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神戸地方裁判所 平成3年(ワ)68号 判決 1991年9月25日

原告

丸山孝信

被告

山田千惠子

主文

一  被告は、原告に対し、金九〇六万九八九一円及びこれに対する昭和六二年四月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その三を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一一七九万六八九七円及びこれに対する昭和六二年四月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車と衝突事故を起こして負傷した原動機付自転車の運転者が民法七〇九条に基づき損害賠償を請求した事件である。

一  (争いのない事実)

1  被告は、昭和六二年四月一九日午前一〇時三〇分ころ、神戸市垂水区本多聞二丁目一二番先の市道舞子多聞線(以下「本件道路」という。)上の交差点において、普通貨物自動車(以下「加害車」という。)を運転して、本件道路を北方面から南方面へ走行中、右交差点を右折するに際し、左方の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失により、本件道路を南方面から北方面へ走行してきた原告(昭和三〇年三月二日生まれの男子で、職業は調理師)の運転する原動機付自転車(以下「被害単車」という。)に側面衝突して転倒させ(以下「本件事故」という。)、原告に対し、胸部・両下肢・左足関節・左肩胛部・左腕関節部打撲傷、頭部外傷Ⅰ型、陰茎恥骨部打撲挫創の傷害を与えた。なお、本件事故の発生については、原告にも過失があつた。

2  原告は、本件事故による受傷のため、(一)飯村病院に本件事故当日の昭和六二年四月一九日救急受診し、(二)次いで、舞子台病院に同月二〇日から同年六月三〇日まで七二日間入院し、(三)次いで、同病院に同年七月一日から昭和六三年三月三一日まで通院し、(四)次いで、信原病院に同月一四日から同年四月一二日まで通院し、(五)次いで、同病院に同月一三日から同年七月一六日まで九五日間入院し、(六)次いで、同病院に同月一七日から平成元年四月二三日まで通院し、(七)次いで、同病院に同月二四日から同年八月三〇日まで一二九日間入院し、(八)さらに、同病院に同月三一日から平成二年五月三一日まで通院した。

3  原告の本件受傷は、平成二年五月三一日症状固定し、それに伴い、同人に(一)左肩運動機能障害、運動痛、筋力低下、(二)腰部可動制限、腰痛、(三)陰茎一周創瘢痕、恥骨部痛等の後遺障害が残存し(以下「本件後遺障害」という。)、本件後遺障害は、自賠責保険後遺障害等級一二級に該当するとの認定を受けた。

4  原告は、本件事故により、(一)治療費として金一八九万六三三〇円、(二)看護費として金三七万八一六〇円、(三)通院交通費として金二七万四四〇〇円を要し、同額の損害を被つた。

5  原告は、本件事故による損害の填補として、合計金一四二九万三一四〇円の支払いを受けた。

二  (争点)

1  被告は、前記一、4記載の費目以外の損害額を争い、特に、後遺障害による逸失利益の算定について、原告は、原告の労働能力喪失率を一四パーセント、喪失期間を三五歳から六七歳に達するまでの三二年間と主張するのに対し、被告は、原告が、舞子台病院に入院中に、ほとんど同じ姿勢で細かい作業を要するプラモデル製作をしていたことを根拠に、原告が本件事故によりその労働能力の一部を喪失したとは認め難い旨を主張する。

2  過失相殺割合につき争いがあり、これについての原、被告双方の主張の要旨は、次のとおりである。

(一) 被告

原告は、本件事故現場交差点に進入するに当たり、右折車等との安全を確認しつつ安全な速度で進行すべき注意義務があるのに、右交差点の手前約三〇メートルないし四〇メートルの地点において、対面信号が青色表示であるのを確認したのみで、前方注視を欠いたまま漫然と本件事故現場交差点に進入し、加害車と衝突する約五メートルないし六メートル手前に至つてはじめて右折を完了していた加害車の存在を発見したのであるから、原告の過失は重大である。

(二) 原告

被告は、本件事故現場交差点を右折するに当たり、四台の対向車両の後方から被害単車が続いてきているのを知りながら、右四台の車両が加害車の右側方を通過するや、被害単車の位置・速度を確認せずに、漫然と発進して右折を開始し、本件事故を発生させたもので、被告の左方安全確認義務違反の過失は重大であり、しかも、被害単車が本件事故現場交差点に進入した際、加害車は未だ右折を完了している状態またはこれに近い状態にはなかつたから、本件事故に対する原、被告双方の過失割合は、原告二割、被告八割とするのが相当である。

第三争点に対する判断

一  損害額〔請求額金三一三六万二五四七円〕

1  治療費(争いがない) 金一八九万六三三〇円

2  看護費(争いがない) 金三七万八一六〇円

3  入院雑費 金二九万六〇〇〇円

入院雑費は、一日当たり金一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、入院期間二九六日間で右金額となる。

4  通院交通費(争いがない) 金二七万四四〇〇円

5  休業損害 金一二六〇万〇三二三円

(一) 原告は、本件事故当時、兵庫観光株式会社(以下「兵庫観光」という。)が経営する舞子ゴルフ場の食堂に調理師として勤務し、月額金二四万九七四八円の給与(その内訳は本給が金二四万三八〇〇円、付加給が金六〇四八円)を支給されていたが、本件受傷による入・通院加療のため、本件事故日である昭和六二年四月一九日から症状固定日である平成二年五月三一日までまつたく稼働することができなかつた(なお、原告は、本件事故後、兵庫観光の求めにより退職を余儀無くされた。)(甲一六、一七、原告)。

(二) 右休業期間中、原告が兵庫観光で稼働していたならば支給されたであろう給与・ボーナスの額は、次のとおりである(甲一六ないし二一)。

(1) 昭和六二年四月九日から同年一二月三一日まで

イ 給与 基本給 月額金二四万三八〇〇円

付加給 月額金六〇四八円

ロ 給与合計 月額金二四万九八四八円

ハ 休業期間 二五七日

ニ 月給分 金二一四万〇二九六円(原告の主張に従う。)

(二四万九八四八円÷三〇×二五七=二一四万〇三六四円)

ホ ボーナス分 金四五万七六五〇円

ヘ 右期間予定所得 金二五九万七九四六円

(2) 昭和六三年の一年間

イ 給与 基本給

一月から三月まで月額金二四万三八〇〇円四月から一二月まで月額金二五万一〇〇〇円

付加給 月額金六〇四八円

ロ 給与合計 年額金三〇六万二九七六円

ハ ボーナス 夏期 金三七万四七〇〇円

冬期 金四五万一八〇〇円

ニ 年間予定所得 金三八八万九四七六円

(3) 平成元年の一年間

イ 給与 基本給

一月から三月まで月額金二五万一〇〇〇円三月から一二月まで月額金二六万九五〇〇円

付加給 月額金六〇四八円

ロ 給与合計 年額金三二五万一〇七六円

ハ ボーナス 夏期 金四八万五二〇〇円

冬期 金五八万三〇〇〇円

ニ 年間予定所得 金四三一万九二七六円

(4) 平成二年一月から五月三一日まで

イ 給与 基本給 月額金二六万九五〇〇円

付加給 月額金六〇四八円

ロ 給与合計 金一三七万七七四〇円(五か月分)

ハ ボーナス 金四一万五八八五円

前年度夏期ボーナスに準ずることとし、支給期間は一二月一日から六月三〇日まで七か月間であるので、その七分の六とする。

ニ 右期間予定所得 金一七九万三六二五円

(5) 右全期間の休業損害 金一二六〇万〇三二三円

(三) よつて、原告の本件事故による休業損害は、金一二六〇万〇三二三円となる。

6  後遺障害による逸失利益 金八二三万三五七六円

(一) 前記第二、一3の事実に、原告が現在午後五時から翌朝午前四時ころまで居酒屋で調理師のアルバイトをしていること、現在も仕事中腰痛と左手の痺れがあること(原告)等の事情を総合して考えるならば、原告は、本件後遺障害により、前記症状固定の日から五五歳に達するまでの二〇年間を通じて、その労働能力の一四パーセントを喪失したと認めるのが相当である。

なお、原告は、舞子台病院に入院中にプラモデル製作をしていたことがあつたことが認められるが(原告)、かかる事実は未だ右認定を左右するに足りない。

そして、前記5で認定の事実によると、原告は、本件事故に遭わなければ、兵庫観光で調理師として稼働し、症状固定の日から六七歳に達するまでの間、少なくとも平成元年度予定所得である年収額金四三一万九二七六円を得ることができたと推認されるので、その額を基礎として、新ホフマン方式により中間利息を控除して二〇年間の逸失利益の本件事故時の現価を求めると、次の計算式のとおり、金八二三万三五七六円となる。

四三一万九二七六円×〇・一四×一三・六一六=八二三万三五七六円

7  慰謝料 金四五〇万円

以上認定の諸般の事情を考慮すると、金四五〇万円が相当である。

二  過失相殺

1  前記第二、一1の事実及び証拠(甲一、二の1ないし5、三、四、原告、被告)によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故現場交差点は、南北道路である本件道路(幅員約一三メートルの片側二車線)に東西道路が斜めに交差する三叉路交差点であり、信号機によつて交通整理が行われているところ、本件道路は、最高速度が時速五〇キロメートルに制限されたアスフアルト舗装の平坦な道路であり、本件事故当時乾燥していた。

なお、加害車からも被害単車からも、前方の見通しはいずれも良好であつた。

(二) 被告は、本件事故当時、本件道路を南進し、本件事故現場交差点を右折するべく青色表示の対面信号にしたがい、同交差点に進入したうえ、本件道路を北進してくる車両の通過を待つため、右交差点の中央付近で停止した。そして、被告は、本件道路の北行車線の中央線寄りを普通乗用自動車四台がほぼ一列の状態で本件事故現場交差点に向かつて北進中であり(最後尾の車両の位置は、加害車の右停止位置の前方約五七・三メートルの地点であつた。)、さらにその後方から、被害単車が右北行車線の歩道寄りを北進してくるのを、加害車の前記停止位置の前方約六七・四メートルの地点に認めたが、右四台の普通乗用自動車が本件事故現場交差点の通過を完了するや、被害単車の位置及び速度を再度確認することを怠り、被害単車が未だ接近していないものと軽信し、漫然と時速約一五キロメートルで右折進行を開始した過失により、本件事故現場交差点内を直進してきた被害単車と側面衝突した。

(三) 他方、原告は、被害単車を運転し、前記(二)のとおり、本件道路北行車線の歩道寄りを、本件事故現場交差点に向かい時速約三〇キロメートルで北進していたところ、同交差点の手前約四〇キロメートルの地点で、右交差点の対面信号が青色を表示しているのを確認したが、同交差点の中央付近で右折のため加害車が停止しているのに気が付かず、漫然と本件事故現場交差点に進入したため、同交差点を右折進行中の加害車と側面衝突した。

なお、加害車が右折を開始して前記被害単車の走行車線に入つた時には、被害単車は、すでに本件事故現場交差点内に進入しており、加害車まで約三メートルの至近距離に接近していた。

2  そうすると、原告にも前方注視義務違反の過失があり、原告、被告双方の過失を対比すると、原告の損害額から二割を減額するのが相当である。

したがつて、被告が原告に対して賠償すべき損害額は、金二二五四万三〇三一円となる。

三  損害の填補 金一四二九万三一四〇円

原告が損害の填補として受領した金員を控除すると、被告が原告に対して賠償すべき損害額は、金八二四万九八九一円となる。

四  弁護士費用〔請求額金一〇〇万円〕 金八二万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、金八二万円と認めるのが相当である。

(裁判官 三浦潤)

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