大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成6年(ワ)480号 判決 1997年12月08日

原告

鈴木英喜

外一九名

右訴訟代理人弁護士

前田修

松山秀樹

西田雅年

被告

兵庫県

右代表者知事

貝原俊民

右訴訟代理人弁護士

岸本昌己

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告各自に対し、それぞれ金一〇万円及びこれに対する平成六年四月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、後記本件事故発生当時、兵庫県立神戸高塚高等学校(以下「高塚高校」という。)に子供らを就学させていた親である原告らが、本件事故に関して開催された同校の全体保護者会の内容を記録した録音テープ及び議事録の公開請求に応じないのは、原告らの情報公開請求権を侵害するもので違法であり、これにより原告らは精神的苦痛を蒙ったとして、被告に対して、国家賠償法一条に基づき各一〇万円の慰謝料を請求している事案である。

一  争いのない事実等(以下、証拠を掲示しないものは当事者間に争いがない。)

1(一)  原告らは、いずれも後記本件事故発生当時、高塚高校に子供らを就学させていた親である。

(二)  被告は、高塚高校を設置している普通地方公共団体である。

兵庫県知事は被告の代表者である。

兵庫県教育委員会(以下「教育委員会」という。)は、同校の設置及び運営に関する事務を管理、執行する機関である。

高塚高校校長は、同校の長としてその校務をつかさどるものである。

2  平成二年七月六日、高塚高校において、登校中の生徒が、校門で遅刻等の指導を行っていた教師が閉鎖しようとした門扉に頭を挟まれ死亡するという事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

3  平成二年七月二〇日、高塚高校が同校の生徒の保護者に対し本件事故について説明を行うことを目的とする全体保護者会(以下「本件会議」という。)が、父母約五〇〇名を集めて同日午後二時から三時間半にわたって開催された。高塚高校は、この会議の模様をテープに録音した(以下、このテープを「本件テープ」という。)。

4  原告らほか高塚高校の生徒の保護者が結成した「神戸高塚高校事件を考える会」(以下「考える会」という。)は、平成四年一〇月一八日、当時の高塚高校校長衣川清馬(以下「衣川校長」という。)に対して、本件テープ及び本件会議の議事録(以下「本件議事録」という。)の公開を請求した(甲五、一一)が、衣川校長はこれに応じなかった。

5  原告鈴木英喜(以下「原告鈴木」という。)及び同柴垣六郎は、平成五年二月二〇日ころ、衣川校長に対して、口頭で本件テープ及び本件議事録の公開を請求したが、衣川校長はこれに応じなかった(甲四三)。

6  原告中村通宏らは、平成五年四月二八日、教育委員会に対して、兵庫県公文書の公開等に関する条例(昭和六一年兵庫県条例第三号)(以下「本件条例」という。)六条に基づき、本件テープ等本件会議の内容を記録した文書の公開を請求した(甲六)。

教育委員会は、同年五月一二日、全体保護者会の内容を記録した文書が存在しないことを理由に右請求を受理しなかった(甲七)。

これに対して異議申立てがなされたが、教育委員会は、同年八月一〇日、この異議申立てを棄却した。

7  原告らは、当時の高塚高校校長山口節夫、教育委員会及び兵庫県知事に対して、平成六年三月一日付け内容証明郵便をもって本件テープ及び議事録の公開を請求したが、同人らはこれに応じなかった。

二  争点

1  原告らは、憲法一三条、二一条一項及び二六条一項を直接の根拠として本件テープ及び議事録の公開を請求することができるか。

(一) 原告らの主張

(1) 原告らの本件テープ及び議事録の公開請求権は、憲法二一条一項が保障した法的権利である。すなわち、憲法二一条一項が保障する「表現の自由」とは、個人の精神活動にかかわる一切のものの伝達に関する活動の自由を意味し、そこには情報の収集―提供―受領の全過程における自由が含まれる。そして、情報収集は、収集活動が公権力によって妨げられないという自由権的側面と、公権力に対して情報の開示を請求するという請求権的側面の両者を有するが、「表現の自由」はこの両者を保障するものである。

(2) また、原告らの本件テープ及び議事録の公開請求権は、憲法一三条、二六条一項が保障した具体的権利である。すなわち、親の子どもに対する「教育の自由」は、憲法一三条の「幸福追求権」及び二六条一項の「教育を受ける権利」の一内容として保障されている。そして、親が「教育の自由」を充分に行使するためには、親が公教育の内容を点検し、その検討・批判によって公教育を充実させる必要がある。そのためには、親が子どもが通う学校に対して教育に関する情報の開示を求める権利が保障されなければならない。したがって、親の「教育の自由」の中核をなす権利として、教育に関する情報公開請求権が保障されている。そして、この権利は、その基礎をなす親の「教育の自由」が前国家的権利であるうえ、我が国が批准している子どもの権利条約においても保障されていることから、憲法上具体的な権利として保障されているものと解すべきである。

(二) 被告の主張

情報公開請求権が憲法二一条一項が保障する「表現の自由」の一内容として保障され、また、教育に関する情報公開請求権が憲法一三条、二六条一項が保障する親の「教育の自由」の一内容として保障されるとしても、それはあくまで抽象的な権利にとどまるのであって、これを直接の根拠として情報の開示を請求することはできない。公的情報に対する公開請求権が認められるためには地方公共団体が制定する条例等の実定法上の根拠が必要である。兵庫県においては、情報公開請求権は、本件条例により具体的な権利として創設されており、その請求権の内容、請求方法等は本件条例に定めるところによる。

本件条例は、公開の対象となる公文書について「文書、図画及び写真(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)」(二条二項)と規定しており、原告らが公開を求める本件テープは右公文書に該当しない。また、本件条例は、公開の対象となる公文書について「決済その他これに準ずる手続が終了し、実施機関が法令又はその規定の定めるところにより管理しているものをいう。」(二条二項)と規定しているところ、この要件を充足するような本件会議の内容を記録した文書は作成されていない。したがって、本件条例によっても原告らの本件テープ及び議事録の公開請求権は認められない。

2  本件会議において原告ら高塚高校の生徒の保護者と同校との間で本件テープ及び議事録を公開する旨の合意がなされたか。

(一) 原告らの主張

本件会議の冒頭において、司会者が、出席した保護者に対して、会議の写真撮影、録音及びメモを一切禁止する旨を告げたところ、保護者から猛烈な反発があった。そこで、当時の高塚高校育友会(以下「育友会」という。)会長孝橋義則(以下「孝橋会長」という。)は、議事を進めるため、本件テープは育友会も預かって学校と共同で管理する旨返答し、これに対して、当時の校長野村穆夫(以下「野村校長」という。)は、何ら異議を述べずこれを黙認した。育友会と学校が本件テープを共同で管理するというのは、その聴取を希望する保護者にはいつでもこれを許すという趣旨であるから、右校長がこれを黙認したことにより、原告らを含む高塚高校の生徒の保護者と同校との間で本件テープを公開する旨の黙示の合意がなされたものと解するのが相当である。

(二) 被告の主張

本件会議において、出席した保護者から孝橋会長に対して、育友会も本件テープを保管しておくようにという趣旨の発言があり、これに対して孝橋会長が「はい。」と返答したという事実は存在するが、右孝橋会長の発言は、育友会会長として育友会が本件テープを保管するという方針を表明したにすぎず、これによって高塚高校が原告ら保護者に対して本件テープの公開を約したことにはならない。また、この孝橋会長の発言に対して高塚高校側が異議を述べなかったとしても、そのことをもって同校が本件テープの公開を黙示的に約したものと解することはできない。

3  原告らの本件テープ及び議事録の公開請求が条理上認められるか。

(一) 原告らの主張

自分が出席する権利が認められていた会議において提供された情報を正確に記録したものがある場合、その開示を請求することは条理上当然に認められるところ、本件会議は、原告らを含む当時の高塚高校の生徒の保護者全員に出席する権利が認められていたものである。しかも、本件会議が平日の昼間に開催され、開催の通知も遅かったことから、出席したくても出席できなかった保護者が多数いた。したがって、これらの者がその会議の記録の開示を請求することは、条理上当然に認められるべきである。このように法律上の規定が存在しなくてもその会議の公開の目的からその議事録の閲覧謄写請求権が認められるとした裁判例として福島地裁昭和四四年一一月一七日判決(行裁集二〇巻一一号一三七二頁)、その控訴審判決である仙台高裁昭和昭和四九年八月一五日判決(行裁集二五巻八・九号一〇六〇頁)がある。

かりに教育に関する情報公開請求権が抽象的なものであるとしても、本件会議は、この権利を具体化する場として設けられたものであるから、その場で提供された情報はすべて出席権者たる保護者に利用できるような形で保存されなければならない。したがって、原告らがこの情報を記録した本件テープ及び議事録の公開を請求する権利は条理上具体的な権利として認められる。

また、本件会議において、学校側が出席者にその模様を録音、メモすることを一切禁止したため、その内容を正確に記録したものとしては、本件テープしか存在しない。しかも、学校側が右禁止を告げた際、孝橋会長が本件テープを後日、保護者に聞かせる旨発言し、これに対して学校側が何ら異議を述べなかったことから、原告ら保護者は後日、本件テープを聴取できる旨信頼して右禁止を受け入れたのである。このように学校側は、原告ら本件会議に出席した保護者からその模様を記録する機会を奪い、これに代わるものとして後日、本件テープを聴取することができるという期待を抱かせたのであるから、条理上本件テープを開示すべきである。

(二) 被告の主張

原告らが引用した判決は、地方公共団体の住民が地方議会の会議録の閲覧及び謄写を請求した事案において、議長の会議録の作成義務を規定した地方自治法一二三条一項及び議事の公開原則を規定した同法一一五条を実体法上の根拠として会議録の閲覧請求権を認めたものであり、本件テープ及び議事録の作成及び公開が何ら法的に義務づけられていない本件とは事案を異にするものである。

4  本件テープ及び議事録が公開されないことにより原告らは慰謝すべき精神的苦痛を蒙ったか。

(原告らの主張)

原告らは、本件テープ及び議事録の公開に応じないことにより、親として有する教育の自由の侵害を受けるなど精神的苦痛を蒙った。原告らが蒙った精神的苦痛に対する慰謝料としては、一人当たり一〇万円が相当である。

第三  争点に対する判断

一  本件会議開催に至る経緯

前記当事者間に争いのない事実及び証拠(甲二、八、二六ないし二九、証人野村穆夫、同森正文、同孝橋義則及び原告鈴木本人)によれば、以下の事実が認められる。

1  本件事故後高塚高校は、本件事故について全校生徒に対する説明とマスコミへの記者会見は行ったが、生徒の保護者に対する説明は全く行なっていなかった。そのため、学校側からの保護者に対する説明を求める意見が強くなり、平成二年七月一四日、高塚高校在校生徒の保護者及び同校の教職員を会員とする育友会の理事、学年委員及び本部役員による合同役員会が開催された。合同役員会では、保護者への説明を行う会合の開催を求める意見が出され、その開催方法については、育友会の臨時総会の形と全体保護者会の形が考えられたが、高塚高校が主催者となって、同校から説明を行うべきであるとの考えから、育友会は、高塚高校に対して、全体保護者会の形で説明会の開催を要求することとした。

2  全体保護者会の開催は、育友会からの要求を受けて、校長、教頭及び事務長の管理職三名、各部部長、各学年主任で構成された公務運営委員会に諮られ、平成二年七月一六日、職員会議で正式に決定された。この全体保護者会(本件会議)は、本件事故の状況や経過を保護者に説明するとともに、生活指導のあり方について保護者の意見を聞くことを目的として、同月二〇日午後二時から四時まで、同校体育館で同校を主催者として開催されることとなった。そして、当時、本件事故に関する情報がマスコミで歪曲して報道されていたことから、本件会議を生徒の保護者以外には非公開とすること、体育館の入口で生徒の保護者か否かを確認し、保護者にのみ入場券を配布すること、会議の模様がマスコミに録音されることを防止するため、体育館の窓を一部閉め切り、校庭に音楽を流すこと、本件会議の模様を記録し、これを補助するために会議の模様を録音すること、本件会議の式次第、職員の担当が決定された。なお、この際、右記録、録音テープの取扱いについては何ら取り決めがなされなかった。

3  本件会議の開催に関する「全体保護者会のご案内」が、平成二年七月一七日付けで生徒を通じて各保護者に配布され、平成二年七月二〇日、高塚高校体育館で午後二時から本件会議が開催された。本件会議の模様は、記録係が記録する(以下、この記録を「本件記録」という。)とともに、放送係が録音した。

二  争点1について

1  情報公開請求権が憲法二一条一項所定の「表現の自由」の一内容として保障され、また、親権者の「教育の自由」が「幸福追求権」(同一三条)及び「教育を受ける権利」(同二六条一項)の一内容、派生原理として導かれ、この「教育の自由」の一内容として教育に関する情報の開示を請求する権利が導かれるとしても、右権利はあくまで抽象的な権利であるにすぎず、立法による開示基準の設定と具体的な開示請求権の根拠付けを経てはじめて具体的な請求権が発生するものと解すべきである。

したがって、原告らは、憲法一三条、二一条一項、二六条一項を直接の根拠として、本件テープ及び議事録の公開を請求することはできない。

2  兵庫県は、本件条例を定め、右情報公開請求権を具体化している。そこで、本件テープ及び議事録が本件条例が公開の対象として定める「公文書」に該当するかにつき検討する。

本件条例は、公開の対象となる公文書について「文書、図画及び写真(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)」(二条二項)と規定し、可視的は記録媒体に限定しているから、原告らが公開を求める本件テープは右「公文書」に該当しない。

また、本件条例は、公開の対象となる公文書について「決済その他これに準ずる手続が終了し、実施機関が法令又はその規定の定めるところにより管理しているものをいう。」(二条二項)と規定しているところ、後記三で認定のとおり、高塚高校では本件記録の外に本件会議の模様を記録した文書は作成されていないが、本件記録は、職員会議で配布されたほか特に決済その他これに準ずる手続は行われていないから、右「公文書」に該当しない。

したがって、本件条例によっても原告らの本件テープ及び議事録の公開請求権は認められない。

三  争点2について

1  証拠(甲三八、五八、証人野村穆夫、同鎌田国夫、同孝橋義則、同高橋智子)によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件会議の冒頭に、本件事故で亡くなった生徒の冥福を祈る黙祷が一分間行われ、その後、司会者鎌田国夫(以下「鎌田」という。)から保護者に対して、本件会議の模様は学校の方で録音しているので録音、メモはしないで欲しい旨が告げられた。これに対して、保護者から強い抵抗があり、議事が紛糾した。このとき、孝橋会長から、テープは育友会の方でも保管するから、議事の運営に協力して欲しい旨の発言があり、ようやく議事が進行するようになった。右孝橋会長の発言に対して、学校側からは、何の反応もなかった。

(なお、被告は、鎌田から録音、メモを禁止する旨の発言はなかった旨主張し、証人鎌田及び同孝橋はこれに副うような供述をする。しかし、原告福山朱美が本件会議においてその模様をメモした甲三八には「録音、禁止、学校側でしている」との記載があること、証人高橋及び原告鈴木本人が学校側から録音、メモを禁止する旨の発言があった旨供述しているのに対して、証人鎌田及び同孝橋の供述は、それぞれ「多分それはしてないと思うんですけどね。」、「それもちょっと思い出せないんです。」というものであり、そのような発言が無かったことを積極的に供述するものではなく、単に記憶がないというにすぎないものであることに鑑みると、右証人鎌田及び同孝橋の供述は採用できない。また、証人孝橋及び同鎌田は、孝橋会長からテープを育友会の方でも保管しておく旨の発言は無かった旨供述する。しかし、証人高橋及び原告鈴木本人は、そのような発言があった旨はっきり供述していること、学校側からの録音、メモを禁止する旨に対して保護者が反発し、これを抑えるために孝橋会長が右のような発言をするのは自然であること、証人鎌田の供述は、「記憶にないんです。」というものであり、そのような発言が無かったことを積極的に供述するものではなく、単に記憶がないというにすぎないものであることに鑑みると、右証人鎌田及び同孝橋の供述は採用できない。)

(二) 続いて野村校長から本件事故及びその後の経過の説明が三〇分程度行われた。次に、孝橋会長から、本件事故に関する育友会としての取組の説明が二、三分行われた。

そして、保護者からの質疑応答が行われた。この際、司会者の鎌田は、育友会総会の例にならい質問を行う際には、生徒の学年、組及び氏名を名乗るよう申し入れたが、これに対して保護者から猛烈な反発があり、これらを名乗らないで質問が行われることになった。保護者からは、本件事故後の学校の対応、学校の遅刻指導、体育の授業及び教師の生徒指導のあり方についての批判が続き、校長の辞職を求める意見が出た。この中で、保護者から本件テープをダビングして育友会の方で保管しておくことを求める発言があり、これに対して孝橋会長は、「分かりました。」と返答したが、学校側からは何の反応もなかった。そして、このほかに本件テープ及び議事録(本件記録を含む。)に関して、保護者と高塚高校及び育友会との間でやりとりは行われなかった。

また、本件記録は、職員会議で配布されたが、特に決済等の手続は行われなかった。そして、高塚高校では本件記録の外に本件会議の模様を記載した文書は作成されなかった。

2  前記1で認定したように、本件会議での本件テープを巡るやりとりとしては、学校側の本件会議の録音、メモを禁止する発言に対して保護者から強い抵抗があった際に、孝橋会長が、テープは育友会の方でも保管するから議事の運営に協力して欲しい旨発言し、これに対して学校側から何の反応もなかったこと、保護者からの質疑応答の際に、本件テープをダビングして育友会の方で保管しておいて欲しいとの発言があり、孝橋会長がこれを承諾する返答をし、これに対して学校側から何の反応もなかったことは認められるが、このほかには全くやりとりは行われていない。

孝橋会長の右発言は、いずれも育友会が本件テープを保管しておくことを約束したにすぎないから、これをもって保護者と高塚高校側との間で本件テープの公開に関する合意がなされたものと解することはできないし、右発言に対して高塚高校側から何らの応答がなかったことをもっても、このような合意がなされたものと解することはできない。

また、前記のとおり、本件議事録(本件記録含む。)に関しては、保護者と高塚高校又は育友会との間で全くやりとりは行なわれていない。

したがって、原告ら高塚高校の生徒の保護者と同校との間で本件テープ及び議事録の公開に関する合意がなされたとの事実は認められない。

四  争点3について

1 原告らは、当該会議に出席する権利が認められている者には、条理上、その会議に関する情報の開示請求が認められる旨主張する。しかし、当該会議に出席する権利とその会議に関する情報公開請求権は次元を異にするものであり、特に当該会議が非公開とされている場合、当該会議に出席する権利が認められている者が、その会議に関する情報の開示請求権を当然に有するものとはいえないから、原告の右主張は採用できない。なお、原告が右根拠として引用する判例は、会議の公開が何ら法的に義務づけられていない本件とは事案を異にするものである。

2  また、原告らは、本件会議は原告らの教育に関する情報公開請求権を具体化する場として設けられたものであることを根拠に原告らの本件テープ及び議事録の公開請求権が条理上認められる旨主張する。たしかに前記三で認定したように、本件会議は保護者に本件事故についての状況等を報告することを目的とし開催されたものであるが、そのことから直ちに本件会議が原告らの教育に関する情報公開請求権を具体化する場として設けられたものであるということはできない。

3  さらに、原告らは、高塚高校側が保護者から本件会議の模様を記録する機会を奪い、これに代わるものとして本件テープを聴取することができるという期待を保護者に抱かせたことを根拠として、条理上、原告らの本件テープの公開請求が認められるべきである旨主張する。しかしながら、前記三で判示したように孝橋会長の発言は、育友会が本件テープを保管しておくことを約束したにすぎず、学校と保護者との間の法律関係に何ら影響を及ぼすものではなく、かりに原告ら保護者が、右発言及びこれに対して学校側が異議を述べなかったことにより、本件テープの聴取を高塚高校に請求できるという期待を抱いたとしても、この期待に合理性があるとはいえない。よって、学校側が原告らにこのような期待を抱かせたことを根拠に本件テープの公開を請求する原告らの右主張は理由がない。

(なお、原告らは、高塚高校の事務長森正文が本件テープを破棄したことにより不法行為が成立する旨主張するが、右で認定したようにそもそも原告らの本件テープの公開請求権は認められないから、右主張は理由がない。)

第四  結論

以上によれば、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官將積良子 裁判官徳田園恵 裁判官桃崎剛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例