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神戸地方裁判所 平成3年(行ク)8号 決定 1992年8月31日

大阪市旭区清水一丁目一〇番二号

原告

前中久子

大阪府吹田市桃山台一丁目二番B一三旨三〇四号

原告

西村和子

大阪府豊中市東豊中町六丁目一一番七四棟五〇三号

原告

山方ゆかり

大阪府豊中市刀根山三丁目九番二五号ハイツ西脇二〇三号

原告

椿原まゆみ

右原告ら訴訟代理人弁護士

吉川実

兵庫県芦屋市公光町六丁目二番

被告

芦屋税務署長 片山金治

右指定代理人

石田裕一

山崎徹

村尾彰

小山久雄

関山輝

右当事者間の頭書本案事件(以下「本案訴訟」という。)につき、原告らから文書提出命令の申立てがあつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件各申立てを却下する。

理由

一  原告らは、本案訴訟において、被告が、被相続人久保きくの相続について、原告前中久子及び亡西村一三に対してした無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求め、原告前中久子及び亡西村一三が申告期限内に申告書を提出できなかったのは、国税通則法六六条一項但し書きに規定する「期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由(以下、単に「正当理由」という。)があると認められる場合」に該当する事情によることを証明するために、別紙文書目録記載の各文書(以下、併せて「本件文書」という。)の提出を求め、本件文書は民訴法三一二条二号及び三号に該当すると主張する。

二  別紙文書目録一記載の文書(以下「本件第一文書」という。以下、同じ。)は、「相続税の決定及び無申告加算税の賦課決定書」というものであり、その文言からして、被告が昭和六三年七月二一日に原告前中久子及び西村一三に対して送達した本件処分についての「相続税の決定通知書及び加算税の賦課決定通知書」のことと解される。

ところで、文書提出命令の申立に対する許否の裁判は、当該文書が民訴法三一二条各号の要件に該当するかどうかのほか、他の証拠の申出の場合と同様に、立証事項との関連においてその必要がないかどうかをも基準にして決すべきものである。本案訴訟においては、被告は、原告らの申立てに対して、「相続税の決定通知書及び加算税の賦課決定通知書」の控え(原本は原告らが所持している。)を任意に当裁判所に提出している(乙第一、第二号証)のであるから、本件第一文書について、その提出を求める必要性はない。

三  本件第二文書は、「異議申立書及びその添付書類」というものであり、被告によると、「その添付書類」というのは、委任状、申入書(写)及び調査報告書(写)の三点である(以下、それぞれ「本件委任状」、「本件申入書」、「本件報告書」という。)とのことであり、この点について、原告らは特に争わない。

本件第二文書のうち、本件申入書及び本件報告書は、原告前中久子及び亡西村一三が本件処分について異議の申立てをした際に、申立書に添付した文書で、その原本は原告らが所持し、被告が所持していないのは明らかであるから、被告に提出を命じることはできない。

同じく、本件委任状は、本件における無申告加算税の賦課決定処分に対する異議申立てを代理人に委任したことを明らかにすることはできるものの、正当理由があるかどうかの判断には何ら影響を及ぼさないことが明らかであるから、委任状の提出を命じる必要性はない。

同じく、「異議申立て書」(以下「本件異議申立て書」という。)は、原告前中久子及び亡西村一三が、被告の本件処分に対して異議申立をするために作成した文書で、異議申立ての趣旨及びその理由を記載したものである。ところで、文書提出命令の制度は、元来文書提出の一般的義務を負っていない文書所持者に対し、民事裁判における真実発見に役立つ資料を一定の要件のもとに訴訟の場に提出させることにより、裁判による真実発見及び適正な裁判の実現に資することを目的とするものであるから、同法三一二条三号前段の「挙証者ノ利益の為ニ作成セラレ」た文書とは、挙証者の権利、権限、法的地位等あるいはこれらに密接に関連する事項を証明することを目的として作成されたものをいい、同号後段の「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成」された文書とは挙証者と所持者との間の法律関係について作成されたもの及びその成立過程において両者間の法律関係と密接に関連する事項について作成されたものをいうものと解するのが相当である。本件における「異議申立て書」は、前述のようなものであり、挙証者である原告らの権利、権限、法的地位を証明することを目的として作成されたものではなく、また、法律関係そのものを記載したものでもその成立過程における密接な関係を有する事項を記載したものでないから、民訴法三一二条三号の前段の文書にも同後段の文書にも該当しない。また、原告らが被告に対して引渡又は閲覧を求めることができるものでもないから、同法同条二号の文書にも該当しない。

四  本件第三文書は「棄却決定書」というものであり、異議申立を棄却する決定を記した文書であるから、「異議決定書」のことと解される。

本案訴訟においては、被告は、原告らの申立てに対して、「異議決定書」の写し(原本も被告が所持している。)を任意に当裁判所に提出さしている(乙第三、第四号証)のであるから、本件第三文書についても、その提出を命ずる必要性はない。

五  本件第四文書は、「右相続税の決定、無申告加算税の賦課決定をなすに際し、被告が調査した事項やその他の関連する事項を記載した一件書類等の全て」というものである。ところで、文書提出命令の申立をするには、文書の表示及び趣旨(民訴法三一三条一号、二号)を明らかにして文書を特定することが必要である。これは、提出命令の判断の対象を明らかにするためだけでなく、文書の所持者が文書提出命令に従わないときに裁判所がその文書に関する相手方の主張を真実と認める(同法三一六条)場合にも必要であるから、文書の大綱さえ明らかでない場合は、その文書提出命令の申立ては不適法なものと解すべきである。本件第四文書の「右相続税の決定、無申告加算税の賦課決定をなすに際し、被告が調査した事項やその他の関連する事項を記載した一件書類等の全て」という記載では、その中にどのような種類の文書があるか、どのような内容の文書があるかさえ明らかではなく、文書が特定されているということはできない。したがって、本件第四文書についての申立ては、民訴法三一三条に反する違法な申立てというべきである。

六  本件第五文書は、「右異議申立に対し棄却決定を下すにあたり、被告が調査した事項やその他の関連する事項等を記載した一件記録等の全て」というものであるが、本件第四文書の場合と同様に、このような記載では、文書が特定されているということはできないから、この申立ても民訴法三一三条に反する違法な申立てである。

七  なお、原告らは、行政事件訴訟法二四条の職権証拠調べの条文を引用して裁判所の後見的役割をいうが、同法条は、当事者の申出を待たずに、裁判所が必要に応じて証拠調べをすることができるむねを規定した法条で、何ら文書提出義務の根拠となるものではない。したがって、仮に裁判所が必要であると判断したとしても、行政事件訴訟法二四条に基づいて、民訴法三一二条各号に該当しないにもかかわらず文書の提出を命じたり、同法三一二条各号の文書提出義務の存否の要件を特別に緩和することができると解するのは相当ではなく、原告らの主張は理由がない。

八  よって、本件各申立てはその余の点について判断するまでもなく理由がないのでいずれも却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 吉野孝義 裁判官 北川和郎)

文書目録

原告前中久子と亡西村一三とに対して被告がなした昭和六三年七月二〇日付の昭和六一年七月一一日相続開始にかかる相続税の決定巣〕申告加算税の賦課決定に関する左記文書

一 相続税の決定及び無申告加算税の賦課決定書

二 異議申立て書及びその添付書類等の全て

三 棄却決定書

四 右相続税の決定、無申告加算税の賦課決定をなすに際し、被告が調査した事項やその他の関連する事項等を記載した一件記録等の全て

五 右異議申立に対し棄却決定を降すにあたり、被告が調査した事項やその他の関連する事項等を記載した一件記録等の全て

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