神戸地方裁判所 平成6年(わ)66号 判決
右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官谷口照夫及び弁護人麻田光広・同丹治初彦・同坂詰幸次郎各出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。
主文
被告人大塲八里子を懲役一年六月に、被告人株式会社マリアンヌ製靴を罰金三〇〇〇万円に処する。
被告人大塲八里子に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社マリアンヌ製靴(以下、被告人会社という。)は、神戸市長田区東尻池町二丁目九番二三号に本店を置き製靴業を営むもの、被告人大場八重子こと大塲八里子(以下、被告人大塲という。)は、被告人会社の代表取締役として業務全般を統括していたものであるが、被告人大塲は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、
一 平成二年八月一日から平成三年七月三一日までの事業年度における実際の所得金額が三億四三一六万四三八四円で、これに対する法人税額が一億二五八四万二三〇〇円であるにもかかわらず、架空の仕入れ及び外注加工費を計上するなどの不正の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年九月三〇日、神戸市長田区御船通一丁目四所在の所轄長田税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が八〇八一万七七八二円で、これに対する法人税額が二七四六万二二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税九八三八万〇一〇〇円を免れ
二 平成三年八月一日から平成四年七月三一日までの事業年度における実際の所得金額が二億五一八八万〇七〇二円で、これに対する法人税額が九二三三万八二〇〇円であるにもかかわらず、前同様の不正の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同年九月三〇日、前記長田税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が六八七一万二一四九円で、これに対する法人税額が二三六五万〇二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税額六八六八万八〇〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
以下において、検甲一・二号等は、公判調書中の証拠等関係カード検察官請求番号1・2等の証拠を示す。
一 登記簿謄本(検甲二号)
一 証明書二通(検甲三号は判示一について、検甲四号は判示二について)
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面(検甲五号)
一 脱税額計算書二通(検甲六号は判示一について、検甲七号は判示二について)
一 査察官調書一五通(検甲九ないし二三号)
一 奥山克己の検察官調書三通(検甲二五・二六・二七号)
一 吉田清一の検察官調書二通(検甲二八・二九号)
一 秋山賀慶こと呉相培の検察官調書七通(検甲四一ないし四七号)
一 嶋田一義、谷山清、上山清亮、寺脇一二三、谷村修及び薄木邦昭の各検察官調書(検甲三〇・三一・三二・三三・三四・三六号)
一 薄木邦昭、松本英樹、松本千代、荒木雅之及び嶋田秀和の質問てん末書(検甲三五・三七・三八・三九・四〇号)
一 被告人大塲の検察官調書七通(検甲四九ないし五五号)
一 被告人大塲の公判供述
(法令の適用)
罰条 法人税法一五九条一項・二項(被告人会社については更に同法一六四条一項)
刑種の選択 懲役刑選択(被告人大塲について。なお被告人会社は罰金刑)
併合罪の処理 刑法四五条前段・四七条本文・一〇条・四八条二項(被告人大塲の懲役刑について、犯情の重い判示一の罪の刑に併合罪加重し、被告人会社の罰金刑については、所定の各罰金を合算する。)
執行猶予 刑法二五条一項(被告人大塲について)
(量刑の事情)
本件は、被告人会社の代表取締役として業務全般を統括していた被告人大塲が自ら指示指揮して、架空の仕入れ及び外注加工費を計上するなどの不正の行為により、二年間に合計一億六七〇六万八一〇〇円の法人税を脱税した法人税法違反の事案である。
脱税額が多額であるばかりか、脱税率も七六パーセントを超える高率であること、しかも、犯行態様は被告人大塲が自ら当該期の売上・経費等の集計表に基づいて公表経理から除外すべき額を決定したうえ、従業員らに指示指揮して架空の仕入れ及び外注加工費を計上させて内容虚偽の過少申告を行ったもので、計画的巧妙な犯行であること、被告人大塲は自ら事業を興し拡大してきたワンマン経営者で、本件脱税工作を直接強力に指揮したもので、本件脱税工作に関与した者の中で格段に責任が重いことなどに照らすと、その犯情は軽視することができない。そもそも脱税は国家を騙して利得するもので、国家に対する詐欺の実質があると言えるのみならず、将来の生産工場の機械化・ロボット化のために必要な多額の設備資金を得るためとの目的から出たもので、被告人大塲或いは親族の蓄財などの私利私欲に出たものでないとしても、競争社会における公平の原則にも反するもので、被告人らの行為は強く非難すべきである。
しかし、被告人大塲は、税務調査の直後には事実を素直に認める方針を出しながら、同被告人を訪ねてきた国税庁に顔が効くとか国会議員と親しいとかの触れ込みの数人の人達の指導もあって、その方針がぐらつき訴追を免れようとして正直な供述をしなくなったが、その後検察官に逮捕され、弁護人が選任された後は、一貫して事実を素直に認め、経理税務の従来の態勢を一新し、今後は決して脱税をしないと誓っていること、修正申告を済ませて正規の税額・重加算税・延滞税などの国税及び地方税を完納したこと、右のように多額の税金を支払ったうえ、訴追を免れようとしていた二か月位の間に、被告人大塲を指導した数人の人達に、税金であるとか手数料であるとかお礼とかの名目で四億円前後という多額で、しかも全く不必要な出費をする破目になり、本件脱税によって社会的な名誉が大きく傷つけられたばかりか、経済的に大きな痛手を受ける結果となり、脱税の重大性につき十分自覚出来たと考えられること、前科前歴がないのは勿論、若いときから看護婦用の靴作りに精進し、これまでに病院・福祉施設などに多数回多額の寄付をし、また総理大臣・兵庫県知事・加西市長・日赤などから感謝状などを受けているもので、これまで社会的にも有用な働きをしてきたと認められることなど、被告人らのために酌むべき事情を含め、諸般の情状を斟酌すると、被告人大塲の懲役刑については刑の執行を猶予し、被告人会社の罰金額については主文程度の額に止めるのか相当である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中明生)