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神戸地方裁判所 平成6年(行ウ)19号 判決

原告

松田花枝

松田均

右両名訴訟代理人弁護士

平山博史

右訴訟復代理人弁護士

桑原秀幸

被告

兵庫県知事承継人 尼崎市長

宮田良雄

右被告指定代理人

河合裕行

鈴木英昭

鳥淵信明

藤田毅

坂口進

椋田健治

福井長義

松本勝昭

村上稔

谷口敏郎

桑木啓

事実及び理由

第四 当裁判所の判断

一  本件認可処分に至る手続の法令違反の有無について

1  〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件整理組合の発起人である彌彦ほか六名は、本件施行地区への編入につき、本件施行地区内の宅地以外の土地を管理する者の承認を得、本件定款及び本件事業計画につき、組合員となるべき者二三名のうち原告らを除く二一名の同意(施行地区内の同意権者の約九一・三パーセントの同意、右同意権者の所有する土地の地積等の八九・二パーセントの同意)を得た。

(二)  兵庫県知事は、被告に対し、平成五年一一月二二日、本件事業計画の縦覧を指示し、被告は、同日付けで右縦覧を告示して二週間公衆の縦覧に供し、原告均は同年一一月二四日にこれを閲覧した。

(三)  同年一二月一六日、原告らが兵庫県知事に対し、本件事業計画に係る意見書を提出し、併せて口頭陳述の機会を設けてほしい旨の申し出をしたことから、兵庫県知事は、平成六年一月二〇日、原告らの口頭意見陳述を実施したうえ、同年三月八日、原告らから提出されていた意見書及び口頭意見陳述の不採択通知をした。

2(一)(1) 土地区画整理法一八条は、土地区画整理組合設立認可を申請しようとする者は、定款及び事業計画について、施行地区となるべき区域内の宅地(公共施設の用に供されている国又は地方公共団体の所有する土地以外の土地をいう。以下「土地」という。)について所有権を有するすべての者及びその区域内の土地について借地権を有するすべての者(以下、併せて「権利者」という。)のそれぞれの三分の二以上の同意を得なければならない旨を規定するにとどまっている。したがって、原告らが主張するように、原則として全員の同意を要するとか、公共の福祉のための強い必要性が存する場合に限って三分の二の同意で足りるとか、区画整理の施行上必要不可欠な土地である場合にのみ所有者の同意がなくても当該土地を施行地区に編入することができる趣旨とは解されず、また定款及び事業計画の策定手続に参加する機会がすべての権利者に与えられなければならないものとは解されない。

そして、このように解したとしても、土地区画整理法二〇条は、認可申請後における事業計画の縦覧、利害関係者の意見書提出、事業計画書の修正について規定しており、これらにより、認可申請前に参加を求められなかった者の利益は保護されているということができるから、不当ではない。

(2) 確かに、同意なくして組合員とされた者(以下「反対者」という。)は、その所有する土地について、土地の形質の変更、建物等の新築、改築、増築等につき一定の制限を受けるなどし、換地(仮換地を含む)による減歩という負担を負うことになるのが通例であることからすると、その財産権の制約を受けているものということができる。しかしながら、<1>土地区画整理事業は、公共施設の整備改善及び土地の利用増進によって公共の福祉の増進に資することを目的としたものであり(土地区画整理法一条、二条参照)、<2>土地区画整理法一八条が三分の二以上の同意を要求しているのは、少数の反対者によって土地区画整理事業の施行による公共の福祉の増進が妨げられるのを防止する一方、土地区画整理組合を設立しようとする七人以上の者によって無制限に多数の反対者の財産権が制約されることのないようにするものとして、合理性に欠けるものとは考えられず、<3>反対者の財産権の制約の程度についてみても、土地の形質の変更等の制限は土地区画整理事業の施行の間に限られ(土地区画整理法七六条一項参照)、換地に伴う減歩についても、土地区画整理法八九条が換地前の土地と換地後の土地とが通常人からみて大体同一条件にあること(いわゆる照応の原則)を要求することによって、最終的には換地により著しい不利益を負うことがないことが保障されている。これらの点を考え合わせると、右制約は公共の福祉に適合する合理的なものということができ、土地区画整理法一八条は何ら憲法二九条に違反するものではないというべきである。したがって、土地区画整理法一八条を原告らが主張するように限定的に解釈すべきものであるとも考えられず、原告らが主張するような適用違憲の問題も生じない。

(二)  以上のとおりであり、前記1(一)のとおり本件定款及び本件事業計画につき、本件施行地区内の同意権者及び同意権者が所有する土地の総地積の三分の二以上の同意が得られていたのであるから、本件申請に至る手続には何ら土地区画整理法一八条に違反するところはないというべきである。

3  以上に加えて、前提となる事実及び前記1の事実の下では、本件申請に至る手続に法令に違反する点は見当たらず、本件申請手続並びに本件定款及び本件事業計画の決定手続はいずれも適法になされたものと認められる。

二  本件定款又は本件事業計画の内容の法令違反の有無について

1  〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件認可処分時における本件施行地区の現況

(1) 本件施行地区は、尼崎市の北西部、武庫川の左岸側にあって、その周辺は民間の小規模な宅地開発による住宅地となっている農地地区であり、農地のうち約六割は、一定期間営農が義務づけられている生産緑地であった。

(2) 本件施行地区は市街化区域内にあり、大部分が第二種住居専用地域であったが、右地区南側を通る国道一七一号線より北側三〇メートルまでが住居地域となっていた。

(3) 本件施行地区のほぼ中央を武庫川を水源とする用水路が、北から南へ流下し、用水期には農業用水として利用され、その他の未整備な水路も、用水、排水をかねた用悪水路であった。

(4) 本件施行地区内には、幅員約〇・六メートルから一・八〇メートルの里道があるのみで、ガス、上水道及び下水道管については、本件施行地区中央部の市道(幅員約一・八〇メートル)に下水管が埋設されているのみであった。

(二)  本件事業計画の内容等

(1) 本件事業計画は、本件施行地区において、区画街路(幅員六メートル、五メートル)及び公園を設置し、土地の区画変更を行うことを主たる内容とするものである。本件事業計画に従って工事が完成すれば、本件施行地区の全地積に占める道路の割合は、施行前の二・六パーセント(六四一平方メートル)から一九・〇パーセント(四七四三平方メートル)に増加し、水路の割合は、施行前の三・九パーセント(九八五平方メートル)から三・三パーセント(八二一平方メートル)に減少するが、各土地の用排水は、区画街路の両側に設置される道路側溝により行うことになる。また、公園は、施行前には存在しなかったが、新たに一か所設置され、その割合は三・〇パーセント(七四八平方メートル)である。さらに、区画街路のすべてに上水道管、ガス管が布設されることとになるほか、区画街路の設置により、本件施行地区内のすべての土地が公道に面することになる。

(2) 本件事業計画によると、平均減歩率は、公共減歩率でみると二〇・一パーセント、公共保留地合算減歩率でみると二二・一パーセントである。

(3) 本件事業計画は、本件区画整理の目的について、本件施行地区は、市街化区域に残存する数少ない未整備な農地地区で民間の宅地開発による住宅地に囲まれており、このまま放置すれば無秩序に宅地が造成され、不健全な市街地が予想されるため、道路、水路、公園等の公共施設を整備改善して、土地の利用増進を図り、健全な市街地を造成することである旨定めている。

2  土地区画整理法一条及び二条一項によれば、土地区画整理事業は、健全な市街地を造成するため、公共施設の整備改善及び土地の利用の増進を図ることを目的として行われる事業である。したがって、土地区画整理事業は、公共施設の整備改善にとどまらず、同時に土地の利用増進をも図るものでなければならない。そして、事業計画決定の段階では、施行地区内の個々の土地の位置及び地積等が事業の施行によりいかなる変更を受けるのかは具体的に定まっておらず、それらは換地計画(土地区画整理法八六条、八七条参照)において決定され、右決定による個々の土地の不利益等の問題は前記一2(一)(2)のとおり同法八九条によって解決されることが予定されていることからすると、ここにいう土地の利用増進とは、個々の土地のそれをいうものではなく、施行地区内の土地を全体的に評価した場合の利用価値の増進をいうと解される。

3(一)  前記1(一)で認定したとおり、本件認可処分当時は、本件施行地区内の土地のほとんどが農地として利用され、いわゆる生産緑地として存在していたものの、その周囲は小規模な住宅地として利用され、本件施行地区が市街化区域とされ住居専用地域とされていたところからすると、全体として長期的には次第に住宅地として利用されていくことが予想される地区であったということができる(なお、本件施行地区が、土地区画整理法二一条一項三号にいう市街地化不適地域ではないことは、市街化区域とされていることから明らかである。)。ところが、本件施行地区においては、道路としては里道があるのみであり、大部分の土地が最大で幅員約一・八メートルの里道に面しているにすぎず、ガス、上下水道も十分整備されていなかった。このような状況の下では、本件施行地区内において十分な基盤整備が伴わない劣悪な市街地が形成されるおそれがあったということができる。そして、本件事業計画は、本件施行地区内に、幅員五メートル以上の整然とした区画街路を設置し、ガス、上水道を整備し、公園を一か所新設し、土地のすべてが区画街路に面するようにしようとするものである。したがって、本件区画整理が施行されれば、土地の位置、形状等が整備され、区画街路が設置されることによって、交通事情が改善され、消防車等の通行も容易となり防災面での改善もなされ、良好な住宅地としての利用も可能となり、また、農地としても接道や形状などの点で利便を増すといえるから、本件事業計画が、本件施行地区全体の公共施設の整備改善を図り、健全な市街地の造成を図り、本件地区全体の土地の利用増進を図るものであると認められる。

(二)  以上のとおりであるから、本件事業計画は、土地区画整理法一条及び二条の目的に適合するものというべきである。そうであれば、本件事業計画につき、原告らが主張するような憲法違反の問題も生じない。その他に、本件事業計画及び本件定款(〔証拠略〕)のそれぞれの内容が法令に違反しているというべき点も見当たらないから、本件定款及び本件事業計画の内容は法令に適合したものと認められる。

4  原告らの主張の検討

(一)  原告らは、本件区画整理は、農地つぶしを目的としたものである旨主張する。

しかしながら、本件区画整理によって、土地の形状が整形になり道路が整備されること、平均減歩率も二〇パーセント強であり特に高い減歩率でもないことに鑑みると、本件区画整理が本件施行地区内の農地全体に対し一概に不利益のみをもたらすものとはいえない。このことは本件施行地区内の農地のうち約六割が生産緑地の指定を受けていること(〔証拠略〕)からもうかがえるところである。また、前記1(二)(1)のとおりの用排水の計画の内容も本件施行地区内の土地を農地として利用することを著しく困難にするものとは考えられない。そうすると、本件区画整理が、本件施行地区内の農地をつぶすことを目的としたものということはできない。

(二)(1)  原告らは、本件土地(二)及び同(四)を本件施行地区内に編入しなくても、本件区画整理の目的を達することはできたのであるから、右各土地を編入したのは、原告らに対する嫌がらせや本件区画整理の資金づくりのためであるとか、彌彦に不当に利益を与えるためである旨主張する。

(2)  しかしながら、本件土地(二)及び同(四)を編入しなければ、新幹線側道へ接道する道路の位置に支障をきたし、また、五二四番の土地の北西部分が不整形地として残ると認められ、そのために本件施行地区内に本件土地(二)及び同(四)を編入する必要性があったと認められる。したがって、右各土地を本件施行地区内に編入する必要性がなかったことを根拠に、本件区画整理が原告らが主張するような目的のものであったと推認することはできない。そして、このことは、尼崎市常松一丁目五〇七番及び同五一四番の各土地(いわゆる建売地内の道路)が本件施行地区内に編入されているか否かによって結論が左右されるものではないことは、右に述べた理由から明らかである。

さらに、五二四番の土地の整形化に関して、原告らは、五二四番の土地は彌彦の所有地であることから(この事実は当事者間に争いがない)、不当に彌彦に利益を与え、原告均に不利益を及ぼすものである旨主張する。しかしながら、彌彦との不均衡をいう原告らの右主張は、本件区画整理に係る仮換地又は換地指定処分に対する抗告訴訟において、照応の原則違反として主張されるべき事由であり、本件施行地区内の個々の土地の利害得失の程度又は不均衡を理由に本件認可処分の違法を主張することはできないものと解すべきであるから、主張自体失当である。したがって、同じ理由により、原告らが本件認可処分の違法事由として主張するもののうち、本件仮換地指定により指定された仮換地を前提に本件土地(一)から同(四)のそれぞれの土地の減歩による不利益を理由とするものは、仮換地又は換地指定処分に対する抗告訴訟において処分の違法事由として主張されるべきものであるから、土地区画整理組合の設立認可処分の適法性を争う本件においては主張自体失当であるといわざるを得ない。

(3)  なお、原告らは、別紙三の赤色斜線部分のように区画街路を設置すれば、本件施行地区内に本件土地(二)及び同(四)を編入することなく、不整形地を解消できる旨主張する。確かに、原告らの主張は選択肢の一つであるということはできるものの、右部分のような不自然に屈曲した道路が道路として望ましい形状のものとはいい難いことからすると、原告らが主張するような道路を設置すべきであったということはできず、これを根拠にして本件土地(二)及び同(四)を加えた本件事業計画が違法となるものではない。

(三)  原告らは、本件土地(二)及び同(四)については、当初の案では区画整理の施行地域に編入されていなかったのであるから、右各土地を本件施行地区に編入する必要性はなかった旨主張する。

しかしながら、施行地区の範囲をいかなるものにするかは種々の要素を考慮して次第に決定されていくものであるから、仮に当初の段階では編入されていなかったとしても、直ちに施行地区に編入する必要性がなかったということにはならない。さらに、原告らが当初編入されていなかったことの根拠とする図面(甲六添付の図面)についてみても、証人福井長義は施行地区の範囲を示したものではなく未整備な農地のある部分を示したものである旨証言していることに照らすと、右図面を根拠に本件土地(二)及び同(四)が当初の案では施行地区に編入されていなかったという事実を認定することは困難であり、他に右事実を認定するに足りる的確な証拠はない。

以上のとおりであるから、原告らの前記主張は採用できない。

(四)  原告らは、本件土地(一)及び同(三)を本件施行地区に編入する必要性はなかった旨主張する。しかしながら、右各土地の位置及び形状に照らすと、本件区画整理の前記認定のような目的を達するために編入する必要性があったというべきであり、右主張は採用できない。

(五)  以上検討したとおり、原告らの主張は、いずれも前記3の結論を左右するものではない。

三  本件区画整理の経済的基礎について

1  〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件申請当時、本件事業計画書によると、資金計画として、二億六〇〇〇万円の支出が計画されているところ、これを賄う収入として、助成金二九九万円、保留地処分金一億六三四一万円、公共施設管理者負担金九三六〇万円が計画されていた。

(二)  本件事業計画における保留地処分金は、本件施行地区に最も近い地価公示地で、八・五メートル道路に面している兵庫県尼崎市常松一丁目六番四四の土地の平成五年一月の地価公示価格である一平方メートル当たり三六万五〇〇〇円を参考に、一平方メートル当たり三六万円で処分できるものとして算出された。

2  原告らは、保留地の処分により収入金一億六三四一万円を得ることは不可能である旨主張する。

しかしながら、本件施行地区の保留地と前記1(二)の地価公示地の価格形成要因は異なるものの、本件施行地区に最も近い地価公示地の公示価格を参考に保留地処分金の算出をするという手法自体は何ら不合理なものではないし、将来市街地化する可能性のある本件施行地区内の保留地が一平方メートル当たり三六万円で処分することができないと本件認可処分の時点において判断できたと認めるに足りる証拠もない。したがって、原告らの前記主張は採用できない。

3  その他に、前記1(一)認定の資金計画に不合理な点は見当たらないから、本件申請は土地区画整理事業を施行するために必要な経済的基礎が十分でない場合に該当しなかったというべきである。

四  本件認可処分の適法性についての判断

土地区画整理法二一条は、土地区画整理組合設立の認可について、申請が同条に規定する不認可事由に該当しないかぎり、認可権者に当該申請を認可することを義務づけているところ、前記一から三のとおり、本件申請には右不認可事由は存しないと認められるから、本件認可処分は適法である。

五  まとめ

以上の次第で、本件認可処分は適法であり、原告らの請求はいずれも理由がないから、棄却することとする。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 田口直樹 西野吾一)

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