丙に対し、原告も同様に調査に応じる意思がないのか尋ねたところ、丙は、調査に応じることができないのは原告の意思でもあると答えた。
そのため、乙調査官は、原告には調査に応じる意思がなく、これ以上調査の進展は見込めないと判断し、更正処分を行うことを原告に伝えるよう丙に依頼した。
(ク) 乙調査官は、平成9年2月26日午後3時ころ、原告宅に赴いたが、原告及び丙は不在であったので、同年2月28日までに帳簿書類を持参して来署してほしいこと、及び来署のない場合には、更正処分を行う旨を記載した連絡せんを原告宅に投函し、原告宅を辞去した。
(ケ) 乙調査官は、再度原告に調査に応じる意思があるかどうかを確認するため、平成9年3月4日午後1時10分ころ、原告宅に電話したが、原告は不在であった。そこで、乙調査官は、応対した丙に対し、被告側で調査した結果に基づき更正処分を行うことを原告に伝えるよう依頼した。
エ 本件所得税各処分、消費税各処分
以上のような経過を経て、被告は、平成9年3月14日付けで、本件各年分の所得税についての更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、また、本件各課税期間の消費税についての更正処分、並びに、平成5・7年課税期間の消費税についての過少申告加算税の賦課決定処分をした。
(2) 検討
ア 調査の適法性
(ア) 税理士資格等を有しない第三者の立会いを認めなかったことについて
a 原告は、過去に行われた原告に対する税務調査では第三者の立会いが認められていたのに、突然本件調査に至って税理士資格等を有しない第三者の立会いを認めなかったことは、不合理であり違法である旨主張する。
b しかしながら、質問検査権(所得税法234条1項)を行使する際の、質問検査の範囲、程度、時期、場所等の実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解するのが相当である(最高裁昭和48年7月10日決定・刑集27巻7号1205頁参照)。
そして、質問検査は、調査対象者の資産、営業上の秘密に立ち入るのみならず、取引先たる第三者の秘密事項等にも調査が及ぶおそれがあるから、税務職員は、税務調査に際し、当該調査ごとの個別的具体的な事実関係に即して、特に第三者の立会いを認めなければ著しく不合理であると認められる事情等が存在しない限りは、税理士資格等を有しない第三者の立会いを拒否することが許されるというべきである。
c これを本件についてみると、証拠(証人丙)によれば、平成5年ないし7年当時、原告の業務において、経理等を担当していた者は丙のみであったことが認められ、かかる事情のもとでは、税理士資格等を有しない第三者の立会いを認めないことが原告にとって不利益をもたらすとは認め難く、ほかに、税理士資格等を有しない第三者の立会いを認めなければ著しく不合理であると認めるに足りる事情は見当たらない。
よって、乙調査官が、税理士資格を有しない第三者の立会いのない状態で調査に応じるよう求めたことは、税務職員に委ねられた裁量権の範囲内の行為であるというべきである。
(イ) 原告と直接面談する機会を確保する努力を怠ったとの主張について
a また、原告は、本件調査において、被告が原告の仕事等の都合に配慮せず、原告本人と直接面談する機会を確保する努力を怠った違法を主張する。
b しかしながら、前記(1)の認定事実によれば、乙調査官は、再三にわたり、原告あての連絡せんを丙に交付したり投函するなどして、本件調査への協力を要請するとともに、原告からの連絡を求めていたことが認められるから、乙調査官が、本件調査において、原告と直接面談する機会を確保するよう努めていたことは明らかであり、原告の上記主張は理由がない。
(ウ) 小括
以上によれば、本件調査に関して被告の裁量の逸脱があったは認められないから、本件調査は適法というべきである。
イ 推計課税の必要性
前記(1)の認定事実によれば、乙調査官は、原告宅に赴くなどして、原告の内妻であり経理担当者でもある丙を通じて、原告に対し、再三にわたって税理士資格等を有しない第三者の立会いのない状態での調査に応じるよう要請したにもかかわらず、原告は、ほとんど自ら応対することなく終始し、原告に代わって応対していた丙も、飽くまで第三者の立会いに固執して乙調査官の上記要請を拒否し、調査協力に応じていなかったものと認めることができる。
原告及び丙の上記対応からすれば、原告の調査に対する非協力的な姿勢は明確であって、原告のこのような姿勢が改められることも容易に期待し得ない状況にあったということができる。そうすると、被告が、原告の事業所得金額に付いて、原告に対する質問検査等によってこれを把握することが困難であると判断して、独自の調査の上、その結果を基に推計の方法によって上記金額を算出したことは、やむを得なかったものであると認められる。
よって、本件所得税各処分につき、推計課税の必要性が認められる。
2 争点(2)(推計課税の合理性)の検討
(1) 事実の認定
証拠(乙2・3〔各枝番を含む。〕、18、証人I)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
ア 被告は、原告の営む業種を舗装工事業とした上、被告が調査等によって把握し得た本件各年分の原告の売上金額を基礎とし、青色申告者の中から、原告と業種及び業態、事業規模並びに立地条件が類似している者を同業者として抽出した上、原告の上記売上金額に抽出同業者の平均算出所得率(算出所得金額〔売上金額から一般経費を控除した金額〕の売上金額に対する割合)を乗じて原告の算出所得金額を算出し、その金額から特別経費を控除して、原告の事業所得金額を算出することとした。
イ そこで、大阪国税局長は、原告の納税地を管轄する姫路税務署長及び被告以外の兵庫県下の各税務署長に対し、所得税の確定申告書を提出している者のうち、本件各年分につき、本件抽出基準をいずれも満たす者をすべて抽出するよう指示した(乙2の1~21)。
ウ その結果抽出された同業者の総数は9名であり(乙3の1~21)、これらの者の本件各年分の売上金額、売上原価及び一般経費の額、並びに算出所得金額及び算出所得率は、別表6-(1)ないし(3)のとおりであった。
エ 被告は、上記同業者の平均算出所得率を基に、原告の本件各年分の事業所得金額を推計した。
(2) 検討
ア 当裁判所の判断
上記(1)の認定事実によると、被告の採用した本件抽出基準は、被告が調査等によって把握し得た原告の業種、業態、所在地及び事業規模等に基づき、所得率に影響を及ぼし得ることが経験則上認められる要素を勘案して設定されたものであり、当該基準により抽出された同業者と原告との間には、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の類似性が認められるから、同業者の類似性を判別する要件として合理的なものである。
また、抽出対象となる同業者は、申告内容に一定の裏付けを有する青色申告者であって、かつそれが確定しているから、原告の所得率を推計する資料の正確性も担保されている。
さらに、被告は、本件抽出基準に該当する者のすべてを抽出したものであって、その抽出過程に特に被告の恣意等が介在したことをうかがわせる事情は存在しない。
したがって、被告が採用した推計の方法には、合理性があるものと認められる。
イ 原告主張の検討
(ア) 本件抽出基準の不合理性の主張の検討
a 原告の主張
原告は、本件抽出基準について、①各要件中の「舗装工事業」「兼業」「年間を通じて」等の意義が不明確であること、②原告は舗装工事業と土木工事業を兼業しているから、「兼業していないこと」との要件は原告の業態にそぐわない不正確なものであること、③阪神・淡路大震災の影響を受けた阪神地域や、春夏以外には業務に支障を来す日本海側地域を含めるなど、経済的な立地条件に隔たりのある兵庫県全域の事業者を抽出の対象としていることから、不合理である旨主張する。
b ①②(要件の不明確性・不正確性)の検討
しかしながら、推計課税は、当該事案において得られた限られた資料を基礎として実額に近似する所得を推測する算出方法であるから、その性質上、絶対的な合理性を要求するのは相当でない。それゆえ、同業者の抽出基準は、課税庁が調査等によって把握し得た情報の範囲において、納税者の営業条件にできる限り類似するように設定されたものと認められる限り、その合理性を肯定し得るというべきである。
これを本件についてみるに、前記(1)の認定事実によれば、本件抽出基準の各要件は、被告ができる限り正確な原告の業種等の把握に努めた結果を基に設定したものであると認めることができるから、本件抽出基準の各要件が明確性又は正確性を欠く不合理なものとは認め難い。
c ③(立地条件に隔たりがあること)の検討
また、業種及び業態、事業所の近接性、事業規模等の基本的な要因において比準同業者間に通常存在する程度の個別的な営業諸条件の差異は、その平均値を算出する過程で捨象されるから、それが推計を不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、抽出基準の合理性を肯定し得るというべきである。
これを本件についてみるに、本件抽出基準によって9件の同業者が抽出されており、同業者の個別性を平均化するに足りるだけの同業者数が確保されているということができる上、抽出された各同業者の算出所得率をみても、売上原価及び一般経費の多寡により、著しい偏差があるとも認められない。
そうすると、仮に、原告の主張するような兵庫県内における地域間の経済的条件等の差異が一定程度存在するとしても、かかる差異は、所得率の平均値を算出する過程で捨象されているというべきであり、これが推計を不合理ならしめる程度に顕著なものであると認めることはできない。
d まとめ
よって、原告の上記aの主張はいずれも理由がない。
(イ) 同業者平均算出所得率の不合理性の主張の検討
a はじめに
(a) 原告は、原告の比準年分(平成8年分ないし平成10年分)の売上金額及び必要経費の実額と算出所得率を主張して、比準年分の算出所得率の平均値(9.81%)と大幅に異なる同業者の平均算出所得率を用いた被告の推計方法は、合理性を欠く旨主張する。
(b) しかしながら、推計課税において絶対的な合理性を要求するのが相当でないことは、前記(ア)bのとおりである。したがって、課税庁の採用した推計方法が一応の合理性を有するものと認められる場合には、他の推計方法が実額により近似することが明らかであることが立証されない限り、他の推計方法の存在が課税庁の採用した推計方法の合理性を否定する理由にはならないと解するのが相当である。
本件においては、被告の採用した推計方法に一応の合理性が認められることは、前記アのとおりである。したがって、原告において、被告の採用した推計方法よりも明らかに実額に近似する推計方法が存在することを立証しない限り、被告の採用した推計方法の合理性が否定されることにはならない。
すなわち、①比準年分の原告の算出所得率が、被告の算出した同業者の平均算出所得率よりも、本件各年分の原告の所得率に明らかに近似するものであること、及び②比準年分の所得率算出の基礎となる比準年分の収入金額及び必要経費の実額が正確なものであることの双方が立証されない限り、原告の上記(a)の主張は理由がないというべきである。
そこで以下、本件において、上記①及び②の立証がなされたといえるかについて検討する。
b 比準年分と本件各年分の所得率の近似性の欠如
(a) 原告は、前記のとおり、本件各年分の所得率等の比準対象として、比準年(平成8年ないし平成10年)の所得率等を主張するものである。
(b) しかしながら、上記比準年の前年である平成7年には阪神・淡路大震災が発生し、これが阪神地域及びその周辺地域の社会経済に多大な経済的影響を及ぼしたことは顕著な事実であり、震災発生の周辺地域において舗装工事業に従事していた原告にも、その売上げや事業規模等に大きな変化をもたらしたことは想像に難くないところである。
一方、原告は、平成13年に破産宣告を受けるに至っており(乙4)、その3年ないし5年前に当たる比準年においては、原告の経営状態に変化が生じていた可能性も否定し得ない。
(c) また、原告の主張する比準年分の売上金額自体も、平成10年分の売上金額(4727万1876円)が平成8年分の売上金額(9325万6904円)の約半分に落ち込み、大きく変動しているところである。
(d) 以上によれば、本件各年(平成5年ない7年)分と比準年(平成8年ないし10年)分との間には、原告の事業規模、業態等に無視し難い変化があることをうかがわせる事情が存在するといわざるを得ない。
よって、比準年分の原告の算出所得率が、被告の算出した同業者の平均算出所得率よりも、本件各年分の原告の所得率に明らかに近似するものであると認めることはできない。
c 原告が主張する比準年分の事業所得金額の不正確性
(a) 比準年分の収入金額及び必要経費の実額が正確なものと認められるためには、ⅰその収入金額がすべての取引先からのすべての取引についての捕捉漏れのないものであること、ⅱ必要経費が実際に支出されたことⅲ必要経費が総収入金額と対応すること、ⅳ必要経費が当該事業と関連性を有することが、合理的な疑いを容れない程度まで立証されることが必要である。
そのためには、収入及び必要経費が日々継続的に記帳された会計帳簿によって算出されることが必要であり、その帳簿の真実性、正確性を原始記録によって確認することが不可欠である。
納税者がこのような会計帳簿を提出せず、原始記録をもって実額主張の根拠とするためには、上記資料が取引に接着して作られ、かつ完全に保存されているとともに、それが会計帳簿と同程度ないしそれ以上に信用性のあるものでなければならない。
本件訴訟において、原告は、原告の比準年分の売上げ及び必要経費の実額について、日々継続して個別具体的に記録した会計帳簿を提出しておらず、請求書や領収書等の原始記録を提出しているにとどまる。
しかるに、上記原始記録についてみると、売上げに関して提出された原始記録(甲B1~B290)は、比準年分の売上げをすべて計上したものではないこと(乙5の1・2)が認められ、また、必要経費に関する原始記録は、上様名義やあて先空欄の書類が多数含まれていること(甲J25、J35等)、家事費に該当するものや事業との関連性の明らかでないものが多数含まれていること(甲M52等)が認められるから、上記原始記録は、会計帳簿と同程度に信用性のあるものとはいい難い。
(b) また、本件訴訟における原告主張の売上金額及び所得金額は、比準年分の原告の確定申告書に記載された売上金額及び所得金額と大きな格差が生じている(弁論の全趣旨)。このことからも、上記原始資料の信用性には、疑問があるといわざるを得ない。
(c) 以上によれば、原告の主張する比準年分の収入金額及び必要経費の実額が正確なものであることが立証されたとはいえない。
d まとめ
以上によれば、原告は前記a(b)の①(本件各年分と比準年分との所得率の近似性)及び②(比準年分の収入及び必要経費の正確性)のいずれについても、その立証がされたとはいえないから、原告の前記a(a)の主張は理由がない。
3 争点(3)(売上金額)の検討
(1) 争いのない事実
被告の主張する別表3記載の売上金額のうち、以下検討する(2)ないし(6)以外は、当事者間に争いがない。
(2) 姫路市分について
ア 原告の主張
原告は、被告主張の平成5年分の姫路市に対する売上金額(679万8000円)は、平成4年11月18日の請負契約(以下「本件姫路市請負契約」という。)によって権利が確定したものであり、平成5年分の収入とするのは誤りである旨主張する。
イ 検討
(ア) 所得税基本通達36-8
所得税基本通達は、請負契約における事業所得の総収入金額の収入すべき時期について、次のとおり定めている。
a 36-8(4)
物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の提供を完了した日。ただし、一の契約により多量に請け負った同種の建設工事等についてその引渡量に従い工事代金等を収入する旨の特約若しくは慣習がある場合、又は1個の建築工事等についてその完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金等を収入する旨の特約若しくは慣習がある場合には、その引き渡した部分に係る収入金額については、その特約又は慣習により相手方に引き渡した日。
b 36-8の3
請負契約の内容が建設工事を行うことを目的とするものであるときは、その建設工事の引渡しの日がいつであるかについては、例えば、作業を結了した日、相手方の受入場所へ搬入した日、相手方が検収を完了した日、相手方において使用収益ができることとなった日等当該建設工事等の種類及び性質、契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、その者が継続して収入金額に計上することとしている日によるものとする。
(イ) 本件への当てはめ
これを本件についてみるに、証拠(乙6、16)によれば、姫路市の締結する工事請負契約では、目的物の引渡日(検収日)は、検査日若しくは検査日の翌日であるのが通常であること、本件姫路市請負契約における工事検査日は平成5年2月9日であることが認められ、これらの事実によれば、本件姫路市請負契約における引渡しの日は、上記工事検査日である平成5年2月9日又はその翌日の10日であると推認することができる。
そうすると、上記所得税基本通達に従い、原告と姫路市との間の請負契約の収入すべき金額が確定した日は、平成5年2月9日ないし10日であるというべきであるから、姫路市請負契約による売上金額は、平成5年分に計上するのが相当である。
よって、原告の前記アの主張は採用できない。
(3) ㈱C分について
ア 証拠(乙7)によれば、原告の㈱Cに対する平成5年分の売上金額は、別表3の「㈱C」欄に記載の金額(183万9600円)であることが認められる。
イ これに対し、原告は、上記売上金額のうち113万0541円は、平成4年分の売上げである旨主張する。
しかし、㈱Cは、平成11年8月2日付けで、大阪国税局に対し、㈱Cの原告に対する平成5年1月分の仕入金額(外注費)として、113万0541円が存在する旨の回答をしているところであり(乙7)、これによれば、上記金額は平成5年分の売上金額として計上するのが相当であるところ、原告がその主張の根拠として提出する請求書(甲7)のみでは、上記判断を覆すに足りない。
よって、原告の上記主張は採用できない。
(4) 丁(㈲B)分について
ア 証拠(乙13、14)及び弁論の全趣旨によれば、原告の丁に対する平成5年分の売上金額は72万6795円、平成6年分の売上金額は95万円であることが認められる。
イ これに対し、原告は、上記金額のうち平成5年分の67万6795円以外の部分については、原告の丁に対する貸付けの返済金である旨主張する。
しかし、上記金額が貸付けの返済金であることをうかがわせる事情は存在せず、上記認定を覆すに足りる証拠はない。
よって、原告の上記主張は採用できない。
(5) D㈱分について
ア 証拠(乙13)及び弁論の全趣旨によれば、原告の平成5年分の売上げとして、D㈱に対する28万1911円の売上金が存在することが認められる。
イ これに対し、原告は、上記売上げは平成4年11月分のものである旨主張する。
しかし、原告がその主張の根拠として提出する請求書(甲9)のみによっては、上記判断を覆すに足りず、原告の上記主張は採用できない。
(6) ㈲E分、戊分、G㈱及び㈱F分について
ア 証拠(乙8~11)によれば、原告の上記4名に対する本件各年分の売上金額は、別表3のとおりであると認められる。
イ これに対し、原告は、㈲E分及び戊分については請求金額から振込手数料を差し引いた後の金額、G㈱分及び㈱F分については両名に対する債務との相殺後の金額が、それぞれの売上金額である旨主張する。
しかし、事業所得の計算における売上金額は、「その年において収入すべき金額」(所得税法36条1項)であって、これは振込手数料等の費用の控除や相殺をなす前の収入金額を指すと解されるから、原告の主張は失当であり、採用することはできない。
(7) 小括
以上によれば、本件各年分の売上金額は別表3のとおりであり、平成5年分が1億0095万6490円、平成6年分が8651万0060円、平成7年分が8889万0706円であることが認められる。
4 争点(4)(特別経費)の検討
(1) 実額主張の検討
ア 原告の主張
原告は、本件各年分の特別経費として、地代家賃及び利子割引料の実額を主張するので、以下検討する。
イ 地代家賃の検討
(ア) 事実の認定
証拠(甲25、甲01ないし18、証人丙)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
a 原告は、昭和48年から、Hより、兵庫県姫路市の自宅建物(木造2階建物、延べ床面積79㎡)を賃借している。
b 原告の自宅建物の建築面積は39.6㎡にすぎないが、自宅建物の敷地は約700㎡もある。原告は、昭和58年、Hの承諾を得て、自宅敷地に倉庫を建築した。原告は、本件各年当時、Hに対し、賃料月額4万9000円(年額58万8000円)を支払っていた。
c 原告は、上記自宅建物を原告・丙夫婦の居宅として使用した外、甲(塗装工事業)の事務所、飯場として使用し、自宅建物の敷地及び倉庫を甲(塗装工事業)の資材置き場、駐車場として使用した。
(イ) 検討
上記(ア)の認定事実によると、原告が本件各年当時Hに支払ていた賃料年額58万8000円の6割である35万2800円をもって、原告の本件各年分の特別経費と認めるのが相当である。
ウ 利子割引料の検討
(ア) 特別経費と認められる分
証拠(甲21、22)によれば、原告は、平成5年1月から平成7年12月までの間、J信用金庫に対し、証書貸付け又は手形貸付けによる借入金の利息(甲22号証に「シヨウガシ」「テガシ」との記載があるもの)又は割引料(甲22号証に「ワリビキ」との記載があるもの)として、次のaないしcの金額を支払ったことが認められ、かかる事実によれば、原告は、事業資金に係る本件各年分の利子割引料として同金額を支出したものと推認することができる。
a 平成5年分 合計30万8213円
b 平成6年分 合計42万2280円
c 平成7年分 合計83万7570円
(イ) 特別経費とは認められない分
これに対し、原告が利子割引料として主張する金額のうち、甲22号証に「シヨウガシ」「テガシ」「ワリビキ」との記載があるもの以外については、事業資金に係るものであると認めるには足りないから、これらを特別経費に含めることはできない。
(2) 比準年分との比較の検討
ア 原告の主張
原告は、本件各年分(平成5年分ないし平成7年分)の特別経費は、比準年分(平成8年分ないし平成10年分)の特別経費(①外注費、②雇人費、③地代家賃、④利子割引料及び⑤リース料)の合計額の平均値以下になることはないから、本件各年分についても、これと同程度の金額を特別経費として控除すべきである旨主張するので、以下検討する。
イ ①外注費、②雇人費及び⑤リース料の検討
(ア) 証拠(乙2の1~21、乙3の1~21、乙18、証人I)によれば、大阪国税局長は、抽出した同業者の必要経費の算定に際し、特別経費をⅰ建物の減価債却費、ⅱ利子割引料、ⅲ地代家賃、ⅳ貸倒金、V税理士報酬、ⅵ雑損失及びⅶ減価償却資産の除却損とし、これら以外の必要経費は一般経費として扱っていることが認められる。
そうすると、上記(ア)のiないしⅶに含まれない①外注費、②雇人費及び⑤リース料は、一般経費として、同業者比率による推計の過程で売上金額から控除されているというべきである。
(イ) また、舗装工事業においては、その事業内容の性質上、外注費、雇人費、重機、機械及び車両等の減価償却費(又はリース料)等の必要経費が売上げと密接に関連しており、事業主の個別的な事情に左右される必要経費とはいえない。
(ウ) そうすると、被告が、原告の事業所得金額を推計に当たり、①外注費、②雇人費及び⑤リース料を特別経費に含めない方法を採用したことは、実質的にみても相当なものと認められる。
したがって、原告の事業所得金額の算出に当たって、原告の売上金額に同業者の平均算出所得率を乗じて計算された算出所得金額から、更に①外注費、②雇人費及び⑤リース料を特別経費として控除することは、相当でないというべきであり、これらの費用を特別経費に含めるべきとする原告の主張は、その前提を誤ったものといわざるを得ない。
ウ ③地代家賃の検討
原告は、比準年分の地代家賃を年額58万8000円と主張し、本件各年分についても、これと同程度の金額を特別経費として認めるべきである旨主張する。
しかし、前記(1)イのとおり、年額58万8000円は原告自宅の年間賃料であり、原告は、原告自宅を原告の居宅、甲(塗装工事業)の事務所、飯場、資材置き場として使用しているのであり、原告自宅賃料の全額を特別経費として認めることはできない。
それゆえ、原告の上記主張は理由がない。
エ ④利子割引料
(ア) 原告は、利子割引料として、比準年分について次のaの金額を主張し、本件各年分について次のbの金額を主張している。
a 比準年分
(a) 平成8年分 175万1178円
(b) 平成9年分 181万9715円
(c) 平成10年分 159万5517円
b 本件各年分
(a) 平成5年分 33万7808円
(b) 平成6年分 45万0274円
(c) 平成7年分 84万7243円
(イ) 上記(ア)のaとbを比較対照すれば明らかなとおり、原告自身が、利子割引料について、比準年分と本件各年分とで全く異なる金額を主張しているのであり、それゆえ、原告が主張する比準年分の利子割引料を本件各年分の利子割引料と認めることができないことは明らかである。
オ まとめ
以上の次第で、本件各年分の特別経費(①外注費、②雇人費、③地代家賃、④利子割引料及び⑤リース料)について、比準年分の特別経費(前同)の合計額の平均額と比較して認定する手法を採ることはできず、原告の前記アの主張は採用できない。
(3) 小括
以上によれば、本件各年分の算出所得金額から控除すべき特別経費の金額は、次のとおりである。
ア 平成5年分 合計66万1013円
(地代家賃35万2800円+利子割引料30万8213円)
イ 平成6年分 合計77万5080円
(地代家賃35万2800円+利子割引料42万2280円)
ウ 平成7年分 合計119万0370円
(地代家賃35万2800円+利子割引料83万7570円)
5 争点(5)(総所得金額〔所得税〕、課税標準額〔消費税〕等)の検討
(1) 総所得金額(所得税)等の検討
ア 計算結果
前記1(税務調査の適法性及び推計課税の必要性)、2(推計課税の合理性)、3(売上金額)及び4(特別経費)の認定判断したところによると、原告の本件各年分の事業所得金額の計算結果は、次のとおりとなる。
(ア) 売上金額(別表4―①)
a 平成5年分 1億0095万6490円
b 平成6年分 8651万0060円
c 平成7年分 8889万0706円
(イ) 同業者の平均算出所得率(別表4―②)
a 平成5年分 18.69%
b 平成6年分 15.94%
c 平成7年分 19.96%
(ウ) 算出所得金額(別表4―③)
a 平成5年分 1886万8767円
b 平成6年分 1378万9703円
c 平成7年分 1774万2584円
(エ) 特別経費の金額
a 平成5年分 66万1013円
b 平成6年分 77万5080円
c 平成7年分 119万0370円
(オ) 総所得金額(事業所得金額)
a 平成5年分 1820万7754円
b 平成6年分 1301万4623円
c 平成7年分 1655万2214円
イ 本件所得税各処分における総所得金額との比較
本件所得税各処分における総所得金額は、次の各金額であり、いずれも上記ア(オ)の総所得金額の範囲内である。
(ア) 平成5年分 1566万4130円
(イ) 平成6年分 1103万1038円
(ウ) 平成7年分 1328万0058円
ウ 納付すべき税額、過少申告加算税額
したがって、本件所得税各処分における納付すべき税額、過少申告加算税額(別表1の納付すべき税額欄、過少申告加算税額欄記載の金額)についても、過大に認定した違法はない。
(2) 納付すべき税額(消費税)等の検討
ア 計算結果
前記1(税務調査の適法性)及び3(売上金額)で認定判断に、弁論の全趣旨を総合すると、原告の本件各課税期間の消費税の課税標準額、納付すべき消費税額の計算結果は、次の各金額であることが認められる。
(ア) 売上金額(税込み課税売上高)(別表5―①)
a 平成5年分 1億0095万6490円
b 平成6年分 8651万0060円
c 平成7年分 8889万0706円
(イ) 課税標準額(別表5―②)
a 平成5年課税期間 9801万6000円
b 平成6年課税期間 8399万円
c 平成7年課税期間 8630万1000円
(ウ) 課税標準額に対する消費税額(別表5―③)
a 平成5年課税期間 294万0480円
b 平成6年課税期間 251万9700円
c 平成7年課税期間 258万9030円
(エ) 控除対象仕入税額(別表5―④)
a 平成5年課税期間 205万8336円
b 平成6年課税期間 176万3790円
c 平成7年課税期間 181万2321円
(オ) 限界控除税額(別表5一⑤) 0円
(カ) 納付すべき税額(別表5―⑧)
a 平成5年課税期間 49万9900円
b 平成6年課税期間 44万4200円
c 平成7年課税期間 42万1700円
イ 本件消費税各処分における課税標準額との比較
本件各消費税処分(平成6年分については異議決定により取り消された後のもの、平成5年分及び平成7年分については審査裁決により取り消された後のもの)における課税標準額は、次の各金額であり、いずれも上記ア(イ)の課税標準額の範囲内である。
(ア) 平成5年課税期間 9771万1000円
(イ) 平成6年課税期間 7890万1000円
(ウ) 平成7年課税期間 8607万7000円
ウ 納付すべき税額、過少申告加算税額
したがって、本件消費税各処分における納付すべき税額、過少申告加算税額(別表2の納付税額欄、過少申告加算税額欄記載の金額)についても、過大に認定した違法はない。
第5 結論
1 以上によれば、税務調査の適法性及び推計課税の必要性・合理性が認められ、本件所得税各処分の総所得金額は、上記推計により算出した本件各年分の総所得金額の範囲内である。よって、本件所得税各処分に違法な点はない。
2 また、本件消費税各処分(平成6年分については異議決定により取り消された後のもの、平成5年分及び平成7年分については審査裁決により取り消された後のもの)も、税務調査の適法性が認められ、原告の本件各課税期間の課税標準額及び過少申告加算税額の範囲内でなされているから、違法ではない。
3 よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 今中秀雄 裁判官 五十嵐章裕)
別表1
課税の経緯(所得税)
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別表2
課税の経緯(消費税)
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別表3
売上金額の内訳
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別表4
原告の総所得金額(事業所得)
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別表5
控除対象仕入税額の計算
file_6.jpgeer Ree RAM % wR eR D+1.03 (cor ma Ox 0H) RH ARR BRR e ama ee @ Sad “388 (oor a
別表6-(1)
同業者一覧表(平成5年分)
file_7.jpgmee OR bet EIN 82,209,246 67,263,577 14,945,769 8.18 FEB 62,220,137 49,217,243 13,002,894 20.89 BRA 88,093, 457 2 208 13,714,968 20.67 Raa 25,176, 702 11,048,370 14,183,382 1.28 A 962, 001 49,448, 706 mA 63, 093, 198 49,304, 822 13,788,974 21.80 WEA 66, 090, 977 56,014, 404 10,076,173 18.24 WEA 62, 940, 522 5, 902, 248 17,008,274 21.07 at om 68.2
別表6-(2)
同業者一覧表(平成6年分)
file_8.jpgrae * 3 # eh 980 vie ven # 66860" ‘946 vase oo ‘at e1-oTr vat so9‘e1e'6 8 $90 "0690 ame vee i as HEMD BET KO eu
別表6-(3)
同業者一覧表(平成7年分)
file_9.jpgmee 5 5 % RA 85,837, 68,301,211 17,446, 25 20.22 a8 49,908, 917 5 F 15,005,828 15.82 104,654,468 75, 631, 601 rea 389,911 13,989,610 0.18 mA 87,764,178 70,261, 882 17,812,296 19.98 CIN 9, 1, wea 986,181 16,899, 909 11, 086, 242 12.59 BEA 61,849, an 9 79.69 cz] 179. 4649 9.96