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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)1682号 判決 1997年10月15日

反訴原告

関山功二

反訴被告

中町洋子

主文

一  反訴被告は、反訴原告に対し、金八五六万八〇四九円及びこれに対する平成四年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その四を反訴原告の負担とし、その余を反訴被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

反訴被告は、反訴原告に対し、金七五二一万一〇四六円及びこれに対する平成四年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により傷害を負うとともに物損を被った旨を主張する反訴原告が、反訴被告に対し、自動車損害賠償保障法三条、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

また、反訴被告が反訴原告に対して本件事故に関する損害賠償債務の一部不存在の確認を求めた本訴事件は、訴えの取下げにより終了した。

二  争いのない事実等

1  交通事故の発生

(一) 発生日時

平成四年九月一一日午後五時二〇分ころ

(二) 発生場所

神戸市中央区新港町 県道高速神戸西宮線(通称・阪神高速道路)京橋入口先交差点

(三) 争いのない範囲の事故態様

反訴原告は、普通乗用自動車(土浦三三ち七九二〇。以下「反訴原告車両」という。)を運転し、一般道路から阪神高速道路に向かう交差点で停止していた。

そこに、後方から、反訴被告が運転する普通乗用自動車(なにわ五七ぬ八〇三九。以下「反訴被告車両」という。)が追突した。

2  責任原因(反訴被告において明らかに争わない。)

反訴被告は、反訴被告車両の運行供用者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により反訴原告に生じた損害を賠償する責任がある。

また、反訴被告は、本件事故に関し、前方不注視の過失があるから、民法七〇九条により、本件事故により反訴原告に生じた損害を賠償する責任がある。

三  争点

本件の主要な争点は、反訴原告に生じた損害額であり、特に、本件事故の衝撃が、反訴原告の身体に傷害を生じるほどのものであったか否か、反訴原告車両の物損の金額等が争いとなった。

四  争点に関する当事者の主張

1  反訴原告

本件事故の際、反訴被告車両は、時速二五ないし三五キロメートルの速度で反訴原告車両に追突した。このため、反訴原告車両は、約一〇メートル前方に押し出され、走行不能となったほどである。

そして、本件事故により反訴原告に生じた損害は、別表の請求欄記載のとおりである。

2  反訴被告

本件事故の際の反訴被告車両の速度は、たかだか時速五キロメートルであった。

したがって、反訴原告の身体には、生理的許容範囲を超えた外力は加わっておらず、反訴原告が本件事故により傷害を負うことはありえない。

また、反訴原告車両の損害は、反訴原告車両が高級外国車であることを考慮しても、金二〇〇万円を超えることはない。

五  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

六  本件の口頭弁論の終結の日は平成九年七月三〇日である。

第三争点に対する判断

一  本件事故の態様

まず、本件事故の態様について検討する。

甲第二号証の二、乙第一号証、第三、第四号証、第二八号証、反訴原告及び反訴被告の各本人尋問の結果によると、本件事故は、反訴被告車両の前面右側が反訴原告車両の後部左側に追突したものであったこと、反訴被告車両も、本件事故によりランプがこわれ、車体が凹損する損害が生じたこと、反訴被告車両の右修理のために六〇万円ないし七〇万円の金額を要したこと、本件事故直後に反訴被告が加入する保険会社による査定においても、反訴原告車両は部品金四八万七一三〇円、工賃金四八万五〇〇〇円の修理を要する損傷を被ったとされていることが認められる。

そして、これらによると、本件追突の衝撃は相当強いものであったというべきであり、本件事故の際の反訴被告車両の速度は、たかだか時速五キロメートルであって、反訴原告の身体には、生理的許容範囲を超えた外力は加わっていない旨の反訴被告の主張は到底採用の限りではない。

二  反訴原告に生じた損害額

反訴原告に生じた損害額に関し、当裁判所は、以下述べるとおり、別表の許容欄記載の金額を、反訴原告の損害として認める。

1  反訴原告の傷害等

まず、反訴原告の人身損害を算定する基礎となるべき反訴原告の傷害の部位、程度、通院期間、治療の経緯、後遺障害の内容、程度等について検討する。

(一) 甲第三号証の一、二、乙第一九号証によると、反訴原告は、本件事故の発生した平成四年九月一一日に、財団法人神戸港湾医療保健協会神戸みなと病院に通院して治療を受けたこと、同病院における診断傷病名は頸部捻挫、腰背部打撲であったことが認められる。

(二) 甲第四号証、乙第一三ないし第一八号証、証人柴田恒夫の証言によると、反訴原告は、本件事故の発生した日の翌日である平成四年九月一二日から自宅近くの柴田医院(福井県坂井郡所在)に通院したこと、同医院における診断傷病名は頸椎捻挫、外傷性神経痛(腰部)であったこと、同医院の柴田医師は、平成五年一二月四日、反訴原告について自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(乙第一八号証)を発行したこと、右後遺障害診断書には自覚症状として「背部痛、項部痛、頸部背部運動障害、右母趾部知覚障害」が記載されていること、医師の所見として「項部、背部、胸椎運動制限著明、重労働は不能である。今後治ゆ見込みなし。」と記載されていること、右期間の実通院日数は二七四日であること(乙第一六号証により平成四年九月一二日から平成五年四月三〇日までの実通院日数一三五日を認め、乙第一七号証により同年五月一日から一〇月二一日までの実通院日数一一三日を認め、甲第四号証により同月二二日から一二月四日までの実通院日数二六日を認める。)が認められる。

(三) なお、反訴被告は、反訴原告に対する右治療は本件事故と因果関係がない旨主張するが、前記認定の本件事故の態様、甲第四号証、証人柴田恒夫の証言、鑑定の結果により認められる右治療の経緯に照らすと、右期間における治療は本件事故により生じた反訴原告の傷害に対するものとして、必要かつ相当なものであったことが優に認められる。

(四) 甲第四号証、乙第一八号証、鑑定の結果によると、反訴原告の後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)に該当するとするのが相当である。

なお、鑑定の結果の中には、同表一四級所定の後遺障害が二個存在することを理由として、同表一三級に該当する旨の部分があるが、同法施行令二条一項の規定に照らし、採用することができない。

また、甲第四号証の中には、平成六年五月二六日付の診断書があり、鑑定の結果の中にはこれに言及する部分があるが、反訴原告の本人尋問の結果によると、平成五年一二月に柴田医院における治療を打切った後には、反訴原告は柴田医院で治療を受けていないことが認められ、平成五年一二月四日の後遺障害診断書発行後の事情が明らかでない本件においては、平成六年五月二六日付の診断書によるのは相当ではない。

2  損害

(一) 治療費

乙第一六、第一七号証によると、平成四年九月一二日から平成五年一〇月二一日までの期間に対応する柴田医院の治療費が、反訴原告主張の金九七万九三二〇円であることが認められる。

(二) 休業損害

乙第一四号証によると、平成五年二月二六日に発行した診断書において、柴田医師は、反訴原告の就業がまったく不可能な期間として平成四年九月一二日から一〇月一二日までと記載していることが認められる。

これに対し、反訴原告は、平成五年五月までの休業損害を請求し、反訴原告の本人尋問の中には、この間、十分に働けなかったことをいう部分があるが、右乙第一四号証及び鑑定の結果に照らし、採用することができない。

そして、乙第二〇号証、反訴原告の本人尋問の結果によると、反訴原告は、本件事故当時、株式会社芦原グランドホテル隆泉荘の取締役であったこと、反訴原告は、右会社で実際に就労していたこと、本件事故による傷害のため、反訴原告の平成四年一〇月からの役員報酬が一か月金二〇〇万円から金七〇万円に減じられたことが認められる。

また、前記認定の反訴原告の傷害の部位、程度、治療の経緯に照らすと、右減給は、前記の平成四年一〇月一二日までの分に限り、本件事故と相当因果関係のある損害であるこというべきである。

したがって、反訴原告の休業損害は、次の計算式による金五〇万三二二五円の限りで認めるのが相当である(円未満切捨て。以下同様。)。

計算式 (2,000,000-700,000)÷31×12=503,225

(三) 後遺障害による逸失利益

前記認定の反訴原告の後遺障害の内容、程度、反訴原告の就労内容によると、反訴原告は、平成五年一二月の症状固定時(反訴原告は満四二歳)から五年間にわたって、労働能力の五パーセントを喪失するのやむなきに至ったとするのが相当である。

また、反訴原告が会社役員であること、現実に減収を生じていること等に照らすと、後遺障害による逸失利益を算定するにあたっては、賃金センサス平成五年度第一巻第一表の産業計、企業規模計、男子労働者、学歴計、四〇~四四歳に記載された金額(これが年間金六四四万〇六〇〇円であることは当裁判所に顕著である。)を基準に、前記労働能力の喪失をきたしたとするのが相当である。

そして、本件事故時(反訴原告は満四一歳)における現価を求めるため、中間利息の控除につき新ホフマン方式によるのが相当であるから(一年に対応する新ホフマン係数は〇・九五二三、六年に対応する新ホフマン係数は五・一三三六。)、後遺障害による逸失利益は、次の計算式により、金一三四万六五〇四円となる。

計算式 6,440,600×0.05×(5.1336-0.9523)=1,346,504

(四) 慰謝料

前記認定の本件事故の態様、反訴原告の傷害の部位、程度、通院期間、治療の経緯、後遺障害の内容、程度、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により反訴原告に生じた精神的損害を慰謝するには、金二〇〇万円をもってするのが相当である(うち後遺障害に対応する分は金八〇万円である。)。

(五) 修理費用等

乙第六、第七号証、第二三号証、反訴原告本人尋問の結果によると、反訴原告車両は株式会社ジェイワン・ナカヤマで修理され、その費用が金二三六万九〇〇〇円(乙第六号証の三丁目末尾の課税対象金額金二四〇万円から二丁目一行目のレッカー引取費金一〇万円を控除した金二三〇万円に、消費税相当価額金六万九〇〇〇円を加えた金額である。)であったこと、反訴原告は反訴原告車両を福井県まで搬送するための費用として金一七万円を支払ったこと(反訴原告は金一八万円である旨主張するが、乙第二三号証の中の領収証は金一七万円であり、これを超えて搬送費用を支払ったことを認めるに足りる証拠がない。)が認められる。

なお、乙第六号証によると、右費用の中には、天井、左側面、トランク、右リアフェンダーバックパネル、トランク内サイドメンバーの塗装(以上金四〇万円)、リアバンパーカバーの塗装(金四万円)が含まれていることが認められが、乙第一号証により認められる反訴原告車両の損傷の部位、程度に照らし、右塗装も相当なものと認められる(反訴原告は、金四〇万円は全塗装の費用である旨主張するが、主要事実ではないので当裁判所はこれに拘束されない。)。

また、反訴原告は、追加修理として有限会社菊川商会に金二七万二九五〇円、キンキ自動車株式会社に金一三万三〇七六円を要した旨主張するが、右のような金額の修理を行った直後に、さらに修理を要したとするのは不自然であり、本件全証拠によっても、その必要性・相当性を認めることはできない。

さらに、反訴被告は、反訴原告車両の所有名義等を指摘するが、反訴原告の本人尋問の結果によると、右費用は反訴原告が現実に負担したことが認められる上、これを反訴原告が負担することが相当であることも優に認められるから、右指摘は採用の限りではない。

したがって、修理費用金二三六万九〇〇〇円及び搬送費用金一七万円、以上合計金二五三万九〇〇〇円が認められる。

(六) 評価損

甲第九号証、乙第二一号証によると、反訴原告車両は、平成四年三月に初度登録された総排気量五・九八リットルのメルセデスベンツであることが認められる。

そして、乙第六号証により認められる修理の内容及び前記修理費用に照らすと、反訴原告車両は、修理してもなおその評価に低下をきたしたというべきであり、弁論の全趣旨によると、右評価の低下額を修理費用の約三〇パーセントに相当する金七〇万円とするのが相当である。

なお、反訴原告の請求の基礎となる乙第一二号証は、修理復元前の車両につき、復元修理見積書による修理がなされたことを前提に査定されたものであることが明らかであり、修理後の反訴原告車両を直接検分して査定されたものでないから、直ちに採用することはできない。

(七) 代車料

代車料は、事故により車両が使用不能になった場合に、代替車両を使用する必要があり、かつ、現実に使用したときに、相当性の範囲内で認められるべきものである。

そして、反訴原告は、本件事故から一四日間ベンツ三〇〇を訴外ファーストオートから金四九万円で借りたほか、六七日間の反訴原告車両の修理期間中、一日金一万円の割合で代車料が発生した旨主張する。

このうち、ファーストオートからの代車については、乙第二号証の中にこれに沿う部分があるが、弁論の全趣旨によると、これは見積にすぎないことが認められ、実際に代車が借り入れられたことが疑わしい上に、前記認定の反訴原告の傷害の部位、程度に照らし、その必要性、相当性を直ちに認めることはできない。また、反訴原告の本人尋問の結果の中には、浜松タイルから代車であるマジェスタを一日金二万五〇〇〇円で借りたとする部分があるが、これを裏付ける客観的証拠はなく、直ちに認めることができない。

したがって、代車料は、証拠上、認めることができない。

(八) その他物損

このほかに、反訴原告は、査定協会査定料金二万五六〇〇円、修理見積を依頼し、修理をキャンセルしたファーストオートに対する修理キャンセル料金一六万九一〇〇円を請求する。

しかし、前記認定のとおり、査定協会の査定は、それ自体必要であったことは解されない。また、修理キャンセル料は、仮にそれが発生していたとしても、本件事故との相当因果関係を認めることができない。

(九) 小計

(一)ないし(八)の合計は金八〇六万八〇四九円である。

3  弁護士費用

反訴原告が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、反訴被告が負担すべき弁護士費用を金五〇万円とするのが相当である。

4  遅延損害金

反訴被告は、平成四年一〇月七日に、反訴被告が反訴原告に対して車両損害金一二〇万円を支払う準備をしている旨内容証明郵便で通知し、さらに、本訴の訴状で車両損害金二〇〇万円を支払う準備をしている旨通知したから、この範囲では遅延損害金は発生しない旨主張する。

しかし、不法行為による損害賠償債務は、当該不法行為の時に履行遅滞となると解されるところ、損害賠償債務についての一部の弁済の提供及び供託が有効となる場合があり(最高裁平成三年(オ)第一三一一号同六年七月一八日第二小法廷判決・民集四八巻五号一一六五頁)、逆に、民法四一九条等の金銭債務に関する履行遅滞の一般論にしたがって、有効な弁済の提供又は供託がない限り、債務者は履行遅滞の責めを免れないと解するのが相当である。

そして、金一二〇万円及び金二〇〇万円の車両損害金を支払う準備をしている旨の通知は、車両損害金だけをみても債務の本旨にしたがった弁済の提供といえないことは明らかであるから、反訴被告の右主張は採用の限りではない。

第四結論

よって、反訴原告の請求は、主文第一項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表

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