神戸地方裁判所 平成5年(行ウ)12号 判決
原告
阪本慶信(X)
右訴訟代理人弁護士
柏木幹正
被告
芦屋市長(Y) 北村春江
右訴訟代理人弁護士
俵正市
同
小川洋一
右指定代理人
米田明雄
同
奥井健二
同
西嘉成
事実及び理由
【事実及び理由】
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 原告は、本件土地全体に一棟の居住用建物(以下「本件居住用建物」という。)を建てようとしており、本件基準日当時、本件土地二上に完成していた地下車庫、地下機械室及びエレベーター設置用スペースは、右居住用建物の地下部分(以下「地下部分」という。)であって、右居住用建物の建築工事が着工されて建築途上の状態にあったのであり、仮に右のように認められないとしても、本件土地一上に建築予定の本件居住用建物の地上部分(以下「地上部分」という。)は一階食堂の床と同一平面に連なるベランダ部分を含むもので、右当時、右ベランダ部分についてコンクリート工事がなされており、これは、地上部分の建築の着手があったことを示すものであり、既に完成していた地下部分と併せると、右当時、本件土地全体を敷地の用に供する恒久的建物の建築の着手があったものであって、同土地全体が法六〇三条の二第一項一号に規定する「建物又は構築物・・・の敷地の用に供する土地」に該当するものであったと主張している。
これに対し、被告は、右当時、二筆の土地から成る本件土地上のいずれにも居住用の建物は存在せず、その建築に着手されてもいなかったので、同土地全体が法六〇三条の二第一項一号に規定する「建物又は構築物・・・の敷地の用に供する土地」に該当するものであったと認めることはできないと主張する。
2 昭和五三年法律第九号による地方税の一部を改正する法律により設けられた特別土地保有税の納税義務の免除の制度は、土地の投機的な取得を抑制し、地価の安定を図ることを主たる目的として政策的に創設された特別土地保有税について、構造、利用状況等からみて恒久的な利用に供される建物又は構築物の敷地となっている土地についてはこれを免除することとして(法六〇三条の二第一項一号、同法施行令五四条の四七第一項)、課税の合理性を図ったものであるところ、右制度の趣旨、右同号の文言及び免除認定の技術的困難性などを総合勘案すると、右免除制度の対象となる土地は、基準日(法六〇三条の二第七項、五八六条四項、五九九条一項一号)において、当該土地利用の現況から外形的、客観的にみて、恒久的な建物又は構築物の敷地として利用され、最終的な需要に供されていると認められるものをいうと解するのが相当である。
なお、昭和五三年四月一日付自治固第三八号各都道府県総務部長、東京都総務・主税局長あて自治省税務局長通達「恒久的な建物、施設等の用に供する土地に係る特別土地保有税の納税義務の免除の取扱いについて」(以下「通達」という。)は、免除認定の基準日に関して、「・・・基準日現在の一時的な現況のみによって免除の認定をすべきものではなく、当該基準日を中心とする一定の期間における土地の利用状況を勘案して行うべきものである。したがって、基準日現在において既に建設に着手されており、かつ、その後の工事の進捗状況からみて恒久的な建物、施設等の用に供されることが確実であると認められる土地は、免除対象として差しつかえないものである。」としているが、右は前記法条の解釈に沿うものと解される。
3 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(一) 平成三年八月九日、原告は、訴外芦屋市六麓荘町町内会(以下「町内会」という。)から、本件土地上の工事につき建築基準法及び六麓荘地区建築協定に抵触する部分が見受けられるので、法令及び協定を遵守するよう留意してほしい旨の申出を受けた。その後、原告は、町内会との協議を継続的に行い、最後まで残った係争点であった同土地上の擁壁の高さにつき、原告が既に完成していた擁壁の一部分(南側擁壁)を一・五メートルほどカットすることで、平成四年一月二一日に話し合いは決着したが、右協議が継続している間、同土地上の工事を中断せざるを得なかった。
(二) 原告は、町内会との協議妥結後の平成四年二月から同年六月ころまで、南側擁壁を協議内容に沿って一・五メートルほどカットする工事を行い、また、古墳発掘調査のために掘り返した状態にあった本件土地一の地盤の埋め戻し工事等を平成四年夏ころまで行った。
(三) 原告の本件土地に関する特別土地保有税免除認定申請を受け、被告は、法六〇三条の二第四項に従い、平成四年八月二一日付けで、芦屋市特別土地保有税審議会(以下「審議会」という。)に諮問した。平成四年九月二日、審議会は、同土地の現況調査を行った結果、同土地につき、「駐車場兼テニスコートの敷地にあたる部分については、恒久的な建物の敷地として免除の対象として差し支えないものとする。それ以外の未利用地部分については、免除の対象とすることは適当でない。その理由については、基準日を含む一定期間の利用状況についてみるに、建設工事が全く進行していない状況であり、恒久的な建物の敷地の用に供しているとは到底いえないからである」旨の答申(以下「本件答申」という。)を行った。
なお、審議会側から本件土地上の古墳調査について質問があり、被告は、右同日、訴外芦屋市教育委員会(以下「教育委員会」という。)に照会して古墳調査の日時、内容を調査した結果を審議会に説明した。
(四) 平成四年九月三日、本件答申を受けて、芦屋市課税課事務担当者が原告側に対し審議会の右答申の結果について説明した。被告側は、右答申内容を踏まえて、本件土地の特別土地保有税の免除面積を確定するため、同土地の立入調査をする必要が生じたため、右同日以後、原告と数回にわたって折衝し、同年一〇月二六日、同土地の現地調査を行った。右現地調査の際、被告側は、原告に対して、本件車庫と車庫への進入路にあたる部分を併せた面積を基準にして特別土地保有税の免除の対象とする土地を決めることを説明した。
(五) 原告は、平成四年九月ころ、本件居住用建物の地上部分を建設するという当初の予定を変更し、同年一二月末ころ、本件土地一上にテニスコートを作った。
4 右第二の二の争いのない事実及び右3で認定した事実によると、本件基準日である平成四年一月一日当時の本件土地の現況は、同土地二に上部をテニスコートとする車庫及び擁壁が存在していたのみであり、右基準日から約八か月を経過した平成四年九月二日の審議会による現況調査当時、同土地一上の居住用建物の工事に全く進捗がなかったのみならず、本件口頭弁論終結時である平成七年一月九日においても、同土地一上に居住用建物は存在せず、テニスコートが作られているのみであることが認められる。右認定にかかる本件土地二上の車庫及び擁壁の設置状況並びに本件土地一上にテニスコートだけしか作られていないことなどを総合して考えると、右車庫及び擁壁の設置をもってしては未だ本件土地全体を敷地の用に供する恒久的建物の建築の着手があったものと解することができない。そうすると、本件土地全体が、右基準日において、その利用の現況から外形的、客観的にみて、恒久的な建物又は構築物の敷地として利用され、最終的な需要に供されている状態にあったと解することはできない。
5 なお、原告は、地上部分の建築工事が進捗しなかったのは町内会との協議結果に基づいて擁壁の南側部分のカット工事を優先する必要があったためであり、地上部分の建築のために必要不可欠となった擁壁カット工事が本件基準日後になされたのであるから、地上部分の建築工事が右基準日後に進捗していたものとみて差し支えないものであるとも主張しているので判断する。
確かに、本件基準日後に右擁壁カット工事が行われた事実が認められるが、右擁壁カット工事後の平成四年六月ころ以降は工事が可能であるにもかかわらず、右以後、本件土地一における居住用建物の建築は何ら進展しておらず、本件口頭弁論終結時である平成七年一月九日においても同土地一上に居住用建物が建築されていないことは既に述べたとおりであるから、原告の右主張を認めることはできない。
6 したがって、本件基準日において、本件土地全体につき恒久的建物の建設着手があり、同土地全体が法六〇三条の二第一項一号に規定する「建物又は構築物・・・の敷地の用に供する土地」に該当するものであったとする原告の主張を採用することはできない。
二 争点2について
1 原告は、本件基準日において本件土地一上に建物が存在しなかった原因は、もっぱら、被告が古墳調査のために平成二年一一月から平成三年一〇月末ころまで同土地一を占用使用して、原告の右土地における工事の進行を停止させたことにあり、このように、同土地一上の建物不存在の原因を作った被告がなした本件決定は信義則に反し著しく不公正な結果をもたらすものであって違法であると主張しているので、判断する。
2 〔証拠略〕によれば、本件土地における古墳や刻印石の調査及び工事中止の指示を行ったのは、被告ではなく教育委員会であったことが認められ、原告が古墳調査によって損失を受けたのであれば、通常生ずべき損失については文化財保護法五七条の五第九項に準じて、国に対してその補償を請求すべきものである。
また、右一2で認定した事実及び弁論の全趣旨によると、審議会は、古墳調査による工事中止の事情を勘案した上で本件答申を行い、右答申を受けて、被告は現地調査をした上で本件決定を行っていることが認められる。
したがって、原告の本件土地一における工事を中止させた主体が被告であることを前提とする原告の右主張は採用することができない。
三 争点3について
1 被告は、本件決定に至る経緯につき次のように主張している。
(一) 本件基準日当時、本件土地上に存在していた車庫(以下「本件車庫」という。)及び擁壁(以下「本件擁壁」という。)につき、被告は、右車庫を法六〇三条の二第一項一号の「建物」に該当すると認定し、右擁壁については、本来、単なる土止めの擁壁は同号の「構築物」に該当しないものであるが右擁壁の両側は本件車庫の進入路となっている部分であるので原告の利益のために右擁壁の南側部分を同号の「構築物」に該当する、と認定した。
(二) 右(一)で認定された建物及び構築物の「敷地の用に供する土地」の範囲につき、本来、本件車庫及び本件擁壁の南側部分の建築面積を基礎として認定しなければならないものであるが、被告は、原告の利益を考慮して、本件擁壁の南側前面の車庫への進入路となる部分を右構築物の敷地に含まれると認定した。
(三) 本件車庫の建築面積と右進入路の面積を合計すると、本件車庫が建築されている本件土地二の登記簿上の地積の約八二パーセントとなったため、被告は、同土地二の面積相当部分について特別土地保有税を免除することを決定した。
2 これに対し、原告は、まず、右1(一)につき、本件擁壁は西側から南側に連続する構造のものであり、構造的、機能的に見ても本件擁壁の南側と西側を区別する理由は存在せず、このような擁壁の形状に鑑みると、本件擁壁全体を法六〇三条の二第一項一号の「構築物」として認定すべきであると主張している。しかし、そもそも、同号の「構築物」とは、法人税法等における構築物と同義であり、具体的には、塔、軌道、ドック、貯水池、坑道、橋、岸壁、さん橋、煙突その他土地に定着する土木設備又は工作物をいうものであるところ、擁壁とは、土が崩れるのを防ぐ土止めの壁であり、本件全証拠によっても本件擁壁に土止めの壁以上の用途を認めることはできない。
したがって、ただ単に擁壁である旨をもって、本件擁壁全体が同号の「構築物」であると認定することはできない。
3(一) 次に、原告は、右1(二)及び(三)の点につき、本件決定のうちの免除認定部分の面積は不当に狭いものであると主張しているので、判断する。
(二) 通達は、法六〇三条の二第一項一号の建物又は構築物の敷地の用に供する土地の範囲の解釈につき、次のような指針を定めている。
(1) 法六〇三条の二第一項一号の「建物又は構築物の敷地の用に供する土地」とは、当該建物又は構築物を維持し又はその効用を果たすために使用されている一画地の土地をいうものであり、一画地の土地の認定にあたっては、道路、塀、垣根、溝等によって他の土地と明確に区分できるときは原則としてこれによるものである。
(2) 一画地の土地を特定することが困難な場合又はその範囲が広大であり、当該建物又は構築物の維持効用を果たすために通常必要なものと認められない場合は、原則として当該建物又は構築物の建築面積を基礎とし、建ぺい率のほか、当該建物の延べ床面積、具体的な土地の利用状況等を参しゃくして、当該建物又は構築物の敷地に相当する部分をその実情に合致するよう認定すべきものである。
(三) 〔証拠略〕によれば、本件車庫の建築面積が約五九〇平方メートルであり、また、本件擁壁の南側部分の面積がごくわずかであることが認められる。右事実及び法六〇三条の二第一項一号の趣旨並びに右法条の解釈に副うものと解される右(二)の通達を併せ考えると、本件土地全体(面積二二八七平方メートル)が本件車庫及び本件擁壁南側部分の維持効用を果たすために通常必要なものであると認めることは相当ではなく、法六〇三条の二第一項一号の「敷地の用に供する土地」を本件土地全体と解することは広きに失すると言わなければならない。さらに、本件車庫は甲第三号証の建築確認申請によると地階部分であり、本来、建ぺい率には算入されない部分であるから、本件車庫及び擁壁の敷地の用に供する土地の認定にあたっては建ぺい率を斟酌することは相当ではないと解される。
そして、本件擁壁の南側部分の面積よりも被告が右擁壁の車庫への進入路と認定した部分の面積の方が広いことは弁論の全趣旨から明らかであり、かつ、証人安原和男の証言及び弁論の全趣旨によれば、右進入路部分の面積と本件車庫の建築面積を合計すると、本件土地二の登記簿上の地積の約八二パーセントになることが認められる。
そうすると、右認定の事実に、本件基準日から約八か月を経過した平成四年九月二日の状況を実地に見分した審議会の本件答申を受け、さらに、同年一〇月二六日に現地調査を行うなどの慎重な調査を経た上で被告が本件決定を行ったことを併せ考えると、右決定を違法と認めることはできない。
(四) さらに、原告は、被告の主張する右1(一)ないし(三)の実質的処分理由は被告側から本件決定後に口頭で説明されたにすぎず、本件決定の通知書と本件決定の実質的内容が乖離しており、処分理由に違法があると主張しているので、判断する。
〔証拠略〕によれば、「平成四年度特別土地保有税免除認定通知書兼税額決定通知書」には、「免除認定に係る面積」として「本件土地の内、車庫兼テニスコートの敷地の用に供されている部分(該当分・・一二〇番地)」と記載されており、また、「免除否認に係る面積(課税面積)」として「上記免除認定に係る土地以外の土地(該当分・・一二一番地)」と記載されている。さらに、「免除否認理由書兼税額算定書」には、「免除否認部分」として「上記申請土地のうち一二一番地該当分」と記載されていることが認められる。
そうすると、被告は、原告に対して、概ね本件土地のうち車庫兼テニスコートの敷地の用に供されている部分の面積を基準として右土地における特別土地保有税の免除認定部分を決定したことを通知していることが認められ、原告が主張するような本件決定の通知書と同決定の実質的理由との乖離は存在しないと解するのが相当である。
第四 結論
以上のとおりであって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 辻忠雄 裁判官 渡邉安一 溝口稚佳子)