大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成4年(行ウ)3号 判決

原告

藤本要

右訴訟代理人弁護士

藤本尚道

被告

神戸市固定資産評価審査委員会

右代表者委員長

金野勝美

右訴訟代理人弁護士

飯沼信明

樫永征二

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1について

1  原告は、本件審査決定は、地方税法に定められる期間遵守規定(法四三三条一項)に違反しており、取り消されるべきであると主張する。

(一)  法四三三条一項は、固定資産課税台帳の登録価格について不服審査の申出を受けた固定資産評価審査委員会は「審査申出人の申出があった日から三〇日以内に審査の決定をしなければならない」と定めている。

本件において、原告が被告に対して審査の申立てをしたのは平成三年五月九日であるから、右規定によれば、被告は、同年六月九日までに審査決定をすべきことになるが、被告が本件審査決定をしたのは同年一〇月一四日である。

(二)  しかし、右規定は、固定資産の評価についての不服手続を速やかに行うという見地から規定されたものであり、三〇日以内という極めて短い期間を定めていることからしても訓示規定に過ぎないものと解され、その不遵守が直ちに決定の効力に影響を及ぼすという性質のものではないというべきである。

(三)  したがって、地方税法の期間遵守規定に違反していることのみをもって本件決定に重大な瑕疵があるということはできず、右規定違反により本件決定は取り消されるべきであるという原告の主張は採用できない。

2(一)  原告は、固定資産評価審査委員会には審査申出人が不服事由を特定して主張しうるように提出資料等の関係書類の存在を積極的に示す義務があるにもかかわらず、被告は、これを怠り、本件口頭審理において、神戸市長から答弁書その他の添付資料を受け取っていながら、それらについて原告に閲覧の機会を与えなかったばかりか、存在さえも原告に教示しなかった旨主張する。

ところで、法四三〇条は、固定資産評価審査委員会は、審査のために必要がある場合においては、審査申出人及びその者の固定資産の評価に必要な資料を所持する者に対し、必要な資料の提出を求めることができるとし、法四三三条四項及び五項は、同委員会は、当該市町村の条例の定めるところによって、審査の議事及び決定に関する記録を作成し、法四三〇条の規定によって提出させた資料又は右の記録を保存し、関係者の閲覧に供しなければならないとしている。これを受けて、神戸市固定資産評価審査委員会規程(以下「規程」という。)二〇条一項は、市長、審査の申出をした者及び法四三三条三項の規定による関係者は、審査の記録を閲覧することができるとし、同規程一〇条一項は、審査会は、書面審理を行う場合においては、市長に対し、審査申出書の副本及び必要と認める資料の提出を求めるものとする旨規定し、同条二項は、審査会は必要があると認める場合は、審査申出人に対し市長が提出した答弁書の副本及び必要と認める資料の概要を記載した文書を送付し、期限を定めて弁ばく書の提出を求めることができる旨規定している。

そして、〔証拠略〕によれば、被告が行う審理においては、原則として、審査申出人から要求がない限り、市長から提出された答弁書の副本等を審査申出人に対して送付していないこと、本件においても、神戸市長は、被告に対し、平成三年五月二四日付けで答弁書及び資料を提出したが、被告は、これらについて送付の必要がないものと考え、原告は送付していないこと、が認められ、また、本件全証拠によっても、被告は原告に対して、神戸市長から右答弁書及び資料が提出されていることを積極的に知らせたことは窺われない。

被告が定めた前記規程によれば、市長から提出された答弁書及び資料について、審査申出人から弁ばく書を提出させる必要があると判断される場合等に限り、答弁書の副本等を審査申出人に送付するとされているのであるが、固定資産評価審査委員会が行う口頭審理の手続においては、民事訴訟におけるような厳格な意味での口頭審理の方式が要請されているものではないから、なるべく課税庁側から提出された答弁書等を審査申出人に送付するのが望ましいということができるものの、審査申出人に対して市長から提出された答弁書等を送付するか否かは、基本的には固定資産評価審査委員会の裁量に委ねられていると解すべきであり、本件において、被告が市長から提出された答弁書等を原告に送付しなかったことについても、そのことをもって直ちに違法の問題は生じないといわなければならない。

このように解したとしても、右に述べたとおり、審査申出人は、審査の記録を閲覧することができ、それによって課税庁側の主張内容や証拠資料を知ることができるのであるから、実質的に見て何ら不利益はないといわなければならない。

また、固定資産評価審査委員会は、土地の登録価格の不服審査を口頭審理手続によって行う場合において、自ら又は市野村長を通じて、審査申出人が不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲で当該土地の評価の根拠等を知らせる措置を講ずべきであるが、審査申出人が審査申出書及び口頭審理で主張している不服事由が特定しており、かつ、具体的であると認められ、その不服事由に対して委員会として判断を加えるに十分であると認められる場合に、それ以上に積極的に課税庁側から提出された資料等の存在を明らかにする必要はないし、またその義務もないといわなければならない。

そして、本件では、後述(二)のとおり、審査申出人である原告が主張している不服事由が特定し、かつ具体的であったと認められるから、被告において、積極的に神戸市長から提出された資料等の存在を原告に知らせなかったとしても、そのことをもって、直ちに違法ということはできない。

(二)  次に、原告は、本件口頭審理において被告が原告の主張を聴取したのみで、市長等関係者に右決定理由、計算根拠等を明らかにさせず、僅か一時間で一方的に審理を打ち切ったことは法四三三条三項、五項に違反する旨主張する。

そこで検討するに、証拠によれば、次の事実が認められる。

(1) 神戸市長は、平成三年五月二四日、被告に対し、答弁書及び添付資料として、再調査交渉記録、路線価図、地番図、付近見取図を提出した。右答弁書には、本件土地の平成三年度価格について、売買実例価格から設定した標準宅地の価格を基礎とし、その標準宅地との街路の状況、公共施設等の接近の状況、宅地の利用上の便等の相違並びに本件土地の区画形質を考慮して決定したもので、付近地との均衡はとれていること、標準宅地は、神戸市灘区薬師通四丁目三番一であり、一平方メートル当たりの価格は一四万円と評定されていること、が記載されている。

また、路線価図、地番図及び付近見取図には、標準宅地が沿接する主要街路の路線価が一平方メートル当たり一四万点、本件土地が沿接する私道の路線価が一平方メートル当たり一一万六〇〇〇点、この私道が接する街路(公道)の路線価が一平方メートル当たり一三万六〇〇〇点であること、標準宅地の位置、地番、付近宅地の状況が記載されている。(〔証拠略〕)

(2) 被告は、平成三年八月二八日、原告立会いのもとに実地調査を行った。〔中略〕

(3) 被告は、平成三年九月一八日、口頭審理を実施した。右口頭審理には、原告、神戸市長の代理人として理財局主税部固定資産税課土地係長高内憲一及び灘区市税課固定資産税係長大内茂稔が、神戸市長代理人補助者として灘区市税課固定資産税係中本大成が出席した。その席上で、原告は、審査申出書に記載されたところと同趣旨の不服申出の理由を説明し、特に、今回の評価替えで、土地の評価が三一パーセント程度上昇しているが、このままでいくと、収入がなくなると負担ができなくなること、土地の評価を上げても税の負担については税率を下げ、消費者物価指数に合わせるべきであること、公道に面している土地と私道に面している土地との格差について相続税路線価で比較すると七〇パーセント程度が妥当であると述べた。これに対し、神戸市長代理人は、平成三年における評価替えは、昭和六一年七月二日から平成元年七月一日までの三年間の地価動向を反映して評価替えを行うこととなっていることから、神戸市東部では大幅な地価上昇が見られたので大きな上昇となったこと、評価額が三一パーセント上昇しても課税標準額の伸びについては五パーセントになり、土地家屋を併せて考えれば、二・五パーセントぐらいの上昇になっていると考えており、消費者物価指数、給与収入とのバランスはとれていると考えていること、相続税の路線価との格差は、七二パーセントぐらいとなっているが、固定資産税とは、その性格も異なり、それに応じた路線価となっていると考えられること、などと答弁をした。右審理は、約一時間で終了した。(〔証拠略〕)

右事実によれば、被告は、本件の口頭審理において、原告に不服の理由を述べさせた上で、神戸市長代理人にそれに対する答弁をさせ、神戸市長側も、具体的な事実を挙げながら原告の不服理由に対する意見を述べていることが認められる。

ところで、固定資産評価審査委員会は、土地の登録価格の不服審査を口頭審理手続によって行う場合において、自ら市又は市町村長を通じて、審査申出人が不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲で当該土地の評価の根拠等を知らせる措置を講ずべきであると解せられるが、本件においては、審査申出人である原告が税理士であり、同人が作成した審査申出書に記載された不服申出の理由も特定され、かつ具体的であったと認められるから、本件の口頭審理手続において、被告が、まず、申出人に不服事由を陳述させ、その上で、課税庁である神戸市長側に原告の不服事由に関する意見を陳述させたものの、それ以上に評価の額を決定するに至った理由や計算根拠等について説明させなかったとしても、そのことをもって直ちに、右に反し違法であるということはできない。

右に関し、原告本人は、本件口頭審理において、神戸市長代理人は、本件土地の評価方式、評価額に至った経緯について明らかにしていないから、原告は、その点について説明を求めた旨供述する。

しかし、本件口頭審理の審理内容を記載した調書(〔証拠略〕)には、原告が、固定資産の評価は消費者物価指数に合わせるべきであること、固定資産税における路線価と国税路線価を同一に評価すべきであること、都市計画税について住宅用地の特例をすべきこと等について陳述したことは記載されているが、本件土地の評価に関する事実については意見を述べたとか、あるいは質問をしたとの記載は存しない。

原告は、右調書には記載すべき事項が脱落している旨主張するが、前記認定のとおり、本件審査申出書の申出の理由欄にも固定資産の評価を改訂する限度は、消費者物価の上昇率の程度にとどめるべきこと、相続税における路線価を前提に本件土地の評価をすると本件決定における評価は不当であること等の主張しか記載されていないし、本件口頭審理に出席した中本大成、寺内弘之も本件土地の具体的な評価自体についての不服について、原告は、何も述べていない旨証言している。

以上の事実によれば、本件口頭審理の調書に記載すべき事項が脱落しているとの原告の主張は採用することができないし、また、原告が、本件口頭審理において本件土地の具体的な評価方法について、これを取り上げ、神戸市長側に説明を求めた事実を認めることができない。

このように、原告が本件口頭審理において評価の額を決定した理由や計算根拠について説明を求めた事実が認められず、かつ、原告の主張する不服事由が特定され、かつ具体的なものである以上、被告において、課税庁側に評価方法や計算根拠について説明させなかったとしても、法四三三条三項、五項に反するということはできない。

(三)  以上によれば、本件口頭審理手続に違法があるという原告の主張は採用することはできない。

二  争点2について

1  原告は、本件決定の理由として「当該地の価格に付いて、検討を行った結果、付近地価格との均衡はとれていると認められる。したがって、市長決定価格は適正に決定されたものである。」というのみで計算根拠等を明らかにしておらず、理由が記載されていないのと同様であるから、違法なものとして取り消されるべきであると主張する。

2  行政不服審査法四一条一項は、行政不服審査における裁決には理由を附すべきことを規定しているが、同法の準用について規定する法四三三条七項において行政不服審査法四〇条、四二条、四四条等は掲げられているものの、同法四一条は掲げられていない。

このように、固定資産の評価に関する不服審査手続について規定する地方税法は明確に行政不服審査法四一条一項の準用を排除しているものとみることができるから、右不服申出に対する決定において理由が付されることは必ずしも要請されていないということができる。

むしろ、一般的に、行政不服審査法の趣旨に照らし、法律上、裁決に理由を附記することが要求されていない場合であっても、できる限り裁決には理由を附記することが望ましいということができるが、地方税法のように理由の附記が必ずしも必要的ではないと解せられる場合に、具体的事案において、どの程度の理由を附記するかは、原則として裁決庁の判断に委ねられており、理由が全く附記されていなかったり、また極めて簡単な理由しか附記されていなかったとしても、そのことから直ちに裁決が違法となるものではないと解せられる。

3  そして、本件では、原告主張のように、「当該地の価格について、検討を行った結果、付近地価格の均衡はとれていると認められる。」という抽象的な内容ながら、一応、理由が附記されていると認められるから、法律上理由を付することが必ずしも要求されていない以上、本件決定に付された理由が具体的かつ詳細でないことをもって重大な瑕疵があるということはできない。

三  争点3について

1  原告は、本件土地の間口の寸法に誤りがあり、本件決定では間口狭小補正率による補正がなされておらず、本件土地の評価額は不適正であるから、本件決定は違法なものとして取り消されるべきであると主張する。

(一)  本件決定によれば、本件土地の北側私道に面した間口は八メートルとされているが、地積測量図(〔証拠略〕)によると七・一三メートルであることが認められる。

〔中略〕

(二)  〔中略〕

これに対し、原告の主張に従い、間口狭小補正率として、「〇・九九」を採用すると、本件土地の一平方メートル当たりの価格は一一万四八四〇円、本件土地の価格は一〇五〇万九〇〇八円となることが認められる。

(三)  右距離に誤差があったとしても、地方税法付則一八条一項本文、二五条一項本文によると、本件土地の平成三年度ないし平成五年度の固定資産税の額及び都市計画税の額は、平成二年度の課税標準額に負担調整率を乗じて算出される宅地等調整固定資産税及び宅地等調整都市計画税によることとされているから、右各年度の固定資産税及び都市計画税の額には何ら影響を及ぼすものではない。

したがって、右本件土地の距離の誤差は僅少であり、これをもって違法とまではいうことはできず、これにより本件決定が取り消されるべきものになるとはいえない。

2  次に、原告は、本件土地が面する私道の路線価について、東側公道の路線価よりおよそ一五パーセント減の評価をしているが、公道の路線価より二〇パーセント減の評価をしている私道もあり、両者の評価額の違いについて合理性がないと主張する。

(一)  原告は、具体的には本件土地が面する私道の路線価と標準地が面する私道の路線価を比較すると、後者の方が環境的に優位であるにもかかわらず公道の路線価より二〇パーセント減の評価をしていることから、公道の路線価より一五パーセント減の評価しかしていない本件土地より路線価が低いという逆転現象が生じていると主張する。

(二)  〔証拠略〕によれば、本件土地北側の私道の路線価は、東側公道の路線価より一五パーセント減の評価がされていること、本件土地の近隣にある標準地の南側私道の路線価が、その東側公道に比し二〇パーセント減の評価がされていることが認められる。

そして、〔証拠略〕によれば、公道の路線価からの減額割合として、一五パーセント又は二〇パーセントのいずれかの割合が当てはめられるかは、私道が行き止まりになっているか否か、幅員又は当該道路の状況等によるものであること、標準地の南側の私道の減額割合が二〇パーセントとなっているのは、階段状になっている部分があることによるものであると認められる。

(三)  固定資産税に関する私道の路線価は、近傍の主要な街路の路線価を基礎として、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮して付設されるものである。

これを本件土地と標準地の各私道についてみるに、〔証拠略〕によれば、街路の状況、公共施設等の接近の状況等、右に述べた各種要因を総合的に考慮して路線価を定めたことが窺われるから、原告の主張する評価の違いをもって不均衡、不合理であるということはできない。

(四)  他の私道路線価間において不均衡が生じていることを認めるに足りる証拠もないから、この点についての原告の主張も採用することはできない。

3  さらに、原告は、本件土地の路線価について国と市との評価との間に相当な格差が生じており、既に確立し、かつ十分に機能している国の計算方式を市においても採用すべきであると主張する。

(一)  被告は、市の行った固定資産に関する具体的な評価が適正に行われているかどうかを審査するに過ぎず、右事項は被告の審査事項に含まれるものではない。

(二)  また、相続税、贈与税等の国が課す税金と固定資産税、都市計画税等の市が課す税金とは、異なった立場、目的でなされるものであるから、国と市で必ずしも同一の評価が要求されるものではない。

(三)  したがって、この点に関する原告の主張も採用することはできない。

(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 吉野孝義 影浦直人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!