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神戸地方裁判所 平成2年(ワ)566号 判決 1992年3月27日

原告

塩谷外科こと塩谷房男

被告

法喜友子

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金二三二万一九九五円及びこれに対する被告法喜友子につき平成二年六月六日から、被告有限会社茨木三田屋につき同年五月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の、その四を被告らの、各負担とする。

四  この判決は、原告が各被告に対し、それぞれ金三五万円の担保を供するときは、その被告に対して仮に執行することができる。

事実及び理由

以下、「被告法喜友子」を「被告法喜」と、「被告有限会社茨木三田屋」を「被告会社」と、略称する。

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金三〇六万二〇八三円及びこれに対する被告法喜につき平成二年六月六日から、被告会社につき同年五月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故の被害者を治療した医師が、右被害者に資力がなく同人において右治療費を支払えないため、右交通事故の加害者らに対し、右被害者に代位して右治療費の支払いを請求した事件である。

一  争いのない事実

1  別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)の発生及び吉岡の右事故による受傷

2  被告会社の本件責任原因(右会社は、本件事故当時被告車の保有者であつた。自賠法三条所定。)の存在。

3  原告は、肩書地において外科医院を経営しているところ、昭和六二年二月五日、本件事故により受傷した吉岡と右受傷治療につき診療契約を締結し、同人に対し、次の治療を行つた。

昭和六二年二月五日から同年四月二四日まで入院。

同年四月二五日から同年一一月一四日まで通院(実治療日数一三八日)。

二  争点

1  被告法喜の本件責任原因の存否

2  吉岡の本件受傷の具体的内容

3  原告の吉岡に対する本件治療費の具体的内容

原告の主張

本件治療費の合計額は、金三〇六万二〇八三円(入院分金二二四万四一五八円、通院分金八一万七九二五円。)であるところ、右治療費は健康保険における一点単価の二・五倍から二・八倍であり適正である。

なお、神戸・阪神間の病院における診療報酬は、右一点単価の二・六倍から三・〇倍である。

被告らの主張

原告は、吉岡に対し同人の本件事故による受傷と相当因果関係のない治療を施し、そのうえで本件治療費請求をしている。

同人の本件事故による受傷と相当因果関係に立つ適正治療期間は、三週間、長く認めても一か月である。

吉岡は、遊んで休業補償を得る目的で原告の本件治療を受け、原告は、右治療を行うことによつて利益を得る目的で右治療を継続した。

しかも、原告の右治療費は、健康保険の適正一点単価の約六倍による単価で計算されている。

4  吉岡の無資力

原告の主張

吉岡には、現在原告に対し本件治療費を支払う資力がない。

なお、吉岡が本件治療費について労災保険に請求すること同人の資力の有無とは無関係である。

又、労災保険に対する請求権は二年間で時効消滅するものであり、吉岡は既に労災保険に対する請求権を時効により喪失している。

被告らの主張

原告の右主張事実は否認。

吉岡の本件事故による受傷は、就労中の受傷であり、同人は、右就労中の受傷に対する治療費のため労災保険に加入していた。したがつて、本件治療費は、同人がこれを労災保険に請求すれば当然支払われるものである。

よつて、吉岡が右治療費の支払いにつき無資力であるということはできない。

5  本件治療費請求権に関する消滅時効の成否

(一) 本件消滅時効の完成

(1) 被告らの主張

治療費請求権は、入通院とも一日単位として発生し、同時にその行使ができるというべきである。

本件において、吉岡は昭和六二年四月二四日に原告経営の病院を退院しているから、同人に対する本件入院治療費の請求は、右同日になし得るものである。

よつて、右入院治療費請求権は、右同日から起算して三年を経た平成二年四月二三日の経過とともに時効によつて消滅した。

よつて、被告らは、本訴において、原告に対し、右消滅時効を援用する。

なお、被告らは、右治療費請求権が時効によつて消滅したことにより直接の利益を受ける当事者であるから、右消滅時効の援用権者である。

又、原告は、吉岡に対し、平成三年七月一六日まで右消滅時効につき時効中断すべき手続を何ら採つていない。

(2) 原告の主張

被告らの主張は、全て争う。

(イ) 原告の吉岡に対する本件治療費請求権の消滅時効の起算日は、原告の吉岡に対する本件治療関係が終了した昭和六二年一一月一四日である。

したがつて、右治療費請求権が三年の消滅時効にかかるとしても、右消滅時効は、昭和六二年一一月一四日から起算して三年を経た平成二年一一月一四日の経過とともにこれが完成するというべきである。

しかして、本件においては、後記のとおり時効中断事由が存在するので、被告ら主張の消滅時効は完成していない。

(ロ) 被告らは、本件消滅時効の援用権者ではない。

(二) 時効中断事由の存否

(1) 原告の主張

吉岡は、平成二年九月一四日、原告に対し、本件治療費請求権の存在を承認した。

よつて、本件消滅時効は、右同日、中断した。

(2) 被告らの主張

(イ) 原告の右主張事実を否認し、その主張は争う。

(ロ) 仮に、原告の右主張が認められるとしても、本件入院治療費請求権が本件消滅時効により消滅していることは前記主張のとおりであるところ、右請求権は、消滅時効が成立した時点に遡つて消滅したとみなされるものであるから、既に時効の援用により消滅した請求権が承認により新たに発生することはないというべきである。

本件において、本件承認が原告の主張によれば平成二年九月一四日であるから、右時点から遡つて三年以前である昭和六二年九月一三日以前の本件治療費請求権は本件消滅時効によつて消滅し、昭和六二年九月一四日から同年一一月一四日までの通院治療費金二九万〇〇八八円(一日の治療費金四〇二九円の割合による七二日分。)の請求権のみが存在することになる。しかして、右通院治療費請求に対し、被告ら主張の適正単価・過失相殺等を適用すべきである。

(三) 被告らの本件消滅時効援用に対する信義則適用の有無

(1) 原告の主張

仮に、被告らに本件消滅時効について援用権があるとしても、同人らの右援用権行使は、信義則違反であり無効である。

即ち、被告らは、昭和六三年三月六日、吉岡に対し、本件治療費については別途協議する旨の意思表示をし、右意思表示は、被告らが原告と協議し被告らが直接原告に対し右治療費を支払う旨をその内容としている。

しかるに、被告らは、その後原告と本件治療費に関する協議を全くせず、本訴に至るや消滅時効の援用をして来たものである。

(2) 被告らの主張

原告の右主張は争う。

6  過失相殺

(一) 被告らの主張

本件事故は、交差点の出会頭の衝突であるから、吉岡の方にも過失が存在し、その過失割合は三〇パーセント相当である。

したがつて、本件治療費についても右過失割合による過失相殺減額が行われるべきである。

(二) 原告の主張

(1) 被告らの右主張中本件事故の態様は認めるが、その余の主張事実及び主張は全て争う。

本件事故は、被告法喜の一方的過失により惹起されたものである。

(2) 仮に、吉岡に本件事故発生に対する過失が存在したとしても、同人の右過失は、昭和六三年三月一六日、吉岡と被告ら間で成立した本件事故についての示談において評価され尽くしており、今更被告らが本訴において吉岡の過失を主張することは許されない。

即ち、本件示談で支払われた示談金は金七〇万円という低廉な金額であるし、右示談においては治療費については後日の協議に委ねられているところ、原告は、昭和六二年六月六日、昭和六三年一月二六日、本件治療費を被告らの契約先である日新火災海上保険会社に請求しており、一方、被告らの本件訴訟代理人は、右保険会社の代理人でもあり右示談締結の際の被告らの代理人でもあつたから、原告の請求する本件治療費が金三〇六万二〇八三円であることを右示談時に知つていたはずである。もし被告らが原告に対し吉岡の本件過失を主張して右治療費の減額交渉をするのであれば、右示談成立後被告らから原告に対し速やかに協議をもちかけるであろうが、そのような働きかけは一切なかつた。

第三争点に対する判断

一  被告法喜の本件責任原因の存否

1  本件事故の発生は、当事者間に争いがない。

2(一)  証拠(甲二の一、四ないし八、証人吉岡、被告法喜本人。)を総合すると、被告法喜は、本件交差点における自車進行前方の左右の見通しが不良で、しかも、自車進行道路には一時停止の道路標識が設置されていたのであるから、道路標識による一時停止線又は右交差点直前で一時停止して、左右道路の交通の安全を確認すべき業務上の注意義務があるのにもかかわらず、これを怠り、右道路標識を見落して右停止線の直前で停止せず、左右の安全を確認することなく、漫然時速約四〇キロメートルの速度で右交差点内に進入した過失により、本件事故を惹起したことが認められる。

(二)  右認定事実に基づくと、被告法喜には、民法七〇九条により吉岡が本件事故により被つた損害を賠償する責任があるというべきである。

なお、被告法喜と被告会社は、共同不法行為者というべきであるから、両者には、連帯して吉岡の後記認定の本件損害(原告の吉岡に対する本件治療費。)を賠償する責任があるというべきである。

二  吉岡の本件受傷の具体的内容

証拠(甲二の九、六の二八ないし三〇。)を総合すると、吉岡は、本件事故により頸部及び腰部挫傷、頭部外傷、右第七肋骨骨折の傷害を受けたことが認められる。

三  原告の吉岡に対する本件治療費の具体的内容

1  吉岡の本件受傷の具体的内容は、右認定のとおりであり、同人の原告経営病院における治療期間は、当事者間に争いがない。

2(一)  証拠(甲一の三、四、八、一〇の一、二、一一の二、三、乙八の二、証人舟橋、同平井。)によると、原告の吉岡に対する本件治療費請求は吉岡の申出による自由診療分合計金三〇六万二〇八三円であり、その内訳は、入院分金二二四万四一五八円、通院分金八一万七九二五円であるところ、右入院分治療費については総点数五万四九四一点、一点単価金二七・九円、右通院分治療費については総点数三万二一九七点、一点単価二五円で計算され、右入院分については、右単価で計算された金額に、室料差額金六七万一五〇〇円、寝具料金二万六五四四円、文書料金一万三〇〇〇円が付加されて合計金二二四万四一五八円となつていること、右通院分については、右単価で計算された金額に、文書料金一万三〇〇〇円が付加されて合計金八一万七九二五円となつていること、自賠責診療単価は、公立病院が一点単価金二〇円、神戸・阪神地区におけるその他の病院が一点単価金二六円から金三〇円であること、原告病院では、吉岡以外の患者の場合で一点単価金二五円で算定された治療費の支払いを受けたことがあること、吉岡が本件事故後救急搬入された渡辺病院では、自由診療で一点単価金二五円で、その治療費を算定していることが認められる。

(二)(1)  ところで、次の事実は、当裁判所に顕著な事実である。

現在ではほとんどの診療報酬が健康保険法の診療報酬体系により算定されているが、右診療報酬体系は、中央社会保険医療協議会の答申に基づくものであり、手続上、診療報酬に利害関係を有する各界の意見及び公益を十分に反映させ、その調和を図りつつ公正妥当な診療報酬が定められており、これが定められた昭和三三年から度々改定が行われ現在に至つているものである。しかして、右診療報酬体系では、一点単価を金一〇円とし、診療報酬点数表の点数にこれを乗じて診療報酬額を算定している。したがつて、右の如き診療報酬体系成立の手続、その成立から現在までの推移、診療報酬算定の現状から、右診療報酬体系は、一般の診療報酬算定の基準として合理性を有するものである。

(2) ところで、自由診療において診療報酬についての合意を欠く場合であつても、原則として右診療報酬体系(一点一〇円)が診療報酬額算定の基準となり、ただこれを修正すべき合理的事情が認められる場合には、右事情を考慮して右基準に対し右事情に即した修正を加え、相当な診療報酬を決定するのが相当と解すべきである。

(3)(イ) これを本件について見ると、吉岡の本件受傷が本件事故によるものであることは当事者間に争いがなく、右受傷の具体的内容は前記認定のとおりであるところ、右各事実と前記2(一)で認定した各事実を総合すると、原告の吉岡に対する本件治療費についても、その限りで、右診療報酬体系の診療報酬基準を修正すべき合理的事情があるというべきである。

しかして、右認定の本件事情を考慮すれば、原告の吉岡に対する本件治療費中右診療報酬体系の診療報酬基準の二・五倍に当たる一点単価金二五円で算定した分をもつて、本件事故と相当因果関係に立つ損害(以下、本件損害という。)としての治療費と認めるのが相当である。

(ロ) 右説示から、原告の吉岡に対する本件治療費は、次のとおりとなる。

入院分 合計金二〇八万四五六九円

(5491点×25円)+(67万1500円+2万6544円+1万3000円)=208万4569円

通院分 合計金 八一万七九二五円

総計金二九〇万二四九四円

3  被告らは、吉岡の本件治療における必要性(入院)や相当性を争う趣旨の主張をしているところ、被告らの右主張にそう証拠(乙五、九、証人平井。)もある。

しかしながら、右各証拠は、その記載内容及び供述内容に客観的確実性が乏しく、にわかに信用することができない。

よつて、被告らの右主張は、理由がなく採用できない。

四  吉岡の無資力の真否

1  原告の吉岡に対する本件治療費の金額は前記認定のとおりであるところ、証拠(甲一三、証人吉岡、同舟橋。)によれば、吉岡の現在の生活状況では、右治療費の支払いができないことが認められる。

2  被告らは、吉岡が労災保険の対象になつているから同人が本件治療費を支払うにつき無資力ではない旨主張する。

(一) 確かに、証拠(証人吉岡、同舟橋、同平井。)によれば、吉岡が本件事故当時労災保険適用の対象になつていたことが認められる。

(二) しかしながら、労災保険において被災労働者が労災保険給付を受けるためには、所定の様式による保険給付の請求書を被災労働者の所属する事業場の所在を管轄する労働基準監督署長に提出しなければならない。即ち、保険者である政府は、被災労働者から保険給付の請求がなければ支給する義務を負わない建前になつている(労災保険法一二条の八第二項)ところ、証拠(証人舟橋)によれば、吉岡には、本件受傷の治療につき右保険給付(療養補償給付)を請求する意思がなかつたこと。原告には、吉岡に右保険給付請求をなすべく強制する手段がなかつたことが認められ、更に、右保険給付(療養補償給付を含む。)を受ける権利(この権利が当該保険給付の支給決定請求権を指すことは、当裁判所に顕著な事実である。)は二年を経過したとき時効にかかる(労災保険法四二条)ところ、証拠(右同証人)によると、吉岡の右権利が現在右法条による時効によつて消滅していることが認められ、右認定各事実に照らすと吉岡が本件事故当時労災保険適用の対象になつていたからといつて、そのことから直ちに同人に現在原告に対する本件治療費を支払う資力があるということはできない。

よつて、被告らの前記主張は、理由がなく採用できない。

五  本件治療費請求権に関する消滅時効の成否

1  本件治療費請求権に対しては、民法一七〇条一号が適用されるところ、右消滅時効は、特約又は特別の習慣がない限り、当該疾病に関する医師と患者との医療関係が終了した時から、進行を開始すると解するのが相当である。

しかして、本件において、原告と吉岡の本件医療関係が昭和六二年一一月一四日終了したことは、当事者間に争いがなく、しかも、右説示にかかる特約又は特別の慣習の存在についての主張・立証がないから、本件治療費請求権全部の消滅時効は、時効中断事由がない限り、昭和六二年一一月一五日から起算して三年を経た平成二年一一月一四日の経過とともに完成したというべきである。

2  しかるに、証拠(甲一三、証人舟橋。)によれば、吉岡は、平成二年九月一四日、原告に対し、「念書」と題する書面を提出し、吉岡において原告に対し本件治療費を支払うべきであることを承知している旨申し述べたことが認められ、右認定事実に基づけば、吉岡は、右同日、原告に対し、本件消滅時効の中断事由たる承認をしたというべきである。

よつて、本件消滅時効は、平成二年九月一四日中断し、右消滅時効は、未だ完成していないというべきである。

3  右認定説示に反する、被告らのこの点に関する主張は、当裁判所の採るところでない。

六  過失相殺の成否

1  本件事故の発生は、当事者間に争いがなく、被告法喜の本件責任原因は、前記認定のとおりである。

2  証拠(甲二の四ないし八、証人吉岡、被告法喜本人。)によれば、次の各事実が認められる。

(一) 本件交差点は、車道幅員五・五メートルの東西道路と車道幅員六・五メートル(ただし、両側に幅員二メートルの歩道がある。)の南北道路が交差する十字型交差点(なお、いずれの道路も、平坦なアスフアルト舗装路)であり、市街地に位置し、交通はひんぱんである。

右東西道路は、西行き一方通行であり、右道路の右交差点東側入口には、一時停止の標識が設置されている。

右交差点の見通しは、右東西道路を西進する車両の運転者にとつて前後へは良好であるが、左右へは不良(右交差点東側入口に設置された一時停止の標識に至つて、左方への見通しは五〇メートル。)であり、右南北道路を北進する車両の運転者にとつても、右東西道路を西進する運転者の場合と状況は同様であるが、特に右前方への見通しは、右交差点東南角にコンクリート五階建の商店建物が存在するため不良である。

右交差点付近における制限速度は、時速四〇キロメートルである。

なお、本件事故当時の天候は晴、路面は乾燥していた。

(二) 吉岡は、本件事故直前、吉岡車を時速約四〇キロメートルで進行させ本件南北道路を北進し、本件交差点に至つたが、自車右前方へ注意を払うことなくそのままの速度で右交差点内に進入し、その直後、被告車と衝突して、右事故が発生した。

なお、吉岡は、本件事故当時、右東西道路が西行き一方通行であることを知つていた。

3  右認定各事実を総合すれば、本件事故の発生には、吉岡の自車右前方の安全確認義務違反の過失も寄与している。したがつて、同人の本件損害の一部である本件治療費の算定についても、右過失を斟酌するのが相当である。

しかして、斟酌する吉岡の右過失割合は、前記認定各事実を総合し、全体に対し二〇パーセントと認めるのが相当である。

そこで、前記認定の本件治療費総計金二九〇万二四九四円を右過失割合で所謂過失相殺すると、原告の吉岡に対する本件損害としての本件治療費は、金二三二万一九九五円となる。

4  原告において、吉岡の本件過失は昭和六三年三月一六日同人と被告ら間で成立した本件示談において既に斟酌ずみである。それ故、本訴において今更吉岡の過失相殺を主張することは許されない旨主張する。

(一) 確かに、証拠(甲三)によれば、吉岡と被告ら間に昭和六三年三月一六日吉岡の本件事故に関する損害につき示談が成立したことが認められる。

(二) しかしながら、右文書(甲三)によれば、吉岡の原告に対する未払い治療費については別途協議する旨合意されていることが認められるところ、右文書中に右未払い治療費の確定について吉岡の本件過失は斟酌ずみである旨の記載はないし、右治療費の確定につき右示談において吉岡の右過失を斟酌ずみであること及び原告のこの点に関するその余の主張事実についても、これらを認めるに足りる証拠はない。

よつて、原告の前記主張は、理由がない。

七  結論

以上の全認定説示に基づくと、原告は、吉岡に代位して、被告らに対し、各自本件損害としての本件治療費金二三二万一九九五円及びこれに対する被告法喜につき本訴状送達の日の翌日であることが本件記録から明らかな(以下同じ。)平成二年六月六日から、被告会社につき同年五月五日から、いずれも支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利を有するというべきである。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 昭和六二年二月五日午前九時五五分頃

二 場所 兵庫県西宮市南越木岩町一一番一二号先信号機の設置されていない交差点内

三 加害(被告)車 被告法喜運転の普通乗用自動車

四 被害(吉岡)車 吉岡正紀(以下、吉岡という。)運転の普通乗用自動車(タクシー)

五 事故の態様 吉岡車が本件交差点の南北道路を北進し、右交差点に進入したところ、折から、被告車が右交差点の東西道路を西進して来て右交差点内に進入し、そのため、右両車両が右交差点のほぼ中央付近で出合頭衝突した。

以上

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