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神戸地方裁判所 平成2年(タ)19号 判決 1991年3月11日

原告

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

宮内俊江

被告

甲野二郎

甲野三郎

右被告両名親権者母

乙川春子

同訴訟代理人弁護士

小林祐一

主文

一  原告と被告らとの間に父子関係が存在しないことを確認する。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一請求の趣旨

主文と同旨

二請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

本件訴えを却下する。

2  本案の答弁

原告の請求を棄却する。

第二事案の概要

一争いのない事実

1  原告は、昭和六二年三月二九日被告らの母である乙川春子と結婚し、同年五月二一日婚姻届をなした(<証拠>)。

2  そして、春子が昭和六三年一月二九日被告らを出産し、同年二月九日被告らは原告・春子間の長男・次男として出生届がなされた(<証拠>)。

3  原告と春子は平成三年二月一日協議離婚をし、春子が被告らの親権者となった(<証拠>)。

二原告の主張

1  原・被告ら間に自然的血縁関係がなく、被告らをとりまく家庭が既に崩壊しているので民法七七二条の適用が排除され、親子関係不存在確認の訴えが許される。

2  被告らは原告の子ではないので、父子関係不存在確認を求める。

三被告らの主張

1  被告らは民法七七二条により原告の嫡出子と推定されるので、原告が被告らとの父子関係を否定しようとすれば、嫡出否認の訴え(民法七七五条)によらなくてはならず、本件親子関係不存在確認の訴えは不適法である。

2  被告らは原告と春子との間に生まれた子である。

第三争点に対する判断

一  本件訴えの適法性について

1 被告らは、原告と春子の婚姻成立から二〇〇日後に生まれた子であるから、形式的には民法七七二条により原告の子と推定されるところ、父が嫡出推定を受ける子との父子関係を否定するためには、原則として嫡出否認の訴え(民法七七五条)によらなければならず、親子関係不存在確認の訴えをもって代用することは許されない。

しかし、形式的には民法七七二条の適用を受け、夫の子と推定される場合であっても、両者の間に親子としての自然的血縁関係のないことが客観的に明白な場合において、家庭の平和が既に崩壊し、父が真実に合致しない形式的身分関係の消滅を望んでいるときは、例外的に民法七七二条による嫡出推定規定の適用が排除され、父がその子との父子関係を争うには、民法七七五条の嫡出否認の訴えによることを要せず、一般の親子関係不存在確認の訴えも許されるものと解するのが相当である。

2  これを本件についてみるに、証拠(<省略>)、及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

(一) 家庭が既に崩壊して消滅

(1) 春子は、婚姻前より勤務先の上司であった丙沢一男と個人的な交際をしていたが、婚姻後も丙沢との交際を続けて性交渉まで持っていた。

(2) ところで、春子は、平成元年五月一五日過ぎから精神的に不安定な状態となり、同年五月二六日から一〇月二六日まで県立尼崎病院神経科に入院したが、入院中の同年八月末頃原告に対し、婚姻後も丙沢との交際を続けて性交渉まで持っていたことや、被告らが春子と丙沢との間に生まれた子であることを告白した。

(3) そこで、原告は平成元年九月春子に対し離婚したい旨を伝え、春子は同年一〇月二六日退院したが、原告とは別居して実家に帰った。被告らは春子に引き取られて、以後現在に至るまで春子に監護養育されている。

(4) 原告は、平成二年四月一六日春子を相手に神戸家庭裁判所へ離婚調停を申し立て、同年七月一〇日離婚調停が不調となったため、更に同年七月三〇日春子の不貞行為を理由として神戸地方裁判所へ離婚訴訟を提起し、平成三年一月三一日被告らが原告の子でないことを確認し、協議離婚届出をする旨の裁判上の和解が成立した。

(5) 原告と春子は平成三年二月一日協議離婚届出をし、春子が被告らの親権者となった。

(二) 自然的血縁関係の不存在

(1) 血液型検査結果によると、原告と被告二郎とは、血清型中のC7型、同α2HS型、赤血球酵素型中のPGM型、同EsD型の四つの血液型で矛盾が生じ、原告と被告二郎との自然的血縁関係は一〇〇パーセント否定される。

(2) 血液型検査結果によると、原告と被告三郎とは、血清型中のGm型、同C6型、同ITI型、赤血球酵素型中のPGM型、同EsD型の五つの血液型で矛盾が生じ、原告と被告三郎との自然的血縁関係も一〇〇パーセント否定される。

3  以上によると、原告と被告らとの間には親子としての自然的血縁関係のないことが客観的に明白であり、被告らをめぐる家庭は法律的にも実質的にも既に消滅していて存在せず、原告も父として被告らを養育する意思は全くなく、原告が真実に合致しない父子関係の解消を切に望んでいるのであるから、民法七七二条による嫡出推定規定の適用が排除され、本件親子関係不存在確認の訴えは適法である。

二父子関係の不存在について

前記認定によると、原告と被告らとの間には親子としての自然的血縁関係がないことが認められるので、原告と被告らとの父子関係は不存在である。

(裁判官紙浦健二)

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