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神戸地方裁判所 平成11年(行ウ)30号 判決 2003年11月14日

主文

1  原告の甲事件の訴えを却下する。

2  原告の乙事件の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告(請求の趣旨)

(1)  被告は,訴外篠山市に対し,金2億円及び平成10年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は,被告の負担とする。

2  被告(請求の趣旨に対する答弁)

(1)  本案前の答弁

ア 原告の甲事件の訴えを却下する。

イ 訴訟費用は,原告の負担とする。

(2)  本案の答弁

ア 原告の甲事件,乙事件の請求をいずれも棄却する。

イ 訴訟費用は,原告の負担とする。

第2当事者の主張

1  事案の概要等

本件は,原告が,篠山町長(現篠山市長,以下単に「町長」という。)の職にあった被告に対し,被告の下記(1)(2)の行為により,篠山町(現篠山市,以下「篠山町」という。)に合計3億4000万円の損害を生ぜしめたとして,地方自治法(平成14年法律103号による改正前のもの,以下単に「法」という。)242条の2第1項4号に基づいて,篠山町に代位し,上記損害のうち2億円の損害賠償金及びその遅延損害金の篠山町への支払を求めた事案である。

(1)  甲事件

篠山町(被告町長)は,平成10年3月9日,兵庫県町土地開発公社(以下「土地開発公社」という。)との間で,別紙土地目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)の買収(先行取得)を委託する旨の土地買収委託契約(以下「本件土地買収委託契約」という。)を締結し,篠山町に2億円を下らない損害を生ぜしめた。

(2)  乙事件

篠山町(被告町長)は,平成11年3月,同年5月の2回にわたり,史跡・篠山城跡(以下「本件城跡」という。)の大書院復元工事に伴う史跡篠山城跡二の丸整備事業(以下「本件事業」という。)の事業費の不足を補うため,合計1億4000万円余りの地方債(以下「本件町債」という。)を発行し,町に1億4000万円を下らない損害を生ぜしめた。

2  甲事件

(1)  原告(請求原因)

ア 当事者

(ア) 原告は,兵庫県多紀郡篠山町(現兵庫県篠山市)の住民である。

(イ) 被告は,本件土地買収委託契約を締結した当時,篠山町長の職にあった者である。なお,被告は,平成11年4月1日,篠山町が近隣3町と合併し,篠山市となったことに伴い,同月25日以降は,篠山市長の職にある。

イ 財務会計上の行為

原告が問題とする財務会計上の行為,及びその一連の行為は,以下のとおりである。

(ア) 篠山町(被告町長)は,平成10年3月9日,土地開発公社との間で,本件各土地を5億0384万8000円(その内訳は,次のa・bのとおり)で買収することを委託する契約(乙4,本件土地買収委託契約)を締結した(財務会計上の行為)。

a 本件各土地の買収価格 4億0865万3112円

b 建物解体補償費 9519万4888円

c 合計 5億0384万8000円

(イ) そして,土地開発公社は,平成10年3月27日,A及びB(以下「Aら」という。)との間で,本件各土地を5億0384万8000円で買収する旨の売買契約を締結した。

(ウ) 篠山町は,平成10年3月31日,土地開発公社に対し,上記5億0384万8000円を支払い,土地開発公社は,同日,Aらに対し,上記5億0384万8000円を支払った。

ウ 財務会計上の行為の違法性

しかし,本件土地買収委託契約には,以下のとおり,買収面積,買収価格及び建物解体補償費の支出に関する違法がある。

(ア) 買収面積が広すぎること

a 篠山町(被告町長)は,土地開発公社との間で,障害者福祉施設用地を取得する名目で,本件土地買収委託契約を締結した。

b しかし,本件各土地のうち,実際に障害者支援センターの建設に使用されたのは一部分に過ぎない。このことからすれば,篠山町(被告町長)は,本件土地買収委託契約により,障害者福祉施設用地に必要な面積よりも広い面積の土地の買収を委託したものである。

c よって,本件土地買収委託契約には,買収面積が広すぎるとの違法がある。

(イ) 買収価格が高すぎること

a 本件各土地の近隣には,第三者(C畜産ことA以外の者)経営の牛舎が存在し,悪臭を発生させている。よって,本件各土地の適正な買収価格は,上記第三者経営の牛舎及び悪臭が存在することを前提として決定されるべきであり,その具体的価格は,土地鑑定評価書(乙2)によれば,1㎡当たり3万1000円(総額2億7965万2240円)である。

b しかるに,篠山町(被告町長)は,本件土地買収委託契約により,上記適正な買収価格の約1.5倍に相当する1㎡当たり4万5300円(総額4億0865万3112円)で,本件各土地の買収を委託したものである。

c よって,本件土地買収委託契約には,買収価格が高すぎるとの違法がある。

(ウ) 建物解体補償費を計上

a 土地開発公社は,更地の買収のみが可能な法人であるから,本来,建物解体補償費を支出することは許されない。

b また,建物解体補償費の中には,建物解体費用のほか,建物解体によって生ずるコンクリート等の産業廃棄物の処理費用が含まれている。ところが,篠山町(被告町長)は,Aらが上記廃棄物を適法に処理することなく,地中に埋め込んで表面を整地し,更地に仕立てて本件各土地を引き渡したことを黙認し,産業廃棄物の処理費用を含めた建物解体補償費を計上し,支出した。

c よって,本件土地買収委託契約により,建物解体補償費を計上したことは,違法である。

エ 篠山町の損害の発生及びその額

以上の違法により,本件土地買収委託契約上の買収代金額が違法に高額となり,篠山町は2億円を下らない損害を被った。

オ 監査請求前置

(ア) 原告による住民監査請求

原告は,平成11年3月30日,篠山町監査委員に対して,本件各土地の買収にかかる公金支出の適否について,住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした。これに対し,同監査委員は,平成11年6月1日,本件監査請求を却下した。

原告は,平成11年6月23日,上記監査結果の通知を受領し,同年7月16日,甲事件訴訟を提起した。

(イ) 原告の監査請求が適法であること

a 監査請求期間の遵守

原告が本件監査請求をした平成11年3月30日は,篠山町(被告町長)が本件各土地の買収代金5億0384万8000円を支払った平成10年3月31日から,1年の監査請求期間が経過する1日前の日である。

よって,本件監査請求は,法242条2項本文に定める監査請求期間を遵守してされた適法なものである。

b 監査請求期間の徒過に「正当な理由」がある

仮に,本件土地買収委託契約締結の日である平成10年3月9日が監査請求期間の始期に当たり,本件監査請求が1年の監査請求期間を徒過してされたものであるとしても,原告には,監査請求期間を経過した後も,住民監査請求を認められるべき「正当な理由」(法242条2項ただし書)がある。

すなわち,篠山町(被告町長)は,本件各土地の買収を秘密裡に遂行し,資料等の公開もしなかったため,篠山町の住民が監査請求をするに足りる程度に本件各土地の買収の事実及びその内容を知り得たのは,早くても,本件土地買収委託契約の締結を承認した平成10年3月9日開催の篠山町議会の会議録を,閲覧謄写することが可能となった時点である。

そして,町の住民が篠山町議会の会議録を閲覧謄写することが可能となるのは,通常,篠山町議会の開催日から約40日ないし約80日後の日であるから,原告が本件各土地の買収の事実及びその内容を知り得たのは,平成10年4月ころないし同年6月ころであり,原告は,そのころから起算して1年以内に本件監査請求をした。

よって,原告には,本件委託契約締結の日から1年の監査請求期間を経過しても,住民監査請求を認められるべき「正当な理由」がある。

カ 結論

以上の次第で,原告は,被告に対し,法242条の2第1項4号に基づき,篠山町に代位し,損害賠償金2億円,及びこれに対する平成10年4月1日(買収代金支払日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,篠山町に支払うことを求める。

(2)  被告(本案前の答弁の理由)

ア 監査請求期間の徒過

原告は,本件土地買収委託契約締結の日である平成10年3月9日から,1年の監査請求期間を経過した後である平成11年3月30日に,本件監査請求をした。

よって,本件監査請求は,法242条2項本文に定める監査請求期間を徒過してされた不適法なものであるから,原告の甲事件の訴えは不適法である。

イ 監査請求期間の徒過に「正当な理由」がない

被告町長は,本件各土地の買収の事実及びその内容(買収に至る経緯,買収面積,買収価格,建物解体補償費の支出及びその金額等)について,平成10年3月9日開催の篠山町議会における議案第8号・平成9年度篠山町一般会計補正予算案の審議の際に,十分に説明し,承認決議を得た。

そして,本件各土地の買収の事実は,篠山町議会の「議会だより」85号(平成10年1月1日発行,同月20日前後ころ各世帯に配布)及び篠山町広報「ねんりん」5月号(平成10年4月発行,同月20日前後ころ各世帯に配布)に掲載された。

よって,篠山町の住民は,遅くとも平成10年4月20日ころには,相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に,本件各土地の買収の事実及びその内容を知ることができた。

したがって,原告が,本件土地買収委託契約締結の日から1年の監査請求期間を経過した後に本件監査請求をしたことについて,「正当な理由」はない。

(3)  被告(請求原因に対する認否・反論)

ア 認否

請求原因ア(当事者),同イ(財務会計上の行為)及び同オ(ア)(原告による住民監査請求)は認め,同ウ(財務会計上の行為の違法性),同エ(篠山町の損害の発生及びその額),同オ(イ)(原告の監査請求が適法であること)は否認ないし争う。

イ 反論-本件土地買収委託契約の適法性

(ア) 一般論

地方公共団体が土地を買収すべきかどうか,また,土地を買収する際の対価がどうあるべきかについては,これを規制する法令がないため,地方公共団体の長の裁量に委ねられている。それゆえ,地方公共団体による土地の買収を違法と評価できるのは,合理的な理由がないのに必要性の乏しい土地を買収した場合や,適正価格に比して著しく高い価格で土地を取得した場合等に限られる。

(イ) 本件への当てはめ

そうすると,本件委託契約には,次のとおり,何ら違法な点はない。

a 買収面積は適正である

C畜産ことAは,昭和48年ころより,本件各土地で養豚等の畜産経営を行ってきた。ところが,経営の拡大及び本件各土地周辺の市街地化に伴い,養豚経営による悪臭が問題となり,昭和62年ころには,周辺住民から苦情が多発するようになった。

そのため,篠山町は,悪臭対策として行政指導等を継続的に行い,C畜産の方も,浄化装置を設置する等の解決策を講じてきたが,抜本的な解決には至らなかった。そこで,篠山町(被告町長)は,長年にわたる悪臭問題に終止符を打ち,周辺住民の生活環境を改善するには,本件各土地を全て買収し,C畜産を廃業させることが最善の策であると判断し,C畜産との間で交渉を重ね,本件各土地全部を買収する旨合意した。

このように,買収対象となった本件各土地は,全て周辺住民の生活環境改善のために必要なものである。

よって,本件土地買収委託契約に,買収面積が広すぎるとの違法はない。

b 買収価格は適正である

篠山町(被告町長)は,土地鑑定評価書(乙2)及び標準地査定単価書(乙1)を作成し,それに基づいて,本件各土地の買収価格を決定した。

確かに,本件各土地の買収価格・1㎡当たり4万5300円は,鑑定評価額・1㎡当たり4万0900円(乙2)より多少高額である。しかし,国土庁監修の土地価格比準表(公共事業において土地の買収が必要な場合に,買収価格の算定に通常用いられるもの)に基づいて算出した査定評価額・1㎡当たり5万1000円(乙1)より相当低い価格であること,周辺住民の生活環境改善のために買収の必要性が大きいこと等からすれば,上記買収価格が高額に過ぎるということはない。

よって,本件土地買収委託契約に,買収価格・1㎡当たり4万5300円・総額4億0865万3112円が高すぎるとの違法はない。

c 建物解体補償費の計上は適法である

一般に,公共事業に伴って建物の解体が必要な場合には,兵庫県用地対策連絡協議会監修の移転評価基準表に基づいて算出した建物解体補償費が支払われる。

そこで,篠山町(被告町長)も,悪臭問題を解決し,周辺住民の生活環境を改善するために,本件各土地上の建物(豚舎等)の解体が必要であったため,本件土地買収委託契約により,建物解体補償費9519万4888円を支出することにしたものである。

よって,篠山町(被告町長)が,本件土地買収委託契約に基づき,建物解体補償費9519万4888円を計上したことに違法はない。

3  乙事件

(1)  原告(請求原因)

ア 当事者

(ア) 原告は,兵庫県多紀郡篠山町(現兵庫県篠山市)の住民である。

(イ) 被告は,本件町債を発行した当時,篠山町長の職にあった者である。なお,被告は,平成11年4月1日,篠山町が近隣3町と合併し,篠山市となったことに伴い,同月25日以降は,篠山市長の職にある。

イ 財務会計上の行為

篠山町(被告町長)は,平成11年3月26日,同年5月28日の2回にわたり,史跡・篠山城跡(本件城跡)の大書院復元工事に伴う史跡篠山城跡二の丸整備事業(本件事業)の事業費の不足を補うため,合計1億4000万円余りの町債(本件町債)を発行した。

ウ 財務会計上の行為の違法性

(ア) 本件事業は,一部の者が国に働きかけて開始した事業に過ぎず,篠山町全体で取り組んだ事業ではない。よって,事業費が不足するのであれば,本件事業の推進者である被告らが,それを負担すべきである。

(イ) また,資金と時間をかけて大書院を復元したとしても,その維持管理費は,篠山町が支出せざるを得ず,その結果,篠山町の財政を圧迫することが明らかである。このような本件事業は,無駄な公共事業の典型であるから,事業費が不足するからといって,公金を支出することは許されない。事業費が不足するのであれば,本件事業の推進者である被告らが,それを負担すべきである。

(ウ) そうすると,本件町債の発行は,被告が町長の権限を濫用し,本来被告らが負担すべき債務を,篠山町及び篠山町住民に肩代わりさせるものに他ならない。このような行為は,一部の者の利益を図り,篠山町及び篠山町民に損害を与える背任行為に当たり,違法である。

エ 篠山町の損害の発生及びその額

被告は,本件町債の発行によって,篠山町に1億4000万円を下らない損害を生ぜしめた。

オ 監査請求前置

(ア) 原告は,平成11年3月30日,篠山町監査委員に対して,本件事業に対する町債発行による公金支出の適否について,住民監査請求をした。これに対し,同監査委員は,平成11年6月1日付けで,上記監査請求を棄却した。

(イ) 原告は,平成11年6月23日,上記監査結果の通知を受領し,平成11年7月16日,乙事件訴訟を提起した。

カ 結論

以上の次第で,原告は,被告に対し,法242条の2第1項4号に基づき,篠山町に代位し,損害賠償金1億4000万円,及びこれに対する平成11年5月29日(本件町債発行日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,篠山町に支払うことを求める。

(2)  被告(請求原因に対する認否・反論)

ア 認否

請求原因ア(当事者),同イ(財務会計上の行為)及び同オ(監査請求前置)は認め,同ウ(財務会計上の行為の違法性)及び同エ(篠山町の損害の発生及びその額)は否認ないし争う。

イ 反論-本件町債発行の適法性

(ア) 本件事業の事業費にいかなる財源を充てるかは,政策上の選択・判断にかかる問題であるから,町長たる被告の裁量に属する。

(イ) また,本件事業は,町債を発行することのできる事業であり(地方財政法5条1項5号),本件町債は,法230条に基づいて予算を定めて起債申請をし,旧法250条(現地方財政法33条の7第4項)に基づいて兵庫県知事の許可を得た上で,発行されたものである。

(ウ) よって,本件町債の発行につき,何ら違法な点はない。

理由

第1甲事件の検討

1  争いのない事実

請求原因ア(当事者),同イ(財務会計上の行為)及び同オ(ア)(原告による住民監査請求)は,当事者間に争いがない。

2  本案前の答弁の検討

(1)  事実の認定

前記1の争いのない事実に,証拠(甲1・3,乙4~6・9・11)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。

ア C畜産による悪臭問題

(ア) C畜産ことAは,昭和48年ころ,大阪府堺市から兵庫県多紀郡篠山町(本件各土地)に移転し,養豚を中心に畜産経営を行ってきた。

ところが,養豚経営の拡大に伴って,強い悪臭が発生するようになり,昭和62年ころには,本件各土地周辺の市街地化とも相俟って,周辺住民から苦情が多発するようになった。

(イ) このような悪臭問題に対し,篠山町は,公害問題検討会を組織し,悪臭の発生原因の調査や,土壌微生物(EM菌)による悪臭対策などの行政指導を繰り返し行った。また,C畜産の方も,浄化装置等を設置するなど施設面の改善を図るとともに,養豚経営から肉牛経営への移行を計画するなど,経営面における対策を講じる努力もした。

しかし,結局,C畜産は,顧客を掴んでいる養豚経営を縮小できず,悪臭問題を抜本的に解決するには至らなかった。

(ウ) このような状況の中,C畜産は,篠山町に対し,悪臭対策のためにこれ以上の投資をすることはできないが,篠山町が本件各土地全部を買収するというのであれば,畜産経営の廃業を検討する旨の申出をした。

これに対し,篠山町は,長年にわたる悪臭問題に終止符を打ち,周辺住民の生活環境を改善するには,本件各土地全部を買収して,C畜産の畜産経営を廃業させるのが最善の策であると判断し,平成8年秋ころから,Aらとの間で,本件各土地の買収交渉を開始した。

イ 本件土地買収委託契約の締結に至る経緯

(ア) 本件各土地の買収の合意

本件各土地の買収交渉は,当初,Aらが12億円程度の買収価格を提示するなどしたため,なかなか進まなかったが,平成9年に入り,ようやく5億0384万8000円(その内訳は次のa,bのとおり)で買収するとの合意が成立した。

a 本件各土地

(a) 買収面積 9021.04㎡

(b) 買収価格 1㎡当たり4万5300円

総額4億0865万3112円

b 本件各土地上建物解体補償費

6315㎡分 9519万4888円

(イ) 篠山町議会での承認決議等

そこで,被告町長は,平成10年3月9日開催の篠山町議会における議案第8号・平成9年度篠山町一般会計補正予算の審議において,本件各土地買収にかかる予算案を提出し,議会の承認決議を得た(乙9)。

その際,篠山町D企画課長が,上記篠山町議会において,本件土地買収委託契約の内容について,具体的な数字を挙げた説明を行い,本件各土地の買収に至る経緯,本件各土地の買収面積が9021.04㎡であること,買収価格が1㎡当たり4万5300円・総額4億0865万3112円であること,建物解体補償費が9535万6500円であること等を明らかにした。

なお,同日開催の篠山町議会の会議録(乙9)には,下記のような記載がある。

「具体的な内容につきましては,C畜産は面積的に申し上げますと,豚舎その他の宅地部分が9021.04平方メートルでございます。」「単価的に申し上げますと,今回の買収にかかります費用は,さきほど申し上げました宅地9021.04平方メートルは平方メートル当たり4万5300円,…中略…,さらに建物を解体撤去して更地にして引き渡すと,こういう約束でございますから,建物の解体撤去処分,更地化,これらを合わせまして約6315平方メートルがこれに該当するということで1万5100円の単価で,9535万6500円。申し遅れましたが,宅地部分はしたがいまして,総額で4億0865万3112円でございます。」

(ウ) 本件土地買収委託契約の締結

これを受けて,篠山町(被告町長)は,平成10年3月9日,土地開発公社との間で,次の条件で本件各土地の買収を委託する旨の,土地買収委託契約(本件土地買収委託契約)を締結した(乙4)。

a 本件各土地

(a) 買収面積 9021.04㎡

(b) 買収価格 1㎡当たり4万5300円

総額4億0865万3112円

b 本件各土地上建物解体補償費

6315㎡分 9519万4888円

c 合計額 5億0384万8000円

ウ 本件各土地の売買契約締結に至る経緯

(ア) 篠山町議会での承認決議等

被告町長は,平成10年3月27日開催の篠山町議会における議案第38号・本件各土地の買収にかかる審議において,本件各土地の買収について,法96条1項8号に基づく議会の承認決議を得た(甲3)。

その際,篠山町D企画課長が,本件各土地の買収について,具体的な数字を挙げた説明を行い,本件各土地の買収に至る経緯,障害者福祉施設用地として本件各土地を取得すること,本件各土地の買収面積が9021.04㎡であること,建物解体補償費を含む買収予定価格が総額5億0384万8000円であること等を明らかにした。

なお,同日開催の篠山町議会の会議録(甲3)には,下記のような記載がある。

「取得目的に示しておりますとおり,障害者福祉施設用地として土地の取得をしようとするものでございます。

その内容は,別添資料のとおりでございまして,篠山町a字b他,8筆,9021.04平方メートル,取得予定価格は5億0384万8000円でございます。

また,契約の相手方は,篠山町乙,A他1名でございます。」

(イ) 本件各土地の売買契約締結

これを受けて,土地開発公社は,平成10年3月27日,Aらとの間で,本件各土地を5億0384万8000円(建物解体補償費を含む)で買収する旨の売買契約を締結し,同日,本件各土地の所有権移転登記を了した。

(ウ) 本件各土地の売買代金の支払

篠山町(被告町長)は,平成10年3月31日,土地開発公社に対し,本件各土地の売買代金5億0384万8000円(建物解体補償費を含む)を支払い,土地開発公社は,同日,Aらに対し,上記5億0384万8000円(建物解体補償費を含む)を支払った。

エ 篠山町議会の会議録の閲覧謄写

ところで,篠山町議会の審議内容は,録音テープに録音され,外部の反訳業者による反訳,及び町議会所属の職員による反訳書のチェックを経て,会議録に掲載される。そのため,篠山町の住民が,会議録を閲覧謄写することが可能となる時期は,篠山町議会が開催された日から,相当後の日となる。

とりわけ,平成10年3月9日開催の篠山町議会のような予算審議のされる定例議会は,審議事項が多く,反訳等にも時間がかかるため,会議録が閲覧謄写可能となる時期は,早くても議会開催日から約40日後,場合によっては約60日ないし約80日後である。

篠山町の住民は,篠山町議会の審議内容を録音したテープ自体に接することはできず,会議録が文書化された後に,所定の手続を経て会議録を閲覧謄写することによって,議会の審議内容を知ることができる(以上,第4回弁論準備手続調書の原告の陳述・第2項)。

原告も,平成10年9月29日ころ,平成10年3月27日開催の篠山町議会の会議録を閲覧謄写している(甲3)。

オ 本件監査請求

原告は,本件土地買収委託契約締結の日である平成10年3月9日から1年を経過した後である平成11年3月30日に,本件監査請求をした。

(2)  検討

ア 監査請求期間の徒過

(ア) 法の規定

法242条2項本文は,財務会計上の行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは,監査請求をすることができないと定めている。

(イ) 当裁判所の判断

本件訴訟は,本件土地買収委託契約を締結した被告町長に対して,本件土地買収委託契約の違法を理由に,損害賠償を請求する住民訴訟であり,これに前置すべき住民監査請求は,本件土地買収委託契約締結の日から1年以内にしなければならない。

しかるに,前記(1)の認定によれば,原告は,本件土地買収委託契約が平成10年3月9日に締結されたにもかかわらず,同契約締結の日から1年以上が経過した平成11年3月31日に,本件監査請求をしたものであるから,本件監査請求は,法242条2項本文が定める1年の監査請求期間を徒過してされたものであることが明らかである。

(ウ) 原告主張の検討

これに対し,原告は,本件各土地の買収代金支払日である平成10年3月31日から起算して,本件監査請求が1年の監査請求期間を遵守するものであると主張する。

しかし,原告は,本件土地買収委託契約の違法を理由に,同契約を締結した被告に対して損害賠償を請求するものであり,本件各土地の買収代金の支払手続に違法があったことを理由に,損害賠償を請求をするのではないから,本件各土地の買収代金が支払われた平成10年3月31日からではなく,本件土地買収委託契約が締結された同年3月9日から監査請求期間が進行することとなる(最高裁平成14年7月16日判決・民集56巻6号1339頁参照)。

よって,原告の上記主張を採用することはできない。

(エ) まとめ

よって,本件監査請求は,法242条2項に定める1年の監査請求期間を経過した後にされたものである。

イ 「正当な理由」の有無の検討

(ア) 原告の主張

さらに,原告は,本件監査請求が監査請求期間を徒過してされたものであるとしても,原告には,監査請求期間を過ぎても住民監査請求を認められるべき「正当な理由」(法242条2項ただし書)があると主張するので,以下,検討する。

(イ) 一般論

法242条2項本文は,普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為が,たとえ違法,不当なものであったとしても,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るものとしておくことは,法的安定性を損ない好ましくないとして,監査請求の期間を定めたものである。

しかし,当該行為が普通地方公共団体の住民に隠れて秘密裡にされ,1年を経過してから初めて明らかになった場合等にもその趣旨を貫くのは相当でないことから,同項ただし書は,「正当な理由」があるときは,例外として,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後であっても,普通地方公共団体の住民が監査請求をすることができるものとしている。

したがって,上記のように当該行為が秘密裡にされた場合には,同項ただし書にいう「正当な理由」の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか,また,当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである(最判昭和63年4月22日・裁判集民事154号57頁参照)。

また,上記のように当該行為が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,上記の趣旨を貫くのは相当でないというべきであるから,そのような場合にも,上記「正当な理由」の有無は,特段の事情のない限り,普通地方公共団体の住民が,相当の注意力をもって調査すれば,客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から,相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである(最高裁平成14年9月12日判決・民集56巻7号1481頁,最高裁平成14年9月17日判決・判例時報1807号72頁参照)。

そして,上記各最高裁判決が,「通常の注意力」ではなく,「相当の注意力」による調査を必要とする趣旨にかんがみれば,マスコミ報道や広報誌等によって受動的に知りうる情報等だけに注意を払っていれば足りるものではなく,住民なら誰でもいつでも閲覧等できる情報等については,それが閲覧等できる状態に置かれれば,そのころには住民が相当の注意力をもって調査すれば知ることができるものと評価すべきであるということができよう。すなわち,住民がすべき「相当の注意力」をもってする調査は,住民なら誰でもいつでも閲覧等できる情報等については,住民の方で積極的に調べることを当然の前提としているものと解される。

(ウ) 本件への当てはめ

これを本件について見るに,本件監査請求は,本件土地買収委託契約の違法を監査請求の対象とするものであり,具体的には,本件各土地の買収面積の過大,買収価格の高額,建物解体補償費の計上による違法を主張するものであるところ,前記(1)の認定によれば,篠山町の住民は,平成10年3月9日,同月27日各開催の篠山町議会の会議録を閲覧等すれば,本件土地買収委託契約の存在及びその内容,具体的には,本件各土地の買収面積,買収価格,建物解体補償費の計上を知ることができたと認められる。

そして,前記(1)の認定によれば,原告を含めた篠山町の住民は,平成10年3月9日,同月27日開催の篠山町議会の会議録については,上記各町議会開催日から40日ないし80日後(平成10年4月ころから同年6月ころ)には,閲覧謄写が可能であったことが認められる。現に,原告も,平成10年9月29日ころ,平成10年3月27日開催の篠山町議会の会議録を閲覧謄写している。

したがって,篠山町の住民(原告を含む)が相当の注意力をもって調査するならば,遅くとも平成10年6月ころには,平成10年3月9日,同月27日開催の篠山町議会の会議録の閲覧謄写をすることにより,本件土地買収委託契約の存在及びその内容,具体的には,本件各土地の買収面積,買収価格,建物解体補償費の計上を知ることができたと認められる。

そうすると,原告が,平成10年6月ころから相当な期間内に住民監査請求をしたかが問題となるが,本件監査請求は,平成10年6月末から9か月も経過した平成11年3月30日にされたものであり,到底,相当な期間内に住民監査請求をしたものとは認められない。

(エ) まとめ

したがって,原告に,監査請求期間を過ぎても住民監査請求を認められるべき「正当な理由」(法242条2項ただし書)があるとは認められない。

ウ 結論

以上の次第で,本件監査請求は,法242条2項本文に定める監査請求期間を徒過してなされたものであり,かつ同2項ただし書所定の「正当な理由」があるとも認められず,不適法なものであるから,原告の甲事件の訴えは,監査請求前置の要件を具備しない不適法な訴えである。

よって,原告の甲事件の訴えを,却下するものである。

第2乙事件の検討

1  争いのない事実

請求原因ア(当事者),同イ(財務会計上の行為)及び同オ(監査請求前置)は,当事者間に争いがない。

2  事実の認定

前記1の争いのない事実に,証拠(甲2・3,乙7)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。

(1)  本件事業の実施に至る経緯

ア はじめに

篠山町の中心地に存在する史跡・篠山城跡(本件城跡)は,昭和31年12月28日,国指定史跡となったもので,国の史跡であるとともに,都市公園として篠山町民の憩いの場にもなっており,城下町・篠山町のシンボルである。

それゆえ,篠山町は,昭和41年以降,国及び県の補助を受けて,毎年本件城跡の石垣修理等を実施してきたが,先人の残した歴史的文化遺産である本件城跡を,地方文化の創造・学習の拠点として活用するため,篠山町(被告町長)は,平成8年度から平成11年度にかけて,大書院復元事業を実施した。

この大書院復元事業は,次のイの地域中核史跡等整備特別事業(国庫補助事業)と,次のウのふるさとづくり事業(市単独事業)「史跡篠山城跡二の丸整備事業」(本件事業)に大別される。

イ 地域中核史跡等整備特別事業(国庫補助事業)

(ア) 期間 平成8年度から平成11年度

(イ) 内容 大書院本体の復元工事(木造平家建739㎡)

(ウ) 事業費 総事業費7億6860万5000円

(うち国庫補助対象事業費5億円)

(エ) 財源内訳 国庫補助金2億5000万円,県補助金1億2500万円,寄付金2億6740万5000円,篠山町一般財源1億2620万円

ウ ふるさとづくり事業(市単独事業)・「史跡篠山城跡二の丸整備事業」(本件事業)

(ア) 期間 平成10年度から平成11年度

(イ) 内容

大書院本体の復元に併せた展示施設の建設や二の丸景観整備工事等(木造平家建215㎡,公衆便所,門,塀など)

(ウ) 事業費 総事業費3億7905万8000円

(エ) 財源内訳 地方債3億0660万円

(うち平成10年度分〔本件町債〕は1億4310万円)

篠山町ふるさと基金繰入金7245万8000円

エ 本件事業についての補足説明

篠山町(被告町長)は,本件城跡を地方文化の創造・学習のための拠点とするためには,復元後の大書院を公開し,かつそれに関する展示等を行うこと,本件城跡全体の景観を高めること,及び本件城跡内の安全対策を行う必要があるとして,史料館(展示施設)の建設工事,門・塀・案内板の設置等の景観整備工事,及び外灯の設置等の安全対策工事を,また,高齢者・障害者に優しい施設にするため,スロープや石畳道路,身障者用併設の公衆便所等の環境整備工事を,本件事業として実施することとした。

ふるさとづくり事業とは,国(旧自治省)が各地方公共団体による自主的,主体的な地域づくりを推進するもので,その実施に当たって,各地方公共団体は,概ね3年間の「ふるさとづくり事業計画」を策定しなければならない。そこで,篠山町(被告町長)は,平成10年3月の篠山町議会において,本件事業の実施を議決し,同年4月に「ふるさとづくり事業計画」を策定して兵庫県に提出し,同年10月に国(旧自治省)から,ふるさとづくり事業の指定を受け,平成10年度から平成11年度にかけて,上記展示施設建設工事,景観整備工事,安全対策工事及び環境整備工事(本件事業)を実施した。

なお,本件事業の実施に至る詳細な事務手続は,別紙「篠山城大書院・ふるさとづくり事業事務処理手続き」のとおりである。

(2)  本件町債発行の手続等

ア 篠山町(被告町長)は,当初,本件事業の事業費を町民からの寄付で賄うことを予定していたが,十分に寄付が集まらず,平成10年度の事業費も,1億4000万円余り不足することとなった。

イ ふるさとづくり事業において,地域総合整備事業債(地方債)による財政措置を必要とする事業を実施する場合,「ふるさとづくり事業計画」に登載のうえ,各年度ごとに,事業実施計画を作成・提出しなければならない。

また,本件事業は,公共施設の建設事業であるから,その財源として地方債を発行することができるが(地方財政法5条1項5号),そのためには,地方債発行のための予算を定め(法230条),かつ兵庫県知事の許可を得なければならない(旧法250条・現地方財政法33条の7第4項)。

ウ そこで,町長たる被告は,平成10年12月開催の篠山町議会において本件町債発行の議決を得て,「ふるさとづくり事業計画」に登載の上,平成10年度ふるさとづくり事業(本件事業)の実施計画を作成・提出し,平成11年3月23日に兵庫県知事に対して本件町債発行の許可申請をし,同日その許可を得て,同月26日に地域総合整備事業債・4280万円を発行し,さらに,同年5月28日に地域総合整備事業債・1億0030万円を発行し,もって合計1億4310万円の町債(本件町債)を発行した。

なお,本件町債の発行に至る詳細な事務処理手続は,別紙「篠山城大書院・ふるさとづくり事業事務処理手続き」のとおりである。

3  検討

(1)  原告の主張の要旨

原告は,①本件事業が篠山町全体として取り組んだものでないこと,②本件事業が篠山町の財政を圧迫するだけの無駄な公共事業であることの2点を根拠に,本件町債の発行が違法であると主張する。

(2)  原告の主張①の検討

ア 前記2(1)エで認定したとおり,篠山町(被告町長)は,平成10年3月の篠山町議会において本件事業の実施を議決し,同年4月に「ふるさとづくり事業計画」を策定して兵庫県に提出し,同年10月に国(旧自治省)から「ふるさとづくり事業」の指定を受け,平成10年度から平成11年度にかけて本件事業を実施したのであるから,本件事業を篠山町全体の事業として取り組み,実施したものであると認められる。

それゆえ,原告の主張①は,その前提を欠くものであり,採用することができない。

イ よって,本件町債の発行に,原告主張①の違法はない。

(3)  原告の主張②の検討

ア 手続上の違法について

前記2(1)エで認定したとおり,篠山町(被告町長)は,平成10年3月の篠山町議会において本件事業の実施を議決し,同年4月に「篠山城ふるさとづくり事業計画」を策定して兵庫県に提出し,同年10月に国(旧自治省)から「ふるさとづくり事業」の指定を受け,平成10年度から平成11年度にかけて本件事業を実施したのであるから,本件事業を実施したことについて,手続上の違法はない。

さらに,前記2(2)イ,ウで認定したとおり,篠山町(被告町長)は,平成10年12月開催の篠山町議会において本件町債発行の議決を得て,平成10年度ふるさとづくり事業(本件事業)の実施計画を作成・提出し,平成11年3月に兵庫県知事に対して本件町債発行の許可申請をしてその許可を得て,平成11年3月,同年5月の2回に分けて,本件町債を発行したのであり,本件町債の発行手続にも違法はない。

以上の次第で,本件事業の実施,及びそれに必要な本件町債の発行について,手続上の違法はない。

イ 政策の選択・内容の違法について

地方公共団体が財政資金を使っていかなる公共事業を実施するか,その財源としていかなる財源を充てるかは,政策上の問題であり,地方公共団体の長の広範な裁量に委ねられており,当該長が採用したある政策の選択・内容については,そのような政策の選択・内容の判断が著しく合理性を欠き,地方公共団体の長に認められている広範な裁量権を逸脱・濫用した例外的場合でない限り,当該長の政策選択上の誤りとして政治責任が問題となることがあっても,当該長による地方公共団体に対する違法な行為として,損害賠償責任が生ずるものではない。

これを本件について見るに,前記2(1)の認定によると,本件城跡は,国の史跡であるとともに,都市公園として篠山町民の憩いの場にもなっており,城下町・篠山町のシンボルである。そこで,篠山町(被告町長)は,先人の残した歴史的文化遺産である本件城跡を地方文化の創造・学習の拠点として活用するため,平成8年度から平成11年度にかけて大書院復元事業を実施し,そのうちの篠山町単独事業として,平成10年度から平成11年度にかけて,本件事業を実施したものである。

以上の事実に照らせば,篠山町(被告町長)が財政資金を使って本件事業を実施し,その財源の一部に充てるため本件町債を発行したことについて,著しく合理性を欠き,町長としての被告に認められている広範な裁量権を逸脱・濫用した違法なものであるとは認められない。それゆえ,本件事業の実施,それに必要な本件町債の発行について,政策の選択・内容の違法があるとも認められない。

ウ まとめ

よって,原告の主張②も採用できない。

(4)  結論

以上の次第で,本件町債の発行が違法であるとは認められず,原告の乙事件請求は理由がない。

第3結語

以上の次第で,原告の甲事件の訴えは不適法であるからこれを却下し,原告の乙事件請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 今中秀雄 裁判官 秋田志保)

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