神戸地方裁判所 平成3年(ワ)1251号 判決 1993年1月13日
甲事件原告(乙事件被告)
梶敏生
ほか一名
甲事件被告(乙事件原告)
亀山重博
主文
一 原告らと被告は、別紙交通事故目録記載の交通事故により被告所有にかかる同目録四記載の車両が損傷したことに基づき、原告ら各自が被告に対して負担すべき損害賠償債務が金一六六万四六二〇円及び内金一五〇万四六二〇円に対し平成三年四月二七日から、内金一六万円に対し原告梶につき同年九月四日から、原告会社につき同年八月三〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を超えては存在しないことを確認する。
二 原告らは、被告に対し、各自、金一六六万四六二〇円及び内金一五〇万四六二〇円に対し平成三年四月二七日から、内金一六万円に対し原告梶につき同年九月四日から、原告会社につき同年八月三〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求及び被告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の請求
一 原告らの請求
原告らと被告は、別紙交通事故目録記載の交通事故(以下「本件事故」という)により被告所有にかかる同目録四記載の被告車両が損傷したことに基づき、原告ら各自が被告に対して負担すべき損害賠償債務が金八〇万二五一四円を超えては存在しないことを確認する。
二 被告の請求
原告らは、被告に対し、各自、金六〇四万一八〇〇円及び内金五六四万一八〇〇円に対し平成三年四月二七日から、内金四〇万円に対し原告梶につき同年九月四日から、原告会社につき同年八月三〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交通事故により被告が所有していた被告車両(未登録の新車メルセデスベンツ一台)が損傷したが、原告らと被告との間で原告らが負担すべき右車両損害に基づく損害賠償債務の額をめぐって争いがあるため、原告らと被告双方から前記のとおりの各請求がされている。
一 争いのない事実など
1(本件事故の発生)
別紙交通事故目録記載の交通事故が発生した(争いがない)。
2(被告車両の損傷)
本件事故の結果、被告所有の被告車両が損傷を被つた(争いがない)。
3(原告らの責任原因)
(一) 本件事故の発生につき、原告梶は、本件交差点に進入するに当たり、一時停止の規制があるにもかかわらずこれに従わず、右方(南方)の安全確認を十分にしないまま進行した過失があると認められるから(甲六号証、検甲二号証の一ないし五(ただし、書込み部分を除く)、検乙一号証の一ないし四、原告梶及び被告本人(第一、二回)の各供述並びに弁論の全趣旨)、民法七〇九条に基づき、被告が被つた損害について賠償すべき責任がある。
(二) 原告梶は、原告会社の被用者であり、その業務の執行につき本件事故を惹起したものであるから、原告会社は、民法七一五条に基づき、被告が被つた損害について賠償すべき責任がある。
二 本件の主たる争点
1 被告の被つた損害額の認定
(被告の主張)
(一) 被告車両の修理費用 金八三万六八〇〇円
被告車両の輸入新車としての車格からみて、当然、広範囲の焼付塗装を必要とするから、右修理費用中の塗装代金三五万円は相当なものである。
(二) 被告車両の予備検査代 金三万五〇〇〇円
(三) 被告車両の交通事故による価格低下に伴う損害 金四七七万円
被告車両は、被告が歯科医牧野眷三から特別の買付注文を受けて代金八四八万円で輸入した商品であり、被告は、牧野との間で、売買代金一〇〇七万円(内訳は車両代金九五〇万円、車両消費税金五七万円)にてこれを売却する合意が成立していたところ、本件事故当日、姫路陸運事務所で登録したのちこれを牧野に引き渡すために、被告車両を運転して右事務所に向かっていた途中、本件事故に遭つたものである。
被告車両は、本件事故によつて損傷したため、その後修理をしたものの、価格低下が著しく、被告はこれを自動車販売業者宇野俊雄に対し代金五三〇万円で売却せざるを得なくなつた。
したがつて、被告は、被告車両が本件事故によつて損傷した結果輸入新車としての商品価値が著しく低下したため、前記各代金の差額金四七七万円の実損害を被つたものである。
(原告らの反論)
(一) 被告車両の修理費用については、左右フロントドアを含めた広範囲の焼付塗装を行う必要はなく、塗装代としては金一三万五〇〇〇円程度で足りるから、これを含めた全体の修理費用としては金五二万四六八二円程度で十分である。
また、被告主張の予備検査代の必要性には疑問がある。
(二) 被告車両の破損状況は、物理的又は経済的にも修理可能なものであり、修理によつて事故前の原状に回復された場合には、修理費用のほかには、場合に応じ事故歴によるいわゆる評価損が損害として認められるだけであるから、被告主張のような事故当時における価格と事故後の処分価格との差額を損害として認め得るものではない(最高裁判所第二小法廷昭和四九年四月一五日判決参照)。特に、本件では、被告車両の事故当時における価格及び修理後の処分価格ともに、それが適正なものであつたことについて立証がされていない。
それゆえ、本件では、被告車両の事故に伴う価格低下については、評価損として、財団法人日本自動車査定協会が査定した金三六万七〇〇〇円の事故減価が認められるだけである。
(三) 以上によると、被告の損害額は合計金八九万一六八二円となるところ、後記のとおり被告にも本件事故発生につき少なくとも一割の過失があるというべきであるから、これに従つて過失相殺をすると、原告ら各自が被告に対し負担すべき損害賠償債務は、結局、金八〇万二五一四円(円未満四捨五入)を超えることはないというべきである。
2 過失相殺
(原告らの主張)
本件事故の発生については、被告にも前方不注視及び制限速度違反の過失があつたので、少なくとも一割の過失相殺がされるべきである。
(被告の反論)
本件事故は、原告梶が狭路を西進して本件交差点に進入するに当たり、一時停止の規制を無視し、右方の安全確認を怠つたまま進入したことによつて発生したものであり、原告梶の一方的な過失によるものであるから、被告には過失はない。
第三当裁判所の判断
一 被告の被告車両の輸入経緯と本件事故後の修理経緯等について
証拠(甲一、三号証、八ないし一一号証、乙二ないし八号証、九号証の一ないし三、検乙二号証の一ないし一二、証人福頼三紀夫、同宇野俊雄及び同中西隆浩の各証言、被告本人の供述(第一、二回)並びに弁論の全趣旨)によると、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
1 被告は、輸入外車の販売等を業としている者であるが、平成三年三月頃、兵庫県姫路市内の歯科医牧野眷三から、一九九一年式メルセデスベンツ新車一台の買付注文を受け、同人との間で、被告が輸入した同車を車両代金九五〇万円、登録諸費用七五万七〇五〇円及び車両消費税五七万円の合計一〇八二万七〇五〇円で売却し、その引渡しを同年四月二九日とすることを合意した。
2 そして、被告は、知合いの輸入業者にLC(信用状)を開設してもらつた上、代金八四八万円を支払つて被告車両(一九九一年式メルセデスベンツ三〇〇E―二四バルブスポーツライン新車、メタリツクペイント)を輸入したところ、本件事故当日の同月二六日、被告車両が姫路市内にまで陸送されてきたためこれを受領した上、みずからこれを運転して姫路警察署で車庫証明を得たのち、さらに姫路陸運事務所で本登録をして牧野に被告車両を納品しようとして、姫路陸運事務所に向かう途中で本件事故に遭つた(仮ナンバーで走行。なか、累積走行距離は三八二キロメートル)。
3 本件事故の結果、被告車両は、フロントバンパー、左右ヘツドライト及び同ワイパー、左右パネル、左右フロントグリル、ボンネツト等が損傷して、その修理と塗装が必要となつたため、本件事故後間もなく、被告の依頼を受けて被告車両の修理費用の概算見積りをした自動車修理業者福頼三紀夫は、被告車両を見分の上、修理費用として金六七万八八〇〇円(内塗装代金三〇万円)との見積りをしたが(甲三号証)、その後、現実に被告車両の修理を行つたところ、金八三万六八〇〇円(内塗装代金三五万円)の修理費用を要したとして、被告から同額の支払を受けた(乙三、四号証)。
4 その間、被告は、原告らに対し、被告車両に代わる同一車種の新車の提供を要求したりしたが、その後、前記のように修理を終えた被告車両を本登録に先立つ予備検査に付した上、同年八月二日、これを知合いの自動車販売業者宇野俊雄に対し事故車ということで代金五三〇万円で売却した。なお、宇野は、その約一か月後に、被告車両をその知人に対し代金約五八〇万円で売却した。
二 被告主張の損害について
1 被告車両の修理費用 金七八万六八〇〇円
被告は、前記一で認定したように被告車両の修理費用として福頼に対して支払った代金八三万六八〇〇円全額を損害として主張するのに対し、原告らは、主として、そのうちの塗装代金三五万円の相当性を争つている。
そこで検討するに、前記証人福頼は、実際に被告車両の修理と塗装に当たつた結果、当初における被告車両の塗装の概算見積りのときよりも、ボンネツト内のラジエーター付近の修理が増えたため、これに伴つて塗装範囲が広がりその塗装として金五万円分が増加し、塗装代として合計金三五万円を要したこと、被告車両は、高級輸入車としての車格から考えて、新車なみに復元するためには、最高技術による塗装(メタリツクの焼付塗装)が必要であり、損傷部位だけでなく左右フロントフエンダー及び左右フロントドアに及び範囲についてまで丁寧な焼付塗装が必要であり、最低でも金三〇万円程度の塗装代が必要である旨述べている。
これに対し、被告車両の損害調査に当たつた大東京火災損害調査株式会社の社員前記中西隆浩は、本件事故後間もなくの平成三年四月三〇日に被告宅において被告車両を見分したところに基づき、被告車両の塗装については、損傷のない左右フロントフエンダー及び左右フロントドアについてまで焼付塗装を行うことは不要であり、左右フロントフエンダーについてはぼかし塗装で足りるし、仮に左右フロントドアについてまで焼付塗装をしたとしても、その塗装費用としては金二五万円で十分であるとし(甲一号証)、そのほか、福頼が行つた修理自体とその金額(乙三号証)については特に問題となるべき点はない旨述べている。
以上の各供述をふまえて考察するに、前記証人福頼の供述のうち、被告車両のボンネツト内のラジエーター付近についてまでメタリツクの焼付塗装を行うべき必要性があつたとする点については疑問が残る一方、高級輸入車である被告車両を新車なみに復元する必要性を考えると、車両表面については色調、色相等の点で相当丁寧な塗装を必要とすべきであつたということができるから、前記のような左右フロントドアに及び広範囲の焼付塗装が過剰なものであつたとは直ちにはいい難く、これらを総合すると、被告車両の塗装代としては金三〇万円をもつて相当であると認めるべきである。
そして、これに乙三号証を総合して考えると、本件事故と相当因果関係のある被告車両の修理費用は、結局、金七八万六八〇〇円をもつて相当であると認めるべきである。
2 予備検査代 金三万五〇〇〇円
証拠(乙五、八号証及び被告本人(第一回)の供述)によると、被告は、前記のとおり本件事故のために被告車両の修理を余儀なくされたが、被告車両の本登録に当たつては、陸運事務所の指定する箇所についてあらためて予備検査を受ける必要が生じ、そのためこの検査を松居自動車(陸運局認証工場)に依頼し、その代金として金三万五〇〇〇円を支払つたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はないから、これによると、右予備検査代金は、本件事故と相当因果関係のある損害ということができる。
3 本件事故による価格低下に基づく損害 金九〇万円
(一) 被告車両について、修理費のほかに、本件事故による価格低下に基づきある程度の額の損害が生じたこと自体は、当事者間に争いがないところ、その額の算定については、被告は、牧野との間で合意していた売買代金一〇七七万円(登録諸費用を除いたもの)と修理後に宇野に売却した代金五三〇万円との差額金四七七万円をもつて本件事故による価格低下に基づく損害であると主張するのに対し、原告らは、いわゆる評価損として金三六万七〇〇〇円の損害が生じたにとどまる旨主張している。
(二) そこでまず、被告車両の本件事故当時における価格について検討する。
被告が代金八四八万円で被告車両を輸入したことは前記認定のとおりであるが、さらに、証拠(甲四号証、八ないし一一号証、乙九号証の一ないし三、検乙二号証の一ないし一二、前記証人中西、同宇野の各証言及び被告本人の供述(第一、二回))によると、被告車両は、メルセデスベンツ三〇〇E―二四バルブのスポーツタイプとして足回り等に配慮した特別仕様の車両であつて、我が国においてメルセデスベンツの販売に当たつているヤナセでは同車種のスポーツタイプ車の輸入をしていないこと、被告車両には、バケツトシート、スライデイングルーフ、ヘツドライトワイパー、シートヒーター、リアウインドウ用ブラインド等のオプションが装備されていたこと、ヤナセでは、メルセデスベンツ三〇〇E―二四バルブ(スポーツタイプでないもの)の標準的な店頭渡し現金価格は、平成三年二月一日時点で金七九〇万円とされ、同年一〇月一日時点では金八一一万円(ただし名古屋地区)とされており、また、メルセデスベンツ三〇〇よりも小型の同一九〇では、スポーツタイプの車両はそうでない車両と比較して概ね四〇万円から五〇万円程度高額になつており、同三〇〇の場合にはこの幅を上回る価格差があるとされていること、また、自動車販売業者の間で取引の参考とされている「オートガイド自動車月報外車版」(レツドブツク)では、メルセデスベンツ三〇〇E―二四バルブ(スポーツタイプでないもの)の同年における東京地区での新車価格が金七八五万円とされていること、そして、被告は、牧野に対する被告車両の車両代金九五〇万円については被告の利益として金一〇〇万円を上乗せしていたことが認められ、右の認定を左右するに足りるだけの適切な証拠はない。
以上の事実を総合すると、被告車両の本件事故当時における価格は、被告の輸入仕入価格と同じ金八四八万円であつたと認めるのが相当である。
(三) 次に、被告車両の修理後の価格について検討する。
被告が修理を終えた被告車両を知合いの自動車販売業者である宇野に対し代金五三〇万円で売却したことは前記認定のとおりであるが、前記証人宇野及び被告本人は、いずれも、被告車両は事故車として価格が半分になつてしまい、顧客に売却できる代金価格としては金五〇〇万円が限度であつたが、宇野はそれまでの被告との間の取引関係を配慮して他の自動車販売業者よりも特に高額の代金五三〇万円で買い取つた旨供述している。
しかしながら、被告車両は前記福頼による修理の結果外観及び機能の面で新車なみの復元がされたこと、本件事故による損傷の部位と程度についても、フレーム等の車体の本質的構造部分には及ばず、車体前部にとどまつていたことは前記認定、説示に照らして明らかであり、また、宇野自身、前記のような供述をする一方で、被告から被告車両を買い受けて間もなくに、自己の利益として金五〇万円を上乗せした代金五八〇万円でこれを他に転売したことは前記認定のとおりであるところ、これらの事実に照らすと、被告が宇野に対して売却した際の被告車両の代金五三〇万円という価格は、いささか低廉に過ぎたものと考えられ、右の金五三〇万円をもつて被告車両の修理後の適正な価格であつたと直ちに認めることには疑問があるといわざるを得ず、本件の他の証拠を仔細に検討してみても、被告車両の修理後における適正な価格が金五三〇万円であつたことを認めることはできない。
(四) また、仮に被告車両の修理後の価格が金五三〇万円であり、したがつて被告車両の事故による価格低下に基づく損害を被告主張のように前記金四七七万円と認めるべきであるとしてみても、そのような被告の損害は、被告車両が高級輸入新車として売買の目的とされていた商品車両であつたために特に著しい価格低下が生じたことに基づくものであることは明らかであるから、右損害は交通事故によつて通常生ずべき損害とはいい難く、いわゆる特別損害に該当するものと解すべきところ、本件全証拠を検討しても、本件事故当時、原告らにおいて被告車両に関する右のような特別の事情を予見し又は予見し得たことを認めるに足りる証拠は存在しないから、被告主張の右損害を本件事故と相当因果関係のある損害と直ちに認めることはできないものというべきである。
したがつて、被告の右損害に関する主張はこの点からも理由がないといわなければならない。
(五) そうすると、本件では、被告車両の事故による価格低下に基づく損害額の算定については、被告車両の本件事故当時における価格と修理後の処分価格との差額をもつて算定することは相当でないということになるから、いわゆる評価損の考え方に従つてこれを算定すべきものである。
ところで、一般に、評価損というのは、事故により損傷した車両は、必要な修理と復元がされた場合であつても、技術上の限界から外観や機能が事故前よりも低下する可能性があるとして事故歴によつて商品価値の下落が見込まれることに基づき、事故に遭つていない車両よりも減価していると認められる場合に生ずるものと解されている。
これを本件についてみるに、原告らは、評価損として金三六万七〇〇〇円を上回ることはない旨主張し、これに沿うものとして甲二号証を提出するが、甲二号証によると、財団法人日本自動車査定協会兵庫県支所は、平成三年六月、本件事故当日における被告車両の写真と修理見積書(修理費用金五〇万九四〇〇円のもの)に基づき(なお、これらの資料は甲一号証の自動車車両損害調査報告書を指すものと考えられる)、事故損傷による被告車両の減価額を金三六万七〇〇〇円と査定したことが認められる。
同協会の性格等にかんがみると、この査定結果は一応尊重すべきものとは考えられるが、証拠(甲五号証及び弁論の全趣旨)によると、同協会の評価損の査定方法については、事故車両の時価と修理費が重要な基礎数値とされていることが認められるところ、甲二号証の記載だけでは本件事故当時における被告車両の価格をどのような方法でいくらと評価したかなどの点が明らかでないばかりか、前記認定、説示のところから明らかなように被告車両の修理費用につき金五〇万九四〇〇円を前提としている点で問題があるといわなければならず、これらの事情に照らすと、右査定額をそのまま被告車両の評価損として直ちに採用することは相当でないというべきである。
そして、輸入外車の販売等を業としている被告にとつて、被告車両は自己使用を目的として所有していたものではなく、販売先の顧客に納品する直前の商品車両であつたのであり、本件事故のため今後は被告車両を新車として販売することができなくなつたことのほか、前記認定のような被告車両の本件事故当時における価格や車種、未登録であつて仮ナンバーで走行中に本件事故に遭つたことなどの諸事情を考えると、被告車両は、高級輸入新車としての商品価値を失い、通常の中古車が事故歴によつて受けるところの減価を相当上回る減価が生じたものと推認することは困難ではなく、そして、その減価額については、本件事故によつて生じた損傷の部位と程度、これに対して福頼によつてされた相当丁寧な修理の内容と復元状況等をも併せ考えると、金八五万円(事故当時の価格の一割程度に相当)をもつて相当であると認めるべきである。
そうすると、本件においては、前記修理費及び予備検査代のほか、評価損として金八五万円の損害が生じたものというべきである。
4 以上を合計すると、被告が被告車両の損傷によつて被つた損害額は、金一六七万一八〇〇円ということになる。
三 過失相殺について
1 証拠(甲一、六号証、検甲一号証の一ないし四、二号証の一ないし五(ただし、書込み部分を除く)、検乙一号証の一ないし四、原告梶及び被告本人(第一、二回)の各供述並びに弁論の全趣旨)によると、次の事実を認めることができ、原告梶本人の供述中被告車両の進行してきた車線に関する部分は被告本人の供述及び甲六号証中の事故現場略図の記載に照らして直ちには採用し難く、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 本件事故現場である本件交差点は、南北道路と東西道路が交差する信号機による交通整理の行われていない交差点であるが、南北道路は中央分離帯によつて南行道路と北行道路が区分された片側三車線の明らかな広路であつて、前方の見通しは良く、西行道路は一時停止の規制のある狭路である。なお、制限速度は時速五〇キロメートルとされている。
(二) 原告梶は、前記日時ころ、原告車両を運転して西行道路を西進して本件交差点に差しかかつたところ、本件交差点を直進しようとして、一時停止をせずに、右方を見たのち徐行しつつ本件交差点に進入した。
(三) 他方、被告は、そのころ、被告車両を運転して南行道路の中央車線を南進し、時速約四五キロメートルの速度で本件交差点に差しかかつたところ、本件事故現場の約一〇メートル手前で右のように本件交差点内に進入してきた原告車両を発見し、驚いて急制動の措置を取つたものの間に合わず、被告車両の前部が原告車両の右後部に衝突した。
(四) 原告梶は、通勤の関係で本件交差点を頻繁に走行していて道路事情に詳しいものであるが、本件事故の際には、衝突直前まで右方から進行してくる被告車両に気付かなかつた。
2 以上の認定事実によると、原告梶は、本件交差点に進入するに当たり、前記のとおり一時停止の規制があるにもかかわらずこれに従わず(道路交通法四三条)、右方の安全確認を十分にしないまま進行した明らかな過失があるというべきであるが、他方、右認定にかかる衝突状況、原告車両と被告車両の各損傷部位等に照らすと、被告についても、見通しの良い南行道路を進行して本件交差点に進入するに当たり、前方の注視に欠けるところがあつたことは否定できないものといわなければならないところ、以上に認定した本件事故の態様からすると、被告の過失割合は一割にとどまるものと認めるのが相当である(なお、被告には原告の主張するような制限速度違反の事実が認められないことは前記認定事実に照らして明らかである。)。
3 したがつて、被告の前記損害額について一割の過失相殺を行うと、金一五〇万四六二〇円となる。
四 弁護士費用
本件事案の内容、審理の経過、認容額等を勘案すると、被告が本件事故と相当因果関係があるものとして賠償を求め得る弁護士費用の額は一六万円と認めるのが相当である。
五 以上によると、被告は、原告ら各自に対し、本件事故によつて被告車両が損傷したことに基づく損害賠償として、金一六六万四六二〇円及び内金一五〇万四六二〇円に対し本件事故の日である平成三年四月二七日から、内金一六万円に対し原告梶につき訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな同年九月四日から、原告会社につき右同様の同年八月三〇日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるというべきである。
よつて、原告らの請求及び被告の請求はいずれも右の限度でのみそれぞれ理由があるからこれを認容することとし、その余はいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 安浪亮介)
交通事故目録
一 発生日時 平成三年四月二六日午前九時ころ
二 発生場所 兵庫県姫路市安田四丁目五九番地先市道交差点
(以下「本件交差点」という)
三 加害車両 原告梶敏生運転の自家用軽四貨物自動車
(以下「原告車両」という)
四 被害車両 被告運転の普通乗用自動車(未登録のメルセデスベンツ)
(以下「被告車両」という)
五 態様 信号機による交通整理の行われていない本件交差点において、狭路を西進してきた原告車両が広路を南進してきた被告車両に衝突した。